画像形成装置構成例:図22に、本発明が好適に適用できる画像形成装置の断面図を示す。この画像形成装置は、その全体が上部と下部とから構成されている。
前記上部は、その上方に図示しない自動原稿搬送装置と、その下方に詳細を図示しない光学要素からなる光学ユニットを有し、さらにその下方に位置する作像系の各ユニットを有しており、前記下部は、複数のサイズの記録部材Pがそれぞれ載置された複数の給紙トレイが収納された給紙ユニットを有している。
符号41は回転体からなる像担持体の一例であってドラム形状の感光体を示している。この感光体41のまわりには、矢印で示す向きの回転方向順に、帯電ローラからなる帯電装置42、露光手段の一部を構成するミラー43、現像ローラ44Aを備えた現像手段44、記録部材Pとしての転写紙に現像画像を転写する転写装置48、感光体41の周面に摺接するブレード46Aを具備したクリーニング手段46などが配置されている。感光体41上には帯電装置42と現像ローラ44Aとの間にはミラー43を介して露光光LBが走査されるようになっている。この露光光LBの照射位置を露光部150と呼ぶ。
転写装置48は感光体41の下面と対向している。この対向している部位が転写部47であり、この転写部47には転写装置48が設けられている。
該転写部47のさらに記録部材Pの搬送経路の上流側の位置には一対のレジストローラ49が設けられている。このレジストローラ49に向けて、搬送ガイドに案内されて給紙トレイ40に収納された記録部材P が給紙コロ110から送り出されるようになっている。転写部47のさらに記録部材Pの搬送経路の下流の位置には、定着装置20が配置されている。定着装置20の記録部材Pの搬送経路の下流には自動両面装置39が配置されている。
この画像形成装置において、画像形成は次のようにして行われる。感光体41が回転を始め、この回転中に感光体41が暗中において帯電装置42により均一に帯電され、露光光LBが露光部150に照射、走査されて作成すべき画像に対応した潜像が形成される。この潜像は感光体41の回転により現像装置44 に移動してきて、ここでトナーにより可視像化されてトナー像が形成される。
一方、給紙コロ110により給紙トレイ上の記録部材Pの送給が開始され、破線で示す搬送経路を経て一対のレジストローラ49の位置で一旦停止し、感光体41上のトナー像と転写部47で合致するように送り出しのタイミングを待つ。かかる好適なタイミングが到来するとレジストローラ49に停止していた記録部材Pはレジストローラ49から送り出され、転写部47に向けて搬送される。
感光体41上のトナー像と記録部材Pとは、転写部47で合致し、転写部材48による電界により、トナー像は記録部材P上に転写される。
こうして感光体41まわりの画像形成部でトナー像を担持した記録部材Pは定着装置20に向けて送り出される。記録部材P 上のトナー像は定着装置20 を通過する間に当該記録部材Pに定着されて排紙部に排紙される。
また、画像形成装置1は記録部材Pの両面に画像形成をすることができる。図示しない分岐爪により自動両面装置39へ排紙された記録部材Pは自動両面装置39でスイッチバック反転され、レジストローラ49の手前の搬送経路に搬送される。
一方、転写部47で転写されずに感光体41上に残った残留トナーは感光体41の回転と共にクリーニング装置46に至り、該クリーニング装置46を通過する間に清掃されて次の画像形成に備えられる。
実施例1(請求項1、2):実施例を図を用いて説明する。
図1は本実施例における定着装置20の断面図である。定着装置20は、定着部材である定着ローラ2、定着ローラ2とニップ領域を形成する加圧ローラ4、磁界発生手段である励磁コイル3、励磁コイル3を巻きつけるボビン301、コイルの鉄芯となるフェライトコア5、過昇温防止部材6により構成されている。
定着ローラ2は外径40mmであり、励磁コイル3より発生した磁界が定着ローラ2を誘導加熱する。
定着ローラ2は不図示の駆動部によって図1の時計方向に回転駆動される。
記録部材Pは定着ローラ2と加圧ローラ4が構成するニップ領域を通過することにより、定着ローラ2から熱を与えられ加熱される。
(コイル形状)励磁コイル3は、表面が絶縁された外径0.15mmの銅製の線材を90本束ねた線束を、定着ローラ2の内部に配置されたボビン301に周回する事で形成する。線材を回転軸方向に延伸し周回させる。
フェライトコア5は前記定着ローラ2の周面に対向する位置かつコイルの背後に配置されている第一のコア5Aと前記コイルを介さない前記定着ローラ2の周面に対向し、前記第一のコア5Aよりも前記定着ローラ2に近接する位置に配置される第二のコア5Bにより構成されており、励磁コイル3より発生した磁束を、定着ローラ2の発熱させたい箇所に集中させる構成となっている。
(本実施例では定着ローラのニップ領域手前の部分)第一のコア及び第二のコアの材質は強磁性体かつ電気抵抗率の高いものが望ましい。フェライトの他にはパーマロイ等の材料が挙げられる。
(定着ローラ構成)定着ローラ2は、図2に示すように、定着ローラ外周からローラ中心方向に向かって、離型層23、弾性層22、発熱層21の順に構成されている。
(発熱層)発熱層21は、磁性導電性材料により構成されている。ここで、発熱層21の材料として、キュリー点が定着可能温度以上であって300度以下となる整磁合金を用いている。具体的には、ニッケル、鉄、クロムの合金であって、各材料の添加量と加工条件とを調整することで所望のキュリー点を得ることができる。このように、キュリー点が定着ローラ2の定着温度近傍となる磁性導電性材料にて発熱層21を形成することで、定着ローラ2は電磁誘導によって過昇温されることなく加熱されることになる。
本実施の形態1では、発熱層21には過昇温を確実に防止するためキュリー点が180度である整磁合金を使用した。
このように、キュリー点が定着温度近傍となる磁性導電性材料にて発熱層21を形成することで、定着ローラ2は電磁誘導によって過昇温されることなく加熱されることになる。
発熱層21の肉厚は100μmと薄くして、熱容量を小さくする構成とした。本構成では、発熱層21の厚さは、印加する交流電流の周波数における、発熱層21の温度がキュリー点以下の時の電流の浸透深さ以上の厚みであることが望ましい。これにより電磁誘導によって過昇温が発生する事が防止できる。
(浸透深さの説明)交番電流によってできる交番磁束が金属に誘導する渦電流は、金属の表面に近いほど大きく、内部になるにつれて指数関数的に小さくなる。金属が磁性体である時、誘導される渦電流はさらに金属表面に集中する。
渦電流が表面における電流密度の0.368倍に減少した点での表面からの深さを電流の浸透深さδと呼び式1で表される、金属表面から浸透深さより内部に流れる渦電流は表面と比較して非常に小さく誘導加熱にほとんど影響を与えない。
金属の厚さが浸透深さ以上であれば、金属表面から進入した磁束は金属層中でエネルギーを消失し、金属板をほとんど透過することができなくなる。
(式1)ρ:金属の体積抵抗率(Ω・m) μ:金属の比透磁率 f:交番電流の周波数(Hz)
すなわち、発熱層21の厚さを浸透深さよりも著しく薄い厚さになってしまうと、整磁合金の温度がキュリー点以下で磁性の状態であっても、コイルの磁束が整磁合金を透過してしまうため、発熱層21に誘導加熱のエネルギーを集中させることができない上に、自己温度制御能力が低下する。
したがって発熱層21の厚さは発熱層21の温度がキュリー点以下の時の電流の浸透深さ以上の厚みであることが望ましい。
しかしながら発熱層21の厚さを大幅に厚くしてしまうと、定着ローラ2の熱容量が増加するため、定着ローラ2の昇温速度が鈍化してしまう。
本構成では25kHzの交流電流により誘導加熱を行った。本実施例で使用した整磁合金の25kHzで温度がキュリー点以下時の、浸透深さは約80μm整磁合金の厚さとしては80μm以上であることが好ましく、厚さの上限は、熱容量の観点から1.5mm程度が望ましい。
(弾性層)定着ローラ2の弾性層22は、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等からなり、層厚が50〜500μmでアスカー硬度が5〜50度となるように形成されている。これにより、出力画像において、光沢ムラのない均一な画質を得ることができる。
(離型層)定着ローラ2の離型層23は、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂、これらの樹脂の混合物、又は、これらの樹脂を耐熱性樹脂に分散させたものである。
離型層23の層厚は、5〜50μm(好ましくは、10〜30μmである。)に形成されている。これにより、定着ローラ2上のトナー離型性が担保されるとともに、定着ローラ2の柔軟性が確保される。なお、定着ローラ2の各層21〜23の間に、プライマ層等を設けることもできる。
(過昇温防止部材)過昇温防止部材6は定着ローラの外側かつ、励磁コイルと対向する位置に配置されている。過昇温防止部材は、発熱層21がキュリー点以上の温度になった時に、励磁コイル3から発生する磁界の範囲内に配置されていれば良い。
また、過昇温防止部材6は非磁性かつ、発熱層21の体積抵抗率よりも低い体積抵抗率を有する導電性材料で形成されている。
発熱層21の体積抵抗率が3.6×10−7Ω・mであるために、過昇温防止部材6は体積抵抗率が3.6×10−7Ω・mよりも低い材料にて形成されている。具体的には、体積抵抗率が3.0×10−8Ω・m以下となる、銅、アルミニウム、金、銀、等を用いることが好ましい。
本実施の形態1では、過昇温防止部材の材料として、非磁性材料のアルミを用いている。非磁性かつ電気的に良伝導の部材を使用することで、過昇温防止部材6自身の発熱を抑えつつ磁束を遮蔽する効果を得ることができる。
詳しく説明すると、コイルから発生した磁束が金属を貫くと、貫いた磁束を打ち消す方向に、金属に逆起電力が発生し、金属層中に渦電流が流れる。金属層中に渦電流が流れると、金属はコイルから発生した磁束を打ち消す方向に、磁束を発生させる(反作用磁界)とともに、金属の実効抵抗によりジュール熱も発生させる。従って、誘導加熱は実効抵抗の大きな金属を発熱体にすると効率の良い加熱が行える。
しかし、非磁性かつ低抵抗の材料は実効抵抗が小さいため、ジュール熱による発熱が非常に小さく、コイルから発生した磁界に対する反作用磁界を多く発生させる。従って、過昇温防止部材6は非磁性かつ、発熱層21の体積抵抗率よりも低い体積抵抗率を有する導電性材料で形成されている。
また、過昇温防止部材の厚さは浸透深さ以上であることが望ましい。過昇温防止部材の厚さを厚くすることにより、過昇温防止部材の実効抵抗を低くすることができるため、過昇温防止部材の発熱を小さくし、なおかつコイルから発生した磁界に対する反作用磁界を多く発生させることができる。
過昇温防止部材を薄くしすぎると実効抵抗が高くなってしまい、過昇温防止部材自身の発熱量が大きくなってしまい自己温度制御能力が低下する。浸透深さ以上の厚みを有していれば、過昇温防止部材表面から進入した磁束は部材中でエネルギーを消失し、過昇温防止部材をほとんど透過することができなくなるため、浸透深さよりも著しく厚くする必要は無い。これにより発熱抑制効果を大きくすることができる。
本構成では25kHzの交流電流により誘導加熱を行う構成であるため、過昇温防止部材であるアルミニウムの厚さは0.5mm以上が望ましい。本構成では過昇温防止部材6の厚さは1mmとした。
(定着装置20の動作)このように構成された定着装置20は、次のように動作する。加圧ローラ4の回転駆動によって、定着ローラ2は図1中の矢印方向に回転する。定着ローラ2は発熱層21の発熱により加熱される。
詳しくは、励磁コイル3に10kHz〜1MHzの高周波交番電流を流すことで、励磁コイル3のループ内に磁力線が双方向に交互に切り替わるように形成される。このように交番磁界が形成されることで、発熱層21に渦電流が生じて、ジュール熱が発生し、発熱層21が誘導加熱される。こうして発熱した定着ローラ2からの熱により、搬送される記録媒体P上のトナー像Tを加熱して溶融する。
このような定着工程において、発熱層21の温度がキュリー点を超えた場合には、定着ローラ2の発熱が制限されることになる。
(整磁合金の自己温度制御メカニズム)整磁合金による自己温度制御メカニズムを従来技術を例に用いて説明する。
図3は従来技術の定着装置20の断面図である。本実施例と違いは、過昇温防止部材を有していない点であり、その他の構成は同じである。
図4は従来技術の定着装置20の誘導加熱に関する部分を抜き出した概略図である。図4(A)は整磁合金の温度がキュリー点以下である時にコイル3から発生する磁束Aの様子を表している。
整磁合金の温度がキュリー点以下である時にはコイル3から発生する磁束Aは、コア5を経路として発熱層21を通り、再びコア5に戻る。この時、発熱層21である整磁合金は磁性体であるため、磁束は発熱体に集中する。そして発熱層21に誘導電流が流れジュール熱により発熱する。
一方、整磁合金の温度がキュリー点以上になった時にコイル3から発生する磁束は図4(B)に示した磁束Bのようになる。コイル3から発生する磁束Bは、基本的な経路をコア5とするところに変化は無いが、発熱層21である整磁合金の温度がキュリー点以上になり、整磁合金が非磁性体となったため、磁束Bは発熱体21には集中せず、発熱層21とコイル3の間の空間や、定着ローラ外の空間に分散する。
この結果、発熱層21に電流を誘導する磁束が減少してしまうため、発熱量が小さくなるこの磁束A,Bの違いにより、整磁合金の温度がキュリー点以上に昇温すると発熱量が小さくなり自己温度制御機能が働く。
(従来技術の課題)しかしながら従来技術は、自己温度制御能力が過昇温を確実に防止するには充分ではないという課題がある。
図3の従来技術の定着装置を用いて、幅方向サイズの小さな紙の連続通紙試験を行った時の定着ローラの温度の経時変化を図5に示す。
図5には、「発熱層にNiを使用した定着ローラ」と、「発熱層に整磁合金を使用した定着ローラ」の非通紙領域の温度を示した。また、参考のために通紙領域の定着ローラの温度も示した。
連続通紙が始まると、定着ローラの紙が接触する「通紙領域」の温度は定着設定温度である170℃を維持するように制御される。そのため、紙から熱量が奪われない「非通領域」の定着ローラ端部の温度は上昇していく。発熱層にNiを使用している装置はそのまま端部が昇温しつづける。
発熱層に整磁合金を使用した定着ローラは、整磁合金の温度がキュリー点を超える事により発熱量が制限されて、端部の昇温が鈍化している事がわかる。
しかしながら、端部の昇温が完全に停止するわけではなく、端部の温度は徐々に上がっていってしまう。従来技術の発熱層に整磁合金を用いた定着装置では、連続通紙開始から3分を経過した時点で端部の温度が200℃以上となった。
したがって、従来技術では3分以上の小サイズの連続通紙時には、端部の過昇温を整磁合金だけでは防止することができず、所定の枚数を通紙後、通紙を一時停止して端部の温度を低下させる等の温度制御が必要となってしまい、画像形成の効率が著しく低下してしまう。
本願発明者は鋭意検討の結果、過昇温防止部材6を定着ローラ2の外側かつ、励磁コイル3と対向する位置に配置することにより、上記課題を解決できることがわかった。
(本発明の優位性の説明)図6は図1の定着装置20の図から、誘導加熱に関する部分を抜き出した概略図である。
図6(A)は整磁合金の温度がキュリー点以下である時にコイル3から発生する磁束Aの様子を表している。
整磁合金の温度がキュリー点以下である時、磁束Aの様子は図4(A)の従来技術と同様
コア5を経路として発熱層21を通り、再びコア5に戻る。
一方、整磁合金の温度がキュリー点以上になった時にコイル3から発生する磁束は図6(B)に示した磁束Bのようになる。
定着ローラ外に漏れ出した磁束は、コイルが発する磁界の範囲内に設置された過昇温防止部材に進入する。したがって磁束Bは発熱層21、過昇温防止部材6を含めた磁気回路を形成することになる。
過昇温防止部材6には非磁性かつ低抵抗であるアルミを使用しているため、誘導電流は、体積抵抗率の低い過昇温防止部材6に多く流れ、発熱層21の発熱が非常に小さくなる。
また、アルミは誘導加熱による発熱が非常に小さく、過昇温防止部材6が高温になることはない。
図7には、交流磁場解析シミュレーションにより計算した本実施例と従来例の発熱層21の発熱量を示す。
図7(A)は従来例の、整磁合金の温度がキュリー点以下の時(T<Tc)の発熱量と、整磁合金の温度がキュリー点以上の時(T>Tc)の発熱量を、図7(B)は本実施例の、整磁合金の温度がキュリー点以下の時(T<Tc)の発熱量と、整磁合金の温度がキュリー点以上の時(T<Tc)の発熱量をそれぞれ示している。
本実施の形態と同様の定着ユニットのコイルに25kHzの交番電圧をかけた時の発熱層21の発熱量を比較している。
従来例では、整磁合金の温度がキュリー点以上(T>Tc)になることにより発熱量が43%抑制されるのに対して、本実施例では、整磁合金の温度がキュリー点以上(T>Tc)になることにより発熱量が90%以上抑制されることから、非常に発熱抑制効果が向上することがわかる。
図8は、本実施の形態の定着装置に、幅方向サイズの小さな紙の連続通紙試験を行った時の、定着ローラの非通紙領域の温度の経時変化である。
また、図5の従来技術の定着ローラの非通紙領域の温度も示す。
図8より、本実施の形態の定着装置では、通紙が開始された後、整磁合金の温度がキュリー点を超えると発熱量が制限されて、端部の昇温がほぼ停止している事がわかる。したがって、本実施例では小サイズの紙を長時間連続通紙しても端部昇温の課題は発生しない。
(漏れ磁束に関して)また、本実施例では整磁合金の温度がキュリー点以上(T>Tc)になった時に定着ローラ外に放出される漏れ磁束を減少させることが出来る。
誘導加熱を用いた定着装置では、励磁コイルから発生した磁束の内、定着ローラの加熱に使用されなかった磁束は、漏れ磁束として定着装置周辺に放出される事がある。定着装置から漏れ出した磁束は周辺装置に与える影響、すなわち、周囲の電子機器の誤動作やノイズの問題を引き起こす可能性があり、また、仮に磁束が画像形成装置本体外に漏れ出した場合、ノイズの問題のみならず人体に与える電磁波の影響も無視できない。
従来技術では、整磁合金の温度がキュリー点以上(T>Tc)になった時、図4の(B)に示した様に、磁束を定着ローラに集中させない事で発熱を抑制するため、整磁合金を用いない誘導加熱方式の定着装置よりも漏れ磁束が大きいという課題があった。
したがって、定着装置外、または画像形成装置本体外へ放射ノイズが漏洩するための電磁シールドの設計に非常にコスト・時間を費やしていた。しかしながら本実施例により定着装置外に放出される漏れ磁束を減少させることができる。
従来技術と本実施の形態で定着ローラ外に放出される漏れ磁束を計測した。図9は磁束密度を計測した計測地点を示している。
計測は、従来技術の定着装置において(従来技術は過昇温防止部材6が無い)、もっとも磁束が漏れやすい方向であるコイル対向部かつ、ローラ外周部から40mmはなれた地点で行った。
測定した定着装置は、図3の定着装置で発熱層がNiの装置、図3の定着装置で発熱層が整磁合金の装置、本実施の形態の定着装置である。測定結果を以下に示す。
発熱層にNiを使用した従来技術では、もっとも磁束が漏れやすい方向であっても、ローラ外周部から40mmはなれた地点では0.75(G ガウス)であり、漏れ磁束は小さい。それに対して発熱層に整磁合金を使用した従来技術では漏れ磁束が整磁合金の温度がキュリー点以下(T<Tc)である時、4.5(G)、さらに、整磁合金の温度がキュリー点以上(T>Tc)である時には、15(G)と非常に大きくなっている。
それに対して本実施の形態では、整磁合金の温度がキュリー点以上(T>Tc)である時の漏れ磁束が1Gにまで減少している。これは、発熱層にNiを使用した従来技術の漏れ磁束とほぼ同等の値であり、従来、誘導加熱方式の定着装置で行われている電磁シールドの設計で磁束の放射ノイズを防止する事ができる。
また、整磁合金の温度がキュリー点以下(T<Tc)である時の漏れ磁束も0.2(G ガウス)と非常に小さくなっている。
本実施例により、定着ローラ外に放出される漏れ磁束を減少させることが出来るため、整磁合金を用いない誘導加熱方式の定着装置と同程度の電磁シールドの設計で、定着装置外、または画像形成装置本体外へ放射ノイズを防止する事ができる。
(発熱層の厚さ)図10は実施例1において発熱層である整磁合金の厚さを変更した時の、整磁合金の温度がキュリー点以下(T>Tc)の加熱効率を示している。
縦軸の加熱効率は、整磁合金の温度がキュリー点以下である時の発熱層の発熱量を、全体の発熱量(発熱層の発熱量+コイルの発熱量+過昇温防止部材の発熱量)で割った値を示している。
発熱量は交流磁場解析シミュレーションによって計算した。加熱効率が高いほど、キュリー点以下の時の発熱量が大きく、昇温特性の良い構成であるといえる。
整磁合金の厚さが浸透深さで80μmよりも薄くなると加熱効率が低下することがわかる。これは、発熱層21の厚さが浸透深さよりも著しく薄くなってしまうと、整磁合金の温度がキュリー点以下で磁性の状態であっても、コイルの磁束が整磁合金を透過して、過昇温防止部材にまで達してしまうためである。
したがって発熱層21の厚さは発熱層21の温度がキュリー点以下の時の電流の浸透深さ以上の厚みであることが望ましい。
(過昇温防止部材の厚さ)図11は実施例1において過昇温防止部材であるアルミの厚さを変更した時の、整磁合金の温度がキュリー点以上である時の各部材の発熱量と、発熱抑制率を示している。発熱量は交流磁場解析シミュレーションによって計算した。
コイルには整磁合金の温度がキュリー点以下である時に、全体の発熱量(発熱層の発熱量+コイルの発熱量+過昇温防止部材の発熱量)が1200Wになる電流を流している。
すなわちアルミ厚さ0.1mmでは整磁合金の温度がキュリー点以下である時に、全体の発熱量が1200Wであるのに対して、キュリー点以上になると約540Wに低減する事を示している。
発熱抑制率は、以下の式によって求めた。
Q1=整磁合金の温度がキュリー点以下である時の発熱層の発熱量
Q2=キュリー点以上である場合の発熱層の発熱量
発熱抑制率=Q1−Q2/Q1×100
発熱抑制率の値が大きいほど、キュリー点以上になった時の発熱量が小さく、自己温度制御能力の高い構成であるといえる。
アルミの浸透深さ0.5mmよりも過昇温防止部材が薄くなると自己温度制御能力が低下することがわかる。
また、過昇温防止部材が0.5mmよりも薄くなると過昇温防止部材自体の発熱が著しく増加する事がわかる。
自己温度制御能力の点だけで見れば、過昇温防止部材を薄くすることに大きな問題はないが、定着ローラ外に配置される過昇温防止部材が自己発熱し昇温する事は、定着装置の安全上好ましくない。したがって、自己温度制御能力を向上させ、なおかつ過昇温防止部材の自己発熱を抑制するため、過昇温防止部材は浸透深さ以上であることが好ましい。
(過昇温防止部材の体積抵抗率)なお、本実施の形態1では、過昇温防止部材をアルミにて形成したが、過昇温防止部材を他の非磁性の導電性材料にて形成することもできる。
図12は実施例1において過昇温防止部材の体積抵抗率を変更した時の、整磁合金の温度がキュリー点以上である時の各部材の発熱量と、発熱抑制率を示している。過昇温防止部材の厚さは1mmである。
発熱量は交流磁場解析シミュレーションによって計算した。コイルには整磁合金の温度がキュリー点以下である時に、全体の発熱量(発熱層の発熱量+コイルの発熱量+過昇温防止部材の発熱量)が1200Wになる電流を流している。
過昇温防止部材の体積抵抗率は、4.35×10−7Ω・mから1.72×10−8Ω・mまでの範囲で解析を行った。
発熱層21である整磁合金の体積抵抗率は3.6×10−7Ω・mである。図12より過昇温防止部材の体積抵抗率が低くなるに従い自己温度制御能力が向上し、また過昇温防止部材自体の発熱が低下する事がわかる。
特に過昇温防止部材の体積抵抗率が、発熱層21の体積抵抗率3.6×10−7Ω・mの10分の1である3.6×10−8Ω・m以下になることにより、過昇温防止部材自体の発熱が非常に小さくなり100W以下となることがわかる。
このように、過昇温防止部材に、発熱層21よりも体積抵抗率が低い非磁性の導電性材料を用いることにより、自己温度制御能力を向上させる事ができる。
また、図12からわかるように、過昇温防止部材の体積抵抗率は発熱層21の体積抵抗率10分の1以下であることが望ましく、具体的には、体積抵抗率が3.6×10−8Ω・m以下となる、銅、アルミニウム、金、銀、等を過昇温防止部材として用いることが好ましい。
(過昇温防止部材と発熱層との距離)図13は実施例1において過昇温防止部材と発熱層との距離を変更した時の、発熱抑制率を示している。
図13より過昇温防止部材と発熱層との距離が大きくなるほど発熱抑制率が低下する事がわかる。したがって、過昇温防止部材と発熱層との距離は、可能な限り近づける事が好ましい。本実施例1では過昇温防止部材は発熱層から距離4mmの地点に配置した。
(その他の構成)(過昇温防止部材を定着装置の筐体と一体にする(請求項6))本実施の形態では過昇温防止部材を定着ローラの外部に単独で配置したが、定着部材を収容する筐体の一部として構成しても良い。
定着装置は通常、合成樹脂等で一体成形される筐体の中に定着部材を配置する事で構成される。図14のように筐体201の励磁コイルに対向する部位に過昇温防止部材6を配置しても良い。
本構成により、過昇温防止部材6を配置するスペースを定着ローラ周辺に設ける必要が無く、省スペース化が図れる。
また、過昇温防止部材6が漏れ磁束を防止する電磁シールドの役割を果たすため、筐体の過昇温防止部材が取り付けられている部分には、電磁シールドを配置する必要がなくなる。例えば、図15のように、定着装置筐体の内壁に電磁シールド202を配置する事により定着装置外への放射ノイズを減少することができるが、過昇温防止部材を配置している部分には電磁シールドは必要が無い。電磁シールド202には50μm程度のアルミ等を使用することができる。
(過昇温防止部材を非通紙領域にだけ配置)過昇温防止部材6は非通紙領域にだけ配置しても良い。図16は本実施の形態において過昇温防止部材を非通紙領域にだけ配置した定着装置である。
本定着装置は通紙する記録部材の幅方向の中央が、定着ローラの回転軸方向の中央に一致するようになっているため、過昇温防止部材は、定着ローラの回転軸方向の中点を軸として、対称となるように配置されている。
過昇温防止部材の、定着ローラの回転軸方向の中央に近い側の端部は、定着ローラの、定着装置が通紙する最小の記録部材の両端に相当する位置に、それぞれ配置されている。
過昇温防止部材が配置されていない定着ローラの回転軸方向の中央には、温度測定手段7としてサーモパイルを配置した。
この構成により温度検知手段を新たに配置するスペースを確保する必要がなくなる。また、過昇温防止部材の総量を減らし軽量化することができる。
(その他のコイル構成)励磁コイル3は前述のコイル構成以外であってもよい。定着部材の内部にコイルが配置されており、定着部材の外部に過昇温防止部材6が配置されていれば良い。
過昇温防止部材はコイルの対向部、もしくは、整磁合金の温度がキュリー点以上の時に、コイルが発生する磁界の範囲内に配置すればよい。
図17は励磁コイル3とコア5の形状が本実施の形態1と異なる。励磁コイルが定着ローラの内周面に広く対向することにより、定着ローラの広い範囲を加熱することができる。図17のように、コイル形状が変化しても、過昇温防止部材をコイルの対向部、もしくは、整磁合金の温度がキュリー点以上の時に、コイルが発生する磁界の範囲内に配置することにより、発熱抑制率の高い定着装置を提供する事ができる。
実施例2(請求項3)以下に、実施例2を図を用いて説明する。
実施例2は、過昇温防止部材が、整磁合金からなる第一の過昇温防止部材と、非磁性かつ、前記第一の過昇温防止部材よりも体積抵抗率が低い第二の過昇温防止部材からなっている点が、実施例1と大きく異なる。
図18は本実施例における定着装置20の断面図である。定着部材である定着ローラ2、定着ローラ2とニップ領域を形成する加圧ベルト4、加圧ベルトの背面より加圧ベルトを定着ローラに押圧する加圧パッド60を備え、磁界発生手段である励磁コイル3、励磁コイル3を巻きつけるボビン301、コイルの鉄芯となるフェライトコア5より構成されている。
(コイル形状)コイルおよびコア形状は、実施例1とほぼ同じであるが、定着ローラ2のニップ領域に磁束を集中させる構成となっている点が異なる。具体的には実施例1のコイル及びコアを、定着ローラの回転軸を軸として、時計回りに90度回転させた構成となっている。
(発熱層)定着ローラ2は、図示しないが、基材上に、離型層23,弾性層22、発熱層21を順次形成している。
基材は、絶縁性の耐熱樹脂材料からなり、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS、フッ素樹脂等を用いることができる。基材の層厚は、熱容量及び強度の点から、30〜200μmに形成されている。また薄層化することにより誘導加熱に大きな影響を与えない、高抵抗,非磁性の金属であっても良い。例えば非磁性のステンレスであるSUS304等があげられる。
離型層、弾性層は実施例1と同様である。発熱層21は良伝導の部材で構成されている。誘導加熱に適した金属としては一般的には高抵抗のものが知られているが、良伝導の部材を薄層化することにより、発熱層の実質的な抵抗を任意に設定することができ発熱量を向上させることができる。
本実施例では発熱層には10μmの厚さの銀層を使用した。当然発熱層は良伝導であれば良いので、銅、アルミニウム、マグネシウム等、もしくは磁性体であるニッケル等の他の金属層を用いても良い。
本構成では、発熱層21の厚さは、印加する交流電流の周波数における、浸透深さ以下の厚みであることが望ましい。これにより電磁誘導によって過昇温が発生する事が防止できる。
(加圧ベルト)加圧部材である加圧ベルト4は、基材(内周面側に配設される。)上に、弾性層、離型層が順次形成された、多層構造のエンドレスベルトである。基材は、絶縁性の耐熱樹脂材料からなり、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS、フッ素樹脂等を用いることができる。基材の層厚は、熱容量及び強度の点から、30〜200μmに形成されている。
加圧ベルト4の弾性層は、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等からなり、層厚が50〜500μmでアスカー硬度が5〜50度となるように形成されている。これにより、出力画像において、光沢ムラのない均一な画質を得ることができる。
加圧ベルトの離型層は、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂、これらの樹脂の混合物、又は、これらの樹脂を耐熱性樹脂に分散させたものである。離型層の層厚は、5〜50μm(好ましくは、10〜30μmである。)に形成されている。
なお、加圧ベルト4の各層の間に、プライマ層等を設けることもできる。
(加圧パッド)押圧手段である加圧パッド60は、図示しないスプリング等によって加圧ベルト4の裏面に圧接されている。
加圧パッド60は、弾性層61、第一の過昇温防止部材62、第二の過昇温防止部材63により構成されている。弾性層61は、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等からなり、均一な押圧力を得ることができるように構成されている。
(第一の過昇温防止部材)第一の過昇温防止部材62は、キュリー点が定着可能温度以上であって300度以下となる整磁合金を用いている。
具体的には、ニッケル、鉄、クロムの合金であって、各材料の添加量と加工条件とを調整することで所望のキュリー点を得ることができる。このように、キュリー点が定着ローラ2の定着温度近傍となる磁性導電性材料にて第一の過昇温防止部材62を形成することで、定着ローラ2は電磁誘導によって過昇温されることなく加熱されることになる。
実施の形態2では、第一の過昇温防止部材62には、過昇温を確実に防止するためキュリー点が180度である整磁合金を使用した。また第一の過昇温防止部材62の厚さは整磁合金の温度がキュリー点以下の時の電流の浸透深さ以上の厚みであることが望ましい。
(第二の過昇温防止部材)第二の過昇温防止部材63は非磁性かつ、第一の過昇温防止部材62の体積抵抗率よりも低い体積抵抗率を有する導電性材料で形成されている。
第一の過昇温防止部材62の体積抵抗率が3.6×10−7Ω・mであるために、第二の過昇温防止部材63は体積抵抗率が3.6×10−7Ω・mよりも低い材料にて形成されている。
具体的には、体積抵抗率が3.0×10−8Ω・m以下となる、銅、アルミニウム、金、銀、等を用いることが好ましい。
本実施の形態1では、第二の過昇温防止部材の材料として、非磁性材料のアルミを用いている。非磁性かつ良伝導の部材を使用することで、過昇温防止部材6自身の発熱を抑えつつ磁束を遮蔽する効果を得ることができる。また、第二の過昇温防止部材の厚さは浸透深さ以上であることが望ましい。実施例2の構成により、自己温度制御能力の高い定着装置を提供する事ができる。
(実施例2の自己温度制御メカニズム)図19は図18の定着装置20の図から、誘導加熱に関する部分を抜き出した概略図である。
図19(A)は、 第一の過昇温防止部材、すなわち整磁合金の温度がキュリー点以下である時にコイル3から発生する磁束Aの様子を表している。
整磁合金の温度がキュリー点以下である時にはコイル3から発生する磁束Aは、コア5を経路として発熱層21を透過し、磁性体である整磁合金を通って再び発熱層を透過して
コア5に戻る。整磁合金は磁性体であり浸透深さが非常に浅いため、磁束が整磁合金を透過して第二の過昇温防止部材であるアルミに達する事はない。
この時、発熱層21である銀と第一の加圧昇温部材である整磁合金には誘導電流が流れジュール熱により発熱する。
一方、整磁合金の温度がキュリー点以上になった時にコイル3から発生する磁束は図19(B)に示した磁束Bのようになる。
コア5を経路として発熱層21を透過した磁束Bは、非磁性体となった整磁合金も透過し第二の過昇温部材であるアルミにまで達する。
したがって磁束Bは発熱層21,第一の過昇温防止部材62,第二の過昇温防止部材63を含めた磁気回路を形成することになる。
第二の過昇温防止部材63には非磁性かつ低抵抗であるアルミを使用しているため、誘導電流は、体積抵抗率の低い第二の過昇温防止部材63に多く流れ、発熱層21の発熱が非常に小さくなる。
また、アルミは誘導加熱による発熱が非常に小さく、過昇温防止部材63が高温になることはない。
実施例2の自己温度制御メカニズムは、整磁合金の温度がキュリー点以下である時では、磁束を発熱層と整磁合金に通し、整磁合金の温度がキュリー点以上である時では、磁束を発熱層と整磁合金とアルミに通すことにより機能するため、コイルから見て、発熱部材、第一の過昇温防止部材、第二の過昇温防止部材の順番に配置されていなければならない。
また、実施例2の自己温度制御メカニズムは、発熱層が磁気回路に加わる事以外は実施例1と同じであり、実施例1と同様の理由で、第一の過昇温防止部材である整磁合金の厚さが、キュリー点以下の時の電流の浸透深さ以上の厚みであることが好ましい。第二の過昇温防止部材が浸透深さ以上であることが好ましい。
第二の過昇温防止部材に、第一の過昇温防止部材よりも体積抵抗率が低い非磁性の導電性材料を用いることが好ましい。
実施例2と図3の従来技術の自己温度制御能力を比較した。図20には、交流磁場解析シミュレーションにより計算した本実施例2の「発熱層21の発熱量+第一の過昇温防止部材62の発熱量+第二の過昇温防止部材62の発熱量」と従来例の発熱層21の発熱量を示す。
本実施例では加圧パッドである過昇温防止部材の発熱もニップ領域を介して、定着ローラ、紙に伝熱するため、「発熱層21の発熱量+第一の過昇温防止部材62の発熱量+第二の過昇温防止部材62の発熱量」の発熱量の変化により自己温度制御能力を評価する。
図20(A)は従来例の、整磁合金の温度がキュリー点以下の時(T<Tc)の発熱量と、整磁合金の温度がキュリー点以上の時(T>Tc)の発熱量を、図20(B)は本実施例の、整磁合金の温度がキュリー点以下の時(T<Tc)の発熱量と、整磁合金の温度がキュリー点以上の時(T<Tc)の発熱量をそれぞれ示している。
従来例では、整磁合金の温度がキュリー点以上(T>Tc)になることにより発熱量が43%抑制されるのに対して、本実施例では、整磁合金の温度がキュリー点以上(T>Tc)になることにより発熱量が約60%抑制されることから、発熱抑制効果が向上することがわかる。
図21は、本実施の形態の定着装置に、幅方向サイズの小さな紙の連続通紙試験を行った時の、定着ローラの非通紙領域の温度の経時変化である。
また、参考のために通紙領域の定着ローラの温度と、従来技術の定着ローラの非通紙領域の温度も示す。
図21より、本実施の形態の定着装置では、通紙が開始された後、整磁合金の温度がキュリー点を超えると発熱量が制限されて、端部の昇温速度が従来技術よりも鈍化しており、自己温度制御能力が改善されている事がわかる。
このように、過昇温防止部材を、整磁合金からなる第一の過昇温防止部材と、非磁性かつ、前記第一の過昇温防止部材よりも体積抵抗率が低い第二の過昇温防止部材により構成することにより、定着ローラ2は電磁誘導によって過昇温されることなく加熱されることになる。
また、本構成では過昇温防止部材を加圧パッドとして加圧ベルト内に配置する事により、実施例1のように過昇温防止部材を新たに配置するスペースを設ける必要が無く、定着装置の小型化が図れる。
また、第一の過昇温部材である整磁合金は浸透深さ以上の厚さが好ましいが、本実施例では整磁合金の厚さを容易に厚くすることができる。
実施例1では整磁合金が発熱部材であったため、小熱容量化を達成するため、整磁合金を厚くすることは、定着装置の立上性能の低下につながっていたが、本実施例では、整磁合金を厚くしても、発熱部材の熱容量は変化しないため、立上性能は低下しない。
一般に整磁合金は他の鉄などの金属に比べて、応力による疲労破壊が起こり易く、整磁合金を発熱部材として使用し、画像形成の度に回転させる事には、耐久面の課題があったが、本構成により、整磁合金にかかる応力を低減し、かつ自己温度制御機能を向上させる事が出来る。
本実施の形態によれば、発熱部材に整磁合金を使用する誘導加熱方式の定着装置において、該定着部材を介して、励磁コイルと対向する位置に過昇温防止部材を有する事により、発熱部材が整磁合金のみの時よりも自己温度制御機能も高まる。
発熱部材の自己温度制御の能力を高め、短時間に立ち上がり、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても過昇温が確実に抑止される定着装置及び画像形成装置を提供することができる。また、整磁合金が非磁性になった時に定着装置外に放出する漏れ磁束を減少させることができる。
また、整磁合金が非磁性になった時の発熱量の低下率を大きくすることができ自己温度制御機能が高まるとともに過昇温防止部材自体の発熱・昇温を小さくする事ができる。
以下、各請求項の効果を述べる。
「請求項3」整磁合金が磁性を有している時の、発熱効率が向上し、立上速度の早い定着装置を得ることができる。
「請求項4」整磁合金のキュリー点近傍で定着ローラの昇温が停止する自己温度制御機能を有した定着装置を提供する事ができる。
「請求項5」整磁合金が磁性を有している時の、発熱効率が向上し、立上速度の早い定着装置を得ることができる。
「請求項6」整磁合金が非磁性になった時の発熱量の低下率を大きくすることができ自己温度制御機能が高まるとともに過昇温防止部材自体の発熱・昇温を小さくする事ができる。
「請求項7」過昇温防止部材を設置する新たなスペースを設ける必要がなく、小型で自己温度制御機能を有した定着装置が提供できる。
「請求項9」小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても、過昇温が確実に抑止される画像形成装置を提供することができる。
なお、上述する各実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更実施が可能である。