JP5040531B2 - プラスチックレンズの染色方法 - Google Patents

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Description

本発明は、プラスチックレンズを染色液に浸漬して染色するプラスチックレンズの染色方法に関する。
近年、プラスチックレンズは眼鏡レンズやカメラレンズを初め多方面に利用されるようになっている。特に着色が容易であることは、眼鏡レンズの最大の利点の一つである。現在、プラスチックレンズの着色は、分散染料を温水または有機溶剤に溶解・分散させ、そこにプラスチックレンズを浸漬する染色方法が用いられている。
このような染色方法として、一般的に85℃〜95℃程度の温水に、分散染料、界面活性剤を含む染色液(染色浴)中にプラスチックレンズを浸漬することでレンズの染色が行なわれている。このとき界面活性剤は、分散染料が水中で分散するのを助け、分散染料を一様に分散させる効果がある。
また、プラスチックレンズは薄型化の要望に対応するためにレンズの高屈折率化が進展し、屈折率が1.60以上のチオウレタン系のレンズ素材が広く利用されている。こうしたチオウレタン系のプラスチックレンズを染色する場合には、分散染料と界面活性剤のみを含む染色液では染色スピードが遅いために、さらに、染色キャリアを添加することが行なわれている(特許文献1、参照)。
特開平11−12959号公報
しかしながら、染色キャリアを添加した染色液を用いたプラスチックレンズの染色の場合には、染色されたレンズ表面に、分散染料または分散染料と染色キャリアの混合物が付着することが多々発生する(後に説明する図2参照)。
この付着物は、水洗浄では剥離することができず、アセトン、エタノールなどを含ませたペーパーでレンズ表面を拭くことでレンズ表面から落とすことができる。しかし、レンズの表面に残ることなく全ての付着物をきれいに落とすためには、幾度となくペーパーを取り替えて拭くなど、多大な時間と工数を必要とする。また、付着物が少量の場合には、色ムラなどの外観性能への影響は少ないものの、サングラス用プラスチック眼鏡レンズなどのように、濃い染色をするなどの長い染色時間を必要とする場合には、多量に付着して染色ムラなどの外観性能を損ねる要因となっている。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例にかかるプラスチックレンズの染色方法は、染色液中にプラスチックレンズを浸漬することにより着色する、プラスチックレンズの染色方法であって、前記染色液は、分散染料と染色キャリアと界面活性剤とを含み、前記界面活性剤が、下記一般式(1)で表される、2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩であることを特徴とする。
これによれば、プラスチックレンズを染色する染色液が、分散染料と染色キャリアと界面活性剤とを含み、界面活性剤が上記一般式(1)で表される、2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩であることにより、染色液中における分散染料の分散性が向上し、分散染料または分散染料と染色キャリアの混合物がレンズ表面に付着するのを抑制することができる。また、分散染料とプラスチックレンズとの親和性を下げ過ぎないことにより、プラスチックレンズの染色スピードも十分に確保することができる。したがって、十分な染色性と染色安定性を発揮できる染色方法が得られるとともに、付着物を落とすなどの作業を回避することができる。
[適用例2]
上記適用例にかかるプラスチックレンズの染色方法において、前記2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩の含有量は、水1リットル当たり1ml〜30mlの範囲であることが好ましい。
これによれば、染色液に含まれる上記一般式(1)で表される、2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩(界面活性剤)の含有量が、水1リットル当たり1ml〜30mlの範囲であることにより、染色液中における分散染料の分散性が向上し、分散染料または分散染料と染色キャリアの混合物がレンズ表面に付着するのを抑制することができる。2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩の含有量が、1ml未満であると、レンズ表面に分散染料または分散染料と染色キャリアの混合物の付着が多量に発生する。また、30mlを超えるとレンズ表面への付着はないが、プラスチックレンズの染色ムラが発生する。
[適用例3]
上記適用例にかかるプラスチックレンズの染色方法において、前記プラスチックレンズがチオウレタン系プラスチックレンズであることが好ましい。
これによれば、プラスチックレンズを染色する染色液が、分散染料と染色キャリアと界面活性剤とを含み、界面活性剤が上記一般式(1)で表される、2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩であることにより、屈折率が1.60以上のチオウレタン系プラスチックレンズを容易に染色することができる。すなわち、高屈折率のプラスチックレンズを容易に染色することができる。
[適用例4]
上記適用例にかかるプラスチックレンズの染色方法において、前記染色キャリアが、フェノール類または芳香環を有するアルコール類の中から選ばれた少なくとも一種以上の化合物であることが好ましい。
これによれば、上記一般式(1)で表される、2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩(界面活性剤)を含む染色液に、染色キャリアとしてフェノール類または芳香環を有するアルコール類の中から選ばれた少なくとも一種以上の化合物を含むことにより、レンズ表面への付着物の付着を抑制するとともに、染色スピードを向上させることができる。また、色ムラなどのない良好なレンズ外観に染色されたプラスチックレンズが得られる。
[適用例5]
上記適用例にかかるプラスチックレンズの染色方法において、前記フェノール類または芳香環を有するアルコール類が、p−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、o−フェニルフェノール、桂皮アルコール、ベンジルアルコールであるのが好ましい。
これによれば、染色液に含まれる染色キャリアが、p−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、o−フェニルフェノール、桂皮アルコール、ベンジルアルコールのフェノール類または芳香環を有するアルコール類のいずれであっても、レンズ表面への付着物の付着を抑制するとともに、染色スピードを向上させることができる。また、色ムラなどのない良好なレンズ外観に染色されたプラスチックレンズが得られる。
以下、実施形態を説明する。
本実施形態に係るプラスチックレンズの染色方法は、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン系のプラスチックレンズ素材(チオウレタン系樹脂)より成るプラスチックレンズ(以後、レンズと表す)に好ましく用いることができる。チオウレタン系樹脂より成るレンズは、屈折率1.60以上の高屈折率レンズを得ることができる。
従来、多用されているCR−39などのアリル系プラスチックレンズ素材より成るレンズは、染色キャリアを使用せずに分散染料と界面活性剤を添加した染色液を用いて、容易に染色することができるが、チオウレタン系樹脂より成るレンズの染色には、水に分散染料、界面活性剤および染色キャリアを添加した染色液が用いられることが多い。なお、CR−39の屈折率は、1.50程度である。
分散染料は、アンスラキノン系やアゾ系などの青色染料、赤色染料、黄色染料、茶色染料などが用いられる。これらの分散染料は、所望の色に染色できるように、単独または二種以上を配合して使用される。なお、分散染料は水に難溶であるが、界面活性剤を添加することによって、水中で一様に分散し、浸漬されたプラスチックレンズをムラなく染色することが可能となる。
界面活性剤は、下記の一般式(1)で表される、2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩が用いられる。具体例としては、日本油脂製のシントレッキス(登録商標)EH−Rを例示することができる。
この界面活性剤は、分散染料の染色液(染色浴)中での分散性が向上し、分散染料または分散染料と染色キャリアの混合物がレンズ表面に付着することを防ぐとともに、分散染料とレンズとの親和性の低下を抑えることによって、レンズの染色スピードが低下するのを防ぐ効果が得られる。以後、レンズ表面に付着する分散染料または分散染料と染色キャリアの混合物を、付着物または表面付着物と表すことがある。
因みに、従来、一般的に利用されているアルキルサルフェート・ナトリウム塩、アルキルエーテルサルフェート・ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート・ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコールラウリルエーテル、ポリエチレングリコールセチルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミンなどの界面活性剤は、少量の添加では分散性が不十分であり、染色したレンズ表面に付着物が発生する。また、多量に添加した場合分散性は向上するものの、レンズの染色スピードが低下してしまう欠点がある。これらの界面活性剤は、分散染料とレンズ表面との親和性を低下させることにより、多量に添加した場合、染色スピードを低下させるものと推測される。
染色キャリアは、フェノール類または芳香環を持つアルコール類(芳香族アルコール類)が用いられる。フェノール類の具体例としては、p−フェニルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノールなどが挙げられる。芳香族アルコール類としては、ベンジルアルコール、桂皮アルコールなどが挙げられる。こうした染色キャリアは、染色スピードを向上させる効果を有する。
プラスチックレンズを染色する染色液は、水にこれらの分散染料、界面活性剤、染色キャリアを添加して用いられる。
水1リットルを90℃〜95℃程度に温めた温水中に、上記一般式(1)で表される、2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩の界面活性剤を1ml〜30ml程度添加し、さらに、染色する所定の色調に応じた一種または二種以上の分散染料を0.01g〜10g程度、p−フェニルフェノールなどの染色キャリアを1g〜10g程度添加することで染色液が完成する。
この染色液中に、プラスチックレンズを浸漬することでレンズが着色される。レンズの浸漬時間は、染色する染色濃度によりことなるが、薄い着色の場合は、10秒〜10分程度であり、濃い着色の場合は、10分〜10時間程度である。
そして、着色されたレンズは、染色液中から引き上げられ後、10℃〜30℃程度の水中に浸漬して、水洗および冷却が行なわれる。
そして、レンズの表面をアセトン、エタノールなどの有機溶剤を含ませたペーパーで拭き、色ムラなどの外観欠点の有無、および染色濃度、色調などが所定通りになっているかなどの確認が行なわれて染色が終了し、染色されたプラスチックレンズが完成する。
以下、実施形態に基づく実施例および比較例を説明する。
(実施例1)
プラスチックレンズ(以後、レンズと表す)を作製し、所定の染色液により染色を行なった。レンズは、レンズA,B,Cの三種類を作製した。
先ず、作製した三種類のレンズについて説明する。
[レンズA]
(1.1)原料モノマーの調合
撹拌子を備えたガラス容器に、m−キシリレンジイソシアネートを50.6質量部、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンのうちの少なくともいずれか一種、またはこれらのうちから選択した二種〜三種を混合した化合物を49.4質量部、紫外線吸収剤(SEESORB701、ジプロ化成工業製)を1.2質量部、および内部離型剤(ゼレックUN、Stepan社製)を0.1質量部入れた後、十分に撹拌、混合して均一に分散または溶解させた。その後、この混合液にさらにジブチル錫ジクロライド0.005質量部と、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.005質量部とを添加し、30℃に保持しながら十分に撹拌して溶解させた。そして、5mmHgに減圧して撹拌を続けながら30分間脱気を行ない、混合液(モノマー)を得た。
(2.1)注型重合
対向する2枚のガラス型を封止用テープで保持してなるレンズモールドの中に、前記「(1.1)原料モノマーの調合」で得られた混合液を注入した。そして、混合液が注入されたレンズモールドを温風加熱炉に投入した後、30℃から120℃まで12時間かけて昇温し、120℃で0.5時間保持した。そして、2時間かけて70℃まで放冷させた。その後、重合された重合体をレンズモールドから離型して、チオウレタン系のレンズAを得た。得られたレンズAの屈折率(ne)は1.67であった。
[レンズB]
(1.2)原料モノマーの調合
撹拌子を備えたガラス容器に、ノルボルネンジイソシアネートを50.6質量部、ペンタエリストールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)を主成分とするポリチオール組成物を23.9質量部、4−メルカプトメチル−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオールを主成分とするポリチオール組成物を25.5質量部、紫外線吸収剤(SEESORB709、ジプロ化成工業)を3.0質量部、および内部離型剤(ゼレックUN、Stepan社)を0.1質量部入れた後、十分に撹拌、混合して均一に分散または溶解させた。その後、この混合液にさらにジブチル錫ジクロライド0.025質量部を添加し、30℃に保持しながら十分に撹拌して溶解させた。そして、5mmHgに減圧して撹拌を続けながら30分間脱気を行ない、混合液(モノマー)を得た。
(2.2)注型重合
対向する2枚のガラス型を封止用テープで保持してなるレンズモールドの中に、前記「(1.2)原料モノマーの調合」で得られた混合液を注入した。そして、レンズモールドを温風加熱炉に投入して、30℃から130℃まで12時間かけて昇温し、130℃で2時間保持した後、1時間かけて70℃まで放冷させた。そして、重合体をレンズモールドから離型し、チオウレタン系のレンズBを得た。得られたレンズBの屈折率(ne)は1.60であった。
[レンズC]
(1.3)原料モノマーの調合
撹拌子を備えたガラス容器に、m−キシリレンジイソシアネートを44.4質量部、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパンを主成分とするポリチオール組成物を55.6質量部、紫外線吸収剤(SEESORB701、ジプロ化成工業製)を1.2質量部、および内部離型剤(ゼレックUN、Stepan社製)を0.1質量部入れた後、十分に撹拌、混合して均一に分散または溶解させた。その後、この混合液にさらにジブチル錫ジクロライド0.02質量部を添加し、30℃に保持しながら十分に撹拌して溶解させた後、5mmHgに減圧して撹拌を続けながら30分間脱気を行ない、混合液(モノマー)を得た。
(2.3)注型重合
対向する2枚のガラス型を封止用テープで保持してなるレンズモールドの中に、前記「(1.3)原料モノマーの調合」で得られた混合液を注入した。そして、レンズモールドを温風加熱炉に投入して、30℃から120℃まで12時間かけて昇温し、120℃で0.5時間保持した後、2時間かけて70℃まで放冷させた。そして、重合体をレンズモールドから離型し、チオウレタン系のレンズCを得た。得られたレンズCの屈折率(ne)は1.70であった。
次に、作製した三種類のレンズA,B,Cを、所定の染色液を用いて染色を行なった。染色は、染色液を調合した後に、その染色液にそれぞれのレンズを浸漬して着色し、染色を行なう。
(3)染色液の調合
ビーカーに入れた1リットルの純水をスターラーで撹拌しながら、間接槽を用いて90℃に保温した。そして、保温したビーカー内の純水に、染色キャリアとしてp−フェニルフェノール(ダイキャリア DK−CN、大和化学工業製)2.5g、界面活性剤として2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩(シントレッキス(登録商標)EH−R、日本油脂製)10mlを添加した。そして、分散染料として青色染料(FSP Blue AUL−S、双葉産業製)2.35g、赤色染料(FSP Red E−A、双葉産業製)0.14g、黄色染料(FSP Yellow FL、双葉産業製)0.24g、茶色染料(FSP Red S−N、双葉産業製)0.26g添加した。そして、スターラーを用いてビーカー内の水溶液を20分以上撹拌して、各添加物を均一に分散・溶解させ、染色液を作成した。なお、染色液の調合の間、液温が常に90℃の一定温度を保つように保温し続けた。
(4)レンズの染色
調合した染色液の液温を90℃に保った状態で撹拌しながら30分間放置した。そして、上記原料モノマーを注型重合して得られたレンズA,B,Cを、染色液中に30分間浸漬して、各レンズを着色する染色を行なった。そして、着色されたレンズA,B,Cを、染色液中から引き上げた後、常温程度の水中に1分間浸漬して水洗を行ない染色されたレンズを得た。染色されたレンズA、レンズB、レンズCを、順に試料1、試料2、試料3と呼称する。
(実施例2)
実施例1の「(3)染色液の調合」において、染色キャリアとしてp−フェニルフェノール(ダイキャリア DK−CN、大和化学工業製)に代えて、桂皮アルコール6mlを添加した以外は、実施例1と同様にして染色液を調合し、作製した三種類のレンズA,B,Cの染色も同様に行なった。染色されたレンズA、レンズB、レンズCを、順に試料4、試料5、試料6と呼称する。
(比較例)
実施例1および実施例2において用いた染色キャリアと、従来一般的に利用されている界面活性剤などを組み合わせて調合した染色液を用いて染色した4つの試料(試料7〜試料10)を比較例とした。なお、4つの試料は、いずれもレンズAのみを用いて染色を行なった。
試料7:界面活性剤として2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩に代えて、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(NIKKOL(登録商標)NES−203、日光ケミカルズ製)5mlを添加した以外は、実施例1と同様にして染色液を調合し、レンズの染色も同様に行なった。
試料8:界面活性剤として2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩に代えて、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(NIKKOL(登録商標)NES−203、日光ケミカルズ製)30mlを添加した以外は、実施例1と同様にして染色液を調合し、レンズの染色も同様に行なった。
試料9:染色キャリアとしてp−フェニルフェノールに代えて桂皮アルコール6mlを添加し、界面活性剤として2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩に代えて、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(NIKKOL(登録商標)NES−203、日光ケミカルズ製)5mlを添加した以外は、実施例1と同様にして染色液を調合し、レンズの染色も同様に行なった。
試料10:染色キャリアを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして染色液を調合し、レンズの染色も同様に行なった。
実施例1、実施例2および比較例において得られた試料1〜試料10の各レンズについて、レンズ表面に付着している表面付着物の量を目視にて評価した。また、その後、レンズ表面をアセトンを含ませたペーパーで拭き上げ、汚れを含む付着物を落としてから、染色ムラなどのレンズ外観を目視にて評価した。
表面付着物の量およびレンズ外観の評価基準を以下に示す。
(1)表面付着物の量
○:付着物なし、または非常に少ない。
△:付着物が中程度。
×:付着物多い。
(2)レンズ外観
○:外観良好。
×:色ムラなど外観不良あり。
評価結果を、染色液に添加した染色キャリア、界面活性剤および染色に用いたレンズの一覧を含めて表1に示す。なお、表1中の染色キャリアおよび界面活性剤は、商品名の略称で表す。
表1において、界面活性剤として2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩(シントレッキス(登録商標)EH−R、日本油脂製)を用いた実施例1(試料1〜試料3)および実施例2(試料4〜試料6)のレンズは、染色キャリアとしてフェノール類または芳香族アルコール類のいずれを用いた場合であっても、レンズ表面への付着物の付着がなく、且つ色ムラなどのないレンズ外観が得られている。すなわち、屈折率が1.60以上のいずれのチオウレタン系樹脂よりなるレンズ(レンズA,B,C)であっても、良好な染色を行なうことができる。
図1に、試料1(本実施形態に係る界面活性剤を用いて染色したレンズ)におけるレンズ表面の画像を示す。
一方、比較例において、界面活性剤として従来一般的に利用されているポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(NIKKOL(登録商標)NES−203、日光ケミカルズ製)を用いた試料7〜試料9は、染色キャリアとしてフェノール類または芳香族アルコール類のいずれを用いた場合であってもレンズ表面の付着物の量が多い。また、界面活性剤として2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩を用いたにも関らず、染色キャリアを添加しなかった試料10は、レンズ表面への付着物の付着はないものの、染色キャリアを含まないため、染色スピードが極端に遅くなり、ほとんど染色できなかった。
図2に、試料7(従来の界面活性剤を用いて染色したレンズ)におけるレンズ表面の画像を示す。図2において、付着物はレンズ表面に局所的に発生し、二点鎖線の楕円で示す領域a内に黒く撮像された部分が、付着物を示す。
なお、試料1〜試料6(実施例1および実施例2)は、付着物が微少に付着した場合であっても、アセトンを含ませたペーパーで1回程度拭うことで付着物を除去できたが、比較例に示す試料7〜試料9は、付着物がレンズ面に強固に付着し、除去するのに、アセトンを含ませたペーパーで4回以上拭う必要があった。
次に、以上の評価結果に基づいて、染色液における2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩(界面活性剤)の好ましい添加量についての確認を行なった。
染色キャリアとして、上記実施例1および実施例2において用いたフェノール類のp−フェニルフェノール(ダイキャリア DK−CN、大和化学工業製)2.5g、および芳香族アルコール類の桂皮アルコール6mlを添加した各々の染色液に対して、界面活性剤として2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩(シントレッキス(登録商標)EH−R、日本油脂製)を0.5ml、1ml、30ml、35ml添加した、合計8種類の染色液を調合した。そして、それぞれの染色液を用いてレンズAに染色を行なった。
染色キャリアとしてp−フェニルフェノールを用い、界面活性剤(2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩)を、それぞれ0.5ml、1ml、30ml、35ml添加した染色液で染色したレンズを、この順に試料11〜試料14と呼称する。同様に、染色キャリアとして桂皮アルコールを用いた染色液で染色したレンズを、この順に試料15〜試料18と呼称する。
そして、得られた試料11〜試料18の各レンズについて、前記の評価項目(表面付着物の量、レンズ外観)および評価基準に基づいて評価を行なった。
その評価結果を、染色キャリアおよび界面活性剤の添加量を含めて表2に示す。なお、表2中の染色キャリアおよび界面活性剤は、商品名の略称で表す。
表2において、染色液に含まれる染色キャリアが、フェノール類または芳香族アルコール類のいずれの場合であっても、界面活性剤のシントレッキス(登録商標)(2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩)の添加量が0.5mlの試料11および試料15は、レンズ表面への付着物の付着が見られる。一方、シントレッキス(登録商標)の添加量が35mlの試料14および試料18においては、染色中に染色液に濁りが発生した。そして染色したレンズ全体に色ムラが発生した。
これ以外のシントレッキス(登録商標)の添加量が1mlの試料12および試料16、添加量が30mlの試料13および試料17については、レンズ表面への付着物の付着がなく、且つ色ムラなどのないレンズ外観が得られた。
したがって、この界面活性剤の添加量の確認および実施例1、実施例2の評価結果から、チオウレタン系樹脂より成るプラスチックレンズを染色する染色液は、水1リットルあたり1ml〜30mlの範囲の2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩(界面活性剤)を添加するのが好ましい。
なお、シントレッキス(登録商標)の添加量の確認は、染色するレンズにレンズA(屈折率1.67)を用いた場合を説明したが、レンズB(屈折率1.60)およびレンズC(屈折率1.70)の場合であっても同様であった。
以上に説明したプラスチックレンズの染色方法は、例えば、眼鏡レンズ、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズなどのプラスチックレンズに好適に用いることができる。さらに、本実施形態の技術思想は、プラスチックシート、フィルムなどの各種プラスチック基材の染色にも適用することができる。
こうしたプラスチックレンズの染色方法によれば、次のような効果が得られる。
(1)プラスチックレンズを染色する染色液が、分散染料と染色キャリアと界面活性剤とを含み、界面活性剤が上記一般式(1)で表される、2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩であることにより、染色液中における分散染料の分散性が向上し、分散染料または分散染料と染色キャリアの混合物がレンズ表面に付着するのを抑制することができる。その結果、拭き取る際のアセトンなど有機溶剤の使用量を減らすことができる。また、分散染料とプラスチックレンズとの親和性を下げ過ぎないことにより、プラスチックレンズの染色スピードも十分に確保することができる。したがって、十分な染色性と染色安定性を発揮できる染色方法が得られるとともに、付着物を落とすなどの作業を回避することができる。
(2)染色液に含まれる2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩(界面活性剤)の含有量が、水1リットル当たり1ml〜30mlの範囲であることにより、染色液中における分散染料の分散性が向上し、分散染料または分散染料と染色キャリアの混合物がレンズ表面に付着するのを抑制することができる。さらに、屈折率が1.60以上のチオウレタン系プラスチックレンズを容易に染色することができる。すなわち、高屈折率のプラスチックレンズを容易に染色することができる。
本実施形態に係る界面活性剤を用いて染色したレンズ表面の画像。 従来の界面活性剤を用いて染色したレンズ表面の画像。
符号の説明
a…レンズ表面に付着物が付着した領域。

Claims (3)

  1. 染色液中にプラスチックレンズを浸漬することにより着色する、プラスチックレンズの染色方法であって、
    前記染色液は、分散染料と染色キャリアと界面活性剤とを含み、
    前記界面活性剤が、下記一般式(1)で表される、2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩であり、

    前記染色キャリアが、p−フェニルフェノールおよび桂皮アルコールのうち少なくともいずれかであることを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
  2. 請求項1に記載のプラスチックレンズの染色方法において、
    前記2−エチルヘキシルサルフェート・ナトリウム塩の含有量は、水1リットル当たり1ml〜30mlの範囲であることを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載のプラスチックレンズの染色方法において、
    前記プラスチックレンズがチオウレタン系プラスチックレンズであることを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
JP2007223553A 2007-08-30 2007-08-30 プラスチックレンズの染色方法 Active JP5040531B2 (ja)

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