JP5217607B2 - 分析試料作製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、分析試料作製方法に関し、特に、分析対象の材料を研磨シートに付着させて、その研磨シートを分析試料として分析する際に好適な分析試料作製方法に関する。
分析分野において、分析試料の表面を研磨、除去し、内部物質を表面に露出させたり分析部位の表面を平滑に加工する際に、研磨シートが用いられている。また、試料を研磨により粉末に加工する場合にも用いられることがある。
研磨シートは、シート基材上に砥粒と呼ぶ研磨材を樹脂などのバインダで固定したものである。一般にシート基材の材質は、紙や布、プラスチックなどからなる。研磨材には、比較的硬度が低い樹脂やステンレス、または、ガラス、シリコンカーバイド、酸化アルミニウム(以下アルミナという)、ジルコニアなど比較的硬度が高い材料が使用され、ダイヤモンドが使用されることもある。研磨する対象の材質により研磨材の種類(硬度)などを選択する。研磨効率や研磨対象の研磨面の平滑度は、研磨シートの表面凹凸を決定する研磨砥粒の大きさ(粒径)や、かさ高さ、粒度分布、砥粒の量など(たとえば、JIS(Japanese Industrial Standard) R6001参照)、さらにはシート基材の材質などにより決まる。
一般に、研磨したい対象物の表面を多く研磨したい、または粗く加工したい場合には、研磨シートの表面凹凸(砥粒の平均粒度)が大きい研磨シートを使用する。一方、研磨したい対象物の表面を少量研磨したい、または滑らかに加工したい場合には、研磨シートの表面凹凸が小さい研磨シートを使用する。
研磨シートを用いた分析手法の例として、磁気テープ上の表面を研磨シートで研磨し、研磨シートに付着(以下転移または採取と呼ぶ場合もある)された物質に対して組成分析を行うことで、製造品質の管理を行う手法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
また、研磨シートを先端に貼り付けた治具を回転させて、基板上に形成された膜に擦り付けて分析対象の物質を採取し、その治具を試料ホルダとして用いて蛍光X線分析を行う手法などが知られている(たとえば、特許文献2参照)。
特開昭63−146220号公報 特開2003−344233号公報
しかし、層構造を有する試料を研磨シートで研磨して、表面層(分析対象層)の材料を研磨シートに転移させる場合、研磨シートの表面凹凸が大きいと、研磨の効率がよい反面、下層(あるいはシート基材)まで研磨してしまうことがある。この場合、分析試料となる研磨シートに、分析対象層に存在する物質(元素)以外の層の物質が混入し、分析精度を低下させる問題があった。特に、分析対象層の物質と同じ物質が下層に含有している場合には、分析対象層の分析に下層に存在する物質が影響し、分析の誤差を拡大する。
一方、研磨シートの表面凹凸が小さいと研磨効率が悪いため、分析に必要な量の材料を研磨シートに転移させるのが困難であったり、多くの工数が必要となる問題があった。
上記の点を鑑みて、本発明者らは、効率的に、分析誤差の少ない分析試料を作製可能な分析試料作製方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、以下のような工程を有する分析試料作製方法が提供される。この分析試料作製方法は、研磨シートにより、第1の試料を研磨し、前記研磨シートの凹部に第1の研磨痕を付着させる工程と、前記第1の研磨痕部分の研磨機能が喪失した時点における前記第1の研磨痕の平均厚を求める工程と、前記研磨シートにより、前記第1の試料と同材料である第2の試料の分析対象層を研磨し、前記研磨シートの凹部に第2の研磨痕を付着させる工程と、を有し、前記平均厚に基づいて、前記第2の研磨痕の面積を求める。
効率的に、分析誤差の少ない分析試料を作製できる。
以下、本実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態の分析試料作製方法の概略を示す図である。
また、図2は、研磨シートの断面図である。(A)は、図1のA−A線での断面を示し、(B)は、研磨痕の拡大図を示している。
図1(A)に示すように、試料10は、たとえば、基板10−1、層10−2,10−3を有した層構造となっている。以下では、層(以下分析対象層という)10−3の材料を研磨シート20の凹部に転移させ、その研磨シート20を分析試料として作製する場合について説明する。
まず、分析対象層10−3を研磨シート20により所定の圧力にて研磨したときに、研磨シート20の研磨機能が喪失した時点(研磨シート20の表面が平坦になった時点)で得られる研磨痕20aの平均厚を求める。
図2(A),(B)に示すように、研磨シート20は、シート基材20−1、砥粒20−2、バインダ20−3を有している。
シート基材20−1は、たとえば、プラスチック、紙または布などである。
砥粒20−2は、たとえば、ステンレス、ガラス、シリコンカーバイド、アルミナ、ジルコニア、ダイヤモンドなどである。
バインダ20−3は、樹脂材などであり、シート基材20−1に砥粒20−2を固定する機能を有する。
図2(B)に示すような、研磨痕20aの平均厚hを求める手順は以下の通りである。まず、研磨機能が喪失した時点での、研磨シート20上に転移した材料の重量を測定する。転移した材料の重量は、予め研磨シート20の重量を測定しておけば研磨後の重量との差分により求めることができる。次に、測定した重量をその材料の密度で除して、転移した材料の体積を算出する。そして、算出された体積を研磨面積で除すことにより研磨痕20aの平均厚hが算出される。
なお、平均厚hを算出する際には、上記のように分析対象層10−3を研磨する代わりに、分析対象層10−3とほぼ同一の組成の材料を有する試料を代わりに研磨することによって求めるようにしてもよい(詳細は後述する)。
次に、分析対象層10−3の体積(=w1×w2×t)を平均厚hで割ることで、研磨痕20bの面積を求め、図1(B)に示すように、同一の研磨シート20を用い、平均厚hを算出する工程と同一の圧力で、分析対象層10−3を研磨する。ここで、研磨シート20の研磨機能がなくなるまで研磨することで、理想的には分析対象層10−3部分の材料のみを全て研磨シート20上に転移させることができる。
図1(B)のように、試料10を矢印B方向に研磨する場合、研磨距離w4を調整することで、上記の研磨痕20bの面積を得ることができる。
このように分析対象層10−3の材料を転移させた研磨シート20を、分析装置で測定し、組成分析などを行う。
以上のような工程で作成した研磨シート20を分析試料として用いることで、研磨しすぎにより、他の層10−2や基板10−1の物質まで、研磨シート20に採取されることを防止することができる。これにより、分析誤差の発生を抑制できる。また、分析対象層10−3の材料を効率的に研磨シート20に転移できるので、効率のよい分析が可能になる。
なお、図1(B)のような研磨痕20bが分析装置の分析範囲内に収まらない場合には、たとえば、研磨距離w4を短くして、複数の研磨痕を設けてトータルな面積が上記の値になるようにすればよい。たとえば、蛍光X線分析を行う場合には、X線の照射範囲内に収まるように設定する。
また、平均厚hは、研磨時の圧力、砥粒20−3の粒径によって決まるので(詳細は後述する)、圧力を強めたり、砥粒20−3の粒径の大きい研磨シート20を選択して平均厚hを大きくすることによって、研磨痕20bの面積を小さくして、分析装置の分析範囲内に収まるように調整してもよい。
次に、本実施の形態を実施例により具体的に説明する。以下では、チップ抵抗と呼ばれるチップ部品において、電極端子のはんだめっき中の鉛を分析する場合について説明する。
図3は、チップ抵抗の一例とその寸法例を示す図である。(A)は断面図であり、(B)は上面図である。
チップ抵抗30は、アルミナ基板31の表面に形成された抵抗体32と、抵抗体32を保護する保護膜33,34を有している。また、抵抗体32の両端に形成された表面電極35、アルミナ基板31の裏面に形成された裏面電極36と、表面電極35と裏面電極36とを電気的に接続する側面電極37を有している。抵抗体32、保護膜33は、たとえば、鉛ガラスを含有している抵抗体、主成分を鉛ガラスとする保護膜であり、保護膜34は、たとえば、レジン(樹脂材)からなる保護膜である。表面電極35及び裏面電極36には、たとえば、鉛ガラスのフリットを分散した銀(Ag)が用いられる。側面電極37には、たとえばレジン銀が用いられる。また、これらの電極を覆うように、ニッケルめっき38、はんだめっき39が形成されており、層構造となっている。表層のはんだめっき39の厚さは約3〜12μmの範囲で製造されることが多い。
なお、図3では、2012タイプといわれるチップ抵抗の概寸法を示している。
ところで、2006年7月にEU(ヨーロッパ連合)によって施行されたRoHS(the restriction of the use of certain hazardous substances in electrical and electronic equipment)指令では、電子・電気機器における一定濃度以上の特定有害物質の使用を規制している。また、技術的に他の物質への代替が困難なものについては、規制対象外としている。
たとえば、図3のようなチップ抵抗30に使用されている鉛のうち、抵抗体32や保護膜33、表面電極35及び裏面電極36に用いられる鉛ガラス中の鉛は、規制除外用途として規制対象外となっている。隣接するはんだめっき39に使用されるはんだ中の鉛は規制対象となっている。このような場合、はんだめっき39に鉛が一定濃度以上含まれていないか分析することが重要である。
本実施の形態の手法はこのような用途に適しており、効率よく、精度よく分析可能とするものである。
図4は、分析の流れを示すフローチャートである。
まず、図2(B)に示したような、研磨痕の平均厚hを決定する(ステップS1)。
ここでは、研磨シートとして、プラスチックフィルム基材上に、平均粒径9μm、または12μmのアルミナ砥粒を樹脂バインダで固定したものを用いた。このようなプラスチックフィルム基材の研磨シートは、基材面に凹凸がなく、滑らかである。また、砥粒の粒径分布もシャープであるため、研磨表面が比較的均質であり、平滑であるため、一般に精密研磨用途に使用される。
研磨痕の平均厚hを求めるために、分析対象である図3のはんだめっき39(主成分:錫(Sn)、約70〜100wt%)とほぼ同一の組成である錫(密度7.31g/cm3)板を用いた。錫板の幅は19.0mm、厚さは2.0mm、高さは15.0mmとした。
このような錫板を、平滑なガラス板の上に置いた研磨シートに、0.5kg、1.0kg、5.0kgの3種類の荷重で擦りつけ、研磨した。なお、錫板と研磨シートとの接触面積は、19.0mm×2.0mm=38.0mm2になるように研磨した。このとき、研磨時の単位面積当たりの圧力は、それぞれの荷重に対して以下のようになる。
(荷重=0.5kg)500/38.0≒13(g/mm2
(荷重=1.0kg)1000/38.0≒26(g/mm2
(荷重=5.0kg)5000/38.0≒132(g/mm2
また、研磨痕の面積は約19mm×80mm=1520mm2となるように研磨した。
図5は、同一の研磨痕上で重ねて研磨した回数と研磨痕上に転移した錫の転移量の関係を示す図である。(A)は、砥粒の平均粒径が12μmの場合、(B)は、9μmの場合について示している。
横軸が同一の研磨痕上での研磨回数(回)、縦軸が研磨シート上への転移量(mg)である。
たとえば、図5(A)のように砥粒の平均粒径が12μmで、圧力が13g/mm2の場合、転移量は1.50mg程度で飽和している。すなわち、研磨シートの研磨機能がほぼ喪失していることがわかる。また、図5(B)のように砥粒の平均粒径が9μmで、圧力が26g/mm2の場合、転移量は2.1mg程度で飽和している。このような転移量を以下飽和転移量という。
その他の条件において測定した結果、砥粒の平均粒径が12μmで圧力が26g/mm2の場合、飽和転移量は約2.90mg、圧力が132g/mm2の場合、飽和転移量は約6.3mgであった。また、砥粒の平均粒径が9μmで圧力が13g/mm2の場合、飽和転移量は約1.38mg程度であった。なお、図示は省略しているが、砥粒の平均粒径が12μmで圧力が264g/mm2(荷重が10kg)の場合、飽和転移量は約7.97mgであった。
研磨シートの研磨機能が喪失した時点で得られる研磨痕の平均厚は、飽和転移量/7.31g/cm3(錫の密度)から転移体積を算出し、その転移体積を研磨痕面積1520mm2で割ることで求められる。算出した研磨痕の平均厚を表1にまとめた。
Figure 0005217607
次に、分析対象層の材料を研磨シートに転移する工程に移る(ステップS2)。
以下では、チップ抵抗30として、図3のような寸法のものを用いた場合について説明する。なお、はんだめっき39の膜厚は8μmとする。
図6は、チップ抵抗の研磨の様子を示す概略図である。
図3のようなチップ抵抗30のはんだめっき39を研磨シート40で研磨する際、保護膜33に含まれる鉛ガラスの影響を受けないアルミナ基板31下部の電極部分の凸部の層を研磨する。はんだめっき39からなる分析対象層(研磨対象層)の体積は、図3の寸法及びはんだめっき39の膜厚から、片側で0.40mm×1.25mm×8μm≒0.004mm3となる。
チップ抵抗30の両端の電極が平行の軌跡を描く方向に、はんだめっき39を研磨すると、図6のように、研磨シート40上に2つの研磨痕41−1,41−2が得られる。研磨痕41−1,41−2のそれぞれの幅は約0.40mmであり、研磨距離をd1とする。
ここで、研磨痕41−1,41−2のそれぞれの面積が、分析対象層の体積(0.004mm3)を、表1で示したような研磨痕の平均厚で割った値と等しくなるような研磨条件で、研磨機能がなくなるまで研磨する。
たとえば、表1より、砥粒の平均粒径が12μmの研磨シート40を用い、研磨圧力を132g/mm2とした場合の研磨痕41−1,41−2の平均厚は0.567μmである。このとき、上記の研磨条件であるd×0.40mm=0.004mm3/0.567μmを満たす研磨距離dは、17.6mmとなる。
また、同じく砥粒の平均粒径が12μmの研磨シート40を用い、研磨圧力を264g/mm2とした場合の研磨痕41−1,41−2の平均厚は0.717μmである。このとき、上記の研磨条件であるd×0.4mm=0.004mm3/0.717μmを満たす研磨距離dは、13.9mmとなる。
上記のような研磨距離dで研磨することによって、研磨しすぎによる異物の研磨シート40上への転移を防止することができる。特に分析対象層である、はんだめっき39の下層にある裏面電極36に鉛ガラスが含まれる場合、鉛ガラスの研磨シート40への混入を防止することができる。
なお、1つのチップ抵抗30から採取する分析対象層の材料では、分析する量に足りない場合には、複数のチップ抵抗を用いて、上記の研磨条件で研磨すればよい。
次に、研磨シート40を分析試料として分析する(ステップS3)。
ここでは、研磨シート40の研磨痕から分析対象層の材料の組成分析などを行う。
以下、蛍光X線による分析用の分析試料の作製方法について説明する。
蛍光X線分析装置では、高精度の測定を行うため、研磨シート上に採取した試料(研磨痕)を、X線の照射領域(分析範囲)の中心に設置することが必要である。通常X線の照射領域は装置の試料観察モニタに表示されるが、研磨シートで研磨を行う際には、どの範囲で研磨すればよいのかがわからない。そのため、たとえば、X線の照射範囲を考慮した、以下のような研磨シートを用いて、前述の研磨を行う。
図7は、研磨シートの一例を示す図である。
研磨シート50のシート基材は、プラスチックなど光学的透過性を有するものを用い、研磨面の裏面にX線照射範囲を示す円形マーク51と、X線照射領域の中心を示すマーク52をマーキングしている。円形マーク51の直径は、X線の照射範囲が、直径1mm、3mm、5mm、10mmなどと調整できる場合には、たとえば、最大の10mmとする。図7では、照射範囲内(円形マーク51内)に複数の研磨痕53−1,53−2,53−3,53−4を作製した例を示している。
なお、マーキングは、油性のインキなどを用いて行う。また、マーキング部分が盛り上がったり、研磨により、かすれたりしない場合には、水性のインキを用いて研磨面に以下のような手法でマーキングを作製してもよい。この場合、シート基材は光学的透過性を有する必要はない。
図8は、マークを施した研磨シートを作製する一例の手法を示す図である。
たとえば、インクジェットプリンタを用いて、研磨シート55に、円形マーク56、照射範囲の中心のマーク57が、所定の間隔で重複することがないように作製する。そして、隣り合う円形マーク56またはマーク57の中間線で切断して、個々の研磨シートを作製する。
また、マーキングは円形マーク51、マーク52の何れか一方のみとしてもよい。
このような、マーキングを研磨シート50に施すことによって、研磨の際、研磨すべき位置が明確になり、効率よく、試料の無駄なく、研磨を行うことができる。また、研磨シート50を分析試料として蛍光X線分析装置にセットする際、研磨シート50を、適切なX線の照射領域にセットすることが容易になる。これにより、研磨シート50に転移させた層材料を有効に測定することができるとともに、照射領域からはみ出した試料による誤差の影響を抑制することができる。
また、図8のように円形マーク56またはマーク57を複数、研磨シート50に転写して、隣り合う円形マーク56またはマーク57の中間線で切断して用いるようにすることで、消耗品となる研磨シート55を必要最小限とすることができる。これにより、コストを削減することが可能となる。
以下では、直径10mmの円形マーク51内に、図3のような寸法のチップ抵抗30のはんだめっき39の研磨痕を転移させる場合について説明する。
前述したように、砥粒の平均粒径が12μmの研磨シートを用い、研磨圧力を132g/mm2とした場合の研磨痕の平均厚は、表1より0.567μmであり、望ましい研磨距離dは、17.6mmであった。
また、同じく砥粒の平均粒径が12μmの研磨シート40を用い、研磨圧力を264g/mm2とした場合の研磨痕の平均厚は、表1より0.717μmであり、望ましい研磨距離dは、13.9mmであった。
しかし、直径10mmの円形マーク51内では、これらの研磨距離dは1つの研磨痕では得ることができない。そのため、研磨圧力が132g/mm2のものについては研磨距離約8.8mm、研磨圧力が264g/mm2のものについては研磨距離約7mmの研磨痕を、それぞれ重ならないように図7のように2回作製した。各回の研磨では、チップ抵抗30を研磨距離の方向で往復移動させて、研磨痕の色むらや表面の状態がほとんど変化しなくなるまで(つまり研磨機能がなくなるまで)、約20〜30回程度繰り返し研磨した(図5参照)。このようにして研磨痕を円形マーク51内に作製した研磨シート40の、円形マーク51内にX線を照射し、錫、ニッケル(Ni)、銀、鉛(Pb)の有無を調べた。
図9は、蛍光X線分析の測定結果である。(A)は砥粒の平均粒径が12μm、研磨圧力が132g/mm2の場合、(B)は砥粒の平均粒径が12μm、研磨圧力が264g/mm2の場合について示している。縦軸は蛍光X線の強度(CPS(Count Per Second)/mA)であり、横軸は研磨回数(回)を示している。
なお、図では研磨回数が2回の測定結果以外に、1,3,4回の研磨の場合についても示している。
図のように研磨回数が2回までは、錫が大量に検出され、ニッケルも多少検出されたが、銀と鉛は検出されなかった。また、研磨回数が3回になると、検出されるニッケルの量が増えるが鉛は検出されず、研磨回数が4回になると、鉛がわずかに検出されるようになった。
なお、研磨痕の平均厚と研磨距離の組み合わせを求める際、研磨距離が蛍光X線の照射領域内の円の直径とほぼ同等となるような研磨シートと、研磨圧力を選択することにより、1つのチップ抵抗での研磨回数を1回の最小にできる。また、X線照射領域内での研磨痕の面積も大きくなるので、より効率的、高精度の測定が可能となる。
たとえば、はんだめっき39の膜厚が4μmの場合では、分析対象層の体積は、0.4mm×1.25mm×4μm=0.002mm3となる。
このとき、砥粒の平均粒径が12μmの研磨シートを用い、研磨圧力132g/mm2で研磨すると、研磨距離は約8.8mmとなる。つまり、X線の照射領域の直径10mmと近い値となり、X線の照射領域内をより多くの転移物を覆うことが可能になり、高精度な分析が期待できる。
ところで、上記では図示を省略してきたが、研磨装置としては以下のようなものが用いられる。
図10は、研磨装置の一例の構成を示す斜視図である。
また、図11は、スライド板の詳細を示す図である。
研磨装置60は、台61上の両端に設けられた支柱62−1,62−2によって互いに平行に支えられたガイド板63−1,63−2と、スライド板64−1,64−2を介してガイド板63−1,63−2間に挟まれた研磨棒65を有している。スライド板64−1,64−2には、図11のように、X軸方向にスライドするボールスライダ64aがガイド板63−1,63−2との間に設けられている。また、Z軸方向にスライドするボールスライダ64bが研磨棒65との間に設けられている。これによって、研磨棒65がX軸方向とZ軸方向に対して動くようになっている。研磨距離は、ガイド板63−1,63−2上に、スライド板64−1,64−2を挟んで設けられる止め具66−1,66−2によって調整される。
研磨棒65のヘッド部65aには、両面テープなどの接着層や磁石などによって、チップ部品ホルダ67が固定されている。このチップ部品ホルダ67に図3のようなチップ抵抗30が、薄い両面テープやゴムシートなどの接着層を介して装着される。台61上には、固定テープ68−1,68−2によって研磨シート50が固定される。また、おもり69が研磨棒65の上部に搭載されるような構成となっている。
研磨時には、研磨棒65の取っ手部65bをX軸方向に走査することで研磨が行われる。また、研磨棒65はボールスライダ64bによって、Z軸方向にも可動するので、研磨棒65とおもり69の重量が加えられ、おもり69を選択することによって、研磨シート50への研磨圧力(荷重)の調整が可能なる。
さらに、図示しないが、研磨シート50を固定する部分を、台上でX軸方向に垂直なY軸方向に可動するようにすれば、図7で示したような複数の研磨痕を容易に形成できる。
なお、研磨装置は、特に上記の構成に限定されるものではない。
以上の実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1) 研磨シートにより、第1の試料を研磨し、前記研磨シートの凹部に第1の研磨痕を付着させる工程と、
前記第1の研磨痕部分の研磨機能が喪失した時点における前記第1の研磨痕の平均厚を求める工程と、
前記研磨シートにより、前記第1の試料と同材料である第2の試料の分析対象層を研磨し、前記研磨シートの凹部に第2の研磨痕を付着させる工程と、を有し、
前記平均厚に基づいて、前記第2の研磨痕の面積を求めることを特徴とする分析試料作製方法。
(付記2) 前記平均厚は、前記研磨シートの表面が平坦になる時点における前記第1の研磨痕の平均厚であることを特徴とする付記1記載の分析試料作製方法。
(付記3) 前記第1の研磨痕の平均厚及び前記分析対象層の体積に基づいて前記第2の研磨痕の面積を求めることを特徴とする付記1記または2に記載の分析試料作製方法。
(付記4) 前記第2の研磨痕が分析装置の分析範囲内に収まるように、前記研磨シートの種類を選択して前記平均厚及び前記第2の研磨痕の面積を決定することを特徴とする付記1乃至3の何れか一項に記載の分析試料作製方法。
(付記5) 前記第2の研磨痕の全面積が前記分析装置の分析範囲内に収まるように、前記第2の研磨痕を前記分析範囲内に複数作成することを特徴とする付記1乃至4の何れか一項に記載の分析試料作製方法。
(付記6) 前記第2の研磨痕が蛍光X線分析装置のX線照射領域内に収まるように、前記研磨シートの種類を選択して前記平均厚及び前記第2の研磨痕の面積を決定することを特徴とする付記1乃至5の何れか一項に記載の分析試料作製方法。
本実施の形態の分析試料作製方法の概略を示す図である。 研磨シートの断面図である。 チップ抵抗の一例とその寸法例を示す図である。 分析の流れを示すフローチャートである。 同一の研磨痕上で重ねて研磨した回数と研磨痕上に転移した錫の転移量の関係を示す図である。 チップ抵抗の研磨の様子を示す概略図である。 研磨シートの一例を示す図である。 マークを施した研磨シートを作製する一例の手法を示す図である。 蛍光X線分析の測定結果である。 研磨装置の一例の構成を示す斜視図である。 スライド板の詳細を示す図である。
符号の説明
10 試料
10−1 基板
10−2 層
10−3 層(分析対象層)
20 研磨シート
20a,20b 研磨痕

Claims (4)

  1. 研磨シートにより、分析対象層と略同一の組成の材料である第1の試料を研磨し、前記研磨シートの凹部に第1の研磨痕を付着させる工程と、
    前記第1の研磨痕部分の研磨機能が喪失した時点における前記第1の研磨痕の平均厚を求める工程と、
    前記研磨シートにより、第2の試料の前記分析対象層を、前記第1の研磨痕を付着させたときと同じ圧力で研磨し、前記研磨シートの凹部に第2の研磨痕を付着させる工程と、を有し、
    前記分析対象層の体積を前記平均厚で割ることで、前記第2の研磨痕の面積を求めることを特徴とする分析試料作製方法。
  2. 前記第2の研磨痕が分析装置の分析範囲内に収まるように、前記研磨シートの種類を選択して前記平均厚及び前記第2の研磨痕の面積を決定することを特徴とする請求項1に記載の分析試料作製方法。
  3. 前記第2の研磨痕が蛍光X線分析装置のX線照射領域内に収まるように、前記研磨シートの種類を選択して前記平均厚及び前記第2の研磨痕の面積を決定することを特徴とする請求項1または2に記載の分析試料作製方法。
  4. 前記第2の研磨痕の全面積が前記分析装置の分析範囲内に収まるように、前記第2の研磨痕を前記分析範囲内に複数作成することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の分析試料作製方法。
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