以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態による駆動力伝達装置1を概略的に示している。この駆動力伝達装置1は、車両用の電動パワーステアリング装置に用いられたものであり、運転者によるステアリングホイール31の操舵力(以下「操舵トルクTS」という)を、左右の操舵輪W,Wに伝達するとともに、その伝達の際に、アシストトルクを付加することによって、運転者の操舵の負荷を軽減するものである。図1に示すように、駆動力伝達装置1は、第1回転機10、第2回転機20、連結軸2およびラック・ピニオン機構4を備えている。
第1回転機10は、第1ロータ11と、第1ロータ11に対向するように配置されたステータ12と、両者11,12の間に所定の間隔を存した状態で設けられた第2ロータ13とを備えている。第1ロータ11、第2ロータ13およびステータ12は、径方向に、内側からこの順で並んでいる。これらのステータ12、第1および第2のロータ11,13の詳細な説明については後述する。
第1ロータ11は、ステアリングホイール31に一体に設けられたステアリングホイール軸32に連結(直結)されており、それにより、ステアリングホイール31と一体に回転自在になっている。また、第2ロータ13は、連結軸2の一端部に連結されており、それにより、連結軸2と一体に回転自在になっている。さらに、連結軸2の他端部に、ラック・ピニオン機構4が設けられるとともに、連結軸2の途中には、ギヤ3が一体に設けられている。連結軸2は、自在継手や複数の軸の組み合わせで構成されている。
ラック・ピニオン機構4は、連結軸2の他端部に一体に設けられたピニオン5と、車両の幅方向(以下「車幅方向」という)に延びるとともに、ラック歯が形成されたラック軸6を有しており、ラック軸6のラック歯はピニオン5に噛み合っている。また、ラック軸6の車幅方向の両端部は、タイロッド7,7を介して左右の操舵輪W,Wにそれぞれ連結されている。以上のように、第2ロータ13は、連結軸2やラック・ピニオン機構4を介して、操舵輪W,Wに連結されている。また、以上の構成により、連結軸2の動力が、ラック・ピニオン機構4を介して操舵輪W,Wに伝達され、その際、連結軸2の回転運動がラック・ピニオン機構4で車幅方向への往復運動に変換されることによって、操舵輪W,Wの舵角が変化する。
第2回転機20は、一般的な三相ブラシレスDCモータで構成され、U相、V相およびW相から成る三相コイルなどで構成されたステータと、磁石などで構成されたロータ(いずれも図示せず)を有しており、このロータには、出力軸21が一体に設けられている。第2回転機20は、ステータに供給された電力を動力に変換し、出力軸21に出力する機能と、出力軸21に入力された動力をステータにおいて電力に変換し、発電する機能とを有している。この出力軸21には、ピニオン22が一体に設けられており、このピニオン22は、上記のギヤ3に噛み合っている。以上のように、第2回転機20の出力軸21は、ギヤ3や、連結軸2、ラック・ピニオン機構4を介して、操舵輪W,Wに連結されている。
また、第2回転機20のステータは、第2パワードライブユニット(以下「第2PDU」という)42を介して、バッテリ43に接続されている。この第2PDU42は、インバータなどから成る電気回路で構成されており、バッテリ43は、充電・放電可能な直流電源で構成されている。さらに、図2に示すように、第2PDU42には、後述するECU61が接続されている。以上の構成により、バッテリ43の電力が第2PDU42を介して第2回転機20に供給されると、この電力は動力に変換された後、操舵輪W,Wに伝達される。
なお、本実施形態では、ステアリングホイール31およびステアリングホイール軸32が、本発明における動力源および出力軸にそれぞれ相当し、操舵輪W,Wが、本発明における被駆動部に相当する。
次に、図3および図4を参照しながら、第1回転機10のステータ12、第1および第2のロータ11,13について説明する。以下、この説明を、同図の左側を「左」、右側を「右」として行う。第1ロータ11は、2n(nは整数)個の永久磁石11aを有しており、これらの永久磁石11aは、ステアリングホイール軸32の周方向(以下、単に「周方向」という)に等間隔で並んだ状態で、リング状の固定部11bの外周面に取り付けられている。各永久磁石11aは、ステアリングホイール軸32の軸線方向(以下、単に「軸線方向」という)に直交する断面がほぼ扇形状になっており、軸線方向に若干延びている。上記の固定部11bは、軟磁性体、例えば鉄で構成されており、その内周面がステアリングホイール軸32に、円板状のフランジ11cを介して同心状に取り付けられている。以上の構成により、永久磁石11aすなわち第1ロータ11は、ステアリングホイール31に連結(直結)されている。
また、図4に示すように、ステアリングホイール軸32を中心として、周方向に隣り合う各2つの永久磁石11aがなす中心角は、所定角度θである。さらに、永久磁石11aの極性は、周方向に隣り合う各2つについては互いに異なっている。以下、永久磁石11aの左側および右側の磁極をそれぞれ、「第1磁極」および「第2磁極」という。
ステータ12は、回転磁界を発生させるものであり、周方向に等間隔で並んだ3n個の電機子12aを有している。各電機子12aは、鉄芯12bと、鉄芯12bに巻回されたコイル12cなどで構成されている。鉄芯12bは、軸線方向に直交する断面がほぼ扇形状になっており、軸線方向に永久磁石11aとほぼ同じ長さを有している。鉄芯12bの内周面の軸線方向の中央部には、周方向に延びる溝12dが形成されている。3n個のコイル12cは、n組のU相、V相およびW相の3相コイルを構成している(図4参照)。また、電機子12aは、ケースCAに、リング状の固定部12eを介して取り付けられており、移動不能になっている。以上のような電機子12aおよび永久磁石11aの数と配置から、ある1つの電機子12aの中心が、永久磁石11aの中心と周方向に一致したときには、その電機子12aに対して2つおきの電機子12aの中心と、その永久磁石11aに対して1つおきの永久磁石11aの中心とが、周方向に一致する。
さらに、図1に示すように、ステータ12は、第1パワードライブユニット(以下「第1PDU」という)41を介してバッテリ43に接続されており、この第1PDU41は、前述した第2PDU42と同様、インバータなどの電気回路で構成されている。また、図2に示すように、第1PDU41には、ECU61が接続されている。さらに、電機子12aは、バッテリ43から電力が供給されたとき、または、後述するように発電したときに、鉄芯12bの左右の端部に、互いに異なる極性の磁極がそれぞれ発生するように構成されている。また、これらの磁極の発生に伴って、第1ロータ11の左側(第1磁極側)の部分との間および右側(第2磁極側)の部分との間に、第1および第2の回転磁界が周方向に回転するようにそれぞれ発生する。以下、鉄芯12bの左右の端部に発生する磁極をそれぞれ、「第1電機子磁極」および「第2電機子磁極」という。また、これらの第1および第2の電機子磁極の数はそれぞれ、永久磁石11aの磁極の数と同じ、すなわち2nである。
第2ロータ13は、複数の第1コア13aおよび第2コア13bを有している。第1および第2のコア13a,13bはそれぞれ、周方向に等間隔で並んでおり、両者13a,13bの数はいずれも、永久磁石11aと同じ、すなわち2nに設定されている。したがって、ステアリングホイール軸32を中心として、周方向に隣り合う各2つの第1コア13aがなす中心角は、所定角度θであり、このことは、第2コア13bについても同様である。また、各第1コア13aは、軟磁性体、例えば複数の鋼板を積層したもので、軸線方向に直交する断面がほぼ扇形状になっており、軸線方向に永久磁石11aのほぼ半分の長さで延びている。各第2コア13bは、第1コア13aと同様、複数の鋼板を積層したもので、軸線方向に直交する断面がほぼ扇形状になっており、軸線方向に永久磁石11aのほぼ半分の長さで延びている。
また、軸線方向において、第1コア13aは、第1ロータ11の左側(第1磁極側)の部分とステータ12の左側(第1電機子磁極側)の部分との間に配置され、第2コア13bは、第1ロータ11の右側(第2磁極側)の部分とステータ12の右側(第2電機子磁極側)の部分との間に配置されている。さらに、第2コア13bは、第1コア13aに対して周方向に互い違いに並んでおり、その中心が、第1コア13aの中心に対して、前述した所定角度θの1/2、ずれている(図4参照)。
また、第1および第2のコア13a,13bはそれぞれ、フランジ13dの外端部に、軸線方向に若干延びる棒状の連結部13cを介して取り付けられており、このフランジ13dは、連結軸2に一体に同心状に設けられている。これにより、第1および第2のコア13a,13bすなわち第2ロータ13は、連結軸2に連結(直結)されている。
以上の構成の第1回転機10では、図4に示すように、第1および第2の回転磁界の発生中、各第1電機子磁極の極性が、それに対向する各第1磁極の極性と異なるときには、各第2電機子磁極の極性は、それに対向する各第2磁極の極性と同じになる。また、各第1磁極と各第1電機子磁極の間に、各第1コア13aが位置しているときには、各第2コア13bが、周方向に隣り合う各2組の第2電機子磁極および第2磁極の間に位置する。さらに、図示しないが、第1および第2の回転磁界の発生中、各第2電機子磁極の極性が、それに対向する各第2磁極の極性と異なるときには、各第1電機子磁極の極性は、それに対向する各第1磁極の極性と同じになる。また、各第2磁極と各第2電機子磁極の間に、各第2コア13bが位置しているときには、各第1コア13aが、周方向に隣り合う各2組の第1電機子磁極および第1磁極の間に位置する。なお、実際には、2n個の第1および第2の電機子磁極がそれぞれ、周方向に等間隔で発生し、連結軸2を中心として周方向に隣り合う各2つの電機子磁極がなす中心角は、所定角度θであるが、図4では、便宜上、対応する電機子12aに、第1および第2の電機子磁極を(N)および(S)で表記している。
また、第1回転機10は、第1および第2のロータ11,13で回転動力を入出力するとともに、ステータ12で電力を入出力する遊星歯車装置とみなすことができる。以下、この点に関し、第1回転機10の動作に基づいて説明する。上述した図4では、展開図として示したために、電機子12aおよび固定部12eが2つに分かれているように示されているものの、これらは実際には1つのものであるので、図4の構成を、それと等価のものとして、図5のように示すことができる。このため、以下、第1回転機10の動作を、永久磁石11a、電機子12a、第1および第2のコア13a,13bが、図5に示すように配置されているものとして説明する。
また、この動作説明を、説明の便宜上、第1および第2の回転磁界の動きを、それと等価の、永久磁石11aと同数の2n個の仮想の永久磁石(以下「仮想磁石」という)VMの物理的な動きに置き換えて説明するものとする。また、仮想磁石VMの左側(第1磁極側)および右側(第2磁極側)の磁極をそれぞれ、第1および第2の電機子磁極として、第1ロータ11の左側(第1磁極側)の部分との間および右側(第2磁極側)の部分との間にそれぞれ発生する回転磁界を、第1および第2の回転磁界として、説明するものとする。さらに、以下、永久磁石11aの左側の部分および右側の部分を、第1磁石部および第2磁石部という。
まず、第1回転機10の動作として、第1ロータ11を回転不能にした状態で、ステータ12への電力供給により第1および第2の回転磁界を発生させた場合の動作について説明する。
図6(a)に示すように、各第1コア13aが各第1磁石部に対向するとともに、各第2コア13bが隣り合う各2つの第2磁石部の間に位置した状態から、第1および第2の回転磁界を、同図の下方に回転させるように発生させる。その発生の開始時においては、各第1電機子磁極の極性を、それに対向する各第1磁極の極性と異ならせるとともに、各第2電機子磁極の極性をそれに対向する各第2磁極の極性と同じにする。
第1コア13aは、前述したように配置されているので、第1磁極および第1電機子磁極によって磁化されるとともに、第1磁極、第1コア13aおよび第1電機子磁極の間に、磁力線(以下「第1磁力線」という)G1が発生する。同様に、第2コア13bは、前述したように配置されているので、第2電機子磁極および第2磁極によって磁化されるとともに、第2電機子磁極、第2コア13bおよび第2磁極の間に、磁力線(以下「第2磁力線」という)G2が発生する。
図6(a)に示す状態では、第1磁力線G1は、第1磁極、第1コア13aおよび第1電機子磁極を結ぶように発生し、第2磁力線G2は、周方向に隣り合う各2つの第2電機子磁極と両者の間に位置する第2コア13bを結ぶように、また、周方向に隣り合う各2つの第2磁極と両者の間に位置する第2コア13bを結ぶように発生する。その結果、この状態では、図8(a)に示すような磁気回路が形成される。この状態では、第1磁力線G1が直線状であることにより、第1コア13aには、周方向に回転させるような磁力は作用しない。また、周方向に隣り合う各2つの第2電機子磁極と第2コア13bの間の2つの第2磁力線G2の曲がり度合いおよび総磁束量が互いに等しく、同様に、周方向に隣り合う各2つの第2磁極と第2コア13bの間の2つの第2磁力線G2の曲がり度合いおよび総磁束量も、互いに等しく、バランスしている。このため、第2コア13bにも、周方向に回転させるような磁力は作用しない。
そして、仮想磁石VMが図6(a)に示す位置から図6(b)に示す位置に回転すると、第2電機子磁極、第2コア13bおよび第2磁極を結ぶような第2磁力線G2が発生するとともに、第1コア13aと第1電機子磁極の間の第1磁力線G1が、曲がった状態になる。また、これに伴い、第1および第2の磁力線G1,G2によって、図8(b)に示すような磁気回路が形成される。
この状態では、第1磁力線G1の曲がり度合いは小さいものの、その総磁束量が多いため、比較的強い磁力が第1コア13aに作用する。これにより、第1コア13aは、仮想磁石VMの回転方向、すなわち第1および第2の回転磁界の回転方向(以下「磁界回転方向」という)に、比較的大きな駆動力で駆動され、その結果、第2ロータ13が磁界回転方向に回転する。また、第2磁力線G2の曲がり度合いは大きいものの、その総磁束量が少ないため、比較的弱い磁力が第2コア13bに作用し、それにより、第2コア13bは、磁界回転方向に比較的小さな駆動力で駆動され、その結果、第2ロータ13が磁界回転方向に回転する。
次いで、仮想磁石VMが、図6(b)に示す位置から、図6(c),(d)および図7(a),(b)に示す位置に順に回転すると、第1および第2のコア13a,13bはそれぞれ、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力によって磁界回転方向に駆動され、その結果、第2ロータ13が磁界回転方向に回転する。その間、第1コア13aに作用する磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合いが大きくなるものの、その総磁束量が少なくなることによって、徐々に弱くなり、第1コア13aを磁界回転方向に駆動する駆動力が、徐々に小さくなる。また、第2コア13bに作用する磁力は、第2磁力線G2の曲がり度合いが小さくなるものの、その総磁束量が多くなることによって、徐々に強くなり、第2コア13bを磁界回転方向に駆動する駆動力が、徐々に大きくなる。
そして、仮想磁石VMが図7(b)に示す位置から図7(c)に示す位置に回転する間、第2磁力線G2が曲がった状態になるとともに、その総磁束量が最多に近い状態になり、その結果、最強の磁力が第2コア13bに作用し、第2コア13bに作用する駆動力が最大になる。その後、図7(c)に示すように、仮想磁石VMが第1および第2の磁石部に対向する位置に移動すると、互いに対向する第1電機子磁極および第1磁極が互いに同一極性になり、第1コア13aが、周方向に隣り合う2組の同一極性の第1電機子磁極および第1磁極の間に位置するようになる。この状態では、第1磁力線G1の曲がり度合いが大きいものの、その総磁束量が少ないことによって、第1コア13aには、磁界回転方向に回転させるような磁力が作用しない。また、互いに対向する第2電機子磁極および第2磁極が互いに異なる極性になる。
この状態から、仮想磁石VMがさらに回転すると、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力によって、第1および第2のコア13a,13bが磁界回転方向に駆動され、第2ロータ13が磁界回転方向に回転する。その際、仮想磁石VMが図6(a)に示す位置まで回転する間、以上とは逆に、第1コア13aに作用する磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合が小さくなるものの、その総磁束量が多くなることによって強くなり、第1コア13aに作用する駆動力が大きくなる。逆に、第2コア13bに作用する磁力は、第2磁力線G2の曲がり度合が大きくなるものの、その総磁束量が少なくなることによって弱くなり、第2コア13bに作用する駆動力が小さくなる。
以上のように、仮想磁石VMの回転、すなわち第1および第2の回転磁界の回転に伴い、第1および第2のコア13a,13bにそれぞれ作用する駆動力が、交互に大きくなったり、小さくなったりする状態を繰り返しながら、第2ロータ13が磁界回転方向に回転する。この場合、第1および第2のコア13a,13bを介して伝達されるトルクをT13a,T13bとすると、第2ロータ13に伝達されるトルク(以下「第2ロータ伝達トルク」という)TR2と、これら2つのトルクT13a,T13bとの関係は、概ね図9に示すものになる。同図に示すように、2つのトルクT13a,T13bは、同じ周期でほぼ正弦波状に変化するとともに、位相が半周期分、互いにずれている。また、第2ロータ13には第1および第2のコア13a,13bが連結されているため、第2ロータ伝達トルクTR2は、上記のように変化する2つのトルクT13a,T13bを足し合わせたものとなり、ほぼ一定になる。
また、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力の作用によって、第1コア13aが、第1磁力線G1で結ばれた第1磁極と第1電機子磁極の中間に位置し、かつ、第2コア13bが、第2磁力線G2で結ばれた第2磁極と第2電機子磁極の中間に位置した状態を保ちながら、第2ロータ13が回転する。このため、第1および第2の回転磁界の回転数(以下「磁界回転数」という)NMFと、第1ロータ11の回転数(以下「第1ロータ回転数」という)NR1と、第2ロータ13の回転数(以下「第2ロータ回転数」という)NR2との間には一般に、次式(1)が成立する。
NR2=(NMF+NR1)/2 ……(1)
また、この式(1)を変形すると、次式(2)が得られる。
NMF−NR2=NR2−NR1 ……(2)
これらの式(1)および(2)から明らかなように、第2ロータ回転数NR2は、磁界回転数NMFと第1ロータ回転数NR1との平均速度に等しく、換言すれば、磁界回転数NMFと第2ロータ回転数NR2との差は、第2ロータ回転数NR2と第1ロータ回転数NR1との差に等しい。このように、磁界回転数NMF、第1および第2のロータ回転数NR1,NR2は、共線関係にある。
以上から、上述した第1ロータ回転数NR1が値0のときには、NR2=NMF/2が成立し、このときの磁界回転数NMF、第1および第2のロータ回転数NR1,NR2の関係は、例えば図10(a)のように示される。この図10(a)は、いわゆる速度共線図であり、この速度共線図および後述する他の速度共線図では、値0を示す横線に交わる縦線は、各パラメータの回転数を表すためのものであり、この縦線上に表される白丸と横線との隔たりが、各パラメータの回転数に相当する。同図および後述する他の速度共線図では、便宜上、この白丸の付近に各パラメータの回転数の符号を表記している。
また、上記のように、磁界回転数NMFと第2ロータ回転数NR2との差が、第2ロータ回転数NR2と第1ロータ回転数NR1との差に等しいことから、図10(a)に示す速度共線図において、磁界回転数NMFを表す縦線と第2ロータ回転数NR2を表す縦線との間の距離と、第1ロータ回転数NR1を表す縦線と第2ロータ回転数NR2を表す縦線との間の距離との比は、1:1である。このことは、磁界回転数NMF、第1および第2のロータ回転数NR1,NR2の関係を表す他の速度共線図についても同様である。
また、この場合、第2ロータ回転数NR2が、磁界回転数NMFの1/2に減速されるので、第2ロータ伝達トルクTR2は、ステータ12への供給電力および磁界回転数NMFと等価のトルクを駆動用等価トルクTSEとすると、この駆動用等価トルクTSEの2倍になる。すなわち、次式(3)が成立する。
TR2=2・TSE ……(3)
以上のように、第1ロータ11を回転不能にした状態でステータ12に電力を供給した場合には、この電力はすべて、第2ロータ13に動力として伝達される。
次に、第2ロータ13を回転不能にした状態で、ステータ12への電力供給により第1および第2の回転磁界を発生させた場合の動作について説明する。
この場合にも、図12(a)に示すように、各第1コア13aが各第1磁石部に対向するとともに、各第2コア13bが隣り合う各2つの第2磁石部の間に位置した状態から、第1および第2の回転磁界を同図の下方に回転させるように発生させる。その発生の開始時においては、各第1電機子磁極の極性を、それに対向する各第1磁極の極性と異ならせるとともに、各第2電機子磁極の極性をそれに対向する各第2磁極の極性と同じにする。この状態では、前述した図8(a)に示すような磁気回路が形成される。
そして、仮想磁石VMが、図12(a)に示す位置から図12(b)に示す位置に回転すると、第1コア13aと第1電機子磁極の間の第1磁力線G1が曲がった状態になるのに伴い、第2電機子磁極が第2コア13bに近づくことによって、第2電機子磁極、第2コア13bおよび第2磁極を結ぶような第2磁力線G2が発生する。その結果、前述した図8(b)に示すような磁気回路が形成される。
この状態では、第1磁極と第1コア13aの間の第1磁力線G1の総磁束量は多いものの、この第1磁力線G1がまっすぐであるため、第1コア13aに対して第1磁石部を回転させるような磁力が発生しない。また、第2磁極およびこれと異なる極性の第2電機子磁極の間の距離が比較的長いことにより、第2コア13bと第2磁極の間の第2磁力線G2の総磁束量は比較的少ないものの、その曲がり度合いが大きいことによって、第2磁石部に、これを第2コア13bに近づけるような磁力が作用する。これにより、永久磁石11aは、仮想磁石VMの回転方向、すなわち磁界回転方向と逆方向(図12の上方)に駆動され、図12(c)に示す位置に向かって回転する。これに伴い、第1ロータ11が磁界回転方向と逆方向に回転する。
そして、永久磁石11aが図12(b)に示す位置から図12(c)に示す位置に向かって回転する間、仮想磁石VMは、図12(d)に示す位置に向かって回転する。以上のように、第2磁石部が第2コア13bに近づくことにより、第2コア13bと第2磁極の間の第2磁力線G2の曲がり度合いは小さくなるものの、仮想磁石VMが第2コア13bにさらに近づくのに伴い、第2磁力線G2の総磁束量は多くなる。その結果、この場合にも、第2磁石部に、これを第2コア13b側に近づけるような磁力が作用し、それにより、永久磁石11aが、磁界回転方向と逆方向に駆動される。
また、永久磁石11aが磁界回転方向と逆方向に回転するのに伴い、第1磁極と第1コア13aの間の第1磁力線G1が曲がることによって、第1磁石部に、これを第1コア13aに近づけるような磁力が作用する。しかし、この状態では、第1磁力線G1による磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合いが第2磁力線G2よりも小さいことによって、上述した第2磁力線G2による磁力よりも弱い。その結果、両磁力の差分に相当する磁力によって、永久磁石11aが、磁界回転方向と逆方向に駆動される。
そして、図12(d)に示すように、第1磁極と第1コア13aの間の距離と、第2コア13bと第2磁極の間の距離が互いにほぼ等しくなったときには、第1磁極と第1コア13aの間の第1磁力線G1の総磁束量および曲がり度合いが、第2コア13bと第2磁極の間の第2磁力線G2の総磁束量および曲がり度合いとそれぞれほぼ等しくなる。その結果、これらの第1および第2の磁力線G1,G2による磁力が互いにほぼ釣り合うことによって、永久磁石11aが一時的に駆動されない状態になる。
この状態から、仮想磁石VMが図13(a)に示す位置まで回転すると、第1磁力線G1の発生状態が変化し、図13(b)に示すような磁気回路が形成される。それにより、第1磁力線G1による磁力が、第1磁石部を第1コア13aに近づけるようにほとんど作用しなくなるので、永久磁石11aは、第2磁力線G2による磁力によって、図13(c)に示す位置まで、磁界回転方向と逆方向に駆動される。
そして、図13(c)に示す位置から、仮想磁石VMが若干、回転すると、以上とは逆に、第1磁極と第1コア13aの間の第1磁力線G1による磁力が、第1磁石部に、これを第1コア13aに近づけるように作用し、それにより、永久磁石11aが、磁界回転方向と逆方向に駆動され、第1ロータ11が磁界回転方向と逆方向に回転する。そして、仮想磁石VMがさらに回転すると、第1磁極と第1コア13aの間の第1磁力線G1による磁力と第2コア13bと第2磁極の間の第2磁力線G2による磁力との差分に相当する磁力によって、永久磁石11aが、磁界回転方向と逆方向に駆動される。その後、第2磁力線G2による磁力が、第2磁石部を第2コア13bに近づけるようにほとんど作用しなくなると、第1磁力線G1による磁力によって、永久磁石11aが磁界回転方向と逆方向に駆動される。
以上のように、第1および第2の回転磁界の回転に伴い、第1磁極と第1コア13aの間の第1磁力線G1による磁力と、第2コア13bと第2磁極の間の第2磁力線G2による磁力と、これらの磁力の差分に相当する磁力とが、永久磁石11aに、すなわち第1ロータ11に交互に作用し、それにより、第1ロータ11が磁界回転方向と逆方向に回転する。また、そのように磁力すなわち駆動力が第1ロータ11に交互に作用することによって、第1ロータ11に伝達されるトルク(以下「第1ロータ伝達トルク」という)TR1は、ほぼ一定になる。
また、このときの磁界回転数NMF、第1および第2のロータ回転数NR1,NR2の関係は、前記式(1)において、NR2=0とすることにより、NR1=−NMFで表され、例えば図10(b)のように示される。このように、第1ロータ11は、第1および第2の回転磁界と同じ速度で逆方向に回転する。さらに、この場合、第1ロータ伝達トルクTR1は、駆動用等価トルクTSEと等しくなり、次式(4)が成立する。
TR1=TSE ……(4)
また、磁界回転数NMF、第1および第2のロータ回転数NR1,NR2がいずれも値0でない場合、例えば、第1ロータ11を動力の入力により回転させた状態で、第1および第2の回転磁界を発生させた場合には、磁界回転数NMF、第1および第2のロータ回転数NR1,NR2の間に、前述した一般式(1)がそのまま成立し、三者間の速度関係は、例えば、図11(a)のように示される。この場合、第1ロータ伝達トルクTR1と駆動用等価トルクTSEが、第1および第2の磁力線G1,G2による磁気回路を介して合成され、第2ロータ15に伝達される。すなわち、次式(5)が成立する。
TSE+TR1=TR2 ……(5)
さらに、第2ロータ13を動力により回転させるとともに、例えばステータ12における相間短絡により磁界回転数NMFを値0に制御した場合には、第2ロータ13に入力された動力(エネルギ)は、ステータ12には伝達されず、第1および第2の磁力線G1,G2による磁気回路を介して第1ロータ11にすべて伝達される。同様に、第1ロータ11を動力により回転させるとともに、磁界回転数NMFを値0に制御した場合には、第1ロータ11に入力された動力(エネルギ)は、ステータ12には伝達されず、第1および第2の磁力線G1,G2による磁気回路を介して第2ロータ13にすべて伝達される。
また、このときの磁界回転数NMF、第1および第2のロータ回転数NR1,NR2の関係は、前記式(1)において、NMF=0とすることによって、NR1=2・NR2で表され、例えば図11(b)のように示される。また、第1および第2のロータ伝達トルクTR1,TR2の間に、次式(6)が成立する。
TR1=TR2/2 ……(6)
さらに、第1回転機10では、ステータ12への電力供給が行われていない場合でも、電機子12aに対して、第1ロータ11への動力の入力により永久磁石11aが回転したり、第2ロータ13への動力の入力により第1および第2のコア13a,13bが回転したときには、電機子12aにおいて、誘導起電力が発生し、発電が行われる。この発電に伴って、第1および第2の回転磁界が発生した場合にも、前記式(1)が成立する。
また、磁界回転数NMF、第1および第2のロータ回転数NR1,NR2の間に、前記式(1)および(2)と図10(a)および(b)と図11(a)および(b)で表されるような関係が常に成立し、このような三者間の速度関係は、遊星歯車装置のリングギヤおよびサンギヤの一方、他方、およびプラネタリギヤを支持するキャリアの回転数の関係に相当する。さらに、そのような速度関係が、ステータ12への電力供給時だけでなく、発電時にも同様に得られることから、第1回転機10は、第1および第2のロータ11,13で回転動力を入出力するとともに、ステータ12で電力を入出力する遊星歯車装置(差動装置)とみなすことができる。このことと、前記式(1)および(2)で説明した回転数の関係から明らかなように、駆動用等価トルクTSE、第1および第2のロータ伝達トルクTR1,TR2のトルク比は、次式(7)で表される。
|TSE|:|TR2|:|TR1|=1:2:1 ……(7)
一方、ECU61には、第1回転角センサ51および第2回転角センサ52からそれぞれ、ステータ12に対する第1および第2のロータ11,13の回転角度位置(以下、それぞれ「第1ロータ回転角θ1」「第2ロータ回転角θ2」という)を表す検出信号が出力される。また、ECU61には、第3回転角センサ53から、第2回転機20のロータの回転角度位置(以下「ロータ回転角θR」という)を表す検出信号が出力される。これらの第1〜第3の回転角センサ51〜53はいずれも、例えば電磁ピックアップ式のセンサである。さらに、ECU61には、第1U相電流センサ54、第1V相電流センサ55および第1W相電流センサ56からそれぞれ、第1回転機10のU相〜W相のコイル12cに流れる電流(以下、それぞれ「第1U相電流Iu1」「第1V相電流Iv1」「第1W相電流Iw1」という)が出力される。また、ECU61には、第2U相電流センサ57、第2V相電流センサ58および第2W相電流センサ59からそれぞれ、第2回転機20のU相〜W相のコイルに流れる電流(以下、それぞれ「第2U相電流Iu2」「第2V相電流Iv2」「第2W相電流Iw2」という)が出力される。
ECU61は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、上述した各種のセンサ51〜59からの検出信号に応じ、以下に述べるようにして第1および第2の回転機10,20の動作を制御する。これにより、運転者による操舵中、ステアリングホイール31に入力される操舵トルクTSが操舵輪W,Wに伝達されるとともに、その伝達の際に、アシストトルクが付加されることによって、運転者の操舵の負荷が軽減される(操舵アシスト)。
以下、操舵中にECU61によって行われる制御動作について、図14を参照しながら説明する。この場合、ECU61は、第1回転機10で発生する第1および第2の回転磁界を、第1ロータ伝達トルクTR1が操舵トルクTSに釣り合うように制御するとともに、そのように制御される第1ロータ伝達トルクTR1に基づき、第2回転機20のトルク(以下「第2回転機トルク」という)を制御することによって、アシストトルクを付加する。具体的には、図14に示すように、ECU61は、操舵角算出部62、目標角度設定部63、第1ロータ目標トルク算出部64、第1電圧指令値算出部65、第2回転機目標トルク算出部66、および第2電圧指令値算出部67を備えている。
なお、本実施形態では、第1回転角センサ51、ECU61および操舵角算出部62が、本発明における回転角検出手段に相当し、第1PDU41、ECU61、第1ロータ目標トルク算出部64、および第1電圧指令値算出部65が、本発明における第1制御手段に相当する。また、第2PDU42、ECU61、第2回転機目標トルク算出部66、および第2電圧指令値算出部67が、本発明における第2制御手段に相当する。
操舵角算出部62は、ステアリングホイール31の回転角度位置(以下「操舵角θS」という)を算出するとともに、算出した操舵角θSを、第1ロータ目標トルク算出部64に出力する。前述したようにステアリングホイール31が第1ロータ11に直結されているため、この操舵角θSの算出は、入力された第1ロータ回転角θ1に基づいて行われる。目標角度設定部63は、目標角度θS_tarを所定値に設定するとともに、設定した目標角度θS_tarを、第1ロータ目標トルク算出部64に出力する。この所定値は、例えば値0、すなわち、ステアリングホイール31が直進方向に相当する中立位置に位置するときに得られる操舵角θSの値に設定されている。
第1ロータ目標トルク算出部64は、入力された操舵角θSおよび目標角度θS_tarに基づき、第1ロータ目標トルクTR1_tarを算出するとともに、算出した第1ロータ目標トルクTR1_tarを、第1電圧指令値算出部65および第2回転機目標トルク算出部66に出力する。この第1ロータ目標トルクTR1_tarは、第1および第2の回転磁界の発生に伴って第1ロータ11に伝達される第1ロータ伝達トルクTR1の目標値であり、その算出は次のようにして行われる。
すなわち、目標角度θS_tarと操舵角θSとの偏差を算出するとともに、この偏差に基づき、所定のフィードバック制御アルゴリズムによって、操舵角θSが目標角度θS_tarになるように、第1ロータ目標トルクTR1_tarを算出する。上述したように目標角度θS_tarが値0に設定されることと、上記の算出手法から明らかなように、第1ロータ目標トルクTR1_tarは、ステアリングホイール31に入力された操舵トルクTSに対して、逆向きのトルクとして算出される。また、この場合、上記の所定のフィードバック制御アルゴリズムとして、定常偏差を許容するようなフィードバック制御アルゴリズム、例えばPDフィードバック制御アルゴリズムが用いられる。この理由については後述する。
さらに、このPDフィードバック制御アルゴリズムに用いられるP項ゲイン(比例ゲイン)およびD項ゲイン(微分ゲイン)は、次のような手法によって、あらかじめ設定されている。すなわち、操舵角θSと操舵トルクTSの関係を実験によりあらかじめ求め、そのときどきの操舵角θSに対応する操舵トルクTSと同じ大きさに第1ロータ目標トルクTR1_tarがなるように、P項およびD項ゲインが設定されている。以上により、第1ロータ目標トルクTR1_tarは、操舵トルクTSと同じ大きさの逆向きのトルクとして算出される。
第1電圧指令値算出部65には、上記の第1ロータ目標トルクTR1_tarに加え、検出された第1および第2のロータ回転角θ1,θ2、ならびに第1U相〜W相の電流Iu1〜Iw1が入力される。第1電圧指令値算出部65は、入力されたこれらのパラメータに応じ、第1回転機10のU相〜W相のコイル12cに印可する電圧の指令値(以下、それぞれ「第1U相電圧指令値Vu1_cmd」「第1V相電圧指令値Vv1_cmd」「第1W相電圧指令値Vw1_cmd」という)をそれぞれ算出する。また、算出した第1U相〜W相の電圧指令値Vu1_cmd〜Vw1_cmdに基づく駆動信号を第1PDU41に出力する。これにより、U相、V相およびW相のコイル12cに印可される電圧がそれぞれ、第1U相、V相およびW相の電圧指令値Vu1_cmd,Vv1_cmd,Vw1_cmdになるように制御される。
また、第1電圧指令値算出部65では、第1U相〜W相の電圧指令値Vu1_cmd〜Vw1_cmdの算出は、第1ロータ伝達トルクTR1が第1ロータ目標トルクTR1_tarになり、かつ、ステータ12に対する第1および第2の回転磁界のベクトルの電気角度位置(以下「磁界電気角度位置」という)が、第2ロータ電気角θe2の2倍から第1ロータ電気角θe1を減算した値(2・θe2−θe1)になるように行われる。この磁界電気角度位置は、ステータ12に対する第1および第2の回転磁界のベクトルの回転角度位置(以下「磁界回転角度位置」という)をいわゆる電気角度位置に換算した値であり、具体的には、磁界回転角度位置に極数(2n)の1/2を乗算した値である。第1ロータ電気角θe1は、いわゆる機械角である第1ロータ回転角θ1を電気角度位置に換算した値であり、具体的には、第1ロータ回転角θ1に極数(2n)の1/2を乗算した値である。第2ロータ電気角θe2は、第1ロータ電気角θe1と同様、いわゆる機械角である第2ロータ回転角θ2を電気角度位置に換算した値であり、具体的には、第2ロータ回転角θ2に極数(2n)の1/2を乗算した値である。上記のように磁界電気角度位置を制御するのは、第1回転機10の適正な動作を確保する上で必要なためであり、このことは、前記式(1)および(2)からNMF=2・NR2−NR1が得られることから明らかである。
より具体的には、図15に示すように、第1電圧指令値算出部65は、目標電流算出部65a、電気角変換器65b、電流座標変換器65c、偏差算出部65d、電流制御器65e、および電圧座標変換器65fを有しており、いわゆるベクトル制御に基づいて、第1U相〜W相の電圧指令値Vu1_cmd〜Vw1_cmdの算出を行う。
上記の目標電流算出部65aには、前述した第1ロータ目標トルク算出部64で算出された第1ロータ目標トルクTR1_tarが入力される。目標電流算出部65aは、入力された第1ロータ目標トルクTR1_tarに基づき、マップ(図示せず)を検索することによって、後述するd軸電流Idおよびq軸電流Iqの目標値(以下、それぞれ「目標d軸電流Id_tar」「目標q軸電流Iq_tar」という)を算出するとともに、算出した目標d軸電流Id_tarおよび目標q軸電流Iq_tarを、偏差算出部65dに出力する。上記のマップは、d軸電流Idおよびq軸電流Iqと第1ロータ伝達トルクTR1との関係を実験により求め、マップ化したものであり、このマップでは、目標d軸およびq軸の電流Id_tar,Iq_tarは、第1ロータ目標トルクTR1_tarが大きいほど、より大きな値に設定されている。
電気角変換器65bには、第1および第2のロータ回転角θ1,θ2が入力される。電気角変換器65bは、入力された第1および第2のロータ回転角θ1,θ2に極数(2n)の1/2を乗算することによって、前述した第1および第2のロータ電気角θe1,θe2をそれぞれ算出するとともに、算出した第1および第2のロータ電気角θe1,θe2のそれぞれを、電流座標変換器65cおよび電圧座標変換器65fのそれぞれに出力する。
電流座標変換器65cには、第1および第2のロータ電気角θe1,θe2に加え、第1U相〜W相の電流Iu1〜Iw1が入力される。電流座標変換器65cは、入力された3相交流座標上での第1U相〜W相の電流Iu1〜Iw1を、第1および第2のロータ電気角θe1,θe2に基づき、dq座標上でのd軸電流Idおよびq軸電流Iqに変換する。このdq座標は、(2・θe2−θe1)をd軸とし、このd軸に直交する軸をq軸として、(2・ωe2−ωe1)で回転するものである。これらのωe2およびωe1はそれぞれ、第1ロータ電気角速度および第2ロータ電気角速度であり、第1および第2のロータ電気角θe1,θe2の時間微分値である。具体的には、d軸電流Idおよびq軸電流Iqは、次式(8)によって算出される。
また、電流座標変換器65cは、算出したd軸電流Idおよびq軸電流Iqを偏差算出部65dに出力する。
偏差算出部65dは、入力された目標d軸電流Id_tarとd軸電流Idとの偏差(以下「d軸電流偏差dId」という)を算出するとともに、入力された目標q軸電流Iq_tarとq軸電流Iqとの偏差(以下「q軸電流偏差dIq」という)を算出する。また、算出したd軸電流偏差dIdおよびq軸電流偏差dIqを、電流制御器65eに出力する。
電流制御器65eは、入力されたd軸およびq軸の電流偏差dId,dIqに基づき、所定のフィードバック制御アルゴリズム、例えばPI制御アルゴリズムによって、d軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqをそれぞれ算出する。これにより、d軸電圧Vdは、d軸電流Idが目標d軸電流Id_tarになるように算出され、q軸電圧Vqは、q軸電流Iqが目標q軸電流Iq_tarになるように算出される。また、算出したd軸およびq軸の電圧Vd,Vqを、電圧座標変換器65fに出力する。
電圧座標変換器65fは、入力されたd軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqを、入力された第1および第2のロータ電気角θe1,θe2に基づき、3相交流座標上でのU相〜W相の電圧に変換することによって、前述した第1U相電圧指令値Vu1_cmd、第1V相電圧指令値Vv1_cmdおよび第1W相電圧指令値Vw1_cmdを算出する。具体的には、第1U相〜W相の電圧指令値Vu1_cmd〜Vw1_cmdは、次式(9)によって算出される。
また、電圧座標変換器65fは、算出した第1U相〜W相の電圧指令値Vu1_cmd〜Vw1_cmdに基づく駆動信号を、第1PDU41に出力する。
これに伴い、第1PDU41は、U相、V相およびW相のコイル12cにそれぞれ、第1U相、V相およびW相の電圧指令値Vu1_cmd,Vv1_cmd,Vw1_cmdと同じ大きさの電圧を印可し、それにより、第1U相〜W相の電流Iu1〜Iw1が制御される。この場合、これらの電流Iu1〜Iw1は、次式(10)〜(12)でそれぞれ表される。
ここで、Iは、目標d軸およびq軸の電流Id_tar,Iq_tarに基づいて定まる各相の電流の振幅である。
上記のような電流制御により、第1および第2の回転磁界の磁束密度が制御されることによって、前述した第1および第2の磁力線G1,G2による磁力が変化し、その結果、第1ロータ伝達トルクTR1が、第1ロータ目標トルクTR1_tarになるように制御される。これにより、第1ロータ伝達トルクTR1は、操舵トルクTSと同じ大きさの逆向きのトルクになり、操舵トルクTSと釣り合う。また、上記のような電流制御により、磁界電気角度位置が(2θe2−θe1)で表される電気角度位置に制御される。
以上のように、ECU61および第1PDU41で構成される制御器によって、操舵角θSと所定の目標値(目標角度θS_tar)との偏差に基づき、第1ロータ11に出力される駆動力(第1ロータ伝達トルクTR1)の目標値(第1ロータ目標トルクTR1_tar)が決定されるとともに、第1ロータ11に出力される駆動力が、決定された目標値になるように制御される。
さらに、図14に示す第2回転機目標トルク算出部66は、入力された第1ロータ目標トルクTR1_tarに基づき、第2回転機目標トルクTM2_tarを次のようにして算出するとともに、算出した第2回転機目標トルクTM2_tarを第2電圧指令値算出部67に出力する。この第2回転機目標トルクTM2_tarは、第2回転機トルクの目標値であり、したがって、前述したアシストトルクの目標値に相当する。
具体的には、まず、第1ロータ目標トルクTR1_tarは前述したように操舵トルクTSと同じ大きさの逆向きのトルクとして算出されるため、第1ロータ目標トルクTR1_tarの絶対値(|TR1_tar|)を、操舵トルクTSの推定値(以下「操舵トルク推定値」という)TSESTとして設定する。次いで、この操舵トルク推定値TSESTを用い、次式(13)によって第2回転機目標トルクTM2_tarを算出する。
TM2_tar=(KAS−2)TSEST ……(13)
ここで、KASは、操舵アシスト用のアシスト係数であり、例えば、操舵角θSおよび操舵トルク推定値TSESTに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって算出される。
また、第2電圧指令値算出部67には、上記の第2回転機目標トルクTM2_tarに加え、ロータ回転角θRおよび第2U相〜W相の電流Iu2,Iv2,Iw2が入力される。第2電圧指令値算出部67は、入力されたこれらのパラメータに応じ、ベクトル制御によって、第2回転機20のU相、V相およびW相のコイルに印可する電圧の指令値(以下、それぞれ「第2U相電圧指令値Vu2_cmd」「第2V相電圧指令値Vv2_cmd」「第2W相電圧指令値Vw2_cmd」という)を算出する。その算出手法は、従来のものと同様であるので、その詳細な説明については省略する。また、第2電圧指令値算出部67は、算出した第2U相〜W相の電圧指令値Vu2_cmd〜Vw2_cmdに基づく駆動信号を第2PDU42に出力する。これにより、第2回転機20のU相、V相およびW相のコイルに印可される電圧がそれぞれ、第2U相、V相およびW相の電圧指令値Vu2_cmd,Vv2_cmd,Vw2_cmdになるように制御されることによって、第2回転機トルクが第2回転機目標トルクTM2_tarになるように制御される。
第2回転機目標トルクTM2_tarすなわちアシストトルクの目標値を上述したようにして算出するのは、次の理由による。すなわち、これまでに述べた制御動作を行った場合の第1回転機10におけるトルクの釣り合い関係は、ステータ12と第1ロータ11と第2ロータ13の間における前述したエネルギの入出力関係から、例えば図16のように示される。同図では、値0を示す横線に交わる縦線は、前述した図10などの速度共線図と異なり、各パラメータの回転角度位置を表すためのものであり、この縦線上に表される白丸と横線との隔たりが、各パラメータの回転角度位置に相当する。同図では、便宜上、この白丸の付近に各パラメータの回転角度位置を表す符号を表記している。また、DSWは、操舵輪反力であり、操舵輪W,Wから第2ロータ13に作用する反力に相当する。
この場合、駆動用等価トルクTSEは、第1ロータ11に伝達される操舵トルクTSを反力として、第2ロータ回転角θ2を増大させるように作用する。このことから明らかなように、駆動用等価トルクTSEと操舵トルクTSとの合力が、第1および第2の回転磁界の発生に伴って第2ロータ13に伝達される第2ロータ伝達トルクTR2に相当し、第2ロータ伝達トルクTR2は、操舵トルクTSと同じ向きのトルクとして、操舵輪W,Wに作用する。この場合、前記式(7)を用いて説明したように、第1ロータ伝達トルクTR1と第2ロータ伝達トルクTR2とのトルク比が、|TR1|:|TR2|=1:2であることから、操舵輪W,Wに作用する第2ロータ伝達トルクTR2の大きさは、第1ロータ目標トルクTR1_tarの絶対値すなわち操舵トルク推定値TSESTの2倍に等しい。
前記式(13)の右辺において、2・TSESTを減算しているのは、操舵輪W,Wに上記のように作用する第2ロータ伝達トルクTR2の分を差し引くことによって、第2ロータ伝達トルクTR2と第2回転機20によるアシストトルクの和を、操舵トルクTSのアシスト係数KAS倍(=TS・KAS)の大きさに制御するためである。以上により、操舵輪W,Wに実際に伝達されるトルクは、操舵トルクTSのアシスト係数KAS倍の大きさになる。また、アシスト係数KASを算出するための前述したマップでは、アシスト係数KASは、連結軸2の回転角度位置が操舵角θSと同じになり、操舵輪W,Wの舵角が操舵角θSに応じた適切な大きさになるように設定されている。なお、アシスト係数KASが値2.0よりも小さい場合には、前記式(13)から明らかなように、第2回転機目標トルクTM2_tarは負値となり、それにより、第2回転機トルクは、操舵トルクTSと逆向きのトルクとして出力される。
図17は、本実施形態による駆動力伝達装置1を用いた場合のシミュレーション結果(図17(a))を、比較例(図17(b))ととともに示している。この比較例は、前述した第1ロータ目標トルクTR1_tarの算出を、定常偏差を許容するPDフィードバック制御アルゴリズムではなく、定常偏差を許容しない所定のフィードバック制御アルゴリズム、例えばPIDフィードバック制御アルゴリズムで行った例である。図17(a)および(b)において、θOは、連結軸2の回転角度位置(以下「連結軸回転角」という)を示している。
図17(a)に示すように、本実施形態では、操舵中、連結軸回転角θOは、操舵角θSとほぼ同じ大きさで変化しており、このことから、連結軸2を介して操舵輪W,Wに適切な大きさのトルクが伝達されていることが分かる。
これに対し、図17(b)に示す比較例では、操舵の開始から時点t1までは、操舵角θSおよび連結軸回転角θOの双方は、ほぼ同じ大きさで増大するものの、時点t1以降では、連結軸回転角θOはそのまま増大するのに対し、操舵角θSは減少する。これは、前述したように、第1ロータ目標トルクTR1_tarが操舵角θSが値0になるように算出されるので、定常偏差を許容しないフィードバック制御アルゴリズムを用いると、操舵トルクTSと逆向きのトルクとしてステアリングホイール31に作用する第1ロータ伝達トルクTR1が、極めて大きくなるためである。
以上から、駆動力伝達装置1では、前述したように、第1ロータ目標トルクTR1_tarを算出するためのフィードバック制御アルゴリズムとして、定常偏差を許容するフィードバック制御アルゴリズムが用いられる。
以上のように、本実施形態によれば、操舵角θSに応じ、第1および第2の回転磁界を制御することによって、第1ロータ伝達トルクTR1を操舵トルクTSに釣り合わせることができる。また、そのような第1ロータ伝達トルクTR1の目標値である第1ロータ目標トルクTR1_tarに基づいて、第2回転機目標トルクTM2_tarを算出するとともに、第2回転機トルクをこの目標トルクTM2_tarになるように制御するので、操舵輪W,Wに伝達されるトルクを、操舵トルクTSに応じた適切な大きさに制御できる。さらに、そのような制御を、操舵トルクTSを検出するセンサを用いることなく、行うことができる。
また、第1回転機10では、ステータ12、第1および第2のロータ11,13の間でのエネルギの入出力が、第1および第2の磁力線G1,G2で形成される磁気回路を介した磁気パスによって行われる。また、第1および第2の回転機10,20のみによって、操舵輪W,Wに伝達されるトルクを操舵トルクTSに応じた適切な大きさに制御できるので、前述した従来の場合と異なり、そのための遊星歯車装置は不要である。以上により、従来の場合と比較して、操舵輪W,Wに伝達されるトルクを適切に制御できるとともに、駆動力伝達装置1の構成の単純化、小型化および軽量化を図ることができる。さらに、前記式(13)と後述する式(14)との比較から明らかなように、後述する第2実施形態の場合と比較して、第2回転機トルクを小さくすることができ、それにより、第2回転機20の小型化を図ることができる。
次に、図18を参照しながら、本発明の第2実施形態による駆動力伝達装置1Aについて説明する。この駆動力伝達装置1Aは、第1実施形態の駆動力伝達装置1と比較して、ステアリングホイール31および操舵輪W,Wに対する第1および第2のロータ11,13の連結関係が逆になっている点が主に異なっている。すなわち、図18に示すように、第2ロータ13は、ステアリングホイール31に連結されるとともに、第1ロータ11は、連結軸2を介して操舵輪W,Wに連結されている。同図および後述する他の図面において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
駆動力伝達装置1Aでは、第2および第1のロータ13,11がステアリングホイール31および操舵輪W,Wにそれぞれ連結されているため、操舵中の制御動作は、第1実施形態と異なり、次のようにして行われる。すなわち、操舵角θSに基づき、第1および第2の回転磁界を制御することによって、第1および第2の回転磁界の発生に伴って第2ロータ13に伝達される第2ロータ伝達トルクTR2を、操舵トルクTSに釣り合うように制御する。また、そのように制御される第2ロータ伝達トルクTR2に基づき、第2回転機トルクを制御することによって、アシストトルクを付加する。以下、図19を参照しながら、操舵中の制御動作について説明する。
同図に示すように、操舵角算出部68には、第2ロータ回転角θ2が入力され、操舵角算出部68は、入力された第2ロータ回転角θ2に基づき、操舵角θSを算出する。これは、第2ロータ13がステアリングホイール31に直結されているためである。なお、本実施形態では、第2回転角センサ52および操舵角算出部68が、本発明における回転角検出手段に相当する。
また、ECU61は、第1ロータ目標トルク算出部64に代えて、第2ロータ目標トルク算出部69(第1制御手段)を備えており、上記の操舵角θSと前述した目標角度θS_tarは、この第2ロータ目標トルク算出部69に入力される。第2ロータ目標トルク算出部69は、入力された操舵角θSおよび目標角度θS_tarに基づき、第2ロータ目標トルクTR2_tarを算出するとともに、算出した第2ロータ目標トルクTR2_tarを、第1電圧指令値算出部65および第2回転機目標トルク算出部70(第2制御手段)に出力する。この第2ロータ目標トルクTR2_tarは、第1および第2の回転磁界の発生に伴って第2ロータ13に伝達される第2ロータ伝達トルクTR2の目標値であり、その算出は次のようにして行われる。
すなわち、目標角度θS_tarと操舵角θSとの偏差を算出するとともに、この偏差に基づき、所定のフィードバック制御アルゴリズムによって、操舵角θSが目標角度θS_tarになるように、第2ロータ目標トルクTR2_tarを算出する。この場合にも、第1実施形態と同様、目標角度θS_tarが値0に設定されることから、上記の所定のフィードバック制御アルゴリズムとして、定常偏差を許容するようなフィードバック制御アルゴリズム、例えばPDフィードバック制御アルゴリズムが用いられる。また、このPDフィードバック制御アルゴリズムで用いられるP項およびD項のゲインは、操舵角θSと操舵トルクTSの関係を実験によりあらかじめ求め、そのときどきの操舵角θSに対応する操舵トルクTSと同じ大きさに第2ロータ目標トルクTR2_tarがなるように設定されている。以上により、第2ロータ目標トルクTR2_tarは、操舵トルクTSと同じ大きさの逆向きのトルクとして算出される。
図20に示すように、第1電圧指令値算出部65の目標電流算出部65gは、入力された第2ロータ目標トルクTR2_tarに基づき、マップ(図示せず)を検索することによって、前述した目標d軸およびq軸の電流Id_tar,Iq_tarを算出するとともに、算出した目標d軸およびq軸の電流Id_tar,Iq_tarを、偏差算出部65dに出力する。上記のマップは、d軸電流Idおよびq軸電流Iqと第2ロータ伝達トルクTR2との関係を実験により求め、マップ化したものであり、このマップでは、目標d軸およびq軸の電流Id_tar,Iq_tarは、第2ロータ目標トルクTR2_tarが大きいほど、より大きな値に設定されている。
また、図20に示すように、第1電圧指令値算出部65の目標電流算出部65g以外の構成要素は、第1実施形態と同様に構成されている。したがって、上記のように算出された目標d軸およびq軸の電流Id_tar,Iq_tarに応じ、第1実施形態と同様にして、第1U相〜W相の電圧指令値Vu1_cmd〜Vw1_cmdが算出されるとともに、これらの指令値Vu1_cmd〜Vw1_cmdに基づく駆動信号が、第1PDU41に出力される。これにより、第1U相〜W相の電流Iu1〜Iw1が制御されることにより、第1および第2の回転磁界の磁束密度が制御されることによって、前述した第1および第2の磁力線G1,G2による磁力が変化し、その結果、第2ロータ伝達トルクTR2が、第2ロータ目標トルクTR2_tarになるように制御される。これにより、第2ロータ伝達トルクTR2は、操舵トルクTSとほぼ同じ大きさの逆向きのトルクになり、操舵トルクTSと釣り合う。
以上のように、ECU61および第1PDU41で構成される制御器によって、操舵角θSと所定の目標値(目標角度θS_tar)との偏差に基づき、第2ロータ13に出力される駆動力(第2ロータ伝達トルクTR2)の目標値(第2ロータ目標トルクTR2_tar)が決定されるとともに、第2ロータ13に出力される駆動力が、決定された目標値になるように制御される。
さらに、図19に示す第2回転機目標トルク算出部70は、入力された第2ロータ目標トルクTR2_tarに基づき、第2回転機目標トルクTM2_tarを次のようにして算出するとともに、算出した第2回転機目標トルクTM2_tarを第2電圧指令値算出部67に出力する。
具体的には、まず、第2ロータ目標トルクTR2_tarは前述したように操舵トルクTSと同じ大きさの逆向きのトルクとして算出されるため、第2ロータ目標トルクTR2_tarの絶対値(|TR2_tar|)を、操舵トルク推定値TSESTとして設定する。次いで、操舵トルク推定値TSESTを用い、次式(14)によって第2回転機目標トルクTM2_tarを算出する。
TM2_tar={KAS−(1/2)}TSEST ……(14)
第2電圧指令値算出部67は、第1実施形態と同様、上記の第2回転機目標トルクTM2_tarや、ロータ回転角θRおよび第2U相〜W相の電流Iu2,Iv2,Iw2に応じ、ベクトル制御によって、第2U相〜W相の電圧指令値Vu2_cmd〜Vw2_cmdを算出する。また、算出したこれらの指令値Vu2_cmd〜Vw2_cmdに基づく駆動信号を第2PDU42に出力する。これにより、第2回転機20のU相、V相およびW相のコイルに印可される電圧がそれぞれ、第2U相、V相およびW相の電圧指令値Vu2_cmd,Vv2_cmd,Vw2_cmdになるように制御されることによって、第2回転機トルクが第2回転機目標トルクTM2_tarになるように制御される。
第2回転機目標トルクTM2_tarすなわちアシストトルクの目標値を上述したようにして算出するのは、次の理由による。すなわち、これまでに述べた制御動作を行った場合の第1回転機10におけるトルクの釣り合い関係は、ステータ12、第1および第2ロータ11,13の間における前述したエネルギの入出力関係から、例えば図21のように示される。同図では、前述した図16と同様、各パラメータの回転角度位置の関係の一例をトルクの釣り合い関係の一例とともに表示したものである。また、便宜上、この白丸の付近に各パラメータの回転角度位置を表す符号を表記している。
この場合、駆動用等価トルクTSEは、第2ロータ13に伝達される操舵トルクTSを反力として、第1ロータ回転角θ1を増大させるように作用する。このことから明らかなように、駆動用等価トルクTSEと操舵トルクTSとの合力が、第1および第2の回転磁界の発生に伴って第1ロータ11に伝達される第1ロータ伝達トルクTR1に相当し、第1ロータ伝達トルクTR1は、操舵トルクTSと同じ向きのトルクとして、操舵輪W,Wに作用する。この場合、前述したように、第1ロータ伝達トルクTR1と第2ロータ伝達トルクTR2とのトルク比が、|TR2|:|TR1|=2:1であることから、操舵輪W,Wに作用する第1ロータ伝達トルクTR1の大きさは、第2ロータ目標トルクTR2_tarの絶対値すなわち操舵トルク推定値TSESTの1/2に等しい。
前記式(14)の右辺において、(1/2)・TSESTを減算しているのは、操舵輪W,Wに上記のように作用する第1ロータ伝達トルクTR1の分を差し引くことによって、第1ロータ伝達トルクTR1と第2回転機20によるアシストトルクの和を、操舵トルクTSのアシスト係数KAS倍の大きさに制御するためである。以上により、操舵輪W,Wに実際に伝達されるトルクは、操舵トルクTSのアシスト係数KAS倍の大きさになる。
以上のように、本実施形態によれば、操舵角θSに応じ、第1および第2の回転磁界を制御することによって、第2ロータ伝達トルクTR2を操舵トルクTSに釣り合わせることができる。また、そのような第2ロータ伝達トルクTR2の目標値である第2ロータ目標トルクTR2_tarに基づいて、第2回転機目標トルクTM2_tarを算出するとともに、第2回転機トルクをこの目標トルクTM2_tarになるように制御するので、操舵輪W,Wに伝達されるトルクを、操舵トルクTSに応じた適切な大きさに制御できる。さらに、第1実施形態と同様、そのような制御を、操舵トルクTSを検出するセンサを用いることなく、行うことができる。また、第1実施形態と同様、従来の場合と比較して、操舵輪W,Wに伝達されるトルクを適切に制御できるとともに、駆動力伝達装置1Aの構成の単純化、小型化および軽量化を図ることができる。
なお、第1および第2の実施形態ではそれぞれ、第1および第2のロータ11,13と第2回転機20とを、連結軸2を介して操舵輪W,Wに連結しているが、操舵輪W,Wとの連結の構成は、これに限らず任意である。また、第1および第2のロータ11,13と第2回転機20とを、互いに異なる2つの伝達経路を介して操舵輪W,Wに連結してもよい。さらに、第1および第2の実施形態では、目標角度θS_tarを値0に設定しているが、そのときどきの操舵角θSよりも小さな所定値に設定してもよい。また、第1および第2の実施形態では、操舵角θSを、第1および第2のロータ回転角θ1,θ2に基づいて算出しているが、電磁ピックアップ式などの各種のセンサを用いて直接、検出してもよい。
さらに、第1および第2の実施形態における第1および第2のロータ伝達トルクTR1,TR2を操舵トルクTSにそれぞれ釣り合わせるための制御手法は、前述したものに限らず、他の適当な制御手法でもよい。以下、そのような制御手法の一例を、第1実施形態の場合について説明する。具体的には、実施形態と同様、第1および第2の回転磁界の制御により、第1ロータ伝達トルクTR1を操舵トルクTSに対して逆向きのトルクになるように制御する。それに加え、操舵による操舵角θSの増大中には、ステアリングホイール31の回転角速度、すなわち、操舵角θSの時間微分値(以下「操舵角速度」という)を算出するとともに、算出した操舵角速度が一定となるように、第1ロータ伝達トルクTR1を制御する。その後、操舵角θSが任意の所定値に保持されたときには、第1ロータ伝達トルクTR1を、その直前の値に保持する。
このような制御手法を用いるのは次の理由による。すなわち、操舵による操舵角θSの増大中、第1ロータ11に一定の操舵トルクTSが入力されている場合には、操舵角速度は、第1ロータ伝達トルクTR1が操舵トルクTSよりも大きくなるのに伴って減少する一方、操舵トルクTSよりも小さくなるのに伴って増大する。このことから、操舵角速度が一定であるということは、第1ロータ伝達トルクTR1と操舵トルクTSが釣り合っていることを適切に表す。したがって、上記のような制御手法を用いることによって、入力される操舵トルクTSの大小にかかわらず、第1ロータ伝達トルクTR1を操舵トルクTSに適切に釣り合わせることができる。第2実施形態の場合には、上記の制御手法において、第1ロータ伝達トルクTR1を第2ロータ伝達トルクTR2に置き換えればよい。
また、第1および第2の実施形態は、本発明の駆動力伝達装置を、車両用の電動パワーステアリング装置に適用した例であるが、本発明はこれに限らず、例えば、船舶用および航空機用の操舵アシスト装置など、各種の装置に適用可能である。
次に、図22を参照しながら、本発明の第3実施形態による駆動力伝達装置1Bについて説明する。この駆動力伝達装置1Bは、車両の駆動系に用いられたものであり、内燃機関(以下「エンジン」という)81の駆動力を、左右の駆動輪DW,DWに伝達するとともに、その伝達の際に、適宜、アシストトルクを付加する(エンジンアシスト)ものである。図22に示すように、駆動力伝達装置1Bは、前述した第1および第2の回転機10,20と、駆動力を駆動輪DW,DWに伝達するためのギヤ機構83および差動ギヤ機構84とを備えている。なお、同図では、便宜上、第1回転機10の構成要素を簡略化して表示している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図22に示すように、第1ロータ11は、エンジン81のクランク軸81aに連結(直結)されており、それにより、クランク軸81aと一体に回転自在になっている。また、第2ロータ13は、第2回転機20の出力軸21に連結(直結)されており、それにより、出力軸21と一体に回転自在になっている。さらに、出力軸21は、回転軸82の一端部に直結されている。また、ギヤ機構83は、回転軸82に平行な第1および第2のギヤ軸83a,83bと、回転軸82や第1ギヤ軸83a、第2ギヤ軸83bに設けられた第1〜第4のギヤ83c,83d,83e,83fを有している。
この第1ギヤ83cは、回転軸82の他端部に固定されており、第2ギヤ83dに噛み合っている。この第2ギヤ83dは、第1ギヤ軸83aに回転自在に嵌合しており、第1ギヤ83cに加えて、第2ギヤ軸83bの一端部に固定された第3ギヤ83eに噛み合っている。また、第4ギヤ83fは、第2ギヤ軸83dの他端部に固定されており、差動ギヤ機構84のギヤ84aに噛み合っている。さらに、差動ギヤ機構84は、左右の駆動軸85,85を介して、左右の駆動輪DW,DWに連結されている。以上のように、第1ロータ11および第2回転機20の出力軸21はいずれも、回転軸82やギヤ機構83、差動ギヤ機構84を介して、駆動輪DW,DWに連結されている。
なお、本実施形態では、エンジン81およびクランク軸81aが、本発明における動力源および出力軸にそれぞれ相当し、駆動輪DW,DWが、本発明における被駆動部に相当する。
また、駆動力伝達装置1Bでは、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEに基づき、第1および第2の回転磁界を制御することによって、第1および第2の回転磁界の発生に伴って第1ロータ11に伝達される第1ロータ伝達トルクTR1を、エンジン3のトルク(以下「エンジントルクTE」という)に釣り合うように制御する。また、そのように制御される第1ロータ伝達トルクTR1に基づき、第2回転機トルクを制御することによって、アシストトルクを付加する。以下、図23を参照しながら、この場合の制御動作について説明する。同図において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。
図23に示すように、ECU61は、前述した操舵角算出部62および目標角度設定部63に代えて、回転数算出部71および目標回転数設定部72を有している。この回転数算出部71は、入力された第1ロータ回転角θ1に基づき、エンジン回転数NEを算出するとともに、第1ロータ目標トルク算出部73(第1制御手段)に出力する。このようにしてエンジン回転数NEを算出するのは、上述したように第1ロータ11がクランク軸81aに直結されているためである。目標回転数設定部72は、目標回転数NE_tarを所定値、例えば値0に設定するとともに、設定した目標回転数NE_tarを、第1ロータ目標トルク算出部73に出力する。
なお、本実施形態では、第1回転角センサ51、ECU61および回転数算出部71が、本発明における回転数検出手段に相当する。
第1ロータ目標トルク算出部73は、入力されたエンジン回転数NEおよび目標回転数NE_tarに基づき、第1ロータ目標トルクTR1_tarを算出するとともに、算出した第1ロータ目標トルクTR1_tarを、第1実施形態と同様、第1電圧指令値算出部65および第2回転機目標トルク算出部74(第2制御手段)に出力する。この場合、第1ロータ目標トルクTR1_tarの算出は次のようにして行われる。
すなわち、目標回転数NE_tarとエンジン回転数NEとの偏差を算出するとともに、この偏差に基づき、所定のフィードバック制御アルゴリズムによって、エンジン回転数NEが目標回転数NE_tarになるように、第1ロータ目標トルクTR1_tarを算出する。上述したように目標回転数NE_tarが値0に設定されることと、上記の算出手法から明らかなように、第1ロータ目標トルクTR1_tarは、エンジントルクTEに対して、逆向きのトルクとして算出される。また、この場合、上記の所定のフィードバック制御アルゴリズムとして、定常偏差を許容するようなフィードバック制御アルゴリズム、例えばPDフィードバック制御アルゴリズムが用いられる。この理由は、第1実施形態の場合と同様、エンジン回転数NEの低下を防止するためである。
さらに、このPDフィードバック制御アルゴリズムに用いられるP項およびD項のゲインは、次のような手法によって、あらかじめ設定されている。すなわち、エンジン回転数NEとエンジントルクTEの関係を実験によりあらかじめ求め、そのときどきのエンジン回転数NEに対応するエンジントルクTEと同じ大きさに第1ロータ目標トルクTR1_tarがなるように、P項およびD項のゲインが設定されている。以上により、第1ロータ目標トルクTR1_tarは、エンジントルクTEと同じ大きさの逆向きのトルクとして算出される。
また、図23に示すように、第1電圧指令値算出部65は、第1実施形態と同様に構成されており、したがって、上記のように算出された第1ロータ目標トルクTR1_tarに応じ、第1実施形態と同様にして、第1U相〜W相の電圧指令値Vu1_cmd〜Vw1_cmdが算出される。これにより、第1U相〜W相の電流Iu1〜Iw1が制御されることにより、第1および第2の回転磁界の磁束密度が制御されることによって、前述した第1および第2の磁力線G1,G2による磁力が変化し、その結果、第1ロータ伝達トルクTR1が、第1ロータ目標トルクTR1_tarになるように制御される。これにより、第1ロータ伝達トルクTR1は、エンジントルクTEとほぼ同じ大きさの逆向きのトルクになり、エンジントルクTEと釣り合う。
以上のように、ECU61および第1PDU41で構成される制御器によって、エンジン回転数NEと所定の目標値(目標回転数NE_tar)との偏差に基づき、第1ロータ11に出力される駆動力(第1ロータ伝達トルクTR1)の目標値(第1ロータ目標トルクTR1_tar)が決定されるとともに、第1ロータ11に出力される駆動力が、決定された目標値になるように制御される。
第2回転機目標トルク算出部74は、入力された第1ロータ目標トルクTR1_tarに基づき、第2回転機目標トルクTM2_tarを次のようにして算出するとともに、算出した第2回転機目標トルクTM2_tarを第2電圧指令値算出部67に出力する。具体的には、まず、第1ロータ目標トルクTR1_tarは上述したようにエンジントルクTEと同じ大きさの逆向きのトルクとして算出されるため、第1ロータ目標トルクTR1_tarの絶対値(|TR1_tar|)を、エンジントルクTEの推定値(以下「エンジントルク推定値」という)TEESTとして設定する。次いで、このエンジントルク推定値TEESTを用い、次式(15)によって第2回転機目標トルクTM2_tarを算出する。
TM2_tar=(KAE−2)TEEST ……(15)
ここで、KAEは、エンジンアシスト用のアシスト係数であり、例えば、エンジン回転数NEおよびエンジントルク推定値TEESTに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって算出される。
また、第2電圧指令値算出部67は、入力された第2回転機目標トルクTM2_tarなどに応じ、第1実施形態と同様にして、第2U相〜W相の電圧指令値Vu2_cmd〜Vw2_cmdを算出するとともに、算出したこれらの指令値Vu2_cmd〜Vw2_cmdに基づく駆動信号を第2PDU42に出力する。これにより、第1実施形態と同様、第2回転機トルクが第2回転機目標トルクTM2_tarになるように制御される。
さらに、第2回転機目標トルクTM2_tarを上述したようにして算出する理由、第1実施形態と基本的に同じである。具体的には、この場合の第1回転機10におけるトルクの釣り合い関係は、例えば図24のように示される。同図は、前述した図10などと同様の速度共線図に、トルクの釣り合い関係の一例を併せて表示したものである。同図において、DDWは、駆動輪反力であり、駆動輪DW,DWから第2ロータ13に作用する反力に相当する。この場合、駆動用等価トルクTSEは、第1ロータ11に伝達されるエンジントルクTEを反力として、第2ロータ回転数NR2を増大させるように作用する。このことから明らかなように、駆動用等価トルクTSEとエンジントルクTEとの合力が、第1および第2の回転磁界の発生に伴って第2ロータ13に伝達される第2ロータ伝達トルクTR2に相当し、第2ロータ伝達トルクTR2は、エンジントルクTEと同じ向きのトルクとして、駆動輪DW,DWに作用する。この場合、前記式(7)から明らかなように、駆動輪DW,DWに作用する第2ロータ伝達トルクTR2の大きさは、第1ロータ目標トルクTR1_tarの絶対値すなわちエンジントルク推定値TEESTの2倍に等しい。
上記式(15)の右辺において、2・TEESTを減算しているのは、駆動輪DW,DWに上記のように作用する第2ロータ伝達トルクTR2の分を差し引くことによって、第2ロータ伝達トルクTR2と第2回転機20によるアシストトルクの和を、エンジントルクTEのアシスト係数KAE倍(=TE・KAE)の大きさに制御するためである。以上により、駆動輪DW,DWに実際に伝達されるトルクは、エンジントルクTEのアシスト係数KAE倍の大きさになる。また、アシスト係数KAEを算出するための前述したマップでは、アシスト係数KAEは、エンジン81の良好な燃費が得られるような値に設定されている。なお、アシスト係数KAEが値2.0よりも小さい場合には、式(15)から明らかなように、第2回転機目標トルクTM2_tarは負値となり、それにより、第2回転機トルクは、エンジントルクTEと逆向きのトルクとして出力される。あるいは、この場合、第2回転機20では、第2回転機目標トルクTM2_tarと同じ大きさの逆向きのトルクが駆動輪DW,DWに作用するように発電が行われ、発電した電力は、第1回転機10に供給されるか、バッテリ43に充電される。
以上のように、本実施形態によれば、エンジン回転数NEに応じ、第1および第2の回転磁界を制御することによって、第1ロータ伝達トルクTR1をエンジントルクTEに釣り合わせることができる。また、そのような第1ロータ伝達トルクTR1の目標値である第1ロータ目標トルクTR1_tarに基づいて、第2回転機目標トルクTM2_tarを算出するとともに、第2回転機トルクをこの目標トルクTM2_tarになるように制御するので、駆動輪DW,DWに伝達されるトルクを、エンジントルクTEに応じた適切な大きさに制御できる。さらに、そのような制御を、エンジントルクTEを検出するセンサを用いることなく、行うことができる。
また、第1実施形態と同様、第1回転機10では、ステータ12、第1および第2のロータ11,13の間でのエネルギの入出力が、第1および第2の磁力線G1,G2で形成される磁気回路を介した磁気パスによって行われる。また、第1および第2の回転機10,20のみによって、駆動輪DW,DWに伝達されるトルクをエンジントルクTEに応じた適切な大きさに制御できるので、従来の場合と異なり、そのための遊星歯車装置は不要である。以上により、従来の場合と比較して、駆動輪DW,DWに伝達されるトルクを適切に制御できるとともに、駆動力伝達装置1Bの構成の単純化、小型化および軽量化を図ることができる。さらに、式(15)と後述する式(16)との比較から明らかなように、後述する第4実施形態の場合と比較して、第2回転機トルクを小さくすることができ、それにより、第2回転機20の小型化を図ることができる。
次に、図25を参照しながら、本発明の第4実施形態による駆動力伝達装置1Cについて説明する。この駆動力伝達装置1Cは、第3実施形態の駆動力伝達装置1Bと比較して、クランク軸81aおよび駆動輪DW,DWに対する第1および第2のロータ11,13の連結関係が逆になっている点が主に異なっている。すなわち、図25に示すように、第2ロータ13は、クランク軸81aに連結されるとともに、第1ロータ11は、回転軸21やギヤ機構83などを介して駆動輪DW,DWに連結されている。同図および後述する他の図面において、第3実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第3実施形態と異なる点を中心に説明する。
駆動力伝達装置1Cでは、第2および第1のロータ13,11がクランク軸81aおよび駆動輪DW,DWにそれぞれ連結されているため、エンジンアシスト中の制御動作は、第3実施形態と異なり、次のようにして行われる。すなわち、エンジン回転数NEに基づき、第1および第2の回転磁界を制御することによって、第1および第2の回転磁界の発生に伴って第2ロータ13に伝達される第2ロータ伝達トルクTR2を、エンジントルクTEに釣り合うように制御する。また、そのように制御される第2ロータ伝達トルクTR2に基づき、第2回転機トルクを制御することによって、アシストトルクを付加する。以下、図26を参照しながら、エンジンアシスト中の制御動作について説明する。
同図に示すように、回転数算出部75には、第2ロータ回転角θ2が入力され、回転数算出部75は、入力された第2ロータ回転角θ2に基づいて、エンジン回転数NEを算出する。これは、第2ロータ13がクランク軸81aに直結されているためである。なお、本実施形態では、第2回転角センサ52および回転数算出部75が、本発明における回転数検出手段に相当する。
また、ECU61は、第1ロータ目標トルク算出部73に代えて、第2ロータ目標トルク算出部76(第1制御手段)を備えており、上記のエンジン回転数NEと前述した目標回転数NE_tarは、この第2ロータ目標トルク算出部76に入力される。第2ロータ目標トルク算出部76は、入力されたエンジン回転数NEおよび目標回転数NE_tarに基づいて、第2ロータ目標トルクTR2_tarを算出するとともに、算出した第2ロータ目標トルクTR2_tarを、第1電圧指令値算出部65および第2回転機目標トルク算出部77(第2制御手段)に出力する。この場合、第2ロータ目標トルクTR2_tarの算出は次のようにして行われる。
すなわち、目標回転数NE_tarとエンジン回転数NEとの偏差を算出するとともに、この偏差に基づき、所定のフィードバック制御アルゴリズムによって、エンジン回転数NEが目標回転数NE_tarになるように、第2ロータ目標トルクTR2_tarを算出する。この場合にも、第1実施形態と同様、上記の所定のフィードバック制御アルゴリズムとして、定常偏差を許容するようなフィードバック制御アルゴリズム、例えばPDフィードバック制御アルゴリズムが用いられる。また、このPDフィードバック制御アルゴリズムで用いられるP項およびD項のゲインは、エンジン回転数NEとエンジントルクTEの関係を実験によりあらかじめ求め、そのときどきのエンジン回転数NEに対応するエンジントルクTEと同じ大きさに第2ロータ目標トルクTR2_tarがなるように設定されている。以上により、第2ロータ目標トルクTR2_tarは、エンジントルクTEと同じ大きさの逆向きのトルクとして算出される。
第1電圧指令値算出部65は、入力された第2ロータ目標トルクTR2_tarなどに応じ、第2実施形態と同様にして、第1U相〜W相の電圧指令値Vu1_cmd〜Vw1_cmdを算出するとともに、算出したこれらの指令値Vu1_cmd〜Vw1_cmdに基づく駆動信号を第1PDU41に出力する。これにより、第1U相〜W相の電流Iu1〜Iw1が制御されることにより、第1および第2の回転磁界の磁束密度が制御されることによって、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力が変化し、その結果、第1および第2の回転磁界の発生に伴って第2ロータ13に作用する第2ロータ伝達トルクTR2が、第2ロータ目標トルクTR2_tarになるように制御される。これにより、第2ロータ伝達トルクTR2は、エンジントルクTEとほぼ同じ大きさの逆向きのトルクになり、エンジントルクTEと釣り合う。
以上のように、ECU61および第1PDU41で構成される制御器によって、エンジン回転数NEと所定の目標値(目標回転数NE_tar)との偏差に基づき、第2ロータ13に出力される駆動力(第2ロータ伝達トルクTR2)の目標値(第2ロータ目標トルクTR2_tar)が決定されるとともに、第2ロータ13に出力される駆動力が、決定された目標値になるように制御される。
また、第2回転機目標トルク算出部77は、入力された第2ロータ目標トルクTR2_tarに基づき、第2回転機目標トルクTM2_tarを次のようにして算出するとともに、算出した第2回転機目標トルクTM2_tarを第2電圧指令値算出部67に出力する。
具体的には、まず、第2ロータ目標トルクTR2_tarは上述したようにエンジントルクTEと同じ大きさの逆向きのトルクとして算出されるため、第2ロータ目標トルクTR2_tarの絶対値(|TR2_tar|)を、エンジントルク推定値TEESTとして設定する。次いで、エンジントルク推定値TEESTを用い、次式(16)によって第2回転機目標トルクTM2_tarを算出する。
TM2_tar={KAE−(1/2)}TEEST ……(16)
第2電圧指令値算出部67は、第1実施形態と同様にして、第2U相〜W相の電圧指令値Vu2_cmd〜Vw2_cmdを算出する。また、算出したこれらの指令値Vu2_cmd〜Vw2_cmdに基づく駆動信号を第2PDU42に出力する。これにより、第2回転機20のU相、V相およびW相のコイルに印可される電圧がそれぞれ、第2U相、V相およびW相の電圧指令値Vu2_cmd,Vv2_cmd,Vw2_cmdになるように制御されることによって、第2回転機トルクが第2回転機目標トルクTM2_tarになるように制御される。
また、第2回転機目標トルクTM2_tarすなわちアシストトルクの目標値を上述したようにして算出するのは、次の理由による。すなわち、この場合の第1回転機10におけるトルクの釣り合い関係は、例えば図27のように示される。同図は、前述した図24と同様、速度共線図にトルクの釣り合い関係の一例を併せて表示したものである。この場合、駆動用等価トルクTSEは、第2ロータ13に伝達されるエンジントルクTEを反力として、第1ロータ回転数NR1を増大させるように作用する。このことから明らかなように、駆動用等価トルクTSEとエンジントルクTEとの合力が、第1および第2の回転磁界の発生に伴って第1ロータ11に伝達される第1ロータ伝達トルクTR1に相当し、第1ロータ伝達トルクTR1は、エンジントルクTEと同じ向きのトルクとして、駆動輪DW,DWに作用する。この場合、前記式(7)から明らかなように、駆動輪DW,DWに作用する第1ロータ伝達トルクTR1の大きさは、第2ロータ目標トルクTR2_tarの絶対値すなわちエンジントルク推定値TEESTの1/2に等しい。
前記式(16)の右辺において、(1/2)・TEESTを減算しているのは、駆動輪DW,DWに上記のように作用する第1ロータ伝達トルクTR1の分を差し引くことによって、第1ロータ伝達トルクTR1と第2回転機20によるアシストトルクの和を、エンジントルクTEのアシスト係数KAE倍の大きさに制御するためである。以上により、駆動輪DW,DWに実際に伝達されるトルクは、エンジントルクTEのアシスト係数KAE倍の大きさになる。
以上のように、本実施形態によれば、エンジン回転数NEに応じ、第1および第2の回転磁界を制御することによって、第2ロータ伝達トルクTR2をエンジントルクTEに釣り合わせることができる。また、そのような第2ロータ伝達トルクTR2の目標値である第2ロータ目標トルクTR2_tarに基づいて、第2回転機目標トルクTM2_tarを算出するとともに、第2回転機トルクをこの目標トルクTM2_tarになるように制御するので、駆動輪DW,DWに伝達されるトルクを、エンジントルクTEに応じた適切な大きさに制御できる。さらに、第3実施形態と同様、そのような制御を、エンジントルクTEを検出するセンサを用いることなく、行うことができる。また、第3実施形態と同様、従来の場合と比較して、駆動輪DW,DWに伝達されるトルクを適切に制御できるとともに、駆動力伝達装置1Cの構成の単純化、小型化および軽量化を図ることができる。
なお、第4実施形態では、ステータ12への電力供給により発生した第1および第2の回転磁界を制御することによって、第2ロータ伝達トルクTR2をエンジントルクTEに釣り合わせているが、ステータ12での発電により発生した第1および第2の回転磁界の制御によっても、第2ロータ伝達トルクTR2をエンジントルクTEに釣り合わせることができる。この場合、ステータ12で発電される電力および磁界回転数NMFと等価のトルクを発電用等価トルクTGEとすると、第1回転機10におけるトルクの釣り合い関係は、例えば図28のように示される。第2ロータ伝達トルクTR2をエンジントルクTEに釣り合わせられることは、同図と上述した図27との比較から明らかである。また、発電した電力を第2回転機20に供給することによって、バッテリ43の消費電力量を抑えることができる。
さらに、第3および第4の実施形態ではそれぞれ、第1および第2のロータ11,13と第2回転機20とを、回転軸82やギヤ機構83を介して駆動輪DW,DWに連結しているが、駆動輪DW,DWとの連結の構成は、これに限らず任意である。また、第1および第2のロータ11,13と第2回転機20とを、互いに異なる2つの伝達経路を介して駆動輪DW,DWに連結してもよい。さらに、第3および第4の実施形態では、目標回転数NE_tarを値0に設定しているが、そのときどきのエンジン回転数NEよりも小さな所定値に設定してもよい。また、第3および第4の実施形態では、エンジン回転数NEを、第1および第2のロータ回転角θ1,θ2に基づいて算出しているが、電磁ピックアップ式や各種のセンサを用いて直接、検出してもよい。
さらに、第3および第4の実施形態における第1および第2のロータ伝達トルクTR1,TR2をエンジントルクTEにそれぞれ釣り合わせるための制御手法は、前述したものに限らず、他の適当な制御手法でもよい。以下、そのような制御手法の一例を、第3実施形態の場合について説明する。具体的には、実施形態と同様、第1および第2の回転磁界の制御により、第1ロータ伝達トルクTR1をエンジントルクTEに対して逆向きのトルクになるように制御する。それに加え、第1ロータ伝達トルクTR1を、エンジン回転数NEがそのときの値に保持されるように制御する。これは次の理由による。すなわち、エンジントルクTEが一定である場合には、エンジン回転数NEは、第1ロータ伝達トルクTR1がエンジントルクTEよりも大きくなるのに伴って減少する一方、エンジントルクTEよりも小さくなるのに伴って増大する。このことから、エンジン回転数NEが一定であるということは、第1ロータ伝達トルクTR1とエンジントルクTEが釣り合っていることを適切に表す。したがって、上記のような制御手法を用いることによって、入力されるエンジントルクTEの大小にかかわらず、第1ロータ伝達トルクTR1をエンジントルクTEに適切に釣り合わせることができる。第4実施形態の場合には、上記の制御手法において、第1ロータ伝達トルクTR1を第2ロータ伝達トルクTR2に置き換えればよい。
また、第3および第4の実施形態は、本発明の駆動力伝達装置1B、1Cを車両の駆動系に適用した例であるが、本発明はこれに限らず、例えば、船舶および航空機の駆動系や、電動アシスト自転車などに適用可能である。
なお、本発明は、これまでに説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、本実施形態では、第2回転機20は、DCモータであるが、操舵輪W,Wや駆動輪DW,DWに駆動力を出力可能な回転機であれば、ACモータなどでもよい。また、本実施形態において、操舵輪W,Wおよび駆動輪DW,DWに伝達されるトルクをそれぞれ、操舵トルクTSおよびエンジントルクTEよりも小さくなるように制御してもよい。さらに、本実施形態では、第1および第2の回転機10,20の制御を、ベクトル制御で行っているが、他の制御手法で行ってもよい。また、本実施形態では、第1および第2のロータ目標トルクTR1_tar,TR2_tarを算出する所定のフィードバック制御アルゴリズムとして、PDフィードバック制御アルゴリズムを用いているが、定常偏差を許容するようなフィードバック制御アルゴリズムであれば、これに限らず、例えばPフィードバック制御アルゴリズムを用いてもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。