JP5020125B2 - 積層板の製造法 - Google Patents

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Description

本発明は、熱伝導性の良い積層板の製造法に関する。この積層板は、発熱部品を実装する配線板の絶縁層として好適である。
近年、各種電気・電子機および器の高性能化・小型化に伴い、プリプレグを1枚または複数枚重ねて形成した層を加熱加圧成形した積層板に様々な特性が求められている。特に、積層板が配線板の絶縁層として、パソコンなどの高密度実装機器、自動車のエンジンルーム等に用いられる場合は、実装部品あるいは周辺部品の発熱により絶縁層が高温状態に晒されるため、絶縁層を構成する熱硬化性樹脂が劣化しやすい。また、絶縁層に熱が滞留すると、実装部品の機能が低下する。
そのような現状において、積層板(絶縁層)の熱伝導性を向上させるために、熱硬化性樹脂に無機充填材を添加することが広く行われている。その一方で、例えば、特許文献1に示すように、液晶性を示す熱硬化性樹脂に磁場を印加した状態で硬化させ、熱伝導性を向上させた樹脂成形体が提案されている。しかし、前記の樹脂成形体は、熱硬化性樹脂に磁場を印加することにより分子鎖を一方向に配向させるものであり、3次元方向に等方的に高い熱伝導性が得られないという問題がある。
また、熱硬化性樹脂として、特許文献2に示すように、液晶性を示し、かつ、高い熱伝導性が得られるエポキシ樹脂硬化物が提案されている。しかし、このエポキシ樹脂は、その溶融から硬化までの成形過程において、液晶を示さない温度範囲が存在することから、常に液晶性を示すとはいえず、所望の熱伝導性を安定して得られない。
このことは、シート状繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸し、これを加熱乾燥して製造したプリプレグを用いた積層板の製造において、液晶性を示す熱硬化性樹脂を選択する場合も同様である。
特開2004−259949号公報 特開2005−206814号公報
本発明が解決しようとする課題は、大電流・発熱部品の搭載に対応し、放熱性が求められる配線板に好適な絶縁層としての積層板を製造することであり、3次元方向に等方的に高い熱伝導性を有する積層板を製造することである。本発明は、シート状繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸し、これを加熱乾燥して製造したプリプレグを用いた積層板の製造において、前記プリプレグの乾燥条件および前記積層板の成形条件が硬化後の樹脂の液晶性や熱伝導性に影響を及ぼすとの新しい知見に基づくものである。
上記課題を解決するために、本発明に係る方法は、以下のように積層板を製造する。すなわち、シート状繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸し、これを加熱乾燥してプリプレグを製造し、このプリプレグを1枚または複数枚重ねて形成した層を加熱加圧成形して積層板を製造する方法において、前記熱硬化性樹脂は液晶性を示す樹脂を主剤とする。また、前記加熱乾燥はプリプレグ中の樹脂が液晶相を発現するように実施する。さらに、前記加熱加圧成形は前記プリプレグ中の樹脂が液晶相を維持したまま硬化するように実施する(請求項1)。本発明のように、プリプレグ中の樹脂が液晶相を発現するように液晶性樹脂を含浸したシート状繊維基材を加熱乾燥し、積層板の成形工程においても液晶相を維持するようにプリプレグを1枚または複数枚重ねて形成した層を加熱加圧すると、熱硬化性樹脂の硬化後において良好な液晶を発現することができるため、積層板の熱伝導性を向上させることができる。
好ましくは、前記液晶相はスメクチック相である(請求項2)。スメクチック相は、液晶相の中で最も規則性の高い配向性を持つため、熱硬化性樹脂では最も高い熱伝導性を有する。
また、前記加熱乾燥および前記加熱加圧成形は、熱履歴を制御するように実施する(請求項3)。本願において熱履歴は、加熱乾燥工程では乾燥温度および乾燥時間を示し、加熱加圧成形工程では昇温速度(1分あたりの上昇温度)および到達温度(熱硬化性樹脂が硬化する温度)を示す。例えば、加熱乾燥を実施する場合は、120℃〜140℃で4〜12分間加熱する条件下で熱履歴を制御するのが好ましい。また、加熱加圧成形を実施する場合は、昇温速度3〜10℃/分で硬化温度まで加熱する条件下で熱履歴を制御するのが好ましい。このように加熱乾燥工程および加熱加圧成形工程で熱履歴を制御すると、熱硬化性樹脂の硬化後の液晶相を熱伝導性が良好なスメクチック相にすることができる。なお、加熱温度を120〜140℃とすると、硬化反応を制御しやすく好ましい。
さらに好ましくは、前記液晶を示す樹脂として、(式1)で示す分子構造のエポキシ樹脂を用いる(請求項4)。
式中、Ar1、Ar2およびAr3は同一であっても相異なっていてもよく、下記のいずれかで示される構造をとる。ここで、Rは水素原子、またはアルキル基(炭素数が4以下の脂肪族炭化水素)から選ばれる。a〜hは、それぞれ置換可能な数に応じ8以下の整数を表す。また、Rは全てが同一であっても異なっていてもよく、あるいは一部が同一であってもよい。
上述の製造法において、積層板の少なくとも片面に金属箔を一体化することができる(請求項5)。積層板に設けられた金属箔をエッチング加工することにより、プリント配線板を製造することができる。
本発明に係る方法は、まず、プリプレグ中の樹脂が液晶相を発現するようにしておき、このプリプレグを1枚または複数枚重ねて形成した層を加熱加圧する積層板(絶縁層)の成形工程においても前記液晶相を維持することにより、熱硬化性樹脂の硬化後において良好に液晶を発現させることができる。このことが、積層板の熱伝導性を向上させることにつながる。また、本発明に係る方法によれば、ミクロ的に分子鎖を配列させて配向性を向上させた領域が、マクロ的にはランダムに配置されているため、3次元方向に等方的に高い熱伝導性を有することができる。
本発明に係る方法により製造された積層板は、面方向および厚み方向ともに優れた熱伝導性を有するようにでき、当該積層板は配線板の絶縁層として好適に用いることができる。
一般に、積層板は、熱硬化性樹脂ワニスをシート状繊維基材に含浸し、これを加熱乾燥してプリプレグを製造し、このプリプレグを1枚または複数枚重ねて形成した層を加熱加圧成形して製造される。このとき、熱硬化性樹脂は、加熱乾燥工程における乾燥温度および乾燥時間と、加熱加圧成形工程における昇温の熱履歴を経て、3次元的に反応が進むとゲル化し、さらには硬化する。樹脂の液晶相への相転移はいわゆる分子運動であるので、3次元的に反応が進むゲル化以降は分子運動ができなくなり、液晶相への相転移は起こらない。このため、加熱乾燥工程における乾燥温度および乾燥時間と加熱加圧成形工程における昇温の制御が分子鎖の配向に影響を与える。本発明に係る製造法は、前記の熱履歴を制御することで、液晶相の発現・維持を可能にすることができる。
前記液晶相が発現したとき、熱硬化性樹脂の分子鎖は、液晶相が発現していない従来の熱硬化性樹脂と比較して規則性が高くなる。一般に、絶縁体であるセラミックや熱硬化性樹脂などは、分子の振動に起因するフォノンを媒体として熱を伝導する。分子鎖の規則性が低い樹脂材料では、フォノンは分散し放熱性が低くなる。一方、液晶相は分子鎖が1次元あるいは2次元的に配向した状態にあり、熱硬化性樹脂が液晶相を発現したとき、分子鎖の規則性が高くなり、フォノンの分散が抑制できるようになるため、熱伝導性は向上する。また、液晶相はミクロ的には1次元あるいは2次元的に配向しているが、マクロ的には液晶相領域がランダムに配置するため、熱硬化性樹脂の硬化物では等方的に高い熱伝導性を有する。
この高い規則性を有する液晶相を発現する液晶性分子は、大別してサーモトロピック液晶とリオトロピック液晶に分類することができ、前者は熱により液晶相が変化する液晶分子、後者は濃度により液晶相が変化する液晶分子である。本発明に係る液晶相は、前者のサーモトロピック液晶である。サーモトロピック液晶における液晶相の形態としては、ネマチック相、スメクチック相、コレステリック相、ディスコチック相などがあり、これらは分子の配向の形態により分類される。その中でも、スメクチック相は、前記の各相の中で最も規則性が高く、フォノンの分散が抑制されることから、熱伝導性を一層向上することができるので好ましい。
熱硬化性樹脂と硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物をシート状繊維基材に含浸し、加熱乾燥して半硬化状態とするプリプレグの製造において、特定の乾燥条件で加熱溶融した樹脂を冷却すると、熱硬化性樹脂がもつ自己配列性により、分子鎖が規則的に配列し、液晶相が発現する。
上記の方法により液晶相を発現したプリプレグの液晶相を、相転移させることなく加熱加圧成形して、液晶を示す積層板(絶縁層)を得る。このようにして得られた積層板(絶縁層)を構成する樹脂は規則性の高い液晶性を有しており、熱伝導率は高くなる。
前記液晶相の発現は、次のように確認することができる。前記液晶相は固相と液相の中間の性質を示し、固相と液相の中間の温度領域で発現する。この相転移にはエネルギーの移動が伴うため、示差走査熱量測定(DSC)法により昇温時には吸熱ピークを確認することができる。また、試料の温度を変化させながら、偏光顕微鏡を用いて直交ニコル下で観察することにより、各温度での相状態を確認することができる。上記2つの方法を組み合わせることで、液晶性を示す熱硬化性樹脂の相状態を確認することができる。
例えば、DSC法により昇温させた試料は、相転移の温度において吸熱ピークがみられる。この吸熱ピークは、溶融に起因する場合、および、液晶相への相転移に起因する場合がある。一方、試料の温度を変化させながら、偏光顕微鏡を用いて直交ニコル下で観察を行うと、以下のような手順でDSC測定のピーク温度がどういう相転移に起因するものであるか、確認することができる。液晶相が発現しないときは偏向子を直交にした時、光源の光は透過しないため、像は観察できない。しかし、液晶相が発現すると、光源の光は位相が変わり、偏光解消となり観察することができる。これにより、DSC法により得られた吸熱ピークに相当する温度が、溶融に起因する場合であるか、液晶相への相転移に起因する場合であるかを確認することができる。
本発明において、熱硬化性樹脂の主剤自体が、上記の方法で確認することができる液晶を有することが重要である。熱硬化性樹脂の主剤自体が液晶を示さない樹脂では、プリプレグの製造過程で液晶相を発現させることが難しい。このため、積層板の製造過程で液晶相を発現させようとすると、製造条件が大きく制限されることになる。なお、液晶相の発現温度が硬化温度を超えた場合、液晶相を形成する前に硬化するため、液晶相の発現温度は硬化温度以下であることが好ましい。
このような熱硬化性樹脂として、例えば、既述の分子構造式(式1)で示す分子構造のエポキシ樹脂があげられる。
例えば、1−(3−メチル−4−オキシラニルメトキシフェニル)−4−(4−オキシラニルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセンでは、75℃でスメクチック相に転移し、125℃で等方相になり溶融する。
次に、熱硬化性樹脂組成物として液晶を有する樹脂について説明する。熱硬化性樹脂組成物においては、主剤および硬化剤を配合して、不可逆的に反応を進めることにより3次元の架橋構造を形成させる。この時、液晶性を示す熱硬化性樹脂と硬化剤からなる熱硬化性樹脂組成物は硬化の進行に応じて、分子鎖の配向状態およびそれによる相状態は刻々と変化する。このため、液晶性を有する熱硬化性樹脂の主剤および硬化剤などからなる熱硬化性樹脂組成物の相状態を反応の進行と合わせて把握することが重要となる。DSC法により相転移温度を調べ、併せて偏光顕微鏡により液晶相を観察するという2つの手法を組み合わせる方法は液晶性を示す熱硬化性樹脂組成物の相状態を明確にすることができ、非常に有用な方法である。
液晶相を発現するエポキシ樹脂の主剤に配合する硬化剤としては、所望の液晶を発現する範囲で、1,5−ジアミノナフタレン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエタンなどのアミン系硬化剤や、レゾールシノールノボラック、カテコールノボラックなどのノボラック系硬化剤を使用することができる。この時の、熱硬化性樹脂の主剤に対する硬化剤の配合量は、主剤の反応基1当量に対して、0.05〜3当量、好ましくは0.5〜1.5当量である。
熱硬化性樹脂と硬化剤を配合した熱硬化性樹脂組成物には、無機充填材を添加してもよい。無機充填材の熱伝導率を20W/m・K以上とすることにより、絶縁層の熱伝導性がさらに向上するので好ましい。前記熱伝導率20W/m・K以上の無機充填材としては、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ等が挙げられる。これら無機充填材は2種類以上を併用してもよい。また、無機充填材の配合量を、熱硬化性樹脂固形分と無機充填材を合わせた体積中に20体積%以上とすることにより、絶縁層の熱伝導性がさらに向上するので好ましい。
また、熱硬化性樹脂組成物には、所望の特性を発現できる範囲で、硬化促進剤や難燃剤、希釈剤、可塑剤、カップリング剤、増粘剤等を含むことができる。
上記の熱硬化性樹脂組成物は、まず、溶剤に溶解ないし均一分散されたワニスとする。このワニスを、ガラス繊維や有機繊維で構成されたシート状繊維基材(織布や不織布)に含浸して加熱乾燥することでプリプレグが得られる。本発明に係る製造法は、前記プリプレグの乾燥条件が液晶相を発現する条件とする。
プリプレグが液晶相を発現する乾燥条件は、具体的には、次のようにして設定する。減圧条件下、80℃程度の温度で、熱硬化性樹脂ワニスの溶剤を除去して樹脂固形物とする。この樹脂固形物を所定温度のホットプレート上で所定時間加熱し、半硬化状態とした樹脂硬化物とする。この半硬化状態とした樹脂硬化物を偏光顕微鏡で観察する。半硬化状態とした樹脂硬化物が液晶を示さないときは、偏光解消は起こらず、直交ニコル下で像は観察できない。しかし、前記半硬化状態とした樹脂硬化物が液晶を示すときは、偏光解消により像として観察することができる。このときの加熱温度は、熱硬化性樹脂組成物の融点〜180℃の範囲が好ましい。加熱温度が融点より低い温度では樹脂が十分溶融しない、あるいは反応が著しく遅いため、所望の反応を進めるために時間を要する。また、180℃より高い温度では溶融後、反応が著しく速いため、半硬化状態の調整が難しい。加熱温度を120〜140℃とすると、硬化反応を制御しやすく、さらに好ましい。このようにして、液晶相が発現し、かつ、加熱加圧成形時に所望の樹脂流れが得られる加熱条件(温度、時間)を適宜設定する。ここで、前記と同様の熱履歴を経て製造したプリプレグは液晶相を発現する。
次に、前記プリプレグを1枚または複数枚重ねて形成した層を用いて加熱加圧成形することで積層板(絶縁層)を得る。本発明に係る製造法は、前記積層板の成形条件が、プリプレグの液晶相を維持する条件とする。すなわち、プリプレグの液晶相を等方相に相転移させずに積層板を製造する成形条件である。
積層板が液晶相を維持する成形条件は、次のようにして設定する。前述の半硬化状態とした樹脂硬化物を前述のDSC法と偏光顕微鏡を用いた直交ニコル下での観察により確認する。具体的には、半硬化状態とした樹脂硬化物をDSC法で測定する。半硬化状態が充分で、完全硬化したときでもスメクチック相を維持するときには、相転移を示す吸熱ピークは非常に小さくなるか殆ど見られなくなる。一方、半硬化状態が充分ではないときには、主剤の場合と同様に、スメクチック相から等方相への相転移が起こった後、完全硬化する。このとき、主剤の場合と同様に、偏光顕微鏡を用いた直交ニコル下での観察を行うことにより、相転移の有無を確認することができる。このようにして、液晶相を維持し、かつ、加熱加圧成形時に所望の樹脂流れが得られる加熱条件(加熱温度と昇温速度)を適宜設定する。ここで、前記と同様の熱履歴を経て製造した積層板は液晶相を発現する。
なお、積層板など複合材料の液晶相の有無は、X線回折測定により確認することができる。具体的には、X線回折を反射モードで行ったとき、液晶相を有する積層板では、回折角2θ=3°に液晶相の配向に起因するピークを確認できる。また、このピークはスメクチック相ではネマチック相より鋭く現れるため、液晶相の種類についても確認することができる。
プリプレグを1枚または複数枚重ねて形成した層を加熱加圧成形して絶縁層とする際に、金属箔をプリプレグの層に重ねて成形し一体に接着することができる。
以下、本発明に係る実施例を示し、本発明について詳細に説明する。尚、以下の実施例および比較例において、「部」とは「質量部」を意味する。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、本実施例に限定されるものではない。
実施例1
エポキシ樹脂の主剤として、1−(3−メチル−4−オキシラニルメトキシフェニル)−4−(4−オキシラニルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセン(エポキシ当量201)を用意した。このエポキシ樹脂は、特許文献2の段落番号[0059]〜[0060]に記載された方法により製造することができる。
上記のエポキシ樹脂についてDSC測定(示差走査熱量測定)を行った。また、偏光顕微鏡を用いて液晶相の観察を行った。測定条件は、以下に示すとおりである。
DSC測定:TA Instrment製DSC4100を使用し測定した。昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下で行った。
偏光顕微鏡観察:Nikon製OPTIPHOT2−POLを使用し観察した。なお、温度はMETTLER TOLEDO製ホットステージ(FP82HT)および同社製ホットステージコントローラ(FP90)によりコントロールした。
上記のDSC測定では、75℃および125℃付近で吸熱ピークを確認することができた。また、偏光顕微鏡観察では、これに対応する75℃から125℃の範囲でスメクチック相に特徴的にみられるフォーカルコニック組織を観察することができた(図1(a))。これらの結果から、上記のエポキシ樹脂が液晶性を示す樹脂であることが確認できた。
上記のエポキシ樹脂100部を、メチルイソブチルケトン(和光純薬製)100部に100℃で溶解させた。次に、硬化剤として1,5−ジアミノナフタレン(和光純薬製「1,5−DAN」、アミン当量40)を20部用意した。これを上記のエポキシ樹脂溶液に混合・溶解させた後、室温に戻し、エポキシ樹脂ワニスを調製した。
上記のエポキシ樹脂ワニスを、減圧条件下、80℃で乾燥し溶剤を除去して樹脂固形物を得た。この樹脂固形物について、DSC測定と偏光顕微鏡観察を行った。DSC測定では、94℃および118℃付近で吸熱ピークを確認することができた。また、偏光顕微鏡観察では、これに対応する94℃から118℃の範囲でスメクチック相に特徴的にみられるフォーカルコニック組織を観察することができた。加熱温度が120℃より低いと硬化反応が非常に遅く、140℃を超えると硬化反応が速く半硬化状態の調整が難しいことから、加熱温度は120℃〜140℃の範囲を選択した。
上記の樹脂固形物を130℃のホットプレート上で8分間加熱し、半硬化状態とした樹脂硬化物を得た。この半硬化状態とした樹脂硬化物について偏光顕微鏡観察を行った結果、フォーカルコニック組織を観察することができ、スメクチック相を発現していることを確認した(図1(b))。また、前記半硬化状態とした樹脂硬化物を昇温速度5℃/分で205℃まで加熱し硬化させた。この硬化物について偏光顕微鏡観察を行った結果、フォーカルコニック組織を観察することができ、スメクチック相を維持した硬化物であることを確認した(図1(c))。
以上の結果から、前述のエポキシ樹脂ワニスを、厚さ0.1mmのガラス繊維織布基材に含浸した後、130℃で8分間加熱乾燥して、半硬化状態のプリプレグを得た。このプリプレグ8枚とその両側に35μm銅箔(福田金属製、CF−T9C)を配置し、温度205℃、圧力4MPaの条件で90分間加熱加圧成形して一体化し、厚さ0.8mmの金属箔張り積層板を得た。このとき、加熱時の昇温速度は5℃/分で行った。
実施例1で得た金属箔張り積層板をエッチングにより銅箔を除去した試料について厚さ方向の熱伝導率を測定した結果を、プリプレグならびに積層板の製造条件と共に表1にまとめて示す。測定方法は、以下に示すとおりである。この積層板の厚さ方向の熱伝導率は0.40W/m・Kと良好であった。
熱伝導率測定:ASTM E1461に準拠したXeフラッシュ法により測定した。なお、測定装置は、NETZSCH製nanoflash LFA447型を使用した。
実施例2〜6
実施例1において、樹脂固形物を半硬化状態とする加熱条件および/または半硬化状態とした樹脂硬化物を硬化させる昇温速度を、それぞれ表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして半硬化状態とした樹脂硬化物および硬化物を得た。これらの半硬化状態とした樹脂硬化物について偏光顕微鏡観察を行った結果、フォーカルコニック組織を観察することができ、スメクチック相を発現していることを確認した。また、硬化物について偏光顕微鏡観察を行った結果、フォーカルコニック組織を観察することができ、スメクチック相を維持した硬化物であることを確認した(図1(c)と類似)。
以上の結果から、実施例1において、プリプレグの乾燥条件および積層板の成形条件を、それぞれ表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび金属箔張り積層板を得た。
これらの積層板の厚さ方向の熱伝導率は、実施例1と同等の値であった。
実施例7
実施例1において、樹脂固形物の加熱条件を130℃で4分間とする以外は、実施例1と同様にして半硬化状態とした樹脂硬化物を得た。この半硬化状態とした樹脂硬化物について偏光顕微鏡観察を行った結果、フォーカルコニック組織を観察することができ、スメクチック相を発現していることを確認した。また、前記半硬化状態とした樹脂硬化物を昇温速度5℃/分で205℃まで加熱し硬化させた。この硬化物について偏光顕微鏡観察を行った結果、ネマチック相を示す砂状組織となり、スメクチック相は確認できなかった(図1(d))。
以上の結果から、実施例1において、プリプレグの乾燥条件を130℃で4分間とする以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび金属箔張り積層板を得た。
この積層板の厚さ方向の熱伝導率は0.28W/m・Kであり、実施例1より若干低下したものの良好な値であった。
比較例1
実施例7において、半硬化状態とした樹脂硬化物を昇温速度20℃/分で205℃まで加熱し硬化させた。この硬化物について偏光顕微鏡観察を行った結果、液晶相は確認できなかった(図1(e))。
以上の結果から、実施例7において、積層板の成形条件において、加熱時の昇温速度を20℃/分とする以外は、実施例7と同様にしてプリプレグおよび金属箔張り積層板を作製した。
この積層板の厚さ方向の熱伝導率は0.19W/m・Kと実施例7より大幅に悪化した。
比較例2
実施例1において、エポキシ樹脂としてビフェニル骨格を持つエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製「YL6121H」、エポキシ当量175)を用いる以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび金属箔張り積層板を得た。
上記エポキシ樹脂について偏光顕微鏡観察を行った結果、偏光解消を確認することができず、液晶性を示さない樹脂であることが確認できた。積層板作製と同条件で硬化させた硬化物についてはネマチック相を示すことが確認できたが、この積層板の厚さ方向の熱伝導率は0.27W/m・Kであった。
比較例3
実施例1において、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製「Ep828」、エポキシ当量185)を用いる以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび金属箔張り積層板を得た。
上記エポキシ樹脂について偏光顕微鏡観察を行った結果、偏光解消を確認することができず、液晶性を示さない樹脂であることが確認できた。同様に、半硬化状態とした樹脂硬化物および積層板作製と同条件で硬化させた硬化物についても、スメクチック相を確認することができなかった。
この積層板の厚さ方向の熱伝導率は0.17W/m・Kと低い値となった。
実施例8
実施例1において、エポキシ樹脂ワニスに無機充填材としてアルミナ(住友化学製、「AA−3」、平均粒径3μm、熱伝導率30W/m・K)を800部(熱硬化性樹脂固形分と無機充填材を合わせた体積中の70体積%に相当)加えてボールミルで混練することによりエポキシ樹脂ワニスを調製する以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび金属箔張り積層板を得た。
この積層板の厚さ方向の熱伝導率は6.0W/m・Kであった。
実施例9
実施例2において、エポキシ樹脂ワニスに無機充填材としてアルミナ(住友化学製、「AA−3」、平均粒径3μm、熱伝導率30W/m・K)を800部(熱硬化性樹脂固形分と無機充填材を合わせた体積中の70体積%に相当)加えてボールミルで混練することによりエポキシ樹脂ワニスを調製する以外は実施例2と同様にしてプリプレグおよび金属箔張り積層板を得た。
この積層板の厚さ方向の熱伝導率は5.8W/m・Kであった。
実施例10
実施例7において、エポキシ樹脂ワニスに無機充填材としてアルミナ(住友化学製、「AA−3」、平均粒径3μm、熱伝導率30W/m・K)を800部(熱硬化性樹脂固形分と無機充填材を合わせた体積中の70体積%に相当)加えてボールミルで混練することによりエポキシ樹脂ワニスを調製する以外は実施例7と同様にしてプリプレグおよび金属箔張り積層板を得た。
この積層板の厚さ方向の熱伝導率は4.6W/m・Kであり、実施例8より若干低下したものの良好な値であった。
比較例4
比較例3において、エポキシ樹脂ワニスに無機充填材としてアルミナ(住友化学製、「AA−3」、平均粒径3μm、熱伝導率30W/m・K)を800部(熱硬化性樹脂固形分と無機充填材を合わせた体積中の70体積%に相当)加えてボールミルで混練することによりエポキシ樹脂ワニスを調製する以外は比較例3と同様にしてプリプレグおよび金属箔張り積層板を得た。
この積層板の厚さ方向の熱伝導率は3.3W/m・Kであり、実施例10より大きく悪化した。
実施例2〜10、比較例1〜4の金属箔張り積層板についても、実施例1と同様に特性を測定し、結果を表1〜2に示した。なお、表中記載の「S」はスメクチック相を確認したこと、「N」はネマチック相を確認したこと、「無」は液晶相が確認できなかったことをそれぞれ示す。
偏光顕微鏡観察の写真を示したものである。(a)は実施例1のエポキシ樹脂においてスメクチック相が確認できたときの写真であり、(b)は実施例1の半硬化状態とした樹脂硬化物においてスメクチック相が確認できたときの写真であり、(c)は上記(b)の半硬化状態とした樹脂硬化物をさらに硬化させた硬化物においてスメクチック相が確認できたときの写真であり、(d)は実施例7の半硬化状態とした樹脂硬化物をさらに硬化させた硬化物においてネマチック相が確認されたときの写真であり、(e)は比較例1の半硬化状態とした樹脂硬化物をさらに硬化させた硬化物において等方相が確認されたときの写真である。

Claims (6)

  1. シート状繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸し、これを加熱乾燥してプリプレグを製造し、このプリプレグを1枚または複数枚重ねて形成した層を加熱加圧成形して積層板を製造する方法において、
    前記熱硬化性樹脂は、液晶性を示す樹脂、すなわち、示差走査熱量測定による当該樹脂の昇温時における吸熱ピークを確認しておき、温度を変化させながら偏光顕微鏡を用いて直交ニコル下で観察を行ったときに前記吸熱ピークに相当する温度にて偏光解消を確認できる樹脂を主剤とし、
    前記加熱乾燥は、プリプレグ中の樹脂が液晶相を発現するように実施し、
    前記加熱加圧成形は、前記プリプレグ中の樹脂が液晶相を維持したまま硬化するように実施することを特徴とする積層板の製造法。
  2. 前記液晶相が、スメクチック相であることを特徴とする請求項1に記載の積層板の製造法。
  3. 前記加熱乾燥および前記加熱加圧成形は、熱履歴を制御するように実施することを特徴とする請求項1または2に記載の積層板の製造法。
  4. 前記液晶を示す樹脂が、(式1)で示す分子構造のエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層板の製造法。
    式中、Ar1、Ar2およびAr3は同一であっても相異なっていてもよく、下記のいずれかで示される構造をとる。ここで、Rは水素原子、またはアルキル基(炭素数が4以下の脂肪族炭化水素)から選ばれる。a〜hは、それぞれ置換可能な数に応じ8以下の整数を表す。また、Rは全てが同一であっても異なっていてもよく、あるいは一部が同一であってもよい。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造法において、前記積層板の少なくとも片面に金属箔を一体化することを特徴とする積層板の製造法。
  6. 120℃〜140℃で4〜12分加熱する条件下で熱履歴を制御して前記加熱乾燥を実施し、
    昇温速度3〜10℃/分で前記熱硬化性樹脂の硬化温度まで加熱する条件下で熱履歴を制御して前記加熱加圧成形を実施することを特徴とする請求項1,4または5に記載の積層板の製造法。
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