本発明の磁気ヘッド用基板は、図1(a)、(b)に示すような磁気ヘッド用基板7、7′を準備する。図1(a)に示した磁気ヘッド用基板7は、図1(b)に示した円板状の磁気ヘッド用基板7′にオリエンテーションフラット70を形成したものである。オリエンテーションフラット70は、スライダに電磁変換素子を搭載するとき、あるいは磁気ヘッド用基板7を短冊状に切断するときの位置決めに用いられるものである。このオリエンテーションフラット70は、図1(b)に示した磁気ヘッド用基板7′の一部をダイシングソーで切除することで形成することができる。もちろん、図1(b)に示した磁気ヘッド用基板7′を用いて磁気ヘッド2を形成することもできる。
磁気ヘッド用基板7、7′は、たとえば直径Dが102〜153mm、厚みTが1.2〜2mmの焼結体である。この磁気ヘッド用基板7、7′は、主成分としてアルミナ(Al2O3)の結晶粒子、副成分として炭化チタン(TiC)の結晶粒子を含有する複合焼結体である。
Al2O3は、焼結体(磁気ヘッド用基板7、7′)の機械的特性、耐摩耗性および耐熱性を確保するためのものである。焼結体の機械加工性は、たとえばラップ加工における単位時間当たりの研磨量を測定することにより評価することができる。焼結体におけるAl2O3の含有量は、60〜70質量%とされている。
TiCは、焼結体(磁気ヘッド用基板7、7′)の導電性および破壊靱性を調整するものである。焼結体の導電性は、例えば、体積固有抵抗として評価することができる。体積固有抵抗は、JIS C 2141−1992に準拠して測定することができる。焼結体の導電性は、体積固有抵抗として、2×10―1Ω・m以下であることが好ましく、特に2×10―3Ω・m以下であることが好適である。焼結体におけるTiCの含有量は30〜40質量%とされている。焼結体におけるTiCの含有量が30質量%以上であると、高い導電性を確保することができる。
そのため、磁気ヘッド用基板7、7′を用いて形成した磁気ヘッドにおいて、電磁変換素子に電荷が帯電したときに、速やかに電荷を除去することができる。一方、焼結体におけるTiCの含有量が40質量%以下であると、後に説明する焼結工程において、微少な気孔(たとえば直径が100〜500nmの気孔)が焼結体の内部に発生することを抑制することができる。そのため、焼結工程後の加工、たとえば切断、イオンミリング加工法、反応性イオンエッチング法を行なうときに結晶粒子が脱粒するのを抑制することができる。
ここで、Al2O3の含有量を60〜70質量%、TiCの含有量が30〜40質量%と限定したのは、TiCの含有量が30質量%よりも少ない場合(Al2O3の含有量が70質量%よりも多い場合)には、導電性および密度が低下して、脱粒が多くなり、一方、TiCの含有量が40質量%よりも多い場合(Al2O3の含有量が60質量%よりも少ない場合)には、脱粒が多くなるからである。
焼結体におけるAl2O3およびTiCの比率は、蛍光X線分析法またはICP(Inductivity Coupled Plasma)発光分析法によりAl元素およびTi元素の比率により求めることができる。Al2O3についてはAl元素の比率を酸化物に換算し、TiCについてはTi元素の比率を炭化物に換算することにより求めることができる。
そして、本発明では、焼結体は、図2に示すように、TiC結晶粒子77とAl2O3結晶粒子79とを具備して構成されており、任意断面の10μm角(10μm×10μmの視野)におけるTiC結晶粒子77とAl2O3結晶粒子79との間の全界面平均長さが120μm以上とされている。言い換えれば、任意断面10μm×10μmの領域に存在するTiC結晶粒子77とAl2O3結晶粒子79との間の全界面の長さを求め、そのような界面の長さを複数領域で求め、その平均が120μm以上とされている。
任意断面における10μm×10μmの領域に存在するTiC結晶粒子77とAl2O3結晶粒子79との全界面平均長さは、特に150μm以上、さらには180μm以上であるのが好適である。任意の領域に存在するTiC結晶粒子77とAl2O3結晶粒子79との間の全界面平均長さが120μm以上であれば、TiC結晶粒子77とAl2O3結晶粒子79は、微粒で、かつ同成分の粒子同士が偏析することなく理想的に分散していることになり、Al2O3結晶粒子79の異常な粒成長を抑制できる。また、TiC結晶粒子77は、Al2O3結晶粒子79間の隙間を埋めるように析出するため、Al2O3結晶粒子79との接触面積が大きく、Al2O3結晶粒子79のアンカーとして機能する。そのため、スライシングマシーンやダイシングソーを用いて磁気ヘッド用基板7、7′を短冊状に切断し、あるいはイオンミリング加工法や反応性イオンエッチング法により流路面を形成したとしても、結晶粒子の脱粒を抑制することができる。
ここで、TiC結晶粒子77とAl2O3結晶粒子79との全界面平均長さを求めるのに、焼結体の任意断面における10μm×10μmの領域としたのは、焼結体における結晶粒子の平均結晶粒径が、例えば0.25μm以下とされるため、このような範囲の平均粒径においては、10μm×10μm程度の領域で、結晶粒子界面の長さを精度よく求めることができるからである。
また、任意断面の10μm角におけるTiC結晶粒子77とAl2O3結晶粒子79との間の全界面平均長さについては、以下のような手順で求めることができる。
まず、磁気ヘッド用基板7、7′の任意の面を「クロスセクションポリッシャー」(日本電子(株)製)にて鏡面加工した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、鏡面のうちで任意の場所を5視野選び、倍率を10,000倍で撮影して画像(以下、この画像をSEM画像と称す)を得る。得られた5視野分のSEM画像を、たとえば「Jtrim」というフリーソフトを用いて画像処理する。具体的には、SEM画像をグレースケールに変換し、その後、フィルターによって細かいノイズを除去して、SEM画像よりもコントラストを強調した画像を求める。
次に、コントラストが強調された画像に輝度(明暗)を強調する処理を行なった後に、2値化処理する。なお、2値化処理とは画像の濃度を白か黒の2つの値に変換する処理をいい、たとえばAl2O3結晶粒子は黒色、TiC結晶粒子は白色として処理される。そして、黒色部分と白色部分との境界部分の長さを合算し、5視野分を平均することで、TiC結晶粒子とAl2O3結晶粒子との全界面平均長さを求めることができる。
焼結体は、任意断面の10μm角に存在するTiC結晶粒子の平均個数が500個以上であることが望ましい。特に、600個以上であるのが好適である。この場合、Al2O3結晶粒子と隣接した状態で析出するTiC結晶粒子の個数が多いため、Al2O3結晶粒子とTiC結晶粒子との界面は必然的に多くなる。その結果、TiC結晶粒子は、Al2O3結晶粒子に対してアンカー効果をもたらすものとして作用する。そのため、スライシングマシーンやダイシングソーを用いて磁気ヘッド用基板7、7′を短冊状に切断し、あるいはイオンミリング加工法や反応性イオンエッチング法により流路面を形成したとしても、結晶粒子の脱粒を抑制することができる。
なお、TiC結晶粒子の数については、以下のような手順で求めることができる。磁気ヘッド用基板7、7′の任意の面を「クロスセクションポリッシャー」にて鏡面加工した後、この面を燐酸により数10秒程度エッチング処理を行う。これは、個々のTiC結晶粒子の粒界部を明確にし、TiC結晶粒子の数のカウントを容易にするためである。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、エッチング処理面のうちで任意の場所を選び、倍率を10,000倍で撮影して画像を得て、前述のTiC結晶粒子とAl2O3結晶粒子との2値化処理を行った画像から、白色として処理されるTiC結晶粒子の数をカウントすることで求めることができる。
焼結体(磁気ヘッド用基板7、7′)におけるAl2O3結晶粒子の平均結晶粒径は、0.25μm以下であるのが好ましく、特に0.18μm未満であるのが好適である。焼結体におけるAl2O3結晶粒子の平均結晶粒径を0.25μm以下とすれば、TiC結晶粒子は、その微細なAl2O3結晶粒子間を縫うようにTiC結晶粒子が粒成長し、焼結体における結晶粒子の脱粒を抑制することができる。
なお、上述した焼結体のAl2O3結晶粒子の平均粒径は、前述のTiC結晶粒子の個数の算出に用いた走査型電子顕微鏡画像を、画像解析ソフト(たとえば「Image-Pro Plus」;日本ビジュアルサイエンス(株)製)を用いて解析することで求めることができる。
焼結体(磁気ヘッド用基板7、7′)はまた、熱伝導率について19W/(m・k)以上であるのが好ましい。
焼結体(磁気ヘッド用基板7、7′)の熱伝導率を19W/(m・k)以上とすれば、電磁変換素子20から発生した熱を速やかにスライダ21に逃がすことができる。そのため、このような熱伝導性に優れる磁気ヘッド用基板7、7′を用いて磁気ヘッド2を形成すれば、記録媒体に保存された記録が熱破壊されることを抑制することができる。ここで、熱伝導率は、JIS R 1611−1997に準拠して測定することができる。
本発明の磁気ヘッド用基板7、7′は、例えば材料粉末を混合・粉砕、造粒して得られる顆粒を用いた加圧焼結により作製される。
材料粉末としては、アルミナ粉末60〜70質量%、焼結助剤としてのTiO2粉末0.2〜10質量%を含有し、残部がTiC粉末であるものが用いられる。材料粉末としては、焼結を促進させて焼結体をより緻密にするために、Yb2O3、Y2O3、およびMgOのうち少なくとも1種を0.1〜0.6質量%加えたものを使用してもよい。
材料粉末の混合は、例えばボールミル、振動ミル、コロイドミル、アトライター、あるいは高速ミキサーを用いて行なわれる。また、本発明における材料粉末の混合・粉砕方法の手順として、まず、アルミナ粉末のみを単独で粉砕し、次に残部すなわち、TiC粉末、TiO2粉末、その他、必要に応じてYb2O3粉末など焼結促進作用のある粉末を追加混合し、粉砕することが重要である。
この理由として、従来、TiC粉末とAl2O3粉末を同時に混合・粉砕した場合、TiC粉砕の粒度を十分下げるために長時間の粉砕が必要とされるが、長時間の粉砕によりAl2O3粉末が微細になり、その際、解砕された微粒のAl2O3が再凝集するといった問題があった。一方、Al2O3の再凝集を抑制するために、粉砕時間を短時間にした場合、TiC粉砕の粒度が十分下がらないという問題があった。
そのため、単独でアルミナ粉末のみを粉砕しすぎない程度に解砕し、その後、TiC粉末、TiO2粉末、焼結促進作用のある粉末を追加混合・粉砕した場合、長時間粉砕してもAl2O3の再凝集が起こりにくい。これにより、TiC結晶粒子とAl2O3結晶粒子は、同成分の粒子同士が偏析することなく理想的に分散し、さらに微粒であることから、Al2O3結晶粒子の異常な粒成長を抑制する効果がある。
材料粉末の粉砕には、たとえば直径が2.8mm以下の粉砕用ビーズを用いるのが好ましい。これにより、材料粉末の平均粒径が0.5μm以下(但し、0μmを除く。)とされ、焼結体の平均結晶粒径を0.25μm未満にすることが可能となる。
尚、混合粉砕工程が、TiC粉末とAl2O3粉末を同時に混合・粉砕する工程だけの従来の場合に比較して、分割して粉砕すると、TiC粉末とAl2O3粉末の粒径が少し大きくなるが、Al2O3の再凝集を抑制することができる。
粉砕後の材料粉末の平均粒径は、液相沈降法、遠心沈降光透過法、レーザー回折散乱法あるいはレーザードップラー法等により測定することができる。
顆粒の造粒は、粉砕した材料粉末に、結合剤、分散剤等の成形助剤を添加して均一に混合した後に、公知の造粒機を用いて行なうことができる。造粒機としては、たとえば転動造粒機、噴霧乾燥機、あるいは圧縮造粒機を用いることができる。顆粒は、たとえば平均粒径が100μm以下に形成される。顆粒の平均粒径を100μm以下とするのは粉砕された原料が凝集したり、原料を構成する組成が分離したりするのを防止するためである。
加圧焼結は、たとえば顆粒を所望の形状に成形した成形体を加圧焼結装置内に配置して行なわれる。図3に示したように、加圧焼結装置8においては、成形体80は、たとえば両主面よりカーボン質の離型材81を介して黒鉛製スペーサ82で挟まれ、段積み状態で配置される。加圧焼結装置8において、成形体80の周囲には炭素質材料を含む遮蔽材83が配置されている。
加圧焼結装置8において、カーボン質の離型材81を介することによってTiO2が焼成工程で還元されて発生する二酸化炭素(CO2)が焼結体から容易に排出されるため、磁気ヘッド用基板7、7′の密度のばらつきを制御することができる。
炭素質材料を含む遮蔽材83を成形体80の周囲に配置して加圧焼結すれば、TiC粒子からTiO2、TiCxOy(x+y<1、かつx≫y)等の酸化物粒子への変質を防ぎ、機械的特性の優れた磁気ヘッド用基板7、7′とすることができる。
加圧焼結装置8に成形体80を配置した後は、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素あるいは真空等の雰囲気中で、温度を1400〜1700℃、加圧力を30MPa以上で加圧焼結することによって図1(b)に示す円板状の磁気ヘッド用基板7′を得ることができる。また、図1(b)に示す円板状の磁気ヘッド用基板7′の一部をダイシングソーで切除することによって、図1(a)に示した磁気ヘッド用基板7を形成することができる。
また、本発明における焼結条件としては、1600〜1700℃の範囲の最高温度、1400〜1550℃の範囲に中間保持温度を設定し、該中間保持温度で少なくとも1時間保持することが重要である。この理由として、Al2O3およびTiCが、それぞれ粒成長しすぎることなく緻密化する最適な焼結温度が異なっているためであり、上述の通り保持温度を設定することで、焼結が十分に進行し、特に、Al2O3結晶粒子の異常な粒成長が抑制できる。
尚、1400〜1550℃の範囲でAl2O3結晶粒子が結晶化を開始し、少なくとも1時間保持することで、ある程度の焼結収縮が進行する。続いて、1600〜1700℃の範囲で、TiC結晶粒子は、既に結晶化し散在するAl2O3結晶粒子間の微細な隙間を埋めるように析出する。これにより、TiC結晶粒子とAl2O3結晶粒子との全界面平均長さが増加し、TiC結晶粒子はアンカー効果をもたらすものとして機能し、特に、Al2O3結晶粒子の脱粒が低減できる。
また、焼結時の加圧力を30MPa以上とすれば、焼結体の緻密化を促進し、磁気ヘッド用基板7、7′として求められる強度を得ることができる。
このようにして得られる焼結体(磁気ヘッド用基板7、7′)は、主成分および副成分がそれぞれAl2O3およびTiCである複合焼結体となる。
このような複合焼結体においては、切断面での任意の10μm×10μmの領域に存在する炭化チタンとアルミナとの間の全界面平均長さが、120μm以上とされている。
ここで、焼結助剤としてTiO2を用いれば、このTiO2は、焼成工程で焼成雰囲気中に含まれる微量の一酸化炭素(CO)により、下記式(1)に示すようにTiOに還元される。還元されたTiOは、反応式(2)に示すように、TiCに固溶して、新たにTiCxOy(x+y<1、かつx≫y)を生成する。なお、x=0.85〜0.9、y=0.1〜0.15である。
TiO2+CO→TiO+CO2・・・(1)
TiO+TiC→TiCxOy(x+y<1、かつx>>y)・・・(2)
生成したTiCxOyは、TiOの固溶量yに応じて密度が異なり、固溶量yを0.15にすると、焼結体(磁気ヘッド用基板7、7′)の密度が最も大きくなる。
焼結助剤として添加したTiO2は、そのほとんどがTiCxOyに変化する。x=0.85〜0.9、y=0.1〜0.15の範囲では、TiCへのTiOの固溶により内部に発生する微小な気孔(直径が100〜500nm)の発生を低減でき、気孔の凝集をも抑制することができる。
加圧焼結後には、必要に応じて熱間等方加圧焼結(HIP)を行なってもよい。
焼結の終了後は、図4示したように、電磁変換素子72を形成する。電磁変換素子72は、磁気ヘッド用基板7(7′)上に非晶質状のアルミナからなる絶縁膜71をスパッタリング法により成膜した後、絶縁膜71上に形成される。電磁変換素子72は、磁気抵抗効果を用いたMR素子、GMR素子、TMR素子あるいはAMR素子として形成される。
次に、図5(a)に示したように、電磁変換素子72が搭載された磁気ヘッド用基板7(7′)を切断して、図5(b)に示すような短冊片73を得る。磁気ヘッド用基板7(7′)の切断は、スライシングマシーンやダイシングソーを用いて行なうことができる。
次に、図5(b)に示したように、短冊片73は、スライダ21において浮上面22(図11参照)となるべき面を研磨して鏡面とする。この研磨は、たとえば公知のラップ装置を用いて行なうことができる。
次に、図6(a)に示したように、短冊片73の研磨面74に凹部(流路面)75を形成する。凹部75は、磁気ヘッド2を浮上させるための空気を通す流路面23(図11参照)として機能するものである。研磨面74における除去されずに鏡面のままの部分は、磁気ヘッド2において磁気記録媒体に対向させられる浮上面22(図11参照)となるものである。
凹部75は、たとえばイオンミリング加工法や反応性イオンエッチング法により、目的とする形状、深さおよび表面粗さに形成される。凹部75の深さは、研磨面74(浮上面22)(図11参照)に対して、たとえば1.5〜2.5μmとされる。凹部75の表面における算術平均粗さRaは、たとえば15nm以下(0nmを除く)とされる。このような表面粗さに凹部75を形成すれば、磁気ヘッド2における流路面23(図11参照)の平滑性が向上し、空気の流れを適切に制御できるため、磁気ヘッド2の浮上特性を安定化させることができる。
なお、凹部75の算術平均高さ(Ra)を15nm以下にするには、イオンミリング加工法や反応性イオンエッチング法で適宜加工条件を選択すればよい。たとえば、イオンミリング加工法により凹部75を形成する場合には、Arイオンを用いて、加速電圧を600V、ミリングレートを18nm/分として75〜125分間加工すればよい。一方、反応性イオンエッチング法により凹部75を形成する場合には、たとえばArガスおよびCF4ガスを用いて、それぞれの流量を3.4×10−2Pa・m3/sおよび1.7×10−2Pa・m3/sとして混合したガス雰囲気中で、このガスの圧力を0.4Paにして加工すればよい。
最後に、図6(b)に示したように、凹部75を形成した短冊片73を切断することにより、図11に示したようなチップ状の磁気ヘッド2を得ることができる。
上述した製造方法で得られた磁気ヘッド用基板7、7′および磁気ヘッド2のスライダ21は、任意断面の10μm角におけるTiC結晶粒子とAl2O3結晶粒子との間の全界面平均長さが120μm以上とされている。そのため、磁気ヘッド用基板7、7′をスライシングマシーンやダイシングソーを用いて短冊状に切断し、あるいはイオンミリング加工法や反応性イオンエッチング法により凹部75(流路面23)を形成しても、結晶粒子がほとんど脱粒しなくなる。
磁気ヘッド用基板7、7′により得られる磁気ヘッド2は、記録媒体上を浮上走行しているときに流路面23からの脱粒が抑制されるため、脱粒した結晶粒子によって記録媒体に傷が発生して特性が劣化することを抑制することができる。
図7ないし図9に示したハードディスクドライブ1は、磁気記録装置の一例に相当するものであり、ケース10の内部に、磁気ヘッド2、磁気ディスク3A、3B、および回転駆動機構4を収容したものである。
磁気ヘッド2は、任意のトラックにアクセスし、情報の記録および再生を行なうためのものである。磁気ヘッド2は、アクチュエータ5に対して、サスペンションアーム50を介して支持されており、磁気ディスク3A、3B上を非接触状態で移動するようになっている。より具体的には、磁気ヘッド2は、アクチュエータ5を中心として、磁気ディスク3A、3Bの半径方向に回転可能であるとともに、上下方向に往復移動可能とされている。磁気ヘッド2は、電磁変換素子20および磁気ヘッド用基板7、7′からなるスライダ21を備えている。
図10および図11に示したように、電磁変換素子20は、磁気抵抗効果を発揮するものであり、たとえばMR(Magnetro Resistive)素子、GMR(GIANT Magnetro Resistive)素子、あるいはTMR(Tunnel Magnetro Resistive)素子として構成されている。電磁変換素子20は、スライダ21の端面に設けられた絶縁膜24の表面に形成されている。
スライダ21は、磁気ヘッド2の基材となるものであり、浮上面22および流路面23を備えている。浮上面22は、磁気ディスク3A、3Bに対向する面であり、鏡面として形成されている。磁気ヘッド2を駆動させたときの浮上面22の浮上量は、たとえば10nm以下とされる。流路面23は、磁気ヘッド2を浮上させるための空気を通す流路として機能する。流路面23は、イオンミリング加工法や反応性イオンエッチング法によって目的とする深さ(たとえば1.5〜2.5μm)および形状に形成されており、表面における算術平均高さRaは、たとえば15nm以下(0nmを除く)とされている。
磁気ヘッド2は、スライダ21に形成された流路面23の表面性状により、浮上特性が影響される。表面性状の指標の1つである算術平均高さ(Ra)を基準に考えると、流路面23の算術平均高さ(Ra)が小さいと、流路面23で空気の乱流が発生しにくく浮上特性が安定する。そのため、流路面23における算術平均高さ(Ra)を15nm以下と微小なものにすることで、流路面23での乱流の発生を抑制し、磁気ヘッド2の浮上特性を安定させることができる。
ここで、磁気ヘッド2の浮上特性とは、磁気ヘッド2のローリングおよびピッチングを指す。ローリングとは、図10に矢印θ1に示す方向の浮上特性である。ピッチングとは、図10に矢印θ2に示す方向の浮上特性である。
流路面23の算術平均高さ(Ra)は、原子間力顕微鏡を用いて、JIS B 0601−2001に準拠して測定することができる。
図7ないし図9に示した磁気ディスク3A、3Bは、記録媒体の一例に相当するものであり、磁気記録層(図示略)を備えている。これらの磁気ディスク3A、3Bは、貫通孔30A、30Bを有する円板状に形成されている。
回転駆動機構4は、磁気ディスク3A、3Bを回転させるためのものであり、モータ40および回転軸41を備えている。モータ40は、回転軸41に対して回転力を付与するためのものであり、ケース10の底壁11に固定されている。回転軸41は、モータ40により回転させられるものであるとともに、磁気ディスク3A、3Bを支持するためのものである。この回転軸41に対しては、ハブ42が固定されている。ハブ42は、回転軸41とともに回転するものであり、挿入部43およびフランジ部44を有するものである。
磁気ディスク3A、3Bは、磁気ディスク3A、3Bの貫通孔30A、30Bが挿入部43に挿入された状態で、スペーサ45、46、47を介して、フランジ部44に積層されている。磁気ディスク3A、3Bはさらに、クランプ49をネジ48によりスペーサ47に固定することにより、ハブ42ひいては回転軸41に固定されている。このような回転機構4では、モータ40により回転軸41を回転させることにより、ハブ42ひいては磁気ディスク3A、3Bが回転させられる。
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例では、14種類の磁気ヘッド用基板(試料No.1〜12)について、炭化チタンとアルミナとの全界面平均長さ、Al2O3およびTiCの重量比率、導電性、密度、TiC結晶粒子の個数、パーティクル数を検討した。
磁気ヘッド用基板は、所定のスラリーを調製して成形体を形成した後に、加圧焼結により作製した。
材料粉末の混合・粉砕方法として、平均粒径0.2μmのAl2O3粉末、平均粒径0.5μmのTiC粉末、平均粒径0.1μmのTiO2粉末、平均粒径0.1μmのYb2O3粉末、成形用バインダーおよび分散剤を用い、平均粒径が0.2μmのビーズミルを用いて粉砕した。なお、アルミナ粉末のみを単独で1時間粉砕し、次に残部すなわち、TiC粉末、TiO2粉末、Yb2O3粉末を追加混合し1時間粉砕を行う分割粉砕と、全ての原料粉末を一括投入し2時間粉砕する一括粉砕を行った。成形体は、スラリーを噴霧乾燥法により顆粒とした後に乾式加圧成形することで形成した。
加圧焼結は、得られた成形体を図3に示すように種類毎に14段に配置し、表1に示す中間保持温度で表1に示す時間だけ保持した後、表1に示す最高保持温度で焼成した。加圧力を40MPa、昇温速度を10℃/minとして加圧焼結した。次いで、熱間等方加圧焼結(HIP)を行ない、直径が152.4mm、厚みが3mmの磁気ヘッド用基板を作製した。
磁気ヘッド用基板における重量比率の測定は、蛍光X線分析装置(「RigakuZSX100e」;理学電機工業(株)製)を用いて行なった。より具体的には、まず、先の蛍光X線分析装置を用いて、磁気ヘッド用基板を構成するAlおよびTiの各元素量を、Al2O3およびTiCの合量を100質量%としたときの量として表1に示した。
なお、Yb2O3については、いずれの試料においても1質量%未満の微量であったため、表1には記載していない。
磁気ヘッド用基板の導電性は、JIS C 2141−1992に準拠して体積固有抵抗として評価した。体積固有抵抗の測定結果については、表2に示した。磁気ヘッド用基板の体積固有抵抗は、電磁変換素子に帯電した電荷を速やかに除去するという点から、4×10−1Ω・m以下であることが望ましい。
磁気ヘッド用基板の密度は、JIS R 1634−1996に準拠して測定し、表2に示した。密度が4.26g/cm3以上を合格、4.26g/cm3未満を不合格とした。磁気ヘッド用基板の密度は、気孔の周辺からAl2O3結晶粒子の脱粒を抑制するという点から、4.26g/cm3以上であることが望ましい。
任意断面の10μm角における炭化チタンからなる結晶粒子とアルミナからなる結晶粒子との間の全界面長さの平均は、以下のような手順で評価した。
まず、磁気ヘッド用基板7、7′の任意の面を「クロスセクションポリッシャー」(日本電子(株)製)にて鏡面加工した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、鏡面のうちで任意の場所を5視野選び、倍率を10,000倍で撮影して画像(以下、この画像をSEM画像と称す)を得る。得られた5視野分のSEM画像を、たとえば「Jtrim」というフリーソフトを用いて10μm×10μmの面積で画像処理する。具体的には、SEM画像をグレースケールに変換し、その後、フィルターによって細かいノイズを除去して、SEM画像よりもコントラストを強調した画像を求める。
次に、コントラストが強調された画像に輝度(明暗)を強調する処理を行なった後に、2値化処理し、Al2O3結晶粒子は黒色、TiC結晶粒子は白色として処理される。そして、黒色部分と白色部分との境界部分の長さを合算し、5視野分を平均することで、TiC結晶粒子とAl2O3結晶粒子との全界面平均長さを求めた。
なお、TiC結晶粒子の数については、以下のような手順で求めた。磁気ヘッド用基板7、7′の任意の面を「クロスセクションポリッシャー」にて鏡面加工した後、この面を燐酸により数10秒程度エッチング処理を行う。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、エッチング処理面のうちで任意の場所を選び、倍率を10,000倍で撮影して画像を得て、前述のTiC結晶粒子とAl2O3結晶粒子との2値化処理を行った画像から、10μm×10μmの面積で白色として処理されるTiC結晶粒子の数をカウントすることで求めた。
また、焼結体のAl2O3結晶粒子の平均結晶粒径は、前述のTiCの結晶粒子数の算出に用いた走査型電子顕微鏡画像を、画像解析ソフト(たとえば「Image-Pro Plus」;日本ビジュアルサイエンス(株)製)を用いて解析することで求めた。
磁気ヘッド用基板の機械加工性については、磁気ヘッド用基板より切断した磁気ヘッドスライダから発生するパーティクル数を評価した。なお、スライダは、ダイヤモンドブレードを備えたスライシングマシーンを用いて、長さが1.2mm、幅が1mm、厚みが0.3mmとして切り出した。パーティクル数については、200ccの純水にスライダを浸漬し、超音波振動を時間加えた後、発生する単位容積当たりの径0.1μm以上であるパーティクルの個数をリキッドパーティクルカウンタによって計測した。
ダイヤモンドブレードとしては、「SD1200」を用いた。磁気ヘッド用基板の切断時において、ダイヤモンドブレードの回転数は10000rpm、送り速度は100mm/分、1回の切り込み量を2mmとした。
磁気ヘッドスライダから発生するパーティクル数の測定結果を表2に示した。
表1、2に示す通り、アルミナを60〜70質量%、炭化チタンを30〜40質量%含有し、任意断面の10μm角におけるTiC結晶粒子とAl2O3結晶粒子との全界面平均長さが120μm以上である本発明の試料2〜5、7〜11では、体積固有抵抗が7×10−1Ω・m以下、密度が4.26g/cm3以上、パーティクル数が350個/cc以下であることがわかる。特に、試料No.2は、密度が高く緻密化されており、発生するパーティクル数が210個/ccと最も少なかった。
一方、組成比が本発明の範囲外である試料No.1、12ではパーティクル数が400個/cc以上であり、一括混合し、焼成時に中間保持しなかった試料No.6でも、パーティクル数が350個/cc以上と多いことがわかる。