JP4946652B2 - 元素測定方法および試料削り取り装置 - Google Patents

元素測定方法および試料削り取り装置 Download PDF

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Description

本発明は、XRF(蛍光X線分析法:X−ray fluorescence spectrometry)を用いた深さ方向の分析方法および装置に関する。
XRF法は、励起源および分析に、透過力が強い、電荷を持たない、屈折率がほとんど1であるという性質を持つX線を用いるため、分析深さが深くかつ分析領域が比較的広いという特徴を持っている。このため、XRF法は、非破壊で簡単に感度よく分析できることから、材料を構成する元素の特定手段として、素材生産における品質管理や材料研究に広く利用されてきた。近年、欧州のRoHS指令(Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment)、ELV(End of Life Vehicle)等、一般消費者向け製品中の有害物質に関する規制が強化されつつあり、購入部品中に規制物質が含まれているか否かをチェックする手段として、電気メーカ等の部品仕様決定部門や受け入れ部門で、XRF検査装置を大量に導入するニーズが増加している。
有害元素の有無判定や濃度測定においては、含有濃度が実際上問題にならない程度に微量である場合に非含有と判定するため、定量下限が十分低いことが必要である。また、製品を構成する膨大な数の部品が調査対象となるため、できる限り短時間かつ効率的に確認を行なう必要がある。XRF法の中でもエネルギー分散型XRF法は、このようなニーズに適していることから、分析機器メーカ各社からRoHS、ELV規制向けのバルク材料対応のエネルギー分散型XRF装置が市販されており、Cd(カドミウム)、Pb(鉛)等の規制対象元素の蛍光X線を検出しやすくするための一次X線フィルタや検量線プログラムの開発が進み、広く実用化されている。
それにも拘わらず、XRF法は、通常は表面処理膜を有する試料には適用されなかった。これは、分析領域が深くかつ広いため、膜構造を層として持つ試料の膜中のみの分析や微小領域内のみの分析には原理的に向いていないという本質的な弱点によるものである。
しかしながら、分析の対象となるほとんどの部品、特に電機部品や電子部品には、有害物質を含む可能性が高いSn(錫)メッキ膜、クロメート膜、Ni(ニッケル)メッキ膜等の表面処理が施されている。例えば、チップ抵抗のように、横方向および下層に妨害成分となるPb(RoHS指令除外)が高濃度に含まれている試料の場合、妨害部位の影響で、電極メッキ膜中のみのPb含有量を正確に調べることができなかった。
そこで、Snメッキ膜を基材等と一緒に定量分析し、SnとPbに注目して再計算しSnメッキ膜中のPbを定量する手法(特許文献1,2参照。)、Cr(クロム)検出の有無とクロメート処理を施す可能性がある基材であるか否かを特定することによりクロメート処理の有無を判定する手法(特許文献3参照。)、メッキ膜単体の検量線用標準試料を用いることにより、精度の高い検量線を作成し、メッキ膜を基材ごと測定して得たスペクトルと、メッキ膜を除去した基材のみのスペクトルとの差分を取ることによって、基材由来の影響除去することによりメッキ膜中に含まれている対象元素のみの定量分析を可能にする手法(特許文献3参照。)等が考案されてきた。
特願2004−277573(特許請求の範囲) 特願2004−321007(特許請求の範囲) 特願2006−064516(特許請求の範囲) 特願2006−059754(特許請求の範囲)
しかしながら、従来技術では、普及型XRF法による深さ方向は不可能であった。
本発明は、この問題を解決し、(普及型XRF法を含めた)XRF法を用いて、試料の深さ方向の元素を測定する技術を提供することを目的としている。本発明の更に他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
本発明の一態様によれば、
試料の深さ方向における元素を測定する方法であって、
当該試料にシートを当て、
当該試料と当該シートとの間に押圧を加え、
当該試料を当該シート面に平行に相対的に移動させることによって削り取られた試料粉中の元素を、当該移動方向に沿って蛍光X線測定法により測定することにより、前記試料の深さ方向の元素を間接的に測定する、元素測定方法
が提供される。
本発明態様により、試料の深さ方向の元素を容易に測定する技術が提供される。
前記移動の距離と前記試料の削り取られた厚さとの比較により、前記深さを決めることにより、試料の深さ方向の元素を測定するための試料の深さを容易に定めることができる。
前記削り取られた試料粉中の主成分元素の存否または濃度の差により、試料深さを決定することなく、試料の深さ方向の所望の部位における元素を測定することができる場合がある。
前記シートが紙またはプラスチックシートを含んでなることにより、試料の深さ方向の元素を適切に測定することができることが多い。
前記シートが測定対象である元素を含まないことにより、試料の深さ方向の所望の部位における元素をより正確に測定することができる。
前記シートが、表面に表面粗化用粒子を有することにより、また特に、前記表面粗化用粒子の粒度が、JIS R6001による規格で、#1200〜#2000の間にあることにより、および/または、前記押圧が3×10Pa以下であることにより、試料粉の削り取りを容易に行うことができる。
前記シートの表面が、前記削り取られた試料粉を視覚的に識別できる色彩を有することにより、試料粉の削り取りの状態を容易に観察できる。
前記移動が一本または複数本の直線移動であることにより、移動の距離と試料の削り取られた厚さとの比較を容易に行うことができる。
前記試料がSnメッキ膜を含み、当該Snメッキ膜がPbを含むことにより、本発明を広い適応対象に適用することができる。
本発明の他の一態様によれば、上記態様に記載の元素測定方法に使用される試料削り取り装置であって、
前記シートを支持するためのステージと、
前記試料を把持し、当該把持された試料を前記シートに当て、当該試料と当該シートとの間に押圧を加えることのできる把持押圧部と、
を有し、
前記把持押圧部を前記ステージ面に平行に相対的に移動させることにより、前記試料を前記シート面に平行に相対的に移動させられるようになっている、
試料削り取り装置
が提供される。
本発明態様により、試料の深さ方向の元素を容易に測定するための装置が実現する。
本発明により、試料の深さ方向の元素を容易に測定する技術が提供される。
以下に、本発明の実施の形態を図、表、式、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、表、式、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
試料の深さ方向の元素の測定は、
当該試料にシートを当て、
当該試料と当該シートとの間に押圧を加え、
当該試料を当該シート面に平行に相対的に移動させることによって削り取られた試料粉中の元素を、当該移動方向に沿って蛍光X線測定法により測定することにより実現できることが見出された。削り取られた試料粉中の元素を測定することにより、前記試料の深さ方向の元素を間接的に測定することができるのである。
本発明における測定には測定対象元素の存否を決めるための定性的測定も、濃度を求める定量的測定も含まれる。試料粉中の元素の測定には、通常の蛍光X線測定法における技術を使用することができる。例えば、Sn中のPbの濃度のような元素濃度は、別途求めた検量線を用いて決定できる。
本発明によれば、例えば、定量対象元素(Pb)を含まない研磨用シートを用い、最表面層から分析試料を順次連続的にシート上に得た試料削粉を削り取り、XRF法で複数点でまたは連続的に分析することにより、時間軸方向に試料の深さ方向の情報を得ることが可能になる。すなわち深さ方向分析ができ、膜構造を持つ微小な試料の分析が可能になる。
更に、削り取ったシート上の試料削粉の中から、目的とする特定部分のみを選択し定量分析を行うことにより、例えば微小なチップ抵抗について、横方向および下層に妨害成分であるPb(RoHS指令除外)が高濃度に含まれている電極メッキ膜部分のみを、普及型簡易XRF装置を用いて迅速かつ簡便に定量分析することが可能になる。この「試料削粉の中から、目的とする特定部分のみを選択」することは、例えば、帯状の試料削粉について適当な位置を選択することで行うことができる。
なお、XRF法による測定は、上記のように複数点ではなく、一点であってもよい場合もある。例えばある試料の表面にSnメッキがあり、そのSnメッキ中にPbが存在するかどうかを確認する場合には、帯状の試料削粉について視覚によりある程度の削り取りができたと思われる一点についてのみXRF法による測定を行うことによっても有用な情報が得られる場合もあり得る。
本発明に使用する蛍光X線測定法には特に制限はなく、汎用の蛍光X線測定機を用いることが可能である。
本発明における試料の種類については特に制限はない。メッキのような多層構造であれば、その多層構造間の深さ方向の元素分布の変化を測定することも、メッキ内についてのある元素の存在を確認することも、メッキ内についての深さ方向の元素分布の変化を測定することも可能である。本発明はメッキ膜、特にSnメッキ膜を有する試料におけるメッキ膜中の共存元素、特にPb、の測定に好適である。本発明に係る試料は、メッキで被覆された試料におけるメッキ膜の場合のように、測定の対象がその試料の一部であってもよい。
このような試料および測定対象の元素としては、チップ抵抗器の場合におけるSnメッキ中のPb,Bi,Ag,Cu等を例示することができる。
削り取られた試料粉は、例えば図1にように、シート1上に一本の帯2として得られる。相対的移動を複数回行うときは、例えば図2のように複数の帯2として得られる。
本発明における深さは、上記移動の距離と試料の削り取られた厚さとの比較により求めることができる。例えば、図2の場合に帯の全長(4本の帯の総長)が6cmであり、6cmの削り取りにより、試料厚さが4μm減じたとすれば、削り取り開始から3cmの位置は試料表面から2μmの深さにあり、その部分の元素濃度はその深さにおける試料の元素濃度を指すことになる。このようにして、試料の深さ方向の元素を間接的に測定することが可能になる。なお、削り取りによる試料厚さに斑のある場合は、平均値を取ったり、代表的位置の厚さを測定する等の対策を講じてもよい。また、測定は移動方向の全部について連続的に行ってもよいが、複数点についてとびとびに測定してもよい。
ただし、上記のように深さを推定しない場合も本発明の範疇に属し得る。例えば、削り取られた試料粉中の主成分元素の存否または濃度の差により、深さ方向における部位を検出する方法である。ここにおける主成分元素とは、試料中の主たる成分である元素、例えば添加物を含む金属の場合にはその金属、添加物を含む合金の場合にはその合金を構成する元素を意味する。「削り取られた試料粉中の主成分元素の存否」とは、削り取られた試料粉中のある部分に主成分元素が検出されるか否かを意味し、「削り取られた試料粉中の主成分元素の濃度の差」とは、削り取られた試料粉中のある部分における主成分元素の濃度と他の部分における主成分元素の濃度との差を意味する。例えば、Snメッキの下にSnを含む別の金属層がある場合には、Snメッキに該当する部分と別の金属層に該当する部分とではSnの濃度が大きく変わるので、その差で、Snメッキに該当する部分であるのか、別の金属層に該当する部分であるのかを判断するのである。
具体的には、例えばある試料の表面にSnメッキがあり、そのSnメッキ中にPbが存在するかどうかを決める場合には、ある部分にSnが存在すること、またはその部分のSnの濃度がその後の部分のSn濃度より高いことにより、対象部位がSnメッキ中にあることを検出できるので、深さの推定が不要な場合もあり得る。
本発明に係るシートの材質については特に制限はなく、紙(抄紙されたプラスチックを含む)、プラスチックシート(プラスチックフィルムと呼称されるものも含む)等公知の任意の材料を使用することができるが、中でもプラスチックシートが、試料の削り取りがスムーズであり、また、XRF測定においては反ったりせず、平面状態に保ちやすいためX線源や検出部との空間位置関係を一定に保ちやすい点でメリットが大きく好ましい。このようなプラスチックシートとしては、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリオレフィンフィルム等を例示することができる。
なお、本発明に係るシートには、測定対象である元素が含まれないことが重要である。そのような元素があると測定の精度が低下する。なお、ここで「元素が含まれない」ことには、測定限界未満の測定対象である元素が含まれることは排除されない。
シートの物性は、試料の削り取りの際に、測定精度に影響の出る程の変形を生じないものであることが必要であるが、同時に、試料面との接触が不均一になり得るほどのもの(例えば硬すぎるもの)であることも好ましくない。好ましい物性は、測定を実際に行って不都合が生じないかを見ることにより容易に決めることができる。変形の点から、プラスチックシートは一般的に、一軸または二軸に延伸されたものが好ましい。
これらのシートの厚さについても特に制限はないが、薄すぎると破断が起こり、厚すぎると試料面との接触が不均一になり得るので、一般的には50〜150μmの範囲にあることが好ましい。
これらのシートは試料を削り出すのに適した表面粗度を有していることが必要であるが、どの程度の表面粗度が必要かは、実際に測定を行って決めればよい。表面粗度は、シートそのものの表面粗度であってもよい。例えばある大きさの粒子をシート材料中に練り込んだものをシートにすることで、表面に凹凸を付与したシートが得られる。
なお、試料面との接触が不均一になったことは、削り取られた試料の帯幅が一様でなくなること、帯中に部分的に空き(削り取られていない部分)が生じること、削り取られた試料量の多寡が目視で認識できること、削り取られた試料の厚さが不均一になること等で認識することができる。
本発明に係るシートは、複数の層や構成要素からなっていてもよい。例えば、表面に表面粗化用粒子を有するシートも含まれる。表面に表面粗化用粒子を有するようにすると、希望の表面粗度のシートを容易に選択することができる。また、試料の削り取り量が表面粗化用粒子の種類に依存し得るので、最適な表面粗化用粒子を選択することが好ましい場合もある。
この表面粗化用粒子は粒子状であって、シートの表面粗度を上げることができるものであり、本発明の趣旨に反しない限り、無機物、有機物等どのようなものでもよい。この粒子はシート表面から剥がれて削り取った試料中に混入することが好ましくない場合が多いので、剥がれにくいものが好ましい。また、この点から形状は球に近いものが好ましいことが多い。一般的には、酸化アルミニウム、炭化珪素等からなる等いわゆる砥粒と呼ばれるものの中から適宜選択することが好ましい。このような表面粗化用粒子を有するシートは、一般的に研磨用シートと呼ばれるものの中から選択することができる。
この表面粗化用粒子の粒度は、JIS R6001による規格で、#1200〜#2000の間にあることが好ましい。この範囲を離れると削り取り量が減少する傾向が見られる。
これまでの検討範囲では、100μm前後の厚さの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、平均粒径10μm前後の酸化アルミニウム粒子を塗布したシートが良好な結果を与えた。
本測定において、上記押圧については、手で行ってもよいが、正確な測定を行う場合には、機械的に行うことがよい場合が多い。上記押圧のていどについては、実際の測定に応じて決めればよいが、一般的には、押圧が3×10Pa以下にあることが好ましく、2×10Pa程度がより好ましい。この上限を超えるとシートが破損する問題が生じ得る。下限については特にないが、低ければ低いほど削り取り量が小さくなり非効率になるので、一般的にはより不利になる。
本発明に係るシートは、通常、試料の下にあるいは試料の上に、水平に置かれるので、上記「押圧」は、通常垂直方向(すなわち鉛直方向)に掛けられる。従って、この場合には、「押圧」を「加重」または「荷重」と呼ぶこともできる。しかしながら、本発明に係るシートは水平以外の空間配置をとってもよい。例えば、垂直に配置してもよい。この場合には、上記「押圧」は、水平方向に掛けられることになる。
なお、測定個所に相当する試料の深さを求める場合における推定を容易にする意味からは、本発明における「押圧」は「実質的に一定の押圧」であることが好ましい。ここで、「実質的に一定の押圧」とは、本発明の本質である「深さ方向における元素の測定」を阻害する程のばらつきを有さないことを意味する。従って、求められる測定精度によってこの「実質的」の程度は変わり得る。例えばある層のみにある元素が含まれている程度のことを決める場合には、層の変わり目が分かる程度の精度で十分である。敢えて数値で言えば、ある押圧に対し±10%以内のばらつきである場合を「実質的に一定の押圧」と考えてよい場合が多い。
実際的な観点からは、本シートの表面が、削り取られた試料粉を視覚的に識別できる色彩を有することが好ましい。このようにすると、削り取られた試料粉の帯の形状を容易に認識でき、試料の深さ方向の測定がより容易になる。対象となる試料は金属または合金であることが多いので、金属の色とは異なる色彩を選択することが好ましい場合が多い。
本発明に係る削り取りを行う際の移動は、直線運動、曲線運動、回転運動のいずれでもよく、削り取りたい試料部位に応じて定めることができる。
同様に、試料とシートとの間の互いに平行な相対的移動は、その一方を固定していると見なしたときの他方の接触点の軌跡が、削り取り中、必ずしも、同一面内に保たれる必要はない。例えば、シートが平面状であり、試料の接触点がその平面上を移動する場合が一般的であるが、シートが曲面状であり、試料の接触点がその曲面に沿って移動する場合もあり得る。ただし、よほど複雑な形状の試料でない限り、移動が一本または複数本の直線運動であることが実用的には好ましい。移動が一本または複数本の直線運動であることは、例えば、シートが平面状であり、試料の接触点がその平面上で、一本または複数本の直線運動により移動する場合がこれに該当する。なお、試料を固定し、シートを移動させてもよいことは言うまでもない。更に、既述のごとく、試料とシートとの接触が可能である限り、試料とシートとの空間配置は自由に選択できる。
本発明方法を実現するための試料削り取り装置については、
前記シートを支持するためのステージと、
前記試料を把持し、当該把持された試料を前記シートに当て、当該試料と当該シートとの間に押圧を加えることのできる把持押圧部と、
を有し、
前記把持押圧部を前記ステージ面に平行に相対的に移動させることにより、前記試料を前記シート面に平行に相対的に移動させられるようになっているものが好ましい。
このような試料削り取り装置を使用すれば、本発明に係る測定を容易に行うことができる。
シートを支持するためのステージとしては、シートを載置する面が平面のものが一般的であるが、曲面等平面以外の形状であってもよい場合もある。シートを載置する面は上向きであっても、下向きであっても、更にその他の方向を向いていてもよい。
把持押圧部については、試料を把持し、把持された試料をシートに当て、試料とシートとの間に押圧を掛けることができれば、どのようなものでもよい。把持機構や押圧機構には特に制限はない。この場合の押圧は、前述のごとく、実質的に一定の押圧であることが好ましい場合が多い。
把持押圧部をステージ面に平行に相対的に移動させる機構は、ステージを移動させることによっても、把持押圧部を移動させることによってもよい。
図3は、このような試料削り取り装置を横から見た模式図である。図3において、シート1がステージ3上に載置され、試料4がシート1に接するように把持押圧部5に取り付けられている。試料1は複数個であってもよい。図3には2個の試料が示されている。図3では、図の上方からステージに向けて、ばねを介して押圧が掛けられている。この状態で把持押圧部5を、矢印のように水平方向に移動させることにより、例えば図1または図2に示すような削り取られた帯状の試料粉を載せたシートが得られる。手前から奥の方に開始点を移動させつつ、水平方向の移動を行えば図2のような複数の帯が得られる。
以下に、本発明を実施例を用いて説明する。なお、以下の例において、特に断らない限り、以下の条件を採用した。
(1)XRF測定には、日本電子製エネルギー分散型XRF装置:JSX―3202EVを使用した。
(2)表面からの深さは、削り取られた試料粉の帯の長さと試料の削り取られた厚さとの比較により求めた。
(3)シートとしては、3M社製の二軸延伸ラッピングフィルムシート:A3−12SHT{ポリエチレンテレフタレート二軸延伸フィルム(75μm厚)の表面に図4の横軸に示す平均粒径12μm、JIS R6001による規格が#1200の酸化アルミニウム砥粒を載置したもの}を使用した。上記(1)のXRF測定では、このシートからは実施例に関与する元素はいずれも検出されなかった。このシートは黄色であり、試料粉の帯を容易に識別できた。
(4)試料とシートとの間の押圧は2×10Pa程度とした。
(5)試料の削り取りには、図3に示した試料削り取り装置を使用した。
[実施例1]
図4に、削り取り用のシート(以下ラッピングフィルムとも呼ぶ)で試料粉を削り取る場合におけるラッピングフィルムの表面粗度(砥粒の大きさを粒度と平均粒径とで示した)とSn−Kα線強度との関係を示す。
使用した試料は、2012サイズのチップ抵抗の電極{表層からSn、Ni、Ag(銀)の三層構造をなしている}のSnメッキ面であった。ラッピングフィルムとしては上記(3)の3M社製のラッピングフィルムを使用した。ただし、酸化アルミニウム砥粒の粒度は、図4の横軸に示す平均粒径のように種々のものを使用した。
Snメッキ膜の主成分はSnであることから、Sn−Kα強度の比較から削り取れたSn量の違いが分かる。この結果から、表面粗化用粒子の粒度が、JIS R6001による規格で、#1200〜#2000の間にあると削り取り量が大きく、好ましいことが理解される。
[実施例2]
図5により、押圧が3×10Pa以下であることが好ましい理由を説明する。
5μm厚程のSnメッキ膜を最表面に有する試料を使用し、実施例1における#1200のシートを使用し、押圧を種々変更した結果を図5に示す。この結果、押圧が大きくなればなるほどSn−Kα強度が増え、従って削り取り量が増大することが判明したが、3×10Paを超えるとシートが破損した。
[比較例1]
図6は、本実施例で分析対象となるチップ抵抗の構造図である。このチップ抵抗(Snメッキ仕様品)の電極部分のSnメッキ面に対し、従来法で分析した場合、図7に示すようなスペクトルが得られ、妨害部位の影響でPbの強いピークが重なり、電極部分のPbの有無を調べることができないことが示された。
[実施例3]
各Sn層中に図8に示す量のPbを含有する図8の横断面図のモデル試料(母材はSn)を用い、実験を行った。この結果、図9の「切削粉」のデータに示すように、Pb濃度を正確に測定することができた。
[比較例2]
実施例3について、試料の削り取りの途中において、削り取られた面について、XRF測定を行ったところ、図9の「研磨後の残試料」のデータに示すように、深さ方向の濃度が重なった値が示された。
[実施例4]
実際のチップ抵抗について表面から順次削り取って得られた各元素の強度変化を図10,11に示す。図10は、Snメッキ中にPbを含む試料についてのもの、図11は、Snメッキ中にPbを含まず、Bi(ビスマス)を含む試料についてのものである。図10,11のそれぞれについて、(b)は(a)の縦軸のスケールを変えたものであり、(c)は、更にスケールを変えたものである。なお、図10,11の横軸は、同一の試料の同一箇所について削り取りによる試料帯の作製を複数回行い、これらの帯サンプルから得られたX線強度を合計したもの(積算値)である。例えば「4」と言う数字は、最初から4本目までの帯のX線強度を合計したものである。
図10(a)より、Sn層の下にNi層があることが理解される。Ag層は10回目の削り取り粉からでも検出されていないので(図10(b)の値はバックグラウンドと区別できていない)、それより深いところにあるものと推定される。Pbは、Snの曲線と似た曲線を示しており、このことから、PbがSn中にのみ存在することが理解される。
これに対して、図11(a)より、全体的には、Sn層の下にNi層があることが理解され、図11(b)よりNi層の下にAg層があることが理解され、図11(c)よりSn層には、Pbの代わりにBiが存在することが理解される。この場合、Pbは検出されなかった(図11(b)の値はバックグラウンドと区別できていない)。なお、Snの濃度(積算値)が一定にならない内にNiが検出され、Niの濃度(積算値)が一定にならない内にAgが検出されているのは、各層が綺麗に別れていないせいと、削り取りの際に、その進捗状況が部分的に異なることとの二つの理由によるのではないかと思われる。
なお、図11(b)のBiはPbの代替に用いられ、ウイスカーの発生を抑制するための成分と思われる。
[実施例5]
本発明に係る方法を用いて作成したSn膜中のPb、Bi検量線を図12,13に、検量式を式1,2に示す。また、塊状の金属Snを削り取ることにより作製した研磨シート上のチップ抵抗1個分相当のSn削粉試料を用いて得たデータ(積算値)により、調べたPb、Bi検出下限(3σ)の測定時間依存性を図14に、定量値(濃度)のバラツキを調べた結果を表1に示す。表1中、上のデータはPbの濃度、下のデータはBiの濃度を示す。
Figure 0004946652
図14から、1000重量ppm程度の検出下限を得るために必要な測定時間はPb、Biとも300秒であることが分かった。また、表1から、作成した検量線で定量する場合、Pbは±3%、Biは約±10%の精度で定量できることが分かった。
Pb検量式:
Pb/Sn=103.2×IPb/Sn+0.0248・・・(1)
Bi検量式:
Bi/Sn=190.3×IBi/Sn+0.0145・・(2)
式(1),(2)中、CPb/SnはSn中のPb濃度(重量%)、IPb/SnはSn中のPb強度、CBi/SnはSn中のBi濃度(重量%)、IBi/SnはSn中のBi強度を示す。
[実施例6]
実施例4で得られたデータを用い、図12,13の検量線を使用して得たチップ抵抗部品に関するPbとBiの濃度を表2に、それらに対応するX線強度のチャートを図15,16に示す。表2中の番号1はSn中のPb濃度を示し、番号2はSn中のBi濃度を示している。図15は表2中の番号1に、図16は表2中の番号2に対応している。
Figure 0004946652
XRFの欄が本発明に係る測定方法によって得られた値、詳細分析の欄が、EPMA(Electron Probe Maicro−Analysis)およびLA−ICP−MAS(Laser Ablation−Inductively Coupled Plasma MAss Spectrometry)によって求めた値を示している。表2より、本発明に係る測定方法は、これらの詳細分析と同等のすぐれた結果を与えることが理解される。
以上のように、本発明を用いれば、従来法ではできなかったXRF法による深さ方向における分析が可能になり、チップ抵抗のように、横方向および下層に妨害成分であるPb(RoHS指令除外)が高濃度に含まれている試料の場合でも、妨害部位の影響をなくして、電極メッキ膜中のみのPb含有量を正確に調べることができる。本発明では、これらの判定を自動的に行なうこともできる。
なお、上記に開示した内容から、下記の付記に示した発明が導き出せる。
(付記1) 試料の深さ方向における元素を測定する方法であって、
当該試料にシートを当て、
当該試料と当該シートとの間に押圧を加え、
当該試料を当該シート面に平行に相対的に移動させることによって削り取られた試料粉中の元素を、当該移動方向に沿って蛍光X線測定法により測定することにより、前記試料の深さ方向の元素を間接的に測定する、元素測定方法。
(付記2) 前記移動の距離と前記試料の削り取られた厚さとの比較により、前記深さを決める、付記1に記載の元素測定方法。
(付記3) 前記削り取られた試料粉中の主成分元素の存否または濃度の差により、前記深さ方向における部位を検出する、付記1または2に記載の元素測定方法。
(付記4) 前記シートが紙またはプラスチックシートを含んでなる、付記1〜3のいずれかに記載の元素測定方法。
(付記5) 前記シートが、測定対象である元素を含まない、付記1〜4のいずれかに記載の元素測定方法。
(付記6) 前記シートが、表面に表面粗化用粒子を有する、付記1〜5のいずれかに記載の元素測定方法。
(付記7) 前記表面粗化用粒子の粒度が、JIS R6001による規格で、#1200〜#2000の間にある、付記6に記載の元素測定方法。
(付記8) 前記押圧が3×10Pa以下である、付記1〜7のいずれかに記載の元素測定方法。
(付記9) 前記シートの表面が、前記削り取られた試料粉を視覚的に識別できる色彩を有する、付記1〜8のいずれかに記載の元素測定方法。
(付記10) 前記移動が一本または複数本の直線移動である、付記1〜9のいずれかに記載の元素測定方法。
(付記11) 前記試料がSnメッキ膜を含み、当該Snメッキ膜がPbを含む、付記1〜10のいずれかに記載の元素測定方法。
(付記12) 付記1〜11のいずれかに記載の元素測定方法に使用される試料削り取り装置であって、
前記シートを支持するためのステージと、
前記試料を把持し、当該把持された試料を前記シートに当て、当該試料と当該シートとの間に押圧を加えることのできる把持押圧部と、
を有し、
前記把持押圧部を前記ステージ面に平行に相対的に移動させることにより、前記試料を前記シート面に平行に相対的に移動させられるようになっている、
試料削り取り装置。
削り取られた試料粉の帯を示す模式図である。 削り取られた試料粉の帯を示す模式図である。 本発明に係る試料削り取り装置を横から見た模式図である。 ラッピングフィルムで試料粉を削り取る場合におけるラッピングフィルムの表面粗度(砥粒の大きさを粒度と平均粒径で示した)とSn−Kα線強度との関係を示すグラフである。 押圧と試料の削り取り量との関係を示すグラフである。 本実施例で分析対象となるチップ抵抗の構造を示す模式図である。 図6の構造を有するチップ抵抗の、従来のXRF法で分析した場合のスペクトルである。 相異なるPb量のSn層からなる積層体の模式的横断面図である。 図8のモデル試料の測定結果を示すグラフである。 実際のチップ抵抗についての本発明に係る測定法によって得られた結果を示すグラフである。 実際のチップ抵抗についての本発明に係る測定法によって得られた結果を示すグラフである。 Sn膜中のPbの検量線を示すグラフである。 Sn膜中のBiの検量線を示すグラフである。 Pb、Bi検出下限(3σ)の測定時間依存性を示すグラフである。 表2の番号1に対応するX線強度のチャートである。 表2の番号2に対応するX線強度のチャートである。
符号の説明
1 シート
2 削り取り試料粉の帯
3 ステージ
4 試料
5 把持押圧部

Claims (5)

  1. 試料の深さ方向における元素を測定する方法であって、
    当該試料にシートを当て、
    当該試料と当該シートとの間に押圧を加え、
    当該試料を当該シート面に平行に相対的に移動させることによって削り取られた試料粉中の元素を、当該移動方向に沿って蛍光X線測定法により測定することにより、前記試料の深さ方向の元素を間接的に測定する、元素測定方法。
  2. 前記移動の距離と前記試料の削り取られた厚さとの比較により、前記深さを決める、請求項1に記載の元素測定方法。
  3. 前記シートが、表面に表面粗化用粒子を有する、請求項1または2に記載の元素測定方法。
  4. 前記シートの表面が、前記削り取られた試料粉を視覚的に識別できる色彩を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の元素測定方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の元素測定方法に使用される試料の深さ方向の元素を測定する装置であって、
    前記シートを支持するためのステージと、
    前記試料を把持し、当該把持された試料を前記シートに当て、当該試料と当該シートとの間に押圧を加えることのできる把持押圧部と、
    を有し、
    前記把持押圧部を前記ステージ面に平行に相対的に移動させることにより、前記試料を前記シート面に平行に相対的に移動させられるようになっている、
    試料を削り取る機能部分と、
    前記削り取られた試料粉中の元素を蛍光X線測定法により測定するための蛍光X線測定機能部分と、
    を有する装置。
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