本発明は上記問題に対処するためになされたものであって、その目的は、ABS制御中にて「増し踏み」がなされた場合においてブレーキ操作部材の操作ストロークを増大し得るアンチスキッド制御装置を提供することにある。
本発明に係る車両のアンチスキッド制御装置は、ブレーキ操作部材の操作によって車輪に発生した制動力により車輪がロック傾向になった場合に同車輪のホイールシリンダ圧を減少させることで同車輪のロックの発生を抑制するABS制御を実行するアンチスキッド制御手段と、前記ABS制御実行中において前記ブレーキ操作部材の操作により要求される制動力の大きさが前記アンチスキッド制御開始時点の制動力の大きさよりも大きいと判定される期間である増し踏み期間に亘って、前記ブレーキ操作部材の操作ストロークに影響を与えるパラメータを前記増し踏み期間以外の期間にて設定される値(Sdbase,Sibase,Nbase)と異なる値に設定して前記操作ストロークを増大した状態に維持するストローク増大手段とを備えている。
ここにおいて、「ABS制御実行中においてブレーキ操作部材の操作により要求される制動力の大きさがABS制御開始時点よりも大きい場合」とは、例えば、ABS制御実行中においてマスタシリンダ圧(或いは、ブレーキ操作部材の操作力)がABS制御開始時点のマスタシリンダ圧よりも大きい場合等である。
上記構成によれば、ABS制御中において「増し踏み」がなされた場合、ブレーキ操作部材の操作ストロークを増大させることができ、この結果、「増し踏み」時においてブレーキフィーリングが官能的に低下する程度を抑制することができる。
上記本発明に係るアンチスキッド制御装置においては、前記ストローク増大手段は、ABS制御中における前記ホイールシリンダ圧の変化パターンを増圧方向に偏移させることで前記ブレーキ操作部材の操作ストロークを増大させるように構成されることが好適である。
ABS制御中におけるホイールシリンダ圧の変化パターンを増圧方向に偏移させることは、ABS制御中においてホイールシリンダ圧のブレーキ液が満たされている液圧回路内のブレーキ液量を平均的に増大させること、ひいては、「増圧弁下流の液圧回路」内の総ブレーキ液量を平均的に増大させることを意味する。
従って、ABS制御中におけるホイールシリンダ圧の変化パターンを増圧方向に偏移させると、ABS制御中においてブレーキ操作部材の操作ストロークを大きくすることができる。上記構成は、係る知見に基づくものである。これによれば、ABS制御中において「増し踏み」がなされた場合、ブレーキ操作部材の操作ストロークを確実に大きくすることができる。
前記アンチスキッド制御手段が、前記車輪のスリップの程度を表す値(スリップ率等)と基準値との比較結果に基づいて前記ホイールシリンダ圧の変化パターンを決定するように構成されている場合、ホイールシリンダ圧の変化パターンを増圧方向に偏移させるためには、例えば、前記基準値を大きくする基準値増大制御を行えばよい。
より具体的には、前記アンチスキッド制御手段が、前記車輪のスリップの程度を表す値と第1基準値との比較結果に基づいて前記ホイールシリンダ圧を減少させる減圧制御の開始時期を決定し、前記車輪のスリップの程度を表す値と第2基準値との比較結果に基づいて前記ホイールシリンダ圧を増大させる増圧制御の開始時期を決定するように構成されている場合、前記基準値増大制御として、例えば、前記第1基準値と前記第2基準値とを共に大きくすればよい。
第1基準値を大きくすることは、減圧制御の開始時期を遅らすこと、即ち、現在実行中の増圧制御の終了時期を遅らすことに繋がる。第2基準値を大きくすることは、増圧制御の開始時期を早めることに繋がる。これらは共に、ABS制御中におけるホイールシリンダ圧の変化パターンを増圧方向に偏移させる方向に働く。
以上より、ABS制御中において基準値増大制御を実行することにより、ABS制御中におけるホイールシリンダ圧の変化パターンを増圧方向に確実に偏移させることができる(従って、ブレーキ操作部材の操作ストロークを確実に大きくすることができる)。このように、前記基準値(第1、第2基準値)は、「ブレーキ操作部材の操作ストロークに影響を与えるパラメータ」に対応している。
この場合、前記ブレーキ操作部材の操作により要求される制動力の大きさがABS制御開始時点の制動力の大きさよりも大きい程度(即ち、「増し踏み」の程度)に応じて前記基準値を大きくする程度を変更するように構成されることが好適である。具体的には、例えば、ABS制御中におけるホイールシリンダ圧(或いは、ブレーキ操作部材の操作力)のABS制御開始時点での値からの増大量が大きいほど前記基準値の増大量が大きくされる。
これによると、例えば、「増し踏み」の程度が大きいほど、ホイールシリンダ圧の変化パターンを増圧方向に偏移させる程度をより大きくすることができる(従って、ブレーキ操作部材の操作ストロークをより大きくすることができる)。この結果、「増し踏み」時においてブレーキフィーリングが官能的に低下する程度をより一層抑制することができる。
上記本発明に係るアンチスキッド制御装置においては、後輪については前記基準値増大制御を行わないことが好ましい。或る車輪についてのABS制御中においてその車輪のホイールシリンダ圧の変化パターンを増圧方向に偏移させることは、その車輪のスリップ率が平均的に増大することを意味する。他方、或る車輪のスリップ率が増大すると、その車輪のタイヤに発生可能なコーナーリングフォースの最大値が低下する。
以上のことを考慮すると、後輪についてのABS制御中において前記基準値増大制御を実行すると、その後輪のタイヤに発生可能なコーナーリングフォースの最大値が小さくなる。上記構成は係る知見に基づく。即ち、これによれば、基準値増大制御の実行により車両の走行状態を安定にすることができる。
また、上記本発明に係るアンチスキッド制御装置においては、前記基準値増大制御実行中において前記車両が旋回を開始したと判定された場合、前記基準値増大制御を中止することが好適である。
上述したように、基準値増大制御実行中において車両が旋回を開始した場合において基準値増大制御をなお継続すると、旋回時に発生可能なコーナーリングフォースの最大値が小さくなる。上記構成は係る知見に基づく。即ち、これによっても、基準値増大制御の実行により車両の走行状態を安定にすることができる。
また、上記本発明に係るアンチスキッド制御装置において、前記アンチスキッド制御手段が少なくとも前記ホイールシリンダ圧を減少・増大させる制御サイクルを連続して繰り返し実行可能に構成されている場合、前記ストローク増大手段は、ABS制御中において前記ホイールシリンダ圧を減少させる場合にリザーバ内における一制御サイクル当たりのブレーキ液量を増大させることで前記ブレーキ操作部材の操作ストロークを増大させるように構成されることが好適である。
ABS制御中においてリザーバ内における一制御サイクル当たりのブレーキ液量を増大させることは、ABS制御中においてリターン液が満たされている液圧回路内のブレーキ液量を平均的に増大させること、ひいては、「増圧弁下流の液圧回路」内の総ブレーキ液量を平均的に増大させることを意味する。
従って、ABS制御中においてリザーバ内における一制御サイクル当たりのブレーキ液量を増大させると、ABS制御中においてブレーキ操作部材の操作ストロークを大きくすることができる。上記構成は、係る知見に基づくものである。これによっても、ABS制御中において「増し踏み」がなされた場合、ブレーキ操作部材の操作ストロークを確実に大きくすることができる。
ここで、前記リザーバ内における一制御サイクル当たりのブレーキ液量を増大させるためには、例えば、前記リザーバ内のブレーキ液を汲み上げる液圧ポンプの汲み上げ流量を小さくする流量減少制御を行えばよい。より具体的には、前記流量減少制御として、前記液圧ポンプを駆動するモータの回転速度を減少すればよい。
液圧ポンプを駆動するモータの回転速度を減少して液圧ポンプの汲み上げ流量を小さくすることは、リザーバ内における一制御サイクル当たりのブレーキ液量を増大させる方向に働く。即ち、ABS制御中において流量減少制御を実行することにより、リザーバ内における一制御サイクル当たりのブレーキ液量を確実に増大させることができる(従って、ブレーキ操作部材の操作ストロークを確実に大きくすることができる)。このように、前記液圧ポンプの汲み上げ流量(従って、モータの回転速度)は、「ブレーキ操作部材の操作ストロークに影響を与えるパラメータ」に対応している。
この場合、前記ブレーキ操作部材の操作により要求される制動力の大きさがABS制御開始時点の制動力の大きさよりも大きい程度(即ち、「踏み増し」の程度)に応じて前記液圧ポンプの汲み上げ流量(従って、モータの回転速度)を小さくする程度を変更するように構成されることが好適である。具体的には、例えば、ABS制御中におけるホイールシリンダ圧(或いは、ブレーキ操作部材の操作力)のABS制御開始時点での値からの増大量が大きいほど前記液圧ポンプの汲み上げ流量(従って、モータの回転速度)の減少量が大きくされる。
これによると、例えば、「増し踏み」の程度が大きいほど、ABS制御中においてリザーバ内における一制御サイクル当たりのブレーキ液量を増大させる程度をより大きくすることができる(従って、ブレーキ操作部材の操作ストロークをより大きくすることができる)。この結果、「増し踏み」時においてブレーキフィーリングが官能的に低下する程度をより一層抑制することができる。
上記本発明に係るアンチスキッド制御装置において、前記車両のブレーキ液圧回路は前輪の系統と後輪の系統の2系統で構成され、各系統に前記リターン液を貯留するリザーバがそれぞれ配設されている場合、前記後輪の系統については前記流量減少制御を行わないことが好ましい。
これによれば、後輪の系統についてのABS制御中において流量減少制御を実行して何らかの原因で後輪の系統のリザーバがブレーキ液で満たされる事態、の発生を抑制できる。換言すれば、後輪の系統のリザーバがブレーキ液で満たされて後輪のロック傾向が大きくなって車両の走行状態を安定にすることができる。
上記本発明に係るアンチスキッド制御装置においては、前記車両の車体速度が所定車速より大きい場合、前記操作ストロークを増大させる制御(具体的には、前記基準値増大制御、前記流量減少制御)を行わないことが好適である。この構成は、高速走行時におけるABS制御中では、「増し踏み」時においてブレーキフィーリングが官能的に低下する程度を抑制する要求が少ないことに基づく。
以下、本発明による車両のアンチスキッド制御装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るアンチスキッド制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。このアンチスキッド制御装置10は、各車輪にブレーキ液圧による制動力を発生させるブレーキ液圧制御部30を含んでいて、ブレーキ液圧制御部30は、その概略構成を表す図2に示すように、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部32と、各車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36と、還流ブレーキ液供給部37と、を含んで構成されている。
ブレーキ液圧発生部32は、バキュームブースタVBと、同バキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。マスタシリンダMC及びバキュームブースタVBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。
FRブレーキ液圧調整部33は、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されている。
同様に、FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35、RLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUrr及び減圧弁PDrr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されている。
還流ブレーキ液供給部37は、直流モータMTf,MTrと、直流モータMTf,MTrによりそれぞれ独立して駆動される液圧ポンプHPf,HPrとを含んでいる。液圧ポンプHPfは、減圧弁PDfr,PDflから還流されてきたリザーバRSf内のブレーキ液を汲み上げ、FRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給するようになっている。
同様に、液圧ポンプHPrは、減圧弁PDrr,PDrlから還流されてきたリザーバRSr内のブレーキ液を汲み上げ、RRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部に供給するようになっている。
直流モータMTf,MTr(従って、液圧ポンプHPf,HPr)は、後述するABS制御実行中(フラグABS=1)において、予め定められた基本回転速度Nbaseで駆動せしめられるようになっている。ここで、基本回転速度Nbaseは、リザーバRSf(RSr)にブレーキ液が流入してくる減圧制御中においてリザーバRSf(RSr)内のブレーキ液量が常に「0」近傍に維持される程度に高い回転速度に設定されている。換言すれば、基本回転速度Nbaseにて回転している液圧ポンプHPf(HPr)の汲み上げ可能流量は、減圧制御中においてリザーバRSf(RSr)に流入するブレーキ液の流量よりも大きい。これにより、リザーバRSf(RSr)内のブレーキ液量は、ABS制御中においても常に「0」近傍に維持されるようになっている。
再び、図1を参照すると、このアンチスキッド制御装置10は、車輪速度センサ41fl,41fr,41rl,41rrと、ブレーキスイッチ42と、ステアリングホイールSTの中立位置からの回転角度であるステアリング角度θsを表す信号を出力するステアリング角度センサ43と、マスタシリンダ圧Pmを表す信号を出力するマスタシリンダ圧センサ44(図2を参照)と、電子制御装置50とを備えている。
電子制御装置50は、互いにバスで接続された、CPU51、ROM52、RAM53、バックアップRAM54、及びインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。
インターフェース55は、前記センサ41**、43、44、及びブレーキスイッチ42と接続され、CPU51に信号を供給するとともに、同CPU51の指示に応じて、ブレーキ液圧制御部30の電磁弁(増圧弁PU**、及び減圧弁PD**)、及びモータMTf,MTrに駆動信号を送出するようになっている。
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、増圧弁PU**は、左前輪用増圧弁PUfl, 右前輪用増圧弁PUfr, 左後輪用増圧弁PUrl, 右後輪用増圧弁PUrrを示している。
以上のように構成された本発明の第1実施形態に係るアンチスキッド制御装置10は、車輪のロックの発生を抑制するために以下のようにABS制御を実行するようになっている。
(実際の作動)
次に、本発明の第1実施形態に係るアンチスキッド制御装置10の実際の作動について、電子制御装置50のCPU51が実行するルーチン(プログラム)をフローチャートにより示した図3〜図5、並びに、図6に示したタイムチャートを参照しながら説明する。図3〜図5に示した各ルーチンは、車輪毎に実行される。
図6は、時刻t1以前にて運転者がブレーキペダルBPの操作を開始し、時刻t1から前輪f*に対してABS制御が開始された場合における、車両の車体速度Vso、前輪f*の車輪速度Vwf*、マスタシリンダ圧Pm、前輪f*のホイールシリンダ圧Pwf*、モータMTfの回転速度N、及びリザーバRSf内のブレーキ液量Qの変化の一例を示している。
なお、CPU51は、図示しないルーチンにより、別途、車輪速度センサ41**の出力信号に基づいて車輪**の車輪速度(車輪**の外周の速度)Vw**を、前記車輪速度Vw**のうちの最大値である車体速度Vsoを、車輪**のスリップ率S**=(Vso−Vw**)/Vso(0≦S**≦1)を、前記車輪速度**の時間微分値である車輪**の車輪加速度DVw**を、それぞれ、算出・更新している。なお、スリップ率S**が「車輪のスリップの程度を表す値」に対応する。
CPU51は、図3に示したABS制御の開始・終了判定を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ400から処理を開始し、ステップ405に進んで、フラグABS**の値が「0」であるか否かを判定する。ここで、フラグABS**は、車輪**について、その値が「0」のときABS制御が実行されていないことを示し、その値が「1」のときABS制御が実行されていることを示す。
いま、車輪**について、ABS制御が実行されておらず、且つ、ABS制御開始条件が成立していないものとする(図6の時刻t1以前を参照)。この場合、フラグABS**の値は「0」になっているから、CPU51はステップ405にて「Yes」と判定してステップ410に進み、スリップ率S**、及び車輪加速度DVw**とに基づいて、車輪**についてABS制御開始条件が成立しているか否かを判定する。
Sdbaseは、減圧制御開始を判定するためにスリップ率Sと比較されるスリップ率基準値Sd(前記「第1基準値」に相当)の基本値(基本スリップ率基準値)である。DVwrefは、減圧制御開始を判定するために車輪加速度DVw**の絶対値と比較される所定の定数である。
現時点では、車輪**についてABS制御開始条件は成立していないから、CPU51はステップ410にて「No」と判定してステップ495に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU51は、ABS制御開始条件が成立しない限りにおいて、ステップ400、405、410の処理を繰り返し実行する。
次に、この状態にて、運転者がブレーキペダルBPを操作することにより、車輪**についてABS制御開始条件が成立したものとする(図6の時刻t1を参照)。この場合、CPU51はステップ410に進んだとき「Yes」と判定してステップ415に進み、フラグABS**の値を「0」から「1」に変更し、続くステップ420にて変数Mode**の値を「1」に設定する。ここで、変数Mode**は、車輪**について、その値が「1」のとき減圧制御が実行されていることを示し、その値が「2」のとき保持制御が実行されていることを示し、その値が「3」のとき増圧制御が実行されていることを示す。
続いて、CPU51はステップ425に進んで、値Pmem**を、マスタシリンダ圧センサ44から得られる現時点でのマスタシリンダ圧Pmの値に設定する。これにより、値Pmem**は、ABS制御開始時点でのマスタシリンダ圧Pmの値に設定される(図6の時刻t1を参照)。
次いで、CPU51はステップ430に進み、現時点での車体速度Vsoが所定値V0よりも大きいこと、及び、旋回中であること、という2つの条件の少なくとも1つが成立しているか否かを判定する。旋回中であることは、本例では、ステアリング角度センサ43から得られる現時点でのステアリング角度θs(の絶対値)が所定の微小値よりも大きいことで検出される。
ステップ430にて「No」と判定する場合、CPU51はステップ435に進んで、ABS制御の対象となった車輪**が前輪か否かを判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ440にてフラグCHG**の値を「1」に設定し、「No」と判定する場合、ステップ445にてフラグCHG**の値を「0」に設定する。一方、ステップ430にて「Yes」と判定する場合、CPU51はステップ445に直ちに進んでフラグCHG**の値を「0」に設定する。そして、CPU51はステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このように、車輪**についてABS制御開始条件成立直後において、フラグABS**は「0」から「1」に変更される。加えて、フラグCHG**は、車体速度Vsoが所定値V0以下であり、旋回中でなく、且つ、車輪**が前輪である場合にのみ「1」に設定され、それ以外の場合には「0」に設定される。
後述するように、このフラグCHG**は、その値が「1」のとき、車輪**について前記スリップ率基準値Sd、及び後述するスリップ率基準値Si(前記「第2基準値」に相当)の増大が許可される場合(即ち、前記「基準値増大制御」が実行されている場合)を示し、その値が「0」のとき、車輪**について前記スリップ率基準値Sd,Siの増大が許可されない場合(即ち、前記「基準値増大制御」が実行されていない場合)を示す。
以降、CPU51はステップ405に進んだとき「No」と判定してステップ450に進むようになり、同ステップ450にて車輪**についてABS制御終了条件が成立しているか否かをモニタする(図6の時刻t1以降を参照)。ABS制御終了条件は、ブレーキスイッチ42がLow信号を出力しているとき(即ち、運転者がブレーキペダルBPの操作を終了したとき)、或いは、「Mode**=3」となっている状態(即ち、増圧制御の実行)が所定時間Tref以上継続しているときに成立する。
現時点はABS制御開始条件が成立した直後であるから、CPU51はステップ450にて「No」と判定する。以降、ステップ450のABS制御終了条件が成立しない限りにおいて、CPU51はステップ400、405、450の処理を繰り返し実行する。この処理を繰り返している間(ABS**=1、CHG**=1or0、図6の時刻t1以降を参照)、CPU51は後述する図4、6のルーチンの実行により車輪**についてABS制御を1回目の制御サイクルから順に実行する。
CPU51は、図4に示したスリップ率基準値Sd,Siの設定を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ500から処理を開始し、ステップ505に進んで、フラグABS**=1であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ595に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
いま、車輪**についてABS制御が実行されているものとすると(図6の時刻t1以降を参照)、CPU51はステップ505にて「Yes」と判定してステップ510に進み、フラグCHG**=1であるか否かを判定する。
先ず、フラグCHG**=0である場合について説明する。この場合、CPU51はステップ515に進んで、スリップ率基準値Sdを前記基本スリップ率基準値Sdbaseと等しい値に設定し、続くステップ520にてスリップ率基準値Siを基本スリップ率基準値Sibaseと等しい値に設定する。ここで、スリップ率基準値Siは、増圧制御開始を判定するためにスリップ率Sと比較される値である。
このように、フラグCHG**=0の場合、スリップ率基準値Sdが基本スリップ率基準値Sdbaseに固定され、スリップ率基準値Siが基本スリップ率基準値Sibaseに固定される。即ち、「基準値増大制御」は実行されない。なお、Sdbase>Sibaseである。
次に、フラグCHG**=1である場合について説明する。この場合、CPU51はステップ525に進んで、先のステップ430と同じ手法により旋回中であるか否か(即ち、旋回を開始したか否か)を判定する。以下、先ず、旋回中でないものとして説明を続ける。
この場合、CPU51はステップ530に進み、増し踏み相当加圧量ΔPを、現時点でのマスタシリンダ圧Pmから先のステップ425にて設定された値Pmem**を減じて得られ値に設定する。即ち、増し踏み相当加圧量ΔPは、「ブレーキ操作部材の操作により要求される制動力の大きさがABS制御開始時点よりも大きい程度」に相当する。
続いて、CPU51はステップ535に進んで、ステップ535内に記載のテーブルと、前記増し踏み相当加圧量ΔPとに基づいて、スリップ率基準値Sd**の増大量ΔSd**(≧0)を求め、続くステップ540にて、ステップ540内に記載のテーブルと、前記増し踏み相当加圧量ΔPとに基づいて、スリップ率基準値Si**の増大量ΔSi**(≧0)を求める。これにより、増大量ΔSd**,ΔSi**(≧0)は、増し踏み相当加圧量ΔPが大きいほどより大きい値に設定される。
次に、CPU51はステップ545に進んで、スリップ率基準値Sd**を、基本スリップ率基準値Sdbaseに前記増大量ΔSd**を加えた値に設定し、続くステップ550にて、スリップ率基準値Si**を、基本スリップ率基準値Sibaseに前記増大量ΔSi**を加えた値に設定する。
このように、フラグCHG**=1である場合、スリップ率基準値Sd**,Si**は、基本スリップ率基準値Sdbase,Sibaseに対して増し踏み相当加圧量ΔPに応じた分だけ大きい値にそれぞれ設定される。
即ち、車輪**についてのABS制御開始時点にて、車体速度Vsoが所定値V0以下であり、旋回中でなく、且つ、車輪**が前輪である場合(フラグCHG**=1の場合)にのみ、ABS制御実行中(ABS**=1)において「基準値増大制御」が実行される。従って、後輪については「基準値増大制御」は実行されない。なお、増し踏み相当加圧量ΔPの値にかかわらず、Sd**>Si**となる。
また、車輪**についてABS制御実行中(ABS**=1)でありフラグCHG**=1である状態にて、旋回が開始されると、CPU51はステップ525に進んだとき「No」と判定してステップ555に進み、フラグCHG**の値を「1」から「0」に変更する。
これにより、以降、現在実行中のABS制御が終了するまでの間、フラグCHG**=0に維持される。換言すれば、「基準値増大制御」実行中にて旋回が開始されると、「基準値増大制御」が中止され、以降、スリップ率基準値Sdが基本スリップ率基準値Sdbaseに固定され、スリップ率基準値Siが基本スリップ率基準値Sibaseに固定される。
また、CPU51は、図5に示したABS制御の実行を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで、フラグABS**=1であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ670に進んで、前述した2系統のうち車輪**と同じ系統の他方の車輪についてのフラグABSの値も「0」の場合、モータMTf,MTrのうち車輪**に対応する方に対して停止指示を行った後、ステップ695に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
いま、ABS制御開始条件が成立した直後であって、先のステップ415の実行によりフラグABS**の値が「0」から「1」に変更された直後であるものとすると(図6の時刻t1を参照)、CPU51はステップ605にて「Yes」と判定してステップ610に進み、変数Mode**の値が「1」になっているか否かを判定する。
現時点では、先のステップ420の処理により変数Mode**の値は「1」になっているから、CPU51はステップ610にて「Yes」と判定してステップ615に進んで、車輪**のホイールシリンダ圧Pw**に対して上述した減圧制御の実行指示を行う。これにより、車輪**について減圧制御が開始・実行される。
次いで、CPU51はステップ620に進んで、車輪**についての車輪加速度DVw**の値が負の値から正の値に変化したか否か(即ち、車輪速度Vw**の値が極小値となったか否か)、即ち、保持制御開始条件が成立したか否かを判定する。
現時点では、減圧制御が開始された直後であるから車輪速度Vw**の値は極小値とはなっていない。従って、CPU51はステップ620にて「No」と判定してステップ665に直ちに進み、モータMTf,MTrのうち車輪**と同じ系統のモータに対して駆動指示を行った後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。ここで、車輪**と同じ系統のモータがモータMTf,MTrのいずれであっても、基本回転速度Nbaseの駆動指示がなされる。
以降、車輪**について保持制御開始条件が成立するまでCPU51はステップ600、605、610、615、620、665の処理を繰り返し実行する。この結果、モータが基本回転速度Nbase一定で駆動開始されるとともに、車輪**について減圧制御が継続される(図6の時刻t1以降を参照)。
そして、所定時間が経過して車輪速度Vw**の値が極小値となると(図6の時刻t2を参照)、CPU51はステップ620に進んだとき「Yes」と判定してステップ625に進み、変数Mode**の値を「1」から「2」に変更し、ステップ665、695に進む。
以降、変数Mode**の値が「2」になっているから、CPU51はステップ610に進んだとき「No」と判定してステップ630に進むようになる。CPU51はステップ630に進むと、変数Mode**の値が「2」になっているか否かを判定する。現時点では、変数Mode**の値が「2」になっているからCPU51はステップ630にて「Yes」と判定してステップ635に進み、車輪**のホイールシリンダ圧Pw**に対して上述した保持制御の実行指示を行う。これにより、車輪**について保持制御が開始・実行される。
続いて、CPU51はステップ640に進んで、車輪**についてのスリップ率S**の値が、図4のルーチンの繰り返し処理により逐次更新されているスリップ率基準値Si**より小さいか否か、即ち、増圧制御開始条件が成立したか否かを判定する。
現時点では、保持制御が開始された直後であるからスリップ率S**の値はスリップ率基準値Si**よりも大きい値となっている。従って、CPU51はステップ640にて「No」と判定してステップ665に直ちに進む。以降、車輪**について増圧制御開始条件が成立するまでCPU51はステップ600、605、610、630、635、640、665の処理を繰り返し実行する。この結果、車輪**について保持制御が継続される。
そして、所定時間が経過してスリップ率S**の値がスリップ率基準値Si**よりも小さくなると(図6の時刻t3を参照。)、CPU51はステップ640に進んだとき「Yes」と判定してステップ645に進んで、変数Mode**の値を「2」から「3」に変更し、ステップ665、695に進む。
以降、変数Mode**の値が「3」になっているから、CPU51はステップ630に進んだとき「No」と判定してステップ650に進むようになる。CPU51はステップ650に進むと、スリップ率S**が図4のルーチンの繰り返し処理により逐次更新されているスリップ率基準値Sd**より大きく、且つ、値|DVw**|が前記値DVwrefよりも大きいか否か、即ち、減圧制御開始条件が成立したか否かを判定する。
現時点は、増圧制御開始条件が成立した直後であるからスリップ率S**はスリップ率基準値Sd**よりも小さい。従って、CPU51はステップ650にて「No」と判定してステップ655に進み、車輪**のホイールシリンダ圧Pw**に対して上述した増圧制御の実行指示を行う。これにより、車輪**について増圧制御が開始・実行される。
以降、車輪**についてステップ650の減圧制御開始条件が成立するまでCPU51はステップ600、605、610、630、650、655、665の処理を繰り返し実行する。この結果、車輪**について増圧制御が継続される。
そして、所定時間が経過してスリップ率S**の値がスリップ率基準値Sd**よりも大きくなると(図6の時刻t6’を参照。)、CPU51はステップ650に進んだとき「Yes」と判定してステップ660に進んで、変数Mode**の値を「3」から「1」に変更し、ステップ665、695に進む。これにより、1回目の制御サイクル(減圧制御・保持制御・増圧制御)が終了する。
以降、変数Mode**の値が「1」になっている。従って、CPU51はステップ610に進んだとき、再び「Yes」と判定するようになる。即ち、2回目の制御サイクルが、1回目の制御サイクルと同様、減圧制御から順に開始されていく(図6の時刻t6’以降を参照)。
以上説明したCPU51による作動は、ステップ405、450の処理が繰り返し実行されている先の図3のルーチンにおけるステップ450のABS制御終了条件が車輪**について成立しない限りにおいて実行され得るものである。従って、上述した作動の途中において運転者がブレーキペダルBPの操作を終了する場合等、ステップ450の条件が成立すると、CPU51はステップ450にて「Yes」と判定してステップ455に進んでフラグABS**の値を「1」から「0」に変更し、続くステップ460にて車輪**について所定のABS制御終了処理を行う。これにより、車輪**について実行されていた一連のABS制御が終了する。
以降、フラグABS**=0となっているから、CPU51は、図4のステップ505、図5の605に進んだとき「No」と判定するようになる。加えて、CPU51は、図3のステップ405に進んだとき「Yes」と判定してステップ410に進むようになり、ABS制御開始条件が成立しているか否かを再びモニタするようになる。
なお、上述したように、この第1実施形態では、モータMTf,MTrは基本回転速度Nbaseで駆動されるから、図6に示したように、ABS制御中において、リザーバRSf,RSr内のブレーキ液量Qは、常に「0」近傍に維持される。
以下、上述したように、ABS制御中において「基準値増大制御」を行う本装置の作用・効果について図6を参照しながら説明する。上述したように、図6は、「基準値増大制御」が実行され得る前輪f*に対してABS制御が開始された場合が示されている。図6において、破線は、本装置の比較対象として「基準値増大制御」が実行されない場合における変化を示している。
図6では、ABS制御が開始される時刻t1〜t4までの間、マスタシリンダ圧PmがABS制御開始時点での値Pmemに維持されている。従って、時刻t1〜t4までの間、スリップ率基準値Sdが基本スリップ率基準値Sdbaseに固定され、スリップ率基準値Siが基本スリップ率基準値Sibaseに固定される。即ち、時刻t3において、ステップ640にてスリップ率Sと比較されるスリップ率基準値Siは基本スリップ率基準値Sibaseに等しい。
時刻t4から「増し踏み」が開始され、マスタシリンダ圧Pmは、時刻t4〜t5の間、値Pmemから増大していき、時刻t5以降、マスタシリンダ圧Pmは、時刻t5の時点での値(Pmem+ΔP1)に維持されている。従って、スリップ率基準値Sd,Siは、時刻t4〜t5の間、基本スリップ率基準値Sdbase,Sibaseからそれぞれ増大していく。時刻t5以降、スリップ率基準値Sd,Siは、増し踏み相当加圧量ΔP=ΔP1に応じて決定される増大量ΔSd,ΔSiだけ基本スリップ率基準値Sdbase,Sibaseよりそれぞれ大きい値になっている。
即ち、2回目の制御サイクルの減圧制御開始時点である時刻t6’において、ステップ650にてスリップ率Sと比較されるスリップ率基準値Sdは基本スリップ率基準値Sdbaseに値ΔP1に応じて決定される増大量ΔSdを加えた値となっている。同様に、2回目の制御サイクルの増圧制御開始時点である時刻t8’において、ステップ640にてスリップ率Sと比較されるスリップ率基準値Siは基本スリップ率基準値Sibaseに値ΔP1に応じて決定される増大量ΔSdを加えた値となっている。
一方、「基準値増大制御」がなされない場合(破線を参照)、2回目の制御サイクルの減圧制御開始時点である時刻t6において、ステップ650にてスリップ率Sと比較されるスリップ率基準値Sdは基本スリップ率基準値Sdbaseと等しい。同様に、2回目の制御サイクルの増圧制御開始時点である時刻t8において、ステップ640にてスリップ率Sと比較されるスリップ率基準値Siは基本スリップ率基準値Sibaseと等しい。
この結果、「増し踏み」がなされた後に開始される2回目の制御サイクルでは、「基準値増大制御」がなされると、微細なドットで示した領域に対応する分だけ、ホイールシリンダ圧Pwの変化パターンが増圧方向に偏移する。なお、これに対応して、2回目の制御サイクルでは、「基準値増大制御」がなされると、斜線で示した領域に対応する分だけ、スリップ率Sが増大方向に偏移する。
このことは、2回目の制御サイクル中(並びに、それ以降)において、ホイールシリンダ圧Pwのブレーキ液が満たされている液圧回路内のブレーキ液量を平均的に増大させること、ひいては、背景技術の欄にて説明した「増圧弁下流の液圧回路」内の総ブレーキ液量(本例では、増圧弁PU**の下流の液圧回路内の総ブレーキ液量)を平均的に増大させることを意味する。
この結果、2回目の制御サイクル中(並びに、それ以降)において、「基準値増大制御」がなされない場合に比して、ブレーキペダルBPのストロークが大きくなる。換言すれば、ABS制御中において「増し踏み」がなされた場合、ブレーキペダルBPのストロークを増大させることができる。
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係る車両のアンチスキッド制御装置によれば、減圧制御・保持制御・増圧制御を一組とする一制御サイクルを繰り返し実行するABS制御が実行される。減圧制御開始・増圧制御開始を判定するためにスリップ率Sとそれぞれ比較されるスリップ率基準値Sd,Siは、原則的には、基本スリップ率基準値Sdbase,Sibase(一定)にそれぞれ設定される。一方、ABS制御中において「増し踏み」がなされた場合、スリップ率基準値Sd,Siは、「増し踏み」の程度(増し踏み相当加圧量ΔP)に応じた増大量ΔSd,ΔSiだけそれぞれ増大される(即ち、「基準値増大制御」が実行される)。
この「基準値増大制御」により、ABS制御中におけるホイールシリンダ圧の変化パターンを増圧方向に偏移させることができる。この結果、「増圧弁下流の液圧回路」内の総ブレーキ液量が平均的に増大するから、ABS制御中においてブレーキペダルBPのストロークを大きくすることができる。この結果、「増し踏み」時においてブレーキフィーリングが官能的に低下する程度を抑制することができる。
本発明は上記第1実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1実施形態においては、「基準値増大制御」実行中において増圧制御中にて旋回が開始される場合、「基準値増大制御」が中止されてスリップ率基準値Sd,Siが基本スリップ率基準値Sdbase,Sibaseにそれぞれ戻される。これにより、現時点でのスリップ率Sが基本スリップ率基準値Sdbaseよりも大きいと、ステップ650にて直ちに「Yes」と判定されて減圧制御が開始される。一方、現時点でのスリップ率Sが基本スリップ率基準値Sdbase以下である場合、その後においてスリップ率Sが基本スリップ率基準値Sdbaseを超えるまでの間、現在の増圧制御がなお継続されることになる。
これに対し、現時点でのスリップ率Sが基本スリップ率基準値Sdbase以下である場合、その後においてスリップ率Sが基本スリップ率基準値Sdbaseを超えるまでの間、現在の増圧制御に代えて保持制御を実行してもよい。これにより、「ホイールシリンダ圧の変化パターンの増圧方向への偏移」をより早い段階でなくすことができる。従って、より早い段階で、スリップ率を小さくしてタイヤ(前輪)に発生可能なコーナーリングフォースの最大値を大きくすることができる。この結果、旋回開始後における走行状態をより安定化させることができる。
また、上記第1実施形態においては、液圧ポンプHPf,HPrがモータMTf,MTrでそれぞれ独立して駆動されるようになっているが、液圧ポンプHPf,HPrを共に、単一のモータで駆動するように構成してもよい。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るアンチスキッド制御装置について説明する。第2実施形態は、ABS制御中の「増し踏み」時においてモータ回転速度を減少させる「流量減少制御」を行う点においてのみ、ABS制御中の「増し踏み」時においてスリップ率基準値Sd,Siを大きくする「基準値増大制御」を行う上記第1実施形態と異なる。以下、係る相違点についてのみ説明する。
第2実施形態のCPU51は、第1実施形態のCPU51が実行する図3〜図5のルーチンのうち、図3のルーチンをそのまま実行するとともに、図4及び図5のルーチンに代えて図7及び図8にフローチャートにより示したルーチンを実行する。なお、図7及び図8のルーチン内のステップのうち前出のルーチンと同一の処理を行うステップについては、前出のルーチンのステップ番号と同一のステップ番号を付してあり、詳細な説明を省略する。以下、第2実施形態に特有の図7及び図8のルーチンについて説明する。
図7のルーチンは、モータ(特に、モータMTf)の回転速度Nを設定するためのルーチンであり、図4のステップ515、520をステップ805に置き換えた点、図4のステップ535、540をステップ810に置き換えた点、図4のステップ545、550をステップ815に置き換えた点、並びに、ステップ525、555を削除した点においてのみ、図4のルーチンと異なる。
フラグCHG**=0の場合に実行されるステップ805では、回転速度Nが前記基本回転速度Nbaseに設定される。このように、フラグCHG**=0の場合、回転速度Nは基本回転速度Nbaseに固定される。
フラグCHG**=1の場合に実行されるステップ810では、ステップ810内に記載のテーブルと、ステップ530にて求めた増し踏み相当加圧量ΔPとに基づいて、回転速度Nの減少量ΔN(≧0)を求め、続くステップ815では、回転速度Nが、基本回転速度Nbaseから前記減少量ΔNを減じた値に設定される。このように、フラグCHG**=1である場合、回転速度Nは、基本回転速度Nbaseに対して増し踏み相当加圧量ΔPに応じた分だけ小さい値に設定される。
図8のルーチンは、図5のルーチンに対応するルーチンであり、図5のステップ640、650、665をそれぞれ、ステップ905、910、915に置き換えた点においてのみ、図5のルーチンと異なる。
ステップ905(即ち、増圧制御開始判定)では、スリップ率S**と比較されるスリップ率基準値Si**が基本スリップ率基準値Sibaseに固定される。同様に、ステップ910(即ち、減圧制御開始判定)では、スリップ率S**と比較されるスリップ率基準値Sd**が基本スリップ率基準値Sdbaseに固定される。即ち、ABS制御中において「増し踏み」がなされた場合であっても、スリップ率基準値Sd,Siが基本スリップ率基準値Sdbase,Sibaseに固定される。
ステップ915では、モータMTfのみ(従って、液圧ポンプHPfのみ)が、図7のルーチンの繰り返し処理により逐次更新されている回転速度Nで駆動される。モータMTrは、第1実施形態と同様、基本回転速度Nbase(一定)で駆動される。
以上より、車輪**についてのABS制御開始時点にて、車体速度Vsoが所定値V0以下であり、旋回中でなく、且つ、車輪**が前輪である場合(フラグCHG**=1の場合)にのみ、ABS制御実行中(ABS**=1)においてモータMTfに対して「流量減少制御」が実行される。従って、後輪の系統(即ち、モータMTr)については「流量減少制御」は実行されない。
以下、ABS制御中において「流量減少制御」を行う第2実施形態の作用・効果について図9を参照しながら説明する。図9は、「流量減少制御」が実行され得る前輪の系統に対してABS制御が開始された場合における、図6に対応するタイムチャートである。が示されている。図9における時刻t1〜t8はそれぞれ、図6における時刻t1〜t8に対応している。
図9に示すように、ABS制御が開始される時刻t1〜t4までの間、マスタシリンダ圧PmがABS制御開始時点での値Pmemに維持されている。従って、時刻t1〜t4までの間、回転速度Nが基本回転速度Nbaseに固定される。即ち、時刻t1〜t2の減圧制御中は、モータMTfが基本回転速度Nbaseで駆動されるから、時刻t1〜t2において、リザーバRSf内のブレーキ液量Qは、上記第1実施形態と同様、「0」近傍に維持される。
時刻t4から「増し踏み」が開始され、マスタシリンダ圧Pmは、時刻t4〜t5の間、値Pmemから増大していき、時刻t5以降、マスタシリンダ圧Pmは、時刻t5の時点での値(Pmem+ΔP1)に維持されている。従って、回転速度Nは、時刻t4〜t5の間、基本回転速度Nbaseから減少していく。時刻t5以降、回転速度Nは、増し踏み相当加圧量ΔP=ΔP1に応じて決定される減少量ΔN1だけ基本回転速度Nbaseより小さい値(Nbase−ΔN1)になっている。
即ち、2回目の制御サイクルの減圧制御中である時刻t6〜t7において、モータMTfは、基本回転速度Nbaseよりも減少量ΔN1だけ小さい回転速度Nで駆動される。この結果、回転速度N=Nbaseの場合に比して液圧ポンプHPfの汲み上げ流量が減少し、液圧ポンプHPfの汲み上げ流量が減圧制御中においてリザーバRSfに流入するブレーキ液の流量よりも小さくなる。これにより、時刻t6〜t7において、リザーバRSf内のブレーキ液量Qは、「0」から増大していく。
減圧制御が終了する時刻t7以降における保持制御・増圧制御実行中では、リザーバRSf内にブレーキ液が流入しない。従って、時刻t7以降、リザーバRSf内のブレーキ液量Qは、回転速度N(=Nbase−ΔN1)に応じた勾配で減少していく。この結果、「増し踏み」がなされた後に開始される2回目の制御サイクルでは、「流量減少制御」がなされることで、「流量減少制御」がなされない場合に比して、微細なドットで示した領域に対応する分だけ、一制御サイクル当たりのリザーバ液量Qが増大する。
このことは、2回目の制御サイクル中(並びに、それ以降)において、リターン液が満たされている液圧回路内のブレーキ液量を平均的に増大させること、ひいては、背景技術の欄にて説明した「増圧弁下流の液圧回路」内の総ブレーキ液量(本例では、増圧弁PU**の下流の液圧回路内の総ブレーキ液量)を平均的に増大させることを意味する。
この結果、2回目の制御サイクル中(並びに、それ以降)において、「流量減少制御」がなされない場合に比して、ブレーキペダルBPのストロークが大きくなる。換言すれば、ABS制御中において「増し踏み」がなされた場合、ブレーキペダルBPのストロークを増大させることができる。
以上、説明したように、本発明の第2実施形態に係る車両のアンチスキッド制御装置によれば、モータMTfの回転速度Nは、原則的には、基本回転速度Nbase(一定)に設定される。一方、ABS制御中において「増し踏み」がなされた場合、モータMTfの回転速度Nは、「増し踏み」の程度(増し踏み相当加圧量ΔP)に応じた減少量ΔNだけ減少される(即ち、「流量減少制御」が実行される)。
この「流量減少制御」により、一制御サイクル当たりのリザーバRSf内のブレーキ液量Qを増大させることができる。この結果、「増圧弁下流の液圧回路」内の総ブレーキ液量が平均的に増大するから、ABS制御中においてブレーキペダルBPのストロークを大きくすることができる。この結果、上記第1実施形態と同様、「増し踏み」時においてブレーキフィーリングが官能的に低下する程度を抑制することができる。
本発明は上記第2実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第2実施形態においては、「流量減少制御」の実行条件(フラグCHG**=1の場合)は、車輪**についてのABS制御開始時点にて、車体速度Vsoが所定値V0以下であり、旋回中でなく、且つ、車輪**が前輪であること、であるが、この条件から、「旋回中でないこと」をはずしてもよい。
また、上記第2実施形態では、一制御サイクル当たりのリザーバRSf内のブレーキ液量Qを増大させるために、モータMTfの回転速度を減少させているが、減圧弁PDf*からリザーバRSfに流入するブレーキ液の流量を増大させてもよい。この場合、例えば、減圧制御中において、原則的に、減圧弁PD**を所定の周期で開閉させるように構成しておき、「増し踏み」がなされた場合、減圧制御中において減圧弁PD**を開状態に維持するように構成すればよい。
また、上記第1、第2実施形態では、マスタシリンダPmのABS制御開始時点での値からの増大量ΔPに応じて「基準値増大制御」、「流量減少制御」の程度(ΔP,ΔN)を決定しているが、ブレーキペダルBPの踏力FのABS制御開始時点での値からの増大量ΔFに応じて「基準値増大制御」、「流量減少制御」の程度(ΔP,ΔN)を決定してもよい。
加えて、ABS制御中において「増し踏み」がなされた場合、ブレーキペダルBPのストロークを大きくするために、「基準値増大制御」、「流量減少制御」を共に実行してもよい。
10…車両のアンチスキッド制御装置、30…ブレーキ液圧制御部、41**…車輪速度センサ、42…ブレーキスイッチ、44…マスタシリンダ圧センサ、50…電子制御装置、51…CPU、PU**…増圧弁、PD**…減圧弁、MTf,MTr…モータ、RSf,RSr…リザーバ