JP4745532B2 - マルチゲート鋳造用金型及び鋳造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋳物製品の鋳造に用いられ、キャビティに溶湯を充填する湯口を複数備えるマルチゲート鋳造用金型及び鋳造方法に関する。詳しくは、キャビティ、あるいは、堰、湯道の面を構成する面の少なくとも一部が、金型内の分割入れ子により形成されることによって、溶湯の充填性向上が図られ、溶湯の補給が確保され、湯廻り不良の発生が防止され、コスト低減と機械的強度向上を両立させた優れた鋳物製品を得ることが出来るマルチゲート鋳造用金型と、その金型を用いた鋳造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋳造は、製品形状のキャビティを有する金型に溶湯を充填し、溶湯を冷却・固化させて製品を得る成形手段であり、複雑形状の製品を一工程で製造することが可能であるため、車両用部品をはじめ、様々な工業製品の鋳造において広範に利用されている。
【0003】
特に近年においては、例えば、特開平5−269563号公報に開示されているように、複数の湯口を有するマルチゲート金型を利用した鋳造が行われている。マルチゲート金型は、溶湯を複数の湯口から金型内に注湯するため、溶湯が金型内を流れる距離が短く、溶湯の温度低下が少ないため、金型内での湯流れがよく、鋳造欠陥が少なく、薄肉製品にも対応可能であるという利点を有する。
【0004】
金型における湯口とは、溶湯が流れる湯道のキャビティ側の開口端にあって、溶湯の流路のなかで、その断面積が最も小さい部分であり、溶湯から金型への熱伝導により溶湯の温度が低下し易い。従って、湯口周りは、金型のなかで最も溶湯が凝固し易い部分の1つである。湯口周りにおいて溶湯が凝固すると、キャビティへの注湯が困難になり、湯廻り不良等の鋳造欠陥の原因となり好ましくない。堰や湯道においても、溶湯が凝固するとキャビティへの注湯が困難になるという点で同様に好ましくない。
【0005】
湯口周り及び堰や湯道の温度低下を防止する方法としては、この部分をセラミック等の断熱材で構成する方法が考えられる。しかしながら、断熱材が崩壊性を有する材料であるところ、特に堰において、即ち、湯口より製品部となるキャビティ側において、溶湯との接触面を断熱材で構成すると、鋳物製品に崩壊した材料が混入し、外観不良及び機械的性質の低下等の欠陥を生ずるおそれがある点において好ましくない。堰で成形される部分は、後に研削等で削られ製品部とならないが、製品部に続く部分であるため、なるべく鋳造欠陥を生じさせないことが好ましい。従って、かかる方法は製品部とならず製品部から離れた湯道には有効な方法であるものの、湯口よりキャビティ側については不適当な方法といえる。
【0006】
そこで、従来は、湯口の断面積を通常より大きく構成する方法(以下、第1の方法と記す。)、金型を高温に保持する方法(以下、第2の方法と記す。)等を用いて、特に湯口周りの温度低下防止が行われてきた。
第1の方法は、湯口のなかを熱源である溶湯が大量に流れるため、第2の方法は金型全体の温度を高く保持しているため、何れも湯口周りの温度が低下し難くなり、溶湯の凝固を防止することが出来る。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、第1の方法は鋳造歩留まり(材料利用率)が低下するという問題があった。第1の方法では、溶湯をキャビティに注湯するという本来の機能からすれば、湯口を必要以上に大きく構成しているため、堰で成形される製品として不要な部分、即ち、後で研削除去すべき部分が増加することになるからである。又、金型をコンパクト化することが困難であるという難点もあった。
【0008】
更には、湯口周りの温度低下を防止することに重点をおくがあまり、逆に溶湯が凝固し難くなり、湯切りの際に引け巣及びピンホール等の鋳造欠陥が発生し易くなる点においても問題であった。
かかる問題を回避するためには、例えば、特開平5−269563号公報に開示されているように、本来保温すべき湯口周りに、金型の冷却能力を調整する機能として冷却装置を付設するという非合理的な構造を採らざるを得なかった。
【0009】
一方、第2の方法は、鋳物製品の機械的特性が低下するという問題があった。第2の方法では、金型全体の温度を高く保持しているため、本来は急速に冷却することにより機械的強度の低下につながる金属組織の粗大化を防止しなければならない製品部の溶湯まで凝固が遅くなってしまうからである。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、特に湯口周りにおいて、溶湯が凝固し難いことに加え、鋳造歩留まりが高く、引け巣等の鋳造欠陥が少なく、且つ、機械的強度に優れた鋳物製品を得られるマルチゲート鋳造用金型、及び、その金型を用いた鋳造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
金型構造について鋭意検討が行われた結果、マルチゲート鋳造用金型において、湯口周り及び堰や湯道を分割入れ子で構成することによって、従来技術の問題点を解決出来ることが見出され、本発明が完成された。
【0012】
即ち、本発明によれば、鋳物製品の鋳造に用いられ、キャビティに溶湯を充填する湯口を複数備える金型であって、鋳物製品は、厚肉部と薄肉部とからなり、キャビティのうち薄肉部を成形するキャビティCnの少なくとも一部の面が、分割入れ子により形成されることを特徴とするマルチゲート鋳造用金型が提供される。鋳物製品が、薄肉部たる筒状のリムと、リムを接続する厚肉部たるスポークと、から構成される車両用ホイールである場合には、キャビティのうち少なくともリムを成形するキャビティClの外周面が、分割入れ子により形成されることが好ましい。
【0013】
又、本発明によれば、鋳物製品の鋳造に用いられ、キャビティに溶湯を供給する湯口と、湯口までの溶湯流路である湯道と、湯口からキャビティまでの間の堰と、からなる湯口系を複数備える金型であって、少なくとも1つの湯口系において、少なくとも湯道を構成する面の一部及び堰を構成する面の一部の何れかを含み、湯口周りの一部の面若しくは全面が、金型内の分割入れ子により形成されることを特徴とするマルチゲート鋳造用金型が提供される。
【0014】
鋳物製品が、厚肉部と薄肉部とからなる場合には、キャビティのうち薄肉部を成形するキャビティCnとつながる湯口系Gnが、分割入れ子が備わる少なくとも1つの湯口系に含まれることが好ましい。換言すれば、キャビティのうち薄肉部を成形するキャビティCnとつながる湯口系Gnにおいて、湯道Rnを構成する面、及び、堰Lnを構成する面のうち、少なくとも堰Lnを構成する一部の面を含み、一部の面若しくは全面が、金型内の分割入れ子により形成されることが好ましい。
【0015】
又、鋳物製品が、筒状のリムと、リムを接続するスポークと、から構成される車両用ホイールである場合には、キャビティのうちリムを成形するキャビティClとつながる湯口系Glが、分割入れ子が備わる少なくとも1つの湯口系に含まれることが好ましい。換言すれば、キャビティのうちリムを成形するキャビティClとつながる湯口系Glにおいて、湯道Rlを構成する面、及び、堰Llを構成する面のうち、少なくとも堰Llを構成する一部の面を含み、一部の面若しくは全面が、金型内の分割入れ子により形成されることが好ましい。
【0016】
本発明においては、分割入れ子と金型本体との間に、概ね1mm以上の高さの空隙層、及び/又は、間隙部、を有することが好ましい。又、本発明のマルチゲート鋳造用金型は、少なくとも1つの湯口を備える下型と、下型とともにキャビティを形成する上型及び横型と、からなることが好ましい。本発明は、低圧鋳造方法に好適に用いることが出来る。
【0017】
更に、本発明によれば、筒状のリムと、リムを接続するスポークと、から構成される車両用ホイールの低圧鋳造方法であって、少なくともリムを成形するキャビティClの外周面が、金型本体との間に概ね1mm以上の高さの空隙層及び/又は間隙部を有する分割入れ子により形成されるマルチゲート鋳造用金型を用いて、キャビティClへの溶湯充填性を確保し、リムの機械的性質を向上させることを特徴とする鋳造方法が提供される。
【0018】
又、本発明によれば、筒状のリムと、リムを接続するスポークと、から構成される車両用ホイールの低圧鋳造方法であって、リムを成形するキャビティClに溶湯を供給する湯口Glから、キャビティClまでの間の、堰Llを構成する少なくとも一部の面が、金型本体との間に概ね1mm以上の高さの空隙層及び/又は間隙部を有する分割入れ子により形成されるマルチゲート鋳造用金型を用い、キャビティClへの溶湯補給を確保し、リムの機械的性質を向上させることを特徴とする鋳造方法が提供される。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のマルチゲート鋳造用金型について、詳細に説明する。
本発明のマルチゲート鋳造用金型は、厚肉部と薄肉部とからなる製品を成形する空間であるキャビティのうち薄肉部を成形するキャビティCnの少なくとも一部の面を、分割入れ子により構成した点に、第1の特徴がある。
本発明の金型において、かかる構造を採用したのは、以下の理由による。
【0020】
第1の理由は、キャビティCnの少なくとも一部の面を金型本体から分離し、溶湯から金型本体への熱伝導性を低下させるためである。
薄肉部においては、厚肉部と比較して体積が小さいことから保有熱量も少なく凝固時間が短い。このため、従来は、湯廻り不良、即ち、薄肉部に溶湯が充分に行きわたらないうちに凝固が始まり未成形部分が生じるという欠陥が起こりがちであった。換言すれば、湯廻り不良を起こさないためには、鋳物製品の各部分に、一定以上の厚さの差を設けないことが条件になっていて、自由に製品の成形形状を設計することが出来なかった。本発明のマルチゲート鋳造用金型によれば、この問題を解消出来る。分割入れ子と金型本体との分割(Parting Line、以下、PLともいう)面における熱伝導性は一体構造と比較して顕著に低下するため、金型本体への熱伝導による溶湯の温度低下を防止することが可能となり、溶湯充填性が向上するからである。
【0021】
尚、熱伝導性とは、温度の異なる物体が接したときに高温側から低温側への熱の移動し易さを指す。熱伝導性の違いは、伝熱面積、時間、温度差を一定にしたときの熱量で表される熱伝導率で数値化して示すことが出来るものであるが、本発明のマルチゲート鋳造用金型では、分割入れ子により形成した部分において、分割入れ子により形成しない場合に比べて相対的に、熱伝導性を低下させることが出来ればよく、熱伝導率により限定されるものではない。
【0022】
第2の理由は、キャビティCnの少なくとも一部の面を小体積の部材で構成し、溶湯から熱を奪う力を低下せしめるためである。
熱伝導は、溶湯と、それに接する面の温度が等しくなるまで行われるため、溶湯と接する面を構成する部材の体積が大きいほど溶湯の熱を奪う力が大きくなる。分割入れ子のような小体積の部材は、大体積の部材と比較して溶湯の熱を奪う力が顕著に低下するため、金型本体への熱伝導による溶湯の温度低下を防止することが可能となり、第1の理由と同様に、湯廻り不良を起こさず、鋳物製品の成形形状を限定させない。
【0023】
本発明のマルチゲート鋳造用金型においては、第1の特徴に係る上記の2つの作用が相俟って、薄肉部を成形するキャビティCnを構成する面の温度低下を遅延させ、溶湯の凝固時間を長くし充填性を向上させ、湯廻り不良等の鋳造欠陥を防止する効果を得ることが出来る。
【0024】
又、本発明のマルチゲート鋳造用金型においては、製品を成形する空間であるキャビティに溶湯を注湯する流路である湯道及び堰のうち、湯口周りを分割入れ子により構成した点に、第2の特徴がある。
本発明の金型において、かかる構造を採用したのは、上記した第1の特徴と同様に、以下の理由による。
【0025】
即ち、第1の理由は、少なくとも湯口周りを構成する一部の面を含む面を金型本体から分離し、溶湯から金型本体への熱伝導を低下させるためである。
湯口周りは、キャビティに溶湯を導く流路である湯道及び堰のなかで、最も断面積の小さい部分であるため、凝固し易い。湯口周りが凝固してしまうと、溶湯が補給し難くなるので、従来は、湯口を大きくしたり金型の温度を高くして、湯口周りの溶湯の凝固を遅延させていた。このため、製品とはならない堰で成形される部分(後に研削すべき部分)の体積が大きくなって歩留まり(材料利用率を指す)が低下したり、望ましい機械的性質が得られなかったり、金型が大型化してしまう等の問題を抱えていた。本発明のマルチゲート鋳造用金型によれば、分割入れ子と金型本体とのPL面における熱伝導性が低下するため、金型本体への熱伝導による溶湯の温度低下を防止することが可能となり、湯口を大きくしなくても、又、金型の温度を高くしなくても、溶湯補給の確保がなされ、この問題を解消出来る。
【0026】
第2の理由も、上記した第1の特徴の第2の理由と同様に、少なくとも湯口周りを構成する一部の面を含む面を小体積の部材で構成し、溶湯から熱を奪う力を低下せしめるためである。
湯口周りを、分割入れ子のような小体積の部材により構成すれば、金型本体への熱伝導による溶湯の温度低下を防止することが可能となり、第1の理由と同様に、湯口を大きくすることによる製品として不要な部分の増加を招くことがなく、鋳造歩留まりの低下を防止することが出来、金型のコンパクト化も可能である。更には、金型全体の温度を高く保持する必要もないので製品の機械的特性が低下することもない。
【0027】
本発明のマルチゲート鋳造用金型においては、第2の特徴に係る上記の2つの作用が相俟って、湯道及び堰のうち、特に湯口周りにおいて、凝固収縮時の溶湯補給を確保し、引け巣等の鋳造欠陥の発生及び機械的性質の低下等を防止する効果を得ることが出来る。
【0028】
以下、本発明のマルチゲート鋳造用金型の構成について、図面を参照しながら説明する。但し、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
図2は、本発明に係るマルチゲート鋳造用金型の一実施形態を示す断面図である。マルチゲート鋳造用金型21は、成形空間であるキャビティ4を形成する上型1と下型3とからなり、厚肉部と薄肉部とがある鋳物製品の鋳造に用いられる金型である。キャビティ4に溶湯を供給する湯口28と、金型外部から湯口28までの溶湯流路である湯道27と、湯口28からキャビティ4の間の堰29からなる湯口系を2つ備えており、一方の湯口28は、キャビティ4のうち厚肉部を成形するキャビティ22につながる経路に備わり、他方の湯口28は、薄肉部を成形するキャビティ23につながる経路に備わる。そして、キャビティ23を形成する面は、マルチゲート鋳造用金型21内の分割入れ子25a、25bにより形成されている。更には、上型1と分割入れ子25aとの間、及び、下型3と分割入れ子25bとの間には、それぞれ空隙層26が形成されている。
【0029】
マルチゲート鋳造用金型21においては、薄肉部を成形するキャビティ23の少なくとも一部の面を分割入れ子により形成することが好ましく、又、上型1と下型3、即ち、金型本体と、分割入れ子との間に、空隙層を形成することが好ましいが、分割入れ子自体がキャビティ23を構成する面積や、分割入れ子の体積や、空隙層を設けるか否か、あるいは設けた場合の空隙層の高さ等は限定されない。鋳物製品の厚肉部と薄肉部との厚さの比を鑑み、薄肉部が先に凝固して溶湯充填性が低下し湯廻り不良等の鋳造欠陥が生じることがないように設定すればよい。
【0030】
例えば、本発明のマルチゲート鋳造用金型は、図2に示すマルチゲート鋳造用金型21の通りでもよいが、図2に示すマルチゲート鋳造用金型21に比べ相対的に、薄く放熱し易い上型1側の分割入れ子25aを薄くして体積を小さくし空隙層26の高さを高くし熱伝導性を低下させた上で、下型3側の分割入れ子25bを設けないといった構成でも構わない。
尚、分割入れ子25a、25bを設けるだけでPL面の形成により熱伝導性は低下するため、空隙層26を設ける場合には、その高さを概ね1mm以上とすることが、効果が顕著に現れるので、好ましい。
【0031】
次に、図3を参照して説明する。図3は、本発明に係るマルチゲート鋳造用金型の他の一実施形態を示す断面図である。マルチゲート鋳造用金型31は、成形空間であるキャビティ4を形成する上型1と中型2及び下型3とからなり、図2に示すマルチゲート鋳造用金型21と同様に、厚肉部と薄肉部とを有する鋳物製品の鋳造に用いられる金型である。キャビティ4に溶湯を供給する湯口38と、金型外部から湯口38までの溶湯流路である湯道37と、湯口38からキャビティ4の間の堰39からなる湯口系を2つ備えており、一方の湯口38は、キャビティ4のうち厚肉部を成形するキャビティ32につながる経路に備わり、他方の湯口38は、薄肉部を成形するキャビティ33につながる経路に備わっている。
【0032】
そして、キャビティ33を形成する面は、マルチゲート鋳造用金型31内の分割入れ子35a、35bにより形成されている。又、上型1と分割入れ子35aとの間、及び、中型2と分割入れ子35a及び35bとの間には、それぞれ間隙部34が形成されている。更には、マルチゲート鋳造用金型31には、湯口38と、湯口38までの溶湯流路である湯道37と、湯口38からキャビティ4までの間の堰39とからなる2つの湯口系のうち、キャビティ33につながる湯口系において、湯道37を構成する面、及び、堰39を構成する面の全面が、分割入れ子35c、35e、及び、35d、35fにより形成されている。
【0033】
マルチゲート鋳造用金型31においては、マルチゲート鋳造用金型21と同じように、薄肉部を成形するキャビティ33の少なくとも一部の面を分割入れ子により形成することが好ましく、又、上型1と中型2及び下型3、即ち、金型本体と、分割入れ子との間に、間隙部を形成することが好ましいが、分割入れ子自体がキャビティ33を構成する面積や、分割入れ子の体積や、間隙部を設けるか否か、あるいは設けた場合の間隙部の空間体積や、間隙部と分割入れ子との当接面積等は限定されない。鋳物製品の厚肉部と薄肉部との厚さの比を鑑み、薄肉部が先に凝固して溶湯充填性が低下しないように設定すればよい。
尚、間隙部は空隙層と同じ役割を果たし、層状ではないといった形状の差異のみを有する。
【0034】
又、マルチゲート鋳造用金型31においては、少なくとも1つの湯口系において、湯道37を構成する面、及び、堰39を構成する面のうち、湯口38周りであって湯道37若しくは堰39を構成する一部の面を含み、一部の面若しくは全面が、金型内の分割入れ子により形成されることが好ましいが、少なくとも1つの湯口系において少なくとも湯口38周りの面が分割入れ子により形成されればよく、分割入れ子自体が湯道37若しくは堰39を構成する面積や、分割入れ子の体積や、分割入れ子の数等は限定されない。金型内における湯道及び堰の位置及び金型の厚さ等から放熱経路を勘案し、湯道及び堰内の溶湯が先に凝固して溶湯補給が確保出来なくなり引け巣等の鋳造欠陥の発生及び機械的性質の低下等が生じることがないように設定すればよい。
【0035】
例えば、本発明のマルチゲート鋳造用金型は、図3に示すようにキャビティ33周りの分割入れ子35a、35b、及び、間隙部34を構成することは好ましい形態であるが、図3に示すマルチゲート鋳造用金型31よりも相対的に、分割入れ子35aをより薄くして体積を小さくし、上型1と中型2内に形成される間隙部34の高さをより高く体積も大きくして、熱伝導性を低下させた上で、下型3側にも分割入れ子35bとの間に間隙部を設けるといった構成でも構わない。
【0036】
又、図3に示すマルチゲート鋳造用金型31のように、凝固が早くなり易い薄肉部を成形するキャビティ33につながる湯口系の全面を、分割入れ子35c、35e、及び、35d、35fにより形成することは好ましい形態であるが、図3に示すマルチゲート鋳造用金型31よりも相対的に、分割入れ子の体積をより小さくし湯口周りのみに設けてもよく、又、キャビティ32につながる他方の湯口系においても、分割入れ子により湯道37及び堰39の一部の面若しくは全面を形成しても構わない。
【0037】
続いて、鋳物製品が車両用ホイールである場合を一例として、本発明のマルチゲート鋳造用金型を説明する。
図1は、本発明に係るマルチゲート鋳造用金型の一実施例を示す断面図である。図1に示すマルチゲート鋳造用金型11は、図4に斜視図が示される車両用ホイール41を成形する金型である。又、図5は、図4に示す車両用ホイールのAA’方向における断面を示した図であり、図1に示すマルチゲート鋳造用金型11における成形空間たるキャビティ4と同方向からみた断面図である。車両用ホイール41は、薄肉部たる筒状のリムと、そのリムを接続する厚肉部たるスポーク44とから構成され、リムは、スポーク44側のアウターリム43と、その反対側端部のインナーリム42からなる。
【0038】
図1は、低圧鋳造方法に用いる場合のマルチゲート鋳造用金型11を表しており、マルチゲート鋳造用金型11は、溶湯が図示しない保持炉から金型へ押し上げられる流路であるストーク5に接続されている。マルチゲート鋳造用金型11は、成形空間であるキャビティ4を形成する上型1と中型2及び下型3とからなり、厚肉であるスポーク44と薄肉であるリムとからなる車両用ホイールの鋳造に用いられる金型である。キャビティ4は、厚肉であるスポーク44を成形するキャビティ12と、薄肉であるリムを成形するキャビティ13とからなる。
【0039】
マルチゲート鋳造用金型11は、キャビティ4に溶湯を供給する湯口18と、ストーク5から湯口18までの溶湯流路である湯道17と、湯口18からキャビティ4の間の堰19からなる湯口系7,8を備えている。一方の湯口系8は、キャビティ4のうちスポークを成形するキャビティ12につながり、他方の湯口系7は、リムを成形するキャビティ13につながっている。尚、湯口系7は、図1には示されないが、リムを成形する円筒状のキャビティ13の円周に等間隔でつながるように複数系統設けることが好ましい。図4に示す車両用ホイール41を成形するマルチゲート鋳造用金型11の場合には、キャビティ13においてスポーク44がアウターリム43と接続する部分に相当する場所に湯口18が備わるように、スポーク44の数と同じ5箇所の湯口系7を設けることが好ましい。
【0040】
キャビティ12を形成する面は上型1と下型3とからなる。又、キャビティ13を形成する面は上型1と中型2とからなり、キャビティ13からみて金型外側に位置する中型2においては、ボルト20で固定された分割入れ子15dを備え、薄肉であるリムの成形空間であるキャビティ13の金型外側の概ね全面が、その分割入れ子15dにより形成されている。中型2と分割入れ子15dとの間には、間隙部14が形成されている。
【0041】
2つの湯口系7,8のうち、湯口系7において、湯道17は下型3内に形成され、堰19は下型3と横型2とから形成される。湯口系8においては、湯道17及び堰19は下型3内に形成される。
マルチゲート鋳造用金型11では、2つの湯口系7,8のうち、湯口系7において、湯道17を構成する面、及び、堰19を構成する面の全面が、中型2内の15aと、下型3内の分割入れ子15b、15cにより形成されている。更には、中型2と分割入れ子15aとの間には、空隙層16が形成されている。
【0042】
本発明のマルチゲート鋳造用金型11においては、薄肉のリムを成形するキャビティ13の外周面が、分割入れ子15dにより形成されているため、金型本体への熱伝導による溶湯の温度低下を防止することが可能となり、溶湯充填性が向上する。又、キャビティ4のうちリムを成形するキャビティ13とつながる湯口系7が、分割入れ子15a、15b、15cにより形成されているため、金型本体への熱伝導による溶湯の温度低下を防止することが可能となり、溶湯補給が確保される。
【0043】
従って、金型温度を高くしなくても、湯廻り不良等の鋳造欠陥を起こし難い。金型温度を高くしないため、成形される車両用ホイール41には、より高い機械的性質が付与され得て、その結果、より薄肉化、即ち、軽量化を図ることが出来る。又、湯廻り不良を起こし難いため、より自由に車両用ホイール41の成形形状を設計することが可能である。更には、湯口18を広げたり堰19を大きくして溶湯凝固遅延を図る必要がないため、金型を無用に大きくする必要がなく、より金型作製コストが削減され、尚且つ、堰19で成形される製品部とならない部分を小さく出来るので、歩留まりが向上し、原料コストが低減される。
【0044】
又、この車両用ホイールを成形する金型は、マルチゲートを採用した鋳造用金型であって、上記したように、好ましくは、湯口系7がリムを成形する円筒状のキャビティ13の円周に等間隔でつながるように複数系統設けられるため、溶湯充填に際し、通常のセンターゲート方式の金型より溶湯の移動距離が短くなり、充填がより容易になって、尚更に、湯廻り不良が生じ難くなり、又、溶湯充填に要する時間が短くて済み、鋳造全工程に要する時間が短縮され、鋳物製品生産のスループット向上が図られる。
【0045】
よって本発明のマルチゲート鋳造用金型11を用いて作製される車両用ホイール41は、より軽量で、意匠的にも優れたものとなり得て、且つ、より安価に作製することが可能である。従って、競合品に比べ、より高い競争力を備えることが出来る。
【0046】
次に、材料について説明する。
本発明のマルチゲート鋳造用金型を構成する材料は、公知の材料を用いればよく、本発明は使用する材料を限定するものではない。金型全体としては、溶湯の凝固が速いほうが生産性の向上が図れて好ましく、分割入れ子により形成される金型の一部分では、溶湯の流動性を確保するために溶湯の凝固を遅くすることが好ましいことから、金型本体は、より熱伝導性の高い、即ち、熱伝導率の大きな材料を用い、分割入れ子には、より熱伝導性の低い、即ち、熱伝導率の小さい材料を用いることが、より好ましい。例えば、前者としては銅やベリリウム銅、後者としては鋳鉄や鋳鋼が挙げられる。
【0047】
上記したマルチゲート鋳造用金型は、種々の鋳造法に適用可能であるが、低圧鋳造方法に好適に用いることが出来る。低圧鋳造方法とは、一般に、金型と、金型の下に備わり溶湯が入れられた保持炉を用いて、保持炉内に例えば窒素ガスの注入等で概ね0.1〜0.5kg/cm2の極低い圧力を付加するか、若しくは、金型側から真空で吸引して、溶湯の温度を一定温度に保ったまま、ストークを介して金型内へ押し上げ、金型で凝固させて成形し、鋳物製品を得るという工程からなる製造方法である。溶湯の金型への充填が終われば、ストークのなかに残った溶湯は保持炉に戻る。
この低圧鋳造方法は、所謂スクイズ鋳造法、ダイカスト法に比べ、スクイズ鋳造法より溶湯充填速度が速いためスループットが大きく、ダイカスト法のように圧入しないため、より高品質であり、両者に比べて金型を含む設備費が安価であるという利点を有する。
【0048】
次に、本発明の鋳造方法について説明する。本発明の鋳造方法は、筒状のリムと、リムを接続するスポークとから構成される車両用ホイールを鋳造する方法であり、上記した低圧鋳造方法である。
本発明の第1の鋳造方法は、少なくともリムを成形するキャビティClの外周面が、金型本体との間に概ね1mm以上の高さの空隙層及び/又は間隙部を有する分割入れ子により形成されるマルチゲート鋳造用金型を用いて、キャビティCl側で溶湯の早期凝固を防止することによってキャビティClへの溶湯充填性を確保し、金型温度を高くすることなく鋳造欠陥発生を防ぎ、特にリムの機械的性質を向上させ得る。
【0049】
又、本発明の第2の鋳造方法は、リムを成形するキャビティClに溶湯を供給する湯口Glから、キャビティClまでの間の堰Llを構成する少なくとも一部の面が、金型本体との間に概ね1mm以上の高さの空隙層及び/又は間隙部を有する分割入れ子により形成されるマルチゲート鋳造用金型を用いて、湯口系において溶湯の早期凝固を防止することによってキャビティClへの溶湯補給を確保し、金型温度を高くすることなく鋳造欠陥発生を防止し、特にリムの機械的性質を向上させ得る。
【0050】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のマルチゲート鋳造用金型、及び、マルチゲート鋳造用金型を用いた鋳造方法によれば、湯口を必要以上に大きくしなくても、溶湯温度をより低くおさえても、溶湯充填完了前に、薄肉部を成形するキャビティ、あるいは、湯口周り及び堰において、溶湯が凝固し溶湯の充填性が低下したり、溶湯の補給が確保出来なかったり、鋳造歩留まりが低減したりすることがない。従って、鋳造欠陥の少ない機械的強度に優れた鋳物製品を、より低コストに作製することが出来る。そして、例えば、アルミニウム合金を用いて、鋳物製品として軽量の車両用ホイールを、より安価で供給すれば、自動車等の燃費低減が図られ、地球規模の課題である排出二酸化炭素の削減に寄与し地球温暖化防止等の環境対策に貢献することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るマルチゲート鋳造用金型の一実施例を示す断面図である。
【図2】 本発明に係るマルチゲート鋳造用金型の他の一実施形態を示す断面図である。
【図3】 本発明に係るマルチゲート鋳造用金型の更に他の一実施形態を示す断面図である。
【図4】 本発明に係るマルチゲート鋳造用金型で鋳造される鋳物製品の一例を示す斜視図である。
【図5】 図4に示す鋳物製品のAA’方向における断面図である。
【符号の説明】
1…上型、2…横型、3…下型、4…キャビティ、5…ストーク、7,8…湯口系、11,21,31…マルチゲート鋳造用金型、12…キャビティ(Cs)、13…キャビティ(Cl)、14,34…間隙部、15a〜15d,25a〜25b,35a〜35f…分割入れ子、16,26…空隙層、17,27,37…湯道、18,28,38…湯口、19,29,39…堰、20…ボルト、22,32…キャビティ(Ck)、23,33…キャビティ(Cn)、41…車両用ホイール、42…インナーリム、43…アウターリム、44…スポーク。
Claims (2)
- スポーク側のアウターリムとその反対側端部のインナーリムからなり薄肉部たる筒状のリムと、そのリムを接続する厚肉部たるスポークと、から構成される車両用ホイールの鋳造に用いられ、
前記リムを成形するキャビティ13に溶湯を充填するものでありキャビティ13においてスポークがアウターリムと接続する部分に相当する場所に備わる湯口と、その湯口までの溶湯流路である湯道と、前記湯口から前記キャビティ13までの間の堰と、からなる湯口系7と、
前記スポークを成形するキャビティ12に溶湯を充填する湯口と、その湯口までの溶湯流路である湯道と、前記湯口から前記キャビティ12までの間の堰と、からなる湯口系8と、を備え、
前記リムを成形するキャビティ13のみの外周面が、金型本体との間に1mm以上の高さの間隙部を有する分割入れ子により形成されるとともに、
前記リムを成形するキャビティ13とつながる湯口系7のみにおいて、前記リムを成形するキャビティ13に溶湯を供給する湯口から、前記キャビティ13までの間の、堰を構成する一部の面のみが、金型本体との間に1mm以上の高さの空隙層を有する分割入れ子により形成されることを特徴とするマルチゲート鋳造用金型。 - スポーク側のアウターリムとその反対側端部のインナーリムからなり薄肉部たる筒状のリムと、そのリムを接続する厚肉部たるスポークと、から構成される車両用ホイールの低圧鋳造方法であって、
前記リムを成形するキャビティ13に溶湯を充填するものでありキャビティ13においてスポークがアウターリムと接続する部分に相当する場所に備わる湯口と、その湯口までの溶湯流路である湯道と、前記湯口から前記キャビティ13までの間の堰と、からなる湯口系7と、
前記スポークを成形するキャビティ12に溶湯を充填する湯口と、その湯口までの溶湯流路である湯道と、前記湯口から前記キャビティ12までの間の堰と、からなる湯口系8と、を備え、
前記リムを成形するキャビティ13のみの外周面が、金型本体との間に1mm以上の高さの間隙部を有する分割入れ子により形成されるとともに、
前記リムを成形するキャビティ13とつながる湯口系7のみにおいて、前記リムを成形するキャビティ13に溶湯を供給する湯口から、前記キャビティ13までの間の、堰を構成する一部の面のみが、金型本体との間に1mm以上の高さの空隙層を有する分割入れ子により形成されるマルチゲート鋳造用金型を用い、
前記キャビティ13への溶湯充填性を確保するとともに、前記キャビティ13への溶湯補給を確保し、前記リムの機械的性質を向上させることを特徴とする鋳造方法。
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