JP3883694B2 - 光学用プラスチックレンズの染色方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学用プラスチックレンズの染色方法の改良およびこの方法で得られた着色光学用プラスチックレンズに関する。さらに詳しくは、本発明は、特に水を分散媒とする分散染料液では染色困難な光学用プラスチックレンズを、任意の色調と濃度に効率よく、経済的有利に染色する方法、およびこの方法で染色された、コンタクトレンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズなどとして好適な着色光学用プラスチックレンズに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、光学用プラスチックレンズはガラスレンズに代わり多方面で使用されているが、中でも視力矯正用に使用されるコンタクトレンズ、眼鏡用レンズはコスメティック効果または医療効果(例えば、紫外線からの保護など)の目的から、レンズを着色して使用することが盛んに行われている。ガラスレンズがプラスチックレンズに置き換えられる理由として、プラスチックレンズの軽量化、安全性(割れにくい)の他に可染性を挙げることができる。
【0003】
光学用プラスチックレンズの染色に関しては、これまで種々の方法が実施されている。例えば、光学用プラスチックレンズ、特に眼鏡用プラスチックレンズを染色する方法として(1)着色能を有する液体を基材レンズに付着させて固定化する方法、(2)着色したフィルムを眼鏡レンズに貼り付けてフィルムに含まれた染料を転写する方法、(3)気相中で有機染料を加熱・昇華させて着色させる方法(特公昭35−1384号公報)などが知られている。
【0004】
上記(1)の方法は、通常行われている眼鏡レンズの着色方法であって、光学用プラスチックレンズに対する着色能を有する分散染料を水に溶解および/または懸濁させた染料液を加熱し、その中に染色すべき光学用プラスチックレンズを所定時間浸漬させたのち、該光学用プラスチックレンズを加熱して、内部に浸透した染料をさらに内部に拡散させて安定化する方法である。しかしながら、最近、高付加価値を求める市場ニーズに応えて、光学用プラスチックレンズ素材の多様化が進み、その結果、従来の方法では、染色困難な素材が増えてきている。
【0005】
そこで、染色液の温度をできるだけ高くしたり、染色促進剤、いわゆるキャリアを染色液に加えたり、染色液に浸漬する時間を延長するなどの方法が行われている。
しかしながら、これらの方法によっても、到達濃度に限界があり、目標濃度到達までに長時間を要し、また長時間かけても高濃度に染色することができないという問題がある。
【0006】
また、光学用プラスチックレンズ基材の原料モノマー液に染料を溶解させ、重合する方法が考えられるが、形成されたレンズの着色濃度はレンズの厚みに依存するから、例えばレンズの中心部が周辺部より薄い凹レンズでは、中央部分の色が薄くなり、周辺部分が濃くなって、レンズ全体で色の濃淡を生じるし、また、左右の度数が異なる眼鏡レンズにおいては、左右で色の濃度が異なるという問題が生じることから、この方法は実用的ではない。さらには、マーケットニーズに応じて、色調と濃度を変えた多数の原料液を調合して多品種の着色光学用プラスチックレンズ基材を製造することは、現実には不可能である。
【0007】
また、プラスチックレンズ素材に直接染色するのではなく、素材の上に施したコーティング膜を染色する方法(特開昭60−235101号公報)も行われている。この光学用プラスチックレンズの着色方法は、染料を溶解した有機ハードコート液を光学用プラスチックレンズ表面に塗布したのち、硬化処理するものであって、塗布方法としては、浸漬法、スプレー法、スピニング(スピンコート)法などが用いられる。しかしながら、この方法も、薄膜に多量の染料を含有させることが難しいため、やはり到達濃度に限界があり、高濃度に染色することはできない。
【0008】
一方、前記(2)の染料を転写する方法は、平板であれば有効であるが、湾曲している光学用プラスチックレンズに対しては、フィルムをきれいに貼り付けることが困難であって、ムラのない染色を施すことは現実には不可能である。さらに、前記(3)の気相中で染料を昇華させて着色させる方法は、染料の昇華性の程度が、青、赤、黄で異なるため、安定した発色を得ることが困難であり、工業的方法とはいえない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで、特に水を分散媒とする分散染料液では染色困難な光学用プラスチックレンズを、任意の色調と濃度に効率よく、経済的有利に染色する工業的な方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、有機溶媒中に分散染料を溶解および/または懸濁させた染色液を使用することにより、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、有機溶媒中に分散染料を溶解および/または懸濁させてなる染色液により、光学用プラスチックレンズを染色することを特徴とする光学用プラスチックレンズの染色方法を提供するものである。
また、本発明は、前記方法で染色してなる着色光学用プラスチックレンズをも提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の染色方法において、染色液として、有機溶媒中に分散染料を溶解および/または懸濁させたものが用いられる。
この染色液に使用される有機溶媒は、単一成分からなるものであってもよいし、2種以上の多成分からなるものであってもよい。
本発明においては、該有機溶媒としては、分散染料の溶解性に優れ、染色対象の光学用プラスチックレンズを溶解したり、膨潤することがなく、レンズ特性に悪影響を及ぼさない上、安全性が高い、揮発性が低い、環境にやさしい、安価であるなどの性質を有するものであればよく、特に制限されず、様々な化合物の中から、適宜選択することができる。このような有機溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられるが、特に染料のキャリア特性を有する有機化合物が好ましい。
【0013】
本発明で使用するキャリア特性を有する有機化合物は、光学用プラスチックレンズ内部に分散染料に先行して拡散し、その後分散染料と置換する特性を有する化合物である。
本発明者らは、キャリア特性を有する有機化合物を探索した結果、芳香環に直接−OH基、−Cl基または−NH2基が結合した有機化合物などに、優れたキャリア特性を有する化合物があることを見出した。
【0014】
この優れたキャリア特性を有する化合物としては、例えば、−OH基を有する化合物として、サリチル酸メチル、サリチル酸エチル、サリチル酸n−プロピル、サリチル酸、サリチル酸フェニル、サリチルアルコール、フェノール、o−クロルフェノール、m−クロルフェノール、p−クロルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼンなどを、−Cl基を有する化合物として、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、p−ジクロルベンゼン、1−クロルナフタレン、2−クロルナフタレンなどを、−NH2基を有する化合物として、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、2,3−トルエンジアミン、2,4−トルエンジアミン、2,6−トルエンジアミン、3,5−トルエンジアミン、2,3−キシリジン、2,4−キシリジン、2,5−キシリジンなどを挙げることができる。
これらのキャリア特性を有する化合物は単独で用いてもよいし、相互作用がなければ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
また、このキャリア特性を有する有機化合物は、その効果を有効に活用するために、できるだけ希釈しないで使用することが望ましいが、キャリア特性を有する化合物が常温で固体の場合、ベンゼン、トルエン、キシレン、サリチル酸メチルなどに溶解するので、これらの溶剤に適宜溶解して使用することができる。特にサリチル酸メチルは溶剤の働きとともにキャリア特性を有する化合物としての働きをする点で好ましい希釈剤である。キャリア特性を有する化合物として好ましい特性を列挙すると、キャリアとして優れていること、レンズ表面を侵さないこと、薬品として安全性が高いこと、高沸点であること、常温で液体であること、低粘度であること、染料溶解性が良いこと、低価格であることなどを挙げることができる。これらの点で、サリチル酸メチル、サリチル酸フェニル、1−クロルナフタレン、アニリンなどが好適である。
【0016】
また、本発明で用いられる前記有機溶媒は、オリゴマーを含むものであってもよい。このオリゴマーとしては、例えば常温で液体であって、粘度が比較的に高くない上、染料の溶解性が良好であるもの、例えばポリエステル系オリゴマーなどが好ましく用いられる。このポリエステル系オリゴマーは、ポリエステル系可塑剤などとして、市販されているものを用いることができる。
【0017】
本発明の染色方法が適用される光学プラスチックレンズとしては、例えばコンタクトレンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズなどに使用される光学レンズが挙げられ、特に、コンタクトレンズ、眼鏡レンズなどの視力矯正用レンズが好適である。具体的には、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、その他の硫黄含有ポリマーなどからなるプラスチックレンズを挙げることができる。
【0018】
本発明の染色方法は、前記視力矯正用レンズの中でも、水を分散媒とする分散染料液では染色困難な光学用プラスチックレンズに適用するのが好ましい。このような光学用プラスチックレンズとしては、例えばメチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、その他の硫黄含有ポリマーなどからなるプラスチックレンズを挙げることができる。
【0019】
本発明の染色方法において用いられる染料は、一般に分散染料と呼ばれる染料で、水に難溶性の染料であって水に溶解および/または分散した懸濁液として、広く光学用プラスチックレンズの染色に使用されている。昇華性があるものが多いので、昇華染料または昇華性染料と呼ばれることもある。特に好ましい染料としては、ダイスタージャパン(株)製のダイヤニックス ブルー(Dianix Blue)AC-Eやダイヤニックス レッド(Dianix Red)AC-E、日本化薬(株)製の分散染料カヤロン ポリエステル カラー イエロー(Kayalon Polyester Colours Yellow)4G-Eやカヤロン ポリエステル カラー スカーレット(Kayalon Polyester Colours Scarlet)2R-Eなどが挙げられる。
【0020】
本発明においては、これらの分散染料を、予め有機溶媒に溶解および/または懸濁して染色液を調製したのち、この染色液を用いて光学用プラスチックレンズを染色する。染料を溶解して使用する場合には、その濃度はできるだけ高い方が好ましい。なお、インクジェット記録のインクとして使用する場合は、インクジェットノズルの目詰まりを回避するために、完全に溶解させる必要があるが、その他の塗布方法では不溶分を懸濁状態で使用することができるので、完全に溶解しなくても実用上差し支えない。
染色液中の溶解および/または懸濁している分散染料の濃度は、通常0.1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%の範囲で選ばれる。
【0021】
この染色液を光学用プラスチック表面に付着させる方法としては、該染色液を均一にムラなく光学用プラスチックレンズ表面に付着させることができる方法であればよく、特に制限されず、従来公知の方法、例えば刷毛塗り、スピンコート、インクジェット記録などの方法により、レンズ表面に直接塗布する方法、あるいは浸漬法、スプレー法などを用いることができる。これらの方法の中で、レンズ表面に直接塗布する方法および浸漬法が好ましく、特にインクジェット記録による塗布方法が、(1)インクを有効に活用できる、(2)コンピューターに記憶されたデータベースおよびアプリケーションに基づき所望の色調および濃度に塗布できる、(3)短時間に塗布できる、などの理由で好適である。
なお、これらの方法により、光学用プラスチックレンズ表面に該染色液を付着させる場合、常温で行うのが好ましい。
【0022】
上記インクジェット記録方式は、数種類のインクを選択的に液滴にして吐出することにより、被記録物体の表面に記録を行う方式で、インクの吐出はコンピューターのデータ処理により制御される。紙を被印刷物とする場合のインクは基本的に水を分散媒とする染料または顔料のインクであるが、本発明では前述したように分散染料を有機溶媒に溶解したインク、特に−OH基を有する化合物、−Cl基を有する化合物、−NH2基を有する化合物などの優れたキャリア特性を有する化合物からなる有機溶媒、またはこれらの化合物と他の有機溶媒との混合物からなる有機溶媒を用いたインクを使用する。
【0023】
また、インクジェット記録方式で光学用プラスチックレンズ表面にインクを塗布する場合は、インク液滴が該光学用プラスチックレンズ表面に直角に当たるように該光学用プラスチックレンズ表面とインクジェットノズルの吐出方向とを制御して、コンピューターが制御したデータを忠実に該光学用プラスチックレンズ表面に再現するように調整することが好ましい。そのような調整を行うには、特願平10−024201号明細書に記載された光学レンズ着色システムなどを利用することができる。
【0024】
本発明においては、このようにして、浸漬法や直接塗布法などにより、表面に染色液が付着してなる光学用プラスチックレンズは、該染色液中の分散染料をレンズ内部に拡散させるために、加熱処理するのが望ましい。特にキャリア特性を有する有機化合物を含む有機溶媒を使用する場合は、キャリア特性を有する有機化合物が分散染料に先行して光学用プラスチックレンズの内部に拡散し、その後分散染料と置換することから、短時間に効果的にキャリアを光学用プラスチックレンズの内部に拡散させ、後続する分散染料と置換し、さらに分散染料を光学用プラスチックレンズ内部に拡散させるために、加熱処理するのが有利である。この際の加熱温度は、通常100〜200℃、好ましくは120〜150℃の範囲で選ばれる。また、加熱時間は、加熱温度などにより左右され、一概に定めることはできないが、通常10分ないし24時間、好ましく30分ないし6時間の範囲である。なお、加熱温度および加熱時間は、該光学用プラスチックレンズの表面形状が変形したり、黄変するなどの悪影響が出ないように、該レンズの特性と染色性のバランスを考慮して、レンズ材料毎に最適値を選定することが望ましい。
【0025】
この加熱処理に使用する加熱炉としては、光学用プラスチックレンズを均一に加熱できる機器であればよく、特に制限されず、例えば電気炉、熱風循環炉、赤外線オーブンなど、いずれも用いることができるが、温度ムラがなく、機器内部で発生するキャリアなどの有機化合物の蒸気に対して安全な対策を施した熱風循環炉の使用が好ましい。
【0026】
加熱が終了した後、光学用プラスチックレンズ表面には、有機溶媒および内部に拡散しきれなかった分散染料が残存しているので、それらを除去するために、洗浄処理や拭き取り処理が行われる。その場合、多数の光学用プラスチックレンズを効率よく短時間で洗浄するためには、有機溶剤中で超音波洗浄などを行うのがよいが、使用する溶剤は内部に拡散して定着させた分散染料を抽出してしまうような、分散染料に対する溶解度が高いものは好ましくなく、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトンなどの溶剤を使用するのが好ましい。分散染料、有機溶媒の溶解や懸濁により汚れた溶剤は、通常蒸留により回収して再使用される。
【0027】
本発明はまた、前記の方法により染色された着色光学用プラスチックレンズをも提供するものである。この着色光学用プラスチックレンズは、例えばコンタクトレンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズなどとして好適に用いられる。
【0028】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0029】
実施例1
(1)分散染料液の調製
ダイスタージャパン(株)製の分散染料ダイヤニックスブルー(Dianix Blue)AC-E 8重量部をo−キシレン92重量部に加えて50℃で30分間撹拌し、分散染料が一部懸濁している液を調製した。
【0030】
(2)光学用プラスチックレンズの着色
ジエチレングリコールビスアリルカーボネート製の平板レンズ(厚さ2mm)を上記(1)で得られた分散染料液に室温で浸漬したのち、両面に染色分散染料液が付着した該平板レンズを、120℃のオーブンで30分間加熱した。冷却後取り出してアセトンを染み込ませた紙で表面の分散媒と残存した分散染料を拭き取ったのち、分光光度計を使用して400ナノメーターの光線透過率により染色濃度を測定した。未処理の平板レンズと比較した結果、該平板レンズの染色濃度は25%であった。
【0031】
比較例1
キャリアとしてo−フェニルフェノールのナトリウム塩5重量部を100重量部の水に溶解した液中に、実施例1で使用したのと同種の光学用ジエチレングリコールビスアリルカーボネート製レンズを80℃で1時間浸漬した。そのレンズを、水100重量部、ダイスタージャパン(株)製のダイヤニックスブルー(Dianix Blue)AC-E 8重量部、安定剤1重量部を混合して80℃に加熱した液中に1時間浸漬したのち、取り出してベンゼンを染み込ませた紙で表面を拭き取った。実施例1と同様に染色濃度を測定した結果は5%であった。処理に要した時間は延べ2時間で実施例1の4倍であるが、染色濃度は5分の1であった。
【0032】
実施例2
(1)分散染料液の調製
ダイスタージャパン(株)製の分散染料ダイヤニックスレッド(Dianix Red)AC-E 10重量部をポリエステルオリゴマー(商品名:旭電化工業株式会社製アデカサイザー PN−170)90重量部に加えて、50℃で30分間撹拌し、分散染料液を調製した。
【0033】
(2)光学用プラスチックレンズの着色
上記(1)で得られた分散染料液を、ポリカーボネート製凹レンズ(度数−3.00、ジオプター、中心厚さ1.5mm、外径70mm)の凹面に、第1ステージ800rpm/15秒、第2ステージ3000rpm/30秒の条件でスピンコートした。凹面に分散染料液が付着した該凹レンズを、150℃のオーブンで30分加熱した。冷却後取り出して、イソプロピルアルコールを染み込ませた紙で表面の分散媒と残存した分散染料を拭き取った。次に凹面と同様の方法で凸面をスピンコートし、凹面と同条件で加熱処理した。凹面と同様に表面の分散媒と残存した分散染料を拭き取ったのち、分光光度計を使用して700ナノメーターの光線透過率により中心付近の染色濃度を測定した。未処理の平板レンズと比較した結果、該平板レンズの染色濃度は28%であった。
【0034】
比較例2
実施例2で使用したの同種のポリカーボネート製レンズを、水100重量部、ダイスタージャパン(株)製の分散染料ダイヤニックスレッド(Dianix Red)AC-E 10重量部、安定剤1重量部を混合して90℃に加熱した液中に1時間浸漬したのち、取り出してイソプロピルアルコールを染み込ませた紙で表面を拭き取った。実施例2と同様に染色濃度を測定した結果は0〜1%で、ほとんど染色できていなかった。処理に要した時間は1時間で実施例2と同じであるが、濃度は28分の1以下であった。
【0035】
なお、キャリアとしてo−フェニルフェノール5重量部を100重量部の水に溶解した液中に、実施例2で使用したのと同種のポリカーボネート製レンズを50℃で1時間浸漬したところ、レンズ表面が侵され透明性が低下した。そのためキャリアによる前処理は中止した。
【0036】
実施例3
(1)インクジェット記録用インクの調製
日本化薬(株)製の分散染料カヤロン ポリエステル カラー イエロー(Kayalon Polyester Colours Yellow)4G-E 10重量部をサリチル酸フェニル50重量部/サリチル酸メチル40重量部の混合液に加えて、60℃で30分撹拌した。室温まで冷却後、ワットマン濾紙No.3を用いて吸引濾過により少量の不溶物を除去し、インクジェット記録用インクを調製した。
【0037】
(2)光学用プラスチックレンズの着色
上記(1)で得られたインクを使用して、HOYA(株)のポリチオウレタン系レンズ(商品名アイアス)の基材レンズ(厚さ2mm、外径80mmの平板レンズ)の片面に、インクジェットプリンターにより128dpiのピッチで記録した。インクが付着したその光学用ポリチオウレタン系レンズを、125℃のオーブンで30分間加熱した。冷却後取り出して、アセトンを染み込ませた紙で表面の溶媒と残存した分散染料を拭き取った後、同様の方法で反対面にインクを付着させ、同条件で加熱した。凹面と同様に表面の溶媒と残存した分散染料を拭き取ったのち、分光光度計を使用して550ナノメーターの光線透過率により中心付近の染色濃度を測定した結果、30%であった。
【0038】
比較例3
キャリアとしてo−フェニルフェノール5重量部を100重量部の水に溶解した液中に、実施例3で使用したのと同種の光学用ポリチオウレタン系レンズを90℃で1時間浸漬した。そのレンズを、水100重量部、日本化薬(株)製の分散染料カヤロン ポリエステル カラー イエロー(Kayalon Polyester Colours Yellow)4G-E 10重量部、安定剤1重量部を混合して95℃に加熱した液中に2時間浸漬したのち、取り出してアセトンを染み込ませた紙で表面を拭き取った。実施例3と同様に濃度を測定した結果5%で、処理に要した時間は延べ3時間で実施例3の3倍要したが、濃度は6分の1であった。
【0039】
実施例4
(1)分散染料液の調製
ダイスタージャパン(株)製の分散染料ダイヤニックブルー(Dianix Blue)AC-E 10重量部を1−クロロナフタレン90重量部に加えて、50℃で30分撹拌し、分散染料が一部懸濁している液を調製した。
【0040】
(2)光学用プラスチックレンズの着色
HOYA(株)のポリチオウレタン系レンズ(商品名アイアス)の基材レンズ(度数−2.00ジオプター、中心厚さ1.5mm、外径80mmの凹レンズ)を上記(1)で得られた分散染料液に室温で浸漬した後、両面に分散染料液が付着した該凹レンズを、125℃のオーブンで30分間加熱した。
【0041】
冷却後取り出して、アセトンを染み込ませた紙で表面の分散媒と残存した分散染料を拭き取った後、分光光度計を使用して400ナノメーターの光線透過率により中心付近の染色濃度を測定した。未処理の凹レンズと比較した結果、該凹レンズの染色濃度は30%であった。
【0042】
比較例4
キャリアとしてo−フェニルフェノール5重量部を100重量部の水に溶解した液中に、実施例3で使用したのと同種の光学用ポリチオウレタン系レンズを90℃で1時間浸漬した。そのレンズを、水100重量部、ダイスタージャパン(株)製の分散染料ダイヤニックスブルー(Dianix Blue)AC-E 10重量部、安定剤1重量部を混合して95℃に加熱した液中に4時間浸漬した後、取り出してアセトンを染み込ませた紙で表面を拭き取った。濃度を測定した結果10%で、処理に要した時間は延べ5時間で実施例4の10倍かけたが、濃度は3分の1であった。
【0043】
実施例5
(1)分散染料液の調製
ダイスタージャパン(株)製の分散染料ダイヤニックスレッド(Dianix Red)AC-E 10重量部をm−トルイジン90重量部に加えて、50℃で30分撹拌し、分散染料が一部懸濁している液を調製した。
【0044】
(2)光学用プラスチックレンズの着色
HOYA(株)の硫黄含有プラスチックレンズ(商品名テスラリッド)の基材レンズ(度数+1.00ジオプター、中心厚さ2.5mm、外径75mmの凸レンズ)を上記(1)で得られた分散染料液に室温で浸漬した後、両面に分散染料液が付着した該凸レンズを、125℃のオーブンで30分間加熱した。
【0045】
冷却後取り出して、アセトンを染み込ませた紙で表面の分散媒と残存した分散染料を拭き取った後、分光光度計を使用して700ナノメーターの光線透過率により中心付近の染色濃度を測定した。未処理の凸レンズと比較した結果、該凸レンズの染色濃度は20%であった。
【0046】
比較例5
キャリアとしてo−フェニルフェノール5重量部を100重量部の水に溶解した液中に、実施例5で使用したのと同種の硫黄含有プラスチックレンズを90℃で1時間浸漬した。そのレンズを、水100重量部、ダイスタージャパン(株)製の分散染料ダイヤニックスレッド(Dianix Red)AC-E 10重量部、安定剤1重量部を混合して95℃に加熱した中に3時間浸漬した後、取り出してアセトンを染み込ませた紙で表面を拭き取った。濃度を測定した結果2%で、処理に要した時間は延べ4時間で実施例5の8倍かけたが、濃度は10分の1であった。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、特に水を分散媒とする分散染料液では染色困難な光学用プラスチックレンズを、任意の色調と濃度に効率よく、経済的有利に染色することができる。
【0048】
また、本発明の方法で染色された着色光学用プラスチックレンズは、例えばコンタクトレンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズなどとして好適に用いられる。
Claims (2)
- サルチル酸フェニル、1−クロルナフタレン及びポリエステル系オリゴマーから選ばれる1種以上からなる有機溶媒中に分散染料を溶解及び/又は懸濁させてなる染色液を、ポリカーボネート及び硫黄含有ポリマーから選ばれるプラスチックレンズ表面に塗布して、染色液を付着させた後、該プラスチックレンズを加熱して分散染料を該レンズ内部に拡散させるプラスチックレンズの染色方法。
- 請求項1に記載の方法で染色してなる着色光学用プラスチックレンズ。
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