JP5042648B2 - 鋼板で構成された構造体のレーザー溶接方法 - Google Patents
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例えば、自動車工業や電気機器工業その他の分野では、薄鋼板を成形加工した部材の溶接などに採用されており、これに関連する改善技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、薄鋼板を突き合わせ、突き合わせ面に沿ってレーザー溶接する際に、溶接が溶接面の一端から他端に向かう一方向に進められるため、溶接熱により生じる鋼板の反りによって、突き合わせ部が拡開し、溶接が困難となる問題点を解決するために、溶接予定箇所の互いに隔離した複数の位置でパルスレーザー溶接により仮付けを行った後、溶接予定箇所の全長にわたってレーザー溶接による本溶接を行うことが開示されている。
また、特許文献2には、フランジ部を有する2つのパネル部材をフランジ部を対向、当接させた状態でレーザービームで溶接し、閉断面のコーチジョイントと称される自動車用の構造体を製造するに際し、当接するフランジ部のギャップの変動による適正な溶け込み深さを確保するために、重ね部のレーザー照射予定面に適当な間隔で貫通穴を形成、これにピン部を有する補助プレートを嵌装したのち、レーザービームを照射して溶接する方法を提案されている。
図8において(a)は、フランジ部4及びこれに続く折り曲げ部5を有する軸方向に垂直な断面形状がハット形状に成形された二つの部材2と3を、フランジ部4、6が互いに対向するように配置してフランジ部4、6を重ね合わせ、重ね合わせ部を溶接して構造体を形成したものであり、(b)は、上述のハット形状の部材2のフランジ部4を、平坦な鋼板部材8に対向するように配置して重ね合わせ、重ね合わせ部を溶接して構造体を形成したものであり、(c)は、上述のような二つのハット形状の部材2、3のフランジ部4、6を平坦な鋼板部材8を介して対向するように配置して重ね合わせ、重ね合わせ部を溶接して構造体を形成したものであり、更に、(d)は、上述のようなハット形状の部材を複数(図では、2、3の2枚)、同一方向に重ね合わせ、重ね部を溶接して構造体を形成したものである。
このように、フランジ部を有する部材を用いて、フランジ部を有する部材同士、或いはフランジ部を有する部材と板部材とを重ね合わせ、少なくともフランジ部の重なり部で溶接することによって、構造体が製作されている。
しかしながら、このような高強度の薄鋼板で構成される構造体の重ね部のレーザー溶接において、溶接終了後の溶接部に割れや破断が発生することがある。
引張強度が980MPa級で板厚1.2mmの薄鋼板を図7(a)に示すようにフランジ4、6、これに続く折り曲げ部5、7をそれぞれ有し、断面がハット形状に成形して2つの成形部材2、3を製作し、各成形部材のフランジ部4、6を対向させて重ね合わせ、フランジの重ね合わせ部6をレーザービームにより溶接して構造体1を製作した。
また、構造体の長さは600mm、レーザー溶接ビードの長さは580mmとした。成形部材の長手方向の前後端の10mmは非溶接部とした。
なお、レーザー溶接条件は、ビード幅狙い:板厚mm×1.0、ビームウエスト0.6mm、焦点外し:+2mm、加工点出力:3.5kw、溶接速度:2m/min、チップ径:5mmφとし、シールド方法は、同軸センターシールド(裏面シールドなし)、シールドガスはArを25l/分とした。
また、レーザー溶接に先立ち、成形部材の溶接部となるフランジ部の両表面はウエスで払拭し、清浄なものとし、フランジの重ね部を上下からクランプ治具(図示せず)にて固定した。
なお、図7(b)の場合の溶接方法も、成形部材の上面視の形状がH形状である点以外は、図7(a)の場合と同様であるので詳細な説明は省略する。
なお、レーザー溶接条件は、上記と同様、ビード幅狙い:板厚mm×1.0、ビームウエスト0.6mm、焦点外し:+2mm、加工点出力:3.5kw、溶接速度:2m/min、チップ径:5mmφとし、シールド方法は、同軸センターシールド(裏面シールドなし)、シールドガスはArを25l/分とした。
また、レーザー溶接に先立ち、成形部材の溶接部となる各フランジ部の両表面はウエスで払拭し、清浄なものとし、フランジの重ね部をクランプ治具(図示せず)にて固定した。
この試験においては、溶接終了からの経過時間を、溶接終了直後(終了から6分以内)、30分、1時間、5時間、8時間、50時間、と変えた場合のTピール試験体15をそれぞれ引張試験装置にかけ、引張試験を行い引張最大荷重(N/mm)、すなわちTピール強度、を求めた。なお、引張速度は10mm/minとした。また、このとき、試験体の破断部位についても確認した。
なお、図6は、レーザー溶接部の破断状況をパターン化して示す溶接ビードの溶接方向に垂直な断面模式図であり、(a)は溶接金属17での破断、(b)は熱影響部(HAZ)又はボンド部18(溶融境界)近傍での破断、(c)は、母材16での破断、をそれぞれ示す。
すなわち、溶接終了直後は、溶接終了後十分な時間、例えば8時間以上経過後の強度レベルの25%程度しかなく、かつ溶接金属の部分で破断することが判った。
一方、引張強度が270MPa級の鋼種でも、同様な試験を行ったが、溶接直後(溶接後6分程度経過)のTピール強度は低下せず、溶接終了から8時間以上経過したもののTピール強度とほぼ同等であった。このような破壊は起こらなかった。
従って、本発明は、鋼板からなる構造体の重ね部のレーザー溶接における溶接部の遅れ破壊を防止できるレーザー溶接方法を提供することを課題とする。
(1)引張強度が440MPa以上である鋼板で構成される構造体の複数の鋼板を重ね合わせて形成された重ね部の最上段の鋼板の上面から、裏面シールドなしの上面シールドでレーザービームを照射して、最下段の鋼板の下面までを溶融させて重ね部を溶接する、鋼板の重ね部のレーザー溶接において、重ね部の予定されるレーザー溶接ビードの延長線上の始終端から30mm以内の範囲に直径がビード幅より大きい仮付けを施し、次いでこの重ね部をレーザー溶接することにより、該レーザー溶接部の遅れ破壊を防止することを特徴とする、構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
(2)前記仮付けが、予定されるレーザー溶接ビードの始終端上に施されることを特徴とする、(1)に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
(3) 前記重ね部の予定されるレーザー溶接ビードの始終端の中間部において仮付けを施し、隣り合う仮付けとの間隔が100mm以内となるようにすることを特徴とする、(1)に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
(4)前記仮付けが、スポット溶接により施されることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
(5)前記仮付けが、機械的締結手段により施されることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
(7)前記構造体の鋼板の重ね部が、一方の鋼板が少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する鋼板であり、この一方の鋼板のフランジ部に、平坦な他の鋼板の平坦部を重ね合わせて形成されたものであることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
(8)前記構造体の鋼板の重ね部が、一方の鋼板が少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する鋼板であり、この一方の鋼板のフランジ部に、少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する他の鋼板のフランジ部を、平坦なさらに他の鋼板の平坦部を介して対向させ、重ね合わせて形成されたものであることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
(9)前記構造体の鋼板の重ね部が、一方の鋼板が少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する鋼板であり、この一方の鋼板のフランジ部に、少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する他の鋼板のフランジ部を同じ方向に重ね合わせて形成されたものであることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
溶接時に進入した水素は、時間の経過により大気中に放散されるため、遅れ破壊の危険性は時間の経過と共に緩和される。従って、少なくとも溶接直後(溶接後約8時間以内)において溶接部に負荷される応力を緩和することができ、遅れ破壊を防止できる。
図1は、本発明のレーザー溶接方法の一実施形態による構造材を示す斜視図である。この実施形態においては、上面視がI形状の構造体を例示している。
図1に示すように、構造体1は、軸方向の断面形状がハット形状に成形された成形部材2、3から構成され、各成形部材は、薄鋼板をプレスなどによりそれぞれフランジ4、6およびそれぞれこれに続く折り曲げ部5、7が形成されている。これらの成形部材2、3は、フランジ部4、6が対向するように重ねられ、形成されたフランジの重ね部9の溶接予定線に沿って、仮付けDが、Ds、De、およびD2〜D4のように施されている。なお、図1の例では、重ね部の上下の鋼板はスポット溶接により、仮付け固定されている。
この後、重ね部9はレーザートーチ10により溶接され、レーザー溶接ビード11が形成される。
フランジの重ね部9のレーザー溶接ビードが形成される予定線12の延長線13上において、ビードの始端Sと終端Eから、距離G1、あるいはG2以内の範囲に始端近傍の仮止めDs、終端近傍の仮付けDeが施されており、また、始終端以外の予定される溶接ビード(溶接ビードの中間部とも記す)には、D2〜D4の仮付けが施されている。
なお、溶接ビードの始終端(S,E)および溶接ビードの延長線上を含む近傍部位は、応力が集中し易い部位であるので、本発明においては、予定されるレーザー溶接ビード12の延長線13上において始終端から30mm以内の範囲に、少なくとも仮付けを施すものとする。
予定される溶接ビードの延長線上で始終端から30mmを超えて離れると、溶接始終端と仮付けとの間が離れすぎて、始終端に対する仮付けの効果が小さくなるためである。予定される溶接ビードの始終端上に仮付けすることは、より好ましい。
すなわち、図2に示すように、仮付けDs、Deは、予定されるレーザー溶接ビード12の延長線上において始終端S,E、からG1、G2の範囲内に施すものであり、G1、G2は、30mm以内とするものである。また、Ds,Deを予定される溶接ビードの始端S、終端上とすることも好ましい。
なお、本発明において、仮付け部の一部が、延長線または溶接ビードにかかっている場合は、その仮付けは、延長線上或いは溶接ビード上にあるものとする。
予定される溶接ビードの長さが短かく、隣り合う仮付けとの間隔が100mmを超えないような場合は、前述のような始終端近傍に仮付けを施すのみでも良いことは言うまでもない。
すなわち、図3は、本発明の溶接方法における仮付け部近傍部を拡大した平面模式図であり、仮付けDの大きさを説明するものである。すなわち、仮付けDの直径dは、予定される溶接ビードの幅t以上とすること(d≧t)が好ましい。仮付けの直径dが溶接ビードの幅(溶接方向に直角な方向の幅)より小さすぎると、溶接ビード(溶接部)に影響する応力を抑制し、分散する効果が不十分となるからである。好ましくは、dは1.5t〜3.0tである。
機械的な方法としては、クランプ治具を使用してフランジの重ね部を挟むようにして仮付けすることができる。しかしながら、レーザー溶接に際してはクランプ治具との干渉を避けるためのレーザー装置の移動回避が必要となる。特に、仮付け箇所数が多く、隣り合う仮付け箇所との間隔が小さい場合、クランプ治具の取り付け数も多く、かつ作業が煩雑となる。しかしながら、一つの仮付け範囲を大きくする必要がある場合は、クランプ治具の大きさを適切に選択することにより、範囲の大きな仮付けが容易に得られるので好適である。
板厚1〜1.2mmの高強度の薄鋼板(引張強度440MPaの鋼成分は、質量%で、C:0.10%、Si:0.11%、Mn:0.95%、980MPaの鋼成分は、質量%で、C:0.13%、Si:1.00%、Mn:2.20%であった。)を成形した図1に示す形状の2つの成形部材をフランジを対向させて重ね合わせ、フランジの重ね合わせ部をレーザー溶接により構造体を作成した。成形部材の軸方向長さ700mm、溶接ビードの長さは50〜600mmとした。
レーザー溶接に先立ち、フランジの重ね部に各形態で仮付けを施し、レーザー溶接後の遅れ破壊の有無を確認した。仮付けの位置、仮付けの間隔、仮付けの大きさ(直径)は、表1に示すとおりである。なお、レーザー溶接条件は、上述と同様、ビード幅狙い:板厚mm×1.0、ビームウエスト0.6mm、焦点外し:+2mm、加工点出力:3.5kw、溶接速度:2m/min、チップ径:5mmφとし、シールド方法は、同軸センターシールド(裏面シールドなし)とし、シールドガスはArを25l/分とした。
2 成形部材(鋼板)
3 成形部材(鋼板)
4 フランジ部
5 折り曲げ部
6 フランジ部
7 折り曲げ部
8 平坦な鋼板部材
9 重ね部
10 レーザートーチ
11 レーザー溶接ビード
12 予定されるレーザー溶接ビード線
13 予定されるレーザー溶接ビード線の延長線
14 Tピール試験片
15 Tピール試験体
16 母材
17 溶着金属
18 ボンド部又は熱影響部
19 亀裂、破断部
D 仮付け
S ビード始端部
E ビード終端部
Ds ビード始端部近傍の仮付け
De ビード終端部近傍の仮付け
D1〜Dn 中間部の仮付け
G1 ビード始端部からビード始端部近傍の仮付けまでの間隔
G2 ビード終端部からビード終端部近傍の仮付けまでの間隔
F1〜Fn 隣接する仮付けとの間隔
L 予定ビード長さ
d 仮付けの直径
t レーザー溶接部の幅
Claims (9)
- 引張強度が440MPa以上である鋼板で構成される構造体の複数の鋼板を重ね合わせて形成された重ね部の最上段の鋼板の上面から、裏面シールドなしの上面シールドでレーザービームを照射して、最下段の鋼板の下面までを溶融させて重ね部を溶接する、鋼板の重ね部のレーザー溶接において、重ね部の予定されるレーザー溶接ビードの延長線上の始終端から30mm以内の範囲に直径がビード幅より大きい仮付けを施し、次いでこの重ね部をレーザー溶接することにより、該レーザー溶接部の遅れ破壊を防止することを特徴とする、構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
- 前記仮付けが、予定されるレーザー溶接ビードの始終端上に施されることを特徴とする、請求項1に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
- 前記重ね部の予定されるレーザー溶接ビードの始終端の中間部において仮付けを施し、隣り合う仮付けとの間隔が100mm以内となるようにすることを特徴とする、請求項1に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
- 前記仮付けが、スポット溶接により施されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
- 前記仮付けが、機械的締結手段により施されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
- 前記構造体の鋼板の重ね部が、一方の鋼板が少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する鋼板であり、この一方の鋼板のフランジ部に、少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する他の鋼板のフランジ部を対向させて重ね合わせて形成されたものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
- 前記構造体の鋼板の重ね部が、一方の鋼板が少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する鋼板であり、この一方の鋼板のフランジ部に、平坦な他の鋼板の平坦部を重ね合わせて形成されたものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
- 前記構造体の鋼板の重ね部が、一方の鋼板が少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する鋼板であり、この一方の鋼板のフランジ部に、少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する他の鋼板のフランジ部を、平坦なさらに他の鋼板の平坦部を介して対向させ、重ね合わせて形成されたものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
- 前記構造体の鋼板の重ね部が、一方の鋼板が少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する鋼板であり、この一方の鋼板のフランジ部に、少なくとも片側に折り曲げ部及びそれに続くフランジ部を有する他の鋼板のフランジ部を同じ方向に重ね合わせて形成されたものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構造体の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
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