JP5099836B2 - 電子銃の製造方法 - Google Patents

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Description

この発明はフィールドエミッションディスプレー(以下「FED」と呼ぶ)に代表されるフィールドエミッター(以下「電子銃」と呼ぶ)に関し、更に詳しくはアルミニウム多孔性陽極酸化皮膜(以下「アルマイト皮膜」と呼ぶ)の微細孔を型として作製する電子銃の製造方法に関する。
次世代ディスプレーとして注目されているFEDは、液晶ディスプレー並みの低電圧駆動と、高精細で鮮明な自発光薄型ディスプレーとして、更には低電圧駆動でしかも低消費電力の面発光体として大きな期待を担っている。
その構成要素について説明する。FEDの一般的構造は、マトリックス状に多数の電子銃が形成された厚み凡そ1mmのガラス基板(カソード基板)と、蛍光体層が形成されたガラス基板(アノード基板)から為る。この2枚の基板を数100μm〜数mmの間隔で、スペーサーを介して対向させて張り合わせ、FEDパネルとする。内部を真空状態とした一種の微小真空管である。
電子銃はフィールドエミッションカソードとも呼ばれる。陰極ではあるが、従来のCRT の様な熱陰極ではなく、陰極に高電界を集中して「量子トンネル効果」により電子を引き出す微小冷陰極である。真空中でこの固体表面に強い電界を与えるとトンネル効果によりポテンシャル障壁を通過して、常温でも電子放射が行われる。強電界を得るため、通常は微小冷陰極の先端を鋭く尖らせる。この針状陰極に負の電圧を印加すると、尖った先端に電界が集中し、必要とされる強電界が得られる。引き出された電子は、陽極―陰極間の電圧で加速され、陽極に形成された蛍光体層に衝突し、蛍光体を励起して発光する。画像の表示は、画素毎に配置された電子銃の行と列を選択して、カソード及びゲート電極に電圧を印加するマトリックス駆動によって行う。
この様にFEDは、より低い電圧での駆動を実現する為に先端を可能な限り細くした極微細で針状形状の物質からなる材料を林立させて用いられるか、2つの酸化パラジウム薄膜の間にナノオーダーのギャップを付け、電圧を印加すると、このナノ亀裂間でトンネル効果が起こり電子が放出される現象を利用している。
この電子銃は強い電界応力や残留ガスイオンの衝撃に常に晒される中で、安定で高い電子の放出を得る必要が有り、電子銃の構成材料には、物理的強靭さと、化学的安定性、高融点特性、電気伝導性と言った堅牢で必要な電気特性を兼ね備えていなければならない。この様な理由から当該電子銃にはカーボン、ダイヤモンド結晶、セラミックス、高融点金属等がその対象材料として検討されている。中でもカーボンナノチューブ(以下「CNT」と呼ぶ)は最も信頼性の高い材料としてその研究が盛んである。
しかしながら、従来技術は次の様な点で大きな課題を残しており、FEDや面発光体の実用化の妨げになっている。
CNTに於いては、湿式や乾式法で材料面に対して垂直方向にブロック状に林立して生長させる技術開発が行われてはいるが、その集合体の一本一本のCNTの高さにはバラつきが大きいことや、その集合体のCNT密度もコントロール出来ず、単位面積当たりの電子放出特性は相乗的にバラつきが大きくなり、結果として場所により発光輝度にバラつきが大きく、充分な性能が引き出されていない。
即ち、CNTは微細なチューブの形状を精確に制御して配置するのが困難で均一な電子放出を得にくいと言う大きな課題が解決されていない。画像やその輝度の均一な発光安定性を求めると、電子銃としては少なくとも平均して100万本/cm以上が必要と言われているが、CNT製電子銃はこの要件を満たしていないのが実情である。CNTを印刷インクと混錬したインクで、スクリーン印刷して得る、ランダムに寝かせたCNTを配置させる印刷面の方が返って安定した結果が得られるということで、この印刷方式での検討も行われている。しかし、この方式も結果として発光輝度の安定が充分でなく、未だ実用化には程遠いのが現状である。
一方、ダイヤモンド電子銃には次の様な課題がある。2002年2月1日付けの日経産業新聞テクノトレンド欄によると、先端径が10nmの単結晶ダイヤモンド電子銃を、決められた位置に配列する技術が開発されたと伝えている。課題はコストであるとも伝えている。ドライエッチング技術と、マイクロ波プラズマ技術を組み合わせた加工技術で、単結晶ダイヤモンドの先端を10nm程度に先鋭化する為の高価な真空装置が必要な事や、此れを精確に配列するための装置、及び配列に要する加工時間をも考慮すれば容易に膨大なコストになるのは予測がつく。
他方、先端径のバラつき及び全長のバラつきから現れる電子放出の不均一性や、基板と配列された電子銃の密着の不均一性等の品質上の問題が発生し易い事も容易に予測がつく。細径のダイヤモンド製ロッドから必要な長さに切断し、先端径を細くする材料の準備も困難な加工がある。更にまた、その寸法がメートル角と言った大型画面用電子銃を一気に作製する事は困難で、少なくとも数枚〜数十枚を継ぎ足して用いる必要が有る。これ等を考慮すると、とても実用化に見合うコストで加工する方法でないことは明らかである。
セラミックス製電子銃については、窒化アルミが直接遷移型で最大のバンドギャップエネルギー(6.2eV)を有し、電子親和力が殆ど零である為に電界放出が起こり易い物質として注目されている。しかし窒化アルミのn型伝導性制御は非常に困難で表面に電子を効率良く供給出来ない、と言う理由で駆動電圧は高く、電流は低く、時間に対する電流変動が大きい問題が解決出来ていなかった。これに対し、窒化アルミに珪素をドーピングすると電子銃特性の著しい改善効果が認められるに至り、再度注目される様になっている。
しかしながら、この窒化アルミ製電子銃作成にあたっては、所謂一般的な半導体製造に類似した製造工程を経て作製しなければならない。即ち、基板に必要な膜を成膜し、その後必要な箇所をマスキングし、次いで不要な箇所をエッチングすると言った工程を繰り返さねばならず、高価な真空装置や付帯設備を必須装置として準備しなければならず、とてもコスト的に引き合わないのは明白である。更に電子銃の大型化への対応も、ダイヤモンド製電子銃と同様に困難である。
金属製電子銃は、異方性エッチングしたシリコンウエハー面を型にして、電鋳技術を用いて当該面を写し取る事で検討が進んでいる。シリコンウエハーを異方性エッチングした型は次の様な大きな問題点を有し、電子銃としての品質に課題を残している事と大型化への対応が困難で、総合的な信頼性とコスト高が解消されていない。
即ち、異方性エッチングされたすり鉢状の凹みは、その間隔が不揃いである事や、その再現性に乏しい事が先ず挙げられる。これは互いの電子銃間ピッチが常に一定間隔に仕上がらない事、その再現性も乏しいため、結果として電子銃密度がバラつくと言う致命的な品質問題が避けられないのである。
更にそのエッチング深さのロット間内は勿論、群間の制御は特に難しく、常に一定の深さに制御してエッチング出来ないのが現実で、これが電子銃の長さの不均一に繋がり、電子放出の均一性を維持出来ないでいる。量産化するに当たり更に大きな障壁は、加工できるのはシリコンウエハーの大きさ迄で、大型化への対応には繋ぎ合わせて仕上げる必要が有り、コストの上昇と信頼性の低下を助長させている。
2つの酸化パラジウム薄膜間のギャップから電子を放出する方法は、ガラス基板上に電子放出源となる酸化パラジウム薄膜を形成し、10V程度の電圧を印加すると薄膜上に10nm程度の小さな亀裂が入る。その亀裂を飛び越えてトンネル効果で出て来る電子を一気に蛍光体にぶっつける方式である。酸化パラジウム薄膜を形成する手段としてインクジェット印刷を利用する事が出来、大型化への難関がクリアーされているが、次の様な課題を抱えている。
即ち、当該ギャップを作製するに当たっては、自然発生的に出来る亀裂を用いる為、人為的な制御が効かずにそのギャップ幅、長さ、発生位置と言った電子銃性能に関わる重大要素がコントロール出来ずに信頼性や歩留りを悪くしている。
この発明は、上記のような実情に鑑みて、電子を発射する銃軸としての針状突起物がナノオーダーの構造体として比較的に均一に林立して散在し、しかも、この微細な構造が確実に得られるとともに安価に製造できる電子銃の製造方法を提供することを課題とした。
上記の課題を解決するために、この発明は、請求項1〜請求項に記載する電子銃の製造方法を提供するものである。
即ち、電子を発射する銃軸としての針状突起物が配列基材にほゞ等間隔に散在して配置されてなる電子銃の製造方法であって、薄板状のアルミニウム金属素材の一面に多孔性陽極酸化皮膜を形成することにより、その多孔性陽極酸化皮膜に有する底部がバリア層の無数の微細孔を針状突起物を成形する型として利用し、微細孔に針状突起物の素材を充填して該針状突起物を成形してから、引き続き針状突起物と同質素材により多孔性陽極酸化皮膜の表面に配列基材を針状突起物と一体に形成する表面処理を施し、次いで、(イ)全ての多孔性陽極酸化皮膜とその下地としての全てのアルミニウム金属素材を溶解除去して前記配列基材を残す、(ロ)全てのアルミニウム金属素材を除去して前記配列基材ともに多孔性陽極酸化皮膜を残す、(ハ)全てのアルミニウム金属素材を除去するとともにそれと接合する多孔性陽極酸化皮膜の一部を溶解除去して前記配列基材とともに多孔性陽極酸化皮膜の一部を残してその上に針状突起物を頭出しする、のいずれかの手段を取ることができることを特徴とする電子銃の製造方法を提供するものである(請求項1,請求項2,請求項3)。
また、上記の如く針状突起物を成形してから、多孔性陽極酸化皮膜にラッピング加工を施し、さらにその後多孔性陽極酸化皮膜を僅かに溶解除去してた表面に接着剤が塗布された補強材を配列基材として貼り付け、それから全てのアルミニウムの金属素材と全ての多孔性陽極酸化皮膜を溶解除去することもできる(請求項)。
また、上記の如く針状突起物を成形してから、多孔性陽極酸化皮膜にラッピング加工を施し、その後多孔性陽極酸化皮膜をわずかに溶解除去した表面に接着剤が塗布された補強材を配列基材として貼り付け、その後全てのアルミニウム金属素材を除去し、多孔性陽極酸化皮膜を僅かに溶解除去することもできる(請求項)。
なお、針状突起物は、必ずしも針の如く直であるとは限らなく、先端に細くなるテーパー付きであったり、基端が太くなる段付きであったりする。また、これらの針状突起物の表面に、カーボン、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンド微結晶、セラミックス等の材料で被覆することもある
アルマイト皮膜の微細孔形成に於いては、次の様な事が既に知られている。
・アルマイト皮膜はその膜厚均一性が非常に優れている。
・アルマイト皮膜の生長は孔底のバリアー層で発生し、順次バリアー層が孔壁に生長し、皮膜の生成は進んで行く。
・微細孔径はその電解液種によって決定される。例えば最も一般的な硫酸浴からは凡そ10nm径、有機酸を代表して利用されるシュウ酸浴からは20nm径で、燐酸浴200〜300nm径である。より電解電圧の高い条件からはやや大きめな、低い電解電圧からはやや小さめな孔径が得られる。
・孔間隔は、電解電圧に依存する。微細孔底部のバリアー層厚さは、その厚さを維持しつつ孔壁に生長して行くことが知られており、そのバリアー層厚さは1.3〜1.5nm/Vと電解電圧に比例する。
・孔長はアルマイト微細孔の皮膜厚さで、通電電気量に比例して決定する。
・孔形状は孔壁の化学溶解を利用することで、制御することが出来る。
孔壁は電解液に接している間、常に化学溶解を受ける。液種、その濃度、浴温によって化学溶解能は異なるが、液種では 燐酸>硫酸>シュウ酸、濃度は 濃い>薄い、浴温は 高い>低い の傾向を示す。従ってこれらの諸条件を制御する事で孔形状を一定に保つ事も可能である。
例えば、針の様に孔底から細長い針状にするには、化学溶解を抑える工夫をする。即ち電解浴には化学溶解の低い有機酸(シュウ酸等)浴を用いるとか、硫酸浴でも浴温を低く抑えるとか、浴濃度を下げれば良いし、更には電解浴との接触時間を短くする為に電流密度を上げ、皮膜生成時間を短縮する等を組み入れても良い。これらの条件は、求める孔径、孔間隔、孔長等から適正に組み合わせて設定すれば良い。こうする事で、針状の孔形状をしたアルマイト皮膜の微細孔が得られるのである。
一方、テーパー付きの細長い形状の微細孔は、前記の逆方向の条件下で得られる。即ち、皮膜表面により近い孔壁は、電解初期から電解液に接しており、皮膜生成時から化学溶解を受け続けている。化学溶解を促進する条件下で皮膜を生成すれば、自ずと皮膜表面近傍の孔壁は化学溶解が進み孔径は大きく、順次孔底に向うに連れて細くなり、テーパー状の孔形状を有するアルマイト皮膜微細孔が得られる。
更に一方、段付きの孔形状を得るには、次の様に皮膜生成条件を工夫する事で、1段から複数段の段付き形状の微細孔を得る事が出来る。即ち、皮膜生成初期から中途にかけては化学溶解を抑える条件下で処理して細長い針状形状微細孔を生成させ、次いで電解を中止して皮膜生長を止め、同一電解浴又は別な処理浴で孔壁の化学溶解のみを行い孔径を拡大する(以下孔径拡大処理と呼ぶ)。
化学溶解は孔内の場所の選択性が無く均等に溶解が進む事が知られており、表面近傍、及び孔底近傍の孔径に差異は生じ難いのである。
次に前記化学溶解を抑える浴で、同一条件下に処理を行い皮膜を再度成長させると、孔径拡大処理を行う前と同じサイズの孔径を有する微細孔が、孔径拡大処理した孔の底部に生成される。この様に孔の生長(皮膜生長)と孔の拡大処理を繰り返す事で段付きの微細孔が得られる。孔生長→孔拡大処理→孔生長→孔拡大処理と繰り返す事で複数段の段付き孔形状をしたアルマイト皮膜微細孔が得られる。
以上、細長い針状の孔形状、テーパー付き孔形状、段つき孔形状について述べたが、これ等の処理を組み合わせて行えば、表面近傍の孔形状のみをテーパー付きにしたり、孔の一部を段付きにしたり、段とテーパーとを併せ持った孔と言った様々な形状にする事も可能である。
更にまた、アルマイト皮膜生成時に電圧を降下させると、孔底では孔数が増加する。所謂、孔の枝分かれ現象が生じる事も知られており、バリアー層側を電子銃先端とする場合の電子銃密度増加の手段に用いるにはこの手法は効果的である。
当該微細孔中に有機物を吸着させたり、金属を電析して充填したり、ゾル・ゲル法を利用してガラスやセラミックス等を孔内に充填する事が出来るのも既に知られている。
この様にアルマイト皮膜微細孔は、孔径7〜300nm、孔の長さ10〜3,000nm、孔間隔20〜200nmの範囲で規則的に配置する事が出来るし、しかも孔形状も人為的に制御する事が可能である。
このアルマイト皮膜微細孔を型にして、金属、セラミックス、カーボン、ガラスの内、少なくとも1種以上から為る物質を充填して、その孔径、孔長さ、孔間隔、孔形状を写し取っても良し、微細孔中に金属、セラミックス、カーボン、ガラスの内、少なくとも1種以上からなる物質を充填した状態で電子銃として用いても良い。
しかしながら、アルマイト皮膜微細孔中に金属を電析させて用いる場合に、しばしば問題になるのがその電析量(電析高さ)のバラつきである。金属の電析は孔底のバリア層からスタートして入り口に向って生長して行く。バラつきの主因は未だ定かではないが、バリア層の厚さと電析時の電圧との関係や、電析中のバリア層の変質が挙げられている。昨今、微細孔中への均一電析技術の発展は目覚しいものがあるが、それでも100%完全では無い。
そこで微細孔中へ金属を充填した後、アルマイト皮膜表面をラッピング加工して電析量(電析高さ)を揃えると電子銃密度が高まるのである。ラッピング加工量は、皮膜厚さの1〜70%程度が良く、好ましくは5〜50%がより好ましい。更にラッピング加工後にアルマイト皮膜を僅かに化学溶解させると、充填した金属が皮膜の溶解量に応じて頭出しをする。この様に頭を出させると電子の発生が更に良くなりより好ましい。(Pd,Pe参照)
アルマイト皮膜微細孔中に金属、セラミックス、カーボン、ガラスの内、少なくとも1種以上を充填し、引き続きアルマイト皮膜表面を当該物質で覆った後、素材金属アルミニウム及びアルマイト皮膜を溶解除去すると、アルマイト皮膜微細孔を完全に写し取った電子銃が作製出来る。この場合、アルマイト皮膜微細孔生成時に微細孔をテーパー付き又は段付きにしておくと、一本一本の電子銃の物理的強度が飛躍的に高まり、好ましい。
金属を電析充填しアルマイト表面に当該金属が溢れ出す前に浴を交換した方が良い。微細孔に金属を充填させる浴は、一般的に単純塩浴が多く、アルマイト表面で析出する金属がデンドライト的析出になりやすいのである。従って交換する浴種は、一般的な電気めっき浴又は無電解めっき浴が良い。
セラミックス、カーボン、ガラスを充填するに当たっては、孔長を短く、即ちアルマイト皮膜厚さは薄くした方が良い。ゾル・ゲルを用いての充填法が一般的であり、孔深くまで浸透し難い為である。アスペクト比で2〜20程度が好ましい。孔径も大きい方が良く、有機酸浴又は燐酸浴の孔とし、しかも孔形状はテーパー付き又は段付きにすると一層好ましい。
アルマイト皮膜微細孔中に金属、セラミックス、カーボン、ガラスの内、少なくとも1種以上を充填し、引き続きアルマイト皮膜表面を当該物質で覆った後、アルマイト皮膜を残し、素材である金属アルミニウムを溶解除去すると、バリア層が表面に現れる。バリア層はアルマイト皮膜成長時の生長点の役割をなし、電子電流が流れる事は周知である。このバリア層を通じて電子が流れる電子銃Pb,Pcを形成する(図3)。このバリア層領域を化学溶解させ、微細孔中に充填した物質の頭出しを行うと、更に電子発生がスムーズになり好ましい(Pb,Pc参照)。
この電子銃Pb,Pcの特徴は、金属、セラミックス、カーボン、ガラスの内、少なくとも1種以上を充填した物質が、アルマイト皮膜2で少なくとも保護される為に、物理的強度や化学的侵害に対する耐性が大きい事である。
前記したアルマイト皮膜の微細孔を型として作成された全ての電子銃に於いて、当該電子銃の表面には必要に応じてカーボン、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンド微結晶、セラミックス、ガラスの何れか1種又は2種以上を被覆すると、電子銃としての特性がより安定するので好ましい。
更にまた、針状突起物、テーパー付き針状突起物、段付き針状突起物が形成されていない面には、電子銃全体の物理的強度を高めこれを維持する目的で、金属基板、ガラス基板、樹脂基盤等を貼り付け、補強する事も出来る。張り合わせるに用いる接着剤には導電性を有するものが好ましく利用できる(Pf,Pg,Ph参照)。
アルマイト皮膜は、その皮膜厚さの均一性が非常に優れている。従って微細孔の孔長のバラつきも非常に少ないと言う特徴を有している。しかも孔は互いに独立し、ワークの面に対して垂直に生長し、しかもほぼ互いに等間隔の距離を維持して林立して存在する。これ等の孔径、孔長さ、孔間隔、孔密度は人為的に制御が可能である。孔長の均一性が良い、孔密度が大、孔は完全に独立し、垂直にしかもその直径は10〜100nmと電子銃の型として用いるには理想的である。この様に電子銃の型として適合するナノオーダーの構造体は他に見当たらないのである。前以て設計し、設計通りのナノオーダーの構造体が容易に得られるのはアルマイト皮膜だけである。
アルマイト処理加工は、既に建材や船舶等の大型構造体への表面処理加工法として古くから利用されており、その寸法がメートル角以上の大型電子銃への適用にも問題は無い。しかも湿式法で安価に製造出来る。板厚が500μm未満のアルミニウムの場合にはコイルTOコイル方式で連続的に生産することも可能で、更なるコストダウンが期待出来る。
この様に、アルマイト皮膜の微細孔を型として利用する電子銃は、その孔径、長さ、密度、間隔の均一性から安定した性能が得られ、且つ大型への対応も問題なく、安価に生産が出来る。
本発明における電子銃の製造工程は、順次下記の通りである(図1)。
A:アルミニウム金属素材の準備工程
B:金属素材のアルマイト前処理工程
C:アルマイト(多孔性陽極酸化皮膜)処理工程
D:針状突起物の成形工程
E:配列基材の形成工程又はラッピング加工工程
F:電子銃の発現工程
まず、Aのアルミニウム金属素材1準備工程については、一面のみにアルマイト処理を施す必要から、後記実施例に示す通り、二枚合わせにして使用する。好適に使用出来るアルミニウム材料は、スムーズにアルマイト皮膜が生成できる材料ならば何でも良いが、特にアルマイト皮膜微細孔中への針状突起物の形成し易い材料として純アルミニウム系(JIS A−1000番台)、AL/Mg系(JIS A5000番台)がより好ましい。また、次のBの金属素材1アルマイト前処理工程について説明すると、脱脂処理は表面を溶解して自然酸化皮膜や油分、その他の付着物を除去する方式と、界面活性剤とビルダーから成り、表面を溶解させないで油分と付着物を除去する方式に分けられる。
本発明に於いてはより鏡面に近い表面を有するアルミニウム材料を用いるのがより好ましく、前処理としては溶解させない方式を採用するのがより良い。溶解させる方式を用いる場合は表面を荒らすことの少ない、例えばアルカリタイプのエッチング溶液で溶解し、スマット除去処理を加える。必要に応じて研磨処理を付加する事も効果的である。
次いで、Cのアルマイト(多孔性陽極酸化皮膜)処理工程については、一般的な処理方式が採用出来る。電解浴は硫酸浴、有機酸浴、燐酸浴、これ等の混酸浴が好ましく使用出来る。中でも硫酸浴は最も安価で、浴管理もし易く、消費電力も少ないと言ったメリットから使い易い電解浴である。しかしながら、本発明の目的とする電子銃は当該アルマイト皮膜微細孔3を型として用いるのであり、微細孔3の孔径、孔間隔、孔形状は電解浴種に依存する割合が大きいため、目的に応じて使い分ける必要がある。
先ず孔径を10nm前後にする場合は硫酸浴を、20nm前後を求める場合はシュウ酸浴を、100nm以上を必要とする場合は燐酸浴を用いると良い。しかし後処理手段で孔径を拡大処理する事は可能であり、孔径のみを目的に電解浴種を選択しなくても良い。電解浴種の選択に当たっては、孔間隔を決定する最重要因子である事を念頭に決めるべきである。電解浴種によって電解電圧は夫々に異なる。この事は、孔壁に生長してゆくバリア層4の厚さに違いが出る事を意味しており、孔間隔は電解浴種(正確には電解電圧の違いである)によって変化する事になるからである。
孔形状も電解浴種による影響は大きい。電子銃の形状を針状突起物5として得るには、アルマイト皮膜微細孔3の孔壁の化学溶解を極力抑える必要が有り、浴温を下げるとか、電解浴濃度を下げると言った手段を講じなければ成らない。浴温や、濃度を下げると浴の電気伝導度が低下して電解電圧が上昇することは避けられず、事前に考慮すべき事項である。シュウ酸浴に代表される有機酸浴はアルマイト皮膜への化学溶解能が低く、化学溶解を嫌う場合は有効な電解浴として使用出来る。
電子銃の形状をテーパー付き針状突起物として得るには、電解浴の化学溶解を積極的に利用する。従って有機酸浴よりは硫酸浴、燐酸浴が適している。しかも浴温、浴濃度を高めにし、化学溶解能を高めに維持すると良い。この時電解浴の電気伝導度が上がり、電解電圧は下がる。従って孔密度は上昇する。
一方、この様なアルマイト皮膜2は外力に対して脆弱な皮膜になるが、電子銃の型として利用するには問題は無い。アルマイト皮膜の最外層は電解初期に生成された皮膜で、電解浴に最初から接しており化学溶解を最も受けている。同様に孔の入り口付近も最も化学溶解に晒され、孔径が拡大している。孔の中を孔底に向って進むにつれ、化学溶解量は減少し孔底、即ちバリア層は殆ど化学溶解を受けていない領域である。従って孔の入り口を最大径とし、バリア層領域を最小径とするテーパー付きの孔が生成する。
段付き針状突起物を得るには、先ず孔壁の化学溶解を極力抑えたアルマイト皮膜の微細孔を作成し、皮膜を成長させる電解を中止して化学溶解のみを行う。微細孔壁の化学溶解は、孔の入り口からバリア層領域に至る全体で均一に溶解する事が知られており、この様に皮膜生長を中止して化学溶解のみを実施すると孔内全体の径が等しく大きくなる。
この状態から再度、陽極酸化を同一条件下実施する事で、最初に陽極酸化処理して孔を拡大処理した1段目の大きな孔の下段に、孔を拡大処理する前の大きさの孔が生成する。この様にして段付き針状突起物を得るための型の孔が生成出来る。複数段にする場合は陽極酸化→孔拡大→陽極酸化→孔拡大を繰り返せば良い。
Dの針状突起物の成形工程については、金属をアルマイト皮膜微細孔に電析して充填する方法が、2次電解着色法として広く知られている。当該技術を利用して高融点金属を単独又は合金として孔内に電析させる。電析させる金属はより緻密な結晶で、より孔内を均一に充填する事が望まれる。その為にはバリア層4の厚さを揃え、金属電析時の電圧を制御する必要が有る。陽極酸化処理の最後の段階で、同一浴内で一定電圧の下で電解処理するか、別浴で一定電圧の下、陽極酸化するとバリア層厚さが均等になる(以下「バリア調整電圧」と呼ぶ)。
このバリア層に対して、金属電析浴中で交流又は直流の電場を印加するのであるが、バリア層厚を一定にする目的で行った定電圧電解時のバリア層調整電圧を少なくとも超えない範囲で、金属電析時の電圧をコントロールする事が望ましい。この様にする事で、各孔内への電析量の均一化が達成される。
アルマイト皮膜微細孔にセラミックス、ガラスを充填するにはゾル・ゲル法が一般的に使われる(表面技術第40巻12号P1372)。ゲル化するように調整されたゾルをアルマイト皮膜表面に接触させてゾルを孔内に浸透させる。接触させるには当該ゾルを塗布したり、当該ゾル中にアルマイト皮膜を浸漬させて浸透させる。この時、孔は大きい程浸透性は向上する為、アルマイト皮膜は燐酸皮膜又はシュウ酸皮膜が適しているが、孔径を拡大処理した場合は硫酸皮膜でも適応可能である。
従って、電子銃としてテーパー付き針状突起物や段付き針状突起物となる形状をしたアルマイト皮膜微細孔を用いると良い。又、その浸透深さは金属を電析させる場合より劣り、アスペクト比2〜50程度が好ましい。ゾルをゲル化させた後、昇温させてセラミックスやガラスに変質させる。ゾルとの接触→ゲル化→昇温を繰り返しても良い。
次に、Fの電子銃の発現工程(全体的な形が出来上がる工程)について述べる。先ずはアルマイト皮膜表面をラッピング加工して仕上げる電子銃Pd,Peについてである(図1右)。
バリア調整電圧と、金属析出電圧の関係を制御する事で、金属析出量のバラつきは少なくなるが、それでも完全に各孔で均等ではないのも事実で、少なくとも電子銃としての機能の一つが高さを揃えることであり、その為にアルマイト皮膜表面をラッピングするのは有効な手段である。
ラッピング加工量はアルマイト皮膜厚さの1〜50%が良く、更に好ましくは3〜30%程度が良い。「バリア調整電圧」−「金属析出電圧」の差が1V未満の場合のラッピング量は、膜厚の10%以下で良い。こうする事で、アルマイト皮膜微細孔の95%以上が電析金属で完全に充填される。ラッピング加工されたアルマイト皮膜表面を充分に洗浄して電子銃Pdに供するか、アルマイト皮膜表面を僅かに侵食して孔内に電析した金属の頭出しをし、充分に洗浄して電子銃Peに供する。
更なる手段としてラッピング加工する前に、微細孔内への金属充填を確実にする目的で、別な処理浴中で更に電析を進めたり、無電解めっき法で充填しアルマイト皮膜表面にまで金属を析出させても良い。この時はアルマイト皮膜表面に溢れ出た金属をラッピング加工で除去する必要がある。
次に、アルマイト皮膜微細孔3中に金属を電析した後、引き続きアルマイト皮膜2表面全体に配列基材11として金属を析出させる場合である(図1中央)。当該方法には電解めっき法と無電解めっき法がある。両者ともアルマイト皮膜微細孔中に金属を析出させた浴を、一般的な電気めっき浴、又は無電解めっき浴に切り替えて引き続き金属析出を続行し、アルマイト皮膜表面全体を覆ってしまう。無電解めっきの場合の微細孔中に析出させる金属種は、無電解めっきの触媒になり得る金属種である必要が有るが、電子銃の機能から高融点金属が好ましく、特には鉄及び鉄合金、ニッケル及びニッケル合金がより好ましく使用出来る。
アルマイト皮膜表面に析出させる金属の厚さは、電子銃としての物理的強度を維持できる厚さにするか、又は5μm未満の厚さにして当該面に金属、又はガラス、又はセラミックス、又は樹脂の何れかの板材を補強材12a,12bとして張り合わせても良い。
補強材を張り合わせる場合、補強材を張り合わせた後、素材アルミニウムの四辺を切断しても良いし、最終仕上がった時点で張り合わせても良い。いずれにしても素材アルミニウムの四辺を切断し、1枚ずつに分断すると、互いに張り合わさっていた面は、当初のアルミニウム素地面がむきだしになる。このアルミニウム素地とアルマイト皮膜全てをアルカリ溶液で溶解除去し、充分に洗浄して乾燥すると目的の電子銃Paに供される。
前記したアルマイト皮膜表面全体を金属で覆ってしまった後、素材アルミニウム1の四辺を切断して1枚ずつに分断し、むきだしになった金属アルミニウムをエッチングする。エッチング液に希塩酸を用いると選択的に金属アルミニウム1のみが溶解され、バリア層4を表面にしたアルマイト皮膜2が残り、充分に洗浄・乾燥して電子銃Pbに供される。バリア層は薄く、電析した金属が頭出しをしていなくても電子電流が流れる事は確認されているが、バリア層4領域を除去して電析させた金属5を頭出しする事で電子銃Pcとしての信頼性が向上する。そこで、希アルカリ溶液、例えば5%未満の苛性ソーダ溶液に、室温で浸漬するか、アルマイト皮膜を選択的に溶解させる公知のリン酸/クロム酸混液に浸漬するとバリア領域が溶解除去出来き、充分に洗浄、乾燥して電子銃に供される。
電子銃表面、特に金属がむき出しになった電子銃Pcには、必要に応じてその保護を目的に、カーボン、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンド微結晶、セラミックスの何れか又は混合物を被覆すると耐久性が向上する。
(図3の電子銃Pb、Pcの例)
(特に直の針状突起物の場合に適する)
アルミニウム展伸材A−1080材(0.1t)を1000×900に切断した2枚(金属素材1,1)を重ね合わせ、処理液が侵入しない様に四隅を封じて処理材に供した(図9参照)。そして、専用の冶具にラッキングした後、次の様な条件下で前処理を行った。
先ず、材料表面の油分、塵、その他の汚染物を取り除く目的で、金属アルミニウム表面を侵さない市販の脱脂液に浸漬し、メーカー推奨の最適条件下で処理をした。次いで10%硝酸浴に浸漬させ、中和を兼ねた処理を行い充分に水洗を施した。
次に、以下の条件下でアルマイト処理を行い、約3μm(アスペクト比300)のアルマイト皮膜(多孔性陽極酸化皮膜2)を生成させた。
・電解浴:15%硫酸浴
・浴負荷:0.5dm/L
・浴 温:18〜20℃
・電流密度:0.5A/dmの直流定電流電解。電圧は凡そ11V
・処理時間:20分
・バリアー層4の調整:アルマイト皮膜2の生成処理時間20分経過後、10V定電圧電解に切り替え、定常電流が流れるまで(約1分)電解した。
次に充分に水洗を行い、アルマイト皮膜微細孔3に次の条件下でNiを電析させた。
・電解浴:硫酸ニッケル・7水塩 25g/L
硫酸アンモニウム 15g/L
硼 酸 30g/L
・浴 温:25〜30℃
・PH :4.4〜4.6
・電解条件:交流電解とし、交流のピーク電圧を9.5〜9.9Vとした。
なじみ時間:3分
電解のスタート:ハードスタート
処理時間:4分
次に充分に水洗を行い、市販の低リンタイプの無電解Ni−Pめっき浴に浸漬させ、20μmの膜厚を狙って処理したところ、アルマイト皮膜表面も完全にNi−P皮膜で覆われ、配列基材11が針状突起物5と一体に形成された。
・浴 温:85〜90℃
・PH :4.5〜5.0
・処理時間:90分。浸漬して40〜50秒で皮膜は濃褐色を呈し、90秒でガス発生を確認した。その後90分処理を続けた。
・浴負荷:1dm/L
次に充分に水洗した後、処理材の四隅の封じた箇所を取り払った。一面はNi−P皮膜で覆われ、他の面は金属アルミニウムが剥き出しになった950×850の有効面積を有する2枚の材料を得た。
次にこの2枚の材料を、浴温が13〜15℃に維持される様にした5%塩酸溶液に浸漬させて金属アルミニウム素材1のみを溶解除去させた。バリアー層4が表面に顔を出した試料(電子銃Pb)を得た。
・浴組成:5%塩酸
・浴 温:13〜15℃
・処理時間:1.5〜2.0時間。
他の1枚は、20〜25℃に維持された1%苛性ソーダ浴中に攪拌しながら10〜20秒浸漬し、バリアー層4及びアルマイト皮膜2の一部を溶解させて電析させたNiの頭出しを行い、資料(電子銃Pc)を得た。
(図2の電子銃Paの類例)
(特にテーパー付き針状突起物の場合に適する)
実施例1と同一の材料を使用し、同一の前処理を行い、次の様な条件下で約0.5μm(アスペクト比50)のアルマイト皮膜2を生成させた。
・電解浴:15%硫酸浴
・浴負荷:0.5dm/L
・浴 温:27〜30℃
・電流密度:0.3A/dmの直流定電流電解。電圧は凡そ7.5V
・処理時間:6分
・バリアー層4の調整:アルマイト皮膜2の生成処理時間6分経過後、6.5V定電圧電解に切り替え、定常電流が流れるまで(約30秒)電解した。
充分に水洗した後、実施例1と同一浴でアルマイト皮膜微細孔3中にNiを電析させた。処理条件を以下に述べる。
・浴 温:25〜30℃
・PH :4.4〜4.6
・電解条件:交流電解とし、交流のピーク電圧を6.0〜6.4Vとした。
なじみ時間:1分
電解のスタート:ハードスタート
処理時間:1分
次に充分に水洗を行い、実施例1と同一浴の低リンタイプの無電解Ni−Pめっき浴に浸漬させ、20μmの膜厚を狙って処理したところ、アルマイト皮膜表面も完全にNi−P皮膜で覆われ、配列基材11が形成された。
・浴 温:85〜90℃
・PH :4.5〜5.0
・処理時間:90分。浸漬して20秒後にはガス発生を確認した。その後90分処理を続けた。
・浴負荷:1dm/L
次に充分に水洗した後、処理材の四隅を封じた箇所を取り払った。一面はNi−P皮膜で覆われ、他の面は金属アルミニウムが剥き出しになった950×850の有効面積を有する2枚の材料を得た。
次に2枚の材料の無電解Ni−P皮膜側に、0.5t金属アルミニウム板(950×850)に銅をコーティングした材料を補強材12aとして、導電性接着剤を介して夫々に張り合わせた(図2二点鎖線)。
次いで15〜20℃に維持された8%濃度苛性ソーダ浴に浸漬し、金属アルミニウム1及びアルマイト皮膜2の全てを溶解除去し、充分に水洗をして試料(電子銃Paの類例)を得た。2枚の内の他の一枚には、真空装置を用いてDLC膜をコーティングした。
(図7の電子銃Paの類例)
(特に段付き針状突起物の場合に適する)
実施例1と同一の材料を使用し、同一の前処理を行い、次の様な条件下で約0.3μm(アスペクト比30)の1次アルマイト皮膜を生成させた。
・電解浴:15%硫酸浴
・浴負荷:0.5dm/L
・浴 温:18〜20℃
・電流密度:0.3A/dmの直流定電流電解
・処理時間:3.5分
次に当該1次アルマイト皮膜微細孔4の孔径拡大処理を以下の条件下で浸漬して行い、凡そ20〜25nmの孔径を有するアルマイト皮膜2を得た。
・処理浴:20%硫酸浴
・浴負荷:0.5dm/L
・浴 温:30〜35℃
・処理時間:10分
充分に水洗後、再度前記15%硫酸浴で同一電流密度で凡そ2.5分電解し、0.2μm厚の2次アルマイト皮膜を生成させ、1次は孔径20〜25nm、2次は孔径10nmの段付き微細孔4を有するアルマイト皮膜1となった。
・バリアー層4の調整:2次アルマイト処理の最終電圧が10.5〜11Vであったことから、10Vの定電圧電解とし定常電流が流れるまで(30秒を要した)電解した。
次に、充分に水洗した後、次の条件化でアルマイト皮膜微細孔3中に鉄−ニッケル合金を電析させた。
・電解浴組成:硫酸第一鉄・7水塩 120g/L
硫酸マグネシウム・7水塩 80g/L
硼 酸 30g/L
硫酸ニッケル・7水塩 25g/L
クエン酸 10g/L
・ 浴 温:25〜30℃
・ PH :5.0〜5.5
・ 電解条件:交流電解とし、交流のピーク電圧を9.5〜9.9Vとした。
なじみ時間:1分
電解のスタート:ハードスタート
処理時間:1分
充分に水洗後、実施例1と同一浴、同一条件下でNi−P無電解めっきを行い、アルマイト皮膜2上に20μm厚の無電解めっき皮膜を配列機材11として得た。
充分に水洗後、実施例2と同様に無電解めっき皮膜(補強材12a)と、銅をコーティングしたアルミニウム板補強材12bとして、導電性接着剤を介して張り合わせた。引き続き実施例2と同様に金属アルミニウム1とアルマイト皮膜2を完全に除去して、1枚を試料(Pa類例の電子銃)とした。他の1枚はDLC膜をコーティングして試料とした。
(図5,図6の電子銃Pd、Peの例)
(ラッピング加工を用いる場合)
アルミニウム展伸材A−1080材(1.0t)を500×400に切断した2枚1,1を重ね合わせ、処理液が侵入しない様に四隅を封じて処理材に供し、専用の冶具にラッキングした後、実施例1と同じ条件下で前処理を行った。
充分に水洗後、次の条件下で10μm(アスペクト比1000)のアルマイト皮膜2を得た。
・電解浴:15%硫酸浴
・浴負荷:0.5dm/L
・浴 温:20〜23℃
・電流密度:1.0A/dmの直流定電流電解、電圧は凡そ13.5V
・処理時間:約33分
・バリアー層4の調整:アルマイト皮膜生成処理時間33分経過後、12.5V定電圧電解に切り替え、定常電流が流れるまで(約2分30秒)電解した。
次に充分に水洗を行い、その後アルマイト皮膜微細孔3に次の条件下でFeを電析させると、一部のアルマイト皮膜表面にFeが溢れ出た。
・電解浴組成:硫酸第一鉄・7水塩 120g/L
硫酸マグネシウム・7水塩 80g/L
硼 酸 30g/L
クエン酸 10g/L
・ 浴 温:25〜30℃
・ PH :5.3〜5.8
・ 電解条件:交流電解とし、交流のピーク電圧を12.0〜12.4Vとした。
なじみ時間:5分
電解のスタート:ハードスタート
処理時間:15分
次に充分に水洗した後、材料の四隅の封じた箇所を取り払い、一面はFeが溢れ出たアルマイト皮膜2と、他の面は金属アルミニウム1が剥き出しになった450×350の有効面積を有する2枚の材料を得た。
次に半導体ウエハーの研磨に使用されるラッピングマシーンを用い、半導体用アルミナ砥粒を使用して残りのアルマイト皮膜2が5μmに成るまで研磨し、2枚の内1枚を試料(電子銃Pd)とした。
他の1枚は、20〜25℃に維持された1%苛性ソーダ浴中に攪拌しながら10〜20秒浸漬し、バリアー層4及びアルマイト皮膜2の一部を溶解させて電析させたFe(針状突起物5)の頭出しを行い、試料(電子銃Pe)とした。
図2ないし図7は、それぞれ電子銃Pa,Pb、Pc、Pd、Pe、Pf、Pg、Phを順次模式的に示すものであるが、請求範囲との関係では、請求項1が電子銃Pa、請求項2が電子銃Pb、請求項3が電子銃Pcに、請求項が電子銃Pf(Pg:破線参照)に、請求項が電子銃Phにそれぞれ対応する。
なお、上記実施例におけるアルミニウム材料に就いては、主に板材について述べたが、本発明はこれに拘束される事は無い。例えばガラス、セラミックス、樹脂や、JIS A1000番台、5000番台のアルミニウム以外の金属等の表面にコーティングしたり、張り合わせたアルミニウムも同様に用いる事が出来る。特に、図5のPdタイプ、図6のPeタイプには好適に使用出来る。
この発明の各種形態の電子銃を製造する流れを工程別に示す説明図である。 この発明方法により製造される電子銃の一例を示す模式図である。 電子銃の他の例を示す模式図である。 電子銃の他の例を示す模式図である。 電子銃の他の例を示す模式図である。 電子銃の他の例を示す模式図である。 電子銃の他の例を示す模式図である。 電子銃の他の例を示す模式図である。 この発明方法を実施するために使用するアルミニウム金属素材を処理液に浸漬するために予め二枚合わせにする要領を示す斜視図である。
Pa,Pb、Pc、Pd、Pe、Pf、Pg、Ph 電子銃
1 アルミニウム金属素材
2 多孔性陽極酸化皮膜(アルマイト処理皮膜)
3 微細孔
4 バリア層
5 針状突起物
11 配列基材
13 補強材

Claims (5)

  1. 電子を発射する銃軸としての針状突起物が配列基材にほゞ等間隔に散在して配置されてなる電子銃の製造方法であって、薄板状のアルミニウム金属素材の一面に多孔性陽極酸化皮膜を形成することにより、その多孔性陽極酸化皮膜に有する底部がバリア層の無数の微細孔を針状突起物を成形する型として利用し、微細孔に針状突起物の素材を充填して該針状突起物を成形してから、引き続き針状突起物と同質素材により多孔性陽極酸化皮膜の表面に配列基材を針状突起物と一体に形成する表面処理を施し、次いで全ての多孔性陽極酸化皮膜とその下地としての全てのアルミニウム金属素材を溶解除去して前記配列基材を残すことを特徴とする電子銃の製造方法。
  2. 電子を発射する銃軸としての針状突起物が配列基材にほゞ等間隔に散在して配置されてなる電子銃の製造方法であって、薄板状のアルミニウム金属素材の一面に多孔性陽極酸化皮膜を形成することにより、その多孔性陽極酸化皮膜に有する底部がバリア層の無数の微細孔を針状突起物を成形する型として利用し、微細孔に針状突起物の素材を充填して該針状突起物を成形してから、引き続き針状突起物と同質素材により多孔性陽極酸化皮膜の表面に配列基材を針状突起物と一体に形成する表面処理を施し、次いで全てのアルミニウム金属素材を除去して前記配列基材ともに多孔性陽極酸化皮膜を残すことを特徴とする電子銃の製造方法。
  3. 電子を発射する銃軸としての針状突起物が配列基材にほゞ等間隔に散在して配置されてなる電子銃の製造方法であって、薄板状のアルミニウム金属素材の一面に多孔性陽極酸化皮膜を形成することにより、その多孔性陽極酸化皮膜に有する底部がバリア層の無数の微細孔を針状突起物を成形する型として利用し、微細孔に針状突起物の素材を充填して該針状突起物を成形してから、引き続き針状突起物と同質素材により多孔性陽極酸化皮膜の表面に配列基材を針状突起物と一体に形成する表面処理を施し、次いで全てのアルミニウム金属素材を除去するとともにそれと接合する多孔性陽極酸化皮膜の一部を溶解除去して前記配列基材とともに多孔性陽極酸化皮膜の一部を残してその上に針状突起物を頭出しすることを特徴とする電子銃の製造方法。
  4. 電子を発射する銃軸としての針状突起物が配列基材にほゞ等間隔に散在して配置されてなる電子銃の製造方法であって、薄板状のアルミニウム金属素材の一面に多孔性陽極酸化皮膜を形成することにより、その多孔性陽極酸化皮膜に有する底部がバリア層の無数の微細孔を針状突起物を成形する型として利用し、微細孔に針状突起物の素材を充填して該針状突起物を成形してから、多孔性陽極酸化皮膜にラッピング加工を施し、さらにその後多孔性陽極酸化皮膜を僅かに溶解除去した表面に導電性接着剤が塗布された補強材を配列基材として貼り付け、それから全てのアルミニウムの金属素材と全ての多孔性陽極酸化皮膜を溶解除去することを特徴とする電子銃の製造方法。
  5. 電子を発射する銃軸としての針状突起物が配列基材にほゞ等間隔に散在して配置されてなる電子銃の製造方法であって、薄板状のアルミニウム金属素材の一面に多孔性陽極酸化皮膜を形成することにより、その多孔性陽極酸化皮膜に有する底部がバリア層の無数の微細孔を針状突起物を成形する型として利用し、微細孔に針状突起物の素材を充填して該針状突起物を成形してから、多孔性陽極酸化皮膜にラッピング加工を施し、その後多孔性陽極酸化皮膜をわずかに溶解除去した表面に導電性接着剤が塗布された補強材を配列基材として貼り付け、その後全てのアルミニウム金属素材を除去し、多孔性陽極酸化皮膜を僅かに溶解除去することを特徴とする電子銃の製造方法。
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