JP5097604B2 - 木材の成形方法 - Google Patents

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本発明は、木材を圧縮することによって所定の3次元形状に成形する木材の成形方法に関する。
近年、自然素材である木材が注目されている。木材はさまざまな木目を有するため、原木から形取る箇所に応じて個体差が生じ、その個体差が製品ごとの個性となる。また、長期の使用によって生じる傷や色合いの変化自体も、独特の風合いとなって使用者に親しみを生じさせることがある。これらの理由により、合成樹脂や軽金属を用いた製品にはない、個性的で味わい深い製品を生み出すことのできる素材として木材が注目されており、その成形技術も飛躍的に進歩しつつある。
従来、かかる木材の成形技術として、吸水軟化した1枚の木材を圧縮し、その木材を圧縮方向と略平行にスライスして板状の一次固定品を得た後、この一次固定品を加熱吸水させながら所定の3次元形状に成形する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、軟化処理した状態で圧縮した1枚の木材を仮固定し、この木材を型に入れて回復させることによって型成形する技術も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
特許第3078452号公報 特開平11−77619号公報
しかしながら、上記従来技術では、圧縮成形後の木材の表面に微小な亀裂が生じることがあった。このような亀裂の中には、適切な補修を行えば強度的にも美観的にも問題が生じるおそれのないレベルの亀裂があるにもかかわらず、現状では亀裂が入った木材を全て破棄しているため、成形品の歩留まりを向上させる上での障害となっていた。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、成形品の歩留まりを向上させることができる木材の成形方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る木材の成形方法は、原木から形取った木材に大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で圧縮力を加えることによって前記木材を変形させる圧縮工程と、前記圧縮工程で圧縮力が加えられた前記木材を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥させられた前記木材の表面に生じている亀裂に接着剤を注入する接着剤注入工程と、前記接着剤注入工程で接着剤が注入された前記木材を大気中で一対の整形用金型によって挟持することによって所定の形状に整形する整形工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明に係る木材の成形方法は、上記発明において、前記接着剤は、澱粉系または蛋白系の天然接着剤であることを特徴とする。
また、本発明に係る木材の成形方法は、上記発明において、澱粉系の天然接着剤であることを特徴とする。
また、本発明に係る木材の成形方法は、上記発明において、前記整形工程は、前記一対の整形用金型の金型温度を上昇させることによって前記木材を加熱することを特徴とする。
本発明に係る木材の成形方法によれば、成形対象の木材を圧縮して乾燥させた後、その木材の表面に生じている亀裂に接着剤を注入し、接着剤を注入した木材を一対の整形用金型によって挟持して整形するため、微小な亀裂や木目から木材が剥離することによって生じた亀裂などの場合には亀裂が修復され、強度的にも美観的にも問題のない品質の成形品を得ることができる。したがって、成形品の歩留まりを向上させることができる。
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態(以後、「実施の形態」と称する)を説明する。なお、以下の説明で参照する図面は模式的なものであって、同じ物体を異なる図面で示す場合には、寸法や縮尺等が異なる場合もある。
図1は、本発明の一実施の形態に係る木材の成形方法の処理の概要を示すフローチャートである。木材を成形する際には、まず所定の形状をなす木材を原木から形取る(ステップS1)。図2は、この形取工程の概要を模式的に示す図である。形取工程では、無圧縮状態にある無垢材などの原木1から、略皿状をなす木材2を切削等によって形取る。原木1は、ヒノキ、ヒバ、桐、杉、松、桜、欅、黒檀、紫檀、竹、チーク、マホガニー、ローズウッドなどの中から最適な素材を選択すればよい。
木材2は、略長方形の表面を有する平板状の主板部2aと、主板部2aの表面で対向する二つの長辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2bと、主板部2aの表面で対向する二つの短辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2cと、を備える。木材2は、後述する圧縮工程によって減少する分の容積を予め加えた容積を有する。なお、図2では、木材2の木目Gが木材2の繊維方向と略平行な柾目材である場合を示しているが、これは一例に過ぎない。すなわち、このステップS1で形取る木材は、板目材や木口材などでもよい。
続いて、ステップS1で形取った木材2を大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で所定時間放置し、水分を過剰に吸収させることによって軟化させる(ステップS2)。ここでいう高温高圧とは、温度が100〜230℃程度であり、圧力が0.1〜3.0MPa(メガパスカル)程度の状態を指す。このような水蒸気雰囲気は、例えば圧力容器を用いることによって実現することができる。圧力容器を用いる場合には、その圧力容器の中に木材2を放置することによって軟化させる。なお、上述した水蒸気雰囲気中で木材2を放置して軟化させる代わりに、木材の表面に水分を供給した後、マイクロウェーブの如き高周波の電磁波によって木材2を加熱して軟化させてもよいし、木材2を煮沸することによって軟化させてもよい。
この後、ステップS2で軟化させた木材を圧縮する(ステップS3)。このステップS3では、ステップS2と同じ水蒸気雰囲気中で一対の金型によって木材2に圧縮力を加えることにより、木材2を所定の3次元形状に変形させる。圧力容器の中で木材2を軟化させた場合には、引き続きその圧力容器の中で木材2を圧縮すればよい。
図3は、ステップS3の圧縮工程の概要を示すとともに、圧縮工程で使用する一対の金型の要部の構成を示す図である。図4は、図3のA−A線断面図である。図3および図4に示すように、木材2は、一対の金型11、12によって挟持され、所定の圧縮力が加えられる。
圧縮工程の際に木材2の上方から圧縮力を加える金型11は、木材2の突出している側の表面に当接する凹部111を備えたキャビティ金型である。木材2の主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって金型11と対向する側の表面の曲率半径をROとし、この表面に当接する凹部111の表面の曲率半径をRAとすると、二つの曲率半径RO,RAは、RO>RAという関係を満たす。
これに対して、圧縮工程の際に木材2の下方から圧縮力を加える金型12は、木材2の窪んでいる側の表面に当接する凸部121を備えたコア金型である。木材2の主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって金型12と対向する側の表面の曲率半径をRIとし、この表面に当接する凸部121の表面の曲率半径をRBとすると、二つの曲率半径RI,RBは、RI>RBという関係を満たす。
金型11、12は、木材2を挟持した後、型締め用の治具によって型締めされる。図5は、型締めされた金型11、12が木材2に圧縮力を加えている状態を示す図であり、木材2の変形がほぼ完了した状態を示す図である。図5に示すように、木材2は、金型11、12から圧縮力を受けることによって金型11と金型12との隙間に相当する3次元形状に変形する。ステップS3では、図5に示す状態で木材2に所定時間(1〜数十分、より好ましくは5〜10分程度)圧縮力を加え続ける。
ステップS3が終了した後、金型11、12を型締めした状態を保持したまま、上述した水蒸気よりさらに高温の水蒸気を金型11、12の周囲に加えることにより、木材2の形状を固定化する(ステップS4)。この固定化処理を圧力容器中で行う場合には、圧縮工程における水蒸気よりもさらに高温の水蒸気を圧力容器へ吹き込めばよい。
続いて、金型11、12および木材2を大気中へ開放し、木材2を乾燥させる(ステップS5)。この際には、金型11、12の型締め状態を解除し、金型11または12を木材2から離間することによって木材2の乾燥を促進させるようにしてもよい。乾燥終了後の木材2の肉厚は、圧縮前の木材2の肉厚の30〜50%程度であれば好ましい。これは、木材2の圧縮率が0.50〜0.70程度であることに相当する。以後、ステップS5の乾燥工程まで終了した木材2を「木材3」と称する。
図6は、木材3の構成を示す斜視図である。同図に示す木材3は、木材2の主板部2aおよび側板部2b、2cにそれぞれ対応する主板部3aおよび側板部3b、3cを備える。木材3には、側板部3bの湾曲部分に長手方向に沿って亀裂C1が生じている。また、木材3には、側板部3cの湾曲部分の木目Gと木質部分の一部との間に亀裂C2が生じている。このように、圧縮して乾燥させた後の木材3に亀裂が生じている場合(ステップS6,Yes)、その亀裂に接着剤glを注入する(ステップS7)。図7は、ステップS7の接着剤注入工程の概要を示す図である。図7において、接着剤glはスポイト61を用いて亀裂C1、C2へ注入される。
ステップS7で使用する接着剤glは澱粉系または蛋白系の天然接着剤であれば好ましく、澱粉系の天然接着剤であればより好ましい。ここで、澱粉系の天然接着剤とは、例えば続飯(そくい)、正麩(しょうふ)などの植物由来の接着剤をいう。また、蛋白系の天然接着剤とは、膠(にかわ)やカゼインなどの動物性蛋白質または大豆蛋白などの植物性蛋白質を主成分とする接着剤をいう。また、亀裂は微小な幅しか有していない場合が多いので、そのような場合にも対応できるように、接着剤glとして天然接着剤を水で希釈したものを適用することが望ましい。これにより、図7に示す亀裂C1、C2のように微小な亀裂であっても、毛細管現象によってその亀裂内部に接着剤glを充填させることができる。
圧縮して乾燥させた後の木材3に亀裂が生じていない場合(ステップS6,No)には、接着剤glを注入することなく、後述するステップS8に進む。
この後、大気中で木材3に熱を加えつつ木材3の形状を整形する(ステップS8)。図8は、ステップS8の加熱整形工程の概要を模式的に示す図である。本実施の形態では、一対の整形用金型である金型21、22によって木材2を挟持することにより、木材3の加熱整形を行う。
図8で木材3の上方に位置する金型21は、木材3の突出している側の表面に当接する凹部211を備える。一方、図8で木材3の下方に位置する金型22は、木材3の窪んでいる側の表面に当接する凸部221を備える。金型21、22の内部には、熱を発生するヒータ31、32がそれぞれ取り付けられている。ヒータ31、32は、温度制御機能を有する制御装置33に接続されており、制御装置33の制御のもとで発熱し、金型21、22にそれぞれ熱を加える。
制御装置33は、木材3を挟持している時の金型21、22の温度が略一定(例えば180〜200℃程度の高温)となるようにヒータ31、32をそれぞれ制御する。ヒータ31、32によってそれぞれ加熱された金型21、22が木材3の表面に当接すると、木材3の内部にある樹液の一部が木材3の表面に染み出してきてその表面に深い色合いとつやが生じる。
ところで、金型21、22は、木材3を挟持した状態で木材3に対して若干の圧縮力を加えるが、この圧縮力の大きさは、木材3の形状をほとんど変えずに表面の硬度を上げることができる程度の値であることが望ましい。これは、ステップS8の加熱整形工程を木材3が軟化していない状態で大気中で行うため、木材3を大きく変形させることができないからである。
ステップS8において木材3を金型21、22によって挟持する時間や金型21、22の金型温度は、木材3が有する特性や、加工後の木材3に付与すべき性質等に応じて定めればよい。なお、ここでいう「木材3が有する特性」には、木材3の種類、産地、生育環境、生育状態などが含まれる。また、「木材3に付与すべき性質」には、加工後の木材表面の色、つや、および加工後の木材の強度などが含まれる。
図9は、ステップS8の加熱整形工程を経た後の木材3の構成を示す図である。木材3に生じていた亀裂C1、C2は、加熱整形工程の際に若干の圧縮力を受けることにより、接着剤glを介して貼り合わされる。この結果、図9においては、亀裂C1が線状の筋となる一方、亀裂C2は消滅している。このようにして木材3が修復されることにより、亀裂部分の強度的な問題は解消される。また、亀裂C1の痕跡である線状の筋は、細かい木目Gとほとんど区別がつかないため、美観的に問題となることはない。
以上説明したステップS8の後、木材3の最終形状への仕上げを行う(ステップS9)。具体的には、木材3を切削するなどして、木材3の端面を揃えたり木材3に所定の孔や切り欠きなどを形成したりする。
図10は、以上説明した木材の成形方法によって成形した木材の一例である電子機器用外装体の構成を示す図である。同図に示す電子機器用外装体100は、二つのカバー部材4、5が組み合わさって成る。カバー部材4、5は仕上げ工程が終了した木材3を用いてそれぞれ形成され、全体として一つの筐体をなしている。
電子機器用外装体100は、図11に示すようにデジタルカメラ101を外装する。デジタルカメラ101の前面側(被写体と対向する側)を外装するカバー部材4は、木材2の主板部2a、および側板部2b、2cにそれぞれ対応する主板部4a、および側板部4b、4cを備える。主板部4aは、デジタルカメラ101の撮像部102を表出する円筒形状の開口部41と、デジタルカメラ101のフラッシュ103を表出する直方体形状の開口部42とを有する。側板部4bは、半円筒形状の切り欠き43を有する。
デジタルカメラ101の背面側(撮影者と対向する側)を外装するカバー部材5は、木材2の主板部2a、および側板部2b、2cにそれぞれ対応する主板部5a、および側板部5b、5cを備える。主板部5aは、液晶、プラズマまたは有機EL等を用いて実現されるデジタルカメラ101の表示部を表出する直方体形状の開口部51を有する。側板部5bは、半円筒形状の切り欠き52を有する。この切り欠き52は、カバー部材4の切り欠き43と組み合わさってデジタルカメラ101のシャッターボタン104を表出する開口部451をなす。
カバー部材4,5の肉厚は互いに等しく、1.6〜2.0mm程度であれば好ましい。
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、成形対象の木材を圧縮して乾燥させた後、その木材の表面に生じている亀裂に接着剤を注入し、接着剤を注入した木材を一対の整形用金型によって挟持して整形するため、微小な亀裂や木目から木材が剥離することによって生じた亀裂などの場合には亀裂が修復され、強度的にも美観的にも問題のない品質の成形品を得ることができる。したがって、成形品の歩留まりを向上させることができる。
また、本実施の形態によれば、接着剤として植物由来の澱粉系の天然接着剤を適用するため、接着剤を木材と同化させやすい。さらに、成形品を分別することなく廃棄しても環境汚染の問題がなく、かつ焼却によっても有害なガスが発生しないため、環境にやさしい成形品を提供することができる。
また、本実施の形態によれば、整形を行う際に木材を一対の整形用金型によって加熱するため、接着剤に含まれる水分が蒸発し、接着力を向上させることができる。
ここまで、本発明を実施するための最良の形態を詳述してきたが、本発明は上述した一実施の形態によって限定されるべきものではない。例えば、本発明に係る木材の成形方法は、デジタルカメラ以外の電子機器用外装体、食器や各種筐体、建材などを製造する場合にも適用可能である。
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
本発明の一実施の形態に係る木材の成形方法の概要を示すフローチャートである。 本発明の一実施の形態に係る木材の成形方法の形取工程の概要を示す図である。 本発明の一実施の形態に係る木材の成形方法の圧縮工程の概要を示す図である。 図3のA−A線断面図である。 本発明の一実施の形態に係る木材の成形方法の圧縮工程において木材の変形がほぼ完了した状態を示す断面図である。 本発明の一実施の形態に係る木材の成形方法の乾燥工程まで終了した木材の構成を示す図である。 本発明の一実施の形態に係る木材の成形方法の接着剤注入工程の概要を示す図である。 本発明の一実施の形態に係る木材の成形方法の加熱整形工程の概要を示す図である。 本発明の一実施の形態に係る木材の成形方法の加熱整形工程まで終了した木材の構成を示す図である。 本発明の一実施の形態に係る木材の成形方法によって形成された電子機器用外装体の構成を示す図である。 図10の電子機器用外装体が外装するデジタルカメラの構成を示す斜視図である。
符号の説明
1 原木
2、3 木材
2a、3a、4a、5a 主板部
2b、2c、3b、3c、4b、4c、5b、5c 側板部
4、5 カバー部材
11、12、21、22 金型
31、32 ヒータ
33 制御装置
41、42、51、451 開口部
43、52 切り欠き
61 スポイト
100 電子機器用外装体
101 デジタルカメラ
102 撮像部
103 フラッシュ
104 シャッターボタン
111、211 凹部
121、221 凸部
C1、C2 亀裂
G 木目
gl 接着剤

Claims (4)

  1. 原木から形取った木材に大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で圧縮力を加えることによって前記木材を変形させる圧縮工程と、
    前記圧縮工程で圧縮力が加えられた前記木材の形状を保持したまま前記圧縮工程よりも高温下で前記木材の形状を固定化する固定化工程と、
    前記固定化工程で形状が固定化された前記木材を乾燥させる乾燥工程と、
    前記乾燥工程で乾燥させられた前記木材の表面に生じている亀裂に接着剤を注入する接着剤注入工程と、
    前記接着剤注入工程で接着剤が注入された前記木材を大気中で一対の整形用金型によって挟持することによって所定の形状に整形する整形工程と、
    を有することを特徴とする木材の成形方法。
  2. 前記接着剤は、澱粉系または蛋白系の天然接着剤であることを特徴とする請求項1記載の木材の成形方法。
  3. 前記接着剤は、澱粉系の天然接着剤であることを特徴とする請求項2記載の木材の成形方法。
  4. 前記整形工程は、
    前記一対の整形用金型の金型温度を上昇させることによって前記木材を加熱することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の木材の成形方法。
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