JP5082609B2 - 疎水性を有するセルロース系成形体 - Google Patents

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Description

本発明は、酸化セルロース微小繊維を原料とするフィルム、膜、繊維等の成形材料に関し、本来水に濡れやすい性質を持つセルロース系成形体表面の疎水性を制御し、セルロース系成形体を高機能化することに関する。本発明により得られるセルロース系成形体はそれ自身で、あるいは他の樹脂や無機物と複合化することで、包装材料、塗料、繊維、布や構造材料などとして利用することができる。
省資源、省エネルギー、二酸化炭素排出量削減、生分解性の観点から、植物由来の素材やエネルギーが注目されており、木材、植物や微生物が産出するセルロースの有効利用が進みつつある。なかでもセルロースをN−オキシル化合物とハロゲン化アルカリ金属塩を触媒として酸化することで得られる酸化セルロースは、セルロース残基の1級アルコールのみを選択的に酸化してカルボン酸(塩)とすることが可能であり、酸化セルロース繊維の酸化度を高めてカルボン酸塩を多く導入することで幅数ナノメートルの微小繊維に容易に解繊されることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。この酸化セルロース微小繊維はカルボン酸を多量に有しえること、非常に微細な繊維であることから、成形体とした場合に優れた力学特性、光学特性、界面特性他の特性を持つ可能性があり、機能材料、構造材料などへの応用が期待されている。しかしながら、前記材料として使用するためにはセルロースが本来有する極めて強い親水性とそれに由来する水への濡れ性の高さ及び疎水性材料との親和性の乏しさが問題となる恐れがあり、酸化セルロース微小繊維由来の成形体について、その表面の疎水性を制御する必要がある。
Biomacromolecules、7巻6号、1687−1691頁、2006年
セルロースを触媒としてN−オキシル化合物とハロゲン化アルカリ金属塩を用いて酸化することで得られる酸化セルロースに関する応用例は下記のごとく例示できるが、何れも本発明の効果を発現するには至らない。
例えば、製紙用パルプ繊維をわずかに酸化させ、有機金属化合物を作用させることで耐水性、撥水性、湿潤紙力を付与させた紙および紙容器の例がある(例えば、特許文献1参照)が、パルプ繊維ほどの極めて大きな繊維では酸化セルロース微小繊維に求められる前述したような機能材料、構造材料としての期待は小さい。
また、酸化した微細セルロースをガスバリアコーティング剤として使用する例があり(例えば、特許文献2参照)、PETフィルムとの密着性が良好であるとの記載があるが、このコーティング剤による塗膜は水に対して高い接触角を得るには疎水性が不十分であり、また用途が塗膜に限定されているため、本発明の目的を達成するには十分な機能を有していない。
また、上記酸化セルロースとは別に、実質上セルロースのみからなり水に対する接触角が50°以上である成形体が示されている(例えば、特許文献3参照)が、本発明で目的としているほどの疎水性を成形体に付与できていない。
特開2001−336084号公報 特開2002−348522号公報 特開2004−285529号公報
本発明の課題は、セルロース長繊維を触媒としてN−オキシル化合物とハロゲン化アルカリ金属塩を用いて酸化して得られた酸化セルロース繊維を洗浄後に解繊処理して得られた酸化セルロース微小繊維に関して、この酸化セルロース微小繊維を成形体として使用する際に、より少量の添加物の使用をもって成形体に必要とされる機能をできるだけ損なわずにセルロース系材料が本来有する水への高い濡れ性、即ち疎水性の低さを改善し、疎水性の指標としての接触角を制御することで、成形体の機能をさらに高め、応用範囲をより広げることにある。
前記課題を解決するための手段としては、
(1)セルロース長繊維を触媒としてN−オキシル化合物とハロゲン化アルカリ金属塩を用いて酸化し、これにより得られた酸化セルロース繊維を洗浄後に解繊処理して得られた酸化セルロース微小繊維の水分散液に対し、疎水性化合物(A)を添加し、次いで乾燥することによって得られる、疎水性を有するセルロース系成形体、
(2)疎水性化合物(A)が、2−オキセタノン系化合物、脂肪酸ビスアミド系化合物の少なくとも1種である前記(1)のセルロース系成形体、
(3)疎水性化合物(A)が、脂肪酸系化合物、置換無水コハク酸系化合物の少なくとも1種であり、疎水性化合物(A)の固着剤(B)が用いられる前記(1)のセルロース系成形体、
(4)セルロース系成形体表面への水の接触角が90°以上である前記(1)〜(3)のいずれかのセルロース系成形体
である。
本発明のセルロース系成形体は従来のセルロース系成形体に比べ、水に対する接触角を40°以上にする制御が容易となる。
本発明はセルロース長繊維を触媒としてN−オキシル化合物とハロゲン化アルカリ金属塩を用いて酸化し、これにより得られた酸化セルロース繊維を洗浄後に解繊処理した酸化セルロース微小繊維の水分散液に対して疎水性化合物(A)および必要であれば(A)の固着剤(B)を添加し、次いで乾燥することによって得られる、疎水性が制御されたセルロース系成形体であればよい。
なお、酸化処理を行なっていない未処理のセルロース繊維を「セルロース長繊維」と、酸化処理を行なっていない未処理のセルロース繊維を酸化しただけの繊維を「酸化セルロース繊維」と、酸化処理を行なっていない未処理のセルロース繊維を酸化しただけの繊維を解繊処理して得られる微小繊維を「酸化セルロース微小繊維」と略することとする。
酸化セルロース微小繊維はセルロース長繊維を触媒としてN−オキシル化合物とハロゲン化アルカリ金属塩を用いて酸化し、得られた酸化セルロース繊維を解繊することで得られる。
セルロース長繊維としては、木材、綿花等の植物由来、ホヤなどの動物および微生物由来の天然繊維、再生セルロース繊維などを用いることができるが、植物由来の天然繊維が好ましく、植物由来の漂白済み天然繊維がさらに好ましい。また、叩解の度合いが比較的低い(カナディアンスタンダードフリーネスが300以上)セルロース長繊維が、酸化後の保水度の上昇による酸化セルロース繊維の高粘度化が抑制されるため、好ましい。
上記酸化セルロース繊維を得るための触媒であるN−オキシル化合物としては、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル、2,2,6,6−テトラエチル−1−ピペリジン−N−オキシル、2,2,6,6−テトラプロピル−1−ピペリジン−N−オキシルを挙げることができ、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルが好適である。
上記酸化セルロースを得るための触媒であるハロゲン化アルカリ金属塩としては、臭化リチウム、ヨウ化リチウムなどのハロゲン化リチウム塩、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化ナトリウム塩、臭化カリウム、ヨウ化カリウムなどのハロゲン化カリウム塩を挙げることができ、臭化ナトリウムとヨウ化ナトリウムが好ましく、特に臭化ナトリウムが好適である。
上記酸化セルロースを得るための酸化剤としては、塩素、臭素などのハロゲン、次亜塩素酸、次亜臭素酸などの次亜ハロゲン酸、亜塩素酸、亜臭素酸などの亜ハロゲン酸、過塩素酸、過臭素酸などの過ハロゲン酸またはそれらの塩等、目的の酸化物が得られる酸化剤であれば限定しないが、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩が好ましく、特に次亜塩素酸ナトリウムが好適である。
酸化反応の方法は、前記非特許文献1に記載されるような公知の方法で行なうことができる。例えば、セルロース繊維濃度1〜2重量%のセルロース長繊維水分散液に触媒として2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルと臭化ナトリウムを溶解し、セルロース長繊維水分散液を室温で攪拌しつつ所定量の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を投入し、カルボン酸の生成によって低下するpHを水酸化ナトリウム水溶液でpH10〜11の範囲で調整することによって行なうことができる。
酸化反応後の洗浄は、酸化セルロース繊維から触媒および酸化によって生じる酸化剤の還元物を除去することを目的に行なうものであって、前記目的が達成される方法であれば特に制限は無い。例示すれば、フィルター上で酸化セルロース繊維をろ過し、ろ過物を水中で攪拌し、再度ろ過する工程を数回繰り返す方法が挙げられる。
解繊処理は、繊維を細く解く処理をいい、例えば、酸化セルロース繊維を水中で、剪断力を与えることで行うことができる。水中で行うと、酸化セルロース繊維は、カルボン酸が解離するpHの範囲内では繊維表面に存在するカルボン酸イオンの静電反撥により比較的弱いエネルギーで微小繊維に解繊され易いため好ましい。また、剪断力を与えるために、高圧ホモジナイザー、ミキサー、衝突型分散装置、二軸混練機等の装置を使用することができる。より具体的には、1重量%濃度の酸化セルロース繊維の水分散液を家庭用ミキサーで数分間処理することで、ゼリー状の酸化セルロース微小繊維の水分散物を得ることができる。
なお、酸化セルロース微小繊維の水分散液は0.01〜3重量%の透明あるいは半透明のゼリー状あるいは粘性のある液状の水分散液として得ることができる。濃度を3%より高めようとすると、解繊時に分散液の粘度が著しく上昇して硬いゼリー状になり、送液が困難になったり剪断力が均一に加えられなくなったりするため、結果として均一な分散液が得られなくなる恐れがある。逆に濃度が0.01%より低い場合はセルロース系成形体とするときに除去すべき水が多くなり、脱水のためのエネルギーが余分に必要になる場合がある。
また、酸化セルロース微小繊維に含まれるカルボン酸量については、酸化セルロース繊維乾燥重量1gあたり0.5meq以上であり、5.0meq以下であることが好ましい。カルボン酸量が0.5meq未満の場合はセルロース繊維表面に導入されるカルボン酸量が少なくなり、繊維間の静電反撥が不十分となり、解繊されにくくなる場合があるため、酸化セルロース微小繊維を得るために多くのエネルギーが必要となってしまう場合がある。また、逆にカルボン酸量が5.0meqより多い場合、カルボン酸を導入するための反応時間が極めて長時間となり、またそのような酸化セルロースが得られたとしても保水性が高くなり、洗浄が困難になる場合がある。カルボン酸量の定量方法については、TAPPI STANDARD METHOD T237 cm−98に準じた方法や電導度滴定による方法がある。
本発明で使用する疎水性化合物(A)とは、セルロース系成形体の表面を疎水化するのに十分な疎水性を有している物質である。そのような物質としては炭素数8〜50のアルキル基、アルケニル基、アリール基を有する脂肪酸系化合物、置換無水コハク酸系化合物、2−オキセタノン系化合物、脂肪酸ビスアミド系化合物、オレフィン誘導体、石油樹脂誘導体、ポリスチレン系化合物等が挙げられる。なお、疎水性化合物(A)は、疎水性化合物そのものを使用してもよく、水性分散液としたものを使用してもよい。また、上記に例示した疎水性化合物を単独で用いても良いし、目的に応じ複数の疎水性化合物を併用しても良い。
より少量の使用量で接触角を制御することができる疎水性化合物(A)としては、脂肪酸系化合物、置換無水コハク酸系化合物、2−オキセタノン系化合物、脂肪酸ビスアミド系化合物又はこれらの水分散液が好ましい。
脂肪酸系化合物としては、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の直鎖脂肪酸及びその塩、イソステアリン酸や、アビエチン酸を主成分とするロジン類等の分岐、環状脂肪酸及びその塩が挙げられる。またクエン酸やリンゴ酸等のオキシ酸と脂肪酸との部分エステル化物又は脂肪族アミンとの部分アミド化物も含まれる。
置換無水コハク酸系化合物は、オレフィンやアルケニル基を有する脂肪酸誘導体に無水マレイン酸を熱付加させた物質である。例えば炭素数18のα−オレフィンの無水マレイン酸付加物、炭素数16のα−オレフィンの無水マレイン酸付加物、炭素数18の内部異性化されたオレフィンの無水マレイン酸付加物、炭素数16の内部異性化されたオレフィンの無水マレイン酸付加物、プロピレンテトラマーの無水マレイン酸付加物、ブチレントリマーの無水マレイン酸付加物、オレイン酸エチルの無水マレイン酸付加物などが挙げられる。
2−オキセタノン系化合物は、おもに脂肪酸ハロゲン化物から得られるケテンの2量体あるいは多量体である。例えば炭素数16の直鎖アルキルケテンダイマー、炭素数18の直鎖アルキルケテンダイマー、炭素数20の直鎖アルキルケテンダイマー、炭素数18の分岐アルキルケテンダイマー、オレイン酸由来のアルケニルケテンダイマー、アルカンモノカルボン酸ハロゲン化物とアルカンジカルボン酸ジハロゲン化物の混合物から得られるアルキルケテンオリゴマーなどが挙げられる。
脂肪酸ビスアミド系化合物は、例えば特許文献4に記載されているような炭素数6〜24のモノカルボン酸及び/又は炭素数6〜24のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物である。
特開2007−31898号公報
疎水性化合物(A)の水分散液は、疎水性化合物(A)を必要であれば溶融させ、あるいは溶剤に溶解させ、界面活性剤、両親媒性高分子、分散安定化剤から選ばれる1種以上の物質の存在下で剪断力を加えることで得られる。界面活性剤としてはノニオン性、アニオン性、カチオン性界面活性剤の何れも使用可能である。両親媒性高分子は疎水性基と親水性基を有する高分子であって、疎水性化合物を分散安定化させる能力を持つものであれば疎水性基、親水性基の種類と量に制限は無い。また分散安定化剤はポリビニルアルコール、ゼラチン、澱粉やこれらの誘導体などが例示できるが、分散液中の分散物の合一、凝集の抑制や保管安定性を向上できる物質であれば限定されずに使用できる。剪断力を加えて水分散液を得る装置としては高圧ホモジナイザー、ミキサー、衝突型分散装置等が挙げられる。
疎水性化合物(A)を酸化セルロース微細繊維により強固に固着させ、セルロース系成形体表面に疎水性基を配向させて疎水性を付与させるために、必要であれば固着剤(B)を使用することができる。特に疎水性化合物(A)の表面電荷がアニオン性である場合、アニオン性の表面電荷を持つ酸化セルロース微細繊維へ疎水性化合物(A)を固着させるために固着剤(B)はカチオン性であることが好ましい。
固着剤(B)としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩基性ポリ塩化アルミニウム、ポリアルミニウムサルフェートシリケートなどのアルミニウム塩、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などの鉄塩、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウムなどのジルコニウム塩、塩化亜鉛、硝酸亜鉛などの亜鉛塩、などの多価金属の塩や、ビニルアミン、エチレンイミン、ジアリルアミン、アリルアミン、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド類、モノアルキルジアリルアミン類及びジアルキルモノアリルアミン類またはこれらの塩(無機酸塩、有機酸塩)やアルキルハライド類あるいはアルキルオキシド類による4級化物の構造を構成単位の一部として有するカチオン性高分子が好ましく使用できる。また、必要に応じて、上記多価金属の塩とカチオン性高分子を併用することも出来る。
疎水性化合物(A)の酸化セルロース微細繊維に対する混合比率は、酸化セルロース微細繊維100重量部に対して0.001〜50重量部が好ましい。混合比率が低すぎる場合はセルロース系成形体に十分な疎水性を付与することができない場合があり、逆に混合比率が高すぎる場合は、セルロース系成形体の力学特性や光学特性に悪影響を及ぼす場合がある。
疎水性化合物(A)に対する固着剤(B)の使用比率は(A)100重量部に対して100重量部以下が好ましい。固着剤(B)の比率が高すぎる場合、セルロース系成形体の力学特性や光学特性に悪影響を及ぼすだけでなく、疎水性の低下を招く場合がある。
酸化セルロース微小繊維に疎水性化合物(A)および必要である場合に固着剤(B)を添加する方法は特に制限は無く、次いで行なわれる乾燥工程において相互に均一に混合された状態を保持できる方法であれば構わない。また疎水性化合物(A)と固着剤(B)の添加順序にも制限は無い。例えば攪拌羽根で攪拌している酸化セルロース微小繊維の水分散液に疎水性化合物(A)のみ、疎水性化合物(A)と固着剤(B)を順次、あるいは固着剤(B)と疎水性化合物(A)を順次、または疎水性化合物(A)と固着剤(B)を同時に添加し、均一になるまで混合攪拌する方法が挙げられる。また、セルロース長繊維の酸化工程、及び酸化セルロース繊維の解繊工程で得られる処理物の性状に悪影響を及ぼさない限りは、夫々の工程よりも前に疎水性化合物(A)および固着剤(B)のいずれかあるいは両方を添加しても構わない。
酸化セルロース微小繊維の水分散液には疎水性化合物(A)および固着剤(B)の他に、消泡剤、発泡剤、架橋剤や(A)および(B)をより多く定着させるための定着剤などを添加することができる。また、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、フェノール樹脂やポリウレタン樹脂などの樹脂、およびガラス繊維や炭素繊維などの繊維を加え、複合化してセルロース系成形体とすることができる。
乾燥工程については、セルロース系成形体が均一に乾燥する方法であれば手段は問わず、温風による乾燥、赤外線による乾燥、熱媒を充填した金属板との接触による乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、風乾等の方法をとることができる。ただし、セルロース系成形体を構成する成分が変質し、それらの効果が阻害されない程度の加熱を行なうことが好ましく、セルロース系成形体表面の温度が200℃以下に保持される条件での乾燥が好ましい。
酸化セルロース微小繊維自身の接触角は40°未満であるため、セルロース系成形体の接触角は40°以上で任意の角度に制御できることが好ましいが、本発明の目的を達成するためには50°以上150°以下、更に好ましくは90°以上150°以下の任意の接触角となるようにセルロース系成形体表面の疎水性を制御できることが好ましい。
本発明のセルロース系成形体は、防湿・防曇・撥水・防汚性能を有する光学フィルムや包装フィルム等の機能性フィルムなどのフィルム状成形体、透析膜や蒸留膜等の機能性膜などの膜状成形体、耐候性塗膜、耐水性塗膜、抗菌性塗膜や蛍光・蓄光塗膜などの塗膜状成形体、耐水性、形態安定性、感温・保温性や撥水性を有するなどの繊維状の、あるいは、布や不織布など布状の成形体、電化機器用部材、家電製品用部材、家具用部材、自動車用部材、建築材料、スポーツ用品用部材や食品・飲料・洗剤用容器、浴槽などに使用される射出・押出・圧縮・中空・溶融・機械的・粉末・熱・発泡・切削・研磨成形体、医薬品などのカプセル状成形体などとして用いることができ、使用する目的に合わせた任意の形状を取ることが可能である。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
製造例(酸化セルロース微小繊維水分散液の製造)
攪拌装置を備えた3L容ガラス製ビーカーにセルロース長繊維として未叩解の針葉樹晒クラフトパルプ(カナディアンスタンダードフリーネス約700)の2.0%スラリー1200gを投入して緩やかに攪拌し、N−オキシル化合物として2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル0.3gとハロゲン化アルカリ金属塩として臭化ナトリウム3.0gを触媒として加えて溶解させ、更にイオン交換水を加えて総量を1800gとした。このパルプスラリーに次亜塩素酸ナトリウム水溶液(塩素濃度8%)を63.8g投入し、室温で攪拌しつつパルプスラリーのpHが10.5±0.3を保持するように4%水酸化ナトリウム水溶液を断続的に滴下した。次亜塩素酸ナトリウム水溶液投入後約90分でpHの変動が殆ど無くなったことを確認して攪拌を停止し、酸化反応の終点とした。それまでに滴下した4%水酸化ナトリウム水溶液は64gだった。反応後のパルプスラリーを200メッシュのナイロン製濾布で濾過した後、残存する水溶性薬品を除去するために濾過物を3L容ガラス製ビーカーに投入し、イオン交換水約2000gを加えて攪拌し、200メッシュのナイロン製濾布で濾過する操作を3回繰り返した。最後に濾過物にイオン交換水を加えて全量を1200gとして攪拌し、濃度約2.0%の酸化パルプスラリーを得た。なお、パルプスラリーの濃度は110℃で3時間加熱乾燥した後の残存物の重量から求めた。TAPPI STANDARD METHOD T237 cm−98に準じた方法で測定した酸化パルプスラリーのカルボン酸量は対パルプ乾燥重量1gあたり1.2meqだった。得られたスラリー60gとイオン交換水60gを家庭用ジューサーミキサーにより解繊処理を行い、スラリーが半透明なゼリー状になることを確認した後、更にイオン交換水480gを加えて解繊処理を続け、0.2%濃度のほぼ無色透明でやや粘性のある液状の酸化セルロース微小繊維の水分散液を得た。
(実施例1)
上記製造例で得られた酸化セルロース微小繊維水分散液500gに疎水性化合物(A)として2−オキセタノン系化合物の水分散液(星光PMC株式会社製、製品名「AD1604」、固形分30%)を0.67g添加し、家庭用ジューサーミキサーで2分間混合した。混合物30gを内径9cmのプラスチックシャーレに均一に広げ、室温で1日風乾後、70℃で2時間乾燥させることで、セルロース系成形体である実施例用フィルム1を得た。
(実施例2)
実施例1において、疎水性化合物(A)として2−オキセタノン系化合物の水分散液の代わりに脂肪酸ビスアミド系化合物の水分散液(星光PMC株式会社製、製品名「PT8104」、固形分20%)を1.0g添加した以外は実施例1と同様にしてセルロース系成形体である実施例用フィルム2を得た。
(実施例3)
実施例1において、疎水性化合物(A)として2−オキセタノン系化合物の水分散液の代わりに置換コハク酸無水物系化合物(星光PMC株式会社製、製品名「AS1532」、固形分100%)0.2g添加した以外は実施例1と同様にしてセルロース系成形体である実施例用フィルム3を得た。
(実施例4)
実施例1において、疎水性化合物(A)として2−オキセタノン系化合物の水分散液の代わりに置換コハク酸無水物系化合物(星光PMC株式会社製、製品名「AS1532」、固形分100%)0.2gと固着剤(B)として固形分10%硫酸アルミニウム水溶液0.5gを添加した以外は実施例1と同様にしてセルロース系成形体である実施例用フィルム4を得た。
(実施例5)
実施例1において、疎水性化合物(A)として2−オキセタノン系化合物の水分散液の代わりに脂肪酸系化合物のロジン系化合物の水分散液(星光PMC株式会社製、製品名「AL1203」、固形分50%)0.4gと固着剤(B)として固形分10%硫酸アルミニウム水溶液0.5gを添加した以外は実施例1と同様にしてセルロース系成形体である実施例用フィルム5を得た。
(比較例1)
製造例で得られた酸化セルロース微小繊維水分散液30gを内径9cmのプラスチックシャーレに均一に広げ、室温で1日風乾後、70℃で2時間乾燥させることで、セルロース系成形体である比較例用フィルム1を得た。
接触角測定試験
実施例用フィルム1〜5、比較例用フィルム1について、接触角測定装置(協和界面科学株式会社製FACE自動動的接触角計DCA−VZ型)を用いてフィルム表面に対するイオン交換水の接触角を測定した。なお、水滴がフィルムに接触してから1秒後の接触角を測定した。結果を下表1に示す。
Figure 0005082609
本発明のセルロース系成形体は、酸化セルロース微小繊維の機能性を高めることにより、撥水性、防汚性の優れる透明フィルムや疎水性樹脂との複合化による強高度構造材料への応用等に利用できる。

Claims (3)

  1. セルロース長繊維を触媒としてN−オキシル化合物とハロゲン化アルカリ金属塩を用いて酸化し、これにより得られた酸化セルロース繊維を洗浄後に解繊処理して得られた酸化セルロース微小繊維の水分散液に対し、疎水性化合物(A)を添加し、次いで乾燥することによって得られ、疎水性化合物(A)が、2−オキセタノン系化合物、脂肪酸ビスアミド系化合物の少なくとも1種であり、
    上記の酸化セルロース微小繊維100重量部に対し、疎水性化合物(A)0.001〜50重量部用いることを特徴とする、疎水性を有するセルロース系成形体。
  2. セルロース長繊維を触媒としてN−オキシル化合物とハロゲン化アルカリ金属塩を用いて酸化し、これにより得られた酸化セルロース繊維を洗浄後に解繊処理して得られた酸化セルロース微小繊維の水分散液に対し、疎水性化合物(A)を添加し、次いで乾燥することによって得られ、疎水性化合物(A)が、脂肪酸系化合物、置換無水コハク酸系化合物の少なくとも1種であり、疎水性化合物(A)の固着剤(B)が用いられ
    上記の酸化セルロース微小繊維100重量部に対し、疎水性化合物(A)0.001〜50重量部、かつ、
    疎水性化合物(A)100重量部に対し、固着剤(B)100重量部以下用いることを特徴とする、疎水性を有するセルロース系成形体。
  3. セルロース系成形体表面への水の接触角が90°以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロース系成形体。
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