JP5031383B2 - 鋼板の重ね部のレーザー溶接方法 - Google Patents

鋼板の重ね部のレーザー溶接方法 Download PDF

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本発明は、鋼板の重ね部のレーザー溶接方法に関し、特にガスシールド方法に関する。
レーザー溶接は、レーザー光を熱源とするため、TIG溶接やMIG溶接などのアーク溶接に比べて入熱量の制御が容易で、しかも確実に制御が行える。このため、溶接速度やレーザービームの照射出力、さらにはシールドガス流量などの溶接条件を適切に設定することによって、熱変形が小さく、偏析の少ない良好な溶接部を形成することができる溶接方法であり、薄鋼板などの溶接に好適である。
例えば、自動車工業や電気機器工業その他の分野において、薄鋼板を成形加工した部材の溶接に多く採用されており、これに伴ってレーザー溶接部の特性をさらに向上させるための提案も多くなされている。
例えば、レーザー溶接におけるガスシールドに関するものとして、特許文献1には、裏面の裏ビード形成箇所を高圧のガスによりシールドし、レーザービームを溶接線と直交する方向に揺動させながら溶接することにより、レーザー溶接における裏ビードの形状を平滑なものとする方法が提案されている。
また、特許文献2には、溶け落ちしやすいAl合金のレーザー溶接に関して、被溶接材料の表側及び裏側の両側から、ガスの圧力差を特定の範囲として、シールドガスを吹き付けることにより、溶融池の形状を制御し、継手強度を向上させることが提案されている。
また、特許文献3には、レーザーノズル内のシールドガスに旋回を付与し、レーザー照射部とその近傍を負圧とすることによって、プラズマブルームを除去しレーザー照射部内にシールドガスや周辺の大気の侵入を防止することにより、溶接金属の酸化を防止して安定な溶接を行う方法が提案されている。
さらに、シールドガスの露点を調整するものとして、特許文献4には、クリーンパイプとしてのステンレスパイプの突き合わせ接合において、接合部のシールド雰囲気を、少なくとも内面側については露点が−70℃以下とし、接合部内面への酸化スケールの生成を抑制し耐食性の劣化を防止することが開示されている。
特開昭53−122654号公報 特開平06−210479号公報 特開平2000−317671号公報 特開平05−293672号公報
レーザー溶接は薄鋼板などの溶接に好適であり、自動車用の構造体の溶接にも適用範囲が拡大されている。さらに近年は、燃料比の改善や安全性の向上といった要求に対応するため、引張強度が440MPa以上の高強度(ハイテン)の薄鋼板が多く使用されるようになっており、高強度の薄鋼板をレーザー溶接により溶接することが求められている。しかしながら、このような高強度の薄鋼板のレーザー溶接において、溶接終了後の溶接部に割れや破断が発生することがあり、問題となっている。
発明者らは、自動車に使用される構造体を例にしてこの状況を調査した。すなわち、図6は、このような構造体の一例を示すものである。
引張強度が980MPa級で板厚1.2mmの薄鋼板を図6に示すようにフランジ14,15をそれぞれ有し、断面がハット形状に成形して2つの成形部材12、13を製作し、各成形部材のフランジ14、15を対向させて重ね合わせ、フランジの重ね合わせ部16を部材の長手方向に沿ってレーザートーチ1により重ね合せた上段の鋼板の上面からレーザービームを照射して鋼板の最下段の鋼板の下面まで溶融させて溶接し、構造体11を製作した。
なお、構造体11の長さは600mm、レーザー溶接ビードの長さは580mmとした。成形部材重ね部の長手方向の前後端の10mmは非溶接部とした。
なお、レーザー溶接条件は、ビード幅狙い:板厚mm×1.0、ビームウエスト0.6mm、焦点外し:+2mm、加工点出力:3.5kw、溶接速度:2m/min、チップ径:5mmφとし、シールド方法は、同軸センターシールド(下面シールドなし)、シールドガスはArを25l/分とした。
また、レーザー溶接に先立ち、成形部材の溶接部となる各フランジ部の両表面はウエスで払拭し、清浄なものとし、締め付け治具にてフランジの重ね部を上下からクランプ冶具(図示せず)にて固定した。
溶接終了後、締め付け治具を外したところ、溶接ビードの終端部側で50〜70mmの長さに亘り破断部18が発生した。
本発明者らは、上述のようなレーザー溶接部の破断について、その原因をさらに詳細に確認するためにTピール強度試験を行い、溶接後の経過時間や、鋼種などの影響をさらに詳細に検討した。
このTピール強度試験は、図4に示すように、L字状に曲げた2つの試験片19、19のそれぞれの短辺の一端側を対向させて重ね合わせ、その重ね部をレーザー溶接して試験体20(Tピール試験体)とした後、この試験体20の2つの試験片19、19の短辺の他端側(非溶接端側)を互いに逆方向に引張り、溶接部が破断する際の最大引張荷重(N/mm)をTピール強度として評価するものである。
まず、鋼種として980MPa級鋼を対象とし、厚さ1.2mmの薄鋼板を用い、試験体、試験片の形状、寸法は、図4に示すものとして、重ね部をレーザー溶接して図4に示すように重ね部に長さ30mmの溶接ビードを形成した。
なお、レーザー溶接条件は、上記と同様、ビード幅狙い:板厚mm×1.0、ビームウエスト0.6mm、焦点外し:+2mm、加工点出力:3.5kw、溶接速度:2m/min、チップ径:5mmφとし、シールド方法は、同軸センターシールド(下面シールドなし)とし、シールドガスはArを25l/分とした。
また、レーザー溶接に先立ち、成形部材の溶接部となる各フランジ部の両表面はウエスで払拭し、清浄なものとし、締め付け治具にてフランジの重ね部をクランプ冶具(図示せず)にて固定した。
この試験においては、溶接終了からの経過時間を、溶接終了直後(終了から6分以内)、30分、1時間、5時間、8時間、50時間、と変えた場合のTピール試験体20をそれぞれ引張試験装置にかけ、引張試験を行い引張最大荷重(N/mm)、すなわちTピール強度、を求めた。なお、引張速度は10mm/minとした。また、このとき、試験体の破断部位についても確認した。
その結果、Tピール強度は、溶接終了直後では極めて低いものであったが、溶接終了からの時間経過と共に高くなり、溶接終了から8時間以上経過するとほぼ一定の強度が得られることが判った。なお、溶接終了直後のTピール強度は、溶接終了から8時間経過後のTピール強度の25%以下であった。
また、上記試験において、溶接終了直後のTピール試験体20は、溶接金属の部位で破断していたが、溶接終了から8時間以上経過したものではボンド部(溶融境界)又はHAZ近傍での破断となっており、このことから、母材並みの継手強度が得られることが判った。
一方溶接終了直後のTピール試験体20の破断位置は溶接金属であり、その破面形態は擬劈開破面が主であり、一部に粒界破面が認められ、溶接金属の脆化による割れであることが確認された。
なお、図5は、レーザー溶接部の破断状況をパターン化して示す溶接ビードの溶接方向に垂直な断面模式図であり、(a)は溶接金属22での破断、(b)は熱影響部(HAZ)又はボンド部23(溶融境界)近傍での破断、(c)は、母材21での破断、をそれぞれ示す。
発明者らは、さらに、鋼板の引張強度が440MPa級、590MPa級、および780MPa級の他の高強度鋼についても、試験体、溶接条件、試験条件等を上記980MPa級の鋼種の場合と同様にして調査を行った。
その結果、これら引張強度が440MPa以上の高強度の鋼種のTピール強度も、溶接終了直後は極めて低いが、時間が経過するにつれて増大し、8〜10時間経過するとほぼ一定のTピール強度レベルに達することが確認された。すなわち、溶接終了直後は、溶接終了後十分な時間、例えば8時間以上経過後の強度レベルの25%程度しかなく、かつ溶接金属の部分で破断することが判った。一方、引張強度が270MPa級の鋼種でも、同様な試験を行ったが、引張強度が270MPa級の場合は、溶接直後(溶接終了後5分程度)のTピール強度は低下せず、溶接終了から8時間以上経過したもののTピール強度とほぼ同等であった。
これらの結果から、これらの溶接直後の溶接金属の破断は、溶接金属の水素脆化による遅れ破壊によるものであると考えられた。すなわち、溶接部周辺の大気中の水分、或いは、成形部材の表面に付着している水分や炭化水素などが、レーザー溶接の際のレーザービームにより分解されて原子状水素となり、溶接部の溶融金属中に侵入し拡散する。特に、マルテンサイト等の硬化組織に拡散し集積しやすい。また、レーザー溶接により細くて長いビードを形成した場合、冷却時のビード長手方向の収縮により引張の残留応力や歪が生じる。また、溶接変形だけでなく成形部材のスプリングバック等の外部からの引張応力も作用することもある。これら残留応力や歪は、構造体の大きさや形状にもよるがビードの始終端部に集中しやすい。このように大きな応力や歪が集中する部位に水素は局所的に集積し、亀裂の発生や破断を招くことになるものである。
上述の特許文献1や2は、鋼板の重ね部のレーザー溶接におけるこのような遅れ破壊の防止を図るものではなく、鋼板の重ね部のレーザー溶接における溶接部の遅れ破壊を防止する方法は、これまで提案されておらず、今後、レーザー溶接の採用を拡大するに当たって、解決が望まれる。
本発明は、このような高強度薄鋼板のレーザー溶接に関し、重ね部の溶接部の割れを低減できる溶接方法を提供することを課題とする。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、鋼板の重ね部をレーザー溶接する際に、溶接部周辺の雰囲気を調整することにより、溶接時に溶融部への水素の侵入を低減し、遅れ破壊を防止しようとするものであって、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)複数の鋼板を重ね合わせ、レーザートーチにより重ね部の最上段の上面にレーザービームを照射し、最下段の鋼板下面まで溶融させつつ溶接する方法において、重ね部の溶融部近傍の上面および下面に露点が15℃以下のシールドガスを、上面は、レーザートーチの同軸ノズルを用い、下面は、溶接予定線に沿って延び、上方に開口部を設けた樋状あるいは函状の部材であって、シールドガスを供給する供給口を設けた雰囲気制御空間形成部材を、その開口部が溶接する材料の重ね部の溶接予定線を覆うように配設、固定し、シールドガス供給口から、供給して溶接することを特徴とする鋼板の重ね部のレーザ溶接方法。
(2)前記重ね部の状面および下面のシールドガスの供給量がそれぞれ15(l/min)以上であることを特徴とする(1)に記載の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
(3)前記シールドガスが、アルゴン、窒素、ヘリウム、空気、炭酸ガスから選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
(4)前記シールドガスが、液体窒素を気化させた窒素ガス、液体空気を気化させた空気および、液体炭酸ガスを気化させた炭酸ガスから選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
(5)前記鋼板の引張強度が440MPa以上であることを特徴とする(1)〜(4)の何れかに記載の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
本発明によれば、鋼板の重ね部をレーザー溶接する際に、溶接部周辺の雰囲気の露点を低く管理することが可能となり、溶接時に溶融部への水素の侵入を低減することができ、遅れ破壊を防止することができる。
発明者らは、溶着金属中への水素の侵入を防止することによって遅れ破壊を抑制することを検討した。溶着金属中に侵入する水素源としては、鋼板(母材)表面に付着している塗油や水分、溶接時の周辺雰囲気中の水分などが考えられたため、溶接時の鋼板表面の状態および溶接部周辺の雰囲気を変えてレーザー溶接を行い、溶着金属中の拡散性水素量を測定した。
図1は、本発明の方法の一実施形態を示す模式図である。レーザートーチ1の同軸ノズルから、レーザービーム3が重ね部10を形成する鋼板7、8の上段の鋼板表面(上面)に照射され、最下段の鋼板までが溶融して、冷却後に溶接ビード9が形成される。なおこのとき、上面側には、レーザート−チの同軸ノズルからシールドガス4が供給されている。さらに、鋼板7、8の重ね部を挟んでレーザートーチの同軸ノズルと対向する位置に、ジグに内蔵された裏面雰囲気コントロール用の閉空間2を設け、これにシールドガス6を供給し、重ね部の下面の溶融部近傍を周辺雰囲気からシールドすることができるようになっている。
このような構成において、鋼板表面の状態、および周辺雰囲気の影響を調査するため、引張強さが980MPa級で15×40mm×tの鋼板を用い、(i)ウエスにて鋼板表面(表裏面)を払拭したもの、(ii)アセトンにて鋼板の表裏面を脱脂したもの、(iii )アセトンにて鋼板の表裏面を脱脂し、かつ、重ね部の下面(重ね後の下段鋼板裏面)からアルゴンガス(露点−20℃)をシールドガスとして25l/min供給したもの、として、重ね部の上段鋼板の上面からレーザーを照射し、下段の鋼板の下面まで溶融させて溶接を行ない、試験片を作成した。
なお、(i)〜(iii )の条件とも、鋼板表面(上面)からシールドガスとしてアルゴン(露点−20℃)を25l/分で供給した。また、レーザー溶接条件は、ビード幅狙い:板厚mm×1.0、ビームウエスト0.6mm、焦点外し:+2mm、加工点出力:3.5kw、溶接速度:2m/min、チップ径:5mmφとした。
次いで、拡散性水素測定のため、上記試験片は溶接直後約20秒以内で液体窒素中で保存を行い、2〜3日後に取り出し、その後20秒程度以内に捕集容器内に挿入しガスクロマトグラフ装置に接続し、ガスクロマトグラフ法により水素量を測定した。なお、確認のため、溶接前の鋼板中の拡散性水素量も測定したが殆ど含まれていなかった。
その結果、溶着金属中の拡散性水素量は、鋼板表面をアセトンで脱脂処理するほうがウエスで払拭したものに比べてより低減されるが、重ね部の下面にシールドガスを供給してシールドガス雰囲気にした場合には、さらに大幅に低下しており、遅れ破壊を引き起こす要因の一つである水素の大半が、鋼板の重ね部の下面周辺の大気中からもたらされていることが明らかとなった。
すなわち、通常、レーザー溶接の際には、レーザートーチの同軸ノズルからのセンターシールドガスにより、重ね部の上段の溶接鋼板(母材)の表面(上面)は、周辺の雰囲気からシールドされているが、鋼板の裏面(重ね部の下面)はシールドされておらず、このため、レーザー溶接において重ね部の下段の鋼板裏面(下面)まで溶融させて溶接する場合、重ね部の鋼板下面の周辺雰囲気から溶接部の溶融部に水素が侵入し、溶接金属が水素脆化し遅れ破壊を引き起こしていたものであることが明らかとなった。
さらに、発明者らは、この重ね部の下面へのシールドガスの供給による遅れ破壊の抑制効果を確認するために裏面シールドガスの流量を変化させ、Tピール強度および破断部位の挙動を調査した。
すなわち、鋼種として980MPa級鋼の厚さ1.2mmの薄鋼板を用い、試験片、試験体の形状、寸法は、図4と同様とした。なお、溶接ビードを形成する鋼板の表裏面は溶接前にアセトンにより脱脂した。
次に、溶接する部位を重ね合わせ、レーザー溶接を行った。レーザー溶接条件は、シールドガスの条件を除き、上述のTピール強度試験の場合と同じである。
すなわち、シールドガスは重ね部の上面及び下面とも、アルゴンガス(露点−20℃)とし、上面への供給流量および下面への供給流量はいずれも同量として、0〜50(l/mim)の範囲で変化させた。但し、下面のシールドガス供給量が0の場合、上面へのシールドガスの供給量は25l/minとした。形成した溶接ビードは図4と同様、長さ30mmとした。
この試験体を、溶接終了後、直ちに(溶接終了後、6分以内)、図4の場合と同様、引張速度を10mm/minとして引張試験を行ない、引張最大荷重(N/mm)を求めた。また、試験体の破断部位の状況についても確認した。
Tピール強度及び破断部位の状況の結果を図2に示す。なお、破断部位の状況区分は、図5と同じであるが、図2においては、破断部位が(a)の場合は△で、破断部位が(b)の場合は◆で、破断部位(a)と(b)が混在する場合は○で示している。
図2から判るように、シールドガスの流量が増えるほど、Tピール強度が向上し、且つ破断形態も、破断部位が溶接金属である形態から、ボンド部又はHAZ部で破断の形態へと変化している。
このようなことから、本発明において重ね部の上段の鋼板の上面からレーザーを照射し、下段の鋼板の下面まで溶融させて溶接する場合、溶接部の上面および下面へのシールドガスの流量は、15(l/min)以上、好ましくは25(l/min)以上とすることが望ましい。
なお、重ね部の上面、下面へのシールドガス流量は、上面、下面とも同量である必要はなく、上記の範囲で適宜、選択することができる。
上述のように、本発明では遅れ破壊を防止するために、溶接部の溶融部近傍をシールドし、雰囲気中の水分が溶接中に溶着金属中に侵入しないようにするものである。
上述の知見に基づいて、発明者らは、さらにシールドガスにより形成される溶接部の溶融部近傍の雰囲気を露点の観点から検討した。
すなわち、図1に示すような構成において、シールドガス種としてArガスを用い、その露点を変化させ重ね溶接する部位の近傍の上面及び下面にシールドガスを供給してレーザー溶接を行った。
使用した鋼板は、440〜980MPa級の高強度鋼板であり、図4に示したような試験体を作成した。なお、重ね溶接する部位の表面及び裏面は事前にアセトン表面を脱脂し、レーザー溶接条件はシールドガスの露点を除き上述のTピール強度試験の場合と同じである。また、シールドガスの流量は、重ね部の上面及び下面とも25(l/min)とした。形成した溶接ビードは図4と同様、長さ30mmとした。
この試験体を、溶接終了後、直ちに(溶接終了後、6分以内)、図4の場合と同様、引張速度を10mm/minとして引張試験を行ない、引張最大荷重(N/mm)を求めた。また、試験体の破断部位の状況についても確認した。
Tピール強度及び破断部位の状況の結果を図3に示す。なお、破断部位の状況区分は、図5と同じであるが、図3においては、図2の場合と同様、破断部位が(a)の場合は△で、破断部位が(b)の場合は◆で、破断部位(a)と(b)が混在する場合は○で示している。図3から判るように、シールドガスの露点が低下するほど、Tピール強度が向上し、且つ破断形態も、破断部位が溶接金属である形態から、ボンド部又はHAZ部で破断の形態へと変化している。このようなことから、本発明において重ね部の上面及び下面シールドガスの露点は、15℃以下とすることが好ましい。
シールドガスは、溶融点近傍において15℃以下の露点を確保できるものであれば、特に限定するものではないが、雰囲気の露点を安定して確保する上からアルゴン、窒素、ヘリウム、空気炭酸ガス、或いは、液体窒素を気化させた窒素ガス、液体空気を気化させた空気および、液体炭酸ガスを気化させた炭酸ガスなどであることが好ましい。
シールドガス一種類のみに限定されず、上記のガスを混合したものでも良く、また、表面と裏面のシールドガスの種類が異なっていても良い。
なお溶融点近傍の雰囲気の露点を15℃以下とするために、重ね部の上面はレーザートーチの同軸ノズルを用いたシールドガスの供給、下面はシールドガスの供給による雰囲気制御を行なったが上面へのシールドガスの供給は、同軸トーチに限るものではなく、他の方法でも良いことは言うまでもない。また、図1に示したような下面の雰囲気制御空間は、上面の同軸トーチと対応する位置にあって、その先端が被溶接材の下面に近接するように設け、且つ同軸トーチの移動と同期して移動するようにしたシールドガス供給ノズルを設け、ノズルから重ね部の下面にシールドガスを供給することによって形成することができる。
或いはまた、溶接予定線に沿って延び、上方に開口部を設けた樋状あるいは函状の部材であって、シールドガスを供給する供給口を設けた雰囲気制御空間形成部材を、この部材の開口部が溶接する材料の重ね部の溶接予定線を覆うように配設、固定し、シールドガス供給口からシールドガスを供給するようにすることによっても形成することができる。
このような方法によって、重ね部下面の溶接部の溶融部の近傍の雰囲気を制御することができる。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
引張強度が440MPa級(鋼組成は質量%で、C:0.10%、Si:0.11%、Mn:0.95%)、590MPa級(鋼組成は質量%で、C:0.08%、Si:0.3%、Mn:1.3%)、及び980MPa級(鋼組成は質量%で、C:0.13%、Si:1.00%、Mn:2.20%)で、板厚1.2mmの薄鋼板を図9に示すようにフランジ14、15をそれぞれ有し、断面がハット形状に成形して2つの成形部材12、13を製作し、各成形部材のフランジ14、15を対向させて重ね合わせ、フランジの重ね合わせ部16の重ね合わせた上段の鋼板の上面にレーザートーチ1によりレーザービームを照射し、下段の鋼板下面まで溶融させて溶接し、構造体11を製作した。
なお、構造体の長さは600mm、レーザー溶接ビードの長さは580mmとした。成形部材の長手方向の前後端の10mmは非溶接部とした。
レーザー溶接は、図1に示したような装置を用い、鋼板の重ね部の下面にもシールドガスを供給して、溶接部の下面の雰囲気を制御できるようにした。
レーザー溶接条件は、ビード幅狙い:板厚mm×1.0、ビームウエスト0.6mm、焦点外し:+2mm、加工点出力:3.5kw、溶接速度:2m/min、チップ径:5mmφとし、シールド方法は、同軸センターシールドおよび下面シールドとした。
なお、レーザー溶接に先立ち、成形部材の重ね部となる各フランジ部の鋼板の両表面はウエスで払拭し、清浄なものとし、締め付け治具にてフランジの重ね部の上下からクランプ冶具(図示せず)にて固定した。
シールドガスの種類、及びガスの露点を及びガスの供給量を変化させたが、上下の供給量は、原則として同量とした。なお、比較のため、下面へのシールドガスの供給を行わない溶接も行った。重ね部の上面及び下面へ供給したシールドガスの条件(種類、露点、供給量)も表1に示す。
レーザー溶接後、構造体の溶接部を観察し、遅れ破壊の有無を確認した。その結果を表1に併せて示す。
比較例1は、重ね部の上面、下面に供給されるシールドガスの露点がいずれも本発明の範囲を外れており、溶接部が破断し、遅れ破壊が発生した。
比較例2は、重ね部の下面に供給されるシールドガスの露点が本発明の範囲を外れており、溶接部が破断し、遅れ破壊が発生した。
比較例3は、重ね部の下面にシールドガスの供給がなされなかったため、溶接部の下面からの水素の侵入を抑制できず、溶接部が破断し、遅れ破壊が生じた。
これに対し、本発明例1〜9では、重ね部の溶接部近傍の下面及び上面に供給されるシールドガスの露点が本発明の範囲にあり、いずれも遅れ破壊の発生は見られなかった。
Figure 0005031383
このように、本発明によれば、鋼板の重なった部分をレーザー溶接により溶接する際に、重ね部の溶接部近傍の上面及び下面に露点を特定したシールドガスを供給することによって溶接部の溶融部に雰囲気などからの水素の侵入を抑制することができ、侵入した水素に起因して溶接直後に発生する溶接部近傍の破断、すなわち遅れ破壊を防止することができる。特に、高強度の薄鋼板、例えば、引張強さが270MPa超、すなわち、440MPa〜980MPaというような薄鋼板の重ね部をレーザー溶接する際においても、安定した溶接部性状を得ることができ、自動車工業や電気機器工業その他の分野において、薄鋼板を成形加工した部材の重ね部のレーザー溶接に優れた効果をもたらすことができる。
本発明の溶接方法の実施形態を示す模式図である。 本発明の溶接方法における裏面シールドガス量とTピール試験における引張最大荷重との関係を示す図である。 本発明の溶接方法におけるシールドガスの露点とTピール試験における引張最大荷重との関係を示す図である。 Tピール強度を試験するための試験体の状況を示す図である。 Tピール強度試験におけるレーザー溶接部の破断状況を示す断面模式図であり、(a)は溶着金属での破断、(b)はボンド部又はHAZ近傍での破断、(c)は母材での破断、をそれぞれ示す。 構造体のレーザー溶接における遅れ破壊の発生箇所を示す模式図である。
符号の説明
1 レーザートーチ(同軸ノズル)
2 ジグに内蔵された裏面雰囲気コントロール用閉空間
3 レーザービーム
4 シールドガス露点測定装置
5 シールドガス流量調整装置
6 シールドガス供給器
7 鋼板
8 鋼板
9 レーザー溶接ビード
10 重ね部
11 構造体
12 成形部材
13 成形部材
14 フランジ
15 フランジ
16 重ね部
17 レーザー溶接ビード
18 亀裂、破断
19 Tピール試験片
20 Tピール試験体
21 母材
22 溶接金属
23 ボンド部又は熱影響部

Claims (5)

  1. 複数の鋼板を重ね合わせ、レーザートーチにより重ね部の最上段の上面にレーザービームを照射し、最下段の鋼板下面まで溶融させつつ溶接する方法において、重ね部の溶融部近傍の上面および下面に露点が15℃以下のシールドガスを、上面は、レーザートーチの同軸ノズルを用い、下面は、溶接予定線に沿って延び、上方に開口部を設けた樋状あるいは函状の部材であって、シールドガスを供給する供給口を設けた雰囲気制御空間形成部材を、その開口部が溶接する材料の重ね部の溶接予定線を覆うように配設、固定し、シールドガス供給口から、供給して溶接することを特徴とする鋼板の重ね部のレーザ溶接方法。
  2. 前記重ね部の上面および下面のシールドガスの供給量がそれぞれ15(l/min)以上であることを特徴とする請求項1に記載の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
  3. 前記シールドガスが、アルゴン、窒素、ヘリウム、空気、炭酸ガスから選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
  4. 前記シールドガスが、液体窒素を気化させた窒素ガス、液体空気を気化させた空気および、液体炭酸ガスを気化させた炭酸ガスから選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
  5. 前記鋼板の引張強度が440MPa以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の鋼板の重ね部のレーザー溶接方法。
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