JP5618476B2 - ダイカスト鋳造装置 - Google Patents

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Description

本発明は、ダイカスト鋳造装置に関する。特に、従来よりも低温、低圧での鋳造に適しているダイカスト鋳造装置に関する。
ダイカスト鋳造は、溶湯の温度、溶湯の射出速度、或いは鋳造時の圧力が低いほど、鋳造コストを抑えることができる。以下では、溶湯の温度、溶湯の射出速度、鋳造時の圧力を鋳造条件と称する。鋳造条件を単純に下げるだけでは、鋳造品に巣穴などの欠陥が生じてしまう。そこで、溶湯であるアルミニウムの組成を工夫し、溶湯の温度を下げる技術が特許文献1に開示されている。なお、「溶湯」とは、溶融した金属を意味する。
後述するように、本願発明は、プランジャスリーブとプランジャチップを工夫することによって、鋳造条件を下げる技術を提供する。そこで、プランジャスリーブとプランジャチップに関する背景技術を説明しておく。なお、プランジャスリーブは、キャビティへ射出する前の溶湯を貯めておく筒であり、プランジャチップは、プランジャスリーブ内を摺動して所定の圧力で溶湯をプランジャスリーブからキャビティへ射出するためのいわばピストンヘッドである。
特許文献2に、炭素系複合材をプランジャスリーブの内面に配置し、液状の潤滑剤なしにプランジャスリーブとプランジャチップの耐摺動性を向上する技術が開示されている。この技術は、液状の潤滑剤を不要とし、それによって溶湯への潤滑剤の混入を避けることを目的とするものである。
特開2006−342425号公報 特開平9−94648号公報
前述したように、鋳造条件を単純に下げるだけでは、鋳造品に巣穴などの欠陥が生じ易くなる。本発明は、鋳造条件を下げても良好な鋳造品を得られるダイカスト鋳造装置を提供することを目的とする。
発明者らは、キャビティへ射出される前にプランジャスリーブ内に一時的に貯められた溶湯の条件を整えることで、鋳造条件を下げても良好な鋳造品を得られることを見出した。すなわち、プランジャスリーブ内に貯められた溶湯の温度低下を抑制すれば、鋳造条件を下げても鋳造品の欠陥の発生を抑制できることを見出した。プランジャスリーブ内の溶湯の温度低下を抑制するには、溶湯に接するプランジャスリーブとプランジャチップを断熱性の高い素材で構成することが考えられる。発明者らは、断熱性の向上とともに、プランジャスリーブとプランジャチップの耐摺動性を向上させるのに好適なコーティング剤を発見した。そのコーティング剤とは、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノフィラメントのグループから選ばれる少なくとも1つのナノカーボン類を含む第1コーティング剤と、フラーレンを含む第2コーティング剤である。プランジャスリーブ内面とプランジャチップ先端面を第1コーティング剤で下地面をコーティングしその上を第2コーティング剤でコーティングすることによって、プランジャスリーブの耐摺動性を確保するとともに、鋳造条件を下げても良好な鋳造品が得られるダイカスト鋳造装置が実現される。
フラーレンとは、閉殻構造を有する炭素クラスタであり、通常は炭素数が60〜130の偶数である。具体例としては、C60、C70、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90,C92、C94、C96およびこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスタが挙げられる。本発明におけるフラーレンは、上記のフラーレンのほか、フラーレン分子にほかの分子や官能基を化学的に修飾したフラーレン誘導体を含む。
第1コーティング剤でコーティングされた表面には、ナノカーボン類が繊維状に拡がっている。そこへ第2コーティング剤を加えると、表面から繊維状に伸びるナノカーボン類の間にフラーレンが捕縛される。多量のフラーレンが表面に捕縛されることによって、耐摺動性と断熱性が確保される。特に、フラーレンが表面から繊維状に伸びるナノカーボン類の間に捕縛されることによって、フラーレンが表面から脱落することを抑制され、高い耐摺動性が長期間に亘って保持される。
上記のダイカスト鋳造装置はさらに、金型のキャビティ面が、第1コーティング剤で下地面がコーティングされその上が第2コーティング剤でコーティングされていることが好ましい。キャビティ面を覆う第1、第2コーティング剤は、断熱性だけでなく、離型抵抗の低減にも寄与する。
本発明によれば、鋳造条件を下げても良好な鋳造品を得られるダイカスト鋳造装置を実現することができる。
図1に、本発明に係るダイカスト鋳造装置の模式的断面図を示す。ダイカスト鋳造装置100は、一対の金型12、14を備える。金型12は、装置に固定されており、金型14は、スライド可能に装置に支持されている。金型12を固定型と称し、金型14を移動型と称する場合がある。一対の金型12、14が閉じると、キャビティ16が形成される。キャビティ16は、溶湯を閉じ込めて固化させ、所望の鋳造品を形成する空間である。符号12aは、固定金型12のキャビティ面を示しており、符号14aは移動金型14のキャビティ面を示している。
固定金型12には、プランジャスリーブ20が取り付けられている。プランジャスリーブ20は、円筒状であり、その内部空間は、キャビティ16に通じている。符号18は、プランジャスリーブ20の内部空間とキャビティ16を連通する通路であり、ランナーと呼ばれることがある。
プランジャスリーブ20内には、その内部空間を摺動するプランジャチップ22が配置されている。プランジャチップ22は、油圧装置24に連結されている。油圧装置24によって、プランジャチップ22がプランジャスリーブ20内を摺動する。
プランジャスリーブの側面には、側孔28が設けられており、この側孔28から、溶湯が流し込まれる。符号30は、溶湯をプランジャスリーブ20へ流し込むためのノズルを示している。
ダイカスト鋳造装置100の動作を説明する。まず、ノズル30から高温の溶湯がプランジャスリーブ20内へ流し込まれる。次いで、油圧装置24によってプランジャチップ22をキャビティ16へ向かって移動させる。プランジャスリーブ20内の溶湯が、所定の速度でキャビティ16内に射出される。油圧装置24がプランジャチップ22を荷重し続けることによって、キャビティ16内の溶湯が所定の圧力に維持される。その状態で金型12、14を冷却し、溶湯を固化させる。溶湯が固化したのちに金型12、14を開いて、鋳造品を取り出す。
ダイカスト鋳造装置100の特徴を説明する。プランジャスリーブ20の内面20a、プランジャチップ22の先端面22a、金型のキャビティ面12a、14a、及び、通路18の内面には被膜が形成されている。なお、プランジャチップ22の先端面22aは、溶湯と接する面を意味する。被膜は、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノフィラメントのグループから選ばれる少なくとも1つのナノカーボン類を含む第1コーティング剤と、フラーレンを含む第2コーティング剤からなる。以下では、内面20a、先端面22a、キャビティ面12a、14a、及び、通路18の内面を、下地面と総称する。
下地面は、次のとおりコーティングされる。まず第1コーティング剤を下地面に塗布し、その後に第2コーティング剤を塗布する。なお、第1コーティング剤、及びその塗布方法については、例えば、特開2008−105082号公報に開示された方法を用いればよい。第2コーティング剤は、アルコール等の揮発性液体に混ぜて塗布することが好ましい。揮発性液体に混ぜて塗布すると、微粒子である第2コーティング剤を下地面に均一に分布させることができる。また、ナノカーボン類を含む第1コーティング剤を塗布した上にフラーレンを含む第2コーテョング剤を塗布することによって、下地面に多くのフラーレンが強固に捕縛された被膜を形成することができる。そのような被膜は、耐摺動性(耐摩耗性)が長期間に亘って維持されるとともに、断熱性に優れている。なお、発明者らの知見によると、上記の被膜を形成すると、約2.0[W/mK]の断熱性を確保することができる。
ダイカスト鋳造装置100では、プランジャスリーブ20の内部からキャビティ16へ至るまでの間、溶湯が接する面が全て被膜で覆われている。被膜の断熱効果により、金型12、14の冷却を開始するまでの間、溶湯の温度低下が抑制される。これにより、従来よりも鋳造条件を下げても欠陥のない良質な鋳造品を得ることができる。また、キャビティ面12a、14aに上記の第1、第2コーティング剤による被膜が形成されていることによって、離型抵抗が低減される。
また、上記の第1、第2コーティング剤による被膜は次の点で通常の断熱材による断熱より優れている。通常の断熱材による断熱は、熱伝導率の低い材料をできる限り厚く塗布する、あるいは異種材料を複合化する、あるいはメッキ処理する、などの方法により断熱層を得る。これに対して上記の第1、第2コーティング剤による被膜は、溶湯に対して低濡れ性を示すため、より断熱効果が高く、被膜厚みが20μm程度でも十分な断熱効果が得られる。また、この低濡れ性により、鋳造時に溶湯がスリーブ内を移動する際の溶湯の移動に起因する圧力損失を低減することができる。そのため、鋳造圧を低減することができる。
本発明を実施したダイカスト鋳造装置を用いた鋳造品の例を図2に示す。この鋳造品は、長尺な自動車部品である。図2(A)〜図2(C)は、異なる鋳造条件で製造したときの鋳造品のX線画像である。図2(A)〜図2(C)の上側の画像は、鋳造品の長手方向のX線画像である。図2(A)〜図2(C)の下側の画像は、鋳造品の短手方向のX線画像である。図2(A)の鋳造条件は、鋳造圧力=19[MPa]、射出速度=1.0[m/s]、溶湯温度=620[℃]である。図2(B)の鋳造条件は、鋳造圧力=19[MPa]、射出速度=2.0[m/s]、溶湯温度=620[℃]である。図2(C)の鋳造条件は、鋳造圧力=17[MPa]、射出速度=0.5[m/s]、溶湯温度=620[℃]である。
図2(A)と図2(B)では、欠損のない良質な鋳造品が得られる。なお、図2(C)では、円で囲った部分に示されているように、欠損が発生している。即ち、図2(C)の鋳造条件では、良質な鋳造品は得られない。発明者らの知見によると、従来のダイカスト鋳造装置では、鋳造圧力=30[MPa]、射出速度=1.0[m/s]、溶湯温度=640[℃]という鋳造条件のうち、いずれかがその値を下回ると、欠損が発生し易かった。本発明のダイカスト鋳造装置によって、従来よりも低い鋳造条件で欠損のない良質な鋳造品を製造することができるようになった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
実施例のダイカスト鋳造装置100では、プランジャスリーブ20の内面20a、プランジャチップ22の先端面22a、金型のキャビティ面12a、14a、及び、通路18の内面に、第1、第2コーティング剤による被膜が形成されている。これら全ての面に被膜が形成されていることが好ましいが、少なくともプランジャスリーブ20の内面20aとプランジャチップ22の先端面22aに被膜が形成されていれば、本発明の効果を得られる。
また、ダイカスト鋳造装置100は、キャビティ面12a、14aに水又はエアを吹き付けるブロワを備えていてもよい。或いはダイカスト鋳造装置100は、プランジャスリーブ20内に水又はエアを吹き付けるブロワを備えていてもよい。これらのブロワは、所定回数の鋳造毎に、キャビティ面12a、14aやプランジャスリーブ20内を清掃する。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
ダイカスト鋳造装置の模式図を示す。 鋳造品のX線画像を示す。
符号の説明
12、14:金型
16:キャビティ
18:通路
20:プランジャスリーブ
22:プランジャチップ
24:油圧装置
28:側孔
30:ノズル
100:ダイカスト鋳造装置

Claims (2)

  1. 金型と、
    溶湯が流し込まれるプランジャスリーブと、
    プランジャスリーブ内を摺動して溶湯を金型のキャビティへと押し出すプランジャチップと、
    を備えており、
    プランジャスリーブ内面とプランジャチップ先端面が、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノフィラメントのグループから選ばれる少なくとも1つのナノカーボン類を含む第1コーティング剤で下地面がコーティングされておりその上がフラーレンを含む第2コーティング剤でコーティングされていることを特徴とするダイカスト鋳造装置。
  2. 金型のキャビティ面が、前記第1コーティング剤で下地面がコーティングされており、その上が前記第2コーティング剤でコーティングされていることを特徴とする請求項1に記載のダイカスト鋳造装置。
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