以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は車両に搭載される無段変速機10を示すスケルトン図である。図1に示すように、無段変速機10は、エンジン11に駆動されるプライマリ軸12と、これに平行となるセカンダリ軸13とを有している。プライマリ軸12とセカンダリ軸13との間には変速機構14が設けられており、セカンダリ軸13と駆動輪15との間には減速機構16や差動機構17が設けられている。
プライマリ軸12にはプライマリプーリ20が設けられており、このプライマリプーリ20は固定シーブ20aと可動シーブ20bとによって構成されている。可動シーブ20bの背面側にはプライマリ室21が区画されており、プライマリ室21内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となっている。また、セカンダリ軸13にはセカンダリプーリ22が設けられており、このセカンダリプーリ22は固定シーブ22aと可動シーブ22bとによって構成されている。可動シーブ22bの背面側にはセカンダリ室23が区画されており、セカンダリ室23内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となっている。さらに、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ22とには駆動ベルト24が巻き掛けられており、プーリ20,22の溝幅を変化させて駆動ベルト24の巻き付け径を変化させることにより、プライマリ軸12からセカンダリ軸13に対する無段変速が可能となっている。
このような変速機構14に対してエンジン動力を伝達するため、クランク軸25とプライマリ軸12との間にはトルクコンバータ30および前後進切換機構31が設けられている。トルクコンバータ30は、クランク軸25にフロントカバー32を介して連結されるポンプインペラ33と、このポンプインペラ33に対向するとともにタービン軸34に連結されるタービンランナ35とを備えている。このトルクコンバータ30内には作動油が供給されており、トルクコンバータ30は作動油を介してポンプインペラ33からタービンランナ35にエンジン動力を伝達する構造となっている。
この滑り要素であるトルクコンバータ30には、エンジン動力の伝達効率を向上させるため、クランク軸25とタービン軸34とを直結するロックアップクラッチ36が設けられている。ロックアップクラッチ36はタービンランナ35に連結されるクラッチプレート37を有しており、このクラッチプレート37はフロントカバー32とタービンランナ35との間に配置されている。クラッチプレート37のタービンランナ35側には締結油室としてのアプライ室38が区画されており、クラッチプレート37のフロントカバー32側には開放油室としてのリリース室39が区画されている。
アプライ室38に作動油を供給してリリース室39から作動油を排出することにより、クラッチプレート37はフロントカバー32に押し付けられ、ロックアップクラッチ36はクランク軸25とタービン軸34とを直結する締結状態となる。一方、リリース室39に作動油を供給してアプライ室38から作動油を排出することにより、クラッチプレート37はフロントカバー32から引き離され、ロックアップクラッチ36はクランク軸25とタービン軸34とを切り離す開放状態となる。また、リリース室39とアプライ室38との圧力差を調整することにより、フロントカバー32に対するクラッチプレート37の押し付け力を調整することができ、ロックアップクラッチ36を締結状態や開放状態に滑らかに切り換えることが可能となる。
また、前後進切換機構31は、ダブルピニオン式の遊星歯車列40、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を備えている。これら前進クラッチ41や後退ブレーキ42を制御することにより、エンジン動力の伝達径路を切り換えることが可能となっている。前進クラッチ41は、タービン軸34に固定されるクラッチドラム41aと、プライマリ軸12に固定されるクラッチハブ41bとを備えている。クラッチドラム41aとクラッチハブ41bとの間には複数の摩擦プレート41cが設けられており、これら摩擦プレート41cに対面するようにクラッチドラム41a内には油圧ピストン41dが収容されている。クラッチドラム41aと油圧ピストン41dとによって区画される作動油室としてのクラッチ室43に作動油を供給することにより、前進クラッチ41は締結状態に切り換えられ、タービン軸34の回転が前進クラッチ41を介してプライマリプーリ20に伝達されることになる。このように、摩擦係合要素としての前進クラッチ41を締結することにより、車両を前進方向に発進させることが可能となる。
また、後退ブレーキ42を構成するミッションケース44と遊星歯車列40のリングギヤ40aとの間には、複数の摩擦プレート42aが設けられており、これら摩擦プレート42aに対面するように油圧ピストン42bが設けられている。ミッションケース44と油圧ピストン42bとにより区画される作動油室としてのブレーキ室45に作動油を供給することにより、後退ブレーキ42は締結状態に切り換えられ、タービン軸34の回転が遊星歯車列40を介してプライマリプーリ20に伝達されることになる。すなわち、摩擦係合要素としての後退ブレーキ42を締結することにより、遊星歯車列40を介して回転方向を逆転させることができ、車両を後退方向に発進させることが可能となる。なお、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を共に開放させることにより、タービン軸34とプライマリ軸12とは切り離され、前後進切換機構31はプライマリ軸12に動力を伝達しないニュートラル状態となる。
続いて、ロックアップクラッチ36、前進クラッチ41、後退ブレーキ42の油圧制御系について説明する。図2は本発明の一実施の形態である油圧制御装置50を示す回路図である。図2に示すように、油圧制御装置50には、エンジン11に駆動されるオイルポンプ51が設けられている。このオイルポンプ51に接続されるライン圧路52には、オイルポンプから吐出された作動油を所定のライン圧に調圧するライン圧制御弁53が接続されている。また、ライン圧路52にはライン圧を所定のクラッチ圧Pc(例えば0.7MPa)に調圧するクラッチ圧制御弁54が接続されている。このクラッチ圧制御弁54によって調圧されるクラッチ圧Pcは供給油路55に対して供給されている。さらに、供給油路55にはクラッチ圧Pcを所定のパイロット圧に調圧するパイロット圧制御弁56が接続されている。このパイロット圧制御弁56によって調圧されるパイロット圧は供給油路57に対して供給されている。また、ライン圧制御弁53に接続される排出油路58には、ライン圧制御弁53から排出される作動油を所定の潤滑圧Plub(例えば0.5MPa)に調圧する潤滑圧制御弁59が接続されている。この潤滑圧制御弁59によって調圧される潤滑圧Plubは供給油路(作動油供給路)60に対して供給されている。
また、油圧制御装置50には、ロックアップクラッチ36や前進クラッチ41等に作動油を供給制御するスリップ制御弁61が設けられている。このスリップ制御弁61は、ハウジング62とこれに移動自在に収容されるスプール弁軸63とを有している。ハウジング62には供給油路55に連通する供給ポート62aが形成されており、この供給ポート62aには供給油路55からクラッチ圧Pcが供給されている。また、ハウジング62には、給排油路(第1給排油路)64に連通する給排ポート62bが形成されており、この給排油路64は後述する油路切換弁80を介してリリース室39、クラッチ室43、ブレーキ室45に接続されている。さらに、ハウジング62には、給排油路(第2給排油路)65に連通する給排ポート62cが形成されており、この給排油路65は油路切換弁80を介してアプライ室38に接続されている。
さらに、スリップ制御弁61のスプール弁軸63を作動させるため、スプール弁軸63にはバネ部材66が組み付けられ、ハウジング62には2つのパイロットポート62d,62eが形成されている。一方のパイロットポート62dにはパイロット圧路67が接続されており、パイロット圧路67を介してパイロットポート62dにはデューティ電磁弁68からのパイロット圧Pdが供給されている。また、他方のパイロットポート62eには、給排油路64から分岐するパイロット圧路69が接続されている。さらに、ハウジング62には2つの排出ポート62f,62gが形成されており、それぞれの排出ポート62f,62gには排出油路70,71が接続されている。なお、排出油路70は各潤滑部に連通する排出油路72に対して接続されており、排出ポート62fから排出された作動油はオイルクーラ73を経て各潤滑部に供給されている。
ここで、パイロットポート62dに対してパイロット圧Pdを供給制御するデューティ電磁弁68は、制御ユニット74からの制御信号に基づき制御される常閉式のデューティソレノイドバルブとなっている。デューティ電磁弁68のデューティ比が0%に制御されたときには、デューティ電磁弁68からのパイロット圧Pdが最小値(0)に調圧され、デューティ電磁弁68のデューティ比が100%に制御されたときには、デューティ電磁弁68からのパイロット圧Pdが最大値(Pc)に調圧される。また、デューティ比を0%〜100%の間で制御することにより、パイロット圧Pdを最小値〜最大値の間で制御することが可能となっている。
パイロット圧Pdを最小値に向けて引き下げることにより、バネ力によって付勢されるスプール弁軸63は、第1給排位置(図2において右方向)に向けて移動することになる。これにより、スリップ制御弁61は、供給ポート62aを給排ポート62bに連通させるとともに、給排ポート62cを排出ポート62fに連通させる第1給排状態となる。一方、パイロット圧Pdを最大値に向けて引き上げることにより、パイロット圧Pdによって付勢されるスプール弁軸63は、第2給排位置(図2において左方向)に向けて移動することになる。これにより、スリップ制御弁61は、給排ポート62bを排出ポート62gに連通させるとともに、供給ポート62aを給排ポート62cに連通させる第2給排状態となる。
なお、パイロット圧Pdを最小値と最大値との間で制御することにより、スプール弁軸63の作動位置を第1給排位置と第2給排位置との間で自在に調整することが可能となる。スプール弁軸63を第1給排位置側の所定位置に移動させることにより、スリップ制御弁61は、開口面積を絞りながら供給ポート62aを給排ポート62bに連通させるとともに、開口面積を絞りながら給排ポート62cを排出ポート62fに連通させる状態となる(第1給排状態)。また、スプール弁軸63を第2給排位置側の所定位置に移動させることにより、スリップ制御弁61は、開口面積を絞りながら給排ポート62bを排出ポート62gに連通させるとともに、開口面積を絞りながら供給ポート62aを給排ポート62cに連通させる状態となる(第2給排状態)。このように、スリップ制御弁61は、デューティ電磁弁68からのパイロット圧Pdに基づいて、給排油路64,65を流れる作動油量を制御する流量制御弁となっている。
また、給排油路64,65の接続先を切り換える油路切換弁80は、ハウジング81とこれに移動自在に収容されるスプール弁軸82とを有している。ハウジング81には、給排油路64に連通する給排ポート81aが形成されており、給排油路65に連通する給排ポート81bが形成されている。また、ハウジング81にはアプライ油路83に連通する給排ポート81cが形成されており、この給排ポート81cにはアプライ油路83を介してアプライ室38が接続されている。また、ハウジング81にはリリース油路84に連通する給排ポート81dが形成されており、この給排ポート81dにはリリース油路84を介してリリース室39が接続されている。さらに、ハウジング81には係合要素油路としての前後進油路85に連通する給排ポート81eが形成されており、この給排ポート81eは前後進油路85を介してクラッチ室43やブレーキ室45に接続されている。
さらに、ハウジング81には、クラッチ圧制御弁54から延びる供給油路(作動油供給路)86に連通する供給ポート81f、潤滑圧制御弁59から延びる供給油路60に連通する供給ポート81g、オイルクーラ73に接続される排出油路(作動油排出路)87に連通する排出ポート81hが形成されている。さらに、油路切換弁80のスプール弁軸82を作動させるため、スプール弁軸82にはバネ部材88が組み付けられ、ハウジング81にはパイロットポート81iが形成されている。このパイロットポート81iにはオンオフ電磁弁90からのパイロット圧を案内するパイロット圧路91が接続されている。
ここで、パイロットポート81iにパイロット圧を供給制御するオンオフ電磁弁90は、制御ユニット74からの制御信号に基づき制御される常閉式のオンオフソレノイドバルブとなっている。オンオフ電磁弁90に対して通電が為されたときにはパイロット圧が出力される一方、オンオフ電磁弁90に対する通電が遮断されたときにはパイロット圧の出力が停止される。そして、オンオフ電磁弁90からパイロット圧の出力を停止することにより、バネ力によって付勢されるスプール弁軸82は、発進制御位置(図2において左方向)に移動することになる。これにより、油路切換弁80は、給排ポート81aを給排ポート81eに連通させ、供給ポート81gを給排ポート81dに連通させ、給排ポート81cを排出ポート81hに連通させる発進制御状態となる。このように、油路切換弁80を発進制御状態に切り換えることにより、スリップ制御弁61から延びる給排油路64が前後進油路85に接続されるため、前進クラッチ41または後退ブレーキ42の作動状態をスリップ制御弁61によって制御することが可能となる。一方、オンオフ電磁弁90からパイロット圧を出力することにより、パイロット圧によって付勢されるスプール弁軸82は、ロックアップ制御位置(図2において右方向)に移動することになる。これにより、油路切換弁80は、供給ポート81fを給排ポート81eに連通させ、給排ポート81aを給排ポート81dに連通させ、供給ポート81gを排出ポート81hに連通させ、給排ポート81bを給排ポート81cに連通させるロックアップ制御状態となる。このように、油路切換弁80をロックアップ制御状態に切り換えることにより、スリップ制御弁61から延びる給排油路64がリリース油路84に接続されるとともに、スリップ制御弁61から延びる給排油路65がアプライ油路83に接続されるため、ロックアップクラッチ36の作動状態をスリップ制御弁61によって制御することが可能となる。
なお、クラッチ室43またはブレーキ室45に作動油を案内する前後進油路85には、セレクトレバー操作に連動して2位置に作動するマニュアル弁92が設けられている。このマニュアル弁92は、ハウジング93とこれに移動自在に収容されるスプール弁軸94とを有している。ハウジング93には、クラッチ室43に連通するクラッチ油路95が接続される給排ポート93a、ブレーキ室45に連通するブレーキ油路96が接続される給排ポート93b、前後進油路85が接続される給排ポート93cが形成されている。そして、前進走行レンジ(Dレンジ等)が選択された場合には、セレクトレバーに連動してスプール弁軸94が前進位置(図2において左方向)に移動する。これにより、マニュアル弁92は給排ポート93aと給排ポート93cとを連通させる前進状態となり、前後進油路85からクラッチ油路95を介してクラッチ室43に作動油が供給される状態となる。なお、この場合にはブレーキ室45に連通する給排ポート93bは排出ポート93dに連通した状態となり、後退ブレーキ42は開放状態を保持することになる。一方、後退走行レンジ(Rレンジ)が選択された場合には、セレクトレバーに連動してスプール弁軸94が後退位置(図2において右方向)に移動する。これにより、マニュアル弁92は給排ポート93bと給排ポート93cとを連通させる後退状態となり、前後進油路85からブレーキ油路96を介してブレーキ室45に作動油が供給される状態となる。なお、この場合にはクラッチ室43に連通する給排ポート93aは排出ポート93eに連通した状態となり、前進クラッチ41は開放状態を保持することになる。
ここで、図3〜図5は前進クラッチ41の締結過程における作動油供給状態を示す説明図である。なお、図3〜図5においてドットパターンを付した部分は作動油の流れを示している。図3に示すように、前進クラッチ41を締結して車両を発進させるため、運転者のセレクトレバー操作によって前進走行レンジが選択されると、マニュアル弁92はセレクトレバー操作に連動して前進状態に切り換えられる。また、オンオフ電磁弁90からのパイロット圧の出力は停止され、油路切換弁80は発進制御状態に切り換えられる。また、デューティ電磁弁68からのパイロット圧Pdは最大値に制御され、スリップ制御弁61は第2給排状態に制御される。このように、油路切換弁80やスリップ制御弁61を制御することにより、クラッチ室43に連通する前後進油路85は、油路切換弁80、給排油路64、スリップ制御弁61を経て排出油路71に連通した状態となる。これにより、クラッチ室43から排出油路71に作動油が排出されるため、前進クラッチ41は開放状態を保持することになる。なお、マニュアル弁92は前進状態に切り換えられることから、後退ブレーキ42のブレーキ室45はマニュアル弁92を介して排出油路に連通しており、後退ブレーキ42も開放状態を保持することになる。
また、図3に示すように、油路切換弁80が発進制御状態に切り換えられ、スリップ制御弁61が第2給排状態に切り換えられるため、潤滑圧制御弁59からの潤滑圧Plubは、供給油路60、油路切換弁80、リリース油路84を経てリリース室39に供給される。一方、アプライ室38に連通するアプライ油路83は、油路切換弁80、排出油路87を経て排出油路72に連通した状態となる。これにより、リリース室39のリリース圧PRが上昇する一方、アプライ室38のアプライ圧PAが低下するため、ロックアップクラッチ36は開放状態を保持することになる。なお、アプライ室38から排出される作動油は、排出油路72からオイルクーラ73を介して各潤滑部に対して供給される。このように、マニュアル弁92を前進状態に切り換え、油路切換弁80を発進制御状態に切り換え、スリップ制御弁61を第2給排状態に切り換えることにより、前進クラッチ41およびロックアップクラッチ36は共に開放されることになる。
続いて、図3、図4、図5の順に示すように、油路切換弁80を発進制御状態に保ちながら、デューティ電磁弁68のパイロット圧Pdが最小値に向けて徐々に引き下げられ、スリップ制御弁61が第2給排状態から第1給排状態に徐々に切り換えられる。これにより、供給ポート62aと給排ポート62cとが徐々に遮断される一方、供給ポート62aと給排ポート62bとが徐々に連通することになる。すなわち、クラッチ圧Pcの供給先が、油路切換弁80によって遮断される給排油路65から、油路切換弁80を経てクラッチ室43に連通する給排油路64に切り換えられる。これにより、クラッチ室43に対する作動油の供給が開始されるため、前進クラッチ41は開放状態から締結状態に切り換えられる。なお、デューティ電磁弁68によってパイロット圧Pdが徐々に引き下げられ、クラッチ室43内の締結圧Pfrが徐々に引き上げられるため、前進クラッチ41を滑らかに締結状態に切り換えることが可能となる。
また、前進クラッチ41を締結状態から開放状態に切り換える際には、図5、図4、図3の順に示すように、デューティ電磁弁68のパイロット圧Pdが最大値に向けて徐々に引き上げられ、スリップ制御弁61が第1給排状態から第2給排状態に徐々に切り換えられる。これにより、給排ポート62bと供給ポート62aとが徐々に遮断される一方、給排ポート62bと排出ポート62gとが徐々に連通した状態となる。すなわち、クラッチ室43に連通する給排油路64の接続先が、供給油路55から排出油路71に切り換えられることになる。これにより、前進クラッチ41のクラッチ室43から徐々に作動油が排出されるため、前進クラッチ41は締結状態から開放状態に滑らかに切り換えられる。
なお、前述の説明では、前進クラッチ41を締結状態や開放状態に切り換える際の手順を示しているが、同様の手順によって後退ブレーキ42を締結状態や開放状態に切り換えることが可能である。すなわち、セレクトレバーによって後退走行レンジが選択された場合には、セレクトレバー操作に連動してマニュアル弁92のスプール弁軸が後退位置に移動するため、マニュアル弁92を介して前後進油路85とブレーキ油路96とが接続される。このように、マニュアル弁92を後退状態に切り換えるとともに、前述した手順に沿ってスリップ制御弁61に供給されるパイロット圧Pdを制御することにより、後退ブレーキ42を締結状態や開放状態に切り換えることが可能となる。
続いて、ロックアップクラッチ36を締結する際の手順について説明する。ここで、図6〜図8はロックアップクラッチ36の締結過程における作動油供給状態を示す説明図である。なお、図6〜図8においてドットパターンを付した部分は作動油の流れを示している。まず、前述したように、油路切換弁80を前進制御状態に切り換えた状態のもとで、スリップ制御弁61を第2給排状態から第1給排状態に切り換えることにより、前進クラッチ41が締結されて車両は前進走行を開始する。このような前進走行状態のもとで、ロックアップクラッチ36の締結を許可する所定の走行条件が成立すると、図6に示すように、オンオフ電磁弁90から油路切換弁80にパイロット圧が出力され、油路切換弁80はロックアップ制御状態に切り換えられる。これにより、油路切換弁80の給排ポート81eと供給ポート81fとが連通するため、クラッチ圧制御弁54からのクラッチ圧Pcは、供給油路86、油路切換弁80、前後進油路85、マニュアル弁92、クラッチ油路95を経てクラッチ室43に供給される。このように、油路切換弁80をロックアップ制御状態に切り換えることにより、スリップ制御弁61を通過することなくクラッチ圧制御弁54からクラッチ室43に作動油が供給され、前進クラッチ41の締結状態が保持されることになる。
また、図6に示すように、油路切換弁80がロックアップ制御状態に切り換えられ、スリップ制御弁61が第1給排状態に切り換えられるため、クラッチ圧制御弁54からのクラッチ圧Pcは、供給油路55、スリップ制御弁61、給排油路64、油路切換弁80、リリース油路84を経てリリース室39に供給される。一方、アプライ室38に連通するアプライ油路83は、油路切換弁80、給排油路65、スリップ制御弁61、排出油路を経て排出油路72に連通した状態となる。これにより、リリース室39のリリース圧PRが上昇する一方、アプライ室38のアプライ圧PAが低下するため、ロックアップクラッチ36は開放状態を保持することになる。このように、油路切換弁80をロックアップ制御状態に切り換え、スリップ制御弁61を第1給排状態に切り換えることにより、前進クラッチ41は締結される一方、ロックアップクラッチ36は開放されることになる。
続いて、図6、図7、図8の順に示すように、油路切換弁80をロックアップ制御状態に保ちながら、デューティ電磁弁68のパイロット圧Pdは最大値に向けて徐々に引き上げられ、スリップ制御弁61が第1給排状態から第2給排状態に徐々に切り換えられる。これにより、供給ポート62aと給排ポート62bとが徐々に遮断される一方、供給ポート62aと給排ポート62cとが徐々に連通した状態となる。すなわち、クラッチ圧Pcの供給先が、リリース室39に連通する給排油路64からアプライ室38に連通する給排油路65に切り換えられるため、アプライ室38にはスリップ制御弁61を介して作動油が供給された状態となる。また、スリップ制御弁61を第2給排状態に切り換えることにより、給排ポート62bと排出ポート62gとが連通するため、ロックアップクラッチ36のリリース室39から作動油が排出された状態となる。このように、パイロット圧Pdを徐々に引き上げることにより、リリース圧PRを低下させてアプライ圧PAを上昇させることができ、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)を正側に徐々に増大させることができるため、ロックアップクラッチ36を滑らかに締結状態に切り換えることが可能となる。
また、ロックアップクラッチ36を締結状態から開放状態に切り換える際には、図8、図7、図6の順に示すように、デューティ電磁弁68のパイロット圧Pdが最小値に向けて徐々に引き下げられ、スリップ制御弁61が第2給排状態から第1給排状態に徐々に切り換えられる。これにより、供給ポート62aと給排ポート62cとが徐々に遮断される一方、供給ポート62aと給排ポート62bとが徐々に連通することになる。すなわち、クラッチ圧Pcの供給先が、アプライ室38に連通する給排油路65からリリース室39に連通する給排油路64に切り換えられるため、リリース室39にはスリップ制御弁61を介して作動油が供給された状態となる。また、スリップ制御弁61を第1給排状態に切り換えることにより、給排ポート62cと排出ポート62fとが連通するため、ロックアップクラッチ36のアプライ室38から作動油が排出される状態となる。このように、パイロット圧Pdを徐々に引き下げることにより、アプライ圧PAを低下させてリリース圧PRを上昇させることができ、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)を負側に徐々に増大させることができるため、ロックアップクラッチ36を滑らかに開放状態に切り換えることが可能となる。
ここで、図9は前進クラッチ41の作動状態を切り換える際の作動油供給状態を示す概略図であり、(A)には前進クラッチ41が開放されたときの状態が示され、(B)には前進クラッチ41が締結されたときの状態が示されている。また、図10はロックアップクラッチ36の作動状態を切り換える際の作動油供給状態を示す概略図であり、(A)にはロックアップクラッチ36が開放されたときの状態が示され、(B)にはロックアップクラッチ36が締結されたときの状態が示されている。さらに、図11はデューティ電磁弁68のデューティ比と各種油圧の圧力変化とを関係を示す線図であり、(A)には油路切換弁80が発進制御状態に切り換えられたときの状態が示され、(B)には油路切換弁80がロックアップ制御状態に切り換えられたときの状態が示されている。
図9(A)および(B)に示すように、前進クラッチ41の作動状態を切り換える際には、オンオフ電磁弁90からのパイロット圧の出力が停止され、油路切換弁80が発進制御状態に切り換えられる。このように、油路切換弁80を発進制御状態に切り換えた状態のもとでは、リリース室39に対して潤滑圧Plubが供給される一方、アプライ室38から各潤滑部に対して作動油が排出される状態となる。すなわち、図11(A)に示すように、リリース圧PRは潤滑圧Plubに相当する圧力まで引き上げられ、アプライ圧PAはほぼ0まで引き下げられる。これにより、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)は負側に保たれるため、ロックアップクラッチ36は開放状態を維持することになる。また、油路切換弁80を発進制御状態に切り換えることにより、リリース室39やアプライ室38に対する作動油の給排経路は、スリップ制御弁61を通過せずに迂回した状態となっている。したがって、デューティ電磁弁68のデューティ比に関係なく、ロックアップクラッチ36の開放状態は保持されるようになっている。
続いて、デューティ電磁弁68のデューティ比を100%から0%に向けて徐々に引き下げることにより、スリップ制御弁61に対するパイロット圧Pdが徐々に引き下げられる。これにより、スリップ制御弁61は、クラッチ室43から作動油を排出する第2給排状態から、クラッチ室43にクラッチ圧Pcを供給する第1給排状態に切り換えられる。すなわち、図11(A)に示すように、デューティ比を引き上げることにより、クラッチ室43の締結圧Pfrが低下して前進クラッチ41が開放される一方、デューティ比を引き下げることにより、クラッチ室43の締結圧Pfrが上昇して前進クラッチ41が締結されるようになっている。しかも、デューティ比を調整することにより、クラッチ室43の締結圧Pfrを調整することができるため、前進クラッチ41を締結状態や開放状態に滑らかに切り換えることが可能となる。
次いで、図10(A)および(B)に示すように、ロックアップクラッチ36の作動状態を切り換える際には、オンオフ電磁弁90からパイロット圧が出力され、油路切換弁80がロックアップ制御状態に切り換えられる。このように、油路切換弁80をロックアップ制御状態に切り換えた状態のもとでは、クラッチ室43に対してクラッチ圧Pcが供給された状態となる。すなわち、図11(B)に示すように、クラッチ室43の締結圧Pfrはクラッチ圧Pcに相当する圧力まで引き上げられ、前進クラッチ41は締結状態を維持することになる。また、油路切換弁80をロックアップ制御状態に切り換えることにより、クラッチ室43に対する作動油の供給経路は、スリップ制御弁61を通過せずに迂回した状態となっている。したがって、デューティ電磁弁68のデューティ比に関係なく、前進クラッチ41の締結状態は保持されるようになっている。
続いて、デューティ電磁弁68のデューティ比を0%から100%に向けて徐々に引き上げることにより、スリップ制御弁61に対するパイロット圧Pdが徐々に引き上げられる。これにより、スリップ制御弁61は、リリース室39にクラッチ圧Pcを供給してアプライ室38から作動油を排出する第1給排状態から、アプライ室38にクラッチ圧Pcを供給してリリース室39から作動油を排出する第2給排状態に切り換えられる。すなわち、図11(B)に示すように、デューティ比を引き下げることにより、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)が負側に増大するため、ロックアップクラッチ36を開放することが可能となる。一方、デューティ比を引き上げることにより、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)が正側に増大するため、ロックアップクラッチ36を締結することが可能となる。
なお、デューティ比を0%まで引き下げたときには、リリース圧PRはクラッチ圧Pcに相当する0.7MPaとなり、アプライ圧PAは潤滑圧Plubに相当する0.5MPaとなるため、差圧(PA−PR)は−0.2MPaまで負側に増大することになる。また、デューティ比を100%まで引き上げたときには、アプライ圧PAはクラッチ圧Pcに相当する0.7MPaとなり、リリース圧PRは0MPaとなるため、差圧(PA−PR)は0.7MPaまで正側に増大することになる。すなわち、図示する油圧制御装置50においては、デューティ比を制御することにより、差圧(PA−PR)を−0.2MPaから0.7MPaの範囲で制御することが可能となる。
このように、リリース室39に作動油を供給してアプライ室38から作動油を排出する第1給排状態と、アプライ室38に作動油を供給してリリース室39から作動油を排出する第2給排状態とに切り換えられるスリップ制御弁61を設けることにより、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)を幅広く調整することが可能となる。これにより、ロックアップクラッチ36の制御精度を高めることができ、車両の走行品質を向上させることが可能となる。しかも、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)を負側に増大させることができるため、ロックアップクラッチ36が確実に開放されるまで滑らかに制御することが可能となる。
また、油路切換弁80を前進制御状態に切り換えることにより、スリップ制御弁61を前進クラッチ41または後退ブレーキ42に接続することができる一方、油路切換弁80をロックアップ制御状態に切り換えることにより、スリップ制御弁61をロックアップクラッチ36に接続することができる。これにより、1つのデューティ電磁弁68を用いて、ロックアップクラッチ36、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を制御することが可能となり、油圧制御装置50の低コスト化を達成することが可能となる。
さらに、油路切換弁80を切り換えることなく、ロックアップクラッチ36を締結状態や開放状態に切り換えることが可能である。これにより、油路切換弁80の作動頻度を低下させることができるため、油圧制御装置50の信頼性や静粛性を向上させることが可能となる。
続いて、本発明の他の実施の形態である油圧制御装置97について説明する。図12は本発明の他の実施の形態である油圧制御装置97を示す回路図である。なお、図12の油圧制御装置97を構成する部材のうち、図2に示す部材と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
図12に示すように、油圧制御装置97には油路切換弁98が設けられており、この油路切換弁98はデューティ電磁弁68からのパイロット圧Pdによって制御される構造を有している。油路切換弁98は、ハウジング99とこれに移動自在に収容されるスプール弁軸100とを有している。ハウジング99には、給排油路64に連通する給排ポート99aが形成されており、給排油路65に連通する給排ポート99bが形成されている。また、ハウジング99には、アプライ油路83に連通する給排ポート99cが形成されており、リリース油路84に連通する給排ポート99dが形成されている。さらに、ハウジング99には前後進油路85に連通する給排ポート99eが形成されている。
また、ハウジング99には、クラッチ圧制御弁54から延びる供給油路86に連通する供給ポート99f、潤滑圧制御弁59から延びる供給油路60に連通する供給ポート99g、オイルクーラ73に接続される排出油路87に連通する排出ポート99h、排出油路101に連通する排出ポート99iが形成されている。さらに、油路切換弁98のスプール弁軸100を作動させるため、ハウジング99には2つのパイロットポート99j,99kが形成されており、スプール弁軸100にはバネ部材102が組み付けられている。一方のパイロットポート99jにはデューティ電磁弁(電磁弁)68から延びるパイロット圧路(第1パイロット圧路)103が接続されており、油路切換弁98のパイロット圧室(第1圧力室)98aにはパイロット圧(制御油圧)Pdが供給されている。また、他方のパイロットポート99kには前後進油路85から分岐するパイロット圧路(第2パイロット圧路)104が接続されており、油路切換弁98のパイロット圧室(第2圧力室)98bには締結圧Pfrが供給されている。
そして、デューティ電磁弁68からのパイロット圧Pdを引き上げることにより、バネ力およびパイロット圧Pdによって付勢されるスプール弁軸100は、発進制御位置(図2において左方向)に移動することになる。これにより、油路切換弁98は、給排ポート99aを給排ポート99eに連通させ、供給ポート99gを給排ポート99dに連通させ、給排ポート99cを排出ポート99hに連通させる発進制御状態となる。このように、油路切換弁98を発進制御状態に切り換えることにより、スリップ制御弁61から延びる給排油路64が前後進油路85に接続されるため、前進クラッチ41または後退ブレーキ42の作動状態をスリップ制御弁61によって制御することが可能となる。
一方、デューティ電磁弁68からのパイロット圧Pdを引き下げることにより、締結圧Pfrによって付勢されるスプール弁軸100は、ロックアップ制御位置(図2において右方向)に移動することになる。これにより、油路切換弁98は、供給ポート99fを給排ポート99eに連通させ、給排ポート99aを給排ポート99dに連通させ、供給ポート99gを排出ポート99hに連通させ、給排ポート99bを給排ポート99cに連通させるロックアップ制御状態となる。このように、油路切換弁98をロックアップ制御状態に切り換えることにより、スリップ制御弁61から延びる給排油路64がリリース油路84に接続されるとともに、スリップ制御弁61から延びる給排油路65がアプライ油路83に接続されるため、ロックアップクラッチ36の作動状態をスリップ制御弁61によって制御することが可能となる。
続いて、エンジン11を始動してから前進クラッチ41を締結し、更にロックアップクラッチ36を締結するまでの手順について説明する。ここで、図13はエンジン始動直後の作動油供給状態を示す説明図であり、図14はエンジン始動から所定時間が経過した後の作動油供給状態を示す説明図である。また、図15および図16は前進クラッチ41の締結過程における作動油供給状態を示す説明図である。さらに、図17〜図19はロックアップクラッチ36の締結過程における作動油供給状態を示す説明図である。なお、図13〜図19においてドットパターンを付した部分は作動油の流れを示している。
エンジン始動前には、スリップ制御弁61は第1給排状態に切り換えられ、油路切換弁98は発進制御状態に切り換えられた状態となっている。また、図13に示すように、エンジン11が始動された直後には、オイルポンプ51の吐出圧が十分に上昇していないため、油路切換弁98のパイロット圧室98bに供給される締結圧Pfrも低下しており、油路切換弁98は発進制御状態を保持するようになっている。そして、所定時間が経過してオイルポンプ51の吐出圧が十分に上昇したときには、図14に示すように、油路切換弁98のパイロット圧室98bに十分な締結圧Pfrが供給されることから、油路切換弁98はロックアップ制御状態に切り換えられる。すなわち、エンジン11を始動した後には、スリップ制御弁61は第1給排状態となっており、油路切換弁98はロックアップ制御状態に切り換えられることになる。
ここで、図15に示すように、デューティ電磁弁68のデューティ比は100%に制御され、パイロット圧Pdは最大値に引き上げられる。これにより、スリップ制御弁61は第2給排状態に切り換えられ、油路切換弁98は発進制御状態に切り換えられる。なお、油路切換弁98が発進制御状態に切り換えられ、スリップ制御弁61が第2給排状態に切り換えられるため、潤滑圧制御弁59からの潤滑圧Plubはリリース室39に供給される一方、アプライ室38に連通するアプライ油路83は排出油路72に連通した状態となる。これにより、ロックアップクラッチ36は開放状態を保持することになる。
ここで、締結圧Pfrが作用するスプール弁軸100の受圧面積をA1とし、パイロット圧Pdが作用するスプール弁軸100の受圧面積をA2とし、バネ部材102のバネ力をFspとすると、スプール弁軸100がロックアップ制御位置から発進制御位置に移動する条件は、以下の式(1)によって表される。また、油路切換弁98がロックアップ制御状態である場合には、締結圧Pfrはクラッチ圧Pcに相当する圧力になるため、締結圧Pfrをクラッチ圧Pcに置き換えて式(1)を変形すると、パイロット圧Pdの条件は以下の式(2)によって表される。そして、式(2)の条件を満たすように、デューティ電磁弁68を制御して所定の第1圧力値を上回るようにパイロット圧Pdを引き上げることにより、油路切換弁98はロックアップ制御状態から発進制御状態に切り換えられることになる。なお、油路切換弁98のスプール弁軸100が発進制御位置に向けて移動を開始することにより、締結圧Pfrはクラッチ圧Pcから0に向けて低下するため、油路切換弁98は発進制御状態に確実に切り換えられることになる。
A1・Pfr<Fsp+A2・Pd …(1)
Pd>(A1・Pc−Fsp)/A2 …(2)
このように、油路切換弁98が発進制御状態に切り換えられた状態において、運転者のセレクトレバー操作によって前進走行レンジが選択されると、マニュアル弁92はセレクトレバー操作に連動して前進状態に切り換えられ、前進クラッチ41のクラッチ室43に制御された油圧を供給可能な状態となる。
次いで、図16に示すように、前進クラッチ41を締結するため、デューティ電磁弁68のデューティ比は100%から徐々に引き下げられる。これにより、パイロット圧Pdが徐々に低下してスリップ制御弁61が第2給排状態から第1給排状態に徐々に切り換えられる。これにより、供給ポート62aと給排ポート62cとが徐々に遮断される一方、供給ポート62aと給排ポート62bとが徐々に連通した状態となる。すなわち、クラッチ圧Pcの供給先が、油路切換弁98によって遮断される給排油路65から、油路切換弁98を経てクラッチ室43に連通する給排油路64に切り換えられる。これにより、スリップ制御弁61を介してクラッチ室43に対する作動油の供給が開始されるため、前進クラッチ41は開放状態から締結状態に滑らかに切り換えられることになる。
そして、図17に示すように、デューティ電磁弁68のデューティ比を0%に向けて引き下げ、油路切換弁98に対するパイロット圧Pdを引き下げることにより、油路切換弁98は発進制御状態からロックアップ制御状態に切り換えられる。ここで、スプール弁軸100が発進制御位置からロックアップ制御位置に移動する条件は、前述した受圧面積A1,A2とバネ力Fspを用いた以下の式(3)によって表される。また、式(3)を変形することにより、パイロット圧Pdの条件は以下の式(4)によって表される。そして、式(4)の条件を満たすように、デューティ電磁弁68を制御して所定の第2圧力値を下回るようにパイロット圧Pdを引き下げることにより、油路切換弁98は発進制御状態からロックアップ制御状態に切り換えられる。また、油路切換弁98のスプール弁軸100がロックアップ制御位置に向けて移動を開始することにより、締結圧Pfrはクラッチ圧Pcに向けて上昇するため、油路切換弁98はロックアップ制御状態に確実に切り換えられることになる。
A1・Pfr>Fsp+A2・Pd …(3)
Pd<(A1・Pfr−Fsp)/A2 …(4)
続いて、ロックアップクラッチ36の締結を許可する所定の走行条件が成立すると、図17、図18、図19の順に示すように、デューティ電磁弁68のパイロット圧Pdが徐々に引き上げられ、スリップ制御弁61が第1給排状態から第2給排状態に徐々に切り換えられる。これにより、供給ポート62aと給排ポート62bとが徐々に遮断される一方、供給ポート62aと給排ポート62cとが徐々に連通した状態となる。すなわち、クラッチ圧Pcの供給先が、リリース室39に連通する給排油路64からアプライ室38に連通する給排油路65に切り換えられるため、アプライ室38にはスリップ制御弁61を介して作動油が供給された状態となる。また、スリップ制御弁61を第2給排状態に切り換えることにより、給排ポート62bと排出ポート62gとが連通するため、ロックアップクラッチ36のリリース室39から作動油が排出された状態となる。このように、パイロット圧Pdを徐々に引き上げることにより、リリース圧PRを低下させてアプライ圧PAを上昇させることができ、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)を正側に徐々に増大させることができるため、ロックアップクラッチ36を滑らかに締結状態に切り換えることが可能となる。
また、ロックアップクラッチ36を締結状態から開放状態に切り換える際には、図19、図18、図17の順に示すように、デューティ電磁弁68のパイロット圧Pdが最小値に向けて徐々に引き下げられ、スリップ制御弁61が第2給排状態から第1給排状態に徐々に切り換えられる。これにより、供給ポート62aと給排ポート62cとが徐々に遮断される一方、供給ポート62aと給排ポート62bとが徐々に連通した状態となる。すなわち、クラッチ圧Pcの供給先が、アプライ室38に連通する給排油路65からリリース室39に連通する給排油路64に切り換えられるため、リリース室39にはスリップ制御弁61を介して作動油が供給された状態となる。また、スリップ制御弁61を第1給排状態に切り換えることにより、給排ポート62cと排出ポート62fとが連通するため、ロックアップクラッチ36のアプライ室38から作動油が排出された状態となる。このように、パイロット圧Pdを徐々に引き下げることにより、アプライ圧PAを低下させてリリース圧PRを上昇させることができ、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)を負側に徐々に増大させることができるため、ロックアップクラッチ36を滑らかに開放状態に切り換えることが可能となる。
ここで、図20は前進クラッチ41を制御する際の作動油供給状態を示す概略図であり、(A)には前進クラッチ41を開放したときの状態が示され、(B)には前進クラッチ41を締結したときの状態が示されている。また、図21はロックアップクラッチ36を制御する際の作動油供給状態を示す概略図であり、(A)にはロックアップクラッチ36を開放したときの状態が示され、(B)にはロックアップクラッチ36を締結したときの状態が示されている。さらに、図22はデューティ電磁弁68のデューティ比と各種油圧の圧力変化とを関係を示す線図であり、(A)には油路切換弁98をロックアップ制御状態に切り換えたときの状態が示され、(B)には油路切換弁98を発進制御状態に切り換えたときの状態が示されている。
車両発進前の状態から、前進クラッチ41の作動状態を切り換える際には、図20(A)に示すように、デューティ電磁弁68のデューティ比が100%に引き上げられており、油路切換弁98が発進制御状態に切り換えられていることから、スリップ制御弁61が第2給排状態に切り換えられている。すなわち、図22(A)および(B)に示すように、デューティ電磁弁68のデューティ比が切換点αを上回っているため、パイロット圧Pdが所定の第1圧力値を上回り、油路切換弁98がロックアップ制御状態から発進制御状態に切り換えられていることになる。このように、油路切換弁98が発進制御状態になっていることにより、リリース室39に対して潤滑圧Plubが供給される一方、アプライ室38から各潤滑部に対して作動油が排出される状態となる。すなわち、図22(B)に示すように、リリース圧PRは潤滑圧Plubに相当する圧力まで引き上げられ、アプライ圧PAはほぼ0まで引き下げられている。これにより、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)は負側に保たれるため、ロックアップクラッチ36は開放状態を維持することになる。なお、油路切換弁98を発進制御状態に切り換えることにより、リリース室39やアプライ室38に対する作動油の給排経路は、スリップ制御弁61を通過せずに迂回した状態となっている。したがって、デューティ電磁弁68のデューティ比が100%〜切換点βの範囲内で制御される間は、デューティ比に関係なくロックアップクラッチ36は開放状態に保持されるようになっている。
続いて、前進クラッチ41を締結する際には、デューティ電磁弁68のデューティ比が100%から切換点βに向けて徐々に引き下げられる。これにより、図20(B)に示すように、スリップ制御弁61に対するパイロット圧Pdが徐々に引き下げられるため、スリップ制御弁61は、クラッチ室43から作動油を排出する第2給排状態から、クラッチ室43にクラッチ圧Pcを供給する第1給排状態に切り換えられる。すなわち、図22(B)に示すように、デューティ比を引き下げることにより、締結圧Pfrを上昇させることができ、前進クラッチ41を締結することが可能となっている。また、デューティ比を引き上げることにより、締結圧Pfrを低下させることができ、前進クラッチ41を開放することが可能となっている。しかも、デューティ比を調整することにより、締結圧Pfrの大きさを調整することができ、前進クラッチ41を締結状態や開放状態に滑らかに切り換えることが可能となる。
次いで、ロックアップクラッチ36の作動状態を制御する際には、図21(A)に示すように、デューティ電磁弁68のデューティ比が0%に引き下げられ、油路切換弁98がロックアップ制御状態に切り換えられ、スリップ制御弁61が第1給排状態に切り換えられる。すなわち、図22(A)および(B)に示すように、デューティ電磁弁68のデューティ比が切換点βを下回るように引き下げられるため、パイロット圧Pdが第1圧力値よりも低圧の第2圧力値を下回り、油路切換弁98が発進制御状態からロックアップ制御状態に切り換えられることになる。このように、油路切換弁98をロックアップ制御状態に切り換えることにより、クラッチ室43に対してクラッチ圧Pcが供給された状態となる。すなわち、図22(A)に示すように、クラッチ室43の締結圧Pfrはクラッチ圧Pcに相当する圧力まで引き上げられ、前進クラッチ41は締結状態を維持することになる。なお、油路切換弁98をロックアップ制御状態に切り換えることにより、クラッチ室43に対する作動油の供給経路は、スリップ制御弁61を通過せずに迂回した状態となっている。したがって、デューティ電磁弁68のデューティ比が0%〜切換点αの範囲内で制御される間は、デューティ比に関係なく前進クラッチ41は締結状態に保持されるようになっている。
続いて、ロックアップクラッチ36を締結する際には、デューティ電磁弁68のデューティ比が0%から切換点αに向けて徐々に引き上げられる。これにより、図21(B)に示すように、スリップ制御弁61に対するパイロット圧Pdが徐々に引き上げられるため、スリップ制御弁61は、リリース室39にクラッチ圧Pcを供給してアプライ室38から作動油を排出する第1給排状態から、アプライ室38にクラッチ圧Pcを供給してリリース室39から作動油を排出する第2給排状態に切り換えられる。すなわち、図22(A)に示すように、デューティ比を引き上げることにより、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)が正側に増大させることができ、ロックアップクラッチ36が締結することが可能となっている。また、デューティ比を引き下げることにより、クラッチプレート37に作用する差圧(PA−PR)が負側に増大させることができ、ロックアップクラッチ36を開放することが可能となっている。
これまで説明したように、デューティ電磁弁68からのパイロット圧Pdを用いることにより、油路切換弁98を前進制御状態とロックアップ制御状態とに切り換えるようにしたので、1つのデューティ電磁弁68によって油路切換弁98とスリップ制御弁61とを制御することが可能となる。これにより、油圧制御装置97の更なる低コスト化を達成することが可能となる。なお、油圧制御装置97を用いた場合であっても、前述した油圧制御装置50の効果と同様の効果が得られることはいうまでもない。
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。たとえば、前述の説明では、摩擦係合要素として、前後進切換機構31に組み込まれる前進クラッチ41および後退ブレーキ42を挙げているが、これに限られることはなく、遊星歯車式や平行軸式の自動変速機に組み込まれる前進クラッチや後退ブレーキ等であっても良い。なお、図示するロックアップクラッチ36は、単板式のロックアップクラッチであるが、これに限られることはなく、多板式のロックアップクラッチであっても良い。