1.第一の実施形態
まず、本発明の第一の実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図1は、ハイブリッド駆動装置Hの中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。また、図2は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hのシステム構成を示す模式図である。なお、図2において、二重の実線は回転駆動力の伝達経路を示し、二重の破線は電力の伝達経路を示し、白抜きの矢印は作動油の流れを示している。また、実線の矢印は各種情報の伝達経路を示している。
これらの図に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、エンジンEに接続される入力軸Iと、車輪Wに接続される出力軸Oと、モータ・ジェネレータMGと、第一差動歯車装置PG1と、第二差動歯車装置PG2と、を備えている。また、これらの構成は、車体に固定される非回転部材としての駆動装置ケースDc(以下、単に「ケースDc」という。)内に収納されている。また、このハイブリッド駆動装置Hでは、各機器が、入力軸Iの回転軸方向に沿ってエンジンE側から、モータ・ジェネレータMG、第二差動歯車装置PG2、第一差動歯車装置PG1の順に配列されており、エンジンEとは反対側に出力軸Oが配置されている。なお、本実施形態においては、モータ・ジェネレータMGが本発明における「回転電機」に相当する。また、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。
このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンのみを駆動力源として備える車両に用いられる従来の自動変速装置の構成を少ない変更で利用した装置構成となっている。ここで対象としている従来の自動変速装置は、国際公開WO2005/026579号パンフレットの図3に記載された、前進8段及び後進2段の変速段を有する装置である。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、このような自動変速装置に対して、トルクコンバータを取り除き、当該トルクコンバータが配置されていた位置にモータ・ジェネレータMGを配置するとともに、ロータRoを第一差動歯車装置PG1の第一回転要素である第一サンギヤs1に連結した構成としている。また、このような自動変速装置における、第一差動歯車装置PG1に相当するラビニヨ型遊星歯車装置のキャリアにワンウェイクラッチが設けられているので、当該ワンウェイクラッチを取り除くことによりキャリアca1が入力軸Iの回転方向に対して反対方向に回転可能な構成としている。そして、このハイブリッド駆動装置Hは、このような従来の自動変速装置の構成に対して少ない変更を加えるだけで、後述するように、発進モード、パラレルモード、エンジン走行モード、電動走行モード、及びエンジン始動モードといったハイブリッド駆動装置として有用な複数のモード(図3〜8参照)を実現できる構成となっている。
1−1.ハイブリッド駆動装置の各部の構成
図1及び図2に示すように、入力軸Iは、エンジンEに接続されている。ここで、エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、入力軸IはエンジンEのクランクシャフト等の出力回転軸と一体回転するように接続されている。なお、入力軸Iが、エンジンEの出力回転軸との間にダンパやクラッチ等を介して接続される構成としても好適である。出力軸Oは、図2に示すように、ディファレンシャル装置17等を介して車輪Wに回転駆動力を伝達可能に接続されている。本例では、入力軸Iと出力軸Oとは同一軸線上に配置されている。
図1に示すように、モータ・ジェネレータMGは、ケースDcに固定されたステータStと、このステータStの径方向内側に回転自在に支持されたロータRoと、を有している。このモータ・ジェネレータMGのロータRoは、第二差動歯車装置PG2の外周に設けられたブレーキドラムDrと一体回転するように接続されている。このモータ・ジェネレータMGは、図2に示すように、インバータ12を介して蓄電装置としてのバッテリ11に電気的に接続されている。なお、バッテリ11は蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。そして、モータ・ジェネレータMGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能との双方を果すことが可能とされている。モータ・ジェネレータMGは、ジェネレータとして機能する場合には、発電した電力をバッテリ11に供給して充電し、モータとして機能する場合には、バッテリ11に充電された電力の供給を受けて力行する。このようなモータ・ジェネレータMGの動作は、制御装置ECUから制御指令に従ってインバータ12を介して行われる。
図1に示すように、本実施形態においては、第一差動歯車装置PG1は、入力軸Iと同軸状に配置されたラビニヨ型の遊星歯車装置により構成されている。ここで、ラビニヨ型の遊星歯車装置とは、1組のシングルピニオン型の遊星歯車機構と1組のダブルピニオン型の遊星歯車装置とが、キャリアとリングギヤとを共用して構成されるものである。具体的には、この第一差動歯車装置PG1は、第一サンギヤs1及び第二サンギヤs2の2つのサンギヤと、リングギヤr1と、第一サンギヤs1及びリングギヤr1の双方に噛み合うロングピニオンギヤ並びにこのロングピニオンギヤ及び第二サンギヤs2に噛み合うショートピニオンギヤを支持する共通のキャリアca1との4つの回転要素を備えている。第一差動歯車装置PG1のこれら4つの回転要素を、回転速度の順に第一回転要素e1、第二回転要素e2、第三回転要素e3、及び第四回転要素e4とすると、本実施形態においては、第一サンギヤs1が第一回転要素e1に相当し、キャリアca1が第二回転要素e2に相当し、リングギヤr1が第三回転要素e3に相当し、第二サンギヤs2が第四回転要素e4に相当する。
この第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1は、ブレーキドラムDrに接続されている。ここで、ブレーキドラムDrは、第一差動歯車装置PG1に対してエンジンE側に配置された円筒状回転部材であり、外周に第一ブレーキB1が設けられている。また、このブレーキドラムDrの内周には、第三クラッチC3及び第四クラッチC4が設けられており、その更に径方向内側には、第二差動歯車装置PG2及び第一クラッチC1が配置されている。そして、このブレーキドラムDrは、出力軸O側の端部において第一サンギヤs1と一体回転するように接続され、エンジンE側の端部においてモータ・ジェネレータMGのロータRoと一体回転するように接続されている。これにより、第一差動歯車装置PG1の第一回転要素e1である第一サンギヤs1は、ブレーキドラムDrを介してモータ・ジェネレータMGのロータRoと一体回転するように接続される。また、この第一サンギヤs1は、第一ブレーキB1を介してケースDcに選択的に固定される。更に第一サンギヤs1は、第三クラッチC3を介して第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3に選択的に接続されるとともに、第四クラッチC4を介して第二差動歯車装置PG2のキャリアca3に選択的に接続される。キャリアca1は、第二ブレーキB2を介してケースDcに選択的に固定されるとともに、第二クラッチC2を介して入力軸Iに選択的に接続される。リングギヤr1は、出力軸Oと一体回転するように接続されている。第二サンギヤs2は、第一クラッチC1を介して第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3に選択的に接続される。
したがって、第一差動歯車装置PG1の第一回転要素e1である第一サンギヤs1には、第三クラッチC3を係合状態とすることにより、この第三クラッチC3を介して、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3からリングギヤr3に伝達された入力軸Iのトルクが入力される。また、この第一サンギヤs1には、第四クラッチC4を係合状態とすることにより、この第四クラッチC4を介して入力軸Iのトルクが入力される。更に、第一差動歯車装置PG1の第二回転要素e2であるキャリアca1には、第二クラッチC2を係合状態とすることにより、この第二クラッチC2を介して入力軸Iのトルクが入力される。また、このキャリアca1は、ワンウェイクラッチ等が設けられていないため、入力軸Iの回転方向に対して反対方向に回転可能とされている。また、第一差動歯車装置PG1の第四回転要素e4である第二サンギヤs2には、第一クラッチC1を係合状態とすることにより、第一クラッチC1を介して、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3からリングギヤr3に伝達された入力軸Iのトルクが入力される。
一方、第二差動歯車装置PG2は、入力軸Iと同軸状に配置されたダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、第二差動歯車装置PG2は、複数組のピニオンギヤを支持するキャリアca3と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合うサンギヤs3及びリングギヤr3との3つの回転要素を備えている。第二差動歯車装置PG2のこれら3つの回転要素を、回転速度の順に第一回転要素e1、第二回転要素e2、及び第三回転要素e3とすると、本実施形態においては、サンギヤs3が第一回転要素e1に相当し、リングギヤr3が第二回転要素e2に相当し、キャリアca3が第三回転要素e3に相当する。本実施形態においては、第二差動歯車装置PG2は、ブレーキドラムDrの径方向内側に収まるように配置されている。
この第二差動歯車装置PG2のサンギヤs3は、ケースDcに固定されている。リングギヤr3は、第一クラッチC1を介して第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に選択的に接続されるとともに、第三クラッチC3を介してブレーキドラムDr及びそれと一体回転する第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に選択的に接続される。キャリアca3は、入力軸Iと一体回転するように接続されているとともに、第四クラッチC4を介してブレーキドラムDr及びそれと一体回転する第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に選択的に接続される。
上記のとおり、このハイブリッド駆動装置Hは、摩擦係合要素として、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第四クラッチC4、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2を備えている。これらの摩擦係合要素としては、いずれも油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキ等を好適に用いることができる。図2では、各摩擦係合要素は第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2に含まれることとして図示を省略しているが、この図2に示すように、これらの摩擦係合要素(すなわち第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2)に供給される油圧は、制御装置ECUからの制御指令により動作する油圧制御装置13により制御される。この油圧制御装置13への作動油の供給は、エンジンEの動作中は機械式オイルポンプ14により行われ、エンジンEの停止中は電動オイルポンプ15により行われる。ここで、機械式オイルポンプ14は、入力軸Iの回転駆動力により駆動される。また、電動オイルポンプ15は、電動オイルポンプ用インバータ16を介して供給されるバッテリ11からの電力(供給経路は図示省略)により駆動される。
1−2.ハイブリッド駆動装置の制御システムの構成
図2に示すように、制御装置ECUは、車両の各部に設けられたセンサSe1〜Se6で取得される情報を用いて、エンジンE、モータ・ジェネレータMG、油圧制御装置13を介して第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の各摩擦係合要素C1、C2、C3、C4、B1、及びB2(図1参照)、並びに電動オイルポンプ15等の動作制御を行う。これらのセンサとして、本例では、モータ・ジェネレータ回転センサSe1、エンジン回転センサSe2、バッテリ状態検出センサSe3、車速センサSe4、アクセル操作検出センサSe5、及びブレーキ操作検出センサSe6が設けられている。
ここで、モータ・ジェネレータ回転センサSe1は、モータ・ジェネレータMGのロータRoの回転速度を検出するためのセンサである。エンジン回転センサSe2は、エンジンEの出力回転軸の回転速度を検出するためのセンサである。ここで、入力軸IはエンジンEの出力回転軸と一体回転するので、このエンジン回転センサSe2により検出されるエンジンEの回転速度は入力軸Iの回転速度と一致する。バッテリ状態検出センサSe3は、バッテリ11の充電量等の状態を検出するためのセンサである。車速センサSe4は、車速を検出するために出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。アクセル操作検出センサSe5は、アクセルペダル18の操作量を検出するためのセンサである。ブレーキ操作検出センサSe6は、図示しないホイールブレーキに連動するブレーキペダル19の操作量を検出するためのセンサである。
また、制御装置ECUは、エンジン制御手段31、モータ・ジェネレータ制御手段32、バッテリ状態検出手段33、モータ・ジェネレータ回転検出手段34、車速検出手段35、切替制御手段36、電動オイルポンプ制御手段37、エンジン回転検出手段38、モード・変速段選択手段39、及び要求駆動力検出手段40を備えている。制御装置ECUにおけるこれらの各手段は、CPU等の演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うための機能部がハードウエア又はソフトウエア(プログラム)或いはその両方により実装されて構成されている。
エンジン制御手段31は、エンジンEの動作開始、停止、回転速度制御、出力トルク制御等の動作制御を行う。モータ・ジェネレータ制御手段32は、インバータ12を介して、モータ・ジェネレータMGの回転速度制御、出力トルク制御等の動作制御を行う。バッテリ状態検出手段33は、バッテリ状態検出センサSe3の出力に基づいて、バッテリ11の充電量等の状態を検出する。モータ・ジェネレータ回転検出手段34は、モータ・ジェネレータ回転センサSe1の出力に基づいて、モータ・ジェネレータMGの回転速度を検出する。車速検出手段35は、車速センサSe4からの出力に基づいて車速を検出する。切替制御手段36は、油圧制御装置13の動作を制御することにより、ハイブリッド駆動装置Hの各摩擦係合要素C1、C2、C3、C4、B1、及びB2(図1参照)のそれぞれの係合又は解放(係合解除)を行い、ハイブリッド駆動装置Hの動作モード及び各動作モードが有する変速段を切り替える制御を行う。電動オイルポンプ制御手段37は、電動オイルポンプ用インバータ16を介して電動オイルポンプ15の動作制御を行う。エンジン回転検出手段38は、エンジン回転センサSe2からの出力に基づいて、エンジンEの出力回転軸及び入力軸Iの回転速度を検出する。
モード・変速段選択手段39は、車速及び要求駆動力などの走行条件に応じて、所定の制御マップに従い適切な動作モードの選択を行う。すなわち、モード・変速段選択手段39は、車速の情報を車速検出手段35から取得するとともに、要求駆動力の情報を要求駆動力検出手段40から取得する。そして、モード・変速段選択手段39は、所定の制御マップに従って、取得された車速及び要求駆動力に応じて規定された動作モード及び変速段を選択する。ここで、選択される動作モードとしては、後述するように、発進モード、パラレルモード、エンジン走行モード、電動走行モード、及びエンジン始動モードの5つのモードがある。また、パラレルモード及びエンジン走行モードは、それぞれ複数の変速段を切り替え可能に備えている。なお、動作モード及び変速段の選択の際に参照される走行条件としては、車速及び要求駆動力の他にも、バッテリ充電量、冷却水温度、油温等の各種条件を用いても好適である。要求駆動力検出手段40は、アクセル操作検出センサSe5及びブレーキ操作検出センサSe6からの出力に基づいて、運転者の操作に応じて車両に要求される要求駆動力を演算して取得する。
1−3.ハイブリッド駆動装置の動作モード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能な動作モードについて説明する。図3は、複数の動作モード及び各動作モードが備える複数の変速段での各摩擦係合要素C1、C2、C3、C4、B1、B2の作動状態を示す作動表である。この図において、「丸印(●)」は各摩擦係合要素が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各摩擦係合要素が解放(係合解除)状態にあることを示している。なお、電動走行モードにおける「破線の丸印」は、電動走行モードによる前進又は後進を行う際に、エンジンEを始動するために係合される摩擦係合要素を示している。この図に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、発進モード、パラレルモード、エンジン走行モード、電動走行モード、及びエンジン始動モードの5つの動作モードを切り替え可能に備えている。また、パラレルモードは、1速段、3〜7速段、後進1速段、後進2速段の8つの変速段を切り替え可能に備えている。また、エンジン走行モードは、2速段、8速段の2つの変速段を切り替え可能に備えている。
なお、図3において、「1st」は1速段、「2nd」は2速段、「3rd」は3速段、「4th」は4速段、「5th」は5速段、「6th」は6速段、「7th」は7速段、「8th」は8速段、「Rev1」は後進1速段、「Rev2」は後進2速段をそれぞれ示している。本実施形態においては、各変速段の名称については、パラレルモード及びエンジン走行モードの2つのモードが備える変速段を合わせて連続する名称となるようにするとともに、エンジンE(入力軸I)の回転速度を出力軸Oへ伝達する際の変速比が大きいものから順に1速段、2速段、・・・8速段としている。この点は後進用の変速段についての同様であり、変速比が大きいものから順に後進1速段、後進2速段としている。したがって、これらの各変速段の名称は、従来の自動変速装置における同じ変速比の変速段の名称と一致している。
図4〜図11は、第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図を示している。すなわち、図4は発進モードでの速度線図、図5はパラレルモードでの速度線図、図6はエンジン走行モードでの速度線図、図7は電動走行モードでの速度線図、図8はエンジン始動モードでの速度線図をそれぞれ示している。また、図9は、出力軸Oの回転速度を一定とし、パラレルモード及びエンジン走行モードの変速段の切替を行った際の速度線図の変化を示す説明図である。図10は、パラレルモードで走行中に電動走行モードによる回生制動に移行した場合の速度線図の変化を示す説明図である。図11は、エンジン走行モードで走行中に電動走行モードによる回生制動に移行した場合の速度線図の変化を示す説明図である。これらの速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正、下側が負である。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の各回転要素に対応している。すなわち、各縦線の上側に記載されている「s1」、「ca1」、「r1」、「s2」はそれぞれ第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1、キャリアca1、リングギヤr1、第二サンギヤs2に対応し、「s3」、「ca3」、「r3」はそれぞれ第二差動歯車装置PG2のサンギヤs3、キャリアca3、リングギヤr3に対応している。これらの図から明らかなように、図4〜図11には、第一差動歯車装置PG1の速度線図の左側に第二差動歯車装置PG2の速度線図を並べて記載している。
また、各回転要素に対応する縦線の間隔は、第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2のそれぞれのギヤ比(サンギヤとリングギヤとの歯数比=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)に対応している。なお、図4〜図11の下部には、第一差動歯車装置PG1を構成する第一サンギヤs1、キャリアca1、及びリングギヤr1でなるシングルピニオン型の遊星歯車機構のギヤ比をλ1(λ1<1)として明示するとともに、第二サンギヤs2、リングギヤr1、及びキャリアca1でなるダブルピニオン型の遊星歯車機構のギヤ比をλ2(λ2<1)として明示している。また、第二差動歯車装置PG2のギヤ比をλ3(λ3<1)として明示している。また、これらの速度線図上において、「△」は入力軸I(エンジンE)の回転速度、「☆」は出力軸Oの回転速度、「○」はモータ・ジェネレータMGの回転速度、「×」は非回転部材としてのケースDcへの固定状態をそれぞれ示している。
このハイブリッド駆動装置Hの各動作モード及び変速段は、モード・変速段選択手段39により選択され、選択された動作モード及び変速段への切り替えは、制御装置ECUからの制御指令により各摩擦係合要素C1、C2、C3、C4、B1、B2が選択的に係合又は解放されることにより行われる。なお、この際、制御装置ECUは、モータ・ジェネレータ制御手段32によるモータ・ジェネレータMGの回転速度及び出力トルクの制御、エンジン制御手段31によるエンジンEの回転速度及び出力トルクの制御等も行う。以下、各動作モード及び変速段でのハイブリッド駆動装置Hの動作状態について詳細に説明する。
1−4.発進モード
まず、発進モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の動作状態について、図4に基づいて説明する。発進モードは、第一差動歯車装置PG1の第四回転要素である第二サンギヤs2に入力軸I(エンジンE)のトルクが入力された状態で、モータ・ジェネレータMGに発電させることにより、入力軸Iのトルクを増幅して出力軸Oに伝達しつつ、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させて車両を発進させるモードである。本実施形態においては、図3に示すように、発進モードでは、第一クラッチC1のみが係合状態とされる。したがって、第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2が第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3と一体回転するように接続され、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3からリングギヤr3に伝達された入力軸Iのトルクが第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に入力される。この状態でモータ・ジェネレータMGに発電させることにより、発進モードが実現される。
図4は、発進モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図である。この図において一点鎖線は出力軸Oの回転速度がゼロの状態(すなわち車両の停止状態)での第一差動歯車装置PG1の速度線図を示し、実線は一点鎖線の状態よりも出力軸Oの回転速度が高い(すなわち車速が高い)状態での第一差動歯車装置PG1の速度線図を示している。この図4の左側の速度線図に示すように、発進モードでは、第二差動歯車装置PG2により、入力軸Iの回転速度が減速されるとともに入力軸Iのトルクが増幅されて第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に伝達される。すなわち、第二差動歯車装置PG2では、回転速度の順で一方側となるキャリアca3が入力軸Iと一体回転し、回転速度の順で他方側となるサンギヤs3がケースDcに固定されている。この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクTeを出力し、このトルクTeが入力軸Iを介してキャリアca3に伝達される。そして、第二差動歯車装置PG2における、回転速度の順で中間となるリングギヤr3の回転が第一クラッチC1を介して第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に伝達される。したがって、第二差動歯車装置PG2のギヤ比をλ3=0.4とすると、入力軸Iの回転速度は0.6倍に減速され、入力軸I(エンジンE)のトルクTeは約1.67倍に増幅されて第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に伝達される。
また、図4の右側の速度線図に示すように、発進モードでは、第二差動歯車装置PG2により増幅されて第二サンギヤs2に伝達された入力軸I(エンジンE)のトルクTeが第一差動歯車装置PG1により更に増幅されて出力軸Oに伝達される。すなわち、第一差動歯車装置PG1では、回転速度の順で一方側となる第二サンギヤs2に、第二差動歯車装置PG2により増幅された入力軸IのトルクTeが入力され、回転速度の順で他方側となる第一サンギヤs1にモータ・ジェネレータMGが接続される。そして、回転速度の順で中間となる回転要素の一つであるリングギヤr1に出力軸Oが接続される。この際、モータ・ジェネレータMGは、正方向のトルクTmgを出力し、入力軸IのトルクTeの反力受けとして機能する。これにより、第一差動歯車装置PG1は、第二サンギヤs2に伝達された入力軸IのトルクTeとモータ・ジェネレータMGのトルクTmgとを合成し、第二差動歯車装置PG2による増幅後の入力軸IのトルクTeを更に増幅したトルクを出力軸Oに伝達する。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5、λ2=0.4とすると、第二差動歯車装置PG2による増幅後の入力軸IのトルクTeのトルクの0.5倍のトルクをモータ・ジェネレータMGのトルクTmgが分担することにより、第二差動歯車装置PG2による増幅後の入力軸IのトルクTeの1.5倍のトルクが出力軸Oに伝達される。
したがって、上記のように第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2のギヤ比を、λ1=0.5、λ2=0.4、λ3=0.4とした場合には、発進モードでは、第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の双方により、入力軸I(エンジンE)のトルクTeが2.5倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。なお、第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2のギヤ比λ1、λ2、及びλ3は、エンジンE及びモータ・ジェネレータMGの特性や車両重量等を考慮して適宜設定することができる。
以上に説明したように、発進モードは、入力軸I(エンジンE)のトルクTeを増幅して出力軸Oに伝達することができるため、車両の発進時や発進後の低速走行時等に使用されるモードとして適している。この発進モードでは、モータ・ジェネレータMGに正方向のトルクTmgを出力させて第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1の回転速度を次第に上昇させることにより、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させて加速することができる。そして、第一差動歯車装置PG1のキャリアca1の回転速度がゼロになった際に第二ブレーキB2を係合することにより、パラレルモードの1速段に移行することができる。また、第二ブレーキB2を係合することなく更に加速し、第一サンギヤs1の回転速度がゼロになった際に第一ブレーキB1を係合することにより、エンジン走行モードの2速段に移行することができる。或いは、第一ブレーキB1を係合することなく更に加速し、第一サンギヤs1の回転速度が第二サンギヤs2の回転速度と一致した際に第三クラッチC3を係合することにより、パラレルモードの3速段に移行することもできる。また、更に加速してパラレルモードの4速段又は5速段に移行することも可能である。発進モードからパラレルモードのどの変速段に移行するかは、バッテリ11の充電量等に応じてその都度決定する構成としてもよいし、一つの変速段を予め定めておいてもよい。一方、パラレルモード又はエンジン走行モードにおける第一クラッチC1を係合状態とする変速段の状態から、第一クラッチC1以外の摩擦係合要素を解放することにより、発進モードへ移行することができる。
ところで、この発進モードにおいては、モータ・ジェネレータMGは正方向のトルクTmgを出力する。したがって、車両の発進時等のように第一サンギヤs1の回転速度が負(回転方向が負)の状態では、モータ・ジェネレータMGは発電する。一方、発進モードからパラレルモードの3速段に移行する場合等のように第一サンギヤs1の回転速度が上昇して回転速度が正(回転方向が正)となった状態では、モータ・ジェネレータMGは力行する。なお、このような発進モードからパラレルモード又はエンジン走行モードへのモード切替は、切り替えの際に係合する摩擦係合要素の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。したがって、このようなモード切替に際して、摩擦係合要素の係合に伴う衝撃を発生させることなく、滑らかな切り替えを行うことができる。
1−5.パラレルモード
次に、パラレルモードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の動作状態について、図5に基づいて説明する。パラレルモードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第四クラッチC4、及び第二ブレーキB2の中のいずれか2つを選択的に係合することにより複数の変速段を切り替え可能に備え、各変速段に応じた所定の変速比で入力軸Iの回転速度を変速して出力軸Oに伝達しつつ、モータ・ジェネレータMGに力行又は発電させて車両を走行させるモードである。本実施形態においては、図3に示すように、パラレルモードは、1速段、3〜7速段、後進1速段、後進2速段の8つの変速段を切り替え可能に備えている。
図5は、パラレルモードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図である。この図5の左側の速度線図に示すように、第二差動歯車装置PG2は、パラレルモードが備える複数の変速段の全てについて共通の状態となる。すなわち、第二差動歯車装置PG2では、回転速度の順で一方側となるキャリアca3が入力軸Iと一体回転し、回転速度の順で他方側となるサンギヤs3がケースDcに固定されている。この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うよう)に維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクTeを出力し、このトルクTeが入力軸Iを介してキャリアca3に伝達される。そして、第二差動歯車装置PG2における、回転速度の順で中間となるリングギヤr3の回転が、第一クラッチC1の係合状態では第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に伝達され、第三クラッチC3の係合状態では第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に伝達される。また、入力軸Iと一体回転する第二差動歯車装置PG2のキャリアca3の回転が、第二クラッチC2の係合状態では第一差動歯車装置PG1のキャリアca1に伝達され、第四クラッチC4の係合状態では第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に伝達される。したがって、第二差動歯車装置PG2のギヤ比をλ3=0.4とすると、第一クラッチC1の係合状態では第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に、第三クラッチC3の係合状態では第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に、それぞれ入力軸Iの回転速度は0.6倍に減速され、入力軸I(エンジンE)のトルクTeは約1.67倍に増幅されて伝達される。一方、第二クラッチC2の係合状態では入力軸Iの回転速度及びトルクTeはそのまま第一差動歯車装置PG1のキャリアca1に伝達され、第四クラッチC4の係合状態では、入力軸Iの回転速度及びトルクTeはそのまま第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に伝達される。
また、図5の右側の速度線図に示すように、パラレルモードでは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第四クラッチC4、及び第二ブレーキB2の中のいずれか2つを選択的に係合することにより、第一差動歯車装置PG1の速度線図の状態が変化する。そして、第一差動歯車装置PG1と第二差動歯車装置PG2との組み合せにより、複数の変速段のそれぞれに応じた所定の変速比で、入力軸Iの回転速度を変速して出力軸Oに伝達する状態となる。これらの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図の状態は、従来の自動変速装置における対応する各変速段での速度線図の状態と基本的に同じである。但し、このパラレルモードでは、モータ・ジェネレータMGが第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1と一体回転するように接続されており、このモータ・ジェネレータMGに力行又は発電させながら車両を走行させることができる点で、従来の自動変速装置とは異なっている。すなわち、このパラレルモードでは、車両の加速時等のように車両の要求駆動力に対して入力軸I(エンジンE)のトルクTeが不足する場合には、モータ・ジェネレータMGは力行して入力軸IのトルクTeをアシストすることができる。一方、車両の減速時には発電して回生制動を行うことができる。また、車両の定常走行状態であっても、バッテリ11の充電量が不足する場合には発電し、バッテリ11の充電量が一杯になった場合には力行することにより、バッテリ11の充電状態を調整することもできる。以下、パラレルモードの各変速段での第一差動歯車装置PG1の状態について、それぞれ説明する。
図3に示すように、1速段(1st)では、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が係合状態とされる。そして、図5に示すように、この1速段では、第一クラッチC1が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に、第二差動歯車装置PG2によって減速された入力軸I(エンジンE)の回転が伝達される。また、第二ブレーキB2が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1によって第二サンギヤs2の回転速度が減速されて出力軸Oに伝達される。すなわち、1速段では、入力軸Iの回転速度は、第二差動歯車装置PG2及び第一差動歯車装置PG1の双方によって減速されて出力軸Oに伝達される。この1速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、パラレルモード及びエンジン走行モードの全ての変速段の中で最も変速比が大きい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ2=0.4とすると、上記のとおり第二差動歯車装置PG2により0.6倍に減速された後の入力軸Iの回転が、更に第一差動歯車装置PG1により0.4倍に減速されて出力軸Oに伝達される。よって本例においては、1速段では、入力軸Iの回転速度は0.24倍(変速比は約4.17)に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、1速段では、入力軸IのトルクTeは、約4.17倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。また、1速段では、モータ・ジェネレータMGの回転速度の絶対値も減速されて出力軸Oに伝達される。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、モータ・ジェネレータMGの回転速度の絶対値が、第一差動歯車装置PG1により、0.5倍に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、1速段では、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgは、2倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
図3に示すように、3速段(3rd)では、第一クラッチC1及び第三クラッチC3が係合状態とされる。そして、図5に示すように、この3速段では、第一クラッチC1及び第三クラッチC3が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1及び第二サンギヤs2に、第二差動歯車装置PG2によって減速された入力軸I(エンジンE)の回転が伝達される。また、第一クラッチC3及び第三クラッチC3が同時に係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1の全体が一体回転する直結状態となり、第二差動歯車装置PG2によって減速された入力軸Iの回転がそのまま出力軸Oに伝達される。この3速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、1速段及び後述するエンジン走行モードの2速段の変速比よりも小さい。具体的には、上記のとおり第二差動歯車装置PG2により0.6倍に減速された後の入力軸Iの回転が、そのまま出力軸Oに伝達される。よって本例においては、3速段では、入力軸Iの回転速度は0.6倍(変速比は約1.67)に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、3速段では、入力軸IのトルクTeは、約1.67倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。また、3速段では、モータ・ジェネレータMGの回転速度は同速のまま出力軸Oに伝達される。したがって、3速段では、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgも、そのまま出力軸Oに伝達される。
図3に示すように、4速段(4th)では、第一クラッチC1及び第四クラッチC4が係合状態とされる。そして、図5に示すように、この4速段では、第四クラッチC4が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に、入力軸I(エンジンE)の回転がそのまま伝達される。また、第一クラッチC1が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1によって第一サンギヤs1の回転速度が減速されて出力軸Oに伝達される。この4速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、3速段の変速比よりも小さい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5、λ2=0.4とすると、入力軸Iの回転が、第一差動歯車装置PG1により約0.73倍(変速比は約1.36)に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、4速段では、入力軸IのトルクTeは、約1.36倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。また、4速段では、モータ・ジェネレータMGの回転速度も入力軸Iと同じ変速比で減速されて出力軸Oに伝達される。具体的には、モータ・ジェネレータMGの回転速度が、第一差動歯車装置PG1により約0.73倍に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、4速段では、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgは、約1.36倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
図3に示すように、5速段(5th)では、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態とされる。そして、図5に示すように、この5速段では、第二クラッチC2が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1のキャリアca1に、入力軸I(エンジンE)の回転がそのまま伝達される。また、第一クラッチC1が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1によってキャリアca1の回転速度が減速されて出力軸Oに伝達される。この5速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、4速段の変速比よりも小さい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5、λ2=0.4とすると、入力軸Iの回転が、第一差動歯車装置PG1により0.84倍(変速比は約1.19)に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、5速段では、入力軸IのトルクTeは、約1.19倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。また、5速段では、モータ・ジェネレータMGの回転速度も減速されて出力軸Oに伝達される。具体的には、モータ・ジェネレータMGの回転速度が、第一差動歯車装置PG1により0.64倍に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、5速段では、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgは、約1.57倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
図3に示すように、6速段(6th)では、第二クラッチC2及び第四クラッチC4が係合状態とされる。そして、図5に示すように、この6速段では、第二クラッチC2及び第四クラッチC4が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1及びキャリアca1に、入力軸I(エンジンE)の回転がそのまま伝達される。また、第二クラッチC2及び第四クラッチC4が同時に係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1の全体が一体回転する直結状態となり、第一差動歯車装置PG1においても入力軸Iの回転が変速されず、そのまま出力軸Oに伝達される。よって本例においては、この6速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、5速段の変速比よりも小さく、変速比は1であり、入力軸Iの回転速度は同速のまま出力軸Oに伝達される。したがって、6速段では、入力軸IのトルクTeもそのまま出力軸Oに伝達される。また、6速段では、モータ・ジェネレータMGの回転速度も同速のまま出力軸Oに伝達される。したがって、6速段では、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgも、そのまま出力軸Oに伝達される。
図3に示すように、7速段(7th)では、第二クラッチC2及び第三クラッチC3が係合状態とされる。そして、図5に示すように、この7速段では、第二クラッチC2が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1のキャリアca1に、入力軸I(エンジンE)の回転がそのまま伝達される。また、第三クラッチC3が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1によってキャリアca1の回転速度が増速されて出力軸Oに伝達される。この7速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、6速段の変速比よりも小さい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、入力軸Iの回転が、第一差動歯車装置PG1により1.2倍(変速比は約0.83)に増速されて出力軸Oに伝達される。したがって、7速段では、入力軸IのトルクTeは、約0.83倍に減衰されて出力軸Oに伝達される。また、7速段では、モータ・ジェネレータMGの回転速度も増速されて出力軸Oに伝達される。具体的には、モータ・ジェネレータMGの回転速度が、第一差動歯車装置PG1により2倍に増速されて出力軸Oに伝達される。したがって、7速段では、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgは、0.5倍に減衰されて出力軸Oに伝達される。
図3に示すように、後進1速段(Rev1)では、第三クラッチC3及び第二ブレーキB2が係合状態とされる。そして、図5に示すように、この後進1速段では、第三クラッチC3が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に、第二差動歯車装置PG2によって減速された入力軸I(エンジンE)の回転が伝達される。また、第二ブレーキB2が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1によって第一サンギヤs1の回転速度が減速されるとともに回転方向が逆転されて出力軸Oに伝達される。すなわち、後進1速段では、入力軸Iの回転速度は、第二差動歯車装置PG2及び第一差動歯車装置PG1の双方によって減速されて出力軸Oに伝達される。この後進1速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、後進2速段の変速比よりも大きい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、上記のとおり第二差動歯車装置PG2により0.6倍に減速された後の入力軸Iの回転が、更に第一差動歯車装置PG1により0.5倍に減速されるとともに回転方向が逆転されて出力軸Oに伝達される。よって本例においては、後進1速段では、入力軸Iの回転速度は絶対値が0.3(変速比は約3.33)倍に減速されるとともに回転方向が逆転されて出力軸Oに伝達される。したがって、後進1速段では、入力軸IのトルクTeは、約3.33倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。また、後進1速段では、モータ・ジェネレータMGの回転速度の絶対値も減速されて出力軸Oに伝達される。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、モータ・ジェネレータMGの回転速度が、第一差動歯車装置PG1により、0.5倍に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、後進1速段では、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgは、2倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
図3に示すように、後進2速段(Rev2)では、第四クラッチC4及び第二ブレーキB2が係合状態とされる。そして、図5に示すように、この後進2速段では、第四クラッチC4が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に、入力軸I(エンジンE)の回転がそのまま伝達される。また、第二ブレーキB2が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1によって第一サンギヤs1の回転速度が減速されるとともに回転方向が逆転されて出力軸Oに伝達される。この後進2速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、後進1速段の変速比よりも小さい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、入力軸Iの回転が、第一差動歯車装置PG1により0.5倍(変速比は2)に減速されるとともに回転方向が逆転されて出力軸Oに伝達される。したがって、後進2速段では、入力軸IのトルクTeは、2倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。また、後進2速段では、モータ・ジェネレータMGの回転速度の絶対値も減速されて出力軸Oに伝達される。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、モータ・ジェネレータMGの回転速度が、第一差動歯車装置PG1により、0.5倍に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、後進2速段では、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgは、2倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
以上に説明したように、パラレルモードは、入力軸I(エンジンE)のトルクTeを各変速段に応じた変速比で変速して出力軸Oに伝達しつつ、必要に応じてモータ・ジェネレータMGに力行させて入力軸IのトルクTeをアシストし、或いはモータ・ジェネレータMGに発電させて回生制動やバッテリの充電等を行うことができる。したがって、このパラレルモードは、発進モードや後述する電動走行モードにより車両を発進させた後の中〜高速走行時等に使用されるモードとして適している。このパラレルモードにおける第一クラッチC1が係合状態とされる変速段である1速段及び3〜5速段の状態から、第一クラッチC1以外の摩擦係合要素を解放することにより、発進モードに移行することができる。また、パラレルモードの1速段、後進1速段、又は後進2速段の状態から、第二ブレーキB2以外の摩擦係合要素を解放することにより、電動走行モードに移行することができる。
1−6.エンジン走行モード
次に、エンジン走行モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の動作状態について、図6に基づいて説明する。エンジン走行モードは、第一ブレーキB1を係合してモータ・ジェネレータMGの回転を停止させ、入力軸Iのトルクを出力軸Oに伝達して車両を走行させるモードである。本実施形態においては、図3に示すように、エンジン走行モードは、第一ブレーキB1を係合するとともに、第一クラッチC1及び第二クラッチC2のいずれかを選択的に係合することにより、2速段及び8速段の2つの変速段を切り替え可能に備えている。そして、これら2つの変速段のうち、2速段は入力軸Iの回転速度を減速して出力軸Oに伝達する減速段となっており、8速段は、入力軸Iの回転速度を増速して出力軸Oに伝達する増速段となっている。
図6は、エンジン走行モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図である。この図6の左側の速度線図に示すように、第二差動歯車装置PG2は、エンジン走行モードの複数(2つ)の変速段について共通の状態であって、上述したパラレルモードとも共通の状態となる。すなわち、第二差動歯車装置PG2は、パラレルモード及びエンジン走行モードの2つのモードが備える全ての変速段について共通の状態となる。そして、第二差動歯車装置PG2における、回転速度の順で中間となるリングギヤr3の回転が、第一クラッチC1の係合状態では第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に伝達される。また、入力軸Iと一体回転する第二差動歯車装置PG2のキャリアca3の回転が、第二クラッチC2の係合状態では第一差動歯車装置PG1のキャリアca1に伝達される。したがって、第二差動歯車装置PG2のギヤ比をλ3=0.4とすると、第一クラッチC1の係合状態では第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に入力軸Iの回転速度は0.6倍に減速され、入力軸I(エンジンE)のトルクTeは約1.67倍に増幅されて伝達される。一方、第二クラッチC2の係合状態では入力軸Iの回転速度及びトルクTeはそのまま第一差動歯車装置PG1のキャリアca1に伝達される。
また、図6の右側の速度線図に示すように、エンジン走行モードでは、第一ブレーキB1を係合するとともに、第一クラッチC1及び第二クラッチC2のいずれかを選択的に係合することにより、第一差動歯車装置PG1の速度線図の状態が変化する。そして、第一差動歯車装置PG1と第二差動歯車装置PG2との組み合せにより、複数(2つ)の変速段のそれぞれに応じた所定の変速比で、入力軸Iの回転速度を変速して出力軸Oに伝達する状態となる。このエンジン走行モードでは、モータ・ジェネレータMGのロータRoが第一ブレーキB1によりケースDcに固定された状態となり、モータ・ジェネレータMGが動作しない。したがって、このエンジン走行モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図の状態は、従来の自動変速装置における対応する各変速段での速度線図の状態と同じである。以下、エンジン走行モードの各変速段での第一差動歯車装置PG1の状態について、それぞれ説明する。
図3に示すように、2速段(2nd)では、第一ブレーキB1及び第一クラッチC1が係合状態とされる。そして、図6に示すように、この2速段では、第一クラッチC1が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に、第二差動歯車装置PG2によって減速された入力軸I(エンジンE)の回転が伝達される。また、第一ブレーキB1が係合状態とされることにより、モータ・ジェネレータMGの回転が停止されるとともに、第一差動歯車装置PG1によって第二サンギヤs2の回転速度が減速されて出力軸Oに伝達される。すなわち、2速段では、入力軸Iの回転速度は、第二差動歯車装置PG2及び第一差動歯車装置PG1の双方によって減速されて出力軸Oに伝達される。この2速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、パラレルモードの1速段の変速比よりも小さい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5、λ2=0.4とすると、上記のとおり第二差動歯車装置PG2により0.6倍に減速された後の入力軸Iの回転が、更に第一差動歯車装置PG1により約0.67倍に減速されて出力軸Oに伝達される。よって本例においては、2速段では、入力軸Iの回転速度は0.4倍(変速比は2.5)に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、2速段では、入力軸IのトルクTeは、2.5倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
図3に示すように、8速段(8th)では、第一ブレーキB1及び第二クラッチC2が係合状態とされる。そして、図6に示すように、この8速段では、第二クラッチC2が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1のキャリアca1に、入力軸I(エンジンE)の回転がそのまま伝達される。また、第一ブレーキB1が係合状態とされることにより、モータ・ジェネレータMGの回転が停止されるとともに、第一差動歯車装置PG1によってキャリアca1の回転速度が増速されて出力軸Oに伝達される。この8速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、パラレルモードの7速段の変速比よりも小さい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、入力軸Iの回転が、第一差動歯車装置PG1により1.5倍(変速比は約0.67)に増速されて出力軸Oに伝達される。したがって、8速段では、入力軸IのトルクTeは、約0.67倍に減衰されて出力軸Oに伝達される。
以上に説明したように、エンジン走行モードは、モータ・ジェネレータMGの回転を停止させ、入力軸I(エンジンE)のトルクTeのみを各変速段に応じた変速比で変速して出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。したがって、このエンジン走行モードは、高速巡航時等のモータ・ジェネレータMGによるアシストや回生制動の必要が少ない走行状態で使用されるモードとして適している。すなわち、このエンジン走行モードでは、エンジンEのみによって車両を走行させることができるので、モータ・ジェネレータMGを駆動することにより生じるエネルギー損失を抑制できる。特に、エンジン走行モードの8速段は、入力軸I(エンジンE)の回転速度を増速して出力軸Oに伝達するため、エンジンEの回転速度を低く抑えることができる。したがって、高速巡航時に効率的に車両を走行させ、燃費を向上させることが可能となる。このエンジン走行モードの2速段の状態から、第一クラッチC1以外の摩擦係合要素である第一ブレーキB1を解放することにより、発進モードに移行することができる。
1−7.電動走行モード
次に、電動走行モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の動作状態について、図7に基づいて説明する。電動走行モードは、第二ブレーキB2を係合し、入力軸Iを出力軸Oから切り離した状態で、モータ・ジェネレータMGに力行又は発電させることにより、エンジンEの停止状態でモータ・ジェネレータMGのトルクを出力軸Oに伝達して車両を走行させるモードである。本実施形態においては、図3に示すように、電動走行モードでは、基本的には第二ブレーキB2のみが係合される。但し、電動走行モードからエンジンEを始動してパラレルモードに移行する場合には、車両の進行方向に応じて、第一クラッチC1又は第三クラッチC3を係合状態とすることにより、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgを入力軸Iに伝達してエンジンEを始動させることができる。図3における「破線の丸印」は、このようなエンジンEの始動を行うために係合される摩擦係合要素を示している。
図7は、電動走行モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図である。この図において一点鎖線は出力軸Oの回転速度がゼロの状態(すなわち車両の停止状態)での第一差動歯車装置PG1の速度線図を示し、実線は一点鎖線の状態よりも出力軸Oの回転速度が高い(すなわち車速が高い)状態であって、車両の前進時及び後進時のそれぞれにおける第一差動歯車装置PG1の速度線図を示している。この図7の左側の速度線図に示すように、電動走行モードでは、基本的に第二差動歯車装置PG2は第一差動歯車装置PG1の各回転要素から分離された状態となり、エンジンEは停止されて入力軸Iの回転速度はゼロとなる。
また、図7の右側の速度線図に示すように、電動走行モードでは、第一差動歯車装置PG1により、モータ・ジェネレータMGの回転速度が減速されるとともに、トルクTmgが増幅されて出力軸Oに伝達される。すなわち、この電動走行モードでは、第一差動歯車装置PG1は、第一サンギヤs1、キャリアca1、及びリングギヤr1でなるシングルピニオン型の遊星歯車機構のみが機能する状態となる。そして、この遊星歯車機構における、回転速度の順で一方側となる第一サンギヤs1にモータ・ジェネレータMGが接続され、回転速度の順で他方側となるリングギヤr1に出力軸Oが接続され、回転速度の順で中間となるキャリアca1が第二ブレーキB2によりケースDcに固定される。これにより、モータ・ジェネレータMGの回転方向が逆転されて出力軸Oに伝達される。したがって、モータ・ジェネレータMGが負方向のトルクTmgを出力し、回転速度が負(回転方向が負)となった状態で、出力軸Oは回転速度が正(回転方向が正)となり、車両が前進する。一方、モータ・ジェネレータMGが正方向のトルクTmgを出力し、回転速度が正(回転方向が正)となった状態で、出力軸Oは回転速度が負(回転方向が負)となり、車両が後進する。またこの際、第一差動歯車装置PG1のギヤ比λ1に応じて、モータ・ジェネレータMGの回転速度が減速されるとともに、トルクTmgが増幅されて出力軸Oに伝達される。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、モータ・ジェネレータMGの回転速度の絶対値が、第一差動歯車装置PG1により、0.5倍に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgは、2倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
この電動走行モードでは、車両の要求駆動力に応じてモータ・ジェネレータMGに力行又は発電を行わせる。すなわち、車両の加速時や定常走行時には、モータ・ジェネレータMGは力行してトルクTmgを出力軸Oに伝達することにより車両を走行させる。一方、車両の減速時には、モータ・ジェネレータMGは、車両の慣性により回転させられる出力軸Oのトルクの向きとは反対方向のトルクを発生させて発電を行うことにより、回生制動を行って車両を減速させる。以上に説明したように、電動走行モードは、エンジンEを停止した状態で、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgのみによって車両を走行させることができる。したがって、この電動走行モードは、車両の発進時、バッテリ11の充電量に余裕がある状態での低速走行時、或いは車両の走行中に減速を行う場合であってエンジンEを停止して高効率の回生制動を行う時等に使用されるモードとして適している。なお、パラレルモード又はエンジン走行モードで走行中に減速する際に、エンジンEを停止して電動走行モードに移行し、高効率で回生制動を行うための動作については、後で図10及び図11に基づいて詳細に説明する。
また、この電動走行モードでは、車両の進行方向に応じて、第一クラッチC1又は第三クラッチC3を係合状態とすることにより、エンジンEを始動してパラレルモードに移行することができる。具体的には、電動走行モードでモータ・ジェネレータMGが入力軸Iの回転方向に対して反対方向に回転している前進状態であって、第一クラッチC1が係合状態とされることにより、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgを入力軸Iに伝達してエンジンEを始動させることができる。すなわち、車両が前進している状態で第一クラッチC1を係合状態とすれば、第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3が第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2と一体回転する状態となるため、入力軸I及びエンジンEがモータ・ジェネレータMGのトルクTmgにより正方向に回転させられ、エンジンEを始動させることができる。このように、第二ブレーキB2が係合状態とされる電動走行モードにおいて、第一クラッチC1を係合状態とすると、パラレルモードの1速段に移行することができる(図3及び図5参照)。
ここで、第一クラッチC1を係合してエンジンEを始動させるタイミングは、バッテリ11の充電量等に応じて設定することができる。したがって、電動走行モードでしばらく走行してからエンジンEを始動する場合には、電動走行モードによる前進中に第一クラッチC1を滑らせながら係合することにより、第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2の回転速度に合わせて第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3の回転速度を上昇させることができる。これにより、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3と一体回転する入力軸I及びエンジンEの回転速度を上昇させてエンジンEを始動させることができる。一方、電動走行モードで発進してすぐにエンジンEを始動する場合には、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(すなわち車両の停止状態)から第一クラッチC1を係合状態としたまま、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgを出力軸Oに伝達して車両を走行させる。これにより、第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2の回転速度を上昇させることができるので、これと一体回転する第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3の回転速度を上昇させ、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3と一体回転する入力軸I及びエンジンEの回転速度を上昇させてエンジンEを始動させることができる。いずれの場合にも、エンジンの回転速度が一定値以上(例えば500rpm以上)となったときにエンジンを始動させることができる。
また、電動走行モードでモータ・ジェネレータMGが入力軸Iの回転方向と同じ方向に回転している後進状態であって、第三クラッチC3が係合状態とされることにより、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgを入力軸Iに伝達してエンジンEを始動させることができる。すなわち、車両が後進している状態で第三クラッチC3を係合状態とすれば、第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3が第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1と一体回転する状態となるため、入力軸I及びエンジンEがモータ・ジェネレータMGのトルクTmgにより正方向に回転させられ、エンジンEを始動させることができる。このように、第二ブレーキB2が係合状態とされる電動走行モードにおいて、第三クラッチC3を係合状態とすると、パラレルモードの後進1速段に移行することができる(図3及び図5参照)。
ここで、第三クラッチC3を係合してエンジンEを始動させるタイミングは、バッテリ11の充電量等に応じて設定することができる。したがって、電動走行モードでしばらく走行してからエンジンEを始動する場合には、電動走行モードによる後進中に第三クラッチC3を滑らせながら係合することにより、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1の回転速度に合わせて第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3の回転速度を上昇させることができる。これにより、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3と一体回転する入力軸I及びエンジンEの回転速度を上昇させてエンジンEを始動させることができる。一方、電動走行モードで発進してすぐにエンジンEを始動する場合には、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(すなわち車両の停止状態)から第三クラッチC3を係合状態としたまま、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgを出力軸Oに伝達して車両を走行させる。これにより、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1の回転速度を上昇させることができるので、これと一体回転する第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3の回転速度を上昇させ、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3と一体回転する入力軸I及びエンジンEの回転速度を上昇させてエンジンEを始動させることができる。いずれの場合にも、エンジンの回転速度が一定値以上(例えば500rpm以上)となったときにエンジンを始動させることができる。なお、図3には示していないが、第三クラッチC3に代えて、第四クラッチC4を係合することによっても同様にエンジンEを始動させることができる。この場合、エンジンEの始動後はパラレルモードの後進2速段に移行することになる。
1−8.エンジン始動モード
次に、エンジン始動モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の動作状態について、図8に基づいて説明する。エンジン始動モードは、エンジンEの停止状態で第三クラッチC3又は第四クラッチC4を係合し、モータ・ジェネレータMGに力行させることにより、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgを出力軸Oに伝達することなく入力軸Iに伝達し、エンジンEを始動させるモードである。本実施形態においては、図3に示すように、エンジン始動モードでは、第四クラッチC4のみが係合状態とされる。したがって、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1が第二差動歯車装置PG2のキャリアca3と一体回転するように接続された状態となる。この状態でモータ・ジェネレータMGに力行させることにより、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1及び第二差動歯車装置PG2のキャリアca3を介して入力軸I及びエンジンEの回転速度を上昇させ、エンジンEを始動させることができる。この際、第一差動歯車装置PG1は、出力軸Oに接続されたリングギヤr1の回転速度に関係なく第一サンギヤs1の回転速度を上昇させることが可能な状態となっているため、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgが出力軸Oに伝達されることはない。
図8は、エンジン始動モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図である。この図8の右側の速度線図に示すように、エンジン始動モードでは、モータ・ジェネレータMGが正方向のトルクTmgを出力し、正方向に回転速度を上昇させる。これにより、モータ・ジェネレータMGに接続された第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1の回転速度が次第に上昇する。この際、第一差動歯車装置PG1は、第一サンギヤs1以外のキャリアca1、リングギヤr1、及び第二サンギヤs2が拘束されない状態となっているため、出力軸Oに接続されたリングギヤr1の回転速度に関係なく、第一サンギヤs1の回転速度を上昇させることができる。なお、図8においては、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(すなわち車両の停止状態)でエンジン始動モードを実行する場合の例を示している。そして、第一サンギヤs1は、第四クラッチC4により第二差動歯車装置PG2のキャリアca3と一体回転するように接続されているため、第一サンギヤs1の回転速度の上昇に伴って、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3の回転速度も上昇する。これにより、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3と一体回転するように接続された入力軸I及びエンジンEの回転速度を上昇させ、エンジンEを始動させることができる。この場合、エンジンの回転速度が一定値以上(例えば500rpm以上)となったときにエンジンを始動させることができる。
なお、図3及び図8には示していないが、第四クラッチC4に代えて、第三クラッチC3を係合することによっても同様にエンジンEを始動させることができる。この場合、モータ・ジェネレータMGにより回転速度が上昇される第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1は、第三クラッチC3により第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3と一体回転するように接続されているため、第一サンギヤs1の回転速度の上昇に伴って、第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3の回転速度が上昇する。これにより、第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3からキャリアca3に回転を伝達し、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3と一体回転するように接続された入力軸I及びエンジンEの回転速度を上昇させ、エンジンEを始動させることができる。
このエンジン始動モードでは、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgを出力軸Oに伝達することなくエンジンEを始動させることができる。したがって、車両の停止時や惰性による極低速走行時にエンジンEを始動する場合等のように、出力軸Oに駆動力を伝達することなくエンジンEを始動したい場合に使用されるモードとして適している。
1−9.パラレルモード及びエンジン走行モードでの変速段の切替
次に、パラレルモード及びエンジン走行モードでの変速段の切替について、図9に基づいて説明する。図9は、出力軸Oの回転速度を一定とし、パラレルモードの1速段、エンジン走行モードの2速段、及びパラレルモードの3〜5速段の中で、変速段の切替を行った際の速度線図の変化を示す説明図である。
この図に示すように、パラレルモード及びエンジン走行モードの1〜5速段では、変速段の切り替えに際して、モータ・ジェネレータMGの回転速度は、入力軸I(エンジンE)の回転速度の変化する方向に対して反対方向に変化する。すなわち、シフトアップに際しては、モータ・ジェネレータMGの回転速度は上昇し、入力軸I(エンジンE)の回転速度は下降するように変化する。一方、シフトダウンに際しては、モータ・ジェネレータMGの回転速度は下降し、入力軸I(エンジンE)の回転速度は上昇するように変化する。これにより、パラレルモード及びエンジン走行モードの変速段の切り替えに際して、入力軸Iに接続されたエンジンEのイナーシャトルクとモータ・ジェネレータMGのイナーシャトルクとが打ち消し合う方向に作用することになる。したがって、変速段の切り替えに際してモータ・ジェネレータMGの回転速度の変化する方向と入力軸Iの回転速度の変化する方向が同じである場合に比べて、変速段の切り替えに際してのハイブリッド駆動装置Hの振動を抑制でき、衝撃の少ない滑らかな変速段の切り替えが可能となっている。なお、5〜8速段では、変速段の切り替えに際して、モータ・ジェネレータMGの回転速度の変化する方向と入力軸Iの回転速度の変化する方向が同じとなる。しかし、これらの変速段変速段の切り替えでは、変速比の変化が小さく、モータ・ジェネレータMG及び入力軸I(エンジンE)の回転速度の変化も少ないため、もともと振動や衝撃が少ない変速が可能であることから、特に問題とはならない。
また、本実施形態においては、このようなパラレルモード及びエンジン走行モードにおける変速段の切り替えに際して、入力軸I及びモータ・ジェネレータMGから出力軸Oに伝達されるトルクの変動幅が所定範囲内となるように、モータ・ジェネレータMGのトルクが制御される。すなわち、変速段の切り替えに際して、当該変速段の切り替え動作を開始する前に出力軸Oに伝達されていたトルクに対する、当該変速段の切り替え動作中に出力軸Oに伝達されるトルクの変化量が所定範囲内となるように、モータ・ジェネレータMGの出力トルクが制御される。ここで、変速段の切り替え動作を開始する前に出力軸Oに伝達されていたトルクとは、当該切り替え前の変速段での走行中に、入力軸I及びモータ・ジェネレータMGから出力軸Oに伝達されていたトルクである。また、変速段の切り替え動作中に出力軸Oに伝達されるトルクとは、変速段の切り替えに際して、入力軸I(エンジンE)の回転速度を変化させる際の回転速度の変化方向と逆方向に作用する入力軸I(エンジンE)のイナーシャトルクと、モータ・ジェネレータMGの回転速度を変化させるためのモータ・ジェネレータMGの出力トルクとのそれぞれが、出力軸Oに伝達された合計のトルクである。
そして、このハイブリッド駆動装置Hでは、入力軸Iのイナーシャトルクを制御することは難しいため、モータ・ジェネレータMGの出力トルクを制御することにより、変速段の切り替え動作中に出力軸Oに伝達されるトルクの変動幅が所定範囲内となるように制御する。この際、トルクの変動幅は、変速段の切り替え前と切り替え後との間で通常変化するトルク、すなわち、シフトアップに起因して減少するトルク、又はシフトダウンに起因して増加するトルクの範囲内とすると好適である。このようなモータ・ジェネレータMGのトルクの制御を行うことにより、変速段の切り替えに際して出力軸Oに伝達されるトルクの変動を抑制することができため、変速段の切り替えに際しての車両の挙動の変化を抑制でき、滑らかで迅速な変速段の切り替えが可能となる。また、このような制御を行うことにより、変速段の切り替えに際して、クラッチC1〜C4やブレーキB1、B2を滑らせながらつなぎ替える必要がなくなるため、これらのクラッチC1〜C4やブレーキB1、B2の負荷を減少させることができ、クラッチC1〜C4やブレーキB1、B2の小容量化や長寿命化を図ることが可能となる。
1−10.パラレルモード又はエンジン走行モードからエンジンを停止して回生制動
次に、パラレルモード又はエンジン走行モードからエンジンEを停止して電動走行モードに移行し、回生制動を行う際の動作について、図10及び図11に基づいて説明する。図10は、パラレルモードから電動走行モードによる回生制動に移行した場合の速度線図の変化の例を示す説明図であり、図11は、エンジン走行モードから電動走行モードによる回生制動に移行した場合の速度線図の変化を示す説明図である。これらの図において、一点鎖線はパラレルモード又はエンジン走行モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図を示し、実線は電動走行モードでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図を示している。
図10には、一例として、パラレルモードの7速段で走行中に減速する際に、エンジンEを停止して電動走行モードに移行し、回生制動を行う場合の速度線図の変化を示している。図3に示すように、電動走行モードでエンジンEを停止状態とする際には、第二ブレーキB2のみが係合状態とされる。したがって、パラレルモードの7速段から電動走行モードに移行する際には、図10に示すように、第二クラッチC2及び第三クラッチC3を解放し、第二ブレーキB2を係合する。具体的には、第二クラッチC2及び第三クラッチC3を解放した後、モータ・ジェネレータMGの回転速度を低下させて第二ブレーキB2を係合する。この際、迅速に回生制動を開始するためには、モータ・ジェネレータMGの回転速度を急激に低下させて第二ブレーキB2を係合する必要があるので、モータ・ジェネレータMGの回転速度の制御とともに、第二ブレーキB2を滑らせながら係合しても好適である。また、第二クラッチC2及び第三クラッチC3を解放した後、エンジンEは停止され、入力軸Iの回転速度はゼロとなる。このように、車両の減速時に電動走行モードに移行して回生制動を行うことにより、車輪から出力軸Oに伝達されるトルクを、入力軸I(エンジンE)に伝達することなく、全てモータ・ジェネレータMGに伝達して回生制動を行うことができるため、エンジン内部の摩擦抵抗によるエネルギー損失を抑制でき、高効率の発電(回生制動)を行うことができる。なお、パラレルモードの他の変速段で走行中に減速する場合にも、図10に示す例と同様に、当該変速段を形成するための摩擦係合要素を解放し、第二ブレーキB2のみを係合させることにより、電動走行モードによる回生制動を行うことができる。
また、図11には、一例として、エンジン走行モードの8速段で走行中に減速する際に、エンジンEを停止して電動走行モードに移行し、回生制動を行う場合の速度線図の変化を示している。エンジン走行モードの8速段からエンジン走行モードに移行する際には、図11に示すように、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1を解放し、第二ブレーキB2を係合する。具体的には、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1を解放した後、モータ・ジェネレータMGの回転速度を低下させて第二ブレーキB2を係合する。この際の制御は、図10に基づいて説明したパラレルモードの場合と同様とすることができる。また、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1を解放した後、エンジンEは停止され、入力軸Iの回転速度はゼロとなる。このように、車両の減速時に電動走行モードに移行して回生制動を行うことにより、車輪から出力軸Oに伝達されるトルクを、入力軸I(エンジンE)に伝達することなく、全てモータ・ジェネレータMGに伝達して回生制動を行うことができるため、エンジン内部の摩擦抵抗によるエネルギー損失を抑制でき、高効率の発電(回生制動)を行うことができる。なお、エンジン走行モードの他の変速段(2速段)で走行中に減速する場合にも、図11に示す例と同様に、当該変速段を形成するための摩擦係合要素を解放し、第二ブレーキB2のみを係合させることにより、電動走行モードによる回生制動を行うことができる。
2.第二の実施形態
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。図12は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図12は、図1と同様に、中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。このハイブリッド駆動装置Hの構成は、上記第一の実施形態におけるハイブリッド駆動装置Hから第四クラッチC4を取り除いた構成に等しい。そして、このハイブリッド駆動装置Hは、第四クラッチC4を備えないことに起因して、パラレルモードの変速段の数が、上記第一の実施形態よりも少なくなっている。その他の構成は、基本的に上記第一の実施形態と同様である。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。
このハイブリッド駆動装置Hも、上記第一の実施形態と同様に、エンジンのみを駆動力源として備える車両に用いられる従来の自動変速装置の構成を少ない変更で利用した装置構成となっている。ここで対象としている従来の自動変速装置は、国際公開WO2005/026579号パンフレットの図7に記載された、前進6段及び後進1段の変速段を有する装置である。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、上記第一の実施形態と同様に、このような自動変速装置に対して、トルクコンバータを取り除き、ロータRoを第一差動歯車装置PG1の第一回転要素である第一サンギヤs1に連結するようにモータ・ジェネレータMGを設けた構成としている。また、ワンウェイクラッチを取り除くことにより、第一差動歯車装置PG1のキャリアca1が入力軸Iの回転方向に対して反対方向に回転可能な構成としている。
図12に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、上記第一の実施形態と同様に、エンジンEに接続される入力軸Iと、車輪Wに接続される出力軸Oと、モータ・ジェネレータMGと、第一差動歯車装置PG1と、第二差動歯車装置PG2と、を備えている。但し、上記のとおり、本実施形態においては、上記第一の実施形態とは異なり、第四クラッチC4が設けられていない。したがって、第二差動歯車装置PG2の第三回転要素e3であるキャリアca3は、入力軸Iと一体回転するように接続されているだけとなっており、第四クラッチC4を介してブレーキドラムDrと選択的に接続される構成とはなっていない。第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2のその他の接続構成は、上記第一の実施形態と同様である。
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能な動作モードについて説明する。図13は、複数の動作モード及び各動作モードが備える複数の変速段での各摩擦係合要素C1、C2、C3、B1、B2の作動状態を示す作動表である。この図の記述方法は、上記第一の実施形態に係る図3と同様である。この図に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hも、発進モード、パラレルモード、エンジン走行モード、電動走行モード、及びエンジン始動モードの5つの動作モードを切り替え可能に備えている。また、パラレルモードは、1速段、3〜5速段、後進段の5つの変速段を切り替え可能に備えている。また、エンジン走行モードは、2速段、6速段の2つの変速段を切り替え可能に備えている。なお、図13において、「1st」は1速段、「2nd」は2速段、「3rd」は3速段、「4th」は4速段、「5th」は5速段、「6th」は6速段、「Rev」は後進段をそれぞれ示している。
図14〜図16は、本実施形態における、第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の速度線図を示している。すなわち、図14はパラレルモードでの速度線図、図15はエンジン走行モードでの速度線図、図16はエンジン始動モードでの速度線図をそれぞれ示している。なお、発進モードでの速度線図は上記第一の実施形態に係る図4と同じであり、電動走行モードでの速度線図は上記第一の実施形態に係る図7と同じである。これらの図の記述方法は、上記第一の実施形態に係る図4〜図11と同様である。
本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにおける、発進モード及び電動走行モードのそれぞれでの第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の動作状態は、上記第一の実施形態と同様である。但し、本実施形態においては、第四クラッチC4が存在しないため、電動走行モードで車両が後進している状態であっても、第三クラッチC3に代えて第四クラッチC4を係合してエンジンEを始動させることはできない。
一方、本実施形態においては、第四クラッチC4が存在しないため、パラレルモードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、及び第二ブレーキB2の中のいずれか2つを選択的に係合することにより複数の変速段を切り替える構成となっている。そのため、本実施形態のパラレルモードは、上記第一の実施形態と比較して、変速段が3つ少ない構成となっている。但し、本実施形態におけるパラレルモードの各変速段は、上記第一の実施形態におけるパラレルモードのいずれかの変速段に対応している。具体的には、図13及び図14に示すように、本実施形態におけるパラレルモードの1速段(1st)、3速段(3rd)、4速段(4th)、5速段(5th)、後進段(Rev)は、それぞれ上記第一の実施形態におけるパラレルモードの1速段(1st)、3速段(3rd)、5速段(5th)、7速段(7th)、後進1速段(Rev1)に対応している。すなわち、本実施形態におけるパラレルモードの1速段(1st)、3速段(3rd)、4速段(4th)、5速段(5th)、後進段(Rev)のそれぞれにおける第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の動作状態は、上記第一の実施形態におけるパラレルモードの1速段(1st)、3速段(3rd)、5速段(5th)、7速段(7th)、後進1速段(Rev1)のそれぞれにおける第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の動作状態と同様である。
また、エンジン走行モードは、上記第一の実施形態と変速段の数が同じであり、各変速段は、上記第一の実施形態におけるエンジン走行モードのいずれかの変速段に対応している。具体的には、図13及び図15に示すように、本実施形態におけるエンジン走行モードの2速段(2nd)、6速段(6th)は、それぞれ上記第一の実施形態におけるエンジン走行モードの2速段(2nd)、8速段(8th)に対応している。すなわち、本実施形態におけるエンジン走行モードの2速段(2nd)、6速段(6th)のそれぞれにおける第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の動作状態は、上記第一の実施形態におけるエンジン走行モードの2速段(2nd)、8速段(8th)のそれぞれにおける第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の動作状態と同様である。
一方、本実施形態においては、第四クラッチC4が存在しないため、エンジン始動モードは、図13に示すように、エンジンEの停止状態で第三クラッチC3を係合し、モータ・ジェネレータMGに力行させることにより、エンジンEを始動させる構成となっている。そのため、本実施形態のエンジン始動モードでは、図16に示すように、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1が第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3と一体回転するように接続された状態となる。この状態でモータ・ジェネレータMGに力行させることにより、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1及び第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3からキャリアca3にモータ・ジェネレータMGの回転を伝達して入力軸I及びエンジンEの回転速度を上昇させ、エンジンEを始動させることができる。この際、第一差動歯車装置PG1は、出力軸Oに接続されたリングギヤr1の回転速度に関係なく第一サンギヤs1の回転速度を上昇させることが可能な状態となっているため、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgが出力軸Oに伝達されることはない。
本実施形態においても、パラレルモード及びエンジン走行モードの1〜4速段では、変速段の切り替えに際して、モータ・ジェネレータMGの回転速度は、入力軸I(エンジンE)の回転速度の変化する方向に対して反対方向に変化する。したがって、変速段の切り替えに際してモータ・ジェネレータMGの回転速度の変化する方向と入力軸Iの回転速度の変化する方向が同じである場合に比べて、変速段の切り替えに際してのハイブリッド駆動装置Hの振動を抑制でき、衝撃の少ない滑らかな変速段の切り替えが可能となっている。なお、このようなパラレルモード及びエンジン走行モードにおける変速段の切り替えに際して、入力軸I及びモータ・ジェネレータMGから出力軸Oに伝達されるトルクの変動幅が所定範囲内となるように、モータ・ジェネレータMGのトルクが制御される点は、上記第一の実施形態と同様である。また、パラレルモード又はエンジン走行モードからエンジンEを停止して電動走行モードに移行し、回生制動を行う際の動作についても、上記第一の実施形態と同様とすることができる。
3.第三の実施形態
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。図17は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図17は、図1と同様に、中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。このハイブリッド駆動装置Hの構成は、上記第一の実施形態におけるハイブリッド駆動装置Hから第二差動歯車装置PG2及び第四クラッチC4を取り除き、第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3に相当する回転要素を入力軸Iと一体回転するようにした構成に等しい。したがって、このハイブリッド駆動装置Hでは、各機器が、入力軸Iの回転軸方向に沿ってエンジンE側から、モータ・ジェネレータMG、第一差動歯車装置PG1の順に配列されており、エンジンEとは反対側に出力軸Oが配置されている。そして、このハイブリッド駆動装置Hは、第二差動歯車装置PG2及び第四クラッチC4を備えないことに起因して、パラレルモードの変速段の数が、上記第一の実施形態よりも少なくなっている。その他の構成は、基本的に上記第一の実施形態と同様である。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。
このハイブリッド駆動装置Hも、上記第一の実施形態と同様に、エンジンのみを駆動力源として備える車両に用いられる従来の自動変速装置の構成を少ない変更で利用した装置構成となっている。ここで対象としている従来の自動変速装置は、ラビニヨ型遊星歯車装置を用いた前進4段及び後進1段の変速段を有する装置である。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、上記第一の実施形態と同様に、このような自動変速装置に対して、トルクコンバータを取り除き、ロータRoを第一差動歯車装置PG1の第一回転要素である第一サンギヤs1に連結するようにモータ・ジェネレータMGを設けた構成としている。また、ワンウェイクラッチを取り除くことにより、第一差動歯車装置PG1のキャリアca1が入力軸Iの回転方向に対して反対方向に回転可能な構成としている。
3−1.ハイブリッド駆動装置の各部の構成
図17に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、エンジンEに接続される入力軸Iと、車輪Wに接続される出力軸Oと、モータ・ジェネレータMGと、第一差動歯車装置PG1と、を備えている。但し、上記のとおり、本実施形態においては、上記第一の実施形態とは異なり、第二差動歯車装置PG2及び第四クラッチC4が設けられていない。したがって、本実施形態においては、第一差動歯車装置PG1の各回転要素の接続関係は、以下のようになっている。
すなわち、図17に示すように、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1は、ブレーキドラムDrに接続されている。そして、ブレーキドラムDrの外周には、第一ブレーキB1が設けられている。また、このブレーキドラムDrの内周には、第三クラッチC3が設けられており、その更に径方向内側には、第一クラッチC1が配置されている。そして、このブレーキドラムDrは、出力軸O側の端部において第一サンギヤs1と一体回転するように接続され、エンジンE側の端部においてモータ・ジェネレータMGのロータRoと一体回転するように接続されている。これにより、第一差動歯車装置PG1の第一回転要素e1である第一サンギヤs1は、ブレーキドラムDrを介してモータ・ジェネレータMGのロータRoと一体回転するように接続される。また、この第一サンギヤs1は、第一ブレーキB1を介してケースDcに選択的に固定される。更に第一サンギヤs1は、第三クラッチC3を介して入力軸Iに選択的に接続される。キャリアca1は、第二ブレーキB2を介してケースDcに選択的に固定されるとともに、第二クラッチC2を介して入力軸Iに選択的に接続される。リングギヤr1は、出力軸Oと一体回転するように接続されている。第二サンギヤs2は、第一クラッチC1を介して入力軸Iに選択的に接続される。
したがって、第一差動歯車装置PG1の第一回転要素e1である第一サンギヤs1には、第三クラッチC3を係合状態とすることにより、この第三クラッチC3を介して入力軸Iのトルクが入力される。また、第一差動歯車装置PG1の第二回転要素e2であるキャリアca1には、第二クラッチC2を係合状態とすることにより、この第二クラッチC2を介して入力軸Iのトルクが入力される。また、このキャリアca1は、ワンウェイクラッチ等が設けられていないため、入力軸Iの回転方向に対して反対方向に回転可能とされている。更に、第二差動歯車装置PG2の第四回転要素e4である第二サンギヤs2には、第一クラッチC1を係合状態とすることにより、第一クラッチC1を介して入力軸Iのトルクが入力される。
3−2.ハイブリッド駆動装置の動作モード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能な動作モードについて説明する。図18は、複数の動作モード及び各動作モードが備える複数の変速段での各摩擦係合要素C1、C2、C3、B1、B2の作動状態を示す作動表である。この図の記述方法は、上記第一の実施形態に係る図3と同様である。この図に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hも、発進モード、パラレルモード、エンジン走行モード、電動走行モード、及びエンジン始動モードの5つの動作モードを切り替え可能に備えている。また、パラレルモードは、1速段、3速段、後進段の3つの変速段を切り替え可能に備えている。また、エンジン走行モードは、2速段、4速段の2つの変速段を切り替え可能に備えている。なお、図18において、「1st」は1速段、「2nd」は2速段、「3rd」は3速段、「4th」は4速段、「Rev」は後進段をそれぞれ示している。
図19〜図23は、本実施形態における、第一差動歯車装置PG1の速度線図を示している。すなわち、図19は発進モードでの速度線図、図20はパラレルモードでの速度線図、図21はエンジン走行モードでの速度線図、図22は電動走行モードでの速度線図、図23はエンジン始動モードでの速度線図をそれぞれ示している。これらの図の記述方法は、上記第一の実施形態に係る図4〜図11と同様である。以下、各動作モード及び変速段でのハイブリッド駆動装置Hの動作状態について詳細に説明する。
3−3.発進モード
まず、発進モードでの第一差動歯車装置PG1の動作状態について、図19に基づいて説明する。発進モードは、第一差動歯車装置PG1の第四回転要素である第二サンギヤs2に入力軸I(エンジンE)のトルクが入力された状態で、モータ・ジェネレータMGに発電させることにより、入力軸Iのトルクを増幅して出力軸Oに伝達しつつ、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させて車両を発進させるモードである。本実施形態においては、図18に示すように、発進モードでは、第一クラッチC1のみが係合状態とされる。このように、本実施形態における発進モードでの第一差動歯車装置PG1の動作状態は、基本的には、上記第一の実施形態と同様である。但し、本実施形態においては、上記第一の実施形態とは異なり、第二差動歯車装置PG2が存在しないため、図19に示すように、第一クラッチC1の係合状態で、第二サンギヤs2が入力軸I及びエンジンEと一体回転するように接続された状態となる。
図19の速度線図に示すように、発進モードでは、第一クラッチC1を介して第二サンギヤs2と一体回転するように接続された入力軸I(エンジンE)のトルクTeが第一差動歯車装置PG1により増幅されて出力軸Oに伝達される。すなわち、第一差動歯車装置PG1では、回転速度の順で一方側となる第二サンギヤs2に入力軸Iが接続され、回転速度の順で他方側となる第一サンギヤs1にモータ・ジェネレータMGが接続される。そして、回転速度の順で中間となる回転要素の一つであるリングギヤr1に出力軸Oが接続される。この際、モータ・ジェネレータMGは、正方向のトルクTmgを出力し、入力軸IのトルクTeの反力受けとして機能する。これにより、第一差動歯車装置PG1は、第二サンギヤs2に伝達された入力軸IのトルクTeとモータ・ジェネレータMGのトルクTmgとを合成して増幅した入力軸IのトルクTeを出力軸Oに伝達する。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5、λ2=0.4とすると、入力軸IのトルクTeのトルクの0.5倍のトルクをモータ・ジェネレータMGのトルクTmgが分担することにより、入力軸IのトルクTeの1.5倍のトルクが出力軸Oに伝達される。
なお、第一差動歯車装置PG1のギヤ比λ1及びλ2は、エンジンE及びモータ・ジェネレータMGの特性や車両重量等を考慮して適宜設定することができる。本実施形態においても、上記第一の実施形態と同様に、発進モードからパラレルモードやエンジン走行モードへ移行し、或いはパラレルモードやエンジン走行モードから発進モードへ移行することが可能である。
3−4.パラレルモード
次に、パラレルモードでの第一差動歯車装置PG1の動作状態について、図20に基づいて説明する。パラレルモードは、第一クラッチC1、第三クラッチC3、及び第二ブレーキB2の中のいずれか2つを選択的に係合することにより複数の変速段を切り替え可能に備え、各変速段に応じた所定の変速比で入力軸Iの回転速度を変速して出力軸Oに伝達しつつ、モータ・ジェネレータMGに力行又は発電させて車両を走行させるモードである。本実施形態においては、図18に示すように、パラレルモードは、1速段、3速段、後進段の3つの変速段を切り替え可能に備えている。
図20の速度線図に示すように、パラレルモードでは、第一クラッチC1、第三クラッチC3、及び第二ブレーキB2の中のいずれか2つを選択的に係合することにより、第一差動歯車装置PG1の速度線図の状態が変化し、それにより、複数の変速段のそれぞれに応じた所定の変速比で、入力軸Iの回転速度を変速して出力軸Oに伝達する状態となる。また、このパラレルモードでは、モータ・ジェネレータMGが第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1と一体回転するように接続されており、このモータ・ジェネレータMGに力行又は発電させながら車両を走行させることができる。以下、パラレルモードの各変速段での第一差動歯車装置PG1の状態について、それぞれ説明する。
図18に示すように、1速段(1st)では、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が係合状態とされる。そして、図20に示すように、この1速段では、第一クラッチC1が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に入力軸I(エンジンE)が接続される。また、第二ブレーキB2が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1によって第二サンギヤs2の回転速度が減速されて出力軸Oに伝達される。この1速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、パラレルモード及びエンジン走行モードの全ての変速段の中で最も変速比が大きい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ2=0.4とすると、入力軸Iの回転が第一差動歯車装置PG1により0.4倍(変速比は2.5)に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、1速段では、入力軸IのトルクTeは、約2.5倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。また、1速段では、モータ・ジェネレータMGの回転速度の絶対値も減速されて出力軸Oに伝達される。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、モータ・ジェネレータMGの回転速度の絶対値が、第一差動歯車装置PG1により、0.5倍に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、1速段では、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgは、2倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
図18に示すように、3速段(3rd)では、第一クラッチC1及び第三クラッチC3が係合状態とされる。そして、図20に示すように、この3速段では、第一クラッチC1及び第三クラッチC3が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1及び第二サンギヤs2に入力軸Iが接続される。これにより、入力軸I(エンジンE)とモータ・ジェネレータMGとが一体回転するように接続される状態となる。また、第一クラッチC1及び第三クラッチC3が同時に係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1の全体が一体回転する直結状態となり、入力軸I及びモータ・ジェネレータMGの回転がそのまま出力軸Oに伝達される。よって本例においては、この3速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、1速段及び後述するエンジン走行モードの2速段の変速比よりも小さく、変速比は1であり、入力軸I及びモータ・ジェネレータMGの回転速度は同速のまま出力軸Oに伝達される。したがって、3速段では、入力軸IのトルクTe及びモータ・ジェネレータMGのトルクTmgもそのまま出力軸Oに伝達される。
図18に示すように、後進段(Rev)では、第三クラッチC3及び第二ブレーキB2が係合状態とされる。そして、図20に示すように、この後進段では、第三クラッチC3が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に入力軸Iが接続される。これにより、入力軸I(エンジンE)とモータ・ジェネレータMGとが一体回転するように接続される状態となる。また、第二ブレーキB2が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置PG1によって第一サンギヤs1の回転速度が減速されるとともに回転方向が逆転されて出力軸Oに伝達される。この後進段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、入力軸Iの回転が第一差動歯車装置PG1により0.5倍に減速されるとともに回転方向が逆転されて出力軸Oに伝達される。よって本例においては、後進段では、入力軸I及びそれと一体回転するモータ・ジェネレータMGの回転速度は絶対値が0.5(変速比は2)倍に減速されるとともに回転方向が逆転されて出力軸Oに伝達される。したがって、後進段では、入力軸IのトルクTe及びモータ・ジェネレータMGのトルクTmgは、2倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
このパラレルモードにおける第一クラッチC1が係合状態とされる変速段である1速段及び3速段の状態から、第一クラッチC1以外の摩擦係合要素を解放することにより、発進モードに移行することができる。また、パラレルモードの1速段又は後進段の状態から、第二ブレーキB2以外の摩擦係合要素を解放することにより、電動走行モードに移行することができる。
3−5.エンジン走行モード
次に、エンジン走行モードでの第一差動歯車装置PG1の動作状態について、図21に基づいて説明する。エンジン走行モードは、第一ブレーキB1を係合してモータ・ジェネレータMGの回転を停止させ、入力軸Iのトルクを出力軸Oに伝達して車両を走行させるモードである。本実施形態においては、図18に示すように、エンジン走行モードは、第一ブレーキB1を係合するとともに、第一クラッチC1及び第二クラッチC2のいずれかを選択的に係合することにより、2速段及び4速段の2つの変速段を切り替え可能に備えている。そして、これら2つの変速段のうち、2速段は入力軸Iの回転速度を減速して出力軸Oに伝達する減速段となっており、4速段は、入力軸Iの回転速度を増速して出力軸Oに伝達する増速段となっている。
図21の速度線図に示すように、エンジン走行モードでは、第一ブレーキB1を係合するとともに、第一クラッチC1及び第二クラッチC2のいずれかを選択的に係合することにより、第一差動歯車装置PG1の速度線図の状態が変化し、それにより、複数(2つ)の変速段のそれぞれに応じた所定の変速比で、入力軸Iの回転速度を変速して出力軸Oに伝達する状態となる。このエンジン走行モードでは、モータ・ジェネレータMGのロータRoが第一ブレーキB1によりケースDcに固定された状態となり、モータ・ジェネレータMGが動作しない。以下、エンジン走行モードの各変速段での第一差動歯車装置PG1の状態について、それぞれ説明する。
図18に示すように、2速段(2nd)では、第一ブレーキB1及び第一クラッチC1が係合状態とされる。そして、図21に示すように、この2速段では、第一クラッチC1が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に入力軸I(エンジンE)が接続される。また、第一ブレーキB1が係合状態とされることにより、モータ・ジェネレータMGの回転が停止されるとともに、第一差動歯車装置PG1によって第二サンギヤs2の回転速度が減速されて出力軸Oに伝達される。この2速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、パラレルモードの1速段の変速比よりも小さい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5、λ2=0.4とすると、入力軸Iの回転が第一差動歯車装置PG1により約0.67倍(変速比は1.5)に減速されて出力軸Oに伝達される。したがって、2速段では、入力軸IのトルクTeは、1.5倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
図18に示すように、4速段(4th)では、第一ブレーキB1及び第二クラッチC2が係合状態とされる。そして、図21に示すように、この4速段では、第二クラッチC2が係合状態とされることにより、上記のとおり、第一差動歯車装置PG1のキャリアca1に、入力軸I(エンジンE)が接続される。また、第一ブレーキB1が係合状態とされることにより、モータ・ジェネレータMGの回転が停止されるとともに、第一差動歯車装置PG1によってキャリアca1の回転速度が増速されて出力軸Oに伝達される。この4速段での入力軸Iから出力軸Oまでの変速比は、パラレルモードの3速段の変速比よりも小さい。具体的には、第一差動歯車装置PG1のギヤ比をλ1=0.5とすると、入力軸Iの回転が、第一差動歯車装置PG1により1.5倍(変速比は約0.67)に増速されて出力軸Oに伝達される。したがって、4速段では、入力軸IのトルクTeは、約0.67倍に減衰されて出力軸Oに伝達される。
3−6.電動走行モード
次に、電動走行モードでの第一差動歯車装置PG1の動作状態について、図22に基づいて説明する。電動走行モードは、第二ブレーキB2を係合し、入力軸Iを出力軸Oから切り離した状態で、モータ・ジェネレータMGに力行又は発電させることにより、エンジンEの停止状態でモータ・ジェネレータMGのトルクを出力軸Oに伝達して車両を走行させるモードである。本実施形態においては、図18に示すように、電動走行モードでは、基本的には第二ブレーキB2のみが係合される。但し、電動走行モードからエンジンEを始動してパラレルモードに移行する場合には、車両の進行方向に応じて、第一クラッチC1又は第三クラッチC3を係合状態とすることにより、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgを入力軸Iに伝達してエンジンEを始動させることができる。図18における「破線の丸印」は、このようなエンジンEの始動を行うために係合される摩擦係合要素を示している。
図22の速度線図に示すように、電動走行モードでは、基本的に入力軸I(エンジンE)は第一差動歯車装置PG1の各回転要素から分離された状態となり、エンジンEは停止されて入力軸Iの回転速度はゼロとなる。そして、第一差動歯車装置PG1により、モータ・ジェネレータMGの回転速度が減速されるとともに、トルクTmgが増幅されて出力軸Oに伝達される。この電動走行モードでの第一差動歯車装置PG1の動作状態は、上記第一の実施形態と同様である。但し、本実施形態においては、第四クラッチC4が存在しないため、電動走行モードで車両が後進している状態であっても、第三クラッチC3に代えて第四クラッチC4を係合してエンジンEを始動させることはできない。
3−7.エンジン始動モード
次に、エンジン始動モードでの第一差動歯車装置PG1の動作状態について、図23に基づいて説明する。エンジン始動モードは、エンジンEの停止状態で第三クラッチC3を係合し、モータ・ジェネレータMGに力行させることにより、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgを出力軸Oに伝達することなく入力軸Iに伝達し、エンジンEを始動させるモードである。本実施形態においては、図18に示すように、エンジン始動モードでは、第三クラッチC3のみが係合状態とされる。したがって、入力軸I(エンジンE)とモータ・ジェネレータMGとが一体回転するように接続される状態となる。この状態でモータ・ジェネレータMGに力行させることにより、入力軸I及びエンジンEの回転速度を上昇させ、エンジンEを始動させることができる。この際、第一差動歯車装置PG1は、出力軸Oに接続されたリングギヤr1の回転速度に関係なく第一サンギヤs1の回転速度を上昇させることが可能な状態となっているため、モータ・ジェネレータMGのトルクTmgが出力軸Oに伝達されることはない。
図23の速度線図に示すように、エンジン始動モードでは、モータ・ジェネレータMGが正方向のトルクTmgを出力し、正方向に回転速度を上昇させる。これにより、モータ・ジェネレータMGと一体回転するように接続された入力軸I(エンジンE)の回転速度が次第に上昇させ、エンジンEを始動させることができる。この際、第一差動歯車装置PG1は、第一サンギヤs1以外のキャリアca1、リングギヤr1、及び第二サンギヤs2が拘束されない状態となっているため、出力軸Oに接続されたリングギヤr1の回転速度に関係なく、第一サンギヤs1の回転速度を上昇させることができる。なお、図23においては、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(すなわち車両の停止状態)でエンジン始動モードを実行する場合の例を示している。
3−8.その他
本実施形態においても、パラレルモード及びエンジン走行モードの1〜3速段では、変速段の切り替えに際して、モータ・ジェネレータMGの回転速度は、入力軸I(エンジンE)の回転速度の変化する方向に対して反対方向に変化する。したがって、変速段の切り替えに際してモータ・ジェネレータMGの回転速度の変化する方向と入力軸Iの回転速度の変化する方向が同じである場合に比べて、変速段の切り替えに際してのハイブリッド駆動装置Hの振動を抑制でき、衝撃の少ない滑らかな変速段の切り替えが可能となっている。なお、このようなパラレルモード及びエンジン走行モードにおける変速段の切り替えに際して、入力軸I及びモータ・ジェネレータMGから出力軸Oに伝達されるトルクの変動幅が所定範囲内となるように、モータ・ジェネレータMGのトルクが制御される点は、上記第一の実施形態と同様である。また、パラレルモード又はエンジン走行モードからエンジンEを停止して電動走行モードに移行し、回生制動を行う際の動作についても、上記第一の実施形態と同様とすることができる。
4.その他の実施形態
(1)上記の各実施形態では、ハイブリッド駆動装置Hが、発進モード、パラレルモード、エンジン走行モード、電動走行モード、及びエンジン始動モードの5つのモードを切り替え可能に備えた構成について説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、発進モードのみを備えた構成とすることも可能であり、また、発進モードと他の1又は2以上の動作モードを切り替え可能に備えた構成としても好適である。また、上記5つのモードに加えて、更に他のモードを切り替え可能に備えた構成としても好適である。
(2)上記第一及び第二の実施形態では、第二差動歯車装置PG2がダブルピニオン型の遊星歯車機構で構成されている場合を例として説明した。しかし、この第二差動歯車装置PG2を、シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。このようにシングルピニオン型の遊星歯車機構を用いる場合、3つの回転要素の回転速度の順がサンギヤ、キャリア、リングギヤの順となる。すなわち、サンギヤが第一回転要素e1に相当し、キャリアが第二回転要素e2に相当し、リングギヤが第三回転要素e3に相当することになる。したがって、その場合には、図1及び図12に示す各実施形態における第二差動歯車装置PG2の構成を、キャリアca3及びリングギヤr3のそれぞれについて、他の回転要素との連結関係を入れ替えた構成とすると好適である。
(3)上記の各実施形態では、入力部材としての入力軸Iと出力部材としての出力軸Oとが同一軸線上に配置された構成を例として説明した。このような構成は、本発明に係るハイブリッド駆動装置Hを、例えばFR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両の駆動装置に適用する場合に好適である。一方、本発明に係るハイブリッド駆動装置Hを、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式の車両やRR(リヤエンジン・リヤドライブ)方式の車両等の駆動装置に適用する場合には、例えば、出力部材を第一差動歯車装置PG1の外周側に配置される出力ギヤとし、或いは出力部材を含むハイブリッド駆動装置Hの一部の構成が入力部材と異なる軸線上に配置される構成としても好適である。
(4)上記の各実施形態では、第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2がいずれも遊星歯車装置により構成されている場合の例について説明した。しかし、本発明における差動歯車装置(第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の一方又は双方)の構成は、遊星歯車装置に限定されるものではない。したがって、例えば、複数の傘歯車を組み合わせた構成等のように、他の形態の歯車機構を用いて差動歯車装置を構成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(5)上記の各実施形態において説明した差動歯車装置の具体的構成及び接続関係、並びに差動歯車装置の各回転要素に対する摩擦係合要素の配置構成は単なる例示であり、上記以外の構成によっても本発明の構成を実現することが可能な全ての構成が、本発明の範囲に含まれる。