JP4940753B2 - ゴム補強用スチールコード及びそれを用いた空気入りラジアルタイヤの製造方法 - Google Patents

ゴム補強用スチールコード及びそれを用いた空気入りラジアルタイヤの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、3回撚りによる3層構造を持つスチールコード及びそれを用いた空気入りラジアルタイヤの製造方法に関し、更に詳しくは、引張剛性を低下させることなくコード内部へのゴム浸透性を改善し、耐久性を向上することを可能にしたゴム補強用スチールコード及びそれを用いた空気入りラジアルタイヤの製造方法に関する。
例えば、重荷重用空気入りラジアルタイヤのカーカス層を構成するスチールコードとして、複数本の素線を含む第1層と、該第1層の外周側に位置して複数本の素線を含む第2層と、該第2層の外周側に位置して複数本の素線を含む第3層とを順次撚り合わせてなる3層構造のスチールコードが使用されている(例えば、引用文献1〜3参照)。
しかしながら、通常、3層構造のスチールコードは第3層の素線間の隙間が小さいため、ゴム被覆後に加硫したとき、コード内部へのゴム浸透性が悪いという欠点がある。そして、コード内部へのゴム浸透率が低いと、コートゴムや外層素線による内層素線の拘束力が不十分になるため、内層素線が抗張材として十分に働かず、コードの耐久性が低下することになる。一方、ゴム浸透性を改善する目的で素線に過度な癖付けを施すと、コードの引張剛性が低下する。この場合、空気入りラジアルタイヤにおいては、操縦安定性が低下することになる。
特開平5−59677号公報 特開平5−11605号公報 特開平11−124781号公報
本発明の目的は、引張剛性を低下させることなくコード内部へのゴム浸透性を改善し、耐久性を向上することを可能にしたゴム補強用スチールコード及びそれを用いた空気入りラジアルタイヤの製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明のゴム補強用スチールコードは、3本の素線からなる第1層と、該第1層の外周側に位置して複数本の素線を含む第2層と、該第2層の外周側に位置して複数本の素線を含む第3層とを順次撚り合わせてなる3層構造のスチールコードにおいて、前記第1層と前記第2層との間に未加硫ゴム配合物を挿入し、該未加硫ゴム配合物の断面積Sを下式(1)及び(2)にて表される最小値Smin 及び最大値Smax に対してSmin ≦S≦Smax の関係にしたことを特徴とするものである。
min =[d1 ×(2√3+3)/3]2×π/4−n1×d1 2 ×π/4 ・・・(1)
max =n2×[d1 ×(2√3+3)/3+d2]2/8 × sin(2π/n2)−n1×d1 2 ×π/4
−n2×d2 2 ×π/4×(180−360/n2)/360 ・・・(2)
但し、d1:第1層の素線径
d2:第2層の素線径
n1:第1層の素線本数
n2:第2層の素線本数
また、本発明の空気入りラジアルタイヤの製造方法は、上記ゴム補強用スチールコードをカーカス層に用いたグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤを加硫することを特徴とするものである。
本発明では、3回撚りによる3層構造を持つスチールコードにおいて、第1層と第2層との間に未加硫ゴム配合物を挿入し、その未加硫ゴム配合物の断面積Sを適正化する。つまり、未加硫ゴム配合物の断面積Sは、第1層の外接円内の空隙面積に相当する最小値Smin 以上、かつ、第2層の隣り合う素線中心点を結んだ線が描く多角形内の空隙面積に相当する最大値Smax 以下とする。このような断面積Sを満足する未加硫ゴム配合物を第1層と第2層との間に挿入することにより、加硫初期において第3層の素線間の隙間が大きくなるため第2層と第3層との間へのゴム浸透性が良好になる。その一方で、加硫後においては、加硫時のコード張力により第1層と第2層との間の未加硫ゴム配合物がコード径方向外側へ流れつつ第3層の素線がコード径方向内側へ収束するため良好な引張剛性を発揮することが可能になる。これにより、引張剛性を低下させることなくコード内部へのゴム浸透性を改善し、スチールコードの耐久性を向上することができる。更には、このようなスチールコードをカーカス層に用いて得られる空気入りラジアルタイヤの耐久性を向上することができる。
上記ゴム補強用スチールコードにおいて、第1層の素線本数は3本である。例えば、第1層の素線本数を3本とし、第2層の素線本数を9本とし、第3層の素線本数を15本とした所謂3+9+15構造のスチールコードを構成することが好ましい。このようなスチールコードは一般的にはゴム浸透性が悪いため、上記構成を採用することで顕著な作用効果が得られる。
上記空気入りラジアルタイヤの製造方法は、カーカス層の成形初期から加硫後までの周長増加率をタイヤ幅方向中央位置で70%以上にする場合に特に有効である。カーカス層の成形初期から加硫後までの周長増加率が大きいほど、タイヤ製造過程においてカーカス層のスチールコードに与えられる張力が大きくなり、第3層の素線間の隙間が閉じ易くなるため、上記構成を採用することで顕著な作用効果が得られる。なお、カーカス層の成形初期から加硫後までの周長増加率とは、円筒状に成形された1次グリーンタイヤにおけるカーカス層の周長をL1 とし、加硫後のタイヤにおけるカーカス層の周長をL2 としたとき、(L2 −L1 )/L1 ×100%である。周長増加率の上限値は300%とする。
本発明のゴム補強用スチールコードは、空気入りラジアルタイヤのカーカス層に適用することが望ましいが、カーカス層以外のタイヤ構成部材やコンベヤベルト等にも適用することが可能である。
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなるゴム補強用スチールコードを示すものである。図1において、スチールコード10は、3本の素線11を含む第1層Aと、該第1層Aの外周側に位置して9本の素線12を含む第2層Bと、該第2層Bの外周側に位置して15本の素線13を含む第3層Cとを順次撚り合わせてなる3層構造を有している。つまり、第1層Aと第2層Bと第3層Cは独立した撚り工程において順次撚り合わされたものである。
第1層Aと第2層Bとの間には未加硫ゴム配合物Rが挿入されている。この未加硫ゴム配合物の断面積Sは下式(1)及び(2)にて表される最小値Smin 及び最大値Smax に対してSmin ≦S≦Smax の関係になっている。
min =[d1 ×(2√3+3)/3]2×π/4−n1×d1 2 ×π/4 ・・・(1)
max =n2×[d1 ×(2√3+3)/3+d2]2/8 × sin(2π/n2)−n1×d1 2 ×π/4
−n2×d2 2 ×π/4×(180−360/n2)/360 ・・・(2)
但し、d1:第1層の素線径
d2:第2層の素線径
n1:第1層の素線本数
n2:第2層の素線本数
図2は図1のゴム補強用スチールコードにおける未加硫ゴム配合物の断面積の最小値Smin 及び最大値Smax を説明するための図である。図2に示すように、最小値Smin は第1層Aの外接円O内の空隙面積に相当し、最大値Smax は第2層Bの隣り合う素線中心点を結んだ線が描く多角形P内の空隙面積に相当する。そして、未加硫ゴム配合物Rの断面積Sは、最小値Smin を下限値とし、最大値Smax を上限値とする範囲に設定されている。ここで、第1層Aと第2層Bとの間に挿入される未加硫ゴム配合物Rの断面積Sが最小値Smin を下回るとコード内部のゴムが過少となるためコード耐久性の改善効果が低下し、逆に最大値Smax を上回るとコード内部のゴムが過多となるため加硫後のコード引張弾性率が低下する。
図3は図1のゴム補強用スチールコードをゴム被覆して加硫した状態を示すものである。図3において、コード外部に存在するコートゴムは省略する。図3に示すように、スチールコード10をゴム被覆してから加硫を行うと、コード外部からコード内部へ浸透した未加硫ゴム配合物とコード内部に予め挿入されていた未加硫ゴム配合物Rとが加硫されて加硫ゴム層R’を形成する。この加硫ゴム層R’はコード外部に存在する不図示のコートゴムに対して一体的に繋がり、かつ、第1層Aの素線11、第2層Bの素線12及び第3層Cの素線13を一体的に結合させるものとなる。その結果、コートゴムや外層素線13による内層素線11,12の拘束力が高くなり、内層素線11,12が抗張材として十分に働くようになる。
このように3回撚りによる3層構造を持つスチールコード10において、第1層Aと第2層Bとの間に未加硫ゴム配合物Rを挿入し、その未加硫ゴム配合物Rの断面積Sを適正化することにより、引張剛性を低下させることなくコード内部へのゴム浸透性を改善し、コード耐久性を向上することができる。
ここで、対比のため、従来のゴム補強用スチールコードについて説明する。図4は従来のゴム補強用スチールコードを示し、図5は図4のゴム補強用スチールコードをゴム被覆して加硫した状態を示すものである。図5において、コード外部に存在するコートゴムは省略する。図4に示すように、従来のスチールコード20はその内部に未加硫ゴム配合物が挿入されていない。このようなスチールコード20をゴム被覆してから加硫を行った場合、図5に示すように、コード内部に形成される加硫ゴム層R’は不十分となる。そして、コード内部へのゴム浸透率が低いと、コートゴムや外層素線13による内層素線11,12の拘束力が不十分になるため、内層素線11,12が抗張材として十分に働かず、コード耐久性が低下するのである。
図1に示す本発明のスチールコード10は3+9+15構造を有するものであるが、それ以外に、3+9+14構造、3+8+15構造、3+8+14構造、3+8+13構造等を採用することが可能である。
図6は本発明のゴム補強用スチールコードを用いて得られる空気入りラジアルタイヤの一例を示し、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間には複数本の補強コードをタイヤ径方向に配向してなるカーカス層4が装架され、そのカーカス層4の端部がビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。このカーカス層4には前述のスチールコード10が使用されている。トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層6が埋設されている。これらベルト層6は補強コードがタイヤ周方向に対して傾斜し、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。
上述のような空気入りラジアルタイヤを製造する場合、スチールコード10をカーカス層4に用いたグリーンタイヤを成形し、そのグリーンタイヤを加硫する。より具体的には、複数本のスチールコード10を含むカーカス層4を一対の環状のビードコア5,5間に装架してなる円筒状の1次グリーンタイヤを成形する一方で、ベルト層6を含むトレッドリングを成形し、一対のビードコア5,5の相互間隔を縮めながら1次グリーンタイヤの軸方向中央部を膨径させ、その1次グリーンタイヤの外周側にトレッドリングを貼り合わせることにより、2次グリーンタイヤを成形する。その後、2次グリーンタイヤを金型内で加硫する。
上記空気入りラジアルタイヤの製造過程において、カーカス層4を構成するスチールコード10には張力が与えられる。特に、カーカス層4の成形初期から加硫後までの周長増加率がタイヤ幅方向中央位置(タイヤ赤道位置)で70%以上となるような変形を伴う場合、スチールコード10に与えられる張力による影響が大きくなり、スチールコード10の第3層Cの素線13,13間の隙間が閉じ易くなる。しかしながら、スチールコード10の第1層Aと第2層Bとの間には上述の如く所定量の未加硫ゴム配合物Rが挿入されているので、カーカス層4の成形初期から加硫後までの周長増加率がタイヤ幅方向中央位置で70%以上となる場合であっても、コード内部へのゴム浸透性を改善し、コード耐久性を向上し、延いては、空気入りラジアルタイヤの耐久性を向上することができる。
タイヤサイズ295/80R22.5の空気入りラジアルタイヤを製造するにあたって、カーカス層を構成するスチールコード(3+9+15×0.17)の第1層と第2層との間に予め未加硫ゴム配合物を挿入し、その未加硫ゴム配合物の断面積(以下、「ゴム被覆断面積」という。)を表1のように種々異ならせた(実施例1〜2及び比較例1〜2)。対比のため、未加硫ゴム配合物を挿入していないスチールコード(3+9+15×0.17)をカーカス層に用いて同タイヤサイズの空気入りラジアルタイヤを製造した(従来例1)。
上記空気入りラジアルタイヤの製造工程において、1次グリーンタイヤ成形時のカーカス層のコード打ち込み密度は31本/50mmであり、加硫後のカーカス層のコード打ち込み密度はタイヤ幅方向中央位置で17本/50mmであった。つまり、カーカス層の成形初期から加硫後までの周長増加率はタイヤ幅方向中央位置で約82%である。
ゴム被覆断面積は、スチールコードを1000m以上製作し、未加硫ゴム配合物の比重とコード1000m当たりの消費量から求めた。上記スチールコードにおいて、ゴム被覆断面積の最小値Smin は0.037mm2 であり、最大値Smax は0.060mm2 である。
上述のようにして得られた評価タイヤについて、下記の測定方法により、ゴム浸透率、素線切れ率、加硫後初期引張弾性率指数、コード耐久性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
ゴム浸透率:
評価タイヤからカーカスコードを全長にわたって採取し、カッターナイフでコード周りのゴムを取り除いた。第3層の素線を1本ずつ手で除去した後、顕微鏡を使用して第2層のゴム被覆率(%)を評価した。つまり、第2層がゴムで完全に覆われている状態はゴム被覆率が100%であり、第2層が完全に露出している状態はゴム被覆率が0%である。コード10本について同様の試験を実施し、その平均値を求めた。
素線切れ率:
評価タイヤのショルダー部からコード埋め込み長さ25mmでJIS G3510に準じた接着試験用サンプルを採取した。そして、接着試験用サンプルを用い、コード100本について引き抜き試験を実施し、第3層に素線切れを生じたコード本数を数え、その素線切れの発生率(%)を求めた。
加硫後初期引張弾性率指数:
評価タイヤからカーカスコードを全長にわたって採取し、そのカーカスコードに対して引張試験を実施して荷重10〜250N間の初期引張弾性率を求めた。コード10本について同様の試験を実施し、その平均値を求めた。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。指数値が大きいほど加硫後初期引張弾性が大きいことを意味する。
コード耐久性:
評価タイヤからカーカスコードを全長にわたって採取し、145℃×25分の加硫条件で、幅10mm、厚さ5mm、長さ500mmのゴムブロック中央にカーカスコードを埋め込んだ試験片を作製した。この試験片を3ローラー試験機に装着し、ローラー径35mm、コード張力200Nの条件で疲労試験を実施した。つまり、3個のローラーにより試験片に歪みを与えつつローラーをコード長手方向に往復移動させ、コードに破断を生じるまでの往復回数を測定した。コード25本について同様の疲労試験を実施し、破断を生じるまでの往復回数の中央値を求めた。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。指数値が大きいほどコード耐久性が良好であることを意味する。
Figure 0004940753
この表1から明らかなように、実施例1〜2ではいずれの評価項目についても従来例1に比べて良好な結果が得られた。一方、比較例1ではゴム被覆断面積が少ないため改善効果が不十分であり、特に素線切れ率が高くなっていた。比較例2ではゴム被覆断面積が高いためスチールコードの初期引張弾性率が従来例1よりも低下していた。初期引張弾性率が低下すると操縦安定性が悪化することになる。
本発明の実施形態からなるゴム補強用スチールコードを示す断面図である。 図1のゴム補強用スチールコードにおける未加硫ゴム配合物の断面積の最小値Smin 及び最大値Smax を説明するための断面図である。 図1のゴム補強用スチールコードをゴム被覆して加硫した状態を示す断面図である。 従来のゴム補強用スチールコードを示す断面図である。 図4のゴム補強用スチールコードをゴム被覆して加硫した状態を示す断面図である。 本発明のゴム補強用スチールコードを用いて得られる空気入りラジアルタイヤの一例を示す子午線半断面図である。
符号の説明
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ベルト層
10 スチールコード
11,12,13 素線
A 第1層
B 第2層
C 第3層
R 未加硫ゴム配合物

Claims (4)

  1. 3本の素線からなる第1層と、該第1層の外周側に位置して複数本の素線を含む第2層と、該第2層の外周側に位置して複数本の素線を含む第3層とを順次撚り合わせてなる3層構造のスチールコードにおいて、前記第1層と前記第2層との間に未加硫ゴム配合物を挿入し、該未加硫ゴム配合物の断面積Sを下式(1)及び(2)にて表される最小値Smin 及び最大値Smax に対してSmin ≦S≦Smax の関係にしたことを特徴とするゴム補強用スチールコード。
    min =[d1 ×(2√3+3)/3]2×π/4−n1×d1 2 ×π/4 ・・・(1)
    max =n2×[d1 ×(2√3+3)/3+d2]2/8 × sin(2π/n2)−n1×d1 2 ×π/4
    −n2×d2 2 ×π/4×(180−360/n2)/360 ・・・(2)
    但し、d1:第1層の素線径
    d2:第2層の素線径
    n1:第1層の素線本数
    n2:第2層の素線本数
  2. 前記第2層の素線本数を9本とし、前記第3層の素線本数を15本としたことを特徴とする請求項1に記載のゴム補強用スチールコード。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のゴム補強用スチールコードをカーカス層に用いたグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤを加硫することを特徴とする空気入りラジアルタイヤの製造方法。
  4. 前記カーカス層の成形初期から加硫後までの周長増加率をタイヤ幅方向中央位置で70%以上にしたことを特徴とする請求項3に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。
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