JP4987453B2 - 鋼板の重ねレーザ溶接継手及び重ねレーザ溶接方法 - Google Patents
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しかし、このような成形加工した薄鋼板を抵抗スポット溶接により重ね合わせ溶接する場合には、薄鋼板の重ね合わせ部の上下に配置された電極で加圧しつつ通電する必要があるため、フランジ幅の短縮化に制約が生じ、また、閉断面構造の溶接ができないという問題があった。
特に自動車用構造部材として近年の軽量化による燃料比改善や安全性の向上といった要求に対応するため、引張強度が440MPa以上の高強度(ハイテン)の薄鋼板を使用し、溶接部の品質に優れた高強度薄鋼板の重ねレーザ溶接継手が得られることが求められている。
例えば、レーザ溶接を用いてアルミニウム合金を重ね継手の裏面に裏ビードが露出しないように溶接する際に、ビード幅に対する溶け込み深さの比が0.9以下となる溶接ビードを形成することによりブローホール欠陥を抑制し健全な溶接部が得られるレーザ溶接方法が提案されている(特許文献1参照)。
この方法は、ビード幅に対する溶け込み深さの比を小さくすることにより、ビード深部の気泡が浮上するまでの時間を短くし、溶接金属に気泡が閉じ込められブローホール欠陥が発生することを防止するものである。
この方法は、溶接レーザ照射側の表ビード幅が接合部幅(鋼板の重ね合わせ面における溶接金属幅)に比べて小さく(接合部幅に対する表ビード幅の比が1に近づくように)することにより、溶接時に接合面(鋼板の重ね合わせ面)と溶接金属ボンド部との交点近傍で生じる引張り(収縮)応力を低減し、この部位の溶接割れ発生を防止するものである。
この方法は、リムの板厚Tに対する継手重ね合わせ面での接合幅Wの比がW/T≧0.3とすることによりリム(母材)並みに溶接金属の疲労強度を改善し、疲労荷重下での溶接金属での疲労亀裂破断を防止し安全性の高いロードホイールを製造するものである。
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて、特に、引張り強度が440MPa以上の高強度薄鋼板を複数重ね合わせてレーザ溶接する際に、重ね合わせ部の裏面まで溶融(裏ビードを形成)しつつ、溶接時に重ね合わせ部の裏面の溶融金属中に侵入した水素に起因する溶接金属の水素脆化割れを低減することにより、継手強度と溶接部品質に優れた重ねレーザ溶接継手及びその継手を形成するためのレーザ溶接方法を提供することを目的とする。
(1)2枚または3枚の鋼板を重ね合わせ、最上段の鋼板の表面に対してレーザビームを照射し、最下段の鋼板裏面まで溶融して形成された重ねレーザ溶接継手であって、前記最下段の鋼板の裏面に形成された裏ビード幅を、重ね合わせた鋼板の合計板厚に対する比で0.2〜0.5とし、かつ各鋼板の重ね合わせ面でのビード幅を、重ね合わせ面毎に、(a)重ね合わせられた鋼板の板厚が同じである場合は、鋼板の板厚に対する比で0.6以上とし、(b)重ね合わせられた鋼板の板厚が異なる場合は、薄い方の鋼板の板厚に対する比で0.6以上としたことを特徴とする重ねレーザ溶接継手。
(2)前記重ね合わされた鋼板の引張強度が440MPa以上であることを特徴とする(1)に記載の重ねレーザ溶接継手。
(4)前記重ね合わされた鋼板の引張強度が440MPa以上であることを特徴とする(3)に記載の鋼板の重ねレーザ溶接方法。
そのため、本発明のレーザ溶接継手及びレーザ溶接方法の適用により、従来のスポット溶接では困難な閉断面構造を有する自動車用構造体を、引張強度が440MPa以上の高強度(ハイテン)の薄鋼板を用いて効率的に製造することが可能となり、自動車用構造体の軽量化による燃料比改善や安全性の向上といった社会的要求にも対応することができるので、本発明の産業上の貢献は多大である。
本発明の実施形態の一例として、薄鋼板をハット断面形状に成形加工し、そのフランジを重ね溶接して自動車用の溶接構造体とする場合についてを説明する。
ここで、重ね合わせ部6に形成された溶接ビード7のうち、上段の鋼板の表面に露出している溶接ビード7の部分を表ビードとし、下段の鋼板の裏面に露出している溶接ビード7の部分を裏ビードとする。
また、通常のレーザ溶接では、鋼板の重ね合わせ部6は、クランプ治具などで拘束されずに溶接されるため、本実施形態のようにレーザ溶接によりフランジ長手方向に細長い溶接ビードを形成する場合には、冷却過程で溶接ビードが熱収縮し、特にビード長手方向に引張り応力が発生し、これが溶接金属の水素脆化割れを誘引する原因となる。
これに対して、溶接金属中に侵入した拡散性水素が十分に拡散できる溶接終了後長時間(8時間程度)経過した後に、溶接構造体10の重ね合わせ部6からクランプ治具を外した場合には、溶接金属の割れは生じなかった。
また、溶接直後に発生した溶接金属の破断部11の破面を詳細に観察したところ、破面形態は擬劈開破面が主であり、一部に粒界破面が認められた。
Tピール引張試験では、引張強度が270〜980MPa級の強度の異なる厚さ1.2mmの薄鋼板を用いて、図6に示すように、L字状に曲げ加工した2つのTピール試験片9,9を作製し、これらの短辺を重ね合わせ、その重ね合わせ部をレーザ溶接して長さ30mmのビード7を形成し、Tピール溶接試験体8を製造した。
また、Tピール引張試験では、溶接終了直後(溶接終了から5分程度経過)と、溶接後長時間(8時間程度)経過した後のTピール溶接試験体8を用いて、引張試験装置にてTピール試験片9、9の長辺側(非溶接端側)に対して溶接部面が乖離する方向に引張り応力を付加し、溶接部が破断する際の最大引張荷重を測定し、これをビード長で除した値をTピール強度(N/mm)として評価した。なお、引張速度は10mm/minとした。
これらの結果から、溶接直後の溶接金属の割れは以下の原因で発生する水素脆化による遅れ破壊であることが判った。
しかし、溶接時に鋼板の重ね合わせ部をクランプ治具等で拘束したり、継手裏面を不活性ガス供給装置でガスシールドすることは、溶接作業性を低下させ、また、溶接構造部材によっては、クランプ治具やガス供給装置を配置することは困難である。
この引張強度及び成分組成の薄鋼板をレーザ溶接して形成された溶接金属はマルテンサイト硬質組織となり、溶接金属の周囲に高い拘束力が作用するため、溶接金属の水素脆化割れが発生しやすい継手条件である。
上述した試験と同様に、Tピール溶接試験体8は、図6に示すように、L字状に曲げ加工した2つの試験片9、9を作製し、これらの短辺を重ね合わせ、その重ね合わせ部をレーザ溶接して長さ30mmのビード7を形成した。この際、図4に示すように、Tピール溶接試験体8の重ね合わせ部に形成する裏ビード幅WAは、レーザ溶接時にレーザ加工点出力を変更することにより、鋼板の合計板厚H(=H1+H2)に対して相対的に変化させた。
また、チップ径:5mmφとし、シールド方法は、同軸センターシールド(裏面シールドなし)、シールドガスはArを25リットル/分とした。
また、レーザ溶接に先立ち、成形部材の溶接部となるフランジ部の表面はウエスで払拭し、清浄なものとし、フランジの重ね合わせ部6をクランプ治具にて拘束して溶接し、溶接金属の水素脆化割れが発生しやすい、溶接終了直後(溶接終了から5分程度経過後)にクランプ治具を取り外し、Tピール引張試験を行った。
図2に、重ね合わせ部に形成した裏ビード幅WAの鋼板の合計板厚Hに対する比(WA/H)と、溶接終了直後(溶接終了から5分程度経過)のTピール強度との関係を示す。
しかしながら、WA/Hが0.2より小さい場合は、Tピール強度は大きくばらつき、ボンド部(溶融境界)近傍で破断(最大荷重が高い場合)する以外に、溶接金属で破断(最大荷重が低い場合)する場合が生じた。これは、WA/Hが0.2より小さい場合には、溶接時に継手裏面の溶融金属から原子状水素が侵入する可能性は少なくなり、溶接金属の水素脆化による破断は抑制されるが、図4に示すように、裏ビード幅WAの減少に伴い、重ね合わせ面でのビード幅W1も小さくなるため、重ね合わせ部の最も薄い鋼板の板厚(鋼板の最小板厚)H1の条件によっては、継手引張り時に溶接金属側に応力が集中し、溶接金属で破断する場合が生じためと思われる。
以上の知見を踏まえ、本発明では、重ねレーザ溶接直後に発生する溶接金属の水素脆化割れを抑制し、継手強度を安定して良好に維持するために、重ね合わせ部の鋼板裏面に形成する裏ビード幅WAを鋼板の合計板厚Hに対する比で0.2〜0.5に規定した。
そこで、Tピール溶接試験体8の重ね合わせ面でのビード幅W1を、鋼板の最小板厚H1に対して相対的に変化させ、Tピール引張り試験により、Tピール強度への影響について検討した。
そして、溶接金属中に集積した水素が十分拡散し、溶接金属の水素脆化の影響が無くなる、溶接終了後8時間経過した後にクランプ治具を取り外し、上述した試験と同様にしてTピール引張試験を行った。
図3から、Tピール溶接試験体8の重ね合わせ面でのビード幅W1の鋼板の最小板厚H1に対する比(W1/H1)が0.6以上の場合にTピール強度が向上し、安定して良好な継手強度を確保できた。
以上の知見を踏まえ、本発明では、継手強度を安定して良好に維持するために、重ね合わせ面でのビード幅W1を鋼板の最小板厚H1に対する比で0.6以上に規定した。
図5にn枚(n≧2)の鋼板からなる重ね合わせ部における各鋼板の板厚Hiと、重ね合わせ面でのビード幅Wiの関係を示す。
0.2≦WA/H≦ 0.5 ・・・(1)
Wi,i+1/Hi≧0.6(Hi≦Hi+1の場合) または、
Wi,i+1/Hi+1≧0.6(Hi>Hi+1の場合)・・・(2)
但し、Hiは上から(レーザ照射側から)i(=1〜n)番目の鋼板の板厚を示し、H(=H1+H2・・・+Hn)は鋼板の合計板厚を示し、Wi,i+1は上から(レーザ照射側から)i(=1〜n)番目の鋼板とi+1番目の鋼板との重ね合わせ面でのビード幅を示し、WA(=Wn,n+1)は裏ビード幅を示す。
鋼板が3枚、すなわちn=3の場合は、上記(2)の条件は次のようになる。
(a)上段の鋼板の板厚Hiが下段の鋼板の板厚H i+1 と同じ場合
最上段と2番目の鋼板の間では W 1,2 /H 1 (あるいはH 2 )≧0.6
2番目と3番目の鋼板の間では W 2,3 /H 2 (あるいはH 3 )≧0.6
(b)上段の鋼板の板厚Hiと下段の鋼板の板厚H i+1 が異なる場合
(b1)上段の板厚の方が薄い場合
最上段と2番目の鋼板の間では W 1,2 /H 1 ≧0.6
2番目と3番目の鋼板の間では W 2,3 /H 2 ≧0.6
(b2)上段の板厚の方が厚い場合
最上段と2番目の鋼板の間では W 1,2 /H 2 ≧0.6
2番目と3番目の鋼板の間では W 2,3 /H 3 ≧0.6
このように、3枚の鋼板を重ねた場合は、最上段と2番目の鋼板の重ね合わせ面でのビード幅W 1,2 と2番目と3番目の鋼板の重ね合わせ面でのビード幅W 2,3 を、互いに接する鋼板の板厚H 1 とH 2 及びH 2 とH 3 の大小関係に基づいて、上記のいずれかの関係を満たすようにする。
得られた結果を表1に示す。また表2には表1で用いた鋼板の引張強度及び鋼成分を示す。表1より、本発明の条件を満たす場合は、品質の低下をもたらす水素脆化は生じることなく、溶接できることがわかった。
2 シールドガス供給装置
3 レーザ発振器
4、5 成形部材
6 重ねあわせ部
7 ビード
8 Tピール溶接試験体
9 Tピール試験片
10 溶接構造体
11 破断部
12、13 フランジ
14、15 折り曲げ部
16 母材
17 溶接金属
18 ボンド部または熱影響部
19 ハット断面形状の構造部材
20 フランジ部
21 折り曲げ部
22 薄鋼板
W1 重ね合わせ面のビード幅(2枚の鋼板の重ねた場合)
WA 裏ビード幅
H1 最上段の鋼板の板厚(2枚の鋼板を重ねた場合の最小板厚)
H2 最下段の鋼板の板厚(2枚の鋼板を重ねた場合の最大板厚)
H 鋼板の合計板厚(Σi=1〜nHi)
Hi 上から(照射側から)i番目(i=1〜n)の鋼板の板厚
Hn 最下段の鋼板の板厚
Wi 上から(照射側から)i番目(i=1〜n)の重ね合わせ面のビード幅
Claims (4)
- 2枚または3枚の鋼板を重ね合わせ、最上段の鋼板の表面にレーザビームを照射し、最下段の鋼板裏面まで溶融して形成された重ねレーザ溶接継手であって、前記最下段の鋼板の裏面に形成された裏ビード幅を、重ね合わせた鋼板の合計板厚に対する比で0.2〜0.5とし、かつ鋼板の重ね合わせ面でのビード幅を、重ね合わせ面毎に、(a)重ね合わせられた鋼板の板厚が同じである場合は、鋼板の板厚に対する比で0.6以上とし、(b)重ね合わせられた鋼板の板厚が異なる場合は、薄い方の鋼板の板厚に対する比で0.6以上としたことを特徴とする重ねレーザ溶接継手。
- 前記重ね合わされた鋼板の引張強度が440MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の重ねレーザ溶接継手。
- 2枚または3枚の鋼板を重ね合わせ、最上段の鋼板の表面にレーザビームを照射し、最下段の鋼板裏面まで溶融しつつ溶接線に沿って溶接する方法において、前記最下段の鋼板の裏面に形成する裏ビード幅を、重ね合わせた鋼板の合計板厚に対する比で0.2〜0.5とし、かつ各鋼板の重ね合わせ面でのビード幅を、重ね合わせ面毎に、(a)重ね合わせられた鋼板の板厚が同じである場合は、鋼板の板厚に対する比で0.6以上とし、(b)重ね合わせられた鋼板の板厚が異なる場合は、薄い方の鋼板の板厚に対する比で0.6以上とすることを特徴とする鋼板の重ねレーザ溶接方法。
- 前記重ね合わされた鋼板の引張強度は440MPa以上であることを特徴とする請求項3に記載の鋼板の重ねレーザ溶接方法。
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