本発明は、積層シートの製造装置および製造方法に関する。
今日、複数種類のシート材料をフィルムの厚み方向に積層した多層構造をもつ多層フィルムの用途は光学用途へと広がりつつある。この光学用途に使用される多層フィルムは、各シート材料の層の厚み分布がその多層フィルムの光学特性を決定するので、非常に高い積層精度が要求される。ここで、多層フィルムは複数種類のシート材料を積層して形成された積層シートから得られるため、多層フィルムの積層精度は積層シートの積層精度に大きく依存する。
積層シートの製造装置および製造方法としては、複数種類(とくに2種類)のシート材料(典型的には溶融樹脂など。)を各マニホールドに供給し、各マニホールドに供給されたシート材料を複数のスリットを通して分流することにより複数の層をもつ積層体を形成し、この積層体をシート幅方向に延びるスリット間隙を有する口金から吐出し、積層シートを形成する方法が知られている。そして、口金から吐出された積層シートは、そのまま、あるいは、延伸等の後処理が施され、多層フィルムとして用いられる。
この積層シートの製造装置の典型的な例を図1に示す。図1において、積層シートの製造装置は、シート材料A、シート材料Bを供給するシート材料導入管1、2、シート材料導入管1、2により供給されたシート材料A、シート材料Bを交互に多数積層した積層体を形成する多層積層装置3、積層体を下流側に導く導管4、導管4からの積層体の幅と厚みを所定の値に調整し、調整された積層体を吐出し、積層シートを形成する口金5、および口金5から吐出された積層シート6を冷却し固化させるキャスティングドラム7からなる。キャスティングドラム7で固化した積層シートは、通常、未延伸フィルム8と呼称される。未延伸フィルム8は、通常、矢印NSで示すように、延伸工程(図示せず)に送られ、一方向あるいは二方向に延伸され、多層フィルムとされる。
上記多層積層装置3の典型的な例は、図2に示すような流路を形成するように構成されている。図2は、多層積層装置3の内部空間を表す概略斜視図であり、多層積層装置3内に形成される空間部すなわちシート材料の流路を表している。多層積層装置3は、その内部に、シート材料A、シート材料Bを供給するシート材料導入路21、22と、シート材料導入路21、22により供給されたシート材料A、シート材料Bを積層シートの積層方向(以下、積層方向)に小さく拡げるマニホールド23、24と、マニホールド23、24からのシート材料A、シート材料Bを所定の層数に分ける多数の細孔28、29の列と、各細孔28、29からのシート材料A、シート材料Bを下流側に導く多数のスリット25、26の列とを有しており、さらに各スリット25、26の出口側には積層完了部27が設けられていて、各スリット25、26からのシート材料A、シート材料Bを交互に多数積層して、積層体を形成できるようになっている。
しかし、本発明者らの知見によると、従来の積層シートの製造装置を用いて2種類のシート材料(シート材料Aおよびシート材料B)を交互に多数積層した光学用途向けの積層シートの形成を試みたところ、導管4の壁面や口金5の壁面による摩擦および拡幅による急激な流れの変化などの影響を受けるため、形成された積層シートからは図9に示すような断面をもつ多層フィルム40が得られることが判明した。図9は、従来の積層シートの製造装置を用いて形成された積層シートから得られた多層フィルムの断面図である。この多層フィルム40の断面を観察すると、シート材料A、シート材料Bからなる層41、42は、共に積層シートのシート幅方向(以下、シート幅方向と称する)における中央部(以下、中央部と称する)では表層に近い層ほど厚みが薄く、シート幅方向両端部(以下、両端部と称する)では表層に近い層ほど厚みが厚くなる傾向があることがわかる。つまり、各層の厚みはシート幅方向に対して一様ではなく、積層精度が低い。そのため、従来の積層シートの製造装置では、光学用途に使用される多層フィルムに必要とされる積層精度を十分に満足する積層シートの形成は困難である。このような現象が起きる原因の1つとして以下のようなことが考えられる。流体が流路内を流れる際、壁面に近いほど壁面による摩擦の影響を大きく受ける。この摩擦の影響は流速が早いほど大きく、摩擦の影響が大きいほど流体は流れにくい。導管4および口金5を流れる積層体の表層を考えると、流速は両端部よりも中央部の方が早いので、中央部では壁面による摩擦の影響が両端部に比べて大きく、流れにくい。そして、中央部の流れにくい積層体の表層は流れやすい方、つまり両端部の方へ流れ込み、表層では中央部よりも両端部の方が層の厚みが厚くなる。また、口金5は導管4よりも流路断面の縦横比が大きいので、導管4内に比べて中央部の流速は早く、またその流速が早い範囲も広い。つまり、表層では導管4よりも口金5のほうが中央部の積層体が両端部へと流れ込むため、積層精度の低下が著しい。
ところで、本発明の好ましい形態と一見すると似ているように見える技術として、特許文献1、特許文献2に開示されている積層シートの製造装置がある。
特許文献1には、フィードブロックにて形成された積層体の層数をより多くするために積層体を操作する際、層の破壊を防ぐ目的で、積層体を操作する前に表層部用シート材料を積層体の表層部に積層する方法が開示されている。図17は特許文献1の層数を操作する装置の内部空間を表す概略斜視図であり、装置内に形成される空間部すなわちシート材料の流路を表している。フィードブロックにて形成された積層体は流入口70から流入し、表層部用シート材料流路71から流入した表層部用シート材料が表層部に積層される。表層部用シート材料を積層された積層体は流路72、73によってシート幅方向に2つに分けられ、その後、合流マニホールド74にて流路72、73が積層方向に重なることによって、より層数の多い積層体を形成できるようになっている。表層部用シート材料がない場合、積層体を操作、つまり積層体が流れる流路を分岐・合流させる度に、流路の壁面や流れの変化によって、積層体の表層が薄膜化し、破壊する(破れる)ことがある。そこで、積層体を操作する際に、積層体の表層部に表層部用シート材料を積層することによって、積層体の表層ではなく表層部用シート材料の層が薄膜化するので積層体の表層は影響を受けない。また、表層部用シート材料は積層体を操作する度に積層するので破壊することはないというものである。
特許文献2には、フィルム厚みを調整する目的で複数のスリットを有するフィードブロックで積層体を構成し、その後、フィードブロックへ導くシート材料から分岐した表層部用シート材料流路を介して積層体の外側に表層部を形成する方法が開示されている。図18は特許文献2のフィードブロックの平面図を示すもので、入口から入ったシート材料Aは、マニホールド82aに導入されマニホールド82a内でシート幅方向に広げられ、細孔80を通ってスリット81に流入する。また、入口から入ったシート材料Bはマニホールド82bに流入し、マニホールド82bでシート幅方向に広げられ、細孔80を通ってスリット81に流入するようになっており、スリット81でシート材料Aとシート材料Bが交互に配置され、その後、スリット81の出口部にある合流マニホールド83で合流し、積層体が形成され排出路84へ流出する。一方、入口から入ったシート材料Aは途中で分岐しマニホールド82aに通ずる通路とは別に設けられた表層部用シート材料流路85を通じ排出路84に設けられた流出口86から流出し積層体の表層部に積層され厚膜層を形成するようになっている。フィルムはある程度以上の厚みがないと、製膜工程が非常に不安定になる。また、多層フィルムは各層の厚みや層数が決められているため、製品によっては非常に薄いフィルムを製膜することになる。そこで、多層フィルムの品質に影響を与えないシート材料を積層体の表層部に積層し、フィルム全体の厚みを厚くすることによって、製膜工程を安定にすることができるというものである。
しかし、本発明者らの知見によると、特許文献1、特許文献2のような従来の表層部を有する積層シートの製造装置では、形成された多層フィルムの機能性の向上や生産工程の安定化などの改善はなしえても、積層精度の点については光学用途に耐えるレベルには達していない。
特表平8−501994号公報
特開2003−251675号公報
本発明の目的は、積層体の表層部に適正な断面形状をした層を形成することにより、複雑な制御装置を必要とせず、各層の厚みが積層シートのシート幅方向に対して一様で、高精度に積層された積層シートを容易に製造することが可能な積層シートの製造装置および製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明によれば、複数種類の第1のシート材料を前記種類の数よりも多い数の層に積層した第1の積層体を形成する多層積層装置と、前記第1の積層体の表層部に新たに第2のシート材料を積層した第2の積層体を形成する表層積層装置と、前記第2の積層体をシート状に成形する口金とを備えた積層シートの製造装置であって、前記第1の積層体と前記第2のシート材料との合流部における前記第1の積層体および前記第2のシート材料の流路方向に垂直な断面における前記第2のシート材料の各流路の形状は、シート幅方向中央部からシート幅方向両端部へ向かうにつれて前記断面形状における積層方向の寸法が小さくなるか、あるいは等しい部分を含みつつ小さくなり、また、シート幅方向に10等分する直線によって分けられた前記断面形状においてシート幅方向中央部からシート幅方向両端部へ向かう各領域における面積をSn(n=1,2,3,4,5)としたとき、式(1)および式(2)の関係を共に満足する積層シートの製造装置が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記多層積層装置と前記表層積層装置が、1つの積層装置として構成された積層シートの製造装置が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記断面形状において、式(3)および式(4)の関係を共に満足する積層シートの製造装置が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記口金内の流路において、流入部の前記シート幅方向寸法をW1、流出部の前記シート幅方向寸法をW2とすると、5<W2/W1<50である積層シートの製造装置が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、複数種類の第1のシート材料を前記種類の数よりも多い数の層に積層した第1の積層体を形成し、前記第1の積層体の表層部に新たに第2のシート材料を積層した第2の積層体を形成し、口金により前記第2の積層体をシート状に成形する積層シートの製造方法であって、前記第1の積層体と前記第2のシート材料との合流部における前記第1の積層体および前記第2のシート材料の流路方向に垂直な断面における前記第2のシート材料の各流路の形状が、シート幅方向中央部からシート幅方向両端部へ向かうにつれて前記断面形状における積層方向の寸法が小さくなるか、あるいは等しい部分を含みつつ小さくなり、また、シート幅方向に10等分する直線によって分けられた前記断面形状においてシート幅方向中央部からシート幅方向両端部へ向かう各領域における面積をSn(n=1,2,3,4,5)としたとき、式(1)および式(2)の関係を共に満足することを特徴とする積層シートの製造方法が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記第2のシート材料の粘度が前記第1のシート材料のいずれかの粘度と等しいかまたは小さいことを特徴とする請求項5に記載の積層シートの製造方法が提供される。
本発明において、「シート材料」とは、シートの材料として多層積層装置に投入される際の条件において流動性を有している材料をいう。たとえば、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリプロピレンテレフタレート・ポリブチルサクシネート・ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂、などを溶媒に溶かすか溶融するなどして流動化したものを用いることができる。またこれらの熱可塑性樹脂としてはホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。また、各熱可塑性樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
また、本発明において、「第1のシート材料」とは、第1の積層体を構成する複数種類のシート材料をいう。第1のシート材料としては、上記のうちから2〜10種類を選んで用いるのが好ましい。
また、本発明において、「第2のシート材料」とは、第1の積層体の表層部に積層されるシート材料をいう。第2のシート材料は第1のシート材料のいずれかと同じシート材料でもよい。
また、本発明において、「積層体」とは、押出し機から押出されてから、口金から吐出されるまでの間で、複数種類のシート材料を多数の層として積層した多層構造をもつシート材料をいう。
また、本発明において、「第1の積層体」とは、多層積層装置にて複数種類のシート材料をその種類の数よりも多い数の層に積層した積層体をいう。第1の積層体の層数は2〜1000層が好ましい。
また、本発明において、「積層シート」とは幅と厚みが調整され、口金から吐出された積層体をいう。
また、本発明において、多層積層装置3と表層積層装置10を1つの積層装置として構成してもよい。
また、本発明において、Sn/S1の値が式(1)および式(2)の範囲を外れると、口金の壁面および拡幅による影響により所望する積層精度を得られない場合がある。
また、本発明において、「合流部」とは、表層積層装置にて第1の積層体が流れる流路と第2のシート材料が流れる各流路が合流する点から、第2のシート材料の各流路の断面形状全体の1/50のシート幅方向寸法分、上流に上がった部分をいう。
また、本発明において、口金内の流路における流入部のシート幅方向寸法W1とは、流入部、つまり口金によってシート幅方向に拡幅する前のシート幅方向寸法をいい、また、口金内の流路における流出部のシート幅方向寸法W2とは、流出部、つまり口金によってシート幅方向に拡幅された後のシート幅方向寸法をいう。すなわち、W2/W1とは、口金内の流路のシート幅方向寸法の拡幅比を意味する。W2/W1の値が5未満の場合、口金の壁面や拡幅による影響が小さいため、各層の厚み変化も小さくなり、表層部を積層する必要性がほとんどない。W2/W1の値が50以上の場合、口金の壁面や拡幅による影響が非常に大きいため、各層の厚み変化も大きくなり、表層部を積層するだけでは積層精度を十分に高めることが困難である。より好ましくは、10<W2/W1<30である。
また、本発明において、第2のシート材料の粘度が第1のシート材料のいずれかの粘度より等しいかまたは小さいこと好ましい。これにより、第2のシート材料は口金の壁面による摩擦を和らげる効果が顕著になるからである。
本発明に係る積層シートの製造装置および製造方法では、積層体の表層部に適正な断面形状をした層を形成することにより、複雑な制御装置を必要とせず、各層の厚みが積層シートのシート幅方向に対して一様で、高精度に積層された積層シートを製造することが出来る。
以下に本実施形態について詳細に述べるが、本発明は以下の実施例を含む実施形態に限定されるものではない。
図3〜図8および、図12〜図14、図19、図21および図22は本実施形態の積層シートの製造装置に関する図である。なお、各図において、従来の技術と同じ用途および機能を有している部材については、同じ符号を有している場合がある。
本実施形態では、複数種類(とくに2種類)の第1のシート材料を各マニホールドに供給し、各マニホールドに供給された第1のシート材料を複数のスリットを通して分流することにより複数の層をもつ第1の積層体を形成し、また第2のシート材料をマニホールドに供給し、マニホールドに供給された第2のシート材料を第1の積層体の表層部に積層した第2の積層体を形成し、この第2の積層体をシート幅方向に延びるスリット間隙を有する口金から吐出し、積層シートを形成する。
本実施形態の積層シートの製造装置の基本構成を図3に示す。本実施形態の積層シートの製造装置の基本構成は、図1に示された積層シートの製造装置の基本構成とほぼ同じであるが、シート材料導入管9および表層積層装置10の構成が付与されていることと、その内部構造とに特徴を有する。すなわち、本実施形態の積層シートの製造装置は、図3に示すように、第1のシート材料であるシート材料A、シート材料Bを供給するシート材料導入管1、2、シート材料導入管1、2により供給されたシート材料A、シート材料Bを交互に多数積層した第1の積層体を形成する多層積層装置3、第2のシート材料であるシート材料Sを供給するシート材料導入管9、シート材料導入管9により供給されたシート材料Sを第1の積層体の表層部に積層した第2の積層体を形成する表層積層装置10、第2の積層体を下流側に導く導管4、導管4からの第2の積層体の幅と厚みを所定の値に調整し、調整された第2の積層体を吐出し、積層シートを形成する口金5、および口金5から吐出された積層シート6を冷却し固化させるキャスティングドラム7からなる。キャスティングドラム7で固化した積層シートは、通常、未延伸フィルム8と呼称される。未延伸フィルム8は、通常、矢印NSで示すように、延伸工程(図示せず)に送られ、一方向あるいは二方向に延伸され、多層フィルムとされる。
また、本実施形態の積層シートの製造装置において用いられる多層積層装置3は、従来技術である図2に示す構成のものを用いることもできるし、また、本出願人が特願2005−286331において提案した、図19に示すような流路を形成するような構成のものを用いることもできる。図19は、多層積層装置3の内部空間を表す概略斜視図であり、多層積層装置3内に形成される空間部すなわちシート材料の流路を表したものである。図19において、多層積層装置3の基本構成は、図2に示した多層積層装置3とほぼ同じであるが、図2の細孔28、29に対応するものがなく、スリット25、26の上部が斜めに構成されている点で異なっている。図19に示した構成の多層積層装置3は、スリットの上部が斜めに構成されていることによってシート材料のシート幅方向における流量ムラを解消することができる点で好ましい。
また、本実施形態の積層シートの製造装置において用いられる表層積層装置10は、図4に示すような流露を形成するように構成されている。図4は、表層積層装置10の内部空間を表す概略斜視図であり、表層積層装置10内に形成される空間部すなわちシート材料の流路を表している。表層積層装置10は、その内部に、多層積層装置3で形成された第1の積層体を下流側に導く流路31と、シート材料Sを供給するシート材料導入路32と、シート材料導入路32により供給されたシート材料Sを積層方向に小さく拡げるマニホールド33と、マニホールド33からのシート材料Sを流路31に導く流路34、35を有しており、さらに流路34、35の出口側には合流部36が設けられていて、流路34、35からのシート材料Sを流路31からの第1の積層体の表層部に積層して、第2の積層体を形成できるようになっている。
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、合流部における第1積層体および前記第2のシート材料の流路方向(以下、流路方向と称する)に垂直な第2のシート材料の各流路の断面形状をシート幅方向に10等分する直線によって分けられた断面形状において、中央部から両端部へ向かう各領域における面積をSn(n=1,2,3,4,5)としたとき、式(1)および式(2)の関係を共に満足させることにより、各層の厚みが積層シートのシート幅方向に対して一様で、高精度に積層された積層シートが得られることを見出した。
このような構成とすることにより、第2のシート材料の各流路の断面形状に追従した断面形状をもつ第2のシート材料の層が、多層積層装置3で形成された積層体が導管4や口金5の壁面との摩擦および拡幅による急激な流れの変化になどによって、表層部の中央部のシート材料が両端部に流れることによる中央部の薄膜化を相殺し、各層の厚みが積層シートのシート幅方向に対して一様で、高精度に積層された積層シートを得ることができるのである。その一例を図5に示す。図5は、図4のI−I線の断面図であり、合流部36の流路方向に垂直な断面図である。第2のシート材料の各流路の断面形状は、合流部36での第2のシート材料の流路34、35の流路方向に垂直な断面形状である。合流部36は、多層積層装置3にて形成された第1の積層体を下流側に導く流路31と、図示しない押出機より押し出された第2のシート材料を流路31に導く流路34、35が合流し、第2の積層体を形成できるようになっている。図5の第2のシート材料の各流路の断面形状をシート幅方向に10等分する直線によって分けられた断面形状について具体的に示すと図6のようになる。図6は、第2のシート材料の各流路の断面形状を表したものである。点線は第2のシート材料の各流路の断面形状をシート幅方向に10等分する直線、またその直線によって分けられた第2のシート材料の各流路の断面形状において、中央部から両端部へと向かう各領域における面積をSn(n=1,2,3,4,5)としている。
さらに、本発明者らは、合流部における流路方向に垂直な断面におけるシート幅方向両端部およびシート幅方向中央部の積層方向寸法の最適な範囲として、以下の範囲が良いことを見出した。すなわち、第2のシート材料の各流路の断面形状において、式(3)および式(4)の関係を共に満足する範囲である。
図6のような断面を考えた場合に、図7に示す範囲であることが好ましいことを見出した。図7は、図6の分割された第2のシート材料の各流路の断面形状の各部分の面積のグラフである。図7の横軸はSn/S1、縦軸はnを表したものである。また、点線はそれぞれ、式(5)、式(6)、式(7)を表し、色のついた部分は、式(3)および式(4)の範囲を表す。
このような範囲に含まれるよう構成できる第2のシート材料の各流路の概略断面形状の例を、図12,13,14に示す。
図12は、後述の実施例などと同様に、本実施形態の積層シートの製造装置において用いられる第2のシート材料の各流路の断面形状の例を表す。この断面形状は中央部を中心にシート幅方向に対して対称形となっており、両端部での積層方向寸法LEは等しく、中央部の積層方向寸法LCはLEより大きく、中央部を中心にシート幅方向寸法HCの範囲内の積層方向寸法はLCと等しく、すべて直線で形成されている。また、HAは断面形状全体のシート幅方向寸法を表す。
図13は、図12とは異なる本実施形態の積層シートの製造装置において用いられる第2のシート材料の各流路の断面形状の例を表す。この断面形状は中央部を中心にシート幅方向に対して対称形ではなく、両端部での積層方向寸法LE1、LE2は等しくなく、曲線も含めて形成されている。
図14は、図12および図13とは異なる本実施形態の積層シートの製造装置において用いられる第2のシート材料の各流路の断面形状の例を表す。この断面形状は半楕円状になっており、両端部での積層方向寸法はほぼゼロである。
これらの第2のシート材料の各流路の断面形状は、使用する口金や製膜条件などによって適正な形状にする必要がある。
一方、図3で示した口金5については、図8に示すような口金5内の流路のシート幅方向寸法の拡幅比W2/W1を5<W2/W1<50の範囲にすることによって、表層部が口金5の拡幅による中央部の薄膜化を相殺する効果を増大させることができる。図8は、本実施形態の積層シートの製造装置において用いられる導管4および口金5の積層方向に垂直な断面を表したものである。口金5は、口金内流路のシート幅方向寸法を変化させることにより、導管4からの第2の積層体をシート幅方向に拡幅し、幅と厚みが調整された積層シートを形成できるようになっている。
次に、本実施形態の積層シートの製造装置を用いて得られる多層フィルムの断面について説明する。図10は、第2のシート材料の各流路の断面形状がシート幅方向全幅にわたり積層方向の寸法が等しい形状である積層シートの製造装置を用いて形成された積層シートから得られた多層フィルム50の断面を示す。図10の多層フィルム50において、第1のシート材料であるシート材料A、シート材料Bからなる層51、52が交互に積層され、その表層部に第2のシート材料であるシート材料Sからなる層53が積層されている。この場合、従来の積層シートの製造装置の問題点として説明したように、導管4の壁面や口金5の壁面による摩擦および拡幅による急激な流れ場の変化の影響を受け、各層の厚みがシート幅方向に対して一様ではなく、積層精度が低い。この状態が、図10の多層フィルム50に示されている。多層フィルム50の設計目標として、積層方向における各層の厚みが均一になることが要求されている場合、このように層厚みの変化が存在する積層シート50は、その厚み変化により目標とする波長の光の反射率が低下したり目標以外の光も反射したりする不良品となってしまう。一方、図6に示したような第2のシート材料の各流路の断面形状を有する積層シートの製造装置を用いて形成された積層シートから形成された多層フィルム60は、例えば、図11に示すような積層構成を有する。すなわち、シート材料A、シート材料Bからなる層61、62およびシート材料Sからなる層63の厚みがシート幅方向に対して一様であり、積層精度が非常に高い。第2のシート材料の各流路の断面形状を設定することで、形成された第2の積層体の表層部に特殊な断面形状をもつ層が形成され、結果として、この式(1)および式(2)の関係を共に満足する表層部が導管4の壁面および口金5の壁面および拡幅による中央部のシート材料が両端部に流れることによる中央部の薄膜化を相殺することができるのである。
また、本実施形態の積層シートにおいて用いられる多層積層装置3と表層積層装置10を1つの積層装置90として構成する場合の一例を図21と図22に以下に示す。このように構成することにより、第1の積層体が接触する壁面91の距離が短くなり、第1の積層体が受ける壁面91の摩擦による影響を軽減することができる。図21は、本実施形態の積層シートにおいて用いられる積層装置90の積層方向と直交する断面を表したものである。壁面91は第1の積層体が積層完了部27にて形成されてから導管4まで流れる間に積層体が接触する壁面を表す。図22は、図21とは異なる積層装置の本実施形態の積層シートにおいて用いられる積層装置90の積層方向と直交する断面を表したものである。第1の積層体が接触する壁面91の距離は図21の場合より長いが、多層積層装置3と表層積層装置10が別々の装置として構成されているよりは短く、第1の積層体が受ける壁面91の摩擦による影響を軽減することができる。
また、本実施形態の積層シートの製造方法において用いられる第2のシート材料の粘度が第1のシート材料のいずれかの粘度と等しいかまたは小さいことによって、導管4や口金5の壁面による影響を軽減することができる。
[実施例1]
本実施形態の積層シートの製造装置を用いて、実際に多層フィルムを製造し積層精度を評価した結果を説明する。本実施形態における具体的な多層フィルムの製造方法は以下の通りである。
(1)シート材料:シート材料A;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(東レ(株)製熱可塑性樹脂F20S)、シート材料B;シクロヘキサンジメタノール共重合PET(イーストマン社製熱可塑性樹脂PETG6763)、シート材料S;シクロヘキサンジメタノール共重合PET(イーストマン社製熱可塑性樹脂PETG6763)
(2)仕込み:各シート材料を乾燥後、押出機に供給。押出機は280℃に設定し、ギヤポンプ、フィルターを介した後、各シート材料を多層積層装置および表層積層装置に供給し合流させた。
(3)多層積層装置:各層に対応するスリット間隙;A層0.75mm、B層0.6mm、(ともに加工精度0.01mm)スリット幅26mm、スリット長18mmを設定し、A層101層、B層100層からなるスリットから上記樹脂を吐出させ、目標積層比はA:B=2:1となるようにし、両表層部分がA層となるようにした。なお、積層完了部27の流路断面形状は長方形である。
(4)流路の断面形状:図12に示すような流路の断面形状を形成するように表層積層装置を加工した。各寸法は表1に示した通りである。なお、流路31の断面形状はシート幅方向寸法76mm、積層方向寸法32mmの長方形である。
(5)吐出:表層積層装置で積層完了後、導管を経た積層体を図6に示したようなTダイに供給しシート状に押出した後、静電印加(直流電圧8kV)にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、成形した。
(6)表面処理:成形した未延伸フィルムをロールで搬送し、コーティング装置において、未延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、濡れ張力を55mN/mとし、その処理面にガラス転移温度Tg18℃のポリエステル樹脂/Tg82℃のポリエステル樹脂/平均粒径100nmのシリカ粒子からなる積層形成膜を塗布し、透明、易滑、易接着層を形成した。
(7)熱処理:続いて逐次二軸延伸機に導き、95℃の熱風で予熱後、縦方向(フィルム長手方向)および横方向(フィルム幅方向)にそれぞれ3.5倍に延伸した。さらに230℃の熱風にて熱処理を行うと同時に縦方向に5%の弛緩処理を行い、引き続き横方向にも5%の弛緩処理を行って、室温まで除冷後巻き取った。
また、本実施例における積層厚み、積層精度の測定および評価は次の方法により行った。
(1)積層厚み:フィルムの層構成は、断面を切り出したサンプルについて、電子顕微鏡観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製HU−12型)を用い、フィルムの断面を3000〜40000倍に拡大観察し、断面写真を撮影し、層構成および各層厚みを測定した。サンプルはフィルムシート幅方向にほぼ等分に10区分する点において採取した。なお、実施例では十分なコントラストが得られたため実施しなかったが、用いる樹脂の組み合わせによっては適当な染色技術を用いてコントラストを高めてもよい。
(2)積層精度:各層において、(1)で得られた10個の層厚みサンプルの標準偏差をとり、この各層の標準偏差の平均値をフィルム厚みで割ったもの、本実施例の積層精度とする。
結果を表1に示す。また、各層の厚みに着目すると、図15に示すようにシート幅方向における中央部および両端部での各層の厚みが均一であることがわかる。それぞれ、実施例1における中央部での各層の厚み分布、実施例1における両端部での各層の厚み分布を示す。図15において、横軸は層番号、縦軸は層厚みを表し、シート材料Aとシート材料Bに分けて示している。また、層数は図11の積層方向に対応しており、1層目と201層目が第1の積層体の表層にあたる。
[実施例2]
図12の各寸法を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを製造した。結果を表1に示す。
[実施例3]
図12の各寸法を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを製造した。結果を表1に示す。この流路の断面形状は請求項3の条件を満足する形状である。
[実施例4]
図12の各寸法を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを製造した。結果を表1に示す。この流路の断面形状は請求項3の条件を満足する形状である。
[比較例1]
図12の各寸法を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを製造した。この流路の断面形状は長方形である。結果を表1に示す。また、各層の厚みに着目すると、図16に示すように幅方向における中央部では表層に近いほど層の厚みが薄く、シート幅方向における両端部では表層に近いほど層の厚みが厚いことがわかる。それぞれ、比較例1における中央部での各層の厚み分布、比較例1における両端部での各層の厚み分布を示す。図16において、横軸は層番号、縦軸は層厚みを表し、シート材料Aとシート材料Bに分けて示している。また、層数は図10の積層方向に対応しており、1層目と201層目が第1の積層体の表層にあたる。
[比較例2]
図12の各寸法を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを製造した。この流路の断面形状は、中央部での積層方向寸法よりも端部での積層方向寸法の方が大きい形状である。結果を表1に示す。
図20は、図7のグラフに各実施例および比較例における第2のシート材料の各流路の断面形状でのSn/S1の値を示したものであり、△は実施例1、2、○は実施例3,4、□は比較例1、2を示している。これらの実施例の結果、表1と図20から、実施例1、2、3、4、つまり第2のシート材料の各流路の断面形状が、両端部での積層方向寸法よりも中央部での積層方向寸法の方が大きい形状である場合、高い積層精度の多層フィルムを形成する。その上、実施例3、4、つまり第2のシート材料の各流路の断面形状が、式(1)および式(2)の関係を満足する形状である場合、より高い積層精度の多層フィルムを形成する。
本発明により製造される積層シートは、複数種類のシート材料が、その種類の数よりも多い数の複数の層に積層され、その表層部に新たに層が積層された後、シート材料が固化して形成されたものである。本発明によれば、各層が積層シートのシート幅方向において一様で、高精度に積層された積層シートが、容易に製造出来る。
一般的に用いられる積層シートの製造装置および製造工程を説明するための斜視図。
一般的な積層シートの製造装置の多層積層装置の内部構成を示す内部空間の部分斜視図。
本実施形態である表層部を有する積層シートの製造装置および製造工程を説明するための斜視図。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる表層積層装置の内部構成を示す内部空間の部分斜視図。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる表層積層装置の合流部の流れ方向断面の概略図。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる第2のシート材料の各流路の断面形状の概略図。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる第2のシート材料の各流路の断面形状を分割した各部分の面積のグラフ。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる口金の積層方向断面の概略図。
従来の積層シートの製造装置を用いて製造された多層フィルムの断面図。
第2シート材料の各流路の断面形状に工夫のない積層シートの製造装置を用いて製造された多層フィルムの断面図。
本実施形態である積層シートの製造装置を用いて製造された多層シートの断面図。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる第2のシート材料の各流路の断面形状の概略図。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる第2のシート材料の各流路の断面形状の概略図。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる第2のシート材料の各流路の断面形状の概略図。
実施例1における積層シートの端部と中央部のシート材料Aからなる各層とシート材料Bからなる各層の測定された厚み分布を示すグラフ。
比較例1における積層シートの端部と中央部のシート材料Aからなる各層とシート材料Bからなる各層の測定された厚み分布を示すグラフ。
特許文献1の層数を操作する装置の内部空間を表す概略斜視図。
特許文献2のフィードブロックの平面図。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる多層積層装置の内部構成を示す内部空間の部分斜視図。
各実施例のSn/S1の値をプロットした図7のグラフ。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる積層装置の積層方向断面の概略図。
本実施形態である積層シートの製造装置において用いられる積層装置の積層方向断面の概略図。
符号の説明
1:シート材料Aが供給されるシート材料導入管
2:シート材料Bが供給されるシート材料導入管
3:多層積層装置
4:導管
5:口金
6:積層シート
7:キャスティングドラム
8:未延伸フィルム
9:シート材料Sが供給されるシート材料導入管
10:表層積層装置
21、22:樹脂導入路
23、24:マニホールド
25、26:スリット
27:積層完了部
28、29:細孔
31:第1の積層体の流路
40:表層部をもたない多層フィルム
41:シート材料Aの層
42:シート材料Bの層
50、60:表層部を有する多層フィルム
51、61:シート材料Aの層
52、62:シート材料Bの層
53、63:シート材料Sの層
70:積層体の流入口
71:表層部用樹脂流路
72、73:分流用流路
74:合流マニホールド
80:細孔
81:スリット
82a、82b:マニホールド
83:合流マニホールド
84:排出路
85:表層部用流路
90:積層装置
91:壁面