図1は、本発明が適用された車両用自動変速機10(以下、自動変速機10という)の構成を説明する骨子図である。図2は自動変速機10の複数のギヤ段GS(変速段GS)を成立させる際の摩擦係合要素すなわち摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。自動変速機10は、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものであって、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース26内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部20とを共通の軸心C上に有し、入力軸22の回転を変速して出力歯車24から出力する。入力軸22は自動変速機10の入力回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の駆動力源であるエンジン30によって回転駆動される流体式伝動装置としてのトルクコンバータ32のタービン軸と一体的に構成されている。また、出力歯車24は自動変速機10の出力回転部材に相当するものであり、本実施例では例えば図3に示す差動歯車装置34に動力を伝達するために、デフリングギヤ36と噛み合うことでファイナルギヤ対を構成するデフドライブピニオンと同軸上に配置されたカウンタドリブンギヤと噛み合ってカウンタギヤ対を構成するカウンタドライブギヤとして機能している。そして、このように構成された自動変速機10等において、エンジン30の出力は、トルクコンバータ32、自動変速機10、差動歯車装置34、及び一対の車軸38等を順次介して左右の駆動輪40へ伝達されるようになっている(図3参照)。尚、自動変速機10やトルクコンバータ32は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心Cの下半分が省略されている。
自動変速機10は、第1変速部14及び第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1ギヤ段「1st」〜第6ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段(前進変速段)が成立させられるとともに、後進ギヤ段「R」の後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の何れもが解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
図2の作動表は、上記各ギヤ段GSとクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。尚、第1ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。また、各ギヤ段GSの変速比γGS(=入力軸22の回転速度NIN/出力歯車24の回転速度NOUT)は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、及び第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
上記クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合要素(油圧式摩擦係合装置)である。そして、油圧制御回路50内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5(図3参照)の励磁、非励磁や電流制御により、各クラッチC及びブレーキBの係合、解放状態が切り換えられると共に、係合、解放時の過渡係合油圧などが制御される。
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた電気的な制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御や自動変速機10の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用のエンジン制御装置やリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を制御する変速制御用の油圧制御装置等に分けて構成される。
図3において、運転者による車両に対する要求量(ドライバ要求量)としてのアクセルペダル52の操作量である所謂アクセル開度Accを検出するためのアクセル操作量センサ54、駆動力源の回転速度としてのエンジン30の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ56、エンジン30の冷却水温TWを検出するための冷却水温センサ58、エンジン30の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TAを検出するための吸入空気温度センサ62、電子スロットル弁の開度θTHを検出するためのスロットル弁開度センサ64、車速V(出力歯車24の回転速度NOUTに対応)を検出するための車速センサ66、常用ブレーキであるフットブレーキペダル68の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NTすなわち入力軸22の回転速度NINを検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路50内の作動油の温度である作動油温TOILを検出するための作動油温センサ78などが設けられており、それらのセンサやスイッチなどから、アクセル開度Acc、エンジン回転速度NE、エンジン冷却水温TW、吸入空気量Q、吸入空気温度TA、スロットル弁開度θTH、車速V、出力回転速度NOUT、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT(=入力回転速度NIN)、作動油温TOILなどを表す信号が電子制御装置100に供給されるようになっている。
また、電子制御装置100からは、エンジン30の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、例えばアクセル開度Accに応じて電子スロットル弁の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータへの駆動信号や燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を制御するための噴射信号やイグナイタによるエンジン30の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力されている。また、自動変速機10の変速制御の為の油圧制御指令信号SP、例えば自動変速機10のギヤ段GSを切り換えるために油圧制御回路50内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁などを制御するためのバルブ指令信号(油圧指令値、駆動信号)やライン油圧PLを調圧制御するためのリニアソレノイドバルブSLTへの駆動信号などが出力されている。
図4は、油圧制御回路50のうちクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3の作動を制御する電磁弁装置としてのリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する回路図である。図4において、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置100からの指令信号に応じた係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。このライン油圧PLは、例えばエンジン30によって回転駆動される機械式のオイルポンプ28から発生させられる作動油圧を元圧として、リリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(主調圧弁)80により調圧されるようになっている。例えば、ライン油圧PLは、アクセル開度Acc、吸入空気量Q、スロットル弁開度θTH、燃料噴射量、点火時期などの少なくとも1つで表されるエンジン負荷等から算出されるエンジントルクTEや変速機入力トルクTIN等のトルク情報に基づいたリニアソレノイドバルブSLTへの駆動信号により駆動させられるリニアソレノイドバルブSLTからの信号圧PSLTに応じた値にプライマリレギュレータバルブ80により調圧される。尚、リニアソレノイドバルブSLTへは、例えばライン油圧PLを元圧として不図示のモジュレータバルブにより一定圧に調圧されたモジュレータ油圧PMが供給される。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置100により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3が制御される。そして、自動変速機10は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各ギヤ段GSが成立させられる。また、自動変速機10の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放側摩擦係合装置と係合側摩擦係合装置との掴み替えによる所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。このクラッチツゥクラッチ変速の際には、変速ショックを抑制しつつ可及的に速やかに変速が実行されるように解放側摩擦係合装置の解放過渡係合油圧と係合側摩擦係合装置の係合過渡係合油圧とが適切に制御される。
前記解放側摩擦係合装置とは、各クラッチツゥクラッチ変速において解放される(新たに解放される)側の油圧式摩擦係合装置であり、例えば図2の係合作動表に示すように2速→3速アップシフトではブレーキB1が、3速→4速アップシフトではブレーキB3が、4速→5速アップシフトではクラッチC1が、5速→6速アップシフトではブレーキB3がそれぞれ相当する。また、前記係合側摩擦係合装置とは、各クラッチツゥクラッチ変速に関して係合される(新たに係合される)側の油圧式摩擦係合装置であり、例えば1速→2速アップシフトではブレーキB1が、2速→3速アップシフトではブレーキB3が、3速→4速アップシフトではクラッチC2が、4速→5速アップシフトではブレーキB3が、5速→6速アップシフトではブレーキB1がそれぞれ相当する。
図5は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、エンジン出力制御部すなわちエンジン出力制御手段102は、例えばスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置を制御し、点火時期制御のためにイグナイタを制御するエンジン出力制御指令信号SEを出力する。例えば、エンジン出力制御手段102は、図6に示すようなスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEの推定値(以下推定エンジントルク)TE’との予め実験的に求められて記憶された関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEに基づいて目標エンジントルクTE *が得られるスロットル弁開度θTHとなるように電子スロットル弁を開閉制御する。上記目標エンジントルクTE *は、例えば運転者のドライバ要求量に対応するアクセル開度Accに基づいてそのアクセル開度Accが大きい程大きくされるように電子制御装置100により求められるものであり、ドライバー要求エンジントルクに相当する。
油圧制御部すなわち油圧制御手段104は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、各リニアソレノイドバルブSL1〜SL5にそれぞれ対応するクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3を制御して何れかのギヤ段を成立させる。例えば、油圧制御手段104は、自動変速機10のギヤ段の成立に関与する油圧式摩擦係合装置を図2に示す係合表に従って選択的に係合させてギヤ段を維持させる油圧制御指令信号(油圧指令値)SPを油圧制御回路50へ出力する。また、油圧制御手段104は、例えば図7に示すような車速V及びアクセル開度Accを変数として予め記憶された関係(変速マップ、変速線図)から実際の車速V及びアクセル開度Accに基づいて変速判断を行い、自動変速機10の変速を実行すべきか否かを判断する。そして、油圧制御手段104は、自動変速機10の変速すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段が得られるように自動変速機10の自動変速制御を実行する変速指令を出力する変速制御部すなわち変速制御手段として機能する。例えば、油圧制御手段104は、図2に示す係合表に従ってギヤ段が達成されるように、自動変速機10の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号(変速出力指令値)SPを油圧制御回路50へ出力する。また、油圧制御手段104は、自動変速機10の変速の実行を判断した場合には、その変速判断時点から所定期間T経過後に変速指令の出力(変速出力)を開始する。つまり、油圧制御手段104は、例えば図7に示すような変速マップから実際の車速V及びアクセル開度Accに基づいて変速判断を行い、自動変速機10の変速の実行を判断してから所定期間Tは油圧制御指令信号SPの出力を待機する。
上記所定期間Tは、例えば自動変速機10の変速を判断する為の予め定められた変速マップに基づく変速判断時点からその変速判断に基づいて摩擦係合装置の係合状態を切換制御する為の所定の変速指令出力(例えば解放側摩擦係合装置の解放制御及び係合側摩擦係合装置の係合制御の為の変速出力)を開始するまでの予め定められた一定の待機時間であり、変速制御のロバスト性を確保する為の予め求められて設定されたタイマである。尚、ここで言うロバスト性を確保するとは、例えば変速判断が不安定でなくその判断された変速を実行してもよいことを確定することである。
図7の変速マップにおいて、実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。この図7の変速マップにおける変速線は、例えば実際のアクセル開度Acc(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VSを越えたか否かを判断するためのものであり、この値VSすなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されていることにもなる。
油圧制御手段104は、例えば実際の車速Vが2速→3速アップシフトを実行すべき2速→3速アップシフト線を横切ったと判断した場合には、すなわち変速点車速V2−3を越えたと判断した場合には、ブレーキB1を解放させると共にブレーキB3を係合させる指令を油圧制御回路50に出力する、すなわち非励磁によってブレーキB1の係合油圧PB1を排油(ドレン)させる指令をリニアソレノイドバルブSL3に出力すると共に、励磁によってブレーキB3の係合油圧PB3を供給させる指令をリニアソレノイドバルブSL5に出力する。
このように、油圧制御手段104は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、各リニアソレノイドバルブSL1〜SL5にそれぞれ対応するクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3に供給する係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3を制御して何れかのギヤ段を成立させる。また、油圧制御手段104は、変速ショックの抑制と変速応答性の向上とが両立するように、タービン回転速度NT及び出力回転速度NOUTに基づいて変速過程における係合油圧(解放過渡係合油圧及び/又は係合過渡係合油圧)をフィードバック制御したり或いは学習制御したりすることによりクラッチツゥクラッチ変速を行う。
前記油圧制御指令信号SPは、摩擦係合装置のトルク容量(クラッチトルク)を制御するためのトルク指令値、すなわち必要なトルク容量が得られる係合油圧を発生するための油圧指令値であって、例えば解放側摩擦係合装置のトルク指令値として解放側摩擦係合装置を解放する為の必要なトルク容量が得られるように作動油が排出される油圧指令値が出力されると共に、係合側摩擦係合装置のトルク指令値として係合側摩擦係合装置を係合する為の必要なトルク容量が得られるように作動油が供給される油圧指令値が出力される。また、自動変速機10の何れかのギヤ段GSを維持する非変速時或いは係合状態ではあるが変速に関与しないときには、変速機入力トルクTINに耐えうる摩擦力を保持できる(すなわちトルク容量を確保できる)係合油圧を発生するための油圧指令値が出力される。
油圧制御回路50は、油圧制御手段104による油圧指令SPに従って、自動変速機10の変速が実行されるように、或いは自動変速機10の現在のギヤ段GSが維持されるように、油圧制御回路50内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を作動させて、そのギヤ段GS成立(形成)に関与する油圧式摩擦係合装置の各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3を作動させる。
ここで、本実施例では、油圧指令値は予め適合作業によって各ギヤ段GS成立毎に設定されたものが用いられるのでなく、各ギヤ段GSの成立に必要な摩擦係合装置のクラッチトルクTC1、TC2、TB1、TB2、TB3(以下、特に区別しない場合はクラッチトルクTC)を求め、そのクラッチトルクTCから換算したそれぞれの油圧指令値すなわち係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3(以下、特に区別しない場合は係合油圧PC)が用いられる。以下に、係合油圧PCの設定すなわちリニアソレノイドバルブSL1〜SL5(特に区別しない場合はリニアソレノイドバルブSL)の出力油圧PCの設定について詳細に説明する。
推定トルク算出部すなわち推定トルク算出手段106は、自動変速機10の入力トルク関連値の推定値を算出する。この自動変速機10の入力トルク関連値は、例えば変速機入力トルクTIN(すなわちタービントルクTT)はもちろんのこと、それに関連するエンジントルクTEなどであるが、特に区別しない場合にはその推定値も含むものとする。推定トルク算出手段106は、図6に示すようなエンジントルクマップから実際のエンジン回転速度NE及びスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量Q、燃料噴射量、点火時期、アクセル開度Accなどの少なくとも1つ)に基づいて推定エンジントルクTE’を算出する。推定トルク算出手段106は、この推定エンジントルクTE’にトルクコンバータ32のトルク比t(=タービントルクTT/ポンプトルクTP(エンジントルクTE))を乗じて、変速機入力トルクTINの推定値(=TE’×t:以下、推定入力トルク)TIN’を算出する。このトルク比tは、トルクコンバータ32の速度比e(=タービン回転速度NT/ポンプ回転速度NP(エンジン回転速度NE))の関数であり、例えば速度比eとトルク比tとの予め実験的に求められて記憶された不図示の関係(マップ)から実際の速度比eに基づいて算出される。
必要係合油圧算出部すなわち必要係合油圧算出手段108は、例えば入力トルク関連値とクラッチトルクTCとの予め実験的に求められて記憶された不図示の関係(必要クラッチトルクマップ)から、推定トルク算出手段106により算出された推定エンジントルクTE’或いは推定入力トルクTIN’に基づいて、変速機入力トルクTINの伝達に必要な必要クラッチトルクTC *を算出する。そして、必要係合油圧算出手段108は、例えばクラッチトルクTCと係合油圧PCとの予め実験的に求められて記憶された不図示の関係(必要係合油圧マップ)から、上記必要クラッチトルクTC *に基づいて、変速機入力トルクTINの伝達に必要な必要係合油圧PC *すなわちリニアソレノイドバルブSLの必要出力油圧PC *を算出する。
ライン油圧設定部すなわちライン油圧設定手段110は、上記リニアソレノイドバルブSLの必要出力油圧PC *を得る為の元圧となるライン油圧PLを設定する。必要出力油圧PC *が得られる為にはその必要出力油圧PC *以上の油圧がリニアソレノイドバルブSLに入力される必要があるが、少なくとも必要出力油圧PC *が得られれば充分であり、燃費向上等の観点から、ライン油圧設定手段110は、例えば必要出力油圧PC *をライン油圧PLとして設定する。
以下に、油圧制御手段104が設定し、出力する非変速時におけるリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値すなわち駆動電流Iについて検討する。
リニアソレノイドバルブSLは、非変速時には、現在のギヤ段GSを維持する為に変速機入力トルクTINに耐えうる摩擦力を保持できる(すなわち伝達トルク容量を確保できる)係合油圧PCすなわち必要係合油圧PC *を出力すれば機能としては充分である。従って、図8のリニアソレノイドバルブSLの駆動特性図中に示す破線のように元圧であるライン油圧PLを超える係合油圧PCは得られないことを勘案すると、ライン油圧設定手段110により必要出力油圧PC *相当がライン油圧PLとして設定される場合、リニアソレノイドバルブSLの油圧指令値をライン油圧PLと同等に設定すればすなわちライン油圧PLと同等の出力油圧PCに対応する駆動電流IPLをリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値(駆動電流)として設定すれば消費電力を最小限とすることができる。よって、油圧制御手段104は、自動変速機10の所定の変速段としての現在のギヤ段GSを維持する非変速時には、ギヤ段GS形成に関与する摩擦係合装置への係合油圧PCの設定を推定入力トルクTIN’(或いは推定エンジントルクTE’)に基づく油圧例えばライン油圧PLとして、リニアソレノイドバルブSLの作動状態を図9に示す調圧状態とする。つまり、油圧制御手段104は、ライン油圧PL(駆動電流IPL)をリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値(駆動電流)として設定し、リニアソレノイドバルブSLの作動状態を図9に示す調圧状態とする。尚、リニアソレノイドバルブSLの調圧状態においては、リニアソレノイドバルブSLの電磁弁駆動力をFSL、スプリング82の付勢力をFSP、フィードバック油室84に受け入れた出力油圧PCよるスプール弁子86の受圧面積をAとすると、平衡状態は次式(1)で表される。
PC=(FSL−FSP)/A ・・・(1)
ところで、推定トルク算出手段106により算出される推定入力トルクTIN’(或いは推定エンジントルクTE’)は車両の運転状態の変化に合わせて変化し、ライン油圧設定手段110により設定されるライン油圧PLも変化する。一方、目標エンジントルクTE *(推定エンジントルクTE’)に対する実際のエンジントルクTEの応答遅れやリニアソレノイドバルブSL自体のばらつき(個体差)等も少なからず存在する。これにより、ライン油圧PL(駆動電流IPL)をリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値(駆動電流)として設定した非変速時(定常状態)においては、リニアソレノイドバルブSLの作動状態が必ずしも調圧状態とはならない可能性がある。例えば、リニアソレノイドバルブSLの油圧指令値をライン油圧PL相当として図9に示すような調圧状態としている筈なのに、実際にはスプール弁子86が調圧状態における位置よりもスプリング82側に移動させられて、図10に示すようにライン油圧PLが入力される入力ポート88が開放される非調圧状態とされる可能性がある。そうすると、上記定常状態からの自動変速機10の変速の際には、解放側摩擦係合装置を解放する為にリニアソレノイドバルブSLの排出ポート90が開放されるときのリニアソレノイドバルブSLによる解放側摩擦係合装置への出力油圧(係合油圧)PCの油圧応答が、調圧状態からでは早く、入力ポート88開放の非調圧状態からでは遅くなる可能性がある(図24参照)。このように、リニアソレノイドバルブSLの作動状態が変化することによりリニアソレノイドバルブSLの出力油圧の応答性に差が生じる可能性がある。その為、係合油圧PCの応答性がばらつき要素となって例えば変速時の解放側摩擦係合装置の解放性能に影響を及ぼす可能性がある。また、リニアソレノイドバルブSLは、それ自体の個体差により変速開始時の初期電流におけるステップ応答性に差が生じる可能性がある。従って、このような応答性のばらつきにより変速のロバスト性が失われ、結果として変速ショックを増大させる可能性がある。尚、ここでの上記ロバスト性とは、例えば外乱やモデル化誤差に対してシステムが不安定にならないことを示すものである。
上述したような問題に対して、出力油圧(係合油圧)PCとしては同じライン油圧PLとなるものの、例えばリニアソレノイドバルブSLの最大油圧PCmaxと同等の出力油圧PCに対応する駆動電流Imax以上にリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値(駆動電流)を設定し、非変速時には必ず図10に示すような入力ポート88開放の非調圧状態として上述のような応答性のばらつきを低減することが考えられる。しかしながら、最大油圧PCmaxを出力することによりリニアソレノイドバルブSLにて消費される電力は最大となってしまい、燃費等の観点から好ましいものではない。
そこで、本実施例では、油圧制御手段104は、リニアソレノイドバルブSLの消費電力を抑制しつつ出力油圧(係合油圧)PCの応答性を安定させる為に、自動変速機10の変速時には、解放側摩擦係合装置の解放制御の開始に先立って解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの設定すなわち解放側摩擦係合装置に対するリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PC(油圧指令値)の設定を非変速時における係合油圧PCの設定(すなわちライン油圧PL)より第1所定期間T(1)だけ一時的に第1所定油圧C(1)分高くする。このライン油圧PLより第1所定油圧C(1)分高く設定される解放側摩擦係合装置への係合油圧PCは、例えばリニアソレノイドバルブSLが出力可能な予め求められた最大油圧PCmaxである(図8参照)。つまり、油圧制御手段104は、自動変速機10の変速時には、解放側摩擦係合装置の解放制御の開始に先立って、ライン油圧PLより第1所定油圧C(1)分高い最大油圧PCmaxに対応する駆動電流Imax以上を解放側摩擦係合装置に対するリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値(駆動電流)として第1所定期間T(1)だけ一時的に設定する。このように、実際の変速開始に先立ってリニアソレノイドバルブSLを一時的に入力ポート88開放の非調圧状態とすることで変速開始時のリニアソレノイドバルブSLの作動状態を一定に保ち、変速の際の変速応答性のばらつきを低減するのである。
上記第1所定油圧C(1)は、上記第1所定期間T(1)において一時的にライン油圧PLに対して加算されるだけであることから、加算による燃費悪化を抑制するよりも出力油圧(係合油圧)PCの応答性ばらつきが確実に抑制されるように非変速時の油圧に対して加算される予め求められた充分な油圧である。その為、非変速時の油圧より第1所定油圧C(1)分高い油圧は、解放側摩擦係合装置へ係合油圧PCを出力するリニアソレノイドバルブSLが出力可能な最大油圧PCmaxとされる。また、最大油圧PCmaxとするだけでよいので制御が容易である。
上記第1所定期間T(1)は、出力油圧(係合油圧)PCの応答性を安定させる為に実際の変速開始に先立って非変速時の油圧より第1所定油圧C(1)分高い油圧を設定する為の予め求められた一定時間である。例えば、この第1所定期間T(1)は、変速マップに基づく自動変速機10の変速判断時点から摩擦係合装置の係合状態を切換制御する為の所定の変速指令(油圧制御指令信号SP)の出力を開始するまでの待機時間として設定された前記所定期間Tが用いられる。このように、油圧制御指令信号SPの出力を待機する為に自動変速機10の変速時に元々設定されている所定期間Tを利用して、変速の開始前にリニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とするのである。
図11は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちライン油圧PLを設定する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
図11において、先ず、推定トルク算出手段106に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、例えば図6に示すようなエンジントルクマップから実際のエンジン回転速度NE及びスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量Q、燃料噴射量、点火時期、アクセル開度Accなどの少なくとも1つ)に基づいて推定エンジントルクTE’が算出される。次いで、同じく推定トルク算出手段106に対応するS2において、例えば上記S1にて算出された推定エンジントルクTE’にトルクコンバータ32のトルク比tを乗じて推定入力トルクTIN’(=TE’×t)が算出される。次いで、必要係合油圧算出手段108に対応するS3において、例えば不図示の前記必要クラッチトルクマップから上記S2にて算出された推定入力トルクTIN’に基づいて必要クラッチトルクTC *が算出される。次いで、同じく必要係合油圧算出手段108に対応するS4において、例えば不図示の前記必要係合油圧マップから上記S3にて算出された必要クラッチトルクTC *に基づいて必要係合油圧PC *(すなわちリニアソレノイドバルブSLの必要出力油圧PC *)が算出される。次いで、ライン油圧設定手段110に対応するS5において、例えば上記S4にて算出された必要係合油圧PC *(必要出力油圧PC *)がライン油圧PLとして設定される。
図12は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちリニアソレノイドバルブSLの消費電力を抑制しつつ摩擦係合装置への係合油圧PCの応答性すなわちリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PCの応答性を安定させる為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図13は、図12の制御作動に対応するタイムチャートであり、自動変速機10のn速→(n−1)速ダウンシフトが行われる場合の一例である。
図12において、先ず、油圧制御手段104に対応するS10において、例えば図7に示すような変速マップから実際の車速V及びアクセル開度Accに基づいて変速判断が行われ、自動変速機10の変速の実行が判断され、自動変速機10の変速すべきギヤ段が判断される。上記S10の判断が肯定される場合(図13のt1時点)は同じく油圧制御手段104に対応するS20において、解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの設定すなわち解放側摩擦係合装置に対するリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PC(油圧指令値)の設定がリニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とするには充分な油圧例えばリニアソレノイドバルブSLが出力可能な最大油圧PCmaxとされる(図13のt1時点乃至t2時点)。例えば、最大油圧PCmaxに対応する駆動電流Imax以上が解放側摩擦係合装置に対するリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値(駆動電流)として設定される。次いで、同じく油圧制御手段104に対応するS30において、例えば油圧制御指令信号SPの出力を待機する為の所定期間T(言い換えれば係合油圧PCの応答性を安定させる為の第1所定期間T(1))が経過したか否かが判断される。このS30の判断が否定される場合はS30が繰り返し実行されるが肯定される場合は同じく油圧制御手段104に対応するS40において、例えば上記S10にて判断されたギヤ段が得られるように自動変速機10の自動変速制御を実行する変速指令が出力される(図13のt2時点)。具体的には、図2に示す係合表に従ってギヤ段が達成されるように、自動変速機10の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号(変速出力指令値)SPが油圧制御回路50へ出力される。このように、変速出力が開始されて上記S10にて判断された自動変速機10の変速が実行される。次いで、同じく油圧制御手段104に対応するS50において、例えばS40にて実行されている自動変速機10の変速の終了が判断される。例えば、現在実行されている変速において予め設定された所定変速時間が経過したか否か、或いは実際の入力回転速度NINが変速後の入力回転速度(=変速後のギヤ段GSにおける変速比γGS×実際の出力回転速度NOUT)に同期したか否かなど、公知の方法により自動変速機10の変速の終了が判断される。このS50の判断が否定される場合はS50が繰り返し実行される。そして、上記S10の判断が否定される場合或いは上記S50の判断が肯定される場合(図13のt3時点)は同じく油圧制御手段104に対応するS60において、例えば自動変速機10の現在のギヤ段GS成立に関与して係合される摩擦係合装置への係合油圧PCの設定すなわちリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PC(油圧指令値)の設定がライン油圧PL相当とされる(図13のt3時点以降、図13のt1時点以前)。例えば、ライン油圧PL相当の出力油圧PCに対応する駆動電流IPLがリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値(駆動電流)として設定される。この図12においては、S10〜S50が変速中に相当し、S60が非変速中に相当する。尚、自動変速機10のn速→(n−1)速ダウンシフトには関与しないが、n速及び(n−1)速のギヤ段形成に関与して係合状態が維持される摩擦係合装置(係合中摩擦係合装置)については、変速中であってもその係合中摩擦係合装置の係合油圧PC(係合中油圧指令値)の設定がライン油圧PLとされる。つまり、この変速に関与しない係合中摩擦係合装置に関しては、非変速時はもちろんのこと変速中も係合油圧PCの設定がライン油圧PLとされる。見方を換えれば、変速中であっても、変速に関与しない係合中摩擦係合装置においては非変速中と見ることができる。これにより、一層燃費向上に有利となる。
図12、13に示すように、実際に変速が実行されることに先立って解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの設定が最大油圧PCmaxとされることから、実際の変速の際には常にリニアソレノイドバルブSLにおいては入力ポート88開放の非調圧状態から係合油圧制御が開始される。よって、図14に示すように、係合油圧PCの設定がライン油圧PLとされることに比べて(図13の破線)、摩擦係合装置を解放する際の応答時間(図14中一点鎖線で示すばらつきの中央値等参照)は長くなる傾向はあるものの、その応答時間のばらつき(図14中●−●)は抑制される(図24の従来例参照)。また、係合油圧PCの設定が非変速中においてリニアソレノイドバルブSLの最大油圧PCmaxとされることに比べて(図13の二点鎖線参照)、リニアソレノイドバルブSLの消費電力が抑制される。尚、図13においては、t1時点以前及びt3時点以降が非変速中に相当し、t1時点乃至t3時点が変速中に相当する。
上述のように、本実施例によれば、自動変速機10の変速時には、油圧制御手段104により解放側摩擦係合装置の解放制御の開始に先立ってその解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの設定が非変速時における係合油圧PCの設定より第1所定期間T(1)だけ一時的に第1所定油圧C(1)分高くされるので、解放側摩擦係合装置への係合油圧PCとして非変速時の油圧がそのまま設定されることと比較して、解放側摩擦係合装置の解放制御の開始に先立って第1所定油圧C(1)分の油圧余裕が設定されている分、例えばライン油圧PLの設定の基になる入力トルク関連値(例えばエンジントルクTEや入力トルクTIN等)の推定値の変化に対する実際の入力トルク関連値の応答遅れやリニアソレノイドバルブSL自体のばらつき等によりリニアソレノイドバルブSLの作動状態が所望状態から変化してしまうことが解放制御の開始に先立って抑制される。従って、変速時に解放側摩擦係合装置の解放制御を開始した際の変速応答性(油圧応答性)のばらつきが抑制される。加えて、その応答性のばらつきを低減する為にギヤ段GS形成に関与する摩擦係合装置への係合油圧PCの設定を非変速時にも第1所定油圧C(1)分高く設定することと比較して、リニアソレノイドバルブSLの消費電力が抑制される。よって、リニアソレノイドバルブSLの消費電力を抑制しつつ、摩擦係合装置への係合油圧PCの応答性を安定させることができる。これにより、例えば変速の際に解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの応答性すなわち解放側摩擦係合装置の解放性能(変速特性)を安定させることができる。
また、本実施例によれば、油圧制御手段104は、非変速時における係合油圧PCの設定をライン油圧PLとするので、非変速時にはリニアソレノイドバルブSLの消費電力を可及的に抑制することができる。
また、本実施例によれば、非変速時における係合油圧PCの設定より第1所定油圧C(1)分高く設定される解放側摩擦係合装置への係合油圧PCは、リニアソレノイドバルブSLが出力可能な予め求められた最大油圧PCmaxである。このようにすれば、解放側摩擦係合装置の解放制御を開始した際には、解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの応答がリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PCが最大油圧PCmaxとされる一定状態の非調圧状態からとされるので、変速応答性のばらつきが確実に抑制される。また、リニアソレノイドバルブSLを非調圧状態とする為の最大油圧設定は解放制御を開始する直前の一時的なものとされるので、リニアソレノイドバルブSLの消費電力が確実に抑制される。
また、本実施例によれば、第1所定期間T(1)は、自動変速機10の変速を判断する為の予め定められた変速マップに基づく変速判断時点からその変速判断に基づいて摩擦係合装置の係合状態を切換制御する為の所定の変速指令出力を開始するまでの予め定められた一定の待機時間としての所定期間Tである。このようにすれば、解放側摩擦係合装置の解放制御の開始に先立って解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの設定を非変速時における係合油圧PCの設定より一時的に第1所定油圧C(1)分高くする為の一定の期間が適切に設定される。また、変速制御に際して元々設定されている所定期間Tを利用して、解放制御を開始する直前に解放側摩擦係合装置への係合油圧PCを一時的に第1所定油圧C(1)分高く設定することができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施例の自動変速機10は、非変速時に少なくとも2つの摩擦係合装置が係合されることで形成されるギヤ段GSを複数有している。このような変速機において変速が実行される際は、例えば前記係合中の2つの摩擦係合装置のうちの一方のみが解放されると共に解放中の摩擦係合装置が新たに係合される。この変速の実行中に次の変速が判断され、その判断された変速の変速指令が出力される所謂多重変速が実行される場合がある。この多重変速では、ギヤ段GSを形成する2つの摩擦係合装置のうち、最初の変速(第1変速)には関与しておらず且つ次回の変速(第2変速)時には解放側摩擦係合装置となるものがある。例えば、5→4ダウンシフト中に4→3ダウンシフトが行われる5→4→3多重変速において、クラッチC2は5→4ダウンシフト(第1変速)には関与しておらず且つ4→3ダウンシフト(第2変速)時には解放側摩擦係合装置となる。このような多重変速において、第1変速における解放側摩擦係合装置に対しては、前述の実施例1,2と同様に、解放制御に先立って係合油圧PCの設定を非変速時の油圧設定より第1所定期間T(1)だけ一時的に第1所定油圧C(1)分高くすれば良い。そして、第2変速時の変速応答性のばらつきを抑制するという観点から、第2変速における解放側摩擦係合装置に対しては、その第2変速が判断されるよりも前から係合油圧PCの設定を非変速時の油圧設定より一時的に第2所定油圧C(2)分高くすることが考えられる。つまり、第2変速の実行が未だ判断される前から予め解放側摩擦係合装置の係合油圧PCを非変速時の油圧より第2所定油圧C(2)分高く設定するのである。
但し、第1変速の変速判断時や変速中に第2変速の実行を予測することすなわち多重変速の実行を予測することは困難である。また、第1変速前のギヤ段GSを形成する2つの摩擦係合装置のうちの何れかが第1変速には関与しておらず且つ第2変速時には解放側摩擦係合装置となる多重変速は、5→4→3多重変速、3→4→5多重変速、4→5→3多重変速、5→4→2多重変速、5→3→2多重変速、6→5→3多重変速等複数存在する。更に、4→5→3多重変速ではクラッチC2が5→3ダウンシフト時(第2変速時)に解放側摩擦係合装置となるが、4→5アップシフト中に5→3ダウンシフトが開始されるとは限らず、次の変速においてクラッチC2が解放側摩擦係合装置となるとは限らない。このように、第1変速時に第2変速時の解放側摩擦係合装置を予測して、その解放側摩擦係合装置の係合油圧PCの設定を非変速時の油圧設定より第2所定油圧C(2)分高くすることは困難である。そこで、第1変速が実行される際には、第2変速時に解放側摩擦係合装置となる可能性のある摩擦係合装置の何れもすなわち第1変速には関与しないがギヤ段GS形成には関与している係合中摩擦係合装置を第2所定油圧C(2)分高くする対象の摩擦係合装置とする。
具体的には、油圧制御手段104は、前述の実施例に加えて、リニアソレノイドバルブSLの消費電力を抑制しつつ多重変速のうちの第2変速における出力油圧(係合油圧)PCの応答性を安定させる為に、自動変速機10の第1変速時には、第1変速には関与しないがギヤ段GS形成には関与している係合中摩擦係合装置への係合油圧PCの設定すなわち係合中摩擦係合装置に対するリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PC(油圧指令値)の設定を、第1変速中における第2所定期間T(2)において非変速時における係合油圧PCの設定(すなわちライン油圧PL)より一時的に第2所定油圧C(2)分高くする。このライン油圧PLより第2所定油圧C(2)分高く設定される係合中摩擦係合装置への係合油圧PCは、例えばリニアソレノイドバルブSLが出力可能な予め求められた最大油圧PCmaxである。つまり、油圧制御手段104は、自動変速機10の変速時には、多重変速となるか否かに拘わらず、第1変速中にて、ライン油圧PLより第2所定油圧C(2)分高い最大油圧PCmaxに対応する駆動電流Imax以上を係合中摩擦係合装置に対するリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値(駆動電流)として第2所定期間T(2)だけ一時的に設定する。このように、実際の第2変速開始に先立ってリニアソレノイドバルブSLを一時的に入力ポート88開放の非調圧状態とすることで第2変速開始時のリニアソレノイドバルブSLの作動状態を一定に保ち、第2変速の際の変速応答性のばらつきを低減するのである。
上記第2所定油圧C(2)は、上記第2所定期間T(2)において一時的にライン油圧PLに対して加算されるだけであることから、加算による燃費悪化を抑制するよりも出力油圧(係合油圧)PCの応答性ばらつきが確実に抑制されるように非変速時の油圧に対して加算される予め求められた充分な油圧である。その為、非変速時の油圧より第2所定油圧C(2)分高く設定する油圧は、係合中摩擦係合装置へ係合油圧PCを出力するリニアソレノイドバルブSLが出力可能な予め求められた最大油圧PCmaxとされるのである。
上記第2所定期間T(2)は、例えば第1変速における前記第1所定期間T(1)の終了時点を起点とする。そして、自動変速機10の第1変速中に第2変速が開始される場合には、第2所定期間T(2)は、現在実行されている第1変速中において第2変速の為の油圧制御が開始されるまでの期間とする。一方で、自動変速機10の第1変速中に第2変速が開始されない場合には、第2所定期間T(2)は、現在実行されている第1変速の為の油圧制御が終了するまでの期間とする。尚、自動変速機10の第1変速中に第2変速が開始される場合には、第2変速の判断時点では既に第2変速時の解放側摩擦係合装置の係合油圧PCの設定が非変速時の油圧より第2所定油圧C(2)分高くされているので、前述の実施例のように第2変速の判断時点から油圧制御指令信号SPの出力までの待機期間(第1所定期間T(1)相当)を設ける必要はない。従って、この場合には、上記第2所定期間T(2)は、前記第1所定期間T(1)終了時点から第2変速の判断時点までの期間となる。
図17は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちリニアソレノイドバルブSLの消費電力を抑制しつつ摩擦係合装置への係合油圧PCの応答性すなわちリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PCの応答性を安定させる為の制御作動を説明するフローチャートであって、図12に相当する別の実施例である。また、図18,19は、図17の制御作動に対応するタイムチャートである。図18は自動変速機10のn速→(n−1)速→(n−2)速の多重変速が行われる場合の一例であり、図19は自動変速機10のn速→(n−1)速の単一ダウンシフトが行われる場合の一例である。
図17において、先ず、油圧制御手段104に対応するS210において、例えば図7に示すような変速マップから実際の車速V及びアクセル開度Accに基づいて変速判断が行われ、自動変速機10の第1変速の実行が判断され、自動変速機10の変速すべきギヤ段が判断される。上記S210の判断が肯定される場合(図18,19のt1時点)は同じく油圧制御手段104に対応するS220において、解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの設定すなわち解放側摩擦係合装置に対するリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PC(油圧指令値)の設定がリニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とするには充分な油圧例えばリニアソレノイドバルブSLが出力可能な最大油圧PCmaxとされる(図18,19のt1時点乃至t2時点)。次いで、同じく油圧制御手段104に対応するS230において、例えば第1変速の為の油圧制御指令信号SPの出力を待機する為の所定期間T(言い換えれば係合油圧PCの応答性を安定させる為の第1所定期間T(1))が経過したか否かが判断される。このS230の判断が否定される場合はS230が繰り返し実行されるが肯定される場合は同じく油圧制御手段104に対応するS240において、例えば上記S210にて判断されたギヤ段が得られるように自動変速機10の自動変速制御を実行する変速指令が出力される(図18,19のt2時点)。具体的には、図2に示す係合表に従ってギヤ段が達成されるように、自動変速機10の第1変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号(変速出力指令値)SPが油圧制御回路50へ出力される。このように、第1変速出力が開始されて上記S210にて判断された自動変速機10の第1変速が実行される。略同時に、同じく油圧制御手段104に対応するS250において、例えば第1変速には関与しないがギヤ段GS形成には関与している係合中摩擦係合装置への係合油圧PCの設定すなわち係合中摩擦係合装置に対するリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PC(油圧指令値)の設定がリニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とするには充分な油圧例えばリニアソレノイドバルブSLが出力可能な最大油圧PCmaxとされる(図18,19のt2時点)。
次いで、同じく油圧制御手段104に対応するS260において、例えば図7に示すような変速マップから実際の車速V及びアクセル開度Accに基づいて変速判断が行われ、自動変速機10の第2変速の実行が判断され、自動変速機10の変速すべきギヤ段が判断される。上記S260の判断が否定される場合は同じく油圧制御手段104に対応するS270において、例えばS240にて実行されている自動変速機10の第1変速の終了が判断される。このS270の判断が否定される場合は上記S260以降が繰り返し実行される。一方で、上記S260の判断が肯定される場合は同じく油圧制御手段104に対応するS280において、例えば上記S260にて判断されたギヤ段が得られるように自動変速機10の自動変速制御を実行する変速指令が出力される(図18のt3時点)。具体的には、図2に示す係合表に従ってギヤ段が達成されるように、自動変速機10の第2変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号(変速出力指令値)SPが油圧制御回路50へ出力される。このように、第2変速出力が開始されて上記S260にて判断された自動変速機10の第2変速が実行される。次いで、同じく油圧制御手段104に対応するS290において、例えばS280にて実行されている自動変速機10の第2変速の終了が判断される。このS290の判断が否定される場合はS290が繰り返し実行される。そして、上記S210の判断が否定される場合、上記S270の判断が肯定される場合(図19のt3時点)、或いは上記S290の判断が肯定される場合(図18のt4時点)は同じく油圧制御手段104に対応するS300において、例えば自動変速機10の現在のギヤ段GS成立に関与して係合される摩擦係合装置への係合油圧PCの設定すなわちリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PC(油圧指令値)の設定がライン油圧PL相当とされる(図18のt4時点以降、図19のt3時点以降、図18,19のt1時点以前)。この図17においては、S210〜S290が変速中に相当し、S300が非変速中に相当する。
図17、18、19に示すように、実際に第2変速が実行されるか否かに拘わらず係合中摩擦係合装置への係合油圧PCの設定が最大油圧PCmaxとされることから、実際に第2変速が開始された際には常にリニアソレノイドバルブSLにおいては入力ポート88開放の非調圧状態から係合油圧制御が開始される。よって、係合中摩擦係合装置への係合油圧PCの設定がライン油圧PLとされることに比べて(図18,19の破線)、摩擦係合装置を解放する際の応答時間は長くなる傾向はあるものの、その応答時間のばらつきは抑制される。また、係合中摩擦係合装置への係合油圧PCの設定が非変速中においてリニアソレノイドバルブSLの最大油圧PCmaxとされることに比べて(図18,19の二点鎖線参照)、リニアソレノイドバルブSLの消費電力が抑制される。また、第2変速の判断時点(図18のt3時点)から図18の破線(長線分)に示すような第1所定期間T(1)を設けることなく第2変速における解放制御の為の変速指令が出力開始されて、第2変速が速やかに実行(進行)される。尚、図18においては、t1時点以前及びt4時点以降が非変速中に相当し、t1時点乃至t4時点が変速中に相当する。また、図19においては、t1時点以前及びt3時点以降が非変速中に相当し、t1時点乃至t3時点が変速中に相当する。
上述のように、本実施例によれば、油圧制御手段104は、自動変速機10の第1変速時には、第1変速には関与しないがギヤ段GS形成には関与している係合中摩擦係合装置への係合油圧PCの設定を、第1変速中における第2所定期間T(2)において非変速時における係合油圧PCの設定より一時的に第2所定油圧C(2)分高くする。つまり、現在の変速(第1変速)が終了する前に次回の変速(第2変速)が開始されるか否かに拘わらず、第1変速中には第2変速時に解放側摩擦係合装置となる可能性のある係合中摩擦係合装置への係合油圧PCの設定を、非変速時における係合油圧PCの設定より第2所定油圧C(2)分高くする。このようにすれば、第1変速中に開始される第2変速時には解放側摩擦係合装置の係合油圧PCの設定が第1変速中において既に第2所定油圧C(2)分高くされているので、第1変速中に開始される第2変速時において解放側摩擦係合装置の解放制御の開始に先立って解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの設定を第1所定油圧C(1)分高くする為の第1所定期間T(1)を設ける必要がない。よって、第1変速中に開始される第2変速の際に解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの応答性すなわち解放側摩擦係合装置の解放性能(変速特性)を安定させることができるのはもちろんのこと、第1変速中に開始される第2変速時に改めて上記第1所定期間T(1)を設けることに比較して、第2変速の開始が速やかに実行(進行)される。
また、本実施例によれば、非変速時における係合油圧PCの設定より第2所定油圧C(2)分高く設定される係合中摩擦係合装置への係合油圧PCは、リニアソレノイドバルブSLが出力可能な予め求められた最大油圧PCmaxである。このようにすれば、第1変速中に開始される第2変速時において解放側摩擦係合装置の解放制御を開始した際には、解放側摩擦係合装置への係合油圧PCの応答がリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PCが最大油圧PCmaxとされる一定状態の非調圧状態からとされるので、変速応答性のばらつきが確実に抑制される。また、リニアソレノイドバルブSLを非調圧状態とする為の最大油圧設定は第1変速中における第2所定期間T(2)の一時的なものとされるので、リニアソレノイドバルブSLの消費電力が確実に抑制される。
また、本実施例によれば、第2所定期間T(2)は、自動変速機10の第1変速中に第2変速が開始される場合には、現在実行されている第1変速中に第2変速の為の油圧制御が開始されるまでの期間である。また、第2所定期間T(2)は、自動変速機10の第1変速中に第2変速が開始されない場合には、現在実行されている第1変速の為の油圧制御が終了するまでの期間である。また、第2所定期間T(2)は、第1所定期間T(1)の終了時点を起点とする。このようにすれば、第1変速中に開始される可能性のある第2変速時に備えて係合中摩擦係合装置への係合油圧PCの設定を非変速時における係合油圧PCの設定より一時的に第2所定油圧C(2)分高くする為の期間が適切に設定される。
以下、第1所定油圧C(1)と第2所定油圧C(2)とを特に区別しない場合には、所定油圧Cと表す。
前述の実施例では、第1所定期間T(1)(或いは第2所定期間T(2))においてリニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とする為に、解放側摩擦係合装置(或いは係合中摩擦係合装置)への係合油圧PCの設定がライン油圧PLより第1所定油圧C(1)(或いは第2所定油圧C(2))分高い係合油圧PCとしての最大油圧PCmaxとされたが、最大油圧PCmaxでなくともリニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とするには充分な油圧であれば良い。例えば、ライン油圧PLより所定油圧C分高い係合油圧PCすなわちリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PC(油圧指令値)は、入力ポート88開放の非調圧状態とする為の予め求められた可及的に低い油圧であっても良い(図20参照)。つまり、油圧制御手段104は、第1所定期間T(1)(或いは第2所定期間T(2))において、ライン油圧PLより所定油圧C分高い出力油圧PC’(=PL+C)に対応する駆動電流IPL+CをリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値(駆動電流)として設定する。
具体的には、図21に示すような入力ポート88開放の非調圧状態となるスプール弁子86位置の調圧状態におけるスプール弁子86位置(図9参照)からの変位をx、スプリング82のバネ定数をk、推定エンジントルクTE’(或いは推定入力トルクTIN’)や調圧時のライン油圧PLや調圧時の出力油圧PC等のばらつき要素を予め求めて油圧換算したものをPv、推定エンジントルクTE’(或いは推定入力トルクTIN’)に対する必要なライン油圧すなわち出力油圧PCの設定をライン油圧PLとすると、入力ポート88開放の非調圧状態とする際に必要となるリニアソレノイドバルブSLの電磁弁駆動力FSL’は次式(2)で表される。そして、Pv、A、FSP、kxは定数である為、これらを定数Cとして括ると、次式(3)で表される。
FSL’=(PL+Pv)×A+FSP+kx ・・・(2)
FSL’=(PL+C)×A ・・・(3)
上記式(3)において、例えばリニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とする最低の電磁弁駆動力FSL’が設定される。従って、上記式(3)中の定数Cが所定油圧Cとして設定される。このように、所定油圧Cは、リニアソレノイドバルブSLにおいてライン油圧PLの入力ポート88と摩擦係合装置への係合油圧PCの供給ポート92とを共に開放させつつ連通させる為に、且つリニアソレノイドバルブSLを非調圧状態とする為に非変速時における係合油圧PC(ライン油圧PL)に対して加算される予め求められた可及的に低い油圧である。つまり、所定油圧Cは、リニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とする為にライン油圧PLに対して加算される予め求められた可及的に低い油圧である。また、所定油圧Cは、リニアソレノイドバルブSLによる摩擦係合装置への係合油圧PCの制御に関与する上記ばらつき要素に基づいてリニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とする為の予め求められた油圧でもある。
上述のように、第1所定期間T(1)(或いは第2所定期間T(2))におけるリニアソレノイドバルブSLの油圧指令値の設定において、ライン油圧PLに対して一定の余裕代として所定油圧Cを設定する実施例を説明した。ところで、油圧制御回路50の設計によっては、オイルポンプ28の回転速度増加によりポンプ吐出流量が増加し、プライマリレギュレータバルブ80のスプール弁子に作用するフローフォース(流体力)によって、実際には設定よりも大きなライン油圧PLが発生する可能性がある。その為、直接的にライン油圧PLを検出している場合を除き、推定エンジントルクTE’(或いは推定入力トルクTIN’)に基づいてライン油圧PLを設定している場合においては、上記一定の所定油圧CではリニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とする為の電磁弁駆動力FSL’が不足する可能性がある。そこで、本実施例では、油圧制御手段104は、オイルポンプ28の吐出流量が増大することによるライン油圧PLの設定値からの予め求められた上昇分ΔPLに基づいて、所定油圧Cを変更する。
具体的には、図22は、オイルポンプ回転速度NOPが高い程、ライン油圧PLの設定値に対して実際のライン油圧(実ライン油圧)PLが大きくされることが予め求められて記憶された関係(実ライン油圧マップ)である。図22において、例えばオイルポンプ回転速度NOPがNOP’であるときには、実ライン油圧PLはライン油圧設定手段110によるライン油圧PLの設定値に対して予め求められた上昇分ΔPLだけ増大させられる。油圧制御手段104は、上記図22に示すような関係から実際のオイルポンプ回転速度関連値に基づいて、実際のオイルポンプ回転速度関連値が低い程所定油圧Cを小さくし、実際のオイルポンプ回転速度関連値が高い程所定油圧Cを大きくする。つまり、油圧制御手段104は、上記図22に示すような関係から実際のオイルポンプ回転速度関連値に基づいて、所定油圧Cを予め求められた上昇分ΔPLだけ増大させる。尚、上記オイルポンプ回転速度関連値は、例えばオイルポンプ回転速度NOPすなわちエンジン回転速度NEはもちろんのこと、それに関連するタービン回転速度NT(すなわち入力回転速度NIN)などである。
上述のように、本実施例によれば、所定油圧Cは、解放側油圧式摩擦係合装置(或いは係合中油圧式摩擦係合装置)への係合油圧PCを制御するリニアソレノイドバルブSLにおいてその係合油圧PCを制御する為の元圧となるライン油圧PLの入力ポート88とその係合油圧PCの供給ポート92とを共に開放させつつ連通させる為に、且つリニアソレノイドバルブSLを非調圧状態とする為に非変速時における係合油圧PCに対して加算される予め求められた油圧である。このようにすれば、単一の変速(或いは多重変速)において解放側油圧式摩擦係合装置の解放制御を開始した際には、解放側油圧式摩擦係合装置への係合油圧PCの応答すなわちリニアソレノイドバルブSLの出力油圧PCの応答が入力ポート88開放の一定状態の非調圧状態からとされるので、変速応答性のばらつきが確実に抑制される。また、リニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とする為の油圧設定は解放制御の開始に先立つ第1所定期間T(1)の一時的なもの(或いは第1変速中における第2所定期間T(2)の一時的なもの)とされるので、リニアソレノイドバルブSLの消費電力が確実に抑制される。
また、本実施例によれば、ライン油圧PLの元圧となる作動油圧を発生させるオイルポンプ28の吐出流量が増大することによるライン油圧PLの設定値からの予め求められた上昇分ΔPLに基づいて所定油圧Cが変更される。このようにすれば、ライン油圧PLの設定値に対して実際のライン油圧PLがオイルポンプ28の吐出流量増大によって上昇させられることで所定油圧C分の一定の油圧余裕の上乗せでは摩擦係合装置への係合油圧PCの設定が不足する可能性があることが回避される。
また、本実施例によれば、オイルポンプ回転速度関連値(例えばオイルポンプ回転速度NOPすなわちエンジン回転速度NE等)が高い程、設定したライン油圧PLに対して実際のライン油圧PLが大きくされる予め求められた関係から、実際のオイルポンプ回転速度関連値に基づいて、実際のオイルポンプ回転速度関連値が低い程所定油圧Cが小さくされ、実際のオイルポンプ回転速度関連値が高い程所定油圧Cを大きくされる。このようにすれば、摩擦係合装置への係合油圧PCの設定が不足することが適切に回避される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、第2所定期間T(2)は、第1変速における第1所定期間T(1)の終了時点を起点とするものであったが、第1所定期間T(1)の開始時点を起点とするものであっても良い。例えば、図18,19のタイムチャートにおいて、第2所定期間T(2)はt2時点乃至t3時点の期間であったが、t1時点乃至t3時点の期間であっても良い。このようにしても、第1変速中に開始される可能性のある第2変速時に備えて係合中摩擦係合装置への係合油圧PCの設定を非変速時における係合油圧PCの設定より一時的に第2所定油圧C(2)分高くする為の期間が適切に設定される。但し、図18,19のタイムチャートに示すように第1所定期間T(1)の終了時点を起点とする方が、第1所定期間T(1)の開始時点を起点とするよりも、係合中摩擦係合装置への係合油圧PCの設定が非変速時の設定より第2所定油圧C(2)分高くされる期間が短くされるので、リニアソレノイドバルブSLの消費電力が抑制されて燃費向上には有利である。
また、前述の実施例では、第1所定期間T(1)(或いは第2所定期間T(2))においてライン油圧PLより所定油圧C分高い出力油圧PC’(=PL+C)として最大油圧PCmaxやリニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とする為の予め求められた可及的に低い油圧(PC’min)が設定されたが、リニアソレノイドバルブSLを入力ポート88開放の非調圧状態とするには充分な油圧であれば良い。例えば、出力油圧PC’(=PL+C)は可及的に低い油圧(PC’min)以上最大油圧PCmax以下の範囲の油圧であれば良い。また、第1所定油圧C(1)と第2所定油圧C(2)とは同じ油圧とされる必要はなく、例えば(PL+C(1))は最大油圧PCmaxとされ、(PL+C(2))は可及的に低い油圧(PC’min)とされても良い。
また、前述の実施例では、第1所定期間T(1)として自動変速機10の変速判断時点から変速指令の出力を開始するまでの待機時間として設定された所定期間Tが用いられたが、この所定期間Tが必要とされる第1所定期間T(1)に満たない場合には、例えば変速指令の出力開始が所定期間Tに加え少なくとも(T(1)−T)時間分は変速判断時点から待機させられる。
また、前述の実施例では、自動変速機10の第1変速中に第2変速が開始される場合には、第2所定期間T(2)は第2変速の為の油圧制御が開始されるまでの期間すなわち第2変速の判断時点までの期間とされたが、この第2所定期間T(2)が必要とされる第1所定期間T(1)に満たない場合には、例えば第2変速指令の出力開始が少なくとも(T(1)−T(2))時間分は第2変速判断時点から待機させられる。
また、前述の実施例では、リニアソレノイドバルブSLにおける入力ポート88開放の非調圧状態として、図10,21に示すように、スプール弁子86がスプリング82側に完全に押し付けられて入力ポート88が完全に開放されている状態を例示したが、少なくとも入力ポート88の一部が開放され且つ入力ポート88と供給ポート92とが連通されて図9に示すような調圧状態とされない状態であれば良い。
また、前述の実施例では、ライン油圧設定手段110(図11のステップS5)は、必要出力油圧PC *をライン油圧PLとして設定したが、推定エンジントルクTE’或いは推定入力トルクTIN’とライン油圧PLとの関係(マップ)が必要係合油圧PC *などに基づいて予め実験的に求められて記憶されている場合には、その関係から推定エンジントルクTE’或いは推定入力トルクTIN’に基づいてライン油圧PLを設定しても良い。このような場合、必要係合油圧算出手段108は備えられる必要はないし、図11のステップS3、4も備えられる必要はない。また、推定エンジントルクTEに基づいてライン油圧PLを設定する場合、図11のステップS2は備えられる必要はない。
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。