以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図12に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。また、特に説明がない限り、以下の記載における左右方向は、車両進行方向における左右方向と一致するものとする。
図1に示すように、本実施形態の車両の制動装置11は、複数(本実施形態では4つ)の車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)を有する車両に搭載されている。この車両の制動装置11は、マスタシリンダ12及びブースタ13を有する液圧発生装置14と、2つの液圧回路15,16を有する液圧制御装置17(図1では二点鎖線で示す。)と、液圧制御装置17を制御するための制動制御装置としての電子制御装置(以下、「ECU」という。)18とを備えている。各液圧回路15,16は、液圧発生装置14に接続されると共に、各車輪FR,FL,RR,RLに対応して設けられたホイールシリンダ19a,19b,19c,19dに接続されている。
液圧発生装置14には、ブレーキペダル20が設けられており、該ブレーキペダル20が車両の運転者によって操作(即ち、ブレーキ操作)された場合には、液圧発生装置14のマスタシリンダ12及びブースタ13が駆動するようになっている。そして、マスタシリンダ12からは、液圧回路15,16を介してホイールシリンダ19a〜19d内にブレーキ液がそれぞれ供給されるようになっている。
第1液圧回路15には、右前輪FRに対応するホイールシリンダ19aに接続される右前輪用経路15aと、左前輪FLに対応するホイールシリンダ19bに接続される左前輪用経路15bとが形成されている。同様に、第2液圧回路16には、右後輪RRに対応するホイールシリンダ19cに接続される右後輪用経路16aと、左後輪RLに対応するホイールシリンダ19dに接続される左後輪用経路16bとが形成されている。
また、各経路15a,15b,16a,16b上において、ホイールシリンダ19a〜19dよりもブレーキ液の流動方向における上流側には、常開型の第1開閉弁21,22,23,24(例えば電磁弁)がそれぞれ配設されており、該各第1開閉弁21〜24は、それぞれのソレノイドが通電状態である場合に閉じ状態になるように構成されている。また、各経路15a,15b,16a,16b上において、ホイールシリンダ19a〜19dよりもブレーキ液の流動方向における下流側には、常閉型の第2開閉弁25,26,27,28(例えば電磁弁)がそれぞれ配設されており、該各第2開閉弁25〜28は、それぞれのソレノイドが通電状態である場合に開き状態になるように構成されている。
そして、ブレーキペダル20が踏込み操作された場合において、第1開閉弁21〜24が開き状態であると共に第2開閉弁25〜28が閉じ状態であるときには、マスタシリンダ12からブレーキ液が経路15a,15b,16a,16bを介してホイールシリンダ19a〜19d内に流入する。その結果、ホイールシリンダ19a〜19d内のブレーキ液圧は上昇することになる。また、第1開閉弁21〜24が閉じ状態であると共に第2開閉弁25〜28が閉じ状態である場合には、経路15a,15b,16a,16bを介したブレーキ液の流動が規制され、ホイールシリンダ19a〜19d内のブレーキ液圧はその液圧レベルが保持されることになる。そして、第1開閉弁21〜24が閉じ状態であると共に第2開閉弁25〜28が開き状態である場合には、ホイールシリンダ19a〜19d内からブレーキ液が経路15a,15b,16a,16bを介してホイールシリンダ19a〜19dの下流側(後述するリザーバ29,30側)へと流出する。その結果、ホイールシリンダ19a〜19d内のブレーキ液圧は降下することになる。
また、各液圧回路15,16上には、各ホイールシリンダ19a〜19d側から流動してきたブレーキ液が一時貯留されるリザーバ29,30と、リザーバ29,30内に一時貯留されているブレーキ液を吸引して液圧回路15,16におけるマスタシリンダ12側に吐出するためのポンプ31,32とがそれぞれ配設されている。これら各ポンプ31,32は、液圧制御装置17に設けられたモータMの回転によってそれぞれ駆動するようになっている。
次に、本実施形態のECU18について以下説明する。
ECU18は、入力側インターフェース(図示略)と、出力側インターフェース(図示略)と、CPU40、ROM41、RAM42、及びタイマ43などを備えたデジタルコンピュータと、各装置を駆動させるための駆動回路(図示略)とを主体として構成されている。入力側インターフェース(図示略)には、ブレーキペダル20の操作状況に応じた信号を出力するブレーキスイッチSW1と、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE1,SE2,SE3,SE4とがそれぞれ電気的に接続されている。また、入力側インターフェースには、車両の車体加速度(即ち、車体減速度)を検出するための車体加速度センサSE5がそれぞれ電気的に接続されている。
ECU18の出力側インターフェース(図示略)には、各ポンプ31,32を駆動させるためのモータM及び各開閉弁21〜28が接続されている。そして、ECU18は、上記スイッチSW1及び各種センサSE1〜SE5からの入力信号に基づき、モータM及び各開閉弁21〜28の動作を個別に制御するようになっている。
また、ECU18のデジタルコンピュータにおいて、ROM41には、液圧制御装置17(モータM及び各開閉弁21〜28の駆動)を制御するための制御プログラム、各種のマップ(図2に示すマップ等)、及び各種閾値(後述する規定周期時間閾値、偏差補正時間、μ値変化判定時間閾値、緊急補正時間、終了経過時間閾値等)などが記憶されている。RAM42には、車両の駆動中に適宜書き換えられる各種の情報(各車輪の車輪速度、車両の推定車体速度、車両の車体減速度、基準吐出量、推定リザーバ貯留量、推定リザーバ貯留量偏差、偏差取得回数、偏差補正量臨時値、偏差補正量、緊急補正量、第1経過時間、第2経過時間、第3経過時間、終了経過時間、ABS制御フラグ、偏差補正制御フラグ、緊急補正制御フラグ、偏差補正演算フラグ等)が記憶されるようになっている。
次に、ROM41に記憶されるマップについて図2に基づき説明する。
図2に示すマップは、ポンプ31,32(即ち、モータM)の駆動態様を設定する際の基準となる基準吐出量Qreq_baseを車両の車体減速度DVrefの大きさに応じて設定するためのマップであって、車体減速度DVrefの大きさと基準吐出量Qreq_baseとの対応関係を示している。すなわち、基準吐出量Qreq_baseは、その値が車体減速度DVrefの大きさが大きくなるほど大きくなるように設定される。なお、車両の走行中における運転手のブレーキペダル20の踏込み量が一定である場合、車体減速度DVrefの大きさと車両が走行している路面のμ値(即ち、摩擦係数)とは対応関係にあって、車体減速度DVrefの大きさは、路面のμ値が高いほど大きくなる。したがって、本実施形態において、基準吐出量Qreq_baseは、その値が路面のμ値が高いほど大きくなるように設定される。
次に、本実施形態のECU18が実行する各種制御処理ルーチンのうち、アンチロックブレーキ制御(以下、「ABS制御」と示す。)を実行するためのABS実行処理ルーチンについて図3〜図9に示すフローチャート、及び図10〜図12に示すタイミングチャートに基づき以下説明する。ABS制御とは、車両走行中に運転手がブレーキ操作(即ち、急ブレーキ)した場合に、各開閉弁21〜28及びポンプ31,32を駆動させることにより、ホイールシリンダ19a〜19d内のブレーキ液圧の減圧、保持及び増圧というサイクル(以下、「液圧変動サイクル」という。)を繰り返す制御である。なお、以降の記載において、明細書の説明理解の便宜上、各車輪FR,FL,RR,RLに対するABS制御は、同じタイミングで実行が開始され、各第1開閉弁21〜24は、全て同一のタイミングで開閉駆動すると共に、各第2開閉弁25〜28は、全て同一のタイミングで開閉駆動するものとする。
さて、ECU18は、所定周期毎(例えば、0.01秒毎)にABS実行処理ルーチンを実行する。そして、このABS実行処理ルーチンにおいて、ECU18は、各車輪速度センサSE1〜SE4からの各入力信号に基づき、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度Viをそれぞれ演算し(ステップS10)、該各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度Viに基づき車両の推定車体速度Vrefを演算する(ステップS11)。続いて、ECU18は、車体加速度センサSE5からの入力信号に基づき、車両の車体減速度DVrefを演算する(ステップS12)。この点で、本実施形態では、ECU18が、車体減速度演算手段としても機能する。
そして、ECU18は、ABS制御フラグFLGabsが「0(零)」にセットされているか否かを判定する(ステップS13)。このABS制御フラグFLGabsは、ABS制御が実行中である場合には「1」にセットされる一方、ABS制御が非実行中である場合には「0(零)」にセットされるフラグである。ステップS13の判定結果が肯定判定(FLGabs=0)である場合、ECU18は、ABS制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS14)。そして、ECU18は、ステップS14の判定結果が肯定判定である場合には、その処理を後述するステップS16−1に移行する一方、ステップS14の判定結果が否定判定である場合には、その処理を後述するステップS16−3に移行する。なお、本実施形態において、ABS制御の開始条件は、ブレーキスイッチSW1が「オン」であること、車両の車体減速度DVrefの大きさが予め設定された減速度閾値以上であること、車輪FR,FL,RR,RLのスリップ率が予め設定されたスリップ率閾値以上であることである。これら3つの条件が全て成立した場合に、ABS制御の開始条件が成立したことになる。
一方、ステップS13の判定結果が否定判定(FLGabs=1)である場合、ECU18は、ABS制御の終了条件が成立したか否かを判定する(ステップS15)。この判定結果が肯定判定である場合(例えば、ブレーキスイッチSW1が「オフ」になった場合)、ECU18は、ABS制御が終了してからの経過時間である終了経過時間Tendを「0(零)」にリセットし(ステップS15−1)、その処理を後述するステップS16−3に移行する。一方、ステップS15の判定結果が肯定判定である場合、ECU18は、その処理を後述するステップS16−1に移行する。
ステップS16−1において、ECU18は、ABS制御フラグFLGabsを「1」にセットする。そして、ECU18は、各開閉弁21〜28の開閉駆動を制御してABS制御を実行し(ステップS16−2)、その処理を後述するステップS16−5に移行する。
また、ステップS16−3において、ECU18は、ABS制御フラグFLGabsを「0(零)」にセットする。そして、ECU18は、各開閉弁21〜28の開閉駆動を停止してABS制御を終了し(ステップS16−4)、その処理を後述するステップS16−5に移行する。
そして、ステップS16−5において、ECU18は、図4及び図5にて詳述するモータ回転制御処理を実行し、各ポンプ31,32の駆動源であるモータMの回転駆動を制御し、ABS実行処理ルーチンを一旦終了する。
次に、上記ステップS16−5のモータ回転制御処理(モータ回転制御処理ルーチン)について図4及び図5に示すフローチャートと、図10及び図11に示すタイミングチャートとに基づき以下説明する。
さて、モータ回転制御処理ルーチンにおいて、ECU18は、モータ回転フラグFLGdriveが「0(零)」にセットされているか否かを判定する(ステップS17−1)。このモータ回転フラグFLGdriveは、モータMの回転を制御中である場合には「1」にセットされる一方、モータMの回転を非制御中である場合には「0(零)」にセットされるフラグである。ステップS17−1の判定結果が肯定判定(FLGdrive=「0」)である場合、ECU18は、ABS制御の開始直後であるか否かを判定するために、ABS制御フラグFLGabsが「1」にセットされているか否かを判定する(ステップS17−2)。
この判定結果が否定判定(FLGabs=「0」)である場合、ECU18は、その処理を後述するステップS28に移行する。一方、ステップS17−2の判定結果が肯定判定(FLGabs=「1」)である場合、ECU18は、モータ回転フラグFLGdriveを「1」にセットし(ステップS17−3)、その処理を後述するステップS17に移行する。
一方、ステップS17−1の判定結果が否定判定(FLGdrive=「1」)である場合、ECU18は、ABS制御フラグFLGabsが「0(零)」にセットされているか否かを判定する(ステップS17−4)。この判定結果が否定判定(FLGabs=「1」)である場合、ECU18は、その処理を後述するステップS17に移行する。一方、ステップS17−4の判定結果が肯定判定(FLGabs=「0」)である場合、ECU18は、終了経過時間Tendを更新し(ステップS17−5)、該終了経過時間Tendが予め設定された終了経過時間閾値KTend以上であるか否かを判定する(ステップS17−6)。この終了経過時間閾値KTendは、ABS制御が終了してからもモータMの回転を継続させるための時間(例えば0.5秒)であって、実験やシミュレーションなどによって予め設定される。
ステップS17−6の判定結果が否定判定(Tend<KTend)である場合、ECU18は、その処理を後述するステップS17に移行する。一方、ステップS17−6の判定結果が肯定判定(Tend≧KTend)である場合、ECU18は、モータ回転フラグFLGdriveを「0(零)」にセットし、その処理を後述するステップS28に移行する。
ステップS17において、ECU18は、ABS制御中において今回の規定周期A(図10(a)参照)が開始されてからの第1経過時間T1を更新(即ち、ABS実行処理ルーチンが実行される周期である0.01秒を加算)する。この規定周期Aは、図10(a)のタイミングチャートに示すように、その長さ(規定周期時間閾値KT1)が予め設定されており、該規定周期時間閾値KT1は、1回の規定周期Aの間で、上記液圧変動サイクルが複数回実行されるような長さ(例えば0.5秒)に設定されている。続いて、ECU18は、図2に示すマップに基づき、ステップS12にて演算した車両の車体減速度DVrefの大きさに対応した基準吐出量Qreq_baseを設定する(ステップS18)。この点で、本実施形態では、ECU18が、基準吐出量設定手段としても機能する。
そして、ECU18は、リザーバ29,30内に一時貯留されているブレーキ液の推定リザーバ貯留量STを演算する(ステップS19)。ABS制御中において、リザーバ29,30内の推定リザーバ貯留量STの増加及び減少のサイクルは、上記液圧変動サイクルに対応している。すなわち、ABS制御中においてホイールシリンダ19a〜19d内のブレーキ液圧を減圧させる場合(即ち、減圧制御中)には第2開閉弁25〜28が開き状態になるため、リザーバ29,30内の推定リザーバ貯留量STは、徐々に増加する。一方、ホイールシリンダ19a〜19d内のブレーキ液圧を保持又は増圧させる場合(即ち、保持制御中又は増圧制御中)には第2開閉弁25〜28が閉じ状態になるため、リザーバ29,30内の推定リザーバ貯留量STは、ポンプ31,32の駆動に基づき徐々に減少する。そのため、ABS制御中に単位時間当りの吐出量が一定量となるようにポンプ31,32を駆動させた場合には、リザーバ29,30内の推定リザーバ貯留量STの単位時間当りの変化量を推定することが可能になる。そこで、ステップS19において、ECU18は、ABS制御中にポンプ31,32の単位時間当りの吐出量が一定量であると仮定した場合におけるリザーバ29,30内の推定リザーバ貯留量STを演算(推定)する。
続いて、ECU18は、図6に詳述する推定リザーバ貯留量偏差演算処理を実行することにより、図10(a)のタイミングチャートに示すように、リザーバ29,30内の推定リザーバ貯留量偏差STave(n)を演算する(ステップS20)。なお、偏差取得回数nは、「1」〜「255」までの任意の整数である。また、推定リザーバ貯留量偏差STave(n)は、ポンプ31,32によるブレーキ液の吐出量が一定量であると仮定した場合において、今回の規定周期Aの間における単位時間当りのリザーバ29,30内のブレーキ液の貯留量の貯留平均値である。この点で、本実施形態では、ECU18が、貯留平均値推定手段としても機能する。
そして、ECU18は、図7に詳述する推定リザーバ増加量演算処理を実行することにより、図11(a)のタイミングチャートに示すように、リザーバ29,30内の推定リザーバ増加量STskidを演算する(ステップS21)。この推定リザーバ増加量STskidは、リザーバ29,30内のブレーキ液が増加している間におけるリザーバ29,30内のブレーキ液の増加量である。
そして、ECU18は、図8に詳述する第1補正処理を実行し、ステップS20の推定リザーバ貯留量偏差演算処理にて演算された偏差補正量Qreq_Ave(図10(c)参照)に基づく目標吐出量Qreq(図10(c)参照)を演算する(ステップS22)。続いて、ECU18は、図9に詳述する第2補正処理を実行し、ステップS21の推定リザーバ増加量演算処理にて演算された緊急補正量Qreq_Skid(図11(c)参照)に基づく目標吐出量Qreq(図11(c)参照)を演算する(ステップS23)。
続いて、ECU18は、ステップS17にて更新した第1経過時間T1が規定周期時間閾値KT1以上であるか否かを判定する(ステップS24)。この判定結果が肯定判定(T1≧KT1)である場合、ECU18は、今回の規定周期Aが終了したものと判断し、第1経過時間T1を「0(零)」にリセットし(ステップS25)、その処理を後述するステップS26に移行する。一方、ステップS24の判定結果が否定判定(T1<KT1)である場合、ECU18は、その処理を後述するステップS26に移行する。
ステップS26において、ECU18は、上述したステップS22の第1補正処理又はステップS23の第2補正処理にて設定された目標吐出量Qreq(図10(c)及び図11(c)参照)のブレーキ液が吐出されるように、ポンプ31,32の駆動源であるモータMの回転パターンを決定(設定)する。そして、ECU18は、ステップS26にて決定した回転パターンに基づきモータMを回転させ(ステップS27)、ABS実行処理ルーチンを一旦終了する。したがって、本実施形態では、ECU18が、第1補正処理又は第2補正処理によって設定された目標吐出量Qreqのブレーキ液がポンプ31,32から吐出されるようにモータMを回転させることにより、ポンプ31,32を駆動させる偏差ポンプ駆動制御又は緊急ポンプ駆動制御を実行する制御手段としても機能する。
ここで、偏差ポンプ駆動制御について図10(a)(b)(c)のタイミングチャートに基づき説明する。
ABS制御中において、図10(b)に示すように、車両の車体減速度DVrefの大きさが一定である場合、図10(c)に示すように、該車体減速度DVrefの大きさに基づき設定される基準吐出量Qreq_baseは一定である。そして、ABS制御が開始されてから1回目の規定周期Aが終了すると、図10(a)に示すように、該1回目の規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差STave(1)が演算される。その後、2回目の規定周期Aが終了すると、該2回目の規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差STave(2)が演算される。
また、第1補正処理が実行されることにより、1回目の規定周期Aの推定リザーバ貯留量偏差STave(1)と2回目の規定周期Aの推定リザーバ貯留量偏差STave(2)とに基づき、偏差補正量Qreq_Aveが演算される。そして、このように演算された偏差補正量Qreq_Aveを基準吐出量Qreq_baseに加算することにより、目標吐出量Qreqが設定され、該目標吐出量Qreqのブレーキ液がポンプ31,32から吐出されるように偏差ポンプ駆動制御が実行される。
この偏差ポンプ駆動制御は、該制御が開始されてから予め設定された偏差補正時間KT2の間、実行される。この偏差補正時間KT2は、規定周期時間閾値KT1の2倍の長さ(例えば1秒)に設定されている。しかし、偏差ポンプ駆動制御が実行されている間に、3回目の規定周期Aが終了してしまう。この場合、3回目の規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差STave(3)が演算され、該演算結果に基づき新たに偏差補正量Qreq_Aveが演算されると共に目標吐出量Qreqが設定される。そして、新たに設定された目標吐出量Qreqに基づく偏差ポンプ駆動制御が開始される。
次に、緊急ポンプ駆動制御について図11(a)(b)(c)のタイミングチャートに基づき説明する。
ABS制御中において、図11(b)に示すように、車両の車体減速度DVrefの大きさが一定である場合、図11(c)に示すように、基準吐出量Qreq_baseは一定である。そして、ABS制御によって減圧制御が実行される毎に、リザーバ29,30内の推定リザーバ増加量STskidが演算される。このように演算した推定リザーバ増加量STskidから車両が走行している路面が高μ路から低μ路に変わったと判定(詳しくは後述する。)された場合には、第2補正処理が実行されることにより、推定リザーバ増加量STskidに基づく緊急補正量Qreq_Skidが演算される。
そして次に、緊急補正量Qreq_Skidを基準吐出量Qreq_baseに加算することにより目標吐出量Qreqが設定され、該目標吐出量Qreqのブレーキ液がポンプ31,32から吐出されるように緊急ポンプ駆動制御が実行される。なお、この緊急ポンプ駆動制御は、偏差補正時間KT2と同一時間に予め設定された緊急補正時間KT3(例えば1秒)の間、実行される。
その一方で、ステップS28において、ECU18は、第1経過時間T1、推定リザーバ貯留量ST、後述する偏差取得回数n、推定リザーバ貯留量偏差STave(n)(n=1,…,255)及び推定リザーバ増加量STskidをそれぞれ「0(零)」に設定する。また、ECU18は、後述する偏差補正量臨時値STave_temp、偏差補正量Qreq_Ave、緊急補正量Qreq_Skid、第2経過時間T2及び第3経過時間T3をそれぞれ「0(零)」に設定する。さらに、ECU18は、後述する偏差補正制御フラグFLGave、緊急補正制御フラグFLGskid及び偏差補正演算フラグFLGPaveをそれぞれ「0(零)」にセットする。
続いて、ECU18は、各ポンプ31,32の駆動源であるモータMの回転の制御を終了する(ステップS30)。その後、ECU18は、ABS実行処理ルーチンを一旦終了する。
次に、上記ステップS20の推定リザーバ貯留量偏差演算処理(推定リザーバ貯留量偏差演算処理ルーチン)について図6に示すフローチャート及び図10に示すタイミングチャートに基づき以下説明する。
さて、推定リザーバ貯留量偏差演算処理ルーチンにおいて、ECU18は、偏差補正演算フラグFLGPaveが「0(零)」であるか否かを判定する(ステップS40)。この偏差補正演算フラグFLGPaveは、推定リザーバ貯留量偏差STave(n)の演算結果をリセットさせる場合には「1」にセットされる一方、演算結果をリセットさせない場合には「0(零)」にセットされるフラグである。ステップS40の判定結果が肯定判定(FLGPave=0)である場合、ECU18は、偏差補正量臨時値STave_tempを下記に示す関係式(式1)の演算結果に基づき更新する(ステップS41)。
STave_temp←STave_temp+(ST×t/KT1)…(式1)
ただし、ST…現在の推定リザーバ貯留量、t…ABS実行処理ルーチンの実行周期(0.01秒)、KT1…規定周期時間閾値(0.5秒)
すなわち、ECU18は、ステップS41にて平坦化フィルタの準備をし、その準備段階で取得した値を偏差補正量臨時値STave_tempに代入する。続いて、ECU18は、上記ステップS17にて更新された第1経過時間T1が規定周期時間閾値KT1以上であるか否かを判定する(ステップS42)。この判定結果が否定判定(T1<KT1)である場合、ECU18は、推定リザーバ貯留量偏差演算処理ルーチンを終了する。
一方、ステップS42の判定結果が肯定判定(T1≧KT1)である場合、ECU18は、偏差取得回数nを「1」だけインクリメントする(ステップS43)。そして、ECU18は、ステップS41にて更新された最新の偏差補正量臨時値STave_tempを推定リザーバ貯留量偏差STave(n)に代入する(ステップS44)。その後、ECU18は、偏差補正量臨時値STave_tempを「0(零)」にリセットし(ステップS45)、推定リザーバ貯留量偏差演算処理ルーチンを終了する。
すなわち、推定リザーバ貯留量偏差演算処理ルーチンでは、図10(a)のタイミングチャートに示すように、規定周期Aが終了する毎に、終了した今回の規定周期Aの間における単位時間当りのリザーバ29,30内の貯留量の貯留平均値が推定リザーバ貯留量偏差STave(n)として演算される。例えば、ABS制御が開始されて最初(1回目)の規定周期Aが終了した場合には、偏差取得回数nが「1」であるため、その最初の規定周期での推定リザーバ貯留量偏差STave(1)が演算される。そして、次回(2回目)の規定周期Aが終了した場合には、偏差取得回数nが「2」であるため、その2回目の規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差STave(2)が演算される。したがって、この点で、本実施形態では、ECU18が、貯留平均値演算手段としても機能する。
一方、ステップS40の判定結果が否定判定(FLGave=1)である場合、ECU18は、第1経過時間T1、偏差取得回数n、推定リザーバ貯留量偏差STave(n)(n=1,…,255)及び偏差補正量臨時値STave_tempをそれぞれ「0(零)」に設定する(ステップS46)。続いて、ECU18は、偏差補正演算フラグFLGPaveを「0(零)」にセットし(ステップS47)、推定リザーバ貯留量偏差演算処理ルーチンを終了する。
次に、上記ステップS21の推定リザーバ増加量演算処理(推定リザーバ増加量演算処理ルーチン)について図7に示すフローチャート及び図11に示すタイミングチャートに基づき以下説明する。
さて、推定リザーバ増加量演算処理ルーチンにおいて、ECU18は、第2開閉弁25〜28が開き状態であるか否かを判定することにより、ホイールシリンダ19a〜19d内の減圧制御中であるか否かを判定する(ステップS50)。この判定結果が肯定判定である場合、ECU18は、前回の推定リザーバ増加量演算処理ルーチンの実行時に減圧制御中でなかったか否かを判定する(ステップS51)。この判定結果が否定判定である場合、ECU18は、推定リザーバ増加量STskidを「0(零)」に設定し(ステップS52)、推定リザーバ増加量演算処理ルーチンを終了する。一方、ステップS51の判定結果が肯定判定である場合、ECU18は、減圧制御の開始直後であると判断し、上記ステップS19にて演算した現在の推定リザーバ貯留量STを減圧開始時リザーバ貯留量STskid_Startに代入し(ステップS53)、推定リザーバ増加量演算処理ルーチンを終了する。
一方、ステップS50の判定結果が否定判定である場合、ECU18は、前回の推定リザーバ増加量演算処理ルーチンの実行時に減圧制御中であったか否かを判定する(ステップS54)。この判定結果が肯定判定である場合、ECU18は、減圧制御の終了直後であると判断する。そして、ECU18は、図11(a)のタイミングチャートに示すように、リザーバ29,30内の推定リザーバ貯留量STの増加が開始されてから終了するまでのリザーバ29,30内のブレーキ液の推定リザーバ増加量STskidを下記の関係式(式2)を用いて演算し(ステップS55)、推定リザーバ増加量演算処理ルーチンを終了する。
STskid=ST−STskid_Start…(式2)
ただし、ST…減圧制御終了直後の推定リザーバ貯留量、STskid_Start…減圧開始時推定リザーバ貯留量
一方、ステップS54の判定結果が否定判定である場合、ECU18は、推定リザーバ増加量STskidを「0(零)」に設定し(ステップS56)、推定リザーバ増加量演算処理ルーチンを終了する。
次に、上記ステップS22の第1補正処理(第1補正処理ルーチン)について図8に示すフローチャート及び図10に示すタイミングチャートに基づき以下説明する。
さて、第1補正処理ルーチンにおいて、ECU18は、上記ステップS17にて更新した第1経過時間T1が規定周期時間閾値KT1以上であるか否かを判定する(ステップS60)。この判定結果が否定判定(T1<KT1)である場合、ECU18は、その処理を後述するステップS69に移行する。一方、ステップS60の判定結果が肯定判定(T1≧KT1)である場合、ECU18は、偏差取得回数nが「2」以上であるか否かを判定する(ステップS61)。この判定結果が否定判定(n<2)である場合、ECU18は、基準吐出量Qreq_baseを目標吐出量Qreqに代入し(ステップS62)、第1補正処理ルーチンを終了する。
一方、ステップS61の判定結果が肯定判定(n≧2)である場合、ECU18は、偏差補正制御フラグFLGaveが「1」にセットされているか否かを判定する(ステップS63)。この偏差補正制御フラグFLGaveは、偏差ポンプ駆動制御が実行中である場合には「1」にセットされる一方、偏差ポンプ駆動制御が実行されていない場合には「0(零)」にセットされるフラグである。ステップS63の判定結果が否定判定(FLGave=0)である場合、ECU18は、現在では偏差補正量Qreq_Aveが「0(零)」であるため、未補正量Qreq_Ave1を「0(零)」に設定する(ステップS64)。その後、ECU18は、その処理を後述するステップS66に移行する。
一方、ステップS63の判定結果が肯定判定(FLGave=1)である場合、ECU18は、未補正量Qreq_Ave1を演算する(ステップS65)。すなわち、図10(c)のタイミングチャートに示すように、今回(例えば3回目)の規定周期Aが終了した時点では、前回(例えば2回目)の規定周期Aが終了した時点で設定された偏差補正量Qreq_Aveに基づく偏差ポンプ駆動制御が継続されている。そのため、新たに偏差補正量Qreq_Aveを設定する場合は、前回の規定周期Aの終了時に設定された偏差補正量Qreq_Aveも考慮に入れる必要がある。そこで、ステップS65では、前回に設定された偏差補正量Qreq_Aveに基づく未補正量Qreq_Ave1が下記に示す関係式(式3)に基づき演算される。
Qreq_Ave1=Qreq_Ave×(KT2−T2)/KT2…(式3)
ただし、Qreq_Ave…前回に設定された偏差補正量、KT2…偏差ポンプ駆動制御の偏差補正時間、T2…偏差ポンプ駆動制御が開始されてからの第2経過時間
そして、ステップS66において、ECU18は、今回の規定周期Aの終了に起因して新たな偏差補正量Qreq_Aveを下記に示す関係式(式4)に基づき演算する。
Qreq_Ave=Qreq_Ave1+(STave(n)−STave(n−1))/KT2…(式4)
ただし、Qreq_Ave1…未補正量、STave(n)…今回の規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差、STave(n−1)…前回の規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差
本実施形態では、今回の規定周期Aの終了時に演算された推定リザーバ貯留量偏差STave(n)と前回の規定周期Aの終了時に演算された推定リザーバ貯留量偏差STave(n−1)との偏差を演算し、該偏差が大きいほど値が大きくなるように偏差補正量Qreq_Aveが設定される。したがって、本実施形態では、ECU18が、偏差補正量設定手段としても機能する。
続いて、ECU18は、新たに偏差ポンプ駆動制御を開始させるべく偏差補正量Qreq_Aveが設定されたため、第2経過時間T2を「0(零)」にリセットする(ステップS67)。そして、ECU18は、偏差補正制御フラグFLGaveを「1」にセットし(ステップS68)、その処理を後述するステップS69に移行する。
ステップS69において、ECU18は、偏差補正制御フラグFLGaveが「1」にセットされているか否かを判定する。この判定結果が否定判定(FLGave=0)である場合、ECU18は、第2経過時間T2を「0(零)」にリセットし(ステップS70)、第1補正処理ルーチンを終了する。一方、ステップS69の判定結果が肯定判定(FLGave=1)である場合、ECU18は、目標吐出量Qreqを下記に示す関係式(式5)に基づき演算する(ステップS71)。
Qreq=Qreq_base+Qreq_Ave…(式5)
ただし、Qreq_base…基準吐出量、Qreq_Ave…偏差補正量
続いて、ECU18は、第2経過時間T2を更新し(ステップS72)、該第2経過時間T2が偏差補正時間KT2以上であるか否かを判定する(ステップS73)。この判定結果が否定判定(T2<KT2)である場合、ECU18は、第1補正処理ルーチンを終了する。一方、ステップS72の判定結果が肯定判定(T2≧KT2)である場合、ECU18は、偏差ポンプ駆動制御を終了させるために偏差補正制御フラグFLGaveを「0(零)」にセットし(ステップS74)、第1補正処理ルーチンを終了する。
次に、上記ステップS23の第2補正処理(第2補正処理ルーチン)について図9に示すフローチャート及び図11に示すタイミングチャートに基づき以下説明する。
さて、第2補正処理ルーチンにおいて、ECU18は、上記ステップS21(詳しくはステップS55)にて演算した推定リザーバ増加量STskidが予め設定されたμ値変化判定閾値KSTskid以上であるか否かを判定する(ステップS80)。なお、ABS制御中において車両が走行していた路面が高μ路から低μ路に変わった場合には、1回の液圧変動サイクルにおいてホイールシリンダ19a〜19dからリザーバ29,30内に流入するブレーキ液量が一気に増加するため、推定リザーバ増加量STskidから路面のμ値が低くなったか否かの判定がなされる。
ステップS80の判定結果が否定判定(STskid<KSTskid)である場合、ECU18は、その処理を後述するステップS88に移行する。一方、ステップS80の判定結果が肯定判定(STskid≧KSTskid)である場合、ECU18は、緊急補正制御フラグFLGskidが「1」にセットされているか否かを判定する(ステップS81)。この緊急補正制御フラグFLGskidは、緊急ポンプ駆動制御が実行中である場合には「1」にセットされる一方、緊急ポンプ駆動制御が実行されていない場合には「0(零)」にセットされるフラグである。ステップS81の判定結果が否定判定(FLGskid=0)である場合、ECU18は、緊急ポンプ駆動制御が実行されておらず緊急補正量Qreq_Skidが「0(零)」であることから未補正量Qreq_Skid1を「0(零)」に設定する(ステップS82)。その後、ECU18は、その処理を後述するステップS84に移行する。
一方、ステップS81の判定結果が肯定判定(FLGskid=1)である場合、ECU18は、未補正量Qreq_Skid1を演算する(ステップS83)。すなわち、このステップS83の処理が実行される場合は、偏差ポンプ駆動制御が実行中であるため、新たに緊急補正量Qreq_Skidを設定する場合は、既に設定された緊急補正量Qreq_Skidも考慮に入れる必要がある。そこで、ステップS83では、既に設定された緊急補正量Qreq_Skidに基づく未補正量Qreq_Skid1が下記に示す関係式(式6)に基づき演算される。
Qreq_Skid1=Qreq_Skid×(KT3−T3)/KT3…(式6)
ただし、Qreq_Skid…前回に設定された緊急補正量、KT3…緊急ポンプ駆動制御の緊急補正時間、T3…緊急ポンプ駆動制御が開始されてからの第3経過時間
そして、ステップS84において、ECU18は、新たな緊急補正量Qreq_Skidを下記に示す関係式(式7)に基づき演算する。
Qreq_Skid=Qreq_Skid1+STskid/KT3…(式7)
ただし、Qreq_Skid1…未補正量、STskid…推定リザーバ増加量、KT3…緊急ポンプ駆動制御の緊急補正時間
本実施形態では、図11(c)のタイミングチャートに示すように、推定リザーバ増加量STskidが大きいほど値が大きくなるように緊急補正量Qreq_Skidが設定される。したがって、この点で、本実施形態では、ECU18が、緊急補正量設定手段としても機能する。
続いて、ECU18は、新たに緊急ポンプ駆動制御を開始させるべく緊急補正量Qreq_Skidが設定されたため、第3経過時間T3を「0(零)」にリセットし(ステップS85)、緊急補正制御フラグFLGskidを「1」にセットする(ステップS86)。そして、ECU18は、推定リザーバ貯留量偏差STave(n)の演算結果をリセットさせるために偏差補正演算フラグFLGPaveを「1」にセットし(ステップS87)、その処理を後述するステップS88に移行する。
ステップS88において、ECU18は、緊急補正制御フラグFLGskidが「1」にセットされているか否かを判定する。この判定結果が否定判定(FLGskid=0)である場合、ECU18は、第3経過時間T3を「0(零)」にリセットし(ステップS89)、第2補正処理ルーチンを終了する。一方、ステップS88の判定結果が肯定判定(FLGskid=1)である場合、ECU18は、目標吐出量Qreqを下記に示す関係式(式8)に基づき演算して設定する(ステップS90)。
Qreq←Qreq+Qreq_Skid…(式8)
ただし、Qreq_Skid…緊急補正量
本実施形態では、偏差ポンプ駆動制御の実行中に緊急ポンプ駆動制御の開始条件が成立した場合、目標吐出量Qreqは、第1補正処理ルーチンの実行にて設定された目標吐出量Qreqに緊急補正量Qreq_Skidを加算することにより設定される。続いて、ECU18は、第3経過時間T3を更新し(ステップS91)、該第3経過時間T3が緊急補正時間KT3以上であるか否かを判定する(ステップS92)。この判定結果が否定判定(T3<KT3)である場合、ECU18は、第2補正処理ルーチンを終了する。一方、ステップS92の判定結果が肯定判定(T3≧KT3)である場合、ECU18は、緊急補正制御フラグFLGskidを「0(零)」にセットし(ステップS93)、第2補正処理ルーチンを終了する。
次に、本実施形態のECU18がABS制御を実行する際の作用についてポンプ31,32の駆動態様の変化を中心に図12(a)(b)(c)(d)に基づき以下説明する。なお、ABS制御中において車両の走行する路面が高μ路から低μ路に変わるものとする。
さて、車両の走行中に運転手によるブレーキペダル20の踏込み操作によってABS制御開始条件が成立すると、ABS制御が開始される。すると、上述した液圧変動サイクルが繰り返されることにより、図12(a)に示すように、リザーバ29,30のブレーキ液の推定リザーバ貯留量STは、その液圧変動サイクルに対応して増加と減少を繰り返す。そして、ABS制御が開始されてから最初の規定周期Aが終了すると、該最初の規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差STave(1)が演算される。
その後、2回目の規定周期Aが終了すると、該2回目の規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差STave(2)が演算される。さらに、この推定リザーバ貯留量偏差STave(2)と前回(最初)の規定周期Aの推定リザーバ貯留量偏差STave(1)との偏差に基づき偏差補正量Qreq_Aveが設定される。そして、この偏差補正量Qreq_Aveをその時点の車両の車体減速度DVrefの大きさに基づき設定された基準吐出量Qreq_baseに加算することにより、目標吐出量Qreqが設定される。そのため、3回目の規定周期Aの実行中では、2回目の規定周期Aの終了時に設定された偏差補正量Qreq_Aveが加味された目標吐出量Qreqのブレーキ液をポンプ31,32が吐出するように、偏差ポンプ駆動制御が実行される。
また、3回目の規定周期Aの実行中に車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わった場合、図12(b)に示すように、車両の車体減速度DVrefの大きさは、一気に小さくなる。その結果、図12(c)に示すように、車体減速度DVrefの大きさに基づき設定される基準吐出量Qreq_baseが少なくなると共に、目標吐出量Qreqも、その値が小さくなる。
また、車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わった直後の液圧変動サイクルでは、図12(a)に示すように、ホイールシリンダ19a〜19dからのブレーキ液の流出量が多くなる結果、リザーバ29,30内の推定リザーバ貯留量STが一気に増加する。そして、1回の液圧変動サイクルの減圧制御中における推定リザーバ増加量STskidがμ値変化判定閾値KSTskid以上であると、推定リザーバ増加量STskidに基づき緊急補正量Qreq_Skidが設定される。また、この緊急補正量Qreq_Skidを第1補正処理ルーチンの実行によって設定された目標吐出量Qreqに加算することにより、目標吐出量Qreqが更新される。そのため、車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わると、緊急補正量Qreq_Skidが加味された目標吐出量Qreqのブレーキ液をポンプ31,32が吐出するように、緊急ポンプ駆動制御が実行される。
なお、本実施形態では、車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わった直後に設定される目標吐出量Qreqは、基準吐出量Qreq_baseに偏差補正量Qreq_Aveと緊急補正量Qreq_Skidとを加算した値になる。そして、このような目標吐出量Qreqのブレーキ液をポンプ31,32が吐出するように、偏差ポンプ駆動制御と緊急ポンプ駆動制御とが重ね合わされた状態で実行される。
このように緊急ポンプ駆動制御が開始されてから最初の規定周期Aが終了すると、偏差ポンプ駆動制御が終了し、緊急ポンプ駆動制御のみが実行されることになる。そのため、目標吐出量Qreqは、基準吐出量Qreq_baseに緊急補正量Qreq_Skidを加算した値に設定される。また、緊急ポンプ駆動制御が開始されてから最初の規定周期Aが終了すると、該規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差STave(1)が演算される。その後、緊急ポンプ駆動制御が開始されてから2回目の規定周期Aが終了すると、該規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差STave(2)が演算される。そして、この推定リザーバ貯留量偏差STave(2)と前回の推定リザーバ貯留量偏差STave(1)との偏差に基づき偏差補正量Qreq_Aveが設定され、該偏差補正量Qreq_Aveをその時点の車両の車体減速度DVrefの大きさに基づき設定された基準吐出量Qreq_baseに加算することにより、目標吐出量Qreqが設定される。この場合、推定リザーバ貯留量偏差STave(2)が推定リザーバ貯留量偏差STave(1)よりも小さいため、偏差補正量Qreq_Aveは、その値が負の値になる結果、目標吐出量Qreqは、基準吐出量Qreq_baseよりも少なくなる。
また、緊急ポンプ駆動制御が開始されてから2回目の規定周期Aが終了した時点は、緊急ポンプ駆動制御が開始されてから緊急補正時間KT3が経過した時点でもあるため、緊急ポンプ駆動制御が終了する。そして、このように緊急ポンプ駆動制御が終了して時点で設定された目標吐出量Qreqに基づく偏差ポンプ駆動制御が開始される。
本実施形態では、ABS制御中において車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わっていない場合には、偏差ポンプ駆動制御が実行され、該偏差ポンプ駆動制御中の目標吐出量Qreqは、偏差補正量Qreq_Aveにて補正された値に設定されている。そのため、図12(d)に示すように、実際のリザーバ29,30内におけるブレーキ液の貯留量(以下、「実貯留量」という。)STrは、ポンプ駆動制御を実行しない従来の場合(即ち、推定リザーバ貯留量ST)に比して少なくなる。
また、車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わった場合には、推定リザーバ増加量STskidに基づき設定された緊急補正量Qreq_Skidにて補正された目標吐出量Qreqがポンプ31,32から吐出されるように緊急ポンプ駆動制御が実行される。そのため、本実施形態では、車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わってリザーバ29,30内のブレーキ液の貯留量STrが一気に増加しても、該貯留量STrを緊急ポンプ駆動制御の実行によって速やかに減少させることが可能になる。
そして、リザーバ29,30内のブレーキ液の実貯留量STrが少なくなると、緊急ポンプ補正制御が終了するため、目標吐出量Qreqが少なくなり、該目標吐出量Qreqのブレーキ液をポンプ31,32が吐出するように、偏差ポンプ駆動制御が実行される。そのため、リザーバ29,30内のブレーキ液の実貯留量STrが少なくなった場合には、ポンプ31,32からの駆動音が小さくなる。
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ABS制御中において規定周期Aが終了した場合には、今回の規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差STave(n)と前回の規定周期Aでの推定リザーバ貯留量偏差STave(n−1)との偏差が演算され、該偏差に基づき偏差補正量Qreq_Aveが設定される。そして、この偏差補正量Qreq_Aveと車両の走行している路面のμ値に応じて設定された基準吐出量Qreq_baseとを加算することにより設定された目標吐出量Qreqのブレーキ液がポンプ31,32から吐出されるように、偏差ポンプ駆動制御が実行される。すなわち、本実施形態では、1回の液圧変動サイクルが終了する毎にポンプ31,32の駆動態様が不定期に変更される従来の場合とは異なり、規定周期A毎にポンプ31,32の駆動態様が定期的(規定周期時間閾値KT1毎)に変更される。そのため、ポンプ31,32の駆動態様の不定期な変更に起因した駆動音の大きさの変動によって車両の搭乗者に不快感を与えることを抑制できる。また、偏差補正量Qreq_Aveは、リザーバ29,30内の推定リザーバ貯留量STが多いほど大きな値に設定されている。そのため、偏差ポンプ駆動制御が実行されることにより、ポンプ31,32の駆動パターンを、ホイールシリンダ19a〜19dからリザーバ29,30内に流入するブレーキ液の流入量に応じた駆動パターンに設定することができる。
(2)偏差補正時間KT2は、規定周期時間閾値KT1よりも長い時間に設定されているため、規定周期A毎に変更される偏差補正量Qreq_Aveの変化量は、偏差補正時間KT2が規定周期時間閾値KT1以下に設定された場合に比して小さくなる。そのため、ポンプ31,32の駆動態様の変更に起因した該ポンプ31,32の駆動音の大きさの変動が小さくなり、車両の搭乗者に与える不快感を軽減できる。
(3)偏差補正量Qreq_Aveは、偏差補正時間KT2が規定周期時間閾値KT1の6倍以上に設定された場合に比して大きな値に設定される。そのため、規定周期A毎に変更される偏差補正量Qreq_Aveの変化量は、偏差補正時間KT2が規定周期Aの長さ(規定周期時間閾値KT1)よりも長時間に設定された場合に比して大きくなる結果、偏差補正量Qreq_Ave及び目標吐出量Qreqがリザーバ29,30内の推定リザーバ貯留量偏差STaveに応じた大きさに設定される。したがって、偏差ポンプ駆動制御の実行により、リザーバ29,30内のブレーキ液の実貯留量STrの増加を抑制できる。
(4)車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わったと判定した場合には、基準吐出量Qreq_baseに緊急補正量Qreq_Skidを加算することにより設定された目標吐出量Qreqのブレーキ液をポンプ31,32に吐出させるために、緊急ポンプ駆動制御が実行される。そのため、車両の走行している路面のμ値が小さくなってリザーバ29,30内に流入するブレーキ液の流入量が一気に増加しても緊急ポンプ駆動制御が実行されるため、リザーバ29,30内のブレーキ液の実貯留量STrを減少させることができる。一方、車両の走行している路面のμ値が小さくなっていない場合には、緊急ポンプ駆動制御が実行されないため、緊急ポンプ駆動制御の実行によりポンプ31,32の駆動態様が変更されることはない。したがって、ポンプ31,32の駆動態様の変更に起因した駆動音の大きさの変動によって車両の搭乗者に不快感を与えることを抑制できると共に、ポンプ31,32の駆動パターンをホイールシリンダ19a〜19dからリザーバ29,30内に流入するブレーキ液の流入量に応じた駆動パターンに設定できる。
(5)緊急補正量Qreq_Skidは、路面のμ値の変化量が多いほど多くなるように設定される。そのため、ポンプ31,32の駆動態様を、緊急ポンプ駆動制御の実行により、リザーバ29,30内に流入するブレーキ液の増加量に対応した駆動パターンに設定できる。
(6)本実施形態では、車両が走行している路面のμ値と対応関係にあるリザーバ29,30内におけるブレーキ液の推定リザーバ増加量STskidに基づき、路面のμ値が小さくなったか否かが判定される。そのため、路面のμ値の変化を確実に検出できる。
(7)緊急補正量Qreq_Skidは、リザーバ29,30内の推定リザーバ増加量STskidを緊急補正時間KT3で除算することにより設定される。そのため、緊急補正量Qreq_Skidを、リザーバ29,30内の推定リザーバ増加量STskidに応じた値に設定できる。
(8)車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わって目標吐出量Qreqの値を速やかに大きくしたい場合には、偏差ポンプ駆動制御が実行される。一方、車両の走行している路面のμ値の変化が小さく目標吐出量Qreqの急激な変化を抑制したい場合には、偏差ポンプ駆動制御が実行される。したがって、車両の走行している路面のμ値の変化に応じて、適切なポンプ駆動制御を選択できる。
(9)基準吐出量Qreq_baseは、車両が走行している路面のμ値の変化と対応関係にある車体減速度DVrefに基づき設定される。そのため、基準吐出量Qreq_baseに基づき設定される目標吐出量Qreqを路面のμ値に適切に対応した値に設定できる。
(10)本実施形態では、偏差ポンプ駆動制御の実行中に車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わった場合、実行中の偏差ポンプ駆動制御が終了するまでの間は、該偏差ポンプ駆動制御と緊急ポンプ駆動制御とが重ね合わされる。すなわち、車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わった直後では、目標吐出量Qreqは、基準吐出量Qreq_baseに偏差補正量Qreq_Aveと緊急補正量Qreq_Skidとを加算した値になるため、リザーバ29,30内のブレーキ液の実貯留量STrの減少に貢献できる。
(11)緊急補正時間KT3は、「0.5」秒から「3秒」の範囲内であれば任意の長さ(例えば1秒)に設定されてもよい。ここで、緊急補正時間KT3が「0.5」秒未満の長さ(例えば0.2秒)に設定されている場合には、上記実施形態の場合に比して目標吐出量Qreqの値が大きくなってしまうため、緊急ポンプ駆動制御開始に起因してポンプ31,32からの駆動音が大きくなってしまうおそれがある。また、緊急補正時間KT3が「3」秒よりも長時間(例えば4秒)に設定されている場合には、上記実施形態の場合に比して目標吐出量Qreqの値が小さくなってしまうため、緊急ポンプ駆動制御が実行されてもリザーバ29,30内のブレーキ液の実貯留量STrの減少速度が本実施形態の場合に比して遅くなってしまう。この点、本実施形態では、緊急補正時間KT3が「0.5」秒から「3秒」の範囲内で設定されているため、緊急ポンプ駆動制御の実行によってリザーバ29,30内のブレーキ液の実貯留量STrを速やかに減少させることができる。また、緊急ポンプ駆動制御の実行によってポンプ31,32から発生する駆動音が大きくなってしまうことを抑制できる。
(12)また、ABS制御が終了してから終了経過時間閾値KTendが経過するまでの間は、第1補正処理や第2補正処理にて設定された目標吐出量Qreqのブレーキ液がリザーバ29,30から排出されるようにポンプ31,32が駆動する。そのため、今回のABS制御によってリザーバ29,30内に一時貯留されたブレーキ液をリザーバ29,30外に確実に排出でき、次回のABS制御に備えることができる。
なお、実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、偏差ポンプ駆動制御中に車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わった場合には、実行中の偏差ポンプ駆動制御を終了して緊急ポンプ駆動制御を実行するようにしてもよい。具体的には、第2補正処理ルーチンのステップS90では、基準吐出量Qreq_baseに緊急補正量Qreq_Skidを加算することにより目標吐出量Qreqを設定するようにしてもよい。
・実施形態において、車両の車体減速度DVrefの大きさの変化率が予め設定された変化率閾値以上であった場合に、車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わったと判定するようにしてもよい。
・実施形態において、緊急補正時間KT3は、「0.5」秒から「3秒」の範囲内であれば任意の長さ(例えば2秒)に設定されてもよい。
・実施形態において、車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わった場合、目標吐出量Qreqを、基準吐出量Qreq_baseに予め設定された緊急補正量Qreq_Skidを加算するようにしてもよい。この場合、緊急補正量Qreq_Skidを、ABS実行処理ルーチンの実行によって演算される偏差補正量Qreq_Aveよりも必ず多くなるように設定することが望ましい。
・実施形態において、緊急補正量Qreq_Skidは、上記関係式(式7)の演算結果に予め設定された係数(例えば1.2)を乗算することによって設定されたものであってもよい。
・実施形態において、偏差補正時間KT2は、規定周期時間閾値KT1(0.5秒)から該規定周期時間閾値KT1の6倍の長さ(3秒)の範囲内であれば任意の長さ(例えば1.5秒)に設定されてもよい。
・実施形態において、偏差ポンプ駆動制御時における目標吐出量Qreqは、設定された偏差補正量Qreq_Aveが負の値である場合には、該偏差補正量Qreq_Aveにて基準吐出量Qreq_baseを補正しなくてもよい。
・実施形態において、偏差補正量Qreq_Aveは、上記関係式(式7)の演算結果に予め設定された係数(例えば1.1)を乗算することによって設定されたものであってもよい。
・実施形態において、ABS制御中において、偏差ポンプ駆動制御が実行されなくてもよい。このように構成してもABS制御中に車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わった場合には、緊急ポンプ駆動制御が実行されるため、リザーバ29,30内のブレーキ液の実貯留量STrの減少に貢献できる。また、車両の走行している路面が高μ路から低μ路に変わっていない場合には、ポンプ31,32の駆動態様が変更されないため、ポンプ31,32の駆動態様の変更に基づくポンプ31,32からの駆動音の大きさの変動を抑制できる。
・実施形態において、ABS制御中において、緊急ポンプ駆動制御が実行されなくてもよい。このように構成してもABS制御中に偏差ポンプ駆動制御が実行されるため、リザーバ29,30内のブレーキ液の実貯留量STrの減少に貢献できる。また、緊急ポンプ駆動制御が実行される場合とは異なり、ポンプ31,32の駆動態様が大きく変更され、ポンプ31,32からの駆動音の大きさが急激に大きくなることを抑制できる。