以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る船外機のシフト制御装置における一実施の形態が適用された船外機等を、一部を破断して示す側断面図である。図2は、図1のシフト機構の駆動部を示す側面図である。図5は、図1のシフト機構のドッグクラッチを含む領域を示す側断面図である。
図1に示す船外機10はエンジンホルダ12を備え、このエンジンホルダ12にエンジン11が搭載される。エンジンホルダ12の下部にオイルパンブロック13、ドライブシャフトハウジング14及びギアケース15が順次組み付けられている。図中符号16は、エンジン11及びエンジンホルダ12を覆うエンジンカバーである。
船外機10は、スイベルブラケット17により水平方向に回動自在に支持され、このスイベルブラケット17がスイベルシャフト18を介してクランプブラケット19に対し鉛直方向に回動自在に支持され、クランプブラケット19が船体の船尾部20に固定される。これにより、船外機10は、船体に対し、水平方向及び鉛直方向に旋回可能に取り付けられる。
エンジン11は、そのクランクシャフト(不図示)を鉛直方向に向けて縦置きに設置される。このエンジン11におけるクランクシャフトの回転力は、エンジンホルダ12、オイルパンブロック13、ドライブシャフトハウジング14及びギアケース15内を鉛直方向に延在するドライブシャフト21に伝達される。このドライブシャフト21の下端部には、図5に示すように駆動用ベベルギア22が固定される。この駆動用ベベルギア22は、ギアケース15内で水平方向に配置されたプロペラシャフト23に回転自在に遊嵌された前進ギア24及び後進ギア25に常時噛み合う。
また、プロペラシャフト23には、一端部にプロペラ26が固定されると共に、ドッグクラッチ27が回転一体、且つ軸方向にスライド可能に嵌合される。このドッグクラッチ27が前進ギア24または後進ギア25に噛み合うことで、ドライブシャフト21及び駆動用ベベルギア22を介して前進ギア24及び後進ギア25に伝達されたエンジン11のクランクシャフトの回転力は、ドッグクラッチ27を介してプロペラシャフト23へ伝達され、プロペラ26が正転または逆転する。これにより、船体は前進(フォワード)側または後進(リバース)側の推進力を得る。
さて、このような船外機10は、図1に示すように、シフト用電動アクチュエータ(シフト用電動モータ)28の駆動によりシフト機構29を動作させて、シフトポジション(フォワードポジション、ニュートラルポジション、リバースポジション)の切換を実行するシフト制御装置30を備える。このシフト制御装置30は、リモコンボックス31、ボートコントロールユニット32、エンジンコントロールユニット33及びシフト機構29を有してなる。シフト機構29は、駆動部34、リンク機構部35、クラッチロッド36、シフトロッド37、シフトスライダ38、ドッグクラッチ27、前進ギア24及び後進ギア25を備えてなる。
リモコンボックス31は、船体の操縦席付近に設置され、シフトポジションを切り換えるシフト操作用、及びエンジン11におけるスロットルバルブの開度を調整するスロットル操作用の操作レバー39を備える。この操作レバー39の操作範囲は、ニュートラル(N)位置を中心にフォワード(F)位置からリバース(R)位置までのシフト範囲aと、このシフト範囲aの外側のスロットル範囲bに区分される。リモコンボックス31には、操作レバー39の位置情報を検出するレバーポジションセンサ40が設置されている。
レバーポジションセンサ40が検出した操作レバー39の位置情報は、船側の情報を一括管理するボートコントロールユニット32へ送信される。このボートコントロールユニット32は、操作レバー39がシフト範囲aにあるときにシフト駆動指令信号Cを、操作レバー39がスロットル範囲bにあるときにスロットル駆動指令信号Dをエンジンコントロールユニット33へ送信する。このエンジンコントロールユニット33は、船外機10におけるエンジンカバー16内に設置される。そして、エンジンコントロールユニット33は、シフト駆動指令信号Cによりシフト用電動アクチュエータ28へ駆動指令信号A1を出力し、スロットル駆動指令信号Dによりスロットル用駆動アクチュエータ(スロットル用電動モータ)41へ駆動指令信号B1を出力する。
スロットル用電動アクチュエータ41は、減速機構42を介してエンジン11の吸気系のスロットルバルブ43の開度を調整するものである。エンジンコントロールユニット33は、スロットルバルブ43の開度を検出する図示しないセンサからの開度信号B2を受信することで、スロットルバルブ43の開度をフィードバック制御し、エンジン11の回転数を調整する。
シフト機構29の駆動部34は、シフト用電動アクチュエータ28のほかに、このシフト用電動アクチュエータ28に連結された減速機構44を備え、この減速機構44がリンク機構部35を介してクラッチロッド36に連結される。リンク機構部35は、図2〜図4に示すように、減速機構44に結合されたクラッチアーム45と、エンジンホルダ12、及びこのエンジンホルダ12に支持されたクラッチホルダ46に回転自在に配置されたクラッチシャフト47と、このクラッチシャフト47の一端側に固定されたクラッチレバー48と、クラッチアーム45とクラッチレバー48とを回転自在に連結するクラッチレバーリンク49とを有する。更に、このリンク機構部35は、クラッチシャフト47の下端に回転一体に結合されたクラッチシャフトアーム50と、クラッチロッド36に回転一体に結合されたクラッチシャフトレバー51(図4)と、クラッチシャフトアーム50とクラッチシャフトレバー51とを回転自在に連結するクラッチシャフトリンク52とを有する。
図1に示すように、クラッチロッド36の下端にシフトロッド37が回転一体に結合され、このシフトロッド37の下端に、図5に示すシフトヨーク53が回転一体に結合される。図1及び図2に示すシフト機構29の駆動力は、減速機構44、上記リンク機構部35のクラッチアーム45、クラッチレバーリンク49、クラッチレバー48、クラッチシャフト47、クラッチシャフトアーム50、クラッチシャフトリンク52及びクラッチシャフトレバー51を介し、更にクラッチロッド36を介してシフトロッド37を回動させ、図5に示すシフトヨーク53を回動させる。このシフトヨーク53はシフトスライダ38に嵌合されて、シフトヨーク53の回動がシフトスライダ38の軸方向(即ちプロペラシャフト23の軸方向)の往復運動に変換される。このシフトスライダ38は、プロペラシャフト23にディテント機構54を有して内装されたコネクタピン55を介して、ドッグクラッチ27のピン56に連結される。コネクタピン55は、シフトスライダ38に軸回りに回転自在に嵌合されている。
このドッグクラッチ27は、図7に示すように円筒形状に形成され、内側にスプライン60が形成され、軸心に直交する位置に、ピン56が挿通されるピン穴61が穿設されている。そして、このドッグクラッチ27の両端側に噛合爪57R、57Lが複数、それぞれ等間隔に形成されている。このドッグクラッチ27は、図5及び図8に示すように、ピン56がプロペラシャフト23の長孔62内を挿通した状態で、プロペラシャフト23の外周にスプライン60を用いて、軸方向に移動可能にスプライン結合される。
また、前進ギア24または後進ギア25は、ドライブシャフト21の駆動用ベベルギア22に噛み合う歯63が外周側に形成されると共に、図6に示すように、内周側に複数の噛合爪58または59が形成される。図6には、前進ギア24または後進ギア25の歯63は省略されている。
従って、図5に示すように、シフトスライダ38の軸方向の移動によってドッグクラッチ27が軸方向に移動し、このドッグクラッチ27の噛合爪57Rが前進ギア24の噛合爪58に噛み合うフォワードポジション、またはドッグクラッチ27の噛合爪57Lが後進ギア25の噛合爪59に噛み合うリバースポジション、またはドッグクラッチ27の噛合爪57R及び57Lが前進ギア24の噛合爪58及び後進ギア25の噛合爪59に噛み合わないニュートラルポジションのいずれかに、シフトポジションが切り換えられる。フォワードポジションへの切換によりプロペラ26が正転して船体が前進し、リバースポジションへの切換によりプロペラ26が逆転して船体が後進し、ニュートラルポジションへの切換により、プロペラ26への回転力の伝達が遮断されて船体が停止する。
図2に示すように、シフト機構29におけるリンク機構部35のクラッチシャフト47には、その一端にシフトポジションセンサ64が回転一体に結合されている。このシフトポジションセンサ64は、クラッチシャフト47の回転量を検知することで、ドッグクラッチ27の位置を間接的に検出する。なお、シフトポジションセンサ64は、シフト機構29のその他の場所に設けることもできる。
図1に示すエンジンコントロールユニット33は、ボートコントロールユニット32からのシフト駆動指令信号Cを受信することで、シフト用電動アクチュエータ28へ駆動指令信号A1を出力する。更にこのエンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64からの出力値であるドッグクラッチ27の位置検出信号A2を受信することで、ドッグクラッチ27の位置をフィードバック制御し、このドッグクラッチ27の検出位置がシフトポジションの目標位置に到達するまでシフト用電動アクチュエータ28を駆動して、シフトポジションの切換を実行する。ここで、シフトポジションの目標位置、特にフォワードポジションとリバースポジションの目標位置は、図5に示すドッグクラッチ27の噛合爪57Rが前進ギア24の噛合爪58に、またはドッグクラッチ27の噛合爪57Lが後進ギア25の噛合爪59に、それぞれ最適な噛み合い量で噛み合うように設定されている。
ところが、図1に示すシフトポジションセンサ64とドッグクラッチ27との間に介在するリンク機構部35、クラッチロッド36、シフトロッド37、シフトスライダ38等の公差や製造・組付けばらつき、シフトポジションセンサ64のばらつきなどの影響で、シフトポジションセンサ64によるドッグクラッチ27の位置検出値が、フォワードポジションまたはリバースポジションのそれぞれの目標位置に到達している場合であっても、実際のドッグクラッチ27の噛合爪57R、57Lが前進ギア24の噛合爪58、後進ギア25の噛合爪59にそれぞれ最適に噛み合っていない不具合が生ずることがある。
例えば、シフト機構29のクラッチシャフトアーム50(図2)とクラッチシャフト47との連結部が摩耗した場合、クラッチシャフト47に連結されたシフトポジションセンサ64の出力値がシフトポジションの目標位置に到達したとしても、クラッチシャフトアーム50側に連結されたシフトロッド37(図1)は、摩耗相当分必要回転量が得られず、このシフトロッド37により操作されるドッグクラッチ27が、前進ギア24、後進ギア25に対し噛み合い不良や浅掛け状態となってしまうことがある。
そこで、船外機10のシフト制御装置30は、後述の突き当て位置検出制御を実行して、フォワードポジション及びリバースポジションの目標位置を変更して決定し、フォワードポジションにおいてドッグクラッチ27の噛合爪57R(図5)と前進ギア24の噛合爪58とが最適な噛み合い量で噛み合い、ドッグクラッチ27の噛合爪57Lと後進ギア25の噛合爪59とが最適な噛み合い量で噛み合うようにそれぞれ調整する。
つまり、図1に示すエンジンコントロールユニット33は、シフト用電動アクチュエータ28を駆動してシフト機構29のドッグクラッチ27を移動させ、このドッグクラッチ27の噛合爪57Rが前進側要素としての前進ギア24の噛合爪58に突き当たる位置(図8参照)、及びドッグクラッチ27の噛合爪57Lが後進側要素としての後進ギア25の噛合爪59に突き当たる位置をそれぞれ検出し、この検出値を基準値として記憶する突き当て位置検出制御を実行する。更に、このエンジンコントロールユニット33は、突き当て位置検出制御により記憶された基準値に基づいてシフトポジション、特にフォワードポジションとリバースポジションの目標位置を決定する。このエンジンコントロールユニット33は、突き当て位置検出制御の動作中、警告灯やブザーなどの第1告知手段(図12のS6参照)によりその旨を告知する。
エンジンコントロールユニット33は、上記突き当て位置検出制御に際し、図9に示すように、エンジン11の運転中にあってはメインスイッチのOFF信号を検出し、エンジン11が停止状態となったことを、内蔵のエンスト(エンジンストップ)判定タイマがエンスト判定時間T1の経過をカウントダウンすることで確認し、これを条件としてシフト用電動アクチュエータ28を駆動し、目標のシフトポジションとすべくドッグクラッチ27を移動させる。また、エンジンコントロールユニット33は、エンジン11の停止状態にあってはメインスイッチをON状態とし、エンジン11が停止状態にあることを上述の如くエンスト判定タイマを用いて確認し、これを条件としてシフト用電動アクチュエータ28を駆動し、目標のシフトポジションとすべくドッグクラッチ27を移動させる。
この突き当て位置検出制御にあっては、エンジンコントロールユニット33はシフト用電動アクチュエータ28を駆動させて、シフトポジションをフォワードポジション(F)、ニュートラルポジション(N)、リバースポジション(R)、ニュートラルポジション(N)に順次切り換える。これらの各シフトポジションにおいて、ドッグクラッチ27の位置はシフトポジションセンサ64を用いて間接的に検出される。
シフト用電動アクチュエータ28の駆動に伴いドッグクラッチ27が移動すると、シフトポジションセンサ64の出力値(ドッグクラッチ27の位置検出値)は徐々に変化するが、例えばシフトポジションがフォワードポジションの場合、図8に示すように、ドッグクラッチ27の噛合爪57Rが前進ギア24の噛合爪58に突き当たると、シフトポジションセンサ64の出力値は一定となり、シフト用電動アクチュエータ28の負荷が増大して当該アクチュエータ28が停止状態となる。
エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値(ドッグクラッチ27の位置検出値)が、所定時間としての突き当て判定時間T2において一定位置であることを、内蔵の停止判定タイマが突き当て判定時間T2の経過をカウントダウンすることで確認する(第1の確認)。また、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値が突き当て判定時間T2において一定値となった状態が、シフトポジションをフォワードポジションとすべくシフト用電動アクチュエータ28を駆動させたときから、予め設定された判定時間である判定タイマ設定時間T3内に生じたものであることを確認する(第2の確認)。更にエンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値であるドッグクラッチ27の位置検出値Xfが、図10に示す許容上限値Yfと許容下限値Zfにより規定される許容範囲Sf内の値であることを確認する(第3の確認)。
エンジンコントロールユニット33は、上述の第1、第2及び第3の確認を全て実行したときに、ドッグクラッチ27の噛合爪57Rが前進ギア24の噛合爪58に突き当たったものと判定し、そのときのシフトポジションセンサ64の出力値(ドッグクラッチ27の位置検出値)をフォワード側基準値として記憶し、図9に示すフォワード検出値記憶フラグをONとする。
エンジンコントロールユニット33は、フォワード検出値記憶フラグをONとした後に、シフトポジションをニュートラルポジション(N)に設定すべくシフト用電動アクチュエータ28を駆動して、ドッグクラッチ27を移動させる。エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値がニュートラルポジションの目標位置に到達して一定値となってから、所定のニュートラル判定時間T4が経過したことを、内蔵の停止判定タイマをカウントダウンすることによって確認する。
この確認後、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションをリバースポジション(R)に設定すべくシフト用電動アクチュエータ28を駆動して、ドッグクラッチ27を移動させる。このシフト用電動アクチュエータ28の駆動中にシフトポジションセンサ64の出力値(ドッグクラッチ27の位置検出値)は徐々に変化するが、ドッグクラッチ27の噛合爪57Lが後進ギア25の噛合爪59に突き当たると、シフトポジションセンサ64の出力値は一定値となり、シフト用電動アクチュエータ28の負荷が増大して、当該アクチュエータ28が停止状態となる。
エンジンコントロールユニット33は、フォワード時と同様にして、シフトポジションセンサ64の出力値が突き当て判定時間T2において一定値であることを、内蔵の停止判定タイマが突き当て判定時間T2の経過をカウントダウンすることで確認する(第1の確認)。また、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値が突き当て判定時間T2において一定値となった状態が、シフトポジションセンサをリバースポジションとすべくシフト用電動アクチュエータ28を駆動させたときから、判定タイマ設定時間T3内に生じたものであることを確認する(第2の確認)。更にエンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値であるドッグクラッチ27の位置検出値Xrが、図10に示す許容上限値Yrと許容下限値Zrによって規定される許容範囲Sr内の値であることを確認する(第3の確認)。
エンジンコントロールユニット33は、上述の第1、第2及び第3の確認を全て実行したときに、ドッグクラッチ27の噛合爪57Lが後進ギア25の噛合爪59に突き当たったものと判定し、そのときのシフトポジションセンサ64の出力値(ドッグクラッチ27の位置検出値)をリバース側基準値として記憶し、図9に示すリバース検出値記憶フラグをONとする。
このリバース検出値記憶フラグをONとした後、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションをニュートラルポジション(N)に設定すべくシフト用電動アクチュエータ28を駆動して、ドッグクラッチ27を移動させる。エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値がニュートラルポジションの目標位置に到達して一定値となってからニュートラル判定時間T4が経過したことを、停止判定タイマを用いて前述と同様に確認し、突き当て位置検出制御を完了する。
ここで、シフトポジションセンサ64の出力値が一定値となる時間が突き当て判定時間T2以下である場合には、ドッグクラッチ27の噛合爪57Rが前進ギア24の噛合爪58以外に、またはドッグクラッチ27の噛合爪57Lが後進ギア25の噛合爪59以外にそれぞれ突き当たったものと考えられる。また、シフトポジションセンサ64の出力値であるドッグクラッチ27の位置検出値Xfが許容上限値Yf以上となった場合には、ドッグクラッチ27の噛合爪57Rと前進ギア24の噛合爪58が噛み合ってしまったと考えられる。また、同様に、ドッグクラッチ27の位置検出値Xrが許容上限値Yr以上となった場合には、ドッグクラッチ27の噛合爪57Lと後進ギア25の噛合爪59とが噛み合ってしまったと考えられる。
更に、シフトポジションセンサ64の出力値であるドッグクラッチ27の位置検出値Xfが許容下限値Zf以下となり、またドッグクラッチ27の位置検出値Xrが許容下限値Zr以下となった場合には、摩擦などの機械的要因によって、シフト用電動アクチュエータ28が正常に動作しなかったものと考えられる。また、シフトポジションセンサ64の出力値が突き当て判定時間T2において一定値となった状態が、判定タイマ設定時間T3内において実現できなかった場合には、シフト用電動アクチュエータ28やシフト機構29等に何らかの不具合が発生したものと考えられる。
従って、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値であるドッグクラッチ27の位置検出値Xf、Xrがそれぞれ許容範囲Sf、Sr外の値となったとき、または、判定タイマ設定時間T3内において、シフトポジションセンサ64の出力値が突き当て判定時間T2の時間一定値とならなかったときには、このドッグクラッチ27の位置検出値Xf、Xrを基準値として記憶しない。この場合、エンジンコントロールユニット33は、突き当て位置検出制御が失敗であることを、警告灯やブザーなどの第2告知手段(図12のS13参照)を用いて告知する。
尚、この第2告知手段は、前記第1告知手段とは異なったものとするのが好ましい。この第2告知手段による告知は、後述の部品交換などの後に特定のスイッチを操作して突き当て位置検出制御を実行した場合に、再実行を促すなど特に有効である。
また、上述の突き当て位置検出制御において、エンジン11の停止を条件として制御を実行する理由は、ドライブシャフト21の駆動により前進ギア24及び後進ギア25が回転している場合には、シフト用電動アクチュエータ28の駆動によりドッグクラッチ27を移動したときに、このドッグクラッチ27の噛合爪57Rが前進ギア24の噛合爪58に、ドッグクラッチ27の噛合爪57Lが後進ギア25の噛合爪59にそれぞれ噛み合ってしまい、噛合爪57Rと58との突き当て、噛合爪57Lと59との突き当てによるそれぞれの突き当て位置検出制御が実行できなくなるからである。
更に、突き当て位置検出制御において、メインスイッチのOFF信号の検出を条件としたのは、メインスイッチのOFF操作はユーザーが船外機10の運転を完全に止めたことを示す動作であり、操船に影響のないこの状態で突き当て位置検出制御を実行することで、ユーザーによる意図しない動作の介入を未然に防止するためである。突き当て位置検出制御中にユーザーが船外機10の運転意思を示すメインスイッチのON操作を実行したときには、当該突き当て位置検出制御を直ちに中止し、シフトポジションをニュートラルポジションに設定する。
また、上述の突き当て位置検出制御を実行するためには、バッテリ電圧が規定値以内である条件と、エンジン11の壁面温度が規定値以内である条件とを加えることが好ましい。バッテリ電圧が規定値以内であれば、シフト用電動アクチュエータ28の駆動電圧が低くなって当該アクチュエータ28の動作が不安定となる事態を回避でき、安定した突き当て位置検出制御を実現できるからである。また、エンジン11の壁面温度が規定値以内であれば、ギアケース15内の潤滑油の温度が適正温度となってその粘度が過大にならず、ドッグクラッチ27の移動を安定して実現できるからである。
以上のような突き当て位置検出制御により検出され、フォワード側基準値として記憶されたシフトポジション64の出力値、つまりドッグクラッチ27の位置検出値Xfに、図10に示すように、ドッグクラッチ27の噛合爪57Rと前進ギア24の噛合爪58との最適噛み合い量Lfを加算して、フォワードポジションの目標位置Wfを決定する。同様に、突き当て位置検出制御により検出され、リバース側基準値として記憶されたシフトポジション64の出力値、つまりドッグクラッチ27の位置検出値Xrに、ドッグクラッチ27の噛合爪57Lと後進ギア25の噛合爪59との最適噛み合い量Lrを加算して、リバースポジションの目標位置Wrを決定する。
このような突き当て位置検出制御からシフトポジションの目標位置決定までの動作は、メインスイッチのOFF信号検出毎、船外機10の所定の運転時間経過毎、部品交換等の後における特定スイッチの操作毎等にそれぞれ実施されるが、これらの時期に限定されるものではない。
[A]メインスイッチのOFF信号検出毎に実行
最初に、メインスイッチのOFF操作毎に実行する突き当て位置検出制御からシフトポジションの目標位置決定までの動作を、図11及び図12のフローチャートを用いて説明する。メインスイッチのOFF信号検出毎に本動作を実施することで、シフトポジションの目標位置を、シフト機構29等の経年変化などに確実に追従させることが可能となる。
エンジンコントロールユニット33は、図11に示すように、まずメインスイッチのOFF信号を検出したか否かを判定し(S1)、この信号を検出したときにエンジン11が停止したか否かを判定し(S2)、エンジン11が停止したときにバッテリ電圧が規定値以内にあるか否かを判定し(S3)、この規定値以内にあるときに、エンジン11の壁面温度が規定値以内にあるか否かを判定し(S4)、この規定値以内にあるときに、突き当て位置検出制御を実行する(S5)。
エンジンコントロールユニット33は、上記ステップS1〜S4において、メインスイッチのOFF信号が検出されないとき、エンジン11が停止していないとき、バッテリ電圧が規定値以内にないとき、エンジン11の壁面温度が規定値以内にないときの各場合に、本動作を終了する。
ステップS5の突き当て位置検出制御は、図12に示すステップS6〜S17を実行することで実施する。
つまり、エンジンコントロールユニット33は、まず第1告知手段を動作させて、突き当て位置検出制御の実行中をユーザーなどに告知する(S6)。次に、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションをフォワードポジションにすべくシフト用電動アクチュエータ28を駆動し(S7)、ドッグクラッチ27をフォワードポジションの目標位置へ向かって移動させる(S8)。
次に、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値が突き当て判定時間T2の時間一定値を保って、シフト用電動アクチュエータ28がこの時間停止状態にあるか否かを、停止判定タイマ(S9)のカウントダウンが0になったか否かで判定し、更に、このシフト用電動アクチュエータ28の回転停止が、判定タイマ設定時間T3内になされているか否かを判定する(S9)。これらの条件を満たしたときに、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値であるドッグクラッチ27の位置検出値を読み取る(S10)。
次に、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションセンサ64の出力値であるドッグクラッチ27の位置検出値Xfが許容範囲Sf内にあるか否かを判定し(S11)、この許容範囲Sf内にあるときに、その位置検出値をフォワード側基準値として記憶する(S12)。この記憶後、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションをニュートラルポジションに切り換えるべく、シフト用電動アクチュエータ28を駆動する(S14)。
ステップS9において判定タイマ設定時間T3内にカウントダウンが0にならず、シフトポジションセンサ64の出力値が、判定タイマ設定時間T3内において突き当て判定時間T2の時間一定値を保っていなかった場合、またはステップS11においてシフトポジションセンサ64の出力値であるドッグクラッチ27の位置検出値が許容範囲Sf外にあるときには、フォワードポジション側の突き当て位置検出が失敗した旨を、第2告知手段を用いてユーザー等に告知する(S13)。
エンジンコントロールユニット33は、ステップS14を実行してシフトポジションをニュートラルポジションに一旦設定した後、リバースポジションに設定すべくシフト用電動アクチュエータ28を駆動する(S15)。その後、エンジンコントロールユニット33は、ステップS8〜S13を実行する。
但しこの場合、エンジンコントロールユニット33は、ステップS8において、ドッグクラッチ27をリバースポジションの目標位置に向かって移動させ、ステップS11において、シフトポジションセンサ64の出力値であるドッグクラッチ27の位置検出値Xrが許容範囲Sr内にあるか否かを判定する。更にエンジンコントロールユニット33は、ステップS12において、シフトポジションセンサ64の出力値であるドッグクラッチ27の位置検出値Xrが許容範囲Sr内にあるときに、この位置検出値Xrをリバース側基準値として記憶する。
リバースポジション側での突き当て位置検出制御の終了後、エンジンコントロールユニット33は、シフトポジションをニュートラルポジションに切り換え(S16)、第1告知手段の動作を終了して(S17)、突き当て位置検出制御(図11のS5)を完了する。
エンジンコントロールユニット33は、ステップS12において検出したフォワード側とリバース側のそれぞれの位置検出値(基準値)に、ドッグクラッチ27の噛合爪57Rと前進ギア24の噛合爪58との最適噛み合い量Lf、ドッグクラッチ27の噛合爪57Lと後進ギア25の噛合爪59との最適噛み合い量Lrをそれぞれ加算して、フォワードポジションの目標位置Wf、リバースポジションの目標位置Wrをそれぞれ決定する(S18)。
[B]所定の運転時間の経過毎に実行
次に、所定の運転時間の経過毎に実行する突き当て位置検出制御からシフトポジションの目標位置決定までの動作を、図13のフローチャートを用いて説明する。所定の運転時間経過毎に本動作を実行することで、シフトポジションの目標位置を、シフト機構29等の摩耗の進行などに合わせて決定することが可能となる。
この場合、エンジンコントロールユニット33は、メインスイッチのOFF信号検出(S21)と、エンジン11のストップ判定(S22)とを、図11のステップS1、S2と同様に実行する。ステップS22においてエンジン11が停止していると判定したときに、エンジンコントロールユニット33は、船外機10において所定の運転時間が経過したか否かを判定し(S23)、所定の運転時間が経過していない場合には本動作を終了する。
ステップS23で所定の運転時間が経過した場合に、エンジンコントロールユニット33は、バッテリ電圧が規定値以内にあるか否かの判定、エンジン11の壁面温度が規定値以内にあるか否かの判定を、図11のステップS3、S4と同様に実行する(S24、S25)。その後エンジンコントロールユニット33は、突き当て位置検出制御をステップS5(ステップS6〜S17)と同様に実行し(S26)、次にシフトポジションの目標位置の決定を、ステップS18と同様に実行する(S27)。
[C]部品交換等の後における特定スイッチの操作毎に実行
次に、部品交換等の後に特定のスイッチを操作して実行する突き当て位置検出制御からシフトポジションの目標位置決定までの動作を、図14のフローチャートを用いて説明する。特定スイッチの操作は、通常エンジン停止状態では使用されない、もしくは使用しても本来の機能を果たさない既存のスイッチ、例えばエマージェンシースイッチ等を10秒間に5回ON、OFFする操作などである。この特定スイッチの操作により本動作を実行することで、部品交換等によりシフト機構29に生じた公差や組付けばらつきなどを吸収して、シフトポジションの目標位置を適正化することが可能となる。
この場合、エンジンコントロールユニット33は、メインスイッチのON信号検出(S31)と、エンジン11のストップ判定(S32)とを、図11のステップS1、S2と同様に実行する。ステップS32においてエンジン15が停止していると判定したときに、エンジンコントロールユニット33は、特定のスイッチが操作されたか否かを判定する(S33)。特定のスイッチが操作されていない場合には、エンジンコントロールユニット33は本動作を終了する。
ステップS33で特定のスイッチが操作された場合に、エンジンコントロールユニット33は、バッテリ電圧が規定値以内にあるか否かの判定、エンジン11の壁面温度が規定値以内にあるか否かの判定を、図11のステップS3、S4と同様に実行する(S34、S35)。その後エンジンコントロールユニット33は、突き当て位置検出制御をステップS5(ステップS6〜S17)と同様に実行し(S36)、次にシフトポジションの目標位置の決定を、ステップS18と同様に実行する(S37)。
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果を奏する。
エンジンコントロールユニット33は、ドッグクラッチ27の噛合爪57Rが前進ギア24の噛合爪58に突き当たる位置、及びドッグクラッチ27の噛合爪57Lが後進ギア25の噛合爪59に突き当たる位置をそれぞれ検出し、これらの検出値を、それぞれフォワード側基準値、リバース側基準値として記憶する突き当て位置検出制御を実行する。そして、エンジンコントロールユニット33は、フォワード側基準値に、ドッグクラッチ27の噛合爪57Rと前進ギア24の噛合爪58との最適噛み合い量Lfを加算して、フォワードポジションの目標位置Wfを決定する。またエンジンコントロールユニット33は、リバース側基準値に、ドッグクラッチ27の噛合爪57Lと後進ギア25の噛合爪59との最適噛み合い量Lrを加算して、リバースポジションの目標位置Wrを決定する。突き当て位置検出制御により検出され記憶されたフォワード側基準値、リバース側基準値としての両検出値は、シフト機構29(特にリンク機構部35からドッグクラッチ27まで)の公差や製造・組付けばらつき、経年劣化等を加味したものである。従って、これらの基準値に基づきフォワードポジションの目標位置Wf、リバースポジションの目標位置Wrを決定することで、シフト機構29の公差や製造・組付けばらつき、経年劣化等の影響を受けることなく、前進ギア24及び後進ギア25とドッグクラッチ27との噛み合い量を常に最適に保持することができる。
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、図4に示すように、エンジンホルダ12の下面において回転部材としてのクラッチシャフトレバー51の両側に、前進側突き当て用ボスとしてのフォワード側ボス65と、後進側突き当て用ボスとしてのリバース側ボス66とを設置し、これらのフォワード側ボス65及びリバース側ボス66を用いて突き当て位置検出制御を実行してもよい。
つまり、フォワード側ボス65は、ドッグクラッチ27の噛合爪57Rが前進ギア24の噛合爪58に最適噛み合い量Lfで噛み合ったときにクラッチシャフトレバー51に当接するように設定される。また、リバース側ボス66は、ドッグクラッチ27の噛合爪57Lが後進ギア25の噛合爪59に最適噛み合い量Lrで噛み合ったときにリバース側ボス66に当接するように設置される。従って、クラッチシャフトレバー51がフォワード側ボス65に当接したときのシフトポジションセンサ64の出力値をフォワード側基準値とし、この基準値をフォワードポジションの目標位置Wfとして決定し、また、クラッチシャフトレバー51がリバース側ボス66に当接したときのシフトポジションセンサ64の出力値をリバース側基準値とし、この基準値をリバースポジションの目標位置Wrとして決定してもよい。
また、図8に示すように、ドッグクラッチ27のピン56は、当該ドッグクラッチ27の噛合爪57Rが前進ギア24の噛合爪58に最適噛み合い量Lfで噛み合ったときに、プロペラシャフト23の長孔62を形成する、前進ギア24側の一側面67に当接する。また、ドッグクラッチ27の噛合爪57Lが後進ギア25の噛合爪59に最適噛み合い量Lrで噛み合ったときに、プロペラシャフト23の長孔62を形成する、後進ギア25側の他側面68に当接する。従って、ドッグクラッチ27のピン56が一側面67に当接したときのシフトポジションセンサ64の出力値をフォワード側基準値とし、この基準値をフォワードポジションの目標位置Wfとして決定し、また、ドッグクラッチ27のピン56が他側面68に当接したときのシフトポジションセンサ64の出力値をリバース側基準値とし、この基準値をリバースポジションの目標位置Wrとして決定してもよい。
更に、本実施の形態の突き当て位置検出制御を実行する条件として、エンジン11の停止などのほか、プロペラシャフト23の回転が停止していることを加えてもよい。エンジン11が停止していても船速がある場合には、突き当て位置検出制御を実施すると、ドッグクラッチ27の噛合爪57R、57Lがそれぞれ前進ギア24の噛合爪58、後進ギア25の噛合爪59に噛み合って、船が走行するなどの不具合が生ずる恐れがある。そこで、船速をプロペラシャフト23の回転に換算してエンジンコントロールユニット33に取り込み、プロペラシャフト23が回転している場合に突き当て位置検出制御を実行しないようにしてもよい。