A.第1実施例:
A−1.印刷装置の構成:
図1は、実施例におけるプリンタ600の構成を示すブロック図である。プリンタ600は、インクのドットを用紙上に形成することによって、印刷を行うインクジェットプリンタである。プリンタ600は、プリンタの全体を制御する制御装置100と、印刷実行部としての印刷機構200と、を備えている。
制御装置100は、コントローラーとしてのプロセッサ110(例えば、CPU)と、DRAMなどの揮発性記憶装置120と、フラッシュメモリやハードディスクドライブなどの不揮発性記憶装置130と、液晶ディスプレイなどの表示部140と、表示部140に重畳されたタッチパネルやボタンなどを含む操作部150と、パーソナルコンピュータ(図示省略)などの外部装置との通信のための通信インタフェースを含む通信部160と、を備えている。
揮発性記憶装置120には、プロセッサ110が処理を行う際に生成される種々の中間データを一時的に格納するバッファ領域125が設けられている。不揮発性記憶装置130には、プリンタ600を制御するためのコンピュータプログラムPGと、制御データPCDと、が格納されている。制御データPCDは、ドットパターンデータDPDと、搬送量制御データFDと、を含んでいる。制御データPCDは、後述する印刷データ生成処理で用いられる。
コンピュータプログラムPGは、プリンタ600の出荷時に予め不揮発性記憶装置130に格納されている。なお、コンピュータプログラムPGは、DVD−ROMなどに格納された形態や、サーバからダウンロードする形態で提供され得る。プロセッサ110は、コンピュータプログラムPGを実行することによって、後述するプリンタ600の制御処理を実現する。制御データPCDは、例えば、コンピュータプログラムPGに組み込まれており、コンピュータプログラムPGとともに提供される。
印刷機構200は、制御装置100のプロセッサ110の制御に従って、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各インクを吐出して印刷を行うことができる。印刷機構200は、搬送機構210と、主走査機構220と、ヘッド駆動回路230と、印刷ヘッド240と、を備えている。搬送機構210は、図示しない搬送モータを備え、搬送モータの動力で用紙を、所定の搬送経路に沿って搬送する。主走査機構220は、図示しない主走査モータを備え、主走査モータの動力で印刷ヘッド240を主走査方向に往復動(主走査とも呼ぶ)させる。ヘッド駆動回路230は、主走査機構220が印刷ヘッド240の主走査を行っている最中に、印刷ヘッド240に駆動信号DSを供給して、印刷ヘッド240を駆動する。印刷ヘッド240は、駆動信号DSに従って、搬送機構210によって搬送される用紙上にインクを吐出してドットを形成する。ここで、主走査の最中に用紙上にドットを形成する処理をパス処理とも呼ぶ。制御装置100のプロセッサ110は、搬送機構210を用いて用紙を搬送方向に搬送する搬送処理と、主走査機構220とヘッド駆動回路230とを用いて用紙上にドットを形成するパス処理とを、繰り返し印刷機構200に実行させることによって、印刷を実現する。
図2は、印刷ヘッド240の概略構成を示す図である。印刷ヘッド240のノズル形成面241(−Z側の面)には、上述したC、M、Y、Kの各インクを吐出するノズル列NC、NM、NY、NKが形成されている。各ノズル列は、複数個のノズルNZを含んでいる。複数個のノズルNZの搬送方向の位置は互いに異なっている。図中のノズル間隔NTは、搬送方向に隣り合う2個のノズルNZの搬送方向の間隔である。1つのノズル列の複数のノズルNZの搬送方向の位置は、等間隔で配置されている。1つのノズル列の複数のノズルNZの主走査方向の位置は、同じであってもよく、ノズルNZによって異なっていても良い。例えば、複数のノズルNZが、搬送方向に向かってジグザグに配置されてもよい。なお、図2以降の図において、+Y方向は、用紙の搬送方向(副走査方向)を示し、X方向は、主走査方向を示し、+Z方向は、Y方向とX方向とに垂直な方向(ここでは、上方向)を示している。以下では、+Y側を、単に、下流側とも呼び、−Y側を、単に、上流側とも呼ぶ。
図3は、搬送機構210の概略構成を示す図である。図3(A)に示すように、搬送機構210は、用紙台211と、用紙を保持して搬送するための上流ローラ対217と、下流ローラ対218と、複数個の押さえ部材216と、を備えている。用紙台211の上側(+Z側)に、印刷ヘッド240が配置されている。
上流ローラ対217は、印刷ヘッド240よりも搬送方向の上流側(−Y側)に配置され、下流ローラ対218は、印刷ヘッド240よりも搬送方向の下流側(+Y側)に配置されている。上流ローラ対217は、図示しない搬送モータによって駆動される駆動ローラ217aと、駆動ローラ217aの回転に従って回転する従動ローラ217bと、を含む。同様に、下流ローラ対218は、駆動ローラ218aと従動ローラ218bとを含む。なお、従動ローラに代えて、板部材を採用し、駆動ローラと板部材とによって用紙を保持する構成を採用しても良い。
用紙台211は、上流ローラ対217と下流ローラ対218との間の位置であって、かつ、印刷ヘッド240のノズル形成面241と対向する位置に配置されている。複数個の押さえ部材216は、上流ローラ対217と、印刷ヘッド240と、の間に配置されている。
図3(B)、図3(C)には、用紙台211と複数個の押さえ部材216との斜視図が示されている。図3(B)は、用紙Mが支持されていない状態を示し、図3(C)は、用紙Mが支持された状態を示している。用紙台211は、複数個の高支持部材212と、複数個の低支持部材213と、平板214と、傾斜部215と、備えている。
平板214は、主走査方向(X方向)と搬送方向(+Y方向)とにほぼ平行な板部材である。平板214の−Y側の端部は、印刷ヘッド240の−Y側の端部よりも−Y側の位置にあり、上流ローラ対217の近傍に位置している。傾斜部215は、平板214の+Y側に位置し、+Y方向に向かって高くなるように傾斜した板部材である。傾斜部215の端部は、印刷ヘッド240の+Y側の端部よりも+Y側の位置にあり、下流ローラ対218の近傍に位置している。平板214のX方向の長さは、搬送される特定サイズの用紙MのX方向の長さより所定量だけ長い。これによって、用紙MのX方向(主走査方向)の両端に余白を残さないように、用紙MのX方向の両端まで印刷可能な縁なし印刷を実行した場合に、用紙MのX方向の両端より外側に吐出されるインクを平板214で受けることができる。
複数個の高支持部材212と複数個の低支持部材213は、平板214上に、X方向に沿って交互に間隔をあけて並んでいる。各低支持部材213は、該低支持部材213に隣り合う2個の高支持部材212の間に配置されている。各高支持部材212は、Y方向に沿って延びる壁である。各低支持部材213は、高支持部材212よりも低い、Y方向に沿って延びる壁である。各高支持部材212の−Y側の端部は、平板214の−Y側の端部に位置している。各高支持部材212の+Y側の端部は、平板214のY方向の中央部に位置している。各高支持部材212の+Y側の端部は、印刷ヘッド240の複数個のノズルNZが形成されている領域NAのY方向の中央部に位置していると言うこともできる。以下、複数個のノズルNZが形成されている領域NAを、ノズル領域NAとも呼ぶ。各低支持部材213のY方向の両端の位置は、高支持部材212のY方向の両端の位置と同じである。
複数個の押さえ部材216は、複数個の低支持部材213の+Z側の位置に配置されている。複数個の押さえ部材216のX方向の位置は、複数個の低支持部材213のX方向の位置と同じである。すなわち、各押さえ部材216のX方向の位置は、該押さえ部材216に隣り合う2個の高支持部材212の間に位置している。複数個の押さえ部材216は、+Y方向に向かうほど低支持部材213に近づくように傾斜した板部材である。複数個の押さえ部材216の+Y側の端部は、印刷ヘッド240の−Y側の端部と、上流ローラ対217と、の間に位置している。
複数個の高支持部材212と複数個の低支持部材213と複数個の押さえ部材216は、下流ローラ対218よりも上流ローラ対217に近い位置に配置されており、上流ローラ対217と下流ローラ対218との間のうち、上流ローラ対217側に設けられていると言うことができる。
図3(C)に示すように、用紙Mの搬送時には、複数個の高支持部材212と、複数個の低支持部材213は、印刷面とは反対側の面Mb側から、用紙Mを支持し、複数個の押さえ部材216は、印刷面Ma側から、用紙Mを支持する。各高支持部材212が用紙Mを支持する位置(すなわち、各高支持部材212の+Z側の面212a(図3(A))の位置)は、各低支持部材213が用紙Mを支持する位置(すなわち、各低支持部材213の+Z側の面213a(図3(A))の位置)よりも+Z側に位置している。換言すれば、各高支持部材212が用紙Mを支持する位置と、印刷ヘッド240のノズル形成面241を含む平面と、の距離LZ1は、各低支持部材213が用紙Mを支持する位置と、ノズル形成面241を含む平面と、の距離LZ2より短い。
そして、各高支持部材212が用紙Mを支持する位置は、各押さえ部材216が用紙Mを支持する位置(すなわち、各押さえ部材216の+Y側の端部の−Z側の部分216a(図3(A))よりも+Z側に位置している。換言すれば、各高支持部材212が用紙Mを支持する位置と、印刷ヘッド240のノズル形成面241を含む平面と、の距離LZ1は、各押さえ部材216が用紙Mを支持する位置と、ノズル形成面241を含む平面と、の距離LZ3より短い。
このために、複数個の高支持部材212と、複数個の低支持部材213と、複数個の押さえ部材216と、によって、用紙Mは、X方向に沿って波状に変形された状態に支持される(図3(C))。そして、用紙Mは、波状に変形された状態で、搬送方向(+Y方向)に搬送される。用紙Mを波状に変形させると、Y方向に沿った変形に対する用紙Mの剛性を高めることができる。
A−2.制御処理の概要:
制御装置100(図1)のプロセッサ110は、ユーザからの印刷指示に基づいて、印刷機構200に印刷を実行させる制御処理を実行する。図4は、制御処理のフローチャートである。
S10では、プロセッサ110は、ユーザから操作部150を介して印刷指示を取得する。印刷指示は、印刷対象の画像データを指定する指示と、印刷モードを指定する指示と、用紙のサイズを指定する指示とを、含む。印刷モードは、「縁なし印刷」と「通常印刷」とから選択される。
S20では、プロセッサ110は、ユーザによって指定された画像データを記憶装置(例えば、不揮発性記憶装置130)から取得し、該画像データに対してラスタライズ処理を実行して、複数個の画素を含む対象画像を表すビットマップデータを生成する。ビットマップデータは、具体的には、RGB値によって画素ごとの色を表すRGB画像データである。RGB値に含まれる3個の成分値、すなわち、R値、G値、B値は、例えば、256階調の階調値である。
S25では、プロセッサ110は、RGB画像データに対して色変換処理を実行して、CMYK画像データを生成する。CMYK画像データは、CMYKの4つの色成分の階調値(以下、CMYK値とも呼ぶ)で画素ごとの色を表す画像データである。色変換処理は、例えば、RGB値とCMYK値との対応関係を定めるルックアップテーブルを用いて行われる。
S30では、プロセッサ110は、CMYK画像データに対してハーフトーン処理(例えば、誤差拡散法、ディザ法等の処理)を実行して、ドットの形成状態を画素ごと、かつ、インクの種類ごとに表すドットデータを生成する。ドットデータに含まれる各画素の値は、例えば、2種類のドットの形成状態を示す2個の値、具体的には、「ドット有り」を示す「1」と、「ドット無し」を示す「0」と、のうちのいずれかである。これに代えて、ドットデータに含まれる各画素の値は、「大ドット」、「中ドット」、「小ドット」、「ドット無し」の4種類のドットの形成状態を示す4個の値のいずれかであってもよい。以下、ドット形成状態を表す値を、「ドット値」とも呼ぶ。
S35では、プロセッサ110は、S10で指定された印刷モードと、S30で生成されたドットデータと、に基づいて、印刷データを生成する。印刷データは、搬送量データと、m個のパスデータ(mは、パス処理の回数)と、を含む。m個のパスデータは、インクの種類毎に生成される。1個のパスデータは、1回のパス処理に対応する。1個のパスデータは、複数個のノズルNZのそれぞれに、1個のラスタラインデータを対応付けたデータである。1個のラスタラインデータは、1個のノズルに対応する主走査方向に沿った複数個の画素を含む1本のラスタラインについて、画素ごとにドットの形成状態を表すデータである。搬送量データは、m回のパスの前に行われるm回の用紙の搬送処理における搬送量をそれぞれ示すm個の値を含んでいる。このような印刷データは、制御データPCD(図1)に従って、生成される。制御データPCDの詳細については、後述する。
図4のS40では、プロセッサ110は、生成された印刷データに基づいて、印刷機構200を制御することによって、印刷機構200に印刷を実行させる。この結果、画像が用紙に印刷される。
本実施例では、プロセッサ110を含む制御装置100が印刷制御装置の例であり、印刷機構200が印刷実行部の例である。これに代えて、プリンタ600に接続されたパーソナルコンピュータなどの端末装置が、上述したS10〜S35の処理を実行することによって印刷データを生成し、S40で当該印刷データをプリンタ600に供給することによって、プリンタ600に印刷を実行させても良い。この場合には、端末装置が印刷制御装置の例であり、プリンタ600が印刷実行部の例である。
A−3.制御データPCDの概要:
図5は、制御データPCDに含まれるドットパターンデータDPDの説明図である。図中には、ドットパターンデータDPDのうちの特定のパス処理に対応する部分DPD1が概念的に示されている。このドットパターンデータDPD1は、1個の色成分のノズル列(例えば、シアンのノズル列NC)の複数個のノズルNZのドットパターンデータを示している。ドットパターンデータDPD1は、複数個のノズルNZのそれぞれについて、1個のラインドットパターンデータを対応付けたデータである。1個のラインドットパターンデータは、1個のノズルに対応する主走査方向に沿った複数個の画素を含む1本のラスタラインについて、ドットの形成を許容するか否かを画素ごとに定めるデータである。図中には、i行目のラインドットパターンデータLDiの一部が、拡大して示されている。i行目のラインドットパターンデータLDiは、i番目のノズルNZ(NZi)に対応するラスタラインRLi内の複数個の画素PXのそれぞれについて、ドットの形成を許容することを示す値「1」と、ドットの形成を許容しないことを示す値「0」と、のいずれかが、画素PXごとに記録されている。換言すれば、ラインドットパターンデータは、対応するノズルNZについて、用紙M上においてドットの形成が許容される主走査方向の位置と、ドットの形成が許容されない主走査方向の位置と、を定めている。図中のバンド状の領域B1は、用紙M上の1回のパス処理でドットを形成可能な領域を示している(「バンド領域B1」とも呼ぶ)。ドットパターンデータDPD1は、バンド領域B1内において、ドットの形成が許容された画素位置を定めている。
ドットパターンデータDPDは、複数回のパス処理のそれぞれのドットパターンデータを定めている。搬送量制御データFDは、複数回のパス処理の前に行われる複数回の搬送処理のそれぞれの搬送量を定めている。制御データPCDは、利用可能な用紙Mのサイズと利用可能な印刷モードとの複数の組合せのそれぞれについて、印刷の制御構成(すなわち、複数回のパス処理のそれぞれのドットパターンデータと、複数回の搬送処理のそれぞれの搬送量)を定めている。図4のS35では、プロセッサ110は、制御データPCDのうち、用紙Mのサイズと印刷モードとの処理対象の組合せに対応付けられた部分を参照して、パスデータを生成する。なお、本実施例では、ドットパターンデータDPDは、複数の色成分(すなわち、複数のインクの種類)に共通である。ただし、色成分毎にドットパターンデータDPDが異なっていても良い。
1個のパスデータは、各画素位置におけるドット値を表している。ドット形成が許容された画素位置のドット値は、用紙M上の同じ画素位置のS30で決定されたドット値と同じである。ドット形成が禁止された画素位置のドット値は、「ドット無し」を示すドット値と同じである。
図5の左部の記録率Rのグラフは、ノズル列における搬送方向に沿ったノズル位置と、当該ノズル位置にあるノズルNZの記録率Rと、の関係を示している。ノズルNZの記録率Rは、該ノズルNZに対応するラスタラインについて、画素の総数に対するドットの形成が許容される画素の数の比率を示している。ノズルNZに対応するラインドットパターンデータの「1」の個数NM1と、「0」の個数NM0と、を用いて、該ノズルNZの記録率Rは、NM1/(NM1+NM0)で表される。各ラインドットパターンデータでは、対応するノズルNZについて予め決められた記録率に従った個数の「1」の値が、分散して配置されている。なお、図5の右部では、ドットパターンデータDPD1を表すハッチングが濃いほど、記録率Rが高いことを示している。
図5の例では、ノズル列NCは、Y方向(すなわち、搬送方向)に向かって並ぶ3つの部分N1a、N1b、N1cに区分されている。中央の部分である第2部分N1bでは、ノズル位置に依らず、記録率Rが100%である。第2部分N1bの上流側(−Y側)の部分である第1部分N1aでは、記録率Rが、搬送方向のノズル位置の変化に対して直線的に、−Y方向に向けて100%からゼロ%まで小さくなる。第2部分N1bの下流側(+Y側)の部分である第3部分N1cでは、記録率Rが、搬送方向のノズル位置の変化に対して直線的に、+Y方向に向けて100%からゼロ%まで小さくなる。このように、記録率Rとしては、搬送方向のノズルの位置に応じて変化する不均等な記録率が、採用される。
図5中の幅Wbは、第2部分N1bの搬送方向の幅である。第1部分N1aの搬送方向の幅Waは、第3部分N1cの搬送方向のWaと同じである。以下、搬送方向の幅を、単に「幅」とも呼ぶ。また、本実施例では、図2で説明したように、1つのノズル列において、複数のノズルNZの間の搬送方向の間隔は、均等である。従って、ノズル列の特定の部分の幅は、特定の部分に含まれるノズルの数に、対応している。例えば、第1の部分の幅が、第2の部分の幅と同じである場合、第1の部分のノズル数は、第2の部分のノズル数と同じである。
以下、印刷に用いられる複数のノズルNZが印刷ヘッド240上で分布する搬送方向(Y方向)の位置の範囲のうち、第2部分N1bのように記録率Rが100%である範囲を、「全記録範囲」とも呼ぶ。ノズル列のうち全記録範囲内の部分を、「全記録部分」とも呼ぶ。また、第1部分N1aのように記録率Rが−Y方向(上流側)に向けて100%からゼロ%まで小さくなる範囲を「上流勾配範囲」とも呼ぶ。ノズル列のうち上流勾配範囲内の部分を、「上流勾配部分」とも呼ぶ。また、第3部分N1cのように記録率Rが+Y方向(下流側)に向けて100%からゼロ%まで小さくなる範囲を「下流勾配範囲」とも呼ぶ。ノズル列のうち下流勾配範囲内の部分を「下流勾配部分」とも呼ぶ。
バンド領域B1のうち、全記録部分N1bによってドットが形成される第2部分領域B1bの印刷は、1回のパス処理で、完了する。上流勾配部分N1aによってドットが形成される第1部分領域B1aの印刷は、1回のパス処理では完了しない。本実施例では、上流勾配部分N1aによってドットが形成された第1部分領域B1aに、次のパス処理の下流勾配部分N1cによってドットを形成することによって、第1部分領域B1aの印刷が完了する。
図6は、連続する2回のパス処理による印刷の概略図である。図中の番号PNは、パス番号を示している。符号Njで示されるノズル列は、j番目(jは整数)のパス処理におけるノズル列の搬送方向の位置を示している。例えば、第1ノズル列N1は、第1パス処理におけるノズル列の搬送方向の位置を示し、第2ノズル列N2は、第2パス処理におけるノズル列の搬送方向の位置を示している。また、符号Bjで示されるバンド領域は、j番目のパス処理によってドットを形成可能な用紙M上の領域を示している。例えば、第1バンド領域B1は、第1ノズル列N1によってドットを形成可能な領域を示し、第2バンド領域B2は、第2ノズル列N2によってドットを形成可能な領域を示している。図示するように、第1バンド領域B1の上流側(−Y側)の端部は、第2バンド領域B2の下流側(+Y側)の端部と、重なっている。なお、説明の都合により、図示された複数回のパス処理のうちの最初のパス処理には、そのパス処理が印刷時に最初に実行されるパス処理ではない場合であっても、j=1が割り当てられている(後述する他の図においても、同様である)。
図6の例では、第1ノズル列N1に対する記録率R1とドットパターンデータと、第2ノズル列N2に対する記録率R2とドットパターンデータとは、図5のノズル列NCに対する記録率RとドットパターンデータDPD1と、同じである。第2ノズル列N2の3つの部分N2a、N2b、N2cは、第1ノズル列N1の3つの部分N1a、N1b、N1cと、それぞれ同じである。第2ノズル列N2の下流勾配部分N2cの幅は、1つ前のパス処理の第1ノズル列N1の上流勾配部分N1aの幅と同じである。そして、第1パス処理と第2パス処理との間の搬送処理の搬送量F2は、第2ノズル列N2の下流勾配部分N2cが、第1ノズル列N1の上流勾配部分N1aと同じ位置(搬送方向の位置)に配置されるように、決定されている。従って、第2ノズル列N2の下流勾配部分N2cと、第1ノズル列N1の上流勾配部分N1aとは、同じ部分領域Bcに、ドットを形成可能である。
ドットパターンデータDPD1(図5)は、第1ノズル列N1の上流勾配部分N1aの複数のノズルと、第2ノズル列N2の下流勾配部分N2cの複数のノズルとが、部分領域Bc上の互いに異なる画素位置にドットを形成するように、構成されている。すなわち、第2ノズル列N2の下流勾配部分N2cの複数のノズルにドット形成が許容される複数の画素位置は、第1ノズル列N1の上流勾配部分N1aの複数のノズルにドット形成が禁止される複数の画素位置と、同じである。第1パス処理の上流勾配部分N1aによるドット形成と、第2パス処理の下流勾配部分N2cによるドット形成とによって、部分領域Bc内の全ての画素位置のドット形成が可能である。
図中の総記録率RTは、複数回のパス処理によって得られる最終的な記録率Rである。図6の例では、部分領域Bcにおいて、第1ノズル列N1の上流勾配部分N1aと、第2ノズル列N2の下流勾配部分N2cとが、互いに異なる画素位置にドットを形成可能である。従って、部分領域Bcにおける総記録率RTは、第1ノズル列N1による記録率R1と、第2ノズル列N2による記録率R2との和である。
ここで、搬送方向(+Y方向)の位置の変化に対する記録率Rの変化の割合を、記録率勾配と呼ぶ。図6の例では、第1ノズル列N1の上流勾配部分N1aにおける記録率勾配は、第2ノズル列N2の下流勾配部分N2cにおける記録率勾配の正負を逆にした値と同じである。従って、第1バンド領域B1と第2バンド領域B2との重なる部分領域Bcの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
このように、上流勾配範囲(例えば、第1部分N1a)の複数のノズルと、次のパス処理の下流勾配範囲(例えば、第3部分N2c)の複数のノズルとが、用紙M上の同じ部分領域を印刷し、全記録範囲の複数のノズルは、1回のパス処理で、用紙M上の対応する部分領域を印刷するように、パス処理と搬送処理とが繰り返される。これにより、用紙M上の印刷領域の全体に亘って、100%の総記録率RTを実現しつつ、隣接する2つのバンド領域の一部を重ねることができる。このように、用紙M上の一部の領域を複数回のパス処理を用いて印刷する処理を、部分マルチパス印刷とも呼ぶ。
第1バンド領域B1の上流側(−Y側)の端B1eにおける記録率R1は、第1バンド領域B1の他の部分の記録率R1と比べて小さく、例えば、50%未満である(図6の例では、ほぼゼロ%である)。従って、第1パス処理と第2パス処理との間でドットの形成位置にズレが生じた場合であっても、第2バンド領域B2のうちの第1バンド領域B1の端B1eと重なる部分で、白スジまたは濃度ムラ(バンディングとも呼ばれる)が目立つことを抑制できる。また、第2バンド領域B2の下流側(+Y側)の端B2eにおける記録率R2は、第2バンド領域B2の他の部分の記録率R2と比べて小さく、例えば、50%未満である(図6の例では、ほぼゼロ%である)。従って、第1パス処理と第2パス処理との間でドットの形成位置にズレが生じた場合であっても、第1バンド領域B1のうちの第2バンド領域B2の端B2eと重なる部分で、白スジまたは濃度ムラが目立つことを抑制できる。また、上流勾配範囲(例えば、第1部分N1a)と下流勾配範囲(例えば、第3部分N2c)とにおいて、記録率Rは、搬送方向の位置の変化に対して直線的に変化する。従って、記録率Rが階段状に変化する場合と比べて、濃度ムラが目立つことを抑制できる。
なお、本実施例では、後述するように、1回のパス処理で印刷に用いられるノズルの数は、1回の印刷のための複数回のパス処理の途中で変化する。この場合も、j番目のパス処理の上流勾配部分とj+1番目のパス処理の下流勾配部分とが、用紙M上の同じ部分領域の印刷を、互いに補完しあって完成させるように、複数回のパス処理と複数回の搬送処理とが制御される。これにより、100%の総記録率RTを実現しつつ、隣接する2つのバンド領域の端部を互いに重ねることができる。
A−4.縁なし印刷:
A−4−1.縁なし印刷の概要:
図7は、縁なし印刷の説明図である。図中には、図3(A)と同様に、搬送機構210を横から見た概略図が示されている。図7(A)は、用紙Mの縁よりも内側の領域を印刷する状態を示し、図7(B)は、用紙Mの上流側の縁Peの近傍の領域を印刷する状態を示している。本実施例では、図7(A)の状態では、用紙Mは、印刷ヘッド240よりも上流側の保持部(ここでは、押さえ部材216と上流ローラ対217との少なくとも一方)と、印刷ヘッド240よりも下流側の保持部(ここでは、下流ローラ対218)と、の両方によって保持されている。以下、このような状態を、「第1搬送状態901」とも呼ぶ。第1搬送状態901で行われるパス処理を、「第1種パス処理」とも呼ぶ。第1搬送状態901で行われる第1種パス処理と搬送処理とを含む印刷処理を、「第1印刷処理」とも呼ぶ。図7(B)の状態では、用紙Mは、印刷ヘッド240よりも下流側の保持部(ここでは、下流ローラ対218)のみで保持されている。以下、このような状態を、「第2搬送状態902」とも呼ぶ。第2搬送状態902で行われるパス処理を、「第2種パス処理」とも呼ぶ。第2搬送状態902で行われる第2種パス処理と搬送処理とを含む印刷処理を、「第2印刷処理」とも呼ぶ。第2搬送状態902では、第1搬送状態901とは異なり、用紙Mは、印刷ヘッド240の上流側では、保持されていない。従って、第2搬送状態902では、第1搬送状態901と比べて、搬送の精度が低い。
図7(A)に示す第1搬送状態901では、ノズル領域NAの全体の複数のノズル(すなわち、印刷ヘッド240の複数個のノズルの全て)が、印刷に利用される。図7(B)に示す第2搬送状態902では、ノズル領域NAのうち下流側の端を含む一部の領域NBの複数のノズルが、印刷に利用される(下流部分領域NBとも呼ぶ)。下流部分領域NBは、用紙台211の支持部材212、213よりも下流側(+Y側)に位置する部分である。下流部分領域NBは、用紙を支持する支持部材212、213とは対向せずに、用紙を支持せずにインクを受けるように構成された部分である平板214と対向している。用紙Mの縁Peは、下流部分領域NBの上流側の端NBuと下流側の端NBdとの間に位置している。用紙Mの縁Peから内側(ここでは、下流側(+Y側))では、下流部分領域NBの複数のノズルから吐出されたインクは、用紙M上にドットを形成する。用紙Mの縁Peから外側(ここでは、上流側(−Y側))では、下流部分領域NBの複数のノズルから吐出されたインクは、用紙Mではなく、平板214上に到着する。以上により、用紙Mの縁Peの近傍に余白を残さずに、用紙Mの内部から縁Peまでの全体に亘って、画像を印刷可能である。
図示を省略するが、用紙Mの下流側の縁の近傍を印刷する場合には、用紙Mの下流側の縁が、下流部分領域NBの両端NBu、NBdの間に配置された状態で、下流部分領域NBの複数のノズルを用いて印刷が行われる。この場合、用紙Mは、印刷ヘッド240よりも下流側の下流ローラ対218には保持されず、印刷ヘッド240よりも上流側の押さえ部材216と上流ローラ対217とに保持されている。
A−4−2.第1制御例:
図8は、複数回のパス処理の例を示す概略図である。図中には、図7(A)の第1搬送状態901での第1印刷処理から図7(B)の第2搬送状態902での第2印刷処理へ移行する過程が示されている。図中には、番号PNが1から5までの5回のパス処理が示されている。符号Njで示されるノズル列は、j番目のパス処理におけるノズル列の搬送方向(すなわち、Y方向)の位置を示している。符号Fjで示される矢印は、j番目のパス処理の前に行われる搬送処理の搬送量を示している。符号Rjで示されるグラフは、j番目のパス処理のノズル列Njの搬送方向のノズル位置と記録率Rとの関係を示している。総記録率RTのグラフは、搬送方向の位置と、複数回のパス処理によって得られる最終的な記録率Rと、の関係を示している。
j番目のパス処理のノズル列Njは、記録率Rに応じて複数の部分に区分されている。複数の部分のそれぞれ符号は、ノズル列の符号(Nj)の末尾に、記録率Rの特徴を特定する文字(a、b、c、zのいずれか)を付加したものである。上流勾配部分Njaは、上流勾配範囲に対応する部分である。全記録部分Njbは、全記録範囲に対応する部分である。下流勾配部分Njcは、下流勾配範囲に対応する部分である。無記録部分Njzは、記録率Rがゼロ%である範囲に対応する部分である。図中では、ノズル列Njのうち、記録率Rがゼロよりも大きい部分(すなわち、部分Nja、Njb、Njc)に、ハッチングが付されている。以下、ノズル列Njのうち記録率Rがゼロよりも大きい部分を、記録部分とも呼ぶ。第1印刷処理のパス処理における記録部分の範囲を、第1分布範囲とも呼ぶ。第2印刷処理のパス処理における記録部分の範囲を、第2分布範囲とも呼ぶ。後述するように、第1分布範囲と第2分布範囲とは、パス処理毎に異なり得る。
図8の例では、第1から第3の3回のパス処理は、第1搬送状態901で行われる第1種パス処理であり、第4と第5の2回のパス処理は、第2搬送状態902で行われる第2種パス処理である。第1パス処理と第2パス処理とは、図6の第1パス処理と第2パス処理と、それぞれ同じである。図示を省略するが,図8の第1パス処理の前には、第1パス処理と同様のパス処理と搬送量F2の搬送処理とが、複数回に亘って、定常的に繰り返される。これにより、用紙Mの上流側の縁と下流側の縁との間の中央部分が、印刷される。以下、第1搬送状態901の第1印刷処理で定常的に繰り返される搬送量を、搬送量Faとも呼ぶ。この搬送量Faは、第1印刷処理での複数回の搬送処理の搬送量のうち、最も頻度の高い搬送量である。以下、1枚の用紙Mの印刷のための第1印刷処理で、1つのパラメータ(例えば、搬送量や記録部分の幅)の値として複数個の値が用いられる場合に、最も頻度の高い値を、第1印刷処理で定常的に繰り返される値として採用する。
第3ノズル列N3の記録率R3は、第2ノズル列N2の記録率R2とは、以下のように異なっている。第3ノズル列N3の全記録部分N3bは、第2ノズル列N2の全記録部分N2bと比べて、上流側(−Y側)に向かって延長されている(全記録部分N3bの幅Wc>全記録部分N2bの幅Wb)。また、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aは、第2ノズル列N2の上流勾配部分N2aと比べて、上流側(−Y側)に向かって短縮されている(上流勾配部分N3aの幅Wd<上流勾配部分N2aの幅Wa)。第3ノズル列N3の下流勾配部分N3cの幅Waは、第2ノズル列N2の上流勾配部分N2aの幅Waと、同じである。第3パス処理の前の搬送処理の搬送量F3は、第2パス処理の前の搬送処理の搬送量F2と、同じである。すなわち、搬送量F3は、第2ノズル列N2の全記録部分N2bの幅Wbと下流勾配部分N2cの幅Waとの合計値である。従って、第3ノズル列N3の下流勾配部分N3cと、第2ノズル列N2の上流勾配部分N2aとは、用紙M上の同じ部分領域Bdに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Bdの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
第4ノズル列N4の記録率R4は、以下の通りである。第4ノズル列N4は、記録率R4に応じて、4つの部分N4z、N4a、N4b、N4cに区分されている。第4ノズル列N4の上流側の端を含む部分N4zは、無記録部分である(R4=ゼロ)。残りの3つの部分N4a、N4b、N4cは、下流側(+Y方向)に向かってこの順番に並んでいる。これら3つの部分N4a、N4b、N4cのそれぞれの幅は、1つ前のパス処理の第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aの幅Wdと同じである。第4パス処理の前の搬送処理の搬送量F4は、第3ノズル列N3の全記録部分N3bの幅Wcと下流勾配部分N3cの幅Waとの合計値である(搬送量Fbと呼ぶ)。従って、第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cと、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aとは、用紙M上の同じ部分領域Bfに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Bfの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
第5ノズル列N5の記録率R5は、以下の通りである。第5ノズル列N5は、記録率R5に応じて、3つの部分N5z、N5b、N5cに区分されている。第5ノズル列N5の上流側の端を含む部分N5zは、無記録部分である(R5=ゼロ)。残りの2つの部分N5b、N5cは、下流側(+Y方向)に向かってこの順番に並んでいる。これら2つの部分N5b、N5cのそれぞれの幅は、第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aの幅Wdと同じである。第5パス処理の前の搬送処理の搬送量F5は、第4ノズル列N4の全記録部分N4bの幅Wdと下流勾配部分N4cの幅Wdとの合計値である(搬送量Fcと呼ぶ)。従って、第5ノズル列N5の下流勾配部分N5cと、第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aとは、用紙M上の同じ部分領域Bgに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Bgの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
なお、第5ノズル列N5からは、上流勾配部分が省略されている。第5ノズル列N5の全記録部分N5bの上流側の端に対応するラスタラインRL8が、印刷可能な領域の上流側の端である。
このように、上流勾配部分と次のパス処理の下流勾配部分とによって印刷される部分領域では、総記録率RTが100%である。そして、全記録部分によって印刷される部分領域においても、総記録率RTが100%である。このように、印刷可能な領域の全体に亘って、100%の総記録率RTが実現される。
図8中の縁印刷範囲RPeは、第2搬送状態902でのパス処理でドットを形成可能な搬送方向の範囲を示している。印刷のための複数回のパス処理と複数回の搬送処理とは、用紙Mの縁Pe(図7(B))の近傍が印刷される場合に、縁Peが範囲RPe内に位置するように、構成されている。これにより、縁Peの近傍に余白が残ることを抑制できる。
また、図8の制御例では、第1搬送状態901の最後のパス処理の第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aの幅Wdは、第1搬送状態901で定常的に繰り返される上流勾配部分の幅Waよりも、小さい。従って、ノズル列の記録部分の幅が小さい第2搬送状態902でのパス処理を用いて、第1搬送状態901の最後のパス処理の第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aによってドットが形成された領域の印刷を、完成させることができる。
また、上述したように、第2搬送状態902では、第1搬送状態901と比べて、搬送精度が低い。従って、1回の搬送処理の搬送量が同じ場合には、第2搬送状態902でのドットの形成位置のズレは、第1搬送状態901でのドットの形成位置のズレよりも、大きくなり得る。図8の制御例では、第2搬送状態902での第2印刷処理における搬送量F5は、第1搬送状態901で定常的に繰り返される搬送処理の搬送量Faと比べて、小さい。従って、第2印刷処理におけるドットの形成位置のズレを抑制できる。
また、図8の制御例では、第1搬送状態901の最後のパス処理の第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aの幅Wdが、第2搬送状態902の最初のパス処理の第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cの幅Wdと、同じである。従って、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aと、第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cとは、共通の部分領域Bfの印刷を完成させることができる。
また、図7(A)、図7(B)で説明したように、第2搬送状態902でのパス処理の記録部分の幅(例えば、下流部分領域NBの幅)は、第1搬送状態901でのバス処理の記録部分の最大幅(例えば、ノズル領域NAの幅)よりも小さい。図8の例では、第2搬送状態902での第4ノズル列N4の記録部分N4a、N4b、N4cの合計幅と、第5ノズル列N5の記録部分N5b、N5cの合計幅とは、第1搬送状態901での最大幅(Wa+Wb+Wa)よりも、小さい。そして、第2搬送状態902の各パス処理の記録部分は、図7(B)の下流部分領域NBと同様に、支持部材212、213よりも下流側に位置している。すなわち、第2搬送状態902の各パス処理の記録部分は、用紙を支持する支持部材212、213とは対向せずに、用紙を支持せずにインクを受けるように構成された部分である平板214と対向する範囲内の部分である。従って、用紙Mの縁Peの近傍を印刷する場合に、支持部材212、213がインクで汚れることを抑制できる。
また、第1印刷処理から第2印刷処理へ移行時に行われる搬送処理の搬送量F4(=Fb)は、第1印刷処理で定常的に繰り返される搬送量Faよりも大きい。従って、第2印刷処理と比べて搬送の精度が良い第1印刷処理によって印刷される領域を広くできるので、用紙Mの搬送量のばらつきに起因して発生する白スジや濃度ムラなどのバンディングを抑制することができる。
また、第1搬送状態901の最後のパス処理の第3ノズル列N3の全記録部分N3bの幅Wcは、第1搬送状態901で定常的に繰り返されるパス処理の全記録部分の幅Wbよりも、大きい。具体的には、上流勾配部分N3aと全記録部分N3bとの全体の幅が、第1搬送状態901で定常的に繰り返されるパス処理の上流勾配部分と全記録部分との全体の幅(Wb+Wa)と変わらないように、全記録部分N3bの幅が増大している。これにより、第3ノズル列N3でドットが形成される領域の幅を小さくせずに、上流勾配部分N3aの幅を小さくできる。
以上により、不均等なドットの記録率Rと隣接する2つのバンドの端部の重ね合わせとを適切に実現できる。
なお、図8では、用紙M(図7(B))の上流側の縁Peの近傍を印刷する場合について、説明した。用紙Mの下流側の縁(図示省略)の近傍を印刷する場合には、種々の制御を採用可能である。例えば、図8中の複数の記録部分Nja、Njb、Njcの配置パターンを図8中の上下に反転させて得られる複数の記録部分Nja、Njb、Njcを用いてもよい。すなわち、用紙Mの中央部分から上流側の縁Peに向かって並ぶ図8の複数の記録部分Nja、Njb、Njcを、主走査方向に平行な軸を対称軸として、用紙Mの中央部分から下流側の縁に向かって対称に並ぶように反転させて、下流用の複数の記録部分を取得する。そして、取得された複数の記録部分を実現するように、複数回のパス処理と複数回の搬送処理との構成を決定すればよい。後述する他の制御例についても、同様である。
A−4−3.第2制御例:
図9は、複数回のパス処理の別の例を示す概略図である。図8の制御例との差異は、第3パス処理の第3ノズル列N3に対する記録率R3と、第3パス処理の後の搬送処理の搬送量F4とが、図8のものと異なっている点だけである。他の構成は、図8の制御例の構成と同じである。
第3ノズル列N3の記録率R3は、以下の通りである。第3ノズル列N3は、記録率R3に応じて、4つの部分N3z、N3a、N3b、N3cに区分されている。第3ノズル列N3の上流側の端を含む部分N3zは、無記録部分である(R3=ゼロ)。残りの3つの部分N3a、N3b、N3cは、下流側(+Y方向)に向かってこの順番に並んでいる。上流勾配部分N3aの幅Wdは、第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cの幅Wdと同じである。全記録部分N3bの幅Wfは、第2ノズル列N2の全記録部分N2bの幅Wbよりも小さい。下流勾配部分N3cの幅Waは、第2ノズル列N2の上流勾配部分N2aの幅Waと同じである。第3パス処理の前の搬送処理の搬送量F3は、第2ノズル列N2の全記録部分N2bの幅Wbと下流勾配部分N2cの幅Waとの合計値である。従って、第3ノズル列N3の下流勾配部分N3cと、第2ノズル列N2の上流勾配部分N2aとは、用紙M上の同じ部分領域Bhに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Bhの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
また、第3パス処理の後の搬送処理の搬送量F4は、第3ノズル列N3の全記録部分N3bの幅Wfと下流勾配部分N3cの幅Waとの合計値である(搬送量Fdと呼ぶ)。従って、第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cと、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aとは、用紙M上の同じ部分領域Biに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Biの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
このように、図9の制御例では、図8の制御例と同様に、不均等なドットの記録率Rと隣接する2つのバンドの端部の重ね合わせとを適切に実現できる。また、図9中の範囲RPeは、第2搬送状態902でのパス処理でドットを形成可能な搬送方向の範囲を示している。印刷のための複数回のパス処理と複数回の搬送処理とは、用紙Mの縁Pe(図7(B))の近傍が印刷される場合に、縁Peが範囲RPe内に位置するように、構成されている。これにより、縁Peの近傍に余白が残ることを抑制できる。
また、第1印刷処理において、定常的な記録部分の幅(Wa+Wb+Wa)と定常的な搬送量Faとのみを強制的に繰り返す場合に、第1印刷処理の最後のパス処理の記録部分の一部が、第2印刷処理のみでドットを形成すべき部分領域に重なる場合がある。図9の制御例では、第1印刷処理の最後のパス処理の第3ノズル列N3の記録部分(N3a、N3b、N3c)の合計幅が、第1搬送状態901の第1印刷処理で定常的に繰り返される記録部分の合計幅(Wa+Wb+Wa)よりも、小さい。特に、図9の例では、上流勾配部分N3aと全記録部分N3bとのそれぞれの幅が、定常的な幅よりも小さい。従って、第1印刷処理の最後のパス処理の第3ノズル列N3の記録部分(N3a、N3b、N3c)が、第2印刷処理のパス処理のみで印刷すべき部分領域に重なることを防止できる。
A−4−4.第3制御例:
図10は、複数回のパス処理の別の例を示す概略図である。図9の制御例との差異は、第4ノズル列N4の全記録部分N4bが省略されている点だけである。他の構成は、図9の制御例の構成と同じである。
第4ノズル列N4の記録率R4は、以下の通りである。第4ノズル列N4は、記録率R4に応じて、3つの部分N4z、N4a、N4cに区分されている。第4ノズル列N4の上流側の端を含む部分N4zは、無記録部分である(R3=ゼロ)。残りの2つの部分N4a、N4cは、下流側(+Y方向)に向かってこの順番に並んでいる。上流勾配部分N4aの幅Wdは、第5ノズル列N5の下流勾配部分N5cの幅Wdと同じである。下流勾配部分N4cの幅Wdは、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aの幅Wdと同じである。第4パス処理の前の搬送処理の搬送量F4は、第3ノズル列N3の全記録部分N3bの幅Wfと下流勾配部分N3cの幅Waとの合計値である。従って、第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cと、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aとは、用紙M上の同じ部分領域Bkに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Bkの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
また、第4パス処理の後の搬送処理の搬送量F5は、第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cの幅Wdと同じである(搬送量Feと呼ぶ)。従って、第5ノズル列N5の下流勾配部分N5cと、第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aとは、用紙M上の同じ部分領域Bmに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Bmの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
このように、図10の制御例では、図9の制御例と同様に、不均等なドットの記録率Rと隣接する2つのバンドの端部の重ね合わせとを適切に実現できる。また、図10中の範囲RPeは、第2搬送状態902でのパス処理でドットを形成可能な搬送方向の範囲を示している。印刷のための複数回のパス処理と複数回の搬送処理とは、用紙Mの縁Pe(図7(B))の近傍が印刷される場合に、縁Peが範囲RPe内に位置するように、構成されている。これにより、縁Peの近傍に余白が残ることを抑制できる。
以上、図8、図9、図10を参照して3つの制御例について説明した。印刷の制御構成(各パス処理のドットパターンデータ(すなわち、記録率R)と、各搬送処理の搬送量と、の組合せ)は、利用可能な用紙Mのサイズ毎に、予め決められている。特定のサイズの用紙Mを用いて縁なし印刷を実行する場合には、プロセッサ110は、図4のS35で、制御データPCDを参照して用紙Mのサイズに予め対応付けられた縁なし印刷用の制御構成を特定し、特定された制御構成に従って印刷データを生成する。
A−5.片保持印刷:
A−5−1.片保持印刷の概要:
図11は、片保持印刷の説明図である。片保持印刷は、図4のS10で「通常印刷」が選択された場合に、実行される。図中には、図3(A)と同様に、搬送機構210を横から見た概略図が示されている。図11(A)は、印刷ヘッド240よりも上流側の保持部(ここでは、押さえ部材216と上流ローラ対217との少なくとも一方)と、印刷ヘッド240よりも下流側の保持部(ここでは、下流ローラ対218)と、の両方によって用紙Mが保持された状態を示している。以下、図11(A)の状態911を、「第1搬送状態911」とも呼ぶ。第1搬送状態911で行われるパス処理を、「第1種パス処理」とも呼ぶ。第1搬送状態911で行われる第1種パス処理と搬送処理とを含む印刷処理を、「第1印刷処理」とも呼ぶ。図11(B)、図11(C)は、用紙Mが、印刷ヘッド240よりも下流側の保持部(ここでは、下流ローラ対218)のみで保持されている状態を示している。図11(B)の状態913では、用紙Mの上流側の縁Peがノズル領域NAのよりも上流側に位置している。図11(C)の状態912では、用紙Mの上流側の縁Peがノズル領域NAの下流側の部分と対向する位置に位置している。
図11(B)、図11(C)中の基準面Psは、高支持部材212の面212aによって定められる用紙Mの位置を示している。第1搬送状態911(図11(A))では、印刷ヘッド240の上流側と下流側との両方で、用紙Mが保持部(例えば、押さえ部材216と下流ローラ対218)に保持されている。従って、通常は、用紙Mは、この基準面Psよりも印刷ヘッド240に近い位置には移動しない。一方、図11(B)、図11(C)のように、上流側の保持部と下流側の保持部とのうち片方の保持部(ここでは、下流ローラ対218)のみに用紙Mが保持されている場合には、用紙Mの一部が、基準面Psよりも印刷ヘッド240に近い位置に、移動し得る。例えば、図11(B)、図11(C)に示すように、用紙Mの縁Peが、印刷ヘッド240に近い位置に移動し得る。また、図示を省略するが、用紙Mが+Z側に向かって凸状に撓む場合には、凸状の部分の頂点が、印刷ヘッド240に近い位置に移動し得る。
このように、用紙Mの一部が基準面Psから離れて印刷ヘッド240に近づく場合、ノズルNZと用紙Mとの間の距離が意図せず短くなるので、用紙M上のドットの形成位置が、本来の位置からズレ得る。このような位置ズレは、基準面Psと用紙Mとの間の差が大きいほど、大きい。図11(B)、図11(C)の差d1、d2は、用紙Mの縁Peと基準面Psとの間の距離を示している。図11(B)の状態913では、図11(C)の状態912と比べて、用紙Mの縁Peが下流ローラ対218から遠いので、差d1は、差d2よりも大きい。従って、図11(B)の状態913では、図11(C)の状態912と比べて、ドット形成位置のズレが大きい。
そこで、本実施例では、図11(B)の状態913で印刷することを抑制し、図11(A)の第1搬送状態911から、図11(C)の状態912に移行するように、印刷処理が制御される。以下、図11(C)の状態912を、「第2搬送状態912」とも呼ぶ。また、第2搬送状態912で行われるパス処理を、「第2種パス処理」とも呼ぶ。第2搬送状態912で行われる第2種パス処理と搬送処理とを含む印刷処理を、「第2印刷処理」とも呼ぶ。第1搬送状態911では、ノズル領域NAの全体の複数のノズル(すなわち、印刷ヘッド240の複数個のノズルの全て)が、印刷に利用される。第2搬送状態912では、ノズル領域NAのうち下流側の端を含む一部の領域NCの複数のノズルが、印刷に利用される(下流部分領域NCとも呼ぶ)。片保持印刷では、下流部分領域NCの全体が用紙Mと対向する状態で、下流部分領域NCの複数のノズルからインクが吐出される。従って、インクが用紙Mに到達せずに、用紙台211に到達することは、防止されている。このように、片保持印刷では、インクは用紙台211には到達しないので、下流部分領域NCは、支持部材212、213と対向する部分を含んでもよい。
なお、第2搬送状態912では、第1搬送状態911とは異なり、用紙Mは、印刷ヘッド240の上流側では、保持されていない。従って、第2搬送状態912では、第1搬送状態911と比べて、搬送の精度が低い。
また、図示を省略するが、用紙Mの下流側の縁の近傍を印刷する場合には、用紙Mが、上流側の保持部(ここでは、押さえ部材216と上流ローラ対217との少なくとも一方)のみに保持された第3搬送状態で、画像が印刷される。この場合も、下流部分領域NC(図11(C))が印刷に利用される。これに代えて、ノズル領域NAのうち上流側の端を含む一部の領域NDの複数のノズルが、印刷に利用されてもよい(上流部分領域NDとも呼ぶ)。このように上流側のノズルを用いる場合には、用紙Mを保持する保持部(例えば、押さえ部材216)と用紙Mの下流側の縁との距離を短くできるので、ドット形成位置のズレを抑制できる。
A−5−2.第4制御例:
図12は、片保持印刷の複数回のパス処理の例を示す概略図である。第1から第3のパス処理は、図8、図9などの第1と第2のパス処理と、同じである。第4ノズル列N4の記録率R4は、第3ノズル列N3の記録率R3から以下のように異なっている。第4ノズル列N4の全記録部分N4bは、第3ノズル列N3の全記録部分N3bと比べて、上流側(−Y側)に向かって延長されている(全記録部分N4bの幅Wg>全記録部分N3bの幅Wb)。また、第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aは、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aと比べて、上流側(−Y側)に向かって短縮されている(上流勾配部分N4aの幅Wh<上流勾配部分N3aの幅Wa)。第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cの幅Waは、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aの幅Waと、同じである。第4パス処理の前の搬送処理の搬送量F4は、第3ノズル列N3の全記録部分N3bの幅Wbと下流勾配部分N3cの幅Waとの合計値である。従って、第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cと、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aとは、用紙M上の同じ部分領域Bnに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Bnの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
第5ノズル列N5の記録率R5は、以下の通りである。第5ノズル列N5は、記録率R5に応じて、3つの部分N5z、N5b、N5cに区分されている。第5ノズル列N5の上流側の端を含む部分N5zは、無記録部分である(R5=ゼロ)。残りの2つの部分N5b、N5cは、下流側(+Y方向)に向かってこの順番に並んでいる。これら2つの部分N5b、N5cのそれぞれの幅は、第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aの幅Whと同じである。第5パス処理の前の搬送処理の搬送量F5は、第4ノズル列N4の全記録部分N4bの幅Wdと下流勾配部分N4cの幅Wdとの合計値である(搬送量Ffと呼ぶ)。従って、第5ノズル列N5の下流勾配部分N5cと、第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aとは、用紙M上の同じ部分領域Boに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Boの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
なお、第5ノズル列N5からは、上流勾配部分が省略されている。第5ノズル列N5の全記録部分N5bの上流側の端に対応するラスタラインRL12が、用紙M上の印刷領域の上流側の端PAeである。
このように、図12の制御例では、上記の他の制御例と同様に、不均等なドットの記録率Rと隣接する2つのバンドの端部の重ね合わせとを適切に実現できる。
また、図12の制御例では、第1搬送状態911の最後のパス処理の第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aの幅Whは、第1搬送状態911で定常的に繰り返されるパス処理の上流勾配部分の幅Waよりも、小さい。従って、ノズル列の記録部分の幅が小さい第2搬送状態912でのパス処理を用いて、第1搬送状態911の最後のパス処理の第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aによってドットが形成された領域の印刷を、完成させることができる。
また、図12の制御例では、第1搬送状態911の最後のパス処理の第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aの幅Whが、第2搬送状態912の最初のパス処理の第5ノズル列N5の下流勾配部分N5cの幅Whと、同じである。従って、第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aと、第5ノズル列N5の下流勾配部分N5cとは、共通の部分領域Boの印刷を完成させることができる。
また、図11(A)〜図11(C)で説明したように、第2搬送状態912でのパス処理の記録部分の幅(例えば、下流部分領域NCの幅)は、第1搬送状態911でのバス処理の記録部分の最大幅(例えば、ノズル領域NAの幅)よりも小さい。図12の例では、第2搬送状態912での第5ノズル列N5の記録部分N5b、N5cの合計幅は、第1搬送状態911での最大幅(Wa+Wb+Wa)よりも、小さい。そして、第2搬送状態912の各パス処理の記録部分は、図11(C)の下流部分領域NCと同様に、ノズル領域NAのうち、用紙Mを保持する下流ローラ対218側の端を含む一部分である。一般的に、用紙Mを保持する下流ローラ対218に近いほど、用紙MとノズルNZとの間の距離のズレが小さい。従って、インクドットの形成位置のズレを抑制できる。
また、第1搬送状態911の最後のパス処理(第4パス処理)と第2搬送状態912の最初のパス処理(第5パス処理)との間の搬送処理の搬送量F5は、第1搬送状態911で定常的に繰り返される搬送処理の搬送量Faよりも大きい量Ffである。従って、図11(B)の状態913で印刷されることを避けて、第1搬送状態911(図11(A))から第2搬送状態912(図11(C))へ移行することができる。また、第2印刷処理と比べて搬送の精度が良い第1印刷処理によって印刷される領域を広くできるので、用紙Mの搬送量のばらつきに起因して発生する白スジや濃度ムラなどのバンディングを抑制することができる。
また、図12の制御例では、第1搬送状態911の最後のパス処理の第4ノズル列N4の全記録部分N4bの幅Wgが、第1搬送状態911で定常的に繰り返されるパス処理の全記録部分の幅Wbよりも大きい。従って、全記録部分N4bで印刷される領域、すなわち、第1搬送状態911の最後のパス処理で印刷が完了する領域が、広くなる。この結果、第1搬送状態911での第1印刷処理から第2搬送状態912での第2印刷処理への移行時に、定常的に繰り返される搬送量Faよりも大きな搬送量Ffで搬送処理を行う場合であっても、第1印刷処理と第2印刷処理との間で印刷を完了できない領域が残ることを防止できる。
A−5−3.第5制御例:
図13は、複数回のパス処理の別の例を示す概略図である。図12の制御例との差異は、第4ノズル列N4の記録率R4が変更されている点だけである。他の構成は、図12の制御例の構成と同じである。
第4ノズル列N4の記録率R4は、以下の通りである。第4ノズル列N4は、記録率R4に応じて、4つの部分N4a、N4b、N4c、N4zに区分されている。第4ノズル列N4の下流側の端を含む部分N4zは、無記録部分である(R4=ゼロ)。残りの3つの部分N4a、N4b、N4cは、第4ノズル列N4の上流側の端から下流側(+Y方向)に向かってこの順番に並んでいる。上流勾配部分N4aの幅Whは、第5ノズル列N5の下流勾配部分N5cの幅Whと同じである。全記録部分N4bの幅Wiは、第3ノズル列N3の全記録部分N3bの幅Wbよりも小さい。下流勾配部分N4cの幅Waは、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aの幅Waと同じである。第4パス処理の前の搬送処理の搬送量F4は、第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cが、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aと同じ位置に配置されるように、設定されている(搬送量Fgと呼ぶ)。従って、第4ノズル列N4の下流勾配部分N4cと、第3ノズル列N3の上流勾配部分N3aとは、用紙M上の同じ部分領域Bpに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Bpの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
また、第4パス処理の後の搬送処理の搬送量F5は、第5ノズル列N5の下流勾配部分N5cが、第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aと同じ位置に配置されるように、設定されている。従って、第5ノズル列N5の下流勾配部分N5cと、第4ノズル列N4の上流勾配部分N4aとは、用紙M上の同じ部分領域Bqに、ドットを形成可能である。そして、この部分領域Bqの全体に亘って、総記録率RTは、100%である。
また、第1搬送状態911の最後のパス処理(第4パス処理)と第2搬送状態912の最初のパス処理(第5パス処理)との間の搬送処理の搬送量F5は、第1搬送状態911で定常的に繰り返される搬送処理の搬送量Faよりも大きい量Fhである。従って、図11(B)の状態913で印刷されることを避けて、第1搬送状態911(図11(A))から第2搬送状態912(図11(C))へ移行することができる。また、第2印刷処理と比べて搬送の精度が良い第1印刷処理によって印刷される領域を広くできるので、用紙Mの搬送量のばらつきに起因して発生する白スジや濃度ムラなどのバンディングを抑制することができる。
このように、図13の制御例では、図12の制御例と同様に、不均等なドットの記録率Rと隣接する2つのバンドの端部の重ね合わせとを適切に実現できる。
また、第1印刷処理において、定常的な記録部分の幅(Wa+Wb+Wa)と定常的な搬送量Faとのみを強制的に繰り返す場合に、第1印刷処理の最後のパス処理の記録部分の一部が、第2印刷処理のみでドットを形成すべき部分領域に重なる場合がある。このような場合には、第1印刷処理と第2印刷処理との間の大きな搬送量を実現できない。図13の制御例では、第1搬送状態911の最後のパス処理の第4ノズル列N4の記録部分(N4a、N4b、N4c)の幅が、第1搬送状態911で定常的に繰り返されるパス処理の記録部分の幅(Wa+Wb+Wa)よりも小さい。従って、第1印刷処理の最後のパス処理の記録部分の一部が、第2印刷処理のみでドットを形成すべき部分領域に重なることを防止しつつ、第1印刷処理と第2印刷処理との間の大きな搬送量F5(Fh)を実現できる。
以上、図12、図13を参照して2つの制御例について説明した。印刷の制御構成(各パス処理のドットパターンデータ(すなわち、記録率R)と、各搬送処理の搬送量と、の組合せ)は、利用可能な用紙Mのサイズ毎に、予め決められている。特定のサイズの用紙Mを用いて片保持印刷を実行する場合には、プロセッサ110は、図4のS35で、制御データPCDを参照して用紙Mのサイズに予め対応付けられた片保持印刷用の制御構成を特定し、特定された制御構成に従って印刷データを生成する。
B.変形例:
(1)印刷の制御構成としては、図8、図9、図10、図12、図13の構成に限らず、他の種々の構成を採用可能である。例えば、用紙Mの上流側の縁Peの近傍を特定の制御例に従って印刷し、用紙Mの下流側の縁の近傍を他の制御例に従って印刷してもよい。また、図8、図9、図10の第2搬送状態902において、3回以上のパス処理が行われても良い。例えば、図8、図9、図10の制御例において、第4パス処理と第5パス処理との間に、第4パス処理と同じパス処理が実行されてもよい。また、図8、図9の全記録部分N4b、N5bの幅は、勾配部分N4a、N4c、N5cの幅Wdよりも大きくてもよく、小さくてもよい。また、図12、図13の第2搬送状態912において、2回以上のパス処理が行われても良い。例えば、図12、図13の制御例において、第4パス処理と第5パス処理との間に、図8の第4パス処理と同じパス処理、または、図10の第4パス処理と同じパス処理が、実行されてもよい。また、図12、図13の制御例を、縁なし印刷に適用してもよい。また、図8、図9、図10の制御例を、片保持印刷に適用してもよい。いずれの場合も、第2搬送状態902、912では、第1搬送状態901、911と比べて、搬送精度が低い。従って、第2搬送状態902、912での第2印刷処理における搬送量が、第1搬送状態901、911で定常的に繰り返される搬送処理の搬送量と比べて、小さいことが好ましい。この構成によれば、第2印刷処理におけるドットの形成位置のズレを抑制できる。
また、上流勾配範囲内において、記録率Rは、搬送方向のノズル位置の変化に対して、曲線を描くように変化してもよく、ステップ状に変化してもよい。また、下流勾配範囲内において、記録率Rは、搬送方向のノズル位置の変化に対して、曲線を描くように変化してもよく、ステップ状に変化してもよい。
また、第2印刷処理(第2搬送状態)の1回以上の第2種パス処理のうちの少なくとも1回のパス処理のノズル列の記録部分の幅(第2分布幅)が、第1印刷処理(第1搬送状態)の複数回の第1種パス処理における記録部分の最大幅と同じであってもよい。この場合、第1種パス処理と第2種パス処理との間で、上流勾配部分と全記録部分と下流勾配部分との少なくとも1つの幅が異なっていてもよい。また、第1種パス処理の記録部分の幅(第1分布幅)が、第2種パス処理の記録部分の幅(第2分布幅)の最大値よりも小さくてもよい。
また、下流勾配範囲の幅が小さい場合には、隣接する2つのバンド領域の重なる部分の幅が小さくなるので、白スジや濃度ムラなどのバンディングが目立ちやすくなる。そこで、図8〜図10、図12、図13の制御例のように、第2種パス処理の下流勾配範囲の幅は、記録部分の幅(第2分布幅)の1/3以上であることが好ましい。また、記録部分の幅に対する下流勾配範囲の幅の割合が大きい場合には、他の部分(例えば、全記録部分と上流勾配部分との少なくとも一方)を設けることが難しくなる。従って、第2種パス処理の下流勾配範囲の幅は、記録部分の幅(第2分布幅)の1/2以下であることが好ましい。これによれば、下流勾配範囲と同じ幅を有する他の部分(例えば、全記録部分、または、上流勾配部分)を設けることができる。例えば、図10の第4ノズル列N4のように、第2印刷処理の最初のパス処理の上流勾配範囲と下流勾配範囲とのそれぞれの幅が、記録部分の1/2であってもよい。この構成によれば、第2印刷処理のノズル列の記録部分の幅が小さい場合であっても、第2印刷処理の最初のパス処理の上流勾配部分によってドットが形成された領域の印刷を、次のパス処理の下流勾配部分によって、適切に完成することができる。
このように、第2印刷処理の最初のパス処理の上流勾配範囲の幅は、記録部分の幅の1/3以上であることが好ましく、記録部分の幅の1/2以下であることが特に好ましい(例えば、図8〜図10、図12、図13参照)。そして、第2印刷処理の最初のパス処理のノズル列が下流勾配部分を含む場合には、下流勾配範囲の幅も、記録部分の幅の1/3以上であることが好ましく、記録部分の幅の1/2以下であることが特に好ましい(例えば、図8〜図10参照)。この構成によれば、第2印刷処理の最初のパス処理の下流勾配部分によってドットが形成された領域の印刷を、次のパス処理の上流勾配部分によって適切に完成することができる。ただし、上流勾配範囲の幅が、上述の好ましい範囲外であってもよい。また、下流勾配範囲の幅が、上述の好ましい範囲外であってもよい。
また、第1搬送状態としては、図7(A)、図11(A)で説明した状態に代えて、他の任意の状態を採用可能である。また、第2搬送状態としては、図7(B)、図11(B)、図11(C)で説明した状態に代えて、第1搬送状態より搬送精度が低い任意の搬送状態を採用可能である。
一般的には、第1の印刷処理から第2の印刷処理へ移行する場合の第1の印刷処理の最後の第1種のパス処理における上流勾配範囲の幅が、第1の印刷処理の複数回の第1種のパス処理によって定常的に繰り返される上流勾配範囲の幅よりも、狭いことが好ましい。この構成によれば、最後の第1種のパス処理の上流勾配範囲内のノズルによってドットが形成された領域の印刷を、第2種のパス処理によって適切に完成することができる。
さらに、以下の印刷の制御構成を採用することが好ましい。すなわち、第1印刷処理から第2印刷処理までの複数回のパス処理と複数回の搬送処理とにおいて、j番目のパス処理の上流勾配部分の幅(すなわち、ノズル数)は、j+1番目のパス処理の下流勾配部分の幅と同じである。j番目のパス処理とj+1番目のバス処理との間の搬送処理の搬送量は、用紙M上で、j+1番目のパス処理の下流勾配部分が、j番目のパス処理の上流勾配部分と同じ位置(搬送方向の位置)に配置されるように、決定されている。そして、j+1番目のパス処理の下流勾配部分にドット形成が許容された複数の画素位置は、j番目のパス処理の上流勾配部分によるドット形成が禁止された複数の画素位置と、同じである。これにより、用紙M上の第1印刷処理と第2印刷処理との印刷領域の全体に亘って、100%の総記録率RTを実現しつつ、隣接する2つのバンド領域の一部を互いに重ねることができる。そして、隣り合うバンド領域の境目の白スジと濃度ムラとを抑制できる。
(2)搬送機構210の構成としては、図1の構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、図7(B)で説明した縁なし印刷において、用紙の下流側の端部(図示せず)の近傍を印刷するために、用紙を支持せずにインクを受ける部分が、ノズル領域NAの上流側の部分と対向する位置にも設けられていても良い。また、高支持部材212と低支持部材213とが、ノズル領域NAよりも上流側からノズル領域NAよりも下流側まで延びていても良い。この場合には、縁なし印刷が省略される。また、低支持部材213と押さえ部材216とが省略されてもよい。
(3)利用可能な印刷モードとしては、「縁なし印刷」と「通常印刷(ここでは、片保持印刷)」とに代えて、他の任意の印刷モードを採用可能である。例えば、「通常印刷」が選択された場合には、プロセッサ110は、図12、図13のような制御に代えて、図12の第1パス処理と第2パス処理とを繰り返すことによって、印刷領域の全体を印刷してもよい。また、「縁なし印刷」と「片保持印刷」とのいずれか一方が省略されてもよい。
(4)制御データPCDとしては、用紙Mのサイズと印刷モードとの利用可能な1以上の組合せのそれぞれの印刷の制御構成の全てを表すデータに代えて、印刷の制御構成を導出するための基礎となるデータを採用してもよい。プロセッサ110は、図4のS35で、基礎データを用いて、用紙Mのサイズと印刷モードとの組合せに予め対応付けられたアルゴリズムに従って、印刷の制御構成を導出すればよい。
(5)印刷実行部の構成としては、図1〜図3で説明した印刷機構200の構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、印刷に利用可能なインクの種類としては、CMYKに限らず、他の任意の1以上の種類を採用可能である。
(6)図1の制御装置100は、プリンタ600に内蔵された装置とは異なる種類の装置(例えば、スマートフォン、パーソナルコンピュータ)であってよい。また、ネットワークを介して互いに通信可能な複数の装置(例えば、コンピュータ)が、制御装置による制御処理の機能を一部ずつ分担して、全体として、制御処理の機能を提供してもよい(これらの装置を備えるシステムが制御装置に対応する)。いずれの場合も、第1印刷処理を印刷実行部に実行させる印刷データを生成する処理部は、第1印刷処理を印刷実行部に実行させる第1印刷処理部であるということができる。同様に、第2印刷処理を印刷実行部に実行させる印刷データを生成する処理部は、第2印刷処理を印刷実行部に実行させる第2印刷処理部であるということができる。
上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部あるいは全部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、図1のプロセッサ110の機能(例えば、印刷データを生成する機能)を、専用のハードウェア回路によって実現してもよい。
また、本発明の機能の一部または全部がコンピュータプログラムで実現される場合には、そのプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体(例えば、一時的ではない記録媒体)に格納された形で提供することができる。プログラムは、提供時と同一または異なる記録媒体(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)に格納された状態で、使用され得る。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、メモリーカードやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種ROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスクドライブ等のコンピュータに接続されている外部記憶装置も含んでいる。
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。