JP5100923B2 - カルシウム・リン酸化澱粉複合体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カルシウムとリン酸化澱粉とが複合体を形成しているカルシウム・リン酸化澱粉複合体に関する。
また、本発明は、無機カルシウム塩及び/又は有機酸カルシウム塩、無機リン酸塩並びにリン酸化澱粉を混合し、或るpH条件で、カルシウムとリン酸化澱粉との複合体を形成させるカルシウム・リン酸化澱粉複合体の製造方法に関する。
さらに、本発明は、このようなカルシウム・リン酸化澱粉複合体のカルシウム剤としての利用、あるいはカルシウム強化医薬、飲食品又は飼料への利用に関する。
本発明のカルシウム・リン酸化澱粉複合体は、カルシウムの生体内での吸収性や利用性に優れているという特徴を有すると共に、中性域のpHで水可溶性であり、粉末化しても溶解性が良好であるという特徴を有するので、カルシウム剤として、種々の医薬、飲食品、飼料等に利用することができる。
【0002】
【従来の技術】
近年、人口の高齢化に伴い、骨粗鬆症、骨折、あるいは腰痛など、種々の骨疾患を患う者が増加する傾向にある。これはカルシウムの摂取量不足やカルシウムの吸収能力低下、あるいは閉経後のホルモンのアンバランスなどが原因であるといわれている。このような高齢化に伴う骨疾患を予防するには、成長期から老年期にかけての全てのライフステージにおいて、生体内での吸収性の良好なカルシウムをできるだけ多く摂取する必要があるといわれているが、その一方で日本人の平均的な食習慣では、十分な量のカルシウムを摂取することは非常に難しいとされており、我が国におけるカルシウムの摂取量は、厚生省の国民栄養調査によっても、ここ20年間横ばい状態で所要量を満たしていない現状にある。
【0003】
このような状況に鑑み、カルシウムの摂取量をできるだけ増加させようとする種々の試みがなされており、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、乳酸カルシウム又はグルコン酸カルシウムなどのカルシウム塩や牛骨、卵殻、サンゴ又はウニ殻などから精製した天然カルシウム、あるいは乳由来のカルシウムなどを有効成分とするカルシウム剤、そしてこれらのカルシウム剤を配合してカルシウムを強化した飲食品などが実用化されるに至っている。上記した炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、乳酸カルシウム又はグルコン酸カルシウムなどのカルシウム塩、牛骨、卵殻、サンゴあるいはウニ殻などから精製した天然カルシウムなどは、生体内での吸収性や利用性は劣るものの、安価で大量に入手できるという利点を有している。
【0004 】
また、乳由来のカルシウムについては、特に生体内での吸収性や利用性に優れているという報告がなされている(日本栄養・食糧学会誌, voL.43, pp.437-443, 1990;応用薬理, voL.42, pp.245-253, 1991) 。また、乳由来のカルシウム中、約70%を占めるといわれているカゼイン結合性カルシウム及びコロイド状カルシウムが、乳由来の他のカルシウムに比べ、生体内での吸収性や利用性に優れているという報告がなされている(Nutr. Rep. Int., voL.21, p.6738, 1980) 。
さらに、本発明者らは、カゼイン結合性カルシウム及びコロイド状カルシウムを有効成分とする乳由来のカルシウム剤を提案(特開平6-125740号公報)し、この乳由来のカルシウム剤が、生体内での利用性に特に優れているということも報告した(日本栄養・食糧学会誌, voL.47, pp.385-390, 1994) 。
【0005】
さらに、研究を進めたところ、カゼイン結合性カルシウム及びコロイド状カルシウムを有効成分とする乳由来のカルシウム剤は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、乳酸カルシウム又はグルコン酸カルシウムなどのカルシウム塩や牛骨、卵殻、サンゴあるいはウニ殻などから精製した天然カルシウムなどに比べて生体内での吸収性や利用性に優れているという特徴を有しているけれども、中性域のpHでは水不溶性のカルシウムとなり、牛乳の形態でカルシウムを摂取するよりも生体内での吸収性や利用性の点で劣ることが判明した。
すなわち、生体におけるカルシウム吸収の中心部位である小腸のpHは、中性域であるため、カゼイン結合性カルシウム及びコロイド状カルシウムを有効成分とする乳由来のカルシウム剤は、水不溶性のカルシウム塩を形成し、その結果、牛乳の形態でカルシウムを摂取する場合よりも吸収効率が低下することが判った。
【0006】
一方で、カルシウム吸収を促進する食事成分の摂取も重要であると考えられている。カルシウムの腸管での吸収には、その腸管内における溶解性が大きく寄与していることが示唆されている。例えば、乳タンパク質であるカゼインが腸管内で消化される過程で産生されるカゼイン分解物(カゼインホスホペプチド)は、カルシウムの溶解性を高めることによりカルシウム吸収を促進すると考えられている(日本栄養・食糧学会誌, voL.45, pp.333-338, 1992) 。しかし、カゼインホスホペプチドは乳汁中に占めるその含量が少なく、分画が容易でないために、大変高価である。さらに、精製が不十分な製品では、苦味のあるペプチドの混入が多いため、味覚上好ましくない。
【0007】
カゼインホスホペプチドがカルシウムの吸収性を高める理由は、カゼインホスホペプチドのリン酸基がカルシウムと結合し、腸管内で不溶性のカルシウム塩の形成を阻害するためと考えられている。そこで、リン酸基を有し、カルシウムを可溶化させる物質として、馬鈴薯澱粉をアミラーゼ処理することなどにより調製したリン酸化糖も開発されている(特開平8-104696号公報)。このリン酸化糖は安価に製造できることから食品への応用が容易であると考えられた。しかし、このリン酸化糖は、試験管内でのカルシウムの可溶化能は優れているものの、カルシウム吸収促進効果はなく、逆にリン酸化糖の摂取で低くなることが報告されている(日本栄養・食糧学会誌, voL.51, pp.67-72, 1998) 。このことから、或る成分がリン酸基を有し、試験管内でカルシウムを可溶化させるからといって、必ずしもカルシウム吸収促進効果があるとは限らないことが判った。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、飲食品などにも配合することができる生体内での吸収性及び利用性の高いカルシウム剤を求め、研究開発を進める中で、上述したカゼイン結合性カルシウム及びコロイド状カルシウムを有効成分とする乳由来のカルシウム剤の欠点、すなわち、中性域のpHで水不溶性となったり、粉末の溶解性が劣るという問題を解決するべく、鋭意研究を行ってきた。その結果、或るpH条件で、無機カルシウム塩や有機酸カルシウム塩に無機リン酸塩を加え、さらに必要に応じて有機酸を加えて調製した溶液に、リン酸化澱粉を加えて混合することにより、カルシウムとリン酸化澱粉とが複合体を形成することを見出した。
【0009】
この複合体は、中性域のpHでも水可溶性であり、また、粉末化しても溶解性が良好であり、さらに、生体内での吸収性及び利用性も高く、医薬、飲食品及び飼料などに配合するカルシウム剤として非常に優れているということを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は、上記中性域のpHで水可溶性であり、粉末としても溶解性が良好であって、かつ生体内での吸収性及び利用性が優れている新規のカルシウム・リン酸化澱粉複合体及びその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記新規のカルシウム・リン酸化澱粉複合体を有効成分とするカルシウム剤、あるいはこのような性質を有するカルシウム・リン酸化澱粉複合体を配合してカルシウムを強化した医薬、飲食品及び飼料を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、カルシウムとリン酸化澱粉とが複合体を形成しているカルシウム・リン酸化澱粉複合体であることを基本的構成とするものである。この複合体は、例えば無機カルシウム塩や有機酸カルシウム塩に無機リン酸塩を加え、さらに必要に応じて有機酸を加えて調製した溶液に、リン酸化澱粉を加えて混合し、pHを 5.5以上に調整することにより得ることができる。また、本発明は、無機カルシウム塩及び/又は有機酸カルシウム塩、無機リン酸塩並びにリン酸化澱粉を混合し、pHを 5.5以上に調整して、カルシウムとリン酸化澱粉との複合体を形成させることによるカルシウム・リン酸化澱粉複合体の製造方法も基本的構成として含むものである。さらに、このようにして製造された複合体は、液状であるので、膜処理して脱塩濃縮しても良いし、また、常法に従って乾燥して粉末化しても良い。さらに、本発明は、このようなカルシウム・リン酸化澱粉複合体を有効成分とするカルシウム剤、あるいは、このようなカルシウム・リン酸化澱粉複合体を配合してカルシウムを強化した医薬、飲食品又は飼料をも基本的構成に含むものである。
【0011】
本発明では、(1) 炭酸カルシウム、塩化カルシウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの無機カルシウム塩及び/又はクエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウムなどの有機酸カルシウム塩、(2) 第一リン酸カリウム、第二リン酸カリウム、第三リン酸カリウム、第一リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウムなどの無機リン酸塩及び(3) 小麦、甘藷、馬鈴薯、コーンスターチなどの澱粉又はデキストリンを加工処理してリン酸化したリン酸化澱粉、さらに(4) 必要に応じて、酢酸、乳酸、クエン酸などの有機酸やそれらの塩を混合し、pHを 5.5以上に調整して、カルシウムとリン酸化澱粉との複合体を形成させ、カルシウム・リン酸化澱粉複合体を得ることができる。
なお、上記(4) 有機酸やそれらの塩を加えることは、必ずしも必要ではないが、溶液中のカルシウムの安定性を維持するために、有機酸やそれらの塩を加えることが望ましい。
【0012】
本発明において、原料成分として用いる澱粉とは、小麦、甘藷、馬鈴薯、コーンスターチなどの澱粉、及びこれら澱粉を加工処理して得られたデキストリンをいい、これら澱粉をリン酸エステル化したものをリン酸化澱粉という。
上記澱粉からリン酸化澱粉を調製する方法について例示すると、澱粉をpH 4.0〜6.0 のリン酸緩衝液に分散させ、70〜90℃で約5分〜 100時間程度加熱して糊化させる。これを乾燥後、100 〜160 ℃で約1〜 48 時間程度加熱保持し、リン酸化澱粉を得る。また、澱粉にリン酸塩の水溶液を散布し、予備乾燥後、100 〜160 ℃で約1〜 48 時間程度加熱保持することによってもリン酸化澱粉を得ることができる。また、必要に応じ、得られたリン酸化澱粉を水に再懸濁し、限外濾過膜、精密濾過膜などで脱塩処理を行い、遊離の無機リンを除去してもよい。
なお、このようにして調製したリン酸化澱粉中の結合リンの含量は、0.1 〜10重量%である。さらに常法に従って乾燥することにより粉末化してもよい。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のカルシウムとリン酸化澱粉とが複合体を形成したカルシウム・リン酸化澱粉複合体は、例えば重量比が、(無機カルシウム塩及び/又は有機酸カルシウム塩):(有機リン酸塩):(リン酸化澱粉)=10:1〜15:20〜85になるよう混合し、さらに必要に応じて、重量比で(カルシウム):(有機酸)=10:0.1 〜20になるよう有機酸を加え、pHを 5.5以上に調整することにより得ることができる。また、本発明において、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどの無機マグネシウム塩及び/又はクエン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウムなどの有機酸マグネシウム塩を添加することによりカルシウムとリン酸化澱粉との複合体の形成能が増すので、より高純度のカルシウム・リン酸化澱粉複合体を得ることができる。この際、重量比が(カルシウム):(マグネシウム)=20:1〜15になるようにすることにより、複合体の純度を高めることが可能となる。
【0014】
また、本発明のカルシウム・リン酸化澱粉複合体は、必要に応じ、エバポレーターや限外濾過膜、精密濾過膜などで処理することにより得られる濃縮液として使用し、あるいは常法に従って乾燥することにより得られる粉末として使用すれば良い。また、限外濾過膜、精密濾過膜などの膜で処理することにより、より高純度のカルシウム・リン酸化澱粉複合体を得ることができる。
このようにして得られた本発明のカルシウム・リン酸化澱粉複合体は、澱粉のリン酸基を介してリン酸化澱粉とカルシウムとが複合体(架橋構造)を形成したものであり、カルシウムの生体内での吸収性や利用性に優れているという特徴を有するとともに、中性域のpHで水可溶性であり、粉末化しても溶解性が良好であるという特徴を有している。また、本発明のカルシウム・リン酸化澱粉複合体を使用するに際しては、カルシウムやリン酸化澱粉単量体などが共存していても構わない。
【0015】
本発明のカルシウム・リン酸化澱粉複合体は、生体内での吸収性及び利用性の良好なカルシウム剤として、そのまま使用することができる。また、本発明のカルシウム・リン酸化澱粉複合体は、錠剤、顆粒剤又は液剤などの経口投与に適した医薬としたり、乳飲料、チーズ、清涼飲料水、ゼリー、パン、麺、スープ又はソーセージなどの飲食品に配合したり、飼料添加物、配合飼料又はペットフードなどの飼料に配合して使用することができる。
なお、日本人成人の一日当たりのカルシウム所要量は 600mgであるが、現状のカルシウム摂取量は 550mg程度であるから、カルシウムの摂取不足を補うためには、成人の場合、本発明のカルシウム・リン酸化澱粉複合体を一日当たり1g (カルシウム量として約100mg)以上、好ましくは、5g( カルシウム量として約500mg)以上摂取することが望ましい。
次に、実施例及び試験例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。
【0016】
【実施例1】
馬鈴薯澱粉5kgをpH 5.5の0.1Mリン酸緩衝液100Lに分散させ、80℃で10分間撹拌しながら加熱して糊化させた。これを凍結乾燥後、100 ℃で2時間程度加熱保持し、次いで140 ℃で22時間程度加熱保持し、リン酸化澱粉を得た。このリン酸化澱粉を100Lの水に溶解し、pHを6.7 に制御しながら、1Mクエン酸水溶液2L、1M塩化カルシウム水溶液30L 、1Mリン酸水素二カリウム水溶液4Lを加えて全量200Lの水溶液を調製し、この水溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、凍結乾燥して、白色のカルシウム・リン酸化澱粉複合体粉末10kgを得た。このカルシウム・リン酸化澱粉複合体の成分組成を表1に示す。
【0017】
【表1】
───────────────
カルシウム 10.0 (%)
無機リン 1.1
有機リン 2.2
有機酸 3.6
───────────────
【0018】
【実施例2】
ファイバーソル2(松谷化学工業社製)5kgを0.1Mリン酸水素二カリウム水溶液100Lに分散させ、80℃で10分間撹拌しながら加熱して糊化させた。これを凍結乾燥後、100 ℃で2時間程度加熱保持し、次いで140 ℃で22時間程度加熱保持し、リン酸化澱粉を得た。
一方、リン酸水素カルシウム・2水和物5kg、炭酸カルシウム1kg及びグルコン酸400gを水100Lに懸濁させた後、塩酸でpHを 3.0に調整して完全に溶解した。ここに先に調製したリン酸化澱粉を全量加えた後、水酸化カリウムにてpHを6.7 に調製した。この水溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、噴霧乾燥して、白色のカルシウム・リン酸化澱粉複合体粉末12.5kgを得た。このカルシウム・リン酸化澱粉複合体の成分組成を表2に示す。
【0019】
【表2】
───────────────
カルシウム 12.4 (%)
無機リン 6.3
有機リン 2.0
有機酸 2.8
───────────────
【0020】
【比較例1】
実施例1の方法に従って、リン酸化澱粉を添加せずに調製したカルシウム含有粉末を調製した。すなわち、pHを6.7 に制御しながら、1Mクエン酸水溶液2L、1M塩化カルシウム水溶液 30L、1Mリン酸水素二カリウム水溶液4Lを加えて全量200Lの水溶液を調製し、この水溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、生じた沈澱も含め凍結乾燥して、白色のカルシウム含有粉末 4.2kgを得た。なお、このカルシウム含有粉末中のカルシウム含量は25%であった。
【0021】
【比較例2】
実施例1の方法に従って調製したリン酸化澱粉7kgと比較例1と同様の方法で調製したカルシウム含有粉末5kgを混合し、組成としては実施例1とほぼ同様のカルシウム・リン酸化澱粉含有粉末を調製した。この粉末においては、カルシウム含有粉末とリン酸化澱粉粉末をそれぞれ個別に調製しているため、実施例1とは異なり、複合体は形成していない。なお、このカルシウム・リン酸化澱粉含有粉末中のカルシウム含量は10%であった。
【0022】
【試験例1】
実施例1及び実施例2で得られた各カルシウム・リン酸化澱粉複合体粉末について、中性域のpHにおける溶解性を調べた。また、比較例1で得られたカルシウム含有粉末及び比較例2で得られた複合体を形成していないカルシウム・リン酸化澱粉含有粉末についても、同様の試験を行った。各試料をカルシウム濃度が 300mg/100mLになるよう脱イオン水で溶解し、十分撹拌した後、遠心分離(2,000rpm 、5分間) して、上清中に含まれるカルシウム濃度を測定した。
なお、表中のカルシウム可溶化率は、次式より算出した。
{カルシウム可溶化率(%)}=[{上清中のカルシウム濃度(mg/100mL)}/300(mg/100mL) ]×100
その結果を表3に示す。
【0023】
【表3】
【0024】
これによると、実施例1及び実施例2で得られたそれぞれのカルシウム・リン酸化澱粉複合体粉末中のカルシウムは、完全に可溶化されており、比較例1で得られたカルシウム含有粉末中のカルシウムや比較例2で得られたカルシウム・リン酸化澱粉含有粉末中のカルシウムに比べて非常に優れた溶解性を有していることが判った。また、比較例2で明らかなように、複合体を形成していないものでは不溶性のカルシウム塩を可溶化することができず、実施例1及び実施例2のようにカルシウムとリン酸化澱粉とが複合体を形成している場合にのみ可溶化することが明らかとなった。
【0025】
【試験例2】
実施例1及び実施例2で得られた各カルシウム・リン酸化澱粉複合体粉末について、10週齢SD系雄ラットを用い、生体内での吸収性を調べた。また、比較例1で得られたカルシウム含有粉末及び比較例2で得られた複合体を形成していないカルシウム・リン酸化澱粉含有粉末ついても、同様の試験を行った。
実験群は1群6匹とし、カルシウム含量が 10mg/mLになるよう調整した各試料の懸濁液を24時間絶食したラットにゾンデで経口投与した。なお、試料投与に際しては、リン及びマグネシウムの含量についても同じになるよう調整し、またリン酸化澱粉及び有機酸の含量についても同じになるように、リン酸化澱粉及びクエン酸で調整した。
試料の投与を開始して4時間後、ラットの胃及び腸を摘出し、それぞれをそのまま灰化した。
なお、生体内におけるカルシウムの消化吸収量は次式で算出した。
(生体内におけるカルシウムの消化吸収量)={(投与したカルシウム量)−(胃及び腸に残存していたカルシウム量)}
その結果を表4に示す。
なお、括弧内の数値は標準偏差を示す。また、a は、比較例1に対して有意差(p<0.05) があることを示し、b は、比較例2に対して有意差(p<0.05) があることを示す。
【0026】
【表4】
【0027】
これによると、実施例1及び実施例2で得られた各カルシウム・リン酸化澱粉複合体粉末中のカルシウムは、比較例1で得られたカルシウム含有粉末中のカルシウムよりも生体内での吸収性が良好であり、さらに比較例2で得られた複合体を形成していないカルシウム・リン酸化澱粉含有粉末中のカルシウムよりも生体内でも吸収性が良好であることが判った。すなわち、リン酸化澱粉が単独で存在してもカルシウム吸収量は上昇せず、カルシウムとリン酸化澱粉とが複合体を形成している場合にのみカルシウム吸収量が上昇することが判った。
【0028】
【試験例3】
実施例1と同様の方法で調製し、凍結乾燥することにより得られたリン酸化澱粉粉末 0.6kgを水に溶解した水溶液に、pH 6.7に制御しながら、1M塩化カルシウム水溶液5L(最終濃度は2g/L)、1Mリン酸水素二カリウム水溶液3.2L、1Mクエン酸水溶液1Lを加え、さらに1M塩化マグネシウム水溶液又は1Mグルコン酸マグネシウム水溶液をそれぞれ最終濃度が0.0g/L、0.1g/L、0.5g/L、1.0g/L、1.5g/Lとなるように加えて全量100Lの水溶液を10種類調製した。
なお、調製した水溶液を分画分子量 2,000の限外濾過膜で処理して得られる濾液には、リン酸化澱粉と複合体を形成しない遊離のカルシウムやマグネシウムなどが含まれているので、調製した水溶液中及び限外濾液中のカルシウム濃度を測定し、それらのカルシウム濃度の差をリン酸化澱粉と架橋を形成した複合体中のカルシウム濃度とした。同様に、複合体中のマグネシウム濃度も算出した。
その結果を表5に示す。
【0029】
【表5】
【0030】
これによると、塩化マグネシウム又はグルコン酸マグネシウムを添加することにより複合体中のカルシウム濃度が上昇することが確認された。すなわち、無機マグネシウム塩又は有機酸マグネシウム塩を添加することにより、カルシウムとリン酸化澱粉との複合体の形成が促進され、複合体の純度が高まることが確かめられた。また、その効果は、水溶液中のマグネシウム最終濃度が0.1g/L〜1.5g/Lの範囲で全てに認められた。すなわち、重量比が、(カルシウム):(マグネシウム)=20:1〜15になるようにすることにより、複合体の純度を高めることができるようになった。また、調製した全ての水溶液のカルシウム可溶化率は全て 100%であった。
なお、マグネシウム塩の添加量に応じて、カルシウム・リン酸化澱粉複合体中にマグネシウムも取り込まれることも確認された。
【0031】
【実施例3】
実施例1と同様の方法で得られたカルシウム・リン酸化澱粉複合体粉末を使用し、表6に示す配合でカルシウムを強化した錠剤を製造した。
なお、この錠剤100g中にはカルシウム5gが含まれていた。
【0032】
【表6】
──────────────────────────
複合体粉末 50.0(重量%)
含水結晶ぶどう糖 48.5
シュガーエステル 1.0
香料 0.5
──────────────────────────
【0033】
【実施例4】
生乳 100mL当たりの添加量が1gになるように実施例2と同様の方法で得られたカルシウム・リン酸化澱粉複合体粉末を加え、 120kg/cm2の圧力でホモゲナイズした後、 120℃で4秒間加熱殺菌して、カルシウムを強化した牛乳を製造した。
なお、この牛乳100g中にはカルシウム 220mgが含まれていた。
【0034】
【実施例5】
実施例1と同様の方法で得られたカルシウム・リン酸化澱粉複合体粉末を使用し、表7に示す配合でカルシウムを強化したイヌ飼育用飼料(ドッグフード)を製造した。
なお、この飼料100g中にはカルシウム 720mgが含まれていた。
【0035】
【表7】
────────────────────────
大豆粕 11(重量%)
脱脂粉乳 14
大豆油 4
コーン油 2
パーム油 2
とうもろこし澱粉 30
小麦粉 15
ふすま 8
ビタミン混合物 2
ミネラル混合物 5
セルロース 2
複合体粉末 5
────────────────────────
【0036】
【発明の効果】
本発明で製造されるカルシウムとリン酸化澱粉とが複合体を形成しているカルシウム・リン酸化澱粉複合体は、中性域のpHで水可溶性であり、また、粉末化しても溶解性が優れているという特徴を有している。さらに、このカルシウム・リン酸化澱粉複合体は、生体内での吸収性や利用性に優れている。
そして得られたカルシウム・リン酸化澱粉複合体は、カルシウム剤として、医薬、飲食品、あるいは飼料に配合し、カルシウムを強化する効果を発揮することができるので、骨粗鬆症、骨折、リウマチ、関節炎、腰痛などの種々の骨疾患の予防や治療に有効に利用できる。
Claims (8)
- 無機カルシウム塩及び/又は有機酸カルシウム塩、無機リン酸塩並びにリン酸化澱粉を混合(ただし、無機カルシウム塩と無機リン酸塩がいずれもリン酸カルシウムである場合を除く)し、pHを5.5以上に調整して、カルシウムとリン酸化澱粉との複合体を形成させることを特徴とするカルシウム・リン酸化澱粉複合体の製造方法。
- 無機カルシウム塩及び/又は有機酸カルシウム塩、無機リン酸塩並びにリン酸化澱粉を、重量比が、(無機カルシウム塩及び/又は有機酸カルシウム塩):(無機リン酸塩):(リン酸化澱粉)=10:1〜15:20〜85になるよう混合することを特徴とする請求項1記載のカルシウム・リン酸化澱粉複合体の製造方法。
- 請求項1または2記載の製造方法で得られたカルシウム・リン酸複合体に、さらに、マグネシウムを含有しており、(カルシウム):(マグネシウム)=20: 1〜15になるように無機マグネシウム塩及び/又は有機マグネシウム塩を含有していることを特徴とするカルシウム・リン酸化澱粉複合体。
- 請求項1又は2記載の製造過程にて、前記カルシウム・リン酸化澱粉複合体中のカルシウム及びマグネシウムの重量比が、(カルシウム):(マグネシウム)=20: 1〜15になるように無機マグネシウム塩及び/又は有機マグネシウム塩を混合することを特徴とするマグネシウムを含有しているカルシウム・リン酸化澱粉複合体の製造方法。
- 請求項3記載のカルシウム・リン酸化澱粉複合体を有効成分とするするカルシウム吸収促進剤。
- 請求項3記載のカルシウム・リン酸化澱粉複合体を配合してカルシウムを強化したこと特徴とするカルシウム吸収促進用医薬。
- 請求項3記載のカルシウム・リン酸化澱粉複合体を配合してカルシウムを強化したことを特徴とする飲食品。
- 請求項3記載のカルシウム・リン酸化澱粉複合体を配合してカルシウムを強化したことを特徴とする飼料。
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JP2000037992A JP5100923B2 (ja) | 2000-02-16 | 2000-02-16 | カルシウム・リン酸化澱粉複合体及びその製造方法 |
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