1.第一の実施形態
まず、本発明の第一の実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図1は、中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。また、図2は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hのシステム構成を示す模式図である。なお、図2において、二重の実線は回転駆動力の伝達経路を示し、二重の破線は電力の伝達経路を示し、白抜きの矢印は作動油の流れを示している。また、実線の矢印は各種情報の伝達経路を示している。
これらの図に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンEに接続された入力軸Iと、車輪Wに接続された出力軸Oと、第一モータ・ジェネレータMG1と、第二モータ・ジェネレータMG2と、少なくとも4つの回転要素を有する差動歯車装置としての遊星歯車装置PGと、を備えている。本実施形態においては、遊星歯車装置PGは、ラビニヨ型の遊星歯車装置で構成されている。そして、この遊星歯車装置PGは、入力軸I、出力軸O、及び第一モータ・ジェネレータMG1が、それぞれ異なる回転要素に接続されるとともに、第一モータ・ジェネレータMG1が、入力軸I及び出力軸Oのいずれにも接続されていない2つの回転要素のいずれかに選択的に接続可能に構成されている。したがって、本実施形態においては、第一モータ・ジェネレータMG1が本発明における「選択駆動要素」に相当する。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、変速機構TMを介して出力軸Oに接続されている。そして、これらの構成は、車体に固定される非回転部材としての駆動装置ケースDc(以下、単に「ケースDc」という。)内に収納されている。なお、本実施形態においては、第一モータ・ジェネレータMG1が本発明における「第一回転電機」に相当し、第二モータ・ジェネレータMG2が本発明における「第二回転電機」に相当する。また、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。
1−1.ハイブリッド駆動装置の各部の構成
図1及び図2に示すように、入力軸Iは、エンジンEに接続されている。ここで、エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、入力軸IはエンジンEのクランクシャフト等の出力回転軸と一体的に接続されている。なお、入力軸Iが、エンジンEの出力回転軸との間にダンパやクラッチ等を介して接続された構成としても好適である。出力軸Oは、図2に示すように、ディファレンシャル装置17等を介して車輪Wに回転駆動力を伝達可能に接続されている。本例では、入力軸Iと出力軸Oとは同一軸線上に配置されている。
図1に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1は、ケースDcに固定されたステータSt1と、このステータSt1の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo1と、を有している。この第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1は、後述するように、第一クラッチC1を介して遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1に選択的に接続され、第二クラッチC2を介して遊星歯車装置PGの第二サンギヤs2に選択的に接続され、これらの一方又は双方と一体的に回転するように構成されている。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、ケースDcに固定されたステータSt2と、このステータSt2の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo2と、を有している。この第二モータ・ジェネレータMG2のロータRo2は、後述するように、変速機構TMの第一サンギヤs3と一体回転するように接続されている。第1モータ・ジェネレータMG1及び第2モータ・ジェネレータMG2は、図2に示すように、それぞれインバータ12を介して蓄電装置としてのバッテリ11に電気的に接続されている。なお、バッテリ11は蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。そして、第1モータ・ジェネレータMG1及び第2モータ・ジェネレータMG2は、それぞれ電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能を果すことが可能とされている。
後述するように、第一モータ・ジェネレータMG1は、後述するようにトルクコンバータモード及びトルクスプリットモードの2つのモードで、入力軸I(すなわちエンジンE)の回転駆動力の反力受けとして機能する。そして、これら2つのモードを含む各モードにおいて、第一モータ・ジェネレータMG1は、回転方向と回転駆動力の向きとの関係に応じてジェネレータ及びモータのいずれか一方として機能する。一方、第二モータ・ジェネレータMG2は、主に、第一モータ・ジェネレータMG1がジェネレータとして機能している状態ではモータとして機能し、第一モータ・ジェネレータMG1がモータとして機能している状態ではジェネレータとして機能する。但し、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両の減速のための回生制動時にはジェネレータとして機能する。第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、ジェネレータとして機能する場合には、発電した電力をバッテリ11に供給して充電し、或いは当該電力をモータとして機能する他方のモータ・ジェネレータMG1、MG2に供給して力行させる。また、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、モータとして機能する場合には、バッテリ11に充電され、或いはジェネレータとして機能する他方のモータ・ジェネレータMG1、MG2により発電された電力の供給を受けて力行する。これら第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の動作は、制御装置ECUから制御指令に従ってインバータ12を介して行われる。
図1に示すように、本実施形態においては、差動歯車装置は、入力軸I及び出力軸Oと同軸状に配置されたラビニヨ型の遊星歯車装置PGにより構成されている。ここで、ラビニヨ型の遊星歯車装置PGとは、1組のシングルピニオン型の遊星歯車機構と1組のダブルピニオン型の遊星歯車装置とが、キャリアとリングギヤとを共用して構成されるものである。すなわち、本実施形態に係る遊星歯車装置PGは、第一サンギヤs1及び第二サンギヤs2の2つのサンギヤと、リングギヤr1と、第一サンギヤs1及びリングギヤr1の双方に噛み合うロングピニオンギヤ並びにこのロングピニオンギヤ及び第二サンギヤs2に噛み合うショートピニオンギヤを支持する共通のキャリアca1との4つの回転要素を備えている。そして、この遊星歯車装置PGは、入力軸I、出力軸O、及び第一モータ・ジェネレータMG1が、それぞれ異なる回転要素に接続されるとともに、選択駆動要素としての第一モータ・ジェネレータMG1が、入力軸I及び出力軸Oのいずれにも接続されていない2つの回転要素のいずれかに選択的に接続可能に構成されている。
この遊星歯車装置PGの具体的連結関係は、以下のようになっている。すなわち、第一サンギヤs1は、第一クラッチC1を介して第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1に選択的に接続される。キャリアca1は、出力軸Oと一体回転するように接続されている。リングギヤr1は、入力軸Iと一体回転するように接続されている。第二サンギヤs2は、第二クラッチC2を介して第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1に選択的に接続される。
この遊星歯車装置PGの4つの回転要素を、回転速度の順に第一回転要素e1、第二回転要素e2、第三回転要素e3、及び第四回転要素e4とすると、本実施形態においては、第一サンギヤs1が第一回転要素e1に相当し、キャリアca1が第二回転要素e2に相当し、リングギヤr1が第三回転要素e3に相当し、第二サンギヤs2が第四回転要素e4に相当する。したがって、出力軸Oは遊星歯車装置PGの第二回転要素e2と一体回転するように接続され、入力軸Iは遊星歯車装置PGの第三回転要素e3と一体回転するように接続されていることになる。また、第一モータ・ジェネレータMG1は、第一クラッチC1により遊星歯車装置PGの第一回転要素e1に選択的に接続され、第二クラッチC2により遊星歯車装置PGの第四回転要素e4に選択的に接続される構成であることにより、遊星歯車装置PGの第一回転要素e1及び第四回転要素e4のいずれかに選択的に接続可能となっている。また、第一モータ・ジェネレータMG1は、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を係合することにより、遊星歯車装置PGの第一回転要素e1及び第四回転要素e4の双方に同時に接続することも可能となっている。更に、第一モータ・ジェネレータMG1は、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を解放することにより、遊星歯車装置PGの第一回転要素e1及び第四回転要素e4の双方から同時に分離することも可能となっている。
また、変速機構TMは、入力軸I及び出力軸Oと同軸状に配置され、四つの回転要素を備えた四要素の遊星歯車装置により構成されている。すなわち、変速機構TMは、第一サンギヤs3及び第二サンギヤs4の2つのサンギヤと、リングギヤr3と、キャリアca3とを回転要素として有している。ここで、キャリアca3は、第一サンギヤs3及びリングギヤr3の双方に噛み合うショートピニオンギヤと、第二サンギヤs4に大径部が噛み合うとともに前記ショートピニオンギヤに小径部が噛み合う段付ロングピニオンギヤとを、共に回転可能に支持する構成となっている。第一サンギヤs3は、第二モータ・ジェネレータMG2のロータRo2と一体回転するように接続されている。キャリアca3は、出力軸Oと一体回転するように接続されている。リングギヤr3は、第一ブレーキB1によりケースDcに選択的に固定される。第二サンギヤs4は、第二ブレーキB2によりケースDcに選択的に固定される。これにより、第二モータ・ジェネレータMG2は、変速機構TMを介して出力軸Oに接続されていることになる。この変速機構TMの4つの回転要素は、回転速度の順に第一回転要素e1、第二回転要素e2、第三回転要素e3、及び第四回転要素e4とすると、第一サンギヤs3が第一回転要素e1に相当し、キャリアca3が第二回転要素e2に相当し、リングギヤr3が第三回転要素e3に相当し、第二サンギヤs4が第四回転要素e4に相当する。本実施形態においては、この変速機構TMが、本発明における歯車機構に相当する。
上記のとおり、このハイブリッド駆動装置Hは、摩擦係合要素として、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2を備えている。これらの摩擦係合要素としては、いずれも油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキを用いることができる。図2では、各摩擦係合要素は遊星歯車装置PG又は変速機構TMに含まれることとして図示を省略しているが、この図に示すように、これらの摩擦係合要素(すなわち遊星歯車装置PG又は変速機構TM)に供給される油圧は、制御装置ECUからの制御指令により動作する油圧制御装置13により制御される。この油圧制御装置13への作動油の供給は、エンジンEの動作中は機械式オイルポンプ14により行われ、エンジンEの停止中は電動オイルポンプ15により行われる。ここで、機械式オイルポンプ14は、入力軸Iの回転駆動力により駆動される。また、電動オイルポンプ15は、電動オイルポンプ用インバータ16を介して供給されるバッテリ11からの電力(供給経路は図示省略)により駆動される。
1−2.ハイブリッド駆動装置の制御システムの構成
図2に示すように、制御装置ECUは、車両の各部に設けられたセンサSe1〜Se7で取得される情報を用いて、エンジンE、第一モータ・ジェネレータMG1、第二モータ・ジェネレータMG2、油圧制御装置13を介して遊星歯車装置PG及び変速機構TMの各摩擦係合要素C1、C2、B1、B2(図1参照)、並びに電動オイルポンプ15等の動作制御を行う。これらのセンサとして、本例では、第一モータ・ジェネレータ回転センサSe1、第二モータ・ジェネレータ回転センサSe2、エンジン回転センサSe3、バッテリ状態検出センサSe4、車速センサSe5、アクセル操作検出センサSe6、及びブレーキ操作検出センサSe7が設けられている。
ここで、第一モータ・ジェネレータ回転センサSe1は、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1の回転速度を検出するためのセンサである。第二モータ・ジェネレータ回転センサSe2は、第二モータ・ジェネレータMG2のロータRo2の回転速度を検出するためのセンサである。エンジン回転センサSe3は、エンジンEの出力回転軸の回転速度を検出するためのセンサである。ここで、入力軸IはエンジンEの出力回転軸と一体回転するので、このエンジン回転センサSe3により検出されるエンジンEの回転速度は入力軸Iの回転速度と一致する。バッテリ状態検出センサSe4は、バッテリ11の充電量等の状態を検出するためのセンサである。車速センサSe5は、車速を検出するために出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。アクセル操作検出センサSe6は、アクセルペダル18の操作量を検出するためのセンサである。ブレーキ操作検出センサSe7は、図示しないホイールブレーキに連動するブレーキペダル19の操作量を検出するためのセンサである。
また、制御装置ECUは、エンジン制御手段31、モータ・ジェネレータ制御手段32、バッテリ状態検出手段33、モータ・ジェネレータ回転検出手段34、車速検出手段35、切替制御手段36、電動オイルポンプ制御手段37、エンジン回転検出手段38、モード選択手段39、及び要求駆動力検出手段40を備えている。制御装置ECUにおけるこれらの各手段は、CPU等の演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うための機能部がハードウエア又はソフトウエア(プログラム)或いはその両方により実装されて構成されている。
エンジン制御手段31は、エンジンEの動作開始、停止、回転速度制御、出力トルク制御等の動作制御を行う。モータ・ジェネレータ制御手段32は、インバータ12を介して、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度制御、出力トルク制御等の動作制御を行う。バッテリ状態検出手段33は、バッテリ状態検出センサSe4の出力に基づいて、バッテリ11の充電量等の状態を検出する。モータ・ジェネレータ回転検出手段34は、第一モータ・ジェネレータ回転センサSe1、及び第二モータ・ジェネレータ回転センサSe2の出力に基づいて、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度を検出する。車速検出手段35は、車速センサSe5からの出力に基づいて車速を検出する。切替制御手段36は、油圧制御装置13の動作を制御することにより、ハイブリッド駆動装置Hの各摩擦係合要素C1、C2、B1、B2(図1参照)のそれぞれの係合又は解放(係合解除)を行い、ハイブリッド駆動装置Hの動作モードを切り替える制御を行う。電動オイルポンプ制御手段37は、電動オイルポンプ用インバータ16を介して電動オイルポンプ15の動作制御を行う。エンジン回転検出手段38は、エンジン回転センサSe3からの出力に基づいて、エンジンEの出力回転軸及び入力軸Iの回転速度を検出する。
モード選択手段39は、車速及び要求駆動力などの走行条件に応じて、所定の制御マップに従い適切な動作モードの選択を行う。すなわち、モード選択手段39は、車速の情報を車速検出手段35から取得するとともに、要求駆動力の情報を要求駆動力検出手段40から取得する。そして、モード選択手段39は、所定の制御マップに従って、取得された車速及び要求駆動力に応じて規定された動作モードを選択するとともに、変速機構TMの変速段を選択する。ここで、選択される動作モードとしては、後述するように、トルクコンバータモード、直結モード、及びトルクスプリットモードの3つのモードがある。また、選択される変速機構TMの変速段としては、後述するように、低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つの変速段がある。なお、動作モード及び変速段の選択の際に参照される走行条件としては、車速及び要求駆動力の他にも、バッテリ充電量、冷却水温度、油温等の各種条件を用いても好適である。要求駆動力検出手段40は、アクセル操作検出センサSe6及びブレーキ操作検出センサSe7からの出力に基づいて、運転者による要求駆動力を演算して取得する。
1−3.ハイブリッド駆動装置の動作モード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能な動作モードについて説明する。図3は、各動作モードでの第一クラッチC1及び第二クラッチC2の作動状態を示す作動表である。また、図4は、変速機構TMの各変速段での第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の作動状態を示す作動表である。これらの図において、「○」は各摩擦係合要素C1、C2、B1、B2が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各摩擦係合要素C1、C2、B1、B2が解放(係合解除)状態にあることを示している。図5〜図7は、遊星歯車装置PGの速度線図を示しており、図5はトルクコンバータモードでの速度線図、図6は直結モードでの速度線図、図7はトルクスプリットモードでの速度線図をそれぞれ示している。また、図8は、変速機構TMの速度線図を示している。これらの速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正、下側が負である。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、遊星歯車装置PG及び変速機構TMの各回転要素に対応している。すなわち、各縦線の上側に記載されている「s1」、「ca1」、「r1」、「s2」はそれぞれ遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1、キャリアca1、リングギヤr1、第二サンギヤs2に対応し、「s3」、「ca3」、「r3」、「s4」はそれぞれ変速機構TMの第一サンギヤs3、キャリアca3、リングギヤr3、第二サンギヤs4に対応している。
また、各回転要素に対応する縦線の間隔は、遊星歯車装置PG及び変速機構TMのそれぞれを構成する遊星歯車機構(サンギヤ、キャリア、リングギヤの三つの回転要素でなる機構)のギヤ比(サンギヤとリングギヤとの歯数比=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)に対応している。なお、図5の下部には遊星歯車機構PGを構成する第一サンギヤs1、キャリアca1、及びリングギヤr1でなるシングルピニオン型の遊星歯車機構のギヤ比をλ1として明示し、図7の下部には遊星歯車機構PGを構成する第二サンギヤs2、リングギヤr1、及びキャリアca1でなるダブルピニオン型の遊星歯車機構のギヤ比をλ2として明示している。また、これらの速度線図上において、「△」は入力軸I(エンジンE)の回転速度、「☆」は出力軸Oの回転速度、「○」は第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度、「□」は第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度、「×」は非回転部材としてのケースDcへの固定状態をそれぞれ示している。
図3及び図5〜図7に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、トルクコンバータモード、直結モード、及びトルクスプリットモードの3つの動作モードを切り替え可能に備えた構成となっている。これらの動作モードは、モード選択手段39により選択され、選択された動作モードへの切り替えは、制御装置ECUからの制御指令により各摩擦係合要素C1、C2が係合又は解放されることにより行われる。また、このハイブリッド駆動装置Hは、これら3つの動作モードのそれぞれにおいて、変速機構TMの変速段を低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つに切り替え可能に構成されている。これらの変速段は、モード選択手段39により選択され、選択された変速段への切り替えは、制御装置ECUからの制御指令により各摩擦係合要素B1、B2が係合又は解放されることにより行われる。なお、この際、制御装置ECUは、モータ・ジェネレータ制御手段32による第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度及び出力トルクの制御、エンジン制御手段31によるエンジンEの回転速度及び出力トルクの制御等も行う。以下、各動作モードでのハイブリッド駆動装置Hの動作状態について詳細に説明する。なお、変速機構TMの動作状態は、基本的に全てのモードについて共通であるため、まずは遊星歯車装置PGの各モードでの動作状態について順に説明し、最後に変速機構TMの動作状態について説明する。
1−4.トルクコンバータモード
まず、トルクコンバータモードでの遊星歯車装置PGの動作状態について、図5に基づいて説明する。トルクコンバータモードは、第一モータ・ジェネレータMG1を遊星歯車装置PGにおける入力軸I又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素の一方に接続した状態で、入力軸Iの回転駆動力に対して増幅した回転駆動力を出力軸Oに伝達するモードである。本実施形態においては、図3に示すように、トルクコンバータモードでは、第一クラッチC1が係合状態とされ、第二クラッチC2が解放状態とされる。したがって、第一モータ・ジェネレータMG1が、遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1に接続されることにより、トルクコンバータモードが実現される。
図5は、トルクコンバータモードでの遊星歯車装置PGの速度線図である。この図において実線は出力軸Oの回転速度が低い(すなわち車速が低い)状態を示し、破線は実線の状態よりも出力軸Oの回転速度が高い(すなわち車速が高い)状態を示している。この図に示すように、トルクコンバータモードでは、遊星歯車装置PGを構成する、第一サンギヤs1、キャリアca1、及びリングギヤr1でなるシングルピニオン型の遊星歯車機構が機能する状態となる。すなわち、この遊星歯車機構は、回転速度の順で中間となるキャリアca1が出力軸Oと一体回転し、回転速度の順で一方側となるリングギヤr1が入力軸I(エンジンE)と一体回転し、回転速度の順で他方側となる第一サンギヤs1が第一モータ・ジェネレータMG1と一体回転する。この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うよう)に維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向の回転駆動力TEを出力し、この回転駆動力TEが入力軸Iを介してリングギヤr1に伝達される。また、第一モータ・ジェネレータMG1は、トルクコンバータモードの全域で正方向の回転駆動力T1を発生させ、入力軸Iの回転駆動力TEの反力受けとして機能する。
これにより、遊星歯車装置PGは、入力軸Iの回転駆動力TEと第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力T1とを合成し、入力軸Iの回転駆動力TEに対して増幅した回転駆動力を出力軸Oに伝達する。具体的には、図5の下部に示すように、第一サンギヤs1、キャリアca1、及びリングギヤr1でなるシングルピニオン型の遊星歯車機構のギヤ比がλ1(λ1<1)である場合、リングギヤr1(入力軸I)のトルク:キャリアca1(出力軸O)のトルク:第一サンギヤs1(第一モータ・ジェネレータMG1)のトルク=1:(1+λ1):λ1という関係が成立する。したがって、例えばギヤ比λ1=0.5の場合、リングギヤr1(入力軸I)のトルクの0.5倍のトルクを第一サンギヤs1(第一モータ・ジェネレータMG1)のトルクが分担することにより、リングギヤr1(入力軸I)の回転トルクの約1.5倍のトルクがキャリアca1(出力軸O)に伝達される。なお、この遊星歯車機構のギヤ比λ1は、エンジンE及び第一モータ・ジェネレータMG1の特性や車両重量等を考慮して適宜設定することができる。
以上に説明したように、トルクコンバータモードは、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力TEを増幅して出力軸Oに伝達することができるため、車速が比較的低い状態で使用される低速用のモードとして適している。本実施形態では、トルクコンバータモードは、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)から、出力軸Oの回転速度が入力軸Iの回転速度に一致する状態となるまでの間で使用される。すなわち、トルクコンバータモードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を上昇させることにより、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させる。この間、第一モータ・ジェネレータMG1は正方向の回転駆動力T1を発生させる。したがって、図5に実線で示すように出力軸Oの回転速度が低く、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が負(回転方向が負)の状態では、第一モータ・ジェネレータMG1は発電し、図5に破線で示すように、出力軸Oの回転速度が高くなり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が正(回転方向が正)の状態では、第一モータ・ジェネレータMG1は力行する。
そして、出力軸Oの回転速度が上昇し、入力軸Iの回転速度と一致した際に、制御装置ECUは、第一クラッチC1を係合状態に維持したまま、第二クラッチC2を係合する。これにより、トルクコンバータモードから後述する直結モードに切り替えられる。このモード切り替えは、この際に係合する第二クラッチC2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。すなわち、このモード切替は、第一モータ・ジェネレータMG1及び遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1の回転速度と、遊星歯車装置PGの第二サンギヤs2の回転速度とが同じ状態で、第一モータ・ジェネレータMG1を、遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1に加えて、第二サンギヤs2にも接続することにより実現される。
1−5.直結モード
次に、直結モードでの遊星歯車装置PGの動作状態について、図6に基づいて説明する。直結モードは、第一モータ・ジェネレータMG1を遊星歯車装置PGにおける入力軸I又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素の双方に接続した状態で、入力軸I、出力軸O、及び第一モータ・ジェネレータMG1が同速で回転するモードである。本実施形態においては、図3に示すように、直結モードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態とされる。したがって、第一モータ・ジェネレータMG1が、遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1及び第二サンギヤs2の双方に接続されることにより、直結モードが実現される。
図6は、直結モードでの遊星歯車装置PGの速度線図である。この図に示すように、直結モードでは、遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1と第二サンギヤs2とが、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1並びに第一クラッチC1及び第二クラッチC2を介して一体回転するように接続される。これにより、遊星歯車装置PGの全体、すなわち遊星歯車装置PGを構成する全ての回転要素が一体回転する。したがって、入力軸I(エンジンE)、出力軸O、及び第一モータ・ジェネレータMG1が直結され、これらが同一速度で一体回転する状態となる。この際、エンジンEは、車速及び要求駆動力に応じて、適切な回転速度及び回転駆動力TEを出力するように制御される。また、第一モータ・ジェネレータMG1は、基本的には、入力軸Iの回転速度に応じて定まる回転速度で回転しつつ、回転駆動力を出力しない状態に制御される。この場合、後述するように、第二モータ・ジェネレータMG2も回転駆動力を出力しない状態に制御される。すなわち、この直結モードでは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的には、モータ及びジェネレータのいずれとしても機能せず、力行も発電も行わない。なお、要求駆動力に対して、エンジンEの回転駆動力が不足する場合などには、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方又は双方をモータとして力行させることも可能である。また、バッテリ11の充電量が不足した場合などには、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方又は双方をジェネレータとして発電させることも可能である。或いは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方をジェネレータとして発電させ、当該発電により得た電力を用いて他方をモータとして力行させることも可能である。
本実施形態においては、直結モードは、トルクコンバータモードとトルクスプリットモードとの切り替えに際しての中間的なモードとして使用される。すなわち、この直結モードは、第一クラッチC1を係合するとともに第二クラッチC2を解放した状態で実現されるトルクコンバータモードと、第一クラッチC1を解放するとともに第二クラッチC2を係合した状態で実現されるトルクスプリットモードとの中間で、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を係合状態とすることにより実現される。また、この際に係合される第一クラッチC1又は第二クラッチC2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態、すなわち、遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1と第二サンギヤs2との回転速度が同じ状態で、第一クラッチC1又は第二クラッチC2を係合状態とすることにより、当該クラッチC1、C2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となる。そして、直結モードから第一クラッチC1を解放することにより、トルクスプリットモードに切り替えられる。また、直結モードから第二クラッチC2を解放することにより、トルクコンバータモードに切り替えられる。このように、直結モードを介することにより、トルクコンバータモードとトルクスプリットモードとの間のモード切り替えを、第一クラッチC1又は第二クラッチC2の係合による衝撃がない同期切替とすることができる。
1−6.トルクスプリットモード
次に、トルクスプリットモードでの遊星歯車装置PGの動作状態について、図7に基づいて説明する。トルクスプリットモードは、第一モータ・ジェネレータMG1を遊星歯車装置PGにおける入力軸I又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素の他方に接続した状態で、入力軸Iの回転駆動力に対して減衰した回転駆動力を出力軸Oに伝達するモードである。本実施形態においては、図3に示すように、トルクスプリットモードでは、第二クラッチC2が係合状態とされ、第一クラッチC1が解放状態とされる。したがって、第一モータ・ジェネレータMG1が、遊星歯車装置PGの第二サンギヤs2に接続されることにより、トルクスプリットモードが実現される。
図7は、トルクスプリットモードでの遊星歯車装置PGの速度線図である。この図において実線は出力軸Oの回転速度が比較的低い(すなわち車速が比較的低い)状態を示し、破線は実線の状態よりも出力軸Oの回転速度が高い(すなわち車速が高い)状態を示している。この図に示すように、トルクスプリットモードでは、遊星歯車装置PGを構成する、キャリアca1、リングギヤr1、及び第二サンギヤs2でなるダブルピニオン型の遊星歯車機構が機能する状態となる。すなわち、この遊星歯車機構は、回転速度の順で中間となるリングギヤr1が入力軸I(エンジンE)と一体回転し、回転速度の順で一方側となるキャリアca1が出力軸Oと一体回転し、回転速度の順で他方側となる第二サンギヤs2が第一モータ・ジェネレータMG1と一体回転する。この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うよう)に維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向の回転駆動力TEを出力し、この回転駆動力TEが入力軸Iを介してリングギヤr1に伝達される。また、第一モータ・ジェネレータMG1は、トルクスプリットモードの全域で負方向の回転駆動力T1を発生させ、入力軸Iの回転駆動力TEの反力受けとして機能する。
これにより、遊星歯車装置PGは、入力軸Iの回転駆動力TEを出力軸Oと第一モータ・ジェネレータMG1とに分配し、入力軸Iの回転駆動力TEに対して減衰した回転駆動力を出力軸Oに伝達する。具体的には、図7の下部に示すように、キャリアca1、リングギヤr1、及び第二サンギヤs2でなるダブルピニオン型の遊星歯車機構のギヤ比がλ2(λ2<1)である場合、リングギヤr1(入力軸I)のトルク:キャリアca1(出力軸O)のトルク:第二サンギヤs2(第一モータ・ジェネレータMG1)のトルク=1:(1−λ2):λ2という関係が成立する。したがって、例えばギヤ比λ2=0.4の場合、リングギヤr1(入力軸I)のトルクの0.4倍のトルクが第二サンギヤs2(第一モータ・ジェネレータMG1)に分配され、リングギヤr1(入力軸I)の回転トルクの0.6倍のトルクがキャリアca1(出力軸O)に伝達される。なお、この遊星歯車機構のギヤ比λ2は、エンジンE及び第一モータ・ジェネレータMG1の特性や車両重量等を考慮して適宜設定することができる。
以上に説明したように、トルクスプリットモードは、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力TEを減衰して出力軸Oに伝達することができるため、車速が比較的高い状態で使用される高速用のモードとして適している。本実施形態では、トルクスプリットモードは、出力軸Oの回転速度が入力軸Iの回転速度に一致した状態よりも、出力軸Oの回転速度が高い領域で使用される。すなわち、トルクスプリットモードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、出力軸Oの回転速度が入力軸Iの回転速度に一致した状態から、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を下降させることにより、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させる。この間、第一モータ・ジェネレータMG1は負方向の回転駆動力T1を発生させる。したがって、図7に実線で示すように出力軸Oの回転速度が比較的低く、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が正(回転方向が正)の状態では、第一モータ・ジェネレータMG1は発電し、図7に破線で示すように、出力軸Oの回転速度が高くなり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が負(回転方向が負)の状態では、第一モータ・ジェネレータMG1は力行する。
また、トルクスプリットモードで車両が減速した際には、出力軸Oの回転速度が次第に下降することにより、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が次第に上昇する。そして、入力軸I、出力軸O、及び第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が一致した際に、制御装置ECUは、第二クラッチC2を係合状態に維持したまま、第一クラッチC1を係合する。これにより、トルクスプリットモードから直結モードに切り替えられる。このモード切り替えは、この際に係合する第一クラッチC1の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。すなわち、このモード切替は、第一モータ・ジェネレータMG1及び遊星歯車装置PGの第二サンギヤs2の回転速度と、遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1の回転速度とが同じ状態で、第一モータ・ジェネレータMG1を、遊星歯車装置PGの第二サンギヤs2に加えて、第一サンギヤs1にも接続することにより実現される。
1−7.各モードでの変速機構の動作状態
次に、各モードにおける変速機構TMの動作状態について、図8に示す変速機構TMの速度線図に基づいて説明する。この図8では、直線Loが低速段(Lo)、直線Hiが高速段(Hi)での変速機構TMの動作状態をそれぞれ示している。変速機構TMは、上記の各モードにおいて、低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つの変速段を切り替え可能に構成されている。これにより、ハイブリッド駆動装置Hは、2つの異なる変速比により変速した第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力を出力軸Oに伝達することができる構成となっている。これらの変速段は、モード選択手段39により選択され、選択された変速段への切り替えは、制御装置ECUからの制御指令により各摩擦係合要素B1、B2が係合又は解放されることにより行われる。なお、この際、制御装置ECUは、モータ・ジェネレータ制御手段32による第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度及び出力トルクの制御等も行う。
図4に示すように、変速機構TMは、低速段(Lo)では、第一ブレーキB1が係合状態とされる。これにより、図8に直線Loとして示すように、変速機構TMのリングギヤr3がケースDcに固定され、第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度が減速されて出力軸Oに伝達される。一方、図4に示すように、変速機構TMは、高速段(Hi)では、第二ブレーキB2が係合状態とされる。これにより、図8に直線Hiとして示すように、第二サンギヤs4がケースDcに固定され、第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度が減速されて出力軸Oに伝達される。ここで、低速段(Lo)では変速機構TMの第三回転要素e3をケースDcに固定し、高速段(Hi)では変速機構TMの第四回転要素e4をケースDcに固定する構成としているので、低速段(Lo)の変速比(減速比)は高速段(Hi)の変速比よりも大きくなっている。これにより、変速機構TMは、第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度を、低速段(Lo)及び高速段(Hi)のそれぞれの変速比に応じて減速するとともに、各変速比に応じて回転駆動力を増幅して出力軸Oに伝達する。すなわち、変速機構TMは、出力軸Oの回転速度を、低速段(Lo)及び高速段(Hi)のそれぞれの変速比に応じて増速するとともに、各変速比に応じて回転駆動力を減衰して第二モータ・ジェネレータMG2に伝達する。このように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、変速機構TMを備えることにより、複数の変速比で変速した第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力を出力軸Oに伝達可能な構成となっている。したがって、幅広い車速(出力軸Oの回転速度)において、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力を適切に出力軸Oに伝達しつつ、車両を走行させることが可能となっている。
また、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hでは、変速機構TMの第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2の双方を解放状態とすることにより、第二モータ・ジェネレータMG2を出力軸Oから選択的に分離することが可能となっている。すなわち、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2の双方を解放した状態では、出力軸Oと第二モータ・ジェネレータMG2との間で回転駆動力の伝達が行われない。したがって、例えば、直結モードにおいて、第二モータ・ジェネレータMG2に力行も発電も行わせない場合に、第二モータ・ジェネレータMG2を出力軸Oから分離することができる。これにより、第二モータ・ジェネレータMG2が出力軸Oの回転駆動力により回転されることにより発生するエネルギー損失を抑制することができる。
第二モータ・ジェネレータMG2は、各動作モードにおいて、基本的には、第一モータ・ジェネレータMG1がジェネレータとして機能している状態ではモータとして機能し、第一モータ・ジェネレータMG1がモータとして機能している状態ではジェネレータとして機能する。すなわち、第二モータ・ジェネレータMG2は、第一モータ・ジェネレータMG1がジェネレータとして機能している状態では、第一モータ・ジェネレータMG1により発電された電力の供給を受けて力行する。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、第一モータ・ジェネレータMG1がモータとして機能している状態では、第一モータ・ジェネレータMG1を力行させるための電力を発電して第一モータ・ジェネレータMG1に供給する。但し、いずれの動作モードにおいても、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両の減速のための回生制動時にはジェネレータとして機能し、出力軸Oから伝達される回転駆動力による発電を行う。また、上記のとおり、直結モードにおいて、第一モータ・ジェネレータMG1がモータ及びジェネレータのいずれとしても機能しない場合には、第二モータ・ジェネレータMG2も同様に、モータ及びジェネレータのいずれとしても機能しないようにすることができる。なお、この直結モードにおいて、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方又は双方をモータとして力行させ、或いはジェネレータとして発電させることも可能である。また、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方をジェネレータとして発電させ、当該発電により得た電力を用いて他方をモータとして力行させることも可能である。
このハイブリッド駆動装置Hでは、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2の双方を解放状態としない限り、全ての動作モードにおいて第二モータ・ジェネレータMG2は、変速機構TMを介して出力軸Oに常に接続された状態となっている。そのため、第二モータ・ジェネレータMG2は、変速機構TMのみを介して出力軸Oとの間で直接的に回転駆動力の伝達を行うことができる。したがって、例えば回生制動時には、出力軸Oの回転駆動力を直接的に第二モータ・ジェネレータMG2に伝達して発電させることができる。また、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力T2のみにより車両を走行させるEV(電動走行)モード時には、第二モータ・ジェネレータMG2が発生させる回転駆動力を直接的に出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。したがって、エンジンEの回転駆動力TEを必要としない走行を行う際に、第二モータ・ジェネレータMG2と出力軸Oとの間で伝達される回転駆動力によって入力軸Iを回転させないことが可能となり、エンジンEの内部の摩擦抵抗によるエネルギー損失を抑制できる。よって、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギー効率を高めることができる。
ところで、前記EV(電動走行)モードは、エンジンEを停止し、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力T2のみにより車両を走行させるモードである。このモードは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を解放することにより実現される。すなわち、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を解放すれば、遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1及び第二サンギヤs2が自由に回転可能となるため、出力軸Oに接続されたキャリアca1の回転が入力軸Iに接続されたリングギヤr1に伝達されない状態となる。この状態で、第二モータ・ジェネレータMG2を力行させることにより、変速機構TMを介して第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力T2を出力軸Oに伝達し、車両を走行させることができる。バッテリ11の充電量に余裕がある場合には、入力軸I及び第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度をゼロにした状態で、バッテリ11に蓄えられた電力を第二モータ・ジェネレータMG2に供給することにより、第二モータ・ジェネレータMG2を力行させることができる。
また、車両の減速のための回生制動時には、エンジンEの回転駆動力TEは必要ないため、エンジンEは停止される。そこで、エンジンEが出力軸Oから伝達される回転駆動力により回転させられることで生じる、エンジンEの内部の摩擦抵抗によるエネルギー損失を抑制するためには、上記EV(電動走行)モード時と同様に、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を解放すると好適である。しかし、その場合には、エンジンEの回転速度がゼロになるため、次の加速時におけるエンジンEの始動に時間を要することになる。そこで、回生制動後に迅速にエンジンEを始動させることを可能とするためには、第一クラッチC1及び第二クラッチC2のいずれか一方を係合状態としたまま、すなわちトルクコンバータモード又はトルクスプリットモードで回生制動を行うと好適である。
2.第二の実施形態
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。図9は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図9は、図1と同様に、中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。このハイブリッド駆動装置Hは、上記第一の実施形態における変速機構TMに代えて、同軸減速機構RGを備えている。すなわち、このハイブリッド駆動装置Hでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、同軸減速機構RGを介して出力軸Oに接続されている。その他の構成は、上記第一の実施形態と同様である。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。
2−1.同軸減速機構の構成
同軸減速機構RGは、入力軸I及び出力軸Oと同軸状に配置されたシングルピニオン型の遊星歯車機構で構成されている。すなわち、同軸減速機構RGは、複数のピニオンギヤを支持するキャリアca3と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合うサンギヤs3及びリングギヤr3とを回転要素として有している。サンギヤs3は、第二モータ・ジェネレータMG2のロータRo2と一体回転するように接続されている。キャリアca3は、ケースDcに固定されている。リングギヤr3は、出力軸Oと一体回転するように接続されている。この同軸減速機構RGの3つの回転要素は、回転速度の順に第一回転要素e1、第二回転要素e2、及び第三回転要素e3とすると、サンギヤs3が第一回転要素e1に相当し、キャリアca3が第二回転要素e2に相当し、リングギヤr3が第三回転要素e3に相当する。ここで、同軸減速機構RGは、キャリアca3を回転しないように固定した状態で、サンギヤs3の回転速度を減速してリングギヤr3に伝達するように、ギヤ比(サンギヤs3とリングギヤr3との歯数比=〔サンギヤs3の歯数〕/〔リングギr3の歯数〕)が設定されている。これにより、同軸減速機構RGは、第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度を一定の減速比で減速して出力軸Oに伝達する。本実施形態においては、この同軸減速機構RGが、本発明における歯車機構に相当する。
2−2.各モードでの同軸減速機構の動作状態
本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、上記第一の実施形態と同様に、第一クラッチC1、及び第二クラッチC2の係合または解放を切り替えることにより、トルクコンバータモード、直結モード、及びトルクスプリットモードの3つのモードを切り替え可能に備えている。同軸減速機構RGの動作状態は、基本的に全てのモードについて共通であり、いずれのモードにおいても、同軸減速機構RGは、第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度を一定の減速比で減速して出力軸Oに伝達する。
図10は、同軸減速機構RGの速度線図を示している。この速度線図における各縦線の上側に記載されている「s3」、「ca3」、「r3」はそれぞれ同軸減速機構RGを構成する遊星歯車機構のサンギヤs3、キャリアca3、リングギヤr3に対応している。また、各回転要素に対応する縦線の間隔は、同軸減速機構RGのギヤ比(サンギヤとリングギヤとの歯数比=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)に対応している。図10の下部には同軸減速機構RGのギヤ比をλ3として明示している。この速度線図上において、「☆」は出力軸Oの回転速度、「□」は第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度、「×」は非回転部材としてのケースDcへの固定状態をそれぞれ示している。
図10に示すように、シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される同軸減速機構RGは、回転速度の順で中間となるキャリアca3がケースDcに固定され、回転速度の順で一方側となるリングギヤr3が出力軸Oと一体回転し、回転速度の順で他方側となるサンギヤs3が第二モータ・ジェネレータMG2と一体回転する。したがって、第二モータ・ジェネレータMG2は同軸減速機構RGを介して出力軸Oに常に接続された状態となる。また、出力軸Oと第二モータ・ジェネレータMG2とは、回転方向が反対となる。同軸減速機構RGのギヤ比λ3は、サンギヤs3(第二モータ・ジェネレータMG2)の回転速度の絶対値を減速してリングギヤr3(出力軸O)に伝達するように設定されている。具体的には、図10の下部に示すように、同軸減速機構RGのギヤ比λ3は、1以下に設定されている。これにより、同軸減速機構RGは、第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度を減速するとともに、回転駆動力を増幅して出力軸Oに伝達する。すなわち、同軸減速機構RGは、出力軸Oの回転速度を増速するとともに、回転駆動力を減衰して第二モータ・ジェネレータMG2に伝達する。
本実施形態においても、第二モータ・ジェネレータMG2は、上記第一の実施形態と同様に機能する。そして、このハイブリッド駆動装置Hでは、全ての動作モードにおいて第二モータ・ジェネレータMG2は、同軸減速機構RGを介して出力軸Oに常に接続された状態となっている。そのため、第二モータ・ジェネレータMG2は、同軸減速機構RGのみを介して出力軸Oとの間で直接的に回転駆動力の伝達を行うことができる。したがって、上記第一の実施形態と同様に、例えば回生制動時やEV(電動走行)モード時等のように、エンジンEの回転駆動力TEを必要としない走行を行う際に、第二モータ・ジェネレータMG2と出力軸Oとの間で伝達される回転駆動力によって入力軸Iを回転させないことが可能となり、エンジンEの内部の摩擦抵抗によるエネルギー損失を抑制できる。また、この際、本実施形態の構成によれば、第二モータ・ジェネレータMG2と出力軸Oとの間の回転駆動力の伝達のために、クラッチやブレーキなどの摩擦係合要素を係合させる必要もないため、それらの摩擦係合要素を動作させるための油圧を発生させるためにポンプを動作させることも必要がない。よって、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギー効率を高めることができる。
3.第三の実施形態
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。図11は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図11は、入力軸Iに対称な下半分の構成を省略して示している。このハイブリッド駆動装置Hは、上記第一の実施形態における変速機構TMに代えて、カウンタ減速機構SGを備えている。また、このハイブリッド駆動装置Hは、入力軸I及び第一モータ・ジェネレータMG1が配置された第一軸、第二モータ・ジェネレータMG2が配置された第二軸、カウンタ減速機構SGが配置された第三軸、及びディファレンシャル装置17が配置された第四軸が、互いに平行に配置された4軸構成の配置となっている。これは、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式の車両やRR(リヤエンジン・リヤドライブ)方式の車両などに好適に用いられる配置である。そして、このハイブリッド駆動装置Hでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、カウンタ減速機構SGを介して出力部材としてのデフリングギヤO´に接続されている。その他の構成は、上記第一の実施形態と同様である。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。
本実施形態においては、差動歯車装置としての遊星歯車装置PGからの出力回転は、入力軸Iと同軸状に設けられた差動出力ギヤg1に伝達される。この差動出力ギヤg1は、上記第一の実施形態における出力軸Oと同様に、遊星歯車装置PGのキャリアca1と一体回転するように接続されている。この差動出力ギヤg1の回転駆動力は、カウンタ減速機構SGの第一カウンタギヤg3を介してディファレンシャル装置17のデフリングギヤO´に伝達される。
カウンタ減速機構SGは、軸により一体回転するように連結された第一カウンタギヤg3及び第二カウンタギヤg4を備えている。第一カウンタギヤg3は、上記のとおり、差動出力ギヤg1と噛み合うとともに、ディファレンシャル装置17のデフリングギヤO´と噛み合うように設けられている。また、第二カウンタギヤg4は、第二モータ・ジェネレータMG2のロータRo2と一体回転する第二モータ・ジェネレータ出力ギヤg2と噛み合うように設けられている。ここで、第一カウンタギヤg3は、第二カウンタギヤg4よりも小径となっている。これにより、カウンタ減速機構SGは、第二モータ・ジェネレータ出力ギヤg2の回転速度を減速してデフリングギヤO´に伝達する。したがって、カウンタ減速機構SGは、第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度を減速するとともに、回転駆動力を増幅して出力部材としてのデフリングギヤO´に伝達する。すなわち、カウンタ減速機構SGは、デフリングギヤO´の回転速度を増速するとともに、回転駆動力を減衰して第二モータ・ジェネレータMG2に伝達する。本実施形態においては、このカウンタ減速機構SGが、本発明における歯車機構に相当する。なお、本実施形態における第二モータ・ジェネレータMG2の機能及び動作は、上記第二の実施形態と同様である。
4.第四の実施形態
次に、本発明の第四の実施形態について説明する。図12は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図12は、図1と同様に、中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。このハイブリッド駆動装置Hは、上記第一の実施形態の構成に加えて、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1を非回転部材としてのケースDcに選択的に固定するための第三ブレーキB3を備えている。そして、この第三ブレーキB3を設けたことにより、上記第一の実施形態と同様の3つの動作モードに加えて、パラレル減速モード及びパラレル増速モードの2つのパラレルモードを切り替え可能に備えた構成となっている。その他の構成は、上記第一の実施形態と同様である。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。
4−1.差動歯車装置等の構成
本実施形態における差動歯車装置は、上記第一の実施形態と同様の構成となっている。但し、本実施形態においては、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1が、第三ブレーキB3によりケースDcに選択的に固定される。したがって、第一クラッチC1の係合状態では、遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1が、第三ブレーキB3によりケースDcに選択的に固定される。また、第二クラッチC2の係合状態では、遊星歯車装置PGの第二サンギヤs2が、第三ブレーキB3によりケースDcに選択的に固定される。換言すれば、この第三ブレーキB3により、第一クラッチC1の係合状態では、遊星歯車装置PGの第一回転要素e1がケースDcに選択的に固定され、第二クラッチC2の係合状態では、遊星歯車装置PG第四回転要素e4がケースDcに選択的に固定される。
4−2.ハイブリッド駆動装置の動作モード
本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、上記第一の実施形態と同様に、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の係合または解放を切り替えることにより、トルクコンバータモード、直結モード、及びトルクスプリットモードの3つのモードを切り替え可能に備えている。更に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、第三ブレーキB3の係合または解放を切り替えることにより、これらの3つの動作モードに加えて、パラレル減速モード及びパラレル増速モードの2つのパラレルモードを切り替え可能に備えている。これら2つのパラレルモードは、いずれも、第一モータ・ジェネレータMG1をケースDcに固定することにより、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まるモードである。これらの動作モードは、モード選択手段39により選択され、選択された動作モードへの切り替えは、制御装置ECUからの制御指令により各摩擦係合要素C1、C2、B3が係合又は解放されることにより行われる。
図13は、各動作モードでの第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第三ブレーキB3の作動状態を示す作動表である。この図において、「○」は各摩擦係合要素が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各摩擦係合要素が解放(係合解除)状態にあることを示している。図14は、パラレル減速モードでの遊星歯車装置PGの速度線図を示しており、図15は、パラレル増速モードでの遊星歯車装置PGの速度線図を示している。なお、これらの速度線図の記述方法は、上記第一の実施形態に係る図5〜図7に示す遊星歯車装置PGの速度線図と同様である。また、本実施形態においても、トルクコンバータモード、直結モード、及びトルクスプリットモードのそれぞれにおける遊星歯車装置PGの速度線図は、上記第一の実施形態に係る図5〜図7と同様である。そこで、以下では、上記第一の実施形態とは異なるモードである、パラレル減速モード及びパラレル増速モードのそれぞれにおける遊星歯車装置PGの動作状態について順に説明する。
4−3.パラレル減速モード
まず、パラレル減速モードでの遊星歯車装置PGの動作状態について、図14に基づいて説明する。パラレル減速モードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まり、入力軸Iの回転速度が減速して出力軸Oに伝達されるモードである。このパラレル減速モードは、第一モータ・ジェネレータMG1を遊星歯車装置PGにおける入力軸I又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素のいずれか一方に接続するとともに、当該一方の回転要素を第一モータ・ジェネレータMG1と共にケースDcに固定した状態で実現される。本実施形態においては、図13に示すように、パラレル減速モードでは、第一クラッチC1及び第三ブレーキB3が係合状態とされ、第二クラッチC2は解放状態とされる。したがって、第一モータ・ジェネレータMG1が遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1に接続された状態(すなわちトルクコンバータモード)で、当該第一サンギヤs1及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1がケースDcに固定されることにより、パラレル減速モードが実現される。
図14は、パラレル減速モードでの遊星歯車装置PGの速度線図である。この図に示すように、パラレル減速モードでは、遊星歯車装置PGの第一サンギヤs1が第一クラッチC1及び第三ブレーキB3を介してケースDcに固定されることにより、入力軸I(エンジンE)の回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まる状態となる。また、回転速度の順で、ケースDcに固定される回転要素である第一サンギヤs1(第一回転要素e1)と入力軸Iに接続された回転要素であるリングギヤr1(第三回転要素e3)との間に、出力軸Oに接続された回転要素であるキャリアca1(第二回転要素e2)が設けられていることにより、入力軸I(エンジンE)の回転速度が減速して出力軸Oに伝達される。すなわち、入力軸Iの回転駆動力が増幅されて出力軸Oに伝達される。具体的には、図14の下部に示すように、第一サンギヤs1、キャリアca1、及びリングギヤr1でなるシングルピニオン型の遊星歯車機構のギヤ比がλ1(λ1<1)である場合、入力軸Iの回転速度は1/(1+λ1)倍に減速され、入力軸Iのトルクは(1+λ1)倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
この際、エンジンEは、車速及び要求駆動力に応じて、適切な回転速度及び回転駆動力TEを出力するように制御される。上記のとおり、パラレル減速モードでは、入力軸Iの回転速度を減速するとともに回転駆動力を増幅して出力軸Oに伝達するため、比較的大きい回転駆動力を出力軸Oに伝達することが可能となる。また、パラレル減速モードでは、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1はケースDcに固定されている。この場合、第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的には、回転駆動力を出力しない状態に制御される。すなわち、このパラレル減速モードでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的には、モータ及びジェネレータのいずれとしても機能せず、力行も発電も行わない。なお、要求駆動力に対して、エンジンEの回転駆動力が不足する場合などには、第二モータ・ジェネレータMG2をモータとして力行させることも可能である。また、バッテリ11の充電量が不足した場合などには、第二モータ・ジェネレータMG2をジェネレータとして発電させることも可能である。
以上に説明したように、パラレル減速モードは、入力軸I(エンジンE)の回転速度を減速するとともに回転駆動力を増幅して出力軸Oに伝達することができるとともに、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まる状態になるモードである。したがって、このパラレル減速モードは、後述するパラレル増速モードに比べて車速が比較的低く要求駆動力が大きい状態で使用されるモードとして適している。すなわち、このパラレル減速モードでは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2を動作させずに入力軸I(エンジンE)の回転駆動力を出力軸Oに伝達して走行することができる。したがって、要求駆動力が大きい状況において、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の動作によるエネルギー損失を抑制することができる。また、このとき、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力を増幅して出力軸Oに伝達するため、入力軸I(エンジンE)の回転速度は比較的高くなるが、比較的大きい回転駆動力を出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。
本実施形態では、パラレル減速モードは、トルクコンバータモードで走行中に第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度がゼロになった際に、第三ブレーキB3を係合状態とすることにより実現される。一方、パラレル減速モードで走行中に、第一クラッチC1を係合状態に維持したまま、第三ブレーキB3を解放することにより、トルクコンバータモードに切り替えることができる。
4−4.パラレル増速モード
まず、パラレル増速モードでの遊星歯車装置PGの動作状態について、図15に基づいて説明する。パラレル増速モードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まり、入力軸Iの回転速度が増速して出力軸Oに伝達されるモードである。このパラレル増速モードは、第一モータ・ジェネレータMG1を遊星歯車装置PGにおける入力軸I又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素のいずれか他方に接続するとともに、当該他方の回転要素を第一モータ・ジェネレータMG1と共にケースDcに固定した状態で実現される。本実施形態においては、図13に示すように、パラレル増速モードでは、第二クラッチC2及び第三ブレーキB3が係合状態とされ、第一クラッチC1は解放状態とされる。したがって、第一モータ・ジェネレータMG1が遊星歯車装置PGの第二サンギヤs2に接続された状態(すなわちトルクスプリットモード)で、当該第二サンギヤs2及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1がケースDcに固定されることにより、パラレル増速モードが実現される。
図15は、パラレル増速モードでの遊星歯車装置PGの速度線図である。この図に示すように、パラレル増速モードでは、遊星歯車装置PGの第二サンギヤs2が第二クラッチC2及び第三ブレーキB3を介してケースDcに固定されることにより、入力軸I(エンジンE)の回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まる状態となる。また、回転速度の順で、ケースDcに固定される回転要素である第二サンギヤs2(第四回転要素e4)と出力軸Oに接続された回転要素であるキャリアca1(第二回転要素e2)との間に、入力軸Iに接続された回転要素であるリングギヤr1(第三回転要素e3)が設けられていることにより、入力軸I(エンジンE)の回転速度が増速して出力軸Oに伝達される。すなわち、入力軸Iの回転駆動力が減衰されて出力軸Oに伝達される。具体的には、図15の下部に示すように、キャリアca1、リングギヤr1、及び第二サンギヤs2でなるダブルピニオン型の遊星歯車機構のギヤ比がλ2(λ2<1)である場合、入力軸Iの回転速度は1/(1−λ2)倍に増速され、入力軸Iのトルクは(1−λ2)倍に減衰されて出力軸Oに伝達される。
この際、エンジンEは、車速及び要求駆動力に応じて、適切な回転速度及び回転駆動力TEを出力するように制御される。上記のとおり、パラレル増速モードでは、入力軸Iの回転速度を増速して出力軸Oに伝達するため、エンジンEの回転速度を低く抑えることが可能となる。また、パラレル増速モードでは、上述したパラレル減速モードと同様に、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1はケースDcに固定されている。この場合、第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的には、回転駆動力を出力しない状態に制御される。すなわち、このパラレル増速モードでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的には、モータ及びジェネレータのいずれとしても機能せず、力行も発電も行わない。なお、要求駆動力に対して、エンジンEの回転駆動力が不足する場合などには、第二モータ・ジェネレータMG2をモータとして力行させることも可能である。また、バッテリ11の充電量が不足した場合などには、第二モータ・ジェネレータMG2をジェネレータとして発電させることも可能である。
以上に説明したように、パラレル増速モードは、入力軸I(エンジンE)の回転速度を増速して出力軸Oに伝達することができるとともに、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まる状態になるモードである。したがって、このパラレル増速モードは、上述したパラレル減速モードに比べて車速が高く要求駆動力が小さい状態で使用される高速巡航用のモードとして適している。すなわち、このパラレル増速モードでは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2を動作させずに入力軸I(エンジンE)の回転駆動力を出力軸Oに伝達して走行することができる。したがって、要求駆動力が小さい状況において、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の動作によるエネルギー損失を抑制することができる。また、このとき、入力軸I(エンジンE)の回転速度を増速して出力軸Oに伝達するため、出力軸Oに伝達される入力軸Iの回転駆動力は小さくなるが、入力軸I(エンジンE)の回転速度を低く抑えることが可能となる。したがって、エンジンを高い効率で動作させることができる。
本実施形態では、パラレル増速モードは、トルクスプリットモードで走行中に第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度がゼロになった際に、第三ブレーキB3を係合状態とすることにより実現される。一方、パラレル増速モードで走行中に、第二クラッチC2を係合状態に維持したまま、第三ブレーキB3を解放することにより、トルクスプリットモードに切り替えることができる。
以上の第一から第四の実施形態では、いずれも第一モータ・ジェネレータMG1を選択駆動要素とし、この第一モータ・ジェネレータMG1が入力軸I及び出力軸Oのいずれにも接続されていない2つの回転要素のいずれかに選択的に接続可能に構成されているハイブリッド駆動装置Hについて説明した。そこで以下の第五から第八の実施形態では、入力軸Iを選択駆動要素とし、この入力軸Iが第一モータ・ジェネレータMG1及び出力軸Oのいずれにも接続されていない2つの回転要素のいずれかに選択的に接続可能に構成されているハイブリッド駆動装置Hについて説明する。
5.第五の実施形態
入力軸Iを選択駆動要素とする最初の実施形態として、まず、本発明の第五の実施形態について説明する。図16は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図16は、図1と同様に、中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。このハイブリッド駆動装置Hは、上記第一から第四の実施形態とは異なり、入力軸Iを本発明における選択駆動要素とし、この入力軸Iが、第一モータ・ジェネレータMG1及び出力軸Oのいずれにも接続されていない2つの回転要素のいずれかに選択的に接続可能に構成されている。また、このハイブリッド駆動装置Hは、差動歯車装置としての遊星歯車装置PGの具体的構成も、上記第一から第四の実施形態と異なっている。すなわち、本実施形態においては、遊星歯車装置PGは、シングルピニオン型の第一遊星歯車機構PG1とダブルピニオン型の第二遊星歯車機構PG2とを組み合わせて構成されている。その他の構成は、上記第一の実施形態の構成と同様である。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。
5−1.ハイブリッド駆動装置の各部の構成
図16に示すように、本実施形態においては、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1は、遊星歯車装置PGを構成する第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1及び第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2と一体回転するように接続されている。また、第二モータ・ジェネレータMG2のロータRo2は、変速機構TMの第一サンギヤs3と一体回転するように接続されている。
また、本実施形態においては、差動歯車装置としての遊星歯車装置PGは、第一遊星歯車機構PG1と第二遊星歯車機構PG2とを組み合わせて構成されている。そして、この遊星歯車装置PGは、4つの回転要素を備え、入力軸I、出力軸O、及び第一モータ・ジェネレータMG1が、それぞれ異なる回転要素に接続されるとともに、入力軸Iが、第一モータ・ジェネレータMG1又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素のいずれかに選択的に接続可能に構成されている。以下、各遊星歯車機構PG1、PG2のそれぞれの構成について詳細に説明する。
図16に示すように、第一遊星歯車機構PG1は、入力軸I及び出力軸Oと同軸状に配置されたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第一遊星歯車機構PG1は、複数のピニオンギヤを支持するキャリアca1と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合うサンギヤs1及びリングギヤr1とを回転要素として有している。サンギヤs1は、第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1と一体回転するように接続されている。キャリアca1は、第二遊星歯車機構PG2のキャリアca2及び出力軸Oと一体回転するように接続されている。リングギヤr1は、第一クラッチC1を介して入力軸Iに選択的に接続される。
また、第二遊星歯車機構PG2は、入力軸I及び出力軸Oと同軸状に配置されたダブルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第二遊星歯車機構PG2は、複数のピニオンギヤ対を支持するキャリアca2と、前記ピニオンギヤ対を構成するピニオンギヤの一方に噛み合うサンギヤs2と、他方に噛み合うリングギヤr2とを回転要素として有している。サンギヤs2は、第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1及び第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1と一体回転するように接続されている。キャリアca2は、第一遊星歯車機構PG1のキャリアca1及び出力軸Oと一体回転するように接続されている。リングギヤr2は、第二クラッチC2を介して入力軸Iに選択的に接続される。
遊星歯車装置PGは、第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2がそれぞれの有する3つの回転要素のうち、2つずつを互いに一体回転するように接続することにより、全体として4つの回転要素を備えて一体的に動作するように構成されている。これら4つの回転要素を、回転速度の順に第一回転要素e1、第二回転要素e2、第三回転要素e3、及び第四回転要素e4とする。本実施形態においては、互いに一体回転する第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1及び第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2が、遊星歯車装置PGの第一回転要素e1に相当する。また、第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2が、遊星歯車装置PGの第二回転要素e2に相当する。また、互いに一体回転する第一遊星歯車機構PG1のキャリアca1及び第二遊星歯車機構PG2のキャリアca2が、遊星歯車装置PGの第三回転要素e3に相当する。また、第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1が、遊星歯車装置PGの第四回転要素e4に相当する。
したがって、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1は遊星歯車装置PGの第一回転要素e1と一体回転するように接続され、出力軸Oは遊星歯車装置PGの第三回転要素e3と一体回転するように接続されていることになる。また、入力軸Iは、第一クラッチC1により遊星歯車装置PGの第四回転要素e4に選択的に接続され、第二クラッチC2により遊星歯車装置PGの第二回転要素e2に選択的に接続される構成であることにより、遊星歯車装置PGの第二回転要素e2及び第四回転要素e4のいずれかに選択的に接続可能となっている。また、入力軸Iは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を係合することにより、遊星歯車装置PGの第二回転要素e2及び第四回転要素e4の双方に同時に接続することも可能となっている。更に、入力軸Iは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を解放することにより、遊星歯車装置PGの第二回転要素e2及び第四回転要素e4の双方から同時に分離することも可能となっている。
なお、変速機構TMの構成は、上記第一の実施形態と同様(図1、図4、及び図8参照)である。そして、本実施形態においても、この変速機構TMが、本発明における歯車機構に相当する。また、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hのシステム構成は上記第一の実施形態と同様(図2参照)であるので、その点についての説明は省略する。
5−2.ハイブリッド駆動装置の動作モード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能な動作モードについて説明する。図17〜図19は、本実施形態における遊星歯車装置PGの速度線図を示しており、図17はトルクコンバータモードでの速度線図、図18は直結モードでの速度線図、図19はトルクスプリットモードでの速度線図をそれぞれ示している。これらの速度線図の記述方法は、上記第一の実施形態に係る図5〜図7に示す遊星歯車装置PGの速度線図と同様である。したがって、これらの速度線図において、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、遊星歯車装置PGを構成する第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2の各回転要素に対応している。すなわち、各縦線の上側に記載されている「s1」、「ca1」、「r1」はそれぞれ第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1、キャリアca1、リングギヤr1に対応し、「s2」、「r2」、「ca2」はそれぞれ第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2、リングギヤr2、キャリアca2に対応している。また、図17の下部には第一遊星歯車機構PG1のギヤ比をλ1として明示し、図19の下部には第二遊星歯車機構PG2のギヤ比をλ2として明示している。なお、本実施形態における各動作モードでの第一クラッチC1及び第二クラッチC2の作動状態を示す作動表は、上記第一の実施形態に係る図3と同様であるため、以下の説明においては図3を参照する。
図3及び図17〜図19に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、上記第一の実施形態と同様に、トルクコンバータモード、直結モード、及びトルクスプリットモードの3つの動作モードを切り替え可能に備えた構成となっている。また、このハイブリッド駆動装置Hは、これら3つの動作モードのそれぞれにおいて、変速機構TMの変速段を低速段(Lo)及び高速段(Hi)の2つに切り替え可能に構成されている。以下、各動作モードでの遊星歯車装置PGの動作状態について順に説明する。なお、各動作モードでの変速機構TMの動作状態は、上記第一の実施形態と同様(図4及び図8参照)であるため、ここでは説明を省略する。
5−3.トルクコンバータモード
まず、トルクコンバータモードでの遊星歯車装置PGの動作状態について、図17に基づいて説明する。トルクコンバータモードは、入力軸Iを遊星歯車装置PGにおける第一モータ・ジェネレータMG1又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素の一方に接続した状態で、入力軸Iの回転駆動力に対して増幅した回転駆動力を出力軸Oに伝達するモードである。本実施形態においては、図3に示すように、トルクコンバータモードでは、第一クラッチC1が係合状態とされ、第二クラッチC2が解放状態とされる。したがって、入力軸Iが、第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1に接続されることにより、トルクコンバータモードが実現される。
図17は、トルクコンバータモードでの遊星歯車装置PGの速度線図である。この図において実線は出力軸Oの回転速度が低い(すなわち車速が低い)状態を示し、破線は実線の状態よりも出力軸Oの回転速度が高い(すなわち車速が高い)状態を示している。この図に示すように、トルクコンバータモードでは、遊星歯車装置PGを構成する第一遊星歯車機構PG1が機能する状態となる。すなわち、第一遊星歯車機構PG1は、回転速度の順で中間となるキャリアca1が出力軸Oと一体回転し、回転速度の順で一方側となるリングギヤr1が入力軸I(エンジンE)と一体回転し、回転速度の順で他方側となるサンギヤs1が第一モータ・ジェネレータMG1と一体回転する。この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うよう)に維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向の回転駆動力TEを出力し、この回転駆動力TEが入力軸Iを介してリングギヤr1に伝達される。また、第一モータ・ジェネレータMG1は、トルクコンバータモードの全域で正方向の回転駆動力T1を発生させ、入力軸Iの回転駆動力TEの反力受けとして機能する。
これにより、遊星歯車装置PGは、入力軸Iの回転駆動力TEと第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力T1とを合成し、入力軸Iの回転駆動力TEに対して増幅した回転駆動力を出力軸Oに伝達する。具体的には、図17の下部に示すように、第一遊星歯車機構PG1のギヤ比がλ1(λ1<1)である場合、リングギヤr1(入力軸I)のトルク:キャリアca1(出力軸O)のトルク:サンギヤs1(第一モータ・ジェネレータMG1)のトルク=1:(1+λ1):λ1という関係が成立する。したがって、例えばギヤ比λ1=0.5の場合、リングギヤr1(入力軸I)のトルクの0.5倍のトルクをサンギヤs1(第一モータ・ジェネレータMG1)のトルクが分担することにより、リングギヤr1(入力軸I)の回転トルクの約1.5倍のトルクがキャリアca1(出力軸O)に伝達される。なお、この第一遊星歯車機構PG1のギヤ比λ1は、エンジンE及び第一モータ・ジェネレータMG1の特性や車両重量等を考慮して適宜設定することができる。
以上に説明したように、トルクコンバータモードは、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力TEを増幅して出力軸Oに伝達することができるため、車速が比較的低い状態で使用される低速用のモードとして適している。本実施形態では、トルクコンバータモードは、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)から、出力軸Oの回転速度が入力軸Iの回転速度に一致する状態となるまでの間で使用される。すなわち、トルクコンバータモードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を上昇させることにより、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させる。この間、第一モータ・ジェネレータMG1は正方向の回転駆動力T1を発生させる。したがって、図17に実線で示すように出力軸Oの回転速度が低く、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が負(回転方向が負)の状態では、第一モータ・ジェネレータMG1は発電し、図17に破線で示すように、出力軸Oの回転速度が高くなり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が正(回転方向が正)の状態では、第一モータ・ジェネレータMG1は力行する。
そして、出力軸Oの回転速度が上昇し、入力軸Iの回転速度と一致した際に、制御装置ECUは、第一クラッチC1を係合状態に維持したまま、第二クラッチC2を係合する。これにより、トルクコンバータモードから後述する直結モードに切り替えられる。このモード切り替えは、この際に係合する第二クラッチC2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。すなわち、このモード切替は、入力軸I及び第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1の回転速度と、第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2の回転速度とが同じ状態で、入力軸Iを、第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1に加えて、第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2にも接続することにより実現される。
5−4.直結モード
次に、直結モードでの遊星歯車装置PGの動作状態について、図18に基づいて説明する。直結モードは、入力軸Iを遊星歯車装置PGにおける第一モータ・ジェネレータMG1又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素の双方に接続した状態で、入力軸I、出力軸O、及び第一モータ・ジェネレータMG1が同速で回転するモードである。本実施形態においては、図3に示すように、直結モードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態とされる。したがって、入力軸Iが、第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1及び第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2の双方に接続されることにより、直結モードが実現される。
図18は、直結モードでの遊星歯車装置PGの速度線図である。この図に示すように、直結モードでは、第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1と第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2とが、入力軸I並びに第一クラッチC1及び第二クラッチC2を介して一体回転するように接続される。これにより、遊星歯車装置PGの全体、すなわち遊星歯車装置PGを構成する全ての回転要素が一体回転する。したがって、入力軸I(エンジンE)、出力軸O、及び第一モータ・ジェネレータMG1が直結され、これらが同一速度で一体回転する状態となる。この際、エンジンEは、車速及び要求駆動力に応じて、適切な回転速度及び回転駆動力TEを出力するように制御される。また、第一モータ・ジェネレータMG1は、基本的には、入力軸Iの回転速度に応じて定まる回転速度で回転しつつ、回転駆動力を出力しない状態に制御される。この場合、後述するように、第二モータ・ジェネレータMG2も回転駆動力を出力しない状態に制御される。すなわち、この直結モードでは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的には、モータ及びジェネレータのいずれとしても機能せず、力行も発電も行わない。なお、要求駆動力に対して、エンジンEの回転駆動力が不足する場合などには、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方又は双方をモータとして力行させることも可能である。また、バッテリ11の充電量が不足した場合などには、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方又は双方をジェネレータとして発電させることも可能である。或いは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方をジェネレータとして発電させ、当該発電により得た電力を用いて他方をモータとして力行させることも可能である。
本実施形態においては、直結モードは、トルクコンバータモードとトルクスプリットモードとの切り替えに際しての中間的なモードとして使用される。すなわち、この直結モードは、第一クラッチC1を係合するとともに第二クラッチC2を解放した状態で実現されるトルクコンバータモードと、第一クラッチC1を解放するとともに第二クラッチC2を係合した状態で実現されるトルクスプリットモードとの中間で、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を係合状態とすることにより実現される。また、この際に係合される第一クラッチC1又は第二クラッチC2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態、すなわち、第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1と第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2との回転速度が同じ状態で、第一クラッチC1又は第二クラッチC2を係合状態とすることにより、当該クラッチC1、C2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となる。そして、直結モードから第一クラッチC1を解放することにより、トルクスプリットモードに切り替えられる。また、直結モードから第二クラッチC2を解放することにより、トルクコンバータモードに切り替えられる。このように、直結モードを介することにより、トルクコンバータモードとトルクスプリットモードとの間のモード切り替えを、第一クラッチC1又は第二クラッチC2の係合による衝撃がない同期切替とすることができる。
5−5.トルクスプリットモード
次に、トルクスプリットモードでの遊星歯車装置PGの動作状態について、図19に基づいて説明する。トルクスプリットモードは、入力軸Iを遊星歯車装置PGにおける第一モータ・ジェネレータMG1又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素の他方に接続した状態で、入力軸Iの回転駆動力に対して減衰した回転駆動力を出力軸Oに伝達するモードである。本実施形態においては、図3に示すように、トルクスプリットモードでは、第二クラッチC2が係合状態とされ、第一クラッチC1が解放状態とされる。したがって、入力軸Iが、第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2に接続されることにより、トルクスプリットモードが実現される。
図19は、トルクスプリットモードでの遊星歯車装置PGの速度線図である。この図において実線は出力軸Oの回転速度が比較的低い(すなわち車速が比較的低い)状態を示し、破線は実線の状態よりも出力軸Oの回転速度が高い(すなわち車速が高い)状態を示している。この図に示すように、トルクスプリットモードでは、遊星歯車装置PGを構成する第二遊星歯車機構PG2が機能する状態となる。すなわち、第二遊星歯車機構PG2は、回転速度の順で中間となるリングギヤr2が入力軸I(エンジンE)と一体回転し、回転速度の順で一方側となるキャリアca2が出力軸Oと一体回転し、回転速度の順で他方側となるサンギヤs2が第一モータ・ジェネレータMG1と一体回転する。この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うよう)に維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向の回転駆動力TEを出力し、この回転駆動力TEが入力軸Iを介してリングギヤr2に伝達される。また、第一モータ・ジェネレータMG1は、トルクスプリットモードの全域で負方向の回転駆動力T1を発生させ、入力軸Iの回転駆動力TEの反力受けとして機能する。
これにより、遊星歯車装置PGは、入力軸Iの回転駆動力TEを出力軸Oと第一モータ・ジェネレータMG1とに分配し、入力軸Iの回転駆動力TEに対して減衰した回転駆動力を出力軸Oに伝達する。具体的には、図19の下部に示すように、第二遊星歯車機構PG2のギヤ比がλ2(λ2<1)である場合、リングギヤr2(入力軸I)のトルク:キャリアca2(出力軸O)のトルク:サンギヤs2(第一モータ・ジェネレータMG1)のトルク=1:(1−λ2):λ2という関係が成立する。したがって、例えばギヤ比λ2=0.4の場合、リングギヤr2(入力軸I)のトルクの0.4倍のトルクがサンギヤs2(第一モータ・ジェネレータMG1)に分配され、リングギヤr2(入力軸I)の回転トルクの0.6倍のトルクがキャリアca2(出力軸O)に伝達される。なお、この遊星歯車機構のギヤ比λ2は、エンジンE及び第一モータ・ジェネレータMG1の特性や車両重量等を考慮して適宜設定することができる。
以上に説明したように、トルクスプリットモードは、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力TEを減衰して出力軸Oに伝達することができるため、車速が比較的高い状態で使用される高速用のモードとして適している。本実施形態では、トルクスプリットモードは、出力軸Oの回転速度が入力軸Iの回転速度に一致した状態よりも、出力軸Oの回転速度が高い領域で使用される。すなわち、トルクスプリットモードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、出力軸Oの回転速度が入力軸Iの回転速度に一致した状態から、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を下降させることにより、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させる。この間、第一モータ・ジェネレータMG1は負方向の回転駆動力T1を発生させる。したがって、図19に実線で示すように出力軸Oの回転速度が比較的低く、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が正(回転方向が正)の状態では、第一モータ・ジェネレータMG1は発電し、図19に破線で示すように、出力軸Oの回転速度が高くなり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が負(回転方向が負)の状態では、第一モータ・ジェネレータMG1は力行する。
また、トルクスプリットモードで車両が減速した際には、出力軸Oの回転速度が次第に下降することにより、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が次第に上昇する。そして、入力軸I、出力軸O、及び第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が一致した際に、制御装置ECUは、第二クラッチC2を係合状態に維持したまま、第一クラッチC1を係合する。これにより、トルクスプリットモードから直結モードに切り替えられる。このモード切り替えは、この際に係合する第一クラッチC1の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。すなわち、このモード切替は、入力軸I及び第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2の回転速度と、第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1の回転速度とが同じ状態で、入力軸Iを、第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2に加えて、第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1にも接続することにより実現される。
5−6.第二モータ・ジェネレータの機能及び動作
第二モータ・ジェネレータMG2は、上記第一の実施形態と同様に、各動作モードにおいて、基本的には、第一モータ・ジェネレータMG1がジェネレータとして機能している状態ではモータとして機能し、第一モータ・ジェネレータMG1がモータとして機能している状態ではジェネレータとして機能する。すなわち、第二モータ・ジェネレータMG2は、第一モータ・ジェネレータMG1がジェネレータとして機能している状態では、第一モータ・ジェネレータMG1により発電された電力の供給を受けて力行する。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、第一モータ・ジェネレータMG1がモータとして機能している状態では、第一モータ・ジェネレータMG1を力行させるための電力を発電して第一モータ・ジェネレータMG1に供給する。但し、いずれの動作モードにおいても、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両の減速のための回生制動時にはジェネレータとして機能し、出力軸Oから伝達される回転駆動力による発電を行う。また、上記のとおり、直結モードにおいて、第一モータ・ジェネレータMG1がモータ及びジェネレータのいずれとしても機能しない場合には、第二モータ・ジェネレータMG2も同様に、モータ及びジェネレータのいずれとしても機能しないようにすることができる。なお、この直結モードにおいて、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方又は双方をモータとして力行させ、或いはジェネレータとして発電させることも可能である。また、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の一方をジェネレータとして発電させ、当該発電により得た電力を用いて他方をモータとして力行させることも可能である。
このハイブリッド駆動装置Hでは、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2の双方を解放状態としない限り、全ての動作モードにおいて第二モータ・ジェネレータMG2は、変速機構TMを介して出力軸Oに常に接続された状態となっている。そのため、第二モータ・ジェネレータMG2は、変速機構TMのみを介して出力軸Oとの間で直接的に回転駆動力の伝達を行うことができる。したがって、例えば回生制動時には、出力軸Oの回転駆動力を直接的に第二モータ・ジェネレータMG2に伝達して発電させることができる。また、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力T2のみにより車両を走行させるEV(電動走行)モード時には、第二モータ・ジェネレータMG2が発生させる回転駆動力を直接的に出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。したがって、エンジンEの回転駆動力TEを必要としない走行を行う際に、第二モータ・ジェネレータMG2と出力軸Oとの間で伝達される回転駆動力によって入力軸Iを回転させないことが可能となり、エンジンEの内部の摩擦抵抗によるエネルギー損失を抑制できる。よって、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギー効率を高めることができる。
ところで、前記EV(電動走行)モードは、エンジンEを停止し、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力T2のみにより車両を走行させるモードである。このモードは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を解放することにより実現される。すなわち、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を解放すれば、入力軸Iが遊星歯車装置PGから分離されるため、出力軸Oに接続された第一遊星歯車機構PG1のキャリアca1及び第二遊星歯車機構PG2のキャリアca2の回転が入力軸Iに伝達されない状態となる。この状態で、第二モータ・ジェネレータMG2を力行させることにより、変速機構TMを介して第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力T2を出力軸Oに伝達し、車両を走行させることができる。バッテリ11の充電量に余裕がある場合には、入力軸I及び第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度をゼロにした状態で、バッテリ11に蓄えられた電力を第二モータ・ジェネレータMG2に供給することにより、第二モータ・ジェネレータMG2を力行させることができる。
また、車両の減速のための回生制動時には、エンジンEの回転駆動力TEは必要ないため、エンジンEは停止される。そこで、エンジンEが出力軸Oから伝達される回転駆動力により回転させられることで生じる、エンジンEの内部の摩擦抵抗によるエネルギー損失を抑制するためには、上記EV(電動走行)モード時と同様に、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の双方を解放すると好適である。しかし、その場合には、エンジンEの回転速度がゼロになるため、次の加速時におけるエンジンEの始動に時間を要することになる。そこで、回生制動後に迅速にエンジンEを始動させることを可能とするためには、第一クラッチC1及び第二クラッチC2のいずれか一方を係合状態としたまま、すなわちトルクコンバータモード又はトルクスプリットモードで回生制動を行うと好適である。
6.第六の実施形態
次に、本発明の第六の実施形態について説明する。図20は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図20は、図16と同様に、中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。このハイブリッド駆動装置Hは、上記第五の実施形態における変速機構TMに代えて、同軸減速機構RGを備えている。すなわち、このハイブリッド駆動装置Hでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、同軸減速機構RGを介して出力軸Oに接続されている。その他の構成は、上記第五の実施形態と同様である。なお、同軸減速機構RGの構成及び各モードでの動作状態は、上記第二の実施形態と同様(図9及び図10参照)である。そして、本実施形態においても、この同軸減速機構RGが、本発明における歯車機構に相当する。また、本実施形態における第二モータ・ジェネレータMG2の機能及び動作は、上記第二の実施形態と同様である。
7.第七の実施形態
次に、本発明の第七の実施形態について説明する。図21は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図21は、入力軸Iに対称な下半分の構成を省略して示している。このハイブリッド駆動装置Hは、上記第五の実施形態における変速機構TMに代えて、カウンタ減速機構SGを備えている。また、このハイブリッド駆動装置Hは、入力軸I及び第一モータ・ジェネレータMG1が配置された第一軸、第二モータ・ジェネレータMG2が配置された第二軸、カウンタ減速機構SGが配置された第三軸、及びディファレンシャル装置17が配置された第四軸が、互いに平行に配置された4軸構成の配置となっている。これは、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式の車両やRR(リヤエンジン・リヤドライブ)方式の車両などに好適に用いられる配置である。そして、このハイブリッド駆動装置Hでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、カウンタ減速機構SGを介して出力部材としてのデフリングギヤO´に接続されている。その他の構成は、上記第五の実施形態と同様である。なお、カウンタ減速機構SGの構成及び各モードでの動作状態は、上記第三の実施形態と同様(図11参照)である。そして、本実施形態においても、このカウンタ減速機構SGが、本発明における歯車機構に相当する。また、本実施形態における第二モータ・ジェネレータMG2の機能及び動作は、上記第二の実施形態と同様である。
8.第八の実施形態
次に、本発明の第八の実施形態について説明する。図22は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図22は、図16と同様に、中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。このハイブリッド駆動装置Hは、上記第五の実施形態の構成に加えて、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1を非回転部材としてのケースDcに選択的に固定するための第三ブレーキB3を備えている。そして、この第三ブレーキB3を設けたことにより、上記第五の実施形態と同様の3つの動作モードに加えて、パラレル減速モード及びパラレル増速モードの2つのパラレルモードを切り替え可能に備えた構成となっている。その他の構成は、上記第一の実施形態と同様である。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第五の実施形態との相違点を中心として説明する。
8−1.差動歯車装置等の構成
本実施形態における差動歯車装置は、上記第五の実施形態と同様の構成となっている。但し、本実施形態においては、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1が、第三ブレーキB3によりケースDcに選択的に固定される。すなわち、第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1及び第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2が、第三ブレーキB3によりケースDcに選択的に固定される。換言すれば、この第三ブレーキB3により、遊星歯車装置PGの第一回転要素e1がケースDcに選択的に固定される。
8−2.ハイブリッド駆動装置の動作モード
本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、上記第五の実施形態と同様に、第一クラッチC1及び第二クラッチC2の係合または解放を切り替えることにより、トルクコンバータモード、直結モード、及びトルクスプリットモードの3つのモードを切り替え可能に備えている。更に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、第三ブレーキB3の係合または解放を切り替えることにより、これらの3つの動作モードに加えて、パラレル減速モード及びパラレル増速モードの2つのパラレルモードを切り替え可能に備えている。これら2つのパラレルモードは、いずれも、第一モータ・ジェネレータMG1をケースDcに固定することにより、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まるモードである。これらの動作モードは、モード選択手段39により選択され、選択された動作モードへの切り替えは、制御装置ECUからの制御指令により各摩擦係合要素C1、C2、B3が係合又は解放されることにより行われる。
図23は、パラレル減速モードでの遊星歯車装置PGの速度線図を示しており、図24は、パラレル増速モードでの遊星歯車装置PGの速度線図を示している。なお、これらの速度線図の記述方法は、上記第五の実施形態に係る図17〜図19に示す遊星歯車装置PGの速度線図と同様である。また、本実施形態においても、トルクコンバータモード、直結モード、及びトルクスプリットモードのそれぞれにおける遊星歯車装置PGの速度線図は、上記第五の実施形態に係る図17〜図19と同様である。そこで、以下では、上記第一の実施形態とは異なるモードである、パラレル減速モード及びパラレル増速モードのそれぞれにおける遊星歯車装置PGの動作状態について順に説明する。なお、本実施形態における各動作モードでの第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第三ブレーキB3の作動状態を示す作動表は、上記第四の実施形態に係る図13と同様であるため、以下の説明においては図13を参照する。
8−3.パラレル減速モード
まず、パラレル減速モードでの遊星歯車装置PGの動作状態について、図23に基づいて説明する。パラレル減速モードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まり、入力軸Iの回転速度が減速して出力軸Oに伝達されるモードである。このパラレル減速モードは、入力軸Iを遊星歯車装置PGにおける第一モータ・ジェネレータMG1又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素のいずれか一方に接続するとともに、第一モータ・ジェネレータMG1をケースDcに固定した状態で実現される。本実施形態においては、図13に示すように、パラレル減速モードでは、第一クラッチC1及び第三ブレーキB3が係合状態とされ、第二クラッチC2は解放状態とされる。したがって、入力軸Iが第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1に接続された状態(すなわちトルクコンバータモード)で、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1並びに第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1及び第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2がケースDcに固定されることにより、パラレル減速モードが実現される。
図23は、パラレル減速モードでの遊星歯車装置PGの速度線図である。この図に示すように、パラレル減速モードでは、第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1及び第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2が第三ブレーキB3を介してケースDcに固定されることにより、入力軸I(エンジンE)の回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まる状態となる。また、回転速度の順で、ケースDcに固定される回転要素である第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1及び第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2(第一回転要素e1)と入力軸Iに接続された回転要素である第一遊星歯車機構PG1のリングギヤr1(第四回転要素e4)との間に、出力軸Oに接続された回転要素である第一遊星歯車機構PG1のキャリアca1及び第二遊星歯車機構PG2のキャリアca2(第三回転要素e3)が設けられていることにより、入力軸I(エンジンE)の回転速度が減速して出力軸Oに伝達される。すなわち、入力軸Iの回転駆動力が増幅されて出力軸Oに伝達される。具体的には、図23の下部に示すように、第一遊星歯車機構PG1のギヤ比がλ1(λ1<1)である場合、入力軸Iの回転速度は1/(1+λ1)倍に減速され、入力軸Iのトルクは(1+λ1)倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。
この際、エンジンEは、車速及び要求駆動力に応じて、適切な回転速度及び回転駆動力TEを出力するように制御される。上記のとおり、パラレル減速モードでは、入力軸Iの回転速度を減速するとともに回転駆動力を増幅して出力軸Oに伝達するため、比較的大きい回転駆動力を出力軸Oに伝達することが可能となる。また、パラレル減速モードでは、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1はケースDcに固定されている。この場合、第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的には、回転駆動力を出力しない状態に制御される。すなわち、このパラレル減速モードでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的には、モータ及びジェネレータのいずれとしても機能せず、力行も発電も行わない。なお、要求駆動力に対して、エンジンEの回転駆動力が不足する場合などには、第二モータ・ジェネレータMG2をモータとして力行させることも可能である。また、バッテリ11の充電量が不足した場合などには、第二モータ・ジェネレータMG2をジェネレータとして発電させることも可能である。
以上に説明したように、パラレル減速モードは、入力軸I(エンジンE)の回転速度を減速するとともに回転駆動力を増幅して出力軸Oに伝達することができるとともに、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まる状態になるモードである。したがって、このパラレル減速モードは、後述するパラレル増速モードに比べて車速が比較的低く要求駆動力が大きい状態で使用されるモードとして適している。すなわち、このパラレル減速モードでは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2を動作させずに入力軸I(エンジンE)の回転駆動力を出力軸Oに伝達して走行することができる。したがって、要求駆動力が大きい状況において、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の動作によるエネルギー損失を抑制することができる。また、このとき、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力を増幅して出力軸Oに伝達するため、入力軸I(エンジンE)の回転速度は比較的高くなるが、比較的大きい回転駆動力を出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。
本実施形態では、パラレル減速モードは、トルクコンバータモードで走行中に第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度がゼロになった際に、第三ブレーキB3を係合状態とすることにより実現される。一方、パラレル減速モードで走行中に、第一クラッチC1を係合状態に維持したまま、第三ブレーキB3を解放することにより、トルクコンバータモードに切り替えることができる。
8−4.パラレル増速モード
まず、パラレル増速モードでの遊星歯車装置PGの動作状態について、図24に基づいて説明する。パラレル増速モードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まり、入力軸Iの回転速度が増速して出力軸Oに伝達されるモードである。このパラレル増速モードは、入力軸Iを遊星歯車装置PGにおける第一モータ・ジェネレータMG1又は出力軸Oが接続されていない2つの回転要素のいずれか他方に接続するとともに、第一モータ・ジェネレータMG1をケースDcに固定した状態で実現される。本実施形態においては、図13に示すように、パラレル増速モードでは、第二クラッチC2及び第三ブレーキB3が係合状態とされ、第一クラッチC1は解放状態とされる。したがって、入力軸Iが第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2に接続された状態(すなわちトルクスプリットモード)で、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1並びに第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1及び第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2がケースDcに固定されることにより、パラレル増速モードが実現される。
図24は、パラレル増速モードでの遊星歯車装置PGの速度線図である。この図に示すように、パラレル増速モードでは、第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1及び第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2が第三ブレーキB3を介してケースDcに固定されることにより、入力軸I(エンジンE)の回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まる状態となる。また、回転速度の順で、ケースDcに固定される回転要素である第一遊星歯車機構PG1のサンギヤs1及び第二遊星歯車機構PG2のサンギヤs2(第一回転要素e1)と出力軸Oに接続された回転要素である第一遊星歯車機構PG1のキャリアca1及び第二遊星歯車機構PG2のキャリアca2(第三回転要素e3)との間に、入力軸Iに接続された回転要素である第二遊星歯車機構PG2のリングギヤr2(第二回転要素e2)が設けられていることにより、入力軸I(エンジンE)の回転速度が増速して出力軸Oに伝達される。すなわち、入力軸Iの回転駆動力が減衰されて出力軸Oに伝達される。具体的には、図24の下部に示すように、第二遊星歯車機構PG2のギヤ比がλ2(λ2<1)である場合、入力軸Iの回転速度は1/(1−λ2)倍に増速され、入力軸Iのトルクは(1−λ2)倍に減衰されて出力軸Oに伝達される。
この際、エンジンEは、車速及び要求駆動力に応じて、適切な回転速度及び回転駆動力TEを出力するように制御される。上記のとおり、パラレル増速モードでは、入力軸Iの回転速度を増速して出力軸Oに伝達するため、エンジンEの回転速度を低く抑えることが可能となる。また、パラレル増速モードでは、上述したパラレル減速モードと同様に、第一モータ・ジェネレータMG1のロータRo1はケースDcに固定されている。この場合、第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的には、回転駆動力を出力しない状態に制御される。すなわち、このパラレル増速モードでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的には、モータ及びジェネレータのいずれとしても機能せず、力行も発電も行わない。なお、要求駆動力に対して、エンジンEの回転駆動力が不足する場合などには、第二モータ・ジェネレータMG2をモータとして力行させることも可能である。また、バッテリ11の充電量が不足した場合などには、第二モータ・ジェネレータMG2をジェネレータとして発電させることも可能である。
以上に説明したように、パラレル増速モードは、入力軸I(エンジンE)の回転速度を増速して出力軸Oに伝達することができるとともに、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まる状態になるモードである。したがって、このパラレル増速モードは、上述したパラレル減速モードに比べて車速が高く要求駆動力が小さい状態で使用される高速巡航用のモードとして適している。すなわち、このパラレル増速モードでは、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2を動作させずに入力軸I(エンジンE)の回転駆動力を出力軸Oに伝達して走行することができる。したがって、要求駆動力が小さい状況において、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の動作によるエネルギー損失を抑制することができる。また、このとき、入力軸I(エンジンE)の回転速度を増速して出力軸Oに伝達するため、出力軸Oに伝達される入力軸Iの回転駆動力は小さくなるが、入力軸I(エンジンE)の回転速度を低く抑えることが可能となる。したがって、エンジンを高い効率で動作させることができる。
本実施形態では、パラレル増速モードは、トルクスプリットモードで走行中に第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度がゼロになった際に、第三ブレーキB3を係合状態とすることにより実現される。一方、パラレル増速モードで走行中に、第二クラッチC2を係合状態に維持したまま、第三ブレーキB3を解放することにより、トルクスプリットモードに切り替えることができる。
9.その他の実施形態
(1)上記の各実施形態では、ハイブリッド駆動装置Hが、トルクコンバータモード、直結モード、及びトルクスプリットモードの3つのモード、或いはこれら3つのモードに加えてパラレル減速モード及びパラレル増速モードの2つのモードを切り替え可能に備えた構成について説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、前記5つのモードに加えて、更に他のモードを切り替え可能に備えた構成としても好適である。また、ハイブリッド駆動装置Hが、前記5つのモードの中の一部のみを切り替え可能に備えた構成としても好適である。例えば、ハイブリッド駆動装置Hが、トルクコンバータモード及びトルクスプリットモードの2つモードを切り替え可能に備えた構成とし、或いは、トルクコンバータモード、トルクスプリットモード、パラレル減速モード、及びパラレル増速モードの4つモードを切り替え可能に備えた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(2)上記の各実施形態では、いずれも差動歯車装置が遊星歯車装置PGにより構成されている場合の例について説明した。しかし、本発明における差動歯車装置の構成は、遊星歯車装置PGに限定されるものではない。したがって、例えば、複数の傘歯車を組み合わせた構成等のように、他の形態の歯車機構を用いて差動歯車装置を構成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(3)上記の各実施形態において説明した差動歯車装置の具体的構成、並びに差動歯車装置の各回転要素に対する摩擦係合要素の配置構成は単なる例示であり、上記以外の構成によっても本発明の構成を実現することが可能な全ての構成が、本発明の範囲に含まれる。
(4)上記の各実施形態において説明した、変速機構TMや減速機構RG、SGでなる歯車機構の具体的構成は単なる例示であり、上記以外の構成を有する歯車機構を介して、第二回転電機としての第二モータ・ジェネレータMG2を出力部材に接続した構成も、本発明の範囲に含まれる。