JP2017218631A - 精密電鋳法のための気泡除去方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】
常温且つ静止状態の電解液で低い電流密度で行う電析プロセスにおいて、周期的減圧と電流制御によって確実に気泡を除去し、離型後の電析金属層の転写面の形状精度を飛躍的に高めることができるとともに、生産性を向上させることが可能な精密電鋳法のための気泡除去方法を提供する。
【解決手段】
常温且つ静止状態の金属イオンを含有する電解液内に、陰極となる母型と陽極を配し、これら陰極と陽極間に電圧を印加して所定の低電流密度の電析プロセス電流を流すことにより、陰極上で金属イオンが還元され金属単体として析出し、この電析金属層を母型から分離することで、母型の反転形状を得る精密電鋳法において、周期的減圧中に、前記電析プロセス電流とは逆極性で高電流密度の反転電流を短時間だけ印加して、水素気泡を電析金属層表面から除去する。
【選択図】 図4
常温且つ静止状態の電解液で低い電流密度で行う電析プロセスにおいて、周期的減圧と電流制御によって確実に気泡を除去し、離型後の電析金属層の転写面の形状精度を飛躍的に高めることができるとともに、生産性を向上させることが可能な精密電鋳法のための気泡除去方法を提供する。
【解決手段】
常温且つ静止状態の金属イオンを含有する電解液内に、陰極となる母型と陽極を配し、これら陰極と陽極間に電圧を印加して所定の低電流密度の電析プロセス電流を流すことにより、陰極上で金属イオンが還元され金属単体として析出し、この電析金属層を母型から分離することで、母型の反転形状を得る精密電鋳法において、周期的減圧中に、前記電析プロセス電流とは逆極性で高電流密度の反転電流を短時間だけ印加して、水素気泡を電析金属層表面から除去する。
【選択図】 図4
Description
本発明は、精密電鋳法のための気泡除去方法に係わり、更に詳しくは陰極面上から気泡を除去して高度に平滑な転写面を得ることが可能な精密電鋳法のための気泡除去方法に関するものである。
金属イオンを大量に含む電解液内で2つの電極間に十分な電圧を印加すると、陽極表面で酸化反応が、陰極表面で還元反応が生じる。高濃度の金属イオンを含有する電解液内では、適切な電圧を印加することで陰極上で金属イオンが還元され金属単体として析出する。電鋳法は、図1に示すように、母型1を陰極として用いて分厚く金属を析出させ、電析金属層2を母型から分離することで、母型の反転形状を得る転写技術である.母型がガラスや樹脂など絶縁体である場合、はじめに母型上に薄い電極層3を形成し、これを陰極とする。本発明者は、これまで石英ガラスの母型表面においてアークプラズマガンによりクロムをバインダー層として極微量蒸着し、その後、ニッケル電極(電極層3)を電子ビーム蒸着により形成する方法を提案している(特許文献1)。図1中において、符号4は電解槽、5は陽極、6は電源、7は電解液(めっき液)をそれぞれ示している。
電析プロセスにおいて、電析金属層内には内部応力が生じる。内部応力は離型後に解放されることで転写形状を変形させるため、内部応力は小さいことが好ましい。産業的には、内部応力が小さい電析層が得られるスルファミン酸ニッケルめっき液を用いたニッケル電鋳が盛んである。スルファミン酸ニッケル電鋳では、液組成・液温度・電流密度等の電析条件を調整することで、内部応力を引張応力から圧縮応力まで広範に変化させることが可能である。通常の電鋳には、弱酸性にpHが調整されたスルファミン酸ニッケル溶液をベースとして、陽極の溶解性向上を目的として塩化ニッケルが、水素気泡生成防止を目的としてほう酸が、陰極への水素気泡付着防止を目的としてピット防止剤が添加されている。そして、液温度はほう酸の溶解度を上げる目的もあり60℃程度、電流密度は数十〜数百mA/cm2が適用される。基本的な電析条件は1970年代より今に至るまで大きな変化はない。
しかし、従来の電鋳法では、(1)電析時の液温と製品使用時の温度差に起因する、離型後の熱変形が生じる点、(2)液の加熱・循環が必要となり液管理が手間である点、(3)液の流動による電析厚さムラが生じる点などの課題がある。精密電鋳法を確立するためには、常温条件下でのニッケル電析が必要であるが、産業的有用性が高いにも係わらず、常温電析プロセスに関する研究は少ない。
常温電析の困難さの要因として、陰極への水素気泡の付着の問題が挙げられる。スルファミン酸ニッケルめっき液中におけるニッケルイオンの還元反応Ni2++2e-→Niの平衡電位は、水素イオンの還元反応2H++2e-→H2の平衡電位とわずかな差しかない。そのため陰極上ではニッケルの析出とともに、副反応として水素気泡の生成を伴う。図2に示すように、水素気泡8が電析金属層2の表面に付着し、そのまま電析が進行した場合、電析金属層2にはピンホール(図2(a))・ピット(図2(b))・ボイド(図2(c))といった気泡痕が生じる。気泡痕は電鋳製品の外観を悪化させるのみならず、転写形状にマイクロメートルレベルの変形をもたらすため、転写精度の観点からも好ましくない。例えば、真円度約200nmの円錐台形状の母型から得られた、気泡痕を有する電鋳製品の転写面(ここでは円筒内面)転写面はいびつに変形しており、その真円度は1.67μmである。気泡痕は電析層内部構造を不均一にしている。このときわずかに存在する電析層内部応力により電析層に不均一な変形が生じていると考えられる。常温条件下では、ピット防止剤を添加した場合、気泡付着の問題はやや改善されるが、十分な効果は得られていない。
常温電析においても優れた気泡除去効果を発揮する手法として、周期的減圧脱気による気泡除去がある(非特許文献1)。電解槽内雰囲気を減圧して気泡を膨張させ、浮力による脱離を促すものであり、気泡が付着しやすい微細溝内の気泡除去で効果が確認されている(非特許文献2)。これは微細溝を有さない平滑面に付着する気泡の除去にも適用可能である。電析中は常に減圧しておく必要はなく、図1に示す電析プロセス((a)−(c))を常圧25分間、減圧(0.1気圧)5分間のサイクルで繰り返すことで、常温電析においても気泡痕のない電鋳製品の作製が可能である。図3に示すように、常圧で電析金属層2の表面に気泡8が発生し(図3(a))、減圧することにより気泡8が膨張・合体し(図3(b))、気泡8の浮力が大きくなって表面から脱離し(図3(c))、そして表面から気泡8が除去される(図3(d))。
一般的に電気めっき・電析プロセスでは、表面上における溶液攪拌の方法が重要であり、陰極の回転・気泡攪拌・超音波攪拌などが提案されているが、複雑な形状を均一に攪拌することは難しいためノウハウや多くの試行錯誤が必要となる。不均一な流れのもとでは、陰極全域にわたる電析環境の均一性は確保されない。空間的に不均一な電析環境は電析膜内応力分布を不均一にする。一方、減圧による効果は電析層全面に亘って作用するため、液の撹拌が不要となり、物理的に均一な電析環境を実現できる。またピット防止剤等の添加が不要であり、液管理が容易となる利点も有する。これにより、先述の円錐台形状を有する母型から気泡痕のない電鋳製品を作製し、母型と同程度の真円度を有する転写面を得た(非特許文献1)。
一方、特許文献2には、陰極における水素の発生を抑えるために、比較的低い0.5〜1A/dm2(5〜10mA/cm2)程度の電流密度でNi−Fe合金の電析を行うことが記載され、更に瞬間的に高電流密度(例えば5A/dm2(50mA/cm2))とすることにより、低い電流密度では析出しないマンガンを共析させて合金化する技術が記載されている。
久米健大、江川悟、三村秀和,「電鋳法によるナノ精度形状転写プロセスの開発−常温ニッケル電析条件の検討とマンドレルの高精度転写−」,精密工学会誌,Vol.80,No. 6,p582−586(2014).
Ming, Ping Mei, Y. J. Li, and W. J. Jiang. "Morphology and Microhardness of Nickel electroformed under vacuum-degassing conditions." Key Engineering Materials. Vol. 455. 2011.
しかしながら、周期的減圧による気泡除去効果は大きいものの、電析条件のパラメータを同一に設定した場合でもまれに気泡痕が生じる場合があり、産業的に利用するには徹底した付着気泡の除去を図り、生産性を向上させることが課題であった。
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、常温且つ静止状態の電解液で低い電流密度で行う電析プロセスにおいて、周期的減圧と電流制御によって確実に気泡を除去し、離型後の電析金属層の転写面の形状精度を飛躍的に高めることができるとともに、生産性を向上させることが可能な精密電鋳法のための気泡除去方法を提供する点にある。
本発明は、前述の課題解決のために、以下に構成する精密電鋳法のための気泡除去方法を提供する。
(1)
常温且つ静止状態の金属イオンを含有する電解液内に、陰極となる母型と陽極を配し、これら陰極と陽極間に電圧を印加して所定の低電流密度の電析プロセス電流を流すことにより、陰極上で金属イオンが還元され金属単体として析出し、この電析金属層を母型から分離することで、母型の反転形状を得る精密電鋳法において、周期的減圧中に、前記電析プロセス電流とは逆極性で高電流密度の反転電流を短時間だけ印加して、水素気泡を電析金属層表面から除去することを特徴とする精密電鋳法のための気泡除去方法。
常温且つ静止状態の金属イオンを含有する電解液内に、陰極となる母型と陽極を配し、これら陰極と陽極間に電圧を印加して所定の低電流密度の電析プロセス電流を流すことにより、陰極上で金属イオンが還元され金属単体として析出し、この電析金属層を母型から分離することで、母型の反転形状を得る精密電鋳法において、周期的減圧中に、前記電析プロセス電流とは逆極性で高電流密度の反転電流を短時間だけ印加して、水素気泡を電析金属層表面から除去することを特徴とする精密電鋳法のための気泡除去方法。
(2)
前記反転電流が、1パルス電流である(1)記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
前記反転電流が、1パルス電流である(1)記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
(3)
常圧状態から減圧状態に変化した直後に前記反転電流を印加する(1)又は(2)記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
常圧状態から減圧状態に変化した直後に前記反転電流を印加する(1)又は(2)記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
(4)
前記反転電流の印加時間は、0.5〜5秒間である(1)〜(3)何れか1に記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
前記反転電流の印加時間は、0.5〜5秒間である(1)〜(3)何れか1に記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
(5)
前記反転電流の絶対値は、前記電析プロセス電流の絶対値の2倍以上である(1)〜(4)何れか1に記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
前記反転電流の絶対値は、前記電析プロセス電流の絶対値の2倍以上である(1)〜(4)何れか1に記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
以上にしてなる本発明の精密電鋳法のための気泡除去方法は、常温且つ静止状態の金属イオンを含有する電解液内に、陰極となる母型と陽極を配し、これら陰極と陽極間に電圧を印加して所定の低電流密度の電析プロセス電流を流すことにより、陰極上で金属イオンが還元され金属単体として析出し、この電析金属層を母型から分離することで、母型の反転形状を得る精密電鋳法において、周期的減圧中に、前記電析プロセス電流とは逆極性で高電流密度の反転電流を短時間だけ印加して、水素気泡を電析金属層表面から除去するので、減圧による気泡膨張時に、減圧のタイミングに合わせて周期的に電流波形を変化させて逆極性の反転電流を印加するだけで,一時的に急激な気泡の成長を促すことにより、確実に気泡を除去することができ、また常温且つ静止状態の電解液を用いて、通常は低電流密度の電析プロセス電流によって電析するので、緻密で母型の形状再現性が高く、高度な平滑性を備えた転写面を有する電析金属層を得ることができる。また、ピット防止剤等の添加が不要であるので、有機物等が不純物として残らない。
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1は一般的な電鋳プロセスを簡略化して示し、図中符号1は母型(陰極)、2は電析金属層、3は電極層、4は電解槽、5は陽極、6は電源、7は電解液(めっき液)をそれぞれ示している。
一般的な電鋳プロセスは、図1に示すように、常温且つ静止状態の金属イオンを含有する電解液4内に、陰極となる母型1と陽極5を配し、これら陰極1と陽極5間に電源6から電圧を印加して、所定の低電流密度の電析プロセス電流を流すことにより、陰極上で金属イオンが還元され金属単体として析出し(図1(b))、この電析金属層2を母型1から分離することで、母型1の反転形状を得るのである(図1(c))。ここで、前記母型1がガラスや樹脂など絶縁体である場合、はじめに母型1上に薄い電極層3を形成し、これを陰極とする(図1(a))。
本実施形態において使用する電解液(めっき液)は、スルファミン酸ニッケル2.8mol/L、pH5、23℃である。電析プロセス電流は3.9mA/cm2、反転電流は−10mA/cm2で2秒である。図4に圧力と電流制御のタイミングチャートを示す。本実施形態の精密電鋳法は、30分間を1サイクルとし、25分間常圧(1気圧)で電析プロセス電流によって電析を行い、5分間減圧(0.1気圧)すると同時に、常圧状態から減圧状態に変化した直後に、2秒間だけ反転電流を流して気泡を除去する。前記反転電流は、1パルス電流であり、そのパルス幅(印加時間)は0.5〜5秒間で効果が期待できる。また、前記反転電流の絶対値は、少なくとも前記電析プロセス電流の絶対値の2倍以上であることが好ましい。
本発明では、減圧のタイミングに合わせて周期的に電流波形を変化させることで、一時的に急激な気泡の成長を促し気泡除去を促進させるのである。具体的には、減圧中にごく短時間(例えば2秒間)、逆向きに高電流を流す。すると電析金属上で水の電気分解により酸素分子が生成され(2H2O→4H++4e-+O2)、一時的に金属表面のごく近傍でのみpHが急激に低下する。その後、通常の向きに電流を流す。すると電析金属層近傍に過剰に水素イオンが存在することで、一時的に水素気泡の生成・成長が促進されると考えられる。これが減圧中に生じることで気泡除去効果の向上が期待できる。
本発明は、周期的減圧脱気手法に電流波形の制御を加えるだけなので、減圧脱気による利点(常温電析への適用可、撹拌不要、添加物不要)を残したまま、気泡除去効果のみ向上させることが可能であると考えられる。
次に、反転電流の適用のみの気泡除去効果を確認するため実証実験を実施した。実験条件と結果を図5に示す。ここでは、減圧法は適用していない。条件1では直流定電流を印加し、条件2,3では周期的に直流定電流に反転電流を加えている。Ni電析時の電流密度は全て同じである。条件1により得られた電析層表面には多数の気泡痕生成が確認されたが、2,3では気泡痕数が少ない。特に条件2で得られた電析層表面には電流が集中しやすい端部を除いて気泡痕が生じていないことがわかる。反転電流により気泡痕生成が抑制されたと言える。尚、反転電流の電流密度が小さい場合、例えば0.1mA/cm2や1mA/cm2の場合には、気泡は効果的に除去されないことが確認されている。
次に、電析金属層の電気化学電位を測定することで、電流反転時にどのような反応が生じているかがわかる。これと気泡痕の生成の有無を比較することで、どの反応が気泡除去に寄与するのか調べた。反転電流の電流密度i2を0、−0.1、−1.0、−10mA/cm2と変化させた場合の陰極電位の測定結果を図6に示す。
Ni電析時に陰極電位はNi2+/Niの酸化還元反応の平衡電位(−0.24V vs. SHE)よりも低電位側にあるが、極性反転時には電極電位は上昇し、電位に応じて以下の反応、Ni→Ni2++2e-やNi+H2O→NiO+2H++2e-(NiO+2H+→Ni2++H2O)が生じ、ニッケルイオンや酸に可溶な酸化ニッケル(II)が形成される。さらに電位が上昇すると、3Ni+4H2O→Ni3O4+8H++8e-や2Ni+3H2O→Ni2O3+6H++6e-等の反応により、その他のニッケル酸化物が生成されるが、これらはNi表面から直ちに除去はされないため、電極は不働態となる。より高電位になると以下の反応H2O→O2+4H++4e-により酸素が生成される。
図6の結果は以下の通りである。
i2 =0mA/cm2の場合:反転時の電位はNi析出反応の平衡電位近傍まで低下し、Niの析出レートは限りなくゼロに近づく。
i2=−0.1mA/cm2の場合:Ni析出反応の平衡電位以上であるが、不働態形成反応の平衡電位未満である。このときNiは酸化・溶出している。
i2=−1.0mA/cm2の場合:不働態形成反応の平衡電位以上である。電位が緩やかな上昇傾向を示していることから、表面が不働態酸化被膜に覆われつつあることがわかる。
i2 =−10mA/cm2の場合:電位は不働態形成の平衡電位より高く、直ちに上昇して水の分解による酸素生成反応の平衡電位以上に達している。
不働態酸化皮膜の形成と酸素生成の場合のみ、水素イオンの生成すなわちpHの低下をもたらす。i2=−10mA/cm2の場合にのみ、気泡痕生成が抑制されていることから、電流反転時に十分なpH低下をもたらすような反応が生じる場合に、気泡痕生成抑制効果があるといえる。
i2 =0mA/cm2の場合:反転時の電位はNi析出反応の平衡電位近傍まで低下し、Niの析出レートは限りなくゼロに近づく。
i2=−0.1mA/cm2の場合:Ni析出反応の平衡電位以上であるが、不働態形成反応の平衡電位未満である。このときNiは酸化・溶出している。
i2=−1.0mA/cm2の場合:不働態形成反応の平衡電位以上である。電位が緩やかな上昇傾向を示していることから、表面が不働態酸化被膜に覆われつつあることがわかる。
i2 =−10mA/cm2の場合:電位は不働態形成の平衡電位より高く、直ちに上昇して水の分解による酸素生成反応の平衡電位以上に達している。
不働態酸化皮膜の形成と酸素生成の場合のみ、水素イオンの生成すなわちpHの低下をもたらす。i2=−10mA/cm2の場合にのみ、気泡痕生成が抑制されていることから、電流反転時に十分なpH低下をもたらすような反応が生じる場合に、気泡痕生成抑制効果があるといえる。
次に、Ni蒸着を施した平面ガラス基板上に、周期的に電流の正負を反転させながらNiを電析させ、反転前後の陰極表面の様子をデジタルカメラで観察した。濃緑色で暗いめっき液内の電極表面を観察するため、電析金属層は透明な電解槽壁面に正対した状態で壁面に近接させている。電析条件は、スルファミン酸ニッケル2.8mol/L、pH5、23℃、電析プロセス電流の電流密度i1は3.0mA/cm2、反転電流の電流密度i2は−10mA/cm2(30分のうち2秒反転)である。ここでは、周期的減圧は施していない。
図7に極性反転前後の表面の観察結果を示す。図7(a)は、極性反転直前の状態を示し、極性反転直後から反転状態終了直後までの間、電極表面の気泡の挙動に変化はないが、反転状態が終了から数秒後(図7(b))、気泡の成長が促進されていることがわかる。特に電流が集中する下端から小さな泡が多く生成し、これらが液面に向かって上昇する際に表面に既に付着していた気泡と合体し、付着気泡が除去されている。極性反転から30秒経過後(図7(c))には、気泡が沢山発生し、約3分経過後(図7(d))には、気泡は大きくなるが数が少なくなることがわかる。この気泡成長が促進されている状態は数分間にわたり確認された。本結果からも、反転電流による気泡除去効果は、反転終了後の一時的な気泡成長に起因するものだと言える。
それから、1次元の拡散方程式を数値的に解き、電流反転時の電極表面近傍のpH変化を計算した。解析条件として、初期pHは4.95とした。H+の拡散係数は一般に10-8m2/sオーダーとされており、ここでは10-8m2/sを拡散係数として採用した。図8は、電極表面からの各距離におけるpHの時間変化の計算結果を示している。電極反応に影響を与えるのは、電極表面近傍の反応種の濃度である。電流反転から2秒経過後、電極表面から10μmの距離の場所でpHは1.8まで低下している。極性反転によるpH変化は顕著であり、本結果は図7の気泡成長の原因をよく説明している。
反転電流の適用は、気泡痕生成を抑制するのみならず、電析金属の表面形態にも影響する。例えば、電析条件は、スルファミン酸ニッケル2.8mol/L、pH5、23℃、電析プロセス電流の電流密度i1は3.6mA/cm2、極性反転ありの場合、反転電流の電流密度i2は−10mA/cm2(30分のうち2秒反転)の条件下で得られた電析金属表面は、通常の直流定電流を適用した場合には無光沢面であるのに対し、反転電流を適用した場合にはやや光沢のある面となっていた。両者の表面をSEMで観察した結果を図9に示す。図9(a)は通常の定電流を適用した場合、図9(b)は周期的に電流の極性を反転させた場合に対応する。両者には共通して、電析面に亀裂が見られる。これは電析金属層に引張応力が生じていることを意味する。しかし、図9(a)では亀裂は小さく、1辺数μm程度の結晶から構成されるのに対し、図9(b)では亀裂が大きく、1辺10μm程度の結晶から構成される点で異なる。図9(b)では結晶が大きく、表面がより大きな面から構成されるため、図9(a)よりも光沢があったといえる。
図10は、両者の表面を共焦点顕微鏡で観察した結果を示す。図10(a)は通常の定電流を適用した場合、図10(b)は周期的に電流の極性を反転させた場合に対応する。SEM観察の結果と同様、電析金属面は両者とも十数μm径の塊から成るが、図10(a)では高さが5〜8μmであり、図10(b)では高さが5μm程度であった。このように、反転電流の適用は、電析金属層の表面改質の効果もある。
形状転写精度の観点から、電流の反転が内部応力に及ぼす影響を知る必要がある。前記図9及び図10で観察したサンプルでは亀裂の程度や結晶の大きさが異なっており、電流の反転の有無は内部応力に違いを与えると考えられる。通常の定電流で電析を行った場合と、周期的に電流の極性を反転させた場合とで電析時の内部応力の挙動を比較した結果を図11に示す。電流密度i1を3.6mA/cm2とし、後者では反転時の電流密度i2を−10mA/cm2とした。極性反転は30分間のうち2秒間とした。厚さ15μmに達した時点で両者には10MPa程度差応力に差があり、周期的に電流の極性を反転させた場合の方が大きな引張応力を示している。これは後者の条件で得られた電析金属層表面の亀裂の原因をよく説明できる。スルファミン酸ニッケル電鋳では電流密度を低く設定することで、引張応力を低減させることが可能である。反転電流を適用する場合、電流密度を低く設定することで、引張応力増加の影響を相殺することが望ましい。
最後に、本発明に係る周期的な極性反転による気泡除去手法と周期的減圧による気泡除去手法の併用により、円錐台形状の母型を用いて形状転写実験を行った。電析条件は図4で説明したものと同じである。電流密度3.6mA/cm2で電析する際、30分間のうち2秒間のみ電流の正負を逆転させる、というサイクルを繰り返す。電流の反転は減圧時に生じるようにする。図12に得られたサンプル外観を示す。先端部を除き、気泡痕が生じていないことが確認できる。図13のグラフはサンプル内面(転写面)と、母型の対応箇所の真円度測定結果の比較である。差分のrmsは88nmであり、減圧法と同様、優れた形状転写性能が確認された。
本発明を適用して作製した電析金属層の形状転写面は、母型の形状精度に匹敵する形状精度を有し、放射光施設等で発生させた軟X線の反射面として使用でき、回転体反射面を備えた大開口の軟X線集光ミラーを提供できる。
1 母型
2 電析金属層
3 電極層
4 電解液
5 陽極
6 電源
8 気泡
i1 電析プロセス電流の電流密度
i2 反転電流の電流密度
2 電析金属層
3 電極層
4 電解液
5 陽極
6 電源
8 気泡
i1 電析プロセス電流の電流密度
i2 反転電流の電流密度
Claims (5)
- 常温且つ静止状態の金属イオンを含有する電解液内に、陰極となる母型と陽極を配し、これら陰極と陽極間に電圧を印加して所定の低電流密度の電析プロセス電流を流すことにより、陰極上で金属イオンが還元され金属単体として析出し、この電析金属層を母型から分離することで、母型の反転形状を得る精密電鋳法において、周期的減圧中に、前記電析プロセス電流とは逆極性で高電流密度の反転電流を短時間だけ印加して、水素気泡を電析金属層表面から除去することを特徴とする精密電鋳法のための気泡除去方法。
- 前記反転電流が、1パルス電流である請求項1記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
- 常圧状態から減圧状態に変化した直後に前記反転電流を印加する請求項1又は2記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
- 前記反転電流の印加時間は、0.5〜5秒間である請求項1〜3何れか1項に記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
- 前記反転電流の絶対値は、前記電析プロセス電流の絶対値の2倍以上である請求項1〜4何れか1項に記載の精密電鋳法のための気泡除去方法。
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JP2016113951A Pending JP2017218631A (ja) | 2016-06-07 | 2016-06-07 | 精密電鋳法のための気泡除去方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2017218631A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN109722682A (zh) * | 2019-01-29 | 2019-05-07 | 南京航空航天大学 | 负压下高速冲液精密电铸装置及方法 |
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2016
- 2016-06-07 JP JP2016113951A patent/JP2017218631A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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CN109722682A (zh) * | 2019-01-29 | 2019-05-07 | 南京航空航天大学 | 负压下高速冲液精密电铸装置及方法 |
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