高速道路をはじめとする道路橋は、交通荷重の増加やスパイクタイヤの使用規制に伴う路面凍結防止剤の散布、気象変化によって、通常の道路に比べて早期に損傷、劣化が生じる傾向がある。これは前記道路橋を構成するコンクリート床版の早期劣化が原因である。コンクリート床版の早期劣化の主な理由としては、凍結防止剤の散布により、凍結防止剤の成分であるナトリウムやカルシウムの塩化物が、雨水と共にアスファルト層とコンクリート床版(以下、単に「床版」ということもある。)に発生したひび割れを通じて浸透することによって内部の鉄筋が腐食することや、雨水と交通荷重の繰り返しによる砂利化現象が挙げられる。従って、床版の高寿命化、即ち、床版の疲労耐久性を確保するために、床版に水の浸入を防ぐ目的で床版とアスファルト層の間に防水層を施工することが求められている。
昭和62年に「道路橋鉄筋コンクリート床版防水層設計・施工資料」が発刊されて以降、防水施工数は増加し、近年では、過去に防水施工された既設道路橋の舗装補修工事も増加している。新設の道路橋、又は既設の道路橋に防水層を新規に施工するための高性能床版防水システムについては、例えば特許文献1のようなシステムが開発されている。既設道路橋の舗装補修工程は以下に示す通りである。まず、路面切削機によって舗装層(アスファルト層)を当該アスファルト層下に敷設された防水シート等の防水層と共に切削する。次に、床版の不陸面における凹部に残存しているアスファルト層及び防水層をバックホウにより除去する。床版上のコンクリートや防水シート等の微細な小片やダストを除去してきれいな床版面を出す。前記床版と新規防水層を接着させるためにプライマー (床版接着剤) を前記床版上に塗布する。新規防水層を敷設する。最後にアスファルト層を積層する。上記の舗装補修工事において、床版の不陸凹部に残存するアスファルト層はバックホウにより除去可能であるが、防水層は、プライマーを介して粗面である床版面の細かな凹部にまで喰い込んで接着されているため、床版の削取り代を大きくしない限り、不陸凹部に残存する防水層を完全に除去することはできない。
上記の舗装補修工事において重要な点は、一点目は、床版強度の低下を防止するために削取り代を可能な限り最小限に抑えて床版を傷つけないことであり、二点目は、工期を極力短時間で終了させることである。この二点を大きく左右する工程が、床版の不陸凹部に残存する防水層を除去する工程である。
床版の不陸凹部に残存した防水層を除去する方法として、現状では人力、はつり、サンドブラスト、ウォータージェット等の工法が採用されている。しかし、いずれの方法も問題がある。はつりの場合は、残存防水層と共に床版も多く削り取られて欠損するために床版強度が低下する問題がある。反対に、床版の削取りり代無しに残存防水層のみを削り取ろうとすれば、残存防水層は完全には除去しきれない。また、サンドブラスト工法では粉塵の発生や、作業後に残ってしまうブラスト材の除去の問題がある。高速道路や自動車道での舗装補修工事では、車両の通行規制を早期に解除して交通渋滞を回避するために、工期を極力短くして迅速に完成させる必要があるが、人力では長時間を要する。ウォータージェット工法でも水を使用するために、床版表面や内部に浸透した水分を乾燥させるのに時間がかかる。更に、サンドブラスト工法、ウォータージェット工法の場合には、防水層の除去で発生したサンドブラスト材や汚水等の産業廃棄物の処理に多額の費用がかかり、環境面でも問題である。
既設道路橋の舗装補修工事において、補修後の新規防水層及び舗装層 (アスファルト層) の性能や強度を長期にわたって維持するために、既設の防水層を完全に床版面から除去し、微細な小片やダストも除去してきれいな床版面を出すことは不可欠な要件である。しかし、既設の防水層の除去が不完全で、当該防水層が残存している床版面上にプライマーを塗布すれば、前記防水層の残存部分では、前記プライマー中のアスファルト成分と、残存防水層の防水材中のアスファルト成分とが接触し、両者の間にカットバックが発生する可能性がある。カットバックとは、原油から精製分離された各成分が接触すると、安定な原油状態に戻ろうとして各成分が混ざり合うことをいい、カットバックが起こると本来の性質が失われて本来の性能が発揮されない。このため、前記防水層の残存部分にプライマーを塗布すると、局所的に接着効果の低いプライマー層が塗布されたことになる。更に、当該プライマー層の上に新規防水層が施工されると、前記プライマー層は局所的に残存防水層と新規防水層に挟まれるために、トルエンやキシレン等の溶剤が揮発しない。この結果、新規防水層の耐水性や耐久性、更には、新規防水層上に積層されたアスファルト層の強度にも悪影響を及ぼす可能性がある。従って、既設の防水層は完全に床版から除去される必要がある。また、コンクリートや防水層の小片等の異物が残存する床版上に防水層及び舗装層を施工すれば、ブリスタリングが発生して当該防水層、舗装層がふくれてしまう可能性があるため、異物やダスト等を除去してきれいな床版面を出すことも重要である。
以上のように、床版を削り取ることなく既設の防水層を短時間で完全に除去し、防水層やアスファルト層の疲労耐久性を確保しつつ既設道路橋の舗装を迅速に補修する方法は、強く求められているにもかかわらず今まで無かった。
特開2004−197355号公報
本発明は、コンクリート床版上に防水層を介してアスファルト層が一体積層された既設道路橋において、前記アスファルト層の補修の際に、前記床版面を殆ど削らずに削取り代を最小限に抑え、床版の不陸凹部に残存する防水層を完全に除去する方法を提供し、舗装補修工事を短時間で終了させることを課題としている。
上記の課題を解決するための請求項1の発明は、コンクリート床版上に防水層を介してアスファルト層が一体積層された既設道路橋において、前記アスファルト層を補修するために、当該アスファルト層及び防水層を削り取った後に、当該コンクリート床版の不陸凹部に散在している防水層の残存部分を除去する方法であって、前記床版を損傷させることなく、前記不陸凹部の残存防水層を予め削り取った後に、ドライアイスのペレット群の吹付け方向の前方に、通気フィルタを具備した捕捉ボックスを配置した状態で、作業者が噴射ガンを操作して、前記残存防水層の削残し部に対してドライアイスのペレット群を高圧ガスと共に高速で吹き付けて、当該削残し部を除去すると同時に、前記ドライアイスのペレット群の吹付け気流により除去され飛散した破片を前記捕捉ボックスに捕捉、収容することを特徴としている。
コンクリート床版の表面は、コンクリートの打ち放しであるために細かな凹凸構造を有する粗面となっていて、防水層を構成する防水シート或いは防水塗膜は、プライマーを介してコンクリート床版の粗面に強力に接着されている。また、コンクリート床版の表面は不陸が大きく、「不陸凹部(他の部分よりも低い窪みの部分)」が存在している。床版強度の低下を防止するために、可能な限り前記床版面を削らないように既設の防水層を削り取ると、前記床版の「不陸凹部」における前記防水層を削り取ることができず、前記不陸凹部には残存部分ができる。そして、床版を損傷させることなく、当該不陸凹部に残存している防水層を予め削り取ると、防水層の削残し部が残る。
上記のように、前記した防水層の削残し部は、コンクリートの打ち放しの粗面に接着されているが、ドライアイスのペレット群の吹付けによる洗浄方法によって、床版の不陸凹部における粗面から剥離、除去される。即ち、前記残存防水層の削残し部に向けて、ドライアイスのペレット群をキャリアガスである高圧ガス(圧縮空気)と共に吹き付けると、まず、各ペレットが高速で残存防水層の削残し部に衝突し、この衝撃力により当該残存防水層の削残し部には亀裂が入り、その一部が前記粗面から剥離する。また、前記ペレットは前記削残し部内にめり込み、剥離部分では残存防水層と粗面との界面に侵入する。次に、前記ペレット群は、−79℃のドライアイスであるため、前記削残し部における衝突箇所では温度が低下し、熱収縮が瞬時に発生する。前記衝突箇所周辺のコンクリート床版面も冷却されて熱収縮が起こる。残存防水層とコンクリート床版との熱収縮率の差によって、前記床版面と残存防水層の削残し部との界面における剥離が進行する。更に、前記ペレット群は残存防水層の削残し部に衝突すると瞬時に固体から気体に昇華し、一気に体積が約800倍に膨張するので爆発的な効果を及ぼす。この結果、残存防水層の削残し部と粗面との界面に侵入していたペレットが楔のように働き、ペレット群の爆発的な昇華と同時に、剥離の進んだ残存防水層の削残し部は前記ペレットにより持ち上げられ、引き剥がされるように破砕されて飛散し、コンクリート床版から完全に除去される。
前記残存防水層の削残し部の除去後は、直ちに従来の方法でコンクリート床版面にプライマーを塗布し、新規の防水層を敷設し、アスファルトフィニッシャーでアスファルトに骨材を混ぜたアスファルト混合物を高温状態で敷き均し、ローラーで転圧を行い、アスファルト層を新規防水層上に積層していく。
請求項1の発明によれば、ドライアイスのペレット群を吹き付けることにより、コンクリート床版の不陸凹部に残存する防水層の削残し部を確実に除去可能であるので、残存防水層の削残し部を無理に削り取る必要は無く、換言すれば、前記コンクリート床版の表面を殆ど削り取ることなく、前記不陸凹部の残存防水層を完全に除去してアスファルト層の補修工事を実施できる。この結果、前記補修工事に伴うコンクリート床版の強度は全く低下することはない。また、残存防水層は、ある程度削り取って除去しておくことによって、前記ペレット群の吹付けによる除去作業は削残し部のみを対象とすれば良いので、短時間で効率良く実施可能となる。従って、全体としては、防水層の除去作業に要する時間が短縮されて、既設道路橋の舗装補修工事の工期短縮につながる。
また、残存防水層の削残し部を除去するドライアイスのペレット群は、当該削残し部に対する衝突時に周囲から気化熱を奪って瞬時に昇華し、二酸化炭素の気体となって大気中に拡散する。このため、ウォータージェット工法のように水を使用しないので、乾燥等の後処理工程無しで、前記残存防水層の削残し部の除去後直ちに新規防水層及びアスファルト層の施工を開始できる。このため、既設道路橋におけるアスファルト層の補修工事は最短工期で終了可能となる。
更に、請求項1の発明によれば、残存防水層の削残し部の除去作業時において、前記ペレット群の衝突により不陸凹部の表面から剥離した残存防水層の削残し部の破片は、前記ペレット群のキャリアガスである圧縮空気の吹付け気流と共に飛ばされて、前記ペレット群の吹き付け方向の前方に配置された捕捉ボックスに捕捉される。当該捕捉ボックスの前面開口部以外の各面には通気フィルタが貼られているので、捕捉ボックスに流入した圧縮空気の吹付け気流は通気フィルタを透過して捕捉ボックスから流出するが、前記残存防水層の削残し部の破片、及び当該破片と一緒に捕捉された異物やダスト等は通気フィルタを透過できず、捕捉ボックス内に留まり、効率良く収容される。また、通気フィルタを設けることで、流入した吹付け気流の風圧で捕捉ボックスが倒れたり動いたりすることなく、残存防水層の削残し部の破片の飛散方向の前方に捕捉ボックスを安定的に配置できる。
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、バックホウのアーム先端に装着したバケットの爪部により不陸凹部の残存防水層を削り取ることを特徴としている。
請求項2の発明によれば、工事現場で多用されているバックホウを使用することにより、不陸凹部の残存防水層の大部分を比較的簡単に除去できる。
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記ドライアイスのペレット群の個々の大きさは、1.5mm以下であることを特徴としている。
通常のドライアイスのペレット群において、個々のペレットの大きさは、径3mmで長さ5mm程度であり、当該大きさのペレットを用いた場合には、粗面であるコンクリート床版面の凹凸構造のサイズが小さいために、前記各ペレットは粗面の凹部にまで十分に到達できず、防水層は除去しきれず一部残存することが分かった。請求項3の発明によれば、ドライアイスのペレット群の大きさを1.5mm以下にすることによって、コンクリート床版の不陸凹部における粗面凹部にも前記ペレット群が十分に到達し、残存防水層が除去されるので除去効果がより一層向上する。
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の発明において、前記ドライアイスのペレット群は、1.4MPa前後の吐出圧力の高圧ガスと共に、毎時75kg以上の噴射量で前記残存防水層に吹き付けられることを特徴としている。
一般的に使用される空気圧縮機の場合、圧縮空気の圧力は0.7MPaが限界であり、この圧力では前記ペレット群の噴射速度が足りず、残存防水層をコンクリート床版の不陸凹部の粗面から剥離することは困難であった。また、通常のドライアイスの使用量は毎時40ないし50kg程度であり、残存防水層の除去に多くの時間を要していた。しかし、請求項4の発明によれば、1.4MPa前後の圧力で吐出された高圧ガスと共に前記ペレット群を吹き付けることにより、前記ペレット群の残存防水層への衝突による衝撃力が十分に大きくなって、残存防水層が前記不陸凹部から容易に剥離することが可能となる。また、ペレット群の噴射量を毎時75kg以上にすることにより、単位時間当たりに吹き付けられて残存防水層に衝突するペレット数が増すので、より短時間で残存防水層を除去できる。従って、請求項4の発明により、残存防水層除去の作業時間が短縮されて、その分アスファルト舗装の補修工事の作業時間を短縮できる。
本発明によれば、コンクリート床版面の削取り代を最小限に抑えて床版強度を維持したまま、コンクリート床版の不陸凹部に残存している残存防水層の削残し部を完全に、容易に、かつ迅速に除去することが可能である。この結果、既設道路橋におけるアスファルト層の補修工事を最短工期で終了することができる。即ち、本発明によって、舗装補修工事において重要課題である「床版強度の維持」と「工期の短縮」が共に満たされる。
また、本発明によれば、残存防水層の除去作業時において、前記ペレット群の衝突により不陸凹部の表面から剥離した残存防水層の破片は、前記ペレット群のキャリアガスである圧縮空気の吹付け気流と共に飛ばされて、前記ペレット群の吹き付け方向の前方に配置された捕捉ボックスに捕捉され、当該捕捉ボックスの前面開口部以外の各面には通気フィルタが貼られているので、捕捉ボックスに流入した圧縮空気の吹付け気流は通気フィルタを透過して捕捉ボックスから流出するが、前記残存防水層の破片、及び当該破片と一緒に捕捉された異物やダスト等は通気フィルタを透過できず、捕捉ボックス内に留まり、効率良く収容される。また、通気フィルタを設けることで、流入した吹付け気流の風圧で捕捉ボックスが倒れたり動いたりすることなく、残存防水層の破片の飛散方向の前方に捕捉ボックスを安定的に配置できる。
以下、最良の実施形態を挙げて本願発明について更に詳細に説明する。まず始めに、既設道路橋B(以下、単に「道路橋B」という。)の床版防水システムの構造、次に、アスファルト層P0 の補修工事の全工程の概要を説明した後に、各工程について詳細に説明する。図1は、道路橋Bにおける床版防水システムの部分断面図である。図2は、コンクリート床版C(以下、単に「床版C」という。)の上層のアスファルト層P0 及び防水層W0 を削り取って不陸凹部12に残存防水層Wの削残し部Waが存在している状態を示す道路橋Bの斜視図である。図3は、図2の模式的断面図であって、(イ)は、路面切削機70の切削ドラム71の外周面に周設された切削ビット71aによりアスファルト層P0 及び防水層W0 を切削除去して不陸凹部12に残存アスファルト層P及び残存防水層Wが存在する状態を示す図であり、(ロ)は、当該残存アスファルト層P及び残存防水層Wをバックホウ40により削り取っている状態を示す図であり、(ハ)は、前記残存防水層Wの削残し部Waに対してドライアイスのペレット群31を高速で吹き付けている状態を示す図である。図4(イ),(ロ)は、それぞれ新規の防水層W0 ’を敷設する前後の床版Cの模式的断面図であり、(ハ)は、新規防水層W0 ’の上に新規のアスファルト層P0 ’を敷設した状態の床版Cの断面図である。なお、図1,図3及び図4において、各防水層W0 ,W0 ’の厚さは、見易さを考慮してアスファルト層P0 の厚さ(H1 )に対して実際よりも大きく表示してある。
まず、図1を用いて道路橋Bの床版防水システムの構造について説明する。厚さH3 を有する床版C上には、床版Cへの水の浸入を防止するための防水層W0 が厚さH2 で敷設され、防水層W0 の上には舗装層であるアスファルト層P0 がH1 の厚さで積層されている。防水層W0 は、防水材21、床版Cと防水材21とを接着するためのプライマー(床版接着剤)22、及び防水材21とアスファルト層P0 を接着するための舗装接着剤23から構成される。床版Cの厚さH3 は240ないし350mm、防水層W0 の厚さH2 は2ないし3mm、アスファルト層P0 の厚さH1 は70ないし90mm程度である。通常、アスファルト層P0 は基層と表層の二層構造であるが、ここではまとめて一層として扱う。
次に、アスファルト層P0 と防水層W0 の各層の材質、成分について説明する。原油の分留時に蒸留残渣として得られるストレートアスファルトに、ゴム、又はゴムと熱可塑性樹脂からなる改質剤が添加されて作られたものを「改質アスファルト」というが、アスファルト層P0 には、前記改質アスファルトに砂や砕石等の骨材を混ぜ合わせたアスファルト混合物が一般的に利用される。防水材21にはシート系防水と塗膜系防水の二種類がある。シート系防水は、ポリエステル等の合成繊維不織布やガラス繊維等を基材として、溶融した改質アスファルトを工場で含浸塗覆した一定厚さのシート状の防水材である。塗膜系防水は、アスファルトをゴム、或いはゴムとアクリル或いはウレタン等の樹脂を添加して改質化させた防水材である。プライマー22は、トルエンやキシレン等の溶剤を含有した溶剤系アスファルトプライマーが一般的である。舗装接着剤23としては、例えばタック用ゴム入りアスファルト乳剤がある。
次に、図2ないし図4を用いて、アスファルト層P0 の補修工程の概要を説明する。まず、補修が必要な道路橋Bにおいて、既設のアスファルト層P0 の舗装面を路面切削機70が方向Rに沿って移動し、当該切削機70の切削ドラム71の外周面に周設された切削ビット71aが軌跡Mを描いて若干量の床版Cの表面10を削りながら、前記アスファルト層P0 を切断除去する〔図3(イ)〕。このとき、前記アスファルト層P0 の下層の防水層W0 も削り取られて除去される。床版Cの表面10は、表層がわずかに削られて削取り面11となる。当該削取り面11上に元々から存在している不陸の窪み(不陸凹部12)には、路面切削機70で除去しきれない残存アスファルト層P及び残存防水層Wが存在する。次に、不陸凹部12が深い場合には、バックホウ40のアーム41の先端に装着されたバケット42の爪部42aを方向Q1 ないしQ4 の順に沿って動かしながら、不陸凹部12における残存アスファルト層P及び残存防水層Wを削り取っていく〔図3(ロ)〕。バックホウ40で削り残った残存防水層Wの削残し部Waは床版C上に点在する不陸凹部12内に残る〔図2〕。不陸凹部12が十分に浅い場合には、バックホウ40による上記の工程は省略する。次に、ドライアイスのペレット群31を圧縮空気32aと共に高速で吹き付けてドライアイス洗浄を行い、前記削残し部Waを不陸凹部12から完全に除去する〔図3(ハ)及び図4(イ)〕。洗浄時に飛散した削残し部Waの破片Wa’は、吹付け気流32の吹付け方向Sの前方に配置した捕捉ボックスで捕捉、収容されるので、作業終了後に廃棄する。次に、床版Cの削取り面11上に残っているダストや異物等を清掃した後、直ちに床版Cの削取り面11にプライマー22を塗布し、防水シート又は塗膜防水の防水材21を敷設し、舗装接着剤23を防水材21上面に塗布することによって新規の防水層W0 ’を積層する〔図4(ロ)〕。アスファルトフィニッシャーを運転しながら新規の防水層W0 ’上にアスファルト混合物を加熱状態で敷き均し、ローラーで転圧しながら新規のアスファルト層P0 ’を積層する〔図4(ハ)〕。
次に、上記のアスファルト層P0 の補修工事における各工程について詳細に説明する。まず、「路面切削機70で既設のアスファルト層P0 を切断除去する工程」について図3及び図5を用いて説明する。図5は、コンクリート床版Cの削取り代Tと、不陸凹部12に残存するアスファルト層Pの体積V及び残存防水層Wの面積Aとの関係を示す模式図である。図3(イ)に示されるように、路面切削機70は既設のアスファルト層P0 の舗装面を方向Rに沿って移動し、当該切削機70における切削ドラム71の外周面上の切削ビット71aは軌跡Mを描きながら前記アスファルト層P0 を切断除去していくと共に、前記アスファルト層P0 の下層の防水層W0 も一緒に除去していく。このとき、効率良くアスファルト層P0 及び防水層W0 を除去するために、路面切削機70は削取り代T(図5参照)で床版Cの表面10を削り取っていく。これにより、床版Cの表面10は、わずかに削り取られて削取り面11を呈する。床版Cの表面10には元来不陸が存在しており、不陸凹部12が複数存在している。このため、不陸凹部12の中には、凹部の深さが前記削取り代Tより小さいために、路面切削機70で表面10が削られると同時に消滅するものもあるが、深さが削取り代Tより大きい大半の不陸凹部12は、表面10が削られて削取り面11となっても、依然として大きさDを有して削取り面11上に広がって、複数箇所に点在する。また、当該各不陸凹部12内には、路面切削機70の切削ビット71aが入り込めないので残存アスファルト層Pと残存防水層Wが存在している。
上記したように、路面切削機70を用いて、既設のアスファルト層P0 と防水層W0 を完全に除去し、かつ出来るだけ効率良く除去するためは、床版Cの表面10を削取り代Tで削り取ることが必要である。しかし作業効率を重視して削取り代Tを大きくすれば、床版Cの強度低下に直結する。ここで、図5を参照して前記表面10の削取り代Tと除去すべき残存アスファルト層P及び残存防水層W(以下、単に「各残存層P,W」ということもある。)の存在量の関係を説明する。図5において、便宜上、不陸凹部12の形状は球を半径よりも小さい高さで切断した時計皿状であるとする。図5に示されるように、路面切削機70を用いて床版Cの表面10を削取り代T1 又はT2 (T1 <T2 )で削り取ると、不陸凹部12の周縁部はそれぞれL1 ,L2 、残存アスファルト層はP1 ,P2 、残存防水層はW1 ,W2 となる。また、当該残存アスファルト層P1 ,P2 の体積はそれぞれV1 ,V2 (V1 >V2 )、残存防水層W1 ,W2 の面積はA1 ,A2 (A1 >A2 )となる。削取り代Tが大きければ(T=T2 )、残存アスファルト層P2 の体積V2 及び残存防水層W2 の面積A2 は小さいので、路面切削後のドライアイス洗浄によって除去する各残存層P2 ,W2 の量も小さく済み、作業効率は上がる。しかし、床版Cの強度低下の可能性がある。即ち、床版Cの強度低下を防止するためには、削取り代Tを小さくし、各残存層P,Wをある程度の体積量V又は面積Aで残さざるを得ない。一方、削取り代Tが小さければ(T=T1 )、床版Cの強度は維持されるが、残存アスファルト層P1 の体積V1 及び残存防水層W1 の面積A1 は大きい。このため、前記ドライアイス洗浄によって除去する各残存層P1 ,W1 の量が増えて作業効率が下がる。また、不陸凹部12が深い場合には、効率化のためにドライアイス洗浄の前に予めバックホウ40で残存防水層Wをある程度除去するが、後述するように、バックホウ40による完全除去は非常に難しい。従って、残存防水層Wの面積Aが増せば、その分バックホウ40による削残し部Waの面積が増して、当該削残し部Waの除去作業にも時間がかかる。以上より、削取り代Tを最小限に抑えつつ、かつ各残存層P,Wの除去作業の効率も上がるように、床版Cの強度と作業効率のバランスを考慮しなければならない。
路面切削機70によるアスファルト層P0 の切断除去工程の後に、削取り面11上に点在する不陸凹部12において、深さが小さい不陸凹部12では、路面切削機70によってアスファルト層P0 が完全に除去され、残存防水層W自体も既にある程度削り取られていることが多い。この場合には、バックホウ40を用いて削り取る工程を経ずに、直ちにドライアイス洗浄で当該残存防水層Wを除去する工程に移る。一方、深さが大きい不陸凹部12では、当該不陸凹部12内に残存アスファルト層P及び残存防水層Wが存在するため、この状態でドライアイス洗浄を行うと、除去時間が長く、ドライアイス使用量も多くなって効率が悪い。このため、まずバックホウ40を用いて予め各残存層P,Wを削り取っておき、ドライアイス洗浄を行う時点で、前記不陸凹部12内を残存防水層Wの削残し部Waのみが散在している状態にしておけば、残存防水層Wの完全除去が効率良く行える。
次に、「バックホウ40のバケット42による残存防水層Wの除去工程」について図3(ロ)を用いて説明する。まず、床版Cの表面10は、コンクリートの打ち放しであるので粗面となっていて、細かい凹凸構造を有している。不陸凹部12内の床版Cの表面13は、路面切削機70により削られていないため、表面10と同様に粗面である。表面13上にはプライマー22を介して防水材21が強力に接着されているので、細かい凹凸構造を有する表面13において、残存防水層Wは「粗面凹部」にまで喰い込んで接着している状態にある。ここで、不陸凹部12内の各残存層P,Wをバックホウ40で除去する手順を以下に説明する。まず、作業者はバックホウ40を運転し、アーム41の先端に装着されたバケット42を、対象とする不陸凹部12の上方に移動させる。当該バケット42を下方Q1 の方向に下ろし、爪部42aを残存アスファルト層Pに喰い込ませてから、バケット42を手前方向Q2 に動かして当該残存アスファルト層Pを削り取る。前記爪部42aが不陸凹部12の周縁部まで到達したら、バケット42を上方Q3 の方向に持ち上げ、奥方向Q4 に動かす。上記の操作を繰り返して、不陸凹部12内の各残存層P,Wをバックホウ40で削り取りながら除去していく。このとき、残存アスファルト層Pはバックホウ40で完全に除去されるが、残存防水層Wを完全に除去するのは難しい。上記のように、残存防水層Wは粗面凹部にまで喰い込んで表面13と強力に接着しているため、前記バケット42の爪部42aで表面13の凹凸構造を均すように削り取らなければ、残存防水層Wをきれいに除去することはできない。不陸凹部12内の表面13においても、前記爪部42aで床版Cの表面13を大きく削り取って残存防水層Wを除去すれば、効率良く多くの残存防水層Wを除去できるが、床版Cの強度低下につながる。逆に、削り取らないように除去すれば、「粗面凹部」に入り込んだ残存防水層Wまで完全に除去することは出来ない。即ち、床版Cの強度低下を防止するために、残存防水層Wをある程度削り残さざるを得ない。この結果、「粗面凹部」の残存防水層Wは、バックホウ40によって完全に除去されずに削残し部Waとして残される。床版Cの不陸の状況にも依存するが、通常、削残し部Waの面積は、床版Cの削取り面11(即ち舗装切削面積)に対して5ないし10%を占める。以下、ドライアイス洗浄工程の前に、バックホウ40で各残存層P,Wを予め削り取る工程を踏んだ場合について説明するが、浅い不陸凹部12に適用する場合には、以下の説明における「削残し部Wa」を「残存防水層W」と置き換えれば良い。
新規に敷設される防水層W0 ’及びアスファルト層P0 ’の疲労耐久性が長期間にわたって確保されるような舗装補修工事を施工するためには、削残し部Waを含めた残存防水層Wを床版C上から完全に除去する必要がある。しかし、床版Cの強度を維持するためには削残し部Waが不可避的に不陸凹部12内に残る。当該削残し部Waを迅速にかつ完全に除去できる方法があれば、路面切削機70又はバックホウ40で床版Cを削り取らずに、不陸凹部12内に残存防水層W又は削残し部Waを多く残したとしても、早期に舗装補修工事を終了することが可能となる。そこで、出願人は、土木工事では殆ど採用されていないドライアイス洗浄に着目し、残存防水層W又は削残し部Waを迅速に完全除去する方法として適用した。以下に、図6及び図7を用いて、当該ドライアイス洗浄による「不陸凹部12内の削残し部Waを完全に除去する工程」について説明する。図6は、ドライアイスのペレット群31の吹付けによって残存防水層Wの削残し部Waを除去している状態を示す図である。図7は図3(ハ)の詳細図であって、(イ)は、不陸凹部12の表面13に接着状態で残存している残存防水層Wの削残し部Waにペレット群31のペレット31aが衝突した状態を示す図であり、(ロ)は、削残し部Waがペレット31aにより急激に冷却されて収縮し、表面13からの剥離が促進された状態を示す図であり、(ハ)はペレット31aの爆発的な昇華によって、削残し部Waが破砕されて表面13から除去された状態を示す図である。
まず、前記削残し部Waを完全に除去するために用いられる装置類について説明する。ドライアイス洗浄に用いられる装置類は公知であって、ドライアイスのペレット群31のキャリアガスである圧縮空気32aを製造するために、空気を取り込んで圧縮する空気圧縮機52、ドライアイスのペレット31aを前記圧縮空気32aと混合し、所定の噴射量及び噴射速度に制御してペレット群31として噴射させるブラストマシン53、各ペレット31aを細かく破砕するためのアイススプリッタ54、及び前記ペレット群31を残存防水層Wの削残し部Waに吹き付けるための噴射ガン56から構成されている。空気圧縮機52とブラストマシン53はホース52aによって連結し、ブラストマシン53はアイススプリッタ54を介してブラストホース55の一端に接続され、当該ブラストホース55の他端には延長パイプでノズル部を伸張させた噴射ガン56が取り付けられている。空気圧縮機52は移動可能なように2t又は4tの車体51に車載される。空気圧縮機52は、吐出圧力の出力が大きければ種類を問わないが、定置式よりもポータブル型のものが望ましい。ブラストマシン53には、ペレット31aを貯蔵するペレットタンク、ペレット群31の噴射システム、貯蔵されたペレット31aを噴射システムに一定量供給する分配装置、ペレット群31の噴射圧力を制御する制御装置が主に内蔵されており、また、底部にキャスターが具備されているので移動可能である。一方、前記ペレット群31の吹付け方向Sの前方には、飛散する削残し部Waの破片Wa’及び周辺の異物やダスト等が捕捉、収容されるための捕捉ボックス57が配置されている。当該捕捉ボックス57の前面開口部以外の全ての面には、通気フィルタ57aが具備されている。なお、本実施形態では、空気圧縮機52としてドイツのアトラスコプコ社製給油式ロータリースクリュコンプレッサXAVS136、ブラストマシン53としてデンマークのアイステック社製アイスブラストKG30を使用した。
次に、ドライアイス洗浄により削残し部Waを除去するまでの手順について説明する。まず、上記の装置類を全て連結させて、床版Cの削取り面11上を移動させて除去すべき削残し部Waの周辺に配置する。また、予めブラストマシン53のペレット投入口からドライアイスのペレット31aを所定量投入し、ペレットタンクに貯蔵しておく。次に、ブラストマシン53及び空気圧縮機52を作動させる。これにより当該空気圧縮機52からホース52aを経由して圧縮空気32aがブラストマシン53に供給される。ブラストマシン53内部では、貯蔵されている多量のペレット31aのうち所定量のペレット31aが分配装置により噴射システムに供給される。作業者58は、噴射ガン56のノズル先端を削残し部Waから10ないし15cmの高さに離し、手動により噴射スイッチをONにして、ペレット群31を当該削残し部Waに吹き付ける。このとき、ブラストマシン53内では、噴射システム内のペレット31aが前記圧縮空気32aと所定の割合で混合され、噴射速度が制御された状態で噴射システムの噴射口から噴射され、その後、アイススプリッタ54内を通過し、ブラストホース55を通り、噴射ガン56まで運ばれている。前記アイススプリッタ54内を通過する際は、アイススプリッタ54内部に所定升目の格子がはめ込まれているので、ペレット群31の各ペレット31aは前記格子の升目に対応した大きさに粉砕される。また、細かく粉砕されたペレット群31は、除去すべき削残し部Waに向けて圧縮空気32aと共に吹き付けられる。作業者58は噴射ガン56を前後左右に動かして吹付け位置や方向を調整しながら、前記削残し部Waを完全に除去する。ペレット群31が吹き付けられると、削残し部Waは破壊されるように不陸凹部12の表面13から剥がれ、破片Wa’が飛散する。当該破片Wa’は周辺の異物やダスト等と共に、ペレット群31の吹付け気流32によって飛ばされて、吹付け方向Sの前方に配置された捕捉ボックス57に捕捉、収容される。前記削残し部Waが完全に除去されたら、別の不陸凹部12に残存する削残し部Waを除去する。このとき、車体51上の空気圧縮機52及びブラストマシン53は自由に床版Cの削取り面11上を移動可能であり、空気圧縮機52、ホース52a、ブラストマシン53、アイススプリッタ54、ブラストホース55及び噴射ガン56を全て連結状態のままで次の場所に移動することができるので、作業時間を無駄に費やすことが無い。前記装置類の移動後、捕捉ボックス57も所定位置に移し、上記と同様の手順で新たな削残し部Waに向けてペレット群31を吹き付けて除去する。全ての削残し部Waの除去作業が終了した時点で、既設のアスファルト層P0 及び防水層W0 の除去作業が完了する。その後、除去作業に用いた装置類を床版Cの削取り面11上から撤去し、当該削取り面11上の清掃を済ませれば、直ちに当該削取り面11上に新規の防水層W0 ’及びアスファルト層P0 ’の敷設作業を開始することが出来る。即ち、前記除去作業の後に、前記削取り面11に対して乾燥処理等の後処理作業を行う必要は全く無い。
次に、捕捉ボックス57について説明する。捕捉ボックス57は、前面が開口した枠状の箱体であり、前面以外の全ての面、即ち背面、側面、上面、底面には通気フィルタ57aが貼られている。捕捉ボックス57は、前面開口部がペレット群31の吹付け方向Sに沿って、噴射ガン56のノズル吹出し口と対向するように配置されているので、吹付け気流32と共に飛ばされた削残し部Waの破片Wa’は、その周辺域の異物やダスト等と一緒に効率良く捕捉ボックス57に捕捉される。また、各面の通気フィルタ57aによって、捕捉ボックス57に流入した圧縮空気32aの吹付け気流32は、当該通気フィルタ57aを透過して捕捉ボックス57から流出する。しかし、前記破片Wa’及び異物やダスト等は前記通気フィルタ57aを透過できないので、捕捉ボックス57内に留まり、作業廃棄物として効率良く収容される。従って、ペレット群31の吹付けは、削残し部Waの完全除去と同時に、作業廃棄物の効率的収容、及びその周辺域の床版C上の清掃も行われることになるので、作業時間の短縮に効果的である。また、通気フィルタ57aを設けることで、流入した吹付け気流32の風圧で捕捉ボックス57が倒れたり不要に動いたりすることなく、捕捉ボックス57を安定的に配置しておくことができる。なお、道路橋Bにおいて、片側一車線のみの舗装補修工事の場合には、破片Wa’が吹付け気流32により車両側に飛散しないように、吹付け方向Sの側方にも飛散防止用の壁板を立てておくと良い。
次に、ドライアイス洗浄によって残存防水層Wの削残し部Waが不陸凹部12の表面13から除去されるメカニズムを図7を用いて説明する。便宜上、ここではペレット群31のうち、一個のペレット31aに着目して説明する。まず、ペレット31aが噴射ガン56から吹き付けられて、表面13に接着状態で残存している削残し部Waに衝突すると、その衝撃力により、削残し部Waには衝突部分から表面13に向けて亀裂61が入り、当該削残し部Waの表層の一部は砕け散る。また、前記削残し部Waの一部が表面13から剥離し、剥離面13aが生じる〔図7(イ)〕。更に、前記衝突と同時に前記ペレット31aは前記亀裂61の進行方向に沿って削残し部Wa内部にめり込んでいき、前記削残し部Waの一部が剥離した剥離面13aに到達すると、前記削残し部Waと表面13の界面に潜り込む様に侵入する。なお、削残し部Waの中には、前記衝突の衝撃力で完全に破砕されて、表面13から除去されるものもある。一方、ペレット31aはマイナス79℃のドライアイスであるため、ペレット31aの衝突直後に前記ペレット31aの周辺領域は熱伝導により急激に冷却される。削残し部Waの成分は改質アスファルトや合成繊維、ゴム、或いは樹脂等の高分子化合物との混合物であって、例えばマイナス30ないし60℃といった地球レベルでの外界温度範囲内では耐温度性はあるが、マイナス79℃は当該温度範囲外の極めて低温であるため、急冷された前記削残し部Waでも熱収縮が起こる。また、ペレット31a周辺の床版Cの表面13も瞬時に冷却されて熱収縮が起こる。ここで、削残し部Waと床版Cとの熱収縮率が異なるために、接着状態の削残し部Waと床版Cとの界面では当該削残し部Waの剥離が促進される〔図7(ロ)〕。ペレット31aは、削残し部Waに衝突後、瞬時に固体から気体に昇華するため、その体積が爆発的に膨張する。この結果、ペレット31aの爆発的な昇華によって、削残し部Waと表面13との界面に侵入していたペレット31aは、削残し部Waに対して楔のように働き、当該削残し部Waを表面13から剥ぎ取るように破砕する。破砕された削残し部Waは破片Wa’となって飛散し、表面13(剥離面13a)から除去される〔図7(ハ)〕。従って、ペレット31aの吹付けから削残し部Waの除去までの一連の現象が瞬時に起こること、また、実際には膨大な量の前記ペレット31aがペレット群31となって、削残し部Waに吹き付けられること、更に、各ペレット31aは昇華して大気中に拡散し、床版C上には全く残らないので後処理作業は不要であることの以上3点を考慮すれば、ペレット群31の吹付けによるドライアイス洗浄によって、床版Cの不陸凹部12内の削残し部Waは、容易にかつ短時間に除去可能となって、後処理作業を経ずに直ちに新規防水層W0 ’及びアスファルト層P0 ’を敷設することができる。道路橋Bの舗装補修工事の工期短縮が実現できる。
次に、前記ドライアイス洗浄におけるペレット群31の吹付け条件について説明する。一般的に利用されているドライアイス洗浄機では、床版Cの不陸凹部12内に残存している削残し部Waを短時間に完全に除去することは困難であることが分かった。そこで、出願人はドライアイスのペレット群31を吹き付ける際の条件を工夫し、ドライアイス洗浄を前記削残し部Waの除去方法として適用した。以下にペレット群31の吹付け条件について説明する。まず、第一条件はペレット31aの大きさである。通常のドライアイス洗浄の場合に用いられるペレット31a’は、直径又は一辺が3mm程度で長さ5mmの円柱又は角柱である。当該大きさのペレット31a’を削残し部Waの除去に用いると、削残し部Waは完全には除去できず、一部残存するものもあった。これは、不陸凹部12の表面13は粗面となっていて微細な凹凸構造を有するために、前記ペレット31a’が大きすぎて粗面凹部にまで十分に到達できないためと考えられた。このため、出願人は、ペレット31aの大きさを、従来のペレット31aの半分以下である1.5mm以下にして、ペレット群31を削残し部Waに吹き付けてみた。その結果、前記削残し部Waは完全に除去された。従って、ペレット31aの大きさを小さくすることによって、削残し部Waの除去効果がより一層向上することが判明した。本実施形態では、ペレット31aの大きさを小さくするために、上記のアイススプリッタ54を用いて、円柱又は角柱状のペレット31a’を粉砕して目的の大きさのペレット31aを得た。なお、削残し部Waの残存状況によっては、アイススプリッタ54を取り外した状態でペレット群31を吹き付けても良い。
次に、ペレット群31の吹付け条件のうち、第二、第三条件である圧縮空気32aの吐出圧力と当該ペレット群31の噴射量について説明する。一般的なドライアイス洗浄で利用される空気圧縮機52’の場合、圧縮空気の吐出圧力は0.7MPa程度である。この圧力下でペレット群31を吹き付けたところ、噴射速度が足りず、削残し部Waを不陸凹部12の表面13から剥離して除去することは難しいことが分かった。また、一般的に使用されるブラストマシン53’ではドライアイスの噴射限界量は毎時40ないし60kg程度であり、通常の噴射量は毎時40ないし50kgであるため、削残し部Waを除去するのに多くの時間を費やすことが分かった。そこで、出願人は、より大きな吐出圧力を出力できる空気圧縮機52を使用し、圧縮空気32aの吐出圧力を増加した。その結果、1.4MPa前後まで出力すれば、ペレット群31の噴射速度が増し、削残し部Waへの衝突による衝撃力が十分に大きくなって、前記削残し部Waが表面13から容易に剥離可能となることが分かった。また、出願人は、ドライアイスの噴射量が最大毎時100kgのブラストマシン53を使用し、ペレット群31aの噴射量を増加した。その結果、前記噴射量を毎時75kgないし85kgにすれば、単位時間当たりに吹き付けられて削残し部Waに衝突するペレット31aの数が増して、より短時間で前記削残し部Waを完全に除去できるようになることが分かった。上記3点の吹付け条件に基づいて除去作業を行ったところ、4,5分程度で約1m2 の不陸凹部12に残存する削残し部Waを完全に除去できた。また、外気温が18℃、路面温度(床版Cの削取り面11の温度)が16℃のときに上記条件で除去作業を行うと、前記路面温度は8℃に低下した。これにより、ドライアイス洗浄による路面温度の低下は、床版Cのコンクリートに悪影響を及ぼさないことが確認された。
通常、道路橋Bの舗装補修工事において、舗装切削面積が850m2 の場合、既設の防水層W0 を除去するために求められる時間は4ないし6時間程度である。舗装切削面積が850m2 の場合、削残し部Waの割合は5ないし10%であることから、本発明であるドライアイス洗浄による残存防水層Wの除去方法を利用すれば、要求される除去時間内に既設の防水層W0 を完全に除去することができる。更に、本発明を用いれば、残存防水層Wを床版Cから短時間で完全に除去できるので、作業効率を上げるために削取り代Tを大きくして床版Cの表面10を切削する必要も無く、バックホウ40で不陸凹部12内の表面13を深く掘削する必要も無い。従って、本発明によって、床版強度を維持したまま、短時間で既設の防水層W0 を床版Cから完全に除去することが可能である。
次に、新規防水層W0 ’とアスファルト層P0 ’の敷設工程について説明する。前記不陸凹部12内の削残し部Waを完全に除去した後、後処理作業無しに直ちに新規防水層W0 ’及びアスファルト層P0 ’を床版Cの削取り面11上に敷設する。後処理作業が不要であることは、道路橋Bの舗装補修工事の工期短縮につながる。まず、当該削取り面11にまだ異物等が残っている場合には清掃して削取り面11をきれいにした後に、プライマー22を前記削取り面11上にローラバケ等で満遍なく塗布する。次に、防水シート又は塗膜防水の防水材21を敷設し、プライマー22を介して床版Cと接着させる。更に、舗装接着剤23を防水材21上面に塗布して、新規防水層W0 ’を床版C上に積層させる。次に、アスファルトフィニッシャーでアスファルト混合物を所定の温度を保持しながら、制御して所定量ずつ新規防水層W0 ’上に敷き均す。最後に、敷き均された前記アスファルト混合物層の上をローラを運転しながら転圧し、目標密度まで敷き固めることによって新規アスファルト層P0 ’を積層する。上記のように、削残し部Waは床版C上から完全に除去されているので、その上層に新規防水層W0 ’が敷設されても、カットバック等の不具合は生じない。従って、新規防水層W0 ’及びその上層の新規アスファルト層P0 ’は変質することがないので、長期間にわたって道路橋Bの舗装層の疲労耐久性が維持される。