以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の無線タグ情報読み取り装置を、例えばそれぞれ無線タグが貼付されている多数の物品の管理に適用した場合の一例を表す図である。図示する例では、整列せずにランダムに配置された多数の物品Bにそれぞれ無線タグTが貼付されている。それぞれの無線タグTは後に詳述するように直線形状で形成されたタグ側アンテナ151を有しており、そのタグ側アンテナ151の長手方向の向きが複数方向(この例では縦方向と横方向のいずれかの方向)に向く姿勢で各物品Bに貼付されている。
そして、本実施形態の無線タグ情報読み取り装置であるリーダ1は携帯型(いわゆるハンディタイプ)のものであり、略直方体形状の筐体を有している。この筐体には、長手方向の一方の端部に2つのアンテナエレメント3A,3Bを有するリーダアンテナ3(装置側アンテナ)が設けられているとともに、筐体の一方の平面部に操作部7と表示部8が設けられている。
使用者(物品Bの管理者;操作者)は、このリーダ1を用いて各物品Bに貼付されている無線タグTから無線通信を介して対応する物品Bに関する情報を読み取ることで、各物品Bの保管状況を管理する。ここで、リーダ1の通信可能領域20(図中の破線で示す範囲)はリーダアンテナ3を基点として広がる領域であり、その指向性や出力電力(いわゆる空中線電力)によってその範囲が有限である。したがって、上記物品Bが配置されている範囲がその通信可能領域20と比較して十分に広い場合には、リーダ1はその瞬間に通信可能領域20内に存在する無線タグ群とだけしか無線通信を行えないことになる。
この結果、使用者は、通常、リーダ1を手に取って操作部7と表示部8を備えている平面部が上方(鉛直上方向)に向くよう筐体全体を略水平とする基準姿勢で保持しつつ、リーダアンテナ3を物品Bの配置位置に向けたまま左右方向(つまりリーダアンテナ3が延設されている筐体の長手方向に直交する筐体の幅方向)に往復動させる。このようにしてリーダ1を略一直線上で往復動させることにより、物品Bが配置されている範囲全体に対し通信可能領域を通過させることができ(このとき通信可能領域が通過した範囲が通信可能範囲となる)、リーダ1を全ての無線タグTと無線通信させることができる。
図2は、本実施形態のリーダ1の概略を表すシステム構成図である。
図2において、上述したようにこのリーダ1は、各物品Bに貼付した無線タグTから無線通信を介してその無線タグTに記憶されている情報を読み取るものである。
リーダ1は、本体制御部2と、リーダアンテナ3とを有している。本体制御部2は、CPU4と、ハードディスク装置やフラッシュメモリからなりリーダ1の無線通信に関係する各種の通信パラメータ(詳しくは後述する)や物品Bの管理状況などの各種情報を記憶する不揮発性記憶装置5と、例えばRAMやROM等からなるメモリ6と、使用者からの指示や情報が入力される操作部7と、各種情報やメッセージを表示する表示部8と、リーダ1が移動する際に3軸方向におけるそれぞれの移動加速度を検出する3軸加速度センサ(移動方向検出手段、折り返し検出手段、経路検出手段)9と、リーダアンテナ3を介し無線タグTとの無線通信の制御を行うRF通信制御部(コマンド生成手段)10とを備えている。
リーダアンテナ3は、上述したように2つのアンテナエレメント3A,3Bを有しており、例えば、それぞれのアンテナエレメント3A,3Bは全体が略直線的な形状となるいわゆるダイポール型のアンテナで構成されている。一方の横方向アンテナエレメント3Aはその長手方向がリーダ1の筐体の幅方向(つまり上記基準姿勢における左右方向)と平行となる配置で設けられており、他方の縦方向アンテナエレメント3Bはその長手方向がリーダ1の筐体の厚さ方向(つまり上記基準姿勢における上下方向)と平行となる配置で設けられている。そして各アンテナエレメント3A,3Bにおいては、それぞれの長手方向が電波の電界面、すなわち偏波面を形成する方向(偏波面方向;通信パラメータ)となる。なお、リーダアンテナ3はこのような構成には限られず、例えばマイクロストリップアンテナ等他の形態のアンテナを用い、電流の流す方向を変化させることによって偏波面方向を切り替える等の構成でもよい。
CPU4は、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行い、それによってリーダ1全体の各種制御を行うものである。
3軸加速度センサ9は、公知のもので足りるので詳細な説明は省略するが、リーダ1の本体制御部2の筐体の幅方向、長手方向、及び厚さ方向にそれぞれ対応する方向(筐体における座標軸方向)の移動加速度を個別に検出するものである。なお、上記加速度センサに代えて、移動量検出手段(折り返し検出手段、経路検出手段)として、公知の速度センサを用いるようにしてもよい(以下同様)。また、CPU4は、この3軸加速度センサ9により検出される各軸方向の加速度を公知の手法でそれぞれ演算することで、リーダ1の各方向に対応する移動速度成分をそれぞれ算出する。
無線タグTは、タグ側アンテナ151とIC回路部150とを備える無線タグ回路素子Toを有しており、この無線タグ回路素子Toを特に図示しない基材などに設けて上記物品Bに貼付可能にしたものである(無線タグ回路素子Toについては後に詳述する)。なお、タグ側アンテナ151はこの例では全体が略直線的な形状のダイポール型アンテナで構成されており、その長手方向が偏波面を形成する方向となる。
図3は、上記リーダ1におけるCPU4、RF通信制御部10、及びリーダアンテナ3の詳細構成を表す機能ブロック図である。
図3において、RF通信制御部10は、上記リーダアンテナ3を介し上記無線タグ回路素子ToのIC回路部150の情報(タグIDを含む無線タグ情報)へアクセスするものである。またCPU4は、無線タグ回路素子ToのIC回路部150から読み出された信号を処理して情報を読み出すとともに無線タグ回路素子ToのIC回路部150へアクセスするための各種コマンド(詳しくは後述する)を生成するものである。
RF通信制御部10は、CPU4により2つのアンテナエレメント3A,3Bの接続を切り換える切り換えスイッチ部341と、リーダアンテナ3を介し無線タグ回路素子Toに対して信号を送信する送信部212と、リーダアンテナ3により受信された無線タグ回路素子Toからの応答波を入力する受信部213と、送受分離器214とから構成される。
切り換えスイッチ部341は、公知の高周波用FETやダイオードを用いたスイッチ回路であり、CPU4からの制御信号により横方向アンテナエレメント3A又は縦方向アンテナエレメント3Bのいずれかを選択的に送受分離器214に接続するものである。
送信部212は、無線タグ回路素子ToのIC回路部150の無線タグ情報にアクセスする(この例では読み取り)ための質問波を生成するブロックで、質問波の搬送波を発生させる水晶振動子215A、CPU4の制御により所定の周波数の信号を発生させるPLL(Phase Locked Loop)215B、及びVCO(Voltage Controlled Oscillator)215Cと、上記CPU4から供給される信号に基づいて上記発生させられた搬送波を変調(この例ではCPU4からの「TX_ASK」信号に基づく振幅変調)する送信乗算回路216(但し振幅変調の場合は増幅率可変アンプ等を用いてもよい)と、その送信乗算回路216により変調された変調波を増幅(この例ではCPU4からの「TX_PWR」信号によって増幅率を決定される増幅)する可変送信アンプ217とを備えている。上記発生される搬送波は、例えばUHF帯、マイクロ波帯、あるいは短波帯の周波数を用いている。上記送信アンプ217の出力は、送受分離器214及び切り換えスイッチ部341を介しリーダアンテナ3のいずれかのアンテナエレメント3A,3Bに伝達されて無線タグ回路素子ToのIC回路部150に供給される。なお質問波は上記のように変調した信号(変調波)に限られず、単なる搬送波のみの場合もある。
受信部213は、リーダアンテナ3で受信された無線タグ回路素子Toからの応答波と上記発生させられた搬送波とを乗算して復調する受信第1乗算回路218と、その受信第1乗算回路218の出力から必要な帯域の信号のみを取り出すための第1バンドパスフィルタ219と、この第1バンドパスフィルタ219の出力を増幅する受信第1アンプ221と、この受信第1アンプ221の出力をさらに増幅してデジタル信号に変換する第1リミッタ220と、上記リーダアンテナ3で受信された無線タグ回路素子Toからの応答波と上記発生された後に移相器227により位相を90°遅らせた搬送波とを乗算する受信第2乗算回路222と、その受信第2乗算回路222の出力から必要な帯域の信号のみを取り出すための第2バンドパスフィルタ223と、この第2バンドパスフィルタ223の出力を増幅する受信第2アンプ225と、この受信第2アンプ225の出力をさらに増幅してデジタル信号に変換する第2リミッタ224とを備えている。そして、上記第1リミッタ220から出力される信号「RXS−I」及び第2リミッタ224から出力される信号「RXS−Q」は、上記CPU4に入力されて処理される。
また、受信第1アンプ221及び受信第2アンプ225の出力は、強度検出手段としてのRSSI(Received Signal Strength Indicator)回路226にも入力され、それらの信号の強度を示す信号「RSSI」がCPU4に入力されるようになっている。このようにして、リーダ1では、I−Q直交復調によって無線タグ回路素子Toからの応答波の復調が行われる。
図4は、上記無線タグTに備えられた無線タグ回路素子Toの機能的構成の一例を表すブロック図である。
図4は、上記無線タグTに備えられた無線タグ回路素子Toの機能的構成を表す機能ブロック図である。この図4において、無線タグ回路素子Toは、上述したようにリーダ1のリーダアンテナ3と電磁誘導により非接触で信号の送受信を行う上記タグ側アンテナ151と、このタグ側アンテナ151に接続された上記IC回路部150とを有している。
IC回路部150は、タグ側アンテナ151により受信された質問波(質問信号)を整流する整流部152と、この整流部152により整流された質問波のエネルギを蓄積し駆動電源とするための電源部153と、上記タグ側アンテナ151により受信された質問波からクロック信号を抽出して制御部157に供給するクロック抽出部154と、所定の情報信号を記憶し得るメモリ部155と、上記タグ側アンテナ151に接続された変復調部156と、上記リーダ1からの上記質問信号の受信時に当該無線タグ回路素子Toが応答信号をどの識別スロットに出力するかを決定するための乱数を発生させる乱数発生器158(質問信号、識別スロットについての詳細は後述)と、上記メモリ部155、クロック抽出部154、乱数発生器158、及び変復調部156等を介して上記無線タグ回路素子Toの作動を制御するための上記制御部157とを備えている。
変復調部156は、タグ側アンテナ151により受信された上記無線タグ情報通信装置1のリーダアンテナ3からの通信信号の復調を行うと共に、上記制御部157からの返信信号を変調し、タグ側アンテナ151より応答波(タグIDを含む信号)として送信する。
クロック抽出部154は受信した信号からクロック成分を抽出して制御部157にクロックを抽出するものであり、受信した信号のクロック成分の周波数に対応したクロックを制御部157に供給する。
乱数発生器158は、上記リーダ1からの上記質問信号に指定されているスロット数指定値Qに対し、0から2Q−1までの乱数を発生させる(詳細は後述する)。
制御部157は、上記変復調部156により復調された受信信号を解釈し、上記メモリ部155において記憶された情報信号に基づいて返信信号を生成し、この返信信号を上記乱数発生器158により発生させた乱数に対応する識別スロットで上記変復調部156により上記タグ側アンテナ151から返信する制御等の基本的な制御を実行する。
ここで、本実施形態のリーダ1の最も大きな特徴は、リーダ1の往復動における往路と復路の間の折り返し前後で無線通信の偏波面方向を切り換えることで、同一の無線タグTに対して順次異なる偏波面での無線通信を行うことにある。以下、その詳細を順次説明する。
まず、リーダ1と無線タグTとの間で送受される信号とその送受方法について説明する。図5は、リーダ1と1つの無線タグTの上記無線タグ回路素子Toとの間で送受される信号のタイムチャートの一例を表す図である。なお、この図5に示す信号の送受方法は、公知のSlotted ALOHA方式に基づくものであり、図中では左側から右側に向かって時系列変化するよう示している。また、リーダ1と無線タグTとの間に記載されている矢印は信号の送信方向を示しており、送信相手が不特定である場合には破線で示し、送信相手が特定されている場合には実線で示している。
この図5において、リーダ1はまず最初に通信可能領域20に存在する全ての無線タグTに対して「Select」コマンドを送信する。この「Select」コマンドは、それ以降にリーダ1が無線通信を行う無線タグTの条件を指定するコマンドであり、各種の条件を指定して情報の読み取り対象とする無線タグTの個数を限定し、無線通信の効率化を図ることができる。そして、この「Select」コマンドを受信した無線タグTのうちで、指定された条件を満たす無線タグTだけがその後に無線通信を行える状態となる(図中ではこの条件を満たす一つ無線タグTのみを示している)。
次にリーダ1は、同じ無線タグ群に対してそれぞれのタグ情報(識別情報であるタグIDを含む)を応答発信させるよう要求する「Query」コマンド(読み取りコマンド)を送信する。この「Query」コマンドは、応答すると予想される無線タグ回路素子Toの数が不確定な条件下において探索を行うための探索指令である。この「Query」コマンドには、所定の数(例えばこの例で0から15までのいずれかの値)で指定するスロット数指定値Qが含まれている。RF通信制御部10からリーダアンテナ3を介し「Query」コマンドが送信されると、各無線タグTの無線タグ回路素子Toは0から2Q−1(=2のQ乗−1)までの乱数を乱数発生器158により生成し、スロットカウント値Sとして保持する。
そしてリーダ1がリーダアンテナ3を介して該「Query」コマンドを送信後、所定の識別スロットで無線タグ回路素子Toからの応答を待ち受ける。この識別スロットとは、この「Query」コマンド、または後述する「QueryRep」コマンドを始めに送信してから所定の期間で区分される時間枠である。識別スロットは、通常、所定回数(「Query」コマンドの第1識別スロット1回と「QueryRep」コマンドの第2以降の識別スロット2Q−1回の計2Q回)が連続して繰り返される。
そして、図示の例のように無線タグ回路素子Toでスロットカウント値Sとして値0を生成したものは、この「Query」コマンドを含んだ第1識別スロットで応答する。このとき、当該無線タグ回路素子Toはタグ情報を送信する許可を得るための例えば16ビットの擬似乱数を用いた「RN16」コマンドを応答信号としてリーダ1へ送信する。
そして、この「RN16」コマンドを受信したリーダ1は、この「RN16」コマンドに対応する内容でタグ情報の送信を許可する「Ack」コマンドを送信する。この「Ack」コマンドを受信した無線タグ回路素子Toは、その無線タグ回路素子To自身が先に送信した「RN16」コマンドと受信した「Ack」コマンドが対応していると判断した場合に、当該無線タグ回路素子Toの個体がタグ情報の送信を許可されたものとみなしてタグ情報(タグID含む)を送信する。このようにして、一つの識別スロットにおける信号の送受信が行われる。
その後、さらに2番目以降の識別スロットでは、リーダ1は「Query」コマンドの代わりに「QueryRep」コマンドを送信し、その直後に設けられる識別スロット時間枠で他の無線タグ回路素子To(特に図示せず)の応答を待つ。「QueryRep」コマンドを受信した各無線タグ回路素子Toは自身の上記スロットカウント値Sの値を一つだけ減算して保持し、該スロットカウント値Sが値0になった時点の識別スロットで「RN16」コマンドを初めとした信号の送受信をリーダ1との間で行う。
なお、各識別スロットで該当する無線タグ回路素子To(当該識別スロットでスロットカウント値Sが0となるもの)がない場合には、「Query」コマンドまたは「QueryRep」コマンド以外の送受信が行われないまま所定の時間枠でその識別スロットを終了する。
このように各無線タグ回路素子Toが異なる識別スロットで応答信号を返信することで、リーダアンテナ3を介し、リーダ1は混信を受けることなく一つ一つの無線タグ回路素子Toのタグ情報を明確に受信し取り込むことができる。そして以上のように「Select」コマンドが送信されてから、「Query」コマンドの送信で始まる第1識別スロット(1回)と、その後の第2識別スロット以降の「QueryRep」コマンドの送信で始まる識別スロットを所定数(通常2Q−1回)繰り返して行うまでの処理単位を読み取り試行処理という(識別スロットは全部で通常2Q個であり、途中で中断する場合については後述の変形例で説明する)。また、リーダ1がこの読み取り試行処理を行う回数を読み取り試行回数という。
図6は、リーダ1のCPU4によって実行される制御手順を表すフローチャートである。
図6において、この例では、電源の投入後(又は例えば操作部7において無線タグTの読み取り処理を開始させる操作が行われると)、このフローが開始される。
そして、ステップS5において、3軸加速度センサ9からの検出出力に基づく加速度の値より移動量(移動速度)を算出し、これによってリーダ1が移動している状態となったか否かを判定する。この判定において、移動状態が検出されない間、つまり停止状態となっている間は、判定が満たされず、同じ手順をループして待機する。移動状態が検出された場合、判定が満たされ、次のステップS10へ移る。
ステップS10では、上記ステップS5で算出した移動量の向きを、移動方向D1として記憶保持する。例えばこの移動方向D1は、リーダ1の筐体の幅方向(左右方向)のいずれの向き(一方の方向、又はその逆の方向)で移動しているかを区別できる単純な符号や記号などを記憶するだけでよい。
次にステップS15へ移り、スロット数指定値Qの値を適宜設定し、次のステップS20で変数Cの値を0にリセットする。
次にステップS25へ移り、RF通信制御部10及びアンテナエレメント3A又は3Bを介し、通信可能領域20に存在する無線タグ群に対し「Select」コマンド信号を送信する。
次にステップS30へ移り、上記「Select」コマンド信号と同様に「Query」コマンド信号を送信する。なお、送受信する複数のコマンドの間の時間間隔は、適切な間隔となるよう適宜タイミングが調整される(以下、同様)。
次にステップS35へ移り、アンテナエレメント3A又は3B及びRF通信制御部10を介し、所定の時間の間だけ無線タグTからの応答信号を受信する。その後、ステップS40において、その受信時間の間に応答信号として「RN16」コマンドを受信したか否かを判定する。この判定において、「RN16」コマンドが受信された場合、判定が満たされ、すなわち当該識別スロットで応答する無線タグTが存在するとみなされて、次のステップS45へ移る。
ステップS45では、RF通信制御部10及びアンテナエレメント3A又は3Bを介し、上記ステップS35で受信された「RN16」コマンドに含まれている疑似乱数に対応する内容の「Ack」コマンドを送信する。その後、ステップS50においてアンテナエレメント3A又は3B及びRF通信制御部10を介し、無線タグTからその識別情報であるタグIDを含むタグ情報を受信した後、次のステップS65へ移る。
一方、上記ステップS40の判定において、「RN16」コマンドが受信されていない場合、判定が満たされず、すなわち当該識別スロットで応答する無線タグTがないものとみなされて、上記ステップS45、ステップS50の手順を行わずに直接ステップS65へ移る。
ステップS65では、使用者から操作部7の入力操作を介して読み取り処理を終了する操作が行われたか否かを判定する。終了操作が行われていない場合、判定が満たされず、ステップS55へ移る。一方、終了操作が行われている場合、ステップS65の判定が満たされ、ステップS66においてリーダアンテナ3を介して「QueryAdjust」コマンドを各無線タグ回路素子Toに発信し、このフローを終了する。この「QueryAdjust」コマンドとは、上記ステップS30でリーダ1から「Query」コマンドを受信する全ての無線タグ回路素子Toに対し、スロットカウンタ値Sなどの設定を全部リセットして現行の読み取り試行処理に対する待機状態を解除するよう指令するコマンドである。つまり、この「QueryAdjust」コマンドを送信することで、現行の読み取り試行処理は強制的に中断されることになる。この際、それまでに読み取ったタグIDなどのタグ情報を表示部8に表示してもよい。
ステップS55では、変数Cの値に1を加え、その後にステップS60でこの変数Cの値が2Qより小さいか否か、すなわち最後の識別スロットを終了したか否かを判定する。変数Cの値が2Qより小さい場合、判定が満たされ、すなわち現行の読み取り試行処理が終了していないものとみなされて、次のステップS70へ移る。
ステップS70では、RF通信制御部10及びアンテナエレメント3A又は3Bを介し「QueryRep」コマンドを送信して新たな識別スロットを開始した後、ステップS35へ戻り同様の手順を繰り返す。
また一方、上記ステップS60の判定において、変数Cの値が2Q以上である場合、判定が満たされず、すなわち当該読み取り試行処理における最後の識別スロットが終了したものとみなされて、次のステップS75へ移る。
ステップS75では、上記ステップS10と同様の処理によりその時点でのリーダ1の移動方向を検出し、その結果を移動方向D2として記憶保持する。その後、次のステップS80で移動方向D1と移動方向D2が一致するか否かを判定する。移動方向D1と移動方向D2とが一致する場合、判定が満たされ、すなわちリーダ1が同じ方向に移動し続けているものとみなされて、そのままステップS20へ戻り、同様の手順で新たな読み取り試行処理を行う。
一方、移動方向D1と移動方向D2とが一致しない場合、すなわちリーダ1の移動が方向転換した場合、ステップS80の判定が満たされず、つまりこの例においてリーダ1の移動が逆方向に折り返されたものとみなされて、次のステップS85で移動方向D1(の値、内容)を移動方向D2と同じものに変更する。その後、ステップS90で切り換えスイッチ部341に制御信号を出力して送受分離器214を現在のアンテナエレメントとは逆のアンテナエレメントに接続するよう切り換える(アンテナエレメント3A→アンテナエレメント3B;アンテナエレメント3B→アンテナエレメント3A)。これにより、リーダ1の移動方向の折り返しが検出されるたびに、リーダアンテナ3における偏波面の方向が縦方向と横方向とで順次切り換えられる。そしてステップS20へ戻り、同様の手順を繰り返して新たな読み取り試行処理を行う。
なお、上記図6のフローにおけるステップS75、ステップS80、ステップS85、ステップS90の手順が各請求項記載の通信制御手段として機能する。また、ステップS35、ステップS40、ステップS45、ステップS50の手順が受信手段として機能する。
図7は、図4に示した無線タグ回路素子Toが備える制御部157によって実行される制御手順を表すフローチャートである。この図7において、例えば無線タグ回路素子Toが初期化コマンド(詳細な説明を省略する)を受信してその初期信号により無線電力が与えられるとともに制御部157が初期化されると無線タグ回路素子Toが起動し、このフローが開始される。
まず、ステップS105で、無線タグ回路素子Toが起動した直後にタグ側アンテナ151で受信したリーダ1のリーダアンテナ3からの「Select」コマンドの命令内容を解釈する。そして、その命令内容に含まれている指定条件(リーダ1が読み取り対象とする無線タグTの条件)に当該無線タグTが該当するか否かを判定する。当該無線タグTが指定条件に該当しない場合、ステップS105の判定が満たされず、当該無線タグTが該当する指定条件を含む「Select」コマンドを受信するまで同じ手順を繰り返してループ待機する。一方、当該無線タグTが該当する指定条件を含む「Select」コマンドを受信した場合、ステップS105の判定が満たされ、次のステップS110へ移る。
ステップS110では、タグ側アンテナ151で受信したリーダ1のリーダアンテナ3からの「Query」コマンドの命令内容を解釈するよう受信制御する。このとき、「Query」コマンドに含まれるスロット数指定値Qをメモリ部157に記憶させる。
次にステップS115へ移り、上記ステップS110でメモリ部157に記憶されたスロット数指定値Qに基づいて、0から2Q−1までの乱数を乱数発生器158により発生させ、その値をスロットカウント値Sとする。このスロットカウント値Sにより、当該無線タグTが応答信号(この例の「RN16」コマンド)を送信する識別スロットが決定される。
次にステップS120へ移り、スロットカウント値Sが0であるか否かを判定する。スロットカウント値Sが0でない場合、判定が満たされず、すなわちまだ応答信号を送信すべき識別スロットに達していないとみなされて次のステップS123へ移る。ステップS123では、タグ側アンテナ151を介して上記「QueryAdjust」コマンドを受信したか否かを判定する。「QueryAdjust」コマンドを受信していない場合、判定が満たされず、すなわちリーダ1から現行の読み取り試行処理を中断する指示がなされていないものとみなされ、次のステップS125へ移る。一方、上記ステップS123の判定において「QueryAdjust」コマンド受信した場合、判定が満たされ、すなわちリーダ1から現行の読み取り試行処理を中断するよう指示されたものとみなされ、ステップS105へ戻って新たな読み取り試行処理を開始するよう同様の手順を繰り返す。
ステップS125では、図6のフローのステップS70においてリーダ1から送信される「QueryRep」コマンドをタグ側アンテナ151を介し受信したか否かを判定し、受信するまでその時点の識別スロットの間受信制御を繰り返す。「QueryRep」コマンドを受信した場合、ステップS125の判定が満たされて、次のステップS130へ移り、スロットカウント値Sを1減算してステップS120へ戻り同様の手順を繰り返す。
一方、上記ステップS120の判定においてスロットカウント値Sが0となっていた場合、判定が満たされ、すなわち当該無線タグ回路素子Toが応答信号を送信すべき識別スロットに達したとみなされて次のステップS135へ移る。ステップS135では、例えば16ビットの疑似乱数を用いた「RN16」コマンドを応答信号として変復調部156で生成させ、所定のタイミングでタグ側アンテナ151を介しリーダ1へ返信する。
その後、ステップS140へ移り、上記ステップS135で送信した「RN16」コマンドに含まれる疑似乱数に対応した内容の「Ack」コマンドをタグ側アンテナ151を介して受信したか否かを判定する。タグ側アンテナ151を介して「Ack」コマンドが受信され、その内容が先に無線タグ回路素子To自身が送信した「RN16」コマンドに含まれている疑似乱数を反映した内容である場合、判定が満たされ、すなわち当該無線タグ回路素子Toの個体がリーダ1からタグ情報の送信を許可されたものとみなして次のステップ145へ移る。
ステップS145では、タグ側アンテナ151を介してその無線タグ回路素子ToのタグIDを含むタグ情報をリーダ1に送信する。そしてステップS105へ戻り、同様の手順を繰り返す。
一方、上記ステップS140の判定において、タグ側アンテナ151を介し「Ack」コマンドが受信されなかった場合(または受信してもその内容が先に送信した「RN16」コマンドに含まれている疑似乱数を反映していない場合)、判定が満たされず、すなわち何らかの外的要因で無線通信が失敗した(又は同一の識別スロットでリーダ1が他の無線タグ回路素子Toに対してタグ情報の送信を許可した)とみなされ、何も信号を送信することなくそのままステップS105へ戻る。
図8は、上記図6の制御手順を行うリーダ1と、上記図7の制御手順を行うL個(リーダ1が往復動する範囲でその通信可能領域20が通過する通信可能範囲に存在する全ての無線タグ回路素子Toの個数。図1参照)の無線タグ回路素子Toとの間で送受される信号のタイムチャートの一例を表す図である。なお、図中横軸には左側から右側に時系列をとって表している。また、この図中においては図示の煩雑を避けるために「Select」コマンドを「S」、「Query」コマンドを「Q」、「RN16」コマンドを「R」、「Ack」コマンドを「A」、タグ情報を「ID」、「QueryRep」コマンドを「QR」と略記している。
この例では、リーダ1が「Query」コマンド又は「QueryRep」コマンドを送信してから一つの無線タグ回路素子Toと信号の送受信を行える分だけの時間枠が1組になって各識別スロットが形成されている。また、この例では、リーダアンテナ3が備える2つのアンテナエレメント3A,3Bのうち横方向アンテナエレメント3Aが最初に送受分離器214に接続されて(図3参照)、つまり最初にリーダ1は偏波面を横方向に向けた電波で無線通信を開始する場合を例にとって表している。なお、リーダ1は折り返し動作前と折り返し動作後で通信可能範囲が略同一の範囲となるよう往復動するものとする。
図8において、まず最初にリーダ1が「Select」コマンドを送信して読み取り試行処理を開始した直後に、同じくリーダ1が「Query」コマンドを送信して当該読み取り試行処理の1回目の識別スロット1が開始される。図示する例において、この「Query」コマンドの送信の直後に、乱数によってスロットカウント値Sが初めから0に生成された無線タグ回路素子To0が1回目の識別スロット1で「RN16」コマンドを送信し、リーダ1とこの無線タグ回路素子To0との間で一連のタグ情報の送受信(図5参照)が行われる。
そしてその後に、リーダ1が「QueryRep」コマンドを送信することで次の識別スロット2が開始され、各無線タグ回路素子Toがその「QueryRep」コマンドを受信してそれぞれのスロットカウント値Sを1減算する。その時点でスロットカウント値Sが0となった無線タグ回路素子Toがあれば当該識別スロット2で「RN16」コマンドを送信し、リーダ1とその無線タグ回路素子Toとの間で送受信が行われる。図示する識別スロット2の例のように、スロットカウント値Sが0になった無線タグ回路素子Toが無い場合は当該識別スロット2での返信はない。
ここで、以上の信号の送受信の例においては、リーダ1は横方向アンテナエレメント3Aを介して偏波面が横向きとなる電波で無線通信を行うため、この際にはリーダアンテナ3と偏波面の方向がほぼ一致する無線タグ回路素子To、つまりタグ側アンテナ151が略横向きの姿勢で配置されている無線タグ回路素子To(全部でL個あるうちの一部;図1参照)との間でのみ信号の送受信が行われることになる。
そして以上のような手順を2Q回目の識別スロットまで繰り返すことにより、一回目の読み取り試行処理1が行われる。ここで、図示する例のように、一つの読み取り試行処理が行われている途中のタイミングで使用者の折り返し動作によりリーダ1の移動方向が切り換えられた場合、現行の読み取り試行処理が最後の2Q回目の識別スロットまで完全に終了した後で(次の読み取り試行処理2を開始する直前のタイミングで)、そのリーダ1の移動方向の切り換えが認識(検出)される(図6のフローにおけるステップS75、ステップS80参照)。そしてその時点で、アンテナエレメント3Aの切り換え(偏波面の切り換え)が行われることになる。すなわち、アンテナエレメント3Aの切り換えは、途中で中断されることのない完全な読み取り試行処理の単位で行われることになる。
そして、以上の例においては、全部でL個存在する無線タグ回路素子Toうちで、リーダアンテナ3と偏波面が一致する一部の無線タグ回路素子Toのタグ情報を、その回の読み取り試行処理における2Q個の識別スロットで受信する。ここで、リーダ1側で用意する識別スロットの数2Q個が通信対象の無線タグ回路素子Toの全個数Lより十分大きく設定されていれば(つまりスロット数指定値Qが十分に大きく設定されていれば)、各無線タグ回路素子Toのスロットカウント値Sが乱数により発生されているために、それぞれの無線タグ回路素子Toが応答信号を送信する識別スロットが2Q個分の識別スロットに渡って均等かつ一意的に分布することが期待できる(これはL個の無線タグ回路素子Toのそれぞれのタグ側アンテナ151が、全てリーダアンテナ3と同じ偏波面方向となる姿勢で配置されている場合でも期待できる)。このようにしてリーダアンテナ3と偏波面が一致する無線タグ回路素子Toの応答信号を一つ一つ衝突・混信させることなく明確に受信することができる。
また、リーダ1側で用意する識別スロットの数(2Q個)が、通信対象となる無線タグ回路素子Toの個数Lに対して必要以上に大きくせず適度な値に設定すれば(すなわちスロット数指定値Qを適切に設定すれば)、読み取り試行処理全体の時間を短くすることができ、効率のよい通信を行うことができる。
そして、リーダ1の移動方向の切り換え(折り返し)が検出されてからその時点で行われている読み取り試行処理が完了次第、アンテナエレメント3Aの接続を切り換えていることで、リーダ1の往復動における折り返し動作から遅れることなく電波の偏波面を切り換えることができる。これにより、L個ある無線タグ回路素子Toのうちで個別に偏波面方向が略縦方向と略横方向で状態が異なっていることに対し、それぞれ折り返し動作前と折り返し動作後でリーダアンテナ3の偏波面をほぼ一致させて良好な無線通信を行うことができる。
以上説明したように、本実施形態において、使用者は、携帯型のリーダ1を用いて複数の無線タグ回路素子Toからの情報取得を図る場合に、リーダ1を手に持って振り回して通信を行う。リーダ1は、振り回されるたびに、同一の無線タグ回路素子Toに対し繰り返して通信を試行する。このような使用者の挙動に対応し、リーダ1の移動時の折り返し動作が3軸加速度センサ9で検出される。
そして、その3軸加速度センサ9の検出結果に応じ、上記使用者の振り回しによる折り返し前と、折り返し後とで、リーダ1から無線タグ回路素子Toまでの偏波面方向が変更される。この結果、折り返し前の通信時における偏波面方向で情報取得がうまくいかなかった無線タグ回路素子Toに対し、折り返し後には別の偏波面方向でリーダ1からの通信が行われることなる。すなわち、折り返しのたびに、同一無線タグ回路素子Toに対し、順次異なる偏波面方向での通信が試行されることとなるので、情報取得確率を向上し、確実に情報を取得することができる。
また、このように、折り返し前と折り返し後とで偏波面方向を切り換え制御することで、特に、無線タグ回路素子Toの姿勢の傾斜による情報取得感度の低下を軽減できる効果もある。
なお、この偏波面方向のように無線通信に影響を与える通信パラメータとしては、他にも指向性、送信出力、伝送速度、送信周波数、送信プロトコル、コマンド種類などがあり、本発明は上記偏波面方向の代わりにこれらの通信パラメータの少なくとも1つを折り返し検出前後で切替制御するようにしてもよい。
このうち、指向性を制御する場合には、例えば指向性の異なる複数のアンテナエレメントを設けて切り換えスイッチ部341により送受分離器214への接続を切り換えるなどの制御方法がある。このような制御により指向性を変える場合には、まずビーム幅が比較的広くなるようにして比較的近い位置にある無線タグ回路素子Toに対し情報取得を行った後、その後ビーム幅が比較的狭くして(アンテナ感度を増大させ)情報取得できなかった比較的遠い位置にある無線タグ回路素子Toに対し情報取得を行うようにすることで、能率のよい情報取得が可能である。
また、送信出力を制御する場合には、例えばCPU4から出力する「TX_PWR」信号によって可変送信アンプ217の増幅率を切り換えるなどの制御方法(図3参照)がある。このような制御により送信出力を変える場合には、まず出力を比較的小さくして比較的近い位置にある無線タグ回路素子Toに対し情報取得を行った後、その後出力を比較的大きくして(アンテナ感度を増大させ)情報取得できなかった比較的遠い位置にある無線タグ回路素子Toに対し情報取得を行うようにすることで、能率のよい情報取得が可能である。
また、送信周波数を制御する場合には、例えばCPU4から出力する制御信号によってRF通信制御部10のPLL215Bからの周波数を切り換えるなどの制御方法(図3参照)がある。このような制御により送信周波数を変える場合には、これによってマルチパス環境を変更することができる。この結果、ヌルポイントの位置に配置されていた無線タグ回路素子Toと通信を行うことが可能となり、情報取得率を向上できる。
また送信プロトコルを変える場合には、複数種類の無線タグ回路素子Toが混在する場合(UHF帯とHF帯とで異なる送信プロトコルを用いる無線タグ回路素子Toが混在する場合も)でも各種類に対応した送信プロトコルで通信を行うことができ、情報取得率を向上できる。
そして、以上に挙げた通信パラメータのうち複数のものを組み合わせて変化させるよう制御してもよい。例えば、折り返し動作を検出するたびに、偏波面方向と送信出力の組み合わせでそれぞれの通信パラメータ条件を交互に切り換えるよう制御することができる。このように、折り返し前と、折り返し後とで、複数種類の通信パラメータについて、パラメータ条件の組合せを変更することが可能となる。すなわち、折り返し前の通信時における通信パラメータ条件の組合せで情報取得がうまくいかなかった無線タグ回路素子Toに対し、折り返し後には別の通信パラメータ条件の組合せで無線タグ情報読み取り装置からの通信が行われることなる。このように複数の通信パラメータのパラメータ条件組合せを変えていくことで、さらに多彩なバリエーションで情報取得を図ることができる。この結果、情報取得確率をさらに高め、確実に情報を取得することができる。
さらに、このように複数の通信パラメータを組み合わせて変化させるよう制御する場合に、それら複数の通信パラメータに関するそれぞれのパラメータ条件の組み合わせと、それらパラメータ条件の複数の組合せそれぞれにおけるステップS75、ステップS80、ステップS85、ステップS90の手順での受信結果とを、対応づけて相関として不揮発性記憶装置5に格納するようにしてもよい(履歴記憶手段)。そして不揮発性記憶装置5に記憶された相関を参照し、受信結果が良好なものを優先的に用いてパラメータ条件の組合せの切り替えを行うことが可能となる。この結果、過去の実績の履歴に対応して、リーダ1の使用環境において効率の高いパラメータ条件の組合せを用い、確実に情報取得を行うことができる。
また、この実施形態では特に、折り返し動作前の通信で上記図6のフローにおけるステップS35〜ステップS50の手順での応答信号の受信が全ての識別スロットで完了した後に、ステップS75〜ステップS90の手順で偏波面方向を変化(アンテナエレメント3A,3Bの接続を切り換え)させる。つまり、読み取り試行処理の最中に折り返し動作が行われた場合でも、その読み取り試行処理(2Q個の識別スロット)が完了した後に偏波面方向を変化させている。これにより、折り返し前における無線タグ回路素子Toとの通信が正しく完了しなくなること、及び、折り返し後において新たに開始された無線タグ回路素子Toとの通信においてエラーが発生することを防止することができる。この結果、精度の高い情報送受信を行うことができる。
なお、本発明は、上記に限られるものではなく、その趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を順を追って説明する。
(1)読み取り試行処理を中断して通信パラメータを変化させる場合
上記実施形態では、読み取り試行処理の最中に折り返し動作が行われた場合でも、その読み取り試行処理(2Q個の識別スロット)が完了した後に通信パラメータを変化させていたが、本発明はこれに限られず、例えば読み取り試行処理の最中であってもリーダ1の折り返し動作がリアルタイムで検出された際にはその読み取り試行処理を中断して通信パラメータを変化させるよう処理してもよい。
図9は、本変形例のリーダ1によって行われる無線タグTの読み取り処理において、CPU4によって実行される制御手順を表すフローチャートであり、上記実施形態における図6に相当するものである。
この図9のフローは概略的に図6のフローとほぼ同じであり、以下の点のみが異なる。すなわち、図6のフローにおいてリーダ1の移動方向の折り返しを検出するステップS75、ステップS80の制御手順をステップS55とステップS60の間に移行してステップS57、ステップS59として行う。また、ステップS85とステップS90の間に新たにステップS86の手順を設ける。さらに、ステップS60の判定で最後の識別スロットが終了したと判定された場合にステップS20へ戻る点である。以下、上記の相違する手順のみを説明する。
図9において、ステップS55で変数Cの値が1増加された後、ステップS57へ移り、上記図6のフローにおけるステップS75と同様の処理によりその時点でのリーダ1の移動方向の検出と移動方向D2への記憶保持を行う。
その後、次のステップS59で、上記図6のフローにおけるステップS75と同様、移動方向D1と移動方向D2が一致するか否かを判定してリーダ1の折り返し動作を検出する。移動方向D1と移動方向D2とが一致した場合、ステップS59の判定が満たされ、すなわちリーダ1が同じ方向に移動し続けているものとみなされて、そのままステップS60へ移る。
ステップS60の判定において、変数Cの値が2Qより小さい場合、判定が満たされ、すなわち現行の読み取り試行処理が終了していないものとみなされて、次のステップS70へ移る。一方、変数Cの値が2Q以上である場合、判定が満たされず、すなわち当該読み取り試行処理における最後の識別スロットが終了したものとみなされて、ステップS20へ戻り、同様の手順を繰り返して新たな読み取り試行処理を開始する。
また一方、上記ステップS59の判定において、移動方向D1と移動方向D2とが一致しない場合、すなわちリーダ1の移動が方向転換した場合、判定が満たされず、つまりこの例においてリーダ1の移動が逆方向に折り返されたものとみなされて、次のステップS85に移る。ステップS85では、移動方向D1の内容を移動方向D2の内容に変更し、その後ステップS86でリーダアンテナ3を介して「QueryAdjust」コマンドを各無線タグ回路素子Toに発信する。そして次のステップS90で、切り換えスイッチ部341に制御信号を出力して送受分離器214を他方のアンテナエレメントに接続するよう切り換えた後、ステップS20へ戻り、同様の手順を繰り返して新たな読み取り試行処理を開始する。他の手順については、図6と同様であるので、説明を省略する。また、本変形例の無線タグ回路素子Toの制御部157の制御手順は、上記図7に示したものと同様である。
以上において、上記図9のフローにおけるステップS57、ステップS59、ステップS85、ステップS86、ステップS90の手順が各請求項記載の通信制御手段として機能する。
図10は、上記図9の制御手順を行うリーダ1と、上記図7の制御手順を行うL個の無線タグ回路素子Toとの間で送受される信号のタイムチャートの一例を表す図であり、上記実施形態における図8に相当するものである。なお、この図10においては「QueryAdjust」コマンドを「QA」と略記している。
本変形例では、前述したように、読み取り試行処理の実行中において各識別スロットが終了する度にリーダ1の折り返し動作の検出が行われる(図9のフローにおけるステップS57、ステップS59参照)。そして図10に示す例のように、最初に行われる読み取り試行処理1の途中のM(≦2Q)番目の識別スロットMが終了した時点でリーダ1の折り返し動作が検出された場合、当該識別スロットMの直後にリーダ1から「QueryAdjust」コマンドが送信され、この「QueryAdjust」コマンドを受信した全ての無線タグ回路素子Toは各種設定をリセットして待機状態を解除し、現行の読み取り試行処理が中断される。
そしてすぐにアンテナエレメント3A,3Bの切り換え(偏波面の切り換え)が行われたのち、リーダ1から「Select」コマンドを送信して新たな読み取り試行処理が開始される。そして「Query」コマンドから始まる1回目の識別スロットと「QueryRep」コマンドから始まる2回目以降の識別スロットの繰り返しによって折り返し動作後の読み取り試行処理が行われることになる。これにより、リーダ1の往復動における折り返し動作とほぼ同じタイミングで電波の偏波面を切り換えることができる。
これにより、リーダ1の往復動における折り返し前の往路と折り返し後の復路で、それぞれ異なる偏波面方向での無線通信を正確に分けて行えるため、特に折り返し後の復路における無線タグ回路素子Toの読み漏らしを防ぐことができる。この結果、精度の高い情報送受信を行うことができる。
(2)異なる2つの移動経路方向でそれぞれ異なる通信パラメータを変化させる場合
上記実施形態及び上記第1変形例では、リーダ1は左右の移動経路方向で往復動させたが、これに限られず、上下の移動経路方向や斜め方向の移動経路方向で往復動させてもよいし、往復動の往路と経路が円弧状となる楕円形状の往復動でもよい(往路と複路の折り返しを検出できる限りにおいて、ほぼ円形に近い形で運動させてもよい)。さらに、これら種々の移動経路方向のうち、各移動経路方向ごとに折り返し時に変化させる通信パラメータを異ならせるようにしてもよい。
例えば、図1に対応する図11に示すように、使用者はリーダ1の筐体全体を略水平とする基準姿勢で保持しつつ、左右の移動経路方向の往復動と別に上下の移動経路方向の往復動も行うことで、より広い範囲での無線タグTの読み取り管理を行うことができる(図中では上下の移動経路方向の往復動を斜視で表している)。
図12は、本変形例のリーダ1によって行われる無線タグTの読み取り処理において、CPU4によって実行される制御手順を表すフローチャートであり、上記第1変形例における図9に相当するものである。本変形例は、左右方向の往復動においては偏波面を切り換える制御を行い、上下方向の往復動においては送信周波数を変化させる制御を行う場合の例である。
この図12のフローは概略的に図9のフローとほぼ同じであり、以下の点のみが異なる。すなわち、図9のフローにおける移動方向D1の内容を最も新しく検出した移動方向D2の内容に変更するステップS85の手順を、ステップS90の後のステップS95として行う。また、ステップS86とステップS90の間に新たにステップS87を設け、このステップS87の判定が満たされた場合にステップS90の手順へ移り、判定が満たされない場合に新たに設けたステップS98の手順へ移る点である。以下、上記の相違する手順のみを説明する。
図12において、ステップS59の判定で移動方向D1と移動方向D2とが一致しない場合、判定が満たされず、すなわちリーダ1の移動方向が変化したものとみなしてステップS86へ移る。ここで、本変形例における移動方向D1、D2の検出については、3軸加速度センサ9における3軸方向(リーダ1の筐体の長手方向、幅方向、厚さ方向)のうちで最も大きく検出される移動方向成分の方向を主要移動方向として検出されるものとする。つまりリーダ1が多少傾斜するように移動した場合でも3軸方向で最も近い軸方向を移動方向D1,D2として検出する(前述したように移動方向D1,D2の内容は3軸のいずれかの一方の向きを区別できるだけの単純な符号や記号が入る)。
次にステップS86で、「QueryAdjust」コマンドを各無線タグ回路素子Toに発信して読み取り試行処理を中断した後、ステップS87で移動方向D2は左右方向であるか否か、つまり移動方向D2の内容は右方向又は左方向を表す内容であるか否かを判定する。移動方向D2の内容が右方向又は左方向を表す内容である場合、つまりリーダ1の折り返し動作が左右方向での折り返しである場合、判定が満たされ、ステップS90へ移ってアンテナエレメント3A,3Bの接続を切り換え(偏波面を切り換え)、次のステップS95で移動方向D1の内容を最も新しく検出した移動方向D2の内容に変更した後、ステップS20へ戻って新たな読み取り試行処理を開始する。
一方、移動方向D2の内容が上方向又は下方向を表す内容である場合、つまりリーダ1の折り返し動作が上下方向での折り返しである場合、ステップS86の判定が満たされず、ステップS98へ移る。ステップS98では、RF通信制御部10のPLL215Bへ出力する制御信号を変化させることにより例えば915MHzと927MHzのような2種類の送信周波数を順次変化させてステップS95へ移る。他の手順については、図9と同様であり、説明を省略する。なお、無線タグ回路素子Toの制御部157は、上記第1変形例の場合と同じ図7のフローを実行すれば足りる。
以上において、上記図12のフローにおけるステップS57、ステップS59、ステップS86、ステップS87、ステップS90、ステップS98、ステップS95の手順が各請求項記載の通信制御手段として機能する。
以上説明したように、本変形例においては、折り返し前と折り返し後とで通信パラメータを変更するとき、移動経路の方向ごとに、互いに異なった態様で変更を行うことができる。この結果、さらに多彩なバリエーションで情報取得を図ることができるので、情報取得確率を向上することができる。また上記以外にも、複数の通信パラメータの組合せを変更することも可能である(例えば水平移動の場合、指向性と偏波面の組み合わせパターンから、鉛直方向の場合はプロトコルと周波数の組み合わせパターンから選択するなども可能)。
さらに、例えば送信出力や送信周波数のように量的に(連続的に)変化できる通信パラメータである場合、その同じ通信パラメータについて異なる移動経路方向でそれぞれの折り返し時に変化させる量を異ならせるようにしてもよい。例えば同じ送信出力の通信パラメータである空中線電力を変化させる場合であって、左右の移動経路方向では空中線電力を10mWと50mWの切り換えで変化させ、上下の移動経路方向では空中線電力を200mWと1Wの切り換えで変化させるようにしてもよい。
また特に、リーダ1を円運動させる場合などのように2つの移動経路方向で同時に往復動させる移動態様に本変形例を適用する場合には、3軸加速度センサ9の各方向についての移動速度の向きの変化(折り返し)をそれぞれリアルタイムに検出して個別に同期させるよう通信パラメータを変化させればよい。あるいは、円運動時には、その円を貫通するある直線を仮想し、円運動における速度や加速度のうち、その直線に沿った成分のみを(例えば演算で)抽出することにより上記直線上の往復反復運動に変換し、そのときに周期的に発生する折り返しを検出して通信パラメータを変化するようにしてもよい。これらのようにして、円運動にも対応することができる。
(3)往復動の周期長で通信パラメータを変化させる場合
上記実施形態及び各変形例では、リーダ1の往復動における折り返し動作の検出をきっかけにその前後で通信パラメータを変化させたが、本発明はこれに限られず、例えばリーダ1の往復動の周期の長さに応じて通信パラメータを変化させるようにしてもよい。
図13は、本変形例のリーダ1によって行われる無線タグTの読み取り処理において、CPU4によって実行される制御手順を表すフローチャートであり、上記第1変形例における図9に相当するものである。なお、本変形例では、一回の読み取り試行処理において通常行わせる識別スロット数の設定要素であるスロット数指定値Qを、変化させる対象の通信パラメータとし、本変形例のハードウエア構成ではアンテナエレメントを一つだけ備えてそれを常に送受分離器214に接続させた場合を例にとっている(特に図示せず)。
この図13のフローは概略的に図9のフローとほぼ同じであり、基本的には図9のフローのステップS90に代えて、新たにステップS88、ステップS89、ステップS97′、ステップS97、ステップS99′ステップS99を設けた点が異なるのみである。以下、上記の相違する手順のみを説明する。
図13において、ステップS86で、「QueryAdjust」コマンドを各無線タグ回路素子Toに発信して読み取り試行処理を中断した後、次のステップS88でリーダ1を往復動させる周期(反復移動時の反復周期)がそれ以前より短くなったか否かを判定する。この往復動の周期の検出は、例えば特に図示しないタイマなどによる時間計測によって(加速度センサ9で検出したリーダ1の折り返し動作に基づき)その折り返し動作間で要した時間の長さで検出するなどの方法がある。往復動周期が特に短くなっていない場合、ステップS88の判定が満たされず、次のステップS89へ移り往復動周期がそれ以前より長くなったか否かを判定する。往復動周期が特に長くなっていない場合、ステップS88の判定が満たされず、すなわち往復動周期に変化がないものとみなされてそのままステップS20へ戻り、新たな読み取り試行処理を開始する。
一方、上記ステップS88の判定において往復動周期が特に短くなっている場合、判定が満たされ、ステップS97′において通信範囲縮小処理(送信電力を下げる等)を行った後、ステップS97でスロット数指定値Qの値を1減少して(つまり一回の読み取り試行処理で通常行う識別スロットの数2Qを半分に再設定して)ステップS20へ戻る。
また一方、上記ステップS89の判定において往復動周期が特に長くなっている場合、判定が満たされ、ステップS99′において通信範囲拡大処理(送信電力を上げる等)を行った後、ステップS99でスロット数指定値Qの値を1増加して(つまり一回の読み取り試行処理で通常行う識別スロットの数2Qを2倍に再設定して)ステップS20へ戻る。他の手順については、図9と同様であり、説明を省略する。なお、無線タグ回路素子Toの制御部157は、上記第1変形例の場合と同じ図7のフローを実行すればよい。
以上において、上記図13のフローにおけるステップS57、ステップS59、ステップS85、ステップS86、ステップS88、ステップS97′、ステップS97、ステップS89、ステップS99′、ステップS99の手順が各請求項記載の通信制御手段として機能する。
以上のように構成した本変形例においては、反復周期(往復動周期)が短いときには、使用者が綿密な探索を意図していることが予想されることから、(例えばビームを絞った指向性とする、送信出力を小さくする等により)通信範囲を縮小し、対象となる無線タグ回路素子Toを絞り込むようにすることが可能となる。また、反復周期が長いときには、操作者が広い探索範囲に対し比較的大ざっぱな探索を意図していることが予想されることから、(例えばビームを広げた指向性とする、送信出力を大きくする等により)通信範囲を拡大してより広い範囲の無線タグ回路素子Toと通信を行えるようにすることが可能となる。これらのような態様とすることで、使用者の意図に合致したより利便性の高い情報取得を行うことができる。なお、上記フローでは、ステップS59の判定が満たされないとき、すなわちリーダ1の移動が折り返され移動方向が変わったときにステップS88やステップS89で往復周期が短期化したか、あるいは長期化したかを検出するようにしているが、これに限られない。すなわちリーダ1の折り返しの有無に関係なく、単に往復周期が短期化したか長期化したかを判定するようにしてもよい。
また、この変形例では特に、リーダ1の反復移動時の前記反復周期(短周期反復か、長周期反復か)に応じて、識別スロット数が異なるコマンド種類(具体的にはスロット数指定値Qが異なるコマンド種類)を切替制御している。これにより、反復周期が短いときにおいて、識別スロット数を少なくすることで通信範囲を縮小することが可能となる。この結果、対象となる無線タグ回路素子Toを絞り込むことができる。
またリーダ1の移動速度が速く、反復周期が短いときに、一回の読み取り試行処理における識別スロット数を少なくする(スロット数指定値Qを減らす)ことから、リーダ1の折り返し動作間の一度の移動において行える読み取り試行回数(読み取り試行処理を行う回数)を増やすことができ、つまり上記の「Query」コマンドの送信回数を増やすことができることから、通信可能領域20の移動による無線タグ回路素子Toの読み漏らしを低減させることができる。
なお、この変形例で反復周期に応じて変化させる通信パラメータは上記のような識別スロットの数に限られず、例えば伝送速度を変更制御することも有用である。この伝送速度の増減制御の具体的な手段としては、例えばリーダ1全体の動作クロック数を増減させたり、又はRF通信制御部10において各コマンドを伝送する際の送信ビットレートを増減させるなどの方法がある。この場合、動作クロック数又は送信ビットレートを増加させると、応答要求コマンド及び各識別スロットの所要時間が短くなり、すなわち1回の読み取り試行処理全体の所要時間を短くすることができる。無線タグ回路素子Toにおける動作クロック、送信ビットレートについても同調させて同じように増減制御すればよい。
これにより、反復周期が短いときに伝送速度を上げて無線タグ回路素子Toとの通信が短い時間内に完了するようにしたり、反復周期が長いときに伝送速度を下げて雑音に強い通信とすることが可能となる。なお、リーダ1の往復動周期の長さの比較については、上記のように折り返し動作間の所要時間を計測して比較する以外にも、折り返し動作間におけるリーダ1の平均移動速度を比較しても同等の比較判定を行うことができる。
なお、以上で用いた「Select」コマンド、「Query」コマンド、「RN16」コマンド、「Ack」コマンド、「QueryRep」コマンド、「QueryAdjust」コマンド等は、EPC globalが策定した仕様に準拠しているものとする。EPC globalは、流通コードの国際機関である国際EAN協会と、米国の流通コード機関であるUniformed Code Council(UCC)が共同で設立した非営利法人である。なお、他の規格に準拠した信号でも、同様の機能を果たすものであればよい。
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。