以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明において使用される基体は、前記の成分A、B及びCを必須成分として含有する樹脂組成物を成形して得られるものである。まず、成分A及び成分Bに係る液晶性ポリエステルについて説明する。
ここで、液晶性ポリエステルとは、光学的異方性を有する溶融相を形成しうるポリエステルであり、高度の耐熱性を有する基体を得る観点からは、高分子主鎖が芳香族基からなり、これらの芳香族基がエステル結合(−C(O)O−又は−OC(O)−)で連結されたポリエステルであることが好ましい。尚、この芳香族基とは、単環芳香族基、縮合環芳香族基に加え、単環芳香族基や縮合環芳香族基が直接結合で連結した基や、酸素原子、硫黄原子、1〜6の炭素数を有するアルキレン基、スルホニル基及びカルボニル基から選ばれる連結基を介して連結された基も含む概念である。
成分Aである第1の液晶性ポリエステルは、200℃以上の荷重たわみ温度を有するものであり、成分Bである第2の液晶性ポリエステルは、第1の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度より低い荷重たわみ温度を有するものである。すなわち、第1の液晶性ポリエステルと第2の液晶性ポリエステルの組合わせは、第1の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度をTb1(℃)、第2の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度をTb2(℃)としたとき、次の式を満足するものを選択するものである。
Tb1≧200℃
Tb1>Tb2
尚、液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度は、液晶性ポリエステルの分子量をコントロールする方法、液晶性ポリエステルを構成するモノマー単位の組合せを変更する方法などで制御することができるものであり、これらの方法により所望の荷重たわみ温度の液晶性ポリエステルを得ることが可能である。このような荷重たわみ温度を制御した液晶性ポリエステルの製造方法に関する詳細は後述する。
第1の液晶性ポリエステルは、上記のように、その荷重たわみ温度(Tb1)が200℃以上であり、230℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることがさらに好ましい。第1の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度(Tb1)が200℃を下回ると、樹脂組成物を成形して得られる基体の熱変形が大きくなり、所望の寸法の金属被覆樹脂成形品を得ることが難しくなるおそれがある。尚、第1の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度(Tb1)の上限は特に規定されないが、実用的には300℃程度が上限である。
また第2の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度(Tb2)は、上記のように、第1の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度(Tb1)より低いものであり、この荷重たわみ温度(Tb2)は第1の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度(Tb1)に応じて選定されるが、その荷重たわみ温度(Tb2)は190℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。第2の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度(Tb2)が190℃を超えると、金属被膜の密着性を高める効果を十分に得ることができなくなるおそれがある。尚、第2の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度(Tb2)の下限は特に規定されないが、実用的には100℃程度が下限である。
上記のように荷重たわみ温度(Tb1)が高い第1の液晶性ポリエステルに、荷重たわみ温度(Tb2)が低い第2の液晶性ポリエステルを併用することによって、荷重たわみ温度(Tb1)が高い第1の液晶性ポリエステルで耐熱性を確保しつつ、荷重たわみ温度(Tb2)が低い第2の液晶性ポリエステルで金属被膜との密着性を高めた基体を成形することができるものであり、第1の液晶性ポリエステルと第2の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度の差分(Tb1−Tb2)は、50℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
次に、第1の液晶性ポリエステルや第2の液晶性ポリエステルとして好適なものについて説明する。これらの液晶性ポリエステルとしては、例えば、
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールからなる各モノマーを組み合わせて重合して得られるもの
(2)異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸をモノマーとして用い、これらを重合して得られるもの
(3)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールからなるモノマーを組み合わせて重合して得られるもの
等を挙げることができる。
尚、上記の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールの代わりに、これらのエステル形成性誘導体を使用することにより、液晶性ポリエステルを製造することも可能であり、このようなエステル形成性誘導体を用いると液晶性ポリエステルの製造がより容易となるため好ましい。
上記の(1)〜(3)のなかでも、より好ましいのは(1)によって得られる液晶性ポリエステルである。かかる液晶性ポリエステルを製造する手段としては、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を脂肪酸無水物でアシル化することにより得られるアシル化物のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物のカルボキシル基とがエステル交換反応を生じるようにして重合させる方法があり、さらに好ましくは、主としてモノマー同士のエステル交換反応および重縮合反応によって比較的低分子量のポリエステルを得る第1段階(「第1段階重合」と呼ぶことがある)と、この低分子量のポリエステル同士が結合して高分子量化する第2段階(「第2段階重合」と呼ぶことがある)との、2段階による重合方法である。このような重合方法は、得られる液晶性ポリエステルの分子量のコントロールが、容易であるという利点がある。
ここで上記の脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸を使用することができる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、価格と取り扱い性の点で、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく、より好ましいのは無水酢酸である。
また、液晶性ポリエステルの重合反応において、下記式(C1)で表されるイミダゾール化合物を触媒として用いることが好ましい。かかるイミダゾール化合物を共存させた重合反応は、液晶性ポリエステルを製造する際に好適であり、重合時間の短縮や、得られるポリエステルが著しく着色されないという利点がある。
(式(C1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数1〜4のシアノアルキル基、炭素数1〜4のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基及びフォルミル基から選ばれる基を表す。)
前記式(C1)で表されるイミダゾール化合物を具体的に例示すると、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、1,2ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−4−エチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−エチル−2−エチルイミダゾール、1−エチル−2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、4−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾールなどであり、これらは1種を単独で使用する他、2種以上を併用することもできる。なかでも好ましいイミダゾール化合物は、R1が炭素数1〜4のアルキル基であり、R2、R3及びR4がいずれも水素原子のものである。特に、入手の容易性の点で、1−メチルイミダゾール及び/又は2−メチルイミダゾールの使用が好ましい。
上記のエステル交換/重縮合反応において、アシル化物のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基の当量比によって、得られる液晶性ポリエステルの分子量をコントロールすることができるものであり、実用的な分子量の液晶性ポリエステルを得るには、重合反応に供するアシル化物のアシル基当量数と、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基当量数が、[アシル基当量数]/[カルボキシル基当量数]で表して、0.8〜1.2となるように設定するのが好ましい。
尚、前記のとおり液晶性ポリエステルの重合反応は2段階で行うことが好ましく、第1段階重合(主としてエステル交換反応が進行する段階)においては、重合温度が250〜400℃、好ましくは150〜350℃の範囲で行うことが好ましい。なお、前記アシル化反応と第1段階重合を同一の反応器で行う場合は、アシル化反応の反応温度から第1段階重合の反応温度まで昇温するようにすればよい。昇温速度は0.5〜50℃/分が好ましく、1〜10℃/分がより好ましい。
アシル化物としては、重合する前の出発原料として、予めアシル化された芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。ただし、原料の入手性といった観点からは、重合反応と同一の反応器内で芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を脂肪酸無水物でアシル化することによって得られるアシル化物を用いることが好ましい。
この場合には、アシル化物を得る際の脂肪酸無水物の量は、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基の当量数合計に対して、1.0〜1.2当量倍が好ましく、1.05〜1.1当量倍がさらに好ましい。脂肪酸無水物の量が、フェノール性水酸基の当量数で1.0未満の場合には、アシル化時の平衡のずれによって液晶性ポリエステルへの重合時に原料の昇華を生じる恐れがあり、また反応系が閉塞されやすい。一方、脂肪酸無水物の量が、フェノール性水酸基の当量数で1.2倍を超える場合は、得られる液晶性ポリエステルの着色が問題になる恐れがある。アシル化物を得るアシル化反応の条件は、130〜180℃、30分〜20時間であり、より好ましくは140〜160℃、1〜5時間である。
尚、平衡のずれを利用してアシル基とカルボキシル基のエステル交換反応を促進するために、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物を蒸発させて反応系から除去することが好ましい。また、留出する脂肪酸の一部を反応器に還流させる場合は、蒸発または昇華した原料成分を、凝縮または逆昇華現象により、還流する脂肪酸といっしょに反応器に戻すことができる。
前記の第1段階重合に次いで第2段階重合を行う。第1段階重合で得られた比較的分子量の低いポリマー(以下、「プレポリマー」と呼ぶ)を冷却し、好ましくは室温程度まで冷却して固形物とした後、得られた固形物を粉砕する等して、パウダー状、フレーク状等の粉末状に加工する。ここで、「粉末状」とは平均粒径が1mm以下の粉末であることを意味し、好ましくは平均粒径0.1〜1mmの粉末である。第2段階重合は、このようにして粉末状に加工されたプレポリマーを、重合温度200〜350℃で重合させるものである。尚、この第2段階重合は段階的に昇温させながら行ってもよく、具体的には、第1段階重合での重合温度よりも低い温度まで、0.5〜2時間程度で昇温し、次いで最終重合温度(200〜350℃)まで1〜10時間かけて昇温させた後、最終重合温度を保持したまま重合を行う。このようにすると、プレポリマーが高分子量化して液晶性ポリエステルが形成されるものである。第2段階重合の重合条件によって、得られる液晶性ポリエステルの分子量をコントロールすることができるものであり、重合条件の制御で所望の分子量を有する液晶性ポリエステルを製造することができるものである。
上記のように第1段階重合は溶融重合で、第2段階重合は固相重合で行なわれるものであり、一般に液晶性ポリエステルは、高分子量であるほど、荷重たわみ温度が高くなる傾向があるので、本発明に適用する第1の液晶性ポリエステル及び第2の液晶性ポリエステルを製造する際には、固相重合である第2段階重合の重合条件によって、それぞれ所望の荷重たわみ温度を有する液晶性ポリエステルを得ることができる。
また、前記重合反応において、好適な触媒として記した式(C1)で表されるイミダゾール化合物を添加する場合、その添加量は、重合反応に供した芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸の合計質量を100質量部としたとき、0.005〜1質量部であることが好ましい。得られる液晶性ポリエステルの色調および生産性の点から、その添加量は0.05〜0.5質量部であることがさらに好ましい。添加量が、この範囲であると、液晶性ポリエステルの重合反応がより容易になることに加え、後述する金属被膜樹脂成形品を得る際に、より基体の表面と金属被膜との密着性を向上することができる。このような密着性の向上効果が発現される理由は必ずしも明らかではなく、本発明者等の独自の知見に基づくものである。なお、イミダゾール化合物の添加タイミングは、エステル交換時にイミダゾール化合物が反応系に存在することを条件とするものではなく、液晶性ポリエステルを構成する各種モノマーと同時に仕込んで重合させてもよく、重合の途中段階に仕込む方法でもよく、前記第1段階重合と前記第2段階重合の間に仕込む方法でもよい。
上記のように液晶性ポリエステルを得る重合反応において、前記イミダゾール化合物が触媒として特に有用であるが、必要に応じて、他の触媒を使用してもよい。この他の触媒としては、酸化ゲルマニウムのようなゲルマニウム化合物、蓚酸第一スズ、酢酸第一スズ、ジアルキルスズ酸化物、ジアリールスズ酸化物のようなスズ化合物、二酸化チタン、チタンアルコキシド、アルコキシチタンケイ酸類のようなチタン化合物、三酸化アンチモンのようなアンチモン化合物、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酢酸第一鉄のような有機酸の金属塩、トリフッ化ホウ素や、塩化アルミニウムのようなルイス酸類、アミン類、アミド類、塩酸、硫酸等の無機酸が挙げられる。ただし、液晶性ポリエステルを得る重合方法に係る触媒として、金属分を含むものを用いると、得られる基体の電気特性を損なうこともあるので、金属分を含む触媒を使用する場合には、得られる基体の特性等を勘案して、その種類、使用量を決定することが好ましい。
上述したように、液晶性ポリエステルの製造方法において、アシル化物のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基の当量比の調整、重合条件の調整、触媒の添加等により、得られる液晶性ポリエステルの分子量をコントロールすることが可能であり、得られる液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度を適宜調整することができる。なお、液晶性ポリエステルの分子量をコントロールして、所望の荷重たわみ温度を得る場合、得られる基体の耐熱性の観点からは、分子量は重量平均分子量で表して、10000〜50000の範囲内であることが好ましい。
本発明の液晶性ポリエステルにおいて、荷重たわみ温度をコントロールする手段としては、上記のような分子量の調整に加えて、液晶性ポリエステルを構成するモノマー単位を種々最適化することによって、荷重たわみ温度をコントロールする方法も有用である。以下、上記した芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールの各モノマーについて説明する。
芳香族ジオールとしては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、メチルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、アセトキシハイドロキノン、ニトロハイドロキノン、カテコール、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス−(4ヒドロキシフェニル)スルホンを挙げることができる。これらから選ばれる芳香族ジオールを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。そしてこれらの中でも、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス−(4ヒドロキシフェニル)スルホンの使用が、入手の容易性の点で好ましい。
また芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシジフェニルエーテル、2,6−ジクロロ−パラヒドロキシ安息香酸、2−クロロ−パラヒドロキシ安息香酸、2,6−ジフルオロ−パラヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸を挙げることができる。これらから選ばれる芳香族ヒドロキシカルボン酸を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。そしてこれらの中でも、パラヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフ
トエ酸の使用が入手の容易性の点で好ましい。
なお、第1の液晶性ポリエステル及び第2の液晶性ポリエステルにおいて、実用的な液晶性を得る観点からは、下記式(2)で表される、パラヒドロキシ安息香酸から誘導されるモノマー単位を、液晶性ポリエステルを構成するモノマー単位の合計に対して少なくとも30モル%含むことが好ましい。
さらに芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジカルボン酸を挙げることができる。これらから選ばれる芳香族ジカルボン酸を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。そしてこれらの中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸の使用が入手の容易性の点で好ましい。
そして本発明における成分Aの第1の液晶性ポリエステルに適用するモノマーとしては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホンから選ばれる芳香族ジオールと、パラヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸から選ばれる芳香族ヒドロキシカルボン酸と、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる芳香族ジカルボン酸を用いる組み合わせが、原料の入手の容易性の点で好ましい。
特に、第1の液晶性ポリエステルとしては、全モノマー単位の合計に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来するモノマー単位を30〜80モル%、芳香族ジオールに由来するモノマー単位を10〜35モル%、芳香族ジカルボン酸に由来するモノマー単位を10〜35モル%有するものが好ましい。かかるモノマー単位からなる第1の液晶性ポリエステルは、荷重たわみ温度が上述した200℃以上の範囲となり易いものであり、このような第1の液晶性ポリエステルは、各モノマーをこれらの割合で配合して重合させることにより得ることができる。
また、第1の液晶性ポリエステルは流動開始温度が270℃以上であることが好ましい。第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度が270℃以上であることによって、耐熱性が良好な基体を得ることができるものである。流動開始温度の上限は特に設定されないが、実用的には350℃程度が上限である。
この流動開始温度は下記の方法で求められたものである。なお、下記の流動開始温度測定法は、当該分野で周知の液晶性ポリエステルの分子量を表す指標である(例えば、小
出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
(流動開始温度測定法)
内径1mm、長さ10mmのノズルをもつ毛細管レオメータを用い、980N/cm2(100kgf/cm2)の荷重下において、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体をノズルから押し出す時に、溶融粘度が48000ポイズを示す温度を測定し、これを流動開始温度とする。JISにおける関連規格は、JIS K6719(1977)である。
そして液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度を低減させるためには、液晶性ポリエステルの剛直性を低下させるモノマー単位を導入する方法が有効である。ここで、液晶性ポリエステルの剛直性を低下させるとは、液晶性ポリエステルの主鎖に屈曲性を与えるモノマー単位(以下、「屈曲性モノマー単位」と呼ぶ)を導入することであり、液晶性ポリエステルの主鎖に屈曲性を与えることによって、荷重たわみ温度を低減させることができるものである。この屈曲性モノマーとしては具体的には、1,2−フェニレン基骨格を有するモノマー単位、1,3−フェニレン基骨格を有するモノマー単位、2,3−ナフタレン基骨格を有するモノマー単位が挙げられる。好ましい1,3−フェニレン基骨格を有するモノマー単位は、レゾルシン又はイソフタル酸から誘導されるモノマー単位であり、好ましい1,2−フェニレン基骨格を有するモノマー単位は、カテコール、フタル酸から誘導されるモノマー単位であり、好ましい2,3−ナフタレン基骨格を有するモノマー単位は、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から誘導されるモノマー単位であり、このように屈曲性モノマー単位としては、芳香族ジオール又は芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸が好ましい。
このとき、第1の液晶性ポリエステルについては、液晶性ポリマーを構成するモノマー単位において、屈曲性モノマー単位が少ないほど、200℃以上の高い荷重たわみ温度が得られる傾向があるので、第1の液晶性ポリエステルを構成するモノマー単位の合計に対して、屈曲性モノマー単位は10モル%未満が好ましく、8モル%以下がより好ましく、6モル%以下が特に好ましい。
一方、第2の液晶性ポリエステルについては、屈曲性モノマー単位の含有量を、第1の液晶性ポリエステルよりも多くすることによって、第2の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度を第1の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度より低くすることができる。具体的には、第2の液晶性ポリエステルを構成するモノマー単位の合計に対して、屈曲性モノマー単位が10モル%以上であることが好ましく、12.5モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることが特に好ましい。ただし、第2の液晶性ポリエステルの実用的な耐熱性を確保する観点からは、第2の液晶性ポリエステルを構成するモノマー単位の合計に対して、屈曲性モノマー単位は45モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましい。
上述のように、本発明に適用する成分Aを構成する第1の液晶性ポリエステル及び成分Bを構成する第2の液晶性ポリエステルは、液晶性ポリエステルの分子量コントロールや液晶性ポリエステルを構成するモノマー単位を変更することによって、種々の組合せで得ることができるものである。
本発明で用いる樹脂組成物において、液晶性ポリエステルとして配合される成分Aの第1の液晶性ポリエステルと成分Bの第2の液晶性ポリエステルの含有率は、成分Aと成分Bの合計質量を100質量%としたとき、成分Bが1〜50質量%であることが好ましい。また本発明の樹脂組成物から得られる基体や、基体に金属被膜を被覆した金属被覆樹脂成形品に関して、より高水準の機械的強度、耐熱性を維持する観点から、より好ましくは成分Bが1〜30質量%の範囲である。例えば250℃のリフローに耐える基体を成形する場合には、成分Bを1〜30質量%の範囲に設定するのが好ましい。
次に、本発明で用いる樹脂組成物の成分Cであるエポキシ基含有エチレン共重合体について説明する。
成分Cのエポキシ基含有エチレン共重合体は、その分子中に、エチレン単位を50〜99.9質量%、不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位及び/又は不飽和グリシジルエーテル単位を0.1〜30質量%含むものである。特に、樹脂組成物から得られる基体の優れた耐熱性および靭性を得るとともに、金属被膜との密着性をさらに高度にするためには、エポキシ基含有エチレン共重合体は、分子中に、エチレン単位を80〜98質量%、不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位及び/又は不飽和グリシジルエーテル単位を2〜15質量%含むことがより好ましい。またこれらの単位の他に、必要に応じて、エチレン系不飽和エステル単位を含んでもよい。この場合は、エチレン系不飽和エステル単位の量は、50質量%未満であることが好ましい。
上記の不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位あるいは不飽和グリシジルエーテル単位を与える化合物としては、それぞれ下記の式(3)、式(4)で表されるものを用いることができる。
(式(3)中、Rは、エチレン系不飽和結合を有する炭素数2〜13の炭化水素基である。)
(式(4)中、Rは前記式(3)と同義であり、Xは以下のいずれかである。)
具体的に、式(3)で表される化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート又はイタコン酸グリシジルエステルが挙げられ、式(4)で表される化合物としては、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、スチレンp−グリシジルエーテルが挙げられる。
また上記のエチレン系不飽和エステル単位を誘導する化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のカルボン酸ビニルエステルやα、β−不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。エチレン系不飽和エステル単位をエポキシ基含有エチレン系共重合体に導入する場合、これらの例示の中でも、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが、とりわけ好ましい。
また、C成分のエポキシ基含有エチレン共重合体として、エチレン、不飽和カルボン酸グリシジルエステル及び/又は不飽和グリシジルエーテルからなる二元系又は三元系共重合体や、任意のモノマーとしてエチレン系不飽和エステルが共重合されてなる三元系もしくはそれ以上の多元系共重合体を使用することができる。
そしてエポキシ基含有エチレン共重合体は、通常、エチレン単位を与える化合物であるエチレンと、不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位及び/又は不飽和グリシジルエーテル単位を与える化合物と、及び必要に応じてエチレン系不飽和エステル単位を与える化合物とを、ラジカル発生剤の存在下、50.7〜405.3MPa(500〜4000気圧)、100〜300℃の条件で、共重合させる方法により製造することができる。かかる共重合反応は、適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
好ましいエポキシ基含有エチレン共重合体としては、例えば、エチレン単位とグリシジルメタクリレートから誘導される単位からなる共重合体、エチレン単位とグリシジルメタクリレートから誘導される単位及びグリシジルメチルアクリレートから誘導される単位からなる共重合体、エチレン単位とグリシジルメタクリレートから誘導される単位及びグリシジルエチルアクリレートから誘導される単位からなる共重合体、あるいはエチレン単位とグリシジルメタクリレートから誘導される単位及び酢酸ビニルから誘導される単位からなる共重合体である。特に、エチレン単位とグリシジルメタクリレートから誘導される単位からなる共重合体が成分Cのエポキシ基含有エチレン共重合体として好ましい。
また、エポキシ基含有エチレン共重合体は、メルトインデックス(MFR:JIS K7210、測定条件:190℃、2.16kg荷重)が0.5〜100g/10分の範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜50g/10分である。メルトインデックスがこの範囲であるエポキシ基含有エチレン共重合体を含む樹脂組成物から得られる基体は、良好な機械物性が得られるものであり、また成分A及び成分Bの液晶性ポリエステルとエポキシ基含有エチレン共重合体との相溶性が高度に得られるものである。
本発明で用いる樹脂組成物において、成分Cのエポキシ基含有エチレン共重合体の含有量は、成分Aと成分Bの液晶性ポリエステルを合計質量100質量部としたとき、0.1〜25質量部の範囲が好ましく、10〜20質量部の範囲がより好ましい。エポキシ基含有エチレン共重合体の含有量が0.1質量部未満であると、成形される基体に対する金属被膜の密着性を高める効果が得られない。また含有量が25質量部を超えると、基体の耐熱性が劣化するとともに、樹脂組成物の成形性が顕著に低下する。
また、本発明に適用する樹脂組成物においては、得られる基体の機械強度を向上させる観点から、必要に応じて無機フィラーを添加してもよい。例えば、ガラス繊維、炭素繊維のような繊維状無機フィラーを樹脂組成物に添加する場合は、繊維状無機フィラーの配合量は、成分Aと成分Bの液晶性ポリエステルの合計質量を100質量部としたとき、5〜500質量部の範囲に設定することが好ましい。繊維状無機フィラーの配合量がこの範囲であると、基体−金属被膜間の密着性を低下させることなく、基体の機械強度を高めることができるものであり、また基体を成形する際に、ウェルドライン領域におけるクラックの発生を効果的に防ぐことができるものである。
前記繊維状無機フィラーの形状については、繊維径は6〜15μmの範囲内で、アスペクト比は5〜50の範囲内であることが好ましい。繊維径が6μm未満であると、樹脂組成物中に無機フィラーを分散させる際や、基体を成形する際に無機フィラーの破損が生じ易く、また樹脂組成物に無機フィラーを均一に分散させることが難しくなる。一方、繊維径が15μmを超えると、無機フィラーの不均一分布のため、基体の機械的特性のバラツキが問題になる恐れがあり、さらに基体の平滑性を損なうことにもなる。この平滑性の低下は、本発明の金属被覆樹脂成形品を回路基板などとして用いる場合に、ワイヤボンディングの信頼性低下の原因になる。また前記繊維状無機フィラーのアスペクト比が5未満であると、ウェルドラインにクラックが生じることを防ぐ効果が低下する。一方、アスペクト比が50を超えると、樹脂組成物の混練時に無機フィラーの損傷が生じ易く、また基体の成形加工性の低下を招く恐れがある。
また、基体の線膨脹率を低減するため、無機フィラーとして、ウィスカを樹脂組成物に混合してもよい。ウィスカを含む樹脂組成物から得られる基体は、寸法安定性に優れるとともに、表面強度が改善されたものを得ることができる。基体の表面強度を向上させると、基体−金属被膜間の密着性向上を図れるとともに、本発明の金属被覆樹脂成形品を回路基板として使用した場合において、バンプ接合の信頼性向上に有効的に寄与する。このウィスカとしては、例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化亜鉛、アルミナ、チタン酸カルシウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、マグネシウムオキシサルフェート等からなるウィスカを用いることができる。チタン酸塩ウィスカやホウ酸塩ウィスカを用いる場合は、基体の線膨脹率を低減する効果が極めて高い。また、チタン酸塩ウィスカを用いた場合は、基体−金属被膜間の密着性向上に加えて、基体の誘電正接を低減することができる。
無機フィラーとして、上記のウィスカのような短繊維状フィラーを用いる場合は、長繊維状フィラーを用いる場合に比べ、基体を成形する際に繊維の配向を抑制することができる。従って、得られる基体は、線膨張率や収縮率に関して異方性が小さい。その結果、基体の反りや変形を低減でき、高い寸法精度を有するものを得ることができる。さらに、この基体は成形時の平面度(初期平面度)に優れると共に、基体の平面度が温度によって変動することを低減できるといった利点もある。
また、基体のより良好な寸法安定性と高強度を得る観点から、タルク、マイカ、ガラスフレーク、モンモリロナイト、スメクタイトなどの板状無機フィラーを使用してもよい。板状無機フィラーは1〜80μm、より好ましくは1〜50μm平均長さを有するとともに、2〜60、より好ましくは10〜40の平均アスペクト比(長さ/厚み)を有することが好ましい。また、金属被膜の密着性を低下させることなく、基体の異方性を抑制し、基体の寸法安定性を高める観点から、板状無機フィラーの配合量は、成分Aと成分Bの液晶性ポリエステル100質量部に対して10〜40質量部であることが好ましい。
前記の繊維状無機フィラー、ウィスカ、板状無機フィラーは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、粉末状や針状の無機フィラーを樹脂組成物に添加してもよい。さらに着色剤として、カーボンブラックなどを添加してもよい。
本発明の金属被覆樹脂成形品は、上記したA成分及びB成分の液晶性ポリエステル、エポキシ基含有エチレン共重合体、および必要に応じて無機フィラー等を含有する樹脂組成物を成形して基体を作製し、次いで得られた基体の表面に金属被膜を形成することにより得られる。金属被膜を構成する金属材料は限定されないが、例えば、銅、ニッケル、金、アルミニウム、チタン、モリブデン、クロム、タングステン、スズ、鉛、及び亜鉛からなる群から選ばれる金属、又はこれらの群から選ばれる2種以上の金属からなる合金を使用することができる。また金属被膜を構成する金属材料は、環境に存在する酸素によって部分的に酸化されていてもよい。
本発明の樹脂組成物から作製される基体の成形プロセスは限定されないが、後述する金属被覆樹脂成形品の熱処理による密着性向上の効果を高めるため、樹脂組成物を、第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度より高い温度で混錬することが好ましい。典型的な基体の成形方法としては、例えば、流動開始温度が320℃の第1の液晶性ポリエステルを含む樹脂組成物を、2軸押出機によって340℃で混錬してペレットを作製し、得られたペレットを所望の形状に射出成形することで基体を成形できる。このように一旦造粒してペレットを得る方法は、造粒しない場合に比べ、後述する熱処理の有無にかかわらず、密着性をさらに高める傾向を有する。射出成形により基体を形成する場合、樹脂組成物の溶融粘度はせん断速度1000/sにおいて100〜200ポイズであることが好ましい。
上記のようにして基体を作製した後、金属被膜を形成する際の前処理として、この基体に対して熱処理を施すことが好ましい。この熱処理としては、樹脂組成物に含まれる第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度より低い温度による熱処理が好ましく、具体的には、第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度をTm1(℃)としたとき、(Tm1−120)℃以上、(Tm1−20)℃以下の温度範囲での熱処理が好ましい。このような熱処理を施すことによって、基体の表面と金属被膜との密着性を一層高めることができるとともに、基体の熱膨張率をさらに低減化することができ、また基体自身の誘電正接を低下させることに対しても効果的である。この熱処理を施して得られる金属被覆樹脂成形品は、高周波特性等に優れた回路基板として好適に使用される。上記の熱処理において、熱処理温度が(Tm1−120)℃を下回ると、密着性の向上効果を十分に得ることができず、また熱処理温度が(Tm1−20)℃を上回ると、基体に反りや変形を生じる恐れがある。なお、熱処理に係る時間は1〜4時間の間であることが好ましい。また、このような熱処理を行う場合、基体の酸化劣化を抑制する観点から、窒素ガスなど不活性ガス雰囲気中で行なうのが好ましい。なお、不活性ガス雰囲気において、残留酸素濃度が1体積%以下であることが好ましく、0.5体積%以下であることがより好ましい。
また、基体の表面に金属被膜を形成するのに先立って、基体の表面にプラズマ処理を施しておくことが好ましい。なお、上記の熱処理を行う場合は、プラズマ処理は熱処理を施す前でも後でもよいが、熱処理の後に実施するのがより好ましい。樹脂組成物中のエポキシ基含有エチレン共重合体は、反応性の高い官能基を有するので、プラズマ処理を施すことによって基体の表面が効果的に活性化されるものであり、金属被膜との密着性改善に及ぼすプラズマ処理の効果は極めて高いものである。
プラズマ処理は、既存のプラズマ処理装置を用いて行なうことができる。例えば、チャンバー内に対向配置された一対の電極と、電極間に高周波電界を印加するための高周波ユニットを備えたプラズマ処理装置を使用することができる。この場合は、基体を一方の電極上に配置し、チャンバーを10−4Pa程度に減圧する。次いで、チャンバー内に窒素ガスやアンモニアガス等のプラズマ形成ガスをチャンバー内圧が8〜15Paになるように導入する。次に、高周波ユニットを用いて電極間に300Wの高周波パワー(13.56MHz)を10〜100秒間印加して電極間にプラズマを発生させ、これにより生成したプラズマ中の陽イオンやラジカルが基体表面に衝突して、基体表面を活性化することができる。ここで、基体表面の活性化とは、プラズマ処理中、陽イオンとの衝突によって、金属と結合し易い窒素極性基や酸素極性基が基体表面に形成されることを意味するものであり、後述のように金属被膜を形成するときに、その密着性がさらに向上するものである。
プラズマ処理条件は、樹脂基板の表面がプラズマ処理によって過度に粗面化されない範囲で、任意に設定できる。また、プラズマ形成ガスの種類も限定されないが、窒素を用いるのが好ましい。窒素プラズマを使用する場合は、酸素プラズマ処理を使用する場合に比べ、基体を構成している液晶性ポリエステルのエステル結合の切断による炭酸ガスの脱離を少なくできるものであり、これにより、基体の表面、より具体的には基体の表層部の強度低下を回避することができるものである。
次に、基体の表面に金属被膜を形成する方法について説明する。
金属被膜の形成には、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングのような物理蒸着法を用いることが好ましい。なお、金属被膜を形成する前の前処理として、上記のように基体にプラズマ処理を施す場合は、この基体を大気に接触させることなく、プラズマ処理と金属被膜の形成を連続して、同一のチャンバー内で実施することが好ましい。
スパッタリングとしてDCスパッタリング法を採用する場合は、例えば、基体を内部に配したチャンバーを10−4Pa以下に減圧し、次いで内圧が0.1Pa程度になるようにアルゴン等の不活性ガスをチャンバー内に導入する。次に、500Vの直流電圧を印加して銅ターゲットをボンバードすることにより、金属被膜として200〜500nmの膜厚の銅被膜を、基体の表面上に形成させて金属被覆樹脂成形品を得ることができる。
真空蒸着として電子線加熱真空蒸着法を採用する場合は、例えば、内部に基体を配したチャンバーを10−4Pa以下に減圧し、400〜800mAの電子流をるつぼの中の銅に衝突させて銅を蒸発させる。これにより、300nm程度の膜厚の銅被膜を金属被膜として、基体の表面に形成させて金属被覆樹脂成形品を得ることができる。
イオンプレーティングを採用する場合は、例えば、内部に基体を配したチャンバーを10−4Pa以下に減圧し、真空蒸着の場合と同様にして銅を蒸発させる。さらに、基体とるつぼの間にアルゴン等の不活性ガスを内圧が0.05〜0.1Paになるように導入する。次に、基体を保持している電極に所望のバイアス電圧を印加した状態で、500Wの高周波パワー(13.56MHz)を誘導アンテナに印加してチャンバー内にプラズマを発生させる。これにより、200〜500nmの膜厚の銅被膜を基体の表面上に形成した金属被覆樹脂成形品を得ることができる。
上記のように、成分A〜Cを含有する樹脂組成物を用いて基体を成形し、必要に応じて熱処理およびプラズマ処理を前処理として実施し、スパッタリングのような物理蒸着法により、基体の表面に金属被膜を形成する一連の方法により、基体の表面と金属被膜との間に高度の密着性を有する金属被覆樹脂成形品を得ることができるものである。特に本発明により得られる金属被覆樹脂成形品は、金属被膜と基体の表面との間に接着剤や薬品などを使用する必要なく、高度の密着性を有するものとなる。また、特許文献1に記載されている従来の金属被覆樹脂成形品では、基体の表層部の機械的強度や靭性の劣化が生じると、基体表面と金属被膜との密着性が低下するといった問題があったが、本発明においては、特定の樹脂組成物、すなわち異なる荷重たわみ温度を有する2種類の液晶性ポリエステルとエポキシ基含有エチレン共重合体とが有効に作用することで、基体の表層部の引き裂き抵抗が大幅に改善されるため、結果として基体の表層部の強度や靭性の劣化を防ぐことができるものである。
本発明の金属被覆樹脂成形品は種々の用途に適用することができるが、とりわけ回路基板として好適に使用することができる。この場合、金属被覆樹脂成形品の金属被膜に回路パターンを形成する必要がある。この回路パターンの形成手段としては、例えば、金属被膜の密着性を低下させることなく、回路パターン以外の不必要な金属被膜を効率よく除去することができる観点から、レーザーパターンニングを採用することが推奨される。本発明の金属被覆樹脂成形品は、金属被膜との密着性を改善するために基体の表面の粗面化処理を行なう必要がないので、これに伴なう回路パターンニングの精度を低下させることなくレーザーパターンニングによって高精度で微細な回路パターンを形成することができるものである。従って、本発明の金属被覆樹脂成形品は、立体回路基板(MID)にも適している。
また、金属被膜にレーザーパターンニングを施した後、形成された回路パターン上に電解メッキにより銅などの金属層を追加して、トータル厚みが例えば5〜20μmになるように回路を形成するようにしてもよい、また回路パターンの形成後、必要に応じて、基体上に残留する不要な金属被膜を確実に除去するためのソフトエッチングを実施するようにしてもよい。さらに、追加金属層上に数μm程度の厚みのニッケルメッキ層や金メッキ層を設けてもよい。このように、本発明の金属被覆樹脂成形品を使用することにより、所望の回路パターンを有する成形回路基板を得ることができるものである。
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
尚、荷重たわみ温度は下記の方法で測定した。すなわち、測定対象のポリマーを用いて長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片を形成し、この試験片について、安田精機製作所社製「ヒートデストーションテスター」を用いてASTM D648に準拠する方法により、1.82MPa(18.6kg/cm2)の荷重で測定した。
(成分A:第1の液晶性ポリエステルの合成)
p−ヒドロキシ安息香酸を911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを409g(2.2モル)、テレフタル酸を274g(1.65モル)、イソフタル酸を91g(0.55モル)及び無水酢酸を1235g(12.1モル)、さらに1−メチルイミダゾールを0.17g秤量し、攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器にこれらを投入し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した。次いで、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、さらに150℃で1時間還流させた。
次に、さらに1−メチルイミダゾール1.7gを加え、副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。内容物から得られた固形分を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、得られた粉末を窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、さらに250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、また285℃で3時間保持し、固相で重合反応を進行させた。
このようにして、第1の液晶性ポリエステルを得た。この第1の液晶性ポリエステルについて流動開始温度を、フローテスター(島津製作所社製「CFT−500型」)を用いて測定したところ、327℃であった。
またこの第1の液晶性ポリマーの一部を造粒によりペレットとし、射出成形により荷重たわみ温度測定用の試験片に加工した。得られた試験片を用いて荷重たわみ温度を測定したところ、241℃であった。
(成分B:第2の液晶性ポリエステルの合成)
p−ヒドロキシ安息香酸を879g(6.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを559g(3.0モル)、イソフタル酸を498g(3.0モル)及び無水酢酸を1348g(13.2モル)、さらに1−メチルイミダゾールを0.19g秤量し、攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器にこれらを投入し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した。次いで、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、さらに150℃で1時間還流させた。
次に、副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。内容物から得られた固形分を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、得られた粉末を窒素雰囲気下、室温から200℃まで1時間かけて昇温し、さらに200℃から298℃まで5時間かけて昇温し、また298℃で3時間保持し、固相で重合反応を進行させた。
このようにして、第2の液晶性ポリエステルを得た。この第2の液晶性ポリエステルについて上記と同様に流動開始温度を測定したところ、318℃であった。またこの第2の液晶性ポリエステルについて上記と同様に荷重たわみ温度を測定したところ、133℃であった。
一方、C成分のエポキシ基含有エチレン共重合体として、住友化学株式会社製の「ボンドファースト」(登録商標)の品番「BF−E」を使用した。この「ボンドファーストBF−E」は、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(グリシジルメタクリレート含有量12質量%、MFR=3g/10分)である。なお、MFR(メルトフローレート)は、JIS−K7210に準拠し、190℃、2160g荷重の条件下で測定した値である。
さらに無機フィラーとして、ミルドガラス繊維(MGF:セントラルガラス(株)製「EFH75−01」(繊維径10μm、アスペクト比10))を使用した。
(実施例1〜4、比較例1,2)
上記の第1の液晶性ポリエステル、第2の液晶性ポリエステル、「ボンドファーストBF−E」、ミルドガラス繊維(MGF)「EFH75−01」を、表1に示す配合量で混合して、樹脂組成物を調製した。尚、実施例1〜4は、第1の液晶性ポリエステルと第2の液晶性ポリエステルの比率を変化させて樹脂組成物を調製したものである。
次に、2軸押出機(池貝鉄工(株)製「PCM−30」)を用いて340℃でこの樹脂組成物のペレットを調製した。そして得られたペレットを、日精樹脂工業(株)製射出成形機「PS40E5ASE」を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃の条件で射出成形し、40mm×30mm×厚さ1mmの基体を得た。
次に、このようにして得られた基体に、窒素雰囲気下、280℃、3時間の条件で熱処理を行なったものと、この熱処理を行なわなかったものの、2種類の基体の表面に、次のようにして金属被膜を形成した。
まず基体の表面をプラズマ処理した後、DCマグネトロンスパッタリング装置を使って金属被膜を形成した。すなわち、基体をプラズマ処理装置のチャンバー内に配置し、チャンバーを10−4Pa程度に減圧した。次にチャンバー内に窒素ガスをチャンバー内のガス圧が10Paになるように導入し、電極間に300Wの高周波(13.56MHz)パワーを30秒間印加することによって、プラズマ処理を基体に施した。
プラズマ処理後、チャンバーを10−4Pa以下になるまで減圧した。この状態で、チャンバー内にアルゴンガスを0.1Paのガス圧になるように導入し、500Vの直流電圧を印加することで銅ターゲットをボンバードし、基体のプラズマ処理した表面に400nmの膜厚の銅被膜からなる金属被膜を形成した。
この後、レーザ照射により金属被膜に幅5mmのパターンを形成し、この金属被膜のパターン上に電解メッキで銅をメッキすることによって、厚み15μmの剥離強度試験用の回路パターンを基体の表面に形成した回路形成基板を得た。
上記のようにして実施例1〜4、比較例1,2で得た回路形成基板について、回路パターンのピール強度と基体の熱変形温度(DTUL:荷重たわみ温度)を測定した。尚、ピール強度の測定は、万能試験機(島津製作所製「EG Test」)を用いて、成形時の樹脂流れに対して垂直方向での90度ピール強度について行なった。結果を表1に示す。また第1の液晶性ポリエステルと第2の液晶性ポリエステルの合計量に対する第2の液晶性ポリエステルの比率と、ピール強度との関係を図1(a)に、熱変形温度(DTUL)との関係を図1(b)に示す。
表1や図1(a)にみられるように、液晶性ポリエステルとして、200℃以上の荷重たわみ温度を有する第1の液晶性ポリエステルに、第1の液晶性ポリエステルの荷重たわみ温度より低い荷重たわみ温度を有する第2の液晶性ポリエステルを併用することによって、ピール強度が向上し、より高度な密着性で金属被膜を形成できることが確認される。この場合、第2の液晶性ポリエステルの含有率が多くなると、図1(b)にみられるように熱変形温度が低くなって耐熱性が低下するので、第2の液晶性ポリエステルの含有率は50質量%以下であることが好ましい。特に第2の液晶性ポリエステルの含有率が30質量%を超えると、図1(b)にみられるように熱変形温度が大きく低下し、しかも図1(a)にみられるように、第2の液晶性ポリエステルの含有率が30質量%を超えてもピール強度の向上の効果はあまりみられない。このため、第2の液晶性ポリエステルの含有率は30質量%以下であることがより好ましい。
また表1や図1(a)にみられるように、基体を熱処理することによって、ピール強度がより高くなっており、密着性の向上の効果を高く得ることができることが確認される。
また、上記の実施例2と比較例1において(熱処理有り)、基体の収縮率を測定した。収縮率は、金型寸法に対する、基体の寸法の収縮率であり、上記した成形条件で平板を作成し、MD(樹脂流れ方向)、とTD(樹脂流れ方向に対し垂直方向)の基体の寸法を測定し、金型寸法との収縮率を計算したものである。結果を表2に示す。
表2にみられるように、実施例2のように第1の液晶性ポリエステルに第2の液晶性ポリエステルを併用することによって、MD(樹脂流れ方向)、とTD(樹脂流れ方向に対し垂直方向)の成形収縮率差が小さくなるものであり、成形反りを低減すると共に基体の寸法を高精度化することができ、またリフロー等による熱変形を抑制することができるものである。
(実施例5〜8、比較例3,4)
上記の第1の液晶性ポリエステル、第2の液晶性ポリエステル、「ボンドファーストBF−E」、ミルドガラス繊維(MGF)「EFH75−01」を、表3に示す配合量で混合して、樹脂組成物を調製した。尚、実施例5〜8は、第1の液晶性ポリエステルと第2の液晶性ポリエステルの比率を変化させ、さらに「ボンドファーストBF−E」の配合量を変化させて樹脂組成物を調製したものであり、実施例6は上記の実施例2と、比較例3は上記の比較例1と同じ配合である。
そしてこの樹脂組成物を用い、上記と同様にして、基体を成形し、熱処理を施し、プラズマ処理を施した後に、銅被膜を形成し、さらにレーザパターニングを行なうことによって、回路形成基板を得た。
この回路形成基板について、回路パターンのピール強度を測定し、結果を表3に示す。
表3にみられるように、第1の液晶性ポリエステルに第2の液晶性ポリエステルを併用した各実施例のものは、第1の液晶性ポリエステルを単独で用いる比較例3よりもピール強度が向上するものであり、また「ボンドファーストBF−E」を増量することによって、ピール強度が向上する傾向を示すものであった。