ところで、このように、ブレーキ液圧の保持が解除されて車両を発進させる場合、発進直後において一時的に車両に大きな加速度(即ち、大きなショック)が発生する場合がある。以下、係るショックについて説明する。
即ち、アクセルペダルの操作によりブレーキ液圧の保持が解除されると、ブレーキ液圧による制動力はゼロに向けて或る特性(勾配)をもって急激に減少していく。一方、このアクセルペダル操作により、車両に発生する駆動力はアクセルペダル操作に応じて増大していく。この場合、例えば、駆動力伝達系にトルクコンバータ付の自動変速機が備えられている車両では、駆動力は、自動変速機によるクリープ現象により車両に発生する駆動力(クリープ力)の値からアクセルペダル操作に応じて増大していく。
このように或る特性をもって急激に減少していく制動力(の大きさ)が増大していく駆動力(の大きさ)を上回っている限り、(特に、平地において)車両は停止状態に維持される。一方、急激に減少していく制動力が増大していく駆動力(例えば、クリープ力、或いはクリープ力よりも若干大きい値)と等しくなった時点(即ち、制動力と駆動力とがつりあう時点)にて、(特に、平地において)車両は移動を開始する(即ち、発進する)。
そして、車両が発進した時点以降もなお、制動力がゼロに向けて急激な減少を継続すると、駆動力から制動力を減じた値(即ち、実質的に車両を移動させる力)が、発進時点から制動力がゼロに達するまでの間に亘って急激に増大することになる。このことに起因して、発進直後において一時的に車両に大きな加速度(ショック)が発生するという問題が生じ得る。
本発明は係る問題に対処するためになされたものであって、その目的は、車両を停止状態に維持するために運転者によるブレーキ操作部材の操作とは独立して車両に制動力を発生させる自動制動力制御装置において、発進直後における大きな加速度(ショック)の一時的な発生を抑制できるものを提供することにある。
本発明に係る車両の自動制動力制御装置は、車両を停止状態に維持するために運転者によるブレーキ操作部材の操作とは独立して前記車両に制動力を発生させる自動制動力発生手段と、前記運転者によるアクセル操作部材の操作を検出するアクセル操作検出手段と、前記自動制動力発生手段により前記制動力が発生して前記車両が停止している状態において前記アクセル操作部材の操作が検出されたことに基づいて、前記制動力の減少を開始する制動力減少手段とを備えている。
上記本発明に係る自動制動力制御装置の特徴は、前記制動力減少手段が、前記アクセル操作部材の操作の開始に基づいて前記制動力の減少が開始された時点から前記車両が発進する時点(=特定の時点)までは第1の勾配をもって前記制動力を減少させ(332)、前記特定の時点が到来したとの判定に基づいて前記第1の勾配よりも減少勾配が緩やかな第2の勾配をもって前記制動力を減少させるように構成されたことにある。
この場合、上記本発明に係る自動制動力制御装置は、前記車両の駆動源の作動により前記車両に発生する駆動力を取得する駆動力取得手段を備え、前記制動力減少手段は、前記特定の時点として、前記制動力と前記駆動力とがつりあう時点を使用するように構成されることが好適である。なお、車両が、駆動力伝達系にトルクコンバータ付の自動変速機を備えている場合、前記駆動力取得手段は、前記自動変速機によるクリープ現象により前記車両に発生する駆動力(クリープ力)を取得するクリープ力取得手段を備えることが好適である。
上記構成によれば、第1の特性(例えば、急激に減少していく勾配)をもって減少していく制動力が、増大していく駆動力と等しくなった時点から、制動力の減圧特性が前記第1の特性よりも緩やかな第2の特性に変更される。換言すれば、特に、平地においては、車両が発進した時点から、制動力の減圧特性が前記第1の特性よりも緩やかな第2の特性に変更される。
従って、駆動力から制動力を減じた値(即ち、実質的に車両を移動させる力)が、発進時点から制動力がゼロに達するまでの間に亘って急激に増大することが抑制される。この結果、発進直後において一時的に車両に大きな加速度(ショック)が発生することが抑制され得る。
また、上記本発明に係る自動制動力制御装置は、前記駆動力取得手段に加えて、路面の勾配に起因して前記車両に対して車体前後方向に働く外力である勾配相当力を取得する勾配相当力取得手段を備え、前記制動力減少手段は、前記特定の時点として、前記制動力と前記駆動力と前記勾配相当力とがつりあう時点を使用するように構成されることが好適である。
路面に勾配がある場合、即ち、路面がピッチング方向において傾いている場合、車両には前記勾配相当力(具体的には、車両の重力における路面(斜面)に沿った方向の成分)が発生する。従って、この場合、減少していく制動力と、増大していく駆動力と、前記勾配相当力と、がつりあった時点にて車両が発進する。
従って、上記構成によれば、路面に勾配がある場合においても、車両が発進した時点から、制動力の減圧特性が前記第1の特性よりも緩やかな第2の特性に変更され得る。この結果、平地の場合と同様、発進直後において一時的に車両に大きな加速度(ショック)が発生することが抑制され得る。
具体的には、「制動力と前記駆動力と勾配相当力とがつりあう時点」とは、駆動力が下り方向に働く場合(車両が下ろうとしている場合)、「制動力の大きさが駆動力の大きさと前記勾配相当力の大きさの和と等しくなった時点」に対応し、駆動力が上り方向に働く場合(車両が上ろうとしている場合)、「制動力の大きさが駆動力の大きさと勾配相当力の大きさの差の絶対値と等しくなった時点」に対応する。
このように、前記駆動力が上り方向に働く場合、前記制動力減少手段は、前記制動力が前記第2の特性をもって減少していく過程において前記駆動力の大きさが前記制動力の大きさと前記勾配相当力の大きさの和よりも大きい状態が維持されるように、前記第2の特性を決定するように構成される。
駆動力が上り方向に働く場合(車両が上ろうとしている場合)において勾配が大きいとき、制動力と駆動力と勾配相当力とがつりあった時点(即ち、発進時点)において駆動力の大きさが勾配相当力の大きさよりも小さい場合が発生し得る。このような場合、発進時点以降における制動力の減少特性、即ち、前記第2の特性の設定によっては、発進時点以降において車両が一時的に下り方向に移動する事態(所謂「ずり下がり」)が発生し得る。
これに対し、上記構成によれば、制動力が前記第2の特性をもって減少していく過程(即ち、発進時点以降)において、駆動力の大きさ(即ち、上り方向に働く力)が制動力の大きさと前記勾配相当力の大きさの和(即ち、下り方向に働く力)よりも大きい状態が維持される。従って、発進時点以降における「ずり下がり」の発生を抑制し得る。
また、前記制動力減少手段は、前記駆動力の変化に応じて前記第2の特性を決定するように構成されると好ましい。一般に、発進直後における駆動力の増加要求の程度が大きいほど、発進直後において許容され得るショックの程度が大きくなると考えられる。
上記構成によれば、例えば、発進直後における駆動力の増加速度が大きいほど発進直後における制動力の減少勾配をより大きい値に決定することができ、自動制動力制御による制動力が不必要に長く残存する事態が抑制され得る。換言すれば、自動制動力制御による制動力がゼロに達する時期が不必要に遅くなる事態が抑制され得る。
以下、本発明による車両の自動制動力制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る自動制動力制御装置を含んだ車両の制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、後輪駆動車両である。
この制御装置10は、ストロークシミュレータ機構20と、車輪にブレーキ液圧による制動力を発生させるためのハイドロリックユニット30とを含んでいる。このストロークシミュレータ機構20とハイドロリックユニット30とにより、所謂ブレーキ・バイ・ワイヤ・システムが構成されている。
ストロークシミュレータ機構20には、ブレーキペダルBPのストロークStに応じて、同ストロークStに応じたブレーキ液圧に相当する適切な反力をブレーキペダルBPに付与する周知の反力付与機構が内蔵されている。係る反力付与機構については詳細な説明を省略する。これにより、運転者は、ブレーキペダルBPの操作時において適切なブレーキペダルフィーリングを得ることができるようになっている。
ハイドロリックユニット30は、その概略構成を表す図2に示すように、前2輪FL,FRに係わる前輪側系統と後2輪RL,RRに係わる後輪側系統とからなる2系統のブレーキ液圧回路を備えている。係る前輪側系統と後輪側系統とは同様の構成を有しているから、以下、前輪側系統についてのみ説明する。
大気圧のブレーキ液を貯留するリザーバRSと右前輪FRのホイールシリンダWfrとの間には常開リニア電磁弁LVfrが介装されている。リザーバRSと左前輪FLのホイールシリンダWflとの間には常開リニア電磁弁LVflが介装されている。常開リニア電磁弁LVfr,LVflの作動については後述する。
ブラシレスモータである前輪側モータMfは、トロコイドポンプである2つの液圧ポンプHPfr,HPflを同時に駆動するようになっている。なお、ブラシレスモータは、応答性、耐久性に優れるというメリットを有している。また、トロコイドポンプは、所謂ピストンポンプに比して吐出脈動が小さく、作動に伴う騒音が小さいというメリットを有している。
液圧ポンプHPfrは、リザーバRS内のブレーキ液をチェック弁を介して汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁を介して常開リニア電磁弁LVfrとホイールシリンダWfrの間に吐出するようになっている。同様に、液圧ポンプHPflは、リザーバRS内のブレーキ液をチェック弁を介して汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁を介して常開リニア電磁弁LVflとホイールシリンダWflの間に吐出するようになっている。
次に、常開リニア電磁弁LVfr,LVflについて説明する。常開リニア電磁弁LVfr,LVflは同様の構成を有しているから、以下、主として常開リニア電磁弁LVfrについて説明する。常開リニア電磁弁LVfrの弁体には、図示しないコイルスプリングからの付勢力に基づく開方向の力が常時作用している。
また、常開リニア電磁弁LVfrの弁体には、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧(以下、「ホイールシリンダ液圧Pwfr」と称呼する。他の車輪についても同様。)からリザーバRS内のブレーキ液圧(即ち、大気圧)を減じることで得られる差圧(以下、単に「実差圧ΔPfr」と称呼する。他の車輪についても同様。)に基づく開方向の力と、常開リニア電磁弁LVfrへの通電電流に応じて比例的に増加する吸引力に基づく閉方向の力が作用するようになっている。
この結果、上記吸引力に相当する差圧(指令差圧)が上記通電電流に応じて比例的に増加するように決定される。そして、常開リニア電磁弁LVfrは、係る指令差圧が上記実差圧ΔPfrよりも大きいときに閉弁してリザーバRSと、ホイールシリンダWfrとの連通を遮断する。
一方、常開リニア電磁弁LVfrは、実差圧ΔPfrが指令差圧よりも大きいとき開弁してリザーバRSと、ホイールシリンダWfrとを連通する。この結果、(液圧ポンプHPfrから供給されている)常開リニア電磁弁LVfrとホイールシリンダWfrの間のブレーキ液が常開リニア電磁弁LVfrを介してリザーバRS側に流れることで、実差圧ΔPfr(従って、ホイールシリンダ液圧Pwfr)が指令差圧に一致するように調整され得るようになっている。
換言すれば、前輪側モータMf(液圧ポンプHPfr)が駆動されている場合、常開リニア電磁弁LVfrへの通電電流に応じてホイールシリンダ液圧Pwfrが独立してリニアに(無段階に)制御され得るようになっている。
他方、常開リニア電磁弁LVfrを非励磁状態にすると(即ち、通電電流を「0」に設定すると)、常開リニア電磁弁LVfrはコイルスプリングの付勢力により開状態を維持するようになっている。この場合、前輪側モータMf(液圧ポンプHPfr)が駆動されているか否かにかかわらず、実差圧ΔPfrが「0」になってホイールシリンダ液圧PwfrがリザーバRS内のブレーキ液圧(即ち、大気圧)と等しくなる。
常開リニア電磁弁LVflについても同様である。即ち、前輪側モータMf(液圧ポンプHPfl)が駆動されている場合、常開リニア電磁弁LVflへの通電電流に応じてホイールシリンダ液圧Pwflが独立してリニアに(無段階に)制御され得るようになっている。他方、常開リニア電磁弁LVflを非励磁状態にすると(即ち、通電電流を「0」に設定すると)、前輪側モータMf(液圧ポンプHPfl)が駆動されているか否かにかかわらず、実差圧ΔPflが「0」になってホイールシリンダ液圧PwflがリザーバRS内のブレーキ液圧(即ち、大気圧)と等しくなる。
以上、前輪側系統について説明したが、後輪側系統についても全く同様で、後輪側モータMr(液圧ポンプHPrr,HPrl)が駆動されている場合、常開リニア電磁弁LVrr,LVrlへのそれぞれの通電電流に応じてホイールシリンダ液圧Pwrr,Pwrlがリニアに(無段階に)、且つ個別に制御され得るようになっている。他方、常開リニア電磁弁LVrr,LVrlを非励磁状態にすると(即ち、通電電流を「0」に設定すると)、後輪側モータMr(液圧ポンプHPrr,HPrl)が駆動されているか否かにかかわらず、実差圧ΔPrr,ΔPrlが「0」になってホイールシリンダ液圧Pwrr,PwrlがリザーバRS内のブレーキ液圧(即ち、大気圧)と等しくなる。
以上、説明したように、ハイドロリックユニット30は、モータMf,Mrを駆動するとともに、常開リニア電磁弁LV**への通電電流をそれぞれ制御することでホイールシリンダ液圧Pw**を個別に調整できるようになっている。なお、変数等の末尾に付された「**」は、同変数等が何れの車輪に関するものであるかを示すために同変数の末尾に付される「fl」「fr」等の包括表記であって、例えば、ホイールシリンダ液圧Pw**は、ホイールシリンダPwfr,Pwfl,Pwrr,Pwrlを包括的に示している。
再び図1を参照すると、この制御装置10は、車両の駆動源であるエンジンE/G21と、トルクコンバータ付自動変速機A/T22とを備えている。A/T22は、E/G21と駆動輪(後輪)との間の駆動力伝達系に介装されている。これにより、アイドリング中(即ち、アクセルペダルAP非操作時)において、クリープ現象によりA/T22により出力される駆動力(以下、「クリープ力Fc」と称呼する。)が後輪に伝達されるようになっている。
制御装置10は、車輪**の車輪速度に応じた周波数を有する信号をそれぞれ出力する電磁ピックアップ式の車輪速度センサ41fr,41fl,41rr及び41rlと、ブレーキペダルBPのストロークを検出し、ブレーキペダルストロークStを示す信号を出力するストロークセンサ42と、アクセルペダルAPの操作量を検出し、アクセルペダル操作量Accpを示す信号を出力するアクセル操作量センサ43と、路面勾配(車両ピッチング方向の勾配)を検出し、路面勾配gradを検出する勾配センサ44と、E/G21の回転速度を検出し、エンジン回転速度NEを出力する回転速度センサ45と、ホイールシリンダ液圧Pw**をそれぞれ検出するホイールシリンダ液圧センサ46**(図2を参照)とを備えている。なお、本例では、路面勾配gradは、下り勾配において正の値、上り勾配において負の値を採るように構成されている。
加えて、制御装置10は電子制御装置50を備えている。電子制御装置50は、互いにバスで接続されたCPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース55は、前記センサ41〜46と接続され、センサ41〜46からの信号をCPU51に供給するとともに、同CPU51の指示に応じてハイドロリックユニット30の電磁弁LV**、及びモータMf,Mrに駆動信号を送出するようになっている。
以上の構成により、制御装置10は、運転者がブレーキペダルBPを操作している間(従って、ブレーキペダルストロークSt>0のとき)、モータMf,Mr、及び常開リニア電磁弁LV**を制御して、ホイールシリンダ液圧Pw**をブレーキペダルストロークStに応じた最適な目標値にそれぞれ調整する。これにより、前輪側と後輪側のホイールシリンダ液圧の関係は原則的に、周知の理想制動力配分曲線に沿うように設定される。また、左右前輪のホイールシリンダ液圧Pwfr,Pwflが同圧に設定され、左右後輪のホイールシリンダ液圧Pwrr,Pwrlも同圧に設定される。
加えて、制御装置10は、車両停止状態において、車両を停止状態に維持するために、運転者によるブレーキペダルBPの操作とは独立してブレーキ液圧を自動的に保持するオートホールド制御を実行するようになっている。以下、図3のフローチャート、及び図4〜図11のタイムチャートを参照しながら、上記構成を有する本発明の実施形態に係る制御装置10(以下、「本装置」ということもある。)が行うオートホールド制御について説明していく。
(オートホールド制御における実際の作動)
CPU51は、図3に示したルーチンを所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ300から処理を開始し、ステップ302に進んで、フラグHOLD=0であるか否かを判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ304に進んでオートホールド制御開始条件が成立しているか否かを判定する。
ここで、フラグHOLDは、その値が「1」のときオートホールド制御実行中であることを示し、その値が「0」のときオートホールド制御非実行中であることを示す。また、オートホールド制御開始条件は、例えば、車両停止中においてブレーキペダルBPの操作(ブレーキペダルストロークSt>0)が所定時間継続している場合に成立する。ここで、車両停止中か否かは、例えば、車輪速度センサ41**から得られる車輪速度Vw**から計算される車体速度Vsoがゼロであるか否かを判定することで判定され得る。
いま、オートホールド制御非実行中であり、且つ、オートホールド制御開始条件が成立していないものとすると、CPU51はステップ302にて「Yes」と判定し、続くステップ304にて「No」と判定してステップ395に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。このような処理は、オートホールド制御開始条件が成立するまで繰り返し実行される。
次に、この場合にて、オートホールド制御開始条件が成立した場合について説明する。この場合、CPU51はステップ304に進んだとき「Yes」と判定してステップ306に進み、フラグHOLDの値を「0」から「1」に設定し、続くステップ308にてフラグDECの値を「0」に設定する。フラグDECは、その値が「0」のとき後述するオートホールド制御終了条件が成立していないことを示し、その値が「1」のときオートホールド制御終了条件が成立したことを示す。
そして、CPU51はステップ310に進んでホイールシリンダ圧Pw**を所定の高圧Ph(一定)に維持するようにモータMf,Mr、及び常開リニア電磁弁LV**に対して制御指示を行い、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、ブレーキペダルBPの操作にかかわらずホイールシリンダ圧Pw**がそれぞれ高圧Phに維持継続される。即ち、高圧Phに相当する制動力が発生する。このようにして、オートホールド制御が実行開始される。
この結果、ブレーキペダルBPが開放されても車両が停止状態に維持される。なお、高圧Phは、ピッチング方向において想定され得る最大の勾配を有する路面上に車両が停止している場合においても車両が下り方向に移動しない程度に十分に大きい圧力に設定されている。
以降、フラグHOLD=1、フラグDEC=0となっているから、CPU51はステップ302に進んだとき「No」と判定してステップ312に進み、ステップ312にて「Yes」と判定してステップ314に進み、オートホールド制御終了条件が成立しているか否かをモニタするようになる。ここで、オートホールド制御終了条件は、例えば、運転者がアクセルペダルAPを操作した場合(即ち、アクセルペダル操作量Accp>0)に成立する。
係るオートホールド制御終了条件が成立しない限りにおいて、CPU51はステップ314にて「No」と判定してステップ395に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。この間、オートホールド制御が継続される。
次に、オートホールド制御継続中においてオートホールド制御終了条件が成立した場合について説明する。この場合、CPU51はステップ314に進んだとき「Yes」と判定してステップ316に進み、フラグDECの値を「0」から「1」に変更し、続くステップ318にて勾配判定を行う。勾配判定では、勾配センサ44により検出される路面勾配gradに基づいて「平地」、「下り」、「上り」の何れかが選択される。
具体的には、路面勾配gradの絶対値が或る正の微小値以下の場合には「平地」と判定されて値E=1に設定される。路面勾配grad(>0)が上記微小値よりも大きい場合には「下り」と判定されて値E=2に設定される。路面勾配grad(<0)が−(上記微小値)よりも小さい場合には「上り」と判定されて値E=3に設定される。
続いて、CPU51はステップ320に進んで、上記路面勾配gradと、gradを引数とする関数funcとに基づいて、路面勾配gradに起因して車体前後方向に働く外力、即ち、車両の重力における路面に沿った方向の成分である勾配相当力Fgradを算出する。これにより、勾配相当力Fgradは、下り勾配においては正の値に計算され、上り勾配においては負の値に計算される。また、勾配相当力Fgradの絶対値は、路面勾配gradの絶対値が大きいほどより大きい値に計算される。
次に、CPU51はステップ322に進み、E/G21の作動に起因して後輪に働く駆動力Fd(>0)を、エンジン回転速度NEと、アクセルペダル操作量Accpと、NE,Accpを引数とするテーブルMapとに基づいて決定する。これにより、エンジン回転速度NEが大きいほど、アクセルペダル操作量Accpが大きいほど、駆動力Fdがより大きい値に決定される。また、アクセルペダル操作量Accp=0の場合、駆動力Fdは前記クリープ力Fcと等しい値に決定される。
次いで、CPU51はステップ324に進んで、値E=1(「平地」)であるか否かを判定する。以下、先ずは、「平地」と判定される場合について説明する。
<平地の場合>
平地の場合、値E=1となっている。従って、CPU51はステップ324にて「Yes」と判定してステップ326に進み、正味駆動力Fdnetを前記決定された駆動力Fdと等しい値に設定する。ここで、正味駆動力Fdnetとは、路面勾配gradを考慮して実質的に車両に発生する駆動力である。
次に、CPU51はステップ328に進んで、正味駆動力Fdnetに係数K1(一定)を乗じることで、正味駆動力Fdnetとつりあう制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧である正味駆動力相当液圧Pdnetを計算する。この係数K1は、制動力をブレーキ液圧に変換するための変換係数に相当する。
続いて、CPU51はステップ330に進み、ホイールシリンダ圧Pwが前記計算された現時点での正味駆動力相当液圧Pdnet以上であるか否かを判定する。現時点では、ホイールシリンダ圧Pw**は、高圧Ph(>Pdnet)に維持されている。従って、CPU51はステップ328にて「Yes」と判定してステップ332に進み、ホイールシリンダ圧Pw**を第1勾配(一定、前記第1の特性)で減少させる指示をモータMf,Mr、及び常開リニア電磁弁LV**に対して行い、続くステップ334にて、アクセルペダル操作量前回値Accpbを現時点でのアクセルペダル操作量Accpと等しい値に設定した後、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、ホイールシリンダ圧Pw**が第1勾配をもって減少を開始する。第1勾配は、本例では、ホイールシリンダ圧Pw**(従って、制動力)が急激に減少していく減少勾配に相当する。
以降、フラグDEC=1となっているから、CPU51はステップ312に進んだとき「No」と判定して、ステップ322、324、326、328の処理を順に実行し、ステップ330の判定を行う。そして、ステップ330にて「Yes」と判定する限りにおいて、CPU51はステップ332、334の処理を実行する。即ち、ホイールシリンダ圧Pwがその時点での正味駆動力相当液圧Pdnet以上である間は、ホイールシリンダ圧Pw**(従って、制動力)が第1勾配をもって急激に減少し続ける。
第1勾配をもって減少していくホイールシリンダ圧Pwは、やがてその時点での正味駆動力相当液圧Pdnetと一致する。この時点は、制動力と正味駆動力Fdnetとがつりあう時点に対応する。平地の場合では、正味駆動力Fdnetは駆動力Fdと等しい(ステップ326)から、この時点は、制動力と駆動力Fdnetとがつりあう時点に対応する。この時点が、前記「特定の時点」に相当する。
このように、ホイールシリンダ圧Pwがその時点での正味駆動力相当液圧Pdnetと一致すると、CPU51はステップ330に進んだとき「No」と判定してステップ336に進み、ホイールシリンダ圧Pwが所定の微小液圧Pmin(例えば、ゼロ)よりも大きいか否かを判定する。
現時点では、ホイールシリンダ圧Pw(=Pdnet)は、微小液圧Pminよりも大きい。従って、CPU51はステップ336にて「Yes」と判定してステップ338に進んで、第2勾配(前記第2の特性に相当)を、ステップ338内に記載の式に従って計算する。ここで、Accpとしては、アクセル操作量センサ43から得られる現時点での値が使用される。Accpbとしては、前回の本ルーチン実行時においてステップ334にて更新されている値が使用される。K2は係数(一定)である。Δtは本ルーチンの実行間隔(周期)である。
これにより、第2勾配は、アクセルペダル操作量Accpの変化速度「(Accp−Accpb)/Δt」に係数K2を乗じた値に決定される。換言すれば、第2勾配は、駆動力Fdの変化に応じて決定される。この第2勾配は、前記第1勾配(一定)よりも緩やかな減少勾配となるように計算される。
続いて、CPU51はステップ340に進み、ホイールシリンダ圧Pw**を前記決定された第2勾配で減少させる指示をモータMf,Mr、及び常開リニア電磁弁LV**に対して行い、ステップ334の処理を行った後、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、第1勾配で減少してきたホイールシリンダ圧Pw**は、制動力と駆動力Fdnetとがつりあう時点から第2勾配をもって減少を開始する。
以降、ステップ330では「No」と判定され続ける。即ち、CPU51はステップ302、312、322、324、326、328の処理を順に実行し、ステップ330にて「No」と判定してステップ336に進み、同ステップ336の判定を行う。そして、ステップ336にて「Yes」と判定する限りにおいて、CPU51はステップ338、340、334の処理を実行する。即ち、ホイールシリンダ圧Pwが微小液圧Pmin(例えば、ゼロ)よりも大きい間は、ホイールシリンダ圧Pw**(従って、制動力)が第2勾配をもって緩やかに減少し続ける。
第2勾配をもって減少していくホイールシリンダ圧Pwは、やがて微小液圧Pminに達する。この結果、CPU51はステップ336に進んだとき「No」と判定してステップ342に進み、所定のオートホールド制御終了処理を行い、続くステップ344にてフラグHOLDの値を「1」から「0」に変更した後、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、オートホールド制御が終了する。
以降、フラグHOLD=0となっているから、CPU51はステップ302に進んだとき「Yes」と判定してステップ304に進み、オートホールド制御開始条件が成立したか否かを再びモニタするようになる。
以上のように、オートホールド制御終了条件が成立すると、ホイールシリンダ圧Pw**(従って、制動力)は、先ず、第1勾配(一定)をもって高圧Phから急激に減少していく。そして、平地の場合、制動力と駆動力Fdとがつりあう時点が到来すると、ホイールシリンダ圧Pw**(従って、制動力)は、第1勾配よりも減少勾配が緩やかな第2勾配をもって減少していく。以下、このように、制動力の減少勾配を2段階とすることによる作用・効果について図4、図5のタイムチャートを参照しながら説明する。
図4は、比較対象として、制動力の減少勾配が第1勾配に維持される従来の装置が適用された場合であって、且つ、平地の場合における、制動力(Pw)、駆動力Fd、車体加速度G、アクセルペダル操作量Accpの変化の一例を示したタイムチャートである。
図4では、時刻t1以前では、オートホールド制御が実行・継続されている。従って、ホイールシリンダ圧Pw**が高圧Phに保持されていることにより大きい制動力(一定)が発生していて、車両は停止状態に維持されている。また、アクセルペダル操作量Accpは、時刻t1以前ではゼロに維持されている。これにより、駆動力Fdは、クリープ力Fcに維持されている。
時刻t1以降、アクセルペダルAPの操作が開始される。アクセルペダル操作量Accpは、時刻t1から所定の勾配を持って時刻t4まで増大していき、時刻t4以降、一定に維持されている。
時刻t1にて、アクセルペダル操作が開始されることにより、オートホールド制御終了条件が成立する。従って、時刻t1以降、制動力は、前記高圧Phに相当する大きい値からゼロに向けて第1勾配(一定)をもって急激に減少していく。この結果、時刻t2にて、制動力と正味駆動力Fdnet(=Fd)(この例では、値Fcと等しい)とがつりあう。この時刻t2にて車両は発進する。
時刻t2以降もなお、制動力はゼロに向けて第1勾配をもって急激に減少していく。この結果、時刻t2から、制動力がゼロに達する時刻t3までの間、正味駆動力Fdnet(=Fd)から制動力を減じた値(即ち、実質的に車両を移動させる力)が急激に増大する。このことに起因して、時刻t2〜t3において、車体加速度Gが急激に増大する。この結果、発進直後において一時的に大きな加速度(ショック)が発生する。
なお、図4において、車体加速度Gに関する破線は、運転者の意思(具体的には、アクセルペダル操作量Accp)に沿った理想の車体加速度Gの変化特性を示している。また、車体加速度Gに関する微細なドットで示した領域は、制動力に関する斜線で示した領域に対応している。
これに対し、図5は、本装置が適用された場合における、図4に対応するタイムチャートである。図5に示したように、この場合、第1勾配で急激に減少してきた制動力と正味駆動力Fdnetとがつりあう時刻t2以降、制動力は、ゼロに向けて第1勾配よりも緩やかな第2勾配をもって減少していく。この結果、時刻t2から、制動力がゼロに達する時刻t3’までの間、正味駆動力Fdnet(=Fd)から制動力を減じた値(即ち、実質的に車両を移動させる力)が急激に増大しない。即ち、時刻t2〜t3’において、車体加速度Gが急激に増大しない。この結果、発進直後において一時的に大きな加速度(ショック)が発生することが抑制され得る。以上、平地の場合について説明した。次に、「下り」と判定される場合について説明する。
<下りの場合>
下りの場合、値E=2となっている。従って、CPU51はステップ324に進んだとき「No」と判定してステップ346に進み、同ステップ346にて「Yes」と判定して、正味駆動力Fdnetを、ステップ322にて決定されているその時点での駆動力Fdとステップ320にて計算されている勾配相当力Fgrad(>0)の和の値に設定する。これは、勾配相当力Fgradが駆動力Fdを助勢する方向(下り方向)に働くからである。
これにより、下りの場合、ホイールシリンダ圧Pwが正味駆動力相当液圧Pdnetと一致する時点(ステップ330にて初めて「No」と判定される時点)、即ち、制動力と正味駆動力Fdnetとがつりあう時点(即ち、車両が発進する時点)は、制動力と駆動力Fdと勾配相当力Fgrad(>0)とがつりあう時点に対応する。換言すれば、この時点は、制動力の大きさが駆動力Fdの大きさと勾配相当力Fgradの大きさの和(Fd+Fgrad)と等しくなった時点に対応する。
このように、下りの場合、制動力の大きさが駆動力Fdの大きさと勾配相当力Fgradの大きさの和(Fd+Fgrad)と等しくなる時点が到来すると、ホイールシリンダ圧Pw**(従って、制動力)の減少勾配が、第1勾配から第2勾配に切換る。
図6は、比較対象として、制動力の減少勾配が第1勾配に維持される従来の装置が適用された場合であって、且つ、下りの場合における、図4に対応するタイムチャートである。図6は、図4に対して、車両が発進する時点である時刻t2において、制動力とつりあう正味駆動力Fdnetが値Fdではなく値「Fd+Fgrad」(この例では、値Fc+Fgradと等しい)である点、並びに、車両発進後において車体加速度Gが向かう変化特性が上述した「運転者の意思に沿った理想の車体加速度Gの変化特性(破線を参照)」ではなく「前記理想の変化特性を勾配相当力Fgrad(>0)に相当する分だけかさ上げして得られる変化特性」である点においてのみ異なる。
図6に示すように、この場合も、図4に示した場合と同様、時刻t2〜t3において、車体加速度Gが急激に増大する。この結果、発進直後において一時的に大きな加速度(ショック)が発生する。
これに対し、図7は、本装置が適用された場合における、図6に対応するタイムチャートである。図7に示したように、この場合も、図5に示した場合と同様、時刻t2から、制動力がゼロに達する時刻t3’までの間、正味駆動力Fdnet(=Fd+Fgrad)から制動力を減じた値(即ち、実質的に車両を下り方向に移動させる力)が急激に増大しない。即ち、時刻t2〜t3’において、車体加速度Gが急激に増大しない。この結果、発進直後において一時的に大きな加速度(ショック)が発生することが抑制され得る。以上、下りの場合について説明した。次に、「上り」と判定される場合について説明する。
<上りの場合>
上りの場合、値E=3となっている。従って、CPU51はステップ324、346に進んだとき共に「No」と判定してステップ350に進み、その時点での駆動力Fdが勾配相当力Fgrad(<0)の絶対値|Fgrad|よりも小さいか否かを判定する。ここで、「No」と判定される場合は、発進時点以降において前記「ずり下がり」が発生しない場合に対応し、「Yes」と判定される場合は、上り勾配が急で発進時点以降において前記「ずり下がり」が発生し得る場合に対応する。
CPU51はステップ350にて「No」と判定する場合、前述のステップ348に進んで、上述した下りの場合と同様、正味駆動力Fdnetを、その時点での駆動力Fdと勾配相当力Fgrad(<0)の和の値(Fd+Fgrad)に設定する。一方、CPU51はステップ350にて「Yes」と判定する場合、ステップ352に進んで、正味駆動力Fdnetを、その時点での駆動力Fdと勾配相当力Fgrad(<0)の和の絶対値|Fd+Fgrad|に設定する。
即ち、上りの場合、勾配相当力Fgrad<0であることを考慮すると、駆動力Fdと勾配相当力の絶対値|Fgrad|との大小関係にかかわらず、正味駆動力Fdnetは、駆動力Fdの大きさと勾配相当力Fgradの大きさ(−Fgrad)の差の絶対値|Fd−(−Fgrad)|に設定されるということもできる。これは、勾配相当力Fgradが駆動力Fdと対抗する方向(下り方向)に働くからである。
これにより、上りの場合も、下りの場合と同様、ホイールシリンダ圧Pwが正味駆動力相当液圧Pdnetと一致する時点(ステップ330にて初めて「No」と判定される時点)、即ち、制動力と正味駆動力Fdnetとがつりあう時点(即ち、車両が発進する時点)は、制動力と駆動力Fdと勾配相当力Fgrad(<0)とがつりあう時点に対応する。換言すれば、この時点は、制動力の大きさが駆動力Fdの大きさと勾配相当力Fgradの大きさ(−Fgrad)の差の絶対値|Fd−(−Fgrad)|と等しくなった時点に対応する。
このように、上りの場合、制動力の大きさが駆動力Fdの大きさと勾配相当力Fgradの大きさ(−Fgrad)の差の絶対値|Fd+Fgrad)|と等しくなる時点が到来すると、ホイールシリンダ圧Pw**(従って、制動力)の減少勾配が、第1勾配から第2勾配に切換る。
図8は、比較対象として、制動力の減少勾配が第1勾配に維持される従来の装置が適用された場合であって、且つ、上りの場合であって、且つ、駆動力Fdが勾配相当力の絶対値|Fgrad|よりも大きい場合(即ち、前記「ずり下がり」が発生しない場合)における、図4に対応するタイムチャートである。
図8は、図4に対して、車両が発進する時点である時刻t2において、制動力とつりあう正味駆動力Fdnetが値Fdではなく値|Fd+Fgrad|(この例では、値Fc+Fgradと等しい)である点、並びに、車両発進後において車体加速度Gが向かう変化特性が上述した「運転者の意思に沿った理想の車体加速度Gの変化特性(破線を参照)」ではなく「前記理想の変化特性を勾配相当力Fgrad(<0)に相当する分だけかさ下げして得られる変化特性」である点においてのみ異なる。
図8に示すように、この場合も、図4に示した場合と同様、時刻t2〜t3において、車体加速度Gが急激に増大する。この結果、発進直後において一時的に大きな加速度(ショック)が発生する。
これに対し、図9は、本装置が適用された場合における、図8に対応するタイムチャートである。図9に示したように、この場合も、図5に示した場合と同様、時刻t2から、制動力がゼロに達する時刻t3’までの間、正味駆動力Fdnet(=Fd+Fgrad)から制動力を減じた値(即ち、実質的に車両を上り方向に移動させる力)が急激に増大しない。即ち、時刻t2〜t3’において、車体加速度Gが急激に増大しない。この結果、発進直後において一時的に大きな加速度(ショック)が発生することが抑制され得る。
また、図10は、比較対象として、制動力の減少勾配が第1勾配に維持される従来の装置が適用された場合であって、且つ、上りの場合であって、且つ、駆動力Fdが勾配相当力の絶対値|Fgrad|よりも小さい場合(即ち、上り勾配が急で前記「ずり下がり」が発生し得る場合)における、図4に対応するタイムチャートである。
図10に示すように、車両が発進する時点である時刻t2において、駆動力Fdが勾配相当力の絶対値|Fgrad|よりも小さい場合、時刻t2以降においてもなお、制動力がゼロに向けて第1勾配をもって急激に減少していくと、時刻t2以降において、勾配相当力Fgradの大きさ|Fgrad|(即ち、下り方向に働く力)が駆動力Fdの大きさと制動力の大きさの和(即ち、上り方向に働く力)よりも大きい状態が一時的に発生し、車体加速度Gが負の値(下り方向に対応する値)に維持される状態が発生し得る。換言すれば、前記「ずり下がり」が発生し得る。
加えて、図8に示した場合と同様、時刻t2〜t3において、車体加速度G(の絶対値)が急激に増大する。この結果、発進直後において一時的に大きな加速度(ショック)が発生する。
これに対し、図11は、本装置が適用された場合における、図10に対応するタイムチャートである。図11に示したように、この場合、時刻t2以降において、制動力がゼロに向けて第2勾配をもって緩やかに減少していく。この結果、時刻t2以降において、駆動力Fdの大きさ(即ち、上り方向に働く力)が制動力の大きさと勾配相当力Fgradの大きさ|Fgrad|の和(即ち、下り方向に働く力)よりも大きい状態が維持される。換言すれば、このような状態が維持されるように第2勾配の決定に使用される前記係数K2が決定されている。従って、時刻t2以降において、車体加速度Gが正の値(上り方向に対応する値)に維持される。換言すれば、前記「ずり下がり」が発生しない。
加えて、図5に示した場合と同様、時刻t2から、制動力がゼロに達する時刻t3’までの間、正味駆動力Fdnet(=Fd+Fgrad)から制動力を減じた値(即ち、実質的に車両を上り方向に移動させる力)が急激に増大しない。即ち、時刻t2〜t3’において、車体加速度Gが急激に増大しない。この結果、発進直後において一時的に大きな加速度(ショック)が発生することが抑制され得る。
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る自動制動力制御装置によれば、ホイールシリンダ圧Pw**を保持して車両を停止状態に維持するオートホールド制御が実行されている状態においてオートホールド制御の終了条件(アクセルペダル:ON)が成立すると、ホイールシリンダ圧Pw**(従って、制動力)が、先ず、第1勾配をもって急激に減少させられる。そして、平地と判定される場合は制動力と駆動力Fdとがつりあう時点、平地でないとされる場合(下り、或いは上りと判定される場合)は制動力と駆動力Fdと勾配相当力Fgradとがつりあう時点(即ち、車両が発進する時点)が到来すると、ホイールシリンダ圧Pw**(従って、制動力)が、第1勾配よりも減少勾配が緩やかな第2の勾配をもって緩やかに減少させられる。
これにより、発進時点以降において実質的に車両を移動させる力が急激に増大することが抑制され得るから、発進直後において一時的に大きな加速度(ショック)が発生することが抑制され得る。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、第2勾配(前記第2の特性)がアクセルペダル操作量Accpの変化速度「(Accp−Accpb)/Δt」に応じた値に決定されているが(ステップ338を参照)、第2勾配が駆動力Fdの変化速度に応じた値に決定されてもよい。この場合、例えば、第2勾配は、駆動力Fdの変化速度に係数を乗じた値に決定される。更には、第2勾配を、第1勾配よりも減少勾配が緩やかな一定の勾配としてもよい。
また、上記実施形態においては、第1勾配を急激な一定の減少勾配に設定しているが、例えば、常開リニア電磁弁LV**を開状態に維持することにより常開リニア電磁弁LV**の開口面積と前記実差圧とから流体力学的に逐次決定されていくホイールシリンダ圧の急激な減少勾配(曲線)を第1勾配として使用してもよい。
また、上記実施形態においては、第1勾配で急激に減少していく制動力と、その時点での駆動力Fd(と、勾配相当力Fgrad)とがつりあう時点にてホイールシリンダ圧(制動力)の減少勾配を第1勾配から第2勾配へと切り換えているが、発進直後における駆動力Fdはほぼクリープ力Fcと等しいと考えて、第1勾配で急激に減少していく制動力と、その時点でのクリープ力Fc(と、勾配相当力Fgrad)とがつりあう時点にてホイールシリンダ圧(制動力)の減少勾配を第1勾配から第2勾配へと切り換えてもよい。
加えて、上記実施形態においては、勾配センサ44として、前後加速度センサを使用してもよい。これは、前後加速度センサは、車両がピッチング方向に傾くと、その傾きの程度に応じた信号を出力する特性があることに基づく。
10…制御装置、20…ストロークシミュレータ、30…ハイドロリックユニット、41**…車輪速度センサ、42…ストロークセンサ、43…アクセル操作量センサ、44…勾配センサ、46…ホイールシリンダ液圧センサ、50…電子制御装置、51…CPU、HP**…液圧ポンプ、LV**…常開リニア電磁弁、Mf,Mr…モータ