JP5121070B2 - L−又はd−ラクタート:フェリチトクロームc酸化還元酵素遺伝子が機能しない乳酸産生酵母 - Google Patents

L−又はd−ラクタート:フェリチトクロームc酸化還元酵素遺伝子が機能しない乳酸産生酵母 Download PDF

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Description

この発明は、米国エネルギー省との契約番号DE-FC36-03GO13145のもとに完成された。米国政府は本発明に対し一定の権利を有する。
本出願は2005年11月23日に出願された暫定米国出願番号60/739,458及び60/739,824の優先権を主張する。
この発明は、ある遺伝子組換え酵母、この酵母の製法、及びこの遺伝子組換え酵母を用いて乳酸を製造するための発酵方法に関する。
現在、乳酸は工業的発酵プロセスによって製造されている。この発酵は、糖(主にグルコース)を消化して糖を所望の酸に変換するような種々のタイプのバクテリア種を用いて行われている。乳酸が製造されるにつれて、発酵媒体はより酸性になる。これらの有機酸を製造するほとんどのバクテリアは強酸環境ではよく機能しない。彼らは、このような環境では生存できないか、又は非常にゆっくりとしか酸を製造しないので、経済的に見合わない。
そのため、商業的な酸発酵プロセスは、酸が製造されるにしたがって、製造された酸を中和する薬剤を添加することにより緩衝されている。これにより、ブロスを中性のpH又はその近傍に保てるので、バクテリアを増殖させ、製造を効率よく行うことができる。しかし、これは酸を塩に変換するので、生成物を酸の形で得るためには、この塩を分解しなければならない。
最も一般的な緩衝剤は、カルシウム化合物であり、これは有機酸を中和して対応するカルシウム塩を形成させる。発酵ブロスからカルシウム塩を回収した後、鉱酸(典型的には硫酸)を加えてこれを分解し、有機酸を再生し、この鉱酸の不溶カルシウム塩を形成する。したがって、このプロセスは、この緩衝剤と鉱酸の直接費用と、望まれないカルシウム塩の副産物の搬送と廃棄のコストを含むことになる。もしも生物触媒(biocatalyst)が低いpH環境で効率よく増殖して製造するならば、これらのコストを低減又は除去することが可能になる。
このような低pH発酵のための候補として、酵母種が検討されてきた。多くの酵母種は自然にヘキソース糖をエタノールに発酵させるが、乳酸のような望まれる有機酸を自然に製造するものは少ない。そのため、種々の酵母種に、乳酸を製造することを可能にする一つ又はそれ以上の遺伝子を挿入する変更を加える努力がなされてきた。糖代謝を、エタノール生産から乳酸生産に変更するために、これらの細胞を遺伝子組換えにより、固有のピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)遺伝子を破壊又は削除することが行われてきた。この仕事は、たとえば、特許文献1〜6に開示されている。
国際公開WO99/14335 国際公開WO00/71738 国際公開WO02/42471 国際公開WO03/049525 国際公開WO03/102152 国際公開WO03/102201
有機酸発酵プロセスのためのより良い生物触媒を提供して欲しいという要望がある。特に、これらの発酵プロセス、特に、緩衝剤を使わない低pHの発酵プロセスの生産性や収率を改良することが望まれている。
一つの見方によれば、本願発明は、少なくとも一つの機能性外来性乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子を有する遺伝子組換え酵母細胞であって、該酵母細胞が唯一の炭素源としてのD−ラクタート、L−ラクタート、又はL−及びD−ラクタートの両者上で増殖する能力を欠く遺伝子組換え酵母細胞である。
また本発明は、(a)少なくとも一つの機能性外来性乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子がゲノムに組み込まれ、かつ(b)少なくとも一つの固有のL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失した又は破壊された遺伝子組換え酵母細胞である。好ましい態様において、このLDH遺伝子がL−LDH遺伝子である場合、少なくとも一つのL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失し又は破壊され、このLDH遺伝子がD−LDH遺伝子である場合、少なくとも一つのD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失し又は破壊される。
また本発明は、本願発明の遺伝子組換え酵母細胞を、発酵性の糖を含む発酵ブロス中で発酵条件下で培養して、乳酸又はその塩を製造することから成る発酵方法である。
また本発明は、上記の遺伝子組換え酵母細胞を製造する方法であって、(a)固有のL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を欠失ささえ又は破壊し、かつ(b)この固有のL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失した又は破壊された酵母細胞を、機能性外来性乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子カセットを有するベクターで形質転換して、該LDH遺伝子カセットを該酵母細胞のゲノムに組み込むことから成る製法である。好ましい態様において、L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失し又は破壊される場合、LDH遺伝子カセットは機能的L−LDH遺伝子を含み、D−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失し又は破壊される場合、LDH遺伝子カセットは機能的D−LDH遺伝子を含む。
また本発明は、(a)固有のL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を有する酵母細胞を、外来性L−乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子カセットを有する構築物で形質転換して、機能性外来性L−LDH遺伝子を該酵母細胞のゲノムに組み込み、そして(b)該固有L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を欠失又は破壊させることから成る上記の遺伝子組換え酵母細胞を製造する方法である。
また本発明は、固有のL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を有する酵母細胞を、構築物で形質転換することから成る上記の遺伝子組換え酵母細胞を製造する方法であって、該構築物が(a)固有L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の5’−フランキング領域、(b)固有L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の3’−フランキング領域、及び(c)該構築物上で該固有L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の5’−フランキング領域の下流であって、かつ固有L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の3’−フランキング領域の上流に位置する、外来性L−乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子カセットを有し、該構築物が機能性L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子カセットを有しない製法である。
また本発明は、(a)固有のD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を有する酵母細胞を、外来性D−乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子カセットを有する構築物で形質転換して、機能性外来性D−LDH遺伝子を該酵母細胞のゲノムに組み込み、そして(b)該固有D−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を欠失又は破壊させることから成る上記の遺伝子組換え酵母細胞を製造する方法である。
また本発明は、固有のD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を有する酵母細胞を、ベクターで形質転換することから成る上記の遺伝子組換え酵母細胞を製造する方法であって、該ベクターが(a)固有D−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の5’−フランキング領域、(b)固有D−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の3’−フランキング領域、及び(c)該構築物上で該固有D−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の5’−フランキング領域の下流であって、かつ固有D−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の3’−フランキング領域の上流に位置する、外来性D−乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子カセットを有し、該ベクターが機能性D−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子カセットを有しない製法である。
本発明の遺伝子組換え細胞は、同じ外来性LDH遺伝子カセットを有し、(L−LDH遺伝子カセットの場合)機能性L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を有し、又は(D−LDH遺伝子カセットの場合)D−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を有する近似細胞に比べて、特に低pHで、高い生産性及び高いラクタート力価でラクタートを製造することが見出された。この形質転換細胞はラクタートを含む培地で増殖する能力を欠くので、望むならば、L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失により、唯一の炭素源としてのラクタート上でこの形質転換細胞が増殖する能力を欠くことを基準として、この形質転換細胞を特定することができる。更に、本願発明のL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失は、この形質転換細胞の耐酸性、特にグリコール酸に対する耐性を向上させることがわかった。これにより、グリコール酸を含む培地のような酸性培地を用いて、形質転換体を選択することが可能になる。グリコール酸のような酸を選択剤として用いることができることは、菌株をL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を欠失又は破壊するように形質転換する場合に、抗生物質やその他の耐性遺伝子マーカーを使用しないことを可能にする。
本願発明の遺伝子組換え酵母は、宿主酵母細胞に特定の遺伝子組み換えを行うことにより作ることができる。この宿主酵母細胞は、野生株として本来少なくとも一つの糖をピルベートに代謝することができるものである。それは本来唯一の炭素源としてのラクタート上で増殖することができなくてもよい。S. bulderiはこのような酵母細胞の一例である。本発明のこの他の実施態様においては、宿主酵母細胞を唯一の炭素源としてのラクタート上で増殖することができないように遺伝子組み換えする。ここに記載するように外来性L−LDH遺伝子を導入するように形質転換する際に、この宿主酵母細胞は、野生株として本来機能性L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を有するものが好ましい。下記のように外来性D−LDH遺伝子を導入するように形質転換する場合には、この宿主酵母細胞は、野生株として少なくとも一つの固有の機能性D−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を含むものが好ましい。
L−ラクタート:フェリチトクロームCオキシドリダクターゼは機能性L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素をコードする遺伝子であり、これはL−ラクタートからピルベートへの代謝を触媒する。このような酵素は細胞がピルベートからL−ラクタートへの逆反応を代謝することを助けるが、再度ラクタートからピルベートへの反応をより効果的に触媒するので、野生型の細胞は、この機能性遺伝子が存在するにもかかわらず、本質的にL−ラクタートを製造しない。このL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素は、合成名(S)−ラクタート:フェリチトクローム−c 2−酸化還元酵素又はL−ラクタートデヒドロゲナーゼ(チトクローム)としても知られている。このL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子は、配列番号1(野生型K. marxianus 株のL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子CYB2)、配列番号79(野生型I.orientalis 株のCYB2A遺伝子)若しくは配列番号81(野生型I.orientalis 株のCYB2B遺伝子)で特定されるコード領域を持つもの、又は配列番号1、配列番号79若しくは配列番号81の少なくとも一つに少なくとも40%、好ましく少なくとも75%、より好ましく少なくとも90%、更に好ましく少なくとも95%相同の遺伝子が適当である。このL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子は、配列番号2、配列番号80若しくは配列番号82で特定されるアミノ酸配列を有するタンパク質、又はこれら酸くなくとも一つのアミノ酸配列に少なくとも40%、好ましく少なくとも75%、より好ましく少なくとも90%、更に好ましく少なくとも95%相同のタンパク質をコードするものが適当である。
D−ラクタート:フェリチトクロームCオキシドリダクターゼは機能性D−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素をコードする遺伝子であり、これはD−ラクタートからピルベートへの代謝を、その逆反応よりも強く触媒する。このD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素は、合成名(R)−ラクタート:フェリチトクローム−c 2−酸化還元酵素又はD−ラクタートデヒドロゲナーゼ(チトクローム)としても知られている。このD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子は、配列番号83(野生型K. marxianus株のD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素(DLD1)遺伝子)、S. cerevisiaeのDLD1遺伝子、I. orientalisのDLD1遺伝子、又はこれらの遺伝子の少なくとも一つに少なくとも40%、好ましく少なくとも75%、より好ましく少なくとも90%、更に好ましく少なくとも95%相同の遺伝子が適当である。このD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子は、配列番号84のアミノ酸配列を有するタンパク質、S. cerevisiaeのDLD1遺伝子でコードされたタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質、I. orientalisのDLD1遺伝子でコードされたタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質、又はこれらの遺伝子の一つに少なくとも40%、好ましく少なくとも75%、より好ましく少なくとも90%、更に好ましく少なくとも95%相同のタンパク質をコードするものが適当である。
「構築物(construct)」とは、細胞を形質転換するために用いられるDNA配列をいう。この構築物は、例えば、環状のプラスミド又はベクターの形状であってもよいし、線状のプラスミド又はベクターの形状であってもよいし、環状のプラスミド又はベクターの一部(例えば、このプラスミド又はベクターを一つ又はそれ以上の制限酵素で消化することにより得られたもの)であってもよいし、又は鋳型としてプラスミド、ベクター又はゲノムDNAを用いて用意されたPCR産物であってもよい。
「固有の(native)」とは、遺伝物質(例えば、遺伝子、プロモーター、ターミネーター、又はその他のDNA配列)に関して用いられる場合、酵母のその種の野生型細胞のゲノム内で見出される(機能に影響しない個々の変異は別として)遺伝物質をいう。「固有の能力」とは、示される機能を実行する能力をいう。例えば、その種の野生型細胞が如何なる遺伝子操作以前に糖をピルビン酸に代謝する能力を有していた場合、その細胞はその固有の能力を有するという。遺伝子が細胞内で機能して活性タンパク質を製造する場合、その遺伝子は細胞内で「機能的」であるという。
本発明において、「外来性(exogenous)」は、遺伝物質に関して用いられる場合、その宿主に固有でない遺伝物質を意味する。
適当な酵母細胞として、Candida、Saccharomyces、Shizosaccharomyes、Kluyveromyces、Pichia、Issachenkia及びHansenula属の細胞が挙げられ、Candida、Kluyveromyces、Saccharomyces及びIssachenkia属の細胞が特に好ましい。特に好ましい細胞として、C. sonorensis、K. marxianus、K. thermotolerans、C. methanesorbosa、S. bulderi及びI. orientalisが挙げられ、最も好ましい細胞はK. marxianus、S. cerevisiae、C. sonorensis及びI. orientalisである。I. orientalisはしばしばCandida krusei又はPichia kudriavzeviiと呼ばれる。K. marxianusとC. sonorensisの適当な菌株として、特許文献2〜6に記載のものが挙げられる。I. orientalisの適当な菌株はATCC株32196である。
また、本発明の細胞は、そのゲノムに組み込まれた少なくとも一つの機能性外来性乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子を含む。LDH遺伝子は、機能性乳酸脱水素酵素をコードする。LDH遺伝子は、L−LDH又はD−LDHのいずれかの製造に特有であり、L−又はD−乳酸エナンチオマー(又はそれらの塩)のいずれかを製造することを可能にする。
本願発明の遺伝子組換え細胞は、L−及びD−LDH遺伝子の両方を含むことが可能なので、両方の乳酸エナンチオマーを製造することができる。しかしながら、L−又はD−LDH遺伝子の一方だけが存在することが好ましく、その場合光学的に純粋な乳酸製品を製造する。
適当なLDH遺伝子として、バクテリア、菌類、酵母又は哺乳類由来のものが挙げられる。特定のL−LDH遺伝子の例として、L. helveticus、L. casei、B. megaterium、P. acidilactici及びウシ由来のものが挙げられ、特定のD−LDH遺伝子の例として、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、L. plantarum及びL. pentosus由来のものが挙げられる。L−LDH遺伝子又はD−LDH遺伝子と同一又はこれらのいずれかに少なくとも80%相同の機能性遺伝子が適している。必要ならばこれらの源のいずれかから得られた固有遺伝子を突然変異を施し、通常の真核細胞の開始コドン(ATG)から始まるコード配列を提供してもよい。好ましいL−LDH遺伝子はL. helveticusから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも80%、85%、90%又は95%相同のものである。この他の好ましいL−LDH遺伝子はB. megateriumから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも80%、85%、90%又は95%相同のものである。好ましいD−LDH遺伝子はL. helveticusから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも80%、85%、90%又は95%相同のものである。
DNA、RNA、その他の遺伝物質やタンパク質のアミノ酸配列の相同性(%)は、デフォルトパラメーターを持つBLASTソフトウェアー(version 2.2.1)で適切に計算することができる。デフォルトパラメーターを持つBLAST(version 2.2.1)アルゴリズムを用いて、少なくともXX%の同一性スコアを持つ配列とは、少なくともXX%相同であることをいう。
特に適したLDH遺伝子として、国際公開WO 03/049525の配列番号45や配列番号49に対して少なくとも60%、特に少なくとも80%、85%又は95%の同一性スコアを持つアミノ酸配列の酵素をコードするものが挙げられる。特に適したLDH遺伝子として、また、国際公開WO 03/049525の配列番号46や配列番号50に対して少なくとも60%、80%、85%又は95%相同であるタンパク質配列を持つ酵素をコードするものも挙げられる。
形質転換された細胞は、例えば、1〜10個のLDH遺伝子、特に1〜5個のLDH遺伝子のような、単一のLDH遺伝子又は複数のLDH遺伝子を有してもよい。形質転換された細胞が複数のLDH遺伝子を有する場合、それぞれの遺伝子は同じ遺伝子のコピーであってもよいし、また2又はそれ以上の異なるLDH遺伝子のコピーを含んでもよい。外来性LDH遺伝子の複数のコピーを、宿主細胞のゲノム内の、単一の遺伝子座に組み込んでもよいし(この場合お互いに隣り合う)、複数の座に組み込んでもよい。
外来性LDH遺伝子は、このように組換えされた酵母細胞で機能する一つ又はそれ以上のプロモーター及び一つ又はそれ以上のターミネーターの転写制御下に置かれる。ここで「プロモーター」とは、構造遺伝子の翻訳開始コドンの上流(即ち、5’側)(通常約1〜1000bp、好ましくは1〜500bp、特に1〜100bp)に位置し、転写されず、その構造遺伝子の転写の開始を制御するする配列をいう。同様に、「ターミネーター」とは、構造遺伝子の翻訳終結コドンの下流(即ち、3’側)(通常約1〜1000bp、好ましくは1〜500bp、特に1〜100bp)に位置し、転写されず、その構造遺伝子の転写の終結を制御するする配列をいう。プロモーター又はターミネーターは、構造遺伝子の位置に対して、このプロモーター又はターミネーターが転写制御機能を発揮するように、ゲノム上に位置するならば、構造遺伝子に機能的に関連する。
プロモーターとターミネーターの配列は、宿主細胞固有のものであっても、外来性のものであってもよい。
プロモーターの適した一つのタイプは、酵母遺伝子に固有のプロモーターに少なくとも50%、70%、90%、95%又は99%相同である。プロモーターのより適したタイプは、宿主細胞に固有の遺伝子に少なくとも50%、70%、90%、95%又は99%相同である。特に有用なプロモーターとして、酵母ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC1)、グリセリン酸燐酸キナーゼ(PGK)、キシロース還元酵素(XR)、キシリトールヒドロゲナーゼ(XDH)、L−(+)−ラクタート:チトクロームC酸化還元酵素(CYB2)並びに転写延長因子−1(TEF1)及び転写延長因子−2(TEF2)遺伝子が挙げられ、特に宿主細胞のこれらの遺伝子が挙げられる。特別に有用なプロモーターとして、宿主細胞のPDC1、PGK、TEF1又はTEF2遺伝子のプロモーターの機能部分又はこれらのプロモーターに少なくとも80%、85%、90%又は95%相同のものが挙げられる。
ターミネーターの適した一つのタイプは、酵母細胞に固有の遺伝子のためのターミネーターに少なくとも50%、70%、90%、95%又は99%相同である。ターミネーターは、宿主細胞に固有の遺伝子のためのターミネーターに少なくとも90%、95%又は99%相同であってもよい。特に有用なターミネーターとして、酵母ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC1)、キシロース還元酵素(XR)、キシリトールヒドロゲナーゼ(XDH)、L−ラクタート:チトクロームC酸化還元酵素遺伝子若しくはイソ−2−チトクロームC(CYC)遺伝子のためのターミネーター、又は酵母のガラクトース遺伝子ファミリーのターミネーター、特にGAL10と呼ばれるターミネーターが挙げられる。特に好ましいターミネーターとして、宿主細胞のPDC1遺伝子のターミネーターの機能部分又はこのターミネーターに少なくとも80%、85%、90%又は95%相同のものが挙げられる。
(宿主細胞に)固有のプロモーターとターミネーターを、それぞれ上流と下流のフランキング領域と共に、用いることは、この宿主細胞のゲノムの特定に位置に目標とするLDH遺伝子を組み込むことを可能にし、またLDH遺伝子の組み込みと例えばPDC1遺伝子の欠失又は破壊を同時に可能にする。
複数の外来性LDH遺伝子を宿主細胞に導入する場合、異なるLDH遺伝子を異なるタイプのプロモーター及び/又はターミネーターの制御下に置くことができる。
外来性LDH遺伝子を宿主細胞のゲノムにランダムに組み込んでもよいし、また一つ又はそれ以上の目標とする位置に挿入してもよい。目標とする位置として、PDC1遺伝子やL−又はD−ラクタート:チトクロームC酸化還元酵素遺伝子のような望ましく欠失又は破壊させた一つ又はそれ以上の遺伝子の座位が挙げられる。
細胞が機能的L−LDH遺伝子カセットを含む場合の実施態様において、最も好ましい本願発明の改変細胞は、少なくとも一つのL−ラクタート:チトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失又は破壊した細胞である。この「欠失又は破壊」は、その遺伝子の全コード領域が削除されたことを意味するか、またはその遺伝子のプロモーター及び/又はターミネーターが改変(例えば、欠失、挿入又は変異)され、その結果その遺伝子がもはやそのタンパク質又は変異タンパク質を作らないか、又は活性がひどく低減された(例えば、少なくとも75%低減され、好ましくは少なくとも90%低減された)酵素を作ることを意味する。欠失又は破壊は、遺伝子工学の手法により、進化や突然変異を誘導し、それに続いて望ましい変異体を選択することにより行うことができる。細胞が複数のL−ラクタート:チトクロームC酸化還元酵素遺伝子(同じ遺伝子の複数のコピー又は1若しくはそれ以上の異なるL−ラクタート:チトクロームC酸化還元酵素偽遺伝子)を含む場合、これらの遺伝子の少なくとも一つが欠失又は破壊される。好ましくはこれら複数のL−ラクタート:チトクロームC酸化還元酵素遺伝子の全てが欠失又は破壊される。
細胞が機能的D−LDH遺伝子カセットを含む場合の実施態様において、最も好ましい本願発明の組換え細胞は、少なくとも一つのD−ラクタート:チトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失又は破壊した細胞である。既に述べたように、野生型株にこの遺伝子の複数のコピーや対立遺伝子が存在する場合、これら複数の遺伝子の全てが欠失又は破壊されることが好ましい。
本願発明の遺伝子組換え酵母細胞は、細胞に一つ又はそれ以上の所望の特性をもたらす追加の遺伝子組み換えを施してもよい。特に興味のある追加の遺伝子組み換えとして、一つ又は複数のピルビン酸デカルボキシレート遺伝子の欠失又は破壊が挙げられ、これにより細胞のエタノールを製造する能力が低減する。
この他の興味のある追加の遺伝子組み換えとして、個々に又はまとめて細胞にペントース糖を所望の発酵産物に発酵させる能力を与える遺伝子組み換えが挙げられる。後者のタイプの組み換えとして、(1)機能性キシロースイソメラーゼ遺伝子の挿入、(2)キシロースからキシリトールへの変換を触媒する酵素を産生する固有遺伝子の欠失又は破壊、(3)機能性キシリトールヒドロゲナーゼ遺伝子の欠失又は破壊、及び/又は(4)細胞に機能性キシルロキナーゼの過剰発現を起こさせる遺伝子組み換え、が挙げられる。酵母細胞にこれらの遺伝子組み換えを導入するための方法は、例えば、国際公開WO04/099381に記載されているので参照されたい。
特に興味のある第3の遺伝子組み換えとして、宿主細胞ゲノムに一つ又はそれ以上の機能性選択マーカーカセットを組み込むことが挙げられる。これにより、成功裏に形質転換体を選択することができる。
L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失又は破壊は、様々な方法で行うことができ、それには遺伝子工学的手法、強制進化又は突然変異などがあり、所望の変異体を選択する手法と組み合わせてもよい。
L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失又は破壊に紫外又はEMS突然変異法を用いてもよい。これらの方法はよく知られている。これらの方法において、細胞を、細胞の高い死滅割合(60〜99%、好ましくは90〜99%)を達成するのに十分な条件下で、紫外線照射又は突然変異誘発性物質に曝す。次に、生き残った細胞を培養し、L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失又は破壊した細胞を選択する。L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失又は破壊を行うにあたり、このことはグリコール酸に耐性の細胞を選択することにより適切に行うことができる。
宿主細胞の遺伝子工学操作(L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失若しくは破壊又はその他の遺伝子組換え)は、適当な構築物を設計・構築し、この構築物を用いて宿主細胞を形質転換することにより適切に行うことができる。エレクトロポレーション及び/又は薬品(例えば、塩化カルシウムや酢酸リチウムに基づく薬品)による形質転換法を用いてもよい。各ケースにおいて、この構築物を適当な制限酵素を用いて切断して、環状DNAとして用いてもよいし、PCR産物を生じさせるための鋳型として用いてもよい。
L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を欠失させ又は破壊するための適当な遺伝子工学的方法において、欠失構築物は、最初に固有L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子及び/又はその上流又は下流のフランキング領域の2つの隣接しないDNA配列をクローニングすることにより、適切に構築することができる。この「隣接しない」とは、野生型ゲノムにおいて複数のDNA配列が互いに直接隣り合わず、その代わりにいくつかの遺伝子材料(単一の塩基対と同じくらい小さくてもよい)により互いに離れていることをを意味する。これらの隣接しない配列は、これらの間に、少なくともその遺伝子のコード領域及び/又はそのプロモーターとターミネーター領域を含まなければならない。これらの配列のうちの一つが、L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の5’フランキング領域(そのプロモーター領域の全部又は一部及びL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素をコードする配列の全部又は一部を含む。)を含み、かつ他方がL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の3’フランキング領域(そのターミネーター領域の全部又は一部及びL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素をコードする配列の全部又は一部を含む。)を含むことが好ましい。これらの隣接しない配列を別々にクローニングしてもよい。別法として、この5’及び3’フランキング領域並びにL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を含む全領域をクローニングし、続いてその遺伝子の少なくとも一部を削除し、無機能化してもよい。この隣接しない配列は、それぞれ、L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素のプロモーターとターミネーター領域の全部又は一部を含んでもよい。こうして、同じ方向に配向する2つの隣接しない配列を含む欠失構築物が作られ、この構築物を用いて宿主細胞を形質転換する。いくつかの形質転換体において、この構築物は、L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素の遺伝子座に挿入される。いくつかの形質転換体において、相同組換えにより機能性L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失が起こる。成功した形質転換体は、(a)グリコール酸に対する耐性により選択されるか(L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失又は破壊の場合)、又は(b)唯一の炭素源としてのラクタート上で増殖する能力を欠くこと又は以下に述べる選択マーカーの使用により細胞に与えられた特性によりスクリーニングされることができる。別法として、PCRによりスクリーニングしてもよい。所望の欠失が起きたことを確認するために、PCR又はサザン分析法を用いることができる。
L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素欠失構築物は、また、L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の5’フランキング領域の下流かつその3’フランキング領域の上流に挿入された一つ又はそれ以上の機能性構造遺伝子、例えば、LDH遺伝子カセットを含んでもよい。このアプローチは、この構造遺伝子をL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の遺伝子座に挿入することを可能にする。この構造遺伝子はLDH遺伝子カセットであることが好ましく、この場合、L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失と、L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の遺伝子座へのLDH遺伝子カセットの挿入とを、単一の形質転換段階により行なうことができる。PCR又はサザンハイブリダイゼーション法又は挿入した構造遺伝子の活性を通常の評価法を用いて検知することにより、成功した形質転換体を特定することができる。構造遺伝子がLDH遺伝子である場合、成功した形質転換体は乳酸の製造能力により特定することができる。L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失又は破壊された形質転換体は、グリコール酸に対する耐性を基準に選択することができる。
また、L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素欠失構築物は、この構造遺伝子の代わりに又はそれに加えて、選択マーカー遺伝子を含んでもよい。選択マーカー遺伝子の使用は、成功した形質転換体を選択するための追加の手段を導入するという利点があるが、必須ではない。「選択マーカー遺伝子」とは、この形質転換細胞が選択培養培地中で生存及び/又は増殖するために必要なたんぱく質をコードする遺伝子である。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)抗生物質やその他の毒に対する耐性を付与するタンパク質をコードし(例えば、ゼオシン(zeocin: Streptoalloteichus hindustanus ブレオマイシン耐性遺伝子)、G418(Tn903のカナマイシン耐性遺伝子)又はハイグロマイシン(E. coliのアミノグリコシド抗生耐性遺伝子))、(b)その細胞の栄養要求性の欠如を補うタンパク質をコードし(例えば、アミノ酸ロイシンの欠如(K. marxianus LEU2遺伝子)又はウラシルの欠如(例えば、 K. marxianus又はS. cerevisiae URA3遺伝子))、(c)細胞が単純な培地には含まれていない重要な栄養素を合成することを可能にするタンパク質をコードし、又は(d)特定の炭素源上で増殖できる能力を付与するタンパク質をコードする(唯一の炭素源であるメリビオース上で増殖できる能力を付与するS. cerevisiaeのMEL1又はMEL5遺伝子)。好ましい選択マーカーとして、ゼオシン耐性遺伝子、G418耐性遺伝子、MEL1又はMEL5遺伝子、及びハイグロマイシン(hph)耐性遺伝子が挙げられる。
選択マーカーカセットは、更に、選択マーカー遺伝子に機能するように連結した、宿主細胞で機能するプロモーターとターミネーター配列を含んでもよい。適当なプロモーターとして、LDH遺伝子に関して上記に記載したプロモーターや国際公開WO 99/14335、WO 00/71738、WO 02/42471、WO 03/102201、WO 03/102152及びWO 03/049525に記載されたプロモーターが挙げられる。特に好ましいプロモーターは、酵母種の、特に宿主株のTEF1、PGK又はPDC1プロモーター(又はこれらの機能部分)又はこれらTEF1、PGK又はPDC1プロモーターに少なくとも80%、85%、90%又は95%相同の配列のものである。適当なターミネーターとして、LDH遺伝子に関して上記に記載したターミネーターが挙げられる。
選択マーカーは、同様にL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の5’フランキング領域の下流かつその3’フランキング領域の上流に位置する。この構築物で形質転換された細胞の部分において、相同組換えにより、選択マーカーカセット(及び、もし存在するならば、構造遺伝子カセット)はそれぞれCYB2又はDLD1遺伝子の遺伝子座に組み込まれる。成功した形質転換体を、選択マーカー遺伝子により付与された特性に基づいて選択することができる。L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失又は破壊した形質転換体は、グリコール酸に対する耐性及び/又は唯一の炭素源としてのラクタート上で増殖できないことに基づいてスクリーニングされる。形質転換体を識別するために前記と同様にPCR及びサザン分析法を用いることができる。
酵母株を形質転換して外来性LDH遺伝子を挿入する方法は、国際公開WO 99/14335、WO 00/71738、WO 02/42471、WO 03/102201、WO 03/102152及びWO 03/049525に記載されている。これらの方法は、本発明に従って細胞を形質転換する際に利用できる。この構築物を適当な制限酵素を用いて切断して、環状DNAとして用いてもよいし、PCR産物を生じさせるための鋳型として用いてもよい。
LDH遺伝子カセットを宿主細胞のL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の遺伝子座に挿入する(同時にL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を欠失させる)ための構築物は、既に記載したとおりである。LDH遺伝子カセットを宿主細胞のL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の遺伝子座に挿入することを望まない場合には、これとは異なるように設計されたベクターを用いる。
一般に、外来性LDH遺伝子は、LDH遺伝子カセット(例えば、構造遺伝子及び付随するプロモーターとターミネーター配列)を含む構築物を用意して挿入される。この構築物は、直鎖化や断片化のための種々のタイプの制限酵素切断部位を含んでもよい。この構築物は更に(大腸菌の中で増殖するために)市販の酵母や細菌ベクターから適切に得ることができるその主鎖部分を含んでもよい。
LDH挿入カセットは一つ又はそれ以上の選択マーカー遺伝子カセットを含むことが好ましい。LDH遺伝子カセットの目標とする組換えは、目標とする遺伝子のそれぞれ上流(5’−)及び下流(3’−)フランキング領域に相同な隣接しない配列を有する構築物を作り上げることにより行なうことができる。これらの隣接しない領域のそれぞれの長さは、約50〜3000bp、特に約200〜2000bpが適当である。これらの隣接しない領域のそれぞれ又は両者は、その目標とする遺伝子のコード領域の一部と、それぞれのプロモーターとターミネーター領域の一部又は全部とを含んでもよい。そのLDH遺伝子カセットは、その構築物上のこの2つの隣接しない配列の間に配置される。本発明の細胞少なくとも一つの固有のピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)遺伝子は好ましくは欠失し又は破壊されるので、好ましい目標遺伝子(L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子ではない)は、PDC遺伝子である。従って、好ましい隣接しない配列は、固有PDC遺伝子の遺伝子座から取得された配列である。しかし、この他の固有遺伝子を、この遺伝子の遺伝子座から取得した隣接しない配列をLDH挿入構築物の中に同じように用いて、LDH遺伝子カセット挿入の目標としてもよい。
LDH挿入構築物上で、LDHカセット(目標遺伝子のものと異なるのであれば、関連するプロモーターとターミネーターを含む)と選択マーカー(必要ならば、関連するプロモーターとターミネーターを含む)は、目標遺伝子の上流及び下流のフランキング領域に相同な2つの領域の間であって、相同5’フランキング領域の下流であって相同3’フランキング領域の上流に、位置する。
選択マーカーカセットを用いるならば、これも同様にベクター上で、上記のように、目標遺伝子の遺伝子座から取得した2つの隣接しない配列の間に位置する。
この構築物を用いて形質転換された細胞の一部は相同組換えを起こして、その目標遺伝子は欠失し又は破壊され、LDH遺伝子カセット(及び、存在するならば、選択マーカーカセット)は目標遺伝子の遺伝子座に組み入れられる。目標遺伝子がPDC遺伝子であるような好ましいケースでは、この形質転換体は、PDC遺伝子が欠失し又は破壊される。成功した形質転換体は、既に記載したアプローチを用いて、公知の方法で選択されうる。
LDH遺伝子の挿入及びL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失又は破壊が引き続いて行われる場合、これらの2工程は、L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失又は破壊が最初に行われ引き続いてLDH遺伝子の挿入が行われてもよいし、又はLDH遺伝子の挿入が最初に行われ引き続いてL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失又は破壊が行われてもよい。
L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が最初に破壊される場合、LDH遺伝子の挿入及び/又はその後の形質転換の間に、選択マーカーとしてL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を用いることが可能になる。このような場合、このLDH遺伝子形質転換ベクターは、プロモーターとターミネーター配列に機能するように連結されたL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子カセットを含んでもよい。
このL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子カセットは、LDH遺伝子挿入ベクター上で、標的遺伝子の遺伝子座から隣接しない配列の間に位置する。この形質転換体の一部は、この標的遺伝子の遺伝子座に、LDH遺伝子カセットとL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子カセットの両方を含んでもよい(この場合、標的遺伝子はPDC遺伝子又はその他の破壊されることが望ましい遺伝子であることが好ましい。)。成功した形質転換体は、唯一の炭素源としてのL−ラクタート上で増殖する能力を基準として、又は上記の他の方法で、選択することができる。
本発明に従って、2回目の選択マーカーとしてL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子を用いる場合、最初のL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素マーカー遺伝子が引き続いて欠失され又は破壊されることが必要である。このことを行うために簡便な方法として、L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素マーカー遺伝子の両端にフランキング領域として繰返し配列を結合するように設計する。各繰返し配列は、同一のDNA配列であり、宿主細胞に固有であってもよいが、固有でないことが好ましく、構築物上で互いに同じ方向に配向することが好ましい。この繰返し配列の長さは、約50〜1500bpであることが有利である。またこの繰返し配列が何かをコードすることは必要ではない。少数の形質転換体において、この構築物は相同組換えを起こし、その結果、L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素マーカー遺伝子と繰返し配列の一つが破壊される。この繰返し配列の間で相同組換えが自然に起こるために、形質転換体を非選択培地上で増殖させることが必要である。以前述べたように、L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が破壊された細胞は、グリコール酸に対する耐性を基準として、又は唯一の炭素源としてのL−ラクタート上で増殖できない能力を基準として、選択することができる。
形質転換細胞のエタノール産生能力を減退させるために、宿主細胞の固有PDC遺伝子を欠失又は破壊させることが好ましい。もし、宿主細胞が複数のPDC遺伝子を含む場合、全てのPDC遺伝子を破壊することは容易ではないが、全てのPDC遺伝子を欠失又は破壊させることが特に好ましい。PDC遺伝子の破壊は、国際公開WO 99/14335、WO 02/42471、WO 03/049525、WO 03/102152及びWO 03/102201に記載された方法に近い方法を用いて行うことができる。PDC遺伝子の破壊は、またLDH遺伝子カセット又は他の構造若しくは選択マーカー遺伝子カセットを同時に挿入することで行うこともできる。特に興味のある方法においては、(1)PDC遺伝子の遺伝子座から隣接しない配列を、任意に機能的PDC遺伝子の一部と共に、クローニングし、(2)この隣接しない配列配列を含む構築物(任意に機能的PDC遺伝子の非機能的部分を含む)を作成し、及び(3)この構築物でこの宿主細胞を形質転換する。相同組換えにより、この形質転換体の一部で、機能的PDC遺伝子の欠失又は破壊が起こる。複数のPDC遺伝子を欠失又は破壊するために、必要であればこの工程を繰返す。I.orientalisのようないくつかの酵母種においては、相同性の高い複数のPDC遺伝子又は対立遺伝子が存在する。このようなケースでは、これらのPDC遺伝子の両者を欠失又は破壊するために、構築物上で、それぞれの遺伝子の遺伝子座から取った隣接しない配列を用いることができる。複数又は単数のPDC遺伝子を破壊するために用いる構築物は、固有PDC遺伝子の5’−フランキング領域の下流であって、かつ固有PDC遺伝子の3’−フランキング領域の上流に挿入された一つ又はそれ以上の機能性構造遺伝子を含んでもよい。この構築物は、この機能性遺伝子に機能的に連結された機能的プロモ−ターとターミネーターを含むカセットの一部であることが好ましい。このアプローチにより、PDC遺伝子の破壊と機能的遺伝子カセットの挿入が単一の形質転換工程でできる。この構築物は、この構造遺伝子の代わりに、又はそれに追加して、選択マーカー遺伝子カセットを含んでもよい。再度、この選択マーカーは、既に述べたように、ベクター上で、目標のPDC遺伝子の遺伝子座から取られた隣接しない配列の間に位置し、形質転換体の一部において、機能的PDC遺伝子の遺伝子座に挿入される。
機能性キシロースイソメラーゼ遺伝子の挿入、キシロースからキシリトールへの変換を触媒する酵素を産生する固有遺伝子の欠失又は破壊、機能性キシリトールヒドロゲナーゼ遺伝子の欠失又は破壊、及び細胞に機能性キシルロキナーゼの過剰発現を起こさせる遺伝子組み換え、の適当な方法は、例えば、国際公開WO04/099381に記載されているので参照されたい。
本発明の発酵方法においては、本願発明の細胞を、形質転換細胞により発酵されうる糖を含む発酵培地で培養する。この糖として、グルコースのようなヘキソース糖、グルカン又はその他のグルコースのポリマー、マルトース、マルトトリオース及びイソマルトトリオースのようなグルコースオリゴマー、パノース、フルクトース、及びフルクトースのオリゴマーが挙げられる。この細胞がペントース糖を発酵させる能力を固有に持つ又は改変により持つ場合、発酵培地はキシロース、キシラン又はその他のキシロースオリゴマーのようなペントース糖を含んでもよい。このようなペントース糖は、ヘミセルロースを含むバイオマスの水解物が適している。オリゴ糖の場合、これらを対応する単糖に消化して、その細胞により発酵させるために、発酵培地に酵素を添加することが必要である。
培地は、典型的には、窒素源(アミノ酸、タンパク質、アンモニアやアンモニウム塩などの無機窒素源等)、種々のビタミン、ミネラル等のその細胞が要求する栄養素を含む。
温度、細胞密度、基質の選択、栄養素の選択などのその他の発酵条件は、本願発明にとって決定的な要素ではなく、経済的なプロセスを提供するように適宜選択すればよい。各増殖過程と生産過程の温度は、その株がどのくらい高温に耐えられるかにも依るが、その培地の凍結温度から約50℃の範囲である。好ましい温度は、特に生産過程における温度は、約30〜45℃である。
生産過程の間、発酵培地中の細胞の密度は典型的には約0.1〜20、好ましくは0.1〜5、より好ましくは1〜3g乾燥細胞/リットルである。
発酵は、好気性、微好気性又は嫌気性条件下で行われてもよい。所望ならば、国際公開WO 03/102200に記載されているように、プロセス制御として酸素取り込み速度を用いることができる。本願発明の細胞は、嫌気性条件下でさえも、良好な生産性で、糖を乳酸又は乳酸/エタノール混合物に発酵させる素晴らしい能力を示す。
発酵の生産過程で培地は、pHを約3.5〜約9.0、例えば約4.5〜約7.0に保つように、緩衝されていてもよい。適当な緩衝剤として、形成される乳酸を中和するための塩基性材料が適しており、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。一般的に、従来の発酵プロセスで用いられてきた緩衝剤が、ここでもまた適している。
緩衝された発酵において、乳酸のような酸性発酵産物は、それらが生産されると共に、対応する乳酸塩に中和される。従って、その酸の回収には、フリーな酸を再生する工程が含まれる。これは、典型的には、細胞を除去して、硫酸のような強酸を用いて発酵培地を酸性にすることにより行われる。副生物としてできる塩(中和剤としてカルシウム塩、酸性化剤として硫酸が用いられる場合には、石膏)は、酸から分離される。次に、この酸は液−液抽出、蒸留、吸収等の方法で回収される。この方法は、T.B. Vickroy, Vol. 3, Chapter 38 of Comprehensive Biotechnology, (ed. M. Moo-Young), Pergamon, Oxford, 1985; R. Datta, et al., FEMS Microbiol. Rev., 1995, 16:221-231、米国特許4,275,234、4,771,001、5,132,456、5,420,304、5,510,526、5,641,406及び5,831,122、並びに国際公開WO 93/00440に記載されている。
しかし、発酵培地のpHを、典型的には5.5又はそれ以上である初期のpHから、約1.5〜約3.5、約1.5〜約3.0、又は約1.5〜約2.5のような酸発酵産物のpKa値又はそれ以下まで落とすに任すことが好ましい。本発明の細胞は、非緩衝発酵培地上でさえも増殖し生産するという予想外の能力を持ち、そこでは最終pHが3.5以下、3.0以下、2.5以下、及び2.0以下に落ちる。
また、工程の全般にわたって、pHを乳酸のpKa値又はそれ以下に保って発酵を行うことが可能である。このような場合、発酵培地のpHを、発酵工程の開始時点又はそれ以前乳酸のpKa値又はそれ以下に調整し、発酵が進行してもそのレベルに保つ。この場合、pHを約1.5〜約3.5、約1.5〜約3.0、又は約1.5〜約2.5の範囲に保つことが好ましい。
低pH発酵培地からの乳酸の回収は、米国特許第6,229,046号に記載の方法を用いて行なうことができる。
本願発明のプロセスは、連続法、バッチ法又はこれらの組み合わせにより行なうことができる。
L−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の欠失又は破壊は、場合によって、多くの利益をもたらす。乳酸の力価はしばしば改善される。これは、宿主がKluyveromyces marxianusのようなKluyveromyces株である場合に顕著に見られる。L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失又は破壊されていない株に比べて、ラクタートの収率やラクタートの生産速度も同様に増加する。再度、このことは改変Kluyveromyces株である場合に顕著に見られる。更なる利点として、ピルベートの産生が少ない。
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。以下の記載において、部と%は特記する場合を除き重量基準である。
実施例1A:K. marxianus株CD607の突然変異とグリコール酸に対する耐性を持つ変異株(CD635)の選択
K. marxianus株CD607は、国際公開WO 03/102152の実施例3Dに記載されている。この株は、ピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子が欠失し、その遺伝子座に外来性ラクタートデヒドロゲナーゼ遺伝子が挿入されている。以下に記す手順で、CD607株の細胞を紫外線照射すること又はメタンスルホン酸塩に曝すことにより、CD607株に突然変異を起こさせる。
紫外線照射による突然変異:
新鮮なYPD(酵母抽出物10g/L、ペプトン20g/L、デキストロース20g/L及び寒天培地15g/L含むDifco #0427-17, Spark, MD)プレートから得た細胞を、酵母ペプトン20mLに追加グルコース50g/Lを加え、OD600が約6になるまで再懸濁する。この細胞の懸濁液の10の125μlアリコートを、300μlの96ウエルのマイクロタイタープレートの10ウエルにピペットで入れる。このマイクロタイタープレートを、12,500 μJoule/cm2の紫外線で照射し、その細胞の90-99%を殺す。次に、このマイクロタイタープレートに上記細胞の懸濁液の2つの追加125μlアリコートを加え、コントロールとする。この各12ウエルの細胞懸濁液を1.5mL遠心分離チューブに移す。この12の遠心分離チューブを30℃の暗闇中で攪拌(225rpm)しながら一晩保管し、選択用プレートに撒く前に細胞を回収する。
9つの紫外線処理された細胞懸濁液及び1つのコントロール細胞懸濁液の各100μlアリコートを、グリコール酸に耐性のある株を選択するために、ポテトデキストロース寒天培地(PDA, Difco Laboratories, Cat. No. 0013-17, Sparks, MD)+グリコール酸15 g/Lプレートに撒く。これらのプレートを30℃でコロニーが現れるまで数日保管する。9つの各プレートから一つのコロニーを単離し、更なる分析にかける。
EMSによる突然変異:
新鮮なYPDプレートから得た細胞を、燐酸塩で緩衝した塩水に、OD600が約6になるまで再懸濁する。この細胞の懸濁液の12の200μlアリコートを、12の14mLのスナップキャップチューブにピペットで入れ、この12のチューブのうちの10に、4μLのエチルメタンスルホネート(EMS, Sigma Chemical Co., St. Louis, MO, catalog # M0880, 1.17g/mL溶液)を加える。残りの2つのチューブはコントロールとして使う。次に、これらのチューブを30℃で30分間攪拌(225rpm)して、再度その細胞の90-99%を殺す。EMSに曝すことに続いて、12のチューブから取り出した細胞をペレット化し、EMSを中和するためにNa2S2O3で2回洗浄し、水で1回洗浄する。この細胞を100μLのYPD媒体に再懸濁し、30℃で攪拌(225rpm)しながら6時間保管し、選択用プレートに撒く前に細胞を回収する。
回収に続いて、9つのEMS処理細胞懸濁液と一つの無処理の細胞懸濁液から得た100μLを、PDA+15g/Lのグリコール酸を含むプレートに撒き、グリコール酸に耐性の細胞を選択する。これらのプレートを30℃でコロニーが現れるまで数日保管する。一つのコロニーを単離し、更なる分析にかける。
突然変異を起こした細胞のスクリーニングは以下の手順で行われる。上記のプロセスのうちのいずれかで突然変異を起こした約2×10の細胞を15g/Lのグリコール酸を含む(PDA)プレートに撒き、30℃で保管する。これらのプレート上で増殖するコロニーを、バッフルの付いた振盪フラスコ中で、YP(酵母抽出物10g/L、ペプトン20g/L)にグルコース100g/Lを加えた緩衝なしの溶液中で、攪拌(225rpm)して、一晩増殖させる。次にこれらの攪拌用フラスコから、製造用フラスコに、乾燥重量で2g/Lの細胞を接種する。この製造用フラスコを、YP+グルコース50g/L中で、30℃で攪拌(70rpm)して、培養する。これから定期的にサンプルを抜き取って、国際公開WO 03/102201の実施例1Mに記載の方法を用いて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、グルコース、ラクタート、エタノール及びピルビン酸を測定する。
一つの株をCD635と名付けた。このCD635は、上記の紫外線処理による突然変異によるものである。このCD635株は、88時間後に約13g/Lのラクタートを製造した。なお、比較のため、この親株CD607の製造量は9g/L以下である。このCD635株は、この期間、CD607株よりも少し多いグルコースを消費し、極めて高いラクタートへの収率を示した。このCD635株は、唯一の炭素源としてのラクタート上で増殖できる。
実施例1B:K. marxianus株CD635の更なる突然変異とグリコール酸に対する耐性を持つ変異株(CD832, CD839, CD840, CD841, CD850, CD851及びCD853)の選択
CD635株の細胞(実施例1A)を実施例1Aに記載の方法を用いて突然変異を起こさせ、グリコール酸25 g/Lを含むPDA上で増殖するコロニーを選択する。全部で23の突然変異を行った中から、約5.9×10の細胞を撒き、これからグリコール酸に対する耐性を持ついくつかのコロニーが作られた。これらコロニーのうちのいくつかは、EMS処理による突然変異によるものであり、その他は、紫外線処理による突然変異によるものであり、更にその他に自発的突然変異によるものもある。
このグリコール酸に対する耐性を持ついくつかのコロニーを、振盪フラスコ中で、YP+グルコース100g/L中で、30℃で攪拌(250rpm)して、一晩増殖させる。遠心分離によりバイオマスを集め、乾燥重量で2g/Lの細胞を、バッフルの付いた振盪フラスコのYP50mL+グルコース50g/Lの溶液中に接種する。このフラスコを、30℃で攪拌(250rpm)して、約92時間培養する。親株のCD607やCD635株よりも顕著に高いラクタート力価を示す7つの変異株を、CD832, CD839, CD840, CD841, CD850, CD851及びCD853と名付けた。
CD832, CD839, CD840, CD841, CD850, CD851及びCD853株は、唯一の炭素源としてのラクタート上で増殖できなかった。これは、これらの変異株において、KmCYB2遺伝子が無機能化されたことを示している。従って、これらの株のそれぞれについて別々に、KmCYB2コード領域に、KmCYB2コード領域の上流と下流の約500bpを加えたものを、高正確性のFailSafe酵素と鋳型としてゲノムDNAを用いてPCRにより増幅した。その結果得られた約2.75KbpのPCR産物を、Quiagenカラム精製法により精製し、全KmCYB2コード領域の配列を解析した。
CD635株は、唯一の炭素源としてのラクタート上で増殖できるが、これは機能性KmCYB2遺伝子を持っていることを示している。CD635株のCYB2遺伝子の配列解析により、これが野生型のCYB2配列を持っていることが確認された。CD635株のKmCYB2遺伝子のDNA配列を配列番号1とする。CYB2遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2とする。
CD832, CD839, CD840, CD841, CD850, CD851及びCD853株は、全て、唯一の炭素源としてのラクタート上で増殖する能力を欠き、CD607株と比べてグリコール酸に対する耐性が上がった。これらの特徴は、これらの株が機能性KmCYB2遺伝子を欠くことを示している。これらの株のKmCYB2コード領域内のDNA配列が、野生型のCYB2配列を持つCD635株のKmCYB2遺伝子と比べて、KmCYB2遺伝子のタンパク質のコード部分に変異があることを示す。これらのコード領域により翻訳された酵素のアミノ酸配列もまた差異を示す。このDNAとアミノ酸配列における差異は、以下のとおりである:
CD832株: 457番目のアミノ酸を点変異させ、アルギニンを終結コドンにした。この変異体はこのタンパク質を135アミノ酸で切ったものである。
CD839株: 272番目のアミノ酸を点変異させ、ミスセンス変異を引き起こし、プロリンをトレオニンに変えた。
CD840株: 222番目のアミノ酸を点変異させ、ナンセンス突然変異を引き起こし、トリプトファンを終結コドンにした。この変異体はこのタンパク質を370アミノ酸で切ったものである。
CD841株: 147番目のアミノ酸を点変異させ、ヒスチジンをチロシンに変えた。
CD850株: 309番目のアミノ酸を2点変異させ、セリンをフェニルアラニンに変えた。
CD851株: 219番目の塩基対(74番目のアミノ酸)を2塩基削除してフレームシフトを起こさせ、76番目のアミノ酸を終結コドンにし、このタンパク質を切った。
CD853株: 62番目のアミノ酸の位置に4つの塩基対を挿入してフレームシフトを起こさせ、76番目のアミノ酸を終結コドンにし、このタンパク質を切った。
実施例2A:K. marxianus CYB2遺伝子の5’及び3’−フランキング領域の間に、G418耐性遺伝子カセットを含むプラスミド(pMM22, 図1)の構築
S.serevisiae L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子の公知の相同性と比較することにより、野生型株K. marxianus(CD21, ATCC52486)のゲノムDNA内に、K. marxianus L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子(KmCYB2)のコード領域を特定した。MluIとPstIの認識配列を導入して、配列番号3と4のプライマーと、鋳型にゲノムDNAを用いたPCRにより、KmCYB2コード領域の5’側の約2Kbpのフランキング領域を増幅した。同様に、ApaIとNgoMIVの認識配列を導入して、配列番号5と6のプライマーと、鋳型にゲノムDNAを用いたPCRにより、CYB2コード領域の3’側の約2Kbpのフランキング領域を増幅した。
PVR29プラスミド(国際公開WO 03/102152の図1Cと4に記載)をMluIとPstIの制限酵素を用いて消化し、その結果得られた断片に5’側KmCYB2フランキング領域を連結させて、プラスミドpMM21を構築した。プラスミドpMM21は、G418耐性遺伝子カセットの上流にKmCYB2 5’側フランキング領域を含む。
プラスミドpMM21をApaIとNgoMIVの制限酵素を用いて消化し、その結果得られた断片に3’側KmCYB2フランキング領域を連結させて、プラスミドpMM22を構築した(図1)。プラスミドpMM22は、G418耐性遺伝子カセットの上流にKmCYB2 5’側フランキング領域を含み、G418耐性遺伝子カセットの下流にKmCYB2 3’側フランキング領域を含む。
実施例2B:K. marxianus株CD607をプラスミドpMM22(図1、実施例2A)で形質転換することによる、LDH遺伝子が挿入され、PDC遺伝子とKmCYB2遺伝子が破壊されたK. marxianus変異体(CD936)の作製
CD607(実施例1A)に相当するK. marxianusコロニーを培養し、20mLの細胞を取り出した。プラスミドpMM22をNheIとNaeIの制限酵素(両者ともこのプラスミド上のKmCYB2フランキング領域に切り入られた)を用いて消化し、その結果得られた断片を、標準エレクトロポレーション法を用いてK. marxianus株CD607を形質転換した。この形質転換体は、G418に対する耐性により選択される。
選択された形質転換体を、YNB(6.7g/L 酵母窒素ベース, Difco Laboratories, Sparks MD, Cat. No. 0392-15)+1%グルコースを含む酵母窒素ベース(YNB)+1%ラクタートプレート上でスクリーニングする。ラクタート培地で増殖の少ない形質転換体を選ぶ。これらの形質転換体は、配列番号7と8のプライマーを用いたインサイドアウトコロニーPCRを用いてスクリーニングされる。この5’プライマーは、この破壊構築物の相同性外の5’側CYB2フランキング領域上に位置し、この3’プライマーは、G418カセット内に位置する。選択された各形質転換体は、KmCYB2遺伝子座にG418カセットの挿入を示す。これらの形質転換体のうちの4つから、ゲノムDNAを単離し、KmCYB2遺伝子座について、配列番号9と10のプライマーを用いたPCR分析を行った。これらのプライマーは、この遺伝子座の増幅を確実に行うために、CYB2コード領域の約500bp上流及び/又は下流に位置する。PCR産物のサイズが、固有CYB2コード領域に比べて大きいことは、これら4つの各形質転換体のCYB2遺伝子が、G418カセットで置換されていることを示す。これらの形質転換体の一つをCD936株と名付ける。
実施例2C:K. marxianus株CD635をプラスミドpMM22(図1、実施例2A)で形質転換することによる、LDH遺伝子が挿入され、PDC遺伝子とKmCYB2遺伝子が破壊されたK. marxianus変異体(CD998)の作製
CD635株の細胞(実施例1A)をプラスミドpMM22を用いて、実施例2Bに記載した一般的方法により、形質転換する。形質転換体を、G418に対する耐性により選択する。
選択された形質転換体を、YNB+1%グルコースを含む酵母窒素ベース(YNB)+1%ラクタートプレート上でスクリーニングする。全ての形質転換体がラクタート上での増殖の減退を示した。これらの形質転換体を、実施例2Bに示したプライマーを用いたインサイドアウトコロニーPCRを用いてスクリーニングする。これらの形質転換体のうちの11個が、KmCYB2遺伝子座にG418カセットの挿入を示した。これらの形質転換体のうちの4つから、ゲノムDNAを単離し、KmCYB2遺伝子座について、実施例2Bと同様にPCR分析を行った。前と同様に、これらのプライマーは、この遺伝子座の増幅を確実に行うために、CYB2コード領域の約500bp上流及び/又は下流に位置する。PCR産物のサイズが、固有CYB2コード領域に比べて大きいことは、これら4つの各形質転換体のうちの3つのCYB2遺伝子が、G418カセットで置換されていることを示す。これらの3つの形質転換体の一つをCD998株と名付ける。
実施例3A:K. thermotolerans遺伝子のダイレクトリピート配列の間にKmCYB2遺伝子を含むプラスミド(pMM28, 図2)の構築
野生型K. marxianus株(CD21)のゲノムDNAから、BamHIとSalIの認識配列を導入して、配列番号11と12のプライマーを用いたPCRにより、プロモーター領域とターミネーター領域を含む全K. marxianus CYB2(KmCYB2)遺伝子カセットを、PCRで増幅した。このPCR産物を、BamHIとSakIで消化した市販のベクターpUC18 (Invitrogen Corp., Carlsbad, CA USA)に連結した。その結果得られたプラスミドをpMM25と名付けた。
配列番号13で示す705bpの塩基配列は、野生型K. thermotolerans のゲノムDNAから、SphIとSalIの認識配列を導入して、配列番号14と15のプライマーを用いたPCRにより得た。このK. thermotolerans配列は、如何なる活性タンパク質もコードしない。プラスミドpMM25をSphIとSalIで消化し、このK. thermotolerans配列を、KmCYB2カセットの上流(5')でこれに連結した。得たプラスミドをpMM27と名付けた。
同一のK. thermotolerans配列を、BamHIとXmaIの認識配列を導入して、配列番号16と17のプライマーを用いてPCR増幅した。プラスミドpMM27をBamHIとXmaIで消化し、このK. thermotolerans配列を、KmCYB2カセットの下流(3')でこれに連結した。得たプラスミドをpMM28(図2)と名付けた。プラスミドpMM28は、KmCYB2カセットの両端にフランキング領域として同じ方向に配列したK. thermotolerans遺伝子のダイレクトリピート配列を持つ。
実施例3B:同一のK. thermotolerans配列の間であって、KmCYB2遺伝子の5’及び3’−フランキング領域の間に、S.cerevisiae Mel1遺伝子発現カセットを含むプラスミド(pMM35, 図3)の構築
ベクターpNC16を、The National Research Energy Laboratories in Golden, Colorado.から得た。このベクターpNC16は、S. cerevisiae PDC1 プロモーターとS. cerevisiae GAL10 ターミネーターの制御下にあるS.cerevisiae MEL1遺伝子を含む。このMEL1遺伝子カセットを、BglIIとSalIの認識配列を導入して、配列番号18と19のプライマーを用いてPCR増幅した。プラスミドpMM28(図2、実施例3A)をBglIIとSalIで消化し、MEL1遺伝子カセットに連結した。これは同時にプラスミドpMM28のKmCYB2カセットを破壊し、それをMEL1遺伝子カセットに置き換える。その結果得られたプラスミドをpMM31と名付けた。これは両端にフランキング領域としてK. thermotoleransダイレクトリピート配列を有するMEL1遺伝子カセットを含む。
KmCYB2コード領域の3'側の約2kbpのフランキング領域を、XmaIとSacIの認識配列を導入して、配列番号20と21のプライマーと鋳型としてゲノムDNAを用いてPCR増幅した。その結果得られた断片を、XmaI/SacIで消化したプラスミドpMM31に連結し、MEL1カセットの下流のK. thermotoleransダイレクトリピート配列の下流に3'側CYB2フランキング領域を挿入した。その結果得られたプラスミドをpMM32と名付けた。
KmCYB2コード領域の5'側の約2kbpのフランキング領域を、AatIIとNarIの認識配列を導入して、配列番号22と23のプライマーと鋳型としてゲノムDNAを用いてPCR増幅した。その結果得られた断片を、AatII/NarIで消化したプラスミドpMM32に連結した。その結果得られたプラスミド(pMM35、図3)は、順に、5'KmCYB2フランキング領域、第一のK. thermotoleransダイレクトリピート配列、MEL1カセット、第二のK. thermotoleransダイレクトリピート配列、及び3'KmCYB2フランキング領域を含む。
実施例3C:野生型K. marxianus株をプラスミドpMM35で形質転換することによる、KmCYB2遺伝子が破壊されたK. marxianus変異体(CD1287)の作製
プラスミドpMM35をBsmIとNheIで消化し、標準エレクトロポレーション法により野生型K. marxianus株の細胞を形質転換するために用いた。形質転換体を、32mg/L XαGal (5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-beta-D-ガラクトシド, LabScientific, Inc., Livingston, NJ, Cat. No. X-566)を加えたYNB+2%メリビオース上に撒き、その増殖により選択した。この培地上で増殖した全ての形質転換体が青色であった。続いてこれをメリビオースプレートで画線培養し、更なる分析を行なった。この形質転換体を、配列番号7と8のプライマーを用いた5’インサイドアウトコロニーPCRを介したKmCYB2遺伝子座で相同組換えによりスクリーニングする。陽性PCR産物を生じるコロニーは、不純物混入を避けるため、32mg/L XαGal を加えたYNB+2%メリビオース上で2度単離された単一コロニーである。これらの株からゲノムDNAを得た。
全KmCYB2遺伝子座を、配列番号24と25のプライマーを用いてPCR増幅した。4つのコロニーが、相同組換えを起こしてKmCYB2遺伝子座にMEL1遺伝子カセットを挿入したことが予想されるPCR産物を生じた。これらのコロニーのうちの一つをCD1286と名付けた。
CD1286株を、非選択培地で2ラウンド画線培養し、一つのコロニーを単離するために培養し、MEL1カセットのループアウトのためにスクリーニングした。約1300のコロニーのうち3つが白色であり、MEL1遺伝子がないことを示していた。これらの3つのコロニーからゲノムDNAを得て、再度配列番号24と25のプライマーを用いて全KmCYB2遺伝子座のPCRを行なった。3つのコロニーの全てが、予想されたループアウトを示すPCR産物を生じ、細胞のゲノムからMEL1カセットが除去されたことを示した。これら3つのコロニーのうちの一つをCD1287と名付けた。
実施例4A:5’KmPDC1フランキング領域、L.helveticus LDH遺伝子発現カセット、両端にフランキング領域としてK. thermotolerans遺伝子のダイレクトリピート配列を持つKmCYB2遺伝子発現カセット、及び3’KmPDC1フランキング領域を含むプラスミド(pMM38, 図5)の構築
野生型K. marxianus株から得たTEF2プロモーター領域を、KpnI/XbaIサイトを加えて、配列番号26と27のプライマーと鋳型としてゲノムDNAを用いてPCR増幅した。続いて、この産物をプラスミドpBH76(図4)に連結し、プラスミドpMM36を得た。プラスミドpMM36は、順に、5'KmPDC1フランキング領域、KmTEF2プロモーター、LhLDH遺伝子及びScGAL10ターミネーターを含む。次に、KmPDC1フランキング領域を、XmaI/PciIサイトを加えて、配列番号28と28のプライマーと鋳型としてゲノムDNAを用いてPCR増幅した。これを、XmaI/PciIで切断してプラスミドpMM28(図2、実施例3A)に連結し、プラスミドpMM37を得た。このKmPDC1領域及びプラスミドpMM36から得たLhLDH発現カセットを、NarI/NdeIサイトを加えて、配列番号31と32のプライマーを用いて増幅し、NarI/NdeIで消化したプラスミドpMM37に連結し、プラスミドpMM38(図5)を得た。プラスミドpMM38は、K. marxianus PDC1遺伝子座に、目標とするLhLDH及びKmCYB2遺伝子発現カセットを挿入するために設計された。
実施例4B:株CD1287をプラスミドpMM38(図5、実施例4A)で形質転換することによる、外来性LDH遺伝子を有し、PDC遺伝子が破壊され、CYB2遺伝子がループアウトされたK. marxianus変異体(CD1300)の作製
プラスミドpMM38をNdeIで消化し、これを用いて株CD1287を標準エレクトロポレーション法で形質転換した。この形質転換体をラクタート上で増殖させ、ラクタートプレート及びYPDプレートで画線培養した。これらの形質転換体を、配列番号32と33のプライマーを用いたインサイドアウトコロニーPCRを用いて、PDC1遺伝子座における相同組換えのためにスクリーニングした。期待したサイズ(2251bp)のPCR産物を産生する形質転換体を、単一コロニーの単離のため、画線培養した。各陽性形質転換体から、3つの単一コロニーのゲノムDNAを得て、配列番号34と35のプライマーを用いたPCRにより増幅した。次に、期待したPCR産物(サイズが野生型PDC遺伝子座の3730bpに対して8453bpであり、これはPDC遺伝子が欠失し、LDH遺伝子が挿入されたことを示す。)を与える単離集団を、それらがエタノールを産生するかどうかにより、Pdc-表現型を調べた。エタノールを産生しない株のうちの一つを株CD1298と名付けた。株CD1298は、外来性LDH遺伝子とpMM38由来のCYB2遺伝子を含むが、PDC遺伝子が破壊されている。
株CD1298を、非選択的YPD培地上で3ラウンド画線培養し、細胞のスラリーを、PDA+15g/Lのグリコール酸を含むプレートに撒いた。30℃で72時間後、コロニーを取り出し、KmCYB2遺伝子がループアウトされたコロニーを探すために、配列番号336と37のプライマーを用いたPCRによりスクリーニングした。4つのコロニーがCYB2遺伝子がループアウトされた適正サイズ(CYB2カセットを含んだ5129bpに対して1109bpを示す。)の産物を与えた。これら4つの株のそれぞれから、ゲノムDNAを得て、PDC1遺伝子座を配列番号38と36のプライマーを用いたPCRにより増幅した。2つの株が、CYB2遺伝子がループアウトされた期待サイズのPCR産物(CYB2カセットを含んだPCR産物の7269bpや野生型PCR産物の2546bpに対して3249bpである。)を与えた。これら2つの株のうちの一つを株CD1300と名付けた。
実施例5A:株CD635(実施例1A)、株CD853(実施例1A)及び株CD998(実施例2C)の微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
株CD635、株CD853及び株CD998をそれぞれ低密度(0.05-0.10 OD600)で培養し、培養物を増殖させながら、発酵産物を産生させた。培養液(YP+60g/Lデキストロース)50MLを250mL緩衝振盪フラスコにピペットで滴下し、これに要求量のバイオマスを接種した。次に、このフラスコを30℃で約92時間70rpmの軌道攪拌し、この実験の期間中、サンプルを採取し(約24時間毎)、グルコースの消費量、発酵産物の蓄積量、バイオマスの成長度を調べた。
92時間の培養後、株CD635(本願発明の例ではない)は、17.6g/Lのグルコースを消費し、11.4g/Lのラクタートを産生した。同じ期間に、株CD853は、26.9g/Lのグルコースを消費し、23.3g/Lのラクタートを産生し、これは株CD635の産生量の倍以上であった。株CD998は、21.9g/Lのグルコースを消費し、18.5g/Lのラクタートを産生し、これは株CD635の産生量より60%多い。ラクタートの収率は、株CD635では約65%であるのに対して、株CD853では約86.6%、株CD998では約84.5%であった。
実施例5B:株CD635(実施例1A)、株CD853(実施例1A)及び株CD998(実施例2C)のグリコール酸に対する耐性の評価
グリコール酸を5g/L〜25g/L含むPDAプレートを複数作製した。グリコール酸を含まないコントロールプレートも用意した。株CD635、株CD853及び株CD998を希釈したものを用意し、各希釈物5μLを上記各プレート上に点滴した。接種されたプレートを30℃で3日間培養した。比較株CD635はグリコール酸を濃度15g/Lまで含むプレート上で増殖したが、それ以上の濃度のグリコール酸を含むプレート上で増殖しなかった。株CD853は、グリコール酸を濃度25g/Lまで含むプレート上で増殖できた。株CD998は、グリコール酸を濃度22.5g/Lまで含むプレート上で増殖できた。これらの試験は、グリコール酸が非機能的CYB2遺伝子を含む変異株を選択するための培地として使用することができることを示す。
実施例6:比較株CD607(実施例1A)、株CD936(実施例2B)及び株CD1300(実施例3C)の微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
株CD607、株CD936及び株CD1300をそれぞれ実施例5Aに記載の条件で培養した。93時間の培養後、比較株CD607は、16.5g/Lのグルコースを消費し、10.8g/Lのラクタートを産生した。同じ期間に、株CD936は、21.6g/Lのグルコースを消費し、19.3g/Lのラクタートを産生し、これは株CD607の産生量の倍よりわずかに少なかった。株CD1300は、29.9g/Lのグルコースを消費し、24.6g/Lのラクタートを産生し、これは株CD607の産生量より125%多い。ラクタートの収率は、株CD607では約65.5%であるのに対して、株CD936では89.4%、株CD1300では82.3%であった。また、株CD607はこの期間中2.02g/Lのピルビン酸を産生したのに対して、株CD936では0.68 g/L、株CD1300では0.83g/Lのピルビン酸を産生した。更に、株CD607はこの期間中0.67g/Lの酢酸を産生したのに対して、株CD936と株CD1300は酢酸を全く産生しなかった。
この実験で成長度も調べた。93時間後、比較株CD607はOD600で約5.7まで成長したのに対し、株CD936ではOD600で約7.5、株CD1300ではOD600で約3.2まで成長した。株CD1300の成長度が低いことは、この株の特定生産性が、比較株CD607や株CD936に比べて遥かに高いことを示している。
実施例7A:I. orientalis PGK(IoPGK1)プロモーター領域のクローニング:IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae GAL10ターミネーターの制御下にあるE.coli hygromycin遺伝子を有するプラスミド(pMM318, 図6)の構築
国際公開WO 02/042471の実施例22に記載された方法と同様にして、配列番号39と40のプライマーを用いて、C. sonorensisのゲノムDNAからC. sonorensis PGK1遺伝子を得た。増殖するI. orientalis株からゲノムDNAを単離し、10 mM Tris-HCl + 1 mM EDTA (pH 8) (TE)中に再懸濁した。このI. orientalisゲノムDNAを、HindIIIで切断し、サザンブロットを用意し、プローブとしてC. sonorensis PGK1遺伝子を用いた標準法でハイブリダイズした。アガロースゲルからサイズが約2kbpの断片を単離し、HindIIIで切断したプラスミドにコピーした。PGK1プローブを用いたE.coli形質転換体のコロニーハイブリダイゼーションにより、I. orientalis PGK(IoPGK1)タンパク質をコードする配列(ただし、プロモーター配列ではないことは確認した。)のほとんどを含む、HindIII断片が単離された。
IoPGK1プロモーター領域を含むゲノム断片を、ライゲーションを介したPCRで増幅した(Mueller, P.R. and Wold, B. 1989, "In vivo footprinting of a muscle specific enhancer by ligation mediated PCR." Science 246:780-786)。配列番号41のリンカーと配列番号42のリンカーの混合物を、T4 DNAリガーゼ(New England BioLabs)を用いて、HaeIIIで消化したI. orientalisゲノムDNAに連結した。ライゲーション混合物をのサンプルを鋳型として用いて、配列番号43のプライマー0.1μMと配列番号44のプライマー1μMを用いて50μL PCR反応を行った。2 UのDynazyme EXTを加えた後、反応混合物を94℃で3分間加熱した。この反応を以下のように30サイクル行った:94℃で1分間、68℃で2分間及び72℃で2分間、そして最後に72℃で10分間延長した。この最初のPCR増幅の希釈サンプルを鋳型として用いて、配列番号45のプライマー0.05μMと配列番号46のプライマー0.5μMを用いてネストPCR反応(50μL)を行った。2 UのDynazyme EXTを加えた後、この反応混合物を94℃で3分間加熱した。次に、PCR反応を以下のように30サイクル行った:94℃で1分間、67℃で2分間及び72℃で2分間、そして最後に72℃で10分間延長した。
約600bpのPCR産物を単離し、その配列を解析した。配列番号49と50のオリゴヌクレオチドと共に、配列番号47と48のネストプライマーを用いて、SphIで消化したI. orientalis DNAを用いたことを除いて上記と同様にして、アニール温度を65℃にして、ライゲーションを介したPCR増幅を行った。
配列番号51と52のプライマーと、鋳型としてI. orientalis ゲノムDNA用いて、I. orientalis PGK1プロモーターをPCR増幅を行った。得られた断片をクレノウ酵素を用いて充填し、次にXbaIを用いて切断した。ゲル泳動により633bpの断片が単離された。これを、プラスミドpMI270(国際公開WO 03/049525の実施例4に記載)をXhoIで消化し、得られた断片をクレノウ酵素と0.1mM dNTPを用いて充填し、XbaIを用いて消化して得られる4428bpの断片に連結した。プラスミドpMI270は、C. sonorensis PGK1プロモーターとS.cerevisiae GAL10ターミネーターに連結したE.coli hygromycin遺伝子を有する。その結果得られたプラスミドをpMM318(図6)と名付ける。プラスミドpMM318は、I. orientalis PGK1プロモーターとS.cerevisiae GAL10ターミネーターの制御下にあるE.coli hygromycin遺伝子を有する。
実施例7B: IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae GAL10ターミネーターの制御下にあるhygromycin遺伝子、及びIoPGK1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticus LDH遺伝子を有するプラスミド(pMM321, 図7)の構築
実施例7AのI. orientalis PGK1プロモーターを、配列番号53と54のプライマーと、鋳型としてI. orientalisゲノムDNAを用いてPCR増幅した。得られた断片をクレノウ酵素と0.1mM dNTPを用いて充填し、次にNocIを用いて切断した。ゲル泳動により633bpの断片が単離された。
プラスミドpVR1(国際公開WO 03/102152の図7に記載)はS.cerevisiae TEF1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticus LDH遺伝子を有する。プラスミドpVR1をXhoIで消化し、得られた断片をクレノウ酵素を用いて充填し、NocIを用いて切断した。プラスミドpVR1から得られた7386bpの断片を、633bpのIoPGK1プロモーター断片に連結した。その結果得られたプラスミドをpMM320と名付ける。プラスミドpMM320は、IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticus LDH遺伝子を有する。
プラスミドpMM318(図6、実施例7A)とプラスミドpMM320をApaIとNotIで消化した。プラスミドpMM318から得られた5008bpの断片を、1995bpのpMM320から得られた断片に連結し、プラスミドpMM321(図7)を形成した。
ハイグロマイシン遺伝子(及びそのターミネーター)を、プラスミドpMM321上のIoPGK1プロモーターの2つのコピー(ダイレクトリピート配列をして機能する)の間に置く。この構築物は、細胞をプラスミドpMM321で形質転換させ、相同組換えにより、ハイグロマイシン遺伝子とターミネーター、及びIoPGK1プロモーターの1コピーをループアウトする。
実施例7C:I. orientalis PDC(IoPDC1A)プロモーター領域のクローニング:IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae GAL10ターミネーターの制御下にあるE.coli hygromycin遺伝子、IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticus LDH遺伝子、及びIoPDC1A 5'フランキング領域を有するプラスミド(pMM355, 図8)の構築
製造者の提供する指示書に従って、SuperCos 1コスミドベクター(Stratagene社)内に、野生型I. orientalis株ATCC PTA-6658のゲノムライブラリーを構築した。PDC様配列を、配列番号55と56のプライマーを用いて、そのゲノムDNAからPCRにより増幅した。PDC遺伝子の700bpの断片が増幅された。このゲノムライブラリーを、国際公開WO 03/049525に記載のPCR断片をプローブとして、ハイブリダイゼーション法を用いてスクリーニングし、PDC遺伝子を持つコスミドクローンを単離し、配列解析を行った。この、ORFの1000〜167bp上流のIoPDC1Aの5'領域を、配列番号57と58のプライマーと鋳型としてI. orientalis PDCコスミドDNAを用いてPCRで増幅した。得られた断片をSalIとSacIで切断した。ゲル泳動により836bpの断片を単離し、これを、プラスミドpMM321(図7、実施例7B)をSalIとSacIで消化して得られた6992bpの断片に連結した。その結果得られたプラスミドをpMM355(図8)と名付ける。
実施例7D:I. orientalis PDC(IoPDC1A)ターミネーター領域のクローニング:IoPDC1A 5'フランキング領域、IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae GAL10ターミネーターの制御下にあるE.coli hygromycin遺伝子、IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticus LDH遺伝子、及びIoPDC1A 3'フランキング領域を有するプラスミド(pMM356, 図9)の構築
PDC翻訳ストップコドンの233〜872bp下流に相当するI. orientalis PDCの3'領域を、配列番号59と60のプライマーと鋳型としてI. orientalis PDC1AコスミドDNA(実施例7C)を用いてPCRで増幅した。得られた断片をApaIとSmaIで切断した。ゲル泳動により630bpの断片を単離し、これを、プラスミドpMM355(図8、実施例7C)をApaIとSmaIで消化して得られた7809bpの断片に連結した。その結果得られたプラスミドをpMM356(図9)と名付ける。これは、IoPDC1Aの5'フランキング領域と3'フランキング領域部分の間に、ハイグロマイシンとLDHカセットを有する。
プラスミドpMM357を、存在する3' IoPDC1Aフランキング領域部分に関して、プラスミドpMM356と異なる点を除き同様に作製した。この領域は、PDC翻訳ストップコドンの5bp上流で216bp下流の配列に相当する。
実施例7E:野生型I. orientalis株をプラスミドpMM356(図9、実施例7D)で一段階で形質転換することによる、IoPDC1AとIoPDC1B遺伝子が欠失し、LhLDH遺伝子が組み込まれたI. orientalis変異体(CD1184)の作製
野生型I. orientalis株ATCC PTA-6658をプラスミドpMM356を用いて標準法で形質転換した。ハイグロマイシンプレート上で増殖した形質転換株を培養した。サザン法でエタノールを産生しない形質転換体を選択した。これは、IoPDC1AとIoPDC1Bの両方の遺伝子が欠失し、少なくとも1コピーのLhLDH遺伝子が組み込まれたことを示す。この株をCD1184と名付ける。
実施例7F:IoPDC1A 5'フランキング領域、IoPGK1プロモーターの制御下にあるScMEL5遺伝子、IoPGK1プロモーターとScCYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticus LDH遺伝子、及びIoPDC1A 3'フランキング領域を有するプラスミドpMM433(図10)の構築
I. orientalis PGK1プロモーターを、配列番号61と62のプライマーと鋳型としてI. orientalis ゲノムDNAを用いてPCRで増幅した。得られた断片をクレノウ酵素と0.1mM dNTPを用いて充填し、SphIを用いて切断した。プラスミドpMM233(国際公開WO 03/049525の図23Cに記載)をXhoIで切断した。得られた断片をクレノウ酵素を用いて充填し、SphIを用いて切断した。この4534bpの断片と669bpの断片を連結し、その結果得られたプラスミドをpMM319と名付ける。プラスミドpMM319は、S.cerevisiae MEL5(ScMEL5)遺伝子とIoPGK1プロモーター領域を有する。
プラスミドpMM319をApaIで切断し、T4ポリメラーゼでブラントエンドを作り、更にNotIで切断する。これを、プラスミドpMM357(実施例7D)をSalIで消化して得た6498bpの断片に連結し、クレノウ酵素を用いてブラントエンドを作り、NotIで切断した。その結果得られたプラスミドはプラスミドpMM357のハイグロマイシンに位置にScMEL5遺伝子(その固有ターミネーターと共に)を有する。その結果得られたプラスミドをpMM433と名付ける(図10)。
実施例7G:I. orientalis CYB2 5'フランキング領域、K. thermotoleransダイレクトリピート配列の間のScMEL5遺伝子カセット、及びKmCYB2遺伝子の3’フランキング領域を有するプラスミドpMM449(図11)とpMM454(図12)の構築
プラスミドpMM28(図2、実施例3A)をBamHIで消化し、クレノウ酵素を用いて充填し、SalIで消化した。得られた4077bpの断片を、pMM433(図10、実施例7F)の2317bpのNotI(クレノウ酵素を用いて充填された)-SalI断片に連結した。その結果得られたプラスミドをpMM445と名付ける。
L−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素(IoCYB2A)遺伝子の3’フランキング領域(予想されたORFの90〜676bp下流の配列に相当する)を、配列番号63と64のプライマーと鋳型としてCYB2-2コスミドクローンを用いてPCRで増幅した。このPCR産物を、SalIとSmaIで消化し、得られた607bpの断片を、プラスミドpMI445の6386bpのSacI-SmaI断片に連結した。その結果得られたプラスミドをpMM448と名付ける。
IoCYB2Aの5’フランキング領域(予想されたORFの913〜487bp上流の配列に相当する)を、配列番号65と66のプライマーと鋳型としてCYB2-2コスミドクローンを用いてPCRで増幅した。このPCR産物を、SphIで消化し、得られた454bpの断片を、プラスミドpMI454の6993bpのSphI断片に連結した。その結果得られたプラスミドをpMM449と名付ける(図11)。
IoCYB2Aの5’フランキング領域(予想されたORFの466〜7bp上流の配列に相当する)を、配列番号67と68のプライマーと鋳型としてCYB2-2コスミドクローンを用いてPCRで増幅した。このPCR産物を、SphIで消化し、得られた493bpの断片を、プラスミドpMI453を部分的に消化した6993bpのSphI断片に連結した。その結果得られたプラスミドをpMM453と名付ける。
IoCYB2Aの3’フランキング領域(予想されたストップコドンの402bp上流〜77bp下流の配列に相当する)を、配列番号69と70のプライマーと鋳型としてCYB2-2コスミドを用いてPCRで増幅した。このPCR産物を、ApaIとSmaIで消化し、得られた506bpの断片を、プラスミドpMI453の6886bpのApaI-SmaI断片に連結した。その結果得られたプラスミドをpMM454と名付ける(図12)。
実施例7H:株CD1184(実施例7E)をプラスミドpMM449とpMM454で形質転換し、続いて突然変異させることによる、I. orientalis 変異体(CD1496)の作製
株CD1184を酢酸リチウム法を用いてプラスミドpMI449で形質転換し、YPD X-α-galプレート上のメリビオース活性に基づいて形質転換体(青色コロニー)を選択した。いくつかの形質転換体において、I. orientalisのIoCYB2A遺伝子が形質転換されたDNAに置換されたことを、コロニーPCRとサザン分析により確認した。MEL5マーカーが、K. thermotoleransリピート配列の相同組換えにより、これらの形質転換体の一つからループアウトされ、これはサザン分析で確認された。第2のCYB2A対立遺伝子は、プラスミドpMI454を用いてこの形質転換体から削除された。形質転換体は、コロニーPCRにより分析され、1000bpのCYB2特異的PCR産物がないことが確認された。プラスミドpMI454からのMEL5マーカーは、従前のように、第2のCYB2A対立遺伝子が欠失した形質転換体から、相同組換えによりループアウトされた。この形質転換体を株CD1436と名付けた。
実施例1Aに記載した条件を用いて、ただし、暴露条件を8uLで1時間として、株CD1436にEMS突然変異を行なった。突然変異した株はYPD上で6時間で回収され、次にPDA+35g/L乳酸プレート上に撒かれ、30℃で1週間保管された。株CD1436より多くのラクタートを産生し、少なくグリセロールを産生する株を、株CD1496と名付ける。株CD1496は、両PDC1対立遺伝子が欠失している(機能的L-LDH遺伝子カセットで置換され、2つのIoCYB2A対立遺伝子のそれぞれが欠失している。)。
実施例7I:株CD1184、CD1436及びCD1496を用いた振盪フラスコ発酵
株CD1184及びCD1436を、微好気性振盪フラスコ発酵で評価した。この評価は、デキストロースの出発時点の濃度を100g/Lとし、攪拌を100rpmで行った点を除いて、実施例5Aに記載した方法と同様にして行った。各株は、約80時間の生産後、グルコースを消費するのを止めた。144時間の培養後、株CD1184の最終ラクタート力価は約60g/kg、株CD1436の最終ラクタート力価は約53g/kgであった。株CD1184のラクタート収率は約88%、株CD1436のラクタート収率は86%であった。株CD1184のグリセロール収率は約5.5%、株CD1436のグリセロール収率は8.5%であった。
CD1436及びCD1496を重複微好気性培養で同様に評価した。144時間の培養後、株CD1436の最終ラクタート力価は約58g/kg、株CD1496の最終ラクタート力価は65g/kgであった。ラクタート収率はいずれも約68%であった。株CD1436のグリセロール収率は約11%、株CD1496のグリセロール収率はたったの約8%であった。
実施例7J:CD1436(実施例7H)及びCD1496(実施例7H)のpH3発酵
CD1436とCD1496を、別々に、pH3.0に緩衝された条件で発酵させた。それぞれ、細胞を5LのBraun-B発酵槽(実容積3L)に接種した。発酵の開始時点で、発酵培地は110g/Lのデキストロースを含む。発酵培地のpHを3.0に保つために、必要に応じて、水酸化カリウムを加える。発酵温度は30℃である。酸素の消費速度を5〜6mmmol/L-hrに保つために、適宜酸素を加える。
株CD1436は0.77 g/L-hrの速度でラクタートを生産し、最終収率は69%であった。株CD1496は0.83 g/L-hrの速度でラクタートを生産し、最終収率は64%であった。株CD1436とCD1496は、それぞれ0.8g/Lと0.0g/Lのピルベートを生産し、それぞれ18g/Lと23g/Lのグリセロールを生産した。いずれも測定可能量のアセテート(酢酸塩又はエステル)は生産しなかった。
実施例7K:CD1436(実施例7H)及びその親株CD1184(実施例7E)のpH3発酵
株CD1436とその親株CD1184を、別々に、pH3.0に緩衝された条件で発酵させた。それぞれ、細胞を5LのBraun-B発酵槽(実容積3L)に接種した。発酵の開始時点で、発酵培地は130g/Lのデキストロースを含む。発酵培地のpHを3.0に保つために、適宜水酸化カリウムを加える。発酵温度は30℃である。酸素の消費速度を2 mmmol/L-hrに保つために、適宜酸素を加える。
160時間の培養後、株CD1436は66 g/Lのラクタートを生産し、株CD1184はたったの56 g/Lのラクタートを生産した。また株CD1436はCD1184よりも高い容積速度で乳酸を生産した(0.35 g/Lに対して0.43 g/L)。更に、株CD1436は、アセテートやピルベートの蓄積は無かったのに対し、株CD1184は約1 g/Lのピルベートと3 g/Lのアセテートを生産した。株CD1436は、グルコースに対する乳酸の全収率は約67%であり、親株は約69%であった。株CD1436はCD1184よりも多くのグリセロールを生産した。
実施例8A:外来性D-LDH遺伝子カセットを有するK. marxianus株からのDLD1遺伝子の削除
野生型K. marxianus株のDLD1遺伝子の3'下流領域を、NarI/SalIの認識配列を導入して、配列番号71と72のプライマーと鋳型としてゲノムDNAを用いてPCRで増幅した。増幅した領域を、プラスミドpMM31(実施例3B)に連結し、プラスミドpMM44(図13)とした。野生型K. marxianus株のDLD1遺伝子の5'下流領域を、XmaI/NcoIの認識配列を導入して、配列番号73と74のプライマーと鋳型としてゲノムDNAを用いてPCRで増幅した。増幅した領域を、プラスミドpMM31(実施例3B)に連結し、プラスミドpMM45(図14)とした。
配列番号71と75のプライマーを用いてプラスミドpMM44から断片を増幅した。配列番号74と76のプライマーを用いてプラスミドpMM45から別の断片を増幅した。これらの増幅産物(pMM44からの断片は約2.8kbp、pMM45からの断片は約2.5kbp)を、ゲルで精製し、これを、国際公開WO 03/102152に記載の方法と同様の方法で作製された、外来性D-LDH遺伝子カセット(及び完全なPDC遺伝子を含む)を含むK. marxianus株を形質転換するために用いた。4時間の回収後、細胞をYNB 2%メリビオース+32 mg/L XaGalプレートに撒いた。
これらの形質転換体は、配列番号77と78のプライマーを用いたインサイドアウトコロニーPCRを用いて、DLD1遺伝子座におけるこの形質転換されたDNAの相同組換えのために、スクリーニングされる。これらのプライマーは、それぞれ、増幅5’領域の上流領域に相同のものと、選択マーカーScMEL1のコード領域に相同のものである。スクリーニングされた32個の形質転換体のうち3つが、予想された1.8kbのPCR産物を与えた。これらを単一コロニー分離物のために画線培養した。
配列番号74と77のプライマーを用いて、3つの陽性形質転換体のうちの2つの単一コロニー分離物からのゲノムDNAから、完全なDLD1遺伝子座を増幅した。全ての単一コロニー分離物は、予想されたDLD1遺伝子がノックアウトされた産物を生成した。これらの株のうちの一つをCD1603と名付ける。
株CD1603とその親株を、別々に、唯一の炭素源としての2% D-乳酸を含むYNBプレートに画線培養した。この親株はこの培地上でよく増殖したが、株CD1603は無視できる程度の増殖しか示さなかった。
株CD1603とその親株を、実施例5Aに記載の一般的方法で、別々に、培養した。培養期間中、乳酸と副産物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。親株に比べて株CD1603は、乳酸生産が改善されていた。株CD1603の乳酸生産速度と乳酸力価は、両方とも親株より高かった。
実施例8B:CD1603(実施例8A)及びその親株のpH3発酵
CD1603とその親株を、別々に、pH3.0に緩衝された条件で発酵させた。それぞれ、細胞を5LのBraun-B発酵槽(実容積3L)に接種した。発酵の開始時点で、発酵培地は90g/Lのデキストロースを含む。発酵培地のpHを3.0に保つために、必要に応じて、水酸化カリウムを加える。発酵温度は30℃である。酸素の消費速度を5〜6mmmol/L-hrに保つために、適宜酸素を加える。
株CD1603は0.58 g/L-hrの速度でラクタートを生産し、最終収率は69%であった。株CD1603は、ピルベートを収率0.8%で生産し、グリセロールを収率7.3%で生産した。親株は、0.09 g/L-hrの速度でラクタートを生産し、最終収率は68%であった。親株は、ピルベートを収率21%で生産し、グリセロールを収率6.9%で生産した。これらの値は、親株が、生産したラクタートを消費して、ピルベートに変換していることを示す。更に、親株は、アセテートを収率15%で生産した。
実施例9:外来性LhLDH遺伝子と外来性G418遺伝子カセットを有するS. bulderi酵母細胞の作製
S. bulderiは、天然株として、唯一の炭素源としてのラクタート上で増殖する能力を欠く酵母である。S. bulderi TEF1遺伝子上流の約1kbpの配列をはっきりさせるために、配列番号85と86のプライマーを、the Universal Gene Walking kit (BD BioSciences Clontech, Pal Alto, CA, Catalog No. K1807-1)から得たAP1と共にウオーキングに用いた。その上流配列である850bpの配列を、配列番号87と88のプライマー上のSacI/XbalIのクローニングサイトを用いて、LhLDH遺伝子の上流にクローニングして、プラスミドpCM149を作製した(図15)。プラスミドpCM149は、順に、LhLDH遺伝子、Saccharomyces exigus PGI ターミネーター、ScPDC1プロモーターとScGal10ターミネーターの制御下にあるG418遺伝子カセットを含む。SePGI ターミネーターは、S. exigusのゲノムDNAを配列番号89と90のプライマーを用いて増幅することにより得た。G418遺伝子カセットは、国際公開WO 03/102152の実施例1A(図4)に記載されている。
野生型S. bulderi(ATCC 株MYA-403)の細胞を、標準酢酸リチウム法を用いて、プラスミドpCM149で形質転換した。これらの形質転換体を、YPD+300mg/L G418に撒いた。LASSO分析を行ったところ、そのうち3つの形質転換体は微弱な紫色の輝度部分を示し、乳酸を産生していることを示した。これら3つの株を、別々に、YPD振盪フラスコに接種したところ、3つ全てが乳酸を産生していることが分った。3つ全ての株は、約24時間の培養後、5〜7 g/Lの乳酸を産生した。親の野生株は乳酸を全く産生しなかった。
pMM22プラスミドを示す地図である。 pMM28プラスミドを示す地図である。 pMM35プラスミドを示す地図である。 pBH76プラスミドを示す地図である。 pMM38プラスミドを示す地図である。 pMI318プラスミドを示す地図である。 pMI321プラスミドを示す地図である。 pMI355プラスミドを示す地図である。 pMI356プラスミドを示す地図である。 pMI433プラスミドを示す地図である。 pMI449プラスミドを示す地図である。 pMI454プラスミドを示す地図である。 pMM44プラスミドを示す地図である。 pMM45プラスミドを示す地図である。 pCM149プラスミドを示す地図である。

Claims (11)

  1. (a)少なくとも一つの機能性外来性乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子がゲノムに組み込まれ、かつ(b)少なくとも一つの固有のL−又はD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が欠失した又は破壊された遺伝子組換え酵母細胞。
  2. (a)少なくとも一つの機能性外来性L−乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子がゲノムに組み込まれ、かつ(b)少なくとも一つの固有のL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素(CYB2)遺伝子が欠失した又は破壊された請求項1に記載の遺伝子組換え酵母細胞。
  3. 前記欠失し又は破壊されたL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が、配列番号1、配列番号79若しくは配列番号81の配列を有する遺伝子又はこれらいずれかの遺伝子に少なくとも40%相同の遺伝子である請求項2に記載の遺伝子組換え酵母細胞。
  4. 前記欠失し又は破壊されたL−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が、配列番号2、配列番号80若しくは配列番号82のアミノ酸配列を有する酵素、又はこれらいずれかのアミノ酸配列に少なくとも40%相同のアミノ酸配列を有する酵素をコードする請求項2に記載の遺伝子組換え酵母細胞。
  5. (a)少なくとも一つの機能性外来性D−乳酸脱水素酵素(LDH)遺伝子がゲノムに組み込まれ、かつ(b)少なくとも一つの固有のD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素(DLD1)遺伝子が欠失した又は破壊された請求項1に記載の遺伝子組換え酵母細胞。
  6. 前記欠失し又は破壊されたD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が、配列番号83(野生型K. marxianus株のD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素(DLD1)遺伝子)、S. cerevisiaeのDLD1遺伝子、I. orientalisのDLD1遺伝子、又はこれらいずれかの遺伝子に少なくとも40%相同の遺伝子である請求項5に記載の遺伝子組換え酵母細胞。
  7. 前記欠失し又は破壊されたD−ラクタート:フェリチトクロームC酸化還元酵素遺伝子が、配列番号84のアミノ酸配列を有する酵素、S. cerevisiaeのDLD1遺伝子でコードされたタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質、I. orientalisのDLD1遺伝子でコードされたタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質、又はこれらいずれかのアミノ酸配列に少なくとも40%相同のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする請求項5に記載の遺伝子組換え酵母細胞。
  8. 更に、少なくとも一つのピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子が欠失した又は破壊された請求項1〜7のいずれか一項に記載の遺伝子組換え酵母細胞。
  9. Candida、Saccharomyces、Shizosaccharomyes、Kluyveromyces、Pichia、Issachenkia又はHansenula属の細胞である請求項1〜8のいずれか一項に記載の遺伝子組換え酵母細胞。
  10. K. marxianus、S. cerevisiae、C. sonorensis、S.bulderi又はI. orientalis種の細胞である請求項9に記載の遺伝子組換え酵母細胞。
  11. 請求項1〜10のいずれか一項に記載の遺伝子組換え酵母細胞を、発酵性の糖を含む発酵ブロス中で発酵条件下で培養することから成る、乳酸又はその塩を製造する方法
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