本発明は、流体流の分岐合流方法および装置に関する。
近年、複数種類の流体流を積層した多層構造をもつ多層フィルムの用途は光学分野へと広がりつつある。その中、より優れた光学特性を満足するために、層数が100〜1000層あるいはそれ以上と膨大な多層フィルムが開発されている。
このような多層フィルムを形成するための流体流の分岐合流方法および装置としては、積層体である第1段階の流体流をx方向に沿って流体流分岐部まで流し、流体流分岐部においてこの第1段階の流体流をy方向に分岐させて複数の分流体を形成し、流体流合流部においてこの複数の分流体をそれぞれz方向に合流させることによって、第1段階の流体流よりも層数が多い第2段階の流体流を形成する方法が知られている。そして、この第2段階の流体流をy方向に延びるスリット間隙を有する口金から吐出し、そのまま、あるいは延伸等の後処理を施すことによって、第2段階の流体流と同じ層構成をもつ多層フィルムが形成される。ここで、x方向、y方向、z方向はそれぞれ直交しており、x方向は第1段階の流体流の流れ方向、y方向は流体流の幅方向、z方向は分流体を合流する方向を表す(以下、このx−y−z座標系を使用する。)。
この流体流の分岐合流装置の典型的な例は、図1に示すような流路を形成するように構成されている。図1は、流体流の分岐合流装置の内部空間を表す概略斜視図であり、流体流の分岐合流装置内に形成される空間部すなわち流体流の流路を表している。流体流の分岐合流装置は、その内部に、第1段階の流体流をx方向に沿って分岐部2まで供給する流路1、分岐部2において流路1によって供給された第1段階の流体流をy方向に分岐させて複数の分流体を形成し、合流部5において複数の分流体をそれぞれz方向に合流させて第2段階の流体流を形成する中間流路3、4、中間流路3、4によって形成された第2段階の流体流を下流側に導く流路6を有しており、第1段階の流体流と同じ層構成をもつ2つの分流体を合流させることによって、第1段階の流体流よりも層数が倍の第2段階の流体流を形成できるようになっている。
例えば、屈折率の異なる流体流を交互に数百層積層し、各層の厚みが数十nmから百数十nmと連続的に厚くなるような層構成にすることによって、数百nmという広い範囲の波長の光を高い反射率で反射する多層フィルムを形成することが可能である。この反射光波長帯域を赤外線領域になるように設計すれば、赤外線カットという光学用途に応用できる多層フィルムを作ることも可能となる。また、積層する流体流の屈折率、各層の厚みを変えることによって、多層フィルムは様々な光学特性を実現することができ、幅広い光学用途に応用することが可能となる。しかし、このような光学用途に応用する多層フィルムの層厚みは数十nmと非常に薄く、またこの層厚みが光学特性に大きく影響することから、層の積層精度というものが非常に重要となる。
ゆえに、多層フィルムの層構成は第2段階の流体流と同じになることから、今後、高品質で幅広い光学用途に応用できる多層フィルムを得るためには、積層精度が高く、各層が所望の厚みを有する第2段階の流体流を形成する流体流の分岐合流技術が要求される。
ところで、本発明の好ましい形態と一見して似ているように見える技術として、特許文献1に開示されている流体流の分岐合流装置がある。
特許文献1には、各層が所望の厚みを有する第2段階の流体流を形成するために、合流部にて複数の分流体の体積流量(以下、流量と称す)を調整する方法が開示されている。特許文献1の流体流の分岐合流装置の基本構成は、図1に示された流体流の分岐合流装置と同じであるが、合流部5の構成に特徴を有する。図2は特許文献1の流体流の分岐合流装置において用いられる合流部5の構成を表すy方向に対して垂直な断面図である。合流部5は、その付近に、複数の分流体をそれぞれz方向に合流させて第2段階の流体流を形成する中間流路3、4、中間流路3、4によって形成された第2段階の流体流を下流側に導く流路6を有している。特許文献1の流体流の分岐合流装置において、分岐部2ではほぼ同じである中間流路3、4の断面積が、合流部5では中間流路3の方が中間流路4よりも大きくなるように構成されている。このような構成によって、中間流路3を流れる分流体にかかる圧力抵抗が中間流路4を流れる分流体よりも小さくなる。ゆえに、中間流路3の方が中間流路4よりも大量に分流体が流れる。つまり、第2段階の流体流において、中間流路3を流れる分流体から構成される層も中間流路4を流れる分流体から構成される層も層数は同じであるが、それぞれの流路から構成される層の厚みが異なるのである。すなわち、中間流路3を流れる分流体から構成される層は中間流路4を流れる分流体から構成される層より厚くなるのである。このように複数の分流体の流量を調整することによって、各層が所望の厚みを有する第2段階の流体流を形成することができる。これにより、第2段階の積層流体流について所望の層構成を得ようというものである。
特許第3264958号公報
本発明者らの知見によると、特許文献1の流体流の分岐合流装置と同じ構成を有する装置を用いて多層フィルムの形成を試みたところ、図3に示すような断面をもつ多層フィルム20が得られることがあった。図3は、フィードブロックによって2種類の流体流(流体流A、流体流B)を交互に積層した4層の第1段階の流体流から、特許文献1の流体流の分岐合流装置と同じ構成を有する装置を用いて形成した8層の第2段階の流体流から得られた多層フィルムのx方向に対して垂直な断面図である。ここで、流体流A、流体流Bからなる層21A〜24A、21B〜24Bは層厚みの厚い層群23と層厚みの薄い層群24に分類され、層群23は図2に示す中間流路3、層群24は中間流路4を流れる分流体から構成された層である。この層群23および層群24、つまり、図2に示す中間流路3、中間流路4を流れる分流体は、図1に示す流路1において、y方向に並んだ同じ層としてx方向に流れている。すなわち、例えば、図3に示す層群24の層21Aと層群23の層23Aは、図1に示す流路1において、y方向に並んだ同じ層としてx方向に流れている。同様に、図3に示す層群24の層21Bと層群23の層23B、層群24の層22Aと層群23の層24A、層群24の層22Bと層群23の層24Bが図1に示す流路1において、y方向に並んだ同じ層としてx方向に流れている。このうち、層群24の層21Aと層22B、層群23の層23Aと層24Bは、図1に示す流路1において、直接、z方向において流路1と接する層であるため、表層部にあたり、また、層群24の層21Bと層22A、層群23の層23Bと層24Aは、図1に示す流路1において、z方向に対して直接は流路1と接しない層であるため、中間層部にあたる。この多層フィルム20の断面を観察すると、各層群の中間層部の層の厚みがy方向の正の向きに向かって厚くなっており、各層の厚みがy方向に対して一様ではないことが分かる。つまり、多層フィルム20は積層精度が低く、各層が所望の厚みではない。多層フィルムの光学特性はフィルムの各層の厚みに依存するために、多層フィルム20では期待する光学特性を得ることができない上に、その光学特性もy方向に対してバラツキが生じる。また、このような現象は層群23、24の厚み比が大きくなるほど顕著にあらわれることが判明した。そのため、特許文献1の流体流の分岐合流装置と同じ構成を有する装置を用いて多層フィルムを形成すると、層群23、24の厚み比が大きい場合、高品質で幅広い光学用途に応用できる多層フィルムを得ることは困難であった。
本発明者らの鋭意検討の結果によれば、このような現象が起きる原因として以下のようなことが考えられる。
特許文献1の流体流の分岐合流装置は、図2に示すように合流部5において中間流路3の断面積の方が中間流路4よりも大きくなるように構成されている。そのため、合流部5の上流側に設けられている分岐部において、各中間流路に流れる流体流の流量に影響を及ぼすことになる。この様子を図4に示す。図4は、特許文献1の流体流の分岐合流装置において用いられる分岐部2での流体流の流れを表すz方向に対して垂直な断面図である。図4において、矢印は流路1での流体流30〜32の流れを表し、一点差線は各流体流のその後の流れを表す。流体流30は、流路1においてy方向の中央より正の側に位置し、中間流路3に流れる。流体流31は、流路1においてy方向の中央よりやや負の側に位置し、中間流路3に流れる。流体流32は、流路1においてy方向の中央より負の側に位置し、中間流路4に流れる。また、流体流30〜32は積層体である。分岐部2において第1段階の流体流が中間流路4よりも中間流路3の方に大量に流れることになる。しかし、分岐部2において中間流路3、4の断面積はほぼ同じであるので、流路1での流体流がx方向に沿ってのみ流れるとすると、流路1においてy方向の中央よりやや負の側に位置する流体流31のような流体流は中間流路4に流れてしまう。そのため、流体流31のような流体流が中間流路3に流れるために、分岐部2付近で、流路1での流体流にy方向の正の向きの流れが発生する。また、積層体が流路を流れる際、流れの方向に対して平行な壁面による摩擦のため、積層体の表層部の流体流よりも中間層部の流体流の流速が大きくなる。つまり、流速に比例する運動量、すなわち流体流が移動しようとする力は表層部よりも中間層部の方が大きくなる。この流路1での流体流が移動しようとする力を図5に示す。図5は、図4の流路1における分岐部2付近のI−I線の断面図である。図5において、流路1での流体流は層11〜14から構成されており、層11、14が表層部、流体流12、13が中間層部にあたる。また、矢印11a〜14aは各流体流がy方向に移動しようとする力、矢印11b〜14bは各流体流のz方向の力、すなわち層が厚くなろうとする力を表し、矢印の大きさは力の大きさを表す。これらの原因から、図5に示すように、分岐部2付近で、流路1での流体流(積層体)の表層部、中間層部の流体流はともにy方向の正の向きへ移動しようとし、その力は表層部よりも中間層部の流体流の方が大きくなる。y方向の中央より正の側にあるy方向に対して垂直な壁があることによって、その壁付近では、流路1での流体流がy方向に移動しようとする力は、z方向の力、すなわち層が厚くなろうとする力へと変化する。この層が厚くなろうとする力はy方向に移動しようとする力に比例するため、表層部よりも中間層部の流体流の方が大きい。よって、y方向の正の向きに向かって中間層の厚みが厚くなる。そして、この層構成の乱れた第1段階の流体流を合流して形成された第2段階の流体流から図3に示すような断面をもつ多層フィルム20が得られる。
本発明の目的は、形成する層群の層厚み比が大きい場合でも、高品質で幅広い光学用途に応用できる多層フィルムを容易に製造することが可能な流体流の分岐合流方法および装置を提供することにある。
上記目的を達成するために本発明によれば、x−y−z座標系において、第1段階の流体流をx方向に沿って流体流分岐部まで流し、前記流体流分岐部において前記第1段階の流体流をy方向に分岐させて複数の分流体を形成し、流体流合流部において前記複数の分流体をそれぞれz方向に合流させて第2段階の流体流を形成する流体流の分岐合流方法であって、前記複数の分流体の形成に際し、前記複数の分流体のうち少なくとも一つの分流体の前記流体流分岐部におけるx方向に対して垂直な断面の面積が他の前記分流体とは異なるように前記第1段階の流体流を分岐させ、かつ前記流体流分岐部から前記流体流合流部までにおける流量解析から前記断面の面積の算出を行う流体流の分岐合流方法が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記流体流分岐部において、前記複数の分流体のx方向に対して垂直な断面の面積を調整する面積調整工程を有する流体流の分岐合流方法が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記複数の分流体の数が2つ以上4つ以下である流体流の分岐合流方法が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記第1段階の流体流が複数種類の流体流を前記種類の数以上の数の層としてz方向に積層した積層体である流体流の分岐合流方法が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、x−y−z座標系において、所定の空間を有する第1の流路と、分岐部において前記第1の流路に接続してy方向に分岐し、かつ合流部においてそれぞれz方向に合流する複数の中間流路と、前記合流部において前記複数の中間流路に接続する第2の流路とを有する流体流の分岐合流装置であって、前記分岐部において、前記複数の中間流路のうち少なくとも1つの中間流路のx方向に対して垂直な断面の面積が他の前記中間流路とは異なっており、かつ前記分岐部から前記合流部までにおける流量解析から断面積を算出した前記断面を有する流体流の分岐合流装置が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記分岐部において、前記複数の中間流路のx方向に対して垂直な断面の面積を調整する面積調整手段を有する流体流の分岐合流装置が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、x−y−z座標系において、所定の空間を有する第1の流路と、分岐部において前記第1の流路に接続してy方向に分岐し、かつ合流部においてそれぞれz方向に合流する複数の中間流路と、前記合流部において前記複数の中間流路に接続する第2の流路とを有する流体流の分岐合流装置であって、前記分岐部において、前記複数の中間流路のx方向に対して垂直な断面の面積を調整する面積調整手段を有しており、かつ前記分岐部から前記合流部までにおける流量解析から断面積を算出した前記断面を有する流体流の分岐合流装置が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記複数の中間流路の数が2つ以上4つ以下である流体流の分岐合流装置が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、複数種類の流体流を前記種類の数以上の数の層として積層した積層体を形成するフィードブロックと、前記積層体を第1段階の流体流として第2段階の流体流を形成する流体流の分岐合流装置と、前記第2段階の流体流をシート状に成形する口金とを備えた多層フィルムの製造装置であって、前記流体流の分岐合流装置が上記のいずれかの流体流の分岐合流装置である多層フィルムの製造装置が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、上記のいずれかに記載の流体流の分岐合流方法で第1段階の流体流を分岐し、第2段階の流体流として合流させ、前記第2段階の流体流をシート状に成形する多層フィルムの製造方法が提供される。
本発明において、「流体流」とは、たとえば、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリプロピレンテレフタレート・ポリブチルサクシネート・ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂、などを溶融するなどして流体化したものを用いることができる。またこれらの熱可塑性樹脂としてはホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。また、各熱可塑性樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
また、本発明において、「第1段階の流体流」とは、x方向に沿って流れ、流体流分岐部においてy方向に分岐して複数の分流体を形成するまでの流体流をいう。
また、本発明において、「流体流分岐部」とは、第1段階の流体流をy方向に分岐させて複数の分流体を形成する部分をいう。
また、本発明において、「分流体」とは、流体流分岐部において第1段階の流体流がy方向に分岐して形成されたあと、流体流合流部においてz方向に合流して第2段階の流体流を形成するまでの流体流をいう。
また、本発明において、「流体流合流部」とは、複数の分流体をz方向に合流させて第2段階の流体流を形成する部分をいう。
また、本発明において、「第2段階の流体流」とは、流体流合流部において複数の分流体をz方向に合流させて形成したあとの流体流をいう。
また、本発明において、「面積調整工程」とは、形成したい多層フィルムの層構成に対応して、複数の分流体の形成に際し、流体流分岐部における各分流体のx方向に対して垂直な断面の面積を調整する工程をいう。
また、本発明において、「第1の流路」とは、分岐部において中間流路に接続するまでの流路をいう。
また、本発明において、「分岐部」とは、中間流路が第1の流路に接続してy方向に分岐する部分をいう。
また、本発明において、「中間流路」とは、分岐部において第1の流路に接続してy方向に分岐したあと、かつ合流部においてz方向に合流して第2の流路に接続するまでの流路をいう。
また、本発明において、「合流部」とは、中間流路がz方向に合流して第2の流路に接続する部分をいう。
また、本発明において、「第2の流路」とは、合流部において中間流路に接続したあとの流路をいう。
また、本発明において、「面積調整手段」とは、形成したい多層フィルムの層構成に対応して、分岐部において、各中間流路のx方向に垂直な断面の面積を調整する手段をいう。
本発明に係る流体流の分岐合流方法および装置では、形成する層群の層厚み比が大きい場合でも、高品質で幅広い光学用途に応用できる多層フィルムを容易に製造することが出来る。
以下に本実施形態について詳細に述べるが、本発明は以下の実施例を含む実施形態に限定されるものではなく、発明の目的を達成できて、かつ、発明の要旨を逸脱しない範囲内においての種々の変更は当然あり得る。
図1および図6及至図15は本実施形態の流体流の分岐合流装置に関する図である。なお、図1及至図15において、同じ用途および機能を有している部材については、同じ符号を有している場合がある。
本実施形態の流体流の分岐合流装置を用いた多層フィルムの製造装置の基本構成を図12に示す。図12において、多層フィルムの製造装置は、図示しない別々の押出機から押し出された流体流A、流体流Bを供給する流体流導入管101、102、流体流導入管101、102により供給された流体流A、Bを交互に多数積層した積層体を形成するフィードブロック103、フィードブロック103からの積層体を第1の流体流として第2の流体流を形成する流体流の分岐合流装置100、流体流の分岐合流装置100からの第2の流体流を下流側に導く導管104および導管104からの第2の流体流の幅と厚みを所定の値に調整、吐出し、積層シート106を形成する口金105を有している。また、107は、口金105から吐出された積層シート106を冷却し固化させるキャスティングドラムである。キャスティングドラム107で固化した積層シートは、通常、未延伸フィルム108と呼称される。未延伸フィルム108は、通常、矢印NSで示すように、延伸工程(図示せず)に送られ、一方向あるいは二方向に延伸され、多層フィルムとされる。
本実施形態の流体流の分岐合流装置において用いられるフィードブロック103は、図13に示すような流路を形成するように構成されている。図13は、フィードブロック103の内部空間を表す概略斜視図であり、フィードブロック103内に形成される空間部すなわち流体流の流路を表している。また、図14は、図13のJ−J線の断面図である。フィードブロック103は、その内部に、流体流A、Bを供給する流体流導入路90、91と、流体流導入路90、91により供給された流体流A、Bをz方向に均一に分配するマニホールド92、93と、マニホールド92、93からの流体流A、Bを所定の層数に分ける多数の細孔94、95の列と、各細孔94、95からの流体流A、B下流側に導く多数のマニホールド付きスリット96m、97mの列とを有しており、図14に示すように、各マニホールド付きスリット96m、97mの出口側に設けられている積層完了部98にて、各マニホールド付きスリット96m、97mからの流体流A、Bが交互に積層されて、4層の積層体を形成できるようになっている。
また、積層数が20層以上ある積層体を形成する場合、本実施形態の流体流の分岐合流装置において用いられるフィードブロック103は、図15に示すような流路を形成するように構成されていることが多い。図15は、フィードブロック103の内部空間を表す概略斜視図であり、フィードブロック103に形成される空間部すなわち流体流の流路を表している。フィードブロック103は、その内部に、流体流A、流体流Bを供給する流体流導入路90、91と、流体流導入路90、91により供給された流体流A、流体流Bをz方向に均一に分配するマニホールド92、93と、マニホールド92、93からの流体流A、流体流Bを所定の層数に分ける多数の細孔94、95の列と、各細孔94、95からの流体流A、流体流Bを下流側に導く多数の積層装置のスリット96、97の列とを有しており、各スリット96、97の出口側に設けられている積層完了部98にて、各スリット96、97からの流体流A、Bが交互に積層されて、積層体を形成できるようになっている。
本実施形態では、積層体である第1段階の流体流をx方向に沿って流体流分岐部まで流し、流体流分岐部においてこの第1段階の流体流をy方向に分岐させて複数の分流体を形成し、流体流合流部においてこの複数の分流体をそれぞれz方向に合流させて第2段階の流体流を形成する。
本実施形態である流体流の分岐合流装置の基本構成は、図1に示された流体流の分岐合流装置と同じであるが、分岐部2の構成に特徴を有する。図6は本実施形態の流体流の分岐合流装置において用いられる分岐部2の構成を表すz方向に対して垂直な断面図である。分岐部2は、その付近に、第1段階の流体流を供給する流路1、流路1により供給された第1段階の流体流をy方向に分岐させて複数の分流体を形成する中間流路3、4を有しており、断面40、41はそれぞれ中間流路3、4の分岐部2におけるx方向に対して垂直な断面である。ここで、断面40を断面41よりも大きな面積にすることによって、中間流路3の方が中間流路4よりも大量に分流体が流れる。つまり、第2段階の流体流において、中間流路3を流れる分流体から構成された層は厚く、中間流路4を流れる分流体から構成された層は薄くなる。このように断面40、41の面積を調整する、つまり複数の分流体の流量を調整することによって、各層が所望の厚みを有する第2段階の流体流を形成することができる。
本実施形態の流体流の分岐合流装置を用いて多層フィルムの形成を試みると図7に示すような断面をもつ多層フィルム60を得ることができる。図7は、フィードブロックによって2種類の流体流(流体流A、流体流B)を交互に積層した4層の積層体を第1段階の流体流として本実施形態の流体流の分岐合流装置を用いて形成した8層の第2段階の流体流から得られた多層フィルムの断面図である。この多層フィルム50は、流体流A、流体流Bからなる層51、52は層厚みの厚い層群53と層厚みの薄い層群54に分類され、層群53は中間流路3、層群54は中間流路4を流れる分流体から構成された層である。この多層フィルム50の断面を観察すると、各層厚みがy方向に対して一様であり、積層精度が高いことがわかる。そのため、本実施形態の流体流の分岐合流装置を用いて多層フィルムを形成すると、高品質で幅広い光学用途に応用できる多層フィルムを得ることができる。
次に、分岐部2において流路1を流れる流体流の流れについて説明する。図8は、本実施形態の流体流の分岐合流装置において用いられる分岐部2での流体流の流れを表すz方向に対して垂直な断面図である。図8において、矢印は流路1での流体流60〜62の流れを表し、一点差線は各流体流のその後の流れを表す。流体流60は、流路1においてy方向の中央より正の側に位置し、中間流路3に流れる。流体流61は、流路1においてy方向の中央よりやや負の側に位置し、中間流路3に流れる。流体流62は、流路1においてy方向の中央より負の側に位置し、中間流路4に流れる。まず、図6に示すように分岐部2において中間流路3の断面積の方が中間流路4よりも大きくなるように構成されているために、図8に示すように分岐部2において第1段階の流体流が中間流路4よりも中間流路3の方に大量に流れる。また、分岐部2において中間流路3の断面積の方が中間流路4よりも大きいので、流路1内で流体流61のような流体流もy方向に流れなくても中間流路3へ流れることができる。つまり、本実施例の流体流の分岐合流装置を用いると、第1段階の流体流においてy方向の流れが発生しないために層構成は乱れないので、この第1段階の流体流を合流して形成された第2段階の流体流から図7に示すような積層精度の高い断面をもつ多層フィルム50が得られる。
次に、各層が所望の厚みを有する多層フィルムを得るための断面40、41の面積の算出方法を説明する。まず、適当なy方向の位置で中間流路3、4が分岐すると仮定して、第1の流路から第2の流路までの流体流の流速分布をストークス方程式から数値解析を用いて導き出す。次に、導き出された流速を積分することによって、中間流路3、4内の各分流体の流量を導き出す。導き出された各分流体の流量の比率と所望の各層厚みの比率との差から中間流路3、4が分岐する位置を調整し、再び各分流体の流量を導き出す。この作業を繰り返し、各層が所望の厚みを有する多層フィルムを得るための断面40、41の面積を算出する。
また、図9〜11に示すように、分岐部2に断面40、41の面積を調整する面積調整手段、つまり面積調整工程を設けることによって、1つの流体流の分岐合流装置を用いて、層構成の異なる多層フィルムを複数種類形成できる。
図9は、本実施形態の流体流の分岐合流装置において用いられる分岐部2の構成を表すz方向に対して垂直な断面図で、面積調整手段および面積調整工程の例を示す。調整羽70は軸71を中心に回転させることにより、断面40、41の面積比率を調整することができる。つまり、所望の多層フィルムの層構成に対応して多層フィルムの製造前に手動で調整羽70を回転させることによって、中間流路3、4に流れる複数の分流体の流量を調整することができる。また、流体流の分岐合流装置の外側から調節羽70を回転させることができる構成にすることによって、製造中に多層フィルムの層構成を微調整することができる。
図10、11は、本実施形態の流体流の分岐合流装置において用いられる分岐部2の構成を表すz方向に対して垂直な断面図で、図9とは異なる面積調整手段および面積調整工程の例を示す。調整具80、81の形状によって、断面40、41の面積を調整することができる。図10に示すように流体流の分岐合流装置を組み立てる際に調整具80を設置すると、断面40より断面41の面積の方が小さくなり、中間流路3より中間流路4を流れる分流体の流量の方が小さくなる。一方、図11に示すように流体流の分岐合流装置を組み立てる際に調整具81を設置すると、断面40よりも断面41の面積の方が大きくなり、中間流路3より中間流路4を流れる分流体の流量の方が大きくなる。つまり、所望の多層フィルムの層構成に対応して流体流の分岐合流装置を組み立てる際に調整具80、81を使い分けて設置することによって、中間流路3、4に流れる複数の分流体の流量を調整することができる。また、様々な形状の調整具を使用することによって、より複数種類の層構成の異なる多層フィルムを形成できる。
また、本実施形態の流体流の分岐合流装置において用いられる複数の分流体の数を2つ以上4つ以下にすることによって、分岐・合流による流体流の流れの乱れを抑えることができ、より高い積層精度を実現することが期待できる。
また、本実施形態の流体流の分岐合流装置をx方向に沿って複数個接続することによって、より層数の多い、また各層がより複雑な所望の厚みを有する多層フィルムを形成することができる。例えば、2層の積層体(層厚み比、2:1)を第1段階の流体流として、上流側の流体流の分岐合流装置(分流体の流量比率、4:1)にて第2段階の流体流を形成し、形成された第2段階の流体流を第1の流体流として下流側の流体流の分岐合流装置(分流体の流量比率、16:1)にて第2段階の流体流を形成すると、最終的に層厚み比が128:64:32:16:8:4:2:1となる8層の多層フィルムを形成することができる。
[実施例1]
本発明の流体流の分岐合流装置を用いて、実際に多層フィルムを製造した結果を説明する。本実施例における具体的な多層フィルムの製造方法は以下の通りである。
(1)流体流:流体流A;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(東レ(株)製熱可塑性樹脂F20S)、流体流B;シクロヘキサンジメタノール共重合PET(イーストマン社製熱可塑性樹脂PETG6763)
(2)仕込み:各流体流を乾燥後、押出機に供給。押出機は280℃に設定し、ギヤポンプ、フィルターを介した後、各流体流をフィードブロックに供給し合流させた。
(3)フィードブロック:供給された各流体流をz方向に交互に積層した第1段階の流体流を形成し、目標積層比はA:B=1:1となるようにした。
(4)流体流の分岐合流装置:流体流の分岐合流装置は図1に示すような構成のものを用い、フィードブロックにて形成された第1段階の流体流から、2つの分流体を形成し、第2段階の流体流を形成した。また、分岐部を図6に示すような構成、すなわち、断面40の方が断面41よりも大きくなるような構成にし、各分流体の流量の比率を3:1となるように断面40、41の断面積を設定した。
(5)吐出:流体流の分岐合流装置で形成された第2段階の流体流をTダイに供給しシート状に押出した後、静電印加(直流電圧8kV)にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、多層フィルムを成形した。
また、本実施例における層厚みの測定および評価は次の方法によって行った。
(1)層厚み:フィルムの層構成は、断面を切り出したサンプルについて、電子顕微鏡観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製HU−12型)を用い、フィルムの断面を3000〜40000倍に拡大観察し、断面写真を撮影し、層構成および各層厚みを測定した。サンプルはフィルムの幅方向にほぼ等分に5区分する点において採取した。なお、実施例では十分なコントラストが得られたため実施しなかったが、用いる樹脂の組み合わせによっては適当な染色技術を用いてコントラストを高めてもよい。
図16は、実施例1におけるフィルムの幅方向に対する各界面の位置を示す。図16において、横軸はフィルムの幅方向(流体流の分岐合流装置内ではy方向に対応)、縦軸は分布比率(フィルム全体の厚みに対する界面の位置)、点線は理想とする各界面の位置、実線は測定した各界面の位置を表している。各層の厚みに着目すると、図16に示すようにフィルムの幅方向において、界面の位置の変化量が最大約5%と小さいため、各層の厚みが均一であることがわかる。
[比較例1]
流体流の分岐合流装置の構成において、合流部を図2に示すような構成すなわち、分岐部2において中間流路3、4の断面積をほぼ同じとし、合流部5において中間流路3の方が中間流路4よりも大きくなるような構成に変更し、各分流体の流量の比率を3:1となるように合流部5の中間流路3、4の大きさを設定した以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを製造した。図17は、比較例1におけるフィルムの幅方向に対する各界面の位置を示す。図17において、横軸はフィルムの幅方向、縦軸は分布比率(フィルム全体の厚みに対する界面の位置)、点線は理想とする各界面の位置、実線は測定した各界面の位置を表している。各層の厚みに着目すると、図17に示すようにフィルムの幅方向において、界面の位置の変化量が最大約15%と大きく、各層の厚みが異なることがわかる。
[まとめ]
実施例1の結果(図16)と比較例1の結果(図17)から、流体流の分流に際し分流体の流量を異なるように分岐させる場合、積層精度が高く、各層が所望の厚みに積層された多層フィルムを形成する。
本発明により製造される多層フィルムは、複数種類の流体流が、その種類の数よりも多い数の複数の層に積層され、またその層が所望の厚みで、流体流が固化して形成されたものである。本発明によれば、層を精度良く積層し、高品質の多層フィルムを容易に製造できる。
一般的に用いられる流体流の分岐合流装置の内部構成を示す内部空間の斜視図。
特許文献1の流体流の分岐合流装置の合流部におけるy方向断面の概略図。
特許文献1の流体流の分岐合流装置を用いて製造された多層フィルムの断面図。
特許文献1の流体流の分岐合流装置の分岐部における流体流の流れを表すz方向断面の概略図。
特許文献1の流体流の分岐合流装置と同じ構成を有する装置の第1の流路における流体流の力を表すx方向断面の概略図。
本実施形態である流体流の分岐合流装置の分岐部におけるz方向断面の概略図。
本実施形態である流体流の分岐合流装置を用いて製造された多層フィルムの断面図。
本実施形態である流体流の分岐合流装置の分岐部における流体流の流れを表すz方向断面の概略図。
本実施形態である流体流の分岐合流装置の分岐部におけるz方向断面の概略図。
本実施形態である流体流の分岐合流装置の分岐部におけるz方向断面の概略図。
本実施形態である流体流の分岐合流装置の分岐部におけるz方向断面の概略図。
本実施形態である流体流の分岐合流装置を用いた多層フィルムの製造装置および製造工程を説明するための斜視図。
本実施形態である流体流の分岐合流装置において用いられるフィードブロックの内部構成を示す内部空間の部分斜視図。
本実施形態である流体流の分岐合流装置において用いられるフィードブロックにおける流体流の流れを表すy方向断面の概略図。
本実施形態である流体流の分岐合流装置において積層数が20層以上ある積層体を形成する場合に用いられるフィードブロックの内部構成を示す内部空間の部分斜視図。
実施例1における多層フィルムの各層の測定された厚み分布を示すグラフ。
比較例1における多層フィルムの各層の測定された厚み分布を示すグラフ。
符号の説明
1:第1の流路
2:分岐部
3、4:中間流路
5:合流部
6:第2の流路
11〜14:層
11a〜14a:y方向に移動しようとする力
11b〜14b:z方向に移動しようとする力
20、50:多層フィルム
21A〜24A、51:流体流Aの層
21B〜24B、52:流体流Bの層
23、53:層厚みの厚い層群
24、54:層厚みの薄い層群
30、31、32、60、61、62:流体流
40:分岐部における中間流路3のx方向に対して垂直な断面
41:分岐部における中間流路4のx方向に対して垂直な断面
70:調整羽
71:調整羽の軸
80、81:調整具
90、91:流体流導入路
92、93:マニホールド
94、95:細孔
96m、97m:マニホールド付きスリット
96、97:スリット
98:積層完了部
100:流体流の分岐合流装置
101、102:流体流導入管
103:フィードブロック
104:導管
105:口金
106:積層シート
107:キャスティングドラム
108:未延伸フィルム