JP5036325B2 - 水性エマルションおよびその用途 - Google Patents

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Description

本発明は、優れた保護コロイド力と、良好な静置保存時の粘度安定性を有する水性エマルションであり、さらに、セメント・モルタル用途での物性ばらつきのない良好な水性エマルションに関する。さらに詳しくは、本発明は、ケン化度90モル%以上のアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール(以下、PVAという)系樹脂およびアニオン系PVA系樹脂により分散された重合体を含む水性エマルションに関する。
従来より、水性エマルションに機械安定性や凍結安定性を付与するために、保護コロイド剤として、PVAが使用されている。しかし、エマルションの機械安定性や凍結安定性は改善されるものの、重合安定性が不充分であり、特に、エマルション中の樹脂分が50重量%をこえるような高濃度では、重合することができなかった。
そのため、アクリル系水性エマルションの保護コロイド剤としてPVAを使用する場合には、エマルション中の樹脂分を50重量%以下にする必要があり、生産性の点で問題があった。また、得られるエマルションの安定性も不充分で、経時的に増粘するという問題もあった。
また、PVAを保護コロイド剤として用いた水性エマルションを、セメント・モルタルへの混和用途に用いることが知られているが、かかるエマルションを混和すると、セメント・モルタルの流動性が経時的に悪化し、作業性が低下するという問題があった。
そのため、水性エマルションの保護コロイド剤としてPVAを使用する場合に、エマルション中の樹脂分を50重量%以上の高濃度でも重合することができるPVA系保護コロイド剤の開発、およびセメント・モルタルに混和しても作業性が低下しない水性エマルションの開発が望まれていた。
かかる対策として、アセトアセチル(CH3COCH2CO−)基含有PVAを乳化分散剤として使用することが提案され、多くの特許文献などに記載されている。
たとえば、特許文献1には、アセト酢酸エステル基、メルカプト基、ジアセトンアクリルアミド基などの活性水素基を含有し、ブロックキャラクター[η]が0.6より大きく、ケン化度が95.0モル%より高く、かつブロック性の低いPVAを重合体に付着させた水性エマルションが開示されており、得られる水性エマルションの機械安定性、凍結安定性および高温放置安定性が良好であると述べられている。
特許文献2には、エチレンスルホン酸アルカリ塩を含有する酢酸ビニル−エチレンスルホン酸アルカリ塩共重合体をケン化して製造される変性PVAを乳化剤としてエチレン性不飽和単量体を乳化重合する方法が開示されており、得られたエマルションは、粘度の経時変化が少なく、放置安定性等において優れた性能を有することが述べられている。
特許文献3には、平均ケン化度が90モル%以下であり、スルホン酸基含有量が0.1〜20モル%の変性PVAからなる乳化重合用安定剤が開示されている。
特許文献4には、側鎖に炭素数4以上の炭化水素基とスルホン酸基もしくは硫酸エステル基とを含有する変性PVAからなるスチレンの乳化安定剤が開示されており、得られた乳化エマルションは、優れた安定性を示しかつ適度の粘性を有しており、接着剤、セメント混和剤などとして用いることが述べられている。
しかしながら、特許文献1では、機械安定性、凍結安定性および高温放置安定性の良好な水性エマルションが得られているものの、長期の保管における粘度安定性についてはまだまだ満足のいくものではなかった。特許文献2〜4では、重合安定性が不充分であったり、また、グラフト率が低く機械安定性が劣るため、セメント混和用途において混和安定性が不充分であり、まだまだ満足のいくものではなかった。
すなわち、これらの文献においては、ケン化度90モル%以上のアセトアセチル基含有PVA系樹脂および所定量のアニオン系PVA系樹脂を併用することにより、優れた保護コロイド力と、良好な静置保存時の粘度安定性を得ようとするものではなく、これらの文献の水性エマルションでは、実際の製品化を目的として固形分濃度を50%にした際に、静置時の粘度安定性と高いグラフト率に起因する機械安定性の両立が充分ではなく、屋外に数ヶ月保存した後、セメントやモルタルに混和した場合にも、セメントやモルタルを混和直後に使用する場合には作業性は良好であるが、混和後に時間をおいて使用する場合にはセメントやモルタルの流動性が低下して作業性が低下するという問題が生じていた。
特開2003−277419号公報 特開昭50−155579号公報 特開平10−060015号公報 特開昭58−063706号公報
本発明の目的は、エマルション重合後の保存期間に関係なく、優れた保護コロイド力と、良好な静置保存時の粘度安定性を有する水性エマルションであり、さらに、セメント・モルタル用途での物性ばらつきのない良好な水性エマルションを提供することにある。
すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体およびジエン系単量体からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の単量体を主成分とする重合体が、(A)ケン化度90モル%以上のアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂(A)とする)および(B)アニオン系ポリビニルアルコール系樹脂(以下、アニオン系PVA系樹脂(B)とする)により分散されてなり、アニオン系PVA系樹脂(B)の含有量が、アセトアセチル基含有PVA系樹脂(A)100重量部に対して、20〜70重量部である水性エマルションに関する。
アセトアセチル基含有PVA系樹脂(A)アセトアセチル化度が0.01〜3.0モル%であることが好ましい。
アセトアセチル基含有PVA系樹脂(A)のブロックキャラクター[η]が、0.3〜0.8であることが好ましい。
アニオン系PVA系樹脂(B)が、スルホン酸基含有PVA系樹脂であり、スルホン酸基変性量が0.01〜5.0モル%であることが好ましい。
アセトアセチル基含有PVA系樹脂(A)およびアニオン系PVA系樹脂(B)のケン化度が95モル%以上であることが好ましい。
重合体粒子の平均粒径が0.01〜5μmであることが好ましい。
鉄化合物を1〜1000ppm含むことが好ましい。
アセトアセチル基含有PVA(A)およびアニオン系PVA系樹脂(B)の重合度が、50〜2000であることが好ましい。
23℃におけるエマルション粘度H0dayと、23℃で3ヵ月放置後のエマルション粘度H3monthsの比H3months/H0dayが、10以下であることが好ましい。
さらに、本発明は、前記水性エマルションからなるモルタル混和用水性エマルションに関する。
本発明によれば、エマルション重合後の保存期間に関係なく、優れた保護コロイド力と、良好な静置保存時の粘度安定性を有する水性エマルションを得ることができ、さらに、セメント・モルタル用途での物性ばらつきのない良好な水性エマルションを得ることができる。
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体およびジエン系単量体単位からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の単量体を主成分とする重合体が、(A)ケン化度90モル%以上のアセトアセチル基含有PVA系樹脂および(B)アニオン系PVA系樹脂により分散されてなる水性エマルションに関する。以下、「アセトアセチル基含有PVA系樹脂(A)」を単に「PVA系樹脂(A)」とも表記する。
本発明で用いるケン化度90モル%以上のPVA系樹脂(A)としては、ポリ酢酸ビニル溶液をアルカリや酸によってケン化したケン化物またはその誘導体が用いられるが、さらに、酢酸ビニルと、酢酸ビニルと共重合することのできる単量体との共重合体をケン化したケン化物などを、本発明の目的を阻害しない範囲で用いることもできる。ただし、PVA系樹脂(A)としては、アニオン系PVA系樹脂(B)を除くものである。
ケン化は、ポリ酢酸ビニルなどの重合体をアルコールまたは含水アルコールに溶解し、アルカリ触媒または酸触媒を用いて行なわれる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノールなどの炭素数1〜6の飽和アルコールがあげられるが、これらの中でも、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。
ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラートなどのアルカリ金属の水酸化物、アルコラートなどのアルカリ触媒;硫酸、塩酸、硝酸、メタスルホン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂などの酸触媒があげられる。ケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度などにより適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は、通常、ケン化前の重合体1モルに対して0.1〜30ミリモルであることが好ましく、より好ましくは2〜17ミリモルとすることが適当である。また、ケン化反応の反応温度は、特に限定されないが、10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。
かかるPVA系樹脂において具備しておくことが好ましい条件として、ケン化度、重合度、1,2−グリコール結合量などをあげることができ、以下に順次説明する。
PVA系樹脂のケン化度は、90モル%以上であり、好ましくは95〜100モル%であり、より好ましくは97.0〜99.8モル%である。ケン化度が下限値未満では、エマルションの重合時の安定性が極端に低下して目的とする水性エマルションを得ることが困難になる傾向がある。
PVA系樹脂の重合度は、特に限定されないが、50〜2000であることが好ましく、より好ましくは100〜1500、さらに好ましくは100〜600、特に好ましくは200〜600である。重合度が下限値未満では保護コロイド性を有さない傾向があり、さらに、下限値未満のPVA系樹脂を工業的に製造することは困難である。また、上限値をこえるとエマルションの粘度が高くなりすぎたり、エマルションの重合安定性が低下する傾向があるため好ましくない。
さらにPVA系樹脂の1,2−グリコール結合量は、エマルションの放置安定性の面より、1.5モル%以上であることが好ましい。
なお、1,2−グリコール結合量は、1H−NMRの測定値から求められるものである。まず、ケン化後、充分にメタノール洗浄を行ない、次いで90℃で2日間減圧乾燥したPVA系樹脂をDMSO−D6に5重量%の濃度となるよう溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を、400MHzの1H−NMR(AVANCE DPX−400、Bruker製)を用いて、下記の条件で測定することにより求めることができる。
温度 :80℃
フリップアングル :45°
パルス繰り返し時間 :10sec
積算回数 :16回
3−(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウムを基準物質としたとき、ビニルアルコール単位のメチン由来のピークは3.2〜4.0ppm(積分値A)、1,2−グリコール結合の一つのメチン由来のピークは3.25ppm(積分値B)に帰属され、次式で1,2−グリコール結合量を算出できる。
1,2−グリコール結合量(モル%)=B/A×100
本発明で用いるPVA系樹脂(A)としては、さらに高機能化が可能な点から、各種変性PVA系樹脂を用いることができ、グラフト性が向上し、保護コロイド物性が良好になる点から活性水素を有する官能基を含むものが用いられる
活性水素を有する官能基としては、例えば、アセトアセチル基、ジアセトンアクリルアミド基、アミノ基、メルカプト基などをあげることができるが、これらの中でも、本発明においては、グラフト反応性の点からアセトアセチル基が用いられる
PVA系樹脂(A)の活性水素を有する官能基の変性量は、0.01〜6.0モル%であることが好ましく、より好ましくは0.03〜4.5モル%、さらに好ましくは0.03〜2.0モル%、特に好ましくは0.03〜1.0モル%である。変性量が下限値未満であると保護コロイド性が低下してセメント混和安定性が低下する傾向があり、上限値をこえるとエマルションの重合安定性が低下する傾向がある。
また、PVA系樹脂(A)が、アセトアセチル基で変性されたPVA系樹脂(以下、AA化PVA系樹脂とする)である場合、そのアセトアセチル化度は、0.01〜3.0モル%であることが好ましく、より好ましくは0.03〜2.0モル%、さらに好ましくは0.03〜1.0モル%である。アセトアセチル化度が下限値未満であるとエマルションの耐水性や機械的強度が不足する傾向があり、上限値をこえるとエマルションの重合安定性が低下する傾向がある。
PVA系樹脂にアセトアセチル基を導入する方法としては、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法、PVA系樹脂とアセト酢酸エステルを反応させる方法などをあげることができるが、製造工程が簡略で、かつ品質のよいAA化PVA系樹脂が得られる点から、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法で製造することが好ましい。さらに、ジケテンの使用量が少なく、また、ジケテンの反応収率が向上するという利点を有する点においても、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法が好ましい。以下、このPVA系樹脂とジケテンを反応させる方法について説明するが、これに限定されるものではない。
PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法としては、PVA系樹脂と、液状またはガス状のジケテンを直接反応させる方法、有機酸をPVA系樹脂にあらかじめ吸着吸蔵させたのち、不活性ガス雰囲気下で液状またはガス状のジケテンを噴霧、反応させる方法、PVA系樹脂に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応させるなどの方法などが用いられる。
PVA系樹脂に、液状のジケテンを噴霧などの手段によって、均一に吸着、吸収させる場合には、不活性ガス雰囲気下、20〜120℃において、所定時間、撹拌または流動化を継続して行なうことが好ましい。
また、PVA系樹脂にガス状のジケテンを反応させる場合には、接触温度を、好ましくは30〜250℃、より好ましくは50〜200℃とする。ジケテンガスがPVA系樹脂との接触時に液化しない温度およびジケテン分圧条件下で接触させることが好ましいが、一部のガスが液滴となることは、なんら支障はない。接触時間は接触温度に応じて、すなわち温度が低い場合は長く、温度が高い場合は短くてよく、1分〜6時間の範囲から適宜選択することができる。ジケテンガスを供給する場合には、ジケテンガス単独を供給してもよく、また、ジケテンガスと不活性ガスとの混合ガスを供給してもよい。PVA系樹脂にジケテンガスを吸収させてから昇温してもよいが、PVA系樹脂の加熱後に、ガスを接触させることが好ましい。
有機酸を使用してPVA系樹脂とジケテンを反応させる方法において、有機酸としては、酢酸が最も好ましいが、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸などを用いることもできる。用いる有機酸の量は、反応系内のPVA系樹脂が吸着および吸蔵しうる限度内の量、換言すれば、反応系のPVA系樹脂と分離した有機酸が存在しない程度の量が好ましい。具体的には、PVA系樹脂100重量部に対して0.1〜80重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜50重量部、特に好ましくは5〜30重量部の有機酸を共存させることが適当である。下限値未満では本発明の効果が得られにくい傾向があり、上限値をこえると、過剰な有機酸が存在してPVA系樹脂粒子間の凝集がおきやすく、良好な品質のPVA系樹脂粒子が得られない傾向がある。
有機酸をPVA系樹脂に均一に吸着、吸蔵させるには、有機酸を単独でPVA系樹脂に噴霧する方法や、適当な溶剤に有機酸を溶解し、それを噴霧する方法などを用いることができる。
アセトアセチル基の導入に用いる触媒としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、第一アミン、第二アミン、第三アミンなどの塩基性化合物が有効である。触媒量は、公知の反応方法に比べて少量でよく、PVA系樹脂に対して0.1〜5.0重量%とすることが好ましい。PVA系樹脂は、通常酢酸ナトリウムを含んでいるので、触媒を添加しなくてもよい場合が多い。触媒量が多すぎるとジケテンの副反応が起こりやすく好ましくない。PVA系樹脂中の水分によるジケテンの消費を抑え、ジケテンの反応率を向上させるために、無水酢酸などの酸無水物を少量存在させてもよい。
アセトアセチル化を実施する際の反応装置としては、加温可能で撹拌機の付いた装置であれば充分である。たとえば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、そのほか、各種ブレンダー、撹拌乾燥装置を用いることができる。
前記方法で得られたAA化PVA系樹脂は、44〜74、74〜105、105〜177、177〜297、297〜500、500〜1680μmの各粒径に分別した場合、各々のアセトアセチル化度の中の最大値を最小値で割った値(AA化度分布)が、1.0〜3.0となるようにすることが好ましく、より好ましくは1.0〜2.0、さらに好ましくは1.0〜1.5である。AA化度分布が上限値をこえると、AA化PVA系樹脂を水に溶解したときに微量の未溶解物が存在したり、透明度が下がったり、AA化PVA系樹脂を水溶液にして長期間保存したときの粘度が増加する傾向があり、また、AA化PVA系樹脂を粉末で長期間保存したのち、水溶液にしたときの粘度が製造直後の粉末を水溶液にした時の粘度に比べて高くなり、本発明の目的を達成し難くなる傾向がある。
AA化度分布は、前記のように、AA化PVA系樹脂を44〜74、74〜105、105〜177、177〜297、297〜500、500〜1680μmの各粒径に分別したのち、各々のAA化度を、中和滴定によるアルカリ消費量から計算し、AA化度の最大値を最小値で割って算出する。ただし、AA化PVA系樹脂の粒度分布が狭く、特定の粒度の部分にすべて入ってしまい、単一のAA化度の値しか算出されない場合は、AA化度分布を1.0とする。
ここで、粒径が44〜74μmとは、標準金網により350メッシュ(44μm)オン、200メッシュ(74μm)パスによりふるい分けされた粒径のものを意味し、74〜105μmとは、200メッシュ(74μm)オン、145メッシュ(105μm)パスによりふるい分けされた粒径のものを、105〜177μmとは、145メッシュ(105μm)オン、80メッシュ(177μm)パスによりふるい分けされた粒径のものを、177〜297μmとは、80メッシュ(177μm)オン、48メッシュ(297μm)パスによりふるい分けされた粒径のものを、297〜500μmとは、48メッシュ(297μm)オン、32メッシュ(500μm)パスによりふるい分けされた粒径のものを、500〜1680μmとは、32メッシュ(500μm)オン、10.5メッシュ(1680μm)パスによりふるい分けされた粒径のものを意味する。
前記のようなAA化度分布のAA化PVA系樹脂を得る方法としては、特に制限されず、たとえば、AA化する前のPVA系樹脂の膨潤度、粒度などを特定の範囲に調節する方法、AA化PVA系樹脂製造後、AA化度の高い粒度画分や低い粒度画分を除去する方法、AA化PVA系樹脂の平均のAA化度を低めに調節するなどの方法があげられるが、通常はPVA系樹脂の膨潤度、溶出率および粒度を調節することが実用的である。
PVA系樹脂の膨潤度としては、1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.0〜500、さらに好ましくは3.0〜200となるように調節される。膨潤度が下限値未満では、AA化度分布が1.0〜3.0のAA化PVA系樹脂を得ることが困難となる傾向があり、また、膨潤度が高すぎる場合には、製造時に撹拌負荷が高くなり過ぎる傾向があるため好ましくない。
なお、PVA系樹脂の膨潤度とは、下式で定義されるものである。
膨潤度=(C−D)/D
ここで、Cは、PVA系樹脂30gに270gの水を加えて、25℃で24時間放置後、真空度100mmHgの吸引で10分濾過したのち、濾紙(No.2)上に残存する吸水膨潤したPVA系樹脂の重量(g)を表す。Dは、前記吸水膨潤したPVA系樹脂を105℃で乾燥し、恒量となった時の重量(g)を表す。
PVA系樹脂の溶出率としては、3.0重量%以上であることが好ましく、より好ましくは3.0〜97.0重量%、さらに好ましくは5.0〜60.0重量%に調節される。溶出率が下限値未満では、AA化度分布が1.0〜3.0のAA化PVA系樹脂を得ることが困難になる傾向がある。また、溶出率が高すぎる場合には、PVA系樹脂をアセトアセチル化する際、反応缶の側壁などにPVA系樹脂が付着したり、反応時の攪拌負荷が大きくなり、反応温度の均一性に欠け、アセトアセチル基の粒子間の分布の均一性などが損なわれる可能性が高くなる。
なお、PVA系樹脂の溶出率とは、下式で定義されるものである。
溶出率(重量%)=(E/30)×100
ここで、Eは、PVA系樹脂30gに270gの水を加えて、25℃で24時間放置したのち、真空度100mmHgの吸引で10分濾過して得られた濾液から、水および揮発成分を留去したときの不揮発成分の重量(g)を表す。
PVA系樹脂の膨潤度および溶出率を調節するためには、PVA系樹脂を静置または流動させながら加熱処理し、結晶化度を調節するなどの方法があげられるが、揮発分を調節することができる点で、流動加熱処理する方法が好ましい。
PVA系樹脂の粒度としては、20〜5000μmにすることが好ましく、44〜1680μmとすることがより好ましい。粒度が下限値未満では、反応熱によって粒子が融着しやすくなり、さらに洗浄、乾燥などの後処理が困難となる傾向があるため、好ましくない。また、粒度が上限値をこえると、PVA系樹脂粒子と、アセトアセチル化反応に用いるジケテンとの接触が不均一となり、ジケテンの反応率を低下させる傾向があるため、好ましくない。PVA系樹脂の粒度の調節は、PVA系樹脂の製造後、標準ふるいで調節したり、風力分級することにより、行なうことができる。
また、AA化PVA系樹脂のブロックキャラクター[η]は、0.3〜0.8であることが好ましく、さらには、0.3〜0.6が好ましい。ブロックキャラクターが下限値未満のPVA系樹脂は工業的に製造することが困難であり、逆にブロックキャラクターが上限値をこえるときは乳化重合安定性や再分散性が不良となって本発明の目的を達成することが困難となる傾向がある。
ブロックキャラクター[η]とは、13C−NMRの測定により、40〜49ppmの範囲に見られるメチレン炭素部分に基づくピーク[(OH,OH)dyad=46〜49ppmの吸収、(OH,OR)dyad=43.5〜45.5ppmの吸収、(OR,OR)dyad=40〜43ppmの吸収、ただし、ORはO−アセチル(CH3CO−)基および/またはO−アセトアセチル(CH3COCH2CO−)基を表す]の吸収強度比から求められるもので、下式より算出される値である。
[η]=(OH,OR)/2(OH)(OR)
ここで、(OH,OR)、(OH)、(OR)は、いずれもモル分率で計算するものとする。また、(OH)は13C−NMRの積分比より算出されるケン化度(モル分率)で、(OR)はそのときのアセトキシ(CH3COO−)基およびアセトアセトキシ基のモル分率を示すものである。
PVA系樹脂にジアセトンアクリルアミド基を導入する方法としては、ジアセトンアクリルアミドと酢酸ビニルを共重合した後にケン化することにより得ることができる。ジアセトンアクリルアミドと酢酸ビニルを共重合するにあたっては、特に限定されないが、HANNAの式(反応性比:ジアセトンアクリルアミド;r1=14.8、酢酸ビニル;r2=0.06)に従って、重合速度に応じて、ジアセトンアクリルアミドを仕込むことが好ましい。ジアセトンアクリルアミドが均一に変性されることで、アセトキシ基(CH3COO−)のブロック性が低いPVA系樹脂が得やすくなる。
次いでケン化されるのであるが、ケン化にあたっては、上記のAA化PVA系樹脂の製造時と同様に行えば良い。また、ジアセトンアクリルアミド基含有PVA系樹脂のブロックキャラクター[η]の調整も、上記のAA化PVA系樹脂の場合と同様に、ケン化工程でさらに調整することができる。かくして得られたジアセトンアクリルアミド基含有PVA系樹脂のジアセトンアクリルアミド基の含有量は、0.1〜15モル%が好ましく、より好ましくは0.5〜10モル%、さらに好ましくは1〜8モル%であり、かかる含有量が下限値未満では本発明の作用効果が充分に得られない傾向があり、逆に上限値を超えると、PVA系樹脂の水溶性が低下したり、水性エマルションを得るときの重合安定性が低下(粗粒子が多くなったり、エマルション粘度が高くなりすぎる等)する傾向があるため、好ましくない。
PVA系樹脂にメルカプト基を導入する方法としては、酢酸ビニルの重合時に連鎖移動剤としてメルカプト基を有する化合物を共存させて重合した後にケン化することにより得ることができる。かかるメルカプト基を有する化合物としては、下記一般式(1):
1−CO−SH (1)
(式中、R1は、炭素数1〜15のアルキル基である)
で示される化合物があげられ、例えば、チオ酢酸、チオプロピオン酸、チオ酪酸、チオ吉草酸等の有機チオール酸をあげることができる。
上記の如きメルカプト基を有する化合物を連鎖移動剤として用いて、酢酸ビニルを重合するにあたっては、下記式(I)に従って、目的とする重合度に応じたメルカプト基を有する連鎖移動剤(例えば、有機チオール酸)の初期仕込み量を決めて重合を開始して、その後、連鎖移動剤の消費速度に合わせて下記式(II)に従って、連鎖移動剤を追加仕込みするようにすればよい。
1/P=Cm+Cs([S]/[M])+Cx([X]/[M]) (I)
追加仕込み量=Cx([X]/[M])・Rp (II)
ここで、Pは重合度、Cmはモノマーに対する連鎖移動定数(Csは溶媒に対する連鎖移動定数)、Cxは連鎖移動剤の連鎖移動定数、[S]は溶媒濃度(mol/l)、[M]はモノマー濃度(mol/l)、Rpは重合速度(mol/l/sec)である。なお、Tは重合温度(K)を示す。
ついで、ケン化されるのであるが、ケン化にあたっては、上記のAA化PVA系樹脂の製造時と同様に行えば良い。また、メルカプト基含有PVA系樹脂のブロックキャラクター[η]の調整も、上記のAA化PVA系樹脂の場合と同様に、ケン化工程で調整することができる。
本発明で用いるアニオン系PVA系樹脂(B)の原料PVA系樹脂としては、前記PVA系樹脂(A)で説明したものと同様のものをあげることができる。
アニオン系PVA系樹脂(B)としては、アニオンを有する基を含むPVA系樹脂のことをいい、アニオンを有する基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などをあげることができるが、これらの中でも、エマルション中のpHに関係なく、安定して強い電荷反発が得られる点から、スルホン酸基であることが好ましい。
PVA系樹脂(B)のアニオンを有する基の変性量としては、0.01〜5.0モル%であることが好ましく、より好ましくは1.0〜4.0モル%である。変性量が下限値未満であると電荷反発効果が弱く添加効果が低い傾向があり、上限値をこえるとエマルションの重合安定性が低下する傾向がある。
また、アニオン系PVA系樹脂(B)が、スルホン酸変性PVA系樹脂である場合、スルホン酸基による変性量は、0.01〜5.0モル%であることが好ましく、より好ましくは1.0〜4.0モル%である。変性量が下限値未満であると電荷反発によるエマルションの安定性が改善できず本発明の作用効果を充分に得られない傾向があり、上限値をこえるとエマルションの粒径が小さくなることで、やはりエマルションの安定性が改善できず本発明の作用効果を充分に得られない傾向がある。
PVA系樹脂にスルホン酸基を導入する方法としては、以下の方法などがあげられる。
(1)共重合体より導入する方法
このときのスルホン酸基を有する単量体としては以下のものがあげられる。
(イ)エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩、
(ロ)下記一般式(2)または(3)で表されるスルホアルキルマレート
Figure 0005036325
Figure 0005036325
(式中、R2はアルキル基、nは2〜4の整数、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウムイオンを示す)
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、などの炭素数1〜12のアルキル基があげられるがその限りではない。
上記のスルホアルキルマレートとしては、例えば、ナトリウムスルホプロピル−2−エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピル−2−エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピルトリデシルマレート、ナトリウムスルホプロピルエイコシルマレートなどがあげられる。
(ハ)下記一般式(4)〜(6)のいずれかで表されるスルホアルキル(メタ)アクリルアミド、スルホアルキル(メタ)アクリレート
Figure 0005036325
Figure 0005036325
Figure 0005036325
(式中、R3、R4、R5、R6、R8、R9、R10は、水素原子またはアルキル基、R7はアルキル基、nは2〜4の整数、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウムイオンを示す。)
アルキル基としては、前記と同じものをあげることができる。
上記のスルホアルキル(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、ナトリウムスルホメチルアクリルアミド、ナトリウムスルホ−t−ブチルアクリルアミド、ナトリウムスルホ−S−ブチルアクリルアミド、ナトリウムスルホ−t−ブチルメタクリルアミドなどがあげられる。
Figure 0005036325
(式中、R11は水素原子またはアルキル基、nは2〜4の整数、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウムイオンを示す。)
上記のスルホアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ナトリウムスルホエチルアクリレートなどがあげられる。
(ニ)下記一般式(8)で表されるエチレンオキサイドモノアリルエーテルの末端水酸基の硫酸エステル体
Figure 0005036325
(式中、R12は水素原子またはアルキル基、nは1〜60の整数を示す。)
アルキル基としては、前記と同じものをあげることができるが、なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
共重合により導入する場合、スルホン酸基を有する単量体の中でもオレフィンスルホン酸、またはその塩が好適に使用される。
(2)スルホン酸基を有するアルコール、アルデヒドあるいはチオールなどの官能基を有する化合物を連鎖移動剤として共存させて重合する方法
このときは、特に連鎖移動効果の大きいチオールに由来する化合物が有効で以下の化合物があげられる。
Figure 0005036325
Figure 0005036325
Figure 0005036325
Figure 0005036325
(式中、R13〜R21はそれぞれ水素原子またはメチル基、nは2〜4の整数、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウムイオンを示す。なお、nが複数のときは、nの数だけ存在する各R16、R17、R19、R20は同じものでも異なるものでもよい。)
具体的には、チオプロピオン酸ナトリウムスルホプロパンなどがあげられる。
上記方法以外にも、(3)PVA系樹脂を臭素、ヨウ素等で処理した後、酸性亜硫酸ソーダ水溶液で加熱する方法、(4)PVA系樹脂を濃厚な硫酸水溶液中で加熱する方法、(5)PVA系樹脂をスルホン酸基を有するアルデヒド化合物でアセタール化する方法などがあげられる。
次に、カルボキシル基を導入する方法を以下に示す。
(1)共重合により導入する方法
このときのカルボキシル基を有する単量体としてエチレン性不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等)、またはエチレン性不飽和カルボン酸モノエステル(マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等)またはエチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル(マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル等)またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等)、ウンデシレン酸あるいは(メタ)アクリル酸等の単量体およびその塩があげられ、その中でもエチレン性不飽和カルボン酸モノエステルまたはその塩が好適に使用される。
また、カルボキシル基を導入した場合、ケン化反応時あるいは乾燥時にラクトン環が生成されることによる不溶化が懸念されるがその対策として水溶解性が良いPVA系樹脂の製法で既に公知であるマレイン酸または無水マレイン酸に対して0.5〜2.0モル当量のアルカリ存在下で酢酸ビニルを有機溶媒中共重合させケン化する方法やカルボン酸基のNa塩のNaを2価金属(Ca、Mg、Cu等)で置換後、ケン化する方法も使用される。
(2)カルボキシル基を有するアルコール、アルデヒドあるいはチオール等の官能基を有する化合物を連鎖移動剤として共存させ重合する方法
このときは、特に連鎖移動効果の大きいチオールに由来する化合物が有効で以下の化合物があげられる。
HS−(CH2n−COOH ・・・(13)
Figure 0005036325
(式中、R22、R23、R24はそれぞれ水素原子または低級アルキル基(置換基を含んでもよい)、nは0〜5の整数を示す。)
Figure 0005036325
(式中、nは0〜20の整数を示す。)
および上記一般式(13)〜(15)で表される化合物の塩。
具体的にはメルカプト酢酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトステアリン酸等があげられる。
さらに、ビニルエステル系化合物としては酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ギ酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等があげられるが、中でも酢酸ビニルが好適に使用される。
上記の方法で、側鎖または末端にスルホン酸基またはカルボキシル基が導入された共重合体(ポリビニルエステル系重合体)は、ついでケン化されるのであるが、かかるケン化方法としては、前記方法を採用することができる。
本発明の水性エマルションは、ビニル系モノマーを乳化重合することにより得られるものであり、前記PVA系樹脂(A)および(B)の存在下で、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体およびジエン系単量体からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の単量体を主成分とする単量体を重合することにより得ることができる。
ここで、主成分とは、重合体全重量のうち、下記単量体を最も多く含むことを示し、好ましくは50重量%以上含有することをいう。
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルなどの官能基含有(メタ)アクリル酸エステルが使用できる。
スチレン系単量体単位を構成する単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどが使用できる。
ジエン系単量体単位を構成する単量体としては、例えば、ブタジエン−1,3、2−メチルブタジエン、1,3または2,3−ジメチルブタジエン−1,3、2−クロロブタジエン−1,3などが使用できる。
前記単量体は、単独で用いてもよく、また、2種以上を混合して用いてもよい。
また、本発明の目的を阻害しない範囲において、以下の単量体を併用することができる。ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリ酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル系単量体;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化オレフィン系単量体;メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ジアセトンアクリルアミドなどのアクリルアミド系単量体;メタクリルニトリルなどのニトリル系単量体;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルのビニルエーテル;酢酸アリル、塩化アリルなどアリル系単量体などを用いることができる。また、そのほかにも、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水トリメット酸などのカルボキシル基含有化合物およびそのエステル;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有化合物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン化合物;酢酸イソプロペニル、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3,4−ジアセトキシブテン、ビニルエチレンカーボネートなどを用いることもできる。
さらに、単量体としては、アセトアセチル基含有エチレン性不飽和単量体を用いることが、得られる水性エマルションを接着剤として使用する際の接着力向上の点で好ましい。アセトアセチル基含有エチレン性不飽和単量体は、公知の方法によって製造すればよく、たとえば次の方法によって製造される。
(1)ヒドロキシル基、アミド基、ウレタン基、アミノ基、カルボキシル基などの官能基含有エチレン性不飽和単量体にジケテンを反応させてアセトアセチル基含有エチレン性不飽和単量体を製造する。このような官能基含有エチレン性不飽和単量体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルアクリレートなどを用いることができる。反応は、無触媒下で行なうこともできるが、第3級アミン、酸(硫酸など)、塩基性塩(酢酸ナトリウムなど)、有機金属化合物(ジブチルスズラウレートなど)の触媒存在下で反応させることもできる。
(2)前記官能基含有エチレン性不飽和単量体とアセト酢酸エステルとをエステル交換反応させることにより、アセトアセチル基含有エチレン性不飽和単量体を製造する。反応は、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酸化鉛などのエステル交換触媒の存在下で行なうことが好ましい。
本発明の水性エマルションは、水にPVA系樹脂(A)および(B)を溶解させたPVA系樹脂水溶液中に、重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体およびジエン系単量体からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の単量体およびその他の単量体を一時的または連続的に添加して、加熱、撹拌することにより調製される。前記方法で得られた水性エマルションは、分散に使用したPVA系樹脂(A)およびアニオン系PVA系樹脂(B)の少なくとも一部が重合体にグラフトしていることがモルタル混和時のエマルション凝集を抑制することで良好なセメント・モルタルが得られる点から好ましい。
グラフト率は、60重量%以上であることが好ましく、70〜100重量%であることがより好ましい。グラフト率が下限値未満であるとモルタル混和時にエマルションがつぶれて凝集を起こし、塗布不良が発生したり、得られるセメント・モルタルの強度が著しく低下する傾向がある。
なお、グラフト率は、下記方法により算出されるものである。
<グラフト率測定>
得られた水性エマルションを用いて、23℃で500μmのキャストフィルムを作製し、1週間静置した後、沸騰水中で24時間抽出を行い、その後、アセトンにて24時間ソックスレー抽出した場合の、抽出前の皮膜絶乾重量をW1(g)、抽出後の皮膜絶乾重量をW2(g)とし、下記式により求めた値をグラフト率とする。
グラフト率(重量%)=(W2)/(W1)×100
抽出後の皮膜絶乾重量(W2):抽出後のサンプルを105℃、3時間で絶乾させた重量
抽出前の皮膜絶乾重量(W1):あらかじめ、抽出試験サンプルとは別のサンプルを105℃、3時間で絶乾させ、その揮発分割合から、抽出サンプルの皮膜絶乾重量を算出する。
PVA系樹脂水溶液の調製方法としては、水100重量部に対して、PVA系樹脂(A)および(B)の合計量が1〜20重量部となるように添加し、好ましくは合計3〜10重量部となるように添加し、加熱攪拌して調製することができる。PVA系樹脂(A)および(B)の合計量が、下限値未満であると希望する固形分濃度のエマルションが得られない場合があり、上限値をこえると溶解時に高粘度化してその後の作業性が著しく低下する傾向がある。
加熱攪拌条件としては、攪拌翼のスケールや種類によって異なるので、一概には言えないが、例えば50〜100℃で、30〜300rpm、20分〜6時間であることが好ましく、70〜90℃で、150〜250rpm、30分〜1時間であることがより好ましい。
PVA系樹脂(A)の使用量としては、その種類やエマルションの樹脂分などによって多少異なるが、通常、反応系の全体に対して0.1〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜10重量%、さらに好ましくは2〜8重量%である。配合量が下限値未満であると、重合体粒子を安定な乳化状態で維持することが困難になる傾向があり、上限値をこえるとエマルション粘度が上昇しすぎて作業性が低下する傾向がある。
アニオン系PVA系樹脂(B)の使用量としては、その種類やエマルションの樹脂分などによって多少異なるが、通常、反応系の全体に対して0.1〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10重量%であり、さらに好ましくは0.5〜3.0重量%である。配合量が下限値未満であると、重合体粒子を安定な乳化状態で維持することが困難になる傾向があり、上限値をこえるとエマルション粘度が上昇しすぎて作業性が低下する傾向がある。
アニオン系PVA系樹脂(B)の含有量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して20〜70重量部であり、好ましくは20〜50重量部である。PVA系樹脂(B)の含有量が、下限値未満であると、粘度安定化効果が低減し、物性のばらつきが大きくなる傾向があり、上限値をこえるとグラフト率が低下する傾向がある。
重合開始剤としては、通常、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、臭素酸カリウムなどが、それぞれ単独または併用して用いられるか、または酸性亜硫酸ナトリウムと併用される。また、過酸化水素−酒石酸、過酸化水素−鉄塩、過酸化水素−アスコルビン酸−鉄塩、過酸化水素−ロンガリット、過酸化水素−ロンガリット−鉄塩などの水溶性のレドックス系の重合開始剤も用いられる。具体的には、「カヤブチルB」(化薬アクゾ(株)製)や「カヤブチルA−50C」(化薬アクゾ(株)製)などの有機過酸化物とレドックス系からなる触媒を用いることもできる。なかでも過硫酸塩を用いることが、PVA系樹脂とのグラフト重合を促進し、重合安定性を向上させる点で好ましい。過硫酸塩の中でも、過硫酸アンモニウムが、特に好ましい。重合開始剤の添加方法としては、特に制限はなく、初期に一括添加する方法や重合の経過に伴って連続的に添加する方法などを採用することができる。
重合中、pHは3.0〜8.0に維持することが、エマルションの重合安定性を向上させる点で好ましい。より好ましくはpH3.5〜6.0であり、さらに好ましくはpH4.0〜6.0である。pHが下限値未満ではエマルションの重合安定性が不充分となる傾向がある。また、pHが上限値をこえると重合速度が極端に低下する傾向があり、好ましくない。pHを前記範囲に維持するためには、重合前および/または重合中に緩衝剤を添加することが好ましい。重合中に添加する場合には、分割して添加してもよく、また、連続的に添加してもよい。緩衝剤としては、特に限定されないが、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどを用いることができる。特に、酢酸ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
さらに、乳化重合系に鉄化合物を添加すると、乳化重合のコントロール性をより優れたものにでき、乳化重合時に凝集などが起きにくく、重合安定性が格段に向上して好ましい。かかる鉄化合物としては、特に制限されないが、酸化鉄、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄または硫酸第二鉄から選ばれる少なくとも1種の鉄化合物が好ましく用いられ、中でも塩化第二鉄が特に好ましく用いられる。
鉄化合物の添加量は、重合後の水性エマルションに対して1〜1000ppmが好ましく、5〜200ppmがさらに好ましく、5〜100ppmが特に好ましい。鉄化合物の下限値未満であると、重合が充分に進行しない傾向があり、上限値をこえるとエマルションの粘度安定性が低下する傾向がある。
鉄化合物の添加時期については、重合前に添加しておくことが好ましいが、重合中または重合終了時に添加しても構わない。
また、前記乳化重合においては、乳化分散安定剤として、水溶性高分子、非イオン性活性剤、アニオン性活性剤、カチオン性活性剤などを併用することもできる。
水溶性高分子としては、PVA系樹脂(A)および(B)以外の未変性PVA系樹脂、PVA系樹脂のホルマール化物、アセタール化物、ブチラール化物、ウレタン化物などのPVA系樹脂、ビニルエステルと、ビニルエステルと共重合可能な単量体との共重合体のケン化物などがあげられる。ビニルエステルと共重合可能な単量体としては、エチレン、ブチレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセンなどのオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和酸類、その塩、モノまたはジアルキルエステルなど、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類、アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸などのオレフィンスルホン酸、またはその塩類、アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどがあげられる。
また、そのほかにも、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体類、デンプン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸またはその塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸またはその塩、ポリメタクリル酸またはその塩、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、酢酸ビニルとマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸などの不飽和酸との共重合体、スチレンと前記不飽和酸との共重合体、ビニルエーテルと前記不飽和酸との共重合体および前記共重合体の塩類またはエステル類などを水溶性高分子として用いることもできる。
非イオン性活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレン−アルキルエーテル型、ポリオキシエチレン−アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン−多価アルコールエステル型、多価アルコールと脂肪酸とのエステル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックポリマーなどがあげられる。
アニオン性活性剤としては、たとえば、高級アルコール硫酸塩、高級脂肪酸アルカリ塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタリンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩などがあげられる。
カチオン性活性剤としては、たとえば、高級アルキルアミン塩などがあげられる。
さらに、乳化重合には、フタル酸エステル、リン酸エステルなどの可塑剤、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどのpH調整剤などを併用することができる。
重合温度は、70〜90℃が好ましく、75〜85℃がより好ましい。下限値未満ではPVA系樹脂とのグラフト重合が促進されず、重合安定性が低下する傾向がある。上限値をこえると、PVA系樹脂の保護コロイド性が低下したり、乳化重合が安定して進行しにくくなる傾向がある。
本発明の水性エマルション中の重合体粒子の平均粒径は、0.01〜5μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜2μm、さらに好ましくは0.1〜0.5μmである。平均粒径が下限値未満であると、モルタル混和時に凝集が発生する傾向があり、上限値をこえると造膜性が低下しモルタル強度が低下する傾向がある。なお、水性エマルションの平均粒径は、HORIBA製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−910を用い、Mie散乱理論に基づいて算出するものである。
本発明の水性エマルションについては、その23℃におけるエマルション粘度H0dayと、23℃で3ヵ月放置後のエマルション粘度H3monthsの比H3months/H0dayが、10以下であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。比H3months/H0dayが上限値をこえると、モルタル混和時の分散性が低下し、混和モルタル物性のばらつきが大きくなる傾向がある。
また、本発明の水性エマルションから、水分を除去することにより、再分散性に優れた粉末を得ることができる。水の除去方法は、特に限定されず、噴霧乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、凍結乾燥、パルス衝撃波による乾燥、ベルトプレス脱水機による乾燥などの方法を用いることができるが、工業的には、噴霧乾燥が好適に行なわれる。噴霧乾燥には、液体を噴霧して乾燥する通常の噴霧乾燥機が使用できる。噴霧の形式により、ディスク式やノズル式などがあげられるが、いずれの方式も使用される。熱源としては、熱風や加熱水蒸気などが用いられる。
噴霧乾燥条件は、噴霧乾燥機の大きさや種類、エマルションの濃度、粘度、流量などによって適宜選択される。乾燥温度は80〜150℃が好ましく、100〜140℃がより好ましい。乾燥温度が下限値未満では充分に乾燥させることができず、上限値をこえると、熱により重合体の変質が発生する。
また、再分散性粉末は、貯蔵中に粉末同士が粘結して凝集しブロック化してしまうおそれがあるため、貯蔵安定性を向上するために、抗粘結剤を使用することが好ましい。抗粘結剤は、噴霧乾燥後のエマルション粉末に添加し均一に混合してもよいが、エマルションを噴霧乾燥する際に、エマルションを抗粘結剤の存在下に噴霧することが、均一な混合を行なうことができる点、粘結防止効果の点から好ましい。同時に両者を噴霧して乾燥することが特に好ましい。
抗粘結剤としては、微粒子の無機粉末が好ましく、炭酸カルシウム、クレー、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイトなどがあげられる。特に平均粒子径が約0.01〜0.5μmの無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウムなどが好ましい。抗粘結剤の使用量は特に限定されないが、粉末に対して2〜20重量%が好ましい。
かくして得られる本発明の水性エマルションは、従来の物性を損なうことなく、エマルション静置時の経時増粘を抑制することができるものである。その結果、保存期間の長さによる用途物性のばらつきを抑制することができるものである。
本発明の水性エマルションは、紙加工剤、接着剤、塗料、繊維加工剤、化粧品、土木建築原料、粘着剤(感圧接着剤)などとして有用である。
本発明の水性エマルションを接着剤組成物に用いる場合、接着剤組成物には、水性エマルション以外に、PVA系樹脂などの水溶性高分子、多価イソシアネート化合物などの架橋剤、耐水化剤、顔料、分散剤、消泡剤、油剤、粘性改質剤、粘着付与剤、増粘剤、保水剤などを含有させることができる。
前記接着剤組成物は、段ボール用、合紙用、紙管用、木材用、合板用、構造用単板積層材(LVL)用、パーティクルボード用、集成材用、ファイバーボード用などの接着剤として用いることができる。
これらの中でも、本発明の水性エマルションは、セメント・モルタル混和用途(セメント下地調整剤、無機仕上剤、モルタルシーラー・プライマーモルタル養生剤)等として非常に有用である。
セメントやモルタルの混和剤として用いる際には、たとえば、得られる硬化物の物性などを考慮すると、セメントやモルタル100重量部に対して、1〜30重量部添加することが好ましく、3〜30重量部がより好ましい。経済的な面も考慮すれば、5〜15重量部が好ましく、8〜12重量部がより好ましい。
水性エマルションのセメントやモルタルへの混和方法としては、あらかじめセメントやモルタルに混合(配合)しておく方法、あらかじめ水に混合(配合)しておく方法、セメントやモルタル、水、ならびに水性エマルションを同時に混合する方法などがあげられる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例、参考例、比較例中の「部」は、「重量部」をあらわす。
実施例、参考例および比較例で得られた各エマルションの評価を以下の要領で行い、その結果を表1および表2に示す。
<鉄分含有量の定量>
得られたエマルションを灰化した後、灰分を塩酸水溶液に加温下に溶解した溶液について原子吸光法によって定量した。
<エマルションの平均粒径の測定>
エマルションの平均粒径は、HORIBA製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−910を用い、Mie散乱理論に基づいて算出した。
<経時増粘倍率の算出>
水を加えるなどして固形分濃度を45%に調整した水性エマルションを200mlのガラス管にいれ、23℃で90日間保存し、12rpmのB型粘度計により、23℃の90日保存後の粘度(H3months)と放置前の23℃の粘度(H0day)を求める。これにより、経時増粘倍率H3months/H0dayを求めた。
<グラフト率測定>
得られた水性エマルションを用いて23℃で500μmのキャストフィルムを作製し、1週間静置した後、沸騰水中で24時間抽出を行い、その後、アセトンにて24時間ソックスレー抽出した場合の、抽出前の皮膜絶乾重量をW1(g)、抽出後の皮膜絶乾重量をW2(g)とし、下記式により求めた値をグラフト率とした。
グラフト率(重量%)=(W2)/(W1)×100
抽出後の皮膜絶乾重量(W2):抽出後のサンプルを105℃、3時間で絶乾させた重量。
抽出前の皮膜絶乾重量(W1):あらかじめ、抽出試験サンプルとは別のサンプルを105℃、3時間で絶乾させ、その揮発分割合から、抽出サンプルの皮膜絶乾重量を算出する。
<Em重合安定性>
上記重合において、重合缶へのスケーリングの有無を観察した。評価基準は以下のとおりである。
○・・・スケーリングが少ない
△・・・一部にスケーリングあり
×・・・スケーリングが多い
<モルタル混和試験>
JIS A 6203に準じてモルタル混和試験を行う。普通ポルトランドセメント500g、豊浦硅砂1500g、固形分45%のエマルション111gおよび、練り混ぜ水263gを、攪拌機を使用して1000rpmで3分間攪拌して、セメントモルタルを調製した。このセメントモルタルの流動性は、フローテーブルの上に設置した底辺直径100mmのフローコーンに上記セメントモルタルを詰め込み、フローコーンを抜き取った後、12mmの落下衝撃を15回与えてモルタルセメントの広がり直径を測定した。これをフロー値(F)として評価した。
<モルタル接着強さ>
JIS A 6203に準じてモルタルの接着強さ試験を行い、下記の基準で評価した。供試体の作製;モルタル基板(70×70×20mm/JIS R 5201準拠)をJIS R 6252に規定の150番研磨紙を用いて研磨した。この基板上に型枠を用いて各テストモルタルを40×40×10mmとなるように充填し、成型・養生して供試体を作製した。
養生条件;成型後、温度20±2℃、相対湿度90%以上で48時間経過した後、脱型してから温度20±2℃の水中で5日間養生し、さらに温度20±2℃、相対湿度60±10%で21日間養生した。
◎・・・接着強度1.5 N/mm2以上
○・・・接着強度1.0 N/mm2以上、1.5 N/mm2未満
△・・・接着強度0.8 N/mm2以上、1.0 N/mm2未満
×・・・接着強度0.8 N/mm2未満
<物性のばらつき評価:保存期間によるフローのばらつき>
水を加え固形分濃度を45%に調整した水性エマルションを、23℃で90日間保存し、前後でモルタル混和試験を行い、保存前のフロー値(F0day)と保存後のフロー値(F3months)を測定した。これより、ばらつき値(F0day−F3months)を算出し、物性安定性の指標とした。
○・・・ばらつき値が10以下
△・・・ばらつき値が10を超え30未満
×・・・ばらつき値が30以上
実施例1
攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに水403g、アセトアセチル基変性PVA(A−1)(ケン化度97.0モル%、重合度300、アセトアセチル化度0.5モル%、1,2−グリコール結合量1.6モル%、AA化度分布1.4、ブロックキャラクター0.43)を18.4g、アリルスルホン酸変性PVA(B−1)(ケン化度99.0モル%,重合度300、スルホン酸基変性量3.0モル%、1,2−グリコール結合量1.6モル%)4.6g、pH調整剤として酢酸ナトリウム1.2g、酸性亜硫酸ナトリウム0.7gを仕込み、85℃で1時間、加熱攪拌(攪拌速度は230rpm)を行い、PVAを溶解させた。PVA水溶液が83℃で安定したのを確認して、重合モノマー(メタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル/アセト酢酸モノマー=45/55/0.5(重量比))を32.5g一括投入し、5分間かけて充分に攪拌した後、5%の過硫酸アンモニウム水溶液を5.3g一括投入し、初期重合を開始した。初期重合は45分間行い、その後、82〜83℃で残りの重合モノマー293gを3.5時間かけて滴下し、さらに、5%の過硫酸アンモニウム水溶液10.7gを30分間おきに7回に分けて添加し、重合を行った。5%の過硫酸アンモニウム水溶液1.8gを2回に分けて添加し、82℃で90分間後期重合を行った後、冷却して消泡剤ルミテンEL(クラリアント製)11.6gを添加し、固形分45%のメタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合体のエマルションを得た(鉄含有量43ppm)。
参考例1
実施例1において、アセトアセチル基変性PVA(A−1)に変えて、未変性PVA(A−2)(ケン化度98モル%、重合度300、1,2−グリコール結合量1.7モル%)を用いた以外は同様に行って、固形分45%のメタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合体のエマルションを得た。
実施例
実施例1において、アセトアセチル基変性PVA(A−1)の仕込み量を13.8gに変え、アリルスルホン酸変性PVA(B−1)の仕込み量を9.2gに変えた以外は同様に行って、固形分45%のメタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合体のエマルションを得た。
実施例
実施例1において、メタクリル酸メチルモノマーに変えて、スチレンモノマーを用いた以外は同様に行って、固形分45%のスチレン/アクリル酸n−ブチル共重合体のエマルションを得た。
比較例1
実施例1において、アセトアセチル基変性PVA(A−1)の仕込み量を23gに変え、アリルスルホン酸変性PVA(B−1)を仕込まなかった以外は同様に行って、固形分45%のメタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合体のエマルションを得た。
比較例2
実施例1において、アリルスルホン酸変性PVA(B−1)の仕込み量を23gに変え、アセトアセチル基変性PVA(A−1)を仕込まなかった以外は同様に行って、固形分45%のメタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合体のエマルションを得た。
比較例3
実施例1において、アセトアセチル基変性PVA(A−1)を、ケン化度98モル%、重合度300の未変性PVA(A−2)に変え、その仕込み量を23gに変え、アリルスルホン酸変性PVA(B−1)を仕込まなかった以外は同様に行って、固形分45%のメタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合体のエマルションを得た。
比較例4
実施例1において、アセトアセチル基変性PVA(A−1)を、ケン化度88モル%、重合度300の未変性PVAに変え、その仕込み量を23gに変え、アリルスルホン酸変性PVA(B−1)を仕込まなかった以外は同様に行ったが、エマルションが得られなかった。
比較例5
実施例1において、アセトアセチル基変性PVA(A−1)に変えて、ケン化度88モル%、重合度300の未変性PVAを用いた以外は同様に行ったが、エマルションが得られなかった。
Figure 0005036325
Figure 0005036325
本発明の水性エマルションは、優れた保護コロイド力と、良好な静置保存時の粘度安定性を有するものであり、紙加工剤、接着剤、塗料、繊維加工剤、化粧品、土木建築原料、粘着剤(感圧接着剤)などとして有用であるが、中でも、優れた混和モルタルの強度や混和モルタルの流動物性が保管期間に関係なく安定して得られるため、各種セメントモルタル混和用水性エマルションとして非常に有用である。

Claims (10)

  1. (メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体およびジエン系単量体からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の単量体を主成分とする重合体が、(A)ケン化度90モル%以上のアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂および(B)アニオン系ポリビニルアルコール系樹脂により分散されてなり、アニオン系ポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量が、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して、20〜70重量部であることを特徴とする水性エマルション。
  2. アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)アセトアセチル化度が0.01〜3.0モル%であることを特徴とする請求項に記載の水性エマルション。
  3. アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)のブロックキャラクター[η]が、0.3〜0.8であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性エマルジョン。
  4. アニオン系ポリビニルアルコール系樹脂(B)が、スルホン酸基含有ポリビニルアルコール系樹脂であり、スルホン酸基変性量が0.01〜5.0モル%であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の水性エマルション。
  5. アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)およびアニオン系ポリビニルアルコール系樹脂(B)のケン化度が95モル%以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の水性エマルション。
  6. 重合体粒子の平均粒径が0.01〜5μmであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の水性エマルション。
  7. 鉄化合物を1〜1000ppm含む請求項1〜のいずれかに記載の水性エマルション。
  8. アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)およびアニオン系ポリビニルアルコール系樹脂(B)の重合度が、50〜2000であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の水性エマルション。
  9. 23℃におけるエマルション粘度H0dayと、23℃で3ヵ月放置後のエマルション粘度H3monthsの比H3months/H0dayが、10以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の水性エマルション。
  10. 請求項1〜のいずれかに記載の水性エマルションからなるモルタル混和用水性エマルション。
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