上記のハイブリッド駆動装置では、第一モード及び第二モードにおいて反力受けとなる第一回転電機は、特に駆動軸の回転速度が低い低速時に回転速度が高くなる。また、第三モードにおいて反力受けとなる第二回転電機は、駆動軸の回転速度が高い高速時に、駆動軸よりも高回転の非常に高い回転速度となる。このように、上記のハイブリッド駆動装置では、反力受けとなる回転電機の回転速度の絶対値が大きくなりがちであるため、当該反力受けとなる回転電機を駆動するためにエンジンの仕事を電力に変換する割合を高くする必要がある。従って、電力変換による損失が拡大し易く、ハイブリッド駆動装置のエネルギー効率を高めることが困難であるという問題がある。
また、上記のハイブリッド駆動装置では、第二モード及び第三モードにおいて、第一回転電機及び第二回転電機の双方が駆動軸とは異なる回転要素に駆動連結された状態となる。このため、車両が減速するためにエンジンを停止して回生制動を行う際には、第一回転電機と第二回転電機の双方が出力するトルクの均衡を保ちながら回生(発電)を行い、適切な減速度で駆動軸の回転速度を低下させるように適切に制御を行う必要がある。しかしながら、このような制御を適切に行うことは難しく、回生制動時に出力部材に伝達される駆動力の状態が不連続となることや回生効率の低下等の問題が生じる可能性がある。
更に、上記のハイブリッド駆動装置では、モード切替時に、駆動連結される回転要素が切り替わるいずれか一方の回転電機について、回転速度を変化させて別の回転要素に駆動連結させるようにクラッチを係合させる必要がある。そのため、モード切替後に当該回転電機が係合する回転要素に対して回転速度が異なる状態で当該回転電機を駆動連結すると、当該駆動連結を実現するためのクラッチに係合ショックが発生することになる。一方、モード切替前に駆動連結されていた回転要素から当該回転電機を分離し、モード切替後に駆動連結される回転要素に回転速度を合わせてから駆動連結すると、当該駆動連結を実現するためのクラッチにおける係合ショックは発生しないが、当該回転電機がいずれの回転要素にも駆動連結されていない状態が生じ、駆動軸に伝達される駆動力が途切れることになる。そのため、いずれにしても、上記のハイブリッド駆動装置では、モード切替時に出力部材に伝達される駆動力の状態が不連続となる。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンのトルクに対する反力受けとなる一方の回転電機の回転速度の絶対値が大きくなることを抑制しつつ幅広い速度域で出力部材を駆動可能とするように複数のモードを切り替え可能に備え、更にはこれらの複数のモードのいずれにおいても回転電機が出力部材に駆動連結された状態となり回生制動を適切に行うことが可能なハイブリッド駆動装置を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明に係る、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置の特徴構成は、前記第二回転電機が前記差動歯車装置を介さずに前記出力部材に駆動連結され、前記差動歯車装置が備える少なくとも3つの回転要素に対する、前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機の駆動連結関係に関して、回転速度の順が、前記第一回転電機に駆動連結された第一回転電機連結要素、前記出力部材に駆動連結された出力回転要素、前記入力部材に駆動連結された入力回転要素の順となるように駆動連結して前記入力回転要素に伝達される前記入力部材のトルクである入力トルクに対して増幅された中間出力トルクを前記出力回転要素に伝達するトルクコンバータモードであって、前記出力回転要素に伝達された前記中間出力トルクを所定の基準トルク変換比で前記出力部材に伝達する第一トルクコンバータモードと、前記駆動連結関係に関して、回転速度の順が、前記第一回転電機連結要素、前記入力回転要素、前記出力回転要素の順となるように駆動連結して前記入力トルクに対して減衰された中間出力トルクを前記出力回転要素に伝達するトルクスプリットモードであって、前記出力回転要素に伝達された前記中間出力トルクを前記基準トルク変換比で前記出力部材に伝達する第一トルクスプリットモードと、前記トルクスプリットモードであって前記第一トルクコンバータモードよりも前記入力トルクを増幅して前記出力部材に伝達する第二トルクスプリットモード、及び前記トルクコンバータモードであって前記第一トルクスプリットモードよりも前記入力トルクを減衰して前記出力部材に伝達する第二トルクコンバータモード、の少なくとも一方と、を前記入力トルクが前記出力部材に伝達されるまでの総トルク変換比の順に切り替え可能に備える点にある。
なお、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。但し、各差動歯車機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、当該差動歯車機構が備える3つの回転要素に関して互いに他の回転要素を介することなく駆動連結されている状態を指すものとする。
本願では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。本願では、「回転速度の順」は、高速側から低速側に向かう順、又は低速側から高速側に向かう順のいずれかであり、各差動歯車機構の回転状態によりいずれともなり得るが、いずれの場合にも回転要素の順は変わらない。本願において「トルク変換比」は、入力側の回転要素に伝達されたトルクが出力側の回転要素に伝達された際に変換されるトルクの比であり、ここでは、出力側の回転要素に伝達されたトルクを入力側の回転要素に伝達されたトルクにより除算した値とする。また、「トルク変換比の順」は、トルク変換比が大きい側から小さい側へ向かう順又はトルク変換比が小さい側から大きい側へ向かう順である。
この特徴構成によれば、ハイブリッド駆動装置は、4つ以上のモードを備える場合には、総トルク変換比の順に、第二トルクスプリットモード、第一トルクコンバータモード、第一トルクスプリットモード、第二トルクコンバータモードの4つのモードを切り替え可能に備えることになる。また、ハイブリッド駆動装置は、3つのモードを備える場合には、総トルク変換比の順に、第二トルクスプリットモード、第一トルクコンバータモード、第一トルクスプリットモードの3つのモードを切り替え可能に備え、或いは、第一トルクコンバータモード、第一トルクスプリットモード、第二トルクコンバータモードの3つのモードを切り替え可能に備えることになる。
ところで、第一及び第二のトルクスプリットモードでは、入力トルクに対する反力受けとなる第一回転電機は負方向のトルクを出力する状態となり、第一回転電機の回転速度は出力部材の回転速度の上昇に伴って低下する。一方、第一及び第二のトルクコンバータモードでは、入力トルクに対する反力受けとなる第一回転電機は正方向のトルクを出力する状態となり、第一回転電機の回転速度は出力部材の回転速度の上昇に伴って上昇する。そのため、出力部材の回転速度の上昇に伴って総トルク変換比の順にモードを切り替えると、第一回転電機の回転速度は上昇と下降を交互に行うことになる。これにより、反力受けとなる第一回転電機の回転速度の変化する方向が複数のモード間にわたって同じである場合に比べて第一回転電機の回転速度の絶対値が大きくなることを抑制することができる。従って、幅広い回転速度域で出力部材を駆動可能としつつ、入力部材(エンジン)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置のエネルギー効率を高めることが可能となる。
また、この特徴構成によれば、第二回転電機が差動歯車装置を介さずに出力部材に駆動連結された状態とされているため、差動歯車装置の各回転要素に対する入力部材、出力部材、及び第一回転電機の駆動連結関係を切り替えて異なるモードに移行した場合にも第二回転電機が差動歯車装置を介さずに出力部材に駆動連結された状態が維持される。従って、いずれのモードにおいても出力部材に駆動連結された第二回転電機により回生制動を行うことができるので、第一回転電機とのトルクの均衡を保つ等の複雑な制御が不要となるとともに、出力部材からの駆動力を直接的に第二回転電機に伝達して効率的に回生を行うことができる。
上記のとおり、本願の特徴構成によれば、出力部材の回転速度の上昇に伴って総トルク変換比の順にモードを切り替えた際に、第一回転電機の回転速度は上昇と下降を交互に行う。従って、前記複数のモードの全てが、前記総トルク変換比の順で隣接する他のモードとの切替点までの間に、前記第一回転電機の回転速度がゼロとなる点を通過する構成とすることが可能である。
そして、このように構成すれば、複数のモードの全てに、入力部材(エンジン)の仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない点を有することになるとともに、反力受けとなる第一回転電機の回転速度の絶対値も更に低く抑えることが可能となる。従って、入力部材(エンジン)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置のエネルギー効率を高めることが可能となる。
また、前記第一回転電機は、前記第一トルクコンバータモード及び前記第二トルクコンバータモードでは、前記入力トルクに対する反力として正方向のトルクを出力し、前記第一トルクスプリットモード及び前記第二トルクスプリットモードでは、前記入力トルクに対する反力として負方向のトルクを出力する構成とすると好適である。
この構成によれば、いずれのモードにおいても、入力回転要素に伝達される入力部材のトルクである入力トルクを、出力部材に駆動連結された出力回転要素に適切に伝達することができる。そして、各モードに応じた方向に出力される第一回転電機のトルクを反力として入力部材(エンジン)のトルクを出力部材に伝達しつつ、第一回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する、いわゆる電気的無段変速を適切に実現することができる。
また、前記総トルク変換比の順で隣接する2つのモード間のトルク変換比のステップが、他のモード間のトルク変換比のステップと略均等となるように設定されていると好適である。ここで、トルク変換比のステップとは、隣接する2つのモード間で切り替わるトルク変換比の倍率に相当する。
この構成によれば、3つ以上のモードを切り替え可能に備える本願の構成において、異なるモード間での出力部材に伝達される駆動力の変化の程度を適切なものとすることができる。よって、幅広い出力部材の回転速度域にわたって適切な駆動力を出力可能な構成とすることができる。
また、前記差動歯車装置は、前記トルクコンバータモードと前記トルクスプリットモードとの切り替えを行う基本モード切替用の第一差動歯車装置であり、この第一差動歯車装置の他に、前記出力回転要素に伝達された前記中間出力トルクを増幅又は減衰して前記出力部材に伝達するトルク増減用の第二差動歯車装置を備えると好適である。
この構成によれば、第一差動歯車装置により、トルクコンバータモードを実現するための駆動連結関係とトルクスプリットモードを実現するための駆動連結関係とを切り替えて基本的なモード切替を行い、各モードに応じて出力回転要素に中間出力トルクを伝達することができる。そして、第二差動歯車装置により、当該出力回転要素に伝達された中間出力トルクを増幅又は減衰して出力部材に伝達する構成とすることができる。従って、これらの第一差動歯車装置及び第二差動歯車装置の2つの差動歯車装置の組み合わせにより、第一トルクコンバータモード、第一トルクスプリットモード、第二トルクコンバータモード、第二トルクスプリットモードの4つのモードの中で少なくとも3つのモードを備えるハイブリッド駆動装置を適切に構成することができる。
また、このような第一差動歯車装置及び第二差動歯車装置を備える構成において、前記第一差動歯車装置において、前記トルクコンバータモードを実現した状態で前記入力トルクが前記出力回転要素に伝達される際のトルク変換比を第一増幅比とし、前記トルクスプリットモードを実現した状態で前記入力トルクが前記出力回転要素に伝達される際のトルク変換比を第一減衰比とするとともに、前記第二差動歯車装置において、前記出力回転要素に伝達された中間出力トルクが増幅されて前記出力部材に伝達される際のトルク変換比を第二増幅比とし、前記出力回転要素に伝達された中間出力トルクが減衰されて前記出力部材に伝達される際のトルク変換比を第二減衰比とした場合に、前記第一減衰比に前記第二増幅比を乗算して得られるトルク変換比が、前記第一増幅比よりもトルク増幅側の値となり、前記第一増幅比に前記第二減衰比を乗算して得られるトルク変換比が、前記第一減衰比よりもトルク減衰側の値となるように設定されていると好適である。
この構成によれば、上記のように基本モード切替用の第一差動歯車装置とトルク増減用の第二差動歯車装置を備える場合において、第二トルクスプリットモードが第一トルクコンバータモードよりも入力トルクを増幅して出力部材に伝達するモードとなり、第二トルクコンバータモードが第一トルクスプリットモードよりも入力トルクを減衰して出力部材に伝達するモードとなるように、適切に各差動歯車装置を設定することができる。
また、前記第一差動歯車装置は、回転速度の順に、第一回転要素、第二回転要素、第三回転要素、及び第四回転要素を備え、前記第一回転要素が前記第一回転電機に駆動連結された前記第一回転電機連結要素であり、前記第三回転要素が前記入力部材に駆動連結された前記入力回転要素であり、前記第二回転要素及び前記第四回転要素のいずれか一方が選択的に前記出力部材に駆動連結される前記出力回転要素となるように構成されていると好適である。
この構成によれば、第一差動歯車装置の第二回転要素が出力部材に駆動連結されて出力回転要素となった状態でトルクコンバータモードが実現され、第一差動歯車装置の第四回転要素が出力部材に駆動連結されて出力回転要素となった状態でトルクスプリットモードが実現される。従って、第一差動歯車装置を用いて当該第一差動歯車装置の各回転要素に対する入力部材、出力部材、及び第一回転電機の駆動連結関係を切り替えてトルクコンバータモードとトルクスプリットモードという基本モードの切替を行い、各モードに応じた中間出力トルクを各モードでの出力回転要素に伝達することができる。
また、上記の第一差動歯車装置の構成において、前記第二差動歯車装置は、回転速度の順に、第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素を備え、前記第二差動歯車装置の第一回転要素はブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、前記第二差動歯車装置の第三回転要素は第一クラッチを介して前記第一差動歯車装置の第四回転要素に選択的に駆動連結されるとともに第二クラッチを介して前記出力部材に選択的に駆動連結され、前記第二差動歯車装置の第二回転要素は第三クラッチを介して前記第一差動歯車装置の第二回転要素に選択的に駆動連結されるとともに第四クラッチを介して前記出力部材に選択的に駆動連結されるように構成されていると好適である。
この構成によれば、第一トルクコンバータモード、第一トルクスプリットモード、第二トルクスプリットモード、第二トルクコンバータモードの4つのモードを切り替え可能に備えることができる。すなわち、第一クラッチ、第三クラッチ、及び第四クラッチの係合状態で、入力トルクに対して増幅されて出力回転要素に伝達される中間出力トルクをそのまま出力部材に伝達することができ、これにより第一トルクコンバータモードを実現できる。また、第一クラッチ、第二クラッチ、及び第三クラッチの係合状態で、入力トルクに対して減衰されて出力回転要素に伝達される中間出力トルクをそのまま出力部材に伝達することができ、これにより第一トルクスプリットモードを実現できる。更に、第一クラッチ、第四クラッチ、及びブレーキの係合状態で、入力トルクに対して減衰されて出力回転要素に伝達される中間出力トルクを増幅して出力部材に伝達することができ、これにより第二トルクスプリットモードを実現できる。また、第二クラッチ、第三クラッチ、及びブレーキの係合状態で、入力トルクに対して増幅されて出力回転要素に伝達される中間出力トルクを減衰して出力部材に伝達することができ、これにより第二トルクコンバータモードを実現できる。
また、この構成によれば、4つのクラッチ及び1つのブレーキの係合状態を切り替えてモードを切り替える際に、係合するクラッチ又はブレーキの両側の回転要素の回転速度が同じ状態で係合してモードを切り替える同期切替が可能である。従って、モード切替時にクラッチやブレーキの係合ショックが発生することを抑制できるとともに出力部材に伝達される駆動力が途切れることも抑制できる。よって、モード切替時に出力部材に伝達される駆動力の状態が不連続となることを抑制することができる。
本発明に係る、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、第一差動歯車装置と、第二差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置のもう一つの特徴構成は、前記第二回転電機が前記差動歯車装置を介さずに前記出力部材に駆動連結され、前記第一差動歯車装置は、回転速度の順に、第一回転要素、第二回転要素、第三回転要素、及び第四回転要素を備え、前記第一差動歯車装置の第一回転要素が前記第一回転電機に駆動連結され、前記第一差動歯車装置の第三回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第二差動歯車装置は、回転速度の順に、第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素を備え、前記第二差動歯車装置の第一回転要素がブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、前記第二差動歯車装置の第三回転要素が第一クラッチを介して前記第一差動歯車装置の第四回転要素に選択的に駆動連結されるとともに第二クラッチを介して前記出力部材に選択的に駆動連結され、前記第二差動歯車装置の第二回転要素が第三クラッチを介して前記第一差動歯車装置の第二回転要素に選択的に駆動連結されるとともに第四クラッチを介して前記出力部材に選択的に駆動連結される点にある。
この特徴構成によれば、第一クラッチ、第三クラッチ、及び第四クラッチの係合状態で、第一差動歯車装置によって入力トルクを増幅して出力回転要素に伝達するとともに当該出力回転要素に伝達された中間出力トルクをそのまま出力部材に伝達することができる。このモードは第一トルクコンバータモードとなる。また、第一クラッチ、第二クラッチ、及び第三クラッチの係合状態で、第一差動歯車装置によって入力トルクを減衰して出力回転要素に伝達するとともに当該出力回転要素に伝達された中間出力トルクをそのまま出力部材に伝達することができる。このモードは第一トルクスプリットモードとなる。更に、第一クラッチ、第四クラッチ、及びブレーキの係合状態で、第一差動歯車装置によって入力トルクを減衰して出力回転要素に伝達するとともに当該出力回転要素に伝達された中間出力トルクを第二差動歯車装置により増幅して出力部材に伝達することができる。このモードは第二トルクスプリットモードとなる。また、第二クラッチ、第三クラッチ、及びブレーキの係合状態で、第一差動歯車装置によって入力トルクを増幅して出力回転要素に伝達するとともに当該出力回転要素に伝達された中間出力トルクを第二差動歯車装置により減衰して出力部材に伝達することができる。このモードは第二トルクコンバータモードとなる。
ところで、上記の第一及び第二のトルクスプリットモードでは、入力部材(エンジン)のトルクに対する反力受けとなる第一回転電機は負方向のトルクを出力する状態となり、第一回転電機の回転速度は出力部材の回転速度の上昇に伴って低下する。一方、第一及び第二のトルクコンバータモードでは、入力部材(エンジン)のトルクに対する反力受けとなる第一回転電機は正方向のトルクを出力する状態となり、第一回転電機の回転速度は出力部材の回転速度の上昇に伴って上昇する。そのため、出力部材の回転速度の上昇に伴って総トルク変換比の順にモードを切り替えると、第一回転電機の回転速度は上昇と下降を交互に行うことになる。これにより、反力受けとなる第一回転電機の回転速度の変化する方向が複数のモード間にわたって同じである場合に比べて第一回転電機の回転速度の絶対値が大きくなることを抑制することができる。従って、幅広い回転速度域で出力部材を駆動可能としつつ、入力部材(エンジン)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置のエネルギー効率を高めることが可能となる。
また、この特徴構成によれば、第二回転電機が差動歯車装置を介さずに出力部材に駆動連結された状態とされているため、差動歯車装置の各回転要素に対する入力部材、出力部材、及び第一回転電機の駆動連結関係を切り替えて異なるモードに移行した場合にも第二回転電機が差動歯車装置を介さずに出力部材に駆動連結された状態が維持される。従って、いずれのモードにおいても出力部材に駆動連結された第二回転電機により回生制動を行うことができるので、第一回転電機とのトルクの均衡を保つ等の複雑な制御が不要となるとともに、出力部材からの駆動力を直接的に第二回転電機に伝達して効率的に回生を行うことができる。
また、この構成によれば、4つのクラッチ及び1つのブレーキの係合状態を切り替えてモードを切り替える際に、係合するクラッチ又はブレーキの両側の回転要素の回転速度が同じ状態で係合してモードを切り替える同期切替が可能である。従って、モード切替時にクラッチやブレーキの係合ショックが発生することを抑制できるとともに出力部材に伝達される駆動力が途切れることも抑制できる。よって、モード切替時に出力部材に伝達される駆動力の状態が不連続となることを抑制することができる。
ここで、前記第一差動歯車装置において、第一回転要素を支点として第三回転要素のトルクが第二回転要素に伝達される際のトルク変換比を第一増幅比とし、第一回転要素を支点として第三回転要素のトルクが第四回転要素に伝達される際のトルク変換比を第一減衰比とするとともに、前記第二差動歯車装置において、第一回転要素を支点として第三回転要素のトルクが第二回転要素に伝達される際のトルク変換比を第二増幅比とし、第一回転要素を支点として第二回転要素のトルクが第三回転要素に伝達される際のトルク変換比を第二減衰比とした場合に、前記第一減衰比に前記第二増幅比を乗算して得られるトルク変換比が、前記第一増幅比よりもトルク増幅側の値となり、前記第一増幅比に前記第二減衰比を乗算して得られるトルク変換比が、前記第一減衰比よりもトルク減衰側の値となるように設定されていると好適である。
この構成によれば、第一クラッチ、第四クラッチ、及びブレーキの係合状態で実現される第二トルクスプリットモードが、第一クラッチ、第三クラッチ、及び第四クラッチの係合状態で実現される第一トルクコンバータモードよりも入力部材(エンジン)のトルクを増幅して出力部材に伝達するモードとなる。また、第二クラッチ、第三クラッチ、及びブレーキの係合状態で実現される第二トルクコンバータモードが、第一クラッチ、第二クラッチ、及び第三クラッチの係合状態で実現される第一トルクスプリットモードよりも入力部材(エンジン)のトルクを減衰して出力部材に伝達するモードとなる。従って、各モードを適切に実現できるように第一差動歯車装置及び第二差動歯車装置を設定することができる。
また、前記第一差動歯車装置は、サンギヤ、キャリヤ、及びリングギヤの3つの回転要素をそれぞれ備えたシングルピニオン型の第一遊星歯車機構とダブルピニオン型の第二遊星歯車機構とで構成され、前記第一差動歯車装置の第一回転要素は前記第一遊星歯車機構のサンギヤで構成され、前記第一差動歯車装置の第二回転要素は前記第二遊星歯車機構のサンギヤで構成され、前記第一差動歯車装置の第三回転要素は互いに一体回転するように駆動連結された前記第一遊星歯車機構のキャリヤ及び前記第二遊星歯車機構のリングギヤで構成され、前記第一差動歯車装置の第四回転要素は互いに一体回転するように駆動連結された前記第一遊星歯車機構のリングギヤ及び前記第二遊星歯車機構のキャリヤで構成され、前記第二差動歯車装置は、サンギヤ、キャリヤ、及びリングギヤの3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の第三遊星歯車機構で構成され、前記第二差動歯車装置の第一回転要素は前記第三遊星歯車機構のリングギヤで構成され、前記第二差動歯車装置の第二回転要素は前記第三遊星歯車機構のキャリヤで構成され、前記第二差動歯車装置の第三回転要素は前記第三遊星歯車機構のサンギヤで構成されていると好適である。
この構成によれば、3つの遊星歯車機構の各回転要素を適切に駆動連結し、4つの回転要素を有する第一差動歯車装置及び3つの回転要素を有する第二差動歯車装置を構成することができるとともに、各回転要素に入力部材、出力部材、第一回転電機、及び第二回転電機を駆動連結してハイブリッド駆動装置を構成することができる。
まず、本発明の第一の実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図であるが、この図では中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。また、図2に示すハイブリッド駆動装置Hのシステム構成を示す模式図では、実線の矢印は各種情報の伝達経路を示し、破線は電力の伝達経路を示し、白抜きの矢印は油圧の伝達経路を示している。
図1に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンEに駆動連結される入力軸Iと、車輪W(図2参照)に駆動連結される出力軸Oと、第一回転電機MG1と、第二回転電機MG2と、第一差動歯車装置G1と、第二差動歯車装置G2と、を備えている。第二回転電機MG2は、第一差動歯車装置G1を介さずに出力軸Oに駆動連結されている。また、本実施形態においては、第一差動歯車装置G1は、第一遊星歯車機構PG1と第二遊星歯車機構PG2とを組み合わせて構成されており、第二差動歯車装置G2は第三遊星歯車機構PG3により構成されている。これらのハイブリッド駆動装置Hの各構成は、車両に固定される非回転部材としてのケースDc内に収納されている。そして、第一差動歯車装置G1の各回転要素に対する入力軸I、出力軸O、及び第一回転電機MG1の駆動連結関係を切り替えることにより、トルクコンバータモードとトルクスプリットモードとの2つの基本モードが切り替えられる。更に、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを第二差動歯車装置G2により増幅又は減衰して出力軸Oに伝達する。これにより、このハイブリッド駆動装置Hは、トルクスプリット低速モード、トルクコンバータ基準モード、トルクスプリット基準モード、及びトルクコンバータ高速モードを、入力軸Iから伝達されるトルクが出力軸Oに伝達されるまでの総トルク変換比の順に切り替え可能に備えている。なお、本実施形態においては、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。以下、このハイブリッド駆動装置Hの各部の構成について詳細に説明する。
1.ハイブリッド駆動装置の機械的構成
まず、ハイブリッド駆動装置Hの各部の機械的構成について説明する。図1に示すように、入力軸Iは、エンジンEに駆動連結される。ここで、エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、入力軸Iは、エンジンEのクランクシャフト等の出力回転軸と一体回転するように駆動連結されている。なお、入力軸Iが、エンジンEの出力回転軸に対して、ダンパ、クラッチ、トルクコンバータ等の他の部材を介して駆動連結された構成としても好適である。本実施形態においては、入力軸IはエンジンEの出力回転軸と一体的に回転するため、入力軸Iの回転はエンジンEの回転と同じであり、エンジンEのトルクが入力軸Iのトルクとなる。
出力軸Oは、図2に示すように、出力用差動歯車装置DFを介して車輪W(駆動輪)に駆動連結されている。本実施形態においては、出力軸Oは、入力軸Iと同軸上に配置されている。更には、図1に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンE、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2、第一差動歯車装置G1、及び第二差動歯車装置G2が、入力軸Iと同軸上に配置されており、全体が同軸配置された一軸構成とされている。
第一回転電機MG1は、ケースDcに固定されたステータSt1と、このステータSt1の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo1と、を有している。第一回転電機MG1のロータRo1は、第一差動歯車装置G1を構成する第一遊星歯車機構PG1の第一サンギヤs1と一体回転するように駆動連結されている。また、第二回転電機MG2は、ケースDcに固定されたステータSt2と、このステータSt2の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo2と、を有している。第二回転電機MG2のロータRo2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されている。
図2に示すように、第一回転電機MG1は第一インバータ22を介して、第二回転電機MG2は第二インバータ23を介して、それぞれバッテリ21に電気的に接続されている。そして、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、それぞれ電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果すことが可能とされている。後述するように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、それぞれ回転方向とトルクの向きとの関係に応じてモータ又はジェネレータとして機能する。そして、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、ジェネレータとして機能する場合には、発電した電力をバッテリ21に供給して充電し、或いは当該電力をモータとして機能する他方の回転電機MG1、MG2に供給して力行させる。また、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、モータとして機能する場合には、バッテリ21に充電され、或いはジェネレータとして機能する他方の回転電機MG1、MG2により発電された電力の供給を受けて力行する。そして、第一回転電機MG1の動作制御は、主制御ユニット31からの制御指令に従って第一回転電機制御ユニット33及び第一インバータ22を介して行われ、第二回転電機MG2の動作制御は、主制御ユニット31からの制御指令に従って第二回転電機制御ユニット34及び第二インバータ23を介して行われる。なお、バッテリ21は、蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。
本実施形態においては、ハイブリッド駆動装置Hは、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の2つの差動歯車装置を備えている。第一差動歯車装置G1は第一遊星歯車機構PG1と第二遊星歯車機構PG2とを組み合わせて構成され、4つの回転要素を備えている。そして、第一差動歯車装置G1は、当該4つの回転要素に対する入力軸I、出力軸O、及び第一回転電機MG1の駆動連結関係を切り替えることにより、トルクコンバータモードとトルクスプリットモードとの2つの基本モードの切り替えを行う基本モード切替用の差動歯車装置として機能する。また、第二差動歯車装置G2は第三遊星歯車機構PG3により構成され、3つの回転要素を備えている。そして、第二差動歯車装置G2は、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTM(図4〜図12参照)を増幅又は減衰して出力軸Oに伝達するトルク増減用の差動歯車装置として機能する。なお、本実施形態においては、第二回転電機MG2は、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の双方を介することなく出力軸Oに駆動連結されている。以下、各差動歯車装置G1、G2を構成する各遊星歯車機構PG1〜PG3のそれぞれの構成について図1に基づいて詳細に説明する。
第一差動歯車装置G1を構成する第一遊星歯車機構PG1は、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第一遊星歯車機構PG1は、複数のピニオンギヤを支持する第一キャリヤca1と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第一サンギヤs1及び第一リングギヤr1とを回転要素として有している。第一サンギヤs1は、第一回転電機MG1のロータRo1と一体回転するように駆動連結されている。第一キャリヤca1は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されているとともに、第二遊星歯車機構PG2の第二リングギヤr2と一体回転するように駆動連結されている。第一リングギヤr1は、第二遊星歯車機構PG2の第二キャリヤca2と一体回転するように駆動連結されているとともに、第一クラッチC1を介して第三遊星歯車機構PG3の第三サンギヤs3と選択的に駆動連結される。
第一差動歯車装置G1を構成する第二遊星歯車機構PG2は、3つの回転要素を備えたダブルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第二遊星歯車機構PG2は、複数対のピニオンギヤを支持する第二キャリヤca2と、一対のピニオンギヤの一方に噛み合う第二サンギヤs2と、一対のピニオンギヤの他方に噛み合う第二リングギヤr2とを回転要素として有している。第二サンギヤs2は、第三クラッチC3を介して第三遊星歯車機構PG3の第三キャリヤca3と選択的に駆動連結される。第二リングギヤr2は、第一遊星歯車機構PG1の第一キャリヤca1及び入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。第二キャリヤca2は、第一遊星歯車機構PG1の第一リングギヤr1と一体回転するように駆動連結されているとともに、第一クラッチC1を介して第三遊星歯車機構PG3の第三サンギヤs3と選択的に駆動連結される。
第一差動歯車装置G1は、第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2がそれぞれの有する3つの回転要素のうち、2つずつを互いに一体回転するように接続することにより、全体として4つの回転要素を備えて一体的に動作するように構成されている。これら4つの回転要素を、回転速度の順に第一回転要素e1、第二回転要素e2、第三回転要素e3、及び第四回転要素e4とする。本実施形態においては、第一サンギヤs1が第一回転要素e1に相当し、第二サンギヤs2が第二回転要素e2に相当し、互いに一体回転する第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2が第三回転要素e3に相当し、互いに一体回転する第一リングギヤr1及び第二キャリヤca2が第四回転要素e4に相当する。そして、第一回転要素e1としての第一サンギヤs1が第一回転電機MG1に駆動連結された第一回転電機連結要素E1となっている。また、第三回転要素e3としての第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなっている。そして、第二回転要素e2としての第二サンギヤs2と、第四回転要素e4としての第一リングギヤr1及び第二キャリヤca2とのいずれか一方が選択的に、第三遊星歯車機構PG3(第二差動歯車装置G2)及び複数のクラッチC1〜C4を介して出力軸Oに駆動連結される出力回転要素Eoとなる。
第二差動歯車装置G2としての第三遊星歯車機構PG3は、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第三遊星歯車機構PG3は、複数のピニオンギヤを支持する第三キャリヤca3と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第三サンギヤs3及び第三リングギヤr3とを回転要素として有している。第三リングギヤr3は、ブレーキBにより非回転部材としてのケースDcに選択的に固定される。第三キャリヤca3は、第三クラッチC3を介して第二遊星歯車機構PG2の第二サンギヤs2と選択的に駆動連結されるとともに、第四クラッチC4を介して出力軸Oと選択的に駆動連結される。第三サンギヤs3は、第一クラッチC1を介して第一遊星歯車機構PG1の第一リングギヤr1及び第二遊星歯車機構PG2の第二キャリヤca2と選択的に駆動連結されるとともに、第二クラッチC2を介して出力軸Oと選択的に駆動連結される。これらの第三遊星歯車機構PG3の3つの回転要素は、回転速度の順に、第三リングギヤr3、第三キャリヤca3、第三サンギヤs3となっている。従って、本実施形態においては、第三リングギヤr3、第三キャリヤca3、第三サンギヤs3が、それぞれ第三遊星歯車機構PG3の第一回転要素e1、第二回転要素e2、第三回転要素e3となっている。
上記のとおり、このハイブリッド駆動装置Hは、係合要素として、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第四クラッチC4、及びブレーキBを備えている。これらの係合要素としては、いずれも油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキ等の摩擦係合要素を用いることができる。図2に示すように、これらの係合要素C1、C2、C3、C4、Bへは、主制御ユニット31からの制御指令により動作する油圧制御装置35から油圧が供給され、当該油圧により各係合要素C1、C2、C3、C4、Bの係合又は解放が制御される。この油圧制御装置35へは、図示しないオイルポンプにより発生した油圧が供給される。
2.ハイブリッド駆動装置の制御システムの構成
図2に示すように、ハイブリッド駆動装置Hは、装置の各部を制御するための主制御ユニット31を備えている。主制御ユニット31は、エンジン制御ユニット32、第一回転電機制御ユニット33、第二回転電機制御ユニット34、及び油圧制御装置35との間で、相互に情報伝達が可能な状態で接続されている。エンジン制御ユニット32は、エンジンEの各部を制御することにより、エンジンEが所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。第一回転電機制御ユニット33は、第一インバータ22を制御することにより、第一回転電機MG1が所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。第二回転電機制御ユニット34は、第二インバータ23を制御することにより、第二回転電機MG2が所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。油圧制御装置35は、図示しないオイルポンプから供給される油圧を調整し、各係合要素C1、C2、C3、C4、Bに分配供給することにより、各係合要素の係合又は解放を制御する。このような各係合要素の係合又は解放は、主制御ユニット31からの制御指令に基づいて行われる。
また、主制御ユニット31は、ハイブリッド駆動装置Hを搭載する車両の各部の情報を取得するために、車両の各部に設けられたセンサ等からの情報を取得可能に構成されている。図示の例では、主制御ユニット31は、バッテリ状態検出センサSe1、車速センサSe2、アクセル操作検出センサSe3、及びブレーキ操作検出センサSe4からの情報を取得可能に構成されている。バッテリ状態検出センサSe1は、バッテリ21の充電量等の状態を検出するためのセンサであり、例えば電圧センサや電流センサ等により構成される。車速センサSe2は、車速を検出するために出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。アクセル操作検出センサSe3は、アクセルペダル24の操作量を検出するためのセンサである。ブレーキ操作検出センサSe4は、図示しないホイールブレーキに連動するブレーキペダル25の操作量を検出するためのセンサである。
主制御ユニット31は、各センサSe1〜Se4で取得される情報を用いて、後述する複数の動作モードの選択を行う。そして、主制御ユニット31は、油圧制御装置35を介して、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第四クラッチC4、及びブレーキBの係合状態を制御することにより、動作モードの切り替えを行う。また、主制御ユニット31は、エンジン制御ユニット32、第一回転電機制御ユニット33、及び第二回転電機制御ユニット34を介して、エンジンE、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2の動作状態を協調制御することにより、選択された動作モードに応じて適切な車両の走行が行われるようにする。
本実施形態では、主制御ユニット31は、各種制御を実行するための機能部として、バッテリ状態検出部41、モード選択部42、切替制御部43を備えている。主制御ユニット31が備えるこれらの各手段は、CPU等の演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うための機能部がハードウエア又はソフトウエア(プログラム)或いはその両方により実装されて構成されている。また、主制御ユニット31は、記憶部44を備えており、この記憶部44内には、車速及び要求駆動力に応じて動作モードを決定するために用いられる制御マップ45が格納されている。
バッテリ状態検出部41は、バッテリ状態検出センサSe1から出力される電圧値や電流値等の情報に基づいて、バッテリ21の充電量等のバッテリ状態を推定して検出する。ここで、バッテリ充電量は、一般にSOC(state of charge:充電状態)と呼ばれるものであり、例えば、バッテリ21の充電容量に対する充電残量の比率として求められる。
モード選択部42は、車両の各部の状態に応じて、所定の制御マップに従い適切な動作モードの選択を行う。本実施形態においては、モード選択部42は、車速及び要求駆動力などの走行条件に応じて、後述する4つの動作モードの中から適切な動作モードを選択する。各動作モードの内容については、後で詳細に説明する。ここで、要求駆動力は、運転者が車両に対して要求する駆動力を表す値であり、アクセル操作検出センサSe3及びブレーキ操作検出センサSe4からの出力に基づいて、モード選択部42が演算して取得する。車速は、車速センサSe2により検出する。なお、モード選択の際に参照される走行条件としては、車速及び要求駆動力の他にも、バッテリ充電量、冷却水温度、油温等の各種条件を用いても好適である。
切替制御部43は、モード選択部42により選択された動作モードに応じて油圧制御装置35の動作を制御することにより、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第四クラッチC4、及びブレーキBのそれぞれの係合又は解放を行う。これにより、切替制御部43は、ハイブリッド駆動装置Hの動作モードを切り替える制御を行う。
3.切り替え可能に備えられる複数のモード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能なモードについて説明する。図3は、各モードでの各係合要素C1、C2、C3、C4、Bの作動状態を示す作動表である。この図において、「○」は各係合要素が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各係合要素が解放(係合解除)状態にあることを示している。本実施形態においては、トルクコンバータ基準モードが本発明における「第一トルクコンバータモード」に相当し、トルクスプリット基準モードが本発明における「第一トルクスプリットモード」に相当し、トルクスプリット低速モードが本発明における「第二トルクスプリットモード」に相当し、トルクコンバータ高速モードが本発明における「第二トルクコンバータモード」に相当する。図3に示されている4つのモードの配列は、総トルク変換比の順となっており、総トルク変換比が大きい側(図3の上側)から小さい側(図3の下側)へ向かって、トルクスプリット低速モード、トルクコンバータ基準モード、トルクスプリット基準モード、トルクコンバータ高速モードの順となっている。なお、総トルク変換比は、入力回転要素Ei(第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2)に伝達される入力軸Iのトルクである入力トルクTEが出力軸Oに伝達されるまでの総合的なトルク変換比であり、ここでは、出力軸Oに伝達されたトルクを入力トルクTEにより除算した値とする。
図4〜図12は、各モードでの第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の動作状態を表す速度線図である。これらの速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正回転(回転速度が正)、下側が負回転(回転速度が負)である。また、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、第一差動歯車装置G1を構成する第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2、並びに第二差動歯車装置G2を構成する第三遊星歯車機構PG3の各回転要素に対応している。そして、これらの図において、実線で示される直線が第一差動歯車装置G1の動作状態を示し、破線で示される直線が第二差動歯車装置G2の動作状態を示している。これらの速度線図上において、「○」は第一回転電機MG1の回転速度、「△」は入力軸I(エンジンE)の回転速度、「☆」は出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度、「×」はブレーキBによるケースDcへの固定状態をそれぞれ示している。なお、各縦線の上側に記載されている四角形で囲まれた「E1」、「Ei」、「Eo」は、それぞれ、各モードにおける第一回転電機連結要素E1、入力回転要素Ei、出力回転要素Eoを示している。
図4〜図12において、各回転要素の回転速度を示す点に隣接配置された矢印は、各動作モードでの通常の走行時に各回転要素に作用するトルクの向きを示しており、上向き矢印が正方向のトルクを表し、下向き矢印が負方向のトルクを表している。そして、「TE」はエンジンEから入力軸Iを介して入力回転要素Eiとしての第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2に伝達される入力トルクTE、「T1」は第一回転電機MG1から第一回転電機連結要素E1としての第一サンギヤs1に伝達されるMG1トルクT1、「T2」は第二回転電機MG2から出力軸Oに伝達されるMG2トルクT2、「TO」は車輪W側から出力軸Oに伝達される走行抵抗TOを示している。また、「TM」は各モードにおいて第一差動歯車装置G1側から出力回転要素Eoとなる回転要素に伝達されるトルク中間出力トルクTMを示している。
本実施形態においては、トルクコンバータ基準モード及びトルクコンバータ高速モードを含むトルクコンバータモードと、トルクスプリット基準モード及びトルクスプリット低速モードを含むトルクスプリットモードとの2つの基本モードの切り替えは、第一差動歯車装置G1により行う。図6、図7、図11、及び図12に示すように、トルクコンバータモードは、第一差動歯車装置G1が備える4つの回転要素の内の3つの回転要素に対する、入力軸I、出力軸O、及び第一回転電機MG1の駆動連結関係に関して、回転速度の順が、第一回転電機MG1に駆動連結された第一回転電機連結要素E1、出力軸Oに駆動連結された出力回転要素Eo、入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiの順となるように駆動連結し、入力回転要素Eiに伝達される入力軸Iのトルクである入力トルクTEに対して増幅された中間出力トルクTMを出力回転要素Eoに伝達するモードである。また、トルクスプリットモードは、同様の駆動連結関係に関して、回転速度の順が、第一回転電機MG1に駆動連結された第一回転電機連結要素E1、入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Ei、出力軸Oに駆動連結された出力回転要素Eoの順となるように駆動連結し、入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEに対して減衰された中間出力トルクTMを出力回転要素Eoに伝達するモードである。
これらのトルクコンバータモード及びトルクスプリットモードは、いずれも、第一回転電機MG1から第一回転電機連結要素E1に伝達されるMG1トルクT1を反力として入力軸I(エンジンE)から入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEを出力回転要素Eoに伝達しつつ、反力受けとして機能する第一回転電機MG1の回転速度を変化させることにより、入力軸Iの回転速度を無段階に変速して出力回転要素Eoに伝達することができる。但し、トルクコンバータモードとトルクスプリットモードとでは、第一差動歯車装置G1の回転要素に対する駆動連結関係が異なるため、出力回転要素Eoに伝達される入力トルクTEが出力回転要素Eoに伝達される際のトルク変換比が異なるとともに、反力トルクとしてのMG1トルクT1の向きが異なる。なお、出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMは、第二差動歯車装置G2を介して出力軸Oに伝達される。第二回転電機MG2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されており、出力軸OにMG2トルクT2を常時伝達可能に構成されている。この第二回転電機MG2は、基本的には、第一差動歯車装置G1側から出力軸Oへ伝達されるトルクを補助する補助回転電機として機能する。また、車両の減速時には第二回転電機MG2は回生制動を行うが、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されているので、当該回生制動も効率的に行うことができる。
図4〜図12において、各回転要素に対応する縦線の間隔は、第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3のそれぞれの歯数比に対応している。ところで、上記のとおり、第一差動歯車装置G1は、トルクコンバータモードとトルクスプリットモードとの2つの基本モードの切り替えを行う基本モード切替用の差動歯車装置として機能し、第二差動歯車装置G2は、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを増幅又は減衰して出力軸Oに伝達するトルク増減用の差動歯車装置として機能する。そこで、図4〜図12の下部には、それらの機能を実現するための各差動歯車装置G1、G2の歯数比として、第一差動歯車装置G1のトルクスプリットモード用歯数比λs及びトルクコンバータモード用歯数比λt、並びに第二差動歯車装置G2の増減速用歯数比λuを示している。
トルクスプリットモード用歯数比λsは、第一差動歯車装置G1においてトルクスプリットモードを実現した状態で入力トルクTEが出力回転要素Eoに伝達される際のトルク変換比を決定する歯数比であり、ここでは、第一遊星歯車機構PG1の第一サンギヤs1と第一リングギヤr1との歯数比=〔第一サンギヤs1の歯数〕/〔第一リングギヤr1の歯数〕に等しい。トルクコンバータモード用歯数比λtは、第一差動歯車装置G1においてトルクコンバータモードを実現した状態で入力トルクTEが出力回転要素Eoに伝達される際のトルク変換比を決定する歯数比であり、第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2の双方の歯数比の関係により定まる。ここでは、トルクコンバータモード用歯数比λtは、第二サンギヤs2の回転速度をゼロとした場合における第一サンギヤs1の回転速度に対する第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2の回転速度の比=〔第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2の回転速度〕/〔第一サンギヤs1の回転速度〕に等しい値としている。増減速用歯数比λuは、第二差動歯車装置G2において出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを増幅又は減衰する際のトルク変換比を決定する歯数比であり、ここでは、第三遊星歯車機構PG3の第三サンギヤs3と第三リングギヤr3との歯数比=〔第三サンギヤs3の歯数〕/〔第三リングギヤr3の歯数〕に等しい。
トルクスプリットモード用歯数比λs、トルクコンバータモード用歯数比λt、及び増減速用歯数比λuは、上述した4つのモードを適切に実現できるように、各モードを実現した状態で所定のトルク変換比を実現するように設定される。ここで、本願において「トルク変換比」は、入力側の回転要素に伝達されたトルクが出力側の回転要素に伝達された際に変換されるトルクの比であり、ここでは、トルク変換比=〔出力側の回転要素に伝達されたトルク〕/〔入力側の回転要素に伝達されたトルク〕とする。よって、トルク変換比の値が1より大きければトルクは増幅して出力され、トルク変換比の値が1より小さければトルクは減衰して出力される。
ここで、第一差動歯車装置G1において、トルクコンバータモード(トルクコンバータ基準モード又はトルクコンバータ高速モード)を実現した状態で入力トルクTEが出力回転要素Eoに伝達される際のトルク変換比を第一増幅比R1aとする。この第一増幅比R1aは、第一差動歯車装置G1において、第一回転電機連結要素E1としての第一サンギヤs1(第一回転要素e1)を支点とし、入力回転要素Eiとしての第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2(第三回転要素e3)に伝達された入力トルクTEが、出力回転要素Eoとしての第二サンギヤs2(第二回転要素e2)に伝達される際のトルク変換比(=〔中間出力トルクTM〕/〔入力トルクTE〕)である。図6、図7、図11、図12に示す速度線図から明らかなように、このとき入力トルクTEは、(1+λt)倍されて出力回転要素Eoとしての第二サンギヤs2に伝達される。よって、このときの出力回転要素Eoに伝達される中間出力トルクTMは、TM=(1+λt)TEとなる。
従って、第一増幅比R1aは、
R1a=1+λt・・・(1)
となる。
一方、第一差動歯車装置G1において、トルクスプリットモード(トルクスプリット基準モード又はトルクスプリット低速モード)を実現した状態で入力トルクTEが出力回転要素Eoに伝達される際のトルク変換比を第一減衰比R1bとする。この第一減衰比R1bは、第一差動歯車装置G1において、第一回転電機連結要素E1としての第一サンギヤs1(第一回転要素e1)を支点とし、入力回転要素Eiとしての第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2(第三回転要素e3)に伝達された入力トルクTEが、出力回転要素Eoとしての第一リングギヤr1及び第二キャリヤca2(第四回転要素e4)に伝達される際のトルク変換比(=〔中間出力トルクTM〕/〔入力トルクTE〕)である。図4、図5、図8、及び図9に示す速度線図から明らかなように、このとき入力トルクTEは、1/(1+λs)倍されて出力回転要素Eoとしての第一リングギヤr1及び第二キャリヤca2に伝達される。よって、このときの出力回転要素Eoに伝達される中間出力トルクTMは、TM=1/(1+λs)TEとなる。
従って、第一減衰比R1bは、
R1b=1/(1+λs)・・・(2)
となる。
また、第二差動歯車装置G2において、出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMが増幅されて出力軸Oに伝達される際のトルク変換比を第二増幅比R2aとする。本実施形態では、トルクスプリット低速モードを実現する際に第二差動歯車装置G2は出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを増幅して出力軸Oに伝達する。ここでは、このように出力軸Oに伝達されるトルクを「総出力トルク」という。第二増幅比R2aは、第二差動歯車装置G2において、第三リングギヤr3(第一回転要素e1)を支点とし、第三サンギヤs3(第三回転要素e3)に伝達された中間出力トルクTMが第三キャリヤca3(第二回転要素e2)に伝達される際のトルク変換比(=〔総出力トルク〕/〔中間出力トルクTM〕)である。図4及び図5に示す速度線図から明らかなように、このとき中間出力トルクTMは、(1+λu)/λu倍されて第三キャリヤca3を介して出力軸Oに伝達される。よって、このときの出力軸Oに伝達される総出力トルクは、{(1+λu)/λu}・TMとなる。
従って、第二増幅比R2aは、
R2a=(1+λu)/λu・・・(3)
となる。
一方、第二差動歯車装置G2において、出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMが減衰されて出力軸Oに伝達される際のトルク変換比を第二減衰比R2bとする。本実施形態では、トルクコンバータ高速モードを実現する際に第二差動歯車装置G2は出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを減衰して出力軸Oに伝達する。第二減衰比R2bは、第二差動歯車装置G2において、第三リングギヤr3(第一回転要素e1)を支点とし、第三キャリヤca3(第二回転要素e2)に伝達された中間出力トルクTMが第三サンギヤs3(第三回転要素e3)に伝達される際のトルク変換比(=〔総出力トルク〕/〔中間出力トルクTM〕)である。図11及び図12に示す速度線図から明らかなように、このとき中間出力トルクTMは、λu/(1+λu)倍されて第三サンギヤs3を介して出力軸Oに伝達される。よって、このときの出力軸Oに伝達される総出力トルクは、{λu/(1+λu)}・TMとなる。
従って、第二減衰比R2bは、
R2b=λu/(1+λu)・・・(4)
となる。
本実施形態においては、トルクコンバータ基準モード及びトルクスプリット基準モードにおいて、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを出力軸Oに伝達する際のトルク変換比である基準トルク変換比を「1」としている。従って、トルクコンバータ基準モード及びトルクスプリット基準モードでは、第一差動歯車装置G1から出力された中間出力トルクTMがそのまま出力軸Oに伝達される。従って、トルクコンバータ基準モードにおける総トルク変換比は第一増幅比R1aに等しくなり、トルクスプリット基準モードにおける総トルク変換比は第一減衰比R1bに等しくなる。一方、トルクスプリット低速モード及びトルクコンバータ高速モードでは、第一差動歯車装置G1から出力された中間出力トルクTMが、第二差動歯車装置G2により増幅又は減衰されて出力軸Oに伝達される。従って、トルクスプリット低速モードにおける総トルク変換比は第一減衰比R1bに第二増幅比R2aを乗算して得られる値に等しくなり、トルクコンバータ高速モードにおける総トルク変換比は第一増幅比R1aに第二減衰比R2bを乗算して得られる値に等しくなる。
そこで、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2は、トルクスプリット低速モードにおける総トルク変換比(=〔第一減衰比R1b〕×〔第二増幅比R2a〕)が、トルクコンバータ基準モードにおける総トルク変換比(第一増幅比R1a)よりも大きい値(トルク増幅側の値)となるとともに、トルクコンバータ高速モードにおける総トルク変換比(=〔第一増幅比R1a〕×〔第二減衰比R2b〕)がトルクスプリット基準モードにおける総トルク変換比(第一減衰比R1b)よりも小さい値(トルク減衰側の値)となるように設定されている。すなわち、これらのトルク変換比は、以下の式(5)及び(6)の双方を満たすように設定される。
R1b×R2a>R1a・・・(5)
R1a×R2b<R1b・・・(6)
なお、これらの式(5)及び(6)のそれぞれに上記式(1)〜(4)を代入すると、以下の式(7)及び(8)となる。従って、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の各回転要素の歯数比は、これらの式(7)及び(8)の双方を満たすように設定される。
(1+λu)/{λu・(1+λs)}>(1+λt) ・・・(7)
{(1+λt)・λu}/(1+λu)<{1/(1+λs)}・・・(8)
ところで、第一増幅比R1aが第一減衰比R1bよりも大きい値となることは明らかであるので、上記式(5)及び(6)の双方が満たされる場合、以下の式(9)が満たされることになる。
R1a×R2b<R1b<R1a<R1b×R2a・・・(9)
従って、このように第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2を設定した場合には、ハイブリッド駆動装置Hが実現可能な4つのモードは、トルク変換比が大きい側から小さい側へ向かって、トルクスプリット低速モード、トルクコンバータ基準モード、トルクスプリット基準モード、トルクコンバータ高速モードの順となる。従って、このハイブリッド駆動装置Hでは、総トルク変換比の順にこれら4つのモードを切り替えて車両を走行させることができる。
この際、総トルク変換比の順で隣接する2つのモード間のトルク変換比のステップ(倍率)が、他のモード間のトルク変換比のステップと略均等となるように設定されていると好適である。具体的には、トルクスプリット低速モードとトルクコンバータ基準モードとの間のトルク変換比のステップ、トルクコンバータ基準モードとトルクスプリット基準モードとの間のトルク変換比のステップ、トルクスプリット基準モードとトルクコンバータ高速モードとの間のトルク変換比のステップが、互いに略均等な値となるように設定されていると好適である。例えば、第一増幅比R1aが約「1.38」、第一減衰比R1bが約「0.7」となるように第一差動歯車装置G1の各回転要素の歯数比を設定し、第二増幅比R2aが約「3.89」、第二増幅比R2aの逆数となる第二減衰比R2bが約「0.26」となるように第二差動歯車装置G2の各回転要素の歯数比を設定すると好適である。この場合、トルクスプリット低速モードの総トルク変換比が約「2.72」、トルクコンバータ基準モードの総トルク変換比が約「1.38」、トルクスプリット基準モードの総トルク変換比が約「0.7」、トルクコンバータ高速モードの総トルク変換比が約「0.355」となる。したがって、各モード間のトルク変換比のステップがいずれも約「1.97」となる。これにより、各モード間での出力軸Oに伝達される駆動力の変化の程度を適切なものとすることができ、幅広い出力軸Oの回転速度域にわたって適切な駆動力を出力できる。以下、各モードでのハイブリッド駆動装置Hの動作状態について詳細に説明する。
4.トルクスプリット低速モード
トルクスプリット低速モードは、上述したトルクスプリットモードの一つであって、後述するトルクコンバータ基準モードよりも入力トルクTEを増幅して出力軸Oに伝達するモードである。そこで、トルクスプリット低速モードでは、総トルク変換比がトルクコンバータ基準モードよりも大きくなるように、第一差動歯車装置G1により入力トルクTEに対して減衰されて出力回転要素Eoに伝達される中間出力トルクTMを、第二差動歯車装置G2により増幅して出力軸Oに伝達する。図3に示すように、トルクスプリット低速モードは、第一クラッチC1、第四クラッチC4、及びブレーキBを係合状態とすると共に第二クラッチC2及び第三クラッチC3を解放状態とすることにより実現される。図1を参照すれば明らかなように、第一クラッチC1が係合されることによって第一差動歯車装置G1の第一リングギヤr1及び第二キャリヤca2が出力回転要素Eoとなり、第四クラッチC4及びブレーキBが係合されることによって出力回転要素Eoの回転が第二差動歯車装置G2により減速されて出力軸Oに伝達される状態となる。このトルクスプリット低速モードでは、第一回転電機MG1は全域において負方向のMG1トルクT1を反力トルクとして出力する。
トルクスプリット低速モードでは、図4及び図5に直線G1として示すように、第一差動歯車装置G1の4つの回転要素のうち、第一回転要素e1、第三回転要素e3、及び第四回転要素e4の3つの回転要素を実質的に用いる。そして、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2(第三回転要素e3)が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなっている。更に、この入力回転要素Eiに対して、回転速度の順で一方側となる第一リングギヤr1及び第二キャリヤca2(第四回転要素e4)が第二差動歯車装置G2を介して出力軸Oに駆動連結された出力回転要素Eoとなり、回転速度の順で他方側となる第一サンギヤs1(第一回転要素e1)が第一回転電機MG1に駆動連結された第一回転電機連結要素E1となっている。この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして入力回転要素Eiに伝達される。また、第一回転電機MG1は、トルクスプリット低速モードの全域で負方向のMG1トルクT1を発生させ、入力トルクTEの反力受けとして機能する。これにより、第一差動歯車装置G1は、入力トルクTEを出力回転要素Eoと第一回転電機MG1とに分配し、MG1トルクT1を反力として入力トルクTEに対して減衰した中間出力トルクTMを出力回転要素Eoに伝達する。上記のとおり、第一差動歯車装置G1は、入力トルクTEを1/(1+λs)倍(=第一減衰比R1b)に減衰して出力回転要素Eoに伝達する。
トルクスプリット低速モードでは、第二差動歯車装置G2は、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eo(第一リングギヤr1及び第二キャリヤca2)の回転を減速して出力軸Oに伝達するとともに、出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを増幅して出力軸Oに伝達する。すなわち、第二差動歯車装置G2は、図4及び図5に直線G2として示すように、回転速度の順で中間となる第三キャリヤca3に第四クラッチC4を介して出力軸O及び第二回転電機MG2が駆動連結される。そして、回転速度の順で一方側となる第三リングギヤr3がブレーキBによりケースDcに固定され、回転速度の順で他方側となる第三サンギヤs3に第一クラッチC1を介して第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoが駆動連結される。このため、第三キャリヤca3に駆動連結された出力軸Oには、第三サンギヤs3に駆動連結された第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoの回転が減速されて伝達される。したがって、第二差動歯車装置G2は、出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを増幅して出力軸Oに伝達する。上記のとおり、第二差動歯車装置G2は、中間出力トルクTMを(1+λu)/λu倍(=第二増幅比R2a)に増幅して出力軸Oに伝達する。
トルクスプリット低速モードでは、第一回転電機MG1は、負方向のMG1トルクT1を出力して第一回転電機連結要素E1としての第一サンギヤs1に伝達する。このように伝達される第一回転電機MG1からのMG1トルクT1が、入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEに対する反力となる。そして、トルクスプリット低速モードでは、第一回転電機MG1は、負方向のMG1トルクT1を常に出力する。そして、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)を含む低速走行時には、図4に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正となっている。その後、出力軸Oの回転速度(車速)が次第に上昇するに従って、第一回転電機MG1の回転速度は下降する。そして、図5に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点を通過し、図6に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負となってからトルクコンバータ基準モードへの切り替えが行われる。第一回転電機MG1は、回転速度が正の状態ではジェネレータとして機能して発電を行い、回転速度が負の状態ではモータとして機能して力行する。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない点となっている。本実施形態では、この点を便宜上「無電気変換点」という。
また、このトルクスプリット低速モードでは、第二回転電機MG2は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力することにより、第二差動歯車装置G2を介して出力軸Oに伝達される中間出力トルクTMに対するアシストを行う。但し、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じて負方向のMG2トルクT2を出力する場合もある。すなわち、本実施形態では、第二回転電機MG2の回転速度は常に正となる。そして、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じた向きのMG2トルクT2を出力する。具体的には、図4に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正であって第一回転電機MG1が発電しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により発電された電力を消費してモータとして機能して力行し、正方向のトルクを出力する。また、図6に破線矢印で示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負であって第一回転電機MG1が力行しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1が消費する電力を生成するためにジェネレータとして機能して発電を行い、負方向のトルクを出力する。一方、図5に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2をゼロとする。このように、トルクスプリット低速モード中に第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態を有することにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギー効率を高めることができる。また、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2が発電又は力行する際には、一方が発電した電力を他方が消費して力行するので、ハイブリッド制御装置Hの全体での電力収支を基本的にゼロとすることができる。よって、蓄電装置としてのバッテリ11の充電状態が大きく変動しない状態とすることができるので、長時間にわたってトルクスプリット低速モードを実行することが可能となる。上記のとおり、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から次第に上昇する際には、第一回転電機MG1の回転速度は正からゼロを経て負に変化する。従って、第二回転電機MG2は、正方向のトルクを出力する状態からトルクゼロの状態を経て負方向のトルクを出力する状態に変化する。
上記のとおり、トルクスプリット低速モードにおいて、入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEが出力軸Oに伝達されるまでの総トルク変換比は、第一減衰比R1bに第二増幅比R2aを乗算して得られる値に等しい。従って、トルクスプリット低速モードの総トルク変換比は、下記の式(10)により求まる。
総トルク変換比=(1+λu)/{λu・(1+λs)}・・・(10)
上記のとおり、第一減衰比R1bが約「0.7」、第二増幅比R2aが約「3.89」となるように設定した場合には、トルクスプリット低速モードの総トルク変換比は約「2.72」となる。この場合、入力トルクTEは、約2.72倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。また、出力軸Oには、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2も伝達される。
以上に説明したように、トルクスプリット低速モードは、入力軸I(エンジンE)から入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEを、最も大きいトルク変換比で増幅して出力軸Oに伝達することができるため、車速が最も低い領域で使用される第一の低速用モードとして適している。本実施形態では、トルクスプリット低速モードは、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)から、出力軸O及び第三キャリヤca3の回転速度が第二サンギヤs2の回転速度に一致する状態となるまでの間で使用される。具体的には、トルクスプリット低速モードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から、第一回転電機MG1の回転速度を低下させることにより、出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度を次第に上昇させて車両を発進させる。そして、出力軸Oの回転速度が上昇し、出力軸O及び第三キャリヤca3の回転速度と第二サンギヤs2の回転速度とが一致した際に第三クラッチC3を係合してブレーキBを解放すれば、トルクスプリット低速モードからトルクコンバータ基準モードに切り替えられる。このモード切り替えは、この際に係合する第三クラッチC3の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。
5.トルクコンバータ基準モード
トルクコンバータ基準モードは、上述したトルクコンバータモードの一つであって、第一差動歯車装置G1により入力トルクTEに対して増幅して出力回転要素Eoに伝達される中間出力トルクTMを所定の基準トルク変換比で出力軸Oに伝達するモードである。本実施形態では、トルクコンバータ基準モードにおいては、出力回転要素Eoを出力軸Oと一体回転するように駆動連結する。これにより、基準トルク変換比は「1」となり、出力回転要素Eoに伝達される中間出力トルクTMはそのまま出力軸Oに伝達される。図3に示すように、トルクコンバータ基準モードは、第一クラッチC1、第三クラッチC3、及び第四クラッチC4を係合状態とすると共に第二クラッチC2及びブレーキBを解放状態とすることにより実現される。図1を参照すれば明らかなように、第三クラッチC3が係合されることによって第一差動歯車装置G1の第二サンギヤs2が出力回転要素Eoとなり、第四クラッチC4が係合されることによって出力回転要素Eoが出力軸Oと一体回転する状態となる。また、第一クラッチC1と第三クラッチC3の2つが係合状態とされることにより、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とが一体的に動作する状態となり、図6及び図7に示すように、速度線図上で第一差動歯車装置G1を表す線と第二差動歯車装置G2を表す線とが同一直線状となる。このトルクコンバータ基準モードでは、第一回転電機MG1は全域において正方向のMG1トルクT1を反力トルクとして出力する。
トルクコンバータ基準モードでは、図6及び図7に直線G1として示すように、第一差動歯車装置G1の4つの回転要素のうち、第一回転要素e1、第二回転要素e2、及び第三回転要素e3の3つの回転要素を実質的に用いる。そして、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第二サンギヤs2(第二回転要素e2)が出力軸Oに駆動連結された出力回転要素Eoとなっている。更に、この出力回転要素Eoに対して、回転速度の順で一方側となる第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2(第三回転要素e3)が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなり、回転速度の順で他方側となる第一サンギヤs1(第一回転要素e1)が第一回転電機MG1に駆動連結された第一回転電機連結要素E1となっている。この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして入力回転要素Eiに伝達される。また、第一回転電機MG1は、トルクコンバータ基準モードの全域で正方向のMG1トルクT1を発生させ、入力トルクTEの反力受けとして機能する。これにより、第一差動歯車装置G1は、入力トルクTEとMG1トルクT1とを合成し、入力トルクTEに対して増幅した中間出力トルクTMを出力回転要素Eoに伝達する。上記のとおり、第一差動歯車装置G1は、入力トルクTEを1+λt倍(=第一増幅比R1a)に増幅して出力回転要素Eoに伝達する。
トルクコンバータ基準モードでは、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoである第二サンギヤs2は、第三クラッチC3、第三キャリヤca3、及び第四クラッチC4を介して出力軸Oと一体回転する状態となる。従って、トルクコンバータ基準モードでは、第二差動歯車装置G2は、実質的に機能せず、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoの回転はそのまま出力軸Oに伝達されるとともに、出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMもそのまま出力軸Oに伝達される。
トルクコンバータ基準モードでは、第一回転電機MG1は、正方向のMG1トルクT1を出力して第一回転電機連結要素E1としての第一サンギヤs1に伝達する。このように伝達される第一回転電機MG1からのMG1トルクT1が、入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEに対する反力となる。そして、トルクコンバータ基準モードでは、第一回転電機MG1は、正方向のMG1トルクT1を常に出力する。そして、図6に示すように、出力軸Oの回転速度が比較的低速の状態では、第一回転電機MG1の回転速度は負となっている。その後、出力軸Oの回転速度(車速)が次第に上昇するに従って、第一回転電機MG1の回転速度も上昇する。そして、図7に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点を通過し、図8に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正となってからトルクスプリット基準モードへの切り替えが行われる。第一回転電機MG1は、回転速度が負の状態ではジェネレータとして機能して発電を行い、回転速度が正の状態ではモータとして機能して力行する。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない(電気変換が行われない)無電気変換点となっている。
また、このトルクコンバータ基準モードでは、第二回転電機MG2は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力することにより、出力軸Oに伝達される中間出力トルクTMに対するアシストを行う。但し、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じて負方向のMG2トルクT2を出力する場合もある。すなわち、本実施形態では、第二回転電機MG2の回転速度は常に正となる。そして、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じた向きのMG2トルクT2を出力する。具体的には、図6に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負であって第一回転電機MG1が発電しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により発電された電力を消費してモータとして機能して力行し、正方向のトルクを出力する。また、図8に破線矢印で示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正であって第一回転電機MG1が力行しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1が消費する電力を生成するためにジェネレータとして機能して発電を行い、負方向のトルクを出力する。一方、図7に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2をゼロとする。このように、トルクコンバータ基準モード中に第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態を有することにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギー効率を高めることができる。また、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2が発電又は力行する際には、一方が発電した電力を他方が消費して力行するので、ハイブリッド制御装置Hの全体での電力収支を基本的にゼロとすることができる。よって、蓄電装置としてのバッテリ11の充電状態が大きく変動しない状態とすることができるので、長時間にわたってトルクコンバータ基準モードを実行することが可能となる。上記のとおり、出力軸Oの回転速度が次第に上昇する際には、第一回転電機MG1の回転速度は負からゼロを経て正に変化する。従って、第二回転電機MG2は、正方向のトルクを出力する状態からトルクゼロの状態を経て負方向のトルクを出力する状態に変化する。
上記のとおり、トルクコンバータ基準モードにおいて、入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEが出力軸Oに伝達されるまでの総トルク変換比は、第一増幅比R1aに等しい。従って、トルクコンバータ基準モードの総トルク変換比は、下記の式(11)により求まる。
総トルク変換比=1+λt・・・(11)
上記のとおり、第一増幅比R1aが約「1.38」となるように設定した場合には、トルクコンバータ基準モードの総トルク変換比も約「1.38」となる。この場合、入力トルクTEは、約1.38倍に増幅されて出力軸Oに伝達される。また、出力軸Oには、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2も伝達される。
以上に説明したように、トルクコンバータ基準モードは、入力軸I(エンジンE)から入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEを、トルクスプリット低速モードに次ぐ2番目に大きいトルク変換比で増幅して出力軸Oに伝達することができるため、車速が2番目に低い領域で使用される第二の低速用モードとして適している。本実施形態では、トルクコンバータ基準モードは、トルクスプリット低速モードにおいて出力軸Oの回転速度が次第に上昇し、出力軸O及び第三キャリヤca3の回転速度と第二サンギヤs2の回転速度とが一致した状態よりも出力軸Oの回転速度が高い状態で使用される。具体的には、トルクコンバータ基準モードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、出力軸Oの回転速度と第二サンギヤs2の回転速度とが一致した状態から、第一回転電機MG1の回転速度を上昇させることにより、出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度を次第に上昇させて車両を加速させる。そして、出力軸Oの回転速度が上昇し、出力軸O及び第三キャリヤca3の回転速度と、第一リングギヤr1、第二キャリヤca2、及び第三サンギヤs3の回転速度とが一致した際に第二クラッチC2を係合して第四クラッチC4を解放すれば、トルクコンバータ基準モードからトルクスプリット基準モードに切り替えられる。このモード切り替えは、この際に係合する第二クラッチC2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。
6.トルクスプリット基準モード
トルクスプリット基準モードは、上述したトルクスプリットモードの一つであって、第一差動歯車装置G1により入力トルクTEに対して減衰して出力回転要素Eoに伝達される中間出力トルクTMを所定の基準トルク変換比で出力軸Oに伝達するモードである。本実施形態では、トルクスプリット基準モードにおいては、出力回転要素Eoを出力軸Oと一体回転するように駆動連結する。これにより、基準トルク変換比は「1」となり、出力回転要素Eoに伝達される中間出力トルクTMはそのまま出力軸Oに伝達される。図3に示すように、トルクスプリット基準モードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第三クラッチC3を係合状態とすると共に第四クラッチC4及びブレーキBを解放状態とすることにより実現される。図1を参照すれば明らかなように、第一クラッチC1が係合されることによって第一差動歯車装置G1の第一リングギヤr1及び第二キャリヤca2が出力回転要素Eoとなり、第二クラッチC2が係合されることによって出力回転要素Eoが出力軸Oと一体回転する状態となる。また、第一クラッチC1と第三クラッチC3の2つが係合状態とされることにより、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とが一体的に動作する状態となり、図8及び図9に示すように、速度線図上で第一差動歯車装置G1を表す線と第二差動歯車装置G2を表す線とが同一直線状となる。このトルクスプリット基準モードでは、第一回転電機MG1は全域において負方向のMG1トルクT1を反力トルクとして出力する。
トルクスプリット基準モードでは、図8及び図9に直線G1として示すように、第一差動歯車装置G1の4つの回転要素のうち、第一回転要素e1、第三回転要素e3、及び第四回転要素e4の3つの回転要素を実質的に用いる。そして、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2(第三回転要素e3)が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなっている。更に、この入力回転要素Eiに対して、回転速度の順で一方側となる第一リングギヤr1及び第二キャリヤca2(第四回転要素e4)が第二差動歯車装置G2を介して出力軸Oに駆動連結された出力回転要素Eoとなり、回転速度の順で他方側となる第一サンギヤs1(第一回転要素e1)が第一回転電機MG1に駆動連結された第一回転電機連結要素E1となっている。この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして入力回転要素Eiに伝達される。また、第一回転電機MG1は、トルクスプリット基準モードの全域で負方向のMG1トルクT1を発生させ、入力トルクTEの反力受けとして機能する。これにより、第一差動歯車装置G1は、入力トルクTEを出力回転要素Eoと第一回転電機MG1とに分配し、MG1トルクT1を反力として入力トルクTEに対して減衰した中間出力トルクTMを出力回転要素Eoに伝達する。上記のとおり、第一差動歯車装置G1は、入力トルクTEを1/(1+λs)倍(=第一減衰比R1b)に減衰して出力回転要素Eoに伝達する。
トルクスプリット基準モードでは、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoである第一リングギヤr1及び第二キャリヤca2は、第一クラッチC1、第三サンギヤs3、及び第二クラッチC2を介して出力軸Oと一体回転する状態となる。従って、トルクスプリット基準モードでは、第二差動歯車装置G2は、実質的に機能せず、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoの回転はそのまま出力軸Oに伝達されるとともに、出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMもそのまま出力軸Oに伝達される。
トルクスプリット基準モードでは、第一回転電機MG1は、負方向のMG1トルクT1を出力して第一回転電機連結要素E1としての第一サンギヤs1に伝達する。このように伝達される第一回転電機MG1からのMG1トルクT1が、入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEに対する反力となる。そして、トルクスプリット基準モードでは、第一回転電機MG1は、負方向のMG1トルクT1を常に出力する。そして、出力軸Oの回転速度が比較的低速の状態では、図8に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正となっている。その後、出力軸Oの回転速度(車速)が次第に上昇するに従って、第一回転電機MG1の回転速度は下降する。そして、図9に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点を通過し、図10に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負となってからトルクコンバータ高速モードへの切り替えが行われる。第一回転電機MG1は、回転速度が正の状態ではジェネレータとして機能して発電を行い、回転速度が負の状態ではモータとして機能して力行する。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない(電気変換が行われない)無電気変換点となっている。
また、このトルクスプリット基準モードでは、第二回転電機MG2は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力することにより、出力軸Oに伝達される中間出力トルクTMに対するアシストを行う。但し、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じて負方向のMG2トルクT2を出力する場合もある。すなわち、本実施形態では、第二回転電機MG2の回転速度は常に正となる。そして、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じた向きのMG2トルクT2を出力する。具体的には、図8に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正であって第一回転電機MG1が発電しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により発電された電力を消費してモータとして機能して力行し、正方向のトルクを出力する。また、図10に破線矢印で示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負であって第一回転電機MG1が力行しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1が消費する電力を生成するためにジェネレータとして機能して発電を行い、負方向のトルクを出力する。一方、図9に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2をゼロとする。このように、トルクスプリット基準モード中に第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態を有することにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギー効率を高めることができる。また、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2が発電又は力行する際には、一方が発電した電力を他方が消費して力行するので、ハイブリッド制御装置Hの全体での電力収支を基本的にゼロとすることができる。よって、蓄電装置としてのバッテリ11の充電状態が大きく変動しない状態とすることができるので、長時間にわたってトルクスプリット基準モードを実行することが可能となる。上記のとおり、出力軸Oの回転速度が次第に上昇する際には、第一回転電機MG1の回転速度は正からゼロを経て負に変化する。従って、第二回転電機MG2は、正方向のトルクを出力する状態からトルクゼロの状態を経て負方向のトルクを出力する状態に変化する。
上記のとおり、トルクスプリット基準モードにおいて、入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEが出力軸Oに伝達されるまでの総トルク変換比は、第一減衰比R1bに等しい。従って、トルクスプリット基準モードの総トルク変換比は、下記の式(12)により求まる。
総トルク変換比=1/(1+λs)・・・(12)
上記のとおり、第一減衰比R1bが約「0.7」となるように設定した場合には、トルクスプリット基準モードの総トルク変換比も約「0.7」となる。この場合、入力トルクTEは、約0.7倍に減衰されて出力軸Oに伝達される。また、出力軸Oには、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2も伝達される。
以上に説明したように、トルクスプリット基準モードは、入力軸I(エンジンE)から入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEを、後述するトルクコンバータ高速モードに次ぐ2番目に小さいトルク変換比で減衰して出力軸Oに伝達することができるため、車速が2番目に高い領域で使用される中速用モードとして適している。本実施形態では、トルクスプリット基準モードは、トルクコンバータ基準モードにおいて出力軸Oの回転速度が次第に上昇し、出力軸O及び第三キャリヤca3の回転速度と第三サンギヤs3の回転速度とが一致した状態よりも出力軸Oの回転速度が高い状態で使用される。具体的には、トルクスプリット基準モードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、出力軸Oの回転速度と第三サンギヤs3の回転速度とが一致した状態から、第一回転電機MG1の回転速度を低下させることにより、出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度を次第に上昇させて車両を加速させる。そして、出力軸Oの回転速度が上昇するとともに第一回転電機MG1の回転速度が低下し、第三リングギヤr3の回転速度がゼロとなった際にブレーキBを係合して第一クラッチC1を解放すれば、トルクスプリット基準モードからトルクコンバータ高速モードに切り替えられる。このモード切り替えは、この際に係合するブレーキBの両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。
7.トルクコンバータ高速モード
トルクコンバータ高速モードは、上述したトルクコンバータモードの一つであって、上述したトルクスプリット基準モードよりも入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達するモードである。そこで、トルクコンバータ高速モードでは、総トルク変換比がトルクスプリット基準モードよりも小さくなるように、第一差動歯車装置G1により入力トルクTEに対して増幅されて出力回転要素Eoに伝達される中間出力トルクTMを、第二差動歯車装置G2により減衰して出力軸Oに伝達する。図3に示すように、トルクコンバータ高速モードは、第二クラッチC2、第三クラッチC3、及びブレーキBを係合状態とすると共に第一クラッチC1及び第四クラッチC4を解放状態とすることにより実現される。図1を参照すれば明らかなように、第三クラッチC3が係合されることによって第一差動歯車装置G1の第二サンギヤs2が出力回転要素Eoとなり、第二クラッチC2及びブレーキBが係合されることによって出力回転要素Eoの回転が第二差動歯車装置G2により増速されて出力軸Oに伝達される状態となる。このトルクコンバータ高速モードでは、第一回転電機MG1は全域において正方向のMG1トルクT1を反力トルクとして出力する。
トルクコンバータ高速モードでは、図11及び図12に直線G1として示すように、第一差動歯車装置G1の4つの回転要素のうち、第一回転要素e1、第二回転要素e2、及び第三回転要素e3の3つの回転要素を実質的に用いる。そして、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第二サンギヤs2(第二回転要素e2)が第二差動歯車装置G2を介して出力軸Oに駆動連結された出力回転要素Eoとなっている。更に、この出力回転要素Eoに対して、回転速度の順で一方側となる第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2(第三回転要素e3)が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなり、回転速度の順で他方側となる第一サンギヤs1(第一回転要素e1)が第一回転電機MG1に駆動連結された第一回転電機連結要素E1となっている。この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして入力回転要素Eiに伝達される。また、第一回転電機MG1は、トルクコンバータ高速モードの全域で正方向のMG1トルクT1を発生させ、入力トルクTEの反力受けとして機能する。これにより、第一差動歯車装置G1は、入力トルクTEとMG1トルクT1とを合成し、入力トルクTEに対して増幅した中間出力トルクTMを出力回転要素Eoに伝達する。上記のとおり、第一差動歯車装置G1は、入力トルクTEを1+λt倍(=第一増幅比R1a)に増幅して出力回転要素Eoに伝達する。
トルクコンバータ高速モードでは、第二差動歯車装置G2は、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eo(第二サンギヤs2)の回転を増速して出力軸Oに伝達するとともに、出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを減衰して出力軸Oに伝達する。すなわち、第二差動歯車装置G2は、図11及び図12に直線G2として示すように、回転速度の順で中間となる第三キャリヤca3に第三クラッチC3を介して第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoが駆動連結される。そして、回転速度の順で一方側となる第三リングギヤr3がブレーキBによりケースDcに固定され、回転速度の順で他方側となる第三サンギヤs3に第二クラッチC2を介して出力軸O及び第二回転電機MG2が駆動連結される。このため、第三サンギヤs3に駆動連結された出力軸Oには、第三キャリヤca3に駆動連結された第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoの回転が増速されて伝達される。したがって、第二差動歯車装置G2は、出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを減衰して出力軸Oに伝達する。上記のとおり、第二差動歯車装置G2は、中間出力トルクTMをλu/(1+λu)倍(=第二減衰比R2b)に減衰して出力軸Oに伝達する。
トルクコンバータ高速モードでは、第一回転電機MG1は、正方向のMG1トルクT1を出力して第一回転電機連結要素E1としての第一サンギヤs1に伝達する。このように伝達される第一回転電機MG1からのMG1トルクT1が、入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEに対する反力となる。そして、トルクコンバータ高速モードでは、第一回転電機MG1は、正方向のMG1トルクT1を常に出力する。そして、図10に示すように、出力軸Oの回転速度が比較的低速の状態では、第一回転電機MG1の回転速度は負となっている。その後、出力軸Oの回転速度(車速)が次第に上昇するに従って、第一回転電機MG1の回転速度も上昇する。そして、図11に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点を通過し、図12に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正となる。第一回転電機MG1は、回転速度が負の状態ではジェネレータとして機能して発電を行い、回転速度が正の状態ではモータとして機能して力行する。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない(電気変換が行われない)無電気変換点となっている。
また、このトルクコンバータ高速モードでは、第二回転電機MG2は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力することにより、出力軸Oに伝達される中間出力トルクTMに対するアシストを行う。但し、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じて負方向のMG2トルクT2を出力する場合もある。すなわち、本実施形態では、第二回転電機MG2の回転速度は常に正となる。そして、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じた向きのMG2トルクT2を出力する。具体的には、図10に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負であって第一回転電機MG1が発電しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により発電された電力を消費してモータとして機能して力行し、正方向のトルクを出力する。また、図12に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正であって第一回転電機MG1が力行しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1が消費する電力を生成するためにジェネレータとして機能して発電を行い、負方向のトルクを出力する。一方、図11に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2をゼロとする。このように、トルクコンバータ高速モード中に第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態を有することにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギー効率を高めることができる。また、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2が発電又は力行する際には、一方が発電した電力を他方が消費して力行するので、ハイブリッド制御装置Hの全体での電力収支を基本的にゼロとすることができる。よって、蓄電装置としてのバッテリ11の充電状態が大きく変動しない状態とすることができるので、長時間にわたってトルクコンバータ高速モードを実行することが可能となる。上記のとおり、出力軸Oの回転速度が次第に上昇する際には、第一回転電機MG1の回転速度は負からゼロを経て正に変化する。従って、第二回転電機MG2は、正方向のトルクを出力する状態からトルクゼロの状態を経て負方向のトルクを出力する状態に変化する。
上記のとおり、トルクコンバータ高速モードにおいて、入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEが出力軸Oに伝達されるまでの総トルク変換比は、第一増幅比R1aに第二減衰比R2bを乗算して得られる値に等しい。従って、トルクコンバータ高速モードの総トルク変換比は、下記の式(13)により求まる。
総トルク変換比={(1+λt)・λu}/(1+λu)・・・(13)
上記のとおり、第一増幅比R1aが約「1.38」、第二減衰比R2bが約「0.26」となるように設定した場合には、トルクコンバータ高速モードの総トルク変換比は約「0.355」となる。この場合、入力トルクTEは、約0.355倍に減衰されて出力軸Oに伝達される。また、出力軸Oには、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2も伝達される。
以上に説明したように、トルクコンバータ高速モードは、入力軸I(エンジンE)から入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEを、最も小さいトルク変換比で減衰して出力軸Oに伝達することができるため、車速が最も高い領域で使用される高速用モードとして適している。本実施形態では、トルクコンバータ高速モードは、トルクスプリット基準モードにおいて出力軸Oの回転速度が次第に上昇し、第三リングギヤr3の回転速度がゼロとなったときの出力軸Oの回転速度以上の回転速度で使用される。具体的には、トルクコンバータ高速モードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、第三リングギヤr3の回転速度がゼロとなった状態から第一回転電機MG1の回転速度を上昇させることにより、出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度を次第に上昇させて車両を加速させる。このトルクコンバータ高速モードは、車両の最高速度まで使用される。
8.ハイブリッド駆動装置の理論伝達効率について
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにおける理論伝達効率について説明する。図13は、このハイブリッド駆動装置Hにおける理論伝達効率(縦軸)と入出力回転速度比(横軸)との関係を示したグラフである。入出力回転速度比は、出力軸Oの回転速度と入力軸Iの回転速度との比であり、ここでは、入力軸Iの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値としている。なお、図13の横軸に記載した入出力回転速度比の値は一例であり、上述したように、第一増幅比R1aが約「1.38」、第一減衰比R1bが約「0.7」、第二増幅比R2aが約「3.89」、第二減衰比R2bが約「0.26」となるように、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の各歯数比λs、λt、λuが設定されている場合の例を示している。ここで、理論伝達効率は、エンジンE(入力軸I)の出力(仕事率)が出力軸Oに伝達されるまでの伝達効率に関し、歯車等の機械的な伝動部材を介して機械的に伝達される際の伝達効率を100%と仮定し、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2により一旦電力に変換されて伝達される際の伝達効率を90%と仮定して計算した伝達効率としている。従って、入力トルクTEに対する反力受けとして機能する第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなり、電気変換が行われない無電気変換点において、理論伝達効率は100%となる。そして、第一回転電機MG1又は第二回転電機MG2の回転速度の絶対値が大きくなり、エンジンE(入力軸I)の出力(仕事率)が電力に変換される割合が高くなるに従って理論伝達効率は低くなる。
そして、図13に示される山形の4つの線が各モードの理論伝達効率を表しており、実線がトルクスプリット低速モード、破線がトルクコンバータ基準モード、一点鎖線がトルクスプリット基準モード、二点鎖線がトルクコンバータ高速モードを表している。また、この図において、各モードの理論伝達効率を表す線の内、太線部分が使用される領域であり、細線部分は他のモードに切り替えられて使用されない領域である。この図に示すように、本実施形態では、入出力回転速度比の値に応じて複数のモードの中で最も理論伝達効率が高いモードを選択して使用する。各モードが隣接する他のモードに切り替えられる切替点の入出力回転速度比は、上記のとおり、当該モード切替の際に係合する係合要素(クラッチ又はブレーキ)の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替点に対応している。
上記のとおり、このハイブリッド駆動装置Hでは、入力軸Iの回転速度に対する出力軸Oの回転速度の上昇(入出力回転速度比の下降)に伴って順にモードを切り替えた際に、第一回転電機MG1のMG1トルクT1の向きはモード毎に負方向と正方向とに交互に切り替えられ、それによって第一回転電機MG1の回転速度はモード毎に上昇と下降を交互に行う。これにより、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、切り替え可能に備えられる複数のモードの全てについて、総トルク変換比の順で隣接する他のモードとの切替点(同期切替点)までの間に、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点を通過するように構成されている。これにより、図13に示すように、切り替え可能に備えられる複数のモードの全てにおいて、車両を加速又は減速させる(入出力回転速度比を変化させる)過程において、必ず一度は理論伝達効率が100%となる点を通過することになる。これにより、入力トルクTEに対する反力受けとなる第一回転電機MG1の回転速度の絶対値を相対的に低く抑えることが可能となるので、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力変換による損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギー効率を高めることができる。
2.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、ハイブリッド駆動装置Hが、トルクスプリット低速モード、トルクコンバータ基準モード、トルクスプリット基準モード、及びトルクコンバータ高速モードの4つのモードをこの順に切り替え可能に備える場合について説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、ハイブリッド駆動装置Hが、トルクスプリット低速モード、トルクコンバータ基準モード、及びトルクスプリット基準モードの3つのモードをこの順に切り替え可能に備え、又はトルクコンバータ基準モード、トルクスプリット基準モード、及びトルクコンバータ高速モードの3つのモードをこの順に切り替え可能に備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、これら3つ又は4つのモードの他に、更に別の1又は2以上のモードを切り替え可能に備える構成としても好適である。いずれの場合においても、総トルク変換比の順で、トルクコンバータモードとトルクスプリットモードとが交互に切り替えられるように構成すると好適である。例えば、上記の実施形態において説明した4つのモード以外に、トルクスプリット低速モードよりも入力トルクTEを増幅して出力軸Oに伝達するトルクコンバータ低速モード(第三トルクコンバータモード)、及びトルクコンバータ高速モードよりも入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達するトルクスプリット高速モード(第三トルクスプリットモード)の少なくとも一方を、更に切り替え可能に備える構成としても好適である。
(2)上記の実施形態では、トルクコンバータ基準モード及びトルクスプリット基準モードにおいて、第一差動歯車装置G1の出力回転要素Eoに伝達された中間出力トルクTMを出力軸Oに伝達する際のトルク変換比である基準トルク変換比を「1」とした場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、基準トルク変換比を「1」以外の値、例えば「1.5」や「2」等のようにトルク増幅側の値に設定し、或いは、例えば「0.5」や「0.75」等のようにトルク減衰側の値に設定することも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、第一増幅比R1a、第一減衰比R1b、第二増幅比R2a、第二減衰比R2bについても、上記実施形態において例示した値に限定されるものではなく、上記の各条件を満たす値を適宜設定することができる。
(3)上記の実施形態では、切り替え可能に備えられる複数のモードの全てが、総トルク変換比の順で隣接する他のモードとの切替点までの間に、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点を通過するように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、一部又は全部のモードが、総トルク変換比の順で隣接する他のモードとの切替点までの間に、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点を通過しない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合においても、入力軸Iの回転速度に対する出力軸Oの回転速度の変化に伴って順にモードを切り替えた際に、第一回転電機MG1の回転速度がモード毎に上昇と下降を交互に行うことになる。これにより、第一回転電機MG1の回転速度の絶対値を相対的に低く抑えることが可能となり、電力変換による損失を少なく抑えてエネルギー効率を高めることが可能である。
(4)また、上記の各実施形態において説明した第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2、これらを構成する第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3の構成、並びにこれらの各回転要素に対する係合要素の配置構成は単なる例示であり、上記以外の構成によっても本発明の構成を実現することが可能な全ての構成が、本発明の範囲に含まれる。