JP2004338582A - 車両用制動システム - Google Patents

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Abstract

【課題】適切な制御が行われることで制動フィーリングが良好な車両用制動システムを得る。特に、ブレーキの効き増し感が良好な車両用制動システムを得ることを課題とする。
【解決手段】制動装置を制御するための目標制御値Gを制動要求量に基づいて決定する際、車速Vが低い場合に、車速Vが高い場合に比べて目標制御値Gを高い値に決定する。例えば、基準目標制御値G を決定し、その値に車速Vに応じた補正を施して目標制御値Gを決定する。また、制動開始車速が高い場合ほど、目標制御値Gを低めの値に決定してもよい。さらには、制動開始車速に拘わらず同じ制動要求に対して同じ値となるように、目標制御値Gを決定することもできる。
【選択図】 図10

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は車両用制動システムに関し、詳しくは、電子制御式制動システムにおける制動装置の制御の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、電子制御式の車両用制動システムでは、主に操作部材の操作力とは別の駆動力によって制動装置が駆動されるため、任意の制御値に基づいて、発生する制動力を制御することも可能である。したがって、制動要求量に応じたそのままの制動力を発生させるように制御することも、また、制動要求量以外のものにも依存する状態で制御することも行い得る。制動フィーリングの向上を始めとして各種の目的で、制動要求量には基づくものの、何らかの特性をもたせた制動力制御を行うことが検討されており、それに関して、例えば、下記特許文献に記載されたような技術が存在する。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−233733号公報
【特許文献2】
特開平7−81535号公報
【特許文献3】
特開2000−2129564号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
例えば、特開2000−233733号公報に記載の技術は、操作フィーリングの向上、特に、制動後期での効き増し感を確保することを目的とする技術が記載されている。この技術では、制動開始からの時間の経過に基づいて目標制御値を高くするような制御が行われている。しかし、操作部材の操作状態、車両の走行状態等の如何によって、時間の経過に応じた制御では満足な効き増し感が得られない場合がある。また、目標制御値を高める処理を行うことに時間制限を設けるような場合には、その制限された時間の経過時に違和感を与えるようなこともある。本発明は、適切な制御が行われることで制動フィーリングが良好な車両用制動システムを得ることを課題とする。また、特に、ブレーキの効き増し感が良好な車両用制動システムを得ることを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段および効果】
(1)本発明の車両用制動システムは、(イ)車両を制動する制動装置と、(ロ)その制動装置を制御するための目標制御値を制動要求量に基づいて決定し、その決定された目標制御値に基づいて制動装置を制御する制御装置とを備えた車両用制動システムであって、制御装置が、車速が低い場合に、車速が高い場合に比べて目標制御値を高い値に決定する車速依拠目標制御値決定部を有することを特徴とする(請求項1)。
【0006】
本発明の制動システムには、例えば、平たく言えば、操作者が同じ状態に操作した場合であっても、車速に依拠して、車速が小さくなるにつれて発生する制動力を大きくするような制御が行われるシステムが含まれる。車速に応じて変化する制動力特性を有する制動システムが実現され、車速の変化に対する目標制御値の高低の程度によって特有の制動フィーリングが得られる。また、車両の制動を行えば、車両は減速し、その減速によって車速が減少するにつれて適切に制動力を増大させることができるため、良好な効き増し感を得ることが可能である。
【0007】
本発明のシステムが備える制動装置は、特に限定されるものではないが、例えば、一般的な車両に用いられている液圧式摩擦制動装置を備えて構成されるものであってよい。本発明は、具体的には、ディスクブレーキ,ドラムブレーキといった種々の態様のブレーキ装置に対して適用が可能である。
【0008】
目標制御値は、特に限定されるものではなく、制動装置が発生する制動力を制御可能な種々のパラメータを採用することが可能である。例えば、得ようとする車両減速度の値を目標制御値とすることもでき、また、一般的な液圧式ディスクブレーキ装置の場合、ブレーキパッドの押付力の値であるとか、そのブレーキ装置が備えるホイールシリンダ液圧の値等を目標制御値とすることも可能である。また、一旦、1つの仮想的な目標制御値を決定し、その仮想的な目標制御値に基づいて他の種類の目標制御値を定め、その目標制御値に基づいて実際の制御を行うものであってもよい。具体的には、目標車両減速度を決定した上で、その目標車両減速度に基づいて各車輪についての目標ホイールシリンダ液圧を決定し、その目標液圧に基づいて各車輪を制御するような態様である。なお、本発明でいう「目標制御値が高い」とは、その目標制御値が低い場合に比べて、得られる制動力が大きいことを意味し、単に数字の大小を意味するものではない。
【0009】
制御装置は、制動要求量に応じて制動装置を制御するものであり、例えば、コンピュータ等を主体として電子制御を行い得るものとすることができる。目標制御値に基づく制動装置の制御は、その具体的な態様が特に限定されるものではない。本発明においては、通常行われている制御に従えばよく、例えば、一般的な液圧ブレーキ装置の場合であれば、ホイールシリンダ液圧等の値を目標制御値として、それに基づくフィードバック制御,フィードフォワード制御等を行う態様を採用することができる。
【0010】
制御の基になる制動要求量は、特に限定されるものではなく、発生する制動力の大きさに関係付けることができるパラメータであればよい。後に詳しく説明するが、例えば、操作部材の操作状態量を制動要求量とすることができる。なお、本発明は、手動操作によって制動される車両のみならず、車両をコンロールする車両制御装置等が、自動的に制動要求量を決定し、その制動要求量に基づいて自動的に制動を行う車両についても適用可能である。
【0011】
目標制御値の決定は、例えば、制動要求量と目標制御値とがある関係式によって関係付けられている場合は、その関係式に従って行うものであってもよい。また、制動要求量と目標制御値とを関係付ける対応データ(いわゆる、マップと呼ばれるようなもの)が規定されている場合であれば、その対応データに基づいて決定するものであってもよい。本発明における目標制御値は、制動要求量のみならず車速にも基づいて決定されるが、この場合、制動要求量および車速と目標制御値と関係が、関係式,マップ等によって規定されている場合、それら関係式等に従って決定することが可能である。また、後に説明するように、一旦、制動要求量に基づいて基準となる目標制御値を暫定的に決定し、その制御値を車速に基づいて補正する態様であってもよい。
【0012】
(2)本発明の制動システムにおいて、車速依拠目標制御値決定部は、車速に応じて目標制御値を連続的に変化させるものとすることができる(請求項2)。また、これとは逆に、車速に応じて、目標制御値を離散的段階的に変化させるようにすることもできる。連続的に変化させる場合は、段階的に変化させる場合と比較して、違和感のない制動フィーリングが得られる。
【0013】
また、本発明の制動システムでは、車速依拠目標制御値決定部は、制動開始時からの一連の制動において、制動開始時の車速である制動開始車速が高い場合に、制動開始車速が低い場合に比べて、目標制御値を低目に決定するものとすることができる(請求項3)。前述のように、車速に基づいて目標制御値を決定する場合、制動開始時の車速が低い場合は、高い場合に比べて、同じ制動要求量であっても、得られる制動力が大きくなる。具体的に言えば、ブレーキペダルの操作状態量を制動要求量とする場合に、ペダルの踏み始めにおいて得られる制動力が車速が低い場合に大きくなり、ある意味での違和感を生じさせる場合がある。その場合に、上述のように制動開始時の車速に応じて、目標制御値を決定すれば、その違和感を解消あるいは緩和することができる。その場合、例えば、制動開始時において、制動開始車速の如何に拘わらず、同じ制動要求量に対して目標制御値を同じ値に決定するようにすることもでき(請求項4)、さらなる制動フィーリングの向上が図れる。
【0014】
(3)本発明の制動システムは、車速依拠目標制御値決定部が、(a)制動要求量に基づいて基準目標制御値を決定する基準目標制御値決定部と、(b)車速に応じた補正データに基づいて、その基準目標制御値を補正する目標制御値補正部とを有する態様で実施することもできる(請求項5)。制動要求量に基づいて目標制御値を決定することは、一般に検討されていることである。上記態様によれば、一般的な制御形態に、車速に応じた補正を行う機能を有する部分を付け加えるだけで、本発明の制動システムに関する制御が行える。また、様々な特性の制動フィーリングを得ようとする場合に、補正データを種々のものに変更することによって、それが容易に可能となる。つまり、簡便な制御形態によって、バリエーションに富んだ制動フィーリングが得られるのである。
【0015】
補正データは、例えば、基準目標制御値に対して加減する補正値、基準目標制御値に乗除する補正係数等、種々のものが採用可能である。また、補正データは、関係式で車速に関連付けられたものであってもよく、また、マップ等の形式で記憶された対応データであってもよい。また、前述のように、制動開始速度に基づいて目標制御値を決定する態様の場合は、上記補正データを制動開始速度にも関連付けられたものとして、目標制御値を決定するような態様を採用することもでき、また、上記補正データとは別のデータであって、制動開始速度に関連付けられた補正データをさらに用いて、目標制御値を決定する態様を採用することもできる。
【0016】
(4)本発明の制動システムは、制御装置が、目標制御値として目標車両減速度を決定し、その目標車両減速度に基づいて制動装置を制御する態様で実施することができる(請求項6)。車両減速度は、例えば、操作者が望む制動状態を的確に表し得るパラメータであるため、車両減速度を目標制御値とすれば、制動要求量に基づく制動装置の制御を実情に即したものとすることができる。車両減速度に基づく制御を行う態様の他、一旦決定した目標車両減速度を別のパラメータの目標制御値(例えば液圧式ブレーキ装置の場合の目標ホイールシリンダ液圧)に変換し、その変換した目標制御値に基づいて制御を行う態様も、上記態様に含まれる。
【0017】
また、本発明の制動システムは、車両の運転者によって操作される操作部材を有する操作装置を備え、制御装置が、制動要求量としてのその操作部材の操作状態量に基づいて目標制御値を決定する態様で実施することもできる(請求項7)。操作部材の操作状態量に基づく制御を行えば、一般の車両のようなマニュアル操作の制動システムにおいて、運転者が体感する制動フィーリングを適切なものとすることが可能であり、また、前述したところの良好な効き増し感を得ることが可能である。操作部材には、操作者が足で操作する操作ペダルや、操作者が手で操作する操作桿といった種々のものが含まれる。一般の車両は、ブレーキペダルを有しており、その場合、そのブレーキペダルが操作部材に相当する。操作部材の操作状態量は、例えば、操作部材の操作量,操作力,操作速度等が含まれ、それらの直接的な量だけでなく、それらの各々の間接的なパラメータとしての関連量であってもよい。操作部材がブレーキペダルである場合は、例えば、ペダルストローク,ペダル踏力,ペダルが操作される速度等に基づく制御を行うことができ、またペダル踏力に関連する量として、例えば、ブレーキペダルに連係するマスタシリンダの液圧等に基づく制御を行うこともできる。なお、制御の基礎となる操作状態量は1つに限られず、2つ以上のものに基づく制御を行うことも可能である。例えば、操作力と操作量との両者,操作量と操作速度との両者に基づいて目標制御値を決定するといった態様であってもよい。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の一実施形態を、図を参照しつつ説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、下記実施形態の他、前記〔発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0019】
<車両用制動システムの構成>
図1に、本発明の実施形態である4輪自動車に用いられている車両用制動システムの全体構成を示す。制動システムは、よく知られた構造の液圧式ブレーキシステムであり、大きくは、車両に制動力を付与する制動装置10と、操作者が当該システムを操作するための操作装置12と、操作装置12の操作の状態に応じた制動装置10の制御を行う制御装置14とを備えて構成されている。
【0020】
操作装置12は、操作部材であるブレーキペダル20と、そのブレーキペダル20と連係するマスタシリンダ22と、マスタシリンダ22に接続されたリザーバ24と、ブレーキペダル20に反力を付与するととともに踏力に応じたペダルストロークを発生させるためのストロークシミュレータ26とを含んで構成される。マスタシリンダ22には、2つの液通路30,32が接続されており、それぞれの液通路30,32は、常開の電磁開閉弁34L,34R(以下、単に「電磁開閉弁34」と呼ぶ場合がある)を介して左前輪40FLおよび右前輪40FRに繋がっている。
【0021】
マスタシリンダ22に収容された作動液の液圧であるマスタシリンダ液圧Pm(以下、単に「マスタ圧Pm」と呼ぶことがある)は、マスタ圧センサ54によって検出される。このマスタ圧Pmは、操作部材であるブレーキペダル20の踏力、つまり操作力の大きさを示す操作力関連量(制動要求量の一種)である。また、ブレーキペダル20の踏込量つまり操作量(制動要求量の一種)であるペダルストロークSTは、ストロークセンサ56によって検出されようになっている。なお、ブレーキペダル20が操作状態にあるか否かは、ブレーキランプのスイッチを兼ねる操作ON/OFFセンサ58によって検出される。
【0022】
制動装置10は、各車輪40FL,40FR,40RL,40RR(以下単に「車輪40」と略す場合がある)に対して設けられた車輪ブレーキ装置80FL,80FR,80RL,80RR(以下単に「車輪ブレーキ装置80」と略す場合がある)と、駆動源としてのポンプ装置82と、ポンプ装置82からの作動液を車輪ブレーキ装置80に適切な圧力で供給するための電磁弁装置84とを含んで構成されている。
【0023】
車輪ブレーキ装置80は、摩擦制動装置の一種であるディスクブレーキ装置であり、よく知られた構造のものであるため、説明を省略する。ポンプ装置82は、リザーバ24側から作動液を汲み出して吐出するポンプ120と、そのポンプ120を駆動する電動モータ122と、ポンプ120の吐出側に設けられたアキュムレータ124とを含んで構成されている。ポンプ装置82は、液通路128によって、電磁弁装置84に接続されている。なお、ポンプ装置82によって供給される作動液の液圧であるポンプ圧Ppは、ポンプ圧センサ126によって検出されるようにされている。また、ポンプ装置82には、リリーフ弁130が設けられており、ポンプ120の吐出側の圧力が高くなりすぎる場合に、低圧側であるリザーバ24に作動液を逃がすようにされている。
【0024】
電磁弁装置84は、各車輪40に対応する制御弁として、各ホイールシリンダ96のシリンダ液圧を制御する増圧制御弁140FL,140FR,140RL,140RRおよび減圧制御弁142FL,142FR,142RL,142RR(以下単に「増圧制御弁140」,「減圧制御弁142」と略す場合がある)を有している。各増圧制御弁140と減圧制御弁142は直列に接続された制御弁対を構成し、それら制御弁対は各車輪に対応して並列に設けられている。各増圧制御弁140の入液ポートは、液通路128に接続され、各減圧制御弁142の出液ポートは、リザーバ24に通じる液通路144に接続されている。互いに接続された各増圧制御弁140の出液ポートおよび各減圧制御弁142の入液ポートが、液通路を通じて各車輪40のホイールシリンダ96に接続されている。詳しい説明は省略するが、増圧制御弁140および減圧制御弁142は、常開のリニア弁であり、入液側と出液側とに励磁電流の大きさに応じた差圧を生じさせる構造とされており、これらへの供給電力を制御することで、各ホイールシリンダの液圧であるシリンダ液圧Pwcが制御され、各車輪ブレーキ装置80による制動力が適切なものとされるのである。なお、各シリンダ液圧Pwcは、シリンダ液圧センサ146FL,146FR,146RL,146RR(以下単に「シリンダ液圧センサ146」と略す場合がある)によって検出される。
【0025】
さらに、各車輪40には、自身の回転速度である車輪回転速度Vwを検出する車輪速センサ148FL,148FR,148RL,148RR(以下単に「車輪速センサ148」と略す場合がある)が設けられている。後に説明するが、その検出値Vwは、いずれかの車輪40のスリップの検出等の他、車両の速度である車速Vの擬制にも用いられる。
【0026】
制御装置14は、CPU150,RAM152,ROM154,入出力インターフェース156,それらを繋ぐバス158等によって構成されるコンピュータ160を主体とするブレーキ電子制御ユニット162(以下単に「ブレーキECU」162と略す場合がある)を有している。ブレーキECU162は、他に、電動モータ122を駆動する駆動回路164と、各増圧制御弁140および各減圧制御弁142を制御する制御回路166とを有しており、これらは、コンピュータ160の入出力インターフェース156に接続されている。また、入出力インターフェース156には、マスタ圧センサ54,ストロークセンサ56,操作ON/OFFセンサ58、ポンプ圧センサ126,シリンダ液圧センサ146,車輪速センサ148等の各種センサが接続されている。
【0027】
制動装置10の制御は、制御装置14に備わるコンピュータ160が、ROM154に格納されている所定のブレーキ制御プログラムを実行することによって行われる。詳しい説明は後に行うが、通常ブレーキ時においては、電磁開閉弁34が閉じた状態において、ポンプ装置82によるポンプ圧Ppを各ホイールシリンダ96に要求される液圧より高くするとともに、電磁弁装置84を制御して、ブレーキペダル20の操作状態に応じた制動力を得るように、各ホイールシリンダ96のシリンダ液圧Pwcが制御される。また、上記ブレーキ制御プログラムは、アンチロック(ABS)制御,トラクションコントロール(TRC)制御,車両姿勢制御(VSC)制御等も可能とされている。なお、電源供給の遮断等の場合においては、電磁開閉弁34が開いた状態とされ、ブレーキペダル20の踏力によって発生するマスタ圧Pmがそのまま前輪40FR,40FLの車輪ブレーキ装置80に供給され、それによって制動力が得られるようにされている。
【0028】
<車両用制動システムの制御>
本実施形態の制動システムの制御について説明する。説明を単純化するため、通常ブレーキ時の制御に関する部分のみを説明する。図2に、上記ブレーキ制御プログラムから抜粋した通常ブレーキ時制御ルーチンのフローチャートを示す。以下、このフローチャートに従って説明する。なお、この通常ブレーキ時制御ルーチンは、車両のイグニッションスイッチがON状態にある間、数msecという短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0029】
まず、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様とする。)において、操作力関連量であるマスタ圧Pm,操作量であるペダルストロークST,車両速度である車速Vが取得される。マスタ圧Pmは、マスタ圧センサ54の検出値であり、ペダルストロークSTは、ストロークセンサ56の検出値である。車速Vは、各車輪速センサ148の検出値である各車輪40の車輪回転速度Vwを所定の擬制処理(例えば、平均化処理等)を行うことによって求められる。この擬制処理は、本発明とは直接関連がないためここでの説明は省略する。なお、車輪回転速度Vwではなく、直接車速Vを検出する車速センサを設け、そのセンサの検出値を使用することも可能である。
【0030】
次いで,S2において、車両に制動要求があるか否かが判断される。具体的には、取得されたマスタ圧Pmが所定の制動要求閾値を超えている場合、あるいは、ペダルストロークSTが所定の制動要求閾値を超えている場合に、制動要求があると判断される。制動要求がない場合は、S3において、制動要求フラグFの値が“0”とされる。制動要求があると判断された場合は、S4において、制動要求フラグFは、“1”とされる。
【0031】
制動要求がある場合は、続くS5の基準目標車両減速度決定サブルーチンが実行される。図3に、基準目標車両減速度決定サブルーチンのフローチャートを示す。このサブルーチンでは、まず、S51において、取得されているペダルストロークSTに対応するストローク対応基準目標車両減速度GST0 が、ROM156に格納されているST−GST0 マップから読み出される。本実施形態では、ペダルストロークSTは、踏み込まれていない状態を0とし、踏込量が多くなるにつれてその値が大きくなるものとされていおり、ST−GST0 マップは、図4に示すように、ペダルストロークSTが大きくなるにつれてGST0 の増加勾配が大きくなるようにされている。
【0032】
続くS52において、取得されているマスタ圧Pmに対応するマスタ圧対応基準目標車両減速度GPm0 が、ROM156に格納されているPm−GPm0 マップから読み出される。本実施形態では、マスタ圧Pmは大気圧との相対圧であり、ブレーキペダル20が踏み込まれていない状態を0とし、踏込量が多くなるにつれてその値が大きくなるものとされており、Pm−GPm0 マップは、図5に示すように、マスタ圧Pmが大きくなるにつれてGPm0 が概ね直線的に増加するものとされている。
【0033】
本実施形態では、基準目標車両減速度G は、GST0 とGPm0 との重み付け和として決定される。続くS53では、その重み付けのための係数である重み付け係数αが、ROM156に格納されている重み付け係数マップから読み取られる。重み付け係数αは、図6に示すように、マスタ圧対応車両目標減速度GPm と関係付けられており、重み付け係数マップから、S52において読み出されたGPm0 に対応する重み付け係数αの値が読み取られる。本実施形態では、αは0以上,1以下の値とされ、GPm0 が大きくなるにつれて、その値が大きくなるようにされている。
【0034】
以上の3つの値の読み出しの後、次のS54において、関係式
=α・GPm0 +(1−α)・GST0
に基づいて、基準目標車両減速度G が求められ、S5の基準目標車両減速度決定サブルーチンが終了する。
【0035】
が決定された後、S6において、今回の制御サイクルにおいて制動が開始されたか否かが判断される。RAM154には、前回の制御サイクルの制動要求フラグ値Fが記憶されており、今回の制御サイクルにおいて、フラグ値が“0”から“1”に変化したか否かで判断される。今回の制御サイクルにおいて、制動要求が開始されたと判断された場合は、S7において、取得されている車速Vが、RAM152の所定の記憶領域に、制動開始車速Vsとして記憶される。今回制動が開始されたのでない場合は、S7はスキップされる。
【0036】
続いて、S8の目標車両減速度補正サブルーチンが実行される。図7に、このサブルーチンのフローチャートを示す。このサブルーチンでは、まず、S81において、補正のために用いる補正係数(補正データの一種)であって、車速に依拠して異なる値となる車速依拠係数Kvが決定される。具体的には、ROM154に格納されているV−Kvマップから、先に取得されている車速Vに対応するKvの値が読み出される。本実施形態においては、図8に示すように、車速依拠係数Kvは、補正上限車速V以上の車速域においては、“1”と、補正下限車速V以下の車速域においては、“a”(a>1)となるようにされており、また、それらの間の中間車速域においては、車速Vが低くなるにつれて大きな値となるような関係とされている。具体的な数値を言えば、例えば、V=100km/hr(約27.78m/s),V=30km/hr(約8.33m/s),a=1.5であり、中間車速域においては、車速Vに対してKvは、“1”と“1.5”との間を連続的にかつリニアに変化する値とされている。
【0037】
続くS82において、補正のために用いる補正係数(補正データの一種)であって、制動開始車速Vsに依拠して異なる値となる制動開始車速依拠係数Kvsが決定される。具体的には、ROM154に格納されているVs−Kvsマップから、記憶されている制動開始車速Vsに対応するKvsの値が読み出される。本実施形態においては、図9に示すように、制動開始車速依拠係数Kvsは、補正上限開始車速Vs以上の開始車速域においては、“1”と、補正下限開始車速Vs以下の開始車速域においては、“b”(b<1)となるようにされており、また、それらの間の中間開始車速域においては、制動開始車速Vsが低くなるにつれて小さな値となるような関係とされている。具体的な数値を言えば、例えば、Vs=V=100km/hr(約27.78m/s),Vs=V=30km/hr(約8.33m/s),b=0.67であり、中間車速域においては、“1”と“0.67”との間を連続的に変化する値とされている。詳しく言えば、中間域においては、Kvs=1/Kvとなる値とされている。
【0038】
なお、上述の補正係数は、あくまでも本実施形態において採用する例示的な係数であり、本発明の制動システムでは、目的とする制動特性に応じて種々の値を採用することができる。また、補正を制限する車速V,V、と開始車速Vs,Vsとを同じ値とすることは必須ではなく、さらに、それら車速V,V、開始車速Vs,Vsを設けることも必須ではない。
【0039】
補正のための係数が決定された後、S83において、基準目標車両減速度G に加えられる補正値である、車両減速度補正値δGが求められる。具体的には、関係式
δG=G ×(Kv×Kvs−1)
に従って、車両減速度補正値δGが求められる。
【0040】
次のS84〜S87は、車両減速度補正値δGが過度に大きい値、あるいは過度に小さい値とならないように、補正値を制限するためのの処理である。S84において、δGが補正上限値δGより大きいと判断された場合は、S85においてδG=δGとされ、S86において、δGが補正下限値δGより小さいと判断された場合は、S87においてδG=δGとされる。本実施形態では、具体的には、例えば、G=1.5m/sとされ、G=−1.0m/sとされている(マイナスは加速側に補正することを意味する)。なお、補正値の制限は必須ではなく、また、制限を設ける場合の制限値も、目的とする制動特性等に応じて自由に設定することができる。
【0041】
補正制限処理の後、S88において、基準目標車両減速度G に、補正値δGが加えられて、目標車両減速度Gが求められる。Gが決定されて、本サブルーチンを終了する。ここで、本通常ブレーキ時制御ルーチンが複数回実行された結果、詳しくは、上記補正を行った結果の車速に応じたGの変化について説明する。図10に、その変化の様子をグラフにして示す。グラフには、複数の線が示されているが、それぞれは、互いに異なる車速において制動が開始された場合の変化線(○が、開始点)である。なお、このグラフは、典型的な制動が行われた場合のものであり、いずれの車速からの制動においても、制動開始時の制動要求量が同じであり(ペダルストロークSTおよびマスタ圧Pmが同じ)、また、制動開始からその制動要求量は一定であることを前提としている。また、前記補正値の制限を受けていないことをも前提とする。
【0042】
図10に示すグラフから解るように、本実施形態の制動システムでは、いずれの制動開始車速から開始された制動も、車速Vが低くなるに連れて、連続して目標車両減速度Gが低くなる。つまり、時間の経過とともに制動力が増加するような目標制御値となっており、ブレーキが効き増されるのである。また、制動開始車速が低いほど、目標車両減速度Gが低目の値とされている。さらには、いずれの制動開始車速Vsにおいても、
Kv×Kvs=1
となり、
δG=0,G=G
となることから、制動開始時の目標車両減速度Gは、制動開始速度Vsによらず、常に一定の値となる。
【0043】
以上説明したようにして目標車両減速度Gが決定された後、本制御ルーチンでは、S9において、各ホイールシリンダ96の目標シリンダ液圧Pwcが、Gに基づいて決定される。そして、S10において、目標シリンダ液圧Pwcに基づくホイールシリンダ96の液圧制御がなされる。具体的に言えば、各ホイールシリンダ96のシリンダ液圧Pwcは、シリンダ液圧センサ146により検知されており、PwcとPwcとの偏差に基づいて車輪ブレーキ装置80が制御される。S9およびS10は、既に一般的な制御処理であるため、ここでの説明は省略する。
【0044】
以上、本実施形態の制動システムの制御について説明したが、先に示したように制御は制御装置14によって行われる。この制御装置14は、先に説明したように、ハード的にはブレーキ電子制御ユニット162を主体とするものである。この制御装置14を、便宜的に機能部分に分けてブロック図として示せば、図11のように示すことができる。以下、制御装置14の各機能部について簡単に説明する。
【0045】
制御装置14は、制動要求量としての操作状態量であるマスタ圧Pm,ペダルストロークSTを取得する制動要求量取得部170と、車速Vを取得する車速取得部172とを有しており、これら取得部170,172は、コンピュータ160の、マスタ圧センサ54,ストロークセンサ56,車輪速センサ148からの検出信号を受ける入出力インターフェース156の一部分、前述のS1を実行する部分等を含んで構成されている。また、制御装置14は、目標制御値決定データ保有部174を有しており、補正データであるKv,Kvsに関するものを始めとする前述したマップが、コンピュータ160のROM166に格納されており、そのマップを格納する部分が、目標制御値決定データ保有部172を構成するものとされている。
【0046】
また、制御装置14は、制動要求量取得部170が取得した操作状態量ST,Pmと、車速取得部172が取得した車速Vと、目標制御値決定データ保有部174に保有されているデータとに基づいて、目標制御値としての目標車両減速度Gを決定する車速依拠目標制御値決定部176を有している。この依拠目標制御値決定部176は、コンピュータ160の前記S5〜S8を実行する部分を含んで構成されている。この車速依拠目標制御値決定部176は、S5を実行する部分であるところの、基準目標制御値としての基準目標車両減速度G を決定する基準目標制御値決定部178と、S8を実行する部分であるところの、決定された基準目標制御値に対して補正を行う目標制御値補正部180とを有するものとされている。また、制御装置14は、車速依拠目標制御値決定部176によって決定された目標制御値に基づいて、制動装置10を制御する目標制御値依拠制御部182を有しており、この目標制御値依拠制御部182は、コンピュータ160の前記S9,S10を実行する部分、駆動回路164,制御回路166等を含んで構成されている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態である車両用制動システムの全体構成を示す図である。
【図2】車両用制動システムのブレーキ制御プログラムのうち通常ブレーキ時の制御ルーチンのフローチャートである。
【図3】通常ブレーキ時の制御ルーチンにおいて実行される基準目標車両減速度決定サブルーチンのフローチャートである。
【図4】ストローク対応基準目標車両減速度GST0 を求めるためのST−GST0 マップを模式的に示すグラフである。
【図5】マスタ圧対応基準目標車両減速度GPm0 を求めるためのPm−GPm0 マップを模式的に示すグラフである。
【図6】基準目標車両減速度G を算出するための重み付け係数αを求めるための重み付け係数マップを模式的に示すグラフである。
【図7】通常ブレーキ時の制御ルーチンにおいて実行される目標車両減速度補正サブルーチンのフローチャートである。
【図8】目標車両減速度の補正のために用いられる車速依拠係数Kvを求めるためのV−Kvマップを模式的に示すグラフである。
【図9】目標車両減速度の補正のために用いられる制動開始車速依拠係数Kvsを求めるためのVs−Kvsマップを模式的に示すグラフである。
【図10】補正を行った結果としての、車速に応じた目標車両減速度Gの典型的な変化を示すグラフである。
【図11】車両用制動システムが備える制御装置の制御機能に関する模式的な機能ブロック図である。
【符号の説明】
10:制動装置 12:操作装置 14:制御装置 20:ブレーキペダル 22:マスタシリンダ 54:マスタ圧センサ 56:ストロークセンサ 146:シリンダ液圧センサ 148:車輪速センサ 162:ブレーキ電子制御ユニット(ブレーキECU) 170:制動要求量取得部
172:車速取得部 174:目標制御値決定データ保有部 176:車速依拠目標制御値決定部 178:基準目標制御値決定部 180:目標制御値補正部 182:目標制御値依拠制御部

Claims (7)

  1. 車両を制動する制動装置と、
    その制動装置を制御するための目標制御値を制動要求量に基づいて決定し、その決定された目標制御値に基づいて前記制動装置を制御する制御装置と
    を備えた車両用制動システムであって、
    前記制御装置が、車速が低い場合に、車速が高い場合に比べて前記目標制御値を高い値に決定する車速依拠目標制御値決定部を有することを特徴とする車両用制動システム。
  2. 前記車速依拠目標制御値決定部が、車速に応じて前記目標制御値を連続的に変化させるものである請求項1に記載の車両用制動システム。
  3. 前記車速依拠目標制御値決定部が、制動開始時からの一連の制動において、制動開始時の車速である制動開始車速が高い場合に、制動開始車速が低い場合に比べて、前記目標制御値を低目に決定するものである請求項1または請求項2に記載の車両用制動システム。
  4. 前記車速依拠目標制御値決定部が、制動開始時において、制動開始車速の如何に拘わらず、同じ前記制動要求量に対して前記目標制御値を同じ値に決定するものである請求項3に記載の車両用制動システム。
  5. 前記車速依拠目標制御値決定部が、(a)前記制動要求量に基づいて基準目標制御値を決定する基準目標制御値決定部と、(b)車速に応じた補正データに基づいて、前記基準目標制御値を補正する目標制御値補正部とを有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両用制動システム。
  6. 前記制御装置が、前記目標制御値として目標車両減速度を決定し、その目標車両減速度に基づいて前記制動装置を制御するものである請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の車両用制動システム。
  7. 当該車両用制動システムが、前記車両の運転者によって操作される操作部材を有する操作装置を備え、前記制御装置が、前記制動要求量としての前記操作部材の操作状態量に基づいて前記目標制御値を決定するものである請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の車両用制動システム。
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