JP4911095B2 - 合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法並びにリン酸亜鉛処理液 - Google Patents
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(1)リン酸亜鉛皮膜
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき被膜の上に、リン酸亜鉛皮膜を備えるものであって、リン酸亜鉛皮膜に含有されるリンの量(以下、この値をリン酸亜鉛皮膜の「付着量」とも呼ぶ。)が10mg/m2以上300mg/m2以下であり、リン酸亜鉛皮膜の可溶性リン酸亜鉛率が50%未満である。ここで、リン酸亜鉛皮膜の可溶性リン酸亜鉛率(以下において単に「可溶性リン酸亜鉛率」ということがある。)とは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を50℃の温水へ5分間に亘って浸漬したときに、下記式1で表される値R[%]である。
リン酸亜鉛皮膜は、特許文献4の段落番号0018にも記載されているように、結晶性のホパイト及び非晶質性のリン酸塩から概ね構成される(その他、金属亜鉛やAl酸化物も含有される)。非晶質性の部分は、概ねリン酸亜鉛処理の処理液がそのまま乾燥されて成膜されたものであるため、水に再溶解しやすい成分を含む。このような成分が、接着剤の塗布、焼き付け工程で発生した水に溶解することで、接着性が損なわれるものと考えられる。
前述のリン酸亜鉛めっき皮膜を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板(本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板)の製造方法におけるリン酸亜鉛処理方法は、特に限定されるものではない。連続めっきラインの後処理設備で、合金化溶融亜鉛めっき鋼板にリン酸亜鉛処理液をスプレー方式で接液させ、水洗することなく乾燥させて被膜を形成させるいわゆる塗布型の処理により、リン酸亜鉛皮膜が形成される形態について、以下に説明する。
工程S1は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下において単に「めっき鋼板」ということがある。)のリン酸亜鉛処理に先立って、めっき鋼板の表面調整を行う工程である。表面調整を行うことで、リン酸亜鉛処理において処理液とめっきとの反応性を増大させることが可能になる。表面調整に用いる表面調整剤は、特に限定されるものではなく、市販の表面調整剤、例えばTiコロイド系の処理液、リン酸亜鉛コロイド含有水性液等を用いれば良い。表面調整の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、めっき鋼板を表面調整剤に浸漬する浸漬処理、又は、表面調整剤をめっき鋼板にスプレー塗布するスプレー処理等を行えば良い。工程S1で用いる表面調整剤は、自動車用化成処理鋼板に対して使用される、市販の表面調整剤を用いても良い。なお、工程S1に先立って、めっき鋼板表面の活性化や汚れの除去を目的として、アルカリ洗浄を行ってもよい。
工程S2は、上記工程S1に引き続き、表面調整がなされためっき鋼板の表面へ、リン酸亜鉛処理液を接触させる(塗布する)工程である。以下、工程S2で使用されるリン酸亜鉛処理液、及び、工程S2の形態について説明する。
工程S2で使用される本発明のリン酸亜鉛処理液(以下において単に「処理液」ということがある。)は、リン酸根をPO4換算で20g/L以上70g/L以下、フッ酸根を0.9g/L以上5g/L含有し、処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比T.A./F.A.が2.5以上6.5以下である。さらに、処理液は、合計で1g/L以上7g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方を含有することが好ましい。以下、各成分等について説明する。
処理液は、PO4換算で20g/L以上70g/L以下のリン酸根を含有する。処理液中において、リン酸根は、PO4 3−のほか、P2O7 4−(ピロリン酸イオン)、P3O9 5−(トリポリリン酸イオン)のような縮合した形態や、HPO4 2−(第1リン酸イオン)、H2PO4 −(第2リン酸イオン)のような形態でも存在しているが、これらがPO4 3−の形で存在するとして含有量を規定する。なお、リン酸亜鉛処理の後、水洗せずにそのまま乾燥させる処理形式(以下、このような処理形式を「塗布型処理」という。)の場合、リン酸イオンの濃度は皮膜付着量に直接影響するので、前述した含有量の範囲内で、リン酸亜鉛皮膜の付着量が所定範囲となるように調整する。
処理液は、F換算で0.9g/L以上5g/L以下のフッ酸根を含有する。処理液にフッ酸根が含有されることより、めっき表面がエッチングされる速度が増し、結果的に可溶性リン酸亜鉛率が小さくなると考えられる。フッ酸根としては、F−(フッ化物イオン)のほか、TiF6 2−、SiF6 2−等ように錯イオンの形であっても良く、これらがF−の形で存在するとして含有量を規定する。
本発明において、処理液は、硝酸根及び/又は亜硝酸根を含有することが好ましい。硝酸根及び/又は亜硝酸根の含有により、めっき表面の反応が増し、結果的に可溶性リン酸亜鉛率が小さくなると考えられる。好ましい硝酸根又は亜硝酸根の濃度は、合計で1g/L以上7g/L以下である。硝酸根及び/又は亜硝酸根を処理液へ過剰に添加すると、処理液中にスラッジが溜まりやすくなる。より好ましくは、合計で1g/L以上5g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方を含有することが好ましい。
ホパイトの形成と関連性を有する処理液の酸比は、皮膜に所定量以上のホパイトを形成可能にする等の観点から、2.5以上とする。一方、処理液中にスラッジが溜まりにくい形態にする等の観点から、酸比は6.5以下とする。本発明の製造方法は、必ずしも結晶性ホパイトの形成を目的とするものではないが、前述したように結晶性ホパイトは水に再溶解しない成分と考えられ、図1(a)及び図1(b)で示したように、結晶性ホパイトの割合の多い皮膜の方が、接着性が良好である。酸比の調整方法としては、Na、NH4等のカチオン元素を添加することによって所定の酸比に維持する等の形態を例示することができる。酸比の調整を容易にする等の観点からは、NH4を添加することが好ましい。
本発明において、処理液に含有されるその他の元素は、特に限定されるものではないが、Zn、Fe、Al等、合金化溶融亜鉛めっき鋼板からエッチングされて処理液中へ溶出する成分も、30g/L以下であれば、処理液に含有されていても良い。また、処理液に含有され得るその他のカチオン及びアニオン等も、特に限定されるものではなく、接着性及び潤滑性に悪影響を及ぼさない限り許容される。
その他、処理液のpHは特に限定されるものではないが、1以上4以下程度とすることが好ましい。
前述の表面調整に引き続き、前記の処理液をめっき鋼板の表面にスプレー塗布する。安定して反応させるために、塗布する液量は、めっき鋼板の片面当たり、100L/min以上とすることが好ましい。また、反応の進行を容易にして、可溶性リン酸亜鉛率を所定値以下に抑えやすくする等の観点から、処理液の温度は、20℃以上50℃以下程度とすることが好ましい。本発明の製造方法において、スプレー塗布の後は、例えば、リンガーロールで処理液を絞り、リン酸亜鉛皮膜付着量が目的の値となるようにする。処理液とめっきとの反応を進行させるため、スプレー処理開始から(スプレー塗布を開始してから)リンガーロール絞りまでを2秒以上とすることが好ましい。
工程S3は、上記工程S2に引き続き、めっき鋼板の表面を乾燥する工程である。工程S3は、めっき鋼板の表面を乾燥させることができれば、その形態は特に限定されるものではない。工程S3が採り得る形態としては、自然乾燥する形態のほか、ドライヤーやオーブンを用いて乾燥させる形態等を挙げることができる。
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、さらに説明する。めっき母材となる鋼板の種類は特に限定されるものではなく、あらゆる種類の冷間圧延鋼板や熱間圧延鋼板を適用することができる。母材の化学組成も特に限定されるものではなく、Ti、Nb等を必要に応じて含有させた極低炭素鋼若しくは低炭素鋼、又は、Si、Mn、P、Cr、Ni、Cu、V等を適宜含有させた高強度鋼若しくは高張力鋼等を適用することができる。
また、本発明のめっき鋼板は、多くの場合、皮膜形成後(合金化処理後)に、公知の方法で調質圧延がなされる。
Ti添加IF鋼板を基材とする、調質圧延済の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(0.7mm厚、めっき付着量:45g/m2、めっき被膜中Fe組成:約10%)を、7%NaOH処理液(70℃)へ5秒間に亘って浸漬する前処理を行った後、水洗した。続いて、1g/LのパーコレンZ(日本パーカライジング株式会社製)を含有する液(常温)へ、水洗後のめっき鋼板を10秒間に亘って浸漬することにより、表面調整を行った。表面調整に引き続き、組成を変更した各種のリン酸亜鉛処理液をめっき鋼板の表面へスプレー処理し、リン酸亜鉛処理液をリンガーロールで絞るリン酸亜鉛処理を行った。その後、鋼板温度55℃で乾燥した。ここで、上記リン酸亜鉛処理では、スプレーの流量及びスプレーからリンガーロール絞りまでの時間(処理時間)、並びに、リン酸亜鉛皮膜に含有されるリンの量を変動させた。実施したリン酸塩処理液の液組成及び処理条件を表2に併せて示す。
<リン酸亜鉛皮膜の可溶性リン酸亜鉛率>
作製したサンプルめっき鋼板を蛍光X線分析することにより、リン酸亜鉛皮膜の付着量(M1)を測定した。その後、リンの量を測定したサンプルめっき鋼板を50℃の温水へ5分間に亘って浸漬し、温水へ浸漬したサンプルめっき鋼板を蛍光X線分析することにより、リン酸亜鉛皮膜の付着量(M2)を測定し、上記式1で表される可溶性リン酸亜鉛率Rを算出した。
特開2003−136151号公報に記載のピンオンディスク試験法により、防錆油を塗布した状態で、以下の条件にて摩擦係数を測定し、摩擦係数及び摩擦係数の変動から、摺動性を評価した。
試験条件;
押し付け荷重:30N
試験具先端形状:球
試験具先端形状曲率:2.5mmR
試験具先端材質:SKD鋼
試験温度:60℃
回転半径:10mm
摺動速度:63mm/min(1rpm)
摺動回数:10回転
摩擦係数μ:1回転毎に12個の測定値から算出した平均値10個の最大値
摩擦係数の変動ν:上記最大摩擦係数が得られた周回における12個の測定結果の標準偏差値
評価基準;
×:μが0.15以上
△:μが0.12以上0.15未満
○:μが0.12未満
サンプルめっき鋼板を25mm×100mmに切断し、プレス潤滑油320H(パーカー興産株式会社製)を塗油(塗油量2g/m2)したまま下記の接着条件で接着させた。その後、剪断剥離試験(引張速度:50mm/min)に供し、その際の剥離の剪断強度で評価した。なお、接着剤は環境対応型接着剤を用いた。
接着剤:合成ゴム系の熱硬化型接着剤
接着剤厚さ:2mm
加熱条件:165℃、10分間
接着後養生時間:24時間
評価基準;
◎:剪断強度が250kPa以上(極めて良好で合格)
△:剪断強度が200kPa以上250kPa未満(合格)
×:剪断強度が200kPa未満(不合格)
Claims (7)
- 合金化溶融亜鉛めっき鋼板を表面調整する表面調整工程と、
前記表面調整工程に引き続き、前記表面調整がなされた前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面へ、リン酸亜鉛処理液を接触させるリン酸亜鉛処理工程と、
前記リン酸亜鉛処理工程に引き続き、前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面を乾燥する乾燥工程と、を備え、
前記リン酸亜鉛処理液は、リン酸根をPO4換算で20g/L以上70g/L以下、フッ酸根を0.9g/L以上5g/L含有し、前記リン酸亜鉛処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比T.A./F.A.が2.5以上6.5以下であることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。 - 前記リン酸亜鉛処理液は、合計で1g/L以上7g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方を含有することを特徴とする、請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記リン酸亜鉛処理工程で前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板に接触する前記リン酸亜鉛処理液の総流量が、前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板の片面当たり100L/min以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記リン酸亜鉛処理工程で、スプレーを用いて塗布することにより前記リン酸亜鉛処理液を前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面へと接触させた後、リンガーロールを用いて前記リン酸亜鉛処理液が絞られ、前記塗布が開始されてから前記リンガーロールで前記リン酸亜鉛処理液が絞られるまでの時間が2秒以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき被膜の上にリン酸亜鉛皮膜を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記リン酸亜鉛皮膜に含有されるリンが10mg/m2以上300mg/m2以下であり、前記リン酸亜鉛皮膜の可溶性リン酸亜鉛率が50%未満であることを特徴とする、表面処理合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- PO4換算で20g/L以上70g/L以下のリン酸根、及び、0.9g/L以上5g/L以下のフッ酸根が含有され、全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比T.A./F.A.が2.5以上6.5以下であることを特徴とする、リン酸亜鉛処理液。
- さらに、合計で1g/L以上7g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方が含有されることを特徴とする、請求項6に記載のリン酸亜鉛処理液。
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