以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
本実施形態のブレーキ制御装置は、ブラシレスモータにより駆動するポンプによって作動液を吐出する。そして、その作動液の液圧をホイールシリンダに供給してブレーキ装置に制動力を発生させる。このブレーキ制御装置は、フェール検出手段と減圧制御手段を含む。フェール検出手段がブラシレスモータの通電フェールを検出した場合に、減圧制御手段がポンプの吐出側の液圧をフェールモータ駆動許容負荷値まで減圧してモータの回転が継続できるように制御する。また、ブレーキ制御装置は、トルク調整手段を含み、フェール検出手段が通電フェールを検出した場合に、前記フェールモータ駆動許容負荷値の下で前記ブラシレスモータが負荷回転するように回転トルクを調整して、モータの回転が継続できるように制御する。
図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置をその液圧回路を中心に示す系統図である。
ブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、運転者によるブレーキペダル12の操作に応じて、また車両の走行を安定化するための各種制御のために車両の4輪のブレーキを独立かつ最適に制御するものである。ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動液としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。また、ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。更に、マスタシリンダ14には、リザーバタンク26が接続されており、マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、開閉弁23を介して、運転者によるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。なお、開閉弁23は、非通電時に閉状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に開状態に切り換えられる常閉型電磁弁である。
マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、右前輪用のブレーキ液圧制御管16が接続されており、ブレーキ液圧制御管16は、図示されない右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、左前輪用のブレーキ液圧制御管18が接続されており、ブレーキ液圧制御管18は、図示されない左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。右前輪用のブレーキ液圧制御管16の中途には、右電磁開閉弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ液圧制御管18の中途には、左電磁開閉弁22FLが設けられている。これらの右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは、何れも非通電時に開状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に閉状態に切り換えられる常開型電磁弁である。以下、適宜、右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLを総称して「開閉弁22」という。
また、右前輪用のブレーキ液圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ液圧制御管18の中途には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧センサ48FLが設けられている。ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出される。また、右マスタ圧センサ48FRおよび左マスタ圧センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点から好ましい。以下、適宜、右マスタ圧センサ48FRおよび左マスタ圧センサ48FLを総称して「マスタ圧センサ48」という。
一方、リザーバタンク26には、液圧給排管28の一端が接続されており、この液圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるポンプ34の吸込口が接続されている。ポンプ34の吐出口は、高圧通路を形成する高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。アキュムレータ50、ポンプ34、モータ32は、ブレーキフルードの液圧を蓄圧可能な動力液圧源を構成する。ポンプ34の吸入口は、非駆動時、液圧給排管28との連通が実質的に遮断される。本実施形態では、ポンプ34として、モータ32によって回転駆動されるギヤポンプが採用できる。また、モータ32としては例えば3相ブラシレスモータが使用され、いわゆるPWM制御がなされる。
ポンプ34とアキュムレータ50との間には、常開型の電磁弁で構成されるアキュムレータカット弁54が設けられている。そして、アキュムレータ50は、ポンプ34によって内部の液圧(以下「アキュムレータ圧」という)が所定の設定範囲(例えば8〜12MPa程度)にまで昇圧されたブレーキフルードを蓄えるようになっている。リリーフバルブ53の弁出口は液圧給排管28に接続されており、高圧管30内の液圧が異常に高まって例えば25MPa程度になると、そのリリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキフルードは液圧給排管28を介してリザーバタンク26へ戻される。また、アキュムレータ50への蓄圧を必要としない場合や増圧弁40FR,40FL,40RR,40RL側への液圧の供給が必要ない場合には、アキュムレータカット弁54を閉弁制御してもよい。このようにすることで、高圧管30や増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLが高圧負荷に晒されることを回避するようにしてもよい。なお、高圧管30には内部のブレーキフルードの液圧(本実施形態ではアキュムレータ圧に等しい)を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下、適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」といい、適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、何れも非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ20の増圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。なお、図示されない車両の各車輪に対しては、ディスクブレーキユニットが設けられており、各ディスクブレーキユニットは、ホイールシリンダ20の作用によってブレーキパッドをディスクに押し付けることで制動力を発生する。図1の例では、増圧弁40が常閉型の電磁流量制御弁である場合を示しているが、増圧弁40の制御方式を変更することで常開型の電磁流量制御弁を使用することも可能である。また、ディスクブレーキユニットに代えてドラムブレーキユニットを用いることも可能である。
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ減圧弁42FRまたは42FLを介して液圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して液圧給排管28に接続されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、シリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「シリンダ圧センサ44」という。
上述の右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、ポンプ34、アキュムレータ50等は、ブレーキ制御装置10の液圧アクチュエータ80を構成する。そして、かかる液圧アクチュエータ80は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備える。本実施の形態において、ECU200が「減圧制御手段」および「トルク調整手段」として機能する。別の実施形態では、ECU200とは別に「減圧制御手段」や「トルク調整手段」を設けてもよい。
詳細は図示しないが、ECU200には、右前輪用、左前輪用、右後輪用、左後輪用のシリンダ圧センサ44FR、44FL、44RR、44RLから、それぞれ、右前輪のホイールシリンダ20FR内の圧力信号、左前輪のホイールシリンダ20FL内の圧力信号、右後輪用のホイールシリンダ20RR内の圧力信号、左後輪用のホイールシリンダ20RL内の圧力信号が入力される。また、ECU200には、ストロークセンサ46からブレーキペダル12の踏み込みストロークを示す信号が、右マスタ圧センサ48FRおよび左マスタ圧センサ48FLからマスタシリンダ液圧を示す信号が、アキュムレータ圧センサ51からアキュムレータ圧を示す信号が入力される。
ECU200のROMは所定の制動制御フローを記憶している。ECU200内には目標制動量を取得するブロックがあり、ストローク信号とマスタシリンダ液圧信号に基づき車両の目標制動量を演算する。そして、ECU200は、演算された目標制動量に基づいて各輪の目標ホイールシリンダ液圧を演算し、各輪のホイールシリンダ液圧が目標ホイールシリンダ液圧になるよう、増圧弁40および減圧弁42を制御する。
モータ32によって駆動されるポンプ34は、リザーバタンク26から液圧給排管28を通じてブレーキフルードをくみ上げ、高圧にされたブレーキフルードをアキュムレータ50に蓄積する。アキュムレータ50の高液圧は、目標ホイールシリンダ液圧に応じて増圧弁40を開閉制御することによって、各ホイールシリンダ20に供給される。この他、ECU200は、車両の走行を安定させるためのABS制御等の自動安定化制御を実行する場合、増圧弁40や減圧弁42の開閉制御を行い、アキュムレータ50から高圧のブレーキフルードを各ホイールシリンダ20に供給して動作状態を制御する。
ブレーキペダル12が踏まれたりABS制御によりアキュムレータ50から高液圧のブレーキフルードが消費されると、ECU200は、アキュムレータ50の圧力が常に制御範囲に収まるように、モータ32を作動させてポンプ34を駆動し、アキュムレータ50に高圧にされたブレーキフルードを蓄積する。この動作のことを「蓄圧動作」と呼ぶ。この蓄圧動作は、アキュムレータ圧センサ51の検出値にしたがって、自動的に実行される。
図2は、本実施形態で用いる3相ブラシレスモータで構成されるモータ32の概略構成及びECU200との関係を説明する説明図である。本実施形態のモータ32は、U相56u、V相56v、W相56wがスター結線されている。そして、ECU200からの制御信号に基づき動作するモータドライバ58内のFETのスイッチングにより各相に電源60の電圧を供給し、モータ32のロータを回転させる。なお、3相ブラシレスモータの構造及びモータドライバ58の構成は公知であり、詳細な説明は省略する。
ところで、上述のように構成される3相ブラシレスモータであるモータ32を用いたブレーキ制御装置10の場合、U相56u、V相56v、W相56wのいずれか1つでも導通フェールを起こすと正常な回転ができなくなる。特にアキュムレータ50に蓄圧する場合、アキュムレータ50側が高圧であるためモータ32の回転負荷が高く、1相でも通電フェールがあると回転が停止してしまう可能性が高い。同様に、増圧弁40は常閉型の電磁流量制御弁なので非制動時は高圧になるので、モータ32の回転負荷が高く、1相でも通電フェールがあると回転が停止してしまう可能性が高い。なお、通電フェールは、各相を構成するコイルの断線やモータドライバ58の不具合などにより実質的に電流が流れない状態とすることができる。このような場合、ECBシステムにおいて必要なときに十分な制動力が発生できなくなり、フェールセーフ時にマスタシリンダ14で発生させる液圧による制動力に頼ることになり、ブレーキペダル12の操作に大きな踏力が必要になるなど運転の快適性が損なわれる可能性がある。
そこで、本実施形態のブレーキ制御装置10は、液圧アクチュエータ80やモータドライバ58を制御することにより、モータ32で通電フェールが生じてもそのフェールが1相であればモータ32を回転させ続け、ECBシステムによる制動力の発生を可能にしている。
図3は、本実施形態におけるモータ32の通電フェール時のフェールセーフ制御を説明するフローチャートである。
モータ32のフェールセーフ制御は、イグニッションスイッチがOFF(IG OFF)の場合(S100のN)は終了する。また、ECBシステムが起動していない場合、つまりマスタシリンダ14で発生する液圧のみによって制動力制御を行っている場合(S102のN)は終了する。同様に、モータ32に通電フェールが生じていない場合(S104のN)は終了する。なお、ECU200は、イグニッションスイッチのON/OFFを、イグニッションスイッチに設けられたセンサからの情報により確認可能であり、ECBが起動中か否かは、ECU200自身の制御状態によって確認できる。また、モータ32に通電フェールが生じているか否かは、モータドライバ58から提供される各相の電流値が制御通りか否かを検出することにより確認できる。
IG ONであり(S100のY)、ECBが起動中であり(S102のY)、モータ32に通電フェールが生じている場合(S104のY)、ECU200は、通電フェールが1相のみで発生しているか否かをモータドライバ58から提供される情報に基づき検出する。このとき、通電フェールが1相でない場合(S106のN)、つまり2相以上で通電フェールが発生している場合は、ECU200はモータ32のダメージが大きいと判定する。そして、運転席のコンソールパネル等にモータ32がフェールしてECBシステムが動作できなくなったことを表示したり、音声や警告音で運転者にフェールを報知したり、早急の点検修理を促すメッセージを提供するエラー処理を実行する(S108)。
一方、通電フェールが1相のみで発生している場合(S106のY)、ECU200は、モータ32のフェールセーフ処理が可能であると判定して、アキュムレータカット弁54を閉弁すると共に、増圧弁40を所定量開弁させる(S110)。アキュムレータカット弁54を閉弁することでポンプ34とアキュムレータ50と連通が絶たれてポンプ34に高圧負荷がかかることが防止される。また、増圧弁40を所定量開弁することでブレーキフルードが増圧弁40からリークしリザーバタンク26に戻されるのでポンプ34に高圧負荷がかかることが防止される。つまり、モータ32の回転負荷が軽減される。このように、ポンプ34の吐出側の液圧をフェールしたモータ32の駆動を許容する負荷値(フェールモータ駆動許容負荷値)まで減圧することにより、後述するように通電フェールを起こしているモータ32のロータが慣性力で回転している場合には、その慣性力回転が継続できるようにする。また、通電フェールを起こしているモータ32のロータが回転停止している場合には、再回転し易くする。なお、フェールモータ駆動許容負荷値は、モータ32の特性に応じて予め試験などにより決定することが可能であり、モータ32がスムーズでなくても回転できる負荷値とする。例えば、図4(a)は、増圧弁40に与える電流値と増圧弁40の開度または流量の関係を示している。電流値Iaは、通常走行時に発生させる制動力を得る場合の開度より小さな開度に設定することが可能できる。後述するが、フェール状態のモータ32を回転し続ける場合、継続回転時の発熱に配慮する必要がある。そのため、本実施形態ではモータ32を例えばDuty比5%程度で駆動させる。言い換えればフェールモータ駆動許容負荷値を実現する電流値Iaは、Duty比5%でモータ32を回し続けることのできる最低限の値とすることができる。
図3のフローチャートに戻り、ECU200はS110でアキュムレータカット弁54を閉弁し、増圧弁40を所定量開弁させると共に、現在モータ32のロータが回転中か否かを検出する(S112)。この検出は、例えば、ロータ付近に配置された回転角センサ(不図示)等からの情報に基づき検出できる。ロータが回転中であり(S112のY)、運転者のブレーキペダル12の操作による制動要求や車両の走行制御側からの制動要求が無い場合(S114のN)、ECU200はモータ32に対し回転状態を継続させる回転継続制御を行う(S116)。前述したように1相に通電フェールを抱えるモータ32は、通常時に比べてスムーズに回転することは困難であるが、増圧弁40を開弁してブレーキフルードをリークさせることにより通常より低負荷状態のフェールモータ駆動許容負荷値に制御されているので回転可能となっている。ただし、モータ32を継続回転させると予め設定された許容値以上に発熱してしまう場合があるので、そうならないように配慮する必要がある。許容値を超える発熱はモータ32自体のさらなるフェールを招いたり、モータドライバ58やその他周辺機器にも悪影響を与える可能性がある。そこで、本実施形態における回転継続制御では、フェールモータ駆動許容負荷値に制御された増圧弁40を介してブレーキフルードが液路を循環するようなDuty比でモータ32を駆動する。図4(b)は、モータ駆動時のDuty比とモータ32の駆動によるポンプ34のブレーキフルードの吐出量の関係を示している。図4(b)においてA%が回転継続制御時のDuty比であり、例えば5%とすることができる。このように、低負荷状態でモータ32を駆動することにより許容値以上の発熱を回避して他の構成に不具合を与えることなくモータ32の継続回転を実現できる。
ECU200は、回転継続制御中にイグニッションスイッチがONからOFFに切り替わった場合(S118のY)、このフローを終了する。なお、S104において、通電フェールが確認された時点で、モータ32にフェールがあることを運転者に報知してもよいし、S106で1相のみのフェールであると判定した場合に、フェールセーフモードに移行したことを運転者に報知してもよい。また、S118でイグニッションスイッチをOFFしたときに、モータ32がフェールしているので、速やかに点検修理することを促すメッセージを運転者に提供してもよい。
S118において、イグニッションスイッチがOFFされない場合(S118のN)、例えばS102に戻り、モータ32の回転継続の必要性やフェール状態の確認を行いつつ、フェールセーフの処理を継続する。
S114において、運転者のブレーキペダル12の操作による制動要求や車両の走行制御側から制動要求があった場合(S114のY)、ECU200はモータ32に対して制動要求制御を行う(S120)。この場合、制動要求に応じた液圧を発生できるようにモータ32のDuty比を例えば図4(b)に示すB%にセットする。なお、このB%の値は、必要制動力(目標制動力)に応じて変化する。また、増圧弁40の開度も制動要求に応じた液圧をホイールシリンダ20に提供できるように、増圧弁40の電流値を例えば図4(a)に示すIbにセットする。なお、モータ32の1相は通電フェール状態なので、通電フェールが無い状態に比べて出力トルクが低下する場合があるので、制動要求に対応してセットするDuty比B%は、フェール無しの状態より高めにセットする必要がある場合もある。したがって、予め試験等により1相フェール時のDuty比と制動要求の関係を示す制御マップ等を準備しておくことが望ましい。また、別の例では関係式を保持しておき制動要求に対するDuty比を演算してもよい。
ところで、モータ32において、1相に通電フェールが発生している場合、その相に対応する部分は理論進角がゼロになるデッドポイントになる。したがって、通電フェールの発生時のロータの回転状態によってはデットポイントを乗り越えることができずに回転停止してしまう場合がある。また、通電フェールがモータ32の回転停止時に発生した場合は回転起動することができない。そこで、本実施形態の場合、S112において、モータ32のロータが停止していた場合(S112のN)、ロータの再回転を促す乗り越えトルク発生制御を実行する(S122)。
乗り越えトルク発生制御の例を図5、図6に示す。
図5のフローチャートに示す例は、通電フェールを起こしていない2相の間で正回転と逆回転の制御を繰り返し行い、ロータを揺動させてデットポイントを乗り越えるためのトルク(慣性力)を発生させている。乗り越えトルク発生制御は、まず、乗り越えトルクを発生するのに十分なDuty比をセットする(S200)。本実施形態の場合、例えば、S120の制動要求制御時の平均的なDuty比がB%(例えば20%)である場合、揺動による乗り越えトルク発生制御時のDuty比をC%(例えば40%)にセットしている。ECU200は、このDuty比で通電フェールを起こしていない各相56に正転方向と逆転方向に電流が流れるようにモータドライバ58による正転逆転切替を行う(S202)。そして、この揺動によりデットポイントを乗り越えるのに十分な乗り越えトルクが発生できた場合(S204のY)、ECU200はモータドライバ58を介して正転方向にのみ電流を流す制御を行い(S206)、ロータを再回転させる。S204で乗り越えトルクに達していない場合には(S204のN)、S202に戻り、繰り返し正転逆転制御を継続する。
図6のフローチャートに示す例は、デッドポイントに対応する相に対し回転方向の前相で、Duty比を乗り越えトルクが発生する値まで増加させている。ECU200は、モータドライバ58から提供される各相の電流値等から現在どの相に通電フェールが生じているかを検出することができる。そこで、ECU200は、電流を流そうとする相がデッドポイントに対応する相に対し回転方向の前相でない場合(S210のN)、フェールモータ駆動許容負荷値に制御された増圧弁40の下で回転可能なDuty比、例えば図4(b)のA%(例えば5%)にセットする(S212)。一方、電流を流そうとする相がデッドポイントに対応する相に対し回転方向の前相の場合(S210のY)、ロータの回転を加速して、デットポイントを乗り越えさせるトルク(慣性力)を発生させるために、Duty比を例えば図4(b)のD%(例えば10%)にセットする(S214)。そして、ロータが1回転以上回転していない場合(S216のN)、S210に戻りこのフローを繰り返し行う。一方、ロータが1回転以上回転した場合は(S216のY)、このフローを終了する。
なお、図5、図6の例はいずれも1相が通電フェールしているモータ32が回転停止している場合にロータを再回転させるための制御であるので、モータ32の構成や制御形態に応じていずれかの制御を行うことになる。
図3のフローチャートに戻り、S122の乗り越えトルク発生制御でモータ32のロータが再回転した場合で、ロータの回転が継続回転できている場合(S124のY)、S114に移行して、制動要求の有無に応じた制御を開始する。また、ロータが継続回転していない場合、つまり、乗り越えトルク発生制御を行っても1回転で回転が停止してしまった場合(S124のN)、図5や図6に示す乗り越えトルク発生制御を所定回数(予め設定されたn回で、例えば5回)リトライする(S126のY)。乗り越えトルク発生制御のリトライがn回に達した場合(S126のN)、つまり、ロータの継続回転が依然としてできない場合、S108に移行してエラー処理を行い、このフローを終了する。
なお、乗り越えトルク発生制御をn回リトライする間、Duty比C%やDuty比D%の値は同じでもよいし、リトライの回数増加に伴いDuty比C%やDuty比D%の値を大きくしてもよい。Duty比の値を大きくすることでロータの慣性力が増加し、ロータの継続回転をより迅速に達成することが可能になる。
このように、本実施形態のブレーキ制御装置10によれば、ブラシレスモータのフェールが1相のみの通電フェールの場合、フェール時にブラシレスモータの回転の有無を問わず、回転動作を継続させることができる。その結果、ブラシレスモータにフェールが生じた場合でも当該ブラシレスモータの駆動によるポンプ動作が継続可能となり、必要な液圧の確保及びその液圧による制動力確保ができる。また、このフェールセーフは、ブレーキ制御装置10の制御のみで実現可能なので、ブレーキ制御装置10の大きなコストアップや大型化を招くことがない。
なお、図3のフローチャートのS116の回転継続制御では、Duty比を低い値に一定(例えばA%)にする例を示した。また、S120の制動要求制御では、Duty比を制動要求の値に応じて変化させる例を示した。この応用例として、回転継続制御や制動要求制御において、図6のフローチャートに示すような乗り越えトルク発生制御を組み合わせて実行してもよい。通電フェールを抱えるモータ32は、回転し始めてしまえば通電フェールのない相に電流を流すことで継続的な回転が可能となるが、デットポイントがあるため停止してしまう場合も考えられる。そこで、回転中のモータ32に対しても図6で説明する乗り越えトルク発生制御を実施する。その結果、デットポイントが存在する場合でも停止することなく安定した継続回転を維持することが可能になる。
また、本字実施形態では、通電フェールが発生した後、アキュムレータカット弁54を閉弁すると共に増圧弁40を開弁して、モータ32を継続回転させて制動要求がない場合でもブレーキフルードを循環させる例を示した。なお、アキュムレータカット弁54はなくてもよい。他の例では、通電フェールが発生した後でもアキュムレータ50に必要量の液圧が確保されている場合、フェールしたモータ32を一時的に停止させて、制動要求時にはアキュムレータ50に蓄圧された液圧を利用して制動力を発生するようにしてもよい。そして、液圧の消費によりアキュムレータ50への蓄圧が必要になった場合に、図5や図6に示す乗り越えトルク発生制御を実行してモータ32を再回転させて蓄圧するようにしてもよい。なお、この場合、アキュムレータ50の蓄圧目標値は、フェールが無い場合より低くには、設定切り替えてモータ32にできるだけ負荷をかけないようにすることが望ましい。
また、本実施形態では、アキュムレータ50を含むシステムを示したが、アキュムレータ50を省略して、モータ32を回転させてポンプ34から直接増圧弁40へ液圧を供給するシステムにも本実施形態が適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
10 ブレーキ制御装置、 12 ブレーキペダル、 14 マスタシリンダ、 16,18 ブレーキ液圧制御管、 20 ホイールシリンダ、 26 リザーバタンク、 28 液圧給排管、 30 高圧管、 32 モータ、 34 ポンプ、 40 増圧弁、 42 減圧弁、 44 シリンダ圧センサ、 46 ストロークセンサ、 50 アキュムレータ、 53 リリーフバルブ、 54 アキュムレータカット弁、 56 相、 58 モータドライバ、 60 電源、 80 液圧アクチュエータ、 200 ECU。