JP5060458B2 - ダイキャスト型とダイキャスト方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、熱伝導率を時間的に変化させる着想にまで至っていない。熱伝導率を時間的に変えることによって画期的な成果が得られるとの知見が得られたことによって、本発明が実現された。
例えば、キャビティ内に溶湯を行き渡らせるためには、ダイキャスト型の熱伝導率が低くて溶湯が冷却されにくいことが有利である。キャビティ内に溶湯を行き渡った後では、ダイキャスト型による溶湯の冷却効果が高い方が、ダイキャスト製品の形状が決まるまでの時間を短くでき、ダイキャスト方法に要する時間を短縮することができる。キャビティ内に溶湯を行き渡るまではダイキャスト型の熱伝導率が低く、キャビティ内に溶湯を行き渡った後ではダイキャスト型の熱伝導率が高いという現象を実現できれば、良好なダイキャスト製品を短時間で製造することが可能となる。本発明は、上記知見に立脚して開発された。
本発明の一つの形態のダイキャスト型では、キャビティ形成面の一部が、作用する圧力が増大すると熱伝導率が増大する表面処理層で被覆されている。
ダイキャスト方法の場合、キャビティ内に溶湯を行き渡らせる間は、キャビティ形成面に作用する圧力が低い。キャビティ内に溶湯を行き渡った後では、キャビティ形成面に作用する圧力が増大する。溶湯の凝固時に発生する収縮を補償するために凝固中の溶湯を加圧し続ける場合には、キャビティ形成面に作用する圧力が顕著に増大する。
表面処理層に作用する圧力が低い間は熱導電率が低い表面処理層でキャビティ形成面の一部を覆っておくと、その部分ではキャビティ内に溶湯を行き渡らせる間は溶湯が冷却されにくいので溶湯がスムースに流れる。容易にキャビティ内に溶湯を行き渡らせることができる。
本発明で用いる表面処理層は、その表面処理層に作用する圧力が増大すると熱伝達率が増大する。溶湯がキャビティに行き渡った後には表面処理層に作用する圧力が増大することからダイキャスト型による溶湯の冷却効果が促進される。溶湯が迅速に凝固することからダイキャスト方法の処理時間が短縮化される。また、意図した結晶構造を得ることもできる。
本発明の表面処理層は、ゲートに近い部分に部分的に形成することが好ましい。溶湯の流れ経路の末端に近い部分では、表面処理層で被覆してスムースな湯流れを確保する必要性に乏しい。末端部ではダイキャスト型で急冷してダイキャスト製品の表面を緻密化することが好ましい。
この場合、表面処理層で被覆されていない範囲ではダイキャスト型による溶湯の冷却能率が高く、ダイキャスト製品の表面を形成するチル層(結晶構造ないしは凝固組織が緻密な表面層)が厚く形成される。その一方において、型材の熱伝導度が30W/mK以上であると溶湯の冷却効果が大きすぎてキャビティに溶湯を行き渡らせることが難しい。非加圧状態での熱伝導率が2W/mK以下の材質でキャビティ形成面の一部を覆っておくと、溶湯の冷却が抑制されて良好な湯まわり性を確保することができる。
本発明で具現化される一つの形態のダイキャスト方法は、キャビティ形成面の一部を作用する圧力が増大するとかさ密度が増大して熱伝導率が増大する表面処理層でキャビティ形成面の一部を被覆しておく工程と、溶湯をキャビティに充填し終えるまでは表面処理層のかさ密度と熱伝導率を低い値に維持してダイキャスト型による溶湯の冷却を抑制する工程と、溶湯をキャビティに充填し終えた後は表面処理層のかさ密度と熱伝導率を増大させてダイキャスト型による溶湯の冷却を促進する工程を備えている。
このダイキャスト方法によると、キャビティに溶湯を充填しやすく、しかもキャビティに充填された溶湯が迅速に凝固する。短時間で高品質なダイキャスト製品を製造することができる。
この場合、ダイキャスト型で溶湯を迅速に冷却することと、低熱伝導部材で溶湯の冷却を抑制して溶湯の流動性を確保することとの両効果が顕著に得られる。
(特徴1)ダイキャスト型の型材に、熱伝導率が30W/mK以上の型材を使用する。
(特徴2)ダイキャスト型の型材に、熱伝導率が200W/mK以上の型材を使用する。
(特徴3)非加圧状態での熱伝導率が2W/mK以下の物質で、キャビティ形成面の一部を覆う。
CnF24は、圧力が作用していない状態では内部に空隙を含んでおり、かさ密度が低くて熱伝導率が低い。圧力が作用していない状態では、2W/mK以下の熱伝導率であり、実質的には断熱層として機能する。CnF24に圧力が作用すると、繊維状カーボン28がしなやかに変形して空隙が減少する。CnF24に圧力が作用すると、CnF24のかさ密度が増大して熱伝導率が増大する。圧力が作用すると、CnF24は伝熱層に変化する。
またスポーク形成部8aの範囲のキャビティ形成面は、CnF24で被覆されている。キャビティ9内に溶湯が充填しきるまでの間は、CnF24に作用する圧力が低く、CnF24の熱伝導率は低い。スポーク形成部8aを溶湯が流れている間は、溶湯が冷却されない。そのために、溶湯はスポーク形成部8aをスムースに流れる。溶湯は、速やかにキャビティ9内へ行き渡る。
リム形成部10aの範囲のキャビティ形成面は、表面処理層で覆われておらず、200W/mKという高熱伝導率である。リム形成部10aの範囲のキャビティ形成面の熱伝導率が高いために、リム形成部10aへ到達した溶湯は、ダイキャスト型12によって急冷される。溶湯が急冷されるため、ホイール2のリム10には厚いチル層が形成される。チル層は、凝固組織が緻密で硬い表面構造を持つ。
溶湯がキャビティ9内へ行き渡った後は、キャビティ形成面へ作用する圧力が増大する。キャビティ形成面へ作用する圧力が増大することにより、CnF24のかさ密度が増大し、CnF24の熱伝導率が増大する。この結果、スポーク形成部8aのキャビティ形成面の熱伝導率が増大する。熱伝導率が増大することより、スポーク形成部8aでは、溶湯が冷却される。スポーク形成部8aでの冷却能率は、リム形成部10aでの冷却能率よりは低いが、かさ密度が低いままのCnF24で被覆されている場合の冷却能率よりは高い。スポーク形成部8aでは、中間速度で溶湯が凝固する。スポーク8の内部に発達する結晶(凝固組織)が粗大化することがなく、スポーク8の内部に強度が強い結晶構造が形成される。
キャビティ9内に溶湯が行き渡った後は、スポーク形成部8aでの熱伝導率が増大し、溶湯の冷却が始まる。これによって、指向性凝固が実現できる。
キャビティ形成面の一部にCnF24の膜を施すことによって、溶湯の流動と凝固プロセスを空間的に調整することができる。圧力によって熱伝導率が変化するCnF24の膜を利用することによって、溶湯の流動と凝固プロセスを時間的に調整することができる。熱伝導率を空間的・時間的に調整することによって、指向性凝固現象を得ることもできる。短時間で意図したダイキャスト製品が鋳造可能となる。
良好な湯流れが必要な個所の型材の表面へCnF24を適用すれば、良好な湯流れを確保しながらダイキャスト製品の強度を確保することができる。また、熱伝導率の大きな型材を用いることで、ダイキャスト製品の表面が緻密な構造をとる。ダイキャスト製品の内部でも結晶粒子(凝固組織)が小さくなり、内部強度が強くなる。
CnF24を利用することによって、湯流れを確保するための条件に制約されないで、溶湯を急冷する型材を選択することができる。湯流れの確保を心配しないで、30W/mK以上の熱伝導率を持つ型材を選択することができる。CnF24を利用すると、2W/mK以下の熱伝導率にまで低下させることができ、30W/mK以上の熱伝導率を持つ型材を用いた場合でも、良好な湯流れを確保することができる。場所によって非常に高い熱伝導率(30W/mK以上)を有する部分と非常に低い熱伝導率(2W/mK以下)を有する部分を使い分けると、厚いチル層と強固な内側層を作り分けることができる。特に、200W/mK以上の熱伝導率を持つ型材と、2W/mK以下の熱伝導率を持つ表面処理層を組み合わせて用いると、溶湯が凝固する方向を安定的に制御することが可能となり、安定した指向性凝固現象を得ることができる。ダイキャスト製品内の結晶構造を制御しやすい。
図7は、図6よりも大きな深さ範囲での測定結果を示している。図6、図7から明らかに、200W/mK以上の熱伝導率を持つ型材を用いることで厚いチル層(図6から少なくとも200μm以上のチル層)が形成されることがわかる。また2W/mK以下の熱伝導率を持つ表面処理層を用いることで、チル層の厚みを薄く抑える(図6から10μm以下であることが分る)ことができることがわかる。また、2W/mK以下の熱伝導率を持つ表面処理層を用いても、溶湯がキャビティ9に充填された後は熱伝導率が増大するために、表面処理層に接する部分でも溶湯が速やかに凝固し、ダイキャスト方法が短時間に終了する。
図9は、図8の範囲36の拡大写真であり、ダイキャスト製品の表面近傍の凝固組織を示す。図9に示すように、結晶粒子のサイズは、ほぼ一定である。
図10は図8の範囲38の拡大写真であり、図11は範囲40の拡大写真であり、図12は範囲42の拡大写真である。図13は、図8のダイキャスト製品の厚み方向の中央部の周辺の拡大写真である。
すなわち、図10は、表面からの距離が約700μmの位置周辺の拡大写真であり、図11は、表面からの距離が約1400μmの位置周辺の拡大写真であり、図12は、表面からの距離が約2000μmの位置周辺の拡大写真であり、図13は、表面からの距離が約4000μmの位置周辺の拡大写真である。
ダイキャスト製品の表面から内部へと向かうにつれ、凝固組織は図9、図10、図11、図12、図13で示すように変化する。図10は、ダイキャスト製品の結晶粒子サイズが、図11から図13に示す粒子のサイズに比べ幾分小さい。図11と図12と図13で、ダイキャスト製品を構成する結晶粒子のサイズが、ほぼ均一である。キャビティ形成面がCnF24で被覆されているため、表面近傍の冷却速度は被覆されていない場合に比べて遅い。一方、内部の冷却速度はダイキャスト型12の伝熱特性に依存するため冷却が速く、ダイキャスト製品の内部の凝固組織は粗大化していない。そのためCnF24で被覆したキャビティ形成面の範囲では、ダイキャスト製品の内部に強い強度の凝固組織が形成される。
すなわち、図15は、ダイキャスト製品の表面近傍の凝固組織を示し、図16は、表面からの距離が約900μmの位置周辺の拡大写真であり、図17は、表面からの距離が約1700μmの位置周辺の拡大写真であり、図18は、表面からの距離が約4000μmの位置周辺の拡大写真である。
ダイキャスト製品の表面から内部へと向かうにつれ、凝固組織は図15、図16、図17、図18で示すように変化する。図15で、参照番号50は粗大初晶である。キャビティ形成面で湯流れが不良になるために、粗大初晶50が形成される。図16と図17で示すように、ダイキャスト製品を構成する結晶粒子のサイズが、ほぼ均一である。しかし図18では、粗大化した結晶が存在する。このダイキャスト製品の厚み方向の中央部では、粗大化した結晶が存在し結晶粒子のサイズが不均一となるために、十分な強度が得られない。熱伝導率が30W/mK以上のダイキャスト型で鋳造したダイキャスト製品の断面を観測すると、図3に示した結晶構造が観察される。
4 溶湯がゲート内で凝固した部分
4a ゲート
6 ディスク
6a ディスク形成部
8 スポーク
8a スポーク形成部
10 リム
10a リム形成部
12 ダイキャスト型
14 上型
18 下型
22 断熱材
24 粒子状カーボンと繊維状カーボンの混合物
26 粒子状カーボン
28 繊維状カーボン
30 チル層
31 細かな結晶粒子
32 細かな結晶粒子
34 粗い結晶粒子
50 粗大初晶
Claims (5)
- キャビティ形成面の一部が、繊維状カーボンと粒子状カーボンの混合物を含む表面処理層であって、作用する圧力が増大すると熱伝導度が増大する表面処理層で被覆されていることを特徴とするダイキャスト型。
- キャビティ形成面の一部が、作用する圧力が増大するとかさ密度が増大して熱伝導度が増大する表面処理層で被覆されていることを特徴とする請求項1のダイキャスト型。
- キャビティ形成面のうちの表面処理層で被覆されている範囲の非加圧状態での熱伝導度が2W/mK以下であり、キャビティ形成面のうちの表面処理層で被覆されていない範囲の熱伝導度が30W/mK以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイキャスト型。
- キャビティ形成面の一部を、作用する圧力が増大するとかさ密度が増大して熱伝導度が増大する表面処理層であって、繊維状カーボンと粒子状カーボンの混合物を含む表面処理層で被覆しておく工程と、
溶湯をキャビティに充填し終えるまでは、表面処理層のかさ密度と熱伝導度を低い値に維持してダイキャスト型による溶湯の冷却を抑制する工程と、
溶湯をキャビティに充填し終えた後は、表面処理層のかさ密度と熱伝導度を増大させてダイキャスト型による溶湯の冷却を促進する工程を備えているダイキャスト方法。 - ダイキャスト型による溶湯の冷却を抑制して溶湯の湯流れを促進する範囲のキャビティ形成面を表面処理層で被覆して非加圧状態での熱伝導度を2W/mK以下に設定しておく工程と、
ダイキャスト型による溶湯の冷却を促進する範囲のキャビティ形成面には表面処理層を形成しないで熱伝導度を30W/mK以上とする工程を備えている請求項4のダイキャスト方法。
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