図1はこの発明の実施例に係る船舶を全体的に示す概略図である。
図1において符号1は3基の船外機10が船体(艇体)12に搭載されてなる、いわゆる3基掛けの船舶を示す。各船外機10は左舷(進行方向左側)から第1船外機10A、第2船外機10B、第3船外機10Cの順に並列に配置される。尚、第1、第2、第3船外機10A,10B,10Cは同一構成の船外機であるため、以下、船外機について説明する場合には特に明記する場合を除き、第1船外機10Aについてのみ説明する。
船外機10(10A)はスターンブラケット14およびチルティングシャフト16を介して船体12の後尾(船尾)12aに装着される。
船外機10は内燃機関(以下「エンジン」という(図1で見えず))と、エンジンを被覆するエンジンカバー18を備える。エンジンカバー18の内部空間であるエンジンルームには、エンジンの他に、電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)20が配置される。ECU20はCPU,ROM,RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなり、船外機10の動作を制御する。
船外機10はエンジンからの動力をプロペラ22に伝達する動力伝達軸に介挿され、少なくとも1速、2速からなる変速段を有し、エンジンの出力を変速段のうちの選択された変速段で変速してプロペラ22に伝達する変速機24と、船体12に対するチルト角またはトリム角をチルトアップ/ダウンまたはトリムアップ/ダウンによって調整可能なパワーチルトトリムユニット(トリム角調整機構。以下「トリムユニット」という)26を備える。変速機24およびトリムユニット26はECU20によって制御される。
船体12の操縦席28付近には操船者(図示せず)によって回転操作自在なステアリングホイール30が配置される。ステアリングホイール30のシャフト(図示せず)には操舵角センサ32が取り付けられ、操船者によって入力されたステアリングホイール30の操舵角に応じた信号を出力する。
また、操縦席28付近には操船者によって操作自在なシフト・スロットルレバー34が設けられる。シフト・スロットルレバー34は初期位置から前後方向に揺動操作自在とされ、操船者からのシフトチェンジ指示(フォワード(前進)/リバース(後進)/ニュートラル(中立)切り換え指示)と、エンジン回転数の調節指示(スロットル開度指示)を入力する。
シフト・スロットルレバー34の付近にはレバー位置センサ36が取り付けられ、操船者によるシフト・スロットルレバー34の操作位置(操作角)に応じた信号を出力する。
船体12の適宜位置にはGPS(Global Positioning System)信号を受信するGPS受信装置38が配置される。GPS受信装置38はGPS信号から得られる船舶1の位置情報を示す信号を出力する。
船外機10には船体12に対する船外機10の転舵角θを検出する転舵角センサ(ラダーセンサ)40が取り付けられる。尚、操舵角センサ32、レバー位置センサ36、GPS受信装置38および転舵角センサ40の出力はECU20に入力される。
図2は船外機10の部分断面拡大側面図、図3は船外機10の拡大側面図である。
図2に示すように、スイベルケース48とスターンブラケット14の付近にはトリムユニット26が配置される。トリムユニット26はチルト角およびトリム角調整用の油圧シリンダと、これら油圧シリンダに油圧回路を介して接続されるチルト/トリム角調整用の電動モータ(いずれも図示せず)とを一体的に備える。トリムユニット26はECU20からのチルトアップ/ダウン信号またはトリムアップ/ダウン信号に基づき電動モータを介してチルト角またはトリム角調整用の油圧シリンダを伸縮させる。これにより、スイベルケース48がチルティングシャフト16を回転軸として回転させられ、船外機10はチルトアップ/ダウンまたはトリムアップ/ダウンさせられる。
船外機10の上部にはエンジン50が搭載される。エンジン50は火花点火式の水冷ガソリンエンジンであり、排気量2200ccを備える。エンジン50は水面上に位置し、エンジンカバー18によって覆われる。
エンジン50の吸気管52にはスロットルボディ54が接続される。スロットルボディ54は内部にスロットルバルブ56を備えると共に、スロットルバルブ56を開閉駆動するスロットル用電動モータ58が取り付けられる。スロットル用電動モータ58を動作させることでスロットルバルブ56が開閉され、エンジン50の吸気量が調量されてエンジン回転数(機関回転数)が調節される。
船外機10は鉛直軸回りに回転自在に支持され、上端がエンジン50のクランクシャフトに接続されるメインシャフト(動力伝達軸)60と、水平軸回りに回転自在に支持され、その一端にプロペラ22が取り付けられるプロペラシャフト(動力伝達軸)62と、メインシャフト60とプロペラシャフト62の間に介挿され、前進用に1速、2速からなる変速段と後進用の変速段(リバース)を有する変速機24とを備える。
プロペラシャフト62はトリムユニット26の初期状態(トリム角θが初期角度(0度)の状態)においてはその軸線62aが船舶1の進行方向に対してほぼ平行となるように配置される。
変速機24の後方位置(船体12の進行方向に対して後方)には変速機24を制御する複数の油圧バルブを備えたバルブユニット64が配置される。
メインシャフト60およびバルブユニット64などはケース66に収容されると共に、ケース66の下部は作動油を受けるオイルパン66aを構成する。
図4は変速機24の油圧回路を模式的に示す油圧回路図である。
図2および図4に示すように、変速機24はメインシャフト60と、メインシャフト60に複数の変速ギヤを介して接続されるカウンタシャフト68とが平行に配置された平行軸式の有段式の変速機構からなる。メインシャフト60およびカウンタシャフト68はそれぞれ2対のベアリング70a,70bによってケース66に保持される。
変速機24について具体的に説明すると、カウンタシャフト68には先端(図2において下方側端部)にピニオンギヤ72aとベベルギヤ72bを介してプロペラシャフト62が接続(連結)される。また、メインシャフト60には図面上からメイン2速ギヤ74、メイン1速ギヤ76、メインドグクラッチC1およびメイン後進ギヤ78が支持され、カウンタシャフト68には2速用油圧クラッチC2、カウンタ2速ギヤ80、カウンタ1速ギヤ82、カウンタドグクラッチCRおよびカウンタ後進ギヤ84が支持される。
メイン1速ギヤ76はメインシャフト60に相対回転自在に支持され、カウンタ1速ギヤ82はメイン1速ギヤ76に噛合し、カウンタシャフト68に相対回転不能に支持される。また、メイン2速ギヤ74はメインシャフト60に相対回転不能に支持され、カウンタ2速ギヤ80はメイン2速ギヤ74に噛合し、カウンタシャフト68に相対回転自在に支持される。
メインドグクラッチC1はメインシャフト60に相対回転不能かつ軸方向移動可能に支持されると共に、一方の軸方向(図4において上方。以下同じ)に所定距離移動するとメイン1速ギヤ76に結合し、メイン1速ギヤ76をメインシャフト60に締結(固定)する。2速用油圧クラッチC2はエンジン50によって駆動される油圧ポンプ86からの油圧が供給されるとき、カウンタ2速ギヤ80をカウンタシャフト68に締結する。
メイン後進ギヤ78はメインシャフト60に相対回転不能に支持され、カウンタ後進ギヤ84はメイン後進ギヤ78に噛合し、カウンタシャフト68に相対回転自在に支持される。
カウンタドグクラッチCRはカウンタシャフト68に相対回転不能かつ軸方向移動可能に支持されると共に、他方の軸方向(図4において下方。以下同じ)に所定距離移動するとカウンタ後進ギヤ84に結合し、カウンタ後進ギヤ84をカウンタシャフト68に締結する。
カウンタ1速ギヤ82には自身の回転数が所定回転数以上になると、カウンタシャフト68とカウンタ1速ギヤ82との締結を解除するワンウェイクラッチ82aが内蔵される。従って、低回転時はエンジン50からの動力はメイン1速ギヤ76とカウンタ1速ギヤ82を介してプロペラ22に伝達されるが、回転数が上昇し、当該回転数が所定回転数以上になると、ワンウェイクラッチ82aが切れてエンジン50からの動力はメイン1速ギヤ76やカウンタ1速ギヤ82を介してはプロペラ22に伝達されなくなる。
図4に示すように、メインドグクラッチC1はシフトフォーク90cを介して1速用シフトアクチュエータ90に接続される。1速用シフトアクチュエータ90は伸縮するアクチュエータであり、伸長するとき、メインドグクラッチC1をメインシャフト60の一方の軸方向に移動させ、収縮するとき、メインドグクラッチC1をメインシャフト60の他方の軸方向に移動させる。具体的には1速用シフトアクチュエータ90は一方の油室90aに油圧が供給されることで伸長し、他方の油室90bに油圧が供給されることで収縮する。
カウンタドグクラッチCRはシフトフォーク94cを介して後進用シフトアクチュエータ94に接続される。後進用シフトアクチュエータ94も1速用シフトアクチュエータ90と同様、伸縮するアクチュエータであり、伸長するとき、カウンタドグクラッチCRをカウンタシャフト68の一方の軸方向に移動させ、収縮するとき、カウンタドグクラッチCRをカウンタシャフト68の他方の軸方向に移動させる。具体的には後進用シフトアクチュエータ94は一方の油室94aに油圧が供給されることで伸長し、他方の油室94bに油圧が供給されることで収縮する。
尚、変速機24の付近には1速用シフトアクチュエータ90が所定距離伸長し、メインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合されたことを検知する前進側シフトスイッチと、後進用シフトアクチュエータ94が所定距離収縮し、カウンタドグクラッチCRがカウンタ後進ギヤ84に結合されたことを検知する後進側シフトスイッチが設けられる(いずれも図示せず)。
メイン1速ギヤ76をメインドグクラッチC1でメインシャフト60に締結すると、エンジン50の出力はメインシャフト60、メイン1速ギヤ76、カウンタ1速ギヤ82、カウンタシャフト68を介してプロペラ22に伝えられ、1速が確立する。
また、メインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合されている状態(このときカウンタドグクラッチCRはいずれのギヤとの結合されずに中立位置)で、カウンタ2速ギヤ80を2速用油圧クラッチC2でカウンタシャフト68に締結すると、エンジン50の出力はメインシャフト60、メイン2速ギヤ74、カウンタ2速ギヤ80、カウンタシャフト68を介してプロペラ22に伝えられ、2速が確立する。
カウンタ後進ギヤ84をカウンタドグクラッチCRでカウンタシャフト68に締結すると、エンジン50の出力はメインシャフト60、メイン後進ギヤ78、カウンタ後進ギヤ84、カウンタシャフト68を介してプロペラ22に伝えられ、リバースが確立する。
また、1速用シフトアクチュエータ90が収縮する一方、後進用シフトアクチュエータ94が伸長し、メインドグクラッチC1とカウンタドグクラッチCRが共に中立位置にあるとき(このとき2速用油圧クラッチC2はオフ(カウンタ2速ギヤ80と非係合))、メインシャフト60とカウンタシャフト68は結合されずにニュートラルとなる。
このように、メインドグクラッチC1,2速用油圧クラッチC2およびカウンタドグクラッチCRによるギヤとシャフトの結合は油圧ポンプ86からメインドグクラッチC1,2速用油圧クラッチC2およびカウンタドグクラッチCRに供給される油圧を制御することで行われる。
この点について詳説すると、油圧ポンプ86がエンジン50により駆動されるとき、オイルパン66aの作動油は油圧ポンプ86によって汲み上げられ、油路100a、ストレーナ102を通って吐出口86aから吐出される。吐出口86aから吐出された作動油は油路100b,100dを介して第1、第2切換バルブ104a,104bに供給され、油路100c,100eを介して第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bに供給される。
第1切換バルブ104aは油圧ポンプ86と1速用シフトアクチュエータ90を接続する油路100b,100f,100gに介挿されると共に、油路100fを介して1速用シフトアクチュエータ90の油室90aに接続され,油路100gを介して1速用シフトアクチュエータ90の油室90bに接続される。
第2切換バルブ104bは油圧ポンプ86,2速用油圧クラッチC2および後進用シフトアクチュエータ94を接続する油路100b,100d,100h,100i,100m,100nに介挿されると共に、油路100hを介して後進用シフトアクチュエータ94の油室94aに、油路100i,100mを介して後進用シフトアクチュエータ94の油室94bに、油路100i,100nを介して2速用油圧クラッチC2に接続される。
第1、第2切換バルブ104a,104bの内部には移動自在なスプールが収容され、スプールは一端側(図で左端)でスプリングによって他端側に付勢される。他端側には第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bが油路100j,100kを介して接続される。
従って、第1電磁ソレノイドバルブ106aがオン(通電)されると、内部のスプールが変位させられて油路100cと100jが連通し、油圧ポンプ86から供給される油圧は第1切換バルブ104aのスプールの他端側に出力される。これにより、第1切換バルブ104aのスプールは一端側に変位させられ、油路100bの作動油が油路100fに送出されて1速用シフトアクチュエータ90の油室90aに供給される。
一方、第1電磁ソレノイドバルブ106aがオフ(通電が停止)されるときは内部のスプールは変位しないため、油路100cと100jは連通せず、油路100cからの油圧は第1切換バルブ104aのスプールの他端側には出力されない。よって、第1切換バルブ104aのスプールはスプリングによって他端側に付勢されたままである。このため、油路100bの作動油は油路100gを通って1速用シフトアクチュエータ90の油室90bに供給される。
また、第2電磁ソレノイドバルブ106bがオンされて内部のスプールが変位させられると、油路100eと100kが連通して第2切換バルブ104bのスプールが一端側に変位させられるため、油路100dの作動油は油路100iを介して第3切換バルブ104cに供給される。
一方、第2電磁ソレノイドバルブ106bがオフされるときは内部のスプールが変位しないため、油路100eからの油圧は第1切換バルブ104bのスプールの他端側には出力されず、第1切換バルブ104bのスプールはスプリングによって他端側に付勢されたままである。従って、油路100dの作動油は油路100hを通って後進用シフトアクチュエータ94の油室94aに供給される。
第3切換バルブ104cは第2切換バルブ104bと後進用シフトアクチュエータ94または2速用油圧クラッチC2を接続する油路100i,100m,100nに介挿されると共に、油路100mを介して後進用シフトアクチュエータ94の油室94bに接続され、油路100nを介して2速用油圧クラッチC2に接続される。
第3切換バルブ104cの内部にも移動自在なスプールが収容され、スプールは一端側(図で左端)でスプリングによって他端側に付勢されると共に、他端側には油路100lが接続される。従って、第1電磁ソレノイドバルブ106aがオンされて、第1切換バルブ104aのスプールが一端側に変位させられ、油路100bの作動油が油路100fに送出されると、この作動油の一部が油路100lを介して第3切換バルブ104cの他端側に出力される。これにより、第3切換バルブ104cのスプールは一端側に変位させられ、油路100iの作動油は油路100nを介して2速用油圧クラッチC2に供給されて2速用油圧クラッチC2がオン(カウンタ2速ギヤ80と係合)する。
一方、第1電磁ソレノイドバルブ106aがオフされるときは第1切換バルブ104aのスプールは変位せずにスプリングによって他端側に付勢されたままであるため、第3切換バルブ104cの他端側には油路100lからの作動油が作用せず、第3切換バルブ104cのスプールはスプリングによって他端側に付勢されたままである。よって、油路100iからの作動油は油路100mを通って後進用シフトアクチュエータ94の油室94bに供給される。
以上のように、第1電磁ソレノイドバルブ106aがオンされ、第2電磁ソレノイドバルブ106bがオフされるときは1速用シフトアクチュエータ90の油室90aに油圧が供給される一方、2速用油圧クラッチC2には油圧が供給されないため、メイン1速ギヤ76とメインシャフト60がメインドグクラッチC1で締結されて1速が確立する。尚、このとき後進用シフトアクチュエータ94は油室94aに油圧が供給されて伸長するため、カウンタドグクラッチCRはカウンタ後進ギヤ84には結合されずに中立位置となる。
また、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bが共にオンされるときは1速用シフトアクチュエータ90の油室90aと2速用油圧クラッチC2に油圧が供給されるため、メイン1速ギヤ76とメインシャフト60がメインドグクラッチC1で締結されると共に、カウンタ2速ギヤ80とカウンタシャフト68が2速用油圧クラッチC2で締結されて2速が確立する。
さらに、第1電磁ソレノイドバルブ106aがオフ、第2電磁ソレノイドバルブ106bがオンされるときは1速用シフトアクチュエータ90の油室90bに油圧が供給され、後進用シフトアクチュエータ94の油室94bに油圧が供給されると共に、2速用油圧クラッチC2には油圧が供給されないため、カウンタ後進ギヤ84とカウンタシャフト68がカウンタドグクラッチCRで締結されてリバースが確立する。
第1電磁ソレノイドバルブ106a、第2電磁ソレノイドバルブ106bが共にオフされるときは1速用シフトアクチュエータ90の油室90bと後進用シフトアクチュエータ94の油室94aに油圧が供給されるため、メインドグクラッチC1とカウンタドグクラッチCRが共に中立位置になると共に、2速用油圧クラッチC2にも油圧が供給されないため、メインシャフト60とカウンタシャフト68は結合されずにニュートラルとなる。
尚、油圧ポンプ86からの作動油(潤滑油)は油路100b,100o、レギュレータバルブ108、リリーフバルブ110を介して潤滑部(例えばメインシャフト60、カウンタシャフト68など)にも供給される。
また、第1切換バルブ104a、第1電磁ソレノイドバルブ106aおよび第3切換バルブ104cをバイパスする油路100pにはエマージェンシーバルブ112が配置される。エマージェンシーバルブ112はシステムの動作に万が一不具合が生じたときなどに手動で動かして変速できるようにするための手動バルブである。
図3に示すように、スロットルバルブ56の付近にはスロットル開度センサ120が配置され、スロットルバルブ56の開度THを示す信号を出力する。また、エンジン50のクランクシャフトの付近にはクランク角センサ122が配置され、所定のクランク角度ごとにパルス信号を出力する。さらに、チルティングシャフト16の付近にはトリム角センサ124が配置され、船外機10のトリム角θに応じた信号を出力する。
尚、ECU20と各センサやGPS受信装置38とは例えばNMEA(National Marine Electronics Association。米国船舶用電子機器協会)で規格された通信方式(例えばNMEA2000。具体的にはCAN(Controller Area Network))で通信自在に接続される。
ECU20は変速機24の変速制御とトリムユニット26でトリム角θを調整するトリム角制御を行う。また、ECU20はレバー位置センサ36の出力に基づいてスロットル用電動モータ58の動作を制御し、スロットルバルブ56を開閉させてスロットル開度THを調整するスロットル開度制御も行う。
さらに、ECU20は入力されたセンサ出力に基づいてエンジン50の燃料噴射量と点火時期を決定し、インジェクタ130を介して決定された噴射量の燃料を供給すると共に、点火装置132を介して決定された点火時期に従って噴射された燃料と吸気の混合気を点火する。
このように、この実施例に係る船外機10の制御装置は操作系(ステアリングホイール30やシフト・スロットルレバー34)と船外機10の機械的な接続が断たれたDBW(Drive By Wire)方式の装置である。
図5はECU20の変速制御動作とトリム角制御動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは各船外機10A,10B,10Cごとに所定の周期(例えば100msec)で実行される。
以下説明すると、先ずS(ステップ)10においてフォワード時、変速機24の変速段を1速、2速のいずれにすべきかを判定する変速段判定処理を行う。
図6は変速段判定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである(図6では第1船外機10Aの変速段判定処理を例に説明する)。同図に示すように、S100では前進側シフトスイッチと後進側シフトスイッチの出力値に基づいてメインドグクラッチC1がメイン1速ギヤ76に結合されて1速が確立した状態か否か判断する。
S100で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS102に進んで転舵角センサ40の出力値に基づき船外機10の船体12に対する転舵角αを検出する。
次いでS104に進み、検出された転舵角αが所定角度αt(例えば15度)以上か否か判断する。最初のプログラムループでは通例否定されてS106に進み、スロットル開度THをスロットル開度センサ120の出力値から検出すると共に、S108に進んで検出されたスロットル開度THの所定時間(例えば500msec)当たりの変化量DTHを算出する。
次いでS110に進み、変化量DTHが負値に設定された既定値DTHt(例えば−0.5deg)未満か否か、換言すると、エンジン50に対して操船者から減速が指示されて船舶1を減速させる運転状態にあるか否か判断する。
S110で否定されるときはS112に進み、2速変速フラグのビットが0か否か判断する。このフラグのビットは後述するように、加速終了後に1速から2速に変速されるときに1にセットされる。
2速変速フラグは初期値が0とされるため、最初のプログラムループでは通例肯定されてS114に進み、クランク角センサ122の出力パルスをカウントしてエンジン回転数NE(第1船外機10Aのエンジン回転数NE1)を検出する。尚、制御対象が第2船外機10Bの場合にはエンジン回転数NE2を、第3船外機10Cの場合にはエンジン回転数NE3を検出する。
次いでS116に進み、検出されたエンジン回転数NEが第1所定回転数NEt1以上か否か判断する。第1所定回転数NEt1については後述する。
エンジン始動直後のプログラムループでは通例エンジン回転数NEは第1所定回転数NEt1未満であるため、S116の判断は否定されてS118に進み、加速中フラグのビットが0か否か判断する。加速中フラグも初期値が0とされるため、最初のプログラムループでは肯定されてS120に進む。尚、加速中フラグについては後述する。
S120ではシフト・スロットルレバー34の操作位置LVRをレバー位置センサ36の出力値から検出すると共に、S122ではシフト・スロットルレバー34の操作位置LVRのスロットルバルブ56を開弁させる方向への所定時間(例えば500msec)当たりの変化量DLVRを算出する。
次いでS124に進み、変化量DLVRが既定値DLVRt以上か否か、換言すれば、エンジン50に対して操船者によって加速(正確には急加速)が指示されて船舶1を加速させる運転状態にあるか否か判定する。従って、既定値DLVRtはエンジン50に対して加速の指示がなされたと判定できるような値、例えば0.5degに設定される。
S124で否定されるときはS126に進み、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106b(図で「第1SOL」、「第2SOL」と示す)を共にオンして2速を選択すると共に、S128に進んで加速中フラグのビットを0にリセットする。
一方、S124で肯定、即ち、エンジン50に対して加速が指示されたときはS130に進み、プロペラ22の回転状態を示すスリップ率(滑り率)ε(第1船外機10Aのプロペラ22のスリップ率ε1)を検出(算出)し、S132に進んでスリップ率εの所定時間(例えば500msec)当たりの変化量Dεを算出する。スリップ率εは船舶1の理論速度Vaと実速度Vに基づいて算出し、具体的には下記の式(1)を用いて算出する。
スリップ率ε=(理論速度Va(km/h)−実速度V(km/h))/理論速度Va(km/h) ・・・式(1)
式(1)で航行速度VはGPS受信装置38の出力値(位置情報)から算出する。また、理論速度Vaは下記の式(2)に示すように、エンジン50や変速機24の運転状態、プロペラ22の仕様に基づいて算出する。
理論速度Va(km/h)=(エンジン回転数NE(rpm)×プロペラピッチ(インチ)×60×2.54×10-5)/(変速段の変速比) ・・・式(2)
式(2)でプロペラピッチはプロペラ22が1回転するときに船舶1が進むことのできる理論上の距離を示す値であり、変速段の変速比は変速機24において現在選択されている変速段の変速比であって、例えば2速のときの変速比は1.9となる。また、60なる数値は1分間当たりのエンジン回転数NEを1時間当たりの値に換算するためのものであり、2.54×10-5なる数値はプロペラピッチをインチからキロメートルに換算するためのものである。
次いでS134に進み、プロペラ22のスリップ率εの上昇を抑制するようにエンジン50のスロットル開度THを制御(図で「TH補正制御」と示す)する。
次いでS136に進み、スリップ率εが第1所定スリップ率εt1以下で、かつ変化量Dεが所定スリップ率変化量Dεt1以下か否か判断する。第1所定スリップ率εt1はスリップ率εがそれ以下のときにグリップ力が比較的強いと判断できるような低い値、例えば0.3に設定される。また、所定スリップ率変化量Dεt1は具体的には0とされる。即ち、S136はスリップ率εが減少する方向に変化し、グリップ力が比較的強い状態になったか否かを判断する処理である。
S136で肯定されるときはS138に進み、第1電磁ソレノイドバルブ106aをオン、第2電磁ソレノイドバルブ106bをオフして変速段を2速から1速に変速(シフトダウン)する。これにより、エンジン50の出力トルクは1速にシフトダウンさせられた変速機24によって増幅させられてプロペラ22に伝達され、加速性が向上する。
次いでS140に進み、転舵制御中フラグ、1速変速フラグおよび2速協調可能フラグのビットをそれぞれ0にリセットする。転舵制御中フラグのビットは後述する転舵制御が実行されたときに1にセットされる。尚、1速変速フラグおよび2速協調可能フラグについては後述する。
次いでS142に進み、加速中フラグのビットを1にセットすると共に、S144に進み、トリムアップ許可フラグ(初期値0)のビットを1にセットする。加速中フラグはエンジン50に対して加速が指示されたと判断された後に変速段が2速から1速に変速されたときに1にセットされる。尚、このフラグのビットが1にセットされると、次回以降のプログラムループではS118で否定されてS120からS136までの処理をスキップする。また、トリムアップ許可フラグのビットが1にセットされることはトリムアップの実行が許可されることを意味し、0にリセットされることは例えばエンジン50に対して減速が指示されるなど、トリムアップの必要がないことを意味する。
また、S136で否定、即ち、スリップ率εが第1所定スリップ率εt1を上回り、かつスリップ率の変化量Dεが所定スリップ率変化量Dεt1を上回るときはS146に進み、スリップ率εが第1所定スリップ率εt1より高く設定された第2所定スリップ率εt2以上か否か判断する。第2所定スリップ率εt2はスリップ率εがそれ以上のときにプロペラ22のグリップ力が弱いと判断できるような値に設定され、例えば0.5とされる。即ち、S146はS134でスロットル開度THを補正したにも関わらず、スリップ率εが上昇してプロペラ22のグリップ力が弱くなったか否かを判断する処理である。
S146で肯定されるときはS148に進み、点火時期遅角フラグ(初期値0)のビットを1にセットする。このフラグのビットが1にセットされるときは図示しないプログラムにおいてエンジン50の点火時期を遅角する制御を行う。具体的にはエンジン回転数NEなどに基づいて算出された点火時期を所定の遅角量(例えば5度)だけ遅角し、エンジン50の出力を低下させる。
エンジン50の出力を低下させると、その後プロペラ22のグリップ力は瞬時的に増加し、スリップ率εが減少して第2所定スリップ率εt2未満となる。そのときはS146で否定されてS150に進み、点火時期遅角フラグのビットを0にリセットし、エンジン50の点火時期を遅角する制御を中止し、通常の点火時期制御を実行する。
ところで、S138で変速段を1速に変速するとエンジン回転数NEは上昇し、S116の第1所定回転数NEt1に到達する。よって、次回以降のプログラムループではS116で肯定されてS152の処理に進む。尚、S116は加速が終了(加速領域が飽和)に近づいたか否かを判断するための処理であるため、第1所定回転数NEt1は比較的高い値(例えば5000rpm)に設定される。
S152ではGPS受信装置38の出力値に基づき、航行速度Vの所定時間当たりの変化量を示す航行加速度a(m/s2)を検出する。
次いでS154に進み、検出された航行加速度aが所定値at以下か否か、即ち、1速でのトルク増幅を利用した加速が終了したか否か判断し、否定されるときは処理を終了する一方、肯定されるときはS156に進み、プロペラ22のスリップ率εをS130と同様に式(1)(2)を用いて検出する。
次いでS158に進み、検出されたスリップ率εが第3所定スリップ率εt3以下か否か判断する。第3所定スリップ率εt3はスリップ率εがそれ以下のときにグリップ力が比較的強いと判断できるような低い値、例えば0.3に設定される。従って、S158はプロペラ22のグリップ力が比較的強い状態にあるか否か判断する処理である。
S158で否定されるときは処理を終了する一方、肯定されるときはS160に進み、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bを共にオンして変速段を1速から2速に変速(シフトアップ)すると共に、S162に進んで2速変速フラグのビットを1にセットする。また、S164に進んで転舵制御中フラグ、1速変速フラグおよび2速協調可能フラグのビットをそれぞれ0にリセットする。
S162において2速変速フラグのビットが1にセットされると、次回以降のプログラムループではS112で否定されてS166に進む。S166では転舵制御中フラグのビットが0か否か判断し、肯定されるときはS160に進む一方、否定されるとはS168に進んでトリムアップ許可フラグのビットを1にセットする。
また、S110で肯定、即ち、スロットル開度THの変化量DTHが既定値DTHt未満、換言すると、エンジン50に対して操船者から減速が指示されているときはS170に進み、第1、第2電磁ソレノイドバルブ106a,106bを共にオンして変速段を2速に変速する。その後、S172,S174,S176に進んで2速変速フラグ、加速中フラグ、転舵制御中フラグ、1速変速フラグおよび2速協調可能フラグのビットを0にリセットすると共に、S178に進んでイニシャルトリムフラグ(初期値0)のビットを1にセットする。
イニシャルトリムフラグのビットが1にセットされることは後述するトリムダウンの実行が許可されていることを意味し、0にリセットされることはトリムダウンの必要がないことを意味する。
また、S104で肯定、即ち、検出された転舵角αが所定角度αt以上と判断されるときはS180に進み、転舵制御を実行する。
図7は転舵制御動作を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。同図に示すように、S200では現在のプログラムループで制御対象となっている船外機が最も左舷側に配置された第1船外機10Aか、最も右舷側に配置された第3船外機10Cか、または第1船外機10Aと第3船外機10Cの間に配置された第2船外機10Bかを判断し、制御対象となっている船外機が第1船外機10Aまたは第3船外機10Cの場合にはS202に進んで第1船外機10Aまたは第3船外機10Cの転舵制御を実行する一方、制御対象となっている船外機が第2船外機10Bの場合にはS204以降の処理に進んで第2船外機10Bの転舵制御を実行する。
図8は第1船外機10Aと第3船外機10Cの転舵制御動作を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。同図に示すように、S300において2速協調可能フラグのビットが0か否か判断する。2速協調可能フラグのビットは初期値が0とされるため、最初のプログラムループでは通例肯定されてS302に進み、転舵制御中フラグのビットが0か否か判断する。転舵制御中フラグのビットも初期値は0とされるため、最初のプログラムループでは通例肯定されてS304に進み、エンジン回転数NE(NE1または第3船外機10Cのエンジン回転数NE3)を検出する。
次いでS306に進み、エンジン回転数NEが第2所定回転数NEt2(例えば800rpm)以下か否か判断し、肯定されるとき、即ち、エンジン回転数NEがアイドル回転数またはそれに近い回転数のときは定点旋回を実行すべくS308以降の処理に進む。
S308では制御の対象となる船外機が旋回方向内側の船外機か否か、換言すると、第1船外機10Aと第3船外機10Cのうち、どちらの船外機が旋回方向内側の船外機であるかを転舵角αにより判断する。具体的には転舵角αを検出し、検出された転舵角αが反時計方向(反時計回り)に転舵したと判断されるときは左舷側(進行方向左側)の第1船外機10Aを旋回方向内側の船外機として定め、右舷側(進行方向右側)の第3船外機10Cを旋回方向外側の船外機として定める。
一方、転舵角αが時計方向(時計回り)に転舵したと判断されるときは右舷側(進行方向右側)の第3船外機10Cを旋回方向内側の船外機として定め、左舷側(進行方向左側)の第1船外機10Aを旋回方向外側の船外機として定める。
S308で肯定、即ち、制御の対象となる船外機が旋回方向内側の船外機であると判断されるときはS310に進み、旋回方向内側の船外機について定点旋回制御を実行し、S308で否定、即ち、制御の対象となる船外機が旋回方向外側の船外機であると判断されるときはS312に進み、旋回方向外側の船外機について定点旋回制御を実行する。
尚、旋回方向内側の船外機の定点旋回制御(S310)とは変速段をリバースにするように変速機24の動作を制御することをいい、旋回方向外側の船外機の定点旋回制御(S312)とは変速段を1速にするように変速機24の動作を制御することをいう。このように制御することで船体12のスムーズな定点旋回が可能となる。
また、S306で否定、即ち、エンジン回転数NEが第2所定回転数NEt2を超えるときはS314に進み、エンジン回転数NEが第3所定回転数NEt3(所定回転数)を超えるか否か判断する。S314は船体12が最高速付近で転舵しているか否かを判断する処理であるため、第3所定回転数NEt3は例えば5000rpmに設定される。
S314で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS316に進み、プロペラ22のスリップ率ε(ε1または第3船外機10Cのプロペラ22のスリップ率ε3)を検出する。
次いでS318に進み、検出されたスリップ率εが第4所定スリップ率εt4(所定スリップ率)以上か否か判断し、否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS320に進み、第1電磁ソレノイドバルブ106aをオン、第2電磁ソレノイドバルブ106bをオフして変速段を1速に変速する。尚、第4所定スリップ率εt4は例えば第1所定スリップ率εt1と同様、グリップ力が比較的強いと判断できる値、例えば0.3に設定される。
このように、S104およびS314からS320などの処理は、転舵角αが所定角度αt(例えば15度)以上と判断され(S104)、エンジン回転数NEが第3所定回転数NEt3(例えば5000rpm)を超えると判断されたとき(S314)、換言すると、最高速付近で比較的大きな転舵(大転舵)が検出されたとき、両端の船外機、即ち、第1船外機10Aと第3船外機10Cの変速段をそれぞれのスリップ率ε1,ε3に基づいてそれぞれ選択するものである(S318,S320等)。
具体的には最高速付近で大転舵が検出された場合であって、スリップ率εが第4所定スリップ率εt4以上、即ち、グリップ力が弱くスリップが多いときは変速段を1速にしてスリップ率を低めるような制御を行い、スリップ率εが第4所定スリップ率εt4未満であり、グリップ力が強く(あるいはグリップ力が回復し)スリップが少ないときは変速段を2速(のまま)にするものである。
次いでS322に進み、転舵制御中フラグのビットを1にセットして処理を終了する。転舵制御中フラグのビットが1にセットされると、次回以降のプログラムループではS302で否定されてS304からS322までの処理をスキップする。尚、S324の処理については後述する。
図7フロー・チャートの説明に戻ると、S200で否定、即ち、現在のプログラムループにおける制御対象が第2船外機10BであるときはS204に進む。S204以降の処理は第2船外機10Bの転舵制御を説明するものであるが、先ずS204では図8のS316で検出した第1船外機10Aのプロペラ22のスリップ率ε1および第3船外機10Cのプロペラ22のスリップ率ε3を用いて、その差分(以下「スリップ率差」という)dを算出する。
スリップ率差dはスリップ率ε1からスリップ率ε3を減算(またはスリップ率ε3からスリップ率ε1を減算)した値の絶対値(|ε1−ε3|)として算出されるため、例えばスリップ率ε1が10%(0.1)、スリップ率ε3が20%(0.2)の場合には10%(0.1)となる。
スリップ率ε1とスリップ率ε3はそれぞれ式(1)(2)を用いて検出されるが、スリップ率ε1は第1船外機10Aのエンジン回転数NE1に基づいて算出された船体12の理論速度Vaと船体12の実速度Vとから検出され、スリップ率ε3は第3船外機10Cのエンジン回転数NE3に基づいて算出された船体12の理論速度Vaと船体12の実速度Vとから検出される。
尚、スリップ率差dは上記したように、図8のS314でエンジン回転数NEが第3所定回転数NEt3を超えたと判断された後にS316で検出されたスリップ率ε1,ε3に基づいて算出されるため、スリップ率差dが算出されるS204の時点では既にエンジン回転数NEが第3所定回転数NEt3を上回っている状態、即ち、最高速付近で大転舵が生じている状態になっている。
次いでS206に進み、1速変速フラグのビットが0か否か判断する。1速変速フラグのビットは初期値が0とされるため、最初のプログラムループでは通例肯定されてS208に進み、算出されたスリップ率差dが第1所定スリップ率差dt1以上か否か判断する。第1所定スリップ率差dt1については後述する。
S208で肯定されるときはS210に進み、第1電磁ソレノイドバルブ106aをオン、第2電磁ソレノイドバルブ106bをオフして変速機24の変速段を1速に変速すると共に、S212に進み、1速変速フラグのビットを1にセットする。従って、1速変速フラグのビットは算出されたスリップ率差dが第1所定スリップ率差dt1以上となって第2船外機10Bの変速段が1速に変速されたときに1にセットされる。
尚、スリップ率差dが大きいということは、第1船外機10Aと第3船外機10Cとの協調運転が行い難い状況になっていると考えられるため、所望の方向へ効率的な推進力を得ることができなくなる。そこで、スリップ率差dが大きいときは第2船外機10Bの変速段を1速に変速することで第2船外機10Bのエンジン50の出力トルクを増幅させて推進力(加速性能)の向上を図るようにした。また、スリップ率差dが大きいと第2船外機10Bの変速タイミングが遅れるため、例えば再加速時に加速性が悪化することもあるが、第2船外機10Bの変速段を1速に変速することでこのような問題も解消される。以上から、上記した第1所定スリップ率差dt1は第1船外機10Aと第3船外機10Cとの協調運転が行い難い状況になったり、再加速時に加速性が悪化すると考えられる値(例えば20%(0.2))に設定される。
S212で1速変速フラグのビットが1にセットされると、次回以降のプログラムループではS206で否定されてS214に進み、算出されたスリップ率差dが第2所定スリップ率差dt2未満か否か判断される。S214はスリップ率差dが小さくなったか否かを判断する処理であるため、第2所定スリップ率差dt2は例えば5%とされる。
S214で否定されるときは処理を終了、即ち、スリップ率差dが依然として大きいため、変速段を1速のままとする一方、肯定されるときはS216に進み、第1電磁ソレノイドバルブ106aと第2電磁ソレノイドバルブ106bを共にオンして変速段を2速に変速、即ち、スリップ率差dが小さくなったので、変速段を2速に変速する。
次いでS218に進み、2速協調可能フラグのビットを1にセットする。従って、2速協調可能フラグのビットはスリップ率差dが第1所定スリップ率差dt1以上となって第2船外機10Bの変速段が1速に変速された後、スリップ率差dが第2所定スリップ率差dt2以下、即ち、スリップ率差が小さくなり、変速段が2速に変速されたとき1にセットされるものである。
2速協調可能フラグのビットが1にセットされると、図8フロー・チャートのS300で否定されてS324に進み、第1、第2船外機10A,10Bの第1電磁ソレノイドバルブ106aと第2電磁ソレノイドバルブ106bを共にオンして変速段を2速に変速する。即ち、スリップ率差dが小さくなると、すべての船外機10A,10B,10Cの変速段を2速(同一の変速段)に変速し、各船外機10A,10B,10Cの協調運転を行うことによってスムーズな旋回や航行を実現するようにしている。
図6フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS182に進み、イニシャルトリムフラグのビットを1にセットして処理を終了する。
図5フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS12に進み、船外機10のトリムアップを実行すべきか否かのトリムアップ判定処理を行う。
図9はトリムアップ判定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。同図に示すように、S400においてトリムアップ許可フラグのビットが1か否か判断し、否定されるときはトリムアップの必要がないことからS402に進み、トリムアップを停止、正確にはトリムアップを行わない一方、肯定されるときはS404に進み、トリム角θが既定角度θt1(例えば10度)未満か否か判断する。
S404で肯定されるときはS406に進み、トリムユニット26を動作させてトリムアップを実行、正確にはトリムアップを開始する一方、否定されるときはS402に進み、トリムアップを停止する。
図5フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS14に進み、船外機10のトリムダウンを実行してトリム角θをイニシャル化(初期化)、即ち、トリム角θを初期角度θt0にすべきか否かのイニシャルトリム判定処理を行う。
図10はイニシャルトリム判定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。同図に示すように、S500においてイニシャルトリムフラグのビットが1か否か判断し、否定されるときはトリムアップが行われていないため、以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS502に進み、トリム角θが初期角度θt0(具体的には0度)か否か判断する。
S502で否定されるときはS504に進み、トリムユニット26を動作させてトリムダウンを開始する。その後、トリム角θが初期角度θt0になった(戻った)ときはS502で肯定されてS506に進み、イニシャルトリムフラグのビットを0にリセットし、S508に進んでトリムダウンを停止して処理を終了する。
このように、転舵制御が実行されると(S180)、イニシャルトリムフラグのビットが1にセットされ(S182)、トリム角θが初期角度θt0(0度)にリセットされる(S500〜S508)。即ち、最高速付近で大転舵が検出されると、上記したように、スリップ率εに基づいて変速段が選択されると共に、トリム角θが初期角度θt0にリセットされる。一方、転舵角αが所定角度αt未満になると、トリム角θを既定角度θt1に戻す処理、即ち、トリム角θを転舵前の角度までトリムアップする(戻す)処理が実行される(S400〜S406)。
図11は上記した処理の一部を説明するタイム・チャートである。同図に示すように、時刻t1ではシフト・スロットルレバー34がフォワード位置(レバー位置センサ36の出力電圧がフォワード位置を示す値(例えば4.5V))にあり(S100)、転舵角センサ40により検出された転舵角αが15度以上(S104)、かつ第1、第2船外機10A,10Bのエンジン回転数NE1,NE3が5000rpmを超えるため(S314)、第1、第2、第3船外機10A,10B,10Cのトリムダウンを開始する(S182,S500〜S508)。このトリムダウンはトリム角が初期角度θt0(0度)となるように制御される(S502)。
また、第1船外機10Aのプロペラ22のプロペラ22のスリップ率ε1が第4所定スリップ率(所定スリップ率)εt4(30%)以上となったため、第1船外機10Aの変速機24の第2ソレノイドバルブ106b(図で「第2SOL」と示す)をオフにして(第1ソレノイドバルブ106a(図で「第1SOL」と示す)はオンのまま)、変速段を1速に変速する(S318,S320)。尚、第3船外機10Cのプロペラ22のスリップ率ε3は第4所定スリップ率εt4未満のため、第3船外機10Cの変速機24の第1ソレノイドバルブ106aと第2ソレノイドバルブ106bはオン、即ち、変速段は2速のままである。
次いで時刻t2ではスリップ率差dが第1スリップ率差dt1(20%)以上となったため(S208)、第2船外機10Bの変速機24の第2ソレノイドバルブ106bをオフにして(第1ソレノイドバルブ106aはオンのまま)、変速段を1速に変速する(S210)。
時刻t3では転舵角αが所定角度αt未満に戻る(S104)と共に、スリップ率差dも第2スリップ率差dt2(5%)未満になったため(S214)、第2船外機10Bの変速機24の第2ソレノイドバルブ106bをオンにして変速段を2速に変速する(S216)。また、第1、第2、第3船外機10A,10B,10Cのトリムアップを開始してトリム角θを転舵前の既定角度θt1(10度)に戻すように制御する(S168,S400〜S406)。
以上の如く、この発明の実施例にあっては、船体12に取り付け可能であると共に、内燃機関(エンジン)50からの動力をプロペラ22に伝達する動力伝達軸(メインシャフト60、プロペラシャフト62、カウンタシャフト68)に介挿され、少なくとも1速、2速を含む選択可能な複数の変速段を有し、前記内燃機関の出力を前記複数の変速段のうちの選択された変速段で変速して前記プロペラに伝達する変速機24をそれぞれ有し、左舷から第1、第2、第3船外機10A,10B,10Cの順に並列に配置されてなる少なくとも3基の船外機を備えた船舶1の制御装置において、前記第1船外機10Aの内燃機関の機関回転数NE1を検出する第1機関回転数検出手段(クランク角センサ122。ECU20。S304)と、前記第2船外機10Bの内燃機関の機関回転数NE2を検出する第2機関回転数検出手段(クランク角センサ122。ECU20。S114)と、前記第3船外機10Cの内燃機関の機関回転数NE3を検出する第3機関回転数検出手段(クランク角センサ122。ECU20。S304)と、前記第1、第2、第3船外機10A,10B,10Cからなる少なくとも3基の船外機のうちのいずれかの船外機の前記船体に対する転舵角αを検出する転舵角検出手段(転舵角センサ40。ECU20。S102)と、前記第1機関回転数検出手段によって検出された機関回転数NE1に基づいて算出された前記船体の理論速度Vaと前記船体の実速度Vとから前記第1船外機のプロペラのスリップ率ε1を検出する第1スリップ率検出手段(ECU20。S316)と、前記第3機関回転数検出手段によって検出された機関回転数NE3に基づいて算出された前記船体の理論速度Vaと前記船体の実速度Vとから前記第3船外機のプロペラのスリップ率ε3を検出する第2スリップ率検出手段(ECU20。S316)と、前記第1スリップ率検出手段によって検出されたスリップ率ε1と前記第2スリップ率検出手段によって検出されたスリップ率ε3との差分(スリップ差率)dを算出するスリップ率差分算出手段(ECU20。S204)と、前記検出された転舵角αが所定角度αt未満のときは少なくとも前記第2機関回転数検出手段によって検出された機関回転数NE2に基づいて前記複数の変速段のうちのいずれかの変速段を選択する一方、前記検出された転舵角αが所定角度αt以上のときは前記算出された差分dに基づいて前記複数の変速段のうちのいずれかの変速段を選択するように前記第2船外機の変速機10Bの動作を制御する変速機制御手段(ECU20。S104,S208,S210,S214,S216等)とを備える如く構成したので、3基以上の船外機を備えた船舶1であってもキャビテーションを効果的に抑制することができ、よってスムーズに旋回できるようになる。尚、スリップ率差dが大きいということは、第1船外機10Aと第3船外機10Cとの協調運転が行い難い状況になっていると考えられるため、所望の方向へ効率的な推進力を得ることができなくなる。しかし、スリップ率差dが大きいときに第2船外機10Bの変速段を1速に変速することで第2船外機10Bのエンジン50の出力トルクが増幅されるため、所望の方向への必要な推進力(加速性能)を得ることができるようになる。また、スリップ率差dに基づいて変速が行われるので、第2船外機10Bの変速タイミングが遅れて再加速時に加速性が悪化することもなくなる。
また、前記変速機制御手段は、前記検出された転舵角αが前記所定角度αt以上で、かつ前記第1、第2、第3機関回転数検出手段によって検出された機関回転数NE1,NE2,NE3のうちの少なくともいずれかが所定回転数(第3所定回転数)NEt3以上のとき、前記算出された差分dに基づいて前記複数の変速段のうちのいずれかの変速段を選択するように前記第2船外機10Bの変速機の動作を制御する(ECU20。S104,S208,S210,S214,S216,S314)如く構成したので、3基以上の船外機を備えた船舶1が最高速付近で大転舵する場合であってもキャビテーションを効果的に抑制することができ、よってスムーズに旋回できるようになる。即ち、最高速付近で大転舵すると大きな遠心力がかかってスムーズな旋回が困難となるため、通常、大転舵時は減速しながら転舵するようにしているが、この発明では差分dに基づいて変速機24の動作を制御するので減速しなくてもスムーズに旋回できるようになる。
また、前記変速機制御手段は、前記算出された差分dが所定値(第1所定スリップ率差)dt1以上のとき、前記複数の変速段のうちの1速を選択するように前記第2船外機10Bの変速機の動作を制御する(ECU20。S208,S210)如く構成したので、キャビテーションを一層効果的に抑制することができ、よってスムーズに旋回できるようになる。
また、前記変速機制御手段は、前記算出された差分dが所定値(第1所定スリップ率差)dt1以上になってから前記所定値(第2所定スリップ率差)dt2未満になったとき、前記複数の変速段のうちの2速以上の変速段を選択するように前記第2船外機10Bの変速機の動作を制御する(ECU20。S214,S216)如く構成したので、転舵が終了した後は通常航行にスムーズに移行することができる。
また、前記第1、第2、第3船外機10A,10B,10Cの前記船体に対するトリム角θをトリムアップ/ダウンによって調整可能なトリム角調整機構(トリムユニット)26と、前記検出された転舵角αが前記所定角度αt以上のとき、前記トリム角θが初期角度θt0(0度)となるように前記トリム角調整機構の動作を制御するトリム角制御手段(ECU20。S104,S182,S500〜S508)とを備える如く構成したので、一層スムーズに旋回できるようになる。
また、前記トリム角制御手段は、前記検出された転舵角αが前記所定角度αt以上になってから前記所定角度αt未満になったとき、前記トリム角θが既定角度θt1となるように前記トリム角調整機構26の動作を制御する(ECU20。S104,S168、S400〜S406)如く構成したので、転舵が終了した後は通常航行にスムーズに移行することができる。
尚、実施例では、船外機を例に説明したが、変速機を備えた船内外機についても本発明を適用することができる。
また、実施例では、3基の船外機10A,10B,10Cを備えた船舶1を例に説明したが、4基以上の船外機を備えた船舶にも本発明は適用される。
また、実施例では、第1所定スリップ率差dt1と第2所定スリップ率差dt2を異なる値(それぞれ20%と5%)で示したが、これに限定されるものではなく、第1所定スリップ率差dt1と第2所定スリップ率差dt2を同じ値にしても良い。
また、所定角度αt、既定値DTHt、既定値DLVRt、第1所定回転数NEt1、第2所定回転数NEt2、第3所定回転数NEt3、第1所定スリップ率εt1、第2所定スリップ率εt2、第3所定スリップ率εt3、第4所定スリップ率εt4、所定スリップ率変化量Dε1、第1所定スリップ率差dt1、第2所定スリップ率差dt2、初期角度θt0、既定角度θt1、エンジン50の排気量などを具体的な値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。