JP5135950B2 - 蛍光x線分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は蛍光X線分析方法に関し、特にプリント基板に実装されたチップ抵抗等の電子部品の電極に含まれる規制対象元素の測定に好適な蛍光X線分析方法に関する。
蛍光X線分析(X-ray Fluorescence Analysis:XRF)法は、試料にX線を照射して試料中の元素を励起し、試料から放出される蛍光X線(特性X線)を検出して試料に含まれる元素を分析する方法である。蛍光X線分析法は、比較的簡単に非破壊で高感度の分析が可能であるので、素材中に含まれる元素を特定する手段として素材生産における品質管理や材料研究に広く利用されている。X線は電荷がなく透過力が強くて屈折率がほぼ1であるので、一般的な蛍光X線分析法では分析深さが比較的深く、分析領域も比較的広い。
近年、欧州のRoHS指令(Restriction of the use of the certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment)やELV指令(End of Life Vehicle)等、一般消費者向けの製品に含まれる有害物質に関する規制が強化されつつある。そのため、電子機器メーカー等においても、部品メーカーから購入した部品中に有害物質が含まれているか否かをチェックする必要があり、部品仕様化部門や受け入れ部門で有害物質として指定された元素又は化合物を検出可能な検査装置を大量に導入するニーズが増加している。RoHS指令では、Pb(鉛)、Hg(水銀)、六価クロム、Cd(カドミウム)、ポリ臭化ビフェニル(PBB)及びポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)が規制対象物質とされている。
規制対象物質の有無判定においては、規制対象物質の濃度が実際上問題にならない程度に微量である場合に非含有と判定する。このため、検査装置の規制対象物質に対する定量下限が十分に低いことが必要である。また、製品を構成する膨大な数の部品が調査対象となるため、できる限り非破壊でかつ短時間で検査可能であることが要望される。このようなニーズに適する検査装置として、エネルギー分散型蛍光X線分析装置が多くの分析機器メーカーから販売されている。また、Pb(鉛)及びCd(カドミウム)等の蛍光X線を検出しやすくするための一次X線フィルタや検量線プログラムの開発が進み、Pb及びCd等の元素の検出に実用化されている。
ところで、RoHS指令では、現状、Pb又はCdの含有が許容されている部材がある。例えばプリント基板に実装されるチップ抵抗では、抵抗体を被覆する鉛ガラス中のPbは許容されるが、電極(端子)部分のめっき膜中に含まれるPbは規制対象となる。従って、RoHS指定に適合しているか否かを判定するためには、Pb又はCd等の有無だけではなく、それらの元素を含んでいる部位を特定し、Pbが含まれている材料を識別する必要がある。一般的なエネルギー分散型蛍光X線分析装置では、X線の照射範囲が比較的広いため、バルクの素材に含まれる規制対象の元素の検出は容易であるが、チップ抵抗のような小型の電子部品においてPb又はCd等の元素を含んでいる部位を特定することは困難である。
チップ抵抗のような小型の電子部品においてPb又はCd等の元素を含んでいる部位を特定するためには、X線(X線ビーム)を例えば直径10〜100μm程度まで絞り込んで試料に照射し、試料の異なる微小な領域から放出される特性X線を解析して元素の分布状態(マッピング)を測定できる分析装置が必要である。このような分析装置として、例えば堀場製作所製のX線分析顕微鏡(XGT−5000)などがある。以下、このX線分析顕微鏡のようにX線を例えば直径10〜100μm程度まで絞り込んで試料に照射し、試料から放出される蛍光X線を検出して試料に含まれる元素を分析する装置を微小プローブ蛍光X線分析装置と呼ぶ。
なお、本願発明者は、特許文献1において、微小プローブ蛍光X線分析装置を使用して複数の元素の分布を検出し、それらの分布を合成して特定の元素の有無だけではわかりにくい有害物質の含有可能性を視覚的に把握する方法を開示している。また、特許文献2において、はんだ材と高温はんだ材、又は、接点のカドミウムめっきとそれ以外のカドミウム含有物質を識別することにより、検査対象となる規制対象物質のみを絞り込み、分析効率を向上する方法を提案している。
特開2006−119108号公報 特開2007−163183号公報
しかしながら、単にX線の照射範囲を狭くしただけでは、チップ抵抗のような電子部品において、端子部分のめっき膜におけるPb等の元素の有無を正確に判定することができない。以下にその理由について説明する。
図1(a)はチップ抵抗の一例を示す上面図、図1(b)は図1(a)のI−I線による断面図である。この図1(a),(b)に示すように、チップ抵抗10は、アルミナ基板11の上に抵抗体12を成膜して形成されており、抵抗体12の表面は鉛ガラスからなる保護膜13に覆われている。また、アルミナ基板11の長手方向の両端には抵抗体12と電気的に接続した電極15が設けられている。この電極15は、アルミナ基板11の両端部に形成された鉛ガラス含有Ag(銀)下地膜(銀焼き付け電極)15aと、ニッケル(Ni)めっき膜(下地めっき膜)15bと、錫(Sn)めっき膜15cとを下層側からこの順に積層して構成されている。
図2に、錫めっき膜15c、保護膜(鉛ガラス)13及び下地膜(鉛ガラス含有Ag膜)15aのそれぞれの膜厚とPb(鉛)添加の有無を示す。チップ抵抗10では、この図2に示すように、錫めっき膜15cに隣接する保護膜13と、錫めっき膜15cの下層の下地膜15aとにPb(鉛)が含まれている。
RoHS指令では錫めっき膜15cにPbが含まれないことが要求されるが、鉛ガラス(保護膜13及び下地膜15a)に含まれるPbは規制対象外である。従来は、微小プローブ蛍光X線分析装置を用いて錫めっき膜15c中のPbの濃度を測定しようとしても、図3に示すようにX線が錫めっき膜15cだけでなく、錫めっき膜15cに隣接する保護膜13や錫めっき膜15cの下方に存在する下地膜15aにも照射されるため、錫めっき膜15c中のPb含有量を高精度に定量することは困難である。
図4(a)は単体のチップ抵抗を示す図、図4(b)は測定位置及び測定領域を示す図、図5は微小プローブ蛍光X線分析装置を用いて図4(b)の白線がクロスした部分にX線を照射し、蛍光X線エネルギースペクトルを測定した結果を示す図である。
保護膜や下地膜の影響をできる限り少なくして錫めっき膜中のPb量を測定するためには、チップ抵抗の電極のエッジ部分を測定点とすることが考えられる。そこで、ここでは図4(b)に示すように、チップ抵抗の電極のエッジ部分の一箇所を任意に選択して測定点とし、蛍光X線エネルギースペクトルを測定した。
その結果、実際には錫めっき膜中にPbは含まれていないのにもかかわらず、図5に示すようにPbの蛍光X線のピークが観測された。このPbのピークから錫めっき膜中のPb含有量を算出したところ、Pb含有量は2.21wt%となった。この場合、チップ抵抗の電極部にPbを含有するはんだが使用されていると判断されてしまう。なお、図5において、Rh等のピークはX線発生部(RhターゲットのX線源)やX線導管等で発生した蛍光X線及び蛍光X線のサブピークであり、チップ抵抗に由来するものではない。
以上から、本発明の目的は、対象とする部材の近傍又は下方に測定の妨害となる物質(妨害物質)が存在していても、対象とする部材に含まれる元素を精度よく分析できる蛍光X線分析方法を提供することにある。
本発明の一観点によれば、複数の部材を組み合わせて構成された試料にX線ビームを照射し、前記試料から放出される蛍光X線を検出して前記試料の特定の部材に含まれる特定元素を検出する蛍光X線分析方法において、前記試料にX線ビームを照射しつつ前記試料を前記X線ビームに対し相対的に移動させて前記試料に含まれる前記特定元素以外の元素の分布状態を検出する工程と、前記特定元素以外の元素の分布状態を解析して最適測定点を決定する工程と、前記最適測定点にX線ビームを照射して前記特定の部材に含まれる前記特定元素を定量分析する工程とを有し、前記特定元素を含有する前記特定の部材以外の部材を妨害部材とし、前記妨害部材に含まれる前記特定元素以外の元素と、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素とを、前記分布状態を検出する元素とすることを特徴とする蛍光X線分析方法が提供される。
本発明においては、特定の部材に含まれる特定の元素を定量する場合に、まず、試料に含まれる前記特定の元素以外の元素の分布状態を検出する。例えばチップ抵抗の電極部のめっき膜中のPb(鉛)含有量を測定する場合、めっき膜中のPb以外の元素(例えばSn)と、めっき膜の周囲に存在する他の部材(例えば鉛ガラスからなる保護膜及び鉛ガラス含有Ag下地膜)に含まれる元素の分布状態を検出する。そして、これらの元素の分布状態を解析して最適測定点を決定する。
例えば、めっき膜中にSnが含まれており、下地膜にAgが含まれている場合、Snの分布エリアからAgの分布エリアを除くことにより、めっき膜のみの測定が可能な領域が得られる。これらの領域からめっき膜中のPb含有量を測定する最適測定点を決定する。例えば、Snの分布エリアからAgの分布エリアを除いて測定点の候補となるエリアを確定した後、その測定点の候補となるエリア内であって保護膜の主成分であるSiの分布エリアから最も遠い点を測定点とする。測定点の候補となるエリア内であってSnの蛍光X線の強度が最も高い点を最適測定点としてもよい。また、測定点の候補となるエリア内であってSnの蛍光X線の強度がある程度以上であり、かつ保護膜の主成分であるSiの分布エリアから最も遠い点を最適測定点としてもよい。 このようにして最適測定点を決定した後、最適測定点にX線ビームを照射して特定の元素の定量分析を行う。
本発明においては、上述したように特定元素以外の元素の分布状態を検出して測定の邪魔になる妨害部材の影響が最も少ない最適測定点を決定した後、最適測定点にX線ビームを照射して特定の部材中の特定元素の定量分析を行うので、特定の部材に含まれる特定元素を精度よく分析することができる。
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
図6は、本発明の実施形態に係る蛍光X線分析装置の構造を示す模式図である。この図6に示すように、本実施形態に係る蛍光X線分析装置は、X−Yステージ21と、X線発生部22と、X線導管23と、蛍光X線検出器24と、真空チャンバ26と、演算処理部27と、メモリ28と、操作部29とにより構成されている。
試料20はX−Yステージ21の上に載置される。このX−Yステージ21は、演算処理部27からの信号に応じて水平方向(X方向及びY方向)に移動する。
X−Yステージ21の上方には真空チャンバ26が配置されている。この真空チャンバ26内には、X線導管23の先端部と、蛍光X線検出器24とが配置されている。X線発生部22で発生したX線は、X線導管23の先端で絞られて例えば直径が10〜100μm程度のX線ビームとなる。そして、X線導管23から出射されたX線ビームは、真空チャンバ26の底部の窓を透過して試料20を垂直方向から照射し、試料20内の元素を励起して蛍光X線(特性X線)を発生させる。
試料20で発生した蛍光X線の一部は、真空チャンバ26の底部の窓を透過して真空チャンバ26内に入り、蛍光X線検出器24により検出される。この蛍光X線検出器24からは、検出した蛍光X線のエネルギーに応じた信号が出力される。演算処理部27は、蛍光X線検出器24から出力される信号をエネルギー毎にカウントして蛍光X線エネルギースペクトルを取得する。
メモリ28には、部品毎のマッピング条件が記憶されている。例えばチップ抵抗を検査する場合、後述するようにSn、Ag及びSiの各元素の分布状態(マッピング)を検出するが、チップ抵抗のマッピング条件には、蛍光X線検出器24で検出した蛍光X線エネルギースペクトルからSn、Ag及びSiの各元素の特性X線を抽出するための条件(エネルギー範囲等)が設定されている。
操作部29には、蛍光X線分析装置を操作するための種々の操作キーが設けられている。演算処理部27はマイクロコンピュータにより構成されており、予め設定されたプログラムと操作部29からの信号とに応じて種々の処理を実行する。例えば、演算処理部27は、X−Yステージ21を駆動制御しつつ試料20にX線を照射し、蛍光X線検出器24から出力された信号を積算して蛍光X線エネルギースペクトルを得る。そして、この蛍光X線エネルギースペクトルからマッピング条件に基づいて所定のエネルギー範囲の信号を抽出し、所定の元素の分布状態(マッピング)を検出する。そして、その結果に基づいて妨害物質の影響が最も少ない最適測定点を抽出してディスプレイ(図示せず)に表示する。その後、その最適測定点にX線を照射して所定の部材に含まれる規制元素の含有量を測定する。
なお、図6には図示していないが、本実施形態に係る蛍光X線分析装置には、X線ビームと同軸方向から試料20の表面(X線ビームの照射位置)の映像を撮影するカメラと、試料20の全体像を撮影するカメラとが設けられている。
以下、図6に示す本実施形態に係る蛍光X線分析装置のブロック図、及び図7に示すフローチャートを参照して、本実施形態に係る蛍光X線分析方法を説明する。なお、ここではプリント基板に実装されたチップ抵抗の電極の錫めっき膜(はんだ)中に含まれるPb含有量を測定する場合の動作を説明する。また、チップ抵抗は、図1(a),(b)に示す構造を有しているものとする。この場合、チップ抵抗を構成する部材のうちPbを含有する、又は含有する可能性のある錫めっき膜15c以外の部材(妨害物質)は、鉛ガラス含有Ag下地膜15aと、鉛含有ガラスからなる保護膜13である。そのため、ここでは、錫めっき膜15cを構成するSnと、下地膜15aに含まれるAgと、保護膜13に含まれるSiとの各元素の分布状態を調べ、その結果に基づいて測定点を決定する。
まず、ステップS11において、蛍光X線分析装置のX−Yステージ21上に、チップ抵抗が実装されたプリント基板(試料20)を搭載する。その後、オペレータが操作部29を介して蛍光X線分析の開始を指示すると、ステップS12に移行する。
ステップS12において、演算処理部27は、カメラによりプリント基板の全体像を撮影し、画像認識処理を行ってチップ抵抗の実装位置(XY座標)を決定する。
次に、ステップS13に移行し、演算処理部27は、所定の面分解能が得られるようにプリント基板を複数の測定領域に分割する。例えばX線ビームの直径が100μmで蛍光X線分析装置の画素数(走査方向に直交する方向の画素数)が512の場合、測定領域の幅方向(走査方向に直交する方向)の長さが51.2mm程度になるように測定領域を設定する。プリント基板の面積が小さくて測定領域を分割しなくても所定の面分解能が得られる場合は、この処理は不要である。なお、1つの測定領域には少なくとも1つのチップ抵抗が存在するものとする。
次に、ステップS14に移行し、演算処理部27は、予めメモリ28に格納しておいたチップ抵抗用のマッピング条件を読み込む。ここでは、チップ抵抗用のマッピング条件を読み込むと、Sn、Ag及びSiの分布状態(マッピング)を測定するように、特性X線の抽出範囲(エネルギー範囲)が設定される。
次に、ステップS15に移行し、演算処理部27は蛍光X線エネルギースペクトルを取得し、各元素の分布状態を調べる。すなわち、演算処理部27は、X−Yステージ21を移動(走査)しながらプリント基板に実装されたチップ抵抗にX線ビームを照射し、チップ抵抗で発生した特性X線を蛍光X線検出器24で検出する。そして、蛍光X線検出器24の出力信号を積算して蛍光X線エネルギースペクトルを取得し、その蛍光X線エネルギースペクトルからSn、Ag及びSiにそれぞれ特有のエネルギーの特性X線を抽出して、Sn、Ag及びSiの各元素の分布状態(マッピング)を測定する。
図8(a)〜(c)に、蛍光X線分析装置を用いてチップ抵抗のSn、Ag及びSiの分布状態を実際に測定した結果を示す。図8(a)はSnの分布状態を示すマッピング画像であり、図8(b)はAgの分布状態を示すマッピング画像であり、図8(c)はSiの分布状態を示すマッピング画像である。また、図8(d)はSn、Ag及びSiの分布状態を合成したマッピング画像である。これらのマッピング画像において、輝度が高いところほど元素の含有量が多いことを示している。
これらの図8(a)〜(c)に示すようにSn、Ag及びSiの各元素の分布状態を検出した後、ステップS16に移行して、演算処理部27は画像演算処理を実施し、錫めっき膜中のPb含有量を測定するのに適した最適測定点を決定する。以下にその方法を具体的に説明する。
図1(a),(b)からわかるように、下地膜(鉛ガラス含有Ag膜)15aと錫めっき膜15cとが重なった部分にX線が照射されると、Snの特性X線とAgの特性X線とが検出される。一方、錫めっき膜15cの下方に下地膜(鉛ガラス含有Ag膜)15aがないとすると、Snの特性X線は検出されるが、Agの特性X線は検出されない。従って、Snの特性X線が検出されるエリアからSnの特性X線とAgの特性特性X線の両方が検出されるエリアを除けば、下地膜15aの影響を受けることなく錫めっき膜15c中のPbの測定が可能なエリア(以下、測定点候補という)が判明する。
次に、測定点候補のうちから錫めっき膜15c中のPbの有無の判定に最適な一点(最適測定点)を選択する。例えば、保護膜(鉛ガラス)13が測定点に隣接していると、保護膜13中に含まれるPbの影響を受けやすいので、錫めっき膜15c中のPbの有無を高精度に測定することができない。このため、保護膜13から最も離れた位置にある測定点候補を最適測定点とすることが考えられる。蛍光X線分析装置では、Siの分布を検出することにより、保護膜13の位置を特定することができる。また、錫めっき膜15cの厚さが厚いほどSnの特性X線の強度が高くなり、より高精度の測定が可能になると考えられる。そのため、測定点候補のうち、Snの特性X線の強度が最も高いところを最適測定点としてもよい。
図9は、図8(a)のSnの分布を示すマッピング画像からSnの特性X線とAgの特性X線の両方が検出されたエリアを除くように演算処理(Sn−Sn×Ag)して得たSnの分布を示す画像である。この画像は、Agの分布エリアと重ならないSnの分布エリアを示している。本実施形態では、図9に示すようなAgの分布エリアと重ならないSnの分布エリアを示す画像を得た後、Snの特性X線の強度がある程度以上であり、かつSiの分布エリア(保護膜13)から最も離れた位置にある点(図9に矢印で示す点)を最適測定点とする。この最適測定点の決定は、演算処理部27により自動的に行われる。
このようにして最適測定点が決定された後、ステップS17に移行し、演算処理部27は最適測定点にX線ビームが照射されるようにX−Yステージ21を移動する。その後、最適測定点にX線ビームを照射し、蛍光X線エネルギースペクトルを測定する。図10に、測定位置及び測定領域を示す。この図10の白線がクロスした部分が本実施形態の方法により実際に決定された最適測定点(測定位置)である。また、図11はこの最適測定点にX線を照射して得た蛍光X線エネルギースペクトルである。本実施形態によれば、錫めっき膜15c中のPb含有量は検出限界以下(ND)であった。なお、図11において、Rh等のピークはX線発生部(RhターゲットのX線源)やX線導管等で発生した蛍光X線及び蛍光X線のサブピークであり、チップ抵抗に由来するものではない。
このようにしてチップ抵抗の電極部の錫めっき膜15c中のPb含有量の測定及びその測定結果に基づく錫めっき膜にPbが含まれているか否かの判定が終了した後、ステップS18で全ての分割領域でチップ抵抗の検査が終了したか否かを判定する。否の場合(NOの場合)はX線ビームが次の分割領域のチップ抵抗に照射されるようにX−Yステージ21を移動した後、ステップS15に戻り、次の分割領域のチップ抵抗の検査を行う。
ステップS18で全ての分割領域のチップ抵抗の検査が終了したと判定した場合(YESの場合)は、ステップS19に進み、全ての分割領域における錫めっき膜中のPb含有量の測定結果をディスプレイに表示する。このようにして、チップ抵抗の電極部の錫めっき膜にPbが含有されているか否かの検査が終了する。
なお、ステップS16で最適測定点を得られない場合は、予め設定された測定位置(好ましくは、電極のエッジ部分)にX線を照射して蛍光X線エネルギースペクトルを取得し、Agの蛍光X線強度でPbの蛍光X線の強度を補正して、その結果に基づいて錫めっき膜中のPb含有量を推定することが好ましい。つまり、鉛ガラス含有Ag膜のAg含有量とPb含有量との比が一定であれば、鉛ガラス含有Ag膜から放出されるAgの蛍光X線の強度とPbの蛍光X線の強度との比は一定になる。従って、Agのピークから鉛ガラス含有Ag膜中のPbによる蛍光X線強度を算出し、実際のPbの蛍光X線強度から鉛ガラス含有Ag膜のPbからの蛍光X線強度を減算すれば、錫めっき膜中のPbからの蛍光X線の強度が得られる。その蛍光X線の強度から、錫めっき膜中のPb含有量を推定することができる。
なお、上記の実施形態では本発明をチップ抵抗の電極部の錫めっき膜中のPb含有量の測定に適用した例について説明したが、これにより本発明の適用範囲がチップ抵抗の電極部の錫めっき膜中のPb含有量の測定に限定されるものではなく、本発明は種々の試料中の元素の定性定量分析に適用できる。
以下、本発明の諸態様を、付記としてまとめて記載する。
(付記1)複数の部材を組み合わせて構成された試料にX線ビームを照射し、前記試料から放出される蛍光X線を検出して前記試料の特定の部材に含まれる特定元素を検出する蛍光X線分析方法において、
前記試料にX線ビームを照射しつつ前記試料を前記X線ビームに対し相対的に移動させて前記試料に含まれる前記特定元素以外の元素の分布状態を検出する工程と、
前記特定元素以外の元素の分布状態を解析して最適測定点を決定する工程と、
前記最適測定点にX線ビームを照射して前記特定の部材に含まれる前記特定元素を定量分析する工程と
を有することを特徴とする蛍光X線分析方法。
(付記2)前記最適測定点を決定する工程では、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布状態を示すデータと、前記特定の部材以外の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布状態を示すデータとを演算処理することを特徴とする付記1に記載の蛍光X線分析方法。
(付記3)前記特定元素を含有する前記特定の部材以外の部材を妨害部材とし、前記妨害部材に含まれる前記特定元素以外の元素と、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素とを、前記分布状態を検出する元素とすることを特徴とする付記1に記載の蛍光X線分析方法。
(付記4)前記X線ビームの照射方向から見たときに前記特定の部材に隣接して前記妨害部材が存在する場合、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアのうち前記妨害部材から最も離れた点を前記最適測定点とすることを特徴とする付記3に記載の蛍光X線分析方法。
(付記5)前記X線ビームの照射方向から見たときに前記特定の部材の一部が前記妨害部材とが重なっている場合、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアから前記妨害部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアを除いた領域のうちの1点を前記最適測定点とすることを特徴とする付記3に記載の蛍光X線分析方法。
(付記6)前記X線ビームの照射方向から見たときに前記特定の部材に隣接する第1の妨害部材と、前記特定の部材の一部に重なる第2の妨害部材とが存在する場合に、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアから前記第2の妨害部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアを除いた領域を前記最適測定点の候補とし、前記最適測定点の候補のうち前記第1の妨害部材から最も離れている点を前記最適測定点とすることを特徴とする付記3に記載の蛍光X線分析方法。
(付記7)前記X線ビームの照射方向から見たときに前記特定の部材に隣接する第1の妨害部材と、前記特定の部材の一部に重なる第2の妨害部材とが存在する場合に、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアから前記第2の妨害部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアを除いた領域を前記最適測定点の候補とし、前記最適測定点の候補のうち前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の蛍光X線の強度が最も高い点を前記最適測定点とすることを特徴とする付記3に記載の蛍光X線分析方法。
(付記8)前記X線ビームの照射方向から見たときに前記特定の部材に隣接する第1の妨害部材と、前記特定の部材の一部に重なる第2の妨害部材とが存在する場合に、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアから前記第2の妨害部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアを除いた領域を前記最適測定点の候補とし、前記最適測定点の候補のうち前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の蛍光X線の強度が特定の値以上であり、かつ前記第1の妨害部材から最も離れている点を前記最適測定点とすることを特徴とする付記3に記載の蛍光X線分析方法。
(付記9)前記X線ビームの直径が10μm以上、100μm以下であることを特徴とする付記1に記載の蛍光X線分析方法。
(付記10)前記試料が電子部品であり、前記特定の部材が前記電子部品の電極部のめっき膜であり、前記特定元素がPbであり、前記特定元素以外の元素が前記めっき膜に含まれるPb以外の元素と前記電子部品に使われる鉛ガラスに含まれるPb以外の元素であることを特徴とする付記1に記載の蛍光X線分析方法。
(付記11)複数の部材を組み合わせて構成された試料が搭載されるステージと、
X線ビームを放射するX線ビーム放射部と、
前記X線ビームが照射された前記試料から放出される蛍光X線を検出する蛍光X線検出部と、
前記蛍光X線検出部の出力を演算処理する演算処理部とを有し、
前記演算処理部は、前記ステージを移動させながら前記試料に前記X線ビームを照射しつつ、前記蛍光X線検出部の出力を基に前記試料に含まれる元素の分布状態を検出し、特定の部材に含まれる特定元素以外の元素の分布状態を解析して最適測定点を決定し、前記最適測定点に前記X線ビームを照射して、前記特定の部材に含まれる前記特定元素を定量分析することを特徴とする蛍光X線分析装置。
図1(a)はチップ抵抗の一例を示す上面図、図1(b)は図1(a)のI−I線による断面図である。 図2は、チップ抵抗の錫めっき膜、保護膜及び下地膜のそれぞれの膜厚とPb(鉛)添加の有無を示す図である。 図3は、従来法の問題点を示す図である。 図4(a)は単体のチップ抵抗を示す図、図4(b)は測定位置及び測定領域を示す図である。 図5は、微小プローブ蛍光X線分析装置を用いて図4(b)の白線がクロスした部分にX線を照射し、蛍光X線エネルギースペクトルを測定した結果を示す図である。 図6は、本発明の実施形態に係る蛍光X線分析装置の構造を示す模式図である。 図7は、本発明の実施形態に係る蛍光X線分析方法を示すフローチャートである。 図8(a)〜(c)は、蛍光X線分析装置を用いてチップ抵抗のSn、Ag及びSiの分布状態を実際に測定した結果を示す図、図8(d)はSn、Ag及びSiの分布状態を合成した図である。 図9は、図8(a)のSnの分布を示すマッピング画像からSnの特性X線とAgの特性X線の両方が検出されたエリアを除くように演算処理して得たSnの分布を示す図である。 図10は、測定位置及び測定領域を示す図である。 図11は、最適測定点にX線を照射して得た蛍光X線エネルギースペクトルである。
符号の説明
10…チップ抵抗、
11…アルミナ基板、
12…抵抗体、
13…保護膜(鉛ガラス)、
15…電極、
15a…下地膜(鉛ガラス含有Ag膜)、
15b…ニッケルめっき膜、
15c…錫めっき膜、
21…X−Yステージ、
22…X線発生部、
23…X線導管、
24…蛍光X線検出器、
26…真空チャンバ、
27…演算処理部、
28…メモリ、
29…操作部。

Claims (5)

  1. 複数の部材を組み合わせて構成された試料にX線ビームを照射し、前記試料から放出される蛍光X線を検出して前記試料の特定の部材に含まれる特定元素を検出する蛍光X線分析方法において、
    前記試料にX線ビームを照射しつつ前記試料を前記X線ビームに対し相対的に移動させて前記試料に含まれる前記特定元素以外の元素の分布状態を検出する工程と、
    前記特定元素以外の元素の分布状態を解析して最適測定点を決定する工程と、
    前記最適測定点にX線ビームを照射して前記特定の部材に含まれる前記特定元素を定量分析する工程とを有し、
    前記特定元素を含有する前記特定の部材以外の部材を妨害部材とし、前記妨害部材に含まれる前記特定元素以外の元素と、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素とを、前記分布状態を検出する元素とすることを特徴とする蛍光X線分析方法。
  2. 前記X線ビームの照射方向から見たときに前記特定の部材に隣接して前記妨害部材が存在する場合、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアのうち前記妨害部材から最も離れた点を前記最適測定点とすることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析方法。
  3. 前記X線ビームの照射方向から見たときに前記特定の部材の一部が前記妨害部材とが重なっている場合、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアから前記妨害部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアを除いた領域のうちの1点を前記最適測定点とすることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析方法。
  4. 前記X線ビームの照射方向から見たときに前記特定の部材に隣接する第1の妨害部材と、前記特定の部材の一部に重なる第2の妨害部材とが存在する場合に、前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアから前記第2の妨害部材に含まれる前記特定元素以外の元素の分布エリアを除いた領域を前記最適測定点の候補とし、前記最適測定点の候補のうち前記特定の部材に含まれる前記特定元素以外の元素の蛍光X線の強度が特定の値以上であり、かつ前記第1の妨害部材から最も離れている点を前記最適測定点とすることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析方法。
  5. 前記試料が電子部品であり、前記特定の部材が前記電子部品の電極部のめっき膜であり、前記特定元素がPbであり、前記特定元素以外の元素が前記めっき膜に含まれるPb以外の元素と前記電子部品に使われる鉛ガラスに含まれるPb以外の元素であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析方法。
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