JP5055657B2 - 液晶組成物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶組成物を高品質で製造することに関する新規製造方法と、それにより製造された液晶性組成物を用いた液晶表示素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶表示素子は、時計、電卓をはじめとして、各種測定機器、自動車用パネル、ワープロ、電子手帳、プリンター、コンピューター、テレビ等に用いられるようになっている。液晶表示方式としては、その代表的なものにTN(捩れネマチック)型、STN(超捩れネマチック)型、DS(動的光散乱)型、GH(ゲスト・ホスト)型あるいは高速応答が可能なFLC(強誘電性液晶)等を挙げることができる。また駆動方式としても従来のスタティック駆動からマルチプレックス駆動が一般的になり、さらに単純マトリックス方式、最近ではアクティブマトリックス方式が実用化されている。
【0003】
これらに用いられる液晶組成物は、通常2種類以上の化合物を混合して作られており、液晶組成物の物性(ネマチック相温度範囲、屈折率異方性(Δn)、誘電率異方性(Δε)、粘度、弾性定数等)や電気光学的特性(応答時間、閾値電圧、V-T曲線の急峻性等)を目的とする液晶素子の表示方式や駆動方式に応じて、種々の値に合わせるため混合比が決められているが、ほとんどの場合について熱、光、水分等に対する信頼性が高いことが必要である。また、特にアクティブマトリックス駆動方式の場合にはそれに加えて、電圧保持率(VHR)が充分に高いことが重要である。
【0004】
液晶組成物の信頼性、比抵抗及び電圧保持率(VHR)を高めるためには、組成物を構成する個々の液晶化合物のそれぞれについて高い信頼性と電圧保持率(VHR)が達成されている必要がある。しかしながら、信頼性、比抵抗および電圧保持率(VHR)の高い液晶化合物を使用しても、それらの混合物である液晶組成物を製造するときに品質を劣化させてしまうことがある。
【0005】
液晶組成物の製造方法としては、加熱による溶解混合や、有機溶剤に液晶化合物を溶解させ混合後、有機溶剤を除去させる方法が提案されている(特開平5-105876号公報、特表平9-503237号公報)。しかしながら、これらに提案されている方法では、品質を劣化させてしまうことが多い。例えば加熱による溶解混合では、加熱時に酸素により液晶化合物が酸化分解してしまい液晶組成物の比抵抗や電圧保持率(VHR)を著しく低下させてしまう。更には液晶上限転移温度を低下させ、液晶組成物の物性や電気光学特性を変化させてしまうことがある。また有機溶剤に溶解させる方法では、有機溶剤の不純物やドーパントにより液晶組成物の比抵抗や電圧保持率(VHR)が著しく低下することがある。さらに有機溶剤が除去しきれず残留してしまうと同様に液晶組成物の比抵抗を低下させたり、電圧保持率を著しく低下させる原因になる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、液晶組成物の信頼性、比抵抗や電圧保持率(VHR)を低下させることなく製造する方法を提供することにあり、またそれによって得られた液晶組成物を使用した液晶表示素子を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記の手段を見いだした。
【0008】
発明1、減圧状態で、撹拌しながら2種以上の液晶化合物を室温よりも高い温度で溶解混合し、その後不活性ガスを用いて大気圧に戻すことを特徴とする液晶組成物製造方法。
【0009】
発明2、真空度が1Paから大気圧までであることを特徴とする発明1記載の液晶組成物製造方法。
発明3、真空度が10Paから80KPaの範囲であることを特徴とする発明1または2記載の液晶組成物製造方法。
発明4、真空度が100Paから50KPaの範囲であることを特徴とする発明1〜3のいずれかに記載の液晶組成物製造方法。
【0010】
発明5、加熱溶解温度が40℃から液晶組成物の上限温度+50℃の範囲であることを特徴とする発明1〜4のいずれかに記載の液晶組成物製造方法。
発明6、加熱溶解温度が液晶組成物の上限温度から液晶組成物の上限温度+30℃の範囲であることを特徴とする発明1〜5のいずれかに記載の液晶組成物製造方法。
【0011】
発明7、不活性ガスとしてチッソガスを用いることを特徴とする発明1〜6のいずれかに記載の液晶組成物製造方法。
発明8、不活性ガスとしてアルゴンガスを用いることを特徴とする発明1〜6のいずれかに記載の液晶組成物製造方法。
【0012】
発明9、ロータリーエバポレータを用いることを特徴とする発明1〜8のいずれかに記載の液晶組成物製造方法。
発明10、減圧が可能な容器で撹拌プロペラを用いることを特徴とする発明1〜8のいずれかに記載の液晶組成物製造方法。
【0013】
発明11、発明1〜10のいずれかに記載の液晶組成物製造方法で製造された液晶組成物。
発明12、発明1〜10のいずれかに記載の液晶組成物製造方法で製造された液晶組成物を使用した液晶表示素子。
【0014】
発明13、TFT液晶表示素子であることを特徴とする発明12記載の液晶表示素子。
発明14、STN液晶表示素子であることを特徴とする発明12記載の液晶表示素子。
発明15、TN液晶表示素子であることを特徴とする発明12記載の液晶表示素子。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法は、前述のように減圧下で室温(20〜25℃)よりも高い温度で撹拌しながら溶解しその後不活性ガスを用いて大気圧に戻すものである。真空度としては、1Pa〜大気圧(約101KPa)よりも低い圧力の範囲が良く、好ましくは10Pa〜80KPaの範囲が良い。さらに好ましくは100Pa〜50KPaの範囲が良い。真空度を上げすぎると液晶化合物が揮発してしまうため加熱温度と真空度の間には最適化が必要である。図1に揮発しやすい代表的な液晶化合物の蒸気圧直線のグラフを示す。グラフ中の直線より下部の条件では、低沸点成分が揮発しやすい。従って各温度に対し、この直線より十分上の範囲で揮発しないように減圧しなければならない。減圧下にすることにより溶解容器中に存在する空気(酸素や汚染ガス等)を除去でき、また混合前の液晶組成物に含有している溶存ガス(酸素や汚染ガス等)を除去できるため加熱溶解しても酸化分解等が非常に起こり難くなる。
【0016】
この減圧状態で室温よりも高い温度に昇温することにより溶解を容易にできる。また、等方性液体状態で撹拌することも好ましく、その場合は等方性液体状態となってから2〜40分保持することが好ましい。加熱温度は室温以上、好ましくは40℃から液晶上限温度+50℃の範囲であれば良く、さらに好ましくは液晶上限温度から液晶上限温度+30℃の範囲にすることにより容易に溶解させることができる。特開平5-105876号公報で提案されている方法では、大気圧下での加熱のため酸素による酸化分解等により著しく品質を低下させる原因になってしまう。しかしながら本発明で提供する方法では、減圧により酸素を除去しているため酸化分解が起き難く、信頼性に対し著しく大きな効果がある方法である。
【0017】
使用する容器の材質としてはガラスやステンレス、テフロンなど液晶組成物に有害な不純物が出にくい材質のものが良い。ガラス容器としては、例えばセパラブルフラスコを用いて減圧にし、磁石型の撹拌子を入れ撹拌する方法や撹拌プロペラを用いて撹拌する方法などがある。また、なす型フラスコなどを用いてロータリーエバポレータ等で減圧にしなす型フラスコを回転させることにより撹拌させる方法などがある。あるいは、遠心力により均一化させる方法もある。さらに、超音波装置を用いて振動させ撹拌させる方法もある。
【0018】
加熱する際には、局所的な過加熱を防いだ方法が有用であり、オイルバスやジャケット等を用いる方法が有効である。
【0019】
溶解後液晶組成物の温度を室温に戻した後、真空度を大気圧に戻す際には空気による酸化反応を防ぐため、不活性ガスを注入させることが効果的である。一般に空気中には液晶組成物に対する汚染物質や水分等が多く含まれており、この空気を注入するとこれらの不純物が液晶組成物中に混入してしまうため品質を低下させてしまう原因になる。不活性ガスとしてはチッソガスやアルゴンガスなどが好ましい。
【0020】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0021】
(実施例1)
液晶上限温度91℃のSTN用液晶組成物STN1を600g製造を行った。STN用液晶組成物STN1の組成を下記に示す。
【0022】
【化1】
【0023】
容量1000リットルのなす型フラスコに所定の液晶化合物を計量した。このなす型フラスコをロータリーエバポレータに取り付けた。なす型フラスコを50℃のオイルバスに浸し、回転させた。ロータリーエバポレータを真空ポンプにより5分かけてゆっくりと20KPaに減圧した。オイルバスの温度を100℃に設定し5℃/minにより昇温した。液晶が液体状態に変化し透明になってから30分後、オイルバスを水浴に変え冷却した。室温まで下がった後、回転を止め、脱気を止めた。チッソガスにより置換することにより大気圧に戻した後、なす型フラスコをロータリーエバポレータから取り外した。
【0024】
作製した液晶組成物の比抵抗を測定すると、6.0×1012Ωcmであった。またガスクロマトグラフィーで分析したところ、配合した化合物以外の物質は混入・生成しておらず、配合した化合物の分解もみられなかった。液晶組成物の物性を測定したところ所望の特性が得られた。この液晶をSTNパネルに注入し電気光学的特性を測定したところ所望の特性が得られた。また電流値を計測したところ7μAと低い値であり、高品質の液晶組成物ができたことを確認できた。
【0025】
(比較例1)
実施例1と同じ液晶上限温度91℃のSTN用液晶組成物STN1を特開平5-105876号公報に記載されている方法に従い、大気圧下で加熱することにより製造を行った。フラスコに所定の液晶化合物を計量した。フラスコの中に磁石式回転子を入れ、これを50℃のホットプレートに置き、ホットプレートの温度を5℃/minで100℃に昇温し、回転子を回転させることにより撹拌した。液晶が等方性液体状態に変化し透明になってから30分後ホットプレートの加熱を止徐々に室温に戻した。
【0026】
作製した液晶組成物の比抵抗を測定すると、2.1×109Ωcmと著しく比抵抗が低下していた。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、配合した化合物以外の物質が数多く出現しており、ガスマス分析の結果液晶組成物を構成する液晶化合物が酸化分解していることがわかった。液晶上限転移温度を測定すると90.1℃と低下しており、品質の劣化が大きかった。この液晶組成物をSTNパネルに注入し電流値を計測したところ89μAであり、非常に消費電流が増えており品質が著しく低下していたことが確認できた。
【0027】
(実施例2)
実施例1と同様の製造方法によりTFT用液晶組成物TFT1を500g製造した。TFT用液晶組成物TFT1の組成を下記に示す。
【0028】
【化2】
【0029】
作製した液晶組成物の比抵抗は4.0×1013Ωcmであった。また、TFT用配向膜を使用したTN型パネルに注入し電圧保持率(VHR)を測定したところ99.7%であった。実施例1と同様にガスクロマトグラフィーで分析したところ、配合した化合物以外の物質は混入・生成しておらず、配合した化合物の分解もみられなかった。液晶組成物の物性を測定したところ所望の特性が得られた。
【0030】
(比較例2)
比較例1と同様の方法によりTFT用液晶組成物TFT1を500g製造した。作成した液晶組成物の比抵抗を測定すると、8.0×1012Ωcmと著しく比抵抗が低下していた。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、配合した化合物以外の物質が数多く出現しており、ガスマス分析の結果液晶組成物を構成する液晶化合物が酸化分解していることがわかった。また、TFT用配向膜を使用したTN型パネルに注入し電圧保持率(VHR)を測定したところ97.0%と低い値であり、品質の劣化が大きかった。
【0031】
【発明の効果】
以上、本発明の液晶組成物製造方法は、高い信頼性、比抵抗および電圧保持率(VHR)を求められる液晶組成物の製造において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 揮発しやすい代表的な液晶化合物の蒸気圧直線
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