図1はこの発明の実施例1および2に係る船外機およびその制御装置を船体も含めて全体的に示す概略図である。
図1において、符号1は船外機10が船体(艇体)12に搭載されてなる船舶を示す。船外機10は、図示の如く、スターンブラケット14およびチルティングシャフト16を介して船体12の後尾(船尾)12aに装着される。
船外機10は、内燃機関(原動機。以下「エンジン」という(図1で見えず))と、エンジンを被覆するエンジンカバー18を備える。エンジンカバー18の内部空間であるエンジンルームには、エンジンの他に、電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)20が配置される。ECU20はCPU,ROM,RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなり、船外機10の動作を制御する。
また、船外機10は、エンジンからの動力をプロペラ22に伝達する動力伝達軸に介挿されると共に、少なくとも1速、2速からなる変速段を有し、エンジンの出力を変速段のうちの選択された変速段で変速してプロペラ22に伝達する変速機24と、船体12に対するチルト角またはトリム角をチルトアップ/ダウンまたはトリムアップ/ダウンによって調整可能なパワーチルトトリムユニット(アクチュエータ。トリム角調整機構。以下「トリムユニット」という)26を備える。尚、変速機24およびトリムユニット26はECU20によって制御される。
船体12の操縦席28付近には、操船者(図示せず)によって回転操作自在なステアリングホイール30が配置される。ステアリングホイール30のシャフト(図示せず)には操舵角センサ32が取り付けられ、操船者によって入力されたステアリングホイール30の操舵角に応じた信号を出力する。
また、操縦席28付近には、操船者によって操作自在なシフト・スロットルレバー34が設けられる。シフト・スロットルレバー34は、初期位置から前後方向に揺動操作自在とされ、操船者からのシフトチェンジ指示(フォワード(前進)/リバース(後進
)/ニュートラル(中立)切り換え指示)と、エンジン回転数の調節指示(スロットル開度指示)を入力する。
シフト・スロットルレバー34の付近には、レバー位置センサ36が取り付けられ、操船者によるシフト・スロットルレバー34の操作位置(操作角。以下「操作量」ともいう)、正確にはシフト・スロットルレバー34の回転軸の回転角に応じた信号を出力する。
船体12の適宜位置には、GPS(Global Positioning System)信号を受信するGPS受信装置38が配置される。GPS受信装置38は、GPS信号から得られる船舶1の位置情報を示す信号を出力する。尚、操舵角センサ32、レバー位置センサ36およびGPS受信装置38の出力はECU20に入力される。
図2は船外機10の部分断面拡大側面図、図3は船外機10の拡大側面図である。
船外機10は、図2に示すように、スイベルケース48、スターンブラケット14およびチルティングシャフト16を介して船体12の後尾12aに取り付けられる。
スイベルケース48とスターンブラケット14の付近には、トリムユニット26が配置される。
トリムユニット26は、チルト角調整用の油圧シリンダ、トリム角調整用の油圧シリンダおよびこれらの油圧シリンダに油圧回路を介して接続されるチルト/トリム角調整用の電動モータ(いずれも図示せず)を一体的に備える。トリムユニット26は、ECU20からのチルトアップ/ダウン信号またはトリムアップ/ダウン信号に基づいてトリムユニット26の電動モータが駆動され、それによってチルト角調整用またはトリム角調整用の油圧シリンダに作動油が供給されてこれら油圧シリンダを伸縮させる。これにより、スイベルケース48がチルティングシャフト16を回転軸として回転させられ、船外機10はチルトアップ/ダウンあるいはトリムアップ/ダウンさせられる。
トリムユニット26の電動モータはデューティ比駆動(PWM制御)され、トリムアップなどを行うときの単位時間当たりのトリム角の変化量、即ち、トリムアップのスピードは段階的または連続的に可変とされる。
船外機10の上部には、エンジン50が搭載される。エンジン50は火花点火式の水冷ガソリンエンジンで、排気量2200ccを備える。エンジン50は水面上に位置し、エンジンカバー18によって覆われる。
エンジン50の吸気管52には、スロットルボディ54が接続される。スロットルボディ54はその内部にスロットルバルブ56を備えると共に、スロットルバルブ56を開閉駆動するスロットル用電動モータ(アクチュエータ)58が一体的に取り付けられる。
スロットル用電動モータ58の出力軸は減速ギヤ機構(図示せず)を介してスロットルバルブ56に接続され、スロットル用電動モータ58を動作させることでスロットルバルブ56が開閉され、エンジン50の吸気量が調量されてエンジン回転数(機関回転数)が調節される。
船外機10は、鉛直軸回りに回転自在に支持されると共に、上端がエンジン50のクランクシャフトに接続されるメインシャフト(動力伝達軸)60と、水平軸回りに回転自在に支持されると共に、その一端にプロペラ22が取り付けられるプロペラシャフト(動力伝達軸)62と、メインシャフト60とプロペラシャフト62の間に介挿されると共に、前進用に1速、2速からなる変速段と後進用の変速段(リバース)を有する変速機(自動変速機)24とを備える。従って、エンジン50からの動力は、メインシャフト60、変速機24、プロペラシャフト62を介してプロペラ22に伝達可能とされる。
尚、プロペラシャフト62は、トリムユニット26の初期状態(トリム角θが初期角度(0°)の状態)においては、その軸線62aが船舶1の進行方向に対して略平行となるように配置される。
変速機24の後方位置(船体12の進行方向に対して後方(図2において変速機24の左側))には、変速機24を制御する複数の油圧バルブを備えたバルブユニット64が配置される。
メインシャフト60およびバルブユニット64などは、ケース66に収容されると共に、ケース66の下部は作動油を受けるオイルパン66aを構成する。
図4は変速機24の油圧回路を模式的に示す油圧回路図である。
図2および図4に示す如く、変速機24は、メインシャフト(インプットシャフト)60と、メインシャフト60に複数の変速ギヤを介して接続されるカウンタシャフト(アウトプットシャフト)68とが平行に配置された平行軸式の有段式の変速機構からなる。また、メインシャフト60およびカウンタシャフト68はそれぞれ2対のベアリング70a,70bによってケース66に保持される。
変速機24について具体的に説明すると、カウンタシャフト68は、その先端(図2において下方側端部)においてピニオンギヤ72aとベベルギヤ72bを介してプロペラシャフト62が接続(連結)されると共に、メインシャフト60には、図面上からメイン2速ギヤ74、メイン1速ギヤ(前進ギヤまたはメイン前進ギヤ)76、メインドグクラッチ(前進用ドグクラッチ)C1およびメイン後進ギヤ(後進ギヤまたはメイン後進ギヤ)78が支持され、カウンタシャフト68には、図面上から2速用油圧クラッチC2、メイン2速ギヤ74に噛合するカウンタ2速ギヤ80、メイン1速ギヤ76に噛合するカウンタ1速ギヤ(前進ギヤまたはカウンタ前進ギヤ)82、カウンタドグクラッチ(後進用ドグクラッチ)CRおよびメイン後進ギヤ78に噛合するカウンタ後進ギヤ(後進ギヤまたはカウンタ後進ギヤ)84が支持される。
メイン1速ギヤ76は、メインシャフト60に相対回転自在に支持され、カウンタ1速ギヤ82は、メイン1速ギヤ76に噛合し、カウンタシャフト68に相対回転不能に支持される。また、メイン2速ギヤ74は、メインシャフト60に相対回転不能に支持され、カウンタ2速ギヤ80は、メイン2速ギヤ74に噛合し、カウンタシャフト68に相対回転自在に支持される。
メインドグクラッチC1は、メインシャフト60に相対回転不能かつ軸方向移動可能に支持されると共に、一方の軸方向(図4において上方。以下同じ)に所定距離移動するとメイン1速ギヤ76に結合し、メイン1速ギヤ76をメインシャフト60に締結(固定)する。2速用油圧クラッチC2は、カウンタシャフト68を介してエンジン50によって駆動される油圧ポンプ86からの油圧が供給されるとき、カウンタ2速ギヤ80をカウンタシャフト68に締結する。
メイン後進ギヤ78は、メインシャフト60に相対回転不能に支持され、カウンタ後進ギヤ84は、メイン後進ギヤ78に噛合し、カウンタシャフト68に相対回転自在に支持される。
カウンタドグクラッチCRは、カウンタシャフト68に相対回転不能かつ軸方向移動可能に支持されると共に、他方の軸方向(図4において下方。以下同じ)に所定距離移動するとカウンタ後進ギヤ84に結合し、カウンタ後進ギヤ84をカウンタシャフト68に締結する。
尚、カウンタ1速ギヤ82には、メイン1速ギヤ76がメインシャフト60に締結されている状態において、メインシャフト60の回転数が所定回転数以上になると、カウンタシャフト68とカウンタ1速ギヤ82との締結を解除するワンウェイクラッチ82aが内蔵される。従って、メインシャフト60の低回転時は、メイン1速ギヤ76とカウンタ1速ギヤ82がエンジン50からの動力をプロペラ22に伝達するが、メインシャフト60の回転数が上昇し、当該回転数が所定回転数以上になると、ワンウェイクラッチ82aが切れてカウンタシャフト68とカウンタ1速ギヤ82との締結が解除される。
図4に示すように、メインドグクラッチC1は、シフトフォーク90cを介して1速用シフトアクチュエータ(前進用シフトアクチュエータ)90に接続される。1速用シフトアクチュエータ90は、伸縮するアクチュエータであり、伸長するとき、メインドグクラッチC1をメインシャフト60の一方の軸方向に移動させ、収縮するとき、メインドグクラッチC1をメインシャフト60の他方の軸方向に移動させる。
即ち、1速用シフトアクチュエータ90は一方の油室90a(伸長側油室)に油圧が供給されることで伸長し(図4において上方に移動し)、これに伴ってシフトフォーク90cおよびメインドグクラッチC1を上方に移動させる。そして、メインドグクラッチC1が所定距離移動するとメインドグクラッチC1をメイン1速ギヤ76に結合させる。
また、1速用シフトアクチュエータ90は他方の油室(収縮側油室)90bに油圧が供給されることで収縮し(図4において下方に移動し)、メインドグクラッチC1を下方に移動させ、メインドグクラッチC1はいずれのギヤとも結合されずに中立位置に維持される。
メインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合すると、メイン1速ギヤ76はメインドグクラッチC1を介してメインシャフト60に締結されるため、メイン1速ギヤ76はメインシャフト60と共に回転する。
メインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合されたか否かは前進側シフトスイッチからの信号によって判断することができる。図5は前進側シフトスイッチを説明するための船外機の部分断面拡大側面図である。
前進側シフトスイッチ92は、1速用シフトアクチュエータ90の上方(図5において上方)、具体的には、図示の如く、1速用シフトアクチュエータ90のシフトフォーク90cに取り付けられ(より具体的には、シフトフォーク90cの、1速用シフトアクチュエータ90を挟んでメインシャフト60とは反対側の端部付近に取り付けられ)、メインシャフト60と平行に配置された棒状の操作軸90dの先端側に取り付けられる。
前進側シフトスイッチ92は、その下方側に設けられ、外部から力が加わると(図示の配置では下方から力が加わると)、その力を内部に伝達するヘッド部92aと、ヘッド部92aから伝達された力を電気信号に変換して外部に出力するコネクタ部(図示せず)を備える。
ヘッド部92aは操作軸90dの先端部と対向する位置に離間して配置され、1速用シフトアクチュエータ90が所定距離伸長すると、操作軸90dの先端部がヘッド部92aに接触するように構成される。
具体的には、1速用シフトアクチュエータ90が伸長し、シフトフォーク90cを介して取り付けられたメインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合すると、操作軸90dの先端部がヘッド部92aに接触するように構成される。
操作軸90dの先端部がヘッド部92aに接触すると、前進側シフトスイッチ92から接触を検知した旨の信号(オン信号)が外部に出力される。従って、前進側シフトスイッチ92から出力される信号をモニタすることでメインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合したか否かを判断することができる。
図4の説明に戻ると、カウンタドグクラッチCRは、シフトフォーク94cを介して後進用シフトアクチュエータ94に接続される。後進用シフトアクチュエータ94も1速用シフトアクチュエータ90と同様、伸縮するアクチュエータであり、伸長するとき、カウンタドグクラッチCRをカウンタシャフト68の一方の軸方向に移動させ、収縮するとき、カウンタドグクラッチCRをカウンタシャフト68の他方の軸方向に移動させる。即ち、後進用シフトアクチュエータ94は一方の油室94a(伸長側油室)に油圧が供給されることで伸長し、他方の油室94b(収縮側油室)に油圧が供給されることで収縮する。
後進用シフトアクチュエータ94は収縮することでシフトフォーク94cおよびカウンタドグクラッチCRを下方に移動させ、カウンタドグクラッチCRは所定距離移動させられることでカウンタ後進ギヤ84に結合される。カウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に結合すると、カウンタ後進ギヤ84はカウンタドグクラッチCRを介してカウンタシャフト68に締結されるため、カウンタシャフト68と共に回転する。
一方、後進用シフトアクチュエータ94が伸長すると、カウンタドグクラッチCRは上方に移動させられ、カウンタドグクラッチCRはいずれのギヤとも結合されない中立位置に維持される。
カウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に結合されたか否かについては、上記したメインドグクラッチC1とメイン1速ギヤ76の結合を検知する場合と同様、後進側シフトスイッチからの信号によって判断することができる。図6は後進側シフトスイッチを説明するための船外機の部分断面拡大側面図である。また、図7は前進側シフトスイッチ92と後進側シフトスイッチを説明するための船外機の部分断面拡大上面図である。
後進側シフトスイッチ96は、後進用シフトアクチュエータ94の上方(図6において上方)、具体的には、図6や図7に示す如く、後進用シフトアクチュエータ94のシフトフォーク94cに取り付けられ(より具体的には、シフトフォーク94cの、後進用シフトアクチュエータ94を挟んでカウンタシャフト68とは反対側の端部付近に取り付けられ)、カウンタシャフト68と平行に配置された棒状の操作軸94dの先端側に取り付けられる。
後進側シフトスイッチ96は、その下方側に設けられ、外部からの力が加わると、それを内部に伝達するヘッド部96aと、ヘッド部96aから伝達された力を電気信号に変換して外部に出力するコネクタ部(図示せず)を備える。
ところで、前進側シフトスイッチ92のヘッド部92aは上記の通り、操作軸90dの先端部と対向する位置に離間して配置され、1速用シフトアクチュエータ90が所定距離伸長すると、操作軸90dの先端部がヘッド部92aに接触するように構成されていたが、後進側シフトスイッチ96のヘッド部96aはこれとは逆で、操作軸94dの先端部と対向する位置に、当該先端部と接触するように配置され、後進用シフトアクチュエータ94が所定距離収縮すると、操作軸94dの先端部がヘッド部96aから離間するように構成される。
従って、後進用シフトアクチュエータ94が収縮し、シフトフォーク94cを介して取り付けられたカウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に結合すると、操作軸94dの先端部がヘッド部96aから離間し、後進側シフトスイッチ96から離間を検知した旨の信号(オフ信号)が外部に出力される。
即ち、オン信号を出力し続けていた後進側シフトスイッチ96は操作軸94dの先端部がヘッド部96aから離間したことを検知すると、オフ信号を出力するので、後進側シフトスイッチ96から出力される信号をモニタすることでカウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に結合したか否かを判断することができる。
図4の説明に戻ると、メインシャフト60に相対回転自在に支持されたメイン1速ギヤ76をメインドグクラッチC1でメインシャフト60に締結すると、エンジン50の出力はメインシャフト60、メイン1速ギヤ76、カウンタ1速ギヤ82、カウンタシャフト68を介してプロペラ22に伝えられ、1速(ギヤ。変速段)が確立する。
また、メインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合されている状態(このときカウンタドグクラッチCRは中立位置)で、カウンタシャフト68に相対回転自在に支持されたカウンタ2速ギヤ80を2速用油圧クラッチC2でカウンタシャフト68に締結すると、エンジン50の出力はメインシャフト60、メインシャフト60に相対回転不能に支持されたメイン2速ギヤ74、カウンタ2速ギヤ80、カウンタシャフト68を介してプロペラ22に伝えられ、2速(ギヤ。変速段)が確立する。
即ち、2速が確立するためには、メインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合されて1速が確立された状態で、2速用油圧クラッチC2を介してカウンタ2速ギヤ80をカウンタシャフト68に締結する。そして、カウンタ1速ギヤ82には、上記の通り、メインシャフト60の回転数が所定回転数以上になると、カウンタシャフト68とカウンタ1速ギヤ82との締結を解除するワンウェイクラッチ82aが内蔵されているため、メインシャフト60の低回転時は、メイン1速ギヤ76とカウンタ1速ギヤ82がエンジン50からの動力をプロペラ22に伝達するが、メインシャフト60の回転数が上昇して所定回転数以上になると、ワンウェイクラッチ82aがカウンタシャフト68とカウンタ1速ギヤ82との締結を解除し、カウンタ1速ギヤ82はカウンタシャフト68に対して空転する一方、メイン2速ギヤ74およびカウンタ2速ギヤ80がエンジン50からの動力をプロペラ22に伝達する。
カウンタシャフト68に相対回転自在に支持されたカウンタ後進ギヤ84をカウンタドグクラッチCRでカウンタシャフト68に締結すると、エンジン50の出力はメインシャフト60、メインシャフト60に相対回転不能に支持されたメイン後進ギヤ78、カウンタ後進ギヤ84、カウンタシャフト68を介してプロペラ22に伝えられ、リバース(ギヤ。変速段)が確立する。
また、1速用シフトアクチュエータ90が収縮する一方、後進用シフトアクチュエータ94が伸長し、メインドグクラッチC1およびカウンタドグクラッチCRが共に中立位置にあるとき(このとき2速用油圧クラッチC2はオフ(カウンタ2速ギヤ80と非係合))、メインシャフト60とカウンタシャフト68は結合されずに、ニュートラルが確立する。
このように、メインドグクラッチC1,2速用油圧クラッチC2およびカウンタドグクラッチCRによるギヤとシャフトの結合は、油圧ポンプ86からメインドグクラッチC1,2速用油圧クラッチC2およびカウンタドグクラッチCRに供給される油圧を制御することで行われる。
この点について詳説すると、油圧ポンプ86がエンジン50により駆動されるとき、オイルパン66aの作動油は油路100a、ストレーナ102を介して汲み上げられて吐出口86aから吐出される。吐出口86aから吐出された作動油は油路100b,100dを介して第1、第2切換バルブ104a,104bに供給され、油路100c,100eを介して第1、第2電磁ソレノイドバルブ(リニアソレノイドバルブ)106a,106bに供給される。
第1切換バルブ104aは、油圧ポンプ86と1速用シフトアクチュエータ90を接続する油路100b,100f,100gに介挿されると共に、油路100fを介して1速用シフトアクチュエータ90の油室90aに接続され,油路100gを介して1速用シフトアクチュエータ90の油室90bに接続される。
第2切換バルブ104bは、油圧ポンプ86と2速用油圧クラッチC2および後進用シフトアクチュエータ94を接続する油路100b,100d,100h,100i等に介挿されると共に、油路100hを介して後進用シフトアクチュエータ94の油室94aに、油路100i,100mを介して後進用シフトアクチュエータ94の油室94bに、さらに、油路100i,100nを介して2速用油圧クラッチC2に接続される。
第1、第2切換バルブ104a,104bの内部には移動自在なスプールが収容され、スプールは一端側(図で左端)でスプリングによって他端側に付勢される。その他端側には、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bが油路100j,100kを介して接続される。
従って、第1電磁ソレノイドバルブ106aが通電(オン)されると、その内部に収容されたスプールが変位させられて油路100cと100jとが連通し、油圧ポンプ86から油路100cを介して供給される油圧は油路100jを通って第1切換バルブ104aのスプールの他端側に出力される。
これにより、第1切換バルブ104aのスプールは一端側に変位させられ、油路100bの作動油が油路100fに送出されて1速用シフトアクチュエータ90の油室90aに供給される。1速用シフトアクチュエータ90の油室90aに作動油が供給されると、1速用シフトアクチュエータ90は伸長し、シフトフォーク90cを介してメインドグクラッチC1を上方に移動させる。
一方、第1電磁ソレノイドバルブ106aの通電が停止(オフ)されるときは、内部のスプールが変位しないため、油路100cと100jは連通せず、油路100cからの油圧は第1切換バルブ104aのスプールの他端側には出力されない。よって、第1切換バルブ104aのスプールはスプリングによって他端側に付勢されたままである。このため、油路100bの作動油は油路100gを通って1速用シフトアクチュエータ90の油室90bに供給されて1速用シフトアクチュエータ90は収縮し、メインドグクラッチC1は中立位置となる。
第2電磁ソレノイドバルブ106bも、第1電磁ソレノイドバルブ106aと同様、通電(オン)されるときにスプールが変位させられ、油圧ポンプ86から油路100eを介して供給される油圧は油路100kを通って第2切換バルブ104bの他端側に出力される。これにより、第2切換バルブ104bのスプールが一端側に変位させられ、油路100dの作動油は油路100iを介して第3切換バルブ104cに供給される。
一方、第2電磁ソレノイドバルブ106bの通電が停止(オフ)されるときは、内部のスプールが変位しないため、油路100eからの油圧は第1切換バルブ104bのスプールの他端側には出力されず、第1切換バルブ104bのスプールはスプリングによって他端側に付勢されたままである。従って、油路100dの作動油は油路100hを通って後進用シフトアクチュエータ94の油室94aに供給されて後進用シフトアクチュエータ94は伸長し、カウンタドグクラッチCRは中立位置となる。
第3切換バルブ104cは、第2切換バルブ104bと後進用シフトアクチュエータ94または2速用油圧クラッチC2を接続する油路100i,100m,100nに介挿されると共に、油路100mを介して後進用シフトアクチュエータ94の油室94bに接続され、油路100nを介して2速用油圧クラッチC2に接続される。
第3切換バルブ104cの内部にも移動自在なスプールが収容され、スプールは一端側(図で左端)でスプリングによって他端側に付勢されると共に、他端側には、油路100lが接続される。従って、第1電磁ソレノイドバルブ106aが通電(オン)されて、第1切換バルブ104aのスプールが一端側に変位させられ、油路100bの作動油が油路100fに送出されると、この作動油の一部が油路100lを介して第3切換バルブ104cの他端側に出力される。これにより、第3切換バルブ104cのスプールは一端側に変位させられ、油路100iの作動油は油路100nを介して2速用油圧クラッチC2に供給されて2速用油圧クラッチC2がオン(カウンタ2速ギヤ80と係合)する。
一方、第1電磁ソレノイドバルブ106aの通電が停止(オフ)されるときは、第1切換バルブ104aのスプールは変位せずにスプリングによって他端側に付勢されたままであるため、第3切換バルブ104cの他端側には油路100lからの作動油が作用せず、第3切換バルブ104cのスプールはスプリングによって他端側に付勢されたままである。よって、油路100iからの作動油は油路100mを通って後進用シフトアクチュエータ94の油室94bに供給されてカウンタドグクラッチCRを下方に移動させる。
以上のように、第1電磁ソレノイドバルブ106aがオンされ、第2電磁ソレノイドバルブ106bがオフされるときは1速用シフトアクチュエータ90の油室90aに油圧が供給される一方、2速用油圧クラッチC2には油圧が供給されないため、メイン1速ギヤ76とメインシャフト60がメインドグクラッチC1で締結されて1速が確立する。尚、このとき後進用シフトアクチュエータ94は油室94aに油圧が供給されて伸長するため、カウンタドグクラッチCRはカウンタ後進ギヤ84には結合されずに中立位置となる。
また、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bが共にオンされるときは1速用シフトアクチュエータ90の油室90aと2速用油圧クラッチC2に油圧が供給されるため、メイン1速ギヤ76とメインシャフト60がメインドグクラッチC1で締結されると共に、カウンタ2速ギヤ80とカウンタシャフト68が2速用油圧クラッチC2で締結されて2速が確立する。
さらに、第1電磁ソレノイドバルブ106aがオフ、第2電磁ソレノイドバルブ106bがオンされるときは1速用シフトアクチュエータ90の油室90bに油圧が供給され、後進用シフトアクチュエータ94の油室94bに油圧が供給されると共に、2速用油圧クラッチC2には油圧が供給されないため、カウンタ後進ギヤ84とカウンタシャフト68がカウンタドグクラッチCRで締結されてリバースが確立する。
第1電磁ソレノイドバルブ106a、第2電磁ソレノイドバルブ106bが共にオフされるときは1速用シフトアクチュエータ90の油室90bと後進用シフトアクチュエータ94の油室94aに油圧が供給されるため、メインドグクラッチC1とカウンタドグクラッチCRが共に中立位置になると共に、2速用油圧クラッチC2にも油圧が供給されないため、メインシャフト60とカウンタシャフト68とは結合されずにニュートラルとなる。
このように、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bのオン・オフを制御することで、変速機24のフォワード、ニュートラル、リバース、さらにはフォワードの場合には1速または2速の変速段が選択される(変速制御が行われる)。
尚、油圧ポンプ86からの作動油(潤滑油)は、油路100b,100o、レギュレータバルブ108、リリーフバルブ110を介して潤滑部(例えばメインシャフト60、カウンタシャフト68など)にも供給される。また、第1切換バルブ104a、第1電磁ソレノイドバルブ106aおよび第3切換バルブ104cをバイパスする油路100pにはエマージェンシーバルブ112が配置される。エマージェンシーバルブ112は、システムの動作に万が一不具合が生じたときなどに手動で動かして変速できるようするための手動バルブである。
図3に示す如く、スロットルバルブ56の付近にはスロットル開度センサ120が配置され、スロットルバルブ56の開度THを示す出力を生じる。エンジン50のクランクシャフトの付近にはクランク角センサ122が取り付けられ、所定のクランク角度ごとにパルス信号を出力する。また、チルティングシャフト16の付近にはトリム角センサ124が配置され、船外機10のトリム角θに応じた出力を生じる。
尚、ECU20と各センサやGPS受信装置38とは、例えばNMEA(National Marine Electronics Association。米国船舶用電子機器協会)で規格された通信方式(例えばNMEA2000。具体的には、CAN(Controller Area Network))で通信自在に接続される。
ECU20は、変速機24の変速制御とトリムユニット26でトリム角θを調整するトリム角制御を行う。また、ECU20は、レバー位置センサ36の出力に基づいてスロットル用電動モータ58の動作を制御し、スロットルバルブ56を開閉させてスロットル開度THを調整するスロットル開度制御も行う。
さらに、ECU20は、入力されたセンサ出力に基づいてエンジン50の燃料噴射量と点火時期を決定し、インジェクタ130を介して決定された噴射量の燃料を供給すると共に、点火装置132を介して決定された点火時期に従って噴射された燃料と吸気の混合気を点火する。
このように、この実施例に係る船外機10の制御装置は、操作系(ステアリングホイール30やシフト・スロットルレバー34)と船外機10の機械的な接続が断たれたDBW(Drive By Wire)方式の装置である。
図8は、ECU20の変速制御動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは、ECU20によって所定の周期(例えば100msec)ごとに実行される。
以下説明すると、先ずS(ステップ)10においてシフト位置をレバー位置センサ36の出力から検出(算出)する。具体的には、レバー位置センサ36の出力電圧に基づいてシフト位置がフォワード(前進)、ニュートラル(中立)、リバース(後進)のいずれであるかを判断(判定)する。尚、この実施例では、例えばレバー位置センサ36の出力電圧が第1の所定値(例えば3V)を上回るときはフォワード、出力電圧が第1の所定値以下で第2の所定値(例えば2V)を上回るときはニュートラル、出力電圧が第2の所定値以下のときはリバースであると判断する。
次いでS12に進み、シフト位置がフォワード(図で「前進」と示す)か否か判断し、肯定されるときはS14に進んで第1SOL故障フラグのビットが0か否か判断する。第1SOL故障フラグとは、第1電磁ソレノイドバルブ106aの状態を示すフラグであり、第1電磁ソレノイドフラグ106aが故障したとき1にセットされる。
第1SOL故障フラグは初期値が0とされるため、最初のプログラムループにおいてS14の判断は通例肯定されてS16に進む。
S16ではFWDシフトチェンジ完了フラグのビットが0か否か判断する。FWDシフトチェンジ完了フラグとは、第1電磁ソレノイドバルブ106aと第2電磁ソレノイドバルブ106bが共にオンとなって変速段が2速の状態のときに1となるフラグである(よってそれ以外の状態のときは0)。
S16で肯定されるときは、S18に進み、前回の(プログラムループでの)シフト位置がフォワードまたはニュートラルであったか否か判断する。
S18で肯定、即ち、前回のシフト位置がフォワードまたはニュートラルで今回のシフト位置がフォワード、換言すれば、シフト位置がフォワードのまま変化していないか、またはニュートラルからフォワードに切り換わったときはS20に進み、前進側シフトスイッチ92(図で「FWDシフトSW」と示す)がオフ、即ち、メインドグクラッチC1がメイン1速ギヤに結合されていない状態か否か判断する。
S20で肯定されるときはS22に進み、クランク角センサ122の出力パルスをカウントしてエンジン回転数NEを検出(算出)し、S24に進んでエンジン回転数NEが所定回転数NE1以下か否か判断する。所定回転数NE1については後述する。
S24で否定されるときはS26に進み、エンジン回転数NEを減速させる制御を行う。具体的には、例えば図示しないプログラムにおいてエンジン50の点火時期を遅角させる制御またはエンジン50に供給される燃料噴射量を減少させる制御を行い、エンジン回転数NEを減速させる。尚、このような制御を行うのは変速時のショックを緩和するためであり、上記した所定回転数NE1は例えば800rpmとされる。
一方、S24で肯定されるときはS28に進み、第1電磁ソレノイドバルブ106a(図で「第1SOL」と示す)をオン、第2電磁ソレノイドバルブ106b(図で「第2SOL」と示す)をオフして変速機24の変速段を1速に変速する。
S28において変速機24の変速段が1速に変速されるとメインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合され、前進側シフトスイッチ92がオンされるので、次回のプログラムループではS20で否定され、S30に進んで第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bを共にオンして変速機24の変速段を2速に変速すると共に、S32に進んでFWDシフトチェンジ完了フラグのビットを1にセットする。
また、S18で否定、即ち、前回のシフト位置がリバースで今回のシフト位置がフォワード、換言すれば、シフト位置がリバースからフォワードに切り換わったときはS34に進み、エンジン回転数NEを検出し、S36に進んでエンジン回転数NEが所定回転数NE1以下か否か判断する。
S36で否定されるときはS38に進み、S26の処理と同様の方法でエンジン回転数NEを減速させる制御を行う。
一方、S36で肯定されるときはS40に進み、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bを共にオフしてニュートラルを選択する。
次いでS42に進んでタイマをスタートさせ、S44にてタイマが所定時間Tsec(例えば1sec)を経過したとき、プログラムを終了する。具体的には、シフト位置がリバースからフォワードに切り換えられ(S10,S12,S18)、かつエンジン回転数NEが所定回転数NE1以下になったとき、変速段をニュートラルにし(S34〜S40)、その後ニュートラルの状態を所定時間維持するようにした(S42、S44)。
また、S16で否定、即ち、FWDシフトチェンジ完了フラグのビットが1のとき、換言すると、変速段が2速の状態のとき、S46に進み、前進側シフトスイッチ92がオフか否か判断する。
S46で否定されるときはS48からS52の処理をスキップする一方、肯定されるときは、S48に進み、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bを共にオフしてニュートラルを選択する。
ここで、FWDシフトチェンジ完了フラグのビットが1、即ち、変速段が2速と判断されたにもかかわらず(S16)、前進側シフトスイッチ92がオフ(S46)、換言すると、メインドグクラッチC1とメイン1速ギヤ76との結合が解除されたということは(本来、変速段が2速のときはメインドグクラッチC1とメイン1速ギヤ76とは結合状態にあるので前進側シフトスイッチ92はオンになっていなければならない)、第1電磁ソレノイドバルブ106aに何らかの異常が発生し、通電が停止されたと判断することができる。
しかし、このような状態を放置していると、第1電磁ソレノイドバルブ106aの通電が停止されたことによって第1切換バルブ104aや第3切換バルブ104cが切り換わり、カウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84と結合して変速機24が予期せぬリバースに入ってしまう。また、変速機24がリバースに入ってしまうと、前進ギヤ76,82等と後進ギヤ78,84とが共にメインシャフト60やカウンタシャフト68に締結されるいわゆる重噛みが発生するおそれもある。
そこで、S46で肯定、即ち、第1電磁ソレノイドバルブ106aに異常が発生したと判断したときには、S48において第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bを共にオフしてカウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に結合するのを阻止するようにした。
尚、カウンタドグクラッチCRとカウンタ後進ギヤ84の結合を阻止するためには、当然のことながらカウンタドグクラッチCRとカウンタ後進ギヤ84が結合してしまう前にその兆候を検知しなければならない。そのため、前進側シフトスイッチ92がオフになったことを検知した時点では、まだカウンタドグクラッチCRとカウンタ後進ギヤ84が結合していないことが必要となる。そこで、図6に示す如く、前進側シフトスイッチ92がオフになった時点では、少なくともカウンタドグクラッチCRが位置βよりも先(カウンタ後進ギヤ84側)に位置しないように後進用シフトアクチュエータ94の各部寸法や取付位置などが調整される。
また、位置βからカウンタドグクラッチCRとカウンタ後進ギヤ84とが結合するまでの距離αは、カウンタドグクラッチCRがこの間(距離α)を移動する間に、カウンタドグクラッチCRとカウンタ後進ギヤ84の結合を阻止するための動作、具体的には、第2切換バルブ104bや後進用シフトアクチュエータ94の切換動作がすべて完了し得るように定められる。
次いでS50に進み、S26の処理と同様の方法でエンジン回転数NEを減速させる制御を行う。但し、S50では、エンジン回転数NEをアイドル回転数に減速させる処理を行う点でS26の処理とは異なる。尚、アイドル回転数は例えば750rpmとされる。
次いでS52に進み、S46にて第1電磁ソレノイドバルブ106aに異常が発生したと判断されたことから、第1SOL故障フラグのビットを1にセットする。
第1SOL故障フラグのビットが1にセットされると、次回のプログラムループではS14で否定されてS54に進む。S54では、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bを共にオフしてニュートラルを選択する。
このように、シフト位置がフォワードであり変速段が2速の状態において(S12,S16)、第1電磁ソレノイドバルブ106aに異常が発生したと判断された場合(S46)には、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106b(特に第2電磁ソレノイドバルブ106b)を制御してニュートラルにすると共に、エンジン回転数NEを強制的にアイドル回転数に減速させるようにした(S48,S50)。これにより、第1電磁ソレノイドバルブ106aに異常が発生しても変速機24がリバースに入ってしまうことはなく、前進ギヤ76,82と後進ギヤ78,84の重噛みも防止できる。
また、S12で否定されるときはS56に進み、シフト位置がニュートラルか否か判断し、肯定されるときはS58に進んで前進側シフトスイッチ92がオフ、かつ後進側シフトスイッチ96(図で「RVSシフトSW」と示す)がオンか否か、換言すると、メインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合されておらず、かつカウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に結合されていない状態、即ち、メインドグクラッチC1、カウンタドグクラッチCRが共に中立位置にあるか否か判断する。
S58で肯定されるときはS60からS72までの処理をスキップする一方、否定、即ち、前進側シフトスイッチ92がオンまたは後進側シフトスイッチ96がオフのときはS60に進み、エンジン回転数NEを検出し、S62に進んでエンジン回転数NEが所定回転数NE1以下か否か判断する。
S62で否定されるときはS64に進み、エンジン回転数NEを減速させる制御を行う一方、肯定されるときはS66に進んで第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bを共にオフしてニュートラルを選択する。
次いでS68に進んでタイマをスタートさせ、S70にてタイマが所定時間Tsec(例えば1sec)を経過した後、S72にてFWDシフトチェンジ完了フラグのビットを0にリセットしてプログラムを終了する。
また、S56で否定、即ち、シフト位置がリバースのときはS74に進み、前回のシフト位置がリバース(図で「後進」と示す)またはニュートラルであったか否か判断する。
S74で肯定されるときはS76に進み、後進側シフトスイッチ96がオンか否か判断する。
S76で否定されるときは、S78からS84までの処理をスキップする一方、肯定されるときはS78に進み、エンジン回転数NEを検出してS80に進み、エンジン回転数NEが所定回転数NE1以下か否か判断する。
S80で否定されるときはS82に進み、エンジン回転数NEを減速させる制御を行う一方、肯定されるときはS84に進み、第1電磁ソレノイドバルブ106aをオフ、第2電磁ソレノイドバルブ106bをオンしてリバースを選択する。
また、S74で否定、即ち、前回のシフト位置がフォワードで今回のシフト位置がリバース、換言すれば、シフト位置がフォワードからリバースに切り換わったときはS86に進み、エンジン回転数NEを検出し、S88に進んでエンジン回転数NEが所定回転数NE1以下か否か判断する。
S88で否定されるときはS90に進み、エンジン回転数NEを減速させる制御を行う一方、肯定されるときはS92に進み、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bを共にオフしてニュートラルを選択する。
次いでS94に進んでタイマをスタートさせ、S96にてタイマが所定時間Tsec(例えば1sec)を経過した後、S98にてFWDシフトチェンジ完了フラグのビットを0にリセットしてプログラムを終了する。具体的には、シフト位置がフォワードからリバースに切り換えられ(S56,S74)、かつエンジン回転数NEが所定回転数NE1以下になったとき、変速段をニュートラルにし(S86〜S92)、その後ニュートラルの状態を所定時間維持するようにした(S94、S96)。
図9は上記した処理の一部を説明するタイム・チャートである。
図9に示す如く、シフト・スロットルレバー34がフォワード位置(レバー位置センサ36の出力電圧がフォワード位置を示す第1の所定値(例えば3V)を上回る状態)にあり、変速段が2速の状態(第1電磁ソレノイドバルブ106a(第1SOL)と第2電磁ソレノイドバルブ106a(第2SOL)が共にオンされている状態)(S12,S16)において、第1電磁ソレノイドバルブ106aに故障等の異常が発生すると、時刻t1に示すように第1電磁ソレノイドバルブ106aがオフになる。
第1電磁ソレノイドバルブ106aがオフになると、第1切換バルブ14aが切り換わり、時刻t2においてメインドグクラッチC1とメイン1速ギヤ76との結合が解除されて前進側シフトスイッチ92(FWD側シフトSW)がオフになる(S46)。
尚、このとき、カウンタドグクラッチCRは少なくともβの位置にあり(図6参照)、カウンタ後進ギヤ84とは結合していないので、後進側シフトスイッチ96はオンのままである。
前進側シフトスイッチ92がオフになったことから、時刻t3において第1SOL故障フラグのビットを1(オン)にし(S52)、さらに、エンジン回転数NEを強制的にアイドル回転数にすると共に、第2電磁ソレノイドバルブ106bをオフすることにより、変速機24をニュートラルにする(S48,S50)。
次いで、この発明の第2実施例に係る船外機の制御装置について説明する。尚、第2実施例については、第1実施例と相違する部分に焦点をおいて説明し、第1実施例と共通する部分については同一の符号を付して説明を省略する。
第1実施例では、カウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に結合されたとき、後進側シフトスイッチ96がオフとなるように構成したが、第2実施例では、カウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に結合される前であって、カウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84との結合方向に所定距離移動したとき、後進側シフトスイッチ96がオフとなるように構成した。
図6を例に具体的に説明すると、カウンタドグクラッチCRが移動を開始してから位置βに達したとき、後進側シフトスイッチ96がオフになるように構成した。換言すると、カウンタドグクラッチCRが位置βに達すると操作軸94dの先端部がヘッド部96aから離間するように構成した。
以上ように構成された後進側シフトスイッチ96を前提として、次に第1実施例との制御の違いについて説明する。
第2実施例では、図8フロー・チャートのS46の処理が第1実施例とは異なる。具体的には、S46において、後進側シフトスイッチ96がオフか否か判断する(S46のかっこ書)。即ち、後進用シフトアクチュエータ94が収縮(移動)を開始してカウンタドグクラッチCRが位置βに達したか否か判断する。
そして、S46で肯定されるとき、S48に進んで第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bを共にオフしてニュートラルを選択し、カウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に結合するのを阻止するようにした。
このように、後進側シフトスイッチ96を、カウンタドグクラッチCRが位置βに達したときにオフとなるように構成することで、後進側シフトスイッチ96の状態をモニタすれば第1電磁ソレノイドバルブ106aの異常が判断できるようになる。
尚、第2実施例においても距離α(図6参照)は、少なくともカウンタドグクラッチCRとカウンタ後進ギヤ84の結合を阻止するための動作、具体的には、第2切換バルブ104bや後進用シフトアクチュエータ94の切換動作が完了し得るに十分な距離となるように定められる点で第1実施例の場合と同様である。
図10は第2実施例の処理の一部を説明するタイム・チャートである。
第1実施例の場合との相違点は、図10に示す如く、時刻t2において後進側シフトスイッチ96(RVS側シフトSW)がオフになっている点である(S46)。これは、第1電磁ソレノイドバルブ106aがオフになったことからカウンタドグクラッチCRが位置βに達したことを意味する。
尚、図10のタイム・チャートでは説明の便宜上、前進側シフトスイッチ92と後進側シフトスイッチ96は同時刻(時刻t2)でオフとなっているが、実際には前進側シフトスイッチ92と後進側シフトスイッチ96とが同時刻にオフにならない場合もある(いずれかのスイッチが遅れてオフになる場合もある)。
また、第2実施例では、時刻t3において第2電磁ソレノイドバルブ106bをオフにして変速機24をニュートラルにしたことからカウンタドグクラッチCRが位置βから上方(カウンタ後進ギヤ84から離れる方向)に移動するため、後進側シフトスイッチ96は再びオンになる。
以上の如く、この発明の第1、第2実施例にあっては、船体12に取り付け可能であると共に、内燃機関(エンジン)50からの動力をプロペラ22に伝達する動力伝達軸(メインシャフト60、プロペラシャフト62、カウンタシャフト68)に支持される前進ギヤ(メイン1速ギヤ76、カウンタ1速ギヤ82)と後進ギヤ(メイン後進ギヤ78、カウンタ後進ギヤ84)と、前記前進ギヤと結合されるとき、前記前進ギヤを前記動力伝達軸に締結可能な前進用ドグクラッチ(メインドグクラッチ)C1と、前記後進ギヤと結合されるとき、前記後進ギヤを前記動力伝達軸に締結可能な後進用ドグクラッチ(カウンタドグクラッチ)CRと、前記前進用ドグクラッチを前記前進ギヤとの結合方向(メインシャフト60の一方の軸方向)または結合を阻止(解除)する方向(メインシャフト60の他方の軸方向)に移動可能な前進用シフトアクチュエータ(1速用シフトアクチュエータ)90と、前記後進用ドグクラッチを前記後進ギヤとの結合方向(カウンタシャフト68の他方の軸方向)または結合を阻止(解除)する方向(カウンタシャフト68の一方の軸方向)に移動可能な後進用シフトアクチュエータ94とを備えて前記内燃機関からの動力を前記前進ギヤまたは後進ギヤを介して前記プロペラに伝達する変速機24と、前記変速機の前記前進用シフトアクチュエータと前記後進用シフトアクチュエータの動作を制御するシフトアクチュエータ制御手段(ECU20)とを備えた船外機10の制御装置において、操船者によって操作可能なシフトレバー(シフト・スロットルレバー)34が前進位置にあるか否か検出するレバー位置検出手段(レバー位置センサ36、ECU20。S10,S12)と、前記前進用シフトアクチュエータによる前記前進用ドグクラッチの移動または前記後進用シフトアクチュエータによる前記後進用ドグクラッチの移動を検出するドグクラッチ移動検出手段(前進側シフトスイッチ92、後進側シフトスイッチ96、ECU20。S20,S46,S58,S76)とを備えると共に、前記シフトアクチュエータ制御手段は、前記シフトレバーが前記前進位置にあると検出される場合に、前記前進用シフトアクチュエータによる前記前進用ドグクラッチの前記前進ギヤとの結合を阻止する方向への移動または前記後進用シフトアクチュエータによる前記後進用ドグクラッチの前記後進ギヤとの結合方向への移動が検出されたとき、前記後進用ドグクラッチと前記後進ギヤとの結合を阻止するように前記後進用シフトアクチュエータの動作を制御する如く構成した(ECU20。S12,S46,S48)。
このように、変速機24を制御する油圧バルブ、具体的には第1電磁ソレノイドバルブ106aに故障等による異常が発生し、シフト・スロットルレバー34が前進位置(フォワード)にあるにもかかわらず、前進用ドグクラッチ(メインドグクラッチ)C1の前進ギヤ(メイン1速ギヤ)76との結合を阻止する方向への移動または後進用ドグクラッチ(カウンタドグクラッチ)CRの後進ギヤ(カウンタ後進ギヤ)84との結合方向への移動を検出した場合、後進用ドグクラッチ(カウンタドグクラッチ)CRと後進ギヤ(カウンタ後進ギヤ)84との結合を阻止することによって変速機24が不意にリバースに入ってしまったり、前進ギヤと後進ギヤが共に動力伝達軸と締結状態となる重噛みが発生するのを防止することができる。さらに、重噛みの発生が防止できればギヤやドグクラッチの耐久性を向上させることもできる。
また、前記前進用シフトアクチュエータは、一方の油室90aに油圧が供給されるとき、前記前進用ドグクラッチを前記前進ギヤとの結合方向に移動させると共に、他方の油室90bに油圧が供給されるとき、前記前進用ドグクラッチを前記前進ギヤとの結合を阻止する方向に移動させ、前記後進用シフトアクチュエータは、一方の油室94bに油圧が供給されるとき、前記後進用ドグクラッチを前記後進ギヤとの結合方向に移動させると共に、他方の油室94aに油圧が供給されるとき、前記後進用ドグクラッチを前記後進ギヤとの結合を阻止する方向に移動させる如く構成したので、簡易な構成でありながら、前進ギヤと後進ギヤが共に動力伝達軸と締結状態となる重噛みの発生を防止することができる。
また、前記内燃機関によって駆動される油圧ポンプ86と、前記油圧ポンプと前記前進用シフトアクチュエータを接続する油路(100b,100f,100g)に介挿され、前記油圧ポンプから供給される油圧を前記前進用シフトアクチュエータの一方の油室または他方の油室に供給可能な第1切換バルブ104aと、前記油圧ポンプと前記後進用シフトアクチュエータを接続する油路(100b,100d,100h,100i,100m)に介挿され、前記油圧ポンプから供給される油圧を前記後進用シフトアクチュエータの一方の油室または他方の油室に供給可能な第2切換バルブ104bと、前記第2切換バルブと前記後進用シフトアクチュエータを接続する油路(100i,100m)に介挿され、前記第2切換バルブを介して前記油圧ポンプから供給される油圧を前記後進用シフトアクチュエータの一方の油室に供給可能な第3切換バルブ104cとを備えると共に、前記シフトアクチュエータ制御手段は、前記第1、第2、第3切換バルブを介して前記前進用シフトアクチュエータと前記後進用シフトアクチュエータの動作を制御する如く構成したので、前進ギヤと後進ギヤが共に動力伝達軸と締結状態となる重噛みの発生を確実に防止することができる。
また、前記第1切換バルブを介して前記前進用シフトアクチュエータに接続されると共に、前記第3切換バルブを介して前記後進用シフトアクチュエータに接続され、前記第1、第3切換バルブの動作を制御する第1電磁ソレノイドバルブ106aと、前記第2切換バルブを介して前記第3切換バルブと前記後進用シフトアクチュエータに接続され、前記第2切換バルブの動作を制御する第2電磁ソレノイドバルブ106bとを備えると共に、前記シフトアクチュエータ制御手段は、前記第1、第2電磁ソレノイドバルブを介して前記前進用シフトアクチュエータと前記後進用シフトアクチュエータの動作を制御する如く構成したので、前進ギヤと後進ギヤが共に動力伝達軸と締結状態となる重噛みの発生を一層確実に防止することができる。
また、前記第1電磁ソレノイドバルブは、通電(オン)されるとき、前記油圧ポンプから供給される油圧を前記前進用シフトアクチュエータの一方の油室に供給するように前記第1切換バルブの動作を制御すると共に、前記油圧ポンプから前記後進用シフトアクチュエータの一方の油室への油圧の供給を遮断するように前記第3切換バルブの動作を制御し、通電が停止(オフ)されるとき、前記油圧ポンプから供給される油圧を前記前進用シフトアクチュエータの他方の油室に供給するように前記第1切換バルブの動作を制御すると共に、前記油圧ポンプから供給される油圧を前記後進用シフトアクチュエータの一方の油室に供給するように前記第3切換バルブの動作を制御し、前記第2電磁ソレノイドバルブは、通電されるとき、前記油圧ポンプから供給される油圧を前記第3切換バルブに供給するように前記第2切換バルブの動作を制御し、通電が停止されるとき、前記油圧ポンプから供給される油圧を前記後進用シフトアクチュエータの他方の油室に供給するように前記第2切換バルブの動作を制御する如く構成したので、前進ギヤと後進ギヤが共に動力伝達軸と締結状態となる重噛みの発生をより一層確実に防止することができる。
また、前記シフトアクチュエータ制御手段は、前記後進用ドグクラッチと前記後進ギヤとの結合を阻止するように前記後進用シフトアクチュエータの動作が制御されるとき、前記内燃機関の機関回転数を所定回転数以下(アイドル回転数)に制御する如く構成したので(ECU20。S46〜S50)、ギヤの切り換えをスムーズに行うことができる。
尚、船外機を例に説明したが、変速機を備えた船内外機についても本発明を適用することができる。また、S26等においてエンジン50の出力を低下させるため、点火時期を遅角させる、または燃料噴射量を減少させるようにしたが、それら両方を行うように構成しても良く、さらに例えば点火カットや燃料カットなどを行ってエンジン50の出力を低下させるように構成しても良い。
また、実施例では、前進側シフトスイッチ92のヘッド部92aは操作軸90dの先端部と対向する位置に離間して配置され、1速用シフトアクチュエータ90が所定距離伸長すると、操作軸90dの先端部がヘッド部92aに接触するように構成する一方、後進側シフトスイッチ96のヘッド部96aは操作軸94dの先端部と接触するように配置され、後進用シフトアクチュエータ94が所定距離収縮すると、操作軸94dの先端部がヘッド部96aから離間するように構成したが、例えば1速用シフトアクチュエータ90が所定距離伸長すると、操作軸90dの先端部がヘッド部92aから離間するように構成したり、後進用シフトアクチュエータ94が所定距離収縮すると、操作軸94dの先端部がヘッド部96aと接触するように構成しても良く、即ち、初期状態において操作軸90d、94dの先端部をヘッド部92a,96aから離間させておくか、接触させておくかはいずれでもよく、必ずしも実施例の構成に限定されるものではない。
また、第2実施例では、カウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に向けて所定距離移動したら後進側シフトスイッチ96からオフ信号を出力させるようにしたが、例えばカウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に向けて移動を開始したら直ちにオフ信号を出力させるようにしても良い。また、必ずしも後進側シフトスイッチ96によらずに、これとは別のセンサを設けてカウンタドグクラッチCRの移動を検知するようにしても良い。
また、第1、第2の所定値(レバー位置センサ36の出力電圧値)、所定回転数NE1、アイドル回転数、所定時間Tまたはエンジン50の排気量などを具体的な値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。