JP5097015B2 - 塗装板 - Google Patents

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Description

本発明は、インクジェット塗装により所望の模様が施された塗装板に関するものである。
従来、図1に示されるような、インクジェット塗装による所望の模様が形成された塗装板(例えば、特許文献1参照。)は、例えば次のようにして作製されている。
まずセメント板等の基板1の表面にアクリル系塗料等が塗布されることで受理層2を形成される。次にこの受理層2の表面に水性インクがインクジェット塗装により塗布されることでインクジェット層3が形成される。その後、このインクジェット層3の表面にアクリル系塗料等でクリア層4が形成される。更にこの図1に示される例では、クリア層4に積層して無機質塗料層5及び光触媒層6が形成されている。これにより、図1に示すような塗装板が作製される。前記受理層2はインクジェット層3のインクを定着させて鮮明な模様を発現させる機能を有し、前記クリア層4はインクジェット層3を保護する機能を有する。
インクジェット塗装は、これまで一般的に用いられてきた塗装ロール等による塗装に比べ、局所的なしかも位置制御された塗装が可能であり、このため、濃淡表現などにより自然な風合いを有し、意匠性の高い塗装板が製造可能であるという利点がある。このような塗装板が例えば外壁材、屋根材、塀材などの外装材等として使用されることで、建築物の高意匠化が期待されている。
上記のような塗装板を作製するにあたり、インクジェット層3の形成には主として水性インクが用いられている。このインクジェット層3の形成後、クリア層4を形成するために水系のクリア塗料が用いられると、クリア塗料と水性インクとが相溶して滲みが生じやすくなり、鮮明な模様が形成されないおそれがある。このような滲みはインクジェット塗装後に水性インクが充分に加熱乾燥されることで抑制されるが、製造工程中に加熱乾燥のための充分な時間が確保される必要があり、製造効率の低下を招くという問題がある。
一方、クリア層4が親水性を有さない溶剤を含むクリア塗料で形成される場合には、クリア塗料と水性インクとが相溶せず、滲みが生じにくくなるため、加熱乾燥のための充分な時間を確保する必要がなくなる。しかし、この場合はクリア塗料の塗布時に水性インクが界面張力により凝集し、インクジェット層中にインクが存在しない領域(インク抜け)が点在して形成されることがある。このようなインク抜けが模様の外観に現れると、所望の模様が形成されなくなるおそれがある。特に水性インクの塗布密度が高い場合には、インク抜けによる外観の変化が顕著に現れてしまう。
特開平8−290105号公報
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、水性インクによるインクジェット塗装により形成されるインクジェット層と、クリア層とが積層して設けられた塗装板であって、水性インクの滲みやインク抜けの発生が抑制され、且つ高い製造効率にて生産されることが可能な塗装板を提供することを目的とする。
本発明に係る塗装板は、基板にインクジェット層と、このインクジェット層に積層して形成されたクリア層とが設けられている。前記インクジェット層はインクジェット塗装により水性インクで形成されている。前記クリア層は、溶剤として、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールから選択される親水性の溶剤と酢酸ブチル、酢酸エチル、キシレンから選択される親水性を有さない溶剤とのみを前者対後者の質量比が65:35〜35:65となる範囲で含有するクリア塗料で形成されている。
このため、インクジェット層3における水性インクとクリア塗料との相溶が抑制されると共に、クリア塗料と水性インクとの間の界面張力も抑制され、水性インクが乾燥していない場合であっても、水性インクとクリア塗料との相溶による水性インクに滲みが生じにくくなると共に、水性インクの凝集によるインク抜けの発生も抑制される。
本発明では、上記親水性の溶剤がイソプロピルアルコールであり、上記親水性を有さない溶剤が酢酸ブチルであることが好ましい。
この場合、水性インクとクリア塗料との相溶による水性インクの滲みと、水性インクの凝集によるインク抜けの発生とが、更に抑制される。
本発明によれば、製造時にインクジェット塗装後、インクを乾燥するための処理を施すことなくクリア塗装を行っても、インクジェット層における水性インクの滲み及びインク抜けの発生が抑制され、従って良好な外観を有する建築板を高い製造効率で得ることができるものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本実施形態に係る塗装板は、図1に示すように、基板1の表面に、受理層2、インクジェット層3、クリア層4、無機質塗料層5がこの順に積層されることで形成されている。
基板1の材質は特に制限されないが、例えばフレキシブルボード、珪酸カルシウム板、石膏スラグパーライト板、木片セメント板、プレキャストコンクリート板、ALC板、石膏ボード等の無機質板が使用される。
塗装板の製造時には、例えば基板1の表面に必要に応じて適宜のシーラーが塗布された後、受理層2が形成される。シーラーは公知のものが使用される。受理層2はインクジェット層3を構成するインクを定着させる機能を有し、例えば有機溶剤で希釈された塗料で形成されるが、水性塗料で形成されることも好ましい。
受理層2の形成のために使用される水性塗料としては、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料や、アクリルシリコン系エマルションをベースにしたアクリルシリコン樹脂塗料等が挙げられる。この水性塗料は、体質顔料と吸湿性樹脂のうちの少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合、受理層2へのインクの定着性が向上し、また発色性も向上する。前記体質顔料としては、例えばシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、多孔質シリカ、珪藻土等が使用される。吸湿性樹脂としては、酢酸ビニル、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール等のインキ吸収性ポリマー等が使用される。また、この水性塗料は、着色剤として酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の顔料を含有しても良い。
上記のような水性塗料がスプレーコート、カーテンコート、浸漬、ワイヤーバーコート、アプリケーターコート、スピンコート、ロールコート、電着コート、刷毛塗り等の適宜の手法により基板1に塗布された後、加熱成膜されることで、受理層2が形成される。受理層2形成時の基板1への水性塗料の塗布量は30〜200g/m2・wetの範囲が好ましい。
次に、受理層2の表面にインクジェット塗装によって水性インクが塗布されることで、インクジェット層3が形成される。
インクジェット塗装のために使用されるインクジェット装置は、例えば図2に示すような構成を有する。このインクジェット装置は、噴射ノズル7を有する塗装ノズルヘッド8、前記噴射ノズル7へ供給される水性インクが貯留された塗料供給タンク9、噴射ノズル7からの水性インクの噴射を制御する塗装制御システム10等を備えたインクジェット式塗装機11と、基板1を搬送する搬送コンベア12とから構成されている。
塗装制御システム10は、各種のCPU、ROM、RAM等から構成される。この塗装制御システム10は塗装データ作成部、塗装制御部、噴射ノズル制御部等を備える。塗装データ作成部は、原画のスキャニング等により作成された色柄パターンのデータを記憶して保存する。前記色柄パターンは、インクジェット塗装によって基板1上の所定位置に所定パターンの塗装模様が形成されるように作成される。塗装制御部は、前記色柄パターンのデータを塗装データ作成部から取り込み、この色柄パターンのデータに基づいて、噴射ノズル制御部に制御信号を出力する機能を有する。噴射ノズル制御部は塗装制御部から入力される制御信号に基づいて塗装ノズルヘッド8の噴射ノズル7を制御する機能を有する。
塗装ノズルヘッド8はインクジェット式塗装機11の下端に設けられ、基板1の送り方向と垂直な方向に長いラインヘッドとして形成されている。塗装ノズルヘッド8としては、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色の塗料を噴出する4種類の塗装ノズルヘッド8y,8c,8m,8kが、基板1の搬送方向に沿って配列するように設けられている。尚、塗装ノズルヘッド8の個数は使用される水性インクの種類に応じて適宜変更される。塗料供給タンク9(9y,9c,9m,9k)は各塗装ノズルヘッド8(8y,8c,8m,8k)ごとに設けられている。
各噴射ノズル7は例えばピエゾ制御方式や光熱交換素子にレーザ光を照射する制御方式等により噴射が制御される。噴射ノズル制御部からの制御を受けて各噴射ノズル7からの塗料の噴射と停止が個別に制御され、色柄パターンに対応したフルカラー塗装がなされる。
搬送手段12は例えばタイミングベルトなどの無限帯状のベルトがプーリ間に懸架されたベルトコンベアで形成される。ベルトの上面がインクジェット式塗装機11の下側に配置される。
インクジェット塗装時には、まず搬送手段12に基板1が供給される。このとき例えば搬送手段12で複数の基板1が順次間隔をあけて搬送される。
このように搬送手段12にて搬送される基板1は、塗装ノズルヘッド8の下方を通過する。このとき塗装ノズルヘッド8から基板1上のインク受理層2に向けてインクがインクジェット方式で噴射されて塗装が施され、意匠模様が付与された基板1が得られる。塗装後の基板1は更に次工程へ搬出される。
次に、インクジェット層3が形成された基板1の表面に、更にクリア層4が形成される。クリア層4はインクジェット層3を保護するために設けられる。
クリア層4の形成に使用されるクリア塗料としては、アクリル系塗料やアクリルシリコン系塗料等が挙げられる。このクリア塗料としては、溶剤として親水性の溶剤と親水性を有さない溶剤とを共に含有するものが使用される。クリア塗料中の親水性の溶剤と親水性を有さない溶剤の、前者対後者の質量比は、65:35〜35:65の範囲である必要がある。親水性の溶剤としてはイソプロピルアルコール、エタノール、メタノール等の適宜のものが挙げられるが、特にイソプロピルアルコールが使用されることが好ましい。また、親水性を有さない溶剤としても酢酸ブチル、酢酸エチル、キシレン等の適宜のものが挙げられるが、特に酢酸ブチルが使用されることが好ましい。
このようなクリア塗料が、インクジェット塗装後の基板1の表面にスプレー等により塗布される。このクリア塗料の塗布時には、クリア塗料が上記のような比率で含有することから、インクジェット層3における水性インクとクリア塗料との相溶が抑制されると共に、クリア塗料と水性インクとの間の界面張力も抑制される。このため、インクジェット塗装後、水性インクが乾燥していない場合、すなわちインクジェット層3に加熱乾燥処理が施されず、またインクジェット塗装後、60秒以内にクリア塗装が施される場合であっても、水性インクとクリア塗料との相溶による水性インクに滲みが生じにくくなると共に、水性インクの凝集によるインク抜けの発生も抑制される。これに対して、クリア塗料中の親水性の溶剤の比率が上記範囲を超えて大きくなる場合には、クリア塗料と水性インクとの間の相溶性が充分に抑制されず、水性インクに滲みが生じてしまうおそれがある。またクリア塗料中の親水性を有さない溶剤の比率が上記範囲を超えて大きくなる場合には、クリア塗料と水性インクとの間の界面張力が充分に抑制されず、水性インクの凝集が生じてしまってインクジェット層3に水性インクが存在しない領域(インク抜け)が点在して形成されてしまうおそれがある。
このようなクリア塗料が、インクジェット塗装後の基板1の表面にスプレー等により塗布された後、焼き付け乾燥等により成膜され、クリア層4が形成される。このクリア層4の厚みは特に制限されないが、10〜30μmの範囲であることが好ましい。
上記インク抜けの抑制による模様の外観の維持は、特にインクジェット層3における水性インクの塗布密度が高い領域の外観の維持に効果を発揮する。すなわち、水性インクの塗布密度が低い領域ではインク抜けが生じなくてもある程度下地(受理層2)の色が透けて見えるため、多少のインク抜けが生じても模様の外観は大きくは変化しないが、水性インクの塗布密度が高い領域ではインク抜けが生じない限り下地の色は殆ど透けて見えないため、インク抜けが生じた場合の外観の落差が大きくなってしまう。このような水性インクの塗布密度が高い領域における水性インクのインク抜けの抑制は、インクジェット層3により形成される模様全体の外観の維持に大きく寄与することになる。
特に、インクジェット層3に水性インクの塗布量が250nl/cm2以上となっている領域が形成されている場合には、インク抜けの抑制によって外観の変化が著しく抑制される。尚、インクジェット層3における塗布量の上限は特に制限されないが、340nl/cm2以下であることが好ましい。
また、塗装板には、上記クリア層4に積層して形成された無機質塗料層5が設けられても良い。無機質塗料層5はクリア層4の表面に無機質塗料が塗布成膜されることで形成される。この無機質塗料層5によって、塗装板の耐候性が向上する。無機質塗料としては適宜のケイ素アルコキシド系コーティング剤等が使用される。無機質塗料の具体例としては、例えばオルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液にポリオルガノシロキサンや、アルキルチタン酸塩等の縮合反応触媒が加えられ、或いは更にシリカが加えられることで調製されたケイ素アルコキシド系塗料が挙げられる。このような無機質塗料が例えば静電塗装等により塗布された後、60〜120℃で焼き付け乾燥されて成膜されることで、無機質塗料層5が形成される。この無機質塗料層5の厚みは特に制限されないが、1〜10μmの範囲が好ましい。
また、塗装板には、上記無機質塗料層5に積層して形成された光触媒層6が設けられても良い。光触媒層6は、無機質塗料層5の表面に光触媒を含有する無機質塗料が塗布成膜されることで形成される。この光触媒層6により塗装板の防汚性が向上する。光触媒を含有する無機質塗料としては適宜のものが用いられるが、例えば上記のようなケイ素アルコキシド系塗料に酸化チタン等の光触媒が加えられたものが挙げられる。このような光触媒を含有する無機質塗料が例えばスプレー塗装等により塗布された後、60〜120℃で焼き付け乾燥等されて成膜されることで、光触媒層6が形成される。この光触媒層6の厚みは特に制限されないが、0.2〜1.0μmの範囲が好ましい。
(実施例1〜4,比較例1,2)
基板1として、セメント系無機質基板1を用いた。
この基板1の作製にあたっては、セメント系成形材料を成形した養生硬化前の湿潤シートの表面にアクリルエマルション塗料からなるシーラーをロールコータにて塗布し、250℃で20分間加熱することにより乾燥塗布量40g/m2のシーラーの塗膜を形成し、この湿潤シートを養生硬化することで基板1を得た。
この基板1のシーラーの塗膜を設けた面に、松下電工化研社製の溶剤型アクリルシリコン塗料をスプレー塗布し、130℃で2分間加熱することで厚み30μmのインク受理層2を形成した。
このインク受理層2を形成した基板1に対し、図2に示すような構成の塗布装置(マスターマインド社製)を用いて、インク受理層2の表面にインクジェット塗装を施してインクジェット層3を形成した。
このインクジェット塗装時には、インクジェット層3に、塗布量が220nl/cm2の領域及び280nl/cm2の領域が形成されるようにした。
このインクジェット塗装時には、松下電工化研社製の水性顔料インク(イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック)を使用した。また、各噴射ノズル7から噴射される1ドット分のインクの噴射量は27plとなるようにした。
次に、インクジェット塗装の終了後、2秒以内に、水性インクを乾燥させることなくインクジェット層3の表面に下記表1に示す組成の溶剤を含む松下電工化研社製のアクリルシリコン塗料をスプレー塗布し、100℃で1分間加熱することにより乾燥膜厚15μmのクリア層4を形成した。
次に、上記クリア層4の表面に、ポリオルガノシロキサンを含有する無機質塗料をスプレー塗布し、130℃で2分間加熱することにより、乾燥膜厚5μmの無機質塗料層5を形成した。
次に、この無機質塗料層5の表面に、ポリオルガノシロキサンを含有すると共に酸化チタンを50質量%の割合で含有する無機質塗料をスプレー塗布し、130℃で2分間加熱することにより乾燥塗布量3g/m2の光触媒層6を形成した。
(参考例)
比較例1において、インクジェット塗装の終了後、インクジェット層3を120°で30秒間加熱して乾燥させた。それ以外は比較例1と同じ条件で塗装板を作製した。
(評価試験)
各実施例及び比較例につき、インクジェット層3により形成される模様を観察し、インク抜け及び滲みの有無を確認した。
インク抜けの評価にあたっては、各実施例、比較例及び参考例における塗布量が280nl/cm2の領域を色差光度計で観測し、参考例を基準とした色差ΔLが1.0未満である場合を○、ΔLが1.0以上2.0未満の場合を△、ΔLが2.0以上の場合を×と、評価した。
滲みの有無の評価にあたっては、水性インクの標準ドット径を80μmとし、インクジェット層3における水性インクの実際のドット径が標準ドット径の150%未満である場合を○、150%以上200%未満の場合を△、200%以上の場合を×と、評価した。
この結果を表1に示す。
上記の通り、実施例1〜4ではインク抜けと滲みの発生が共に抑制され、このうち水性インクの溶媒がイソプロピルアルコールと酢酸ブチルの組み合わせからなる実施例1,2では特に優れた結果が得られた。
また、実施例1〜4の外観と、インク抜けが生じた比較例1の外観とを比べると、インクジェット層3における水性インクの塗布量が220nl/cm2の領域同士よりも、塗布量が280nl/cm2となっている領域同士の間で、外観の落差が著しいものであった。
本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。 インクジェット装置の一例を示す概略正面図である。
符号の説明
1 基板
3 インクジェット層
4 クリア層

Claims (2)

  1. 基板にインクジェット層と、このインクジェット層に積層して形成されたクリア層とが設けられ、
    前記インクジェット層はインクジェット塗装により水性インクで形成され、
    前記クリア層は、溶剤として、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールから選択される親水性の溶剤と酢酸ブチル、酢酸エチル、キシレンから選択される親水性を有さない溶剤とのみを前者対後者の質量比が65:35〜35:65となる範囲で含有するクリア塗料で形成されたものであることを特徴とする塗装板。
  2. 上記親水性の溶剤がイソプロピルアルコールであり、上記親水性を有さない溶剤が酢酸ブチルであることを特徴とする請求項1に記載の塗装板。
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