JP4976116B2 - ガスバリア積層体 - Google Patents

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本発明は、食品包装、医薬包装、太陽電池、液晶や有機EL(エレクトロルミネッセンス)等のディスプレイ等に用いられるガスバリア積層体に関し、特に、透明性、ガスバリア性、耐久性、及び信頼性に優れたガスバリア積層体に関する。
食品包装や医薬包装においては、各種の透明ガスバリアフィルムが使用されている。これら透明ガスバリアフィルムには、内容物が十分に確認できる透明性と、酸素や水蒸気などのガスを遮断するガスバリア性の能力が必要である。同様に、太陽電池においても、太陽光を透過させる透光性と、アモルファスシリコンなどの光電変換層を保護するためのガスバリア性を併せ持つ基板やカバーフィルムが必要である。また、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイにおいても、高輝度化のための透明性と、液晶材料や発光物質を水分から保護するためのガスバリア性を併せ持つ基板やカバーフィルムが必要である。
透明ガスバリアフィルムとしては、塩化ビニリデン、ナイロン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体などからなる樹脂フィルム、あるいは、これら樹脂フィルム上に、酸化シリコンやアルミナなどからなる無機膜を形成した積層フィルムが知られており、特に、酸化シリコン膜を樹脂フィルム上に形成した積層フィルムが汎用されている。また、無機膜の成膜の手法としては、蒸着法、スパッタ法、化学気相成長法(CVD法)が知られている。
近年、透明ガスバリアフィルムに要望される透明性とガスバリア性は高度化しており、例えば、ガスバリア性に関しては、いかなる温湿度条件でも、酸素透過率が0.1cc/m・日以下、水蒸気透過率(透湿度)が0.1g/m・日以下といった高度なガスバリア性が要求されている。加えて、折り曲げても悪化しない耐久性、更に、高温高湿下の長期保管においても経時劣化しない信頼性が要求されている。この様な透明性、ガスバリア性、耐久性や信頼性を達成することは、樹脂フィルム単体では困難であり、他方、無機膜を成膜した積層フィルムにおいても、曲げられた時に発生する膜クラックや、樹脂フィルムと無機膜の界面剥離などの問題から容易ではない。
これらの問題を解決するには、複数の技術の融合が必要である。本発明者らは、樹脂フィルム(以下、「基板」ともいう。)上に無機膜を積層したガスバリアフィルム(以下、「ガスバリア積層体」ともいう。)において、以下の要素技術が必要であると考える。
(1) 緻密な構造を持つ無機材料を選定すること
(2) 無機膜の構造が緻密となる成膜方法を選定すること
(3) 基板自体がガスバリア性に優れること
(4) 基板が、緻密な無機膜の形成に必要な耐熱性を有すること
(5) 基板と無機膜の密着性を高め、かつ膜クラックを防止する緩衝層を設けること
(6) 基板の表面が平滑であり、異物や傷が無いこと
(7) 基板が、無機膜の形成を阻害する揮発ガスを含まないこと
(1) に関しては、一般的に、窒化シリコンが酸化シリコンよりも緻密な膜を形成し、高温(例えば300℃)で成膜された窒化シリコン膜は高いガスバリア性を有することが報告されている。しかし、緻密なだけにもろく、積層フィルムを曲げた際に、膜クラックが生じることもよく知られている。また、(2) に関しては、窒化シリコンを用いて、触媒化学気相成長法(触媒CVD法)により低温でガスバリア膜を形成する手法が提案されている(例えば特許文献1)。なお、ここで言う触媒化学気相成長法とは、材料ガスを供給するガス供給部と、通電加熱されたワイヤと、基板の温度を制御し得る基板ホルダとを真空容器内に設け、材料ガスを通電加熱されたワイヤで接触分解させ、基板上に膜を形成するというものである。
特開2004−292877号公報
しかし、特許文献1にも記載されているとおり、窒化シリコンを用いた低温(160℃以下)での成膜では、樹脂フィルムと窒化シリコンの密着性が低く、窒化シリコン膜が黄色くなりやすく、かつ、膜密度が低いため十分にガスバリア性が発現しない。特許文献1では、触媒化学気相成長法において、材料ガスであるモノシラン、アンモニア、及び水素の導入量を制御することにより、0.3g/m・日以下の水蒸気バリア性を発現させているが、より高度なガスバリア性、屈曲に対する耐久性、長期の高温高湿に対する信頼性などは評価されていない。より高いガスバリア性、耐久性、信頼性を確保するためには、上述した(3) 〜(7) の要素技術を導入する必要がある。また、触媒化学気相成長法による酸化シリコン膜や窒化シリコン膜の形成においては、一般的に、材料ガスとして危険なシランガスを用いるため、安全性の高い製造方法とは言えない。
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、透明性、ガスバリア性、耐久性及び信頼性に優れたガスバリア積層体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意検討した結果、基板としてポリビニルアルコール系樹脂よりなる基板、または光硬化性樹脂よりなる基板を用いることに着目し、かかる基板の少なくとも片面に、酸化シリコンを主成分とする膜Aと、窒化シリコンを主成分とする膜Bとが、この順で形成されたガスバリア積層体によって、透明性、ガスバリア性、耐久性、信頼性が達成されることを見出した。
上記(3) の説明通り、高いガスバリア性を有するガスバリア積層体を得るためには、基板自体もガスバリア性に優れていなければならない。一般的に、ポリビニルアルコール系樹脂はガスバリア樹脂として知られており、例えば、厚さ20μmのフィルムにおいて、測定湿度が比較的低いと(例えば23℃70%RH以下)、0.1cc/m・日以下の酸素透過率を有する。また、光硬化性樹脂は三次元の架橋構造を有するため、一般的な熱可塑性樹脂よりもガスバリア性に優れる。
また、上記(4) の説明通り、高いガスバリア性を有するガスバリア積層体を得るためには、基板が、緻密な無機膜の形成に必要な耐熱性を有している必要が有る。緻密な窒化シリコン膜を形成するには、本来、できるだけ高温で成膜する必要が有る。特許文献1のように、成膜条件を工夫し、160℃以下で成膜することも可能であるが、製造歩留まりを考えると、160℃より高い耐熱性を有する樹脂基板に、できるだけ高温で成膜することが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂は結晶性の樹脂として知られ、高度に結晶化したフィルムの耐熱性は200℃である。また、光硬化性樹脂は、高度な架橋構造を有する硬化物となることにより、200℃以上の耐熱性を満足できる。
更に、上記(5) の説明通り、ガスバリア性の耐久性や信頼性を確保するには、基板と無機膜の密着性を高め、かつ膜クラックを防止する緩衝層を設けることが効果的である。両者の密着性を高めることにより、屈曲に対する耐久性や、高温高湿下における長期保管中も基板と無機膜が剥離しないなどの信頼性が得られる。例えば、もろい窒化シリコン膜(SiN)の下地として、比較的柔らかい酸化シリコン膜(SiO)を形成すると、屈曲に対する緩衝層として効果的である。なお、SiNのyは、珪素(Si)の原子数を1とした場合の窒素(N)原子数の比率であり、SiOのxは、珪素(Si)の原子数を1とした場合の酸素(O)原子数の比率である。また、SiOのxとyは、珪素(Si)の原子数を1とした場合の酸素(O)と窒素(N)それぞれの比率である。
化学気相成長法によって、酸化窒化シリコン膜(SiO)を単層で成膜することも可能であるが、この場合、ガスバリア性と耐膜クラック性という相反する問題を解決できない。すなわち、x>yであると、ガスバリア性が確保できない。ガスバリア性を向上するためには、x<yが好ましいが、膜クラックが発生しやすく、耐久性や信頼性を確保できない。x=yでは、ガスバリア性、耐久性、信頼性のいずれも不十分なガスバリア膜しか得られない。ガスバリア性を確保するための窒化シリコンを主成分とした膜Bと、無機膜と基板との密着性、ガスバリアの耐久性、及び信頼性を確保するための酸化シリコンを主成分とした膜Aは、それぞれの機能を十分確保した形で積層される。
膜Aと膜Bは、プラズマCVD法や光CVD法などのCVD法によって成膜しても良いが、触媒CVD法による成膜がガスバリア性を安定して担保する点で好ましい。
なお、膜Aと膜Bは、明確な界面を持つ必要は無い。膜Aと膜Bの密着性や生産性を考慮すると、両膜は連続して成膜されることが好ましく、この場合、界面近傍の組成が、SiOとなるのは当然である。具体的には、SiOを主成分とする膜Aは、材料ガスとして酸素を導入しながら成膜され、所定の膜厚になった時に酸素の導入を中止し、SiNを主成分とする膜Bが成膜される。酸素の導入を中止した時点においても、真空炉内には残存酸素が存在するため、膜Aと膜Bの界面近傍にはSiOの中間層が形成される。しかし、この場合においても、屈折率、赤外分光、オージェ電子分光(AES)、X線光電子分光(XPS)などの分析手法で、膜厚方向の組成分布は評価できる。すなわち、酸化シリコンが主成分か、あるいは窒化シリコンが主成分かの判断は容易である。これらの測定方法を用いると、膜厚だけではなく、面内の組成分布も評価できる。また、膜Aと基板との間に、密着性を高めるための有機コート層などの層が介在していても良い。
膜A及び膜Bは、基板の両面に形成しても良い。両面に成膜することにより、より高いガスバリア性が得られる。また、基板の表裏面における層構成を、基板の面方向を軸として対称とすることにより、ガスバリア積層体の反りを低減できる。
本発明のガスバリア積層体は、膜A及び膜Bが、この順で、基板の同一面上に複数回積層された構造を有することが好ましい。例えば、基板/膜A/膜B/膜A/膜Bのように膜A及び膜Bが基板の同一面上に2回積層されていても良い。また、基板/膜A/膜B/膜A/膜B/膜Aのように膜Aの数が膜Bの数よりも多くなる積層構造であっても良い。複数回積層することによりガスバリア性が向上する。しかしながら、過度の積層はガスバリア積層体の柔軟性を損ない、かつ反り、うねりの原因となる傾向がある。なお、複数回積層する際の成膜も連続して行うことが、密着性や生産性の点で好ましい。
本発明のガスバリア積層体は、好ましくは触媒CVD法を用いて製造される。中でも、真空容器内に、ヘキサメチルジシラザン、酸素、アンモニア及び水素を供給するとともに、通電加熱されたワイヤで接触分解させる工程と、樹脂基板上に化学気相成長法により、酸化シリコンを主成分とする膜A、および窒化シリコンを主成分とする膜Bを連続成膜する工程とを含む製造方法が特に好ましい。前述の通り、触媒CVD法による酸化シリコン膜や窒化シリコン膜の形成においては、一般的に、材料ガスとして危険なシランガスを用いるが、シランガスに替えて、ヘキサメチルジシラザンを用いることにより、安全性の高い製造が可能となる。
本発明において、基板の膜厚は10〜500μm、膜A及び膜Bの膜厚は、それぞれ10〜1000nmであることが好ましい。また、膜Bの膜厚と膜Aの膜厚の比率(B/A)は0.5〜2であることが好ましく、特には1〜1.5であることが好ましい。さらに、膜Bは160℃より高い温度の基板上に成膜されることが好ましく、膜Aは160℃以下の基板表面に成膜されることが好ましい。
本発明において、基板の少なくとも片面、言い換えれば膜Aが形成される側の基板面の表面粗さRa(JIS B0601:2001)は、100nm以下であることが好ましく、特にはその反対面の表面粗さRaも100nm以下であることが好ましい。上記(6)
の説明通り、高いガスバリア性を有するガスバリア積層体を得るためには、基板の表面が平滑であり、異物や傷が無いことが重要である。ポリビニルアルコール系樹脂よりなる基板は、ポリビニルアルコール系フィルム自体が平滑な液晶偏光板用の光学フィルムとして用いられているので、高い表面平滑性を有する。また、光硬化性樹脂よりなる基板は、一般的に、光学研磨ガラスを型として用いた光硬化により成形された成形体であり、その表面は光学研磨ガラス並に平滑である。両基板は共に、光学用途に使用されるため、クリーン環境で製造されることが多く、その場合、異物や傷も少ない。
上記(7) の説明通り、基板は無機膜の形成を阻害する揮発ガスを含まないことが必要である。ポリビニルアルコール系樹脂や光硬化性樹脂は、触媒CVD法により高温でガスバリア膜を形成する場合においても、膜Aや膜Bの形成を阻害する揮発ガスを放出しない。
本発明のガスバリア積層体は、上記のガスバリア積層体の少なくとも片面に、屈折率1.6以下の樹脂よりなり、かつ外側の膜(膜A又は膜B)を保護する保護膜が更に形成されていることが好ましく、この保護膜が形成されたガスバリア積層体は光線透過率が80%以上であることがより好ましい。上記特許文献1のように、最外層に窒化シリコン膜が存在すると、傷が入りやすいばかりではなく、屈曲したときに膜クラックが生じる傾向がある。最外層に保護膜を形成することにより、屈曲に対する耐久性や、長期保管に対する信頼性を向上させることができる。
また、最外層に窒化シリコン膜が存在すると、表面反射率の増大により、ガスバリア積層体の光線透過率が低下する傾向がある。例えば、屈折率1.5の一般的な透明樹脂フィルムの両面に、屈折率2.0の窒化シリコン膜が存在すると、光線透過率は74%程度に低下することがある。このフィルムの両面(窒化シリコン膜上)に、屈折率1.5の樹脂を用いて保護膜を更に形成すると、光線透過率は84%に向上する。
本発明のガスバリア積層体は、透明性、ガスバリア性に優れ、さらに耐久性と信頼性に優れるから、食品包装や医薬包装などの包装材料に、太陽電池または液晶もしくは有機ELのディスプレイの基板やカバーフィルムに好適に用いることができる。また、安全性の高い方法で容易に製造することができる。
以下、本発明につき更に詳細に説明する。なお、以下において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である。
図1は、本発明のガスバリア積層体を模式的に示す断面図である。本発明のガスバリア積層体は、基板と、基板の少なくとも一方面に形成され、かつ酸化シリコンを主成分とする膜Aと、膜A面に形成され、かつ窒化シリコンを主成分とする膜Bとを有する。基板としては、ポリビニルアルコール系樹脂よりなる基板、または光硬化性樹脂よりなる基板を用いることができるが、本発明では光硬化性樹脂よりなる基板を用いる。以下、本発明のガスバリア積層体を構成する各要素について説明する。
〔ポリビニルアルコール系樹脂よりなる基板〕
まず、本発明で使用されるポリビニルアルコール系樹脂について説明する。本発明で用いるポリビニルアルコール系樹脂としては、特に限定されず、公知の方法で製造できるものを使用することができる。例えば、ビニルエステル系化合物を重合して得られたビニルエステル系重合体をケン化して得られるものである。かかるビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が単独又は併用で用いられるが、実用上は酢酸ビニルが好適である。
また、本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲において、他の単量体を0.5〜10モル%程度共重合させることも可能である。かかる単量体としては、例えばプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類;N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド;アリルトリメチルアンモニウムクロライド;ジメチルジアリルアンモニウムクロリド;ジメチルアリルビニルケトン;N−ビニルピロリドン;塩化ビニル;塩化ビニリデン;ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート;ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド;ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル;ポリオキシエチレンビニルエーテル;ポリオキシプロピレンビニルエーテル;ポリオキシエチレンアリルアミン;ポリオキシプロピレンアリルアミン;ポリオキシエチレンビニルアミン;ポリオキシプロピレンビニルアミン;3,4−ジアセトキシ−1−ブテン;ビニルエチルカーボネート;酢酸イソプロペニル等を挙げることができる。
重合(あるいは共重合)を行うに当たっては、特に制限はなく公知の重合方法が任意に用いられるが、通常は、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。勿論、乳化重合、懸濁重合も可能である。また、重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行われ、反応温度は35℃〜200℃(さらに好ましくは50〜80℃)程度の範囲から選択される。
得られたビニルエステル系重合体をケン化するにあたっては、該重合体をアルコール又はアルコール/脂肪酸エステル系混合溶媒に溶解してアルカリ触媒の存在下に行なわれる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。脂肪酸エステル系溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。必要に応じて、他にベンゼンやヘキサン等を併用してもよい。溶液中の共重合体の濃度は、20〜50質量%の範囲から選ばれる。
ケン化触媒としては、アルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられ、アルカリ金属のアルコラートとしては、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等が挙げられる。かかる触媒の使用量は、ビニルエステル系共重合体に対して1〜100ミリモル当量が好ましい。なお、場合によっては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸等の酸触媒によりケン化することも可能である。
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は90モル%以上(さらには95モル%以上、特には99モル%以上)のものが好ましく、かかるケン化度が小さすぎると、耐水性が低下する傾向にある。
さらに、本発明に用いるポリビニルアルコール系樹脂は、耐熱性や着色防止能の向上のために、含有される酢酸ナトリウムの量を0.8質量%以下(さらには0.5質量%以下)に調整することが好ましい。
上記の如きポリビニルアルコール系樹脂を用いてポリビニルアルコール系フィルムを製造する方法は、特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。以下に製造例を挙げるが、ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
ポリビニルアルコール系フィルムの製造(製膜)に用いるポリビニルアルコール系樹脂溶液としては、ポリビニルアルコール系樹脂含有量(濃度)が5〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%のポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用いることができる。
また、かかる水溶液には、必要に応じて、エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコール類、フェノール系やアミン系等の抗酸化剤、リン酸エステル類等の安定剤、着色料、香料、増量剤、消包剤、剥離剤、紫外線吸収剤、無機粉体、界面活性剤等の通常の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲内において、適宜配合しても差し支えない。さらに、澱粉、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のポリビニルアルコール以外の水溶性樹脂を水溶液に混合してもよい。
次いで、上記で調製したポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、製膜機(押出機)により、製膜される。押出機での溶融混練温度は、55〜140℃、さらには55〜130℃が好ましく、かかる温度が低すぎるとフィルム肌の不良を招き、高すぎると発泡現象を招く傾向がある。押出製膜されたフィルムは、次いで乾燥される。このときの乾燥温度は、70〜120℃、さらには80〜100℃で行うことが好ましく、かかる温度が低すぎるとフィルムの乾燥時間が不必要に長くなったり、水分が残りすぎてしまって後工程に悪影響を及ぼす可能性があり、逆に高すぎるとフィルムの水分が失われすぎて硬くなってしまい、後で延伸工程を要する場合には延伸工程で充分延伸ができなくなってしまう傾向がある。
かくして、ポリビニルアルコール系フィルムが得られる。本発明においては、生産性向上のために、かかるフィルムが延伸されていることが好ましく、延伸方法について以下に説明する。
延伸するにあたっては、縦(機械)方向に一軸延伸してもよいが、縦・横両方向に二軸延伸することが、生産性の点で好ましい。かかる二軸延伸は、逐次二軸延伸あるいは同時二軸延伸のどちらでもよい。二軸延伸するにあたっては、上記で得られたポリビニルアルコール系フィルムの含水率を5〜30質量%、さらには20〜30質量%に調整しておくことが好ましく、かかる含水率が上記範囲外では、延伸倍率を充分に高められなくなる傾向がある。かかる含水率の調整の時期や方法は特に制限はなく、上記のポリビニルアルコール系フィルムの乾燥時に含水率を調整したり、含水率5質量%未満のポリビニルアルコール系フィルムを水浸漬、水噴霧あるいは調湿等を施して含水率を調整したりする方法等を挙げることができる。
二軸延伸を施した後は、熱固定を行うことが好ましく、かかる熱固定の温度は、ポリビニルアルコール系樹脂の融点より低い温度を選択することが好ましい。ただし、融点より80℃以上低い温度の場合は結晶化が十分ではなく、耐熱性が低下し、他方、融点より高い場合はフィルムの厚み変動が大きくなる傾向にある。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂が酢酸ビニル単独重合体のケン化物である場合の熱固定温度は、140〜250℃が好ましく、また、熱固定時間は1〜30秒間であることが好ましく、より好ましくは5〜10秒間である。
延伸倍率については、特に制限はないが、縦方向の延伸倍率が3〜5倍、さらには3〜4.5倍、横方向の延伸倍率が3〜5倍、さらには3〜4倍であることが好ましい。縦方向の延伸倍率が低すぎると延伸による生産性の向上効果が得難く、高すぎるとフィルムが縦方向へ裂ける傾向にある。また、横方向の延伸倍率が低すぎると延伸による生産性の向上効果が得難く、高すぎるとフィルムが破断する傾向にある。
延伸を施したポリビニルアルコール系フィルムの厚みは、10〜200μmが好ましく、生産性の点で、より好ましくは10〜100μm、更に好ましくは10〜50μmである。
〔光硬化性樹脂よりなる基板〕
次に、本発明で使用される光硬化性樹脂よりなる基板について説明する。本発明における基板は、光硬化性組成物に活性エネルギー線を照射して、重合及び成形された光硬化性樹脂よりなるものである。かかる光硬化性組成物としては、特に限定されないが、成形性の点から、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性(メタ)アクリレート系化合物と光重合開始剤を含んでなることが好ましい。
かかる多官能性(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル〕プロパン、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジグリシジルエステルジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ〔5.2.1.02,6 〕デカン=ジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ〔5.2.1.02,6 〕デカン=ジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ〔6.5.1.13,6 .02,7 .09,13〕ペンタデカン=ジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)ペンタシクロ〔6.5.1.13,6 .02,7 .09,13〕ペンタデカン=ジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)シクロヘキシル〕プロパン、1,3−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス((メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス((メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル)シクロヘキサン、ヒドロキシピバリン酸変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートジエステル等の2官能(メタ)アクリレート系化合物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,3,5−トリス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、1,3,5−トリス((メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル)シクロヘキサン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリロイルオキシエトキシトリメチロールプロパン、グリセリンポリグリシジルエーテルポリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリアクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物が挙げられる。更に、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系化合物が挙げられる。
これらの中では、耐熱性や靱性の観点から、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ〔5.2.1.02,6 〕デカン=ジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ〔5.2.1.02,6 〕デカン=ジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートが特に好ましい。また上記多官能(メタ)アクリレート系化合物は1種または2種以上併用することもできる。更に、上記多官能(メタ)アクリレート系化合物と単官能(メタ)アクリレート系化合物を併用してもよい。
これらの多官能性(メタ)アクリレート化合物は、光重合開始剤を添加した後、活性エネルギー線を照射することにより光硬化され、基板となる。光重合開始剤は、特に制限されないが、具体的には、1−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4−ジフェノキシジクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン系開始剤、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系開始剤などが挙げられ、これらを併用することもできる。これらの光重合開始剤は、多官能(メタ)アクリレート系化合物(単官能(メタ)アクリレート系化合物を併用する場合は多官能(メタ)アクリレート系化合物と単官能(メタ)アクリレート系化合物の合計)100質量部に対して、通常0.1〜10質量部の割合で使用されることが好ましく、特に好ましくは1〜5質量部である。かかる光重合開始剤が少なすぎると硬化が充分に進まない傾向があり、多すぎると得られる樹脂フィルムの透明性が低下する傾向がある。
光硬化性組成物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、消泡剤、着色剤、及び各種フィラーなどの補助成分を添加しても良い。
上述の光硬化性組成物を光硬化する方法としては、内側表面が平滑な透光性部材を型とした光成形方法であれば特に限定されない。透光性部材のJIS B 0601:2001における表面粗さ(Ra)は、好ましくは15nm以下、より好ましくは12nm以下、さらに好ましくは10nm以下、特に好ましくは9nm以下である。なお、「透光性」とは、下記の活性エネルギー線を透過し得ることを言う。
透光性部材の具体例は、表面の微小な凹凸が研磨砥粒等により除去された光学研磨ガラス板である。光学研磨ガラス板を用いた光成形方法は、例えば次の通りである。厚さ制御のためのスペーサーを介して、2枚の光学研磨ガラス板を対向させた成形型を作製する。そのキャビティ内に光硬化性組成物を注入し、活性エネルギー線を照射して硬化させ、脱型することにより基板が成形される。
活性エネルギー線としては、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の電磁波の他、電子線、プロトン線、中性子線等が利用できるが、硬化速度、照射装置の入手のし易さ、価格等から紫外線照射が有利である。紫外線照射における光源としては、ケミカルランプ、キセノンランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が使用される。紫外線照射を行う場合は、200〜400nmの紫外線を用いて、照射光量20J/cm以下で光硬化することが好ましい。照射光量が大きすぎると生産性に劣る傾向がある。紫外線の照度は、10〜5000mW/cmが好ましく、より好ましくは100〜1000mW/cmである。照度が小さすぎると樹脂成形体の内部まで十分に硬化しない傾向がある。逆に、照度が大きすぎると重合が暴走し、割れが発生する傾向がある。なお、活性エネルギー線の照射は、硬化収縮の緩和のために数段階に分けて行っても良く、硬化速度の向上のために加熱しながら行っても良い。また、光硬化して得られた基板は、より重合度の向上のため、あるいは応力ひずみ開放のために、熱処理してもよい。
光硬化性樹脂よりなる基板の厚さは、50〜500μmが好ましく、屈曲性の点で、より好ましくは50〜300μm、更に好ましくは50〜100μmである。
〔膜A及び膜Bの成膜〕
次いで、酸化シリコンを主成分とする膜Aと窒化シリコンを主成分とする膜Bの成膜について、本発明において特に有効な触媒CVD法を例にして説明する。本発明で用いられる触媒化学気相成長法は、特に限定されないが、特許文献1に記載の手法に類似したものが、ガスバリア積層体の透明性の点で好ましい。具体的には、材料ガスとして、モノシラン(SiH)、アンモニア(NH)、酸素(O)に加えて、水素(H)も用いて反応を促進する手法である。
まず、酸化シリコンを主成分とする膜Aの成膜に関して、図面を参照して説明する。図2は、触媒化学気相成長法を行う装置の一構成例を模式的に示す図である。図2に示す装置は、ドライポンプ11やターボ分子ポンプ12等によりゲートバルブ13を経て内部が真空にされる真空容器14と、材料ガスボンベ15を備えたガス供給部16と、直流あるいは交流電源17で通電加熱されたタングステンやイリジウム等からなるワイヤ18と、ヒータ20aや冷媒流路20bを備え、基板2の温度を制御できる基板ホルダ20とを有する。なお、基板2の温度は熱電対により計測される(図示せず)。
基板2とワイヤ18の距離は5〜50cmが好ましい。かかる距離が短すぎると、基板表面の温度制御が困難となり、長すぎると生産性に劣る傾向がある。触媒となるワイヤ18の形状は、特に限定されないが、0.1〜1mm径の金属ワイヤを用いることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.7mm、更に好ましくは0.4〜0.6mmである。径が細すぎると強度が不足し、太すぎるとワイヤの加熱効率が低下する傾向がある。
ガス供給部16では、材料ガスボンベ15から供給される材料ガスが、レギュレータ21により圧力調整され、開閉バルブ22を通過し、ガス流量を制御するマスフローメータ23、さらに開閉バルブ24を介して真空容器14内へと供給される。本実施形態では、材料ガスとしてモノシラン、アンモニア、酸素、水素の4種類のガスを用いるので、ガス供給部16も4系統のガス供給ライン、すなわち材料ガスボンベ15a,15b,15c,15d、レギュレータ21a,21b,21c,21d、開閉バルブ22a,22b,22c,22d、マスフローメータ23a,23b,23c,23d、開閉バルブ24a,24b,24c,24dを有する。なお、酸素ガスは、供給量の精度向上のために、不活性ガスで希釈されていることが好ましい。具体的には、ヘリウムガスで酸素濃度2%に希釈されたものが好適である。
成膜に際しては、4系統のガス供給ライン、すなわち材料ガスボンベ15a,15b,15c,15dよりモノシラン、アンモニア、水素、酸素を、ガス供給部16を通じて、真空容器14内に流入させ、電源17により通電加熱されたワイヤ18で材料ガスを接触分解する。材料ガス導入前の真空容器14内の真空度は、10−3Pa以下が好ましく、より好ましくは10−4Pa以下である。また、導入される材料ガスのガス圧は、1〜100Pa程度である。
ワイヤの温度は、1000〜2000℃が好ましく、より好ましくは1500〜1900℃、更に好ましくは1700〜1800℃である。ワイヤの温度が低すぎると、材料ガスの接触分解が効率的に進行せず、逆に高すぎると、ワイヤが劣化する傾向がある。分解したガスは、基板ホルダ20を介して加熱された基板2に堆積し、酸化シリコンを主成分とする膜Aを形成する。
上記装置を用い、材料ガスの流量比をモノシラン1に対して、酸素0.5〜2、より好ましくは0.6〜1、アンモニア1〜30、より好ましくは2〜10、水素5〜400、より好ましくは20〜80にすることで、酸化シリコンを主成分とする膜Aを成膜することができる。酸素流量が少なすぎると、膜A中の窒化シリコンの割合が増大するため、基板2と膜Aの密着性が低下する傾向があり、逆に多すぎると、ワイヤ18の酸化劣化が進行する傾向がある。アンモニア流量が少なすぎると、ワイヤ18の炭化劣化が進行する傾向があり、逆に多すぎると、ガスバリア能力が低下する傾向にある。水素流量が少なすぎると、ガスバリア性が低下する傾向があり、逆に多すぎると、生産性に劣る傾向がある。
成膜温度、すなわち加熱された基板2の表面温度は、特に限定されないが、160℃以下が好ましく、より好ましくは20℃〜130℃、更に好ましくは50℃〜100℃である。成膜温度が高すぎると、成膜後、得られた積層フィルムの温度を室温に戻したときに、基板2が無機膜Aよりも縮むため、積層フィルムが無機膜面を上側にして凸状に反り、無機膜Aの密着性、耐久性、及び信頼性が低下する傾向にある。
成膜速度は、材料ガスの流量により制御され、特に限定されないが、好ましくは0.01〜10nm/秒、より好ましくは0.1〜1nm/秒である。成膜が遅すぎると、生産性に劣り、逆に速すぎると、膜応力が増大し、ガスバリア膜の耐久性や信頼性が低下する傾向がある。
得られた酸化シリコンを主成分とする膜Aの原子組成比(atm%)は、X線光電子分光法により求めることができる。原子組成比の好ましい範囲は、Si、O、及びNの合計に対して、それ以外の意図せずに含まれる原子の合計が10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。Si、O、及びN以外の原子の割合が高すぎると、ガスバリア能力の耐久性や信頼性が低下する傾向がある。Si、O、及びN以外の原子としては、ワイヤ18の材料であるタングステンなどの金属原子、異物由来の炭素原子などが挙げられる。なお、膜中には水素原子も存在するが、分析的な定量は困難であるため、本発明においては、水素原子は上述の意図せずに含まれる原子の対象としない。
また、Si、O及びN以外の意図せずに含まれる原子と水素を除いた場合の原子構成比、すなわちSiOのx及びyの値は、0.5≦x≦2.0、y≦1.2であることが好ましい。より好ましくは、0.7≦x≦2.0、y≦1.0、更に好ましくは、0.8≦x≦2.0、y≦0.8である。当然の事ながら、膜Aは酸化シリコンを主成分とするので、x>yである。xが小さすぎると、基板2との密着性が低下し、逆に大きすぎると着色する傾向がある。yが大きすぎると、基板2との密着性が低下する傾向がある。なお、通常、yの下限値は0.01である。かくして、本発明における酸化シリコンを主成分とする膜Aが成膜される。
次いで、窒化シリコンを主成分とする膜Bを成膜する手法に関して説明する。膜Bの成膜は、膜Aの成膜と同じ装置で、連続して行われることが好ましい。膜Aの成膜手法との差異は、真空容器14内に酸素を導入しないか、もしくは酸素の導入量を低減する点である。
成膜に際しては、4系統のガス供給ライン、すなわち材料ガスボンベ15a,15b,15c、15dよりモノシラン、アンモニア、水素、酸素を、ガス供給部16を通じて、真空容器14内に流入させ、電源17より通電加熱されたワイヤ18で材料ガスを接触分解する。酸素を導入しない場合は、開閉バルブ24dを閉じて、真空容器14内への流入を中止する。酸素の導入量を低減する場合は、レギュレータ21dにより酸素圧を調整する。材料ガス導入前の真空容器14内の真空度は、10−3Pa以下が好ましく、より好ましくは10−4Pa以下である。また、導入される材料ガスのガス圧は、1〜100Pa程度である。ワイヤ18の温度は、1000〜2000℃が好ましく、より好ましくは1500〜1900℃、更に好ましくは1700〜1800℃である。ワイヤ18の温度が低すぎると、材料ガスの接触分解が効率的に進行せず、逆に高すぎると、ワイヤ18が劣化する傾向がある。分解したガスは、基板ホルダ20を介して加熱された基板2に堆積し、窒化シリコンを主成分とする膜Bを形成する。
上記装置を用い、材料ガスの流量比をモノシラン1に対して、酸素0〜0.4、より好ましくは0〜0.2、アンモニア1〜30、より好ましくは2〜10、水素5〜400、より好ましくは20〜80にすることで、透明でガスバリア能力の高い窒化シリコン膜を成膜することができる。酸素流入比が大きすぎると、窒化シリコンの割合が小さくなり、ガスバリア性が低下する傾向がある。アンモニア流量比が小さすぎると、ワイヤ18の炭化劣化が進行する傾向があり、逆に大きすぎると、ガスバリア能力が低下する傾向にある。水素流量比が小さすぎると、ガスバリア性が低下し、逆に大きすぎると、生産性に劣る傾向がある。
膜Bの成膜においては、成膜温度、すなわち加熱された基板2の表面(膜A面)の温度を膜A成膜時の温度よりも高く設定することが望ましい。具体的には、160℃より高い温度で成膜されることが好ましく、より好ましくは170℃〜250℃、更に好ましくは170℃〜200℃である。成膜温度が低すぎると、ガスバリア性が安定せず、ガスバリア積層体の品質保証ができないことがある。
なお、成膜後のガスバリア積層体の反りに関しては、膜Aを成膜する場合とは挙動が異なる。すなわち、膜Aを成膜した場合には、高温で成膜するほど、積層体の温度を室温に戻したときに、無機膜Aを上側にして凸状に反りやすい。しかし、膜Bを成膜するときには、高温で成膜しても、凸状の反りは発生しにくい。これは、膜Bの高温成膜のときに、基板2と無機膜Bの線膨張差によって積層体が凹状に反る傾向にあるためである。凸反り傾向の積層体に膜Bが成膜されると、積層体の温度を室温に戻したときに、下側の基板2が縮んでも(凸反り傾向)、凹凸の応力バランスが取れるため、得られるガスバリア積層体は平坦化するのである。
成膜速度は、材料ガスの流量により制御され、特に限定されないが、好ましくは0.01〜10nm/秒、より好ましくは0.1〜1nm/秒である。成膜が遅すぎると、生産性に劣る傾向があり、逆に速すぎると、膜応力が増大し、ガスバリア膜の耐久性や信頼性が低下する傾向がある。
得られた窒化シリコンを主成分とする膜Bの原子組成比(atm%)は、X線光電子分光法により求めることができる。原子組成比の好ましい範囲は、Si、O及びNの合計に対して、それ以外の意図せずに含まれる原子の合計が10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。Si、O及びN以外の原子の割合が高すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。Si、O、及びN以外の原子としては、ワイヤ18の材料であるタングステンなどの金属原子、異物由来の炭素原子などが挙げられる。なお、膜中には水素原子も存在するが、分析的な定量は困難であるため、本発明においては、水素原子は上述の意図せずに含まれる原子の対象としない。
また、Si、O及びN以外の意図せずに含まれる原子と水素を除いた場合の原子構成比、すなわちSiOのx及びyの値は、x≦1.2、0.5≦y≦1.4であることが好ましい。より好ましくは、x≦1.0、0.6≦y≦1.2、更に好ましくは、x≦0.8、0.7≦y≦1.0である。当然の事ながら、膜Bは窒化シリコンが主成分とするので、x≦yである。前述のとおり、x=yとなることがあり、本発明においては、x=yの場合も、窒化シリコンを主成分とする膜Bに属することとする。xが大きすぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。なお、通常、xの下限値は0.01である。yが小さすぎるとガスバリア性が低下する傾向にあり、yが大きすぎても膜クラックによりガスバリア性が低下する傾向にある。かくして、窒化シリコンを主成分とする膜Bが成膜され、本発明のガスバリア積層体が得られる。
〔ヘキサメチルジシラザンを用いた、膜A及び膜Bの成膜〕
本発明においては、危険なモノシランに替えて、ヘキサメチルジシラザンを用いる製造方法がより好ましい。ヘキサメチルジシラザンを用いるガスバリア膜の成膜においても、モノシランを用いた場合と同様に、上述した装置で、膜A及び膜Bの成膜を連続して行うことが好ましい。モノシランを用いた成膜との差異は、真空容器に、モノシランに替えてヘキサメチルジシラザンを導入する点である。すなわち、材料ガスとして、ヘキサメチルジシラザン、酸素、アンモニア、水素の4種類のガスを用いる。
成膜に際しては、4系統のガス供給ライン、すなわち材料ガスボンベ15a,15b,15c、15dよりヘキサメチルジシラザン、アンモニア、水素、酸素を、ガス供給部16を通じて、真空容器14内に流入させ、電源17より通電加熱されたワイヤ18で材料ガスを接触分解する。材料ガス導入前の真空容器14内の真空度は、10−2Pa以下が好ましく、より好ましくは10−3Pa以下である。また、導入される材料ガスのガス圧は、10〜1000Pa程度である。ワイヤ18の温度は、1000〜2000℃が好ましく、より好ましくは、1500〜1900℃、更に好ましくは、1700〜1800℃である。ワイヤ18の温度が低すぎると、材料ガスの接触分解が効率的に進行せず、逆に高すぎると、ワイヤ18が劣化する傾向がある。分解したガスは、基板ホルダ20を介して加熱された基板2に堆積し、酸化シリコンを主成分とする膜Aを形成する。
上記装置を用い、材料ガスの流量比をヘキサメチルジシラザン1に対して、酸素1〜4、より好ましくは1〜3、アンモニア10〜400、より好ましくは100〜300、水素10〜400、より好ましくは10〜300にすることで、酸化シリコンを主成分とする膜Aを成膜することができる。酸素流量が少なすぎると、膜A中の窒化シリコンの割合が増大するため、基板2と膜Aの密着性が低下し、逆に多すぎると、ワイヤ18の酸化劣化が進行する傾向がある。アンモニア流量が少なすぎると、ワイヤ18の炭化劣化が進行し、逆に多すぎると、ガスバリア能力が低下する傾向にある。水素流量が少なすぎると、ガスバリア性が低下し、逆に多すぎると、生産性に劣る傾向がある。
成膜温度、すなわち加熱された基板2の表面温度は、特に限定されないが、160℃以下が好ましく、より好ましくは20℃〜130℃、更に好ましくは50℃〜100℃である。成膜温度が高すぎると、成膜後、得られたフィルムを室温に戻したときに、基板2が無機膜Aよりも縮むため、フィルムが無機膜面を上側にして凸状に反り、ガスバリア膜の密着性、耐久性、及び信頼性が低下する傾向にある。
成膜速度は、材料ガスの流量により制御され、特に限定されないが、好ましくは0.01〜10nm/秒、より好ましくは0.1〜1nm/秒である。成膜が遅すぎると、生産性に劣り、逆に速すぎると、膜応力が増大し、ガスバリア膜の耐久性や信頼性が低下する傾向がある。
得られた酸化シリコンを主成分とする膜Aの原子組成比(atm%)は、X線光電子分光法により求めることができる。原子組成比の好ましい範囲は、Si、O及びNの合計に対して、それ以外の意図せずに含まれる原子の合計が10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。Si、O及びN以外の原子の割合が高すぎると、ガスバリア能力の耐久性や信頼性が低下する傾向がある。Si、O、及びN以外の原子としては、ワイヤ18の材料であるタングステンなどの金属原子、ヘキサメチルジシラザンや異物由来の炭素原子などが挙げられる。なお、膜中には水素原子も存在するが、分析的な定量は困難であるため、本発明においては、水素原子は上述の意図せずに含まれる原子の対象としない。
また、Si、O及びN以外の意図せずに含まれる原子と水素を除いた場合の原子構成比、すなわちSiOのx及びyの値は、0.5≦x≦2.0、y≦1.2であることが好ましい。より好ましくは、0.7≦x≦2.0、y≦1.0、更に好ましくは、0.8≦x≦2.0、y≦0.8である。当然の事ながら、膜Aは酸化シリコンを主成分とするので、x>yである。xが小さすぎると、基板2との密着性が低下する傾向があり、逆に大きすぎると着色する傾向がある。yが大きすぎると、基板2との密着性が低下する傾向がある。なお、通常、yの下限値は0.01である。かくして、ヘキサメチルジシラザンを用いて、本発明における酸化シリコンを主成分とする膜Aが成膜される。
次いで、ヘキサメチルジシラザンを用いて、窒化シリコンを主成分とする膜Bを成膜する手法に関して説明する。膜Bの成膜は、膜Aの成膜と同じ装置で、連続して行われることが好ましい。膜Aの成膜手法との差異は、真空容器14内に酸素を導入しないか、もしくは酸素の導入量を低減する点である。
上記装置を用い、材料ガスの流量比をヘキサメチルジシラザン1に対して、酸素0〜0.8、アンモニア10〜400、より好ましくは100〜300、水素10〜400、より好ましくは100〜300にすることで、透明でガスバリア能力の高い窒化シリコン膜を成膜することができる。酸素流量が多すぎると、膜Bの窒化シリコンの割合が減少するため、ガスバリア性が低下する傾向がある。アンモニア流量が少なすぎると、ワイヤの炭化劣化が進行し、逆に多すぎると、ガスバリア能力が低下する傾向にある。水素流量が少なすぎると、ガスバリア性が低下し、逆に多すぎると、生産性に劣る傾向がある。
ヘキサメチルジシラザンを用いた膜Bの成膜においても、成膜温度、すなわち加熱された基板2の表面(膜A面)の温度を膜A成膜時の温度よりも高く設定することが望ましい。具体的には、170℃以上が好ましく、より好ましくは170℃〜250℃、更に好ましくは180℃〜200℃である。成膜温度が低すぎると、ガスバリア性が安定せず、ガスバリア積層体の品質保証ができないことがある。
成膜速度は、材料ガスの流量により制御され、特に限定されないが、好ましくは0.01〜10nm/秒、より好ましくは0.1〜1nm/秒である。成膜が遅すぎると、生産性に劣り、逆に速すぎると、膜応力が生じ、ガスバリア膜の耐久性や信頼性が低下する傾向がある。
得られた窒化シリコンを主成分とする膜Bの原子組成比(atm%)は、X線光電子分光法により求めることができる。原子組成比の好ましい範囲は、Si、O及びNの合計に対して、それ以外の意図せずに含まれる原子の合計が10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。Si、O及びN以外の原子の割合が高すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。Si、O、及びN以外の原子としては、ワイヤ18の材料であるタングステンなどの金属原子、ヘキサメチルジシラザンや異物由来の炭素原子などが挙げられる。なお、膜中には水素原子も存在するが、分析的な定量は困難であるため、本発明においては、水素原子は上述の意図せずに含まれる原子の対象としない。
また、Si、O及びN以外の意図せずに含まれる原子と水素を除いた場合の原子構成比、すなわちSiOのx及びyの値は、x≦1.2、0.5≦y≦1.4であることが好ましい。より好ましくは、x≦1.0、0.6≦y≦1.2、更に好ましくは、x≦0.8、0.7≦y≦1.0である。当然の事ながら、膜Bは窒化シリコンが主成分とするので、x≦yである。前述のとおり、x=yとなることがあり、本発明においては、x=yの場合も、窒化シリコンを主成分とする膜Bに属することとする。xが大きすぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。なお、通常、xの下限値は0.01である。yが小さすぎるとガスバリア性が低下する傾向にあり、yが大きすぎても膜クラックによりガスバリア性が低下する傾向にある。
かくして、危険なモノシランに替えて、安全なヘキサメチルジシラザンを用いることにより、本発明における基板/膜A/膜Bの構成を有するガスバリア積層体が製造される。
本発明においては、膜A/膜Bは基板の両面に形成されても良い。基板の表裏における層構成を、基板の面方向を軸として対称とすることにより、ガスバリア積層体の反りを低減できるので好ましい。ガスバリア積層体の反りは、5mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以下である。なお、反り量の測定は、後述の実施例に記載の方法による。
また、本発明においては、更に、膜A及び膜Bをこの順で、基板の同一面上に繰り返して成膜しても良い。膜A及び膜Bが複数回積層された構造を有することにより、より高いガスバリア性が得られる。積層の回数は、特に限定されないが、膜Bは3回以下が好ましい。膜Bの積層回数が多すぎると、ガスバリア積層体の柔軟性が失われ、かつ反り、うねりが発生する傾向がある。当然のことながら、生産性も低下する傾向がある。なお、膜Aの層数が膜Bの層数よりも多くなる積層構造であっても良い。また、複数回積層する際の成膜も連続して行うことが、密着性や生産性の点で好ましい。
本発明において、基板の膜厚は10〜500μmが好ましく、より好ましくは10〜300μm、更に好ましくは10〜100μmである。膜Aの膜厚は10〜1000nmが好ましく、より好ましくは20〜600nm、更に好ましくは30〜300nmである。膜Bの膜厚は10〜1000nmが好ましく、より好ましくは20〜600nm、更に好ましくは30〜300nmである。また、膜Bの膜厚と膜Aの膜厚の比率(B/A)は0.5〜2であることが好ましく、特には1〜1.5であることが好ましい。基板の膜厚が薄すぎると、樹脂フィルム自体にピンホールが出来やすく、ガスバリア性が低下する傾向にあり、逆に厚すぎると、ガスバリア積層体の柔軟性が低下する傾向がある。膜A又は膜Bの膜厚が薄すぎると、膜にピンホールが生じやすく、ガスバリア性が低下する傾向にあり、逆に厚すぎると、膜応力により膜クラックが発生しやすく、ガスバリア性が低下する傾向にある。
本発明において、基板の少なくとも片面、言い換えれば膜Aが形成される側の基板面の表面粗さRa(JIS B0601:2001)は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは30nm以下である。また、基板の反対面についても同様の表面粗さRaであることが好ましい。なお、通常、Raの下限値は0.1nmである。基板のRaが大きすぎると、膜A及び/または膜Bにピンホールが生じやすく、ガスバリア性が低下する傾向にある。
本発明のガスバリア積層体は、少なくとも片面に、屈折率1.6以下の樹脂よりなり、かつ外側の膜(膜A又は膜B)を保護する保護膜が更に形成されていることが好ましい。屈折率は、ガスバリア積層体の光線透過率向上の点から、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.45以下である。用いられる樹脂の種類は、特に限定されないが、無機膜A,Bとの密着性や傷つきにくさの点から、アクリル系のハードコート剤が好ましく、具体的には、ウレタンアクリレートやエポキシアクリレートなどを光硬化して得られる樹脂硬化膜が好ましい。
また、保護膜が形成された本発明のガスバリア積層体の光線透過率は、80%以上であることが好ましく、より好ましくは83%以上、更に好ましくは85%以上である。光線透過率が低すぎると、ガスバリア積層体で梱包された食品や医薬の視認性が低下し、また有機ELディスプレイの輝度が低下する。
本発明のガスバリア積層体は、透明性、ガスバリア性に優れ、さらに耐久性と信頼性に優れるから、食品包装や医薬包装などの包装材料に、太陽電池または液晶もしくは有機ELのディスプレイの基板やカバーフィルムに好適に使用される。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り質量基準を意味する。各物性の測定方法は以下の通りである。
1.耐熱性
長さ30×幅3×厚さ0.2(mm)の試験片を用い、セイコー電子社製「TMA120」で、引っ張り法TMA(支点間距離20mm、加重100g 、昇温速度5℃/分)にて、ガラス転移温度(℃)を測定した。
2.表面粗さ
JIS B0601:2001に準じて、東京精密社製「サーフコム570A」を用いて、樹脂成形体両面のRa(nm)を測定した(カットオフ:0.8μm、測定長:1mm)。
3.膜組成
X線光電子分光装置(XPS)(理学電気工業(株)製、商品名「XPS−7000」)を用いて、SiOのxとyを求めた。XPSの測定条件は以下の通りである。
励起X線(Mgkα線、30kV、10mA)を試料に照射し、測定対象とした電子軌道(Si:2p、O:1s、N:1s)の光電子スペクトルの面積から、各元素の原子数比を求めてxとyを算出した。光電子スペクトルの面積を求める際には、スムージングおよびバックグランド処理(シャーレー法)を行った。なお、深さ方向分析は、カウフマン型イオン銃によるArイオンエッチングとXPS測定を交互に行った。
4.光線透過率
分光光度計(日本分光工業(株)製、商品名:「Ubest−35」)を用いて550nmの光線透過率(%)を測定した。
5.反り
150mm×150mmのフィルムを平坦な定盤上に置いて、端部のうき量の最大値(mm)を測定した。
6.密着性
カッターを用いて、10mm四方の領域で、1mm間隔で碁盤目状に、成膜面に切り込みを入れ、その上にセロハンテープを貼り、十分接着させた後、セロハンテープをはがして剥離試験を行った。基板からガスバリア膜が剥離した場合を「×」、剥離しなかった場合を「○」と表記した。
7.酸素透過率
オキシトラン社製の酸素モコン測定器にて、23℃、80%RHの条件下で測定した。ガスバリア積層体10枚を測定し、平均値を酸素透過率(cc/日・m)とした。
8.酸素透過率のふれ
ガスバリア積層体10枚を測定し、最大値と最小値の差(cc/日・m)を求めた。
9.屈曲試験(耐久性試験)
MIL−B131,ASTM−E−392−74に準拠し、Gelbo−flex機を用いて、50回繰り返しの屈曲試験を行った。屈曲試験後において、上記の酸素透過率及び密着性を測定した。
10.高温高湿試験(信頼性試験)
80℃90%RHの高温高湿機内に500時間放置した。高温高湿試験後において、上記の酸素透過率及び密着性を測定した。
11.保護膜の膜厚
保護膜をコートする前に、ガスバリア積層体の端部をテープでマスキングし、コート後にテープを剥がした。キーエンス社製「サーフコム1400D」を用いて、コート部と非コート部の段差を測定し、保護膜の膜厚(μm)とした。
参考例1〕
基板として、長さ150mm、幅150mm、厚さ25μmのポリビニルアルコール系フィルム(日本合成化学工業社製「BOVLON」)を用意し、図2の基板ホルダ20に設置した後、170℃まで加熱した。この基板の性能は表1に示す通りであり、高い耐熱性、高い表面平滑性、及び高いガスバリア性を有している。
径0.5mm、長さ2800mmのタングステンワイヤを、基板との距離が20cmとなるよう真空容器14内に設置し、1750℃に通電加熱した。真空容器14を10−4Paまで真空引きした後、容器14内に、モノシランを10sccm、アンモニアを22sccm、水素を400sccm、酸素を10sccmの流量で導入し(ガス圧力15Pa)、膜Aの成膜を50分間行った。次いで、材料ガスのうち酸素の導入を中止し、膜Bの成膜を38分間行った。表2に成膜条件を示す。
得られたガスバリア積層体は、表3に示す通り、膜Aの厚さ300nm、膜Bの厚さ300nmであり、X線光電子分光分析の結果、膜Aの組成はSiO1.7 0.2 、膜Bの組成はSiO0.1 1.0 であった。
また、得られたガスバリア積層体は、表4に示す通り、光線透過率は82%、反りは3mm、無機膜の密着性は「○」、酸素透過率は0.03cc/日・m、酸素透過率のふれは0.02cc/日・mであり、良好な特性を有していた。更に、屈曲による耐久性試験と、長期間高温高湿による信頼性試験を実施したところ、いずれも良好な特性を維持していた。
参考例2〕
基板の加熱温度を100℃とする以外は参考例1と同様にして、ガスバリア積層体を得た。本参考例は、参考例1と比較して、成膜温度を低めたものである。用いた基板の特性は表1に、触媒化学気相成長の成膜条件は表2に、ガスバリア積層体の仕様は表3に、ガスバリア積層体の性能は表4に示す通りである。
参考例3〕
基板の加熱温度を100℃、膜Aの成膜時間を8分、膜Bの成膜時間を6分とする以外は参考例1と同様にして、ガスバリア積層体を得た。本参考例は、参考例2と比較して、膜Aと膜Bを薄膜化したものである。用いた基板の特性は表1に、触媒化学気相成長の成膜条件は表2に、ガスバリア積層体の仕様は表3に、ガスバリア積層体の性能は表4に示す通りである。
参考例4〕
基板として、長さ150mm、幅150mm、厚さ25μmのポリビニルアルコール系フィルム(日本合成化学工業社製「BOVLON」)を用意し、図2の基板ホルダ20に設置した後、100℃まで加熱した。
径0.5mm、長さ2800mmのタングステンワイヤを、基板との距離が20cmとなるよう真空容器14内に設置し、1750℃に通電加熱した。真空容器14を10−4Paまで真空引きした後、容器14内に、ヘキサメチルジシラザンを0.5sccm、アンモニアを100sccm、水素を100sccm、酸素を1sccmの流量で導入し(ガス圧力230Pa)、膜Aの成膜を20分間行った。次いで、材料ガスのうち酸素の導入を中止し、膜Bの成膜を20分間行った。
参考例は、材料ガスとして、安全なヘキサメチルジシラザン(HMDS)を用いたものである。用いた基板の特性は表1に、触媒化学気相成長の成膜条件は表2に、ガスバリア積層体の仕様は表3に、ガスバリア積層体の性能は表4に示す通りである。
参考例5〕
膜Aの成膜において、酸素を6sccmの流量で導入する以外は参考例1と同様にして、ガスバリア積層体を得た。本参考例は、参考例1と比較して、膜Aの酸素比率を低めたものである。用いた基板の特性は表1に、触媒化学気相成長の成膜条件は表2に、ガスバリア積層体の仕様は表3に、ガスバリア積層体の性能は表4に示す通りである。
参考例6〕
<光硬化性樹脂よりなる基板>
ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ〔5.2.1.02,6 〕デカン=ジ(メタ)アクリレート(新中村化学社製「DCP」)100部、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバガイギー株式会社製、「Irgacure184」)5部を、60℃にて均一になるまで撹拌して、光硬化性組成物を得た。この組成物を、厚さ100μmのシリコン板をスペーサーとして、対向した2枚のガラス板よりなる成形型に注液し(23℃)、メタルハライドランプを用いて、照度100mW/cm
、光量10J/cmで紫外線を照射した。脱型し得られた硬化物を、150℃の真空オーブン中で2時間加熱して、長さ150mm、幅150mm、厚さ100μmの基板を得た。得られた基板の性能は表1に示す通りであり、高い耐熱性、高い表面平滑性、及び高いガスバリア性を有している。
<ガスバリア積層体>
得られた基板を図2の基板ホルダ20に設置した後、100℃まで加熱した。径0.5mm、長さ2800mmのタングステンワイヤを、基板との距離が20cmとなるよう真空容器14内に設置し、1750℃に通電加熱した。真空容器14を10−4Paまで真空引きした後、容器14内に、モノシランを10sccm、アンモニアを22sccm、水素を400sccm、酸素を10sccmの流量で導入し(ガス圧力15Pa)、膜Aの成膜を50分間行った。次いで、材料ガスのうち酸素の導入を中止した後、基板を200℃まで加熱し、膜Bの成膜を38分間行った。表2に成膜条件を示す。得られたガスバリア積層体の仕様は表3に、ガスバリア積層体の性能は表4に示す通りである。
参考例7〕
参考例6と同様にして、基板の片面に膜A及びBを成膜した後、基板の反対面に膜A及びBを成膜して、表3に示す通り、基板の両面にガスバリア膜を得た。両面の成膜条件は同じである。用いた基板の特性は表1に、触媒化学気相成長の成膜条件は表2に、ガスバリア積層体の仕様は表3に、ガスバリア積層体の性能は表4に示す通りである。なお、表3中の膜A又は膜Bの膜厚は、両面それぞれに成膜された膜A又は膜Bのそれぞれの膜厚であり、両面の膜A又は膜Bのそれぞれの合計ではない。
〔実施例
表3に示す通り、基板の片面に、膜Aと膜Bを3回ずつ積層して、ガスバリア積層体を得た。用いた基板の特性は表1に、触媒化学気相成長の成膜条件は表2に、ガスバリア積層体の仕様は表3に、ガスバリア積層体の性能は表4に示す通りである。なお、6層の成膜は連続して行った。また、表3中の膜A又は膜Bの膜厚は、6層の各層がそれぞれ50nmであることを表している。
参考例8
<アクリル系ハードコート剤>
ウレタンアクリレートとして日本合成化学工業社製「UV7600B」20部、光重合開始剤としてチバガイギー社製「Irgacure184」1部、および溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート80部を用いて、アクリル系ハードコート剤を調製した。
<保護膜付きガスバリア積層体>
かかるハードコート剤を、参考例6で得られたガスバリア積層体の膜B上にスピンコートした(スピンコート条件:500rpm、1分、25℃)。その後、100℃、5分で溶剤を乾燥させた後、メタルハライドランプを用いて1Jの紫外線を照射して、厚さ2μmのハードコート膜を形成し、保護膜付きのガスバリア積層体を得た。ハードコート膜の屈折率を、アッベ屈折計を用いて測定したところ(NaD線、25℃)、1.5であった。用いた基板の特性は表1に、触媒化学気相成長の成膜条件は表2に、ガスバリア積層体の仕様は表3に、ガスバリア積層体の性能は表4に示す通りである。
〔比較例1〕
基板として、長さ150mm、幅150mm、厚さ50μmの市販PETフィルムを用意し、図2の基板ホルダ20に設置した後、50℃まで加熱した。この基板の性能は表1に示す通りである。
径0.5mm、長さ2800mmのタングステンワイヤを、基板との距離が20cmとなるよう真空容器14内に設置し、1750℃に通電加熱した。真空容器14を10−4Paまで真空引きした後、容器14内に、モノシランを10sccm、アンモニアを22sccm、水素を400sccm、酸素を10sccmの流量で導入し(ガス圧力15Pa)、膜Aの成膜を8分間行った。次いで、材料ガスのうち酸素の導入を中止し、膜Bの成膜を6分間行った。表2に成膜条件を示す。
得られたガスバリア積層体は、表3に示す通り、膜Aの厚さ50nm、膜Bの厚さ50nmであり、X線光電子分光分析の結果、膜Aの組成はSiO1.8 0.2 、膜Bの組成はSiO0.1 1.3 であった。また、得られたガスバリア積層体は、表4に示す通り、ガスバリア性に劣り、特に、屈曲試験後と高温高湿試験後で、大きな悪化が認められた。
〔比較例2〕
膜Aを形成しないこと以外は参考例1と同様にして、ガスバリア積層体を得た。得られたガスバリア積層体は、表4に示す通り、屈曲試験後と高温高湿試験後で、ガスバリア性が大きく悪化し、密着性も大幅に低下した。用いた基板の特性は表1に、触媒化学気相成長の成膜条件は表2に、ガスバリア積層体の仕様は表3に、ガスバリア積層体の性能は表4に示す通りである。
Figure 0004976116
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本発明のガスバリア積層体を模式的に示す断面図である。 触媒化学気相成長法を行う装置の一構成例を模式的に示す図である。
符号の説明
2 基板
11 ドライポンプ
12 ターボ分子ポンプ
13 ゲートバルブ
14 真空容器
15 材料ガスボンベ
16 ガス供給部
17 電源
18 ワイヤ
20 基板ホルダ
20a ヒータ
20b 冷媒流路
21 レギュレータ
22 開閉バルブ
23 マスフローメータ
24 開閉バルブ

Claims (9)

  1. 光硬化性樹脂よりなる基板の少なくとも片面に、酸化シリコンを主成分とする膜Aと、窒化シリコンを主成分とする膜Bとがこの順で形成され、膜A及び膜Bが、触媒化学気相成長法によって、この順で、基板の同一面上に複数回積層された構造を有することを特徴とするガスバリア積層体。
  2. 真空容器内に、ヘキサメチルジシラザン、酸素、アンモニア、及び水素を供給するとともに、通電加熱されたワイヤで接触分解させ、触媒化学気相成長法により、酸化シリコンを主成分とする膜Aと、窒化シリコンを主成分とする膜Bとを基板上に連続して成膜することによって製造されることを特徴とする請求項記載のガスバリア積層体。
  3. 基板の膜厚が10〜500μm、かつ、酸化シリコンを主成分とする膜A及び窒化シリコンを主成分とする膜Bの膜厚がそれぞれ10〜1000nmであることを特徴とする請求項1又は2記載のガスバリア積層体。
  4. 窒化シリコンを主成分とする膜Bが、160℃より高い温度の基板上に成膜されることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のガスバリア積層体。
  5. 酸化シリコンを主成分とする膜Aが、160℃以下の基板表面に成膜されることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のガスバリア積層体。
  6. 膜Aが形成される側の基板面の表面粗さRa(JIS B0601:2001)が100nm以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のガスバリア積層体。
  7. 請求項1〜6いずれか記載のガスバリア積層体の少なくとも片面に、屈折率1.6以下の樹脂よりなり、かつ外側の膜を保護する保護膜が更に形成されていることを特徴とするガスバリア積層体。
  8. 光線透過率が80%以上であることを特徴とする請求項記載のガスバリア積層体。
  9. 食品包装用、医薬包装用、太陽電池用、または液晶もしくは有機ELのディスプレイ用であることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載のガスバリア積層体。
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