JP4997497B2 - スルホン化天然ゴム共重合体からなる水中エステル化反応用触媒 - Google Patents

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本発明は、脱蛋白質化天然ゴム・スチレン系共重合体をスルホン化してなる側鎖にスルホン酸基を有するスルホン化天然ゴム共重合体からなる水中エステル化反応用触媒に関する。
多くの有機反応は、均一触媒存在下、有機溶媒中で行われる。例えば、人工果実エッセンス、生体内の脂質およびポリエステルなどに用いられているエステルは、通常有機溶媒中でカルボン酸とアルコールを酸またはアルカリ触媒を用いて反応させることにより合成される。この反応に用いられる触媒や溶媒は、反応後に廃棄物となるため、環境を汚染することが問題視されており、無毒無害の水を用い、触媒を不均一触媒にして反応混合物から分離することが注目されている。
しかしながら、エステル化は脱水を伴う平衡反応であるため水中では進行しがたいことが知られており、大量の水が存在する生体内で行なわれるエステル化のように疎水的反応場を利用する新しい触媒を開発する必要がある。
回収および再利用可能な触媒として疎水的に修飾したポリスチレン樹脂を用いることにより、水中でのエステル化が可能になることが2002年に報告された。(非特許文献1参照)
そして、この触媒を用いてカルボン酸とアルコールの水中エステル化を行なうことにより、45〜96%の高い収率で目的とするエステルが得られたと報告されている。
S. Kobayashi, Adv. Synth. Catal., 270(2002).
しかしながら上記の方法では、触媒はポリスチレンを使用し、フリーデルクラフツ反応、還元、スルホン酸化の4工程で調製されるため、合成が煩雑であるという問題がある。さらに、基質であるポリスチレンは環境負荷を伴う化石燃料を原料として合成される有機材料であるため、環境負荷を低減するためには、植物由来の基質を原料として触媒を合成する必要がある。
したがって、本発明は環境負荷のない主原料を使用して簡単な工程で、効率良く水中エステル化反応を促進することのできる触媒として有用な、新規なスルホン化天然ゴム共重合体を提供することを目的とする。
本発明では、ゼロエミッションの基質としてゴムの樹から産出される天然ゴムに着眼し、脱蛋白質化した天然ゴムとスチレン系モノマーとの共重合体に、スルホン酸基を導入することによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明では次の1〜4の構成を採用する。
1.脱蛋白質化天然ゴム・スチレン系共重合体をスルホン化してなる側鎖にスルホン酸基を有するスルホン化天然ゴム共重合体からなる水中エステル化反応用触媒。
2.前記脱蛋白質化天然ゴム・スチレン系共重合体が脱蛋白質化天然ゴムにスチレン系モノマーをグラフト重合した共重合体であることを特徴とする1に記載のスルホン化天然ゴム共重合体からなる水中エステル化反応用触媒。
3.前記脱蛋白質化天然ゴム・スチレン系共重合体におけるポリスチレン系成分の含有量が、共重合体全体を基準として5〜80重量%であることを特徴とする1又は2に記載のスルホン化天然ゴム共重合体からなる水中エステル化反応用触媒。
4.前記スルホン化天然ゴム共重合体のスルホン酸基の含有量が硫黄として0.01〜20重量%であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載のスルホン化天然ゴム共重合体からなる水中エステル化反応用触媒。
本発明によれば、環境負荷のない主原料を使用して簡単な工程で、効率良く新規なスルホン化天然ゴム共重合体を得ることができる。このスルホン化天然ゴム共重合体は、無毒無害の水を用いる水中エステル化反応を促進することのできる触媒として有用であり、使用後も不均一触媒として反応混合物から分離することが可能で、廃棄をする際にも環境に対する負荷が小さいものである。
以下、本発明のスルホン化天然ゴム共重合体及びその製造方法、並びに該共重合体の水中エステル化触媒としての作用について、詳細に説明する。
天然ゴムには酸または塩基として働く骨格は存在しないため、水中でのエステル化反応の酸触媒として機能を付与するためには、スルホン酸基等を導入しなければならない。本発明では、脱蛋白質化した天然ゴムにスチレン又はスチレン誘導体をグラフト共重合した後に、クロロスルホン酸等のスルホン化剤を用いてスルホン化天然ゴムを合成する。
(原料ラテックス)
本発明のスルホン化天然ゴム共重合体を得るための出発原料となる天然ゴムラテックスは、天然のゴムの木から得られたラテックスを意味し、当該ラテックスには新鮮なフィールドラテックスや、市販のアンモニア処理ラテックス等のいずれをも使用することができる。
(脱蛋白質化)
これらの天然ゴムラテックスの脱蛋白質化は、1)ラテックスに蛋白質分解酵素又はバクテリアを添加して蛋白質を分解させる方法(特許文献1)や、2)石鹸等の界面活性剤により繰り返し洗浄する方法等、公知の方法により行なうことができる。
また、本発明者等が先に提案した、天然ゴムラテックスに下記一般式(1)で表される尿素系化合物及びNaClOからなる群から選択された蛋白質変成剤を添加し、ラテックス中の蛋白質を変成除去する方法により行うこともできる。(特許文献2)
RNHCONH (1)
(式中、RはH、炭素数1〜5のアルキル基を表す)
天然ゴムラテックスの脱蛋白質化は、天然ゴム粒子の窒素含有率が0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下になるようにすることが好ましい。
特開平6−56902号公報 特開2004−99696号公報
(グラフト化)
脱蛋白質化天然ゴムにスチレン系モノマーをグラフトさせるには、モノマーを脱蛋白質化天然ゴムラテックスに加え、適当な重合開始剤を加えて反応させることにより行なわれる。
スチレン系モノマーとしては、スチレンをはじめ、ケイ皮酸誘導体及びケイ皮酸アルデヒド誘導体等のスチレン系モノマーを使用することができる。
グラフトするスチレン系モノマーをラテックスに添加する際には、あらかじめラテックス中に乳化剤を加えておくか、あるいは不飽和結合を有する有機化合物を乳化した後、ラテックスに加える。乳化剤としては、とくに限定されず、アニオン系、ノニオン系等の各種界面活性剤が好適に使用される。スチレン系モノマーの添加量は、脱蛋白質化天然ゴム100重量部に対して5〜500重量部程度、好ましくは10〜100重量部程度、特に好ましくは10〜30重量部程度とすることが好ましい。スチレン系モノマーの添加量がこの範囲を超えるときはホモポリマーの生成が増加してしまいグラフト効率が低下し、逆にこの範囲を下回るときはスチレン系モノマーのグラフト量が少なくなり、目的とするスルホン化天然ゴム共重合体を得ることが困難となる。
重合開始剤としては、例えば過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、過硫酸カリウムなどの過酸化物があげられ、とくにレドックス系の重合開始剤を使用するのが重合温度を低減させる上で好ましい。かかるレドックス系の重合開始剤において、過酸化物と組み合わされる還元剤としては、例えばテトラエチレンペンタミン、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸などがあげられる。レドックス系の重合性開始剤における好ましい組み合わせ例としては、tert−ブチルハイドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミン、過酸化水素とFe2+塩、KSOとNaHSOなどがある。
重合開始剤の添加量は、スチレン系モノマー100モルに対して0.3〜10モル%、好ましくは0.5〜1モル%である。これらの成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で2〜10時間反応を行わせることにより、脱蛋白質化天然ゴムにスチレン系モノマーがグラフトしたグラフト化天然ゴムが得られる。
(スルホン化)
得られたグラフト化天然ゴムには酸または塩基として働く骨格が存在しないため、水中でのエステル化反応の酸触媒として機能を付与するために、スルホン酸基を導入する。スルホン酸基の導入は、クロロスルホン酸等の公知のスルホン化剤を用いて定法により行うことができる。グラフト化天然ゴムに導入するスルホン酸基の量は、硫黄として0.01〜20重量%程度、特に0.05〜5重量%程度とすることが好ましい。
つぎに、実施例により本発明のスルホン化天然ゴム共重合体及びその製造方法について、さらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
以下の実施例および比較例においては、天然ゴムラテックスとして、ソクテック社(マレーシア国)製のハイアンモニアラテックス(ゴム分濃度60.2重量%、アンモニア分0.2重量%、ゴム粒子の平均粒径約1μm)を使用した。
(製造例1:脱蛋白質化天然ゴムラテックスの製造)
アニオン界面活性剤硫酸ドデシルナトリウム(SDS)3gを水150gに溶かした溶液に、原料ラテックス150gを加えて攪拌し、ここへ尿素0.3gを少量の水に溶かした溶液を加えた。容器を遮光し、30℃で1時間攪拌した。この溶液を200メッシュの金網でろ過し、遠心分離(9000G、30分)で脱蛋白質化天然ゴム(DPNR)を濃縮した。
SDS3gを水150gに溶かした溶液にこの濃縮したDPNRを加え一時間攪拌し、200メッシュの金網でろ過し、上記と同様に遠心分離機によりゴム成分を濃縮した。同様にこの洗浄操作を2回繰り返し、得られた濃縮ゴム成分をSDS0.3gを水150gに溶かした溶液に分散させDPNRラテックスとした。
(製造例2:グラフト共重合体の製造)
窒素置換した三口フラスコの中に、製造例1で得られたDPNR(ゴム分濃度23重量%)116.6gを入れ、次にSDS0.1878gを水93.40gに溶かした溶液を入れた。フラスコをアルミホイルで遮光し、窒素ガスを一時間通気して攪拌しながら脱気を行った。ついで重合開始剤の70%t−ブチルヒドロペルオキシド(TBHPO)0.13g(0.1mmol)と0.9%w/wテトラエチレンペンタミン(TEPA)水溶液1.8335g(0.0087mmol)を加えた後、スチレンを5.3636g(5.15mmol、20PHR(Per Hundred Rubber))加え、30℃で2時間攪拌することによりグラフト共重合を行った。
反応後、未反応のスチレンを除去するため、反応混合物をメタノールへ投入し、ゴム成分を凝固させ、凝固したグラフト共重合ゴムをろ過した。この共重合ゴムをメタノールでよく洗浄し、減圧下(5mmHg)、60℃で乾燥することにより30.802gのスチレン共重合天然ゴム(DPNR−g−PSt)を得た。この共重合天然ゴム中のスチレン含有量は約12重量%であった。
製造例3:スルホン化天然ゴム共重合体の製造)
上記の製造例2で得られたDPNR−g−PSt5gを0℃で、クロロスルホン酸2.6295g(ゴム固形分に対して53重量%)をクロロホルム100mLに溶解した溶液に加え、4時間攪拌しながらスルホン化を行なった。酢酸50mLを加えてさらに30分間攪拌した。
反応後メタノールへ反応混合物を注ぎ、析出したゴム成分をろ過した。メタノールでこの沈殿物を洗浄し、減圧下(5mmHg)、60℃で乾燥を行い、4.4115gのスルホン化天然ゴム・スチレン共重合体(DPNR−PS−SOH)を得た。元素分析測定装置(ヤナコ分析工業株式会社製「CHNコーダーMT−6」)により定量した、この共重合体中のスルホン酸基の含有量は硫黄として0.8重量%であった。以下、この共重合体を、「DPNR−PS−S53」と表記する。
製造例4
製造例3において、クロロスルホン酸の使用量をゴム固形分に対して18重量%とした以外は、製造例3と同様にしてスルホン化天然ゴム・スチレン共重合体を製造した。この共重合体中のスルホン酸基の含有量は硫黄として0.1重量%であった。以下、得られた共重合体を「DPNR−PS−S18」と表記する。
製造例5
製造例3において、クロロスルホン酸の使用量をゴム固形分に対して35重量%とした以外は、製造例3と同様にしてスルホン化天然ゴム・スチレン共重合体を製造した。この共重合体中のスルホン酸基の含有量は硫黄として0.2重量%であった。以下、得られた共重合体を「DPNR−PS−S35」と表記する。
[水中エステル化反応におけるDPNR−PS−SOHの触媒機能の検討]
これらの製造例で調製したDPNR−PS−SOHが水中エステル化反応で触媒として作用するかを調べるため、スルホン化天然ゴム共重合体を触媒とするオレイン酸(純度60%)とイソアミルアルコールとの水中でのエステル化反応を行った。また、他の酸触媒と比較するため、パラトルエンスルホン酸(PTSA)、及び市販の酸性イオン交換樹脂(商品名:IR−120B)を用いて同様にエステル化反応を行った。エステル化は下記のScheme(1)にしたがって、80℃で24時間攪拌することにより行い、得られた粗生成物のHNMRスペクトルからエステル化率を求めた。
Figure 0004997497
実施例1:水中エステル化反応)
オレイン酸0.5g(1.77mmol)、イソアミルアルコール0.4680g(5.31mmol)、製造例3で製造したスルホン化天然ゴム共重合体(DPNR−PS−S53)0.5gを水11mL中に入れ、80℃に加熱しながら、24時間攪拌した。反応後、この溶液をジエチルエーテル50mL中に入れ、30分間攪拌した。ついで、ろ過により触媒と反応混合物に分離し、水層と分離した触媒をジエチルエーテルにより抽出した。あわせたエーテル溶媒抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮して生成物を得た。この生成物の組成をHNMR測定により分析した。得られた有機成分のHNMRスペクトルを図1に示す。エステル化率は、4ppm付近に認められるエステルに結合するメチレンプロトンのピークと、1ppm付近に認められるメチル基のプロトンの積分比により求めた。この反応におけるエステル化率は、55%であった。
(比較例1)
オレイン酸0.5g(1.77mmol)、イソアミルアルコール0.4680g(5.31mmol)、パラトルエンスルホン酸0.03048g(0.177mmol)を水11mL中に入れ、80℃に加熱しながら24時間攪拌した。反応後、この溶液を飽和重曹水に注ぎ、ジエチルエーテル25mLで3回抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮して粗生成物を得、HNMR測定により分析した。この反応におけるエステル化率は、0%であった。
(比較例2)
オレイン酸0.5g(1.77mmol)、イソアミルアルコール0.4680g(5.31mmol)、酸性イオン交換樹脂(IR−120B)0.5gを水11mL中に入れ、80℃に加熱しながら24時間攪拌した。反応後、この溶液をジエチルエーテル50mL中に入れ、30分間攪拌し、吸引ろ過により1R−120Bと反応混合物に分離した。分離したイオン交換樹脂をエーテルでよく洗浄し、得られた有機層を硫酸マグネシウムにより乾燥し濃縮により粗生成物を得て、HNMR測定により分析した。この反応のエステル化率は、0%であった。
従来触媒として使用されている、パラトルエンスルホン酸と酸性イオン交換樹脂を用いた場合、エステル化率は0%であり、水中エステル化は進行しなかった。これに対して、製造例3で製造したDPNR−PS−S53を用いた場合は、55%のエステル化率で反応が進行した。このことからDPNR−PS−S53は、水中エステル化において触媒の機能を持つことが判明した。また、このHNMRスペクトルにおいてエステル、原料基質、溶媒以外のピークが認められなかったことから、DPNR−PS−S53の存在下、副反応を伴わす反応が進行することが確認された。
実施例2
実施例1において、反応温度を40、60、80℃に設定した以外は実施例1と同様に反応を行い、DPNR−PS−S53を用いる水中エステル化における反応温度の影響を検討した。得られた粗生成物のHNMRスペクトルからエステル化率および収率を求めた。この結果を表1に示す。
Figure 0004997497
表1によれば、反応温度を上げるほど高いエステル化率が得られ、80℃で最も高い55%のエステル化率が得られた。よって、80℃で反応を行うことにより高いエステル化率が得られることが分かった。また、エステル化率と同等の収率が得られたことから、ろ過と抽出操作で反応混合物から有機成分を、損なうことなく効率的に得ることが出来ることも判明した。
実施例3
実施例1において、触媒として製造例4で得られたDPNR−PS−S18を使用した以外は、実施例1と同様に反応を行った。得られた粗生成物のHNMRスペクトルからエステル化率および収率を求めた。この結果を表2示す。
実施例4
実施例1において、触媒として製造例5で得られたDPNR−PS−S35を使用した以外は、実施例1と同様に反応を行った。得られた粗生成物のHNMRスペクトルからエステル化率および収率を求めた。この結果を表2示す。
Figure 0004997497
この結果から、DPNR−g−PStに供給するクロロスルホン酸の量を増やして調製したDPNR−PS−SOHを用いることにより、高いエステル化率が得られることが判明した。
本発明の実施例1の水中エステル化反応により得られた生成物のHNMRスペクトルである。

Claims (4)

  1. 脱蛋白質化天然ゴム・スチレン系共重合体をスルホン化してなる側鎖にスルホン酸基を有するスルホン化天然ゴム共重合体からなる水中エステル化反応用触媒。
  2. 前記脱蛋白質化天然ゴム・スチレン系共重合体が脱蛋白質化天然ゴムにスチレン系モノマーをグラフト重合した共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のスルホン化天然ゴム共重合体からなる水中エステル化反応用触媒。
  3. 前記脱蛋白質化天然ゴム・スチレン系共重合体におけるポリスチレン系成分の含有量が、共重合体全体を基準として5〜80重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスルホン化天然ゴム共重合体からなる水中エステル化反応用触媒。
  4. 前記スルホン化天然ゴム共重合体のスルホン酸基の含有量が硫黄として0.01〜20重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスルホン化天然ゴム共重合体からなる水中エステル化反応用触媒。
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