JP4923315B2 - 表面が改質されたプロピレン樹脂成形体 - Google Patents

表面が改質されたプロピレン樹脂成形体 Download PDF

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Description

本発明は、表面に親水性や反応性などが導入されたプロピレン樹脂成形体に関するものである。
ポリプロピレンは、その耐熱性、軽量性、耐薬品性などが優れることから、様々な用途において使用されている。しかし用途によってはポリプロピレン成形体の表面特性が不十分である場合があり、表面の親水性、接着性、塗装性、メッキ性、印刷性などについて改良を求められることも多い。
このような改良については、これまでにも様々な方法による検討がなされており(非特許文献1)、樹脂表面を直接酸化させることにより、極性基を生成させる方法が考案されている。このような方法として、火炎処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線照射、薬品処理などが挙げられ、これらの処理により成形体表面には水酸基、カルボニル基、カルボキシル基などが生成することが知られている。これにより、ポリプロピレン成形体表面は親水性が向上したりして改質されることが分かっているが、方法によっては改質効果が不十分で、得られる成形体が印刷などのために限定されて使用されることがある。また改質効果が十分で接着、塗装、メッキなどを含め広範囲に使用できる方法であっても、このような樹脂を直接酸化する場合においては、表面の特性が時間と共に低下して処理前の状態に近づいていくことが知られており、成形体の良好な表面特性を長期にわたって維持することができない。またプラズマ処理や電子線照射は、特殊な高額設備が必要であり高コストとなるために、そのようにして処理した成形体は使用できる用途が限定される。また薬品処理は、危険性、環境汚染などの問題があるために、そのようにして処理した成形体は使用される用途はメッキなどに限定される。
ポリプロピレン成形体表面を改質する方法としては、極性を有する化合物やポリマーを表面に導入する方法も考案されている。極性を有する化学構造とポリプロピレンと親和性のある化学構造とを有する化合物やポリマーを、ポリプロピレン成形体表面に塗布するプライマー処理は、このような方法に相当する。プライマー処理は塗布により簡便に表面改質できることから、塗装や接着などでよく用いられる。しかしこのように処理された成形体では、プライマーとポリプロピレンとがその界面において物理的に相互作用しているだけなので、それらの間の接着力やその安定性は必ずしも十分ではなく、また塗布により層を形成するため、微細な凹凸を有する表面では凹凸が塗布により埋もれてしまう問題がある。
極性を有する化合構造を表面に導入する方法としては、表面にラジカルを生成させ、そこに極性基を有するモノマーを結合させることにより、極性ポリマーをグラフトする方法も用いられる。表面にラジカルを生成させる方法としては、プラズマ処理や電子線照射などが用いられる。しかしこのような高額設備を用いる方法は、処理コストが高くなるために、そのようにして処理した成形体は使用できる用途が限定される場合がある。
表面にラジカルを生成させる別の方法としては、重合開始剤を表面に導入して光や熱によりラジカルを発生させる方法も用いられており、この方法によれば簡単な設備で安価に表面改質することができる。従来技術においては、種々の樹脂からなる基体あるいは支持体の表面に、重合開始剤からラジカルを生成させてモノマーと接触させることにより、ポリマーをグラフトして表面改質する方法が提案されている(特許文献1、2)。これらの技術においては、基体あるいは支持体に使用する樹脂としてポリプロピレンが挙げられてはいるものの、実際に実施例で用いられている樹脂はシリコーンゴム、ポリウレタン、低密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル(軟質塩ビ)などに限定されており、ポリプロピレンは使用されていない。これら実施例に使用されている樹脂の特徴から考えると、このようなグラフト重合においては結晶性が低い柔軟なポリマーが好適なようであり、ポリプロピレンのようなの高結晶性で耐溶剤性に優れる樹脂に対しては、表面へグラフト反応させることが極めて困難と推定される。本発明の実施例においても、ポリプロピレン単体では表面へのグラフト反応が極めて困難である結果を得ている。
このように重合開始剤を用いたグラフト重合による表面改質方法はコストや簡便さに優れており有望ではあるが、ポリプロピレン表面を改質できるまでには至っておらず、ポリプロピレンの物性を有しながら表面に親水性、接着性、印刷性などが付与された低コストな成形体は、日用品、容器、シート、フィルムなどの用途で広く求められている。
高分子学会編「新高分子実験学10 高分子の物性(3)表面・界面と膜・輸送」共立出版 1995年 特表2003−510378号 特表2005−51419号2
本発明は前記従来技術を鑑みて、グラフト重合による表面改質方法を用い、安価、簡便に表面が改質されたプロピレン樹脂成形体を提供することを課題とする。
本発明のプロピレン樹脂成形体は、ポリプロピレン又はプロピレンを主成分とするプロピレン共重合体であって結晶融解ピーク温度が140℃以上である重合体Aと、炭化水素からなる非晶性または低結晶性のエラストマー、あるいは当該エラストマーブロックを含むブロック共重合体またはグラフト共重合体からなるエラストマーBとの樹脂組成物であって、エラストマーBの含有量が10〜70重量%である樹脂組成物を用いた成形体の表面に、光重合開始剤を一定時間接触させたのちに、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソアシネート基、オキサゾリン基、アルコキシシラン基、スルホ基、ピリジン基、ピロリドン基から選ばれる1つまたは2つ以上の官能基を有するラジカル重合可能な単量体を接触させながら光照射することで前記成形体の表面に官能基を有する重合体をグラフト重合させることを特徴とする。
重合体Aの結晶融解ピーク温度は、本発明のプロピレン樹脂成形体が通常のポリプロピレンの用途において使用できるようにするために、140℃以上であるのが好ましい。結晶融解ピーク温度は示差走査熱量計などにより測定される。
エラストマーBはその非晶性または低結晶性を利用し、プロピレン樹脂成形体の表面に重合開始剤を導入しやすくし、グラフト反応を起こりやすくするために添加する。エラストマーBは重合体Aとの相溶性の観点から、炭化水素からなる非晶性または低結晶性であるエラストマーが好ましい。エラストマーBを構成する単量体は、エチレン、プロピレンなどのアルケン、炭化水素からなるジエンなどが挙げられるが、炭化水素から構成される単量体であれば特に限定されない。またエラストマーBは、相溶性の観点からは炭化水素からなる非晶性または低結晶性であるエラストマーブロックを含むブロック共重合体、グラフト共重合体でもよい。
ラジカル重合可能な単量体は特に限定されず、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体などを自由に用いることができる。
ラジカル重合可能な単量体を成形体表面に化学結合させる時には、重合開始剤を用いることが好ましい。
重合開始剤は光重合開始剤が好ましく、ベンゾインエーテル系、ケタール系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系などの光重合開始剤から自由に選択して用いることができる。
重合開始剤を用いてプロピレン樹脂成形体表面にラジカル重合可能な単量体を結合させる方法としては、プロピレン樹脂成形体を重合開始剤に一定時間接触させたのち、ラジカル重合可能な単量体に接触させながら、一定時間過熱および/または光照射する方法が挙げられる。
プロピレン樹脂成形体表面を重合開始剤に接触させる方法としては、重合開始剤溶液や液体状重合開始剤に一定時間浸漬したのちに、該成形体を液から引き上げて表面の余分な液を除去する方法が挙げられる。また重合開始剤溶液や液体状重合開始剤をしみこませたゲル状シートを、プロピレン樹脂成形体と接触させる方法を用いることもできる。
プロピレン樹脂成形体表面にラジカル重合可能な単量体を接触させる方法としては、単量体溶液や液体状単量体に該成形体を浸漬したり、前記溶液や液体を塗布したりする方法が挙げられる。また気体状単量体が満たされた容器中にプロピレン樹脂成形体を置くことにより接触させてもよい。
本発明のプロピレン樹脂成形体を構成するプロピレン樹脂中のエラストマーBの含有量は、10〜70重量%であることが好ましい。
前記のように、エラストマーBはグラフト反応性を向上するために添加するので、表面改質の点からはエラストマーBの含有量は多いほうが好ましいが、エラストマーBが多すぎるとプロピレン樹脂成形体の耐熱性や剛性が低下したり、プロピレン樹脂成形体構成する樹脂の成形性が低下したりして好ましくない。従ってエラストマーBの含有量は、10〜70重量%の範囲にあることが好ましく、15〜60重量%の範囲にあるのがより好ましい。
本発明のプロピレン樹脂成形体を構成する樹脂を調製する方法は特に限定されないが、生産性や樹脂の分散性などの点からは2軸押出機を用いた溶融混練が好ましく用いられる。またプロピレン樹脂成形体を成形する方法は特に限定されず、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、押出し成形などを適宜用いることができる。
本発明のプロピレン樹脂成形体の表面に化学結合させるラジカル重合可能な単量体は、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソアシネート基、オキサゾリン基、アルコキシシラン基、スルホ基、ピリジン基、ピロリドン基から選ばれる1つまたは2つ以上の官能基を有する単量体を少なくとも1種類以上含むことが好ましい。
プロピレン樹脂成形体の表面改質においては、親水性、反応性の向上を求められることが多いので、親水性や反応性に優れる前記官能基を有する単量体を使用することが好ましい。
このような単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸、ケイ皮酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、
N−イソブトキシメチルアクリルアミド、マレインアミド、2−アミノエチルビニルエーテル、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ヒドロキシエチル化ダイアセトンアクリルアミド、メトキシメチル化アクリルアミド、メトキシメチル化メタクリルアミド、ブトキシメチル化アクリルアミド、ブトキシメチル化メタクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、4−ビニルシクロヘキサンモノエポキサイド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコール、多価アルコールのモノアリルエーテル、アクロレイン、クロトンアルデヒド、ダイアセトンアクリルアミド、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、3−クロロ2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリスメトキシエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルオキサゾリン、2−プロペニル2−オキサゾリン、アクリルアミドグリコール酸、メタクリルアミドグリコール酸、アリルカルバメートのN−メチロール誘導体、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、などが挙げられる。
本発明のエラストマーBは、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Xと重合体Xおよび重合体Aに相溶しない重合体Yとからなるブロック共重合体および/またはグラフト共重合体であることがより好ましい。
重合体Xは、重合体AとエラストマーBの間の相溶性がより良好となるように選ばれた、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体である。重合体Xに使用される共役ジエンはブタジエン、イソプレンが好ましく、重合体Xにシス−1,4結合以外の1,2結合など(イソプレンでは3,4結合を含む)を水素添加した構造が含まれると、重合体AとエラストマーBの相溶性の点からはより好ましい。重合体AとエラストマーBの相溶性が良好であることは、重合体AとエラストマーBとを混合して得られる組成物の透明性が、重合体A単体の透明性よりも優れることなどから判断できる。
重合体Yは、エラストマーBの溶融粘度を調整して重合体AとエラストマーBの溶融混練を容易にしたり、エラストマーBのハンドリング性を良くしたりする点から、重合体Xとブロック共重合、グラフト共重合される。重合体Xと重合体Yの結合構造は特に限定されず、ジブロック共重合体では重合体X−重合体Y、トリブロック共重合体では重合体Y−重合体X−重合体Y、重合体X−重合体Y−重合体X、マルチブロック共重合体では重合体Xおよび/または重合体Yを末端として重合体Xと重合体Yとが交互に連結した構造などが挙げられ、グラフト共重合体では重合体Xが幹で重合体Yが枝の構造や重合体Yが幹で重合体Xが枝の構造などが挙げられる。
重合体Yの種類は特に限定されないが、重合や入手のしやすさからはポリスチレンなどのビニル芳香族ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリオレフィンなどが好ましい。
エラストマーBにおいては、重合体Aとの相溶性、非晶や低結晶ポリマーによるグラフト反応性向上の点からは重合体Xが多いほうが好ましいが、重合体Xが多すぎると重合体AとエラストマーBの溶融混練が困難になったり、エラストマーBに粘着性が発現したりするので、エラストマーBの重合体Xの割合は40〜95重量%の範囲にあるのが好ましい。
本発明の表面が改質されたプロピレン樹脂成形体は、表面に親水性や反応性を有するため、接着、塗装、印刷、メッキなどの加工が可能となり、今まではポリプロピレンが使用できなかった用途にも利用できるようになる。また表面の反応性を利用することにより、表面にDNA、タンパク質、抗体、酵素、蛍光物質など様々な機能物質を結合させることが可能となり、プロピレン樹脂成形体を高機能化することができる。
本発明のプロピレン樹脂成形体を作製するために、原材料となる樹脂を用意した。重合体Aとして、三井ポリオレフィン株式会社製の三井ポリプロPPグレード,J105Fおよび出光石油化学株式製のJ−3021GRを、エラストマーBとして株式会社クラレ製のハイブラー7311S(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体を水素添加した重合体で、スチレン含有量が12%、引張モジュラス100%が0.6MPa)を用いた。
J105Fのペレットについて、結晶融解ピーク温度をパーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC7を用いて測定したところ、その値は167℃であった。またJ105Fを熱プレスにより縦7cm、横5cm、厚さ2.5mmの成形体に成形し、スガ試験機社製の直読ヘーズコンピュータを用いてヘーズを測定したところ、その値は50.5%であった。また同じ成形体を用い、表面の赤外吸収スペクトルを、日本分光株式会社製FT/IR−680を用いてATR法(株式会社エス・ティ・ジャパン製DuraScopeを使用)により測定したところ、図1のポリプロピレンに典型的なスペクトルが得られた。
J−3021GRの結晶融解ピーク温度およびヘーズを前記同様にして測定したところ、そられの値は152℃および39.8%であった。またJ−3021GRについて前記同様にして赤外吸収スペクトルを測定したところ、図1と同様なポリプロピレンに典型的なスペクトルが得られた。
J105FまたはJ−3021GRのペレットとハイブラー7311Sのペレットとを、図2の配合で混合し、16mmセグメント式2軸押出機(河辺製作所製)により、スクリュー回転数250rpm、シリンダー温度200℃の条件で溶融混練して、混合物のペレットを作製した。得られたペレットを熱プレスにより縦7cm、横5cm、厚さ2.5mmの形状に成形し、図2の成形体a〜eとした。成形体eについて前記と同様にして赤外吸収スペクトルを測定したところ、図3のスペクトルが得られた。
成形体のヘーズを前記同様にして測定したところ、図2のように成形体a〜eの全ての値がその成分であるJ105FまたはJ−3021GRの値より小さく、成形体a〜eを構成する樹脂が相溶性に優れることが明らかとなった。
成形体eを用い、ラジカル重合可能な単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いて、表面へのグラフト反応を実施した。グラフト反応は次のように行なった。成形体を用意しその表面をメタノールで洗浄して乾燥させ、ガラス容器に入れた2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製 Ciba DAROCUR 1173)に24時間浸漬したのち、成形体をガラス容器から取り出して表面を乾燥させた。このようにした成形体を用い、図4に示すように成形体(図4の1)の上に2−ヒドロキシエチルメタクリレート/蒸留水=10/90(重量比)のモノマー溶液(図4の2)を置き、さらにその上からスライドガラス(図4の3)を載せてモノマー溶液が成形体上面全体に広がるようにした。このようにした成形体、モノマー溶液、スライドガラスに、スライドガラス上面からの高さが2cmのところに紫外線ランプ(アズワン株式会社製 LUV−16、22W)を置いて、10分間紫外線照射した。照射ののち成形体を取り出し、メタノールで洗浄して乾燥した。
このようにしてグラフト反応させた成形体eの表面の赤外吸収スペクトルを、前記同様にして測定したところ、図5のスペクトルが得られた。このスペクトルをグラフト処理前の成形体e表面のスペクトル(図3参照)と比較したところ、図5では3400cm−1付近に水酸基に特徴的なブロードな吸収ピークが認められること、また1170cm−1付近、1260cm−1付近および1730cm−1付近にメタクリルロイル基に特徴的な吸収が認められることから、2−ヒドロキシエチルメタクリレート重合体が成形体e表面に結合していることを確認した。
成形体eを用い、ラジカル重合可能な単量体としてメタクリル酸を用いて、実施例1と同様にして表面へのグラフト反応を実施した。グラフト反応させた成形体eの表面の赤外吸収スペクトルを実施例1と同様に測定したところ、図6のスペクトルが得られた。このスペクトルをグラフト処理前の成形体e表面のスペクトル(図3参照)と比較したところ、図6では2400〜3700cm−1付近に会合した酸の水酸基に特徴的なブロードな吸収が認められること、また1170cm−1付近、1260cm−1付近および1720cm−1付近にメタクリル酸のメタクリルロイル基に特徴的な吸収が認められることから、メタクリル酸重合体が成形体e表面に結合していることを確認した。
成形体eを用い、ラジカル重合可能な単量体として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いて、実施例1と同様にして表面へのグラフト反応を実施した。グラフト反応させた成形体eの表面の赤外吸収スペクトルを実施例1と同様に測定したところ、図7のスペクトルが得られた。このスペクトルをグラフト処理前の成形体e表面のスペクトル(図3参照)と比較したところ、図7では1080cm−1付近、にアルコキシシランに特徴的な強い吸収ピークが認められること、また1730cm−1付近にメタクリロイル基のカルボニル基と思われるピークが認められることから、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン重合体が成形体e表面に結合していることを確認した。
成形体eを用い、ラジカル重合可能な単量体としてグリシジルメタクリレートを用いて、表面へのグラフト反応を実施した。グラフト反応は次のように行なった。成形体を用意しその表面をメタノールで洗浄して乾燥させ、ガラス容器に入れた2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製 Ciba DAROCUR 1173)に24時間浸漬したのち、成形体をガラス容器から取り出して表面を乾燥させた。このようにした成形体を用い、図4に示すように成形体(図4の1)の上にグリシジルメタクリレートのモノマー(図4の2)を置き、さらにその上からスライドガラス(図4の3)を載せてモノマーが成形体上面全体に広がるようにした。このようにした成形体、モノマー、スライドガラスに、スライドガラス上面からの高さが2cmのところに紫外線ランプ(アズワン株式会社製 LUV−16、22W)を置いて、10分間紫外線照射した。照射ののち成形体を取り出し、アセトンで洗浄して乾燥した。
このようにしてグラフト反応させた成形体eの表面の赤外吸収スペクトルを実施例1と同様に測定したところ、図8のスペクトルが得られた。このスペクトルをグラフト処理前の成形体e表面のスペクトル(図3参照)と比較したところ、図8では910cm−1付近にエポキシ環に特徴的な吸収ピークが認められること、また1170cm−1付近、1260cm−1付近および1730cm−1付近にメタクリルロイル基に特徴的な吸収が認められることから、グリシジルメタクリレート重合体が成形体e表面に結合していることを確認した。
成形体eを用い、ラジカル重合可能な単量体として酢酸ビニルを用いて、実施例4と同様にして表面へのグラフト反応を実施した。ただし紫外線照射後の洗浄はメタノールを用いて行なった。グラフト反応させた成形体eの表面の赤外吸収スペクトルを実施例1と同様に測定したところ、図9のスペクトルが得られた。このスペクトルをグラフト処理前の成形体e表面のスペクトル(図3参照)と比較したところ、図9では1240cm−1付近および1740cm−1付近にアセトキシル基に特徴的なピークが認められることから、酢酸ビニル重合体が成形体e表面に結合していることを確認した。
成形体dを用い、ラジカル重合可能な単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いて、実施例1と同様にして表面へのグラフト反応を実施した。グラフト反応させた成形体dの表面の赤外吸収スペクトルを実施例1と同様に測定したところ、図10のスペクトルが得られた。このスペクトルを実施例1のスペクトル(図5参照)と比較したところ、ほぼ同じ波数に吸収ピークが認められることから、2−ヒドロキシエチルメタクリレート重合体が成形体d表面に結合していることを確認した。
成形体cを用い、ラジカル重合可能な単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いて、実施例1と同様にして表面へのグラフト反応を実施した。グラフト反応させた成形体cの表面の赤外吸収スペクトルを実施例1と同様に測定したところ、図11のスペクトルが得られた。このスペクトルを実施例1のスペクトル(図5参照)と比較したところ、ほぼ同じ波数に吸収ピークが認められることから、2−ヒドロキシエチルメタクリレート重合体が成形体c表面に結合していることを確認した。
成形体bを用い、ラジカル重合可能な単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いて、実施例1と同様にして表面へのグラフト反応を実施した。グラフト反応させた成形体bの表面の赤外吸収スペクトルを実施例1と同様に測定したところ、図12のスペクトルが得られた。このスペクトルを実施例1のスペクトル(図5参照)と比較したところ、ほぼ同じ波数に吸収ピークが認められることから、2−ヒドロキシエチルメタクリレート重合体が成形体b表面に結合していることを確認した。
成形体aを用い、ラジカル重合可能な単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いて、実施例1と同様にして表面へのグラフト反応を実施した。グラフト反応させた成形体aの表面の赤外吸収スペクトルを実施例1と同様に測定したところ、図13のスペクトルが得られた。このスペクトルを実施例1のスペクトル(図5参照)と比較したところ、ほぼ同じ波数に吸収ピークが認められることから、2−ヒドロキシエチルメタクリレート重合体が成形体a表面に結合していることを確認した。
(比較例1)
前記J105Fの成形体を用い、ラジカル重合可能な単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いて、実施例1と同様にして表面へのグラフト反応を実施した。グラフト反応させたJ105Fの成形体表面の赤外吸収スペクトルを実施例1と同様に測定したところ、図14のスペクトルが得られた。このスペクトルを実施例1のスペクトル(図5参照)およびJ105Fのスペクトル(図1参照)と比較したところ、図14では2−ヒドロキシエチルメタクリレート重合体のピークが全く認められず、J105Fとほとんど同じスペクトルが認められたことから、グラフト反応を施したJ105F成形体表面にはグラフト重合体が結合していないことを確認した。
本発明により提供されるプロピレン樹脂成形体は、その表面特性を利用して、接着、塗装、印刷、メッキなどの後加工などが可能な容器、ケース、シート、フィルム、パイプや日用品、車両部品、医療用具などの種々の成形品として広く利用することができる。また成形体表面に特定の官能基を結合して、DNA、タンパク質、抗体、酵素、蛍光物質などを導入することができるので、センサー基板、DNAチップ、マイクロ流路やマイクロウェルなどからなるマイクロチップ、などとして利用することができる。
実施例に用いた重合体の赤外吸収スペクトル例を示す。 実施例に用いた成形体の配合とヘーズを示す。 成形体の赤外吸収スペクトル例を示す。 グラフト重合方法例を示す。 実施例1の赤外吸収スペクトルを示す。 実施例2の赤外吸収スペクトルを示す。 実施例3の赤外吸収スペクトルを示す。 実施例4の赤外吸収スペクトルを示す。 実施例5の赤外吸収スペクトルを示す。 実施例6の赤外吸収スペクトルを示す。 実施例7の赤外吸収スペクトルを示す。 実施例8の赤外吸収スペクトルを示す。 実施例9の赤外吸収スペクトルを示す。 比較例1の赤外吸収スペクトルを示す。

Claims (4)

  1. ポリプロピレン又はプロピレンを主成分とするプロピレン共重合体であって結晶融解ピーク温度が140℃以上である重合体Aと、
    炭化水素からなる非晶性または低結晶性のエラストマー、あるいは当該エラストマーブロックを含むブロック共重合体またはグラフト共重合体からなるエラストマーBとの樹脂組成物であって、エラストマーBの含有量が10〜70重量%である樹脂組成物を用いた成形体の表面に、
    光重合開始剤を一定時間接触させたのちに、
    水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソアシネート基、オキサゾリン基、アルコキシシラン基、スルホ基、ピリジン基、ピロリドン基から選ばれる1つまたは2つ以上の官能基を有するラジカル重合可能な単量体を接触させながら光照射することで前記成形体の表面に官能基を有する重合体をグラフト重合させることを特徴とするプロピレン樹脂成形体の製造方法
  2. 前記ラジカル重合可能な単量体は、アクリル酸誘導体又はメタクリル酸誘導体であることを特徴とする請求項1記載のプロピレン樹脂成形体の製造方法。
  3. 前記エラストマーBは、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Xと、当該重合体X及び前記重合体Aに相溶しない重合体Yとからなることを特徴とする請求項1又は2記載のプロピレン樹脂成形体の製造方法
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の方法にて製造されたことを特徴とするプロピレン樹脂成形体。
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