JP5074643B2 - 信号処理方法、信号処理装置およびソナー装置 - Google Patents

信号処理方法、信号処理装置およびソナー装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、通信装置、ソナー装置、超音波診断装置または探傷装置等に用いられる信号処理方法および信号処理装置、並びに、この信号処理方法や信号処理装置を適用し、受波ビームを順次互いに異なる方向に形成して広範囲方向を探査するスキャニングソナー装置やクロスファンビーム方式の水底探査ソナー装置に関する。
以下、クロスファンビーム方式のソナー装置を例にあげてこの発明について説明する。
【0002】
【従来の技術】
従来使用されているクロスファンビーム方式の水底探査ソナー装置は、例えば160個の超音波振動子によりそれぞれ受信されたエコー信号を160個の混合器を用いてアナログ的にそれぞれ所定量移相した後合成することにより所望の受波ビームを形成していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようにソナー装置の入力段は、160チャンネルなど多数の超音波振動子エレメントからなっており、装置が大がかりにならざるを得ないとともに、アナログ回路の誤差や経年劣化などにより距離分解能をある程度以上は上げられないという問題点があった。
【0004】
この発明は、多重化、時分割化により回路構成を簡略化し、通信装置、ソナー装置、超音波診断装置や探傷装置等に適用される信号処理方法、信号処理装置、および、これを利用したソナー装置、特に受波ビームを順次互いに異なる方向に形成して広範囲方向を探査するスキャニングソナー装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この発明は、所定周波数f(=1/T)の信号を受信し、
所定のサンプリング時刻、および該所定のサンプリング時刻から(a+1/4)T後の時刻(a=0, 0.5, 1, 1.5, …のいずれか:特許請求の範囲において同じ)に前記信号をサンプリングし、
これらの時刻にサンプリングされたデータを、複素サンプリングデータの実部データおよび虚部データとして出力することを特徴とする。
【0006】
この発明は、実部データのサンプリングタイミングと虚部データのサンプリングタイミングとの間隔を当該虚部データのサンプリングタイミングと次の実部データのサンプリングタイミングとの間隔よりも短くすることを特徴とする。
【0008】
この発明は、所定周波数f(=1/T)の信号を受信し、
所定のサンプリング時刻および、該所定のサンプリング時刻から(n+1/4)T後(n=0,1,2,…のいずれか:特許請求の範囲において同じ)、(n+1/2)T後、(n+3/4)T後の時刻にサンプリングしたデータを、それぞれ0°サンプリングデータ、90°サンプリングデータ、180°サンプリングデータ、270°サンプリングデータとし、
前記0°サンプリングデータと180°サンプリングデータの極性反転値との加算値の1/2を複素サンプリングデータの実部データとし、さらに、90°サンプリングデータと270°サンプリングデータの極性反転値との加算値の1/2を前記複素サンプリングデータの虚部データとして出力することを特徴とする。
【0017】
海底探査ソナーなどでは、ドップラ効果が殆ど働かないため、エコー信号の周波数は殆ど送信周波数と同じである。したがって、多少時間が経過しても周波数が変わることはない。したがって、同じサンプリング時刻にIQサンプリングしなくても、時間的に90°位相をずらせて、(a+1/4)T遅れて2回サンプリングすれば複素サンプリングと同じような、実部データ、虚部データが得ることができる。これにより、実部・虚部の2チャンネルを設けなくても、時分割で実部データ、虚部データを生成することができる。
【0018】
この場合において、図14(A)に示すように実部データのサンプリングタイミングと虚部データのサンプリングタイミングの間隔を次の実部データのサンプリングタイミングよりも短くしておくことにより、すなわち、実部データのサンプリングタイミングと虚部データのサンプリングタイミングとの間隔を当該虚部データのサンプリングタイミングと次の実部データのサンプリングタイミングとの間隔よりも短くしておくことにより、同図(B)に示すような振幅の変動がある場合やドップラ効果などで周波数がずれた場合にも誤差の少ない複素サンプリングデータを得ることができる。
【0019】
実部データのサンプリングタイミングと虚部データのサンプリングタイミングの間隔は、狭い程よくa=0すなわちT/4の間隔がベストである。同図(B)の例はサンプリングデータの位相が45°の場合を示しているが、実部データのサンプリングタイミングt0 のサンプル値が、0.4861359、それからT/4遅れたt1 のサンプル値が、0.5155987であり、これらの値から求めた位相は43.32°であり、0.0026波長の誤差になっている。これに対して、実部データと虚部データのサンプリング間隔を等間隔(同図の例では1.25T)で行った場合には、1.25T後のサンプリングタイミングt1'のサンプル値が0.6334498となり、これとt0 の値に基づいて求めた位相は37.50°となり0.021波長の誤差となっている。このように、実部データのサンプリングタイミングと虚部データのサンプリングタイミングの間隔をサンプリング周期の1/2よりも短くしておくことにより、入力信号に振幅の変動や周波数のずれがある場合にも誤差の少ない複素サンプリングデータを得ることができる。
【0020】
また、2つのサンプリングデータ(実部データ、虚部データ)のサンプリングの繰り返し周期を(m+1/2)Tとすることにより、サンプリングの繰り返し毎に信号の位相が反転し、これに基づいてDCバイアス成分をキャンセルすることができる。また、(n+1/2)Tのデータと(n+3/4)Tのデータを用いて平均化することによってもサンプリングデータに重畳されているDCバイアス成分をキャンセルすることができる。
【0021】
また、複数の信号入力手段から入力された信号をマルチプレクサで処理を多重化する場合、マルチプレクサを一定時間間隔で順次切り換えてゆくようにすると、マルチプレクサの切り換えによって発生したノイズが他のチャンネルのサンプリングデータに悪影響を及ぼす場合がある。このため、この発明では、全てのマルチプレクサの切り換えタイミングおよびAD変換器サンプリングタイミングを同期させてノイズがサンプリングデータに重畳しないようにした。
【0022】
そして、海底探査ソナー等では複数チャンネルから入力される信号を一定時間間隔で順次サンプリングしてゆき、この(時間軸において)斜めに配列されたデータをマッチドフィルタに入力することによって海底探査を行うが、上記同期したタイミングでサンプリングした場合でも、このサンプリングデータの位相をシフトすることで上記一定時間間隔で(斜めに)配列されたデータ列を実現している。また、階段状にサンプリングされたデータを同時刻サンプルのデータになるようにシフトしてもよい。この場合において、データを2nπ(nλ)の位相差にシフトしてもよい。このようなデータ列でも2nπをキャンセルして同時刻データとして処理することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
図1はこの発明の実施形態である海底探査ソナーのブロック図、図2は同海底探査ソナーのトランスデューサの設置形態を示す図、および、同トランスデューサが形成する送波ビーム、受波ビームを示す図である。
【0024】
まず、図2において、送信トランスデューサ11、受信トランスデューサ122はともに、複数の超音波振動子を1列に配列した超音波振動子アレイからなっている。送信トランスデューサ11は、振動子の配列方向が船首,船尾方向になるように船底に設置され、受信トランスデューサ12は、振動子の配列方向が船側方向になるように船底に設置される。
【0025】
船底には、上記送信トランスデューサ11、受信トランスデューサ12からなるトランスデューサ部1のほかに、送信トランスデューサ11に超音波のバースト信号を印加するとともに、反射エコーを受信してデジタルサンプリングデータに変換する送受信部2が設けられる。そして、船室には、演算処理部3が設けられる。演算処理部3は、送受信部2から伝送入力されたサンプリングデータに基づいてビームフォームおよび海底検出等を行う。このため、図7に示す移相器31および図8に示すビームフォーマ32を備えている。
【0026】
送受信部2の送信回路26は、送信トランスデューサ11の各エレメントに対してパルス信号を印加する。送信トランスデューサ11の各エレメントは、このパルス信号によって駆動され、超音波信号を海中に送出する。送信回路26は、320kHzの信号を発振する発振器を内蔵しており、送波ビームが図2(B)に示すように船体の真下に扇形に形成されるように各エレメント毎にタイミングを制御してパルス信号を印加する。このようにして形成される送波ビームは、前後1.5°、左右150°程度の扇形である。各エレメントに入力されるパルス信号のパルス幅は、320kHzで10波〜50波程度である。このように真下にビームが形成されるため、船が動いていても殆どドップラ効果の影響がなく、海底からの反射エコーは送信時と同じ320kHzのバースト波となる。
【0027】
受信トランスデューサ12は、図3に示すように160個のエレメントを円周上に配置した円筒形状になっている。この受信トランスデューサ12に接続されている送受信部2および演算処理部3は、各エレメントが受信した反射エコーをサンプリングし、マッチドフィルタでリファレンスと比較することによって、図2(B)に示すような前後20°、左右1.5°程度の受波ビームを形成する。この受波ビームを高速に右から左にスキャンさせ、このスキャンを1回のパルス送信に対して何度も繰り返して行うことにより海底探査を行う。図3において、受信トランスデューサ12は、半径125mmの円筒形状であり、1.5°間隔で160個の超音波振動子エレメントが配列されているため、中心角238.5°で円筒の一部が切り欠かれた形状になっている。
【0028】
受信トランスデューサ12の各エレメントが受信した信号は、対応する受信チャンネルの信号として送受信部2に入力される。送受信部2では、各チャンネル別にプリアンプ13で増幅され、フィルタ14でろ波され、TVGアンプ15で増幅される。フィルタ14は、送信トランスデューサ11から送信された超音波ビームの周波数(320kHz)付近の周波数以外を除去するバンドパスフィルタである。上述したように反射エコー信号はほぼ320kHzの狭帯域の信号であり、このバンドパスフィルタにより、帯域外の超音波機器の信号や帯域外シーノイズ等のノイズが除去される。
【0029】
TVGアンプ15は、時間可変ゲインアンプであり、送信トランスデューサ11がバースト波を発射したのち時間が経過するとともにゲインを上昇させてゆくアンプである。これはバースト波を発射してから時間が経過するとともに遠くで反射し、伝搬距離が長く信号レベルの小さい反射エコーを受信する必要があるため、これに対応してゲインを高くしてゆくものである。TVGアンプ15の後段にはこのTVGアンプ15のノイズを除去するための簡略なフィルタ16が介挿入されている。こののち、マルチプレクサ17により、160チャンネルの信号が10チャンネルに時分割多重化される。第k(=0〜9)マルチプレクサには、10n(=0〜15)+kの信号が入力される。すなわち、第0マルチプレクサにはチャンネル0,10,20,…140,150の信号が入力され、第1マルチプレクサにはチャンネル1,11,21,…141,151の信号が入力され、…、第9マルチプレクサにはチャンネル9,19,29,…149,159の信号が入力される。第0〜第9マルチプレクサは、同期して全て同じタイミングに入力信号の選択nを順次切り換えてゆく。
【0030】
10チャンネルに多重化された反射エコー信号は、再度TVGアンプ18で増幅される。一般的なTVGアンプはゲイン制御範囲が40dB程度であり、広い範囲の海底探査を行おうとすれば40dB以上のTVG範囲を必要とするため、このようにTVGアンプを2段にしている。TVGアンプを2つともマルチプレクサの後段に配置しても過度応答特性を間に合わせることができなくはないが、マルチプレクサ以降は広帯域にする必要があり初段のTVGアンプで発生するノイズが問題になるため、初段のTVGアンプはマルチプレクサの前段に各チャンネルごとに設け、アンプノイズを制限する簡易なフィルタ16を介してマルチプレクサ17に接続するようにしている。
【0031】
TVGアンプ18で増幅された信号は、AD変換器19によってサンプリングされデジタルサンプリングデータに変換される。AD変換器19のサンプリングタイミングおよびマルチプレクサ17の切換タイミングは、前記送信回路の発振器が発振する信号に基づいて作成される。すなわち、送信パルス(反射エコー信号)の周波数と、マルチプレクサ切換タイミングおよびサンプリングタイミングとは完全に同期している。
【0032】
図4は、AD変換器19のサンプリングタイミングを説明する図である。
【0033】
後段の演算処理部では、反射エコー信号を複素データとして処理するため、サンプリングにおいて複素データ化しておくことが望ましい。しかし、実数値信号にcos信号、sin信号をミキシングして実部I、虚部Qの信号に分離し、別々にサンプリングすることは、回路構成が複雑化するとともに、位相ずれなどによる測定誤差を招く原因になる。
【0034】
そこで、この装置では、受信した反射エコー信号の周波数が安定しており、サンプリングクロックがこれに完全に同期していることを利用し、90°の位相差で2回サンプリングすることによって一方を実部(In−phase)のデータとし、他方を虚部(Quadrature)のデータとして用いることにより、複素サンプリングデータを生成するようにしている。さらに、この装置では、反射エコー信号を90°の位相差で4回(0°、90°、180°、270°)サンプリングし、0°サンプリングデータと180°サンプリングデータを組み合わせ、且つ、90°サンプリングデータと270°サンプリングデータを組み合わせることによって反射エコー信号のDCバイアス成分を除去するようにしている。
【0035】
また、上記のように160チャンネルを時分割で10系統に多重化しているため、各系統は、16のチャンネルを担当することになる。各系統では、反射エコーの周波数320kHzの1λ(1周期)に4チャンネルの信号をサンプリングし、4λで16チャンネルの信号をサンプリングするようにしている。
【0036】
図4を参照してサンプリングタイミングについて詳細に説明する。AD変換器AD0にはマルチプレクサ16を介してチャンネル10n+0,(n=0,1,…,15:以下同じ)の信号が選択的に入力される。また、AD変換器AD1にはマルチプレクサ16を介して10n+1の信号が選択的に入力される。同様にAD変換器ADk,(k=0,1,…,9:以下同じ)には、チャンネル10n+kの信号が選択的に入力される。各AD変換器は1/16λ(0.195625μ秒)毎に入力信号をサンプリングする。したがって1λの間に16回サンプリングが行われる。
【0037】
最初の1λの間、各AD変換器ADkは、チャンネルk、チャンネル10+k、チャンネル20+k、チャンネル30+kを1サンプル毎に切り換えて4回ずつサンプリングする。これにより、各チャンネルは、1/16λ×4=1/4λ、すなわち90°の間隔で4回サンプリングされることになるため、各チャンネル毎に(相対的に)0°、90°、180°、270°の4つのデータを得ることができる。
【0038】
次の1λの間、各AD変換器ADkは、チャンネル40+k、チャンネル50+k、チャンネル60+k、チャンネル70+kを1サンプル毎に切り換えて4回ずつサンプリングする。さらに次の1λの間、各AD変換器ADkは、チャンネル80+k、チャンネル90+k、チャンネル100+k、チャンネル110+kを1サンプル毎に切り換えて4回ずつサンプリングする。さらに次の1λの間、各AD変換器ADkは、チャンネル120+k、チャンネル130+k、チャンネル140+k、チャンネル150+kを1サンプル毎に切り換えて4回ずつサンプリングする。このようにして、4λの間に、全てのチャンネルについて4つ(0°、90°、180°、270°)のデータを得ることができる。これを4λサイクルという。
【0039】
なお、各AD変換器ADk,(k=0〜9)のサンプリングタイミングは、完全に同期しており、サンプリング終了後のマルチプレクサ16の切り換えも同時である。AD変換器ADkは、20MHz程度の高速AD変換器を使用すれば、サンプリング直前の入力だけがサンプリングデータに影響し、サンプリング後直ちにマルチプレクサを切り換えても、その切換ノイズが次のサンプリングデータに悪影響を及ぼすことはない。
【0040】
このように、入力信号のサンプリングを行った直後に、マルチプレクサの切り換え、後段のTVGアンプの応答が実行され、次のサンプリングタイミング(0.195625μ秒後)までには、マルチプレクサの選択信号の作動とAD変換器の出力データの変化で発生した雑音は十分に減衰していて次のサンプリングに悪影響を及ぼさない。また、上記のように10系列のマルチプレクサ、AD変換器の切り換えを同期して行っているため、ある系統の切換ノイズが他の系統に侵入して悪影響を及ぼすこともない。
【0041】
各チャンネルのサンプリングデータは平均処理回路20に入力される。平均処理回路20は、各チャンネル毎に、0°サンプリングデータと180°サンプリングデータ、および、90°サンプリングデータと270°サンプリングデータの対で平均処理を行う。送信周波数(反射エコー周波数)と同じクロックでタイミングを設定されたサンプリングデータであるため、0°サンプリングデータと180°サンプリングデータ、および、90°サンプリングデータと270°サンプリングデータは、それぞれ殆ど同じ振幅レベルで極性が異なるの値になっているはずである。したがって、(0°サンプリングデータ+180°サンプリングデータの極性反転値)/2の平均処理を行うことにより、DCオフセット成分をキャンセルした0°サンプリングデータ(実部データR)を算出することができる。なお、DCオフセット成分は、正負非対称でのAC結合やAD変換器のオフセット誤差によって発生するものである。また、90°サンプリングデータと270°サンプリングデータについても、(90°サンプリングデータ+270°サンプリングデータの極性反転値)/2の平均処理を行うことにより、DCオフセット成分をキャンセルした90°サンプリングデータ(虚部データI)を算出することができる。これら実部データRと虚部データIを複素サンプリングデータとして出力する。
【0042】
この複素サンプリングデータは、光ファイバ等で結合された高速リンクにより船室の演算処理部3に伝送される。なお、送受信部2のAD変換器19以後はデジタル処理であるため、サンプリングデータの伝送タイミングがこの同図の階段状折線aのタイミングに正確に一致している必要はなく、以下の演算処理がリアルタイムに実行できるように送受信部2から演算処理部3に入力されればよい。すなわち、階段状のサンプリングデータのうち、たとえばチャンネル0のデータ〜チャンネル9のデータは同タイミングのものであるが、送受信部2から演算処理3への伝送はシリアルに行われ、演算処理部3の処理においてこれらのデータが同タイミングのものとして処理される。
【0043】
図3に示すように、受信トランスデューサ12は、1.5°間隔で160個のエレメントを有する中心角238.5°の円筒形状になっているが、受波ビームはビーム方向を中心とする約90°の範囲の60エレメントが使用される。以下各エレメントをチャンネル番号で示す。チャンネル0〜チャンネル59で受波ビームを形成する場合、ビーム方向は、チャンネル29,チャンネル30間の方向であり、この方向を0°とすると、チャンネル0は、44.25°の方向になり、チャンネル59は、−44.25°の方向になる。
【0044】
図5、図6は、演算処理部3が行う移相および受波ビームフォームの原理を示す図である。送受信部2から演算処理部3に入力されるサンプリングデータは、図5の階段状の折線aに示すようなサンプリング時刻のものである。すなわち、0°、90°、180°、270°の4回サンプリングしているが、180°サンプリングデータ、270°サンプリングデータはDCオフセット成分を除去するために用いられ、90°サンプリングデータは虚部データとして用いられるため、結局は0°サンプリングデータのタイミングの複素サンプリングデータとして演算処理部3に入力される。
【0045】
演算処理部3は、連続する60チャンネルで受波ビームを形成し、これを右から左にスキャンする。すなわち、チャンネル0〜チャンネル59の受波ビーム(0)からチャンネル100〜チャンネル159の受波ビーム(100)までの101の受波ビームを連続して形成する。この連続した受波ビームの形成をマッチドフィルタで行うため、チャンネル0データ〜チャンネル159の各データ間の時間的関係が連続している必要がある。このため、各チャンネルのデータを図5の階段状水平線a、斜線bまたは水平線cのタイミングのデータとして扱えるように移相する。斜線bは各サンプリングデータのサンプリング時刻がそれぞれ一定の時間的間隔になるようにした場合の位相直線であり、チャンネル159データから次のチャンネル0データへの連続性も確保されている。また、水平線cはチャンネル0〜チャンネル159の全てのサンプリングデータのサンプリング時刻が全て同じになるようにした場合の位相直線である。また、階段状水平線aは、チャンネル0〜チャンネル39、チャンネル40〜チャンネル79、チャンネル80〜チャンネル119、チャンネル120〜チャンネル159ごとに各サンプリングデータのサンプリング時刻が全て同じになるようにした場合の位相直線である。それぞれグループの位相差は2πになるようにシフトされる。移相は、入力されたサンプリングデータの位相を斜線の位相まで回転させることで行う。サンプリングデータをどのタイミングに移相するか、すなわち階段状水平線a、斜線bや水平線cをどの位置にするかは任意である。
【0046】
なお、斜めサンプリングの場合、実際のサンプリング時に上記斜線bのタイミングにサンプリングを行うことも考えられるが、上述したように、トランスデューサやAD変換器の切り換えタイミングが各系統でずれると、他の系統に切り換えノイズなどの悪影響を及ぼしてしまうため、このような階段上にして切り換えタイミングを揃えるようにしている。
【0047】
上記のように移相したサンプリングデータをチャンネル0データから順にリファレンスと比較する。図6にリファレンスの例を示す。リファレンスは、並行波である反射エコーが、該反射エコーの到来方向に最も近いチャンネルから順に円筒の周に沿って到達した場合の各チャンネルの受波レベルを表したものである。チャンネル0〜チャンネル59のビーム(0)からチャンネル100〜チャンネル159のビーム(100)までのサンプリングデータ群を順次上記リファレンスと比較すると、実際に反射エコーが到来している方向のビームのとき大きな相関が得られ、これによってその方向から反射エコーが到来していることが分かる。
【0048】
ここで、上記のように受信トランスデューサ12は、半径が125mmであるため、ビーム方向に対して一番前のチャンネル29,30と、一番後ろのチャンネル0,59とは約7.5波長分の距離がある。すなわち、
125×(1−1/√2)/(1500/320)≒7.5
である。
【0049】
一方、探査精度を向上するために、海底探査ソナーや一般のソナー装置等では、送信トランスデューサ11から送信するバースト波のパルス幅を短かくする傾向にあり、そうすると反射エコーのパルス幅も短くなる。そして、ビーム方向から反射エコー信号が到来したとき、この反射エコーのパルス幅が上記7.5波長よりも短いと、1つの反射エコーが受波ビーム形成用の60のチャンネルに同時に掛からないことになる。そこで、円周に沿って4波長ごとにサンプルし、ビームが作られるとし、7.5波長を2等分した2グループに分けてビームフォームすることを考える。
【0050】
すなわち、後ろの方のグループ1(チャンネル0〜チャンネル9、チャンネル53〜チャンネル59)と前の方のグループ2(チャンネル10〜チャンネル52)に分け、グループ1については今回のサンプリングデータを用い、グループ2については1回前にサンプリングしたデータを用いてビームフォーム(リファレンスとの比較)を行うことにより、受波ビームを形成する全てのチャンネルからの反射エコーのサンプリングデータを利用することができ、検出精度を向上することができる。
【0051】
なお、上記グループ1、グループ2はサンプリングデータを斜めサンプリングに移相した場合のグループ分けであり、同タイミングのデータに移相した場合には、グループ1がチャンネル0〜チャンネル8およびチャンネル51〜チャンネル59、グループ2がチャンネル9〜チャンネル50となる。
【0052】
図7は、演算処理部3の移相器31の構成を示す図である。送受信部2から入力された0°サンプリングデータすなわち複素サンプリングデータの実部データは、乗算器43および乗算器45に入力される。乗算器43には160個の各エレメントに対応する移相係数の実数項が記憶されたメモリ41が接続されている。また、乗算器45には160個の各エレメントに対応する移相係数の虚数項が記憶されたメモリ42が接続されている。乗算器43、45に0°サンプリングデータが入力されると、そのサンプリングデータ(エレメント)に対応する移相係数がメモリ41、42から読み出され、乗算器43、45においてこれらが乗算される。乗算器43で補正係数の実数項が乗算された0°サンプリングデータは加算器47に出力される。また、乗算器45で補正係数の虚数項が乗算された0°サンプリングデータは加算器48に出力される。
【0053】
また、送受信部2から入力された90°サンプリングデータすなわち複素サンプリングデータの虚部データは、乗算器44および乗算器46に入力される。乗算器44には前記160個の各エレメントに対応する移相係数の実数項が記憶されたメモリ41が接続されている。また、乗算器46には前記160個の各エレメントに対応する移相係数の虚数項が記憶されたメモリ42が接続されている。乗算器44、46に90°サンプリングデータが入力されると、そのサンプリングデータ(エレメント)に対応する移相係数がメモリ41、42から読み出され、これらが乗算器44、46において乗算される。なお0°サンプリングデータと90°サンプリングデータは同期して乗算器43〜46に入力される。乗算器44で補正係数の実数項が乗算された90°サンプリングデータは加算器48に出力される。また、乗算器46で補正係数の虚数項が乗算された90°サンプリングデータは加算器47に出力される。
【0054】
加算器47は、乗算器43から入力された補正係数の実数項が乗算された0°サンプリングデータから、乗算器46から入力された補正係数の虚数項が乗算された90°サンプリングデータを減算して0°補正データを算出し、これを後段のビームフォーマ32に入力する。また、加算器48は、乗算器45から入力された補正係数の虚数項が乗算された0°サンプリングデータと、乗算器44から入力された補正係数の実数項が乗算された90°サンプリングデータとを加算して90°補正データを算出し、これを後段のビームフォーマ32に入力する。移相器31の上記処理により、各エレメントのサンプリングデータの位相を図5のbまたはcのようにそろえることができる。
【0055】
図8は、演算処理部3のビームフォーマ32の構成を示す図である。このビームフォーム部は複素マッチドフィルタで構成されている。0°サンプル時系列すなわち上記0°補正データは、60段のシフトレジスタ51、107段のシフトレジスタ52、43段のシフトレジスタ53に順次入力される。また、上記90°補正データは、60段のシフトレジスタ61、107段のシフトレジスタ62、43段のシフトレジスタ63に順次入力される。
【0056】
同図において、RN 、RO は0°サンプリングデータ(実部データ)を示し、RN は今回の4λサイクルでサンプリング入力されたデータ、RO は前回の4λサイクルでサンプリング入力されたデータを示す。また、IN 、IO は90°サンプリングデータ(虚部データ)であり、IN は今回の4λサイクルでサンプリング入力されたデータ、IO は前回の4λサイクルでサンプリング入力されたデータを示す。そして、CR 、CI は、複素マッチドフィルタのリファレンス係数(複素マッチドデータ)を示し、CR はリファレンスの実部係数、CI はリファレンスの虚部係数を示す。添字の数字はビーム中のエレメント(チャンネル)番号である。なお、リファレンス係数CR 、CI は、0〜59の番号で示される固定されたものであるが、入力されるサンプリングデータRN ,RO ,IN ,IO は、同図では0〜59の番号を付しているが、チャンネル0〜159のデータが、順次シフトされて入力される。
【0057】
図示のようにマッチドフィルタは、RR、IR、RI、IIの4系列からなっている。RRは、RN ,RO (実部データ)、とCR (実部係数)との相関度を算出するフィルタであり、60個の乗算器55がリファレンス係数CR と、そのタイミング(ビーム方向)で対応する0°サンプリングデータとの乗算を行い、加算器56がその乗算結果を加算する。また、I・Iは、IN ,IO (虚部データ)、とCI (虚部係数)との相関度を算出するフィルタであり、60個の乗算器57がリファレンス係数CI と、そのタイミング(ビーム方向)で対応する90°サンプリングデータとの乗算を行い、加算器58がその乗算結果を加算する。加算器55の加算結果すなわちRR系統のフィルタ出力(RR)およびII系統のフィルタ出力(II)は減算器71に入力され(RR)−(II)の演算が行われ、複素サンプリングデータの実部と複素リファレンス係数の実部との位相の相関値が算出される。すなわち、
【0058】
【数1】
Figure 0005074643
【0059】
の演算が実行され、実部データと実部係数の相関が算出される。
【0060】
一方、IRは、IN ,IO (虚部データ)、とCR (実部係数)との相関度を算出するフィルタであり、60個の乗算器65がリファレンス係数CR と、そのタイミング(ビーム方向)で対応する90°サンプリングデータとの乗算を行い、加算器66がその乗算結果を加算する。また、R・Iは、RN ,RO (実部データ)、とCI (虚部データ)との相関度を算出するフィルタであり、60個の乗算器67がリファレンス係数CI と、そのタイミング(ビーム方向)で対応する0°サンプリングデータとの乗算を行い、加算器68がその乗算結果を加算する。加算器65の加算結果すなわちIR系統のフィルタ出力(IR)およびRI系統のフィルタ出力(RI)は加算器72に入力され(IR)+(RI)の演算が行われ、複素サンプリングデータの実部と複素リファレンス係数の実部との位相の相関値が算出される。すなわち、上記〔数1〕の演算が実行される。
【0061】
減算器71および加算器72の演算結果は、振幅検出部73に入力される。振幅検出部73は、この演算結果に基づいて受波ビームの振幅を求める。この振幅は、
【0062】
【数2】
Figure 0005074643
【0063】
で求めることができ、ハード処理する場合は、テーブルや近似処理する回路などを用いればよい。取り出し回路74は、受信トランスデューサの全周に素子がないために必要とする回路で、シフトレジスタのクロックの59〜159の101ビームを取り出す。この101ビームは、上記したようにチャンネル29−30間方向のビーム(0)からチャンネル129−130間方向のビーム(100)までの101個のビームである。この処理は320kHzのパルス波の4λサイクル毎に繰り返し行われる。
【0064】
なお、この実施形態ではビームフォーマ32の前段に移相器31を別に設けているが、ビームフォーマ32のリファレンス係数に各サンプリングデータを移相するための移相係数を含ませておき、移相器31を省略することも可能である。この場合、移相器31とビームフォーマ32とを別々にした場合には図9(A)のように複素マッチドデータ(リファレンス係数)は全てのビームに対して一通りでよいが、ビームフォーマ32に移相器31の機能を兼ねさせた場合には同図(B)に示すように各ビーム毎に複素マッチドデータを持ち形成するビームに対応する複素マッチドデータを読み出して各リファレンス係数を対応する0°サンプリングデータ、90°サンプリングデータに乗算する。このような乗算を行うときは、複数の素子の配列に規則性がなくてもよい。1次元配列、2次元配列、3次元配列のどれでもよい。たとえば、図13のように円筒配列にしてもよく、球体の表面に配列してもよい。また、各素子の間隔が等間隔でなくてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、図4に示すように10系統のマルチプレクサおよびAD変換器を用いて多重化し、4λの周期で繰り返すように160チャンネルのデータをサンプリングしているが、図10または図11に示すようなサンプリングパターンでサンプリングすることもできる。図10のサンプリングパターンは、160チャンネルを7系統に多重化してそれぞれ0°、90°でサンプリングし、3.5λ周期で繰り返している。実部データは0°データのみ、虚部データは90°データのみであるため、繰り返し毎に位相が逆転し、これによってDCバイアス成分が生じにくい。残ったバイアス成分は信号処理で除去することができる。また、図11のサンプリングパターンは、160チャンネルを9系統に多重化し、それぞれ0°、90°でサンプリングしているが、図10のパターンと同じように4.5λ周期で繰り返すようにしている。
【0066】
上記実施形態では、いわゆるクロスファンビーム方式のソナー装置について説明したが、この発明はこれに限定されることなくたとえば円筒形や球形のトランスデューサ(送受波器)を用いたスキャニングソナーに適用することもできる。
【0067】
図12はこの発明が適用されるスキャニングソナーのブロック図、図13は同スキャニングソナーにおいてビームフォーマに入力されるデータ列を説明する図である。この図において図1に示したブロック図と同一構成の部分は同一番号を付して説明を省略する。トランスデューサの各エレメント27はトラップ回路28を介して送信回路26および受信回路のアンプ13に接続されている。アンプ13〜フィルタ16は1チャンネルのみ示しているが各エレメントに対応して設けられている。マルチプレクサ17およびAD変換器19は複数チャンネルに対して1つ設けられている。AD変換器19によってサンプリングされたデータは図13に示す順序でビームフォーマ32に入力される。ビームフォーマ32は、図9(B)と同じように形成するビーム毎に複素マッチドデータを記憶しており、ビームフォーマ32に入力されているデータ列(エレメント番号)に応じた複素マッチドデータを読み出して各サンプリングデータに乗算し、受波ビームを形成する。なお、複素マッチドデータは、ティルト角、ビーム方向、ビーム幅に応じて複数種類用意すればよい。
【0068】
【発明の効果】
以上のようにこの発明によれば、(n+1/4)T位相をずらせて2回サンプリングし、それぞれを実部データ、虚部データとすることにより、AD変換器やミキサなどの構成を増やすことなく、複素サンプリングデータを生成することが可能になる。
【0069】
この発明によれば、180°サンプリングデータおよび270°サンプリングデータを用いることにより、DCバイアス成分がデータに重畳されていた場合でもこれを除去することが可能になる。
【0070】
この発明によれば、マルチプレクサ等の切換時には電気的なノイズが発生し、他系統のサンプリングに悪影響を及ぼすが、全てのマルチプレクサを同時に切り換えるようにしたことにより、ノイズ発生時にはどの系統もサンプリングしておらず、サンプリング時にはどの系統も切換をしていないことになり、ノイズの影響をなくすことができる。また、この発明では、このようなサンプリングによって階段状になったサンプリング時刻を同時または斜めに移相して揃えることにより、マッチドフィルタ等による連続したビーム形成が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施形態である海底探査ソナーのブロック図である。
【図2】同海底探査ソナーのトランスデューサの取り付け形態および送波ビーム,受波ビームを示す図である。
【図3】同海底探査ソナーの受信トランスデューサの構成を示す図である。
【図4】同海底探査ソナーのAD変換器のサンプリングタイミングチャートを示す図である。
【図5】同海底探査ソナーの演算処理部の移相方式を説明する図である。
【図6】同演算処理部のビームフォーム方式を説明する図である。
【図7】同演算処理部の位相器の構成を示す図である。
【図8】同演算処理部のビームフォーマの構成を示す図である。
【図9】ビームフォーマに記憶する複素マッチドデータを説明する図である。
【図10】前記AD変換器のサンプリングタイミングの他の方式のタイミングチャートを示す図である。
【図11】前記AD変換器のサンプリングタイミングの他の方式のタイミングチャートを示す図である。
【図12】この発明が適用されるスキャニングソナーのブロック図である。
【図13】同スキャニングソナーのサンプリングデータ列を説明する図である。
【図14】サンプリングタイミングの違いによる発生誤差の変化を説明する図である。
【符号の説明】
1…トランスデューサ部
2…送受信部
3…演算処理部
11…送信トランスデューサ
12…受信トランスデューサ
13…プリアンプ
14…バンドパスフィルタ
15…TVGアンプ
16…バンドパスフィルタ
17…マルチプレクサ
18…TVGアンプ
19…AD変換器
20…平均化処理部
31…位相器
32…ビームフォーマ
41、42…(位相係数が記憶された)メモリ
43〜46…乗算器
47、48…加算器
51、61…60段シフトレジスタ
52、62…107段シフトレジスタ
53、53…43段シフトレジスタ
55、57、65、67…乗算器
56、58、66、68…加算器
71…減算器
72…加算器
73…振幅検出部
74…取出回路

Claims (2)

  1. 所定周波数f(=1/T)の信号を受信し、
    所定のサンプリング時刻、および該所定のサンプリング時刻から(a+1/4)T後の時刻(a=0, 0.5, 1, 1.5, …のいずれか:特許請求の範囲において同じ)に前記信号をサンプリングし、
    これらの時刻にサンプリングされたデータを、複素サンプリングデータの実部データおよび虚部データとして出力する信号処理方法であって、
    実部データのサンプリングタイミングと虚部データのサンプリングタイミングとの間隔を当該虚部データのサンプリングタイミングと次の実部データのサンプリングタイミングとの間隔よりも短くすることを特徴とする信号処理方法。
  2. 所定周波数f(=1/T)の信号を受信し、
    所定のサンプリング時刻および、該所定のサンプリング時刻から(n+1/4)T後(n=0,1,2,…のいずれか:特許請求の範囲において同じ)、(n+1/2)T後、(n+3/4)T後の時刻にサンプリングしたデータを、それぞれ0°サンプリングデータ、90°サンプリングデータ、180°サンプリングデータ、270°サンプリングデータとし、
    前記0°サンプリングデータと180°サンプリングデータの極性反転値との加算値の1/2を複素サンプリングデータの実部データとし、さらに、90°サンプリングデータと270°サンプリングデータの極性反転値との加算値の1/2を前記複素サンプリングデータの虚部データとして出力する信号処理方法。
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