JP5000795B2 - 固体電解コンデンサの製造方法 - Google Patents

固体電解コンデンサの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体電解コンデンサの製造方法に係り、特に、優れた電気的特性を得ることができるように、コンデンサ素子のサイズによって、モノマー及び酸化剤の含浸量を変えた固体電解コンデンサの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
固体電解コンデンサは、電解質として導電性を有する固体の電解質を用いるもので、なかでも二酸化マンガンや7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体を用いた固体電解コンデンサが知られている。その一方で、固体電解質として各種の導電性高分子についての検討が重ねられており、反応速度が緩やかで、かつ陽極電極の酸化皮膜層との密着性に優れたポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDTと記す)に着目した技術(特開平2−15611号公報)が存在している。
【0003】
例えば、巻回型のコンデンサ素子にPEDTからなる固体電解質層を形成するタイプの固体電解コンデンサは、化成→コンデンサ素子形成→浸漬法によるEDTと酸化剤の含浸→重合→外装ケースへの挿入→樹脂封止→エージングという製造工程によって作製される。以下には、この製造工程について、図5および図6を参照して簡単に説明する。
【0004】
まず、図6に示すように、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔1の表面を塩化物水溶液中での電気化学的なエッチング処理により粗面化して、多数のエッチングピット8を形成した後、ホウ酸アンモニウム等の水溶液中で電圧を印加して誘電体となる酸化皮膜層4を形成する(化成)。陽極箔1と同様に、図5に示すような陰極箔2も、アルミニウム等の弁作用金属からなるが、その表面にはエッチング処理を施すのみである。また、図5に示すように、陽極箔1および陰極箔2には、それぞれの電極を外部に接続するためのリード線6、7を、ステッチ、超音波溶接等の公知の手段により接続する。
【0005】
次に、以上のようにして表面に酸化皮膜層4が形成された陽極箔1とエッチングピット8のみが形成された陰極箔2とを、図5に示すようにセパレータ3を介して巻回して、コンデンサ素子10を形成する。そして、このコンデンサ素子10を3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、EDTと記す)と酸化剤の混合溶液(重合液)に浸漬することにより、この重合液をコンデンサ素子10に含浸する。あるいはまた、コンデンサ素子10をEDTと酸化剤溶液に交互に浸漬して含浸する。いずれの場合でも、コンデンサ素子10にEDTと酸化剤を含浸した後、重合反応させ、図6に示すようなPEDTからなる固体電解質層5を生成する。
【0006】
この後、コンデンサ素子1を図示していない外装ケースに挿入し、この外装ケース内にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を付着して熱硬化させることによって、コンデンサ素子10の外周に外装樹脂を被覆し(樹脂封止)、固体電解コンデンサを完成する。なお、このように樹脂封止を行うと、酸化皮膜層4が損傷して漏れ電流特性が低下するため、樹脂封止後に、コンデンサ定格電圧に応じた電圧を印加して高温のエージングを行うことにより酸化皮膜層4を修復し、特性の向上を計っている。
【0007】
このような固体電解コンデンサにおいて、ショートの発生及び静電容量が小さく、等価直列抵抗(ESR)が高く、バラツキも大きいといった問題を解決するために、本出願人は、コンデンサ素子に対するEDTと酸化剤の含浸量の最適範囲に関する発明について、先に特許出願した。
【0008】
なお、先の発明は、上述したような従来方法によるコンデンサの製造段階において、コンデンサ素子の状態の詳細な観察と電気的特性の測定とを重ねることにより、ショートの発生や電気的特性の低下の原因がPEDTの形成不良にあるものと推測し、この不良の分析と状態改善のために検討した結果、なされたものである。
【0009】
すなわち、コンデンサ素子に対するEDTと酸化剤の含浸量を、コンデンサ素子に含浸し得る液体の最大容量の75〜85%の範囲内に限定することにより、コンデンサ素子内部にPEDTが良好に形成されるため、十分な静電容量を保持できると共に、等価直列抵抗(ESR)を低く維持することができるというものである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、固体電解コンデンサのタイプは種々あることから、本発明者は、種々の固体電解コンデンサについて、モノマーと酸化剤の含浸量をコンデンサ素子が含浸し得る量の75〜85%の範囲内として、それぞれ電気的特性を調べたところ、コンデンサ素子のサイズによって、ESRの値が変動することが判明した。
【0011】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、コンデンサ素子のサイズによって、モノマーと酸化剤の含浸量を適切に調整することにより、ショートの発生を防止し、しかも、十分な静電容量を保持すると共に、等価直列抵抗(ESR)を低く維持することができる固体電解コンデンサの製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく、コンデンサ素子のサイズ(長さと径の比)と、モノマーと酸化剤の含浸量及びESRとの関係について鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明者は、コンデンサ素子の長さ(L)と径(R)の比を種々変え、所望のESR値が得られる含浸量を調べた結果、コンデンサ素子の長さが径より小さい場合に、コンデンサ素子に対するモノマーと酸化剤の含浸量を、コンデンサ素子に含浸し得る液体の最大容量の85%以上とすることが望ましく、特に、コンデンサ素子の長さと径の比(L/R)が0.9以下の場合には、モノマーと酸化剤の含浸量を、コンデンサ素子に含浸し得る液体の最大容量の90%以上とすることが望ましいことが判明した。
【0013】
なお、コンデンサ素子へのモノマーと酸化剤の含浸量は、以下のようにして変化させた。すなわち、まず、ブタノールをコンデンサ素子に染み込ませ、その重量を測定し、密度から体積に換算することで、素子の溶液保持体積を計算した。その体積から、モノマー及び酸化剤の注入量(含浸量)を計算し、その値に基づいて重合液の注入量を種々変化させた。
【0014】
(1)コンデンサ素子の長さ(L)と径(R)の比が大きい場合
巻回したコンデンサ素子が横置きタイプで、コンデンサ素子の長さが径より大きい場合、言い換えれば、コンデンサ素子の長さと径の比が大きい場合に、含浸量を90%以上とすると、ESRは上昇することが分かった。
例えば、本出願人が先に特許出願した明細書に示したように、コンデンサ素子の長さが4.0L、径が3.5φ(L/R=1.1)の場合、EDTと酸化剤の含浸量がコンデンサ素子が含浸し得る量の75〜85%であると、ESRは0.045〜0.049であったのに対し、含浸量を90%以上とすると、ESRは0.062〜0.080に上昇した。
【0015】
その理由は、以下の通りと考えられる。すなわち、固体電解質の重合反応の際に、コンデンサ素子内の酸化剤の溶媒が蒸発するが、コンデンサ素子の径が長さに対して小さいので、この溶媒の外部への蒸散経路は長く、狭くなる。このため、含浸量を90%以上とすると、コンデンサ素子内の酸化剤の溶媒が蒸発する際に、モノマー、酸化剤又はポリマーをコンデンサ素子の外部へ押し出す要因となり、ポリマーの形成が良好に行われず、ESRが上昇すると考えられる。
【0016】
一方、EDTと酸化剤の含浸量を75〜85%とすると、酸化剤の溶媒の量も少なくなり、乾燥、揮発する溶媒の量も減少するので、溶媒が揮発する際にコンデンサ素子の外表面に押し出されるEDTもしくは酸化剤の量も少なくなる。その結果、コンデンサ素子内部に形成されるPEDTの量が減少することはなく、十分な量のPEDTが良好に形成されるため、静電容量が低下することもなく、等価直列抵抗(ESR)が上昇することもないと考えられる。
【0017】
(2)コンデンサ素子の長さ(L)と径(R)の比が小さい場合
巻回したコンデンサ素子が縦置きタイプで、コンデンサ素子の長さが径より小さい場合、言い換えれば、コンデンサ素子の長さと径の比が小さい場合に、含浸量を75〜85%とするとESRが上昇し、含浸量を85%以上とすると、ESRは低下することが判明した。
その理由は、以下の通りと考えられる。すなわち、コンデンサ素子の径が長さに対して大きいので、コンデンサ素子内の酸化剤の溶媒の外部への蒸散経路は短く、広くなる。このため、含浸量を85%以上としても、この溶媒が蒸発する際に、モノマー、酸化剤又はポリマーがコンデンサ素子の外部へ押し出されることはなく、また、含浸量を多くしたことにより、コンデンサ素子内に形成されるポリマーは多くなるので、ESRは低下すると考えられる。
【0018】
一方、横置きタイプと同様に、含浸量を75〜85%とした場合にESRが上昇したのは、巻回した電極箔を伸ばした状態において、電極箔の幅に対してその長さが長くなるために、電極箔の抵抗分が大きくなるためであると考えられる。
【0019】
(3)固体電解コンデンサの製造工程
化成からコンデンサ素子形成に至るまでの手順は、前述した従来技術の手順と同様である。すなわち、図6に示すように、陽極箔1を粗面化してその表面に酸化皮膜層4を形成する(化成)と共に、陰極箔2を粗面化し、これらの陽極箔1と陰極箔2をセパレータ3を介して巻回して、コンデンサ素子10を形成する。
【0020】
次に、このコンデンサ素子10のサイズに合わせて最適な含浸量を選定し、その含浸量で、EDTと酸化剤をコンデンサ素子10に含浸する。この含浸は、コンデンサ素子10に対してEDTと酸化剤の混合溶液(重合液)を注入することによって行う。あるいはまた、コンデンサ素子10に対してEDTと酸化剤溶液を交互に注入するか、酸化剤溶液とEDTを交互に注入することによって行う。いずれの場合でも、注入は、コンデンサ素子10に対してシリンジから液体を吐出する方法で行う。このようにして、コンデンサ素子10にEDTと酸化剤を含浸した後、重合反応させ、図6に示すようなPEDTからなる固体電解質層5を生成する。
【0021】
次に、固体電解質層5を形成したコンデンサ素子1を、図示していない外装ケースに挿入し、この外装ケース内にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を付着して熱硬化させることによって、コンデンサ素子10の外周に外装樹脂を被覆し(樹脂封止)、固体電解コンデンサを完成する。そして、この後に、コンデンサ定格電圧に応じた電圧を印加して高温のエージングを行うことにより、樹脂封止に起因して損傷した酸化皮膜層4を修復する。
【0022】
(4)含浸法について
また、本発明において、コンデンサ素子にEDTと酸化剤を含浸する際の含浸法を検討したところ、EDTと酸化剤の混合溶液を含浸することもできるし、EDTと酸化剤を個別に順次含浸する(EDTを含浸した後に酸化剤溶液を含浸するか、あるいは、酸化剤溶液を含浸した後にEDTを含浸する)こともできることが判明した。
【0023】
なお、EDTと酸化剤の混合溶液におけるEDTの含有率の許容可能な範囲は、5〜40wt%であり、酸化剤溶液の含有率の許容可能な範囲は、60〜95wt%である。
また、EDTを含浸した後に酸化剤溶液を含浸する場合に、EDTのみを含浸することも可能であるが、EDTと揮発性溶媒とを混合したモノマー溶液を含浸することも可能である。このモノマー溶液の溶媒としては、炭化水素類、エーテル類、ケトン類、アルコール類、窒素化合物等の揮発性溶媒が用いられる。
【0024】
なお、このようにEDTを揮発性溶媒で希釈することにより以下のような利点がある。すなわち、コンデンサ素子の容量に対して、含浸するEDTの量が少ないと、EDTを注入しても素子全体に含浸されないことがある。しかしながら、このような場合、揮発性溶媒で希釈すれば、注入する容量を増加させることができ、このことによって、コンデンサ素子全体に含浸させることができ、コンデンサ素子の内部により緻密で均一なPEDTを形成することができる。
【0025】
また、上記の製造方法においては、EDTと酸化剤の含浸に際して、シリンジから含浸液を吐出してコンデンサ素子に注入しているが、含浸液の具体的な注入法は適宜選択可能である。また、EDTと酸化剤の含浸は、このような注入法に限定されるものではなく、浸漬法を採用することも可能であるが、一般的には注入法を採用することが望ましい。すなわち、注入法を採用した場合の方が、第1に、含浸する液量の管理が容易であり、第2に、原料効率が低下することがない。第3に、酸化剤の特性の変化がないので、安定した特性を得ることができる。
また、ショートの発生もない。
【0026】
また、本発明は、コンデンサ素子のタイプによって、コンデンサ素子に含浸し得る液体の最大容量に対してEDTと酸化剤の含浸量の範囲を限定するものであるため、具体的な酸化剤や溶媒の種類は適宜選択可能である。これに関連して、コンデンサ素子に含浸する重合液中におけるEDTと酸化剤の含有率は、前述した許容範囲内で自由に選択可能である。すなわち、EDTの含有率の許容可能な範囲は5〜40wt%であり、酸化剤溶液の含有率の許容可能な範囲は60〜95wt%である。
【0027】
【実施例】
より具体的に、図5の構造を持つ固体電解コンデンサとして、次の表1に示す製造仕様により、EDTと酸化剤の含浸量の異なる複数種類の固体電解コンデンサを作製した。
【表1】
Figure 0005000795
【0028】
ここで、EDTと酸化剤の含浸量、すなわち、重合液の注入量の異なる複数種類の固体電解コンデンサとしては、コンデンサ素子に含浸し得る液体の最大容量に対して、重合液の注入量をそれぞれ、81%(比較例1)、88%(比較例2)、94%(実施例1)としてPEDTを形成してなる3種類の固体電解コンデンサを、それぞれ20個作製した。
【0029】
そして、これらの固体電解コンデンサについて、静電容量(Cap)、tanδ、漏れ電流(LC)、等価直列抵抗(ESR)の初期特性をそれぞれ測定したところ、図1〜図4に示す結果が得られた。なお、図1〜図4に示した値は、20個の試料の平均値である。また、各測定条件は、Cap:120Hz、tanδ:120Hz、LC:定格電圧2分、ESR:100kHzである。また、次の表2は、図1〜図4の結果を集計した表である。
【表2】
Figure 0005000795
【0030】
この表2および図1から明らかなように、コンデンサ素子の長さ(L)と径(R)の比が“0.45”の場合、静電容量(Cap)については、比較例1が36.5(μF)であるのに対し、比較例2が37.5(μF)、本発明に係る実施例1は37.8(μF)と高い値を示し、含浸量が多い方が良好な結果が得られた。また、表2および図4から明らかなように、等価直列抵抗(ESR)については、比較例1及び比較例2がそれぞれ0.0238Ω、0.0228Ωとかなり高いのに対し、実施例1は、0.0195Ωと格段に低くなっている。
【0031】
このように、比較例1及び比較例2に比べて、本発明に係る実施例1は、十分に高い静電容量を保持すると共に、等価直列抵抗(ESR)を低く維持することができることが分かった。
【0032】
次に、上記の比較例1及び比較例2と実施例1について、コンデンサ素子の保持体積に対する重合液の注入量の割合と、生成されるPEDTの量を調べたところ、表3に示す結果が得られた。
【0033】
【表3】
Figure 0005000795
【0034】
この表3から明らかなように、コンデンサ素子の長さ(L)と径(R)の比が“0.45”の場合、重合液の注入量が81%、88%ではPEDTの生成量はそれぞれ4.5mg、4.7mgと少なかったが、重合液の注入量を94%とした場合には、PEDTの生成量は5.5mgと、比較例に比べて約22%も増大した。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、コンデンサ素子のサイズによって、モノマーと酸化剤の含浸量を適切に調整することにより、ショートの発生を防止し、しかも、十分な静電容量を保持すると共に、等価直列抵抗(ESR)を低く維持することができる固体電解コンデンサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】重合液の注入量の異なる複数種類の固体電解コンデンサについて、静電容量の初期特性を測定した結果を示す図
【図2】重合液の注入量の異なる複数種類の固体電解コンデンサについて、tanδの初期特性を測定した結果を示す図
【図3】重合液の注入量の異なる複数種類の固体電解コンデンサについて、漏れ電流(LC)の初期特性を測定した結果を示す図
【図4】重合液の注入量の異なる複数種類の固体電解コンデンサについて、等価直列抵抗(ESR)の初期特性を測定した結果を示す図
【図5】本発明が対象とするコンデンサ素子の一例を示す分解斜視図
【図6】図5のコンデンサ素子の陽極箔を示す拡大断面図
【符号の説明】
1…陽極箔
2…陰極箔
3…セパレータ
4…酸化皮膜層
5…固体電解質層
6,7…リード線
8…エッチングピット
10…コンデンサ素子

Claims (1)

  1. 陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDT)と酸化剤とを含浸してポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)を生成する固体電解コンデンサの製造方法において、
    コンデンサ素子への3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDT)と酸化剤との含浸を、コンデンサ素子に対して3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDT)と酸化剤とを注入する注入法によって行い、
    コンデンサ素子の長さをL、径をRとしたとき、L/Rが0.45以下の場合に、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDT)と酸化剤の含浸量を、コンデンサ素子に含浸し得る液体の最大容量の94%以上としたことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
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